特許異議申立
2024-701101
防眩フィルム
- 審判番号
- 2024-701101
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-103450
- 登録番号
- 7483661
- 請求日
- 2024年11月13日
- 審決日
- 2024年12月25日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社ダイセル
- 【権利者代理人】弁理士法人有古特許事務所
- 【異議申立人】前田 しのぶ
- 審判長/審判官
- 審判長 橿本 英吾
- 審判官 神谷 健一
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P1651.537-Y (G02B) / P1651.113-Y (G02B) / P1651.121-Y (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第113条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7483661号発明「防眩フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7483661号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7483661号(請求項の数12。以下「本件特許」という。)についての特許出願(特願2021-103450号)は、令和3年6月22日を出願日とする出願であって、令和6年5月7日にその特許権の設定登録がされ、同月15日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和6年11月13日に、特許異議申立人 前田 しのぶ(以下「申立人」という。)から、本件特許の請求項1~12に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~12の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明12」という。また、請求項1~12に係る発明を「本件特許発明」と総称する。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
シート状の基材と、
前記基材に重ねて配置された下側ハードコート層と、
前記下側ハードコート層の前記基材側とは反対側に重ねて配置された上側ハードコート層と、を備え、
前記下側ハードコート層の厚みが、前記上側ハードコート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値であり、
前記上側ハードコート層は、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1つであって、チオール基を含まない光硬化性樹脂又はチオール基を含まないオリゴマーの硬化物を、マトリクス樹脂として含み、
前記上側ハードコート層は、表面に凹凸が形成され且つチオール基を含まない層であり、
前記下側ハードコート層は、微粒子を含む、防眩フィルム。
【請求項2】
画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの、JIS C 1006:2019に準拠する方法で測定される前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、6.9以上12以下の範囲の値である、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
ヘイズ値が0.5%以上25%以下の範囲の値である、請求項1又は2に記載の防眩フィルム。
【請求項4】
前記上側ハードコート層の前記下側ハードコート層とは反対側の面の鉛筆硬度が、4H以上の範囲の値である、請求項1~3のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項5】
前記上側ハードコート層の厚みが、3μm以上6μm以下の範囲の値である、請求項1~4のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項6】
前記下側ハードコート層の厚みが、10μm以上20μm以下の範囲の値である、請求項1~5のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項7】
前記上側ハードコート層は、前記マトリクス樹脂である上側マトリクス樹脂と、前記上側マトリクス樹脂中に分散され且つ平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値である凹凸形成粒子と、を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項8】
前記上側マトリクス樹脂と前記凹凸形成粒子との屈折率差が、0以上0.20以下の範囲の値である、請求項7に記載の防眩フィルム。
【請求項9】
前記上側ハードコート層は、複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項10】
前記下側ハードコート層は、下側マトリクス樹脂と、前記下側マトリクス樹脂中に分散され且つ平均粒径が5nm以上100nm以下の範囲の値である前記微粒子と、を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項11】
前記上側ハードコート層の前記下側ハードコート層とは反対側に重ねて配置された少なくとも1つの反射防止層を備える、請求項1~10のいずれか1項に記載の防眩フィルム。
【請求項12】
前記上側ハードコート層と接触するように配置される前記反射防止層が、金属酸化物粒子を含む、請求項11に記載の防眩フィルム。」
第3 申立理由の概要及び証拠方法
申立人が主張する特許異議の申立理由、及び、特許異議申立人が提出した証拠方法は、概略以下のとおりである。
1 新規性欠如
