特許拒絶査定不服審判
2023-000939
1-(4-{[6-アミノ-5-(4-フェノキシ-フェニル)-ピリミジン-4-イルアミノ]-メチル}-ピペリジン-1-イル)-プロペノンの新規結晶形態
- 審判番号
- 2023-000939
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-546895外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年01月19日
- 審決日
- 2024年12月20日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
- 【請求人代理人】弁理士法人葛和国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (C07D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-546895「1-(4-{[6-アミノ-5-(4-フェノキシ-フェニル)-ピリミジン-4-イルアミノ]-メチル}-ピペリジン-1-イル)-プロペノンの新規結晶形態」拒絶査定不服審判事件〔平成30年8月30日国際公開、WO2018/154131、令和2年3月26日国内公表、特表2020-509014〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年2月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年2月27日、同年7月3日 いずれも米国(US))を国際出願日とする出願であって、出願後の主な手続の経緯は次のとおりである。
令和4年 1月25日付け:拒絶理由通知
同年 6月27日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 9月 9日付け:拒絶査定
令和5年 1月19日 :審判請求書の提出
同年 2月28日 :審判請求書の手続補正書(方式)の提出
令和6年 4月26日付け:拒絶理由通知(当審)
同年10月30日 :意見書及び手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、令和6年10月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
化合物1、
【化1】
[図:0001422802000001.jpg]
の結晶A2であって、
前記結晶A2が、以下の条件:単色Cu-Kα1放射線、λ=1.5406Åの下、以下の4.7、9.4、15.0、17.5、17.9、19.0、19.7、20.6および23.4±0.2度での2θXRPDピークによって特徴付けられる;または、
前記結晶A2が、格子パラメータ(200Kでの)a=9.4±0.1Å、b=37.2±0.2Å、c=12.8±0.1Å、およびβ=91.9±0.5°(α=γ=90°のとき)をもつ単斜晶空間群P21を有する結晶形によって特徴付けられる、前記結晶A2。」
第3 当審合議体から通知した拒絶理由
令和6年4月26日付けで、当審合議体から通知した拒絶理由のうち、「理由2」の概要は、次のとおりである。(以下「・・・」は記載の省略を表す。)
「理由2:(進歩性)
本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・・・
●理由2(進歩性)について
・請求項 1、3、4
・引用文献 1、2、6~10
・・・
<引用文献等一覧>
1.特表2014-517016号公報
2.CAIRA, M. R., Crystalline Polymorphism of Organic Compounds, Topics in Current Chemistry, 1998, No. 198, p. 163-208
6.平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック-原理とノウハウ-,丸善株式会社,2008年7月25日,p. 17-23, 37-40, 45-51, 57-65
7.実験化学講座(続)2 分離と精製,丸善株式会社,1967年1月25日,p. 159-162, 184-193
8.浅原照三ら編,溶剤ハンドブック,株式会社講談社サイエンティフィック,1985年9月1日第6刷発行,p. 46-51
9.高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択, PHARM STAGE, Vol. 6, No. 10, 2007年1月15日, p. 20-25
10.医薬品結晶の分子状態に関する物性評価(12)塩・結晶形の最適化と結晶化技術, PHARM TECH JAPAN, Vol. 18, No. 10, 2002年9月1日, p. 81 (1629) - 96 (1644)
なお、引用文献2、6~10は周知技術を示す文献である。」
なお、上記第2で認定した「本願発明1」は、令和6年10月30日提出の手続補正書による補正前の請求項1に係る発明に対応するものであって、補正前の請求項1に係る発明が結晶であることを明確化したものであり、引用文献1は国際公開第2012/170976号(WO2012/170976)の公表公報である。
第4 当審合議体の判断
当審合議体は、上記第3で示した拒絶の理由のとおり、本願発明1は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び本願の優先日時点の技術常識に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する物が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないと判断する。
記
引用文献1:特表2014-517016号公報
引用文献2:CAIRA, M. R., Crystalline Polymorphism of Organic Compounds, Topics in Current Chemistry, 1998, No. 198, p. 163-208
引用文献6:平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック-原理とノウハウ-,丸善株式会社,2008年7月25日,p. 17-23, 37-40, 45-51, 57-65
引用文献7:実験化学講座(続)2 分離と精製,丸善株式会社,1967年1月25日,p. 159-162, 184-193
引用文献8:浅原照三ら編,溶剤ハンドブック,株式会社講談社サイエンティフィック,1985年9月1日第6刷発行,p. 46-51
引用文献9:高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択, PHARM STAGE, Vol. 6, No. 10, 2007年1月15日, p. 20-25
引用文献10:医薬品結晶の分子状態に関する物性評価(12)塩・結晶形の最適化と結晶化技術, PHARM TECH JAPAN, Vol. 18, No. 10, 2002年9月1日, p. 81(1629)-96(1644)
引用文献11:社団法人日本化学会編, 化学便覧 応用化学編 第6版, 丸善株式会社, 2003年1月30日, p. 178
引用文献12:STAHLY, P., 医薬品の塩選択, 結晶多形のスクリーニングの重要性について, 薬剤学, 2006, Vol. 66, No. 6, p. 435-439
なお、引用文献2、6~12は本願優先日時点の技術常識を示すためのものである。
