特許異議申立
2022-701244
抗ウイルス剤
- 審判番号
- 2022-701244
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-038346
- 登録番号
- 7085860
- 請求日
- 2022年12月15日
- 審決日
- 2023年11月08日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ファンケル
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】中村 理弘
- 【権利者代理人】太田 千香子
- 【権利者代理人】長谷部 善太郎
- 【権利者】太陽化学株式会社
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】中村 理弘
- 【権利者代理人】太田 千香子
- 【異議申立人】千野 肇
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 渕野 留香
- 審判官 前田 佳与子
- 分類
- P1651.121-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7085860号発明「抗ウイルス剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7085860号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7085860号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。
特許第7085860号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7085860号(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2018-38346号)は、平成30年3月5日を出願日とし、令和4年6月9日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、令和4年6月17日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和4年12月15日に、請求項1~4に係る本件特許に対して、特許異議申立人である千野肇(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
以降の手続の経緯の概要は次のとおりである。
令和5年 3月15日付け 取消理由通知
同年 5月18日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 7月13日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨及び訂正の内容
(1)請求の趣旨
令和5年5月18日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求は、「特許第7085860号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。
そして、上記訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「メソポーラス構造を有することを特徴とするシリカを有効成分として含有する抗ウイルス剤であって、
メソポーラス構造は、シリカが窒素吸着測定においてBJH法による細孔分布で0.5~15nmの範囲にピークトップを有し、比表面積が300~2000m2/g、X線回折の回折強度において、d値が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する、ヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を有することを特徴とする抗ウイルス剤。」と記載されているのを、
「メソポーラス構造を有することを特徴とするシリカを有効成分として含有する抗インフルエンザウイルス剤であって、
メソポーラス構造を有するシリカは、焼成して得られたままのものであり、
メソポーラス構造は、シリカが窒素吸着測定においてBJH法による細孔分布で0.5~15nmの範囲にピークトップを有し、比表面積が300~2000m2/g、X線回折の回折強度において、d値が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する、ヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を有することを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤。」に訂正する。
また、請求項1を引用する請求項3及び4も同様に訂正することになる。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「請求項1又は2に記載の抗ウイルス剤。」と記載されているのを、
「請求項1に記載の抗インフルエンザウイルス剤。」に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1~3のいずれかに記載の抗ウイルス剤。」と記載されているのを、
「請求項1に記載の抗インフルエンザウイルス剤。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 請求項1についての訂正事項1は、(i)訂正前の抗ウイルス剤の有効成分である「メソポーラス構造を有する」「シリカ」について、さらに、「メソポーラス構造を有するシリカは、焼成して得られたままのものであり、」との特定を加える訂正(合議体注:訂正請求書における訂正事項1-2に相当する訂正である。)、及び、(ii)訂正前の請求項1に2カ所記載されている「抗ウイルス剤」を「抗インフルエンザウイルス剤」とする訂正(合議体注:訂正請求書における訂正事項1-1及び1-3に相当する訂正である。)を含む。
イ そして、上記(i)の点の訂正は、メソポーラス構造を有するシリカを、「焼成して得られたままのもの」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、上記(i)の点の訂正に関し、本件特許の願書に添付した明細書の(【0022】には、「本発明に使用するメソポーラスシリカは、例えば、珪酸ソーダを、界面活性剤を含む水溶液中に分散させ、加熱撹拌しながら塩酸を添加して分散液のpHを調整し、得られた固形生成物を洗浄・乾燥した後、400~800℃程度で焼成することにより得られる。」と記載されているから、上記(i)の点による訂正は、新規事項の追加に該当しない。
ウ また、上記(ii)の点の訂正は、「抗ウイルス剤」の適用対象となるウイルスの種類について「インフルエンザ」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、上記(ii)の点の訂正に関し、本件特許の願書に添付した明細書の実施例(【0032】~【0045】)には、請求項1に特定される細孔分布のピークトップ、比表面積、X線回折の回折強度におけるd値のピークの条件を満足するヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を有するシリカが抗インフルエンザウイルス活性を有することを示す試験結果が記載されているから、上記(ii)の点による訂正は、新規事項の追加に該当しない。
エ 訂正前の請求項1を引用する請求項3及び4についても同様である。
(2)訂正事項2について
請求項2についての訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3による訂正は、(i)「抗ウイルス剤」を「抗インフルエンザウイルス剤」とする訂正、及び(ii)訂正前の請求項3の引用請求項について、「請求項1又は2」を「請求項1」とする訂正を含むものである。
