特許異議申立
2022-701243
液体含浸表面を有する装置
- 審判番号
- 2022-701243
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-138084
- 登録番号
- 7085230
- 請求日
- 2022年12月15日
- 審決日
- 2023年10月17日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
- 【権利者代理人】山本 秀策
- 【権利者代理人】森下 夏樹
- 【異議申立人】千野 肇
- 審判長/審判官
- 審判長 久保 克彦
- 審判官 山崎 勝司
- 審判官 中野 裕之
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B) / P1651.113-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7085230号発明「液体含浸表面を有する装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7085230号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~24〕について訂正することを認める。
特許第7085230号の請求項1~5、8~10、12、13、15~24に係る特許を維持する。
特許第7085230号の請求項6、7、11及び14に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7085230号の請求項1~24に係る特許についての出願は、2013年5月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年5月24日(US)アメリカ合衆国、2012年5月24日(US)アメリカ合衆国、2012年5月24日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2015-514240号の一部を、平成30年4月27日に新たな特許出願とした特願2018-87203号の一部を、さらに、令和2年8月18日に新たな特許出願としたものであり、令和4年6月8日にその特許権の設定登録がされ、令和4年6月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和4年12月15日に特許異議申立人千野肇(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、期間を指定して令和5年2月28日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和5年5月31日に意見書の提出及び訂正の請求を行い(以下、当該訂正の請求による訂正を「本件訂正」という。)、その訂正の請求に対して、申立人は、令和5年7月18日に意見書を提出した。
2 訂正の適否についての判断
(1) 訂正の内容(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という
ア 訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、
「流体および/または固形物を搬送するための容器であって、
含浸液体と、複数のマイクロスケールおよび/またはナノスケールの固体フィーチャであってそれらの間に該含浸液体を安定して含有するように十分に近接して間隔を空けられた固体フィーチャと、を含む内側表面
を備え、
該含浸液体は、該固体フィーチャの間の空間を満たし、
該内側表面は、該固体フィーチャの間に該含浸液体を安定して含有しており、
該含浸液体は、該内側表面の配向とは無関係に、かつ該容器内を通り、入り、または出て行く流体および/または固形物の流動、通過、または除去とは無関係に、該複数の固体フィーチャの間の所定位置に実質的に保持され、
該内側表面は、該容器内を通り、入り、または出て行く流体および/または固形物の流動、通過、または除去を容易にするように構成され、
該内側表面は、該含浸液体によって部分的に浸漬され、
ここで、0<φ≦0.25であり、式中、φは、平衡時の非浸漬固体および浸漬固体に対応する液体含浸表面のトータルの投影表面積に対する、平衡時の非浸漬固体に対応する該内側表面の投影表面積の代表的分率である、
容器。」とあるのを、
「流体を含有するための容器であって、
含浸液体と、マイクロスケールおよび/またはナノスケールの高さの複数の固体突起であってそれらの間に該含浸液体を安定して含有するように十分に近接して間隔を空けられた固体突起と、を含む内側表面
を備え、
該含浸液体は、該固体突起の間の空間を満たし、
該内側表面は、該固体突起の間に該含浸液体を安定して含有しており、
該含浸液体は、該内側表面の配向とは無関係に、かつ該容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去とは無関係に、該複数の固体突起の間の所定位置に保持され、
該内側表面は、該容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去を容易にするように構成され、
該内側表面は、該含浸液体によって部分的に浸漬され、
ここで、0.01<φ≦0.25であり、式中、φは、平衡時の非浸漬固体および浸漬固体に対応する液体含浸表面のトータルの投影表面積に対する、平衡時の非浸漬固体に対応する該内側表面の投影表面積の代表的分率であり、
該含侵液体は、剪断増粘状態である、容器。」と訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同様である。)。
イ 訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2において、「固体フィーチャ」とあるのを、「固体突起」に訂正する。
ウ 訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3において、
「前記含浸液体が、オレイン酸エチル、エステル、脂肪酸、脂肪酸誘導体、植物油(例えば、オリーブ油、ライトオリーブ油、トウモロコシ油、大豆油、菜種油、亜麻仁油(linseed oil)、ブドウ種子油、亜麻仁油(flaxseed oil)、キャノーラ油、落花生油、紅花油、ヒマワリ油)、テルペン」とあるのを、
「前記含浸液体は、ナノ粒子によって剪断増粘状態にされており、該含侵液体がさらに、オレイン酸エチル、エステル、脂肪酸、植物油、オリーブ油、ライトオリーブ油、トウモロコシ油、大豆油、菜種油、亜麻仁油(linseed oil)、ブドウ種子油、亜麻仁油(flaxseed oil)、キャノーラ油、落花生油、紅花油、ヒマワリ油、テルペン」と訂正する。
エ 訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項4において、「前記固体フィーチャ」とあるのを、「前記固体突起」と訂正する。
オ 訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項6、7、11、14を削除する。
カ 訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項8に、
「前記容器が、丸剤、カプセル剤、錠剤、ゲルキャップ、および坐剤からなる群から選択される要素である、請求項1~7のいずれか一項に記載の容器。」とあるのを、
「前記容器が、カプセル剤、ゲルキャップ、および坐剤からなる群から選択される要素である、請求項1~5のいずれか一項に記載の容器。」と訂正する。
キ 訂正事項7
訂正前の特許請求の範囲の請求項10に、
「前記容器が、マイクロピペット、生体材料の小体積容器、ヒト血清容器、ピペット、ピペットチップ、マイクロ流体デバイス、透析機、チューブ、内視鏡、挿管デバイス、注射器、ステント、カテーテル、および気管切開チューブからなる群から選択される要素である、請求項1~9のいずれか一項に記載の容器。」とあるのを、
「前記容器が、生体材料の小体積容器、およびヒト血清容器からなる群から選択される要素である、請求項1~5および8~9のいずれか一項に記載の容器。」と訂正する。
ク 訂正事項8
訂正前の特許請求の範囲の請求項12に、
「前記含浸液体が、
a)薬物を含む;および/または
b)硬化性であり、硬化によって固体に変換することができる、
請求項1~11のいずれか一項に記載の容器。」とあるのを、
「前記含浸液体が、薬物を含む、請求項1~5および8~10のいずれか一項に記載の容器。」と訂正する。
ケ 訂正事項9
訂正前の特許請求の範囲の請求項13に、
「前記薬物が、防腐剤および/または抗菌剤、または、生物活性成分である、請求項12に記載の容器。」とあるのを、