(1)本件特許発明1~4、6は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1~4、6に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してなされたものである。したがって、請求項1~4、6に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである(申立理由1の1)。
(2)本件特許発明1、4、10は甲第12号証に記載された発明であるから、請求項1、4、10に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してなされたものである。したがって、請求項1、4、10に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである(申立理由1の2)。
2 進歩性欠如
(1)下表左欄記載の本件特許発明は、下表右欄記載の甲号証に記載された発明に基づいて出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、6、10に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。したがって、請求項1~4、6、10に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである(申立理由2の1)。
本件特許発明1、3~4、6 甲第1号証
本件特許発明2 甲第1、8~10号証
本件特許発明10 甲第1、11号証
(2)下表左欄記載の本件特許発明は、下表右欄記載の甲号証に記載された発明に基づいて出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~12係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。したがって、請求項1~12に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである(申立理由2の2)。
本件特許発明1、4、7、10 甲第12号証
本件特許発明2 甲第12、8~10号証
本件特許発明3 甲第12、1号証
本件特許発明5~6 甲第12、13~14号証
本件特許発明8~9 甲第12、8号証
本件特許発明11 甲第12、13号証
本件特許発明12 甲第12、13、1号証
3 サポート要件違反(申立理由3)
(1)本件明細書の実施例及び比較例から、上側ハードコート層、下側ハードコート層の全体厚みとして14μm以上の厚みを確保しない場合には、鉛筆硬度を4H以上にすることができず、防眩フィルムの耐久性の低下を防止できないことが理解できるところ、本件特許発明1~12は、上側ハードコート層、下側ハードコート層の全体厚みを特定していないから、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1~12の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)本件明細書の記載から、「防眩性を得ると共にギラツキを良好に抑制」するという本件発明の課題を解決するためには、上側ハードコート層が表面に微細な凹凸を有することが必要であるが、本件特許発明1~12は、上側ハードコート層の表面に形成される凹凸が微細な凹凸であることを特定していないから、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1~12の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(3)上記(1)(2)のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~12に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである
4 明確性要件違反(申立理由4)
本件特許発明1は、「上側ハードコート層は、表面に凹凸が形成され」ることを特定しているが、当業者は前記凹凸の範囲を理解することができず、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、及び、請求項1を引用する請求項2~12に係る発明は明確でないから、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 申立人が提出した証拠方法(以下、甲号証に付された番号を使って、それぞれ、「甲1」などという。)
甲1:特開2010-78698号公報
甲2:豊通ケミプラス株式会社のホームページ、「Omnirad907(former Irgacure 907)の技術資料」、https://www.tenkazai.com/product-igm/omnirad907.html
甲3:日揮触媒化成株式会社の「ELCOM V-8000 シリーズ」の技術資料
甲4:ウィキペディアの「チオール」の説明、https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%AB
甲5:特開2019-142220号公報
甲6:大阪有機化学工業株式会社の「デンドリマーおよびハイパーブランチポリマーの開発」の技術資料、https://www.ooc.co.jp/research/report/pdf/report_02.pdf
甲7:株式会社レゾナックのホームページ、「カレンズMTPE1」の技術資料、https://www.karenz.jp/mt/pe1.html
甲8:特許第6719677号公報
甲9:特開2017-173163号公報
甲10:JIS ディスプレイのぎらつき度合の求め方 JIS C1006:2019
甲11:特開2015-4979号公報
甲12:特開2017-33624号公報
甲13:特開2008-129130号公報
甲14:特開2000-912号公報
