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特許拒絶査定不服審判

2023-010536

N-[1-(5-シアノ-ピリジン-2-イルメチル)-1H-ピラゾール-3-イル]-2-[4-(1-トリフルオロメチル-シクロプロピル)-フェニル]-アセタミドの結晶形

審判番号
2023-010536
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-572102外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年06月26日
審決日
2024年10月15日
公報発行日
2025年03月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (C07D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2019-572102「N-[1-(5-シアノ-ピリジン-2-イルメチル)-1H-ピラゾール-3-イル]-2-[4-(1-トリフルオロメチル-シクロプロピル)-フェニル]-アセタミドの結晶形」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月10日国際公開、WO2019/008034、令和 2年 8月27日国内公表、特表2020-525475〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 この出願は、2018年7月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年7月5日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、令和3年6月30日に手続補正書が提出され、令和4年7月1日付けで拒絶理由が通知され、同年11月15日に意見書及び手続補正書が提出され、令和5年2月21日付けで拒絶査定され、同年6月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明について この出願の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明は、令和4年11月15日付けに提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:4.7°、14.1°及び20.1°におけるピークの存在; により特徴づけられる、N-[1-(5-シアノ-ピリジン-2-イルメチル)-1H-ピラゾール-3-イル]-2-[4-(1-トリフルオロメチル-シクロプロピル)-フェニル]-アセタミドの結晶。」 第3 原査定の拒絶の理由 令和5年2月21日付け拒絶査定の拒絶の理由は、令和4年7月1日付け拒絶理由で通知された理由1であって、概略、次のとおりである。 1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・・・ 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・・・ ●理由1(特許法第29条第2項)について ・請求項 1-9 ・引用文献等 1-6 ・・・ <引用文献等一覧> 1.特表2017-516830号公報 2.長瀬博監訳,最新 創薬化学 下巻,株式会社テクノミック,1999年09月25日,第347-365頁(周知技術を示す文献) 3.STAHLY,P.,医薬品の塩選択,結晶多形のスクリーニングの重要性について,薬剤学,2006年,Vol.66,No.6,p.435-439(周知技術を示す文献) 4.高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,Vol.6, No.10,2007年01月15日,pp. 20-25(周知技術を示す文献) 5.平山令明,有機化合物結晶作製ハンドブック -原理とノウハウ-,丸善株式会社,2008年07月25日,pp. 57-84(周知技術を示す文献) 6.芦澤一英,塩・結晶形の最適化と結晶化技術,Pharm Tech Japan,2002年,Vol. 18, No. 10,pp. 81-96(周知技術を示す文献) 拒絶理由通知時点の請求項3は、拒絶査定時点の請求項1と同一のものである。 第4 当審合議体の判断 当審合議体は、上記拒絶査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び本願の優先日時点の技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないと考える。 引用文献1 特表2017-516830号公報 引用文献2 C.G.WERMUTH編、長瀬博監訳、最新 創薬化学 下巻、株式会社 テクノミック、1999年9月25日、p.347~365 引用文献3 STAHLY,P.、医薬品の塩選択、結晶多形のスクリーニングの重要性について、薬剤学、2006年、Vol.66、No.6、p.435~439 引用文献4 高田則幸、創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択、PHARM STAGE、Vol.6、No.10、2007年1月15日、p.20~25 引用文献5 平山令明編著、有機化合物結晶作製ハンドブック -原理とノウハウ-、丸善株式会社、2008年7月25日、p.37~51、57~84 引用文献6 芦澤一英著、塩・結晶形の最適化と結晶化技術、Pharm Tech Japan、2002年、Vol.18、No.10、p.81~96 引用文献7 社団法人日本化学会編、化学便覧 応用化学編 第6版、丸善株式会社、2003年1月30日、p.178 引用文献8 社団法人日本化学会編、第5版 実験化学講座1 -基礎編I 実験・情報の基礎-、丸善株式会社、2003年9月25日、p.165 なお、引用文献2~8は、本願優先日時点の技術常識を示すためのものである。 理由は以下のとおりである。 以下、文献の摘記はすべて全角で表記する。また、文献からの摘記箇所における「・・・」は記載の省略を示し、下線は当審合議体による。 1 引用文献の記載 (1)引用文献1の記載 原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献1」には、次の記載がある。 (1a)「【請求項1】 式(I)の化合物、又はそのような化合物の塩: 【化1】 [図:0001419778000001.jpg] ・・・ 【技術分野】 【0001】 本発明は、新規なピラゾール化合物、及びカルシウムTチャンネルが関与する様々な疾患又は障害の治療又は予防におけるT型カルシウムチャンネルブロッカーとしてのそれらの使用、これらの誘導体を含有する医薬組成物及びそれらの製造のための方法に関する。」 (1b)「【0083】 態様1)~31)のいずれか1つに定義する式(I)の化合物は、カルシウムTチャンネルが関与する疾患又は障害の予防又は治療に有用である。 【0084】 カルシウムTチャンネルが関与するそのような疾患又は障害は、特に、下記の疾患又は障害を含むものと定義してもよい: - てんかん(特に、欠神てんかん、小児欠神及び他の形態の特発性全般てんかん、側頭葉てんかん); - 睡眠障害及び睡眠失調; - 疼痛(特に、炎症性疼痛、神経因性疼痛、末梢性疼痛、抹消性軸索損傷に関連する慢性痛); - 神経性疾患又は障害(特に、本態性振戦、パーキンソン病、統合失調症、鬱病、不安症、精神病、神経変性障害、自閉症、薬物依存); - 心血管疾患及び障害(特に、高血圧、不整脈、心房細動、うっ血性心不全、心臓ブロック); - 癌; - 糖尿病及び糖尿病性ニューロパシー;並びに - 不妊症及び性機能障害。 【0085】 特に、カルシウムTチャンネルが関与するそのような疾患又は障害は、てんかん、神経性障害及び疼痛を意味する。好ましくは、そのような疾患又は障害は、てんかん及び疼痛を意味する。」 (1c)「【0093】 一般式(II)の化合物は、最終工程としてのアミドカップリングを介して製造することができる(スキーム1)。概して、対応するカルボン酸(IV)は、活性化して、対応する酸塩化物、典型的には塩化オキサリルとすることができる。あるいは、カルボン酸(IV)は、カップリング試薬、典型的にはHATU又はHBTUを用いて、アミン(III)に直接カップリングすることができる。場合によっては、2種のカップリング生成物が形成され、分取用HPLCにより分離される。 【0094】 【化7】 [図:0001419778000002.jpg] 所望の1級アミノピラゾール(III)は、アルキル化(タイプ(VI)の化合物)及び還元工程により、ニトロピラゾール(V)から製造することができる。還元工程では、亜鉛、鉄又はパラジウムが好ましく用いられる。【0095】 【化8】 [図:0001419778000003.jpg] タイプ(III)のアミノピラゾールは、Curtius転移を介して製造することもできる(スキーム3)。ピラゾール-3-カルボン酸(VIII)からの適宜なエステルは、アルキル化して、化合物(IX)とすることができる。けん化によりカルボン酸(X)が得られ、その後のCurtius転移によりアミノピラゾール(III)が得られる。 【0096】 【化9】 [図:0001419778000004.jpg] スキーム2(V→VI)及び3(VIII→IX)に記載のアルキル化工程に必要な対応する塩化ベンジル、臭化ベンジル又はベンジルメシレートは、標準的な文献の手順に従って、又は、下記の実施例に記載の通りに製造することができる。 【0097】 タイプ(IV)のカルボン酸は、既知の手順に従って製造することができる。特に、Negishiカップリング(スキーム4)、又は、タイプ(XI)の臭化(ヘテロ)アリールと(2-(tert-ブトキシ)-2-オキソエチル)亜鉛(II)ブロミドの間の類似の炭素-炭素カップリングにより、タイプ(XII)のエステルが得られる:一般的には酸性条件下における加水分解により、タイプ(IV)の酸が得られる。タイプ(XI)のブロミドは、市販されているか、又は既知の手順に従って製造することができる(実験の部を参照。)。 【0098】 【化10】 [図:0001419778000005.jpg] あるいは、タイプ(XIII)の安息香酸は、Wolff転移を介して、タイプ(IV)の酸に変換することができる(スキーム5)。タイプ(XIII)の酸は、タイプ(XIV)のアルコールに還元することができる。次いで、このアルコールは、活性化して、タイプ(XV)の化合物(LGは、クロリド、ブロミド、メシレート又はトシレート等の脱離基を表す。)とし、タイプ(XVI)のニトリルに同族体化(homologated)できる:次いで、加水分解によりタイプ(IV)の酸が得られる。」 (1d)「【0102】 実施例の製造 一般的手順 ・・・ 【0104】 アミドカップリングの一般的手順3。特に断らない限り、所望のカルボン酸(1eq.)、所望のアミン(1.5eq)、N-メチルモルフォリン(4eq.)及びHBTU(2eq.)をDMF(約20mL/eq.)中に混合したものを、反応が完了するまで(数時間から一晩)撹拌する。他の塩基、カップリング試薬及び/又は溶媒を用いることもできる(実験の詳細を参照。)。減圧下で溶媒を除去する。任意で水性後処理(塩基及び/又は酸性)を行う。残渣を自動化FC又はHPLCで精製して、所望の生成物を得る。あるいは、生成物は結晶化により単離することができる。 ・・・ 【0106】 ニトロ基の還元の一般的手順5。Fe又はZnを、出発物質をEtOH又はアセトンに溶解したものに、飽和NH4Cl水溶液を用いて加える。混合物を75℃に加熱し、反応が完了するまで(約1h)この温度にて撹拌する。混合物をrtに冷却し、Celite(登録商標)を通してろ過する。溶媒を減圧下で除去し、所望の粗生成物を得る。 ・・・ 【0108】 tert-ブチルエステルの加水分解の一般的手順7。エステル及び酸及び任意でCH2Cl2の溶液を、0℃にて調製する。この混合物を、出発物質が消費されるまで、0℃にて撹拌し、任意でrtまで温める。溶媒を減圧下で除去し、所望の粗製の化合物を得る。 ・・・ 【0110】 LC-MSの分析条件 特に断らない限り、分析LC-MSデータに対し下記の条件を使用した: ・・・ 【0112】 条件3:Zorbax SB-Aqカラム、3.5μm、4.6x50mm、1.0minに渡って、0.04%のTFAを含む5%CH3CN/95%H2Oから100%CH3CNへ、4.5mL/min。・・・」 (1e)「【0161】 6-((3-アミノ-1H-ピラゾール-1-イル)メチル)ニコチノニトリル。EtOH(30mL)中のFe(1.05g、18.5mmol)及び6-((3-ニトロ-1H-ピラゾール-1-イル)メチル)ニコチノニトリル(425mg、1.85mmol)、及び飽和NH4Cl水溶液(3mL)から、一般的手順5に従って製造。75℃にて1h後に反応を完了し、粗製の表題化合物を得る。LC-MS:tR=0.40min、MH+=200.28(条件3)。」 (1f)「【0422】 2-(4-(1-(トリフルオロメチル)シクロプロピル)フェニル)酢酸。HCOOH(2.3mL)中のtert-ブチル 2-(4-(1-(トリフルオロメチル)シクロプロピル)フェニル)アセテート(100mg、0.33mmol)から、一般的手順7に従って製造。