特許異議申立
2022-700764
アルキルアミンを用いたA/M/X材料の製造方法
- 審判番号
- 2022-700764
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-546829
- 登録番号
- 7008634
- 請求日
- 2022年08月04日
- 審決日
- 2023年05月08日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】オックスフォード ユニバーシティ イノベーション リミテッド
- 【権利者代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 【異議申立人】小泉 紗矢香
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 山村 浩
- 審判官 吉野 三寛
- 分類
- P1651.113-YAA(H01L) / P1651.121-YAA(H01L) / P1651.16 -YAA(H01L) / P1651.537-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条の2
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7008634号発明「アルキルアミンを用いたA/M/X材料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7008634号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕、〔14、15〕について訂正することを認める。
特許第7008634号の請求項1~15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7008634号(以下「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年3月9日、英国)を国際出願日とする出願であって、令和4年1月13日にその特許権の設定登録がされ、同年2月10日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。
令和 4年 8月 4日 :特許異議申立人小泉紗矢香(以下「申立人」という。)による請求項1~15に係る特許に対する特許異議の申立て
同年11月 4日付け:取消理由通知書
令和 5年 2月 7日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)の提出
同年 3月20日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所である。)
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~13〕、〔14、15〕について請求されている。
(1)訂正事項1
請求項1の「aが1から6の整数であり、
bが1から6の整数であり、
cが1から18の整数であり、」の記載を
「式[A]a[M]b[X]cが、[A][M][X]3、[A]2[M][X]4、及び[A]2[M][X]6から選択され、」の記載に訂正する(訂正後の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する訂正後の請求項2~13も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
請求項1の「前駆体組成物」の記載を「結晶性A/M/X材料の前駆体組成物」の記載に訂正する(訂正後の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する訂正後の請求項2~13も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
請求項14の「(i)式MXn(式中、MはCa2+、Sr2+、Cd2+、Cu2+、Ni2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Yb2+、Eu2+、Bi3+、Sb3+、Pd4+、W4+、Re4+、Os4+、Ir4+、Pt4+、Sn4+、Pb4+、Ge4+、又はTe4+であり、XはI-、Br-、Cl-、又はF-であり、nは2、3、又は4である)の化合物と、
(ii)式AX(式中、Aは(R1NH3)+、(NR24)+、及び(H2N-C(R1)=NH2)+であり、R1はH、又は非置換のC1-6アルキル基であり、R2はそれぞれ非置換のC1-6アルキル基であり、XはI-、Br-、Cl-、又はF-である)の化合物と、
(iii)アセトニトリル、プロピオニトリル、アセトン、又はこれらの混合物と、
(iv)式RANH2(式中、RAはC1-8アルキル基である)のアルキルアミンと、
を含む組成物。」の記載を
