特許異議申立
2022-701159
積層フィルム、及びフォルダブルデバイス
- 審判番号
- 2022-701159
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-190141
- 登録番号
- 7074825
- 請求日
- 2022年11月24日
- 審決日
- 2023年09月13日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社ダイセル
- 【権利者代理人】弁理士法人G-chemical
- 【異議申立人】松井 伸一
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 山崎 勝司
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7074825号発明「積層フィルム、及びフォルダブルデバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7074825号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7074825号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和2年11月16日の出願であって、令和4年5月16日にその特許権の設定登録がされ、令和4年5月24日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年11月24日 :特許異議申立人 松井伸一(以下「申立人」という。)による請求項1~12に係る特許に対する特許異議の申立て(この申立てに係る特許異議申立書は以下「申立書」という。)
令和5年 1月27日付け:取消理由通知書
令和5年 3月 7日 :特許権者との面接
令和5年 3月28日 :特許権者による意見書(以下「意見書」という。)の提出
第2 本件発明
本件特許の請求項1~12に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
支持体と、
該支持体の少なくとも一方の面に積層された樹脂層を有する積層フィルムであって、
該樹脂層が、下記硬化性組成物の硬化物であり、
該樹脂層(前記支持体の両面に樹脂層が積層されている場合はいずれか一方の樹脂層)が下記(条件1)、(条件2)、及び(条件3)を充足することを特徴とする積層フィルム。
(条件1)
前記積層フィルムの樹脂層表面のJIS K5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(750g荷重)の鉛筆硬度が、F以上である。
(条件2)
前記積層フィルムの樹脂層の面が凸となるJIS K5600-5-1(1999)に規定する円筒形マンドレル試験において、屈曲半径が5mmで樹脂層の面にクラックが発生しない。
(条件3)
前記積層フィルムの樹脂層の面の水接触角が95°以上であり、#0000番のスチールウールで1kg/cm2の荷重をかけながら、前記樹脂層の表面を1000回往復摩擦させる耐スチールウール試験の後、試験実施部位の水接触角が90°以上である。
硬化性組成物:ポリオルガノシルセスキオキサンと、水酸基、エポキシ基、オキセタニル基、及びビニルエーテル基から選択される基と、(メタ)アクリロイル基とビニル基から選択される基とを含有する化合物Aと、エポキシ基、オキセタニル基、及びビニルエーテル基から選択される基を2個以上有する脂肪族化合物B(化合物Aに該当する化合物は除く)を含み、
前記化合物Aの含有量がポリオルガノシルセスキオキサン100重量部に対して1~100重量部、
前記化合物Bの含有量がポリオルガノシルセスキオキサン100重量部に対して1~50重量部である。
【請求項2】
さらに、前記樹脂層(前記支持体の両面に樹脂層が積層されている場合はいずれか一方の樹脂層)が下記(条件4)を充足する請求項1に記載の積層フィルム。
(条件4)下記屈曲耐久性試験における屈曲耐久性が1万回以上である。
屈曲耐久性試験:
積層フィルムを伸ばした状態から、樹脂層の面が凸となる方向に屈曲半径が4.0mmとなるように180°折り曲げ、再び伸ばす動作を1回とし、30~60回/分の速さで前記動作を行った際における、積層フィルムの樹脂層にクラックが生じるまでの回数を屈曲耐久性の指標とする。
【請求項3】
さらに、前記樹脂層(前記支持体の両面に樹脂層が積層されている場合はいずれか一方の樹脂層)が下記(条件5)を充足する請求項1又は2に記載の積層フィルム。
(条件5)#0000番のスチールウールで1kg/cm2の荷重をかけながら、前記樹脂層の表面を1000回往復摩擦させる耐スチールウール試験において目視で傷が生じない。
【請求項4】
前記樹脂層(前記支持体の両面に樹脂層が積層されている場合はいずれか一方の樹脂層)のヘイズが1.0%以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記硬化性組成物が、さらに、硬化触媒を含む請求項1~4の何れか1項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記硬化触媒がカチオン重合開始剤を含む請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記硬化触媒がラジカル重合開始剤を含む請求項5又は6に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記硬化性組成物が、さらに、フッ素含有光重合性樹脂を含む請求項1~7のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記支持体が、透明支持体である請求項1~8のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の積層フィルムを備えるフォルダブルデバイス。
【請求項11】
画像表示装置である請求項10に記載のフォルダブルデバイス。
【請求項12】
前記画像表示装置が、有機エレクトロルミネセンス表示装置である請求項11に記載のフォルダブルデバイス。」
第3 取消理由の概要
当審において、請求項1~12に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 (進歩性)請求項1~12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
●(証拠方法)
甲第1号証:国際公開第2019/220642号
甲第2号証:国際公開第2016/076257号
甲第6号証:特開2020-37677号公報