「前記薬物が、防腐剤および/または抗菌剤、または、生物活性成分であり、該生物活性成分は、薬物、ミネラルまたはタンパク質である、請求項12に記載の容器。」と訂正する。
コ 訂正事項10
訂正前の特許請求の範囲の請求項15に、「請求項1~14のいずれか一項に記載の容器。」とあるのを、
「請求項1~5、8~10および12~13のいずれか一項に記載の容器。」と訂正する。
サ 訂正事項11
訂正前の特許請求の範囲の請求項18に、「請求項1~14のいずれか一項に記載の容器であって、」とあるのを、
「請求項1~5、8~10および12~13のいずれか一項に記載の容器であって、」と訂正する。
シ 訂正事項12
訂正前の特許請求の範囲の請求項23に、「軟膏、ローション、クリームまたはゲルを含有するように構成される、請求項1~22のいずれか一項に記載の容器。」とあるのを、
「前記流体が、軟膏、ローション、クリームまたはゲルである、請求項1~5、8~10、12、13および15~22のいずれか一項に記載の容器。」と訂正する。
ス 訂正事項13
訂正前の特許請求の範囲の請求項24に、「マニキュア液、シャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュ、ヘアジェル、フェイスマスクまたは練り歯磨きを含有するように構成される、請求項1~23のいずれか一項に記載の容器。」とあるのを、
「前記流体が、マニキュア液、シャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュ、ヘアジェル、フェイスマスクまたは練り歯磨きである、請求項1~5、8~10、12、13および15~23のいずれか一項に記載の容器。」と訂正する。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1~24〕に対して請求されたものである。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 請求項1に係る訂正について(訂正事項1)
(ア) 「流体および/または固形物を搬送するための容器」を「流体を含有するための容器」とする訂正は、「流体および/または固形物」から「固形物」の選択肢を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするとともに、「流体および/または固形物を搬送する容器」がその意味するところが不自然で判然としなかったものを、「流体を含有する容器」として、容器が当然に流体を含むものであることを明確に特定したもので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。
また、他の「流体および/または固形物」を「流体」とする訂正(2箇所)も、同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「流体および/または固形物を搬送するための容器」を「流体を含有するための容器」としても、請求項1には、「容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去」と特定されて、容器で流体が流動、通過、または除去される、すなわち流体が容器内を搬送される態様であることが訂正後も特定されていて、さらに、「容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去」される各態様において、容器が流体を含有していることも明らかであるとともに、明細書には、「・・・またはその他の材料および/または容器を含有する容器で使用されてもよい。」(【0105】)と記載されているので、「流体を含有するための容器」とする訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
(イ) さらに、「複数のマイクロスケールおよび/またはナノスケールの固体フィーチャ」を「マイクロスケールおよび/またはナノスケールの高さの複数の固体突起」とする訂正は、「フィーチャ」がその意味するところ不明確であったものを、「固体突起」と明確にし、「マイクロスケールおよび/またはナノスケール」が「高さ」を特定することを明確にし、「複数の」が「固体突起」を修飾することを明確するもので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、他の「固体フィーチャ」を「固体突起」とする訂正(4箇所)も、同様に明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
「固体フィーチャ」について、その形状が「突起」であることは、明細書の【0064】の記載に基づくものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(ウ) 「所定位置に実質的に保持され」を「所定位置に保持され」とする訂正は、「実質的」との用語を削除し、明確化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
よって、当該訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
(エ) 「0<φ≦0.25」を「0.01<φ≦0.25」とする訂正は、数値範囲をより狭く特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
当該訂正は、明細書の【0042】の記載に基づくものであり、「0.01<φ≦0.25」とする訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
(オ) 「該含侵液体は、剪断増粘状態である、」との特定を追加する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
当該訂正は、明細書の【0069】の記載に基づくものであり、「該含侵液体は、剪断増粘状態である、」との特定を追加する訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
イ 請求項2に係る訂正について(訂正事項2)
上記ア(イ)で、「固体フィーチャ」とあるのを、「固体突起」に訂正することで述べたことと同様であり、当該訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
ウ 請求項3に係る訂正について(訂正事項3)
請求項3に「前記含浸液体は、ナノ粒子によって剪断増粘状態にされており」との特定を追加する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
当該訂正は、明細書の【0069】の記載に基づくものであり、当該訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
また、「脂肪酸、脂肪酸誘導体、植物油(例えば、オリーブ油、ライトオリーブ油、トウモロコシ油、大豆油、菜種油、亜麻仁油(linseedoil)、ブドウ種子油、亜麻仁油(flaxseedoil)、キャノーラ油、落花生油、紅花油、ヒマワリ油)、テルペン」を「脂肪酸、植物油、オリーブ油、ライトオリーブ油、トウモロコシ油、大豆油、菜種油、亜麻仁油(linseed oil)、ブドウ種子油、亜麻仁油(flaxseed oil)、キャノーラ油、落花生油、紅花油、ヒマワリ油、テルペン」とする訂正は、「脂肪酸誘導体」との選択肢を削除するものであることから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、「例えば」との記載を削除することは、明確でない記載を削除するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
よって、当該訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
エ 請求項4に係る訂正について(訂正事項4)
上記ア(イ)で、「固体フィーチャ」とあるのを、「固体突起」に訂正することで述べたことと同様であり、当該訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
オ 請求項6、7、11、14に係る訂正について(訂正事項5)
訂正事項5は、請求項6、7、11、14を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
当該訂正は、請求項を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
カ 請求項8に係る訂正について(訂正事項6)
訂正事項6は、選択肢から「丸剤」及び「錠剤」を削除するものであるから、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
キ 請求項10に係る訂正について(訂正事項7)
