特許異議申立
2022-701288
蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極及び蓄電デバイス
- 審判番号
- 2022-701288
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-522088
- 登録番号
- 7090076
- 請求日
- 2022年12月22日
- 審決日
- 2023年07月06日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ENEOSマテリアル
- 【権利者代理人】大渕 美千栄
- 【権利者代理人】布施 行夫
- 【権利者代理人】松本 充史
- 【異議申立人】小松 一枝
- 【異議申立人】前田 知子
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 井上 信一
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7090076号発明「蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物、蓄電デバイス電極用スラリー、蓄電デバイス電極及び蓄電デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7090076号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。
特許第7090076号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7090076号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、2018年5月15日(優先権主張 2017年5月29日 日本国(JP))を国際出願日として出願され、令和4年6月15日にその特許権の設定登録がなされ、同年6月23日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
令和4年12月22日 特許異議申立人 小松 一枝 外1名による請
求項1ないし13に係る特許に対する特許異議
の申立て
令和5年 2月15日付け 取消理由通知
令和5年 4月 7日 特許権者による訂正請求書、意見書の提出
なお、令和5年5月10日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知をし、意見書を提出する機会を与えたが提出されなかった。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和5年4月7日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第7090076号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし13について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正部分を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「重合体(A)が、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)23~70質量部と、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~74質量部と、を含有し」と記載されているのを「重合体(A)が、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)35~70質量部と、水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~65質量部と、を含有し」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~13も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2において、「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)」と記載されているのを「水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~13も同様に訂正する)。
2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1、3ないし13について、請求項3ないし13は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、一群の請求項を構成する。
また、訂正前の請求項2ないし13について、請求項3ないし13は請求項2を引用しているものであって、訂正事項2によって訂正される請求項2に連動して訂正されるものであり、一群の請求項を構成する。
そして、これら一群の請求項は共通する請求項3ないし13を有することから組み合わされて、訂正前の請求項1ないし13に対応する訂正後の請求項1ないし13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に係る発明において、
(ア)「不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)」について、その含有割合の下限値を「23」質量部から「35」質量部に訂正することで含有割合の範囲を狭める限定を付加し、
(イ)さらに、「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)」について、「水素化されていない」ことの限定を付加し、
(ウ)同じく「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)」について、その含有割合の上限値を「74」質量部から「65」質量部に訂正することで含有割合の範囲を狭める限定を付加するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、上記(ア)の限定に関して、本件特許明細書の段落【0036】には「・・重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、繰り返し単位(a1)を23~70質量部含有するが、その含有割合は、・・より好ましくは35~68質量部、・・である。」と記載されている。また、上記(イ)の限定に関して、本件特許明細書の例えば段落【0115】の実施例(実施例1)では所定の単量体単位を重合して得られる重合体に対して水素添加反応は行っておらず、得られる重合体は水素化することなくそのまま用いられることが記載されているといえる。そして、上記(ウ)の限定に関して、本件特許明細書の段落【0039】には「・・重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、繰り返し単位(a2)を20~74質量部含有するが、その含有割合は、・・特に好ましくは40~65質量部である。」と記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項1は上述のとおり、請求項1に係る発明において、「不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)」についてその含有割合の下限値を「23」質量部から「35」質量部に訂正することで含有割合の範囲を狭める限定を付加し、さらに、「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)」について「水素化されていない」ことの限定を付加するとともに、その含有割合の上限値を「74」質量部から「65」質量部に訂正することで含有割合の範囲を狭める限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