(以下、「甲第1号証」を「甲1」という。他の甲各号証についても同様である。)
2 (サポート要件)請求項1~12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が以下(1)、(2)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1) 本件発明1は、高い表面硬度と、優れた屈曲性を有すると共に、防汚性能が低下しにくい、フォルダブルデバイスの表面保護材として好適な積層フィルム、及び、上記積層フィルムを備えたフォルダブルデバイスを提供することを課題としている(本件特許明細書【0006】)。
また、本件特許明細書には、ポリオルガノシルセスキオキサンについては、下記式(1)で表される構成単位を有するポリオルガノシルセスキオキサンが好ましいことが記載されている(本件特許明細書【0073】)。
「[R1SiO3/2] (1)
[式(1)中、R1は、カチオン重合性官能基を含有する基を示す。]」
しかし、本件特許明細書中、ポリオルガノシルセスキオキサンの記載として、式(1)でR1がカチオン重合性官能基以外の官能基を含有する基であるもの、例えば、R1がラジカル重合性官能基を有するものについての記載はない。
(2) 上記式(1)のR1のカチオン重合性官能基について、本件特許明細書【0078】では、「エポキシ基、オキセタン基、ビニルエーテル基、ビニルフェニル基」が例示され、「樹脂層の表面硬度(例えば、F以上)の観点から、エポキシ基が特に好ましいと記載されている。
そして、本件特許明細書の実施例で使用されているのは、本件特許明細書【0259】に記載された製造例1の「エポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン」の1種類のみである(本件特許明細書【0263】表1、【0268】表3)。
一方、甲2には、ポリオルガノシルセスキオキサンを含む硬化性組成物の硬化物において、エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンを含む硬化物の方が、オキセタニル基を有するポリオルガノンルセスキオキサンを含む硬化物よりも、鉛筆硬度及び曲げ強度が高いことが記載されている(表1)。
具体的には、甲2の表1(12ページ)に記載されるように、エポキシ基を備えたシルセスキオキサン誘導体1(SQ-1)(【0040】合成例1)を用いた実施例3では鉛筆硬度が「9H」、曲げ強度が32MPaであるのに対し、オキセタン基を備えたシルセスキオキサン樹脂(OX-SQTX-100)を用いた比較例5では鉛筆硬度が「3H」、曲げ強度が18MPaであることが示されている。
このように、ポリオルガノシルセスキオキサンを含む硬化物の鉛筆硬度は、ポリオルガノシルセスキオキサンの官能基の種類に依存するものであり、当該硬化物を含む積層フィルムの鉛筆硬度は、当該硬化物の鉛筆硬度に依存するものと認められる。
また、甲2のポリオルガノシルセスキオキサンを含む硬化物の曲げ強度及びそれに類似する本件発明1の条件(2)の屈曲性は、ポリオルガノシルセスキオキサンの官能基の種類に依存するといえ、当該硬化物を含む積層フィルムの上記屈曲性は、当該硬化物の上記屈曲性に依存するものと認められる。
そうすると、官能基が「エポキシ基」以外のポリオルガノシルセスキオキサンを用いた硬化物を含む積層フィルムについては、本件特許明細書の実施例に開示された積層フィルムと同様に、鉛筆硬度及び屈曲性が高いことは推認できないから、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
第4 当審の判断
1 理由1(進歩性)について
(1) 本件発明1について
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で参考のため、付与したものである。)。
「[請求項1] 支持体と、
該支持体の少なくとも一方の面に積層された樹脂層を有する積層フィルムであって、
該樹脂層(前記支持体の両面に樹脂層が積層されている場合はいずれか一方の樹脂層)が下記(条件1)及び(条件2)を充足することを特徴とする積層フィルム。
(条件1)前記積層フィルムの樹脂層表面のJIS K5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(750g荷重)の鉛筆硬度が、F以上である。
(条件2)下記屈曲耐久性試験(1)における屈曲耐久性(1)が5万回以上である。
屈曲耐久性試験(1):
積層フィルムを伸ばした状態から、樹脂層の面が凹となる方向に屈曲半径が2.5mmとなるように180°折り曲げ、再び伸ばす動作を1回とし、30~60回/分の速さで前記動作を行った際における、積層フィルムの樹脂層にクラックが生じるまでの回数を屈曲耐久性(1)の指標とする」
「[請求項7] 前記樹脂層が、1種以上の硬化性化合物を含む硬化性組成物の硬化物であり、硬化性化合物の少なくとも1種がポリオルガノシルセスキオキサンである請求項1~6のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[請求項8] 前記硬化性組成物が、分子内に1個以上の熱重合性官能基と1個以上の光重合性官能基を有する化合物を含む請求項7に記載の積層フィルム。
[請求項9] 前記硬化性組成物が、さらに、硬化触媒を含む請求項7又は8に記載の積層フィルム。
[請求項10] 前記硬化触媒が光カチオン重合開始剤である請求項9に記載の積層フィルム。
[請求項11] 前記硬化触媒が熱カチオン重合開始剤である請求項9に記載の積層フィルム。
[請求項12] 前記硬化性組成物が、さらに、フッ素含有光重合性樹脂を含む請求項7~11のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[請求項13] 前記支持体が、透明支持体である請求項1~12のいずれか1項に記載の積層フィルム。
[請求項14] 請求項1~12のいずれか1項に記載の積層フィルムを備えるフォルダブルデバイス。
[請求項15] 画像表示装置である請求項14に記載のフォルダブルデバイス。
[請求項16] 前記画像表示装置が、有機エレクトロルミネセンス表示装置である請求項15に記載のフォルダブルデバイス。」
「[0006] 従って、本発明の目的は、高い表面硬度と、優れた屈曲耐久性を有し、フォルダブルデバイスの表面保護材として好適な積層フィルムを提供することである。
また、本発明の他の目的は、上記積層フィルムを備えたフォルダブルデバイスを提供することである。」
「[0015] 前記積層フィルム(1)及び(2)において、前記硬化性組成物は、さらに、硬化触媒を含むことが好ましい。