訂正事項7は、選択肢から「マイクロピペット」及び「ピペット、ピペットチップ、マイクロ流体デバイス、透析機、チューブ、内視鏡、挿管デバイス、注射器、ステント、カテーテル、および気管切開チューブ」を削除するものであるから、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
ク 請求項12に係る訂正について(訂正事項8)
訂正事項8は、「a)」、「;および/または
b)硬化性であり、硬化によって固体に変換することができる」との選択肢を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
ケ 請求項13に係る訂正について(訂正事項9)
訂正事項9は、「該生物活性成分は、薬物、ミネラルまたはタンパク質である」との記載を追加するものであるから、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
当該訂正は、当該訂正は、明細書の【0040】の記載に基づくものであり、当該訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
コ 請求項15に係る訂正について(訂正事項10)
訂正事項10は、訂正事項5において、請求項6、7、11、14を削除したことにともない、当該請求項を引用しないようにする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
サ 請求項18に係る訂正について(訂正事項11)
訂正事項11は、訂正事項5において、請求項6、7、11、14を削除したことにともない、当該請求項を引用しないようにする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
シ 請求項23に係る訂正について(訂正事項12)
訂正事項12の「軟膏、ローション、クリームまたはゲルを含有するように構成される」を「前記流体が、軟膏、ローション、クリームまたはゲルである、」とする訂正は、「軟膏、ローション、クリームまたはゲル」について、その主体が明確でなかったものを、「前記流体が、軟膏、ローション、クリームまたはゲルである」と明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
さらに、訂正事項12の「請求項1~5、8~10、12、13および15~22のいずれか一項に記載の容器。」とする訂正は、訂正事項5において、請求項6、7、11、14を削除したことにともない、当該請求項を引用しないようにする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
ス 請求項24に係る訂正について(訂正事項13)
訂正事項13の「マニキュア液、シャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュ、ヘアジェル、フェイスマスクまたは練り歯磨きを含有するように構成される」を「前記流体が、マニキュア液、シャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュ、ヘアジェル、フェイスマスクまたは練り歯磨きである」とする訂正は、「マニキュア液、シャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュ、ヘアジェル、フェイスマスクまたは練り歯磨き」について、その主体が明確でなかったものを、「前記流体が、マニキュア液、シャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュ、ヘアジェル、フェイスマスクまたは練り歯磨きである」と明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
訂正事項13の「請求項1~5、8~10、12、13および15~23のいずれか一項に記載の容器。」とする訂正は、訂正事項5において、請求項6、7、11、14を削除したことにともない、当該請求項を引用しないようにする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~24〕について訂正することを認める。
3 訂正後の本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5、8~10、12、13、15~24に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~24に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
流体を含有するための容器であって、
含浸液体と、マイクロスケールおよび/またはナノスケールの高さの複数の固体突起であってそれらの間に該含浸液体を安定して含有するように十分に近接して間隔を空けられた固体突起と、を含む内側表面
を備え、
該含浸液体は、該固体突起の間の空間を満たし、
該内側表面は、該固体突起の間に該含浸液体を安定して含有しており、
該含浸液体は、該内側表面の配向とは無関係に、かつ該容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去とは無関係に、該複数の固体突起の間の所定位置に保持され、
該内側表面は、該容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去を容易にするように構成され、
該内側表面は、該含浸液体によって部分的に浸漬され、
ここで、0.01<φ≦0.25であり、式中、φは、平衡時の非浸漬固体および浸漬固体に対応する液体含浸表面のトータルの投影表面積に対する、平衡時の非浸漬固体に対応する該内側表面の投影表面積の代表的分率であり、
該含侵液体は、剪断増粘状態である、容器。
【請求項2】
前記固体突起が、1ミクロンから50ミクロンの範囲の平均寸法を有する粒子を含み;および/または
前記粒子は、隣接する粒子の間または粒子群の間に、1ミクロンから30ミクロンの平均間隔で配置され;および/または
前記粒子は噴霧配置される、
請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記含浸液体は、ナノ粒子によって剪断増粘状態にされており、該含侵液体がさらに、オレイン酸エチル、エステル、脂肪酸、植物油、オリーブ油、ライトオリーブ油、トウモロコシ油、大豆油、菜種油、亜麻仁油(linseed oil)、ブドウ種子油、亜麻仁油(flaxseed oil)、キャノーラ油、落花生油、紅花油、ヒマワリ油、テルペン、イソチオシアン酸フェニル(フェニルカラシ油)、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、o-ブロモトルエン、α-クロロナフタレン、α-ブロモナフタレン、四臭化アセチレン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(BMIm)、トリブロモヒドリン(1,2,3-トリブロモプロパン)、二臭化エチレン、二硫化炭素、ブロモホルム、ヨウ化メチレン(ジヨードメタン)、スタノラックス(stanolax)、Squibbの流動パラフィン、p-ブロモトルエン、モノブロモベンゼン、パークロロエチレン、二硫化炭素、フェニルカラシ油、モノヨードベンゼン、α-モノクロロ-ナフタレン、四臭化アセチレン、アニリン、ブチルアルコール、イソアミルアルコール、n-ヘプチルアルコール、クレゾール、オレイン酸、リノール酸およびフタル酸アミルからなる群から選択される少なくとも1種の要素を含む、請求項1および2のいずれか一項に記載の容器。
【請求項4】
前記固体突起が、蝋、カルナウバ蝋、蜜蝋、カンデリラ蝋、ゼイン(トウモロコシ由来)、デキストリン、セルロースエーテル、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルヒドロキシエチルセルロース、不溶性繊維、精製された木質セルロース、微結晶質セルロース、カオリナイト(粘土鉱物)、木蝋(Japan wax)、パルプ、酸化第二鉄、酸化鉄、ギ酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、金属、ポリマー、セラミック固体、フッ素化固体、金属間固体、および、複合固体 PDMS、環状オレフィンポリマー、ポリプロピレン、PVC、PET、HDPE、ポリイミド、PMMA、ガラス、Perspex、Plexiglass、Polymaconからなる群から選択される1つまたは複数の要素を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の容器。
【請求項5】
前記パルプが植物の茎のスポンジ状部分である、請求項4に記載の容器。
【請求項8】
前記容器が、カプセル剤、ゲルキャップ、および坐剤からなる群から選択される要素である、請求項1~5のいずれか一項に記載の容器。
