特許異議申立
2025-700351
防眩フィルム
- 審判番号
- 2025-700351
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-193926
- 登録番号
- 7557601
- 請求日
- 2025年03月27日
- 審決日
- 2025年07月28日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社ダイセル
- 【権利者代理人】弁理士法人有古特許事務所
- 【異議申立人】砂川 幸子
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 古屋野 浩志
- 審判官 河原 正
- 分類
- P1651.536-Y (G02B) / P1651.537-Y (G02B) / P1651.121-Y (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7557601号発明「防眩フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7557601号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7557601号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願(特願2023-193926号)は、令和5年11月14日を出願日とする特許出願であって、令和6年9月18日にその特許権の設定登録がされ、令和6年9月27日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和7年3月27日に、本件特許の請求項1~10に係る特許に対し、特許異議申立人 砂川 幸子(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
特許第7557601の請求項1~10の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明10」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
式1に示す関係を満たし、且つ、面内に複屈折率を有する二軸延伸フィルムである基材フィルムと、
前記基材フィルムに重ねて配置された防眩層と、を備え、
前記防眩層の前記基材フィルム側とは反対側の表面は、
短波長のカットオフ値λsを50μmに設定したときのフラクタルパラメーターであるSafcが、0.02以上1.00以下の範囲の値であり、且つ、
長波長のカットオフ値λcを25μmに設定し且つ短波長のカットオフ値λsを2.6μmに設定したときのSmr1が、14%以上50%以下の範囲の値である凹凸形状を有する、防眩フィルム。
[式1]
基材フィルム厚みD(m)×リタデーションRe(m)≧1.0×10-10(m2)
【請求項2】
前記基材フィルムは、ポリエステルフィルムを含む、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
前記防眩層の前記基材フィルム側とは反対側の表面は、前記Smr1が、30%以下の範囲の値である、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項4】
前記Safcが、0.50以下の範囲の値である、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項5】
前記基材フィルム厚みDが、50μm以上125μm以下の範囲の値である、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項6】
前記防眩層は、複数の樹脂成分を含み、当該複数の樹脂成分の相分離構造を有する、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項7】
前記防眩層は、マトリクス樹脂と、前記マトリクス樹脂に分散された複数の微粒子を含む微粒子分散構造を有する、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項8】
前記防眩層の前記基材フィルム側とは反対側に重ねて配置された反射防止層を更に備える、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の防眩フィルムと、
前記防眩フィルムに重ねて配置された偏光板と、を備える、光学部材。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の防眩フィルムと、
前記防眩フィルムに重ねて配置された偏光板と、
前記防眩フィルムと前記偏光板とに重ねて配置された表示素子と、を備える、表示装置。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和7年3月27日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(進歩性)
特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 申立理由2(委任省令要件)
本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1~10に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないため、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1~10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法36条第6項1号に規定する要件を満たしていないため、特許法第113条第4号に該当するから、取り消すべきものである。
4 証拠方法
甲1:国際公開第2019/026470号(異議申立人が提出した「甲第1号証」。以下、「甲1」と略し、甲第2号証~甲第14号証についても同様とする。)
甲2:「二軸延伸ポリエステルフィルム ダイアホイルTM」,[online],三菱ケミカル株式会社,[取得日 2025年3月15日],1/6~6/6頁,取得先<https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/pf/product/1200426_7214.html>
甲3:特開2014-98771号公報
甲4:「アクリル系オリゴマー:サイクロマーP(ACA)」,[online],ダイセル・オルネクス株式会社,[取得日 2025年3月15日],1/4~4/4頁(特に、2/4頁、4/4頁),取得先<https://www.daicel-allnex.com/products/product05.html>
甲5:「Omnirad 184(former Irgacure 184)」,[online],豊通ケミプラス株式会社,[取得日 2025年3月15日],1/2~2/2頁,取得先<https://www.tenkazai.com/product-igm/omnirad184.html>
