特許拒絶査定不服審判
2023-007054
N-メチル-2-ピロリドンの精製方法及び精製システム
- 審判番号
- 2023-007054
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-101124外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年04月28日
- 審決日
- 2024年12月02日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .113-WZ (C07D) / P18 .121-WZ (C07D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-101124「N-メチル-2-ピロリドンの精製方法及び精製システム」拒絶査定不服審判事件〔令和2年12月3日出願公開、特開2020-193177〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年5月30日の出願であって、令和4年8月23日付けの拒絶理由通知にして、同年10月25日に意見書及び手続補正書が提出され、令和5年2月3日付けの拒絶査定に対して、同年4月28日に審判請求がされ、令和6年7月26日付けの当審合議体による拒絶理由通知に対して、同年9月30日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~12に係る発明は、令和6年9月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
N-メチル-2-ピロリドンと水とを含む混合液からN-メチル-2-ピロリドンを分離して精製する精製方法であって、
水に対して親和性を有する浸透気化膜を備える浸透気化装置に前記混合液を供給してN-メチル-2-ピロリドンと水とを分離し、前記浸透気化装置の濃縮側からN-メチル-2-ピロリドンを回収する工程を有し、
前記浸透気化装置における処理温度をx[℃]とし、前記浸透気化装置における前記混合液の滞留時間をy[h]として、
80≦x≦100であるときに0.05≦y≦200を満たし、
100<x<120であるときに0.05≦y≦-5x+700を満たし、
120≦x≦160であるときに0.05≦y≦100を満たし、
80≦x<110であるときにさらにy≧2641×exp(-0.0971112x)という条件を満たすように前記浸透気化装置を運転する、精製方法。」
第3 当審合議体が通知した拒絶理由の概要
令和6年7月26日付けで当審合議体が通知した拒絶理由は、次の「理由1」及び「理由2」である。(以下「・・・」は記載の省略を表す。)
「理由1:(新規性)
本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2:(進歩性)
本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・・・
●理由1(新規性)について
・請求項 1~5
・引用文献 1、2
●理由2(進歩性)について
・請求項 1~10
・引用文献 1~4
・・・
<引用文献等一覧>
1.特開2013-18747号公報(原査定の引用文献3)
2.化学工学会年会研究発表講演要旨集,2014年,Vol.79th, Page. ROMBUN NO.
P215(原査定の引用文献5)
3.特開2016-30233号公報(原査定の引用文献1)
4.特開平6-301406号公報(原査定の引用文献11:周知技術を示す文
献)」
第4 当審における判断
1 各引用文献の記載事項(以下、下線の一部は当審合議体が付したものである。)
(1)引用文献1の記載事項
摘記(1a)「【請求項1】
電極製造工程から排出されるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を含むNMP水溶液を脱水精製するNMP精製システムであって、
前記NMP水溶液を、水分を選択的に透過させる浸透気化膜を備えた浸透気化装置で脱水することによって、NMPを精製することを特徴とするNMP精製システム。」
摘記(1b)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、NMPの回収には、蒸留精製工程が含まれる。この蒸留精製には以下のような欠点がある。