イ そして、上記(i)の点の訂正は、上記(1)の(ii)の点の訂正と同様に、「抗ウイルス剤」を「抗インフルエンザウイルス剤」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、上記(1)ウにおいて記載したとおり、上記(i)の点の訂正は、新規事項の追加に該当しない。
ウ 上記(ii)の点の訂正は、訂正事項2で請求項2が削除されたことに伴い、引用請求項から請求項2を削除する訂正に相当するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるし、また、引用請求項を減らすものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものでもある。そして、上記(ii)の点の訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
ア 訂正事項4による訂正は、(i)「抗ウイルス剤」を「抗インフルエンザウイルス剤」とする訂正、及び(ii)訂正前の請求項4の引用請求項について、「請求項1~3のいずれか」とされていたのを「請求項1」とする訂正を含むものである。
イ そして、上記(i)の点の訂正は、上記(1)の(ii)の点の訂正と同様に、「抗ウイルス剤」を「抗インフルエンザウイルス剤」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、上記(1)ウにおいて記載したとおり、上記(i)の点の訂正は、新規事項の追加に該当しない。
ウ 上記(ii)の点の訂正は、訂正事項2で請求項2が削除されたことに伴い、引用請求項から請求項2を削除する訂正に相当するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるし、また、引用請求項の2及び3を削除して引用請求項を減らすものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものでもある。そして、上記(ii)の点の訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)独立特許要件について
特許異議申立ては、訂正前の全ての請求項1~4についてされているので、訂正事項1~4に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、一群の請求項である請求項1~4についての本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項1、3及び4に係る発明は、令和5年5月18日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3及び4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲においては、下線が引かれているが、以下においては記載を省略した。
また、請求項2は、本件訂正により削除されたので、掲載を省略する。
「【請求項1】
メソポーラス構造を有することを特徴とするシリカを有効成分として含有する抗インフルエンザウイルス剤であって、
メソポーラス構造を有するシリカは、焼成して得られたままのものであり、
メソポーラス構造は、シリカが窒素吸着測定においてBJH法による細孔分布で0.5~15nmの範囲にピークトップを有し、比表面積が300~2000m2/g、X線回折の回折強度において、d値が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する、ヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を有することを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤。」
「【請求項3】
粉末状の形態である請求項1に記載の抗インフルエンザウイルス剤。」
「【請求項4】
ペレット状の形態である請求項1に記載の抗インフルエンザウイルス剤。」
以下、請求項番号に対応して、請求項1、3及び4に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」~「本件発明4」といい、本件発明1、3及び4をまとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
また、請求項1で特定される「窒素吸着測定においてBJH法による細孔分布で0.5~15nmの範囲にピークトップを有し、比表面積が300~2000m2/g、X線回折の回折強度において、d値が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する、ヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を有する」「シリカ」を、以下「所定のメソポーラス構造を有するシリカ」ともいう。)
第4 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載された申立理由
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、特許権の設定登録時の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由として、概略以下の申立理由1~4を主張している。そして、証拠方法として、以下の甲第1号証~甲第5号証(以下、それぞれ、「甲1」等と略記する。)及び参考資料1~5を提出した。
<申立理由1:サポート要件違反>
請求項1~4に係る特許は、以下の(1)及び(2)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(申立書の4頁)
(1)本件明細書の実施例では、インフルエンザウイルスがメソポーラスシリカに吸着保持されて除去されることにより感染力価が減少していると考えられ、ウイルスが死滅したため或いはウイルスの増殖が抑制されたため感染力価が低下していることが明確にされているとは言えないから、抗ウイルス剤としての効能が示されているとはいえない。
(2)抗ウイルス剤は、ウイルスを破壊し、或いはその増殖を抑制するものであり(参考資料1)、本件明細書の【0011】にもその旨記載されているが、本件明細書の実施例では、ヒトインフルエンザについての抗ウイルス性が評価されているに過ぎないから、他のあらゆるウイルスについても抗ウイルス性が発揮されるとは考えられない。
<申立理由2:実施可能要件違反>
請求項1~4に係る特許は、上記申立理由1で記載した(1)及び(2)の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
<申立理由3:甲1を主引用例とする進歩性欠如>
請求項1~4に係る特許は、甲1に記載された発明及び本願出願前の周知技術(参考資料2~5)から、あるいは、甲1に記載された発明、及び甲3~5に示される技術事項、並びに本願出願前の周知技術(参考資料2~5)から、当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<申立理由4:甲2を主引用例とする進歩性欠如>
請求項1~4に係る特許は、甲2に記載された発明及び本願出願前の周知技術(参考資料2~5)から、あるいは、甲2に記載された発明、及び甲3~5に示される技術事項、並びに本願出願前の周知技術(参考資料2~5)から、当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<申立人による証拠方法>
・甲1 特開2004-143026号公報
・甲2 特開2003-342019号公報
・甲3 特開2017-206489号公報
・甲4 中国特許出願公開第1552205号明細書
・甲5 ACS Publications,2016年,p.16564-16572
・参考資料1:大木道則ら編集「化学大辞典」、第1版第1刷、1989年10月20日、株式会社東京化学同人、「抗ウイルス剤」の項目