甲6:「Omnirad 907(former Irgacure 907)」,[online],豊通ケミプラス株式会社,[取得日 2025年3月15日],1/2~2/2頁,取得先<https://www.tenkazai.com/product-igm/omnirad907.html>
甲7:特開2022-148416号公報
甲8:「PETフィルム」,「ダイアホイル主要タイプ」,[online],日新化成株式会社,[取得日 2025年3月14日],1/2~2/2頁,取得先<https://www.nisshinkasei.co.jp/sangyo/sangyo_pet.html>
甲9:特開2014-16602号公報
甲10:特開2022-82580号公報
甲11:「フラクタルって知っていますか-1.26次元や1.58次元の図形ってどんなものなのだろう-」,[online],株式会社ニッセイ基礎研究所,[取得日 2025年3月19日],1/6~6/6頁,取得先<https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=68116?site=nli>
甲12:国際公開第2013/080949号
甲13:特開2000-94565号公報
甲14:松本 喜代一 著,「光干渉発色性フィルム」,色材,一般社団法人色材協会,1990年7月20日発行,第63巻,第7号,411-418頁
第4 進歩性(特許法第29条第2項)についての判断
1 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
(1) 甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は、ディスプレイ表面への外光の映り込みを防止する防眩フィルムに関する。
・・・略・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005] 防眩フィルムをディスプレイの表面に装着すると、ディスプレイへの外光の映り込みが防止される反面、防眩フィルムを介したディスプレイの表示性能が低下する場合がある。
[0006] 特に、高精細画素を有するディスプレイ等の表面に防眩フィルムを装着すると、防眩フィルムを透過するディスプレイからの光が防眩フィルムの表面の凹凸により屈折したり、防眩フィルムの表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイの画素が拡大されて見えたりすることで、ギラツキが発生し、画像が見づらくなることがある。
[0007] ギラツキを抑制する方法としては、例えば、防眩フィルムの表面の凹凸を小さくすることが考えられるが、防眩フィルムの表面の凹凸を小さくすると防眩性が低下するおそれがある。
[0008] そこで本発明は、ディスプレイのギラツキを適切に抑制させると共に良好な防眩性を有する防眩フィルムを提供することを目的としている。
課題を解決するための手段
[0009] 本発明のある形態に係る防眩フィルムは、ディスプレイの表面に装着される防眩フィルムであって、前記ディスプレイの前記表面に装着した状態における前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値に基づき規定されるギラツキ値が10以下となる範囲の値であり、60度鏡面光沢で測定された鏡面光沢度が40%以下となる範囲の値であり、かつ光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が40%以下となる範囲の値に設定された防眩層を備える。
[0010] ここで、ギラツキ値とは、ディスプレイのギラツキを定量的に評価できる客観的指標となる値である。具体的には、ギラツキ値は、ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値に基づき規定される値であり、ディスプレイ上の輝点のばらつきの程度を示す。
[0011] また、透過鮮明度は防眩性の良否に関わる値であり、透過鮮明度が小さくなればなるほど防眩性が高くなるという関係がある。
[0012] これらギラツキ値、鏡面光沢度、および透過像鮮明度は、例えば相分離法により防眩層を形成する場合、その製造工程において、組み合わせる相分離材料の種類、または乾燥プロセスにおける組成物の加熱温度、組成物に対して吹き付ける乾燥空気の風量、もしくは線速度などを調整することで実現できる。また、例えば、微粒子分散法により防眩層を形成する場合、その製造工程において、マトリックス樹脂の屈折率とマトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子の屈折率との差が所定範囲となるように調整することで実現できる。また、マトリックス樹脂と微粒子との屈折率差を所定の範囲にするためには、両者に用いる材料として、所定の屈折率差となるような材料を選択したり、微粒子の形状、個数、マトリックス樹脂中に含まれる微粒子の密度などを調整したりする。さらには、マトリックス樹脂の重量G1と、複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1の値を調整する。
[0013] 上記構成によると、防眩層は、ギラツキ値が10以下となる範囲の値となるため、ギラツキを定量的な評価に基づき効果的に抑制したものとなるように設定することができる。
[0014] また、防眩層は、透過像鮮明度が40%以下となる範囲の値となるように設定されている。このため、防眩層は、防眩性の良否に関わる別の指標となるヘイズ値の大きさに関わらず高い防眩性を得ることができる。
[0015] さらにまた、60度鏡面光沢で測定された鏡面光沢度が40%以下となる範囲の値に設定されるため外光の映り込みを抑制することができる。
[0016] よって、本発明のある形態に係る防眩フィルムは、ディスプレイのギラツキを適切に抑制させると共に良好な防眩性を有することができるという効果を奏する。
[0017] また、本発明のある形態に係る防眩フィルムは、上記した構成において、前記防眩層は、複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有する構成であってもよい。
[0018] また、本発明のある形態に係る防眩フィルムは、上記した構成において、前記防眩層は、マトリクス樹脂と、該マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み、前記微粒子と前記マトリクス樹脂との屈折率差が0以上0.07以下の範囲の値であってもよい。
[0019] このように、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差を所定範囲に設定して、マトリクス樹脂中に複数の微粒子を分散させることにより、ディスプレイのギラツキを適切に抑制させると共に良好な防眩性を有することができる。