前記硬化触媒は光カチオン重合開始剤であってもよい。
前記硬化触媒は熱カチオン重合開始剤であってもよい。
[0016] 前記積層フィルム(1)及び(2)において、前記硬化性組成物は、さらに、フッ素含有光重合性樹脂を含むことが好ましい。
[0017] 前記積層フィルム(1)及び(2)において、前記支持体は、透明支持体であることが好ましい。
[0018] また、本発明は、前記積層フィルム(1)又は(2)を備えるフォルダブルデバイスを提供する。
[0019] 前記フォルダブルデバイスは、画像表示装置であってもよい。
前記フォルダブルデバイスにおいて、前記画像表示装置は、有機エレクトロルミネセンス表示装置であってもよい。」
「[0041] 本発明の積層フィルムのヘイズは、例えば7%以下であり、好ましくは6%以下であり、より好ましくは5%以下であり、より好ましくは4%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下であり、最も好ましくは1%以下である。なお、ヘイズの下限は、例えば0.1%である。ヘイズを特に7%以下とすることにより、例えば、非常に高い透明性が要求される用途(例えば、タッチパネル等のディスプレイの表面保護シート等)への使用に適する傾向がある。本発明のヘイズは、例えば、支持体として後述の透明基材を使用することによって容易に上記範囲に制御することができる。なお、本明細書においてヘイズは、JIS K7136に準拠して測定することができる。
[0042] 本発明の積層フィルムの全光線透過率は、例えば85%以上であり、好ましくは90%以上である。全光線透過率を特に90%以上とすることにより、例えば、非常に高い透明性が要求される用途(例えば、タッチパネル等のディスプレイの表面保護シート等)への使用に適する傾向がある。本発明の全光線透過率は、例えば、支持体として後述の透明基材を使用することによって容易に上記範囲に制御することができる。なお、本明細書において全光線透過率は、JIS K7361-1に準拠して測定することができる。」
「[0138] (硬化触媒)
本発明の硬化性組成物は、さらに、硬化触媒を含むことが好ましい。中でも、よりタックフリーとなるまでの硬化時間が短縮できる点で、硬化触媒としてカチオン重合開始剤又はラジカル重合開始剤を含むことが特に好ましい。」
「[0163] (フッ素含有光重合性樹脂)
本発明の硬化性組成物は、フッ素含有光重合性樹脂を含むことが好ましい。フッ素含有光重合性樹脂は、分子内にフルオロ脂肪族炭化水素骨格等のフッ素含有基と光重合性官能基を有する樹脂(オリゴマー)である。本発明の硬化性組成物が、本発明のポリオルガノシルセスキオキサンや化合物Aと共にフッ素含有光重合性樹脂を含むことにより、硬化物としたときの樹脂層表面の架橋密度を効果的に高めることができ、硬化物(樹脂層)の表面の平滑性などの外観を向上させ、表面硬度、耐擦傷性及び防汚性を向上させる性質を有する。特に、フッ素含有光重合性樹脂は、化合物Aと共に本発明の硬化性組成物に配合されることにより、その効果は顕著となる。」
「[0173] (エポキシ化合物)
上記硬化性組成物は、本発明のポリオルガノシルセスキオキサン以外のエポキシ化合物(以下、単に「エポキシ化合物」と称する場合がある)を含んでいてもよい。本発明のポリオルガノシルセスキオキサンに加えて、エポキシ化合物を含むことにより、高い表面硬度を有し、柔軟性、可とう性及び加工性に優れた硬化物(樹脂層)を形成できる。
[0174] 上記エポキシ化合物としては、分子内に1以上のエポキシ基(オキシラン環)を有する公知慣用の化合物を使用することができ、特に限定されないが、脂環式エポキシ化合物(脂環式エポキシ樹脂)、芳香族エポキシ化合物(芳香族エポキシ樹脂)、脂肪族エポキシ化合物(脂肪族エポキシ樹脂)等を挙げることができる。なかでも、脂環式エポキシ化合物が好ましい。
[0175] 上記脂環式エポキシ化合物としては、分子内に1個以上の脂環と1個以上のエポキシ基とを有する公知慣用の化合物が挙げられ、特に限定されないが、例えば、(1)分子内に脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(「脂環エポキシ基」と称する)を有する化合物;(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物;(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物(グリシジルエーテル型エポキシ化合物)等を挙げることができる。」
「[0185] 上記脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、q価の環状構造を有しないアルコール(qは自然数である)のグリシジルエーテル;一価又は多価カルボン酸[例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、イタコン酸等]のグリシジルエステル;エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ひまし油等の二重結合を有する油脂のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン等のポリオレフィン(ポリアルカジエンを含む)のエポキシ化物等を挙げることができる。なお、上記q価の環状構造を有しないアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール等の一価のアルコール;エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の二価のアルコール;グリセリン、ジグリセリン、エリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の三価以上の多価アルコール等を挙げることができる。また、q価のアルコールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等であってもよい。
[0186] 上記エポキシ化合物は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。エポキシ化合物としては、硬化物(樹脂層)の表面硬度、屈曲性、屈曲耐久性等の観点から、脂環式エポキシ化合物が好ましく、(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物がより好ましく、上記式(ii)で表される化合物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等]が特に好ましい。