【請求項9】
前記カプセル剤が、シングルピースまたはツーピースである、請求項8に記載の容器。
【請求項10】
前記容器が、生体材料の小体積容器、およびヒト血清容器からなる群から選択される要素である、請求項1~5および8~9のいずれか一項に記載の容器。
【請求項12】
前記含浸液体が、薬物を含む、請求項1~5および8~10のいずれか一項に記載の容器。
【請求項13】
前記薬物が、防腐剤および/または抗菌剤、または、生物活性成分であり、該生物活性成分は、薬物、ミネラルまたはタンパク質である、請求項12に記載の容器。
【請求項15】
Sow(a)<0であり、式中、Sow(a)は、γwa-γwo-γoaと定義される拡張係数であり、ここで、γは、下付き文字w、a、およびoにより指定される2相間の界面張力であり、wは水であり、aは空気であり、oは前記含浸液体である、
請求項1~5、8~10および12~13のいずれか一項に記載の容器。
【請求項16】
0.01<φ≦0.10である、請求項1に記載の容器。
【請求項17】
Sow(a)<0である、請求項15に記載の容器。
【請求項18】
以下:
(i)θos(w),receding=0と、
(ii)θos(a),receding=0かつθos(w),receding=0と
の一方または両方が適用される、請求項1~5、8~10および12~13のいずれか一項に記載の容器であって、
式中、θos(w),recedingは、水(下付き文字「w」)の存在下での前記表面(下付き文字「s」)上の前記含浸液体(下付き文字「o」)の後退接触角であり、θos(a),recedingは、空気(下付き文字「a」)の存在下での前記表面(下付き文字「s」)上の前記含浸液体(下付き文字「o」)の後退接触角である、容器。
【請求項19】
前記含浸液体が油である、請求項18に記載の容器。
【請求項20】
血液に接触している表面での血栓症を予防する、請求項1に記載の容器。
【請求項21】
汚れ止めおよび/または自己清浄性の表面を提供する、請求項1に記載の容器。
【請求項22】
カテーテルである、請求項10に記載の容器。
【請求項23】
前記流体が、軟膏、ローション、クリームまたはゲルである、請求項1~5、8~10、12、13および15~22のいずれか一項に記載の容器。
【請求項24】
前記流体が、マニキュア液、シャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュ、ヘアジェル、フェイスマスクまたは練り歯磨きである、請求項1~5、8~10、12、13および15~23のいずれか一項に記載の容器。」
4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1~24に係る特許に対して、当審が令和5年2月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア (進歩性)請求項1~24に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~24に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(証拠方法)
甲第2号証:特開2010-167929号公報(以下「甲第2号証」を「甲2」という。)
イ (明確性)請求項1~24に係る発明は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(ア) 本件発明1、及び本件発明1を引用する他の発明について
a 「容器」がどのようなものを意味するのかが不明確である。
容器は、コンジット(例えば、チューブ、パイプ、チャネル、ベッセルなど)、コンタクトレンズ、デバイス、器具以外に、相当程度、種々のものが想定されている。
そうすると、本件発明1で特定される「容器」が、どのような構成のものを想定しているのが不明確である。
b 「固体フィーチャ」がどのような構成のものを特定しようとしているのかが不明確である。
c 「複数のマイクロスケールおよび/またはナノスケールの固体フィーチャ」がどのような構成のものを特定しようとしているのかが不明確である。
当該スケールは、固体フィーチャのどの部分(厚み、幅、突起の高さ等)の大きさなのかが不明確であり、そもそもマイクロスケール、ナノスケールとは、どの程度の大きさであるのかも不明確である。
d 「固体フィーチャであってそれらの間に該含浸液体を安定して含有するように十分に近接して間隔を空けられた固体フィーチャ」と記載されているが、固体フィーチャについて具体的な特定がなく、材質も特定されておらず、容器の内側表面での存在形態も明確でないため、上記記載事項が何を特定しようとしているのか、理解できない。
固体フィーチャが不明確なため、本件発明1の「該含浸液体は、該内側表面の配向とは無関係に、かつ該容器内を通り、入り、または出て行く流体および/または固形物の流動、通過または除去とは無関係に、該複数の固体フィーチャの間の所定位置に実質的に保持され」との記載も、どのようなことを特定しようとしているのかが不明確である。
e 「0<φ≦0.25であり、式中、φは、平衡時の非浸漬固体および浸漬固体に対応する液体含浸表面のトータルの投影表面積に対する、平衡時の非浸漬固体に対応する該内側表面の投影表面積の代表的分率である、」において、「平衡時」とは、どのような状態を言うのか、理解できない。
f さらに、平衡時の非浸漬固体とは、容器の内側表面全体を意味しているのか、固体フィーチャのみを意味してるのか、その対象とする部分が理解できない。
g 本件発明1では、搬送される流体や固形物が特定されていないことに加え、固体フィーチャや含浸液体の材質なども特定されておらず、搬送される流体や固形物が含浸液体と接触したとき、両者が混ざり合って一体となる態様も包含している。
(イ) 本件発明2について、及び本件発明2を引用する他の発明についてa 「固体フィーチャが、1ミクロンから50ミクロンの範囲の平均寸法を有する粒子を含み」と記載されているが、この粒子の平均寸法は、厚み(高さ)なのか、幅、長径或いは短径なのかが不明確である。
b 「粒子」は、固体フィーチャとは別物なのか或いは固体フィーチャが粒子形状を有しているのかが不明確である。
(ウ) 本件発明3について、及び本件発明3を引用する他の発明について
本件発明3は、含浸液体の種類を列記しているが、脂肪酸誘導体はその特定する範囲が不明であり、また、「例えば」などの例示を示す用語が存在し、不明確なものとなっている。さらに、「脂肪酸」のように、常温で液体ではない物質も含まれており、不明確なものとなっている。
(エ) 本件発明4について、及び本件発明4を引用する他の発明について
本件発明4は、固体フィーチャの種類を具体的に列挙しているものであるが、これらを、どのようにして含浸液体を安定に保持し得るような間隔で、容器の内側表面に設けられるのかが不明確ある。また、ここでいう固体フィーチャは、容器の内側表面を形成する固体物質とは別物であるのか明確でない。
(オ) 本件発明5について、及び本件発明5を引用する他の発明について
本件発明5は、本件発明4で列挙された固体フィーチャの内、パルプについて特定するものであるが、この植物の茎のスポンジ状部分が個体フィーチャであるとは、どのような状態のものを特定しようとしているのかが明確でなく、また、どのような流体および/または固形物の搬送のために使用されるのかも明確でない。
(カ) 本件発明6について、及び本件発明6を引用する他の発明について
「前記含浸液体が、該含浸液体の蒸発を防止しまたは低減させる添加剤」とは具体的にどのようなものであるのかが不明確である。
(キ) 本件発明7について、及び本件発明7を引用する他の発明について
本件発明7では、容器として、「血液ポンプまたはその部分」が特定されているが、容器が「血液ポンプまたはその部分」であるとは、どういうことを特定しようとしているのかが不明確である。
(ク) 本件発明8~11について、及び本件発明8~11のいずれかを引用する他の発明について
本件発明8~11では、それぞれ容器を特定しているが、その具体的に特定するものが、容器であるとは、技術的に理解できず、不明確なものとなっている。
(ケ) 本件発明12について、及び本件発明12を引用する他の発明について
本件発明12は、含浸液体について、「硬化によって固体に変換することができる」とあるが、本件発明12が引用する本件発明1は、「該含浸液体は、該固体フィーチャの間の空間を満たし、該内側表面は、該固体フィーチャの間に該含浸液体を安定して含有しており、」と特定されて、含浸液体が液体であることと矛盾し、その点で不明確なものとなっている。
(コ) 本件発明13について、及び本件発明13を引用する他の発明について
本件発明13は、「生物活性成分」とあるが、どのような物質を意味するのか、不明確である。