甲15:豊通ケミプラス株式会社のホームページ、「Omnirad 184 (former Irgacure 184)の技術資料」、https://www.tenkazai.com/product-igm/omnirad184.html
甲16:三菱ケミカル株式会社のホームページ、「紫光TM 硬質タイプ」の技術資料、https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/coating-mat/tech/1205785_9232.html
甲17:日産化学株式会社のホームページ、「MIBK-SD」の技術資料、https://db.nissanchem.co.jp/db/detail.cgi?id=0230
甲18:ダイキン工業株式会社の「防汚添加剤オプツールDAC-100」の技術資料、https://www.daikinchemicals.com/library/pb_common/pdf/tds_jp/OPTOOL_anti-smudge_coating/tds-dac-100-J_ver01_Aug_2022.pdf
第4 当合議体の判断
1 甲1に基づく新規性欠如、及び、甲1発明を主引用発明とする進歩性欠如について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、実施例4に係る以下の防眩性反射防止フィルムの発明(甲1の【実施例】【0055】~【0076】、特に【0066】(実施例4)を参照のこと。以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「下記のように調製した防眩性ハードコート層形成用組成物を、透明基材として厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上にロールコーターにて乾燥膜厚が16μmとなるように塗布し、80℃で2分間乾燥し(前記乾燥膜厚が実質的に防眩性ハードコート層の膜厚(A)である。)、その後、120W高圧水銀灯〔日本電池(株)製〕により紫外線を照射し(積算光量400mJ/cm2)、硬化させて防眩性フィルムを作製し、前記バインダーを硬化させて得られた硬化物の屈折率は1.524であり、透光性微粒子の屈折率は1.525であり、バインダーの硬化物と透光性微粒子との屈折率差は、0.001であり、
次いで、前記防眩性ハードコート層上に製造例1で製造された低屈折率層用組成物を乾燥時の厚さが0.1μmとなるように塗布した後、窒素雰囲気下で紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、120W高圧水銀灯)を用いて400mJの紫外線を照射し、低屈折率層用組成物を硬化させて低屈折率層を形成し、この低屈折率層の屈折率は1.35であり、防眩性反射防止層の表面における変角光度比R(53°)/R(45°)は0.01及び防眩性フィルムの全体ヘイズ値は1.6%であり、カール性の評価結果は10mmであり、鉛筆硬度は4Hであり、
高精細液晶ディスプレイとしての高精細液晶タッチパネルの画像表示側の最表面に防眩性フィルムを置き、目視にてぎらつきを測定し、「3:ぎらつきなし、2:ぎらつき若干あり、1:ぎらつきあり。」の3段階で評価した際に、「3:ぎらつきなし」である、
防眩性反射防止フィルム。
(防眩性ハードコート層形成用組成物の調製)
アクリル酸エステル組成物及びウレタンアクリレート組成物含有塗料〔DIC(株)製、GRANDIC PC6-6150F〕100質量部、2-プロパノール〔IPA〕20質量部を混合してバインダーを調製し、それに透光性有機微粒子として架橋アクリル-スチレン共重合樹脂の微粒子〔積水化成品(株)製、XX-22V、粒子径の揃った単分散な微粒子、平均粒子径(a)は8.0μm〕10質量部を混合して防眩性ハードコート層形成用組成物を調製した。
(製造例1、低屈折率層用組成物の調製)
変性中空シリカ微粒子が分散されたオルガノゾル〔触媒化成品工業(株)製、ELCOM V-8208〕を固形分換算で60質量部、1,10-ジアクリロイルオキシ-2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロデカン(フッ素含有率53質量%)〔共栄社化学(株)製、商品名「16-FDA」〕40質量部、光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、イルガキュア907〕を5質量部及びイソプロピルアルコール2000質量部を混合し、低屈折率層用組成物(含フッ素硬化性塗液)を得た。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム」及び「防眩性反射防止フィルム」は、それぞれ、本件特許発明1の「シート状の基材」及び「防眩フィルム」に相当する。
(イ)甲1発明の「防眩性ハードコート層」はトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に配置されているから、本件特許発明1の「下側ハードコート層」に相当する。
(ウ)甲1発明の「低屈折率層」は、前記防眩性ハードコート層上に製造例1で製造された低屈折率層用組成物を乾燥時の厚さが0.1μmとなるように塗布した後、硬化させて低屈折率層を形成しているから、「上側コート層」であるといえる。
また、甲1発明の「防眩性ハードコート層」の厚みである16μmは、「低屈折率層」の厚みである0.1μmの16000%であるから、甲1発明は、本件特許発明1のうち、前記下側ハードコート層の厚みが、上側コート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値であるという要件を満たす。