[0187] 上記エポキシ化合物の含有量(配合量)は、本発明のポリオルガノシルセスキオキサンの全量100重量部に対して、例えば0.5~100重量部であり、好ましくは1~80重量部であり、より好ましくは5~50重量部である。上記エポキシ化合物の含有量を0.5重量部以上とすることにより、硬化物(樹脂層)の表面硬度がより高くなり、柔軟性、可とう性、加工性、屈曲耐久性により優れる傾向がある。一方、上記エポキシ化合物の含有量を100重量部以下とすることにより、硬化物の耐擦傷性がより向上する傾向がある。」
「[0214] [フォルダブルデバイス]
本発明の積層フィルムは、高い表面硬度と優れた屈曲耐久性を有するため、通常の画像表示装置の表面保護材の他、繰り返し折り畳んで使用されるフォルダブルデバイスの表面保護材として好適に使用することができる。
フレキシブルデバイスには、例えば、スマートフォンやタブレットやウェアラブル端末等の携帯情報端末等が含まれ、例えば、本発明の積層フィルムは、これらフレキシブルデバイス用のディスプレイ(例えば、タッチパネル、ウェアラブル端末、有機ELディスプレイ等に使用されるディスプレイ)の保護フィルム、バリアフィルム、TFT基板等が含まれる。本発明のフォルダブルデバイスは屈曲耐久性に優れる本発明の積層フィルムを備えるため、屈曲-伸展を繰り返しても樹脂層にクラックが発生することが無く、信頼性に優れる。また、透明性に優れる上記積層フィルムを備えた携帯情報端末等のフォルダブルデバイスは、視認性に優れる。」
「[0216] 製造例1:エポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンの製造
温度計、攪拌装置、還流冷却器、及び窒素導入管を取り付けた1000ミリリットルのフラスコ(反応容器)に、窒素気流下で2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン277.2ミリモル(68.30g)、フェニルトリメトキシシラン3.0ミリモル(0.56g)、及びアセトン275.4gを仕込み、50℃に昇温した。このようにして得られた混合物に、5%炭酸カリウム水溶液7.74g(炭酸カリウムとして2.8ミリモル)を5分で添加した後、水2800.0ミリモル(50.40g)を20分かけて添加した。なお、添加の間、著しい温度上昇は起こらなかった。その後、50℃のまま、重縮合反応を窒素気流下で5時間行った。
その後、反応溶液を冷却すると同時に、メチルイソブチルケトン137.70gと5%食塩水100.60gとを投入した。この溶液を1Lの分液ロートに移し、再度メチルイソブチルケトン137.70gを投入し、水洗を行った。分液後、水層を抜き取り、下層液が中性になるまで水洗を行い、上層液を分取した後、1mmHg、50℃の条件で上層液から溶媒を留去し、メチルイソブチルケトンを23重量%含有する無色透明で液状の生成物(エポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン)を75.18g得た。
生成物を分析したところ、数平均分子量は2235であり、分子量分散度は1.54であった。上記生成物の29Si-NMRスペクトルから算出されるT2体とT3体の割合[T3体/T2体]は11.9であった。
得られたエポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンの1H-NMRチャートを図3、29Si-NMRチャートを図4にそれぞれ示す。」
「[0218] 実施例1:ハードコートフィルムの製造
表1に示す配合比の混合溶液を作製し、これをハードコート液(硬化性組成物)として使用した。上記で得られたハードコート液を硬化後のハードコート層の厚さが10μmとなるようにワイヤーバー#14を用いて、PENフィルム(商品名「テオネックスQ65HWA」、帝人(株)製)の表面へ塗布した後、150℃のオーブンで2分間放置し、次いで、高圧水銀ランプ(アイグラフィックス(株)社製)を用いて600mJ/cm2の照度で紫外線を照射した。その後、150℃で60分間熱処理することによってハードコート液の塗工膜を硬化させ、ハードコート層を有するハードコートフィルムを作製した。」
「
[図:0001402769000001.jpg]
」
「[0222] 実施例7:ハードコートフィルムの製造
表3に示す配合比のハードコート液を使用し、ハードコート層の厚さを40μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコートフィルムを作製した。
[図:0001402769000002.jpg]
」
「[0226] <ヘイズ及び全光線透過率>
上記で得たハードコートフィルムのヘイズ及び全光線透過率を、ヘイズメータ(日本電色工業(株)製、NDH-5000W)を使用して測定した。
[0227] <表面硬度(鉛筆硬度)>
上記で得たハードコートフィルムにおけるハードコート層表面の鉛筆硬度を、JIS K5600-5-4(750g荷重)に準じて評価した。
[0228] <耐擦傷性>
上記で得たハードコートフィルムにおけるハードコート層表面に対し、#0000スチールウールを荷重1000g/cm2にて往復させ、ハードコート層表面に付いた傷の有無を確認し、ハードコート層の表面に傷が確認できるまでの回数で耐擦傷性を評価した。なお、1000回以上往復させても傷が確認できない場合は「1K<」と表示した。
[0229] <屈曲性(1)(円筒形マンドレル法)>
上記で得たハードコートフィルムの屈曲性を、ハードコート表面が凹(内側)になるように円筒形マンドレルを使用してJIS K5600-5-1に準じて、ハードコート層の表面にクラックが発生しない屈曲半径(mm)で屈曲性(1)を評価した。
[0230] <屈曲性(2)(円筒形マンドレル法)>
上記で得たハードコートフィルムの屈曲性を、ハードコート表面が凸(外側)になるように円筒形マンドレルを使用してJIS K5600-5-1に準じて、ハードコート層の表面にクラックが発生しない屈曲半径(mm)で屈曲性(2)を評価した。
[0231] <連続屈曲耐久性(1)>
上記で得たハードコートフィルムの連続屈曲耐久性を、面状体無負荷U字伸縮試験機(ユアサシステム機器(株)製、Z-044)を使用して測定した。測定はハードコート層の面を凹(内側)として、屈曲半径2.5mm、30~60回/分の速さで行い、ハードコート層にクラックが生じるまでの回数を屈曲耐久性(1)とした(図1、2参照)。なお、100000回以上でもクラックが発生しない場合は、「100K<」と表示した。
[0232] <屈曲耐久性(2)>