1 各引用文献の記載事項(以下、下線は当審合議体が付したものである。)
(1) 引用文献1の記載事項
(1a) 「【0001】
本発明は、哺乳動物における癌、自己免疫疾患、炎症性疾患、および神経変性疾患(これらに限定されない)を含む種々の病状の治療における治療薬として有用な、一連のピリミジンおよびピリジン化合物に関する。より具体的には、本発明の態様は、特に限定されないが、ブルトン型チロシンキナーゼ(Bruton's tyrosine kinase)(以下、「BTK」)の阻害剤を含む、不可逆的なキナーゼ阻害剤を記載する。前記化合物の調製のための方法は、これを含む医薬組成物へのこれらの化合物の取り込みに加えて開示される。これらBTK阻害剤を使用する方法は、単独で、または特に哺乳動物(特にヒト)での過剰増殖性疾患の治療のための治療薬、およびこの阻害剤を含有する医薬組成物と組合せて、開示される。」
(1b) 「【0082】
ある態様において、前記化合物または医薬組成物は、腫瘍の血管新生、慢性の炎症性疾患、例えば関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群、アテローム性動脈硬化症、皮膚およびアレルギー疾患、例えば乾癬性関節炎、乾癬、湿疹、および強皮症、喘息および疾患アトピー性皮膚炎、または糖尿病、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、および加齢性黄斑変性症からなる群から選択される疾患の治療用である。
・・・
【0087】
実際の使用において、本発明の化合物は活性成分として、従来の薬剤配合法に従って医薬担体との均質混合物として組合せることができる。担体は、投与、例えば経口または非経口(静脈内を含む)投与、に望ましい製剤の形態に応じて、多種多様の形態をとることができる。例えば、経口剤形の組成物を調製する時は、任意の通常の医薬媒体、例えば、水、グリコール、油、アルコール、香味剤、保存剤、着色剤などを使用することができる。経口液体製剤の場合には、任意の通常の医薬媒体、例えば、懸濁液、エリキシル剤および液剤、または、例えば、デンプン、糖、微結晶セルロース、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などの担体を使用することができる。経口固体製剤の場合には、組成物は、粉末、硬カプセルと軟カプセル、および錠剤の形態を取ることができ、経口固体製剤が液体製剤よりも好ましい。
【0088】
投与が簡単なために、錠剤やカプセル剤が最も有利な経口単位剤型であり、この場合、明らかに固体医薬担体が使用される。所望であれば錠剤は、標準的な水性または非水性技術により被覆してもよい。このような組成物や製剤は、少なくとも0.1パーセントの活性化合物を含有すべきである。これらの組成物中の活性化合物の割合はもちろん変化してもよく、単位の重量の約2%~約60%が便利であろう。このような治療的に有用な組成物における活性化合物の量は、有効な用量が得られるようなものである。活性化合物はまた、例えば液滴またはスプレーとして鼻内に投与することもできる。
【0089】
錠剤、丸剤、カプセル剤などはまた、結合剤、例えばトラガカントゴム、アカシア、トウモロコシデンプンまたはゼラチン;賦形剤、例えばリン酸二カルシウム;崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム;および甘味剤、例えばショ糖、乳糖、またはサッカリンを含んでよい。投与単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料以外に、脂肪油などの液性担体を含有してもよい。」
(1c) 「【実施例】
【0097】
実験の部
・・・
【0122】
方法F:無機塩基の存在下での酸塩化物からのアミド形成
【0123】
【化16】
[図:0001422802000002.jpg]
【0124】
N-[(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)メチル]-5-(4-フェノキシフェニル)ピリミジン-4,6-ジアミン
20mlの反応バイアルに、5-(4-フェノキシフェニル)-N-(ピペリジン-4-イルメチル)ピリミジン-4,6-ジアミン(70.00mg;0.19mmol)、THF(3.00ml)に懸濁した重炭酸ナトリウム(23.49mg;0.28mmol)、および水(0.30ml)を加えた。混合物を0℃に冷却した。塩化アクリロイル(0.02ml,0.22mmol)を加えた。氷浴を融解させた。次に反応混合物を、室温で一晩攪拌した。粗混合物を、Biotageカラムクロマトグラフィーを使用して、0~50%のメタノール/酢酸エチルから溶出して精製した。所望の生成物を含む画分を一緒にし、減圧下で濃縮した。残渣を一晩凍結乾燥して、N-[(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)メチル]-5-(4-フェノキシフェニル)ピリミジン-4,6-ジアミンを白色の固体として得た(30.00mg;37%収率)。HPLC純度:97 %, RT= 3.665分. MS:m/z = 430 [M+H]+, RT=1.53分. 1H-NMR (DMSO-d6) δ 7.93 (s, 1H), 7.40 (t, 2H), 7.21-7.08 (m, 8H), 6.76 (dd, 1H), 6.04 (d, 1H), 5.61 (d, 1H), 5.43 (s, 2H), 4.34 (d, 1H), 3.98 (d, 1H), 3.12 (t, 2H), 2.95 (t, 1H), 2.56 (t, 1H), 1.81 (m, 1H), 1.59 (m, 2H), 0.92 (m, 2H).」
(2) 引用文献2の記載事項(訳文で示す。)
(2a) 「2
結晶多形-理論的原理と実用的意義
2.1
背景-材料生産における多形の役割
・・・重要な例が、バイオアベイラビリティに直接影響を与える溶解性についての原薬の一貫性のない挙動である。これは、同じ薬の異なる多形形態が、一桁異なる溶解度を示し得ることに起因して生じている[24]。合成に続く結晶化工程や中間プロセス工程における「間違った」多形の意図しない生成が、結果として、非効果的又は害悪的な薬学的処方として生じることになる[37, 38]。」(165ページ3~15行)
(3) 引用文献6の記載事項
(6a) 「医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終工程で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い.
結晶は晶析条件に依存してさまざまな構造,形状,大きさ,凝集状態などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.たとえば,結晶構造の異なる多形や晶癖の異なる結晶の溶解速度は一般的に異なるため,医薬品の生物学的有効性に相違が生じる.こうした相違は,散剤,錠剤,顆粒剤,カプセル剤などといった固体状態の医薬品を経口投与する場合においてとくに顕著に表れる.医薬品の作用部位への到達濃度を決定する要因の一つに投与部位からの吸収の効果があり,経口投与される医薬品では製剤から放出される主薬の溶解性が消化管での吸収に大きく影響するからである.
結晶多形の密度や融点,格子エネルギーなどは異なり,結果として熱や湿度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.しかし,一方で準安定形の溶解性が安定形と比較して優位に優れる場合があることから,あえて準安定形を開発の基本形として選択し,生物学的有効性に優れた製剤を設計することもある.