「(i)式MXn(式中、MはCa2+、Sr2+、Cd2+、Cu2+、Ni2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Yb2+、Eu2+、Bi3+、Sb3+、Pd4+、W4+、Re4+、Os4+、Ir4+、Pt4+、Sn4+、Pb4+、Ge4+、又はTe4+であり、XはI-、Br-、Cl-、又はF-であり、nは2、3、又は4である)の化合物と、
(ii)式AX(式中、Aは(R1NH3)+、(NR24)+、及び(H2N-C(R1)=NH2)+であり、R1はH、又は非置換のC1-6アルキル基であり、R2はそれぞれ非置換のC1-6アルキル基であり、XはI-、Br-、Cl-、又はF-である)の化合物と、
(iii)アセトニトリル、プロピオニトリル、アセトン、又はこれらの混合物と、
(iv)式RANH2(式中、RAはC1-8アルキル基である)のアルキルアミンと、
を含み、
前記アルキルアミンの体積が、全体で組成物1ミリリットル当たり1.0から500マイクロリットルである組成物。」の記載に訂正する(訂正後の請求項14の記載を引用する訂正後の請求項15も同様に訂正する。)。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1及び2について
ア 訂正の目的
訂正事項1及び2は、本件訂正前の請求項1に対して次の訂正を行うものである。
(i)「式[A]a[M]b[X]cのペロブスカイト化合物又はヘキサハロメタラート化合物」([A]が1種以上の第二のカチオンであり、[M]が金属カチオン又は半金属カチオンである1種以上の第一のカチオンであり、[X]が1種以上のハロゲン化物アニオンである。)において、a、b及びcの各値の組合せを(a,b,c)と表記すると、訂正前には(a,b,c)=(1~6の整数,1~6の整数,1~18の整数)であったのを、(a,b,c)=(1,1,3)、(2,1,4)及び(2,1,6)のいずれかに限定するとともに、その限定と矛盾する訂正前の上記内容に係る記載を削除することによって矛盾した記載を解消して明瞭にする訂正。
(ii)「前駆体組成物」の記載が何の前駆体組成物であるのかが明瞭でなかったのを「結晶性A/M/X材料の前駆体組成物」であると明瞭にする訂正。
前記(i)の訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、前記(ii)の訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
(ア)前記(i)の訂正について
(a,b,c)=(1,1,3)であることは、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の「ペロブスカイト材料は、式[A][B][X]3(式中、[A]は少なくとも1種のカチオンであり、[B]は少なくとも1種のカチオンであり、[X]は少なくとも1種のアニオンである。)」(【0020】)の記載からみて、新たな技術的事項を導入するものではない。
(a,b,c)=(2,1,4)であることは、本件明細書等の「例として、Aカチオンのイオン半径が大きすぎて3Dペロブスカイト構造内に適合しない場合には[A]2[B][X]4構造を取り得る。」(【0020】)の記載からみて、新たな技術的事項を導入するものではない。
(a,b,c)=(2,1,6)であることは、本件明細書等の「好ましくは、[A]は単一種のカチオンである、すなわち、ヘキサハロメタラートは式[A]2[M][X]6の化合物である。」(【0104】)の記載からみて、新たな技術的事項を導入するものではない。
(イ)前記(ii)の訂正について
本件訂正前の請求項1の「前駆体組成物」は「基板上に配置」されるものであるところ、このような「前駆体組成物」は、本件明細書等の「典型的に前駆体組成物は、基板上に前駆体組成物をスピンコートすることにより、基板上に配置される。」(【0122】)、「本発明の方法により製造される結晶性材料の層は、平滑となり得る。」(【0123】)及び「本発明は、結晶性A/M/X材料の層を製造する方法に関する。」(【0001】)の記載からみて、「結晶性A/M/X材料」の前駆体組成物であると解される。そうすると、前記(ii)の訂正は、新たな技術的事項を導入するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記ア及びイにも照らせば、訂正事項1及び2は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項1及び2は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
(2)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項14の「アルキルアミン」について、「前記アルキルアミンの体積が、全体で組成物1ミリリットル当たり1.0から500マイクロリットルである」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項3は、本件明細書等の「典型的には、(液体形態での、又は、アセトニトリル中のアルキルアミンの飽和溶液の体積当量としての)アルキルアミンの体積は、全体で前駆体組成物1ミリリットル当たりアルキルアミンが1.0から500マイクロリットルであ」る(【0046】)の記載からみて、新たな技術的事項を導入するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記ア及びイにも照らせば、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