上記で得たハードコートフィルムの連続屈曲耐久性を、面状体無負荷U字伸縮試験機(ユアサシステム機器(株)製、Z-044)を使用して測定した。測定はハードコート層の面を凸(外側)として、屈曲半径4.0mm、30~60回/分の速さで行い、ハードコート層にクラックが生じるまでの回数を屈曲耐久性(2)とした(図1、2参照)。なお、100000回以上でもクラックが発生しない場合は、「100K<」と表示した。
[0233] <水接触角>
上記で得られたハードコートフィルムの表面(ハードコート層の表面)の水接触角(°)を液滴法で測定した。」
「[0234]
[図:0001402769000003.jpg]
」
「[0235]実施例、比較例で使用した成分は、以下の通りである。
[樹脂]
製造例1:製造例1で得られたエポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン(本発明のポリオルガノシルセスキオキサン)
200PA-E5:商品名「エポキシエステル200PA-E5」、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルハーフ(メタ)アクリレート(分子内に1個以上の熱重合性官能基と1個以上の光重合性官能基を有する化合物)、共栄社化学(株)製
ライトエステルG::商品名「ライトエステルG」、グリシジルメタクリレート(分子内に1個以上の熱重合性官能基と1個以上の光重合性官能基を有する化合物)、共栄社化学(株)製
EA-1010N:商品名「NK OLIGO EA1010N」、ビスフェノールAエポキシハーフアクリレート(分子内に1個以上の熱重合性官能基と1個以上の光重合性官能基を有する化合物)、新中村化学工業(株)製
EHPE3150、商品名「EHPE3150」(脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物)、(株)ダイセル製
セロキサイド2021P:商品名「セロキサイド2021P」、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、(株)ダイセル製
[重合開始剤]
CPI-310PG:商品名「CPI-310PG」、光カチオン重合開始剤、サンアプロ(株)製
CPI-210S:商品名「CPI-210S」、光カチオン重合開始剤、サンアプロ(株)製
[フッ素含有光重合性樹脂]
FT601ADH2:商品名「フタージェント601ADH2」、ネオス(株)製
RS-76-E:商品名「メガファックRS-76-E」、DIC(株)製
[表面調整剤]
サーフロンS243:商品名「サーフロンS243」(フッ素系レベリング剤)、AGCセイミケミカル(株)製
[溶媒]
MIBK:メチルイソブチルケトン
MEK:メチルエチルケトン」
そして、甲1の実施例7に着目すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「PENフィルム(商品名「テオネックスQ65HWA」、帝人(株)製)の表面に、硬化性組成物を硬化させた樹脂層を積層した積層フイルムであって、
該樹脂層がエポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンと、200PA-E5(商品名「エポキシエステル200PA-E5」、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルハーフ(メタ)アクリレート(分子内に1個以上の熱重合性官能基と1個以上の光重合性官能基を有する化合物)、共栄社化学(株)製)と、EHPE3150(商品名「EHPE3150」(脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物)、(株)ダイセル製)とを該樹脂層がエポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン66.7重量%と、200PA-E5(商品名「エポキシエステル200PA-E5」、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルハーフ(メタ)アクリレート(分子内に1個以上の熱重合性官能基と1個以上の光重合性官能基を有する化合物)、共栄社化学(株)製)4.9重量%と、EHPE3150(商品名「EHPE3150」(脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物)、(株)ダイセル製)2.1重量%とを含有する硬化性組成物の硬化物であり、
鉛筆硬度(750g荷重)が8H、耐擦傷性(1kg/cm2)が1K<(1000回以上往復させても傷が確認できない)であり、
屈曲性(2)(ハードコート表面が凸(外側)になるように円筒形マンドレルを使用してJIS K5600-5-1に準じて、ハードコート層の表面にクラックが発生しない屈曲半径(mm))が2mmであり、
屈曲耐久性(2)(ハードコート層の面を凸(外側)として、屈曲半径4.0mm、30~60回/分の速さで行い、ハードコート層にクラックが生じるまでの回数を屈曲耐久性(2)とした。なお、100000回以上でもクラックが発生しない場合は、「100K<」と表示)が100K<であり、
ヘイズが1.7%であり、
水接触角が106°である、
積層フィルム。」
そして、本件発明1と甲1発明とを対比するに、甲1発明の「PENフィルム(商品名「テオネックスQ65HWA」、帝人(株)製)」、「樹脂層」、「積層フィルム」、「硬化性組成物」及び「硬化物」は、その機能や技術上の意義を考慮すると、それぞれ、本件発明1の「支持体」、「樹脂層」、「積層フィルム」、「硬化性組成物」及び「硬化物」に相当する。
そうすると、甲1発明の「PENフィルム(商品名「テオネックスQ65HWA」、帝人(株)製)の表面に、硬化性組成物を硬化させた樹脂層を積層した」態様は、本件発明1の「該支持体の少なくとも一方の面に積層された樹脂層を有する」態様に相当する。
甲1発明の「エポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン」は、本件発明1の「ポリオルガノシルセスキオキサン」に相当する。
甲1発明の「200PA-E5(商品名「エポキシエステル200PA-E5」、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルハーフ(メタ)アクリレート(分子内に1個以上の熱重合性官能基と1個以上の光重合性官能基を有する化合物)、共栄社化学(株)製)」は、その組成からみて、本件発明1の「水酸基、エポキシ基、オキセタニル基、及びビニルエーテル基から選択される基と、(メタ)アクリロイル基とビニル基から選択される基とを含有する化合物A」に相当する。