結晶中に溶媒が取り込まれた溶媒和物の結晶は,厳密な意味での結晶多形と区別するため疑似結晶多形と称される.・・・
医薬品は人体に直接作用するものである.疾病の治療や予防に有効であることはもとより,期待通りの薬効が発揮されるように一定の品質を保ち,安全性が確保されることが強く要求されている.したがって,ICH(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use:日米EU医薬品規制調和国際会議)のガイドラインなどで結晶多形・溶媒和物の取り扱いに関するディシジョンツリーが提示されている.
医薬品の結晶化は通常,溶液の冷却,溶媒の蒸散,低溶解性の溶媒の添加,塩の形成などの方法と,種結晶をかくはん下添加する方法などをさまざまに組み合わせることによって達成される.これらの結晶化条件にかかわる溶媒の特性,過飽和度,温度などのさまざまな因子が,結晶の特性を決定する.したがって,晶析条件と析出する結晶のさまざまな特性の相関を明確にし1,2),医薬品の品質を保証することが重要である3).本章では,そのような医薬品の品質設計の観点から結晶化を概説する.」(57ページ3行~58ページ末行)
(6b) 「4.2.1 結晶多形の検索
複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相関はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形の検索に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある4,5).
表4.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられている Furosemide(フロセミド)[図4.1(a)]での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである4).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせることにより温度や過飽和度の異なる条件を発生させた.その結果,従来はI形とII形の2種の多形についてだけ報告されていたが,新たに多形1種(III形)と,N,N-ジメチルホルムアミドおよび1,4-ジオキサンを含有した2種の溶媒和物(IV形およびV形)が見いだされた.表4.1(1)の加温溶解し徐冷する方法においてはメタノールやエタノールのような低沸点の溶媒からI形が,ブタノールなどのより高沸点の溶媒からII形が析出する傾向がみられた.(3)の有機溶媒に加温溶解し水を添加する方法でも,また(4)のN,N-ジメチルホルムアミドに加温溶解し他の溶媒を添加する方法においても,同様の傾向がみられた.」(59ページ2行~60ページ末行)
(6c) 「
[図:0001422802000003.jpg]
[図:0001422802000004.jpg]
」(59~60ページ表4.1)
(4) 引用文献7の記載事項
(7a) 「5・9・2 結晶析出の方法
・・・
a. 飽和溶液の冷却によって晶出させる方法・・・
b. 溶液を濃縮して結晶を析出させる方法・・・溶液を適当に蒸発濃縮して結晶を析出させる方法がとられる.
・・・
c. 溶液に他の溶液を添加して晶出させる方法 溶液に他の溶媒を添加して溶質の溶解度を減少させる方法もよく用いられる.たとえば,アルコールにはよく溶けるが水には溶けない物質は,そのアルコール溶液に水を添加すると晶出する.このような目的のためには,アルコールと水,アセトンと水,酢酸と水,エーテルとアルコール,エーテルとアセトン,エーテルと石油系溶媒,ペンゼンと石油系溶媒,ペンゼンとアルコール,あるいはエーテル,ベンゼン,クロロホルムなどと石油エーテルなどの組み合わせなどがよく利用されている.」(185ページ12行~186ページ下から7行)
(5) 引用文献8の記載事項
(8a) 「3.2.3 再結晶溶媒の種類と特徴
再結晶溶媒として普通使用されるものを表3.3と表3.4にあげる.表3.3は最も一般的に使用される溶媒で,これらのもので成功しない場合に表4.3にあげられている少し特殊なものの使用が推奨される.・・・表3.5(p.51)は普遍的に用いられる混合溶媒である.」(49ページ左欄9~19行)
(8b) 「
[図:0001422802000005.jpg]
・・・
[図:0001422802000006.jpg]
」(49~51ページ)
(6) 引用文献9の記載事項
(9a) 「同一の医薬品化合物であってもその固体状態,すなわち原薬のForm毎にその物理化学的性質は異なる。原薬Formは,その構成分子と固体構造から定義される(図1)。構成分子は,Free体,塩,Cocrystalへ,固体構造は,結晶,アモルファスへ分類され,原薬Formはこれらの組み合わせからなる多様性を示す。
[図:0001422802000007.jpg]
個々のFormは,異なる溶解性,吸収性,化学的安定性,物理的安定性,吸湿性,融点,製造適正等の物理化学的性質を有し,これらの性質は最終的に製剤の安定性,有効性及び品質を左右する1)。原薬のFormによっては,これらの物理化学的性質に問題を有する場合があり,これらは異なるFormを適用することで制御できる可能性がある。・・・一方,構成分子が同一であっても多くの場合,結晶多型が存在し,熱力学的準安定形は最安定形へ転移する性質を有する。臨床開発段階及び上市後の最安定形の出現は,開発の遅延,並びに上市後の製品出荷中止等の原因となることもある。」(20ページ左欄1行~右欄1行)
(9b) 「3.1 結晶化法と結晶化溶媒
Form及び結晶多形スクリーニングで主に用いられる結晶法には,冷却法,貧溶媒法(Precipitation),蒸発法,スラリーコンバージョン法(溶媒媒介転移法)がある。・・・溶液からの結晶化において,結晶化溶媒は結晶核生成と結晶成長に大きく影響を与える重要な結晶化条件の一つである。」(22ページ左欄10行~右欄5行)
(7) 引用文献10の記載事項
(10a) 「医薬品開発を迅速かつ効率的に進めるためには,開発する原薬の基本形となる塩形の選定と共に多形選定が重要な鍵を握っている。」(81(1629)ページ左欄2~4行)
(10b) 「1. 塩形・結晶形の最適化と工業化について