・参考資料2:Microporous and Mesoporous Materials,2013年,Vol.180,p.284-292
・参考資料3:公益財団法人JFE21世紀財団「2012年度 大学研究助成 技術研究報告書」、2013年3月、p.257-266
・参考資料4:J.Jpn.Soc.Colour Mater.,2009年,Vol.82,No.10,p.454-460
・参考資料5:特開2009-155262号公報
なお、合議体からの申立人への問合せによれば、申立書15頁の「参考資料6」なる記載は、「甲第4号証」の誤記であるし、特許法第36条関係の申立理由は、特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)及び同条第4項第1号(実施可能要件違反)であって、同条第6項第2号(明確性欠如)は申立理由ではない(令和5年2月14日作成の応対記録参照。)。
2 取消理由通知の概要
特許権の設定登録時の請求項1~4に係る発明に対して、当審が令和5年3月15日付けで特許権者に通知した取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
<取消理由A:甲1を主引用例とする進歩性欠如>
請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明、及び周知技術(甲3~5、参考資料2~5、引用文献6~8)から、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、取消理由A及び後述の取消理由Bにおける引用文献である甲1~5及び参考資料2~5は、上記1に記載したとおりである。また、引用文献6~8は、合議体が職権で示した文献であり、本件特許の審査段階で周知技術を示すとして提示された引用文献6~8に相当する以下のとおりのものである。
・引用文献6:特開2017-150117号公報
・引用文献7:特開2015-195827号公報
・引用文献8:特開2014-98546号公報
<取消理由B:甲2を主引用例とする進歩性欠如>
請求項1~4に係る発明は、甲2に記載された発明、及び周知技術(甲3~5、参考資料2~5、引用文献6~8)から、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<取消理由C(明確性要件違反)>
本件特許は、特許請求の範囲(請求項4)の記載が、以下の(A)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(A)請求項4に係る発明は、請求項3を引用する「ペレット状の形態である」抗ウイルス剤を含む発明であるが、請求項3は「粉末状の形態である」抗ウイルス剤についてのものであり、請求項4の記載は請求項3の記載と技術的に整合していないから、請求項4に係る発明は明確ではない。
第5 取消理由通知についての合議体の判断(申立理由3及び4についての判断を含む)
取消理由通知における取消理由A(甲1を主引用例とする進歩性欠如)及び取消理由B(甲2を主引用例とする進歩性欠如)は、それぞれ、申立理由3及び4と同趣旨のものであり、取消理由A及びBでは、周知技術として引用文献6~8を追加している点が異なるのみである。したがって、以下の第5-1では、取消理由A及び申立理由3(いずれも甲1を主引用例とする進歩性欠如)を併せて検討し、また、第5-2では、取消理由B及び申立理由4(いずれも甲2を主引用例とする進歩性欠如)を併せて検討した。
さらに、以下の第5-3では、取消理由Cについて検討した。
第5-1 取消理由A及び申立理由3(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
(1)甲1の記載及び甲1発明
甲1には、取消理由通知書の第2の1(1)に摘記したとおりの記載がある。また、実施例1~5-5の各種球形多孔質シリカについて、【0038】~【0042】には、「焼成を行うことで有機成分を除去」して得られたものであることが記載されている。
そして、当該摘記した記載、特に、請求項1、2、4及び5の記載並びに実施例1~5-5の記載によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲1発明>
「メソポアとマイクロポアの微細孔とを併せ持ち、小角X線回折において回折角0.3乃至2.0度(CuKα)に細孔の規則配列構造を示す回析ピークを有し、且つ粒径が20乃至500μmの球状粒子からなる球状多孔質シリカ粒子であって、
焼成して得られたものであり、
細孔径が2.0乃至7.0nmにメソポア容積の極大値を有し、
BET比表面積が、600m2/g以上、
細孔径50nm以下の細孔容積が0.30ml/g以上で、且つ細孔径2.0乃至6.0nmに0.10ml/g以上の細孔容積を有し、
高分解能電子顕微鏡(TEM)写真で観察して、メソポアの規則配列構造を有する球状多孔質シリカ粒子。」
(2)本件発明1について
ア 対比
取消理由通知書の第3の1(2)アにおける対比を踏まえて本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の球形多孔質シリカは、焼成後に特段の処理を行うことなく得られるものである(実施例1~5-5)から、これは、本件発明1の「焼成して得られたままのもの」に相当する。
そうすると、両発明は以下の点で一致し、以下の相違点1及び2で相違する。
<一致点>
メソポーラス構造を有するシリカを含有する多孔性材料であって、
メソポーラス構造を有するシリカは、焼成して得られたままのものであり、
メソポーラス構造は、シリカが窒素吸着測定においてBJH法による細孔分布で0.5~15nmの範囲にピークトップを有し、比表面積が300~2000m2/g、ヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を有する多孔性材料。
<相違点1>
メソポーラス構造を有するシリカのメソポーラス構造について、本件発明1では、「X線回折の回折強度において、d値が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する」ことが特定されているのに対し、甲1発明には、かかる特定はない点。
<相違点2>
メソポーラス構造を有するシリカを含有する多孔性材料が、本件発明1では当該シリカを「有効成分として含有する」「抗インフルエンザウイルス剤」であると特定されているのに対し、甲1発明には、かかる特定はない点。
イ 判断
(ア)まず、相違点1について検討すると、甲1発明のメソポアの規則配列構造(メソポーラス構造)は、「回折角0.3乃至2.0度(CuKa)に細孔の規則配列構造を示す回折ピークを有」しているところ(摘記1bの【請求項1】)、甲1における回折角は、図5の記載からも明らかなとおり、2θ(度)で表されるが、これをブラッグの式(λ=2d・sinθ)を用いてd値に換算すると(λはX線の波長であり、0.1541nm)、d=0.1541÷2÷sin(0.15~1度)(合議体注:sin(0.15~1度)は、0.0026~0.0175)=29.6~4.41nm(2.0nmより大きい)となる。
したがって、甲1発明の「回折角0.3乃至2.0度(CuKa)に細孔の規則配列構造を示す回折ピークを有」することは、本件発明1の「d値が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する」ことに相当する。
そうすると、相違点1は、実質的には相違点ではない。
(イ)次に、相違点2について検討する。