[0020] また、本発明のある形態に係る防眩フィルムは、上記した構成において、前記防眩層の前記マトリクス樹脂の重量G1と、前記防眩層に含まれる前記複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1が、0.03以上0.20以下の範囲の値であってもよい。
[0021] これにより、マトリクス樹脂に複数の微粒子が分散された構造の防眩層を有する防眩フィルムを良好に製造することができる。
発明の効果
[0022] 本発明は以上に説明したように構成され、防眩フィルムは、ディスプレイのギラツキを適切に抑制させると共に良好な防眩性を有することができるという効果を奏する。
・・・略・・・
発明を実施するための形態
[0024] 本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る防眩フィルム1の構成を示す断面図である。防眩フィルム1は、表示装置16(図3参照)のディスプレイ16aの表面に装着される。防眩フィルム1は、基材フィルム2、防眩層3、および粘着層4を備える。
[0025] 基材フィルム2は、ディスプレイ16aの表面と防眩層3との間に配置され、防眩層3を支持する。粘着層4は、ディスプレイ16aの表面と基材フィルム2との間に配置され、防眩フィルム1をディスプレイ16aの表面に固定する。
[0026] 防眩層3は、基材フィルム2の少なくとも一方の面に形成されている。防眩層3は、防眩フィルム1に防眩性を付与し、外光を散乱反射させてディスプレイ16aへの外光の映り込みを防止する。防眩層3は、基材フィルム2の表面を覆うハードコート(HC)層としても機能する。防眩層3は、一例として、相分離可能な複数の樹脂成分を含む。」
ここで、図1は、以下のものである。
[図1]
[図:0001425800000001.jpg]
イ 「[0034] 以下、基材フィルム2および防眩層3の具体例について説明する。なお、相分離法により形成された防眩層3を第1実施形態に係る防眩層3とし、微粒子分散法により形成された防眩層3を第2実施形態に係る防眩層3とし・・・略・・・てそれぞれ説明する。
[0035] [基材フィルム]
基材フィルム2の材質としては、例えば、・・・略・・・樹脂が例示できる。樹脂としては、防眩層3の材質と同様の樹脂を使用できる。好ましい基材フィルム2の材質としては、透明性ポリマー、例えば、・・・略・・・、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアリレート系樹脂等)・・・略・・・が挙げられる。
[0036] 基材フィルム2は、1軸又は2軸延伸されていてもよいが、光学的に等方性で低屈折率であることが好ましい。光学的に等方性の基材フィルム2としては、未延伸フィルムが例示できる。
[0037] 基材フィルム2の厚み寸法は適宜設定可能であるが、例えば、5μm以上2000μm以下の範囲の値であることが望ましく、・・・略・・・20μm以上500μm以下の範囲の値であることがより望ましい。
[0038] (第1実施形態)
[第1実施形態に係る防眩層の構造]
第1実施形態に係る防眩層3は、複数の樹脂成分の相分離構造を有する。第1実施形態に係る防眩層3は、一例として、複数の樹脂成分の相分離構造により、複数の長細状(紐状又は線状)凸部が表面に形成された構造を有する。長細状凸部は分岐しており、密な状態で共連続相構造を形成している。
[0039] 第1実施形態に係る防眩層3は、複数の長細状凸部、および隣接する長細状凸部間に位置する凹部により防眩性を発現する。防眩フィルム1は、このような防眩層3を備えることで、ヘイズ値と透過像鮮明度とのバランスに優れたものとなっている。第1実施形態に係る防眩層3の表面は、長細状凸部が略網目状に形成されることにより、網目状構造、言い換えると、連続し又は一部欠落した不規則な複数のループ構造を有する。
[0040] 第1実施形態に係る防眩層3にこのような構造が形成されることで、この防眩層3にレンズ状(海島状)の凸部が形成されることを防止することができる。よって、第1実施形態に係る防眩層3を透過するディスプレイ16aからの光が防眩層3の表面の凹凸により屈折したり、防眩層3の表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイ16aの画素が拡大されて見えたりすることを防止し、ディスプレイ16aのギラツキを抑制することができる。これにより、高精細画素を有するディスプレイ16aに防眩フィルム1を装着しても、防眩性を確保しながらギラツキを高度に抑制でき、文字ボケ等も抑制できる。
[0041] ・・・略・・・第1実施形態に係る防眩層3の相分離構造は、後述するように、この防眩層3の原料となる溶液を用いて、液相からのスピノーダル分解(湿式スピノーダル分解)により形成される。
・・・略・・・
[0042] [第1実施形態に係る防眩層の材質]
第1実施形態に係る防眩層3が含む複数の樹脂成分は、相分離可能なものであればよい。長細状凸部が形成され且つ高い耐擦傷性を有する防眩層3を得る観点から、防眩層3が含む複数の樹脂成分は、ポリマーおよび硬化性樹脂を含むことが好ましい。
[0043] 第1実施形態に係る防眩層3が含むポリマーとしては、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、・・・略・・・セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類等)・・・略・・・等を例示できる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上の組み合わせで使用できる。
[0044] またポリマーとしては、硬化反応に関与する官能基、または硬化性化合物と反応する官能基を有するものも挙げられる。このポリマーは、官能基を主鎖又は側鎖に有していてもよい。
[0045] 前記官能基としては、縮合性基、反応性基・・・略・・・、ならびに重合性基・・・略・・・が挙げられる。これらの官能基のうち、重合性基が好ましい。
[0046] また第1実施形態に係る防眩層3には、複数種類のポリマーが含まれていてもよい。これらの各ポリマーは、液相からのスピノーダル分解により相分離可能であってもよいし、互いに非相溶であってもよい。複数種類のポリマーに含まれる第1のポリマーと第2のポリマーとの組み合わせは特に制限されないが、加工温度付近で互いに非相溶なものを使用できる。
・・・略・・・
[0048] また、第1のポリマーがセルロース誘導体(例えば、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル類)である場合、第2のポリマーは、スチレン系樹脂(ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体等)、(メタ)アクリル系樹脂・・・略・・・等であってもよい。
・・・略・・・
[0050] ここで、第1実施形態に係る防眩層3の相分離構造は、この防眩層3の製造時に、複数の樹脂成分に含まれていた硬化性樹脂の前駆体が活性エネルギー線(紫外線、電子線等)または熱等により硬化することで固定される。また、このような硬化性樹脂により、第1実施形態に係る防眩層3に耐擦傷性および耐久性が付与される。