イ.訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2に係る発明において、「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)」について、「水素化されていない」ことの限定を付加するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、上記限定に関して、本件特許明細書の例えば段落【0115】の実施例(実施例1)では所定の単量体単位を重合して得られる重合体に対して水素添加反応は行っておらず、得られる重合体は水素化することなくそのまま用いられることが記載されているといえる。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項2は上述のとおり、請求項2に係る発明において、「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)」について「水素化されていない」ことの限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
訂正事項1及び2については「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件においては、訂正前の請求項1ないし13の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1、3ないし13に係る訂正事項1、訂正前の請求項2ないし13に係る訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。
第3 当審の判断
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明13」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】
重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記重合体(A)が、
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)35~70質量部と、
水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~65質量部と、を含有し、
前記繰り返し単位(a1)及び前記繰り返し単位(a2)の合計量が76質量部以上である、蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物。
【請求項2】
重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記重合体(A)が、
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)23~70質量部と、
水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~74質量部と、
含フッ素エチレン系単量体に由来する繰り返し単位(a3)3~50質量部と、を含有し、
前記繰り返し単位(a1)、前記繰り返し単位(a2)及び前記繰り返し単位(a3)の合計量が76質量部以上である、蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物。
【請求項3】
前記不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)の含有割合が35~68質量部である、請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物。
【請求項4】
前記重合体(A)が、さらに不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(a4)を0.1~24質量部含有する、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物。
【請求項5】
前記重合体(A)が、さらにα,β-不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(a5)を0.1~15質量部含有する、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物。
【請求項6】
前記重合体(A)が、さらに芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(a6)を15質量部未満含有する、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物。
【請求項7】
前記重合体(A)が粒子である、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物。
【請求項8】
前記粒子の数平均粒子径が50nm以上5000nm以下である、請求項7に記載の蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物。
【請求項9】
前記液状媒体(B)が水である、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物と、活物質と、を含有する蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項11】
前記活物質としてケイ素材料を含有する、請求項10に記載の蓄電デバイス電極用スラリー。
【請求項12】
集電体と、前記集電体の表面上に請求項10または請求項11に記載の蓄電デバイス電極用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備える蓄電デバイス電極。
【請求項13】
請求項12に記載の蓄電デバイス電極を備える蓄電デバイス。」
2.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和5年2月15日付け取消理由通知に記載した取消理由(理由AないしC)の概要は、次のとおりである。
(1-1)理由A(新規性)
請求項1、4、5、10、12、13に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1、4、5、10、12、13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(1-2)理由B(進歩性)
請求項7ないし9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項7ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
引用例1:国際公開第2013/080989号(甲第1号証)
(1-3)理由C(サポート要件)
請求項1ないし12(注)に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
「(1)請求項1において「重合体(A)が、・・共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~74質量部と」を含有することが記載されている。
ここで、本件特許明細書の段落【0038】に「共役ジエン化合物」については、「特に限定されないが、・・これらの中でも、1,3-ブタジエンが特に好ましい。」とあり、具体的な化合物が示されているが、当該共役ジエン化合物に「由来する」繰り返し単位がどこまでのものを含むのか具体的な記載はなく、上記請求項1でいう「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位」としては、共役ジエン化合物を含む単量体単位を重合後に水素化して得た重合体中に含まれる水添共役ジエン化合物単位(例えば甲第1号証や甲第2号証に記載の「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」)も含まれ得ると解される。