(1)蒸留は非常に多くのエネルギーを消費するため、特に近年環境負荷の低減や省エネ化を求められている。
(2)オフサイト蒸留の場合、吸着体または水スクラバーで回収したNMPを輸送しなければならないが、この場合NMP濃度85%以下という規制がある。このため、多量の水分を蒸留で除く必要があり、より多くのエネルギーが必要とされる。
(3)オンサイト蒸留の場合、NMPの濃縮はオフサイトより大きくできるが、蒸留装置は非常に大型であり、スペース、高さが必要となり設置が難しくなる。
(4)不純物の除去を十分行うことが難しく、再利用した際、製造工程に悪影響が出る可能性がある。特に、塩基類の残留はバインダーの変性を起こし、塗布性が悪くなる。
・・・
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、浸透気化が採用されているので、エネルギー効率が高く、放熱ロスが少ないシステムを得ることができる。」
摘記(1c)「【0036】
<実施例1>
図2に示すシステムにおいて、NMP水溶液の脱水実験を行い、供給液、濃縮液の水分含有量を測定した。なお、浸透気化装置18における分離膜(浸透気化膜)には、三井造船(株)製のNaA型ゼオライト膜を採用した。
(1)NMP(純度>99.5%)に対し、超純水(18.2MΩ・cm)を添加し、表1のような組成にそれぞれ調整した。これらを処理対象の供給液(NMP水溶液)とした。
(2)NMP水溶液を120℃に加熱し、ゼオライト膜を利用した浸透気化膜180の原液室(供給液側)に供給する。
(3)浸透気化膜180の透過室(透過側)より真空ポンプ182により真空引き、原液を10kg/hで通液した。
(4)経時的に供給液、濃縮液をサンプリングし、サンプリング液のNMP量、水分量を計測した。なお、水分量はカールフィッシャー水分計にて測定、NMPはGC(ガスクロマトグラフィー)にて分析した。
【0037】
【表1】
[図:0001418652000001.jpg]
【0038】
表1に示すように、供給液の水分濃度が、1~30%に変化しても、水分量0.1%以下まで濃縮可能であった。
【0039】
<実施例2>
図3に示す装置で、バッチ的にNMP水溶液の脱水実験を行い、供給液、濃縮液、透過液の水分含有量を測定した。
【0040】
なお、実施例1のNMP水溶液の脱水実験は、浸透気化膜モジュールを用いた連続脱水実験であるのに対して、本実験はバッチ式の脱水実験となるため、濃縮液を連続的に得ることはできない。そこで、本実験においては、供給液を所定時間脱水濃縮した後の溶液を、濃縮液として評価を行った。
【0041】
ここで、本実験は、NMP水溶液中の水分が、浸透気化膜の劣化および分離性能の低下に及ぼす影響を定量的に評価したものである。
【0042】
すなわち、実施例1は膜モジュールを用いた実験であり、膜面積に対するモジュール内部の供給液量を大きくすることは出来ない。このとき膜面一次側の供給液側(入口)と濃縮液側(出口)とで水分濃度が大きく異なり、水分濃度の広範な分布ができる。そのため、膜の劣化および分離性能の低下に及ぼす水分濃度の影響が、評価しにくい(すなわち、膜に接する水分濃度の幅が広いため、水分濃度の限界点がみえづらい)。
【0043】
それに対して、本実験のようなバッチ式の脱水実験では、膜面積に対する供給液量をモジュールよりも大きく出来るため、膜面一次側の水分濃度の分布を狭く区切って評価できる(例えば表2)。そのため、膜の劣化および分離性能の低下に及ぼす水分濃度の影響が、評価しやすい(すなわち、膜に接する水分濃度の幅が狭いため、水分濃度の限界点を評価しやすい)。
【0044】
よって、本実験のようなバッチ式の脱水試験にて、NMP水溶液中の水分が、浸透気化膜の劣化および分離性能の低下に及ぼす影響を定量的に評価した。
【0045】
容器100には、NMP水溶液(供給液)が貯められる。容器100内には、ヒータ102が設けられており、これによって運転時の供給液の温度は、120°Cに保持された。容器100内の供給液容量は、600mlである。実験に供したNMP水溶液(供給液)の水分濃度は、3.9~37.0%であった。容器100内には、スターラー104が設けられ、容器100内の供給液を撹拌した。
【0046】
供給液内に分離膜(浸透気化膜)112が配置され、その透過側である内部空間は、供給液から分離膜112で分離されている。分離膜112の透過側は、密閉容器114に接続され、この密閉容器114内が真空ポンプ116によって真空引きされている。