rtにて2.5h後に反応を完了する。溶媒を減圧下で除いて、粗製の表題生成物を得る。LC-MS:tR=0.82min(条件3)。」 (1g)「【0492】 下記の実施例を、適宜なカルボン酸及びアミノピラゾールから、一般的手順3に従って製造: 【表21】 [図:0001419778000006.jpg] ・・・ 【0495】 【表24】 ・・・ [図:0001419778000007.jpg] 」 (1h)「【0556】 試験化合物の保存溶液は、DMSO中10mMの濃度で調製する。Cav3.2アッセイについては、化合物の段階希釈液を、TEACバッファー(100mMのテトラエチルアンモニウムクロリド;20mMのHepes;2.5mMのCaCl2;5mMのKCl;1mMのMgCl2;1%のFBS;pH7.2)中で調製し、Cav1.2アッセイについては、段階希釈液をアッセイバッファー中で調製する。10μMから0.05nMまでの3倍希釈範囲の試験化合物を細胞に添加する。化合物を細胞とともに3分間インキュベートし、CaCl2を10mMの最終濃度(Cav3.2アッセイ)で添加するか、又は、KClを20mMの最終濃度(Cav1.2アッセイ)で添加することにより、Ca2+の流入を刺激する。蛍光増強の動態をすべてのウェルについて記録し、すべての化合物濃度に対する蛍光について蛍光曲線(fluorescence trace)下の面積を用いて、インハウスソフトウェアを用いた非線形回帰ジグモイド濃度-応答曲線分析を使用して、阻害曲線を得る。IC50値が算出され、試験化合物の代わりにビヒクルの存在下で得られるシグナルの50%を阻害するのに必要な化合物濃度を表す。同様に、すべての例示化合物の拮抗活性(IC50値)を、Cav3.1及びCav3.3-チャンネルについて測定した。すべての例示化合物の拮抗活性(IC50値)は、Cav3.1については0.3から1210nMの範囲内であり;Cav3.3については0.8から1280nMの範囲内である。 【0557】 下記の表に、Cav3.2-チャンネルについて得られたIC50値を示す。 【0558】 【表37】 [図:0001419778000008.jpg] ・・・ 【0560】 【表39】 [図:0001419778000009.jpg] ・・・」 (2)引用文献2の記載 原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献2」には、次の記載がある。 (2a)「・・・製剤および代謝研究者が指摘しているように,医薬品候補化合物が,水溶性,経口投与時の生物学的利用率(・・・),吸湿性(・・・),安定性(・・・),および製造性・・・などにおいて最適な物理化学的性質(・・・)を示さないことがよくあり,これが判明した時点ではしばしば手遅れになることがある.」(347頁下から3行~348頁2行) (3)引用文献3の記載 原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献3」には、次の記載がある。 (3a)「2.固体医薬品の結晶多形の役割と影響 製薬会社では同一化合物に複数の結晶多形及び疑似結晶多形が見られる現象に直面することがよくある(図1).原薬に結晶多形や疑似結晶多形が複数存在することは,経口固形剤にとって特に問題になっている.結晶多形とは,ある化合物において2種類以上の結晶相が存在することであり,これらの結晶相はそれらの結晶格子中において,その分子の配列やコンフォメーションが互いに異なっている.これらの異なる原薬形態間において,時折,物性が非常に類似している例もあるが,通常,物理化学的性質がまったく異なるため,薬物動態特性,製造の難易性,製剤の安定性に大きな影響を及ぼすこともある.原薬の固体状態での形態違いにより異なる物性値として,融点,色,溶解性,結晶形状,吸湿性/放湿性,粒子径,硬度,乾燥性,流動性,濾過性,圧縮性,密度などがある. これらの物性値に変動があると,溶解速度,経口吸収性,バイオアベイラビリティー,臨床試験結果に違いが出ることがある.結局,原薬形態の違いによって物性値が異なることで,安全性及び有効性に影響を及ぼすことになる.さらに安定性については,原薬及び製剤の製造工程中において,意図せずに異なる原薬形態に変化する場合もあることから,特に注意が必要である.」(435頁左欄18行~右欄14行) (3b)「3.Polymorph Screening 最近では,製薬業界は製剤設計における原薬に最も適した結晶多形のスクリーニングと原薬形態の選択において効率向上策を模索してきている. ・・・ 5.粉末X線回折法を用いた解析 SSCI社において粉末X線回折法(XRPD)は,結晶多形スクリーニングサンプル評価のために最初に用いられる分析方法である。」(436頁右欄8行~437頁右欄18行) (4)引用文献4の記載 原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献4」には、次の記載がある。 (4a)「3 原薬Formスクリーニング及び選択 創薬後期に実施される原薬Formスクリーニング及び選択は,原薬Formの決定を目的とし,Formスクリーニング,Form選択,結晶多形スクリーニングの3つの段階に大きく分けられる。 ・・・ 最後の結晶多形スクリーニングの目的は,選択したFormの結晶多形及び疑似多形を網羅的にスクリーニングすることにある。 ・・・ また,スクリーニングに関しては,Symyx社,Zinsser Analytic社等が,ロボットを用いたシステムを販売している。」(21頁左欄9行~22頁左欄7行) (4b)「3.1 結晶化法と結晶化溶媒 Form及び結晶多形スクリーニングで主に用いられる結晶法には,冷却法、貧溶媒法(Precipitation),蒸発法,スラリーコンバージョン法(溶媒媒介転移法)がある。核形成のために必要な過飽和の溶質濃度は,準安定形の方が最安定形よりも高いことから,いずれの方法においてもより高い過飽和の溶質濃度を生成する結晶化条件で,準安定形が得られやすい傾向があると考えられる(例えば,冷却法では速い冷却速度,大きい温度差など)。 ・・・ 溶液からの結晶化において,結晶化溶媒は結晶核生成と結晶成長に大きく影響を与える重要な結晶化条件の一つである。 ・・・ 3.2 熱力学的最安定形の決定 Formスクリーニング及び結晶多形スクリーニングで最も重要な項目の一つは,最安定形の決定である。 ・・・ 3.3 溶解性・吸収性の評価 BCS class2化合物の原薬Form選択において,溶解性・吸収性の評価は最も重要な項目である。」(22頁左欄10行~23頁左欄10行) (5)引用文献5の記載 原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献5」には、次の記載がある。 (5a)「3 結晶化のための一般的な手法 本書では工業的なスケールの結晶化法については取り扱わないが,以下に述べる実験室スケールの結晶化の方法は,工業的なスケールでの結晶化にも十分参考になるだろう.本章では,低分子有機化合物の良質な単結晶を得るために用いられている方法を概観する.各方法の詳細や具体的な例については,特定の化合物群に関する各章での説明を参照されたい. 3.1 溶液からの結晶化 低分子有機化合物は溶液から結晶されることが圧倒的に多い.・・・ 3.1.1 温度変化の制御による結晶化 高温と低温の溶解度の差が大きい分子の場合,温度勾配をかけることは結晶化上有利である.・・・ 3.1.2 溶媒蒸発法による結晶化 低分子有機化合物の場合,溶媒をゆっくり蒸発させる方法は良好な結晶を得るもっとも手軽で広く用いられている方法である. ・・・ 3.5 筆者の研究室における溶液からの結晶化の実際 ・・・ 結晶化すべき分子の構造があらかじめわかっている場合には・・・情報が十分にない場合には,その分子の化学構造を含めて次のように溶媒を選択する. (1)結晶化すべき化合物が塩であるか,OH基を多く含む場合は,メタノール,アセトン,またはエタノールを試す.・・・2-プロパノールを試みる. (2)結晶化すべき化合物が塩でないか,OH基を多く含まない場合は,トルエン,ジクロロメタン,ヘキサン,エタノール,酢酸エチル,エーテル,アセトニトリル・・・を試す. (3)ClとNの含有量が多い化合物はそれぞれジクロロメタンおよびジメチルホルムアミド(DMF)を試す. ・・・ ここに示した溶媒は,低分子有機化合物の結晶化を行う研究室では,最低そろえておくべきであろう.」(37頁の「3 結晶化のための一般的な手法」) (5b)「4.1 はじめに 医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終工程で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い. 結晶は晶析条件に依存してさまざまな構造,形状,大きさ,凝集状態などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.たとえば,結晶構造の異なる多形や晶癖の異なる結晶の溶解速度は一般的に異なるため,医薬品の生物学的有効性に相違が生じる.こうした相違は,散剤,錠剤,顆粒剤,カプセル剤などといった固体状態の医薬品を経口投与する場合においてとくに顕著に表れる.医薬品の作用部位への到達濃度を決定する要因の一つに投与部位からの吸収の効果があり,経口投与される医薬品では製剤から放出される主薬の溶解性が消化管での吸収に大きく影響するからである. 結晶多形の密度や融点,格子エネルギーなどは異なり,結果として熱や温度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.」(57~58頁の「4.1 はじめに」) (5c)「4.2.1 結晶多形の検索 複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相関はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形の検索に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある. 表4.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide(フロセミド)[図4.1(a)]での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである4).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせること [図:0001419778000010.jpg] [図:0001419778000011.jpg] により温度や過飽和度の異なる条件を発生させた.その結果,従来はI形とII形の2種の多形についてだけ報告されていたが,新たに多形1種(III形)と,N,N-ジメチルホルムアミドおよび1,4-ジオキサンを含有した2種の溶媒和物(IV形およびV形)が見いだされた。表4.1(1)の加温溶解し徐冷する方法においてはメタノールやエタノールのような低沸点の溶媒からI形が,ブタノールなどのより高沸点の溶媒からII形が析出する傾向がみられた.(3)の有機溶媒に加温溶解し水を添加する方法でも,また(4)のN,N-ジメチルホルムアミドに加温溶解し他の溶媒を添加する方法においても,同様の傾向がみられた.」(59~60頁の「4.2 結晶多形(polymorph)」) (5d)「4.5 医薬品の結晶化例 4.5.1 一般的な結晶化条件 医薬品を開発するうえで,初期段階においては種々の条件下における結晶多形の探索を行い,製剤化検討の結果なども考慮して開発の基本形となる結晶形を選択する.その後,工業化に向けたスケールアップの検討を行い,工場での生産が安定に行えるように準備する必要がある.したがって,開発段階初期における結晶多形の有無などを含めた結晶状態の検討は,医薬品の開発を効率的に進めるうえで非常に重要である.晶析条件に関する文献も多いが35),4ここでは,医薬品を結晶化する一般的な条件を示し,さらに医薬品の結晶化の実例を記述する. 一般に使用される晶析溶媒としては,水,メタノール,エタノール,・・・酢酸エチル,アセトン,メチルエチルケトン,トルエン,シクロヘキサン,シクロヘキサノン,ジメチルホルムアミドなどである. 結晶化はおよそ以下のような方法を用いる. (1)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時ろ過(審決注:ろ過の「ろ」は原文ではさんずいに戸であるが、ひらがなで記す。以下も同じ。)し,残留試料を除いた後,室温付近まで徐々に冷却する. (2)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時ろ過し,残留試料を除いた後,氷などにより急冷する. (3)試料を適当な溶媒に溶かした液に,試料が溶けにくい溶媒を滴下する. (4)試料を適当な溶媒に溶かした液をエバポレーターなどを用いて脱溶媒する. ・・・」(78~79頁の「4.5 医薬品の結晶化例」) (6)引用文献6の記載 原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献6」には、次の記載がある。 (6a)「2.結晶化条件 医薬品原薬の多くは,合成工程の精製などの最終工程において結晶状態として製造されることが多い。