しかしながら、水素化されていない重合体と、水素化された重合体とではその物性が大きく異なることがあるところ、本件特許明細書には、所定の単量体単位を重合して得た重合体を水素化することなくそのまま用いるようにした実施例が示さているのみであり、請求項1でいう「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位」に含まれ得るすべての繰り返し単位において、「結着性に優れると共に、充放電特性(特に高速放電特性)、低温抵抗特性及び耐久性に優れる蓄電デバイスを作製するための蓄電デバイス用バインダー組成物を提供する」という課題(段落【0010】)を解決できるとまでは認識することはできない。
以上のことを踏まえると、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えて特許を請求するものであるといえ、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項3ないし12(注)に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
(2)独立形式で記載された請求項2における「「重合体(A)が、・・共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~74質量部と」を含有すること記載についても、上記(1)と同様のことがいえる。
よって、請求項2に係る発明及び請求項2を引用する請求項3ないし12(注)に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。」
(注) 請求項13も含めるべきところ、錯誤により請求項13を含んでいない。以下に記載する「(3)取消理由についての当審の判断」では請求項13も含めて判断する。
(2)引用例1の記載事項
取消理由通知において引用した引用例1(国際公開第2013/080989号、甲第1号証)には、「二次電池正極用バインダー組成物」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[請求項1] ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位、親水性基を有する重合単位、及び炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含有するバインダーであって、
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを20℃での容積比がEC:DEC=1:2となるように混合してなる混合溶媒に、LiPF 6 が1.0mol/Lの濃度で溶解した電解液に対する膨潤度が、100~500%であることを特徴とする二次電池正極用バインダー組成物。」
イ.「[0025]二次電池正極用バインダー組成物
本発明の二次電池正極用バインダー組成物(「正極用バインダー組成物」と記載することがある。)は、特定のバインダーを含有する。
[0026](バインダー)
前記バインダーは、ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位、親水性基を有する重合単位、及び炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含有し、電解液(エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを20℃での容積比がEC:DEC=1:2となるように混合してなる混合溶媒に、LiPF6が1.0mol/Lの濃度で溶解した溶液)に対する膨潤度が、100~500%である。
[0027] 前記バインダーを構成する重合体中に(メタ)アクリル酸エステル重合単位を含むことで、正極活物質層を形成するための二次電池正極用スラリー組成物(以下において、「正極用スラリー組成物」と記載することがある。)中において、バインダーが溶解し安定性の高い正極用スラリー組成物を得ることができる。さらには電解液に対する安定性も高く、特に高温サイクル特性に優れる。
また、バインダーは、(メタ)アクリル酸エステル重合単位を好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%、特に好ましくは20~35質量%含む。前記(メタ)アクリル酸エステル重合単位の含有割合が5質量%未満である場合には、分散媒への溶解性が低下して活物質を均一に正極用スラリー組成物中に分散できず分散性が悪化することがある。そのため、スラリー安定性、二次電池正極の均一性および二次電池のサイクル特性等の低下の原因となるおそれがある。また、前記(メタ)アクリル酸エステル重合単位の含有割合が50質量%を超える場合には、二次電池正極の強度が低下し、電解液に対する膨潤度が上昇し、電極柔軟性も悪化することがある。さらには、二次電池のサイクル特性等の低下の原因となるおそれがある。 ・・・・(中 略)・・・・
[0032] また、前記バインダーを構成する重合体中に、炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含むことで、正極用スラリー組成物中の導電剤の分散性が向上し、均一な二次電池正極の製造が容易になる。電極内に正極活物質や導電剤が均一に分散することにより内部抵抗が低減し、結果としてこの電極を用いた電池の高温サイクル特性、出力特性が向上する。さらに、前記直鎖アルキレン重合単位を導入することで、バインダーの電解液に対する膨潤度が適正化され、電池特性の向上が図られる。
[0033] 上記の直鎖アルキレン重合単位の含有割合は、好ましくは20~98質量%、より好ましくは20~80質量%、特に好ましくは20~70質量%である。
[0034] 上記の直鎖アルキレン重合単位の炭素数は4以上であり、好ましくは4~16、さらに好ましくは4~12の範囲である。
[0035] 上記のように、本発明に用いるバインダーは、ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合体単位、親水性基を有する重合単位及び炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を有する。このようなバインダーは、ニトリル基を有する重合単位を形成し得る単量体、親水性基を有する重合単位を形成し得る単量体、(メタ)アクリル酸エステル重合体単位を形成し得る単量体、炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を形成し得る単量体を重合反応させて得られる。なお、炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位は、不飽和結合を有する構造単位(炭素数4以上の共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位)を有する重合体を得た後に、これを水素添加反応して形成することができる。」
ウ.「[0043] バインダー中への直鎖アルキレン重合単位の導入方法は、特に限定はされないが、共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位を導入後にこれを水素添加反応させる方法が簡便であり、好ましい。
[0044] 共役ジエンモノマーとしては、炭素数4以上の共役ジエンが好ましく、たとえば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどが挙げられる。これらのなかでも、1,3-ブタジエンが好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。」
エ.「[0234](実施例10)
正極用バインダー組成物として、下記のバインダー組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、正極用スラリー組成物および正極を得、電池を作製した。各評価の結果を表1に示す。
[0235]〔正極用バインダー組成物の製造〕