[0051] 耐擦傷性を得る観点から、複数種類のポリマーに含まれる少なくとも一つのポリマーは、硬化性樹脂前駆体と反応可能な官能基を側鎖に有するポリマーであることが好ましい。
・・・略・・・
[0054] 好ましい硬化性樹脂前駆体としては、紫外線または電子線等により短時間で硬化する光硬化性化合物が挙げられる。このうち、特に紫外線硬化性化合物が実用的である。耐擦傷性等の耐性を向上させるため、光硬化性化合物は、分子中に2以上(好ましくは2~15、更に好ましくは4~10程度)の重合性不飽和結合を有することが好ましい。具体的に光硬化性化合物は、・・・略・・・ウレタン(メタ)アクリレート、・・・略・・・シリコーン(メタ)アクリレート、および少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する多官能性単量体であることが好ましい。
・・・略・・・
[0057] 第1実施形態に係る防眩層3の製造工程では、この防眩層3の原料となる溶液に含まれるポリマーと硬化性樹脂前駆体のうち、少なくとも2つの成分を、加工温度付近で互いに相分離させる組み合わせとして使用する。相分離させる組み合わせとしては、例えば、(a)複数種類のポリマー同士を互いに非相溶で相分離させる組み合わせ、(b)ポリマーと硬化性樹脂前駆体とを非相溶で相分離させる組み合わせや、(c)複数の硬化性樹脂前駆体同士を互いに非相溶で相分離させる組み合わせ等が挙げられる。これらの組み合わせのうち、通常は、(a)複数種類のポリマー同士の組み合わせ、または(b)ポリマーと硬化性樹脂前駆体との組み合わせが挙げられ、特に(a)複数種類のポリマー同士の組み合わせが好ましい。
・・・略・・・
[0066] 第1実施形態に係る防眩フィルム1の製造方法は、一例として、第1実施形態に係る防眩層3の原料となる溶液(以下、単に溶液とも称する。)を調製する調製工程と、調製工程で調製した溶液を所定の支持体(第1実施形態では基材フィルム2)の表面に塗布し、溶液中の溶媒を蒸発させると共に、液相からのスピノーダル分解により相分離構造を形成する形成工程と、形成工程後に硬化性樹脂前駆体を硬化する硬化工程とを有する。
[0067] [調製工程]
調製工程では、溶媒と、第1実施形態に係る防眩層3を構成するための樹脂組成物と、を含む溶液を調製造する。溶媒は、前述した防眩層3に含まれるポリマーおよび硬化性樹脂前駆体の種類ならびに溶解性に応じて選択できる。溶媒は、少なくとも固形分(複数種類のポリマーおよび硬化性樹脂前駆体、反応開始剤、ならびにその他添加剤)を均一に溶解できるものであればよい。
[0068] 溶媒としては、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、・・・略・・・アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等)・・・略・・・等が例示できる。また、溶媒は混合溶媒であってもよい。
[0069] 樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂、光硬化性化合物、光重合開始剤、および熱可塑性樹脂と光硬化性化合物とを含む組成物が望ましい。または樹脂組成物としては、互いに非相溶な複数種類のポリマー、光硬化性化合物、および光重合開始剤を含む組成物が望ましい。
・・・略・・・
[0071] [形成工程]
形成工程では、調製工程で調製した溶液を、支持体(ここでは一例として基材フィルム2)の表面に流延または塗布する。
・・・略・・・
[0072] 支持体の表面に流延または塗布した溶液から、溶媒を乾燥により蒸発させて除去する。この蒸発過程における溶液の濃縮に伴って、複数の樹脂成分の液相からのスピノーダル分解による相分離を生じさせ、相間距離(ピッチ又は網目径)が比較的規則的な相分離構造を形成する。長細状凸部の共連続相構造は、溶媒蒸発後の樹脂成分の溶融流動性がある程度高くなるような乾燥条件および処方を設定することにより作製できる。
[0073] 溶媒の蒸発は、第1実施形態に係る防眩層3の表面に長細状凸部を形成し易い点から、加熱乾燥により行うのが好ましい。乾燥温度が低過ぎたり、乾燥時間が短過ぎたりすると、樹脂成分に対する熱量の付与が不十分となり、樹脂成分の溶融流動性が低下して、長細状凸部の形成が困難となるおそれがあるため留意する。
[0074] 一方、乾燥温度が高過ぎたり、乾燥時間が長過ぎたりすると、一旦形成された長細状凸部が流動して高さが低下する場合があるものの、その構造は維持される。そのため、防眩層3のギラツキ値、鏡面光沢度、透過像鮮明度、およびヘイズ値が、上記した条件を満たすような範囲の値となるように設定するために、相分離材料の組合せを調整することに加えて、乾燥温度および乾燥時間を調整し長細状凸部の高さ等を調整することによって実現できる。また形成工程では、溶媒の蒸発温度を高くしたり、樹脂成分に粘性の低い成分を用いたりすることにより、相分離構造が繋がった共連続相構造を作製できる。
[0075] 複数の樹脂成分の液相からのスピノーダル分解による相分離の進行に伴って、共連続相構造が形成されて粗大化すると、連続相が非連続化し、液滴相構造(球状、真球状、円盤状や楕円体状等の独立相の海島構造)が形成される。ここで、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構造との中間的構造(共連続相から液滴相に移行する過程の相構造)も形成することができる。溶媒除去後、表面に微細な凹凸を有する層が形成される。
[0076] [硬化工程]
硬化工程では、溶液に含まれていた硬化性樹脂前駆体を硬化させることで、形成工程で形成された相分離構造を固定化し、第1実施形態に係る防眩層3を形成する。硬化性樹脂前駆体の硬化は、硬化性樹脂前駆体の種類に応じて、加熱若しくは活性エネルギー線の照射、またはこれらの方法の組み合わせにより行うことができる。照射する活性エネルギー線は、光硬化成分等の種類に応じて選択する。
[0077] 活性エネルギー線の照射は、必要に応じて不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。活性エネルギー線が紫外線である場合、光源として、遠紫外線ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ・・・略・・・等を用いることができる。
・・・略・・・
[0080] ここで、ディスプレイ16aのギラツキを抑制する方法としては、例えば防眩層の表面の凹凸を縮小することが考えられるが、防眩フィルムの防眩性が低下するおそれがある。しかしながら、防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やすことで、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させることができる。