(エ)甲1発明の「低屈折率層」を形成する材料は、変性中空シリカ微粒子が分散されたオルガノゾル〔触媒化成品工業(株)製、ELCOM V-8208〕、1,10-ジアクリロイルオキシ-2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロデカン(フッ素含有率53質量%)〔共栄社化学(株)製、商品名「16-FDA」〕、光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、イルガキュア907〕の3つの材料であるが、1,10-ジアクリロイルオキシ-2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロデカンにチオール基は含まれておらず、上記光重合開始剤〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、イルガキュア907〕は下記の構造式を有する化合物である(甲2)から、チオール基は含まれていない。
<商品名Omnirad907(旧商品名Irgacure907)の構造式>
[図:0001420367000001.jpg]
また、上記材料に関連する技術資料(甲2、甲3)にチオール基を含む旨は記載されていないから、甲1発明の「低屈折率層」は、チオール基を含まない層であるといえる。
そして、上記1,10-ジアクリロイルオキシ-2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロデカンは、ポリエーテルアクリレートであり、本件特許発明1の「ポリエステル(メタ)アクリレート」に相当する。
(オ)甲1発明の「防眩性ハードコート層」は、「透光性有機微粒子として架橋アクリル-スチレン共重合樹脂の微粒子〔積水化成品(株)製、XX-22V、粒子径の揃った単分散な微粒子、平均粒子径(a)は8.0μm〕」を含んでおり、当該透光性有機微粒子は、本件特許発明1の「微粒子」に相当する。
イ 一致点・相違点
上記アによると、本件特許発明1と甲1発明は、下記(ア)の点において一致し、また、下記(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
「シート状の基材と、
前記基材に重ねて配置された下側ハードコート層と、
前記下側ハードコート層の前記基材側とは反対側に重ねて配置された上側コート層と、を備え、
前記下側ハードコート層の厚みが、前記上側コート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値であり、
前記上側コート層は、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1つであって、チオール基を含まない光硬化性樹脂又はチオール基を含まないオリゴマーの硬化物を、マトリクス樹脂として含み、
前記上側コート層は、チオール基を含まない層であり、
前記下側ハードコート層は、微粒子を含む、防眩フィルム。」
(イ)相違点
本件特許発明1は、「前記下側ハードコート層の前記基材側とは反対側に重ねて配置された上側ハードコート層」を備え、「前記上側ハードコート層は、表面に凹凸が形成され」ているのに対し、甲1発明の「低屈折率層」は、「表面に凹凸が形成され」た「ハードコート層」であるか不明である点。
ウ 判断
上記相違点について検討する。
甲1発明の「防眩性ハードコート層」は、「透光性有機微粒子として架橋アクリル-スチレン共重合樹脂の微粒子〔積水化成品(株)製、XX-22V、粒子径の揃った単分散な微粒子、平均粒子径(a)は8.0μm〕」を含んでいる。
甲1発明の「低屈折率層」は、前記防眩性ハードコート層上に製造例1で製造された低屈折率層用組成物を乾燥時の厚さが0.1μmとなるように塗布した後、低屈折率層用組成物を硬化させて低屈折率層を形成したものであり、前記低屈折率層用組成物は、変性中空シリカ微粒子が分散されたオルガノゾル〔触媒化成品工業(株)製、ELCOM V-8208〕を含むものである。
そこで、甲1発明の「低屈折率層」の表面に凹凸が形成されているかどうかについて検討する。
甲1には、「低屈折率層」が凹凸を有する旨の記載はない。そこで、「低屈折率層」に含まれる変性中空シリカ微粒子が分散されたオルガノゾル〔触媒化成品工業(株)製、ELCOM V-8208〕が、表面に凹凸を形成させるものであるかどうかを検討すると、甲1発明のオルガノゾルに関する技術資料である甲3には以下の記載がある。
「ELCOM V-8000シリーズは、シリカ粒子が有機溶媒中に分散しているため、光学膜の透明性を保持しつつ、硬度、表面摩耗を向上する用途に最適なオルガノシリカゾルとなっています。
ECLOM V-8000シリーズの特徴
ECLOM V-8000シリーズは、独自の技術で処理されたオルガノシリカゾルのため、下記のような特徴を有しています。
(1)光学膜に高い硬度を与え、耐表面摩耗性を付与します。
(2)光学膜の透明性を維持します。
(3)比較的薄膜でも高硬度を付与することができます。
(4)硬化、収縮による基材フィルムのカーリングの抑制に効果的です。
UV硬化型樹脂配合用フィラーとして最適
一般性状
[図:0001420367000002.jpg]
」(1ページ上から3~16行及びその直下の画像)
「コート膜の膜物性例
[図:0001420367000003.jpg]
」(2ページ3行及びその直下の画像)
これらの記載から、甲1発明の「オルガノゾル」は「光学膜に高い硬度を与え、耐表面摩耗性を付与」するものであるから、「低屈折率層」を「ハードコート層」とし得るものであるが、その粒径が12nmレベルのものでヘイズをもたらすものではなく、「低屈折率層」の表面に凹凸を形成するものではないと考えるのが自然である。
また、甲1には以下の記載がある。(合議体注:判断に用いる箇所に下線を付加している。)
「【0042】
防眩性の指標としてはヘイズ値が採用される。このヘイズ値(曇価、曇り度)はJIS K 7136に準拠して測定されるもので、散乱光線透過率を全光線透過率で割った値を百分率で表したものである。防眩性フィルムのヘイズ値すなわち全体ヘイズ値は、防眩性ハードコート層表面の凹凸による外部散乱に起因する外部ヘイズ値、及び防眩性ハードコート層内部に存在する透光性有機微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化物との屈折率差に起因する内部散乱による内部ヘイズ値とに分類される。
・・・中略・・・
[反射防止層]