このことは,結晶は原子,分子が立体的に規則正しく配列するために,一定品質の原薬を安定的に製造することが可能であるとの考えに基づいていると思われる。また,液体に較べ,化学的な安定性に優れ,計量や製剤加工などの取り扱いにおいても,はるかに利便性が高いと考えられる理由かもしれない。このように溶液に較べ,品質的には均質な原薬結晶ではあるが,固体の存在形態を制御し,恒常的に安定製造するためには,結晶化条件についての最適化が必要とされる。結晶は,溶液からの晶析による結晶化によって調製されることが多く,晶析条件に応じて,さまざまな結晶形,形状,大きさ,凝集塊の生成などの現象が観測されることも多い。 晶析操作で,結晶多形を制御する際に基本となるのは,各結晶の結晶化に使用する溶媒に対する溶解度の情報である(3)。一般に医薬品の場合には,図2に示したような温度による溶解度差を利用した冷却晶析が多く,温度-溶解度曲線を作成することが基本となる。・・・ ・・・ (3)結晶化の方法について・・・ ・・・ ○1(原文では、丸数字である。以下同様。)温度変化を制御する結晶化方法 ・・・結晶析出操作線図で説明したように,溶解度の温度変化を利用して晶析を行う方法であり,溶解度の温度依存性が大きな化合物の結晶化に適している。・・・ ○2溶媒蒸発による結晶化方法 ・・・ ○3蒸気拡散による結晶化法 ・・・ ○4反応晶析法 ・・・ ○5加圧による圧力晶析法」(82~87頁の「2.結晶化条件」の項) (6b)「6.開発候補化合物の物性評価 開発候補化合物を決める前の段階で,周辺化合物の物性評価も考慮し,化合物の物性評価を行いながら塩・結晶形についての評価を行う必要がある。 とりわけ,固体の経口投与製剤の場合では,探索の最終段階における開発候補化合物の選定において,塩・結晶形と物性評価が必要と考えられる。物性評価項目としては,橋田らの報告にあるように,化学的安定性,経口吸収性,物理的安定性(結晶化度,水和度)などの評価が優先して行われるべきと考えられる。そして,開発候補化合物の物性の評価項目としては下記の内容があげられる。 ○1(原文では、丸数字である。以下同様。)結晶性の評価 結晶は,化学的な安定性,溶解性,経口吸収性,物理的な安定性(結晶化度,水和度)ならびに原薬・製剤の製造に対して影響を与える重要な基礎物性である。このために,X線回折,熱分析,赤外線吸収スペクトル,自動水分吸着脱着測定などの評価方法を必要に合わせて適宜用いることになる。このことで結晶多形,結晶化度,結晶形間の相転移を評価するとともに,種々の溶媒を用いて,塩形・結晶形の探索を行って開発候補化合物としての適格性を予測しておく。 ○2化学的な安定性の評価 医薬品の安定性は品質を保証する上で重要な物性の1つである。結晶性の評価とともに,固体状態において,熱,湿度,光に対する安定性を評価する。具体的には,通常行われている安定性試験の条件より過酷な試験条件で短期間に,開発候補化合物としての適格性を予測しておくことが重要である。また,水溶液あるいは各種溶媒,pHを変えた溶液中にて化学的な安定性を評価することで,化合物の基本的な性質を把握し,開発候補化合物としての適格性を予測しておく。 ○3溶解性の評価 薬物の溶解性は,経口吸収性,薬効にまで影響を及ぼす重要な物性である。結晶性や化学的安定性の結果も考慮しつつ,消化管吸収も考慮に入れた溶解性評価が重要である。結晶性の評価結果と合わせて考慮することにより,真の溶解性に近い値を予想することによって,開発候補化合物としての適格性を予測しておく。また,溶解性評価は,吸収を考慮して,日局のJP1液,JP2液などの標準的な水溶液や薬物の特性を考慮した種々の緩衝溶液が使用できるものと思われる。さらにこの段階では,原薬量が十分に確保できないことが予想されるため,少量で評価することを工夫することも必要と思われる。 ○4物理的な安定性 原薬結晶の物理的安定性,すなわち,結晶化度ならびに水和度は,結晶性の評価とともに重要性は高い。水和物の水和数などの水和度は,水の吸着や再結晶工程において,水分子が結晶構造へ取り込まれる過程でその数が変化する場合が多々ある。種々の溶媒を用いた,塩形・結晶形の探索の中で,結晶形間の相転移を評価するとともに,加温や粉砕によって生じる非晶質化のようなメカノケミカルな安定性を把握することも含めて,開発候補化合物としての適格性を予測しておくことが重要である。 ○5吸湿性の評価 吸湿性は製造工程,包装,貯法,化学的ならびに物理的な安定性に影響する重要な基礎物性である。マイクロバランスを用いた水分自動吸着脱着測定装置などを使用することにより,比較的少量で,低い相対湿度から高い相対湿度まで,所望するさまざまな温度において起こる水の吸着と脱着による重量変化から吸湿性を評価し,開発候補化合物としての適格性を検討することができる。」(94頁「6.開発候補化合物の物性評価」の項) (7)引用文献7の記載 本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献7」には、次の記載がある。 (7a)「4.3.3 晶析 a.晶析とその役割 晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe2O3)などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている. 1998年の調査(化学工学会晶析技術特別研究会)によれば,わが国で行われている晶析は,80%が溶液からの晶析である.また,75%が回分法で行われている.次に融液からの晶析が多く,大規模の精製晶析についても優れた技術,たとえばKCP法(呉羽テクノエンジ)が開発されている. b.結晶特性 おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である. (i) 晶癖・・・ (ii) 粒径・粒径分布・・・ (iii)純度 結晶への不純物の取込みについては,二つのメカニズムがある.母液の結晶への取込み,あるいは結晶表面への付着によるものと,結晶構造への組込みによるものである.前者は,結晶成長の粗さ,凝集などによって引き起こされるものであり,晶析速度の調整,洗浄などで解決する可能性がある.後者は,溶媒の変更,多形の選択など根本的な変更が必要である.結晶溶媒(結晶構造に組み込まれた溶媒)も不純物と見なすことができる. (iv) 多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶は擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.多形は,溶媒の種類・温度・冷却速度・過飽和度・かくはん速度・不純物などに影響を受ける.