【0047】
従って、分離膜112の透過側が減圧状態となり、ここにおいて透過水が蒸発され密閉容器側に吸引される。蒸気は、密閉容器114内で冷却されて、透過液となって溜まる。
【0048】
このような装置で、下記のような手順で、NMPの脱水実験を行った。
(1)供給液600mlを容器100に入れる。
(2)スターラー104により攪拌するとともに、ヒータ102で供給液を加熱し、また、分離膜112の透過側より真空引きを開始する。
(3)容器100内の供給液を脱水濃縮する。供給液、濃縮液(脱水濃縮後の供給液)および透過液のサンプリングを実施し、水分量を確認する。水分量はカールフィッシャー水分計にて測定した。
【0049】
ここで、供給液、濃縮液(脱水濃縮後の供給液)、透過液のサンプリングは、所定時間毎に行った。そして、その所定時間内における供給液の水分濃度と、濃縮液(脱水濃縮後の供給液)の水分濃度の平均濃度(膜面一次側の平均水分濃度)と、透過液の水分濃度(膜面二次側の水分濃度)を求め、分離係数βを求めた。
【0050】
ここで、分離係数βは、膜の分離性能の指標であり、A,Bの2成分系での透過目的成分がAの場合、供給側及び透過側のそれぞれの重量分率をXA、XB、及びYA、YBとすると、分離係数:(YA/YB)/(XA/XB)で表される。ここでは、膜面一次側(供給および濃縮側)の平均水分濃度と、二次側(透過側)の水分濃度を値として採用し、分離係数βと表記している。なお、透過側NMP量は、共雑物の影響で直接分析できない。よって水分以外の透過物はNMPとして濃度算出している。
【0051】
結果を表2及び図4のグラフに示す。
【0052】
【表2】
[図:0001418652000002.jpg]
」
摘記(1d)「【0067】
<実施形態の効果>
以上のように、本実施形態によれば、蒸発工程に代えて、浸透気化工程が採用されている。これによって、エネルギー効率が高く、放熱ロスが少ない水処理システムを得ることができる。また、供給液の水分濃度を5~35%とすることによって、好適なNMPの脱水が行え、特に15~30%とすることによって、処理途中でのNMP水溶液の取り扱いが容易になる。さらに、イオン交換手段(樹脂など)を用いてアミン類を除去することで、電極製造工程におけるバインダースラリーの変性を防ぐことができる。」
摘記(1e)「【図2】
[図:0001418652000003.jpg]
【図3】
[図:0001418652000004.jpg]
」
(2)引用文献2の記載事項
摘記(2a)「
[図:0001418652000005.jpg]
」
2 引用文献1を主引例とする場合
(1)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「NMP(N-メチル-2-ピロリドン)を含むNMP水溶液を、水分を選択的に透過させる浸透気化膜を備えた浸透気化装置で脱水することによって、NMPを精製するNMP精製システム」について(摘記(1a))、実施例2及び実施例1として(摘記(1c)及び(1e))、それぞれ、以下に示す引用発明1A及び引用発明1Bが記載されているものと認められる。
<引用発明1A>
ゼオライト膜を利用した浸透気化膜を備えた浸透気化装置で脱水することによって、NMPを精製するバッチ式のNMP精製方法において、運転時の供給液の温度は120°Cに保持され、供給液容量は600mlであり、供給液であるNMP水溶液の水分濃度は3.9~37.0%であるところ、供給液の水分濃度(脱水濃縮前)が11.4wt%の場合、濃縮液の水分濃度(脱水濃縮後)は7.4wt%であるNMP精製方法。
<引用発明1B>
ゼオライト膜を利用した浸透気化膜モジュールを用いた浸透気化装置で連続脱水することによって、NMPを精製するNMP精製方法において、供給液であるNMP水溶液を120℃に加熱し、浸透気化膜180の原液室(供給液側)に原液を10kg/hで通液し、供給液のNMP水溶液の水分濃度は1~30%wt%であるところ、供給液組成の水分濃度が9.5wt%の場合、濃縮液組成の水分濃度は0.07wt%であるNMP精製方法。
(2)対比・判断
ア 新規性について
(ア)本願発明1と引用発明1Aとの対比・判断