医薬品開発の候補化合物について塩形・結晶形の最適化に関連して考慮すべき項目を図1に示す。開発の指導段階においては,物性評価技術を駆使して固体状態についてのキャラクタリゼーションを実施し,固体の存在形態を探索し,最適化しておくことが重要である。・・・また,塩形・結晶形の最適化については,薬剤を使用する患者さんや原薬や製剤の製造環境,環境問題などについても考慮しながら,製造プロセスで使用する溶媒を選定することも重要である。・・・・
2. 結晶化条件
医薬品原薬の多くは,合成工程の精製などの最終工程において結晶状態として製造されることが多い。このことは,結晶は原子,分子が立体的に規則正しく配列するために,一定品質の原薬を安定的に製造することが可能であるとの考えに基づいていると思われる。また,液体に較べ,化学的な安定性に優れ,計量や製剤加工などの取り扱いにおいても,はるかに利便性が高いと考えられる理由かもしれない。このように溶液に較べ,品質的には均質な原薬結晶ではあるが,固体の存在形態を制御し,恒常的に安定製造するためには,結晶化条件についての最適化が必要とされる。結晶は,溶液からの晶析による結晶化によって調製されることが多く,晶析条件に応じて,さまざまな結晶形,形状,大きさ,凝集塊の生成などの現象が観測されることも多い。」(82(1630)ページ左欄2行~右欄下から6行)
(10c) 「(1)結晶化に使用する溶媒
原薬製造の結晶化に使用する溶媒は先に述べたように,理想的にはICHの「医薬品の残留溶媒ガイドライン」に記載12)されている安全性の高いクラス3の溶媒を使用することを推奨している。ICHのガイドラインに区分けされている溶媒,クラス3,クラス2,クラス1,およびその他の溶媒について表2~5に示した。しかし,残留溶媒の課題がクリアされるならば,必ずしもこれにこだわる必要はない。」(83(1631)ページ右欄下から5行~84(1632)ページ左欄下から5行)
(10d) 「
[図:0001422802000008.jpg]
[図:0001422802000009.jpg]
[図:0001422802000010.jpg]
」(84(1632)ページ)
(10e) 「
[図:0001422802000011.jpg]
[図:0001422802000012.jpg]
[図:0001422802000013.jpg]
」(94(1642)ページ左欄1行~右欄23行)
(8) 引用文献11の記載事項
(11a) 「4.3.3 晶析
a. 晶析とその役割
晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe2O3)などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている.
1998年の調査(化学工学会晶析技術特別研究会)によれば,わが国で行われている晶析は,80%が溶液からの晶析である.また,75%が回分法で行われている.次に融液からの晶析が多く,大規模の精製晶析についても優れた技術,たとえばKCP法(呉羽テクノエンジ)が開発されている.
b. 結晶特性
おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性(注:ろ過の「ろ」は原文ではさんずいに戸であるが、ひらがなで記す。以下も同じ。)・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である.
(i) 晶癖 ・・・
(ii) 粒径・粒径分布 ・・・
(iii) 純度 結晶への不純物の取込みについては,二つのメカニズムがある.母液の結晶への取込み,あるいは結晶表面への付着によるものと,結晶構造への組込みによるものである.前者は,結晶成長の粗さ,凝集などによって引き起こされるものであり,晶析速度の調整,洗浄などで解決する可能性がある.後者は,溶媒の変更,多形の選択など根本的な変更が必要である.結晶溶媒(結晶構造に組み込まれた溶媒)も不純物と見なすことができる.
(iv) 多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶は擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.多形は,溶媒の種類・温度・冷却速度・過飽和度・かくはん速度・不純物などに影響を受ける.溶媒によって異なる多形が析出する場合が多く,重要な溶媒については混合溶媒も含めて,どのような結晶が析出するか,点検することが必要である.溶媒を選択することによって,目的の結晶多形が唯一選択的に得られる場合と,いったん析出した結晶多形(準安定結晶)が経時的に他の多形(安定結晶)に転移する,いわゆる溶媒媒介転移が起こる場合がある.溶媒媒介転移が起こるのは,準安定結晶と安定結晶の溶解度が異なるためである.どの多形が析出するかはオストワルドの段階則(Ostwald's step rule;状態の移行は,エネルギー的にもっとも近い状態を経由して順次に進行するという法則)に従うとされており,通常,溶解度が大きいほうの結晶が先に析出する.しかし,オストワルドの段階則に従わない場合もあり,多形を制御するためには,平衡論(オストワルドの段階則)のみではなく,速度論的な検討を行う必要がある.
c. 晶析操作
晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.」(178ページ左欄5行~右欄26行)
(9) 引用文献12の記載事項
(12a) 「2. 固体医薬品の結晶多形の役割と影響
製薬会社では同一化合物に複数の結晶多形及び疑似結晶多形が見られる現象に直面することがよくある(図1).原薬に結晶多形や疑似結晶多形が複数存在することは,経口固形剤にとって特に問題になっている.結晶多形とは,ある化合物において2種類以上の結晶相が存在することであり,これらの結晶相はそれらの結晶格子中において,その分子の配列やコンフォメーションが互いに異なっている.これらの異なる原薬形態間において,時折,物性が非常に類似している例もあるが,通常,物理化学的性質がまったく異なるため,薬物動態特性,製造の難易性,製剤の安定性に大きな影響を及ぼすこともある.原薬の固体状態での形態違いにより異なる物性値として,融点,色,溶解性,結晶形状,吸湿性/放湿性,粒子径,硬度,乾燥性,流動性,濾過性,圧縮性,密度などがある.