次に、前記反射防止層は、防眩性ハードコート層よりも屈折率が低い低屈折率層を少なくとも有しており、その表面において反射防止機能を発現するものである。より有効に反射防止効果を発現させるためには、低屈折率層と防眩性ハードコート層との間に、防眩性ハードコート層よりも屈折率の高い高屈折率層を設けることが望ましい。
・・・中略・・・
【0044】
低屈折率層の厚さは特に制限されないが、可視光線の波長の1/4(約100nm)であると干渉効果により表面反射が減少し、透過率が向上するため好ましい。また、好適な反射防止効果を得るという観点からは、低屈折率層の屈折率は低い方が好ましいが、あまり低過ぎると反射光が着色するため好ましくない。」
これらの記載から、防眩性フィルムのヘイズに寄与するものは、防眩性ハードコート層表面の凹凸による外部散乱、及び防眩性ハードコート層内部に存在する透光性有機微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化物との屈折率差に起因する内部散乱であるといえ、低屈折率層表面の凹凸による外部散乱は想定されていないといえる。
また、低屈折率層は、反射光は生じるが干渉効果により表面反射を減少させる反射防止層に用いられるものであるといえるから、低屈折率層の表面に凹凸を形成して防眩性をもたらすものではないと考えるのが自然である。
したがって、甲1発明の「低屈折率層」の表面に凹凸が形成されているとはいえず、上記相違点は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲1発明ではない。
また、上記相違点に係る構成は、申立人が提出した甲1~甲18のいずれにも記載も示唆もされていないし、甲1発明において、「低屈折率層」の表面に凹凸を形成する動機付けはなく、同構成が公知の技術、周知慣用技術又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。
したがって、甲1発明において、相違点に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
エ 小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、甲1~甲18に記載された発明ないし技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明2~12について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~12は、いずれも、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~12は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲1に記載された発明でなく、甲1~甲18に記載された発明ないし技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2~12も、甲1に記載された発明でなく、甲1~甲18に記載された発明ないし技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~12に係る特許は、特許法29条1項3号、及び、2項の規定に違反してされたものではない。
2 甲12に基づく新規性欠如、及び、甲12発明を主引用発明とする進歩性欠如について
(1)甲12に記載された発明
甲12には、実施例9に係る以下の有機EL用積層体の発明(甲12の【0119】~【0163】、特に【0137】~【0139】(実施例9)を参照のこと。以下「甲12発明」という。)が記載されていると認められる。
「基材フィルムとして、厚さ30μmの上記式(1)で表されるポリイミドフィルムを準備し、該基材フィルムの一方の面上に、下記組成のハードコート層用組成物5を塗布し、塗膜を形成した。
次いで、形成した塗膜に対して、70°1分間加熱させることにより塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、紫外線を空気中にて積算光量が100mJ/cm2になるように照射して塗膜をハーフキュアーさせて厚さ3μmの第一ハードコート層を形成した。
次いで、第一ハードコート層上に、下記組成のハードコート層用組成物Eを塗布し、塗膜を形成した。次いで、形成した塗膜に対して、70°1分間加熱させることにより塗膜中の溶剤を蒸発させ、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン社製、光源Hバルブ)を用いて、紫外線を酸素濃度が200ppm以下の条件下にて積算光量が200mJ/cm2になるように照射して塗膜を完全硬化させることにより、厚さ2μmの第二ハードコート層を形成し、光学積層体を製造した。
得られた光学積層体を、市販されている有機EL層に積層し、有機EL層一方の面上に光学積層体が積層され、鉛筆硬度が7Hである、有機EL用積層体を作製した。
[図:0001420367000004.jpg]
(ハードコート層用組成物5)
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(M403、東亜合成社製) 25質量部
ジペンタエリスリトールEO変性ヘキサアクリレート(A-DPH-6E、新中村化学社製) 25質量部
中実シリカ微粒子(平均粒子径12nm、MIBKSD、日産化学社製)
50質量部(固形換算)
フッ素系レベリング剤(F568、DIC社製) 0.2重量部(固形換算)
光重合開始剤(Irg184) 4重量部
溶剤(MIBK) 150質量部
(ハードコート層用組成物E)
ウレタンアクリレート(UV7600B、日本合成社製) 45質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート(M306、東亜合成社製) 45質量部
中実シリカ微粒子(平均粒子径12nm、MIBKSD、日産化学社製) 10質量部
防汚剤(オプツールDAC、ダイキン工業社製) 0.5質量部(固形換算)
光重合開始剤(Irg184) 4重量部