引用発明1Aの「NMP」は、本願発明1の「N-メチル-2-ピロリドン」に相当し、引用発明1Aの「ゼオライト膜を利用した浸透気化膜」は水が透過して脱水するものであるから、本願発明1の「水に対して親和性を有する浸透気化膜」といえ、引用発明1Aの「NMP水溶液」から脱水することによる精製とは、本願発明1の「N-メチル-2-ピロリドンと水とを含む混合液からN-メチル-2-ピロリドンを分離して精製」する工程といえる。
また、引用発明1Aの「濃縮液」は、本願発明1の「浸透気化装置の濃縮側」から回収される液である。
そうすると、両者は、
「N-メチル-2-ピロリドンと水とを含む混合液からN-メチル-2-ピロリドンを分離して精製する精製方法であって、
水に対して親和性を有する浸透気化膜を備える浸透気化装置に前記混合液を供給してN-メチル-2-ピロリドンと水とを分離し、前記浸透気化装置の濃縮側からN-メチル-2-ピロリドンを回収する工程を有する精製方法。」
である点で一致し、以下に示す相違点1の点で一応相違する。
<相違点1>
本願発明1は、「浸透気化装置における処理温度をx[℃]とし、前記浸透気化装置における前記混合液の滞留時間をy[h]として、80≦x≦100であるときに0.05≦y≦200を満たし、100<x<120であるときに0.05≦y≦-5x+700を満たし、120≦x≦160であるときに0.05≦y≦100を満たし、80≦x<110であるときにさらにy≧2641×exp(-0.0971112x)という条件を満たすように前記浸透気化装置を運転」しているのに対して、引用発明1Aは、「バッチ式運転時の供給液の温度は120°Cに保持され、供給液容量は600mlであり、供給液であるNMP水溶液の水分濃度は3.9~37.0%であるところ、供給液の水分濃度(脱水濃縮前)が11.4wt%の場合、濃縮液の水分濃度(脱水濃縮後)は7.4wt%」となるように運転している点
相違点1について検討すると、本願発明1は、引用発明1Aと同様に処理温度が120℃である場合、その滞留時間は0.05時間(3分)以上100時間以下であるから、その場合の上記相違点1は以下に示す相違点1’であるといえる。
<相違点1’>
浸透気化装置の処理温度120℃において、本願発明1は滞留時間が0.05時間(3分)以上100時間以下であるのに対して、引用発明1Aは滞留時間が不明である点
ここで、引用発明1Aは、バッチ式精製方式であること、並びに、その膜材料及び目的(膜の劣化及び分離性能の低下も評価)からみて、水分濃度11.4wt%のNMP水溶液600mlの処理時間が3分に満たないとすることは妥当とはいえないし、また、NMP水溶液600mlの供給液の水分濃度11.4wt%に対して、4.0wt%(35%)が脱水された水分濃度7.4wt%の濃縮液を得るために、100時間(4日以上)を超える処理時間を要するということも現実的とはいえない。
特に、引用発明1Aは、「浸透気化」の採用により、「エネルギー効率が高く、放熱ロスが少ない」効果を示すことを目的としているから(摘記(1b)及び(1d))、引用文献1の【0040】(摘記(1c))の「所定時間」が100時間を超える滞留時間であると解することに合理性はない。
そうすると、相違点1’といえる相違点1は実質的な相違点ではなく、本願発明1と引用発明1Aとの間に実質的な相違点は存在しない。
(イ)本願発明1と引用発明1Bとの対比・判断
本願発明1と引用発明1Bは、
「N-メチル-2-ピロリドンと水とを含む混合液からN-メチル-2-ピロリドンを分離して精製する精製方法であって、
水に対して親和性を有する浸透気化膜を備える浸透気化装置に前記混合液を供給してN-メチル-2-ピロリドンと水とを分離し、前記浸透気化装置の濃縮側からN-メチル-2-ピロリドンを回収する工程を有する精製方法。」
である点で一致し、以下に示す相違点2の点で一応相違する。
<相違点2>
本願発明1は、「浸透気化装置における処理温度をx[℃]とし、前記浸透気化装置における前記混合液の滞留時間をy[h]として、80≦x≦100であるときに0.05≦y≦200を満たし、100<x<120であるときに0.05≦y≦-5x+700を満たし、120≦x≦160であるときに0.05≦y≦100を満たすように前記浸透気化装置を運転」しているのに対して、引用発明1Bは、「浸透気化膜モジュールを用いた連続脱水において、供給液であるNMP水溶液を120℃に加熱し、浸透気化膜180の原液室(供給液側)に原液を10kg/hで通液し、供給液のNMP水溶液の水分濃度は1~30%wt%であるところ、供給液組成の水分濃度が9.5wt%の場合、濃縮液組成の水分濃度は0.07wt%である」となるように運転している点