溶媒によって異なる多形が析出する場合が多く,重要な溶媒については混合溶媒も含めて,どのような結晶が析出するか,点検することが必要である.溶媒を選択することによって,目的の結晶多形が唯一選択的に得られる場合と,いったん析出した結晶多形(準安定結晶)が経時的に他の多形(安定結晶)に転移する,いわゆる溶媒媒介転移が起こる場合がある.溶媒媒介転移が起こるのは,準安定結晶と安定結晶の溶解度が異なるためである.どの多形が析出するかはオストワルドの段階則(Oswald’s step rule;状態の移行は,エネルギー的にもっとも近い状態を経由して順次に進行するという法則)に従うとされており,通常,溶解度が大きいほうの結晶が先に析出する.しかし,オストワルドの段階則に従わない場合もあり,多形を制御するためには,平衡論(オストワルドの段階則)のみではなく,速度論的な検討を行う必要がある. c.晶析操作 晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.」(178頁左欄5行~右欄26行) (8)引用文献8の記載 本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献8」には、次の記載がある。 (8a)「○5結晶の生成 再結晶のためにつくられた,熱い(一般には,沸点近くの温度の)飽和溶液を冷却して,目的とする物質を結晶として析出させる. 一般の場合には,室温に放置して,時々かき混ぜながらゆっくり温度を下げて,結晶を成長させる.ゆっくり温度を下げた方が,結晶がきれいに大きくなって析出する.過冷却による油状になっての分離も起こりにくい.温度が室温程度に下がった後,必要なら氷などで冷やして,結晶の量をふやす.」(165頁10~16行) 2 引用発明 引用文献1は、カルシウムTチャンネルが関与する様々な疾患又は障害の治療又は予防におけるT型カルシウムチャンネルブロッカーとして働く式(I)で示される新規なピラゾール化合物に関する文献であり(摘記(1a)及び摘記(1b))、 摘記(1c)及び摘記(1d)には、式(I)に対応する式(II)の化合物が最終工程でアミドカップリングを介して製造できるスキーム1や、式(II)の化合物の原料化合物である式(III)及び式(IV)の化合物を、それぞれ、スキーム2及びスキーム4で製造できること、並びに実施例の化合物を製造するための一般手順として、アミドカップリングの一般的手順3、ニトロ基の還元の一般的手順5、tert-ブチルエステルの加水分解の一般的手順7、及びLC-MSの分析条件としての条件3の内容が記載されている。 また、摘記(1e)及び摘記(1f)には、具体的な反応原料である6-((3-アミノ-1H-ピラゾール-1-イル)メチル)ニコチノニトリル(式(III)の化合物)を一般的手順5に従って製造し、2-(4-(1-(トリフルオロメチル)シクロプロピル)フェニル)酢酸(式(IV)の化合物)を一般的手順7にしたがって製造した具体的内容が記載され、条件3でLC-MSの分析を行ったことが記載されている。 さらに、摘記(1g)には、【表24】には、カルボン酸(式(IV)の化合物)とアミノピラゾール(式(III)の化合物)から、一般的手順3に従ってピラゾール化合物を製造したことと、その一つとして、実施例番号278の化合物として、「N-[1-(5-シアノ-ピリジン-2-イルメチル)-1H-ピラゾール-3-イル]-2-[4-(1-トリフルオロメチル-シクロプロピル)-フェニル]-アセタミド」がLC-MSの条件3の分析結果とともに示されている。 したがって、引用文献1には、N-[1-(5-シアノ-ピリジン-2-イルメチル)-1H-ピラゾール-3-イル]-2-[4-(1-トリフルオロメチル-シクロプロピル)-フェニル]-アセタミドが具体的な製造方法を伴って記載されているのであるから、以下の発明が記載されているということができる(以下「引用発明」といい。その化合物を「引用化合物」ともいう。) 「N-[1-(5-シアノ-ピリジン-2-イルメチル)-1H-ピラゾール-3-イル]-2-[4-(1-トリフルオロメチル-シクロプロピル)-フェニル]-アセタミド」 3 対比・判断 (1)本願発明と引用発明の対比 ア 引用化合物の化合物名は、本願発明の化合物名と同一であるから、引用発明の「N-[1-(5-シアノ-ピリジン-2-イルメチル)-1H-ピラゾール-3-イル]-2-[4-(1-トリフルオロメチル-シクロプロピル)-フェニル]-アセタミド」は、本願発明の「N-[1-(5-シアノ-ピリジン-2-イルメチル)-1H-ピラゾール-3-イル]-2-[4-(1-トリフルオロメチル-シクロプロピル)-フェニル]-アセタミド」に相当する。 イ また、本願発明の「粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:4.7°、14.1°及び20.1°におけるピークの存在;により特徴づけられる」「結晶」との特定事項に関して、「粉末X線回折ダイアグラム」とは、「粉末X線回折パターン」を意味し(本願明細書【0022】及び【0077】参照。)、本願発明の化合物の結晶の粉末X線回折パターンを測定した結果、屈折角2θが4.7°、14.1°及び20.1°においてピークが存在していることを発明特定事項としていると理解でき、本願明細書においては、【0003】の 「 本発明の詳細な記述 1) 本発明の第1の態様は、 a. 粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:4.7°、14.1°及び20.1°(結晶形1)におけるピークの存在;又は、 b. 粉末X線回折ダイアグラムにおける以下の屈折角2θ:12.8°、18.0°及び18.3°(結晶形2)におけるピークの存在; により特徴づけられる、N-[1-(5-シアノ-ピリジン-2-イルメチル)-1H-ピラゾール-3-イル]-2-[4-(1-トリフルオロメチル-シクロプロピル)-フェニル]-アセタミド(「化合物」)の結晶形に関する。」 との記載から、本願発明の結晶は、結晶形1を特定したものである。 ウ 以上のことより、本願発明と引用発明とは、 「N-[1-(5-シアノ-ピリジン-2-イルメチル)-1H-ピラゾール-3-イル]-2-[4-(1-トリフルオロメチル-シクロプロピル)-フェニル]-アセタミド。」に関する発明である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点: 本願発明においては、N-[1-(5-シアノ-ピリジン-2-イルメチル)-1H-ピラゾール-3-イル]-2-[4-(1-トリフルオロメチル-シクロプロピル)-フェニル]-アセタミドが、「粉末X線回折ダイアグラムにおける屈折角2θ:4.7°、14.1°及び20.1°に」「ピーク」が存在する「結晶」と特定されているのに対し、引用発明においては、化合物が結晶であり、粉末X線回析ダイヤグラムが屈折角2θにおけるピークの存在で特定されていない点。 (2) 相違点の判断 ア 本願優先日における医薬化合物の結晶に関する技術常識について 本願優先日当時、一般に医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れているとの技術常識があったと認められる(摘記(5b)、摘記(6a))。また、結晶化の条件により得られる結晶が異なることによって、医薬化合物として結晶の多形体が存在することから(摘記(5b)、摘記(6a))、医薬化合物において結晶が得られる条件を検討したり、結晶多形体を調べたりすることは、当業者がごく普通に行うことであり(摘記(3a)、摘記(3b)、摘記(5c)、摘記(5d)、摘記(7a))、結晶を同定する方法として、粉末X線回折を行うとの技術常識があったものと認められる(摘記(3b)、摘記(6b)、摘記(7a))。 そして、結晶を得る方法に関し、摘記(5a)及び摘記(5d)に記載されるとおり、一般に使用される晶析溶媒は、メタノール、エタノール以外にも、トルエンなどもよく用いられ、また、摘記(4b)、摘記(5a)、摘記(5d)、摘記(6a)、摘記(7a)及び摘記(8a)に見られるように、晶析方法としては、冷却法が広く用いられているとの技術常識が本願優先日にあったものと認められる。 イ 相違点の容易想到性について (ア)引用文献1の引用化合物は、カルシウムTチャンネルが関与する疾患又は障害の予防又は治療に有用な化合物であることから明らかなように、医薬化合物であり(摘記(1a)、摘記(1b))、また、引用文献1には、引用化合物も含めて結晶化して取得することも示唆されているといえる(摘記(1d)の【0104】)。 そして、上記アの本願優先日時点の技術常識に照らすと、引用文献1に接した当業者には、医薬化合物である引用化合物について、結晶が得られる条件を検討したり、結晶多形を調べたりすることについては強い動機付けがあったものと認められる。 さらに、引用化合物の結晶を得るにあたり、上記アに記載されたような、結晶を得るためによく用いられる手法を試すことは、当業者にとって困難性があるとはいえない。すなわち、一般に使用されるトルエン等の晶析溶媒を用い、よく用いられる晶析方法である冷却法によって結晶を得て、得られた結晶を粉末X線回折によって同定し、安定性等に優れた結晶を選ぶことは、当業者が通常行う程度のことであると認められる。 (イ)ここで本願発明の結晶を得るための結晶製造方法と、得られた結晶の粉末X線回折による同定に関し、本願明細書の具体的記載に基づき確認してみると以下のとおりである。 a 本願明細書の【0087】には、本願発明に相当する結晶形1の結晶の製造方法として、 「実施例1: 結晶形1の「化合物」の製造及び特性分析 2-(4-(1-(トリフルオロメチル)シクロプロピル)フェニル)酢酸(41mmol、1.0eq.)のアセトニトリル(280mL)中の溶液に、DIPEA(90mmol、2.2eq.)及びHATU(43mmol、1.05eq.)をそれぞれ添加し、溶液を、窒素雰囲気下でRTにて5min撹拌した。6-((3-アミノ-1H-ピラゾール-1-イル)メチル)ニコチノニトリル(43mmol、1.05eq.)を添加し、溶液をRTにて約18h撹拌し、溶媒を真空下で除いた。残渣をEtOAc中に溶解し、塩酸(0.1M)、飽和NaHCO3水溶液及び水で連続的に洗浄した。有機層をNa2SO4上で乾燥し、真空濃縮した。残渣をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーにより精製した(勾配:n-ヘプタンからEtOAcへ)。結晶化:トルエン(70mL)を得られた固体(14g)に添加し、完全に溶解するまで、懸濁液を加熱還流した。溶液を約90min以内にRTに到達するようにした。さらに0℃に冷却した後、懸濁液をろ過し、残渣をn-ペンタンで洗浄し、真空下で乾燥して、結晶形1の結晶固体(10g)を得た。」 と記載されている。 b 上記結晶形1の結晶の製造方法において、結晶析出溶媒は、塩ではない又はOHを含まない引用化合物の場合に一般的に使用される溶媒であるとされるトルエンが用いられている(摘記(5a))。 また、その結晶析出の方法も、摘記(4b)、摘記(5a)、摘記(5d)、摘記(6a)、摘記(7a)及び摘記(8a)に記載されるように基本的な手法であるとされる、試料を加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製し、冷却することで温度による溶解度の差を利用し、結晶を析出させる、冷却法であるといえる。 さらに、溶液を約90分以内に室温にし、さらに0℃に冷却している点も、摘記(5d)や摘記(8a)に記載されるように、氷などを用いて0℃付近まで冷却して溶解度を十分に下げて結晶を析出させているもので通常の方法であるといえる。 c そして、結晶形1を「屈折角(回析角)2θ:4.7°、14.1°及び20.1°に」「ピーク」が存在する「結晶」と特定することについては、結晶の同定方法として周知慣用の方法である粉末X線回折スペクトル分析を行った結果を提示したものにすぎない(摘記(3b)、摘記(6b)、摘記(7a))。 d そうすると、本願発明の結晶は、当業者が通常なし得る試行錯誤の範囲で、結晶探索を行って得られたものであり、かつ、当該得られた結晶を通常用いられる手法で同定したものにすぎないといえる。 (ウ)それゆえ、引用発明においても、引用化合物から結晶探索を行い結晶形1の結晶を得ることは、当業者の通常なし得る試行錯誤の範囲のことであり、かつ得られた結晶を本願発明で特定するように同定することも通常行う程度のことにすぎないといえる。 ウ 以上によれば、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到することである。 エ 本願発明の効果について (ア)本願明細書には、「II. 「化合物」の結晶形の製造」の実施例1において、本願発明である結晶形1の「化合物」の製造及び特性分析の記載があり、実施例2に、本願発明ではない結晶形2の製造及び特性分析の記載があるだけで、それぞれの特性分析データである表1及び表2は以下のとおりである。 [図:0001419778000012.jpg] [図:0001419778000013.jpg] 表1によると、本願発明の結晶形1が、GVS試験の結果、吸湿性でないという記載があるだけで、図面からみて、図1と図2とで、カウント数やベースラインの状況がやや異なる粉末X線パターンであることが理解できるだけである。 