エ 独立特許要件の存否
訂正事項3は、特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正事項であるから、独立特許要件は課されない。
3 訂正の適否の小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、本件訂正には、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。
したがって、特許請求の範囲を、令和5年2月7日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕、〔14、15〕について訂正することを認める。
第3 取消理由通知に記載した取消理由並びに申立人及び特許権者が提出した証拠について
1 本件訂正前の請求項1~15に係る特許に対して、当審が令和4年11月4日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)(明確性要件違反)本件特許に係る出願は、本件訂正前の請求項1の「前駆体組成物」の記載及び「式[A]a[M]b[X]cのペロブスカイト化合物又はヘキサハロメタラート化合物」の「aが1から6の整数」、「bが1から6の整数」及び「cが1から18の整数」の記載が明確でないため、本件訂正前の請求項1~13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)(新規性欠如)本件訂正前の請求項14及び15に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(3)(進歩性欠如)本件訂正前の請求項14及び15に係る発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)(拡大先願同一)本件訂正前の請求項14及び15に係る発明は、その優先日前の特許出願であって、その優先日後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた甲第3号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
2 申立人及び特許権者が提出した証拠(以下、「甲第1号証」を「甲1」などのように表記する。)は、次のとおりである。
甲1:特開2014-56903号公報
甲2:特開2008-227330号公報
甲3:特願2015-182450号(特開2017-59651号公報参照)
甲4:Jin-hua Huang, et al., "Direct Conversion of CH3NH3PbI3 from Electrodeposited PbO for Highly Efficient Planar Perovskite Solar Cells", SCIENTIFIC REPORTS, 5:15889, 2015年
甲5:宮坂力,外1名編,”ペロブスカイト薄膜太陽電池の開発と最新技術”,技術教育出版社,48頁~52頁,2014年
甲6:Xing Zhao, et al., "Stability Issues on Perovskite Solar Cells", Photonics, Vol. 2, p.1139-p.1151, 2015年
乙1:Sofia Tshepelevitsh, et al., "On the Basicity of Organic Bases in Different Media", European Journal of Organic Chemistry, 10.1002/ejoc.201900956, 2019年
乙2:Agnes K., et al., "Strengths of Acids in Acetonitrile", European Journal of Organic Chemistry, p.1407-p.1419, 2021年
乙3:Daniel Himmel, et al., "A Unified pH Scale for All Phases", Angewandte Chemie International Edition, Vol.49, p.6885-p.6888, 2010年
第4 当審の判断
1 本件発明の認定
本件訂正後の請求項1~15に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明15」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~15に記載されたとおりのものであるところ、そのうち独立項に係る本件発明1及び本件発明14は次のとおりである。
[本件発明1]
「結晶性A/M/X材料の層を製造する方法であって、