(サ) 本件発明14について、及び本件発明14を引用する他の発明について
本件発明12を引用する本件発明14も、本件発明12と同様に、不明確である。
(シ) 本件発明15について、及び本件発明15を引用する他の発明について
本件発明15は、拡張係数(Sow(a))が0より小さいことを特定したものであるが、2相間の界面張力は、温度に依存するが、温度が特定されておらず、不明確である。
また、拡張係数の算出に使用される水は、含浸液体が接する流体が水(或いは水性物質)であることを前提としているのか、或いは計測用に水を用いた含浸液体の特性を示すものであるのか、その点で不明確である。
(ス) 本件発明16について、及び本件発明16を引用する他の発明について
本件発明1を引用する本件発明16は、本件発明1と同様に不明確である。
(セ) 本件発明17について、及び本件発明17を引用する他の発明について
本件発明15を引用する本件発明17は、本件発明15と同様に不明確である。
(ソ) 本件発明18について、及び本件発明18を引用する他の発明について
本件発明18は、後退接触角を特定したものであるが、この後退接触角について、明細書中に、その測定方法や技術的意義について記載されておらず、後退接触角がどのようなものであるのか不明確である。
(タ) 本件発明19について、及び本件発明19を引用する他の発明について
本件発明18を引用する本件発明19は、本件発明18と同様に不明確である。
(チ) 本件発明20、21について、及び本件発明20、21を引用する他の発明について
本件発明1を引用する本件発明20、21は、本件発明1と同様に不明確である。
また、本件発明21で特定する「自己清浄性の表面」がどのようなものを特定しているのか不明確である。
(ツ) 本件発明22について、及び本件発明22を引用する他の発明について
本件発明10を引用する本件発明22は、本件発明10と同様に不明確である。
(テ) 本件発明23、24について、及び本件発明23を引用する他の発明について
本件発明23、24で特定される物質は、搬送すべき流体を特定しているのか、含浸液体を特定しているのか、或いは固体フィーチャを特定しているのか、不明確である。
(2)甲号証の記載
甲2には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で参考のため、付与したものである。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
主流液体の流れ場が接するように設けられた壁体と、
前記壁体における前記流れ場側の表面に、前記主流液体とは異なる種類の被保持液体を保持させる液保持構造と、
を備えた流動抵抗低減構造。
【請求項2】
前記被保持液体として、前記主流液体よりも低粘度の液体が用いられている請求項1記載の流動抵抗低減構造。
【請求項3】
前記被保持液体として、前記主流液体と非相溶性の液体が用いられている請求項1又は請求項2記載の流動抵抗低減構造。
【請求項4】
前記液保持構造は、前記壁体の表面に設けられ、前記被保持液体を凹部に入り込ませて保持する凸凹構造を含む請求項1~請求項3の何れか1項記載の流動抵抗低減構造。
【請求項5】
前記凸凹構造は、凸凹のピッチよりも凸凹の深さが大である請求項4記載の流動抵抗低減構造。
【請求項6】
前記壁体は、前記凸凹構造の凹部に連通する空胴を有する請求項4又は請求項5記載の流動抵抗低減構造。
【請求項7】
前記壁体は、多孔質体にて構成されている請求項6記載の流動抵抗低減構造。
【請求項8】
前記液保持構造は、前記被保持液体との接触面に施され該被保持液体との親和性を持たせるための表面処理を含む請求項1~請求項7の何れか1項記載の流動抵抗低減構造。
【請求項9】
主流液体とは異なる被保持液体を壁体に保持させながら、該壁体に接する前記主流液体の流れ場を生成する流動抵抗低減方法。
【請求項10】
前記主流液体よりも低粘度でかつ該主流液体と非相溶性の前記被保持液体を、前記壁体の表面に形成されると共に前記被保持液体との親和性を持つ表面処理が施された凸凹構造によって該壁体の表面に保持しながら、該壁体に接する前記主流液体の流れ場を生成する請求項9記載の流動抵抗低減方法。
【請求項11】
前記凸凹構造の凹部に連通する空胴を有する多孔質体の前記壁体を用い、
前記壁体の空胴に前記被保持液体を充填した状態で、該被保持液体を前記凸凹構造によって前記壁体の表面に保持しながら、該壁体に接する前記主流液体の流れ場を生成する請求項10記載の流動抵抗低減方法。」
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動抵抗を低減するための流動抵抗低減構造及び流動抵抗低減方法に関する。」
「【0006】
しかしながら、上記した非特許文献1、2に記載の如き従来の技術では、空気層が主流液体によって吸収されたり引き剥がされたりすることで、経時的に流動抵抗低減効果が失われる問題があった。また、圧力環境下では、空気層が圧縮されることよって流動抵抗低減効果が失われる問題があった。
【0007】
一方、上記した特許文献1記載の技術では、時間や圧力に依らず壁面に空気層を維持することが可能であるが、圧力計、コンプレッサ、圧力調整弁などが必要であり、装置が大型化、複雑化してしまう問題があった。
【0008】
本発明は上記事実を考慮して、簡単な構造で、主流液体の流動抵抗を低減することができる流動抵抗低減構造及び流動抵抗低減方法を得ることが目的である。」
「【0036】
図1の例では、壁体14と、該壁体14との間に主流液体12を挟む可動壁16との相対速度Uの相対変位に伴って流れ場FFが形成される構成とされている。したがって、流れ場FFは、主流液体12のせん断が主となるせん断流れ場とされている。なお、壁体14と可動壁16との相対変位は、直線的な変位であっても良く、回転変位であっても良い(何れの場合も振動変位を含む)。また、このようなせん断流れ場FFに代えて、平行平板間や配管(断面形状は問わない)等の圧力流れ(ポアズイユ流れ)に本実施形態を適用することも可能である。前者の場合、対向する一対の平板が共に壁体14とされ、後者の場合、周方向に連続する管壁が壁体14とされることとなる。
【0037】
主流液体12について補足すると、主流液体12は、例えば、水やオイル(潤滑油や作動油)とすることができる。この実施形態では、主流液体12は、水と比較して粘度の高い自動車用のトランスミッションオイル(ATF)やエンジンオイルとされている。
【0038】
そして、流動抵抗低減構造10では、壁体14における主流液体12との接触側の表面14Aに液保持構造としての微細凸凹構造18が形成されている。微細凸凹構造18における主流液体12側に開口する凹部18A内には、被保持液体として含浸液体20が含浸して保持されている。したがって、流動抵抗低減構造10では、主流液体12(流れ場FF)は、一部が壁体14の表面14A(凸部18B)に接触されると共に、他の一部が含浸液体20に接触される構成とされている。換言すれば、含浸液体20は、壁体14の表面14A(の一部)と主流液体12との間に介在されている。なお、この実施形態における凹部18Aは、図2に示す壁体14の表面14Aに対し凹んだ空間(凸部18Bの間の空間)を示すものとする。
【0039】
微細凸凹構造18は、図2に示される如く、そのピッチをP(図2では、隣り合う凸部18Bのピーク間距離であるが、隣り合う凹部18Aの最低部間の距離として捉えても良い)、その深さ(凸部18Bのピークから凹部18Aの最低部までの深さ)をDとすると、D>Pとなるように構成されている。この実施形態では、P≒1.5μm、D≒40μm(D≫P)とされている。この微細凸凹構造18は、例えば、エッチング、メッキ、酸化被膜、ピーニング等の方法で形成することができる。また、微細凸凹構造18として、微細な凸凹(凹部18A、凸部18Bの表面)にさらに小さな微細凸凹を形成した構造(フラクタル構造)を採用しても良い。このフラクタル構造を採用することで、微細凸凹構造18への含浸液体20の保持性を強化することができる。例えば、エッチング等にて数μmの凸凹を形成した後、それぞれ(凹部18A、凸部18Bの表面に数~数10nmオーダーの被膜をつけることで、フラクタル構造の微細凸凹構造18を得ることができる。
【0040】
また、このような微細凸凹構造18が表面14Aに形成された壁体14は、内部に空胴を有する多孔質体にて構成されている。この壁体14の空胴は、微細凸凹構造18の凹部18Aに各方向から連通されている。そして、この実施形態では、壁体14の空胴内に含浸液体20が含浸されている。これにより、流動抵抗低減構造10では、凹部18Aから含浸液体20が運び去られるに伴って、流れ場FFにより生成される負圧や多孔質体の毛管力によって、壁体14内の空胴から凹部18Aに含浸液体20が補充される構成とされている。このような多孔質体の壁体14は、例えば、金属、有機材料(樹脂等)、無機材料(ガラスやセラミック等)の発泡や焼結等によって製造することができる。