相違点2について検討すると、本願発明1が、引用発明1Bと同様に処理温度が120℃である場合、その滞留時間は0.05時間(3分)以上100時間以下であるから、その場合の上記相違点2は以下に示す相違点2’であるといえる。
<相違点2’>
浸透気化装置の処理温度120℃において、本願発明1は滞留時間が0.05時間(3分)以上100時間以下であるのに対して、引用発明1Bは滞留時間が不明である点
ここで、引用発明1Bは、連続脱水における原液である供給液が10kg/hで通液されていること、及び同様の膜材料を用いたバッチ式の処理量が600ml/回であることからみて、水分濃度9.5wt%のNMP水溶液が0.07wt%になるまでの処理時間(供給から排出までの時間)が3分に満たないとすることは妥当とはいえない。
また、通液量が「10kg/h」であること等から、NMP水溶液の処理時間が100時間(約4日)を超えるとすることは現実的ともいえない。たとえば、100時間で1000kg(1トン)の溶液が排出されることなく浸透気化室に供給される場合、密度を1に近似すると、結果として約1000L以上の浸透気化室が必要であるところ、このように非常に大型の浸透気化室を有する脱水装置は、引用発明1Bの課題である「蒸留装置」が「非常に大型であり、スペース、高さが必要」であることの解消(摘記(1b))に反するものであるから、1トン以上の溶液が装置に滞留しなければならないと考えることに合理性はない。
そうすると、相違点2’といえる相違点2は実質的な相違点ではなく、本願発明1と引用発明1Bとの間に実質的な相違点は存在しない。
(ウ)まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明1A及び引用発明1Bに対して実質的な差異がないから、本願発明1は引用文献1に記載された発明である。
イ 進歩性について
仮に、相違点1及び相違点2が実質的に相違するものであったとしても、具体的な滞留時間を、0.05時間(3分)未満の短時間や、100時間以上の長時間とすることが、浸透気化の通常の運転条件であると解すべき技術常識は確認できないし、引用発明1A及び引用発明1Bにおいて、0.05時間(3分)以上100時間以下の滞留時間とすることは、供給量等の諸条件を考慮すると、当業者が容易になし得たものである。
また、本願発明1の効果は、引用発明1A及び引用発明1Bに付随した効果にすぎず、新たな課題を解決した効果ともいえない。
すなわち、本願明細書に記載の表1の「
[図:0001418652000006.jpg]
」という試験結果によれば、たとえば、温度がx=160℃で、滞留時間がy=100hの場合(本願発明1の「120≦x≦160であるときに0.05≦y≦100」を満たすもの)のAPHA値は「346」となっているところ、温度がx=120℃で、滞留時間がy=150hの場合のAPHA値は「200」程度であるので、本願発明1の「120≦x≦160であるときに0.05≦y≦100」という温度xと滞留時間yの条件設定により、格別の効果が得られるとは認められない。
また、本願明細書に記載の表2の「
[図:0001418652000007.jpg]
」という試験結果によれば、温度がx=100℃で、滞留時間がy=0.16hの場合〔本願発明1の「80≦x<110であるときにさらにy≧2641×exp(-0.0971112x)」を満たすもの。なお、y=2641×exp(-0.0971112x)の計算値は、x=80のときy=1.12、x=90のときy=0.42、x=100のときy=0.16、x=110のときy=0.06と計算される。〕の過酸化物濃度は「7」となっているところ、本願発明1の温度Xと滞留時間yの条件設定により、格別の効果が得られるとは認められない。
したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)小括
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であり、また、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 引用文献2を主引例とする場合
(1)引用文献2に記載された発明