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、アクリロニトリル5部、ブチルアクリレート30部、メタクリル酸5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、1,3-ブタジエン60部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位、親水性基を有する重合単位及び共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は300mg/100mgであった。
・・・・(中 略)・・・・
[0238] その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮してバインダー水分散液を得た。また、このバインダー水分散液100部にNMP320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、正極用バインダー組成物として、上記バインダーのNMP溶液を得た。該NMP溶液100グラムをメタノール1リットルで凝固した後、60℃で一晩真空乾燥し、乾燥体を得、NMRで分析したところ、バインダーは、重合体全量に対して、ニトリル基を有する重合単位(アクリロニトリル単量体単位)を5質量%、1,3-ブタジエン由来の単量体単位を60質量%、親水性基(カルボン酸基)を有する重合単位(メタクリル酸単量体単位)を5質量%、(メタ)アクリル酸エステル重合単位(ブチルアクリレート単量体単位)を30質量%含んでいた。ここで、前記1,3-ブタジエン由来の単量体単位は炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位52.3質量%と未水添ブタジエン重合単位2.3質量%と1,2-付加重合単位5.4質量%とから形成されていた。また、バインダーのガラス転移温度は-36℃であり、SP値は9.3(cal/cm3)1/2であった。なお、バインダーのヨウ素価は11mg/100mgであった。さらに、バインダーの膨潤度は、120%であった。
[0239](実施例11)
正極用バインダー組成物として、下記のバインダー組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、正極用スラリー組成物および正極を得、電池を作製した。各評価の結果を表1に示す。
[0240]〔正極用バインダー組成物の製造〕
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、アクリロニトリル10部、ブチルアクリレート30部、メタクリル酸5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、1,3-ブタジエン55部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位、親水性基を有する重合単位及び共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は280mg/100mgであった。
・・・・(中 略)・・・・
[0243] その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮してバインダー水分散液を得た。また、このバインダー水分散液100部にNMP320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、正極用バインダー組成物として、上記バインダーのNMP溶液を得た。該NMP溶液100グラムをメタノール1リットルで凝固した後、60℃で一晩真空乾燥し、乾燥体を得、NMRで分析したところ、バインダーは、重合体全量に対して、ニトリル基を有する重合単位(アクリロニトリル単量体単位)を10質量%、1,3-ブタジエン由来の単量体単位を55質量%、親水性基(カルボン酸基)を有する重合単位(メタクリル酸単量体単位)を5質量%、(メタ)アクリル酸エステル重合単位(ブチルアクリレート単量体単位)を30質量%含んでいた。ここで、前記1,3-ブタジエン由来の単量体単位は炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位47.9質量%と未水添ブタジエン重合単位2.1質量%と1,2-付加重合単位5質量%とから形成されていた。また、バインダーのガラス転移温度は-39℃であり、SP値は9.6(cal/cm3)1/2であった。なお、バインダーのヨウ素価は10mg/100mgであった。さらに、バインダーの膨潤度は、120%であった。」
上記ア.ないしエ.から以下のことがいえる。
・引用例1に記載の「二次電池正極用バインダー組成物」は、上記ア.、イ.の記載によれば、バインダーがニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位、親水性基を有する重合単位、及び炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含有するものである。
・上記イ.の段落[0035]、ウ.の記載によれば、バインダーが含有する炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位は、共役ジエンモノマー(例えば1,3-ブタジエン)を形成し得る重合単位を水素添加反応して形成してなるものである。
・上記イ.の記載によれば、バインダーは、(メタ)アクリル酸エステル重合単位を特に好ましくは20~35質量%含み、上記エ.の記載によれば、重合体全量に対して実施例10、11では30質量%てある。
また、上記イ.の記載によれば、バインダーは、炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を特に好ましくは20~70質量%含み、上記エ.の記載によれば、重合体全量に対して実施例10では炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含む1,3-ブタジエン由来の単量体単位が60質量%(このうち炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位は52.3質量%)であり、実施例11では炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含む1,3-ブタジエン由来の単量体単位が55質量%(このうち炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位は47.9質量%)である。
・そして、上記エ.の記載によれば、実施例10、11においては、正極用バインダー組成物として、バインダーのNMP溶液を得てなるものである。
以上のことから、特に実施例10、11に係る正極用バインダー組成物に着目し、上記記載を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「バインダーのNMP溶液からなる二次電池正極用バインダー組成物であって、
前記バインダーは、ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合体単位、親水性基を有する重合単位、及び炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含む1,3-ブタジエン由来の単量体単位を含有し、ここで、炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位は共役ジエンモノマー(1,3-ブタジエン)を形成し得る重合単位を水素添加反応して形成してなるものであり、重合体全量に対して、前記(メタ)アクリル酸エステル重合単位が30質量%、前記炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含む1,3-ブタジエン由来の単量体単位が60質量%または55質量%(このうち炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位は52.3質量%または47.9質量%)である、二次電池正極用バインダー組成物。」