これらの物性値に変動があると,溶解速度,経口吸収性,バイオアベイラビリティー,臨床試験結果に違いが出ることがある.結局,原薬形態の違いによって物性値が異なることで,安全性及び有効性に影響を及ぼすことになる.さらに安定性については,原薬及び製剤の製造工程中において,意図せずに異なる原薬形態に変化する場合もあることから,特に注意が必要である.一般に,結晶多形違いによるエネルギー差は比較的小さいため,通常の原薬及び製剤の製造過程並びに保管期間中及び使用中に,結晶転移が起きることもある.意図せずに原薬形態が変化してしまう事態は,医薬品開発上非常に大きなリスクを伴うことになる.開発後期で新たな結晶多形の存在が発見されると申請に遅れを来すこととなる.また製剤中において新たな結晶多形が発見されれば,その製品は回収せざるを得ないこともあろう.このため,製薬会社では,製剤化工程において最も望ましい物性をもった原薬形態を選択する必要がある.したがって、最も望まれる原薬形態を有する原薬バルクを一貫生産できる頑健性のある結晶化工程を備えることが重要となる.」(435ページ左欄18行~436ページ左欄13行)
(12b) 「3. Polymorph Screening
最近では,製薬業界は製剤設計における原薬に最も適した結晶多形のスクリーニングと原薬形態の選択において効率向上策を模索してきている.・・・そのため,総括的,かつ万全な結晶多形のスクリーニングの実験計画においては,溶媒を用いたスクリーニング方法の他,これ以外の多くの実験条件が頼みとなる.」(436ページ右欄8行~437ページ左欄6行)
(12c) 「5. 粉末X線回折法を用いた解析
SSCI社において粉末X線回折法(XRPD)は,結晶多形スクリーニングサンプル評価のために最初に用いられる分析方法である。・・・さらに,SSCI社では,XRPDデータだけを用いる固体物性の予測が可能なソフトウエアを開発した.独自に開発した結晶格子への指数付け及び電子密度配置アルゴリズムを用いて,構造,密度,熱力学的相関,結晶形態などの特性を予測することができる(図4).」(437ページ右欄15行~438ページ左欄10行)
2 引用発明について
引用文献1は、「ブルトン型チロシンキナーゼ(Bruton's tyrosine kinase)(以下、「BTK」)の阻害剤を含む、不可逆的なキナーゼ阻害剤」及び「これを含む医薬組成物」に関する文献であって(摘記(1a)及び(1b))、該阻害剤として使用できる化合物に対応した具体例として、実施例の実験の部では、「方法F:無機塩基の存在下での酸塩化物からのアミド形成」として、N-[(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)メチル]-5-(4-フェノキシフェニル)ピリミジン-4,6-ジアミンを製造し、白色の固体を得たことが記載されている(摘記(1c))。
したがって、上記化合物の白色の固体が、製造方法を伴って記載されているので、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。
<引用発明>
0~50%のメタノール/酢酸エチルから溶出して精製し、濃縮した残渣を凍結乾燥して得た、N-[(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)メチル]-5-(4-フェノキシフェニル)ピリミジン-4,6-ジアミンの白色の固体。
3 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「N-[(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)メチル]-5-(4-フェノキシフェニル)ピリミジン-4,6-ジアミン」は、本願発明1の「化合物1」である
「
[図:0001422802000014.jpg]
」に相当する。また、本願発明1の「結晶」は引用発明の「白色の固体」と「固体」であるという点で共通している。
そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「 化合物1、
【化1】
[図:0001422802000015.jpg]
の固体。」
である点で一致し、以下の相違点で相違する。
<相違点>
本願発明1は、固体が結晶A2であり、前記結晶A2が、以下の条件:単色Cu-Kα1放射線、λ=1.5406Åの下、以下の4.7、9.4、15.0、17.5、17.9、19.0、19.7、20.6および23.4±0.2度での2θXRPDピークによって特徴付けられる;または、前記結晶A2が、格子パラメータ(200Kでの)a=9.4±0.1Å、b=37.2±0.2Å、c=12.8±0.1Å、およびβ=91.9±0.5°(α=γ=90°のとき)をもつ単斜晶空間群P21を有する結晶形によって特徴付けられるのに対し、引用発明は、0~50%のメタノール/酢酸エチルから溶出して精製し、濃縮した残渣を凍結乾燥して得た白色の固体であるものの、固体が結晶であるのか不明である点。
4 相違点の判断
(1) 相違点の判断の前提
ア 「医薬化合物の結晶に関する発明の相違点の判断」については、医薬化合物を結晶化することについての強い動機付けがあることを前提に、結晶を得るための手段の困難性(溶媒や析出条件等)、得られた結晶の効果の予測性及び顕著性という観点から、本願発明において結果として得られたものを検討することが相当である。(知財高裁平成24年12月5日判決(平成23年(行ケ)第10445号)、知財高裁平成29年2月14日判決(平成28年(行ケ)10112号)、知財高裁平成30年11月21日判決(平成29年(行ケ)第10196号))
イ 本願優先日における医薬化合物の結晶に関する技術常識について
(ア) 本願優先日当時、一般に医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れているとの技術常識があったと認められる(摘記(6a)及び(10b))。また、医薬化合物として結晶の多形体が、結晶化の条件により得られる結晶が異なることによって存在することから(摘記(9a)、(10b)、(11a)及び(12a))、医薬化合物が結晶で得られる条件を検討したり、結晶多形体を調べたりすることは、当業者がごく普通に行うことであり(摘記(6a)、(6b)、(9b)、(10a)、(10b)及び(12a))、結晶を同定する方法として、粉末X線回折を行うとの技術常識があったものと認められる(摘記(11a)及び(12c))。
(イ) また、摘記(7a)には、結晶析出の方法に使用する溶媒として、「アルコールと水」の組合せがよく利用されていること、摘記(8a)及び(8b)には、「最も一般的に使用される再結晶溶媒」に「メタノール」及び「エタノール」が挙げられ、「普遍的に用いられる混合溶媒」である「再結晶に有用な混合溶媒」に、「アルコール(メタノール,エタノール)-水」が挙げられている。そして、摘記(10c)及び(10d)にあるとおり、「医薬品の製造において使用を避けるべき溶媒」である「クラス1の溶媒」の技術背景も考慮すると、摘記(7a)、(8a)及び(8b)に例示の溶媒の中でも、「アルコール(メタノール,エタノール)-水」の混合溶媒は、当業者が医薬品製造のための結晶多形の探索において、当然に検討・採用する再結晶溶媒であるという技術常識が本願優先日にあったものと認められる。