引用文献2(摘記(2a))には、「NMP(N-メチルピロリドン)のリサイクルプロセス」として、浸透気化法によるNMP水溶液の脱水を行うことが記載されており、「2.実験 (1)浸透気化法によるNMP水溶液の脱水」及び「3.結果と考察」によると、以下に示す引用発明2が記載されているものと認められる。
<引用発明2>
水分を20wt%含有するNMP水溶液を120℃に加熱後、浸透気化試験装置のゼオライト膜モジュールへ供給し、濃縮されたNMPと、透過水である透過液をそれぞれ経時的に得る、NMP水溶液の脱水方法において、その積算の運転時間と脱水効率が図2の関係にある脱水方法。
[図:0001418652000008.jpg]
(以下、図2は略す。)
(2)本願発明1と引用発明2との対比・判断
ア 新規性について
引用発明2の「NMP(N-メチルピロリドン)」は、本願発明1の「N-メチル-2-ピロリドン」に相当し、引用発明2の「ゼオライト膜モジュール」は「水」を「透過水」として得るものであるから、本願発明1の「水に対して親和性を有する浸透気化膜」といえ、引用発明2の「NMP水溶液の脱水方法」とは、本願発明1の「N-メチル-2-ピロリドンと水とを含む混合液からN-メチル-2-ピロリドンを分離して精製する精製方法」といえる。
また、引用発明2の「濃縮されたNMP」は、本願発明1の「浸透気化装置の濃縮側」から回収される液体である。
そうすると、両者は、
「N-メチル-2-ピロリドンと水とを含む混合液からN-メチル-2-ピロリドンを分離して精製する精製方法であって、
水に対して親和性を有する浸透気化膜を備える浸透気化装置に前記混合液を供給してN-メチル-2-ピロリドンと水とを分離し、前記浸透気化装置の濃縮側からN-メチル-2-ピロリドンを回収する工程を有する精製方法。」
である点で一致し、以下に示す相違点3の点で一応相違する。
<相違点3>
本願発明1は、「浸透気化装置における処理温度をx[℃]とし、前記浸透気化装置における前記混合液の滞留時間をy[h]として、80≦x≦100であるときに0.05≦y≦200を満たし、100<x<120であるときに0.05≦y≦-5x+700を満たし、120≦x≦160であるときに0.05≦y≦100を満たし、80≦x<110であるときにさらにy≧2641×exp(-0.0971112x)という条件を満たすように前記浸透気化装置を運転」しているのに対して、引用発明2は、「水分を20wt%含有するNMP水溶液を120℃に加熱し、浸透気化装置に供給し、その総運転時間(h)と濃縮液水分(ppm)が図2の関係」となるように運転している点
相違点3について検討すると、本願発明1は、引用発明2と同様に処理温度が120℃である場合、その滞留時間は0.05時間(3分)以上100時間以下であるから、その場合の上記相違点3は以下に示す相違点3’であるといえる。
<相違点3’>
浸透気化装置の処理温度120℃において、本願発明1は滞留時間が0.05時間(3分)以上100時間以下であるのに対して、引用発明2は滞留時間が不明である点
ここで、引用発明2は、水分を20wt%含有するNMP水溶液がゼオライト膜モジュールを用いて180ppm(=0.018%)程度になるまで処理しており、その処理時間(供給から排出までの時間)が3分に満たないとすることは、その方式及び透過膜材料からみて妥当とはいえない。また、総運転時間が100時間以下である場合があることや最大総運転時間が220時間程度(滞留時間=総運転時間/浸透気化室容量のターンオーバー数)であることから、NMP水溶液の滞留時間が100時間を超えるとすることは現実的ともいえない。すなわち、総運転時間が100時間である場合に、供給されたNMP水溶液が排出口から全く排出されないことは設計上あり得ないことであるし、連続処理である以上、処理される容液量が浸透気化室容量の数倍以上であることは当然の設計であって、滞留時間が100時間を超えるとすることは現実的ではない。
そうすると、相違点3’といえる相違点3は実質的な相違点ではなく、本願発明1と引用発明2との間に実質的な相違点は存在せず、本願発明1は引用文献2に記載された発明である。
イ 進歩性について
仮に、相違点3が実質的に相違するものであったとしても、具体的な滞留時間を、0.05時間(3分)未満の短時間や、100時間以上の長時間とすることが、浸透気化の通常の運転条件であると解すべき技術常識は確認できないし、引用発明2において、0.05時間(3分)以上100時間以下の滞留時間とすることは、供給量等の諸条件を考慮すると、当業者が容易になし得たものである。