(3)取消理由についての当審の判断
(3-1)理由A(新規性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
a.引用発明における「二次電池正極用バインダー組成物」は、バインダーのNMP溶液からなるものであるところ、「バインダー」は、「ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合体単位、親水性基を有する重合単位、及び炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含む1,3-ブタジエン由来の単量体単位を含有」するものであるから、重合体であることは明らかであり、本件発明1でいう「重合体(A)」に相当し、また、NMP溶液における「NMP」は、有機溶媒(N-メチルピロリドン)であることは自明であり、本件発明1でいう「液状媒体(B)」に相当する。
そして、二次電池正極は、当然、活物質層を形成することにより得られるものであることを踏まえると、引用発明におけるバインダーのNMP溶液からなる「二次電池正極用バインダー組成物」は、本件発明1でいう「蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物」に相当するといえるものである。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有」する「蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物」である点で一致する。
b.引用発明におけるバインダーが含有する「(メタ)アクリル酸エステル重合単位」は、本件発明1でいう「不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100重量部としたときに、前記重合体(A)が、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)を所定質量部と」を含有する点で共通する。
ただし、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100重量部としたときの繰り返し単位(a1)の所定質量部、すなわち含有割合について、本件発明1では「35~70質量部」と特定するのに対し、引用発明では重合体全量に対して30質量%である点で相違する。
c.引用発明におけるバインダーが含有する「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含む1,3-ブタジエン由来の単量体単位」のうちの「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」は、「共役ジエンモノマー(1,3-ブタジエン)を形成し得る重合単位を水素添加反応して形成」してなるものであることから、水素化されたものであるといえる。してみると、引用発明における「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含む1,3-ブタジエン由来の単量体単位」から「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」を除いた残りの部分が、本件発明1でいう「水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)」に相当するとみることができる。
したがって、本件発明1と引用発明とは、「水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)を所定質量部と」を含有する点で共通する。
ただし、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100重量部としたときの繰り返し単位(a2)の所定質量部、すなわち含有割合について、本件発明1では「20~65質量部」と特定するのに対し、引用発明では重合体全量に対して60-52.3=7.7質量%または55-47.9=7.1質量%である点で相違する。
d.そして、繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)の合計量について、本件発明1では「76質量部以上」であると特定するのに対し、引用発明では「(メタ)アクリル酸エステル重合単位」と、「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含む1,3-ブタジエン由来の単量体単位」から「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」を除いた残りの部分との含有割合の合計は、重合体全量に対して30+7.7=37.7質量%または30+7.1=37.1質量%である点で相違する。
したがって上記a.ないしd.によれば、本件発明1と引用発明とは、
「重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記重合体(A)が、
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)を所定質量部と、
水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)を所定質量部と、を含有する、蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100重量部としたときの繰り返し単位(a1)の所定質量部、すなわち含有割合について、本件発明1では「35~70質量部」と特定するのに対し、引用発明では重合体全量に対して30質量%である点。
[相違点2]
重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100重量部としたときの繰り返し単位(a2)の所定質量部、すなわち含有割合について、本件発明1では「20~65質量部」と特定するのに対し、引用発明では重合体全量に対して7.7質量%または7.1質量%である点。
[相違点3]
繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位巣(a2)の合計量について、本件発明1では「76質量部以上」であると特定するのに対し、引用発明では重合体全量に対して37.7質量%または37.1質量%である点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点があるから、本件発明1は、引用例1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
イ.本件発明4、5、10、12、13について
請求項4、5、10、12、13は請求項1を引用するものであり、本件発明4、5、10、12、13は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明4、5、10、12、13は、引用例1に記載された発明ではない。
ウ.まとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1、4、5、10、12、13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-2)理由B(進歩性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、上記「(3-1)ア.(ア)」に記載したとおり、上記[相違点1]ないし[相違点3]において相違し、その余の点で一致する。
(イ)判断
そこで、事案に鑑みまず相違点2について検討する。