[0081] 第1実施形態において前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できるが、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例えば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形成できる。そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
・・・略・・・
[0083] (第2実施形態)
第2実施形態に係る防眩層3は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含む。複数の微粒子は、真球状に形成されているが、これに限定されず、実質的な球形状や楕円体形状に形成されていてもよい。また微粒子は、中実に形成されているが、中空に形成されていてもよい。微粒子が中空に形成されている場合、微粒子の中空部には、空気またはその他の気体が充填されていてもよい。第2実施形態に係る防眩層3には、各微粒子が一次粒子として分散していてもよいし、複数の微粒子が凝集して形成された複数の二次粒子が分散していてもよい。」
ウ 「[0137] (実施例および比較例)
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[0138] 実施例1から5は、相分離法によって作製された、ギラツキ値が10以下、鏡面光沢度(60度グロス)が40%以下、かつ光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度(像鮮明度)が40%以下となる条件を満たす防眩フィルム1の一例である。換言すると、実施例1から5は、相分離法により防眩フィルム1の表面に形成される凹凸形状によって上記した条件を満たすことができる防眩フィルム1の一例である。
・・・略・・・
[0141] [原料]
実施例および比較例で用いる各原料には、次のものを用いた。なお、以下において記載する屈折率は、架橋により硬化するものについては架橋後(硬化後)の屈折率を示す。
重合性基を有するアクリル系重合体:ダイセル・オルネクス(株)製「サイクロマーP」(屈折率1.51)
セルロースアセテートプロピオネート:イーストマン社製「CAP-482-20」(屈折率1.49)、アセチル化度=2.5%、プロピオニル度=46%、ポリスチレン換算の数平均分子量75000
・・・略・・・
シリコーンアクリレート:ダイセル・オルネクス(株)製「EB1360」(屈折率1.52)
ウレタンアクリレート:新中村化学工業(株)製「UA-53H」(屈折率1.52)
・・・略・・・
アルキルフェノン系光重合開始剤(光重合開始剤A):BASF製「IRGACURE 184」
アルキルフェノン系光重合開始剤(光重合開始剤B):BASF製「IRGACURE 907」
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム:三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」
・・・略・・・
[0142] [実施例1]
重合性基を有するアクリル系重合体50質量部、セルロースアセテートプロピオネート4質量部、ウレタンアクリレート76質量部、シリコーンアクリレート1質量部、光重合開始剤A1質量部、および光重合開始剤B1質量部を、メチルエチルケトン176質量部と1-ブタノール28質量部とを混合させた溶媒に溶解し、溶液を調整した。
[0143] この溶液を、ワイヤーバー(#18)を用いて、PETフィルム(基材フィルム2)上に流延した後、80℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約9μmのコート層を形成した。そして、例えば、高圧水銀ランプ等の紫外線ランプにより紫外線をコート層に約5秒間照射して、コート層を紫外線硬化処理した。これにより防眩層3を形成し、実施例1の防眩フィルムを得た。
・・・略・・・
[0167] また、実施例1~6および比較例1~5の各防眩フィルムは、以下の項目を測定して評価した。
[0168] [ヘイズおよび全光線透過率]
ヘイズメーター(日本電色(株)製、NDH-5000W)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。ヘイズは、凹凸構造を有する表面が受光器側となるように配置して測定した。
[0169] [透過像鮮明度]
写像測定器(スガ試験機(株)製、ICM-1T)を用いて、JIS K7105に準拠し、防眩フィルムの製膜方向と光学櫛の櫛歯の方向とが平行になるように防眩フィルムを設置して測定した。光学櫛幅は、0.5mmとした。
[0170] [60度グロス]
グロスメーター((株)堀場製作所製、IG-320)を用いて、JlS K7105に準拠し、角度60°で測定した。
[0171] [ディスプレイの輝度分布の標準偏差(ギラツキ値)]
表示装置16として、スマートフォン(三星電子(株)製「Galaxy S4」)を用い、そのディスプレイ16aの表面に、各サンプルの防眩フィルムを光学糊により貼り付けた。なお、このスマートフォンのディスプレイ16aの解像度は441ppiとなる。そして、コマツNTC(株)製のギラツキ検査機10を用い、各サンプルの防眩フィルムを介して、ディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差(ギラツキ値)を測定した。この測定に際しては、8ビット階調表示でかつ平均輝度が170階調のグレースケール画像の画像データが得られるように、撮像装置12の露光時間またはディスプレイ16aの全画素の輝度の少なくともいずれかを調整した。
[0172] ここで上記した項目に対する各測定結果を表1に示す。
[0173]
[表1]
[図:0001425800000002.jpg]
[0174] 表1に示すように、実施例1から5の原料および作製条件に基づく相分離法および実施例6の原料および作製条件に基づく微粒子分散法によって、上記した条件(ギラツキ値が10以下、鏡面光沢度が40%以下、透過像鮮明度が40%以下)を満たす防眩フィルムを得ることができた。
[0175] すなわち、組み合わせる相分離材料の種類、または乾燥プロセスにおける組成物の加熱温度、組成物に対して吹き付ける乾燥空気の風量、もしくは線速度などを実施例1から5のように設定することで、上記条件を満たすような凹凸形状を防眩フィルム1の表面に形成することができることが分かった。」
(合議体注:「(株)掘場製作所」は「(株)堀場製作所」の明らかな誤記であると認める。また、表1は、便宜のため、時計回りに90度回転させている。)
(2) 甲1に記載された発明
ア [0141]の記載から、実施例1で用いた「PETフィルム(基材フィルム2)」は、「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム:三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」」であると理解できる。