a 甲1には、「本発明の球形多孔質シリカ粒子は、粒径が20乃至500μmで高単分散性の真球形状を有し、更に規則的に配列したメソ孔と、そのメソ孔を連結するマイクロ孔を同時に有することで、種々の分子の選択的な触媒坦体、吸着剤、乾燥剤、またガスクロ並びにイオンクロマト用の充填剤等として使用することができる」(取消理由通知の第2の1で指摘した摘記1cの【0035】)、「規則配列したメソ孔を有する材料に関して、金属元素(イオン)等により細孔の表面修飾を行うことで、触媒担体、重金属イオンや蛋白質の吸着剤等への応用も検討され」(同摘記1cの【0002】)と記載されており、甲1発明のシリカ粒子が吸着剤としての用途に適用できること、また、規則配列されたメソ孔を有する材料について、金属元素(イオン)等により細孔の表面修飾を行うことで、蛋白質の吸着剤への応用が従来から検討されていたことも記載されている。そして、ウイルスが蛋白質の外殻を有するものであることは技術常識であるところ、以下のとおり、本件特許の出願前に、メソポーラス構造を有するシリカを含め、細孔を有し、吸着剤として機能する多孔性の粒子が、ウイルスを吸着・除去してウイルスを不活性化することや、シリカ微粒子自体に抗ウイルス作用があることは周知であった(甲3~5、参考資料2~5)。
なお、下線は合議体が付した。以下同様である。
すなわち、甲3~5、参考資料2~5に示される周知技術に関し、それぞれの文献には以下のことが記載されている。
・メソポーラスシリカは、各種生体蛋白分子を吸着することが知られていたこと(取消理由通知の第2の6で指摘した参考資料2の参考2a参照)
・吸着作用に関し、甲3には、シリカ・アルミナ系の吸着剤としてゼオライトがあり、炭素系の吸着剤として活性炭があるが、いずれも界面現象と微細孔の毛管現象によって微生物を吸着すること(取消理由通知の第2の3で指摘した摘記3bの【0017】)、また、1~10nmの微細孔(合議体注:本件発明1でいう「メソポーラス構造」に相当する。)を有する稚内珪藻頁岩に、微細孔にウイルス等の微生物を吸着する作用があり、当該1~10nmの微細孔を有する稚内珪藻頁岩を滅菌処理することにより、外的に存在するウイルスのような非細胞生物などの微生物を不活化できるという画期的な新しい機能が追加されたこと(同摘記3bの【0015】及び【0016】並びに【0027】)、滅菌処理により無菌状態になった稚内珪藻頁岩の粉体にはインフルエンザウイルスを不活性化する作用を有すること(同摘記3c)
・甲4には、多孔性シリカゲル等の多孔質酸化物担体にPtなどの金属ナノ粒子を担持する、ウイルスに対し吸着作用と抗ウイルス活性を有するナノ触媒剤があること(取消理由通知の第2の4で指摘した摘記4a、4b、4d)、また、従来から変性活性炭DSA-2がパラインフルエンザウイルスを100%吸着することが知られていたが、ウイルスを殺すことはできなかったところ、金属ナノ粒子を担持することでウイルスの吸着だけでなく、ウイルスを死滅させ、吸着とウイルスを不活性にする効果が奏されたこと(同摘記4c)
・甲5には、メソ細孔が周期的に配列されているメソポーラス構造を有する官能化シリカが、抗ウイルス作用を有すること(取消理由通知の第2の5で指摘した摘記5a、5b)、また、mSiO2粒子は、表面の疎水性/親水性の特性により、同様の表面特性を持つ特定のウイルスエンベロープとのより強い相互作用を確立し、ウイルス粒子と細胞との相互作用をブロックすることによっても抗ウイルス作用を示すこと(同摘記5c、5d)
・参考資料3には、メソポーラス構造を有する微粉炭がウイルスの吸着除去作用を有すること、参考資料4には、きわめて細かい細孔が多数存在する漆喰がその細孔にナノサイズのウイルスを吸着すること、また、参考資料5には、粒子径が1nm~60nmのシリカ微粒子に抗ウイルス作用があることが、それぞれ記載されている(それぞれ、取消理由通知の第2の7で指摘した参考3a、参考3b、同第2の8で指摘した参考4a、同第2の9で指摘した参考5a参照。)。
(なお、甲4、5及び参考資料2は外国語の文献であり、取消理由通知の第2におけるこれらの文献の摘記は、合議体の訳文によっている。)
b しかしながら、甲1には、上記のとおり、甲1発明の球状多孔質シリカ粒子の用途として、吸着剤用途以外に、触媒坦体、乾燥剤、クロマト用の充填剤、塗料、インク用体質顔料、接着剤に配合する等種々の用途に使用できることが記載されており(【0035】)、甲1の記載から、当業者が、特にウイルスの吸着剤用途への適用を強く動機付けられるとはいえない上、仮に、甲1の「蛋白質の吸着剤等への応用」(【0002】)との記載及び上記本件特許の出願時の周知技術を参酌して、当業者が、甲1発明の球状多孔質シリカ粒子をウイルスの吸着剤用途への適用を想到し得る場合であっても、ウイルスのうち、特にインフルエンザウイルスを選択する動機付けがあるとはいえない。
(ウ)本件発明1の効果について
a 本件発明1の効果に関し、本件明細書の実施例(【0032】~【0038】、特に【0035】及び【0037】の表1)には、試験用ウイルスとしてヒトインフルエンザウイルスA型H1N1型(A/WSN/33,H1N1)を使用し、試験試料として、窒素吸着測定においてBJH法による細孔分布で3.87nmにピークトップを有し、929m2/gの比表面積を有し、細孔容積が0.911cm3/gであり、外表面積は56.6m2/gである市販のメソポーラスシリカ(本発明品1:TMPS-4R)、又は、窒素吸着測定においてBJH法による細孔分布で3.45nmにピークトップを有し、678m2/gの比表面積を有し、細孔容積が0.593cm3/gであり、外表面積は53.2m2/gである市販の白金担持メソポーラスシリカ(本発明品2:TMPS-Pt)であって、いずれもX線回折の回折強度において、d値が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有し、d値が1.0nmより小さい位置にピークはない、メソポーラス構造がヘキサゴナル状に規則的に配列する試験試料を使用して、抗ウイルス作用を確認する試験をしたことが記載されており、この試験においては、最初に、作成したMDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞)の細胞単層を有する培地に、試験液を添加し、続けて、予め求めたウイルスのMDCK細胞に対するTCID50(50%感染量)に基づいて決定した接種量のウイルスを添加して、3日間培養後のIC50(%)を求めることにより抗インフルエンザウイルス作用を確認している。
そして、その結果が、以下の表1のとおりであったことが記載されている。
【表1】
[図:0001406690000001.jpg]
上記表1によれば、本件発明1で特定される所定の(規則的な)メソポーラス構造を有するシリカに相当する本発明品1(TMPS-4R)のメソポーラスシリカは、規則的なメソポーラス構造を有しない多孔性シリカである比較試料1の粉末状多孔質シリカ(A形シリカ)、及び、メソポーラス構造を有しないが、抗ウイルス作用が確認されている物質である比較試料2の白金ナノコロイド(C-Pt-Cos)に比べて抗インフルエンザウイルス活性が優れることが理解できる。
b また、本件明細書の実施例(【0039】~【0045】、特に【0042】及び【0044】の表2)には、試験用ウイルスとしてヒトインフルエンザウイルスA型 H1N1 A/PR/834ATCC VR-1469を使用し、試験試料として上記本発明品1(メソポーラスシリカ:TMPS-4R)、又は、上記本発明品2(白金担持メソポーラスシリカ:TMPS-Pt)を使用してインフルエンザウイルス感染力価を測定したことが記載されており、この試験においては、試験試料を加えたチューブにインフルエンザウイルスを入れ、不活化処理を行った後、培地を添加、撹拌抽出、遠心分離して得られた上清を得て、これと培地を用いて10倍段階希釈液を作成し、この希釈液をMDCK細胞とともに2~3日間静置培養し、プラーク数に基づいてインフルエンザウイルス感染力価を測定したことが記載されている。
そして、その結果が、以下の表2のとおりであったことが記載されている。
【表2】
[図:0001406690000002.jpg]
上記表2によれば、本件発明1で特定される所定のメソポーラス構造を有するシリカに相当する本発明品1(TMPS-4R)のメソポーラスシリカが、インフルエンザウイルスを不活化し、感染を、減少値が99.9995%を超えるレベルで抑制しており、強力な抗インフルエンザウイルス作用があることが理解できる。