引用発明おけるバインダーは「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位を含む1,3-ブタジエン由来の単量体単位」(以下、「ブタジエン由来の単量体単位」という。)を含有するものであるところ、このうちの「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」の含有割合について、引用例1の段落[0033]には「特に好ましくは20~70質量%」であることが記載されている。ここで、引用例1における実施例10では「ブタジエン由来の単量体単位」60質量%に対してこれに含まれる「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」は52.3質量%であり、実施例11では「ブタジエン由来の単量体単位」55質量%に対してこれに含まれる「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」は47.9質量%であり、いずれも「ブタジエン由来の単量体単位」中に「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」が含まれる割合は約87%である。そうすると、上記段落[0033]に記載のように「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」の含有割合が20~70質量%の場合、「ブタジエン由来の単量体単位」はおよそ20/0.87≒23質量%~70/0.87≒80質量%であると推定され、本件発明1でいう「水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)」に相当するとみることができる「ブタジエン由来の単量体単位」から「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位」を除いた残りの部分は、23-20=3質量%~80-70=10質量%ということになる。したがって、たとえ引用例1の段落[0033]の上記記載を参照したとしても、引用発明において、本件発明1でいう「繰り返し単位(a2)」の含有割合を本件発明1で特定する「20~65質量部」の範囲とすること、すなわち相違点2に係る構成とすることを導き出すことはできない。
よって、他の相違点(相違点1、3)について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明4、5、7ないし10、12、13について
請求項4、5、7ないし10、12、13は請求項1を引用するものであり、本件発明4、5、7ないし10、12、13は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、「理由B(進歩性)」の対象とした本件発明7ないし9を含めて本件発明4、5、7ないし10、12、13は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.まとめ
以上のとおりであるから、「理由B(進歩性)」の対象とした本件請求項7ないし9に係る特許を含めて本件請求項1、4、5、7ないし10、12、13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-3)理由C(サポート要件)について
上記「(1-3)理由C(サポート要件)」に記載したとおりの記載不備の指摘に対して、本件訂正請求により、請求項1及び請求項2の各請求項において「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)」とあったのが「水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)」と訂正された。その結果、請求項1に係る発明、請求項2に係る発明、及び請求項1あるいは2を引用する請求項3ないし13に係る発明は、繰り返し単位(a2)が実施例に示されたものに特定されたといえ、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
したがって、取消理由で指摘した不備な点は解消され、請求項1に係る特許、請求項2に係る特許、及び請求項1あるいは2を引用する請求項3ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1-1)理由1(新規性)
請求項1、10、12、13に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1、10、12、13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(1-2)理由2(進歩性)
請求項1、7ないし10、12、13に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、7ないし10、12、13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第2号証:特開2013-8485号公報
(2)甲第2号証の記載事項
上記甲第2号証には、「二次電池用正極」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
集電体と、前記集電体上に積層され、正極活物質及びバインダーを含有してなる正極活物質層とからなり、
リチウム金属に対する正極活物質の充電平均電圧が3.9V以上であり、 前記バインダーが、ニトリル基を有する重合単位及び炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含んでなり、
前記バインダー中の前記ニトリル基を有する重合単位の含有割合が2~50質量%であり、かつ、
前記バインダーのヨウ素価が、3~60mg/100mgである二次電池用正極。」
イ.「【0019】
二次電池用正極
本発明の二次電池用正極は、集電体と、該集電体上に積層された正極活物質層とからなる。正極活物質層は、正極活物質及びバインダーを含有してなり、必要に応じて添加される他の成分を含有してもよい。
・・・・(中 略)・・・・
【0029】
(バインダー)
バインダーは、ニトリル基を有する重合単位、及び炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含んでなる。
・・・・(中 略)・・・・
【0033】
バインダーを構成する重合体中に、非極性の直鎖アルキレン構造単位を導入することで、正極を形成するためのスラリー(正極スラリー)中に必要に応じて添加される導電性付与剤の分散性が向上し、均一な正極の製造が容易になる。また、電極内に均一に導電性付与剤が分散することにより、導電ネットワークが取りやすくなることで内部抵抗が低減し、結果としてこの電極を用いた電池のサイクル特性、出力特性が向上する。また、所定以上の鎖長の直鎖アルキレン構造単位を導入することで、正極の電解液に対する膨潤性が適正化され、電池特性の向上が図られる。
【0034】
バインダーは、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を好ましくは50~98質量%、より好ましくは50~80質量%、特に好ましくは50~70質量%含む。」
ウ.「【0040】
上記のように、バインダーは、ニトリル基を有する重合単位及び炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位をそれぞれ含有し、さらに親水性基を有する重合単位を含有することが好ましい。このようなバインダーは、ニトリル基を有する重合単位を導く単量体、直鎖アルキレン構造単位を導く単量体及び親水性基を有する重合単位を導く単量体を重合して得られる。なお、直鎖アルキレン構造単位は、不飽和結合を有する構造単位を有する重合体を得た後に、これを水素添加して形成することができる。
・・・・(中 略)・・・・
【0042】
バインダー中への直鎖アルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、共役ジエン単量体単位を導入後にこれを水素添加する方法が簡便であり、好ましい。
【0043】
共役ジエン単量体としては、炭素数4以上の共役ジエンが好ましく、たとえば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどが挙げられる。これらのなかでも、1,3-ブタジエンが好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。」