イ 上記(1)及び上記アより、甲1には、実施例1の「防眩フィルム」の発明として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(合議体注:参考のため、引用発明の認定に使用した記載の段落番号を、()括弧内に記載している。)。
「重合性基を有するアクリル系重合体(ダイセル・オルネクス(株)製「サイクロマーP」(屈折率1.51))50質量部、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマン社製「CAP-482-20」(屈折率1.49)、アセチル化度=2.5%、プロピオニル度=46%、ポリスチレン換算の数平均分子量75000)4質量部、ウレタンアクリレート(新中村化学工業(株)製「UA-53H」(屈折率1.52))76質量部、シリコーンアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製「EB1360」(屈折率1.52))1質量部、光重合開始剤A(BASF製「IRGACURE 184」)1質量部、および光重合開始剤B(BASF製「IRGACURE 907」)1質量部を、メチルエチルケトン176質量部と1-ブタノール28質量部とを混合させた溶媒に溶解し、溶液を調整し、([0141],[0142])
この溶液を、ワイヤーバー(#18)を用いて、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」)(基材フィルム2)上に流延した後、80℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約9μmのコート層を形成し、紫外線ランプにより紫外線をコート層に約5秒間照射して、コート層を紫外線硬化処理し、これにより防眩層3を形成して、
得られた防眩フィルムであって、([0141],[0143])
下記の定義によるヘイズ(%)は、43.8%であり、
下記の定義による透過像鮮明度(%)は、4.5%であり、
下記の定義により60度グロス(%)は、12%であり、
下記の定義によるギラツキ値は、8.2である、([0173][表1])
防眩フィルム。
[ヘイズ]
ヘイズメーター(日本電色(株)製、NDH-5000W)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。ヘイズは、凹凸構造を有する表面が受光器側となるように配置して測定した。([0168])
[透過像鮮明度]
写像測定器(スガ試験機(株)製、ICM-1T)を用いて、JIS K7105に準拠し、防眩フィルムの製膜方向と光学櫛の櫛歯の方向とが平行になるように防眩フィルムを設置して測定した。光学櫛幅は、0.5mmとした。([0169])
[60度グロス]
グロスメーター((株)堀場製作所製、IG-320)を用いて、JlS K7105に準拠し、角度60°で測定した。([0170])
[ディスプレイの輝度分布の標準偏差(ギラツキ値)]
表示装置16として、スマートフォン(三星電子(株)製「Galaxy S4」)を用い、そのディスプレイ16aの表面に、各サンプルの防眩フィルムを光学糊により貼り付けた。なお、このスマートフォンのディスプレイ16aの解像度は441ppiとなる。そして、コマツNTC(株)製のギラツキ検査機10を用い、各サンプルの防眩フィルムを介して、ディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差(ギラツキ値)を測定した。この測定に際しては、8ビット階調表示でかつ平均輝度が170階調のグレースケール画像の画像データが得られるように、撮像装置12の露光時間またはディスプレイ16aの全画素の輝度の少なくともいずれかを調整した。([0171])」
2 本件特許発明1について
(1) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「防眩フィルム」は、「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」)(基材フィルム2)上に」、「厚さ約9μmのコート層を形成し」、「コート層を紫外線硬化処理し、これにより防眩層3を形成し」たものである。
イ 上記アより、甲1発明の「防眩層3」は、本件特許発明1の「防眩層」に相当する。
ウ 甲1発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」)(基材フィルム2)」は、本件特許発明1の、「基材フィルム」に相当する。
エ 上記ア~ウより、甲1発明の「防眩フィルム」は、本件特許発明1の「防眩フィルム」に相当する。また、本件特許発明1と、甲1発明は、「前記基材フィルムに重ねて配置された防眩層と、を備え」ている点で共通する。
(2) 一致点及び相違点
上記(1)より、本件特許発明1と、甲1発明は、
「基材フィルムと、
前記基材フィルムに重ねて配置された防眩層と、を備えた、防眩フィルム。」の構成で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
「基材フィルム」が、本件特許発明1においては、「式1に示す関係を満たし、且つ、面内に複屈折率を有する二軸延伸フィルムである」のに対しては、甲1発明においては、そのようなものであるかどうか不明である点。
(合議体注:[式1]は、「基材フィルム厚みD(m)×リタデーションRe(m)≧1.0×10-10(m2)」である。)
(相違点2)
「前記防眩層の前記基材フィルム側とは反対側の表面」は、本件特許発明1においては、「短波長のカットオフ値λsを50μmに設定したときのフラクタルパラメーターであるSafcが、0.02以上1.00以下の範囲の値であり」、且つ、「長波長のカットオフ値λcを25μmに設定し且つ短波長のカットオフ値λsを2.6μmに設定したときのSmr1が、14%以上50%以下の範囲の値である凹凸形状を有する」のに対して、甲1発明においては、「Safc」及び「Smr1」が不明である点。
(3) 判断
ア 相違点2について
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
(ア) 甲1でいう本発明は、「ディスプレイの表面に装着される防眩フィルムであって、前記ディスプレイの前記表面に装着した状態における前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値に基づき規定されるギラツキ値が10以下となる範囲の値であり、60度鏡面光沢で測定された鏡面光沢度が40%以下となる範囲の値であり、かつ光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が40%以下となる範囲の値に設定された防眩層を備え」ることにより、「ディスプレイのギラツキを適切に抑制させると共に良好な防眩性を有する防眩フィルムを提供する」との課題を解決したものであるところ([0008]~[0009])、