【0041】
一方、含浸液体20としては、主流液体12に対し粘度が低く、かつ主流液体12と非相溶性の(殆ど溶け合うことがなく、分離しやすい)液体が採用される。主流液体12として上記の通りオイルが採用されているこの実施形態では、含浸液体20として、フッ素系不活性液体(例えばフッ素系冷媒等として用いられるもの)を採用することができる。この実施形態(後述する実験例)では、主流液体12としてのトランスミッションオイル(25℃での粘度が略0.054Pa・s)に対し、含浸液体20としてフッ素系不活性液体である住友3M(株)製のフロリナートFC-43(25℃での粘度が略0.00526Pa・s)が採用されている。
【0042】
さらに、流動抵抗低減構造10では、微細凸凹構造18(壁体14の表面14A)に含浸液体20との親和性を向上するための表面処理が施されている。上記の通り含浸液体20としてフッ素系不活性液体が作用された本実施形態では、例えばフッ素被膜を形成するフッ素処理(多分子の薄膜を形成するはっ水処理として捉えても良い)を採用することができる。より具体的には、この実施形態(後述の実験例)では、住友3M(株)製のフッ素系表面処理剤EGC-1720)が採用されている。微細凸凹構造18(における含浸液体20との接触面)に施されている。」
「【0067】
したがって、本発明における含浸液体20は、オイルに対し低粘度でかつ分散するフッ素系不活性液体に限定されることはなく、主流液体12の種類に応じた適切な液体を選択(例えば、水に対してはフッ素系不活性液体やシリコンオイル(シリコン系液体)等)することができる。同様に、微細凸凹構造18に施す表面処理も、採用する含浸液体20に対する親和性を持たせるように適切に選択(例えば、含浸液体20としてのシリコン系液体に対してはシリカ処理等)することができる。」
「【符号の説明】
【0068】
10 流動抵抗低減構造
12 主流液体
14 壁体
14A 表面
18 微細凸凹構造(液保持構造)
18A 凹部
20 含浸液体(被保持液体)
FF 流れ場」
「
[図:0001405804000001.jpg]
」
「
[図:0001405804000002.jpg]
」
そして、甲2の請求項4に着目すると、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「主流液体の流れ場が接するように設けられた壁体と、
前記壁体における前記流れ場側の表面に、前記主流液体とは異なる種類の被保持液体を保持させる液保持構造と、
前記液保持構造は、前記壁体の表面に設けられ、前記被保持液体を凹部に入り込ませて保持する凸凹構造を含む流動抵抗低減構造。」
(3)当審の判断
ア 特許法第29条第2項について
(ア) 本件発明1
本件発明1と甲2発明とを対比するに、甲2発明の「主流液体」、「被保持液体」及び「表面」は、その構成や技術的意義を考慮すると、それぞれ、本件発明1の「流体」、「含浸液体」及び「内側表面」に相当する。
甲2発明の「壁体」、「凸凹構造」及び「液保持構造」は、それぞれ、固体であることは明らかであり、「前記被保持液体を凹部に入り込ませて保持する凸凹構造を含む」ものであるから、甲2発明の「壁体」に設けられている、「凸凹構造」及び「液保持構造」は、それぞれ、本件発明1の「固体突起」に相当する。
また、甲2発明の「凸凹構造」が「前記被保持液体を凹部に入り込ませて保持する」態様は、本件発明1の「固体突起」が「それらの間に該含浸液体を安定して含有するように十分に近接して間隔を空けられた」態様と、「「固体突起」が「それらの間に該含浸液体を含有するように十分に近接して間隔を空けられた」」態様の限りで一致する。
そして、甲2発明の「前記壁体における前記流れ場側の表面に、前記主流液体とは異なる種類の被保持液体を保持させる液保持構造」は、「前記壁体の表面に設けられ、前記被保持液体を凹部に入り込ませて保持する凸凹構造を含む」ものであるから、本件発明1の「該含浸液体は、該固体突起の間の空間を満たし、該内側表面は、該固体突起の間に該含浸液体を安定して含有して」いることと、「該含浸液体は、該固体突起の間の空間を満たし、該内側表面は、該固体突起の間に該含浸液体を含有して」いることの限りで一致する。
さらに、甲2発明の「流動抵抗低減構造」は、「主流液体の流れ場が接するように設けられた壁体」を備えるものである。
そして、本願特許明細書に、液体含浸表面が適用されるものについて、以下の記載がある。
「前記容器が、カプセル剤、ゲルキャップ、および坐剤からなる群から選択される要素である」(【請求項8】)、「前記カプセル剤が、シングルピースまたはツーピースである」(【請求項9】)、「前記容器が、生体材料の小体積容器、およびヒト血清容器からなる群から選択される要素である」(【請求項10】)、「液体含浸表面の適用は、例えば、抗力を低減させるように構成された面を有する装置(例えば、車両、自動車、航空機、ボート、魚雷、ミサイルなど)にまで拡張することができる。」(【0097】)、「液体含浸表面の適用は、例えば、流体搬送と、製造設備、システム、およびプロセスであって、以下に記述されるようなものにまで拡張することができる。いくつかの実現例では、液体含浸表面は、流体/材料の送液、包装、移動、および/または移送に使用される。
いくつかの実現例では、液体含浸表面は、容器の間で流体を移送するのに使用されてもよい。液体含浸表面は、セメント、油、ポリマー、チョコレート、キャットフード、ドッグフード、蝋、および/または、石油ガス産業における重油など、粘性材料を搬送するのに使用されてもよい。」(【0098】)、「いくつかの実現例では、コンジットと搬送されている材料との間の滑りなし条件が、コンジットの縁部で非常に急峻な速度プロファイルをもたらす。」(【0099】)、「いくつかの実施形態では、液体含浸表面コーティングを、IVドリップ、IVチューブの内層、およびIVバッグの内面に付着させてもよい。」(【0100】)、「液体含浸表面の適用は、例えば成型で使用されてもよい。例えば液体含浸表面は、トランスファ成型で使用されてもよい。」(【0101】)、「液体含浸表面の適用は、例えば軸受で使用されてもよい。」(【0102】)、「液体含浸表面の適用は、例えば、高摩擦製造プロセス、容器、および関連ある設備と共に使用されてもよい。例えば液体含浸表面は、射出成型に使用されてもよい。」(【0103】)、「液体含浸表面は、押出しおよび/または鍛造に使用されてもよい。」(【0104】)、「液体含浸表面は、液体金属、潤滑剤、コーキング材、セメント、タイルグリット、石膏、タール、アスファルト、石炭スラリー、蝋、洗濯洗剤、皿洗い用洗剤、グリース容器、冷蔵容器、ブタン容器、液体窒素容器、液体ヘリウム容器、ガス容器、液化ガス容器、モーター油容器、石油製品、ブレーキ液容器、油容器、塗料、インク、建設材料(例えば、膨張性)、またはその他の材料および/または容器を含有する容器で使用されてもよい。液体含浸表面は、自己清浄ガラス、光起電力セル、および/または太陽熱を生成するのに使用されてもよい。液体含浸表面は、淡水化(例えば、淡水化に使用される凝縮器)、液体天然ガス凝縮器、エネルギー保存(例えば、発電所、油パイプライン、燃料ラインにおける凝縮器)に関連付けて使用されてもよい。液体含浸表面は、車、航空機、バス、およびその他の車両、および/または設備に除氷面を生成するのに使用されてもよい。」(【0105】)、「液体含浸表面は、実験室材料に使用されてもよい。例えば、液体含浸表面は、ピペット、ビーカー、およびその他の材料に使用されてもよい。液体含浸表面は、空気濾過に使用されてもよい。例えば空気フィルターは、液体含浸表面(例えば、液体含浸表面の織込み経路)を含む交換カートリッジを使用してもよい。」(【0106】)、「スラッグの捕捉、昆虫の捕捉、および/または害虫の捕捉用の液体含浸表面。」(【0107】)、「液体含浸表面は、接着ストリップに使用してもよい。」(【0108】)「液体含浸表面は、飛行機、列車、もしくは自動車のフロントガラスに、または同様にヘルメットの日除けおよび/または眼鏡(例えば、サングラス)に使用されてもよい。」(【0110】)、「液体含浸表面は、スキー、アイススケート、そり、水着、ボート、またはその他の水および/またはスポーツ設備で使用されてもよい。液体含浸表面は、魚雷の面上で使用されてもよい。」(【0111】)、「液体含浸表面は、農業用のトラクター、CO2凝縮器、LP凝縮器、N2凝縮器、気体凝縮用の面、および/または油圧ラインおよびガスラインの内側に使用されてもよい。」(【0112】)、「液体含浸表面は、家庭用機器、付属品、および鍋、調理器具、食器類、ヘラ、ポット、プレート、ドレイン、および/または便器などの品目に使用されてもよい。液体含浸表面は、液体を捕えるために、面の一部に付着されてもよい。液体含浸表面は、玩具およびゲームに使用されてもよい。例えば液体含浸表面は、スリッピンスライド(aslipnslide)で使用されてもよい。」(【0113】)、「いくつかの実施形態では、液体含浸表面は、含浸液体の均一な層を任意の面に付着することによって生成される。この面は、コンタクトレンズの面であってもよい。」(【0114】)、「ある実施形態では、医療用デバイスまたは医療用器具の面を含浸液体溶液で噴霧コーティングすることにより、その面上に粒子がコーティングされる。」(【0125】)、「核生成を阻止するための液体含浸表面の適用例には、例えば、歯、義歯、固定具、または保定器上でのプラークの核生成の予防を含めてもよい。」(【0126】)、「いくつかの実施形態では、液体含浸表面コーティングは、注射器の内容物を全て空にするために、注射器の内面に付着されてもよい。」(【0128】)、「いくつかの実施形態では、液体含浸表面コーティングを結腸ろうバッグに付着させてもよい。」(【0131】)。