エ.「【0050】
また、本発明に用いるバインダーは、上記単量体単位以外に、これらの単量体単位を形成する単量体と共重合可能な他の単量体単位を含有していてもよい。このような他の単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0051】
このような共重合可能な他の単量体としては、たとえば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位を構成するメチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;・・・・(中 略)・・・・などが挙げられる。その中でも、電解液に溶出せずに正極スラリーの溶媒として用いられるNMPへの溶解性を示すこと、正極の柔軟性が向上し、捲回セルを作製したときに正極の剥がれを抑制することができ、該正極を用いた二次電池の特性(サイクル特性等)に優れることから、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が2~12のアクリル酸アルキルエステルがより好ましく、その中でも、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ラウリルアクリレートが特に好ましい。・・・・(以下、略)」
オ.「【0161】
(実施例3)
バインダーとして、下記のバインダーを用いたこと以外は、実施例2と同様の操作を行い、正極スラリーおよび正極を得、電池を作製した。各評価の結果を表1に示す。なお、室温サイクル特性及び高温サイクル特性の評価における上限電圧は5.0Vとした。
【0162】
〔バインダーの製造〕
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、アクリロニトリル20部、ブチルアクリレート30部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、ブタジエン50部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、ニトリル基を有する重合単位及び共役ジエン単量体単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は280であった。
【0163】
全固形分濃度を12重量%に調整した上記重合体を400ミリリットル(全固形分48グラム)、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して重合体中の溶存酸素を除去した後、水素添加触媒として、酢酸パラジウム75mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第一段階の水素添加反応」という)させた。このとき、重合体のヨウ素価は35であった。
【0164】
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素添加触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水60mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第二段階の水素添加反応」という)させた。
【0165】
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮してバインダー水分散液を得た。なお、バインダーのヨウ素価は10であった。また、バインダー水分散液から、上記「ヨウ素価の測定」に記載した方法と同様にして乾燥体を得、NMRで分析したところ、バインダーは、重合体全量に対して、ニトリル基を有する重合単位(アクリロニトリル単量体単位)を20質量%、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位(ブタジエン単量体単位)を50質量%、他の単量体単位(ブチルアクリレート単量体単位)を30質量%含んでいた。
【0166】
このバインダー水分散液100部にN-メチルピロリドン(以下、「NMP」という。)320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、正極バインダーのNMP溶液を得た。」
上記ア.ないしオ.から以下のことがいえる。
・甲第2号証に記載の「二次電池用正極」は、上記ア.、イ.の記載によれば、集電体と、集電体上に積層され、正極活物質及びバインダーを含有する正極活物質層とからなり、バインダーがニトリル基を有する重合単位及び炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含んでなるものである。
・上記ウ.の記載によれば、バインダーが含む炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位は、共役ジエン単量体(例えば1,3-ブタジエン)を有する重合体を水素添加して形成されるものである。
・上記エ.の記載によれば、バインダーはさらに、他の単量体単位として例えばn-ブチルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステルを含有していてもよいものである。その含有割合は全単量体単位に対して好ましくは30質量%以下であり、上記オ.の記載によれば、実施例3では重合体全量に対して他の単量体単位(ブチルアクリレート単量体単位)は30質量%である。
・上記イ.の記載によれば、バインダーは、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を特に好ましくは50~70質量%含み、上記オ.の記載によれば、実施例3では重合体全量に対して炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位(ブタジエン単量体単位)は50質量%である。
・そして、上記オ.の記載によれば、実施例3では、バインダー水分散液にNMPを加え、正極バインダーのNMP溶液を得てなるものである。
以上のことから、特に実施例3に係る正極バインダーのNMP溶液に着目してこれを発明として捉え、上記記載を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「二次電池用正極における正極活物質層が含有する正極バインダーのNMP溶液であって、
前記正極バインダーは、ニトリル基を有する重合単位及び炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位(ブタジエン単量体単位)、及び他の単量体単位(ブチルアクリレート単量体単位)を含み、ここで、炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位(ブタジエン単量体単位)は共役ジエン単量体(1,3-ブタジエン)を有する重合体を水素添加して形成されるものであり、重合体全量に対して、前記炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位(ブタジエン単量体単位)が50質量%、前記他の単量体単位(ブチルアクリレート単量体単位)が30質量%である、正極バインダーのNMP溶液。」
(3)申立理由についての当審の判断
(3-1)理由1(新規性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
a.甲2発明は「正極バインダーのNMP溶液」であるところ、「正極バインダー」は、「ニトリル基を有する重合単位及び炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位(ブタジエン単量体単位)、及び他の単量体単位(ブチルアクリレート単量体単位)を含」むものであるから、重合体であることは明らかであり、本件発明1でいう「重合体(A)」に相当し、また、NMP溶液における「NMP」は、有機溶媒(N-メチルピロリドン)であることは自明であり、本件発明1でいう「液状媒体(B)」に相当する。