(ウ) さらに、摘記(6a)の「医薬品の結晶化は・・・溶媒の蒸散・・・の方法」、摘記(7a)の「b. 溶液を濃縮して結晶を析出させる方法・・・溶液を適当に蒸発濃縮して結晶を析出させる方法がとられる.」、摘記(9b)の「Form及び結晶多形スクリーニングで主に用いられる結晶法には・・・蒸発法・・・がある」、及び摘記(11a)の「濃縮晶析」と記載されているように、溶媒の蒸発によって結晶化する「蒸発法」は、常套手段といえる結晶化手法である。
同様に、摘記(6a)の「医薬品の結晶化は・・・低溶解性の溶媒の添加・・・の方法」、摘記(7a)の「c. 溶液に他の溶液を添加して晶出させる方法・・・溶液に他の溶媒を添加して溶質の溶解度を減少させる方法もよく用いられる.」、摘記(9b)の「Form及び結晶多形スクリーニングで主に用いられる結晶法には・・・貧溶媒法(Precipitation)・・・がある」、及び摘記(11a)の「貧溶媒晶析」と記載されているように、溶質が良溶媒に溶解した溶液に貧溶媒を添加して結晶化する「貧溶媒法」も、常套手段といえる結晶化手法である。
よって、「蒸発法」及び「貧溶媒法」という結晶化手法は、医薬品製造のための結晶多形の探索において、本願優先日にあった技術常識といえる手法と認められる。
(2) 本願発明1における結晶探索の動機付けについて
医薬化合物の結晶化と結晶探索には強い動機付けがあると認められるから、化合物1について、結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析したりすることには、十分な動機付けを認めることができるだけでなく、安定性や徐放性に改善の余地があるとされる非晶質などの固体に対して、優れた溶出プロファイルなどを得るために、多数の結晶化条件を検討し、得られた多数の結晶について分析し、より優れた医薬品特性を示す結晶を決定することには、強い動機付けを認めることができる(摘記(2a)、(6a)、(6b)、(9a)、(10a)、(10b)、(11a)及び(12a))。
(3) 本願発明1の結晶の析出方法及び溶媒について
ここで、本願発明1の結晶を得るための結晶製造方法と、得られる結晶の粉末X線回折による同定に関し、本願明細書の具体的記載に基づき確認してみると以下のとおりである。
ア 本願発明1の具体的実験例として、本願明細書【0291】及び【0292】には、以下のように記載されている。
「例4:新規形態A2を得るための遊離塩基の結晶化プロセス
a)MeOH:水(1:1、v:v)からの結晶化
およそ2400mgの化合物1の粗製遊離塩基を250mLメタノール:水混合物(1:1、v:v)に50℃にて溶解した。溶液を濾過し、澄明な濾過物を50℃にて周囲圧力(ambient pressure)にて蒸発乾固させた。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6)・・・.」
「b)濾過されたエタノール溶液からの水抗溶媒結晶化
1.eq.の粗製の遊離塩基産物(例3bに続く)を熱エタノール(5vol.eq.)に溶解し、濾過を介して反応器へ移し(API溶液を10μmカートリッジに通して澄ました)、5hrsにわたり10℃まで冷却した。産物を濾過によって単離し、真空下8hrs、50℃にて乾燥させた。乾燥させたAPIを再び、熱エタノール(15vol.eq.)に溶解し、周囲温度まで(to ambient)冷却し、最初に紙に通して、次いで0.22μmカートリッジに通して濾過した。その結果得られる澄明な溶液を反応器へ戻し入れ、水(30vol.eq.)を20℃にて加えた。沈殿が生じ、その結果得られた懸濁液を10℃まで冷却し、固体を濾過によって単離することで最終産物が得られ、これを真空下50℃にて終夜乾燥させた。
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6)・・・.」
イ すなわち、結晶A2が得られている例4では、「a)」の手法として、「メタノール:水混合物(1:1、v:v)」に50℃にて化合物1を溶解した後、溶媒を蒸発乾固すること(蒸発法による結晶化)、及び、「b)」の手法として、「熱エタノール」に化合物1を溶解した後、20℃の水(30vol.eq.)を加え、沈殿を生じさせ(貧溶媒法による結晶化)、固体を濾過によって単離・乾燥すること(結晶化工程を繰り返していることは、高純度化のための結晶化の常套手段である。)が示されている。
ウ ここで、上記(1)イ(イ)で述べたとおり、「アルコール(メタノール,エタノール)-水」の混合溶媒は、当業者が医薬品製造のための結晶多形の探索において、当然に検討・採用する再結晶溶媒であるという技術常識が本願優先日にあったものである。そして、上記(1)イ(ウ)で述べたとおり、「蒸発法」及び「貧溶媒法」も、医薬品製造のための結晶多形の探索において、本願優先日にあった技術常識といえる結晶化手法である。
そうすると、医薬品製造のための結晶多形の探索において、「アルコール(メタノール,エタノール)-水」の混合溶媒を用いた「蒸発法」又は「貧溶媒法」により再結晶を行うことは、当業者が通常行う技術常識の範囲内の手法であるといえる。
エ 結晶A2を「単色Cu-Kα1放射線、λ=1.5406Åの下、以下の4.7、9.4、15.0、17.5、17.9、19.0、19.7、20.6および23.4±0.2度での2θXRPDピークによって特徴付けられる」「結晶」と特定することについては、上記(1)イ(ア)で述べたとおり、結晶多形の結晶の同定方法として周知慣用の方法である粉末X線回折(すなわち、XRPD)による測定を行った結果を提示したものにすぎないから、上記の得られたXRPDスペクトルのピークの2θ値によって特定することは技術常識から当業者が容易になし得たことである。
オ 以上のことから、引用発明において、結晶を得るための条件や手法を検討したり、得られた結晶について分析したりすることにより、上記相違点に係る本願発明1の構成を備えた結晶A2とすることは、当業者が容易になし得る技術的事項である。
カ 引用発明の白色の固体に関する補足
本願明細書【0284】には、
「例1:MeOH/EtOAc混合物からの凍結乾燥(WO2012/170976、方法Fに記載のとおりのバリエーションに続いて):
a)MeOH:EtOAc 10:90(v:v)(14/BE/19247)からの凍結乾燥:
およそ30mgの精製された遊離塩基を、2mLの混合物MeOH:EtOAc 10:90(v:v)にRT(およそ22℃)にて溶解することで、澄明な溶液が与えられた。この溶液を、50mL丸底フラスコ中、液体窒素において凍結して、凍結された試料を、およそ0.3mbarにて稼働している凍結乾燥機(a lyophilisator)(Steris、Lyovac GT2)へ取り付けた。4日後、白色固体残渣を回収した。
1H NMR (700 MHz, DMSOd6)・・・.