また、本願発明1の効果は、引用発明2に付随した効果にすぎず、新たな課題を解決した効果ともいえない。(本願明細書に記載の表1によれば、120℃における現実的な4日以内の滞留時間では着色の問題は発生しないし、表2によれば、120℃では過酸化物濃度に問題は発生しない。)
したがって、本願発明1は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)小括
以上のとおり、本願発明1は、引用文献2に記載された発明であり、また、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 請求人の主張について
(1)請求人は令和6年9月30日提出の意見書において、「引用文献1-3に記載された発明における処理温度を120℃としたときの浸透気化装置での滞留時間が100時間を大きく超えることについて説明します。」と述べ、以下の主張ア~ウをしている。
(主張ア)引用発明1Aについて
引用発明1Aはその一例にすぎず、表2の最下段に記載された、供給液の水分濃度(脱水濃縮前)が3.9wt%であり、濃縮液の水分濃度(脱水濃縮後)は0.5wt%である場合に着目して引用発明1A-Aとし、浸透気化装置における滞留時間の推定を行うと、留時間として125.43時間が得られ、引用文献1の実施例2に示す例では、浸透気化装置における滞留時間は、100時間を超えるものと考えられる。
(主張イ)引用発明1Bについて
引用文献1に、連続脱水における原液である供給液が10kg/hで通液されると記載されていることから100時間を超えるのは現実的でない、ということは不適切であり、引用発明1Aについての主張同様、引用発明1Bの浸透気化装置における滞留時間は、100時間を超えるものと考えられる。
(主張ウ)引用発明2について
滞留時間は運転時間とは異なる概念であり、滞留時間は150時間程度でも妥当ではなく、さらに長いと考えられ、引用文献2においてグラフ等によって示される結果は、浸透気化装置での処理液性能が所定のレベルに達して安定した時間をゼロとして、以降の経過時間と処理液性能の変化を示すものであるとしか解釈できないものである。
(2)請求人の主張の検討
ア 主張アについて
請求人が主張するように、引用文献1には、引用発明1Aが一例として記載されているところ、引用文献1に記載された発明は、エネルギー効率が高く、放熱ロスが少ないシステムの提供を課題としているので、その滞留時間が100時間を超えるとは解しがたい。
また、請求人の引用文献1の実施例2に対応する引用発明1A-Aの滞留時間の推定が、仮に「125.43時間」であるとしても、本願明細書の表1によれば、x=120℃で、y=150hの場合のAPHA値は「200」程度であって、本願発明1の条件を満たす範囲のもの(例えば、x=160℃で、y=100hの場合の「346」など)よりも優れた結果になっているので、本願発明1に格別の効果があるとは認められない。
さらに、請求人の引用文献1の実施例1に対応する引用発明1Bの膜面積を「3.77cm2」と仮定した場合の滞留時間が「285時間」という推定について、10kg/hで通液する引用発明1Bの装置容量は2850kg以上となるので、装置が大型になると設置が難しくなるという引用文献1の課題に照らして、請求人の主張する引用発明1Bの滞留時間の推定に技術的な合理性があるとは認められない。
したがって、請求人の主張アは採用できない。
イ 主張イについて
上記2(2)ア(イ)の相違点2’について検討したとおり、滞留時間が100時間を超えないのは現実的かつ適切であるから、請求人の主張イは採用できない。
ウ 主張ウについて
引用文献2における図2は「脱水効率の経時変化」を表したものであり、滞留時間が横軸の総運転時間(積算の運転時間)より短いことは当然であり、上記3(2)アの相違点3’について検討したとおり、滞留時間が100時間を超えないとするのは妥当であるから、請求人の主張ウは採用できない。
エ まとめ
したがって、請求人の主張ア~ウはいずれも採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないか、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、ほかの請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-007054