結晶性A/M/X材料が、式[A]a[M]b[X]cのペロブスカイト化合物又はヘキサハロメタラート化合物を含み、
[M]が、1種以上の第一のカチオンを含み、1種以上の第一のカチオンが金属カチオン又は半金属カチオンであり、
[A]が、1種以上の第二のカチオンを含み、
[X]が、1種以上のハロゲン化物アニオンを含み、
式[A]a[M]b[X]cが、[A][M][X]3、[A]2[M][X]4、及び[A]2[M][X]6から選択され、
前記方法が、前駆体組成物を基板上に配置することを含み、
前記前駆体組成物が、
(a)金属カチオン又は半金属カチオンである第一のカチオン(M)を含む第一の前駆体化合物と、
(b)溶媒と、
を含み、
前記溶媒が、
(i)アセトニトリル、プロピオニトリル、アセトン、又はこれらの混合物と、
(ii)アルキルアミンと、
を含む方法。」
[本件発明14]
「(i)式MXn(式中、MはCa2+、Sr2+、Cd2+、Cu2+、Ni2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Yb2+、Eu2+、Bi3+、Sb3+、Pd4+、W4+、Re4+、Os4+、Ir4+、Pt4+、Sn4+、Pb4+、Ge4+、又はTe4+であり、XはI-、Br-、Cl-、又はF-であり、nは2、3、又は4である)の化合物と、
(ii)式AX(式中、Aは(R1NH3)+、(NR24)+、及び(H2N-C(R1)=NH2)+であり、R1はH、又は非置換のC1-6アルキル基であり、R2はそれぞれ非置換のC1-6アルキル基であり、XはI-、Br-、Cl-、又はF-である)の化合物と、
(iii)アセトニトリル、プロピオニトリル、アセトン、又はこれらの混合物と、
(iv)式RANH2(式中、RAはC1-8アルキル基である)のアルキルアミンと、
を含み、
前記アルキルアミンの体積が、全体で組成物1ミリリットル当たり1.0から500マイクロリットルである組成物。」
2 取消理由通知に記載した取消理由に対する判断
(1)明確性要件違反について
ア 取消理由通知は、訂正前の請求項1の「前駆体組成物」の「前駆体」が何に対するどのような意味での「前駆体」であるのか不明である旨説示したところ、本件訂正により「前駆体組成物」が「結晶性A/M/X材料の前駆体組成物」と訂正された。そのため、「前駆体」が「結晶性A/M/X材料」に対するものであることが明らかになった。また、どのような意味での「前駆体」であるのかについては、いまだ「結晶性A/M/X材料」に至っていないという意味で前駆体であると解すれば足りる。
これに対し、申立人は、「結晶性A/M/X材料の前駆体組成物」の意味が不明である旨主張し、その根拠として、本件発明1には「結晶性A/M/X材料」の「M」をもたらす第一の前駆体化合物は特定されている一方で、「A」をもたらす前駆体化合物が特定されていないこと、本件発明1の記載では「A」が何に由来するかが明らかではないことを挙げる。しかしながら、「結晶性A/M/X材料の前駆体組成物」の意味は、前記の「前駆体」の理解によれば、「結晶性A/M/X材料」に至っていない物質を含む組成物と解すれば足りるのであり、そうである以上、「A」に由来する物質がこれに含まれていなくてもよいと解され、このことは、本件訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件訂正明細書等」という。)の【0077】の「場合によっては、第二の前駆体化合物は前駆体組成物の前又は後に基板上に配置されてよい。」の記載からみても首肯できることから、当該物質が特定されていないことによって、「結晶性A/M/X材料の前駆体組成物」の意味が明確でなくなることはない。申立人は、「結晶性A/M/X材料の前駆体組成物」の「X」に相当する成分が何に由来するのかが本件発明1の記載では明らかでない旨も主張するが、同様である。
イ 取消理由通知は、訂正前の請求項1の「式[A]a[M]b[X]cのペロブスカイト化合物又はヘキサハロメタラート化合物」の「aが1から6の整数」、「bが1から6の整数」及び「cが1から18の整数」の記載について、これらの整数の全てを取り得るとは考えにくいことから、その意味が明確でない旨説示したところ、本件訂正により、「式[A]a[M]b[X]cが、[A][M][X]3、[A]2[M][X]4、及び[A]2[M][X]6から選択され」ることが特定された。そのため、前記記載は明確である。
(2)甲1(特開2014-56903号公報)に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如
以下、本件発明14の(i)~(iv)に特定された物質を、それぞれ、「第1物質」~「第4物質」ということにする。なお、取消理由通知は、本件発明1~13を新規性欠如及び進歩性欠如の理由の対象にしていないが、説示の便宜上、これらの発明についてもこの項で説示する(以下、後記(3)及び(4)についても同じ。)。
ア 甲1発明の認定
甲1(特開2014-56903号公報)には、【0042】に記載された、有機無機混成ペロブスカイト化合物A(【0031】~【0033】・【0040】・【0041】)の溶液に係る次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「有機無機混成ペロブスカイトAの溶液であって、(【0042】)