このように、本件発明1の「容器」は、流体が容器内に入り、出ていく、あるいは通過し、流体と接触し含有うるものであればよく、相当程度種々のものが含み得え、上記例示したものを含む広い概念のものである。
そうすると、甲2発明の「主流液体の流れ場が接するように設けられた壁体」を備える「流動抵抗低減構造」は、本件発明1の「流体を含有するための容器」に相当する。
以上を踏まえると、本件発明1と甲2発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点1]
「流体を含有するための容器であって、
含浸液体と、固体突起であってそれらの間に該含浸液体を安定して含有するように十分に近接して間隔を空けられた固体突起と、を含む内側表面
を備え、
該含浸液体は、該固体突起の間の空間を満たし、
該内側表面は、該固体突起の間に該含浸液体を含有している、
容器。」
[相違点1]
固体突起について、本件発明1は、「複数の固体突起であって」、「マイクロスケールおよび/またはナノスケールの高さ」であるのに対して、甲2発明は、「凹凸構造」の数や高さについて特定していない点。
[相違点2]
含浸液体について、本件発明1は、「該含侵液体は、剪断増粘状態であ」り、「固体突起の間に」「安定して含有」され、「該含浸液体は、該内側表面の配向とは無関係に、かつ該容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去とは無関係に、該複数の固体突起の間の所定位置に実質的に保持され、該内側表面は、該容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去を容易にするように構成され」ているのに対して、甲2発明は、その点について特定していない点。
[相違点3]
本件発明1は、「該内側表面は、該含浸液体によって部分的に浸漬され、ここで、0.01<φ≦0.25であり、式中、φは、平衡時の非浸漬固体および浸漬固体に対応する液体含浸表面のトータルの投影表面積に対する、平衡時の非浸漬固体に対応する該内側表面の投影表面積の代表的分率であ」るとされているのに対して、甲2発明は、そのような特定をしてない点。
事案に鑑み、まず相違点2について、検討する。
[相違点2について]
本件特許明細書には、「剪断増粘状態」について、「一実施形態では、含浸液体は、ナノ粒子を導入することによって剪断増粘状態にされる。剪断増粘含浸液体は、例えば、欠陥(impalement)を防止しかつ衝突する液体からの影響に抵抗するのに望ましいと考えられる。含浸液体が面から蒸発するのを最小限に抑えるには、低蒸気圧(例えば、0.1mmHg未満、0.001mmHg未満、0.00001mmHg未満、または0.000001mmHg未満)を有する含浸液体を使用することが望ましいと考えられる。ある実施形態では、含浸液体は、-20℃未満、-40℃未満、または約-60℃の凍結点を有する。ある実施形態では、含浸液体の表面張力が約15mN/m、約20mN/m、または約40mN/mである。ある実施形態では、含浸液体の粘度が約10cStから約1000cStである。」と記載されている。
そして、本件発明1は、そのような「剪断増粘状態」の「含浸液体」が「該内側表面の配向とは無関係に、かつ該容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去とは無関係に、該複数の固体突起の間の所定位置に実質的に保持され」るというものである。
一方、甲2発明は、「被保持液体」について、甲2の「また、このような微細凸凹構造18が表面14Aに形成された壁体14は、内部に空胴を有する多孔質体にて構成されている。この壁体14の空胴は、微細凸凹構造18の凹部18Aに各方向から連通されている。そして、この実施形態では、壁体14の空胴内に含浸液体20が含浸されている。これにより、流動抵抗低減構造10では、凹部18Aから含浸液体20が運び去られるに伴って、流れ場FFにより生成される負圧や多孔質体の毛管力によって、壁体14内の空胴から凹部18Aに含浸液体20が補充される構成とされている。このような多孔質体の壁体14は、例えば、金属、有機材料(樹脂等)、無機材料(ガラスやセラミック等)の発泡や焼結等によって製造することができる。」(【0040】)と記載され、「凹部18Aから含浸液体20が運び去られる」ことが記載されている。これは、本件発明1の「該含浸液体は、該内側表面の配向とは無関係に、かつ該容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去とは無関係に、該複数の固体突起の間の所定位置に実質的に保持され」ること、すなわち、含浸液体が運び去られないことと、全く逆のことである。
そうすると、甲2発明は、「該含浸液体は、該内側表面の配向とは無関係に、かつ該容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去とは無関係に、該複数の固体突起の間の所定位置に実質的に保持され」というものではなく、甲2には、上記相違点2に係る本件発明1の構成を示唆する記載もない。また、他の証拠にもこの点について記載するところはない。
したがって、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件発明2~5、8~10、12、13、15~24について
本件発明2~5、8~10、12、13、15~24は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(ア)と同じ理由で、本件発明2~5、8~10、12、13、15~24は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ) 以上のとおりであるから、本件発明1~5、8~10、12、13、15~24に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
イ 特許法第36条第6項第2号について
(ア) 上記(1)イ(ア)のa~dについて
上記ア(ア)で述べたように、本件発明の「容器」は、流体が容器内に入り、出ていく、あるいは通り、流体と接触し含有うるものであればよく、相当程度種々のものが含み得え、上記ア(ア)で例示したものを含む広い概念のものであって、そのことが本件発明の「容器」を不明確とするものでもない。
また、「固体フィーチャ」については、本件訂正により「固体突起」と訂正されて、「マイクロスケールおよび/またはナノスケール」は、「複数の固体突起」の「高さ」に関することが訂正され、これらの点で不明確とするところはない。
(イ) 上記(1)イ(ア)のe~gについて
「平衡時」について、本件特許明細書には、「本明細書で使用される「平衡」という用語は、基材が水平方向から外れて保持されるときの重力による排出に起因して含浸被膜の平均厚さが経時的に実質的に変化せず、かつ蒸発が無視できる場合(例えば、液体含浸液体が、その含浸液体の蒸気で飽和した環境内に配置されることになる場合)の状態を指す。」(【0076】)と定義され、その意味するところ明確である。
また、本件発明1の「該含浸液体は、該内側表面の配向とは無関係に、かつ該容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去とは無関係に、該複数の固体突起の間の所定位置に実質的に保持され」ること、すなわち、含浸液体が運び去られないものであることから、本件発明1の特定が不明確とするところはない。
よって、本取消理由は解消した。
(ウ) 上記(1)イ(イ)のa、bについて
上記「固体フィーチャ」については、上記(ア)で述べたとおりであり、不明確とするところはない。
また、「粒子」について、本件特許明細書の【0065】、【0066】によると、「固体突起」は、粒子の噴霧配置によりなされるものであることから、固体突起が粒子を含むことが不明確なものではない。
よって、本取消理由は解消した。
(エ) 上記(1)イ(ウ)について