c ここで、すでに記載したとおり、メソポーラス構造を有するシリカを含め、細孔を有し、吸着剤として機能する多孔性の粒子が、ウイルスを吸着・除去してウイルスを不活(性)化することや、シリカ微粒子自体に抗ウイルス作用があることは周知であるが、ウイルスの種類により具体的なタンパク質構造は異なっており、その表面特性も異なると解されるし、メソポーラス構造を有するシリカであれば、ウイルスの種類にかかわらず同様のウイルス吸着特性や表面相互作用特性を有し、ウイルス粒子と生体細胞との相互作用を同程度に効果的にブロックでき、抗ウイルス剤として有効に機能するとの技術常識があったとまでは解されない。
かえって、参考資料3には、ウイルスを含むコロイド粒子の吸着機構には粒子間の電気的相互作用が大きく影響することが知られていることや孔径2~50nmの比較的大きな細孔(メソ細孔)により25nmのウイルスが補足された可能性が指摘されており(取消理由通知の第2の7で指摘した参考3b)、甲1発明のシリカ粒子は細孔径が2.0乃至7.0nmにメソポア容積の極大値を有するものであるから、約100nmの大きさであることが知られるインフルエンザウイルスの吸着に好適なものであるとは解されない(インフルエンザウイルスの粒径については、Ann.Rep.Tokyo Metr.Inst.Pub.Health,2015年,Vol.66,p.51~64のp.52左欄2~4行参照。)。
d さらに、甲3には、上述のとおり、1~10nmの微細孔(メソポーラス構造)を有するシリカであって、滅菌処理により無菌状態になった稚内珪藻頁岩にインフルエンザウイルスを不活性化する作用があることは記載されているが(摘記3cの【0080】)、甲3には、稚内珪藻頁岩が「ヘキサゴナル状に規則的に配列した」メソポーラス構造を有することは記載されていないし、当該岩石は、比表面積が約128.8m2/gで甲1発明(及び本件発明1)の範囲を外れているし、また、特定の地域で産出する岩石であり、甲3の無菌状態になった稚内珪藻頁岩にインフルエンザウイルスを不活性化する作用があるからといって、本件発明1のような、「ヘキサゴナル状に規則的に配列した」メソポーラス構造を有する、比表面積が300~2000m2/gのシリカに、同様のインフルエンザウイルス不活性化作用があることまでは予測できない。
e 加えて、本件明細書の実施例で示される優れた抗インフルエンザウイルス作用は、申立人が提出した証拠及び合議体が職権で示した周知技術を示す証拠のいずれからも、当業者が予測できない効果である。
(エ)そうすると、本件発明1について、甲1発明及び本願出願前の周知技術(甲3~5、参考資料2~5、引用文献6~8)から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(3)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、それぞれ、本件発明1の抗インフルエンザウイルス剤を、「粉末状の形態」(請求項3)及び「ペレット状の形態」(請求項4)に限定した発明に相当する。
そうすると、本件発明3及び4についても、上記(2)で本件発明1について記載したものと同様の理由によって、甲1発明及び本願出願前の周知技術(甲3~5、参考資料2~5、引用文献6~8)から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(4)小括
以上のとおりであるから、取消理由A及び申立理由3には理由がない。
第5-2 取消理由B及び申立理由4(甲2を主引例とする進歩性欠如)について
(1)甲2の記載及び甲2発明
甲2には、取消理由通知書の第2の2(1)に摘記したとおりの記載がある。
また、実施例1-1~3-3の各種球形多孔質シリカ粒子について、【0036】、【0039】及び【0040】には、「焼成を行うことで有機成分を除去」して得られたものであることが記載されている。
そして、当該摘記した記載、特に、請求項1、2、4及び5の記載並びに実施例1-1~3-3の記載によれば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲2発明>
「下記式
SiO2・nMOm/2
式中、Mは多価金属を表し、mは多価金属の価数であり、
nはゼロを含む0.1以下の数である、で表される化学的組成を有する定形多孔質シリカ粒子乃至シリカ金属複合体粒子であって、
焼成して得られたものであり、
回折角0.5乃至5度(CuKα)に細孔の規則配列構造を示すX線回折ピークを有し、
且つ細孔径3乃至8nmに細孔容積の極大値を有し、
走査型顕微鏡観察による長軸の長さが0.5乃至5μmの範囲にあり、アスペクト比が1.1乃至15であって、形状がロッド状であり、
ロッド状粒子が、400m2/g以上のBET比表面積を有し、且つ細孔径4乃至7nmに0.4m1/s以上の細孔容積を有し、
前記ロット状粒子が、高分解能電子顕微鏡(TEM)写真で観察して、粒子端面にハニカム状に規則的に配置されたメソ孔断面と、粒子長手方向に貫通して延びる1次元メソチャンネルとを示す、
定形多孔質シリカ粒子乃至シリカ金属複合体粒子。」
ア 対比
取消理由通知書の第3の2(2)アにおける対比を踏まえて本件発明1と甲2発明の定形多孔質シリカ粒子乃至シリカ金属複合体粒子が定形多孔質シリカ粒子である場合の甲2発明とを対比すると、甲2発明の定形多孔質シリカ粒子は、焼成後に特段の処理を行うことなく得られているものであるから(実施例1-1~3-3)、これは、本件発明1の「焼成して得られたままのもの」に相当する。
そうすると、両発明は以下の点で一致し、以下の相違点1’及び2’で相違する。
<一致点>
メソポーラス構造を有するシリカを含有する多孔性材料であって、
メソポーラス構造を有するシリカは、焼成して得られたままのものであり、
メソポーラス構造は、シリカが窒素吸着測定においてBJH法による細孔分布で0.5~15nmの範囲にピークトップを有し、比表面積が300~2000m2/g、ヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を有する多孔性材料。
<相違点1’>
メソポーラス構造を有するシリカのメソポーラス構造について、本件発明1では、「X線回折の回折強度において、d値が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する」ことが特定されているのに対し、甲2発明には、かかる特定はない点。
<相違点2’>
メソポーラス構造を有するシリカを含有する多孔性材料が、本件発明1では当該シリカを「有効成分として含有する」「抗インフルエンザウイルス剤」であると特定されているのに対し、甲2発明には、かかる特定はない点。
イ 判断
(ア)まず、相違点1’について検討すると、甲2発明のメソポアの規則配列構造(メソポーラス構造)は、「回折角0.5乃至5度(CuKα)に細孔の規則配列構造を示すX線回折ピークを有」しているところ、回折角は2θ(度)で表されるので、これをブラッグの式(λ=2d・sinθ)を用いてd値に換算すると(λはX線の波長であり、0.1541nm)、d=0.1541÷2÷sin(0.25~2.5度)(合議体注sin(0.25~2.5度)は、三角比表によれば、0.0044~0.044)=17.5~1.75nm(すなわち、2.0nmより大きい)となる。
したがって、甲2発明の「回折角0.5乃至5度(CuKa)に細孔の規則配列構造を示す回折ピークを有」することは、本件発明1の「d値が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する」ことに相当する。
そうすると、相違点1’は、実質的には相違点ではない。
(イ)次に、相違点2’について検討する。