有機無機混成ペロブスカイト化合物Aは、前駆体溶液を用いた自己組織化反応により合成できるものであって、(【0041】)
溶剤として、エステル類、ケトン類(例、γ-ブチロラクトン、Nメチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エーテル類、アルコール類、グリコールエーテル(セロソルブ)類、アミド系溶剤、ニトリル系溶剤(例、アセトニトリル、イソブチロニトリル、プロピオニトリル、メトキシアセトニトリル等)、カーボート系剤、ハロゲン化炭化水素、炭化水素、ジメチルスルホキシドがあり、(【0042】)
有機無機混成ペロブスカイト化合物Aは、一般式(1)の化合物であって、
CH3NH3M1X3 (1)
(式中、M1は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)(【0032】)
M1は、例えば、Cu2+、Ni2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Eu2+であり、(【0033】)
有機無機混成ペロブスカイト化合物Aの具体例としては、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbBr3、(CH3(CH2)nCHCH3NH3)2PbI4[n=5?8]、(C6H5C2H4NH3)2PbBr4がある、(【0040】)
有機無機混成ペロブスカイトAの溶液。」
イ 本件発明14について
(ア)対比・一致点及び相違点の認定
甲1発明の「有機無機混成ペロブスカイト化合物A」は、「CH3NH3M1X3」であって、M1は、例えば、Cu2+、Ni2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Eu2+であり、Xは、F,Cl,Br,Iであるから、この溶液が、第1物質及び第2物質を含むことは明らかである。
そうすると、本件発明14と甲1発明とは、「第1物質と、第2物質と、を含む組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明14は、第3物質を含むのに対し、甲1発明は、溶剤として、「エステル類、ケトン類(例、γ-ブチロラクトン、Nメチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エーテル類、アルコール類、グリコールエーテル(セロソルブ)類、アミド系溶剤、ニトリル系溶剤(例、アセトニトリル、イソブチロニトリル、プロピオニトリル、メトキシアセトニトリル等)、カーボート系剤、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化炭化水素、炭化水素、ジメチルスルホキシドがあ」る点。
[相違点2]
本件発明14は、第4物質を含み、「前記アルキルアミンの体積が、全体で組成物1ミリリットル当たり1.0から500マイクロリットルである」のに対し、甲1発明は、そうであるのか不明である点。
(イ)相違点の判断
a 事案に鑑み相違点2より判断する。
まず、前記相違点2に係る本件発明14の「前記アルキルアミンの体積が、全体で組成物1ミリリットル当たり1.0から500マイクロリットルである」ことの技術上の意義について検討すると、本件訂正明細書等の【0012】に記載されている、「有毒でなく、有機半導体層を溶解せず、扱いが容易な溶媒を用いる溶液ベースのプロセスを開発することが望ましい。さらに、そのプロセスは、平滑でピンホールのないA/M/X材料の層を製造することが望ましい。」との発明が解決しようとする課題を解決するために必要なアルキルアミンの体積を規定したものと解されるところ、甲1には当該課題を解決するためにアルキルアミンを含有させることは開示されていない。
また、甲1発明は有機無機混成ペロブスカイト化合物Aの溶液に係るものであるところ、当該化合物Aは「CH3NH3M1X3」であることから、溶液中において、化学平衡等のメカニズムの下で、アルキルアミンがわずかながら生じる状態になるとみる余地がある。しかしながら、そうであるとしても、その体積が相違点2に係る本件発明14における「全体で組成物1ミリリットル当たり1.0から500マイクロリットル」という量に至っていることは、申立人が提出した全証拠をみても示されておらず、かえって、特許権者が令和5年2月7日に提出した意見書によれば、仮に化学平衡等のメカニズムの下でアルキルアミンが生じるとしても、「全体で組成物1ミリリットル当たり1.0から500マイクロリットル」という量を大きく下回る程度であると認められる(申立人が令和5年3月20日に提出した意見書においても、この点についての反論はなされていない。)。
このように、甲1発明は、アルキルアミンの体積が「全体で組成物1ミリリットル当たり1.0から500マイクロリットル」という量に至っているとはいえないことから、甲1発明から出発した当業者がアルキルアミンの体積を上記のようにするためには、アルキルアミンを別途添加するなどの手段を採用する必要があると解される。しかるところ、甲1の記載をみても当該手段を採用する動機があるとはいえないし、当該手段を採用することが技術常識であるとの証拠もない。