本件訂正により、「例えば」及び「脂肪酸」は削除され、また、脂肪酸も、「剪断増粘状態にされ」たものであることが特定され、特許請求の範囲の記載が不明確とするところはない。
よって、本取消理由は解消した。
(オ) 上記(1)イ(エ)について
本件訂正により、「固体フィーチャ」は、「固体突起」と訂正され、特許請求の範囲の記載が不明確とするところはない。
よって、本取消理由は解消した。
(カ) 上記(1)イ(オ)について
本件訂正により、「固体フィーチャ」は、「固体突起」と訂正され、「固体突起」をなすものが植物の茎のスポンジ状部分のパルプであることが特定され、特許請求の範囲の記載が不明確とするところはない。
よって、本取消理由は解消した。
(キ) 上記(1)イ(カ)、(キ)について
本件訂正により、本件発明6、7は削除された。
よって、本件取消理由は、その対象となる請求項が削除された。
(ク) 上記(1)イ(ク)について
上記(ア)で述べたとことと同様であり、また、本件訂正により、本件発明11は削除された。
よって、本件発明8~10について、特許請求の範囲の記載が不明確とするところはない。
よって、本取消理由は解消した。
(ケ) 上記(1)イ(ケ)について
本件訂正により、当該選択肢は、削除されたため、本取消理由は解消した。
(コ) 上記(1)イ(コ)について
本件訂正により、生物活性成分が、「薬物、ミネラルまたはタンパク質である」ことが特定された。
よって、本取消理由は解消した。
(サ) 上記(1)イ(サ)について
本件訂正により、本件発明14は削除された。
よって、本件取消理由は、その対象となる請求項が削除された。
(シ) 上記(1)イ(シ)について
本件特許明細書の【0080】の記載によると、拡張係数の測定は、約25℃で行われていることが記載されている。
よって、本取消理由は解消した。
(ス) 上記(1)イ(ス)について
上記(ア)で述べたと同様であり、本取消理由は解消した。
(セ) 上記(1)イ(セ)について
上記(シ)で述べたと同様であり、本取消理由は解消した。
(ソ) 上記(1)イ(ソ)について
本件特許明細書の【0217】に記載のRame-hartゴニオメーターを使用して測定できるので、特許請求の範囲の記載が不明確とするところはない。
よって、本取消理由は解消した。
(タ) 上記(1)イ(タ)について
上記(ソ)で述べたと同様であり、本取消理由は解消した。
(チ) 上記(1)イ(チ)について
上記(ア)で述べたと同様であり、本件発明21で特定する「自己清浄性の表面」については、本件特許明細書の【0003】に「一般に、固体面と隣接する液体との間の接触が低減した(即ち、浸潤性が低い)ことから生じる」ものであると理解でき、特許請求の範囲の記載が不明確とするところはない。
よって、本取消理由は解消した。
(ツ) 上記(1)イ(ツ)について
上記(ク)で述べたと同様であり、本取消理由は解消した。
(テ) 上記(1)イ(テ)について
本件訂正により、搬送すべき流体を特定していることが明確となった。
よって、本取消理由は解消した。
(ト) 以上のとおりであるから、本件発明1~5、8~10、12、13、15~24に係る特許が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、本件特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、以下の取消理由を主張している。
(1) 流体および/または固形物を搬送するための容器という概念は、本件特許の親出願である特願2018-87203号に記載されていないため、本件特許点に関して分割による出願日の遡及効果は認められず、本件特許に係る発明は、当該親出願の公開公報である甲第1号証(特開2018-171927号公報、以下「甲1」という。)に開示されている発明と区別することができず、特許法第29条第1項第3号または同条第2項により特許を受けることができない発明である(特許異議申立書14ページ~15ページ)。
(2) 「容器」、「固体フィーチャ」が不明確であり、搬送される流体や固形物が特定されていないことに加え、固体フィーチャや含浸液体の材質なども特定されておらず、必須の構成要件が明確にされていないため、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(特許明細書15ページ~16ページ)。
そこで、以下に検討する。
(3) 上記(1)について
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【0007】
一態様では、本発明は、流体および/または固形物を搬送するためのコンジットであって、含浸液体と、複数のマイクロスケールおよび/またはナノスケールの固体フィーチャ(solid feature)であってそれらの間に含浸液体を安定して含有するように十分に近接して間隔を空けられた固体フィーチャとを含む内面を有する、コンジットを提供する。いくつかの実現例では、含浸液体は、固体フィーチャの間の空間を満たす。内面は、固体フィーチャの間に含浸液体を安定して含有していてもよい。含浸液体は、内面の配向とは無関係に、かつコンジット内を通り、入り、または出て行く流体および/または固形物の流動、通過、または除去とは無関係に、複数の固体フィーチャの間の所定位置に実質的に保持されていてもよい。内面は、内面に高滑り境界条件をもたらすように構成されていてもよく、それによって、コンジット内を通り、入り、または出て行く流体および/または固形物の流動、通過、または除去が容易になる。
【0008】
いくつかの実現例では、コンジットは、チューブ、パイプ、またはチャネルである。いくつかの実現例では、コンジットはノズルである。いくつかの実現例では、コンジットは金型(例えば、射出成型装置の部分)であり、または押出し機の部分である。いくつかの実現例では、コンジットはキャニスターまたはベッセルである。」
これらの記載を踏まえると、流体および/または固形物を搬送するためのコンジットは、いくつかの実現例では、コンジットは、チューブ、パイプ、またはチャネルであり、いくつかの実現例では、コンジットはキャニスターまたはベッセルであるとされている。
そして、少なくともキャニスターやベッセルは、容器と言い得るもので、そうすると、流体および/または固形物を搬送するための容器は、本件特許の親出願である特願2018-87203号に記載されているから、申立人の上記(1)の主張は採用できない。
(4) 上記(2)について
上記4(3)イ(ア)で述べたこと同様であり、本件発明1に係る特許は、不明確とするところはなく、この点で、サポート要件を満たしていないとはいえない。また、搬送される流体や固形物、固体フィーチャや含侵液体の材質などについて、本件特許明細書には、【0069】、【0070】、【0084】、【0090】に含浸液体について記載があり、【0062】~【0068】、【0086】、【0087】、【0091】~【0093】に固体フィーチャについて記載があり、これらをすべて特定しなくても、適宜選択したもので、「それらの間に該含浸液体を安定して含有するように十分に近接して間隔を空けられた固体突起」とし、「該内側表面は、該含浸液体によって部分的に浸漬され、ここで、0.01<φ≦0.25であり、式中、φは、平衡時の非浸漬固体および浸漬固体に対応する液体含浸表面のトータルの投影表面積に対する、平衡時の非浸漬固体に対応する該内側表面の投影表面積の代表的分率であり、該含侵液体は、剪断増粘状態」としたもので、「該含浸液体は、該内側表面の配向とは無関係に、かつ該容器内を通り、入り、または出て行く流体の流動、通過、または除去とは無関係に、該複数の固体突起の間の所定位置に保持され」るものは、「コンジット内を通り、入り、または出て行く材料の、流動、通過、または除去に対する抵抗が低いコンジット(例えば、チューブ、パイプ、チャネル、ベッセルなど)」(【0005】)との本件発明の課題を解決し得るものと理解できるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、申立人の上記(2)の主張は採用できない。
6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~5、8~10、12、13、15~24に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~5、8~10、12、13、15~24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項6、7、11、14に係る特許は、上記のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項6、7、11、14に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701243