a 甲2には、「本発明のロッド状多孔質シリカ乃至シリカ金属複合体粒子は・・・樹脂添加剤やガス分離膜に適している。・・・また、多孔性を利用した、インク吸収剤や、イオン・分子の吸着・分離・貯蔵剤への利用、金属種添加による触媒或は触媒担体としての材料に適している。また、各種塗料、インク用体質顔料、インクジェット紙用添加剤、調湿剤、接着剤等に配合して種々の用途に利用することができる」(取消理由通知の第2の2で指摘した摘記2cの【0032】)、「規則配列したメソ孔を有する材料に関しては、金属元素(イオン)等により細孔の表面修飾を行うことで、触媒担体、重金属イオンや蛋白質の吸着剤等への応用も検討され」(同摘記2cの【0002】)と記載されており、甲2発明の定形多孔質シリカ粒子が吸着の用途に適用できること、また、規則配列されたメソ孔を有する材料について、蛋白質の吸着剤等への応用が従来から検討されていたことも記載されている。そして、ウイルスが蛋白質の外殻を有するものであることは技術常識であるところ、上記第5-1(2)イ(イ)aで記載したとおり、本件特許の出願前に、メソポーラス構造を有するシリカを含め、細孔を有し、吸着剤として機能する多孔性の粒子が、ウイルスを吸着・除去してウイルスを不活性化することや、シリカ微粒子自体に抗ウイルス作用があることは周知であった(甲3~5、参考資料2~5)。
b しかしながら、甲2には、甲2発明の定形多孔質シリカ粒子の用途として、上記のとおり、吸着剤用途以外に、樹脂添加剤やガス分離膜、インク吸収剤、イオン・分子の分離・貯蔵剤への利用用途、塗料、インク用体質顔料、インクジェット紙用添加剤、調湿剤、接着剤に配合する等種々の用途に使用できることが記載されており(【0032】)、甲2の記載から、当業者が、特にウイルスの吸着剤用途への適用を強く動機付けられるとまではいえない上、仮に、甲2の「蛋白質の吸着剤等への応用」(【0002】)との記載及び上記本件特許の出願時の周知技術を参酌して、当業者が、甲2発明の多孔質シリカ粒子をウイルスの吸着剤用途への適用を想到し得る場合であっても、ウイルスのうち、特にインフルエンザウイルスを選択する動機付けがあるとまではいえない。
(ウ)本件発明1の効果について
a 本件発明1の効果に関し、本件明細書には、上記第5-1(2)イ(ウ)で指摘したとおりの記載があり、本件明細書の実施例によれは、ヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を有する本件発明1のシリカは、規則的なメソポーラス構造を有しない多孔性シリカ(比較試料1のA形シリカ)、及び、メソポーラス構造を有しないが、抗ウイルス作用が確認されている比較試料2の白金ナノコロイド(C-Pt-Cos)に比べて抗ウイルス活性が優れており、また、インフルエンザウイルスの感染を、減少値が99.9995%を超えるほど強力に抑制することができるものである。
b そして、上記第5-1(2)イ(ウ)c~eで説示したとおり、本件明細書の実施例で示される優れた抗インフルエンザウイルス作用は、申立人が提出した証拠及び合議体が職権で示した周知技術を示す証拠のいずれからも、当業者が予測できない効果である。
(エ)そうすると、本件発明1について、甲2発明及び本願出願前の周知技術(甲3~5、参考資料2~5、引用文献6~8)から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(3)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、それぞれ、本件発明1の抗インフルエンザウイルス剤を、「粉末状の形態」(請求項3)及び「ペレット状の形態」(請求項4)に限定した発明に相当する。
そうすると、本件発明3及び4についても、上記(2)で本件発明1について記載したものと同様の理由によって、甲2発明及び本願出願前の周知技術(甲3~5、参考資料2~5、引用文献6~8)から、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(4)小括
以上のとおりであるから、取消理由B及び申立理由4には理由がない。
第5-3 取消理由C(明確性要件違反)について
本件訂正により、請求項4(「ペレット状の形態」のもの)の引用請求項から請求項3(「粉末状の形態」のもの)が削除され、請求項3との関係で生じていた請求項4の記載不備はもはや存在しない。そして、本件訂正後の請求項4には記載不備はなく、本件発明4は明確である。
よって、取消理由Cには理由がない。
第6 取消理由通知において採用しなかった申立理由等についての当審の判断
以下に、取消理由通知において採用しなかった申立理由1及び2、並びに、令和5年7月13日提出の意見書における、申立人による訂正に起因する新たな主張について検討する。
1 申立理由1(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するといえるためには、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載や示唆により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくとも当業者が技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである必要がある。
(2)本件発明が解決しようとする課題
請求項1、3及び4の記載並びに発明の詳細な説明の【0008】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件発明の課題」という。)は、「メソポーラス構造を有するシリカを有効成分として含有する抗インフルエンザウイルス剤を提供すること」であると認められる。
(3)本件発明1について
本件発明1が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮して、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲内のものであるかについて検討する。
ア 発明の詳細な説明には、本件発明の課題を解決するための手段に関し、【0009】に、本件発明1で特定される所定のメソポーラス構造を有するシリカ(すなわち、「窒素吸着測定においてBJH法による細孔分布で0.5~15nmの範囲にピークトップを有し、比表面積が300~2000m2/g、X線回折の回折強度において、d値が2.0nmより大きい位置に少なくとも1つのピークを有する、ヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を有するシリカ)を有効成分とする抗ウイルス剤が記載され、また、【0022】に、「本発明に使用するメソポーラスシリカは、例えば、珪酸ソーダを、界面活性剤を含む水溶液中に分散させ、加熱撹拌しながら塩酸を添加して分散液のpHを調整し、得られた固形生成物を洗浄・乾燥した後、400~800℃程度で焼成することにより得られる」と記載されている。
さらに、実施例(【0032】~【0038】及び【0039】~【0045】)には、上記第5-1(2)イ(ウ)a、bで説示したことが記載されており、これらの実施例の記載から、本件発明1で特定される、所定のメソポーラス構造を有するシリカ(本発明品1であるTMPS-4R)が、優れた抗インフルエンザウイルス作用を有することが理解できる。
イ したがって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載の記載から、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲内のものであり、本件発明1について、サポート要件を満たすといえる。
(4)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、それぞれ、本件発明1の抗インフルエンザウイルス剤を、「粉末状の形態」(請求項3)及び「ペレット状の形態」(請求項4)に限定した発明に相当する。
そして、本件発明3及び4の抗インフルエンザウイルス剤の有効成分は、請求項1で特定される、焼成して得られたままのものである、所定のメソポーラス構造を有するシリカである。
そうすると、本件発明3及び4についても、上記(3)において、本件発明1について検討したものと同様の理由によって、サポート要件を満たすといえる。
(5)申立理由1に関する申立人の主張について