そして、甲1のその他の記載に係る有機無機混成ペロブスカイト化合物の溶液についての発明を主引用発明としても、同様の議論が成り立つ。
よって、甲1発明その他の甲1に記載された発明から出発した当業者は、相違点2に係る本件発明14の構成に至らない。
b(a)これに対し、申立人は、本件発明14がアルキルアミンの体積を相違点2に係る本件発明14の値としたことによる臨界的意義を有さない旨主張するが、当該主張は、効果の予測可能性ないし顕著性に係るものであって、前記aの判断を左右しない。
(b)申立人は、甲1に記載された発明の前駆体組成物には、アルキルアミンが微量であっても含まれていることが明らかである旨主張し、その根拠として甲4及び甲6を挙げる。しかしながら、その量が相違点2に係る量に至っているとはいえないことは、前記(a)で説示したとおりである。
さらにいえば、甲4及び甲6は、甲1に記載された発明とは反応系が異なることから、これらの証拠をもって、甲1に記載された発明におけるアルキルアミンの量が明らかになるわけではないことも指摘できる。すなわち、甲4は、電着させたPbO上にCH3NH3I(MAI)をスピンコーティングした場合において、MAIがアルキルアミンとHIに分解する反応が生じることを通じて有機無機ペロブスカイトが生成されることを開示するものであるから、その反応系は、甲1に記載された発明のように溶液中において有機無機混成ペロブスカイトを生成する系(「CH3NH3X」と「M1X2」とが溶媒中に溶解している系であると解される。)とは異なる。また、甲6は、ペロブスカイト太陽電池が(水と酸素が存在する)大気中においてどのように振る舞うかを開示するものであるから、やはり、その反応系は、甲1に記載された発明とは異なる。よって、甲4及び甲6によって、甲1に記載された発明におけるアルキルアミンの量が明らかになるわけではない。
(c)申立人は、本件発明14が甲1に記載された発明及び甲5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張し、その根拠として、甲5には(カルバゾールからなる発色団を有する)有機アミンとアルキルアミンを加える方法によりペロブスカイト薄膜を製造する方法が記載されていることを挙げる。
そこで検討すると、甲5は、有機無機ナノハイブリッド材料の作製に係るものであって、ハロゲン化鉛系層状ペロブスカイト(例えば、臭化鉛系層状ペロブスカイト)に機能性有機分子(例えば、機能性発色団を有する有機分子)を導入する方法を開示するものである。より具体的には、甲5は、発色団がカルバゾールのときに、(i)当該カルバゾールとアミノ基とをアルキル鎖(アルキル鎖長は炭素数3である。)でつないだ分子と(ii)プロピルアミン(アルキル鎖長が同じく炭素数3となるアルキルアミンである。)の両者をDMF中で混合した溶液をスピンコートすることにより、カルバゾール発色団を導入した臭化鉛系層状ペロブスカイト構造を形成するという技術的事項を開示している。このように、甲5は、有機無機ナノハイブリッド材料の作製に係るものであって、ハロゲン化鉛系層状ペロブスカイトに発色団を導入するためにアルキルアミンを用いる方法を開示するものであり、溶剤として具体的に開示されているのはDMFのみであるところ、ナノハイブリッド材料を作製すること自体が一般的な課題とはいい難いことから、甲1に記載された発明から出発した当業者が甲5に記載されたような発色団分子を導入してナノハイブリッド材料を作製しようとする動機を有するとはいえない。また、それを措くとしても、甲1に記載された発明において、溶剤としてDMFを採用すると相違点1がむしろ解消しないこと、さらには、アルキルアミンの添加量が相違点2に係る量に至るかは不明であることから、甲1に記載された発明から出発した当業者が甲5に記載された技術的事項に基づいて相違点1及び2に係る本件発明14の構成に至るとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明14は、甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明及び甲4~甲6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 本件発明15について
本件発明15は、本件発明14に従属するものであるから、前記イと同様の理由で、甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明及び甲4~甲6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
エ 本件発明1について
(ア)甲1発明は前記のとおり有機無機混成ペロブスカイトAの溶液に係るものであるところ、有機無機混成ペロブスカイトAの被膜の製造方法として、甲1発明に係る溶液を塗布する(【0041】)方法(以下「甲1方法発明」という。)を認定する。
(イ)本件発明1と甲1方法発明とを対比すると、両者は、