溶剤(MIBK) 150質量部」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲12発明を対比する。
(ア)甲12発明の「ポリイミドフィルム」「第一ハードコート層」「第二ハードコート層」は、それぞれ本件特許発明1の「シート状の基材」「下側ハードコート層」「上側ハードコート層」に相当する。また、甲12発明の「有機EL用積層体」はフィルム状であるといえるから、本件特許発明1の「防眩フィルム」とは、「フィルム」である点で共通する。
(イ)甲12発明の「第一ハードコート層」の厚み3μmは、「第二ハードコート層」の厚み2μmの150%であるから、甲12発明は、本件特許発明1の「前記下側ハードコート層の厚みが、前記上側ハードコート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値であ」るという要件を満たす。
(ウ)甲12発明の「第二ハードコート層」を形成する材料は、ウレタンアクリレート(UV7600B、日本合成社製)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(M306、東亜合成社製)、中実シリカ微粒子(平均粒子径12nm、MIBKSD、日産化学社製)、防汚剤(オプツールDAC、ダイキン工業社製)、光重合開始剤(Irg184)の5つであり、そのうちマトリクス樹脂を形成する材料は、ウレタンアクリレート(UV7600B、日本合成社製)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(M306、東亜合成社製)、光重合開始剤(Irg184)であり、その組成、及び、技術資料である甲15、16の記載からみて、それらの材料がチオール基を含むとはいえない。
また、技術資料である甲17、18の記載からみて、中実シリカ微粒子(平均粒子径12nm、MIBKSD、日産化学社製)、防汚剤(オプツールDAC、ダイキン工業社製)がチオール基を含むともいえない。
(エ)したがって、甲12発明の「第二ハードコート層」は、本件特許発明1の「ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1つであって、チオール基を含まない光硬化性樹脂又はチオール基を含まないオリゴマーの硬化物を、マトリクス樹脂として含み、」「チオール基を含まない層であ」るという要件を満たす。
(オ)甲12発明の「第一ハードコート層」は、中実シリカ微粒子(平均粒子径12nm、MIBKSD、日産化学社製)を含んでおり、当該中実シリカ微粒子は、本件特許発明1の「微粒子」に相当する。
イ 一致点・相違点
上記アによると、本件特許発明1と甲12発明は、下記(ア)の点において一致し、また、下記(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
「シート状の基材と、
前記基材に重ねて配置された下側ハードコート層と、
前記下側ハードコート層の前記基材側とは反対側に重ねて配置された上側ハードコート層と、を備え、
前記下側ハードコート層の厚みが、前記上側コート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値であり、
前記上側ハードコート層は、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1つであって、チオール基を含まない光硬化性樹脂又はチオール基を含まないオリゴマーの硬化物を、マトリクス樹脂として含み、
前記上側ハードコート層は、チオール基を含まない層であり、
前記下側ハードコート層は、微粒子を含む、フィルム。」
(イ)相違点
本件特許発明1は、「表面に凹凸が形成され」た「上側ハードコート層」を備え、「前記下側ハードコート層の厚みが、前記上側ハードコート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値であ」る「防眩フィルム」であるのに対し、甲12発明の「第一ハードコート層」の厚み3μmは、「第二ハードコート層」の厚み2μmの150%であるが、「第二ハードコート層」の「表面に凹凸が形成され」ているか記載はなく、「有機EL用積層体」が「防眩フィルム」であるか不明である点。
ウ 判断
上記相違点について検討する。
甲12発明の「第二ハードコート層」は、中実シリカ微粒子(平均粒子径12nm、MIBKSD、日産化学社製)を含んでいるが、その平均粒径は12nmであるから極めて微小であり、甲12発明(実施例9に係る有機EL用積層体の発明)において、当該微粒子により表面に凹凸が形成されている旨は甲12に記載されていない。
したがって、甲12発明の「第二ハードコート層」の表面に凹凸が形成されている蓋然性が高いとはいえないから、上記相違点は実質的な相違点である。
また、甲12には、以下の記載がある。
「【0093】
上記ハードコート層は、上記基材フィルムと反対側表面に凹凸形状を有していても、有していなくてもよいが、外光による反射や、画面のぎらつきを防ぐ等の視認性を向上させる観点からは、上記基材フィルム側と反対側表面に凹凸形状を有することが好ましい。
上記凹凸形状を有するハードコート層は、上記第一ハードコート層が基材フィルムと反対側表面に凹凸形状を有するものであっても良いし、上記第二ハードコート層の基材フィルムと反対側の面上に凹凸形状を有するものであっても良い。
・・・中略・・・
【0095】
上記ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側表面の凹凸形状は、防眩剤を含む組成物により形成したもの、樹脂の相分離により形成したもの、エンボス加工により形成したものであってもよい。
なかでも、上記ハードコート層の上記基材フィルム側と反対側表面の凹凸形状は、防眩剤を含むハードコート層用組成物により形成したものであることが好ましい。
上記防眩剤は微粒子であり、形状は、真球状、楕円状、不定形など、特に限定されない。
また、上記防眩剤として、無機系、有機系の微粒子を使用することができ、好ましくは透明性の微粒子がよい。」