ア(ア) 申立人は、申立書において、本件明細書の実施例では、インフルエンザウイルスがメソポーラスシリカに吸着保持されて除去されることにより感染力価が減少していると考えられ、ウイルスが死滅・増殖抑制されて感染力価が低下していることが明確にされているとはいえないから、抗インフルエンザウイルス剤としての効能が示されているとはいえない主張する(上記申立理由1(1))。
(イ) 上記申立人の主張について検討する。
「抗インフルエンザウイルス剤」は、有効成分である本件発明1の所定のメソポーラス構造を有するシリカの「抗インフルエンザウイルス作用」に基づく薬剤であるところ、「抗ウイルス作用」とは、申立人が提出した参考資料1及び本件明細書の【0011】にあるとおり、「ウイルスの増殖の抑制又は減少作用」であり、抗インフルエンザウイルス剤がない場合に比べて感染対象である宿主細胞内でのウイルスの増殖を抑制又は減少する作用を有する薬剤であれば、「抗インフルエンザウイルス剤」といえる。
そして、実施例(【0032】~【0038】)には、イヌ腎臓由来細胞株MDCK細胞の単層を有する培地に本件発明1の所定のメソポーラス構造を有するシリカを含む試験液とインフルエンザウイルス溶液を添加し、IC50(%)で評価した結果が記載されており、本件発明1の所定のメソポーラス構造を有するシリカが細胞内でのインフルエンザウイルスの増殖を抑制し、公知の粉末状多孔質シリカよりも優れた抗インフルエンザウイルス作用を奏するものであることが示されている。また、別の実施例(【0039】~【0045】)には、当該シリカ自体にインフルエンザウイルスの不活化作用があること、不活化されたウイルスの感染力価が非常に小さいことも示されており、感染力が減少すれば感染対象の宿主細胞内でのウイルスの増殖が抑制又は減少することは当然である。
以上のとおり、本件明細書の実施例には、抗インフルエンザウイルス剤としての効能が示されているといえる
したがって、申立人の主張は採用できない。
イ(ア) 申立人は、申立書において、本件明細書の実施例では、ヒトインフルエンザについての抗ウイルス性が評価されているに過ぎない旨主張し(上記申立理由1(2))、また、これに関連し、意見書の8~9頁の「(ニ)」において、進歩性の取消理由(取消理由A、B、申立理由3、4に関係)に関するものではあるが、インフルエンザウイルスには、A型だけでも144種類の亜型がある一方、本件明細書の実施例では、ヒトインフルエンザウイルスA型H1N1型(A/WSN/33,H1N1)とヒトインフルエンザウイルスA型H1N1A/PR/834ATCC VR-1469)についての抗インフルエンザウイルス剤としての効能が示されているのみであるから、実施例で効果が確認されているヒトインフルエンザウイルスA型H1N1型に限定する必要がある旨主張する。
(イ) 上記申立人の主張について検討する。
インフルエンザウイルスに多くの型があるとしても、インフルエンザウイルスとして認識されている一群のウイルスであり、また、その種類にかかわらず、約100nmの大きさであることも知られている(前述のAnn.Rep.Tokyo Metr.Inst.Pub.Health,2015年,Vol.66,p.51~64のp.52左欄2~4行参照。)。また、同じ多孔質シリカを使用する場合であっても、インフルエンザウイルスの型が異なると抗インフルエンザウイルス作用が著しく異なり、抗インフルエンザウイルス剤として機能しなくなるとの本件特許の出願時の技術常識が存在するとも解されないし、申立人もそのような証拠を示しているのでもない。
そうすると、当業者は、実施例の記載から、実施例で使用されている本件発明1の所定のメソポーラス構造を有するシリカであれば、A型H1N1型に限らず、同様に、抗インフルエンザウイルス作用を発揮すると認識するといえる。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(6)よって、申立理由1には理由がない。
2 申立理由2(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断基準
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすというためには、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があることを要する。
そして、本件発明1、3及び4の「抗インフルエンザウイルス剤」という「物の発明」について、実施可能要件を満足するといえるためには、発明の詳細な説明の記載(及び出願時の技術常識)に基づいて、当業者が、本件発明1、3及び4の抗ウイルス剤を製造でき、また、使用できる必要がある。
(2)本件発明1について
ア 本件明細書の発明の詳細な説明の【0015】~【0022】には、本件発明1の所定のメソポーラスシリカの製造方法が記載されており、また、【0023】には、市販品についても記載されており、本件発明1の抗インフルエンザウイルス剤は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造し得るものであるといえる。
また、上記1(3)で記載したとおり、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明1の、焼成して得られたままのものである、所定のメソポーラス構造を有するシリカが、優れた抗インフルエンザウイルス作用を有し、抗インフルエンザウイルス剤として使用できることを理解できるといえる。
イ したがって、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができるといえ、本件発明1について、実施可能要件を満たすといえる。
(3)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、それぞれ、本件発明1の抗インフルエンザウイルス剤を、「粉末状の形態」(請求項3)及び「ペレット状の形態」(請求項4)に限定した発明に相当するところ、薬剤を粉末状やペレット状にすることは常套手段であり、そのような特定を有する本件発明3及び4の抗インフルエンザウイルス剤も、上記(3)において、本件発明1について検討したと同様の理由によって、実施可能要件を満たすといえる。
(4)よって、申立理由2には理由がない。
3 訂正に基づく意見書における申立人の主張について
(1)「焼成して得られたままのものである」との特定に基づく明確性要件違反(意見書の2~3頁の項目(2-1))
ア 申立人は、訂正により新たに以下の明確性要件違反の取消理由が生じている旨主張する。
(ア) 「焼成して得られたままのものである」との限定は、本件明細書の【0028】の「賦形剤を添加して成形して得られるペレット状の形態」が含まれる旨の記載があることと整合していないし、仮に、焼成された段階では白金などの抗ウイルス性の有効成分を含まず実質的にシリカのみからなると解釈したとしても、金属担持等の後処理のみが除外され、【0029】、【0030】に記載されるような打錠成形等の焼成後の後処理等は除外されていないと解することもできず曖昧である。
(イ) 「焼成」の定義がなく、ヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を導入するために用いた有機物を除去するための熱処理以外の処理、例えば、甲3の請求項6や段落【0038】に記載の「160~200℃の乾熱滅菌処理」を含むかが明らかでない。
(ウ) 「シリカ以外の金属成分等の不純物を添加したシリカ(いわゆるシリカ骨格に金属成分が置換され導入されたもの)が「焼成して得られたままのもの」に含まれるか否か明確でない。
(エ) 「焼成して得られたままのもの」であるか否かの認識手段が明確ではない。
イ 上記申立人の主張について検討する。
(ア) 事案に鑑み上記(ア)及び(ウ)の主張についてまとめて検討する。