そうすると、甲1発明の「エポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサンと、200PA-E5(商品名「エポキシエステル200PA-E5」、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルハーフ(メタ)アクリレート(分子内に1個以上の熱重合性官能基と1個以上の光重合性官能基を有する化合物)、共栄社化学(株)製)」を「含有する硬化性組成物」は、本件発明1の「ポリオルガノシルセスキオキサンと、水酸基、エポキシ基、オキセタニル基、及びビニルエーテル基から選択される基と、(メタ)アクリロイル基とビニル基から選択される基とを含有する化合物A」を含有する「硬化性組成物」に相当する。
甲1発明の「EHPE3150(商品名「EHPE3150」(脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物)、(株)ダイセル製)」と、本件発明1の「エポキシ基、オキセタニル基、及びビニルエーテル基から選択される基を2個以上有する脂肪族化合物B(化合物Aに該当する化合物は除く)」とは、「化合物B(化合物Aに該当する化合物は除く)」との限りで一致する。
甲1発明の「鉛筆硬度(750g荷重)が8H、耐擦傷性(1kg/cm2)が1K<(1000回以上往復させても傷が確認できない)であ」ることは、本件発明1の「(条件1)前記積層フィルムの樹脂層表面のJISK5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(750g荷重)の鉛筆硬度が、F以上である。」ことに相当する。
甲1発明の「屈曲性(2)(ハードコート表面が凸(外側)になるように円筒形マンドレルを使用してJIS K5600-5-1に準じて、ハードコート層の表面にクラックが発生しない屈曲半径(mm))が2mmであ」ることは、屈曲半径2mmでクラックが発生しないことから、屈曲半径5mmでもクラックが発生しないことは明らかであり、本件発明1の「(条件2)前記積層フィルムの樹脂層の面が凸となるJISK5600-5-1(1999)に規定する円筒形マンドレル試験において、屈曲半径が5mmで樹脂層の面にクラックが発生しない。」ことに相当する。
甲1発明の「200PA-E5(商品名「エポキシエステル200PA-E5」、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテルハーフ(メタ)アクリレート(分子内に1個以上の熱重合性官能基と1個以上の光重合性官能基を有する化合物)、共栄社化学(株)製)」の含有量は、上記表3から、「エポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン」51.36重量%(固形分:66.7×0.77=51.359重量%)に対し4.9重量%であるから、前者100重量部に対し後者9.5重量部であり、本件発明1の「前記化合物Aの含有量がポリオルガノシルセスキオキサン100重量部に対して1~100重量部」であることに相当する。
甲1発明の「EHPE3150」の含有量は、表3から、エポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン51.36重量%(固形分:66.7×0.77=51.359重量%)に対し2.1重量%であるから、前者100重量部に対し後者4.1重量部であり、本件発明1の「前記化合物Bの含有量がポリオルガノシルセスキオキサン100重量部に対して1~50重量部である。」ことと、「前記化合物Bの含有量がポリオルガノシルセスキオキサン100重量部に対して1~50重量部である。」限りで一致する。
以上踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点1]
「支持体と、
該支持体の少なくとも一方の面に積層された樹脂層を有する積層フィルムであって、
該樹脂層が、下記硬化性組成物の硬化物であり、
該樹脂層(前記支持体の両面に樹脂層が積層されている場合はいずれか一方の樹脂層)が下記(条件1)、(条件2)を充足する積層フィルム。
(条件1)
前記積層フィルムの樹脂層表面のJIS K5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(750g荷重)の鉛筆硬度が、F以上である。
(条件2)
前記積層フィルムの樹脂層の面が凸となるJIS K5600-5-1(1999)に規定する円筒形マンドレル試験において、屈曲半径が5mmで樹脂層の面にクラックが発生しない。
硬化性組成物:ポリオルガノシルセスキオキサンと、水酸基、エポキシ基、オキセタニル基、及びビニルエーテル基から選択される基と、(メタ)アクリロイル基とビニル基から選択される基とを含有する化合物Aと、化合物B(化合物Aに該当する化合物は除く)を含み、
前記化合物Aの含有量がポリオルガノシルセスキオキサン100重量部に対して1~100重量部、
前記化合物Bの含有量がポリオルガノシルセスキオキサン100重量部に対して1~50重量部である。」
[相違点1]
積層フィルムについて、本件発明1は、「(条件3)
前記積層フィルムの樹脂層の面の水接触角が95°以上であり、#0000番のスチールウールで1kg/cm2の荷重をかけながら、前記樹脂層の表面を1000回往復摩擦させる耐スチールウール試験の後、試験実施部位の水接触角が90°以上である。」を有し、(条件1)、(条件2)に加え、「(条件3)を充足する」としているのに対して、甲1発明は、そのような特定はしていない点。
[相違点2]
化合物Bについて、本件発明1は、「エポキシ基、オキセタニル基、及びビニルエーテル基から選択される基を2個以上有する脂肪族化合物B(化合物Aに該当する化合物は除く)」とされているのに対して、甲1発明は、「EHPE3150(商品名「EHPE3150」(脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物)、(株)ダイセル製)」とされている点。
以下に、上記相違点1及び2について、検討する。なお、相違点1と相違点2は、相互に関連するので、まとめて検討する。