しかしながら、医薬品候補化合物において、水溶性,経口投与時の生物学的利用率、吸湿性、安定性、及び製造性等が重要であること(摘記(2a))、引用文献7に記載されるとおり、主な結晶特性は、晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度であり、これらの特性が異なれば、溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり、医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから、結晶特性の制御は非常に重要であることは技術常識であること(摘記(6b)、摘記(7a))、多形間に各特性に相違があることは技術常識であること(摘記(3a)、摘記(6b)、摘記(7a))を考慮すると、求められる特性について、総合的に結果を評価して結晶を選択することは当然のことである。 そうすると、結晶形1が他の結晶多形である結晶形2に比較して、仮に結晶性等に有意な特性があった場合であっても、本願発明の効果が当業者の予測を超え、かつ顕著な効果であるとはいえない。 4 審判請求人の主張の検討 (1)令和4年11月15日提出の意見書における主張の検討 ア 審判請求人は、上記意見書3頁2~14行において、当業者が化合物を知っていたとしても、結晶形1に至るまでには、通常の手法を用いた多大な実験が必要で、無数の実験条件から探索しなければならず、容易に想到できたものではない旨の主張をしている。 しかしながら、上記2及び3において既に述べたように、引用発明は、医薬化合物の発明であり、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物の結晶を得るための条件を検討したり、結晶多形体を調べたりすることは、本願優先日時点の技術常識である。 そして、結晶の発明において、結晶の製造方法(結晶の析出溶媒や結晶の析出方法)が通常のものであり、その効果が予測できない、かつ顕著なものでなければ、その発明は、当業者が容易に発明することができるものといえるところ、上述のとおり、本願発明の結晶形1は、引用発明の医薬化合物において、上記強い動機付けに基づき、通常用いられるごく一般的な結晶の製造方法によって得られたものであって、その得られた結晶の特性を、周知慣用の結晶の分析手法で得た結果で示したものにすぎない。また、本願発明の結晶形1が当業者の予測できない、かつ顕著な効果を有しているとはいえない。 したがって、審判請求人の通常の手法を用いた多大な実験が必要で、無数の実験条件からの探索したことを理由とする上記主張は採用できない。 イ 審判請求人は、上記意見書3頁2行~6頁7行において、本願発明の結晶形1のDSCトレースを示し、無水結晶であって熱力学的に安定であることを指摘する。また、結晶形1が60ヶ月まで長期保存期間にわたって安定であることや、25℃60%、30℃65%、40℃75%の安定条件下での6ヶ月の溶液の外観、色、透明度、純度値、不純物プロファイル及び水分量に大きな変化のないことや、結晶形2のXRPD、DSC、TGAのデータを示し、結晶形1と比較して、結晶形2の方が不安定であることを指摘することによって、本願発明の結晶性や熱力学的及び長期安定性等の特性は、引用文献の記載から予測できない旨主張している。 しかしながら、上記実験結果は、全て本願明細書に記載のなかった事項に基づいてなされてり、本願明細書には、結晶形1が無水物であることや、結晶形2より安定であったことすら記載されていなかったのであるから、上記実験は本願明細書の記載を補足するものとはいえない。それゆえ、上記追加の実験結果の記載に基づく主張は、本願明細書の記載に基づかない主張であり、採用することはできない。 仮に、本願発明の結晶形1が結晶形2より、無水物であって安定であったこと等を検討しても、結晶性、熱力学的安定性、長期安定性、加速安定性といった医薬化合物の結晶として当然要求される特性が、他の結晶形に比較して相対的に優れていたというだけである。そして、多形体間で上記特性が異なることは技術常識であることを考慮すると、結晶形1の上記相対的な特性向上の程度は当業者が予測できる範囲内のものであり、引用化合物から得られる結晶を想定した場合に、当該結晶に比べて、本願発明が質的又は量的に格別顕著な効果を奏するとは認めることはできず、単に結晶性の良好な安定形の結晶形を選択しているにすぎない。 (2)令和5年6月26日提出の審判請求書における主張の検討 審判請求人は、審判請求書の10頁23行~11頁14行において、引用文献1に多数の化合物が開示される中、実施例278を選択することの困難性及びその結晶形について調製法の教示や示唆がないこと、安定な結晶を作ることの困難さや予測不可能な点を指摘し、引用文献1の実施例278を選択し、当業者がどのように結晶を調製するのかは、開示がなく後知恵である旨主張している。 しかしながら、引用文献1には、製造方法を伴って引用化合物が明確に記載されているのであるから、他の化合物も同時に多数記載されていること自体は、引用発明の認定に直接関係のある事項ではない。そして、医薬品分野において、医薬候補化合物を結晶化させることも、多形体間で物理的特性等が異なることを前提に、製造できた結晶を総合的に評価し、最も優れているものを選び出すことも、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内のことであることを考慮すると、前記3(2)において述べたとおり、本願発明は、強い動機付けに基づき、当業者が通常なし得る試行錯誤の範囲で、引用化合物について結晶探索を行い、得ることができたものであって、当業者の予測できない、かつ顕著な効果を有しているとはいえない。 したがって、審判請求人の引用文献1に多数の他の化合物がある中から実施例278の化合物を選択することや結晶形について調製法の教示や示唆がないことを前提とした後知恵との主張は採用できない。 (3)小括 したがって、上記審判請求人の主張はいずれも採用できない。 5 まとめ 以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された技術的事項、並びに本願優先日時点の技術常識に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 むすび 請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された技術的事項、並びに本願優先日前の技術常識に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-010536

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