「結晶性A/M/X材料の層を製造する方法であって、
結晶性A/M/X材料が、式[A]a[M]b[X]cのペロブスカイト化合物又はヘキサハロメタラート化合物を含み、
[M]が、1種以上の第一のカチオンを含み、1種以上の第一のカチオンが金属カチオン又は半金属カチオンであり、
[A]が、1種以上の第二のカチオンを含み、
[X]が、1種以上のハロゲン化物アニオンを含み、
式[A]a[M]b[X]cが、[A][M][X]3、[A]2[M][X]4、及び[A]2[M][X]6から選択され、
前記方法が、前駆体組成物を基板上に配置することを含み、
前記前駆体組成物が、(a)金属カチオン又は半金属カチオンである第一のカチオン(M)を含む第一の前駆体化合物と、(b)溶媒と、を含む方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点3]
本件発明1は、「前記溶媒が、(i)アセトニトリル、プロピオニトリル、アセトン、又はこれらの混合物と、(ii)アルキルアミンと、を含む」のに対し、甲1方法発明は、溶剤として、エステル類、ケトン類(例、γ-ブチロラクトン、Nメチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エーテル類、アルコール類、グリコールエーテル(セロソルブ)類、アミド系溶剤、ニトリル系溶剤(例、アセトニトリル、イソブチロニトリル、プロピオニトリル、メトキシアセトニトリル等)、カーボート系剤、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化炭化水素、炭化水素、ジメチルスルホキシドがある点。
(ウ)a 相違点3について検討すると、甲1方法発明で認定された溶剤にはアルキルアミンが含まれていないし、有機無機混成ペロブスカイトを製造する際にアルキルアミンを溶剤として用いることが技術常識であるとの証拠もない。この点、甲1発明と同様に、甲1方法発明も、溶液中においてアルキルアンモニウムイオンを含むことから、化学平衡等のメカニズムの下で、アルキルアミンがわずかながら生じる状態になるとみる余地があるものの、本件訂正明細書等の【0041】には、甲1方法発明における「有機無機混成ペロブスカイトAの溶液」のような、アルキルアンモニウムイオン(例えば、CH3NH3+)を含むA/M/X材料の知られている前駆体溶液は、アルキルアミン(例えば、CH3NH2)を含む溶媒を含まない旨が記載されていることからみて、本件発明1における「(ii)アルキルアミン」を含む「溶媒」は、このようなアルキルアミンとして不可避的に生じるもののみを含む溶媒は含まないと解するのが相当であるし、アルキルアミンとして不可避的に生じるもののみを含む溶媒を、「(ii)アルキルアミン」を含む「溶媒」に位置づけるという技術常識があるとの証拠もない。
よって、甲1方法発明から出発した当業者は、アルキルアミンを含む「溶剤(溶媒)」という構成に至らない。そして、甲4~甲6を考慮してもこの判断が左右されないことは前記イ(イ)b(b)及び(c)で説示したとおりである。また、甲1のその他の記載に係る有機無機混成ペロブスカイト化合物に係る溶液を塗布する方法についても、同様の議論が成り立つ。
b これに対し、申立人は、本件発明1にアルキルアミンが「溶媒」として含まれる旨の特定があるとしても、そのことによっては、甲1方法発明との間に特段の差異があるとはいえない旨主張し、その根拠として、「溶媒」の意味について、本件発明14の特定事項のようにアルキルアミンが組成物に対してわずかに1/1000の割合であってよいことを踏まえれば、主たる溶媒に配合する添加物と解釈されるべきであること、しかも、本件発明1には本件発明14の上記割合が特定されていないことを挙げる。
しかしながら、この点については前記aで説示したとおりである。
(エ)したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明及び甲4~甲6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
オ 本件発明2~13について
本件発明2~13は、本件発明1に従属するものであるから、前記エと同様の理由で、甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明及び甲4~甲6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
カ 甲1に記載された発明に基づく新規性欠如・進歩性欠如の判断の小括
以上のとおり、本件発明1~15は、甲1に記載された発明に基づいて新規性及び進歩性を欠如するとはいえない。
(3)甲2に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
甲2に記載された発明についても、本件発明1~15とは、少なくとも、相違点2又は3と同じ相違点で相違しており、この相違点についての判断は前記(2)で説示したとおりである。