上記記載からは、上記第一ハードコート層又は上記第二ハードコート層の基材フィルムと反対側の面上に、微粒子である防眩剤を含む組成物、樹脂の相分離、又は、エンボス加工により凹凸形状を形成することにより、防眩フィルムを構成することは記載されているが、甲12記載の実施例9である甲12発明には凹凸形状は形成されていないから、凹凸形状を形成する際各ハードコート層の厚みがどのようになるかは不明であり、各ハードコート層の厚みの関係と凹凸形状の形成するハードコート層を規定する上記相違点に係る構成を想到することが当業者にとって容易であったとはいえない。
また、甲12には、上記第一ハードコート層又は上記第二ハードコート層のどちらに凹凸形状を設け、その上で、上記第一ハードコート層及び上記第二ハードコート層の厚さをどのように規定すれば、どういう効果があるのかについては記載されていないから、上記相違点に係る上記第一ハードコート層及び上記第二ハードコート層の厚みの関係は維持し、かつ、上記第二ハードコート層の表面に凹凸形状を形成することを必須とすることの効果を予測することは、当業者にとって容易であったとはいえない。
一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防眩フィルムをディスプレイの表面に装着すると、ディスプレイからの出射光が、防眩フィルム表面の凹凸により屈折したり、防眩フィルム表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイの画素が拡大されて見えたりする。これにより、ギラツキが発生し、ディスプレイの見かけの表示性能が低下する。このギラツキは、ディスプレイが例えば400ppi以上の高精細画素を有する場合に顕著となる。
【0005】
ギラツキを抑制する方法としては、例えば、ディスプレイの画素サイズに合わせて防眩フィルム表面の凹凸を微細化する方法が挙げられる。この場合、特許文献1の構成では、防眩層を薄くして粒子の埋没を防ぐ必要がある。また特許文献2の構成では、共連続相構造部分を薄くして目的の凹凸形状をフィルム表面に形成し易くする必要がある。これにより、特許文献1及び2のいずれにおいても、防眩フィルムの硬度が低下し、防眩フィルムの耐久性が低下する。
【0006】
そこで本開示は、高精細画素を有するディスプレイの表面に防眩フィルムを装着する場合において、防眩性を得ると共にギラツキを良好に抑制し、且つ、防眩フィルムの硬度低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る防眩フィルムは、シート状の基材と、前記基材に重ねて配置された下側ハードコート層と、前記下側ハードコート層の前記基材側とは反対側に重ねて配置された上側ハードコート層と、を備え、前記下側ハードコート層の厚みが、前記上側ハードコート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値である。
【0008】
上記構成によれば、下側ハードコート層により上側ハードコート層を支持できる。また、下側ハードコート層とは個別に上側ハードコート層を構成できる。このため、上側ハードコート層を薄くして、上側ハードコート層の下側ハードコート層とは反対側に微細な凹凸形状を形成し易くできる。よって、高精細画素を有するディスプレイに防眩フィルムを装着したときに発生するギラツキを適切に抑制できる。また、下側ハードコート層の厚みが、上側ハードコート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値である。従って、この上側ハードコート層を薄くした場合でも、ハードコート層全体の厚みをある程度確保できる。これにより、ハードコート層の厚み不足による防眩フィルムの硬度低下を防止できる。よって、防眩フィルムの耐久性の低下を防止できる。」
これらの記載から、本件特許発明1は、甲12記載の「防眩剤を含む組成物により形成したもの、樹脂の相分離により形成した」ものにおいても生じる課題を解決しようとするものであって、その手段として「表面に凹凸が形成され」た「上側ハードコート層」を備え、「前記下側ハードコート層の厚みが、前記上側ハードコート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値」とすることにより、「上側ハードコート層を薄くして、上側ハードコート層の下側ハードコート層とは反対側に微細な凹凸形状を形成し易くできる。よって、高精細画素を有するディスプレイに防眩フィルムを装着したときに発生するギラツキを適切に抑制できる。また、下側ハードコート層の厚みが、上側ハードコート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値である。従って、この上側ハードコート層を薄くした場合でも、ハードコート層全体の厚みをある程度確保できる。これにより、ハードコート層の厚み不足による防眩フィルムの硬度低下を防止できる。」という顕著な効果を奏するものである。
したがって、甲12の記載事項に基づいたとしても、甲12発明の厚み3μmの「第一ハードコート層」の上に形成された、厚み2μmの「第二ハードコート層」の表面に凹凸形状を形成することが必須であるということを想到することが当業者にとって容易であったとはいえず、仮にそれ自体は当業者にとって一応容易であったとしても、本件特許発明1の構成によって奏される効果は、当業者が予測することができなかったものであって、かつ、その程度が顕著なものであることから、総合的にみて、本件特許発明1は、甲12発明、及び、甲12に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、申立人が提出した甲1~甲11、甲13~甲18にも上記事項及び効果は記載されていないから、本件特許発明1は、甲12に記載された発明、及び、甲1~甲11、甲13~甲18に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 小括