甲1には、エポキシ化合物の例として、[0173]~[0187]に、種々記載されているが、結局、[0174]に、「なかでも、脂環式エポキシ化合物が好ましい。」とされ、[0186]には、「エポキシ化合物としては、硬化物(樹脂層)の表面硬度、屈曲性、屈曲耐久性等の観点から、脂環式エポキシ化合物が好ましく、(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物がより好ましく、上記式(ii)で表される化合物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等)が特に好ましい。」されている。このように、甲1においては、エポキシ化合物として、硬化物(樹脂層)の表面硬度、屈曲性、屈曲耐久性等の観点から、EHPE3150が特に好ましいとされており、本件特許明細書に化合物Bの例として多数列挙されたもののうちの「1,6-ヘキサンジオール」(【0200】)が、甲1に記載されているとしても(甲1[0185])、それは、エポキシ化合物を示す一例に過ぎず、特に好ましいと記載されているEHPE3150に代えて、多数例示されたエポキシ化合物の一例に過ぎない「1,6-ヘキサンジオール」の「グリシジルエーテル」を採用する動機はないといえる。
そして、甲1の実施例7では、ポリオルガノシルセスキオキサンと、200PA-E5と、EHPE3150を含有するハードコート液を使用して得られた、ハードコートフィルムが記載され、鉛筆硬度が8Hであること(表6)、ハードコート表面が凸になるよう屈曲させた際のクラックが発生しない屈曲半径が2mmであること(表6)は、記載されるものの、本件発明1の「(条件3)
前記積層フィルムの樹脂層の面の水接触角が95°以上であり、#0000番のスチールウールで1kg/cm2の荷重をかけながら、前記樹脂層の表面を1000回往復摩擦させる耐スチールウール試験の後、試験実施部位の水接触角が90°以上である。」ことについては、記載も示唆もされていない。
よって、甲1発明の「該樹脂層がエポキシ基含有低分子量ポリオルガノシルセスキオキサン」に加える化合物として、「EHPE3150(商品名「EHPE3150」(脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物)、(株)ダイセル製)」に代えて、「脂肪族エポキシ化合物」として「1,6-ヘキサンジオール」の「グリシジルエーテル」を用い、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
そうすると、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成を有していないものは、積層フィルムをなす硬化性組成物において異なるものであるから、相違点1で特定する積層フィルムに係る(条件3)を満足するものとはいえず、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
なお、甲1の実施例7が、(条件3)を満たさないことは、特許権者が令和5年3月28日に提出した意見書に添付した乙第1号証(株式会社ダイセル従業員による実験成績証明書)において、確認されている。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件発明2~12について
本件発明2~12は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(1)と同じ理由で、本件発明2~12は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 以上のとおりであるから、本件発明1~12に係る特許が特許法第29条の規定に違反してされたものではない。
2 理由2(サポート要件)について
(1) 第3の2(サポート要件)の(1)について
本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
「【0089】
本開示のポリオルガノシルセスキオキサンは、シルセスキオキサン構成単位[RSiO3/2]として、上記式(1)で表される構成単位以外にも、下記式(2)で表される構成単位を有していてもよい。
【化8】
[図:0001402769000004.jpg]
【0090】
上記式(2)で表される構成単位は、一般に[RSiO3/2]で表されるシルセスキオキサン構成単位(T単位)である。即ち、上記式(2)で表される構成単位は、対応する加水分解性三官能シラン化合物(具体的には、例えば、後述の式(b)で表される化合物)の加水分解及び縮合反応により形成される。
【0091】
上記式(2)中のR2は、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のシクロアルキル基、置換若しくは無置換のアルキル基、又は、置換若しくは無置換のアルケニル基を示す。上記アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。上記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等の直鎖又は分岐鎖状のアルケニル基が挙げられる。
【0092】
上述の置換アリール基、置換アラルキル基、置換シクロアルキル基、置換アルキル基、置換アルケニル基としては、上述のアリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、アルキル基、アルケニル基のそれぞれにおける水素原子又は主鎖骨格の一部若しくは全部が、エーテル基、エステル基、カルボニル基、シロキサン基、ハロゲン原子(フッ素原子等)、アクリル基、メタクリル基、メルカプト基、アミノ基、及びヒドロキシ基(水酸基)からなる群より選択された少なくとも1種で置換された基が挙げられる。」
「【0173】
本開示の硬化性組成物における上記ラジカル重合開始剤の含有量(配合量)は、特に限定されないが、本開示のポリオルガノシルセスキオキサン100重量部に対して、0.01~1.0重量部が好ましく、より好ましくは0.05~0.5重量部、さらに好ましくは0.1~0.3重量部である。ラジカル重合開始剤の含有量を0.01重量部以上とすることにより、硬化反応を効率的に十分に進行させることができ、硬化物(樹脂層)の表面硬度・屈曲性・屈曲耐久性が向上すると共に、防汚性能が低下しにくくなる傾向がある。一方、ラジカル重合開始剤の含有量を1.0重量部以下とすることにより、硬化性組成物の保存性がいっそう向上したり、硬化物(樹脂層)の着色が抑制される傾向がある。」
そうすると、ポリオルガノシルセスキオキサンについて、本件特許明細書の【0089】には、上記式(2)で表される構成単位を有していればよく、【0091】、【0092】には、上記式(2)中のR2は、ビニル基、アクリル基、メタクリル基が置換した基であっても良いことが記載されている。
さらに、本件特許明細書の【0173】には、ラジカル重合開始重合剤の含有量として、ポリオルガノシルセスキオキサン100重量部に対して、0.01~1.0重量部が好ましく、より好ましくは0.05~0.5重量部、さらに好ましくは0.1~0.3重量部であるとされ、硬化反応を効率的に十分に進行させることができることが記載されている。