甲1発明(実施例1)は、防眩層が相分離法によって作製され([0138])、「防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やすことで、(解像度が441ppiの高精細画素を有する)ディスプレイのギラツキを抑制(ギラツキ値8.2)しながら防眩性を向上(ヘイズ43.8%、透過像鮮明度4.5%、60度グロス12%)させ」たものである([0006]、[0080]~[0081]、[0171]、[0173][表1]等)。
しかしながら、防眩層が、相分離法によって作製され、防眩層の凹凸が縮小され、傾斜が高くされ、急峻化され、数が増やされたからといって、あるいは、上記のギラツキ値、ヘイズ、透過像鮮明度及び60度グロスを示すからといって、防眩層の凹凸が、短波長のカットオフ値λsを50μmに設定したときのフラクタルパラメーターであるSafcが0.02以上1.00以下の範囲の値であり、且つ、長波長のカットオフ値λcを25μmに設定し且つ短波長のカットオフ値λsを2.6μmに設定したときのSmr1が、14%以上50%以下の範囲の値である凹凸形状を有する蓋然性が高いとはいえない。
してみると、相違点2は実質的な相違点である。
(イ) また、本件特許発明は、「複雑な表面形状である」かを評価するパラメータ「Safc(Areal fractal complexity)」等に着目し、「前記Safcの測定の際の短波長のカットオフ値λsを50μmに設定することで、例えば、防眩層4の表面4aの虹ムラには影響のない凹凸形状を除去できる。また例えば、短波長のカットオフ値λsを50μmに設定したときの前記Safcの値が高いほど、防眩層4の表面4aの凹凸形状は、自己相似性が高く且つ微細構造を有するようになる。これにより、防眩層4の表面4aで透過光を散乱させて、虹ムラを抑制し易くできる。」(本件特許明細書【0018】~【0019】)等の知見に基づき複雑な表面形状を特定するものであるのに対し、甲1には、短波長のカットオフ値λsを50μmに設定したときのフラクタルパラメーターであるSafc、あるいは、長波長のカットオフ値λcを25μmに設定し且つ短波長のカットオフ値λsを2.6μmに設定したときのSmr1に着目し、これらのSafcあるいはSmr1を所定の範囲に制御するとの技術思想については記載も示唆もされていないから、甲1発明において、相違点2に係る構成とする動機付けはない。
してみると、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることが当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(ウ) 異議申立書における異議申立人の主張について
a 異議申立人は、異議申立書39~46頁「(2-1)本件発明1について」「(b)相違点2の検討」において、概略、
甲1発明と、本件特許明細書の実施例5(以下「本件特許実施例5」という。)とを対比すると、
防眩層形成用の溶液について、
(A) セルロースアセテートプロピオネート、シリコーンアクリレート、溶媒(メチルエチルケトン、1-ブタノール)に関して、材料及び含有量が一致し、
(B) 重合性基を有するアクリル系重合体に関して、重合性基を有するアクリル系重合体である点で一致し、
甲3の【0131】、甲4の2頁の記載から、「サイクロマーP」の希釈溶剤は通常はプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)であり、甲4の4頁から、希釈溶剤として、PGMを用いている品番は固形分が49~53%であるため、甲1発明の「重合性基を有するアクリル系重合体(ダイセル・オルネクス(株)製「サイクロマーP」(屈折率1.51))」の固形分は49~53%程度と推定され、
したがって、重合性基を有するアクリル系重合体に関して、甲1発明と、本件特許実施例5は、ダイセル・オルネクス(株)製又はダイセル(株)製の重合性基を有するアクリル系重合体であって、商品名が「サイクロマーP」であり、溶剤がPGMである点で一致し、固形分も近接し(甲1発明は49~53%程度、本件特許実施例5は40%)、
(C) ウレタンアクリレートに関して、ウレタンアクリレートである点、及び、含有量が一致し(但し、ウレタンアクリレートの商品名は相違している。)、
(D) 甲5及び甲6より、光重合開始剤については、材料が一致し、含有量も近接し、
(E) 上記(A)~(D)より、甲1発明と本件特許実施例5は、溶液の組成がほぼ同様である、
防眩層形成工程について、
(F) 基材上に溶液を流延している点で一致し、基材としてPETフィルム(三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」)を用いている点で一致し、
(G) 「80℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させ」る点で一致し、厚さも近接し、
(H) 高圧水銀ランプ等の紫外線ランプにより紫外線をコート層に照射して、コート層を紫外線硬化処理する点で一致し(但し、甲1発明の紫外線照射の詳細な条件は不明)、
(I) 上記(F)~(H)より、甲1発明と本件特許実施例5は、防眩層形成工程がほぼ同様であり、
本件特許明細書の【0026】~【0064】の記載から、溶液の組成及び防眩層形成工程がほぼ同様であるから、甲1発明は、相違点2に係る構成を満たす蓋然性が高い、
よって、相違点2に係る構成は実質的な相違点ではない、
と主張する。
また、異議申立人は、異議申立書44~46頁において、<補足>として、概略、
(J) 溶液に関して、甲1発明と本件特許実施例5とは「ウレタンアクリレート」の商品名が相違する、
しかし、本件特許明細書にはウレタンアクリレートの違いが防眩層の表面形状に与える影響を理解できる記載はないため、商品名が付されて通常に入手できる汎用のウレタンアクリレートであれば、防眩層の表面形状に与える影響は軽微であると思料され、
よって、溶液のウレタンアクリレートの商品名が相違することは、上述した同一の蓋然性の判断に影響を与えない、
(K) 甲1発明は、紫外線照射の詳細な条件が不明であるが、本件明細書の【0063】の記載から、防眩層の相分離構造による表面形状は、塗膜乾燥段階で形成されており、硬化工程は表面形状に影響しないといえ、甲1発明の紫外線照射の詳細な条件が不明であることは上述した同一の蓋然性の判断に影響を与えない、
と主張する。
b(a) しかしながら、上記(C)及び(J)の主張について、甲1発明のウレタンアクリレート(新中村化学工業(株)製「UA-53H」)は、重量平均分子量2300の15官能ウレタンアクリレートオリゴマーである(例えば、特開2019-64086号公報の【0065】の「15官能ウレタンアクリルオリゴマー(新中村化学社製、商品名:NK オリゴ UA-53H、重量平均分子量:2300」等の記載を参照。)。
一方、本件特許実施例5の「(M5)ウレタンアクリレート」は、「根上工業(株)製「DCL-002」と記載されるだけで、その分子量や官能基の数などの詳細が不明である。硬化性樹脂前駆体について、本件特許明細書の【0040】に、「耐擦傷性等の耐性を向上させるため、光硬化性化合物は、分子中に2以上(望ましくは2~15、更に望ましくは4~10程度)の重合性不飽和結合を有することが望ましい。」と記載されるにとどまる。