よって、本件発明1~15は、甲2に記載された発明とはいえないし、また、甲2に記載された発明及び甲4~甲6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、本件発明1~15は、甲2に記載された発明に基づいて新規性及び進歩性を欠如するとはいえない。
(4)甲3に記載された発明に基づく拡大先願同一について
甲3に記載された発明についても、本件発明1~15とは、少なくとも、相違点2又は3と同じ相違点で相違しており、この相違点についての判断は前記(2)で説示したとおりである。
よって、本件発明1~15は、甲3に記載された発明と同一とはいえない。
(5)取消理由通知に記載した取消理由に対する判断の小括
以上のとおりであるから、前記各取消理由は成り立たない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に対する判断
(1)明確性要件違反について
ア 申立人は、本件発明1における「アルキルアミン」が「溶媒」として含まれることの意味が明確でない旨主張し、その根拠として、(i)組成物の1成分として含まれることとの違いが不明であること、(ii)甲1の【0081】のように、有機無機ペロブスカイト化合物を合成する際の前駆体化合物の原料としてメチルアミンを用いると、再精製をしてもなお、反応後の生成物にメチルアミンが残存することになるが、そのような場合との違いが不明であること、(iii)CH3NH3Iのような化合物が溶液中で分解してメチルアミンを生じる場合との違いが不明であること、を挙げる。
しかしながら、「溶媒」の文言は、溶液で、溶質を溶かしている媒質という意味をもつ技術用語として確立しており、それ自体特段不明確なところはないし、また、本件発明において「溶媒」としてアルキルアミンを含ませる技術的意義は、本件訂正明細書等の【0173】・【0199】・【0204】によれば、「アセトニトリル、プロピロニトリル、アセトン、又はこれらの混合物」からなる溶媒の結晶性A/M/X材料に対する溶解性の向上にあると解され、それ自体理解できることから、(i)をもって、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。そして、(ii)及び(iii)のような不可避的に生じる物質をもってしてもなおこれを「溶媒」として評価するという技術常識の存在を示す証拠はない。むしろ、本件訂正明細書等には、前記2(2)エ(ウ)aで説示したとおり、アルキルアンモニウムイオン(例えば、CH3NH3+)を含む前駆体溶液は、モル当量のハロゲン化物対イオン(例えば、I-)を伴うのであって、アルキルアミン(例えば、CH3NH2)を含む溶媒を含まないことが記載されており、この記載は、アルキルアンモニウムイオンから不可避的にアルキルアミンが生じることがあるとしても、そのようなアルキルアミンは「溶媒」とは位置づけないことを明らかにするものといえる。そうすると、「アルキルアミン」が「溶媒」として含まれるという本件発明1の記載は明確というべきである。
イ 申立人は、本件発明10の「5から3000nmの厚み」又は「100nm以上の厚み」という記載では、例えば100nm以上で3000nmを超える厚みを包含するか否か不明である旨主張するが、「100nm以上の厚み」の記載に含まれると解すれば足りる。
ウ 申立人は、本件発明14及び15の記載が物の発明としては特定事項が不足している旨主張し、その根拠として、従前から存在するアルキルアミンが添加される工程を含まない組成物との差異が存在しないことを挙げるが、当該主張は、本件発明14及び15の記載の明確性とは無関係であるし、本件訂正により「前記アルキルアミンの体積が、全体で組成物1ミリリットル当たり1.0から500マイクロリットルである」との発明特定事項が追加されたことにより、「従前から存在するアルキルアミンが添加される工程を含まない組成物との差異が存在しない」との主張は根拠がなくなったと解される(前記2(2)イ(イ)a参照)。
(2)甲5に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
申立人は、本件発明1~15が甲5に記載された発明に基づいて新規性及び進歩性を欠如する旨主張する。
しかしながら、甲5は、前記2(2)イ(イ)b(c)で説示したとおり、有機無機ナノハイブリッド材料の作製に係るものであって、アルキルアミンはハロゲン化鉛系層状ペロブスカイトに発色団を導入するために用いられる方法を開示するものであり、溶剤として具体的に開示されているのはDMFのみであることから、本件発明1~15と甲5に記載された技術的事項とは、少なくとも「アセトニトリル、プロピオニトリル、アセトン、又はこれらの混合物」を用いているか否かで相違するところ、甲5に記載された発明から出発した当業者が前記相違点に係る構成に至る動機があるとはいえない。
よって、本件発明1~15が甲5に記載された発明に基づいて新規性及び進歩性を欠如するとはいえない。
(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に対する判断の小括
したがって、前記各特許異議申立理由は成り立たない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700764