よって、本件特許明細書には、ポリオルガノシルセスキオキサンは、ラジカル重合性官能基を有するものであっても良いことが記載されている。
(2) 第3の2(サポート要件)の(2)について
甲2の実施例3で用いたポリオルガノシルセスキオキサン(SQ-1)と、比較例5で用いたポリオルガノシルセスキオキサン(OX-SQRT-100)とは、官能基が異なるとしても、官能基以外にも構造が異なるものであり、SQ-1は、ランダム型構造とラダー型構造のポリオルガノシルセスキオキサンであり([0040])、OX-SQRT-100は、かご型ポリオルガノシルセスキオキサンである([0045])。
そうすると、甲2から、官能基の種類に着目して、直ちに、エポキシ基を有するポリオルガノシルセスキオキサンを含む硬化物の方が、オキセタニル基を有するポリオルガノンルセスキオキサンを含む硬化物よりも、鉛筆硬度及び曲げ強度が高いということができない。
また、甲6の【0013】には、エポキシ基、オキセタル基、及びビニルエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性基を有する反応性基含有樹脂について、カチオン重合反応により高密度に架橋された樹脂膜が形成され、画像の耐殺傷性が向上することが記載され、耐殺傷性を有するものは、高密度に架橋していることが示唆されている。さらに、甲6の【0028】には、オキセタニル基を持つシルセスキオキサン化合物と、エポキシ基を有するシルセスキオキサン化合物が併記されている。
そうすると、以上のような技術的な事項を踏まえると、本件発明1の硬化性組成物は、ポリオルガノシルセスキオキサンと共に、化合物Aと脂肪族化合物Bを有し、化合物Aは、水酸基、エポキシ基、オキセタニル基及びビニルエーテル基から選択される基(以上、カチオン重合性官能基)と、(メタ)アクリロイルとビニル基から選択される基(以上、ラジカル重合性官能基)とを含有するから、ポリオルガノシルセスキオキサンがカチオン重合性官能基とラジカル重合性官能基のいずれを有する場合でも、ポリオルガノシルセスキオキサン同士が反応して架橋することできるものである。
そうすると、官能基が「エポキシ基」以外のポリオルガノシルセスキオキサンを用いた硬化物を含む積層フィルムについても、本件特許明細書の実施例に開示された積層フィルムと同様に、鉛筆硬度及び屈曲性が高いことは、理解できる。
(3) 以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明1を引用する請求項2~12は、発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものといえる。
よって、請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
したがって、本件発明1~12に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
3 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について
(1) 申立人は、以下の理由を主張している。
ア. 本件発明1~12は、甲1発明と相違するところはないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し取り消されるべきである(申立書第25ページ~第33ページ)。
イ. 本件発明1~12また、上記第3の2と同様な理由により、拡張ないし一般化できるとはいえないため、明細書に当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない(申立書第34ページ~第37ページ)。
ウ. 本件発明1の(条件1)の鉛筆硬度は、試験片の膜厚が特定されておらず、膜厚によって任意の値を取り得るので範囲が不明確である。同様に、本件発明1の(条件2)の円筒形マンドレル試験は、試験片の膜厚が特定されておらず膜厚によって任意の値を取り得るので範囲が不明確である。
(2) 当審の判断
ア. 第4の1で述べたとおり、本件発明1~12と、甲1発明とは、少なくとも、相違点1及び相違点2を有し、両相違点は、実質的な相違点であるから、本件発明1~12は、甲1発明ではない。
したがって、本件発明1~12は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。
イ. 第4の2で述べたことと同様な理由により、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
ウ. 本件発明1の記載は、文言上、不明確とするところはなく、本件発明1は、(条件1)、(条件2)及び(条件3)を満足するものを特定するもので、この点でも不明確とするところはない。
そして、上記(1)ウ.の申立人の主張は、本件発明1において特定されていない「試験片の膜厚」について、いうものであって、採用できない。
なお、支持体については、本件特許明細書の【0057】に、「(支持体
)本開示の積層フィルムにおける支持体としては、プラスチック基材、金属基材、セラミックス基材、半導体基材、ガラス基材、紙基材、木基材(木製基材)、表面が塗装表面である基材等の公知乃至慣用の支持体を用いることができ、特に限定されない。中でも、プラスチック基材が好ましい。前記支持体は、単層の構成を有していてもよいし、多層(積層)の構成を有していてもよく、その構成(構造)は特に限定されない。」と記載され、種々の形態を採用できるものである。
さらに、層の厚みについては、本件特許明細書の【0055】に、「本開示の積層フィルムの厚み(支持体/樹脂層の総厚み)は、例えば1~10000μmの範囲から適宜選択することができ、好ましくは10~1000μmであり、より好ましくは15~800μmであり、さらに好ましくは20~700μmであり、特に好ましくは30~500μmである。」と記載されて、支持体及び樹脂層の厚みの目安が示されている。
また、本件特許明細書の【0056】に、「上述した性能を備える本開示の積層フィルムは、後述の支持体の材料の選択及び支持体の厚みの制御、並びに、樹脂層の成分や厚み、支持体への積層方法を制御することで得ることができる。」と記載されている。
以上のとおりであるから、本件発明1~12について、特許を受けようとする発明は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~12に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701159