そして、甲2発明の「正極バインダーのNMP溶液」における正極バインダーは、二次電池用正極における正極活物質層が含有するものであることから、甲2発明における「正極バインダーのNMP溶液」は、本件発明1でいう「蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物」に相当するといえるものである。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有」する「蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物」である点で一致する。
b.甲2発明における正極バインダーが含む「他の単量体単位(ブチルアクリレート単量体単位)」は、ブチルアクリレートがアクリル酸のブチルエステルであることから、本件発明1でいう「不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)」に相当するといえる。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100重量部としたときに、前記重合体(A)が、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)を所定質量部と」を含有する点で共通する。
ただし、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100重量部としたときの繰り返し単位(a1)の所定質量部、すなわち含有割合について、本件発明1では「35~70質量部」と特定するのに対し、甲2発明では重合体全量に対して30質量%である点で相違する。
c.甲2発明における正極バインダーが含む「炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位(ブタジエン単量体単位)」は、「共役ジエン単量体(1,3-ブタジエン)を有する重合体を水素添加して形成」してなるものであることから、水素化された共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位であるといえる。
以上のことから、バインダーについて、本件発明1では重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100重量部としたときに「水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~65質量部」を含有すると特定するのに対し、甲2発明ではそのような水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)を有していない点で相違する。
d.そして、繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)の合計量について、本件発明1では「76質量部以上」であると特定するのに対し、甲2発明では繰り返し単位(a2)は有しておらず、繰り返し単位(a1)に相当する「他の単量体単位(ブチルアクリレート単量体単位)」を重合体全量に対して30質量%有するのみである点で相違する。
したがって上記a.ないしd.によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記重合体(A)が、
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)を所定質量部を含有する、蓄電デバイス活物質層用バインダー組成物。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点4]
重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100重量部としたときの繰り返し単位(a1)の所定質量部、すなわち含有割合について、本件発明1では「35~70質量部」と特定するのに対し、甲2発明では重合体全量に対して30質量%である点。
[相違点5]
バインダーについて、本件発明1では重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100重量部としたときに「水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~65質量部」を含有すると特定するのに対し、甲2発明ではそのような水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a2)を有していない点。
[相違点6]
繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)の合計量について、本件発明1では「76質量部以上」であると特定するのに対し、甲2発明では重合体全量に対して30質量%である点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点があるから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
イ.本件発明10、12、13について
請求項10、12、13は請求項1を引用するものであり、本件発明10、12、13は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明10、12、13は、甲第2号証に記載された発明ではない。
ウ.まとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1、10、12、13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-2)理由2(進歩性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、上記「(3-1)ア.(ア)」に記載したとおり、上記[相違点4]ないし[相違点6]において相違し、その余の点で一致する。
(イ)判断
そこで、事案に鑑みまず相違点5について検討する。
甲2発明における正極バインダーは、共役ジエン単量体(1,3-ブタジエン)を有する重合体を水素添加して形成される「炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位(ブタジエン単量体単位)」を含むものであるところ、甲第2号証には、水素化されていない共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位、すなわち本件発明1でいう「繰り返し単位(a2)」も含み得ることの記載も示唆もなく、甲2発明において、本件発明1でいう「繰り返し単位(a2)」を重合体中に含まれる繰り返し単位の合計を100重量部としたときに20~65質量部の範囲であえて含ませることの動機がないといえ、相違点5に係る構成を導き出すことはできない。
よって、他の相違点(相違点4、6)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明7ないし10、12、13について
請求項7ないし10、12、13は請求項1を引用するものであり、本件発明7ないし10、12、13は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明7ないし10、12、13は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.まとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1、7ないし10、12、13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
第4 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし13に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701288