PXRD:
【表13】
[図:0001422802000016.jpg]
M.p.:170.4℃(始まり)」
と記載されており、「例1」の白色固体は、「PXRDのピーク」と「融点」を有することから、結晶であると認められる。
ここで、当該「例1」の白色固体は、「WO2012/170976」の「方法F」に基づいて調製されており、引用文献1の「方法F」を意味している(上記第3のなお書き参照)。
そうすると、「方法F」によって得られたものである引用発明の白色の固体は、本願明細書の「例1」の白色固体と整合するものであるから、引用発明も結晶であるものと把握できることを述べておく。
(4) 本願発明1の効果について
ア 結晶A2である本願発明1の効果について、本願明細書【0013】には、単に一般的な記載として「A2:結晶構造の形態(Crystalline morphic form)、極めて良好な結晶化度(crystallinity);欧州薬局方(5.11.節)によると(acc. to Ph. Eur. (section 5.11.))わずかに吸湿性であるが、物理吸着過程のみ;高熱安定性(m.p.~175℃);腸媒体(intestinal media)において、先行技術の形態A1と比較すると、より高い熱力学的溶解度(thermodynamic solubility)レベル:FaSSIFの場合:形態A1よりおよそ1.5倍高い(approx. factor 1.5 higher vs form A1)、およびPBS緩衝液(pH7.4)の場合:形態A1よりおよそ2倍高い;大規模での(kg)、相純粋な(Phase-pure)製造可能性。」と記載され、同【0091】にも一般的な記載として同様の事項が記載されている。
したがって、本願発明1の効果は、表記上、「良好な結晶化度」、「吸湿性(物理吸着過程で吸着のみの吸湿性)」、「高熱安定性(融点~175℃)」、「腸媒体における高い熱力学的溶解度」及び「大規模での製造可能性」であるものと認められる。そして、表16と表17には、形態A1と形態A2のそれぞれについて、動力学的溶解度と熱力学的溶解度の差が示され、図5には、形態A2の水蒸気吸着等温線が示されている。
しかしながら、これらの効果は、多形体間の溶解度や吸湿性に一定の差が存在することを示しているにすぎず、当業者の予測を超え、かつ顕著な効果を示していることにならない。
イ また、摘記(11a)によれば、結晶特性(晶癖、粒径、粒径分布、純度、多形、結晶化度)によって、「溶解度、溶解速度、安定性、比容、操作性(粉じん爆発性、打錠性、計量性)など」が異なり、「医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ」が異なるため、「結晶特性の制御は非常に重要」であり、摘記(12a)によれば、結晶の物性値(融点、色、溶解性、結晶形状、吸湿性/放湿性、粒子径、硬度、乾燥性、流動性、濾過性、圧縮性、密度など)によって、「溶解速度、経口吸収性、バイオアベイラビリティー、臨床試験結果」に違いが出て、「安全性及び有効性」に影響を及ぼし、さらに「安定性」については、「原薬及び製剤の製造工程中」の意図しない「原薬形態に変化」もあることから、「特に注意が必要」であり、「最も望まれる原薬形態を有する原薬バルクを一貫生産できる頑健性のある結晶化工程を備えることが重要」とされている。
すなわち、医薬品候補化合物の結晶探索においては、結晶特性である物性値(晶癖、粒径、粒径分布、純度、結晶化度、融点、色、溶解性、結晶形状、吸湿性/放湿性、硬度、乾燥性、流動性、濾過性、圧縮性、密度)によって、「溶解度、溶解速度、安定性、比容、操作性(粉じん爆発性、打錠性、計量性)、バイオアベイラビリティ、溶解速度、経口吸収性、安全性、有効性、原薬バルクを一貫生産できる結晶化工程の有無」が変わるから、「結晶特性の制御」といえる結晶の選択が非常に重要であって、総合的に優れた特性を示す結晶を選択すべきであることは当然であって、引用発明の結晶多形の探索において、総合的に結果を評価して結晶A2を選択することも当然の技術的事項である。
そうすると、結晶A2が他の結晶多形である結晶A1に比較して、特性が高いからといって、本願発明1の効果が当業者の予測を超え、かつ顕著な効果であるとはいえない。
ウ さらにいえば、結晶の形態によって、「結晶化度」や、結晶自体の安定性に対応する「吸湿性」及び「高熱安定性」に変化があることは、結晶多形の一般的特徴であって、安定性は、当業者が新たな形態の結晶を探索するにあたり、当然に検討する特性であり、「FaSSIF(人工腸液)における溶解度」及び「大規模での製造可能性」についても同様である。
すなわち、「結晶化度」については、「重要性」が高く(摘記(10e))、「結晶特性」の1つであり、「結晶特性の制御は非常に重要」(摘記(11a))とされている。
「吸湿性」については、異なる「吸湿性」が「最終的に製剤の安定性,有効性及び品質を左右」し(摘記(9a))、「物理的な安定性に影響する重要な基礎物性」とされ(摘記(10e))、「物性値」の1つであり、「安定性及び有効性に影響を及ぼす」(摘記(12a))とされている。
「高熱安定性(融点~175℃)」については、「融点」が「物性値」の1つであり、「安定性及び有効性に影響を及ぼす」(摘記(12a))とされている。
「FaSSIFにおける溶解度」については、「消化管吸収も考慮に入れた溶解性評価が重要」であって(摘記(10e))、「バイオアベイラビリティに直接影響を与える溶解性」について、結晶多形の違いにより、溶解度が1桁程度変化することは一般的である(摘記(2a))とされている。
「大規模での製造可能性」については、「最も望まれる原薬形態を有する原薬バルクを一貫生産できる頑健性のある結晶化工程を備えることが重要」であって、スケールアップを含む一貫生産は、総合的に評価すべき指標の1つとされている(摘記(12a))。