請求項1に「メソポーラス構造を有することを特徴とするシリカを有効成分として含有する抗インフルエンザウイルス剤であって、メソポーラス構造を有するシリカは、焼成して得られたままのものであり」と記載されるとおり、本件発明の「焼成して得られたままのもの」である「メソポーラス構造を有するシリカ」は、「抗インフルエンザウイルス剤」の「有効成分」として機能するものであるから、本件発明の「焼成して得られたままのものであり」とは、メソポーラス構造を有するシリカが「焼成して得られたものであること」、及び、「焼成して得られたメソポーラスシリカ」に、「抗インフルエンザウイルス作用を高めるような後処理をしていないこと」を意味すると解される。そして、一般的な賦形剤が抗インフルエンザ作用を有するとの技術常識はないから、メソポーラス構造を有するシリカに賦形剤を添加して成形する後処理は本件発明から除外されていないが、焼成して得られたメソポーラス構造を有するシリカに抗ウイルス作用を有する成分(例えば、白金)を担持させる後処理は本件発明から除外されていると理解できる。
また、「メソポーラス構造を有するシリカに賦形剤を添加して成形して得られるペレット状の形態」のものが「抗インフルエンザウイルス剤」であり、「有効成分」そのものである「メソポーラス構造を有するシリカ」ではないことは当業者に自明であり、【0028】の記載についても当業者はそのように理解するといえるから、申立人の主張する不整合はない。
さらに、メソポーラス構造を有するシリカを製造する原料シリカにシリカ以外の金属成分が不純物として含まれる場合に、そのような不可避的に含まれる不純物を含む場合が除外されないことは明らかである。
したがって、上記(ア)及び(ウ)の点の申立人の主張は採用できない。
(イ) 上記(イ)の主張に関し、「焼成」は、技術分野によりその定義が一定ではなく、一般には、「原料を高熱で焼いて性質に変化を生じさせること」(小学館「デジタル大辞泉」)と理解されるが、例えば、「陶芸用語大辞典」では、焼成の目的について、「加熱により素地を堅く焼き固め、釉など生原料を熔融・分解し、発色、不要物質(結晶水、有機物など)を放出・揮発させる。」といった説明もされており、その厳密な定義は必ずしも明確ではない。(https://www.weblio.jp/content/%E7%84%BC%E6%88%90)
しかしながら、本件明細書には、ヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を有する本件発明のシリカの製造に関し、「無機原料と有機原料を混合し、反応させることにより、有機物を鋳型としてそのまわりに無機物の骨格が形成された有機物と無機物の複合体を形成させる。次いで、得られた複合体から有機物を除去することにより、メソポーラスシリカが得られる。」(【0015】)、「無機物と有機物の複合体の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば・・・縮重合反応を行う方法が挙げられる。」(【0019】)、「重縮合反応後に得られる複合体から有機原料を除去することによって、メソポーラスシリカが得られる。有機物と無機物の複合体からの有機物の除去は、400~800℃で焼成する方法、水やアルコール等の溶媒で処理する方法等の方法により行うことができる。」(【0021】)と記載されている。そうすると、当業者は、本件発明の「焼成」が、ヘキサゴナル状に規則的に配列したメソポーラス構造を有する本件発明のシリカを製造するために「メソポーラスシリカの有機原料である有機物と無機物の複合体から有機物を除去」するための処理であることを理解する。そして、当業者は、本件発明の「焼成」に、例えば、甲3に記載の、メソポーラスシリカの有機原料である有機物を除去する工程に該当しない「160~200℃の乾熱滅菌処理」が含まれないことを明確に理解できる(このことは、甲3の【0034】に、「160~200℃の乾熱滅菌処理」が、タンパク質等を熱変性させ失活させて滅菌するものである旨の説明があることからも明らかである。)。
したがって、上記(イ)の点の申立人の主張も採用できない。
(ウ) 上記(エ)の主張に関し、本件明細書の記載から、上記(ア)及び(イ)で記載したとおり、本件発明の「焼成して得られたままのもの」の意味は明確であり、所定のメソポーラス構造を有するシリカであって、「加熱により有機物が除去」されているものは、本件発明に当たるといえるし、焼成された多孔質シリカ自体は周知であり(例えば、甲1~3)、本件明細書に認識手段が書いてなくても、当業者であれば、「焼成して得られたままのもの」に相当するかを明確に理解することができるといえる。
したがって、上記(エ)の点の申立人の主張も採用できない。
(エ)以上のとおり、上記アの申立人の主張はいずれも採用できない。
(2)甲3及び甲4を主引例とする進歩性欠如(意見書の9~11頁の項目(ホ)(i)(ii))
ア 申立人は、以下の点で本件発明は、甲3及び甲4に基づき進歩性を欠如する旨主張する。
(ア) 甲3に開示されている160~200℃で乾熱滅菌(「焼成」に相当する)されてウイルス不活化機能を付与される稚内珪藻頁岩(メソ孔を有するシリカ・アルミナ化合物)を、甲1又は甲2に開示されているメソポーラスシリカに置き換えてウイルス吸着剤(抗ウイルス剤)として使用することは、当業者には容易に想到し得ることである。(項目(ホ)(i))
(イ) 甲4のMCM-41は、ヘキサゴナル構造(ハニカム構造)を有するメソポーラスシリカであり、甲4に開示されているナノ触媒は、ヘキサゴナル構造を有するメソポーラスシリカに金属材料を担持させたものであるところ、「焼成されたまま」という表現は、シリカの組成を限定しているわけではなく、金属担持されたものを排除していないから、甲4の多孔性酸化物を、甲1又は甲2に開示されているメソポーラスシリカに置き換えて本件発明とすることは、当業者が容易に想到し得ることである(項目(ホ)(ii))
イ 上記申立人の主張について検討する。
(ア) 上記(ア)の主張に関し、上記(1)イ(イ)に記載したとおり、甲3に開示されている160~200℃での乾熱滅菌処理は、本件発明の「焼成」には相当しないから、申立人の主張は、その前提において誤っている。そして、上記第5-1の(2)イ(イ)aに記載したとおり、甲3には、1~10nmの微細孔(メソポーラス構造)を有するシリカである滅菌処理により無菌状態になった稚内珪藻頁岩にインフルエンザウイルスを不活性化する作用があることは記載されているが、甲3では、稚内珪藻頁岩の使用を前提としており、当業者が、これを、稚内珪藻頁岩ではなく、滅菌処理ではなく焼成をして得られるシリカに関するものであり、かつ、インフルエンザウイルスについての言及はおろかウイルスについてすら記載のない甲1及び甲2に開示されるシリカに置き換える動機付けがあるとはいえない。
(イ) 上記(イ)の主張に関し、第5-1の(2)イ(イ)aに記載したとおり、甲4には、多孔性シリカゲル等の多孔質酸化物担体にPtなどの金属ナノ粒子を担持する、ウイルスに対し吸着作用と抗ウイルス活性を有するナノ触媒剤が記載され、また、従来からパラインフルエンザウイルスを100%吸着することが知られていた変性活性炭を、金属ナノ粒子を担持するものとすることでウイルスの吸着だけでなく、ウイルスを死滅させ、不活性にする効果が奏されたことが記載されている。しかしながら、甲4のシリカは、多孔質酸化物担体にPtなどの抗ウイルス性の金属ナノ粒子を担持させる点に特徴を有しており、当業者が、これを、インフルエンザウイルスについての言及はおろかウイルスについてすら記載がなく、抗ウイルス性の金属ナノ粒子を担持させる点についての記載もない甲1及び甲2に開示されるシリカに置き換える動機付けがあるとはいえない。
(ウ)以上のとおり、上記アの申立人の主張はいずれも採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、令和5年3月15日付け取消理由通知に記載した取消理由(取消理由A~C)、及び、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由(申立理由1~4)によっては、本件訂正後の請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、請求項2が本件訂正により削除され、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701244