本件特許発明1は、甲12に記載された発明ではなく、甲1~甲18に記載された発明ないし技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明2~12について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~12は、いずれも、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~12は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲12に記載された発明ではなく、甲1~甲18に記載された発明ないし技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2~12も、甲12に記載された発明ではなく、甲1~甲18に記載された発明ないし技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~12に係る特許は、特許法29条1項3号、及び、2項の規定に違反してされたものではない。
2 サポート要件違反について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)サポート要件についての判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0006】の記載からみて、本件特許発明(上記「第2」参照)が解決しようとする課題は、「防眩性を得ると共にギラツキを良好に抑制し、且つ、防眩フィルムの硬度低下を防止すること」であると認められる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【実施例】【0120】~【0145】に記載された実施例、及び、比較例の評価結果に関する記載(特に【0141】~【0142】等)に基づけば、当業者は、請求項1~12に記載された発明特定事項を備える本件特許発明が、当該発明特定事項を備えないものに比べ、防眩性に優れ、ギラツキを良好に抑制し、且つ、防眩フィルムの硬度低下を防止するものであると認識することができるというべきである。
例えば、【0141】【表1】の実施例1~2、【0142】【表2】の比較例1は、上側ハードコート層の厚みが共に6μmであり、輝度分布の標準偏差が7.5と同一であるのに対し、下側ハードコート層の厚みが実施例1~2(10μm及び15μm)は比較例1の5μmと比べ厚いため、比較例1に比べ、実施例1~2は優れた防眩性は維持しつつ、鉛筆硬度を比較例1より高くできることが理解できる。
この結果は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0008】の
「上記構成によれば、下側ハードコート層により上側ハードコート層を支持できる。また、下側ハードコート層とは個別に上側ハードコート層を構成できる。このため、上側ハードコート層を薄くして、上側ハードコート層の下側ハードコート層とは反対側に微細な凹凸形状を形成し易くできる。よって、高精細画素を有するディスプレイに防眩フィルムを装着したときに発生するギラツキを適切に抑制できる。また、下側ハードコート層の厚みが、上側ハードコート層の厚みの少なくとも150%以上の範囲の値である。従って、この上側ハードコート層を薄くした場合でも、ハードコート層全体の厚みをある程度確保できる。これにより、ハードコート層の厚み不足による防眩フィルムの硬度低下を防止できる。よって、防眩フィルムの耐久性の低下を防止できる。」との記載とも整合する。
また、本件特許発明は「防眩フィルム」に係る発明であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0002】~【0005】の記載、及び、当業者の技術常識からみて、本件特許発明の「表面」に形成される「凹凸」の程度は、防眩性を確保するために必要な程度であることは明らかであるから、上側ハードコート層の表面に形成される凹凸が微細な凹凸であることを特定せずとも、「上側ハードコート層の下側ハードコート層とは反対側に微細な凹凸形状を形成し易くできる」との効果及び「ハードコート層全体の厚みをある程度確保できる。これにより、ハードコート層の厚み不足による防眩フィルムの硬度低下を防止できる。よって、防眩フィルムの耐久性の低下を防止できる。」との効果が得られると認められるところ、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
そうすると、本件特許発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明であると認められる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合する。
(3)まとめ
本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではない。
3 明確性要件違反について
(1)明確性要件の判断基準
特許法36条6項2号の定める要件を充足するか否かは、すなわち、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件についての判断
本件特許の本件特許の特許請求の範囲及び明細書には、「上側ハードコート層は、表面に凹凸が形成され」るという発明特定事項の「凹凸」の数値範囲についての記載はない。
しかしながら、本件特許発明は「防眩フィルム」に係る発明であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0002】~【0005】の記載、及び、当業者の技術常識からみて、本件特許発明の「表面」に形成される「凹凸」の程度は、「防眩フィルム」として機能する程度であることは当業者にとって明らかである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3)まとめ
本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではない。
第5 むすび
請求項1~12に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-701101