そうすると、これらの点でも、本願発明1の効果が格別顕著であるといえないことは明らかである。
エ まとめ
本願発明1の効果は、引用文献1に記載された発明の効果及び技術常識を考慮すれば、当業者が予測できない、かつ顕著なものとはいえない。
5 請求人の主張について
(1) 請求人は、審判請求書の手続補正書(方式)及び令和6年10月30日提出の意見書において、以下の主張ア~主張ウを主張している。
主張ア:本願発明1が格別な効果を同時に有することについて
本願発明1に係る結晶A2は引用文献1、2及び6~10の記載からは到底予測できない以下の格別な効果を同時に有し、仮に「結晶化度」、「吸湿性」、「高熱安定性」又は「溶解性」のそれぞれに変化があることが結晶多形の一般的特徴であったとしても、これらの性質に相関関係はなく、いずれの文献も「極めて良好な結晶化度」、「わずかな吸湿性(物理吸着過程のみ)」、「形態A1より高い高熱安定性」、「腸媒体において、先行技術の形態A1と比較して、より高い熱力学的溶解度レベル」及び「相純粋な大規模製造が可能であること」といった効果を全て備える結晶形が得られることを何ら教示するものではない(令和6年10月30日提出の意見書3ページ)。
主張イ:本願発明1のFaSSIF(人工腸液)における溶解度について
摘記(2a)には、何の溶媒に対する溶解度かは記載されておらず、摘記(10e)及びの摘記(2a)を参照しても、本願発明1のFaSSIF(人工腸液)における熱力学的溶解度が1.5倍であることが格別顕著な効果ではないとする根拠にはなり得るものではなく、FaSSIFは、人間の環境への溶解度により近く、薬物放出に対する腸の生理学的環境の影響を反映しており、これが1.5倍も高いことはバイオアベイラビリティにおいて極めて有利である(令和5年2月28日提出の審判請求書の手続補正書(方式)の3ページ、令和6年10月30日提出の意見書4ページ)。
主張ウ:本願発明1の大規模な製造について
審判請求書の手続補正書(方式)とともに提出した参考資料1の実験データによると、結晶A2が生産規模(2.37kg、GMP)でも単一の鋭いピークを有する結晶A2が得られることが示されているところ、当業者には周知のとおり、実験室から生産規模へのアップスケールは、それ自体、製造そのものだけでなく、均質で相純粋な結晶形態を製造することが極めて困難な作業であり、このことは引用文献1に実質的に開示された先行技術の結晶A1では不可能であり、結晶A2は大規模な医薬品の製造、製剤化に極めて有利である(令和5年2月28日提出の審判請求書の手続補正書(方式)の3~4ページ、令和6年10月30日提出の意見書4ページ)。
(2) 請求人の主張の検討
事案に鑑み、主張アは最後に検討するものとする。
ア 主張イについて
引用発明は、「BTKの阻害剤を含む、不可逆的なキナーゼ阻害剤」が用途として想定され、医薬組成物の活性成分としての使用においては、経口又は非経口投与されるものである(摘記(1a)及び(1b))。
そして、引用発明同様、バイオアベイラビリティへの適用が想定される摘記(2a)の「溶解度」が、生体の主要な消化管環境の1つである腸内環境をも含むことは当然の事項にすぎず、上記4(4)ウで説示したとおり、FaSSIF(人工腸液)における溶解度についての本願発明1の効果は、引用発明の原薬用途の化合物が当然想定しているものであり、多形体間の溶解度の差の技術常識を考慮すれば、当業者の予測できない、かつ顕著な効果であるとはいえない。
よって、請求人の主張イは採用できない。
イ 主張ウについて
用途や患者数によるものの、医薬品は少量多品種で製造され、活性成分である化合物の薬物における含有量は微量であることも多く、本願明細書の上記摘記の【0013】に「大規模での(kg)」と記載されているように、スケールアップといっても、本願発明1はキロオーダーのスケールに関連する発明であって、本願明細書に記載の種々の実験例の中で最も原料量が多い例でさえ、「3250gの粗製遊離塩基」(3.25kgの原料)から再結晶をするもの(例2のb))が示されているにすぎない。
すなわち、本願発明1が奏し得る効果について、「大規模」な条件といっても通常の実験室でも製造できる程度のスケールにすぎず、安定な組成が選択されれば、当然にスケールアップができる程度の事項であり、上記4(4)ウで説示したとおりであるから、請求人の主張ウは採用できない。
なお、令和5年2月28日手続補正書(方式)とともに提出された参考資料1の実験データに関し、そのDSCピークの幅広さの程度は、本願明細書の具体的記載を補完するものと理解できるものではないから、明細書の記載に基づくものとはいえないし、仮に実験データを参酌しても、結晶の安定性の高いものを選択した結果にすぎない。
ウ 主張アについて
請求人が効果を全て備えると主張する各効果について、具体的実験を伴って具体的に論証しているのは、「吸湿性(水蒸気吸着)」、「溶解度(FaSSIF、PBS緩衝液)」及び「融点」に関する効果のみで、その他の効果については一般的記載により優れていると記載しているにすぎず、上記4(4)イ、並びに上記ア及びイで説示したとおり、本願発明1は総合的に優れた結晶を選択した結果にすぎないから、ある程度の優れた効果を同時に示す結晶を当業者が選択することも当然の事項であって、請求人の主張アは採用できない。
エ したがって、請求人の主張ア~ウはいずれも採用できない。
6 まとめ
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び本願優先日時点の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、ほかの請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-000939