加えて、甲1発明及び本件特許実施例5のウレタンアクリレートのいずれも、その粘性(粘度)が不明である。
(b) また、上記(B)の主張について、甲1発明の「重合性基を有するアクリル系重合体:ダイセル・オルネクス(株)製「サイクロマーP」(屈折率1.51)」について、甲4の記載によれば「サイクロマーP」はグレードであって、当該グレードにおいて物性が異なる複数の製品が販売されているところ、甲1発明において具体的な製品名は特定されず、その組成、物性(平均分子量、粘度、溶媒、固形分濃度等)は不明である。
甲4の2頁に「アクリル基とカルボキシル基の数は任意に変更でき、要求に応じた性状/性能に調整可能です。」と記載されるように、甲4の4頁の「アクリル系オリゴマー:サイクロマーP(ACA)」の物性一覧表からも、「アクリル系オリゴマー:サイクロマー(P)」として、様々な粘度、平均分子量、溶媒及び固形分濃度の製品が多数存在することが伺えるだけである。
(c) さらに、防眩層を形成する工程に関して、甲1の記載等からは、
溶媒の加熱乾燥により、ウレタンアクリレートは、重合性基を有するアクリル系重合体及びシリコーンアクリレートとともに、セルロースアセテートプロピオネートとスピノーダル分解による相分離を生じて相分離構造を形成する(甲1[0057]等)、
溶媒蒸発過程における溶液の濃縮に伴って、複数の樹脂成分の液相からのスピノーダル分解による相分離を生じさせ、相関距離(ピッチ又は網目径)が比較的均一な相分離構造を形成する、
長細状凸部の共連続相構造は、溶媒蒸発後の樹脂成分の溶融流動性がある程度高くなるような乾燥条件や処方を設定することにより作製できる(甲1[0072]等)、
乾燥温度が高過ぎたり、乾燥時間が長過ぎたりすると、一旦形成された凸部が流動して高さが低下する場合があり、凸部の高さを変えて防眩層4の防眩性を調整する手段として、乾燥温度及び乾燥時間を利用できる(甲1[0074]等)、
溶媒の蒸発温度を高くしたり、樹脂成分に粘性の低い成分を用いたりすることにより、相分離構造が繋がった共連続相構造を作製できる(甲1[0076])、
相分離の程度によって、共連続相構造と液的層構造との中間的構造も形成することもできる(甲1[0075])
溶媒除去後、表面に微細な凹凸を有する層が形成され、硬化性樹脂前駆体を硬化させることで、相分離構造を固定化し、防眩層4を形成する(甲1[0076]等)、ことが理解できる。
(d) ここで、上記(c)で述べたスピノーダル分解による相分離(甲1[0057])は、濃度ゆらぎにより成長することは技術常識である。
そうすると、スピノーダル分解による相分離の進行や、得られる相分離の程度及び相分離により得られる防眩層表面の凹凸形状は、溶液の粘性(流動性、粘度)に依存することは明らかである。
そして、溶液の粘性(流動性)は、その組成(溶媒、固形分)の重量比及び溶媒、固形分の粘度等に依存し、粘性はその材料の(平均)分子量(、温度)にも依存することは、技術常識である。
また、上記(c)で述べた、防眩層を形成する工程における、溶媒蒸発後の樹脂成分の溶融流動性や、一旦形成された凸部が流動による高さが低下するかどうか(低下の程度)も、各材料の粘度、すなわち分子量(、温度)に依存する。
(e) また、上記(H)及び(K)における主張について、ウレタンアクリレートの硬化により固定される相分離構造(防眩層表面の凹凸形状)は、官能基の数、光硬化・光重合の感度、最終的な反応率、硬化による収縮、及び、紫外線照射条件に依存することは技術常識より明らかなことである。
(f) そして、甲1発明においては、ウレタンアクリレート及び重合性基を有するアクリル系重合体は、それぞれ溶液(100wt%)中の約23wt%及び約15wt%(このうち溶媒は、約61wt%)を占める。そして、甲1発明のウレタンアクリレート及び重合性基を有するアクリル系重合体は、硬化物の主成分である(当合議体注:全質量部を337(50+4+76+1+1+1+176+1)として、ウレタンアクリレートのwt%は76/337(約23wt%)、重合性基を有するアクリル系重合体のwt%は、50/337(約15wt%)、溶媒(メチルエチルケトン、1-ブタノール)のwt%は、(176+28)/337(約61wt%)より求めた。)。
そうすると、上記(c)~(d)より、ウレタンアクリレート及び重合性基を有するアクリル系重合体が、相分離構造及び防眩層の凹凸形状に関与する割合が非常に大きいと考えられるところ、上記(a)~(b)で述べた、甲1発明と本件特許実施例5とのウレタンアクリレートの相違、重合性基を有するアクリル系重合体の相違及び上記(e)で述べた紫外線照射条件の相違が相分離構造及び防眩層の凹凸形状に与える影響を考慮すると、甲1発明における「前記防眩層の前記基材フィルム側とは反対側の表面」の「凹凸形状」の「短波長のカットオフ値λsを50μmに設定したときのフラクタルパラメーターであるSafc」及び「長波長のカットオフ値λcを25μmに設定し且つ短波長のカットオフ値λsを2.6μmに設定したときのSmr1」の値が、本件特許実施例5の値とほぼ同様(Safcは0.023、Smr1は14.7%)とはいえず、相違点2に係る構成を満たす蓋然性が高いということはできない。
よって、異議申立人の上記aの主張を採用することはできない。
イ 相違点1について
次に、相違点1について検討する。
(ア) 甲1発明は、「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」)(基材フィルム2)上に」「防眩層3を形成して」、「得られた防眩フィルムであ」る。
ここで、甲2の「二軸延伸フィルム ダイアホイルTM」、「機械的特性・耐熱性などバランスのとれた特性を示す」との記載(1/6ページ)や、甲9の「ポリエチレンテレフタレートフィルムは、分子鎖中に分極率の大きい芳香族環を持つため固有複屈折が極めて大きく、優れた透明性、耐熱性、機械強度を付与させるための延伸処理による分子鎖の配向に伴ってフィルムに面内の複屈折が発現しやすい。」との記載(【0004】)から、甲1発明の、「基材フィルム2」としての「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」)は、面内に複屈折率を有する二軸延伸フィルムであることまでは理解できる。
しかしながら、甲1発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」)の、厚み及び複屈折率の差(Δn)が不明であるから、[式1]を満たしているとまではいえない。してみると、相違点1は、実質的な相違点である。
(イ) 甲1発明の「基材フィルム2」について、甲1には、[0036]に「1軸又は2軸延伸されていてもよいが、光学的に等方性で低屈折率であることが好ましい。光学的に等方性の基材フィルム2としては、未延伸フィルムが例示できる。」、[0037]に、「基材フィルム2の厚み寸法は適宜設定可能であるが、例えば、5μm以上2000μm以下の範囲の値であることが望ましく、15μm以上1000μm以下の範囲であることが一層望ましく、20μm以上500μm以下の範囲の値であることがより望ましい。」との記載がある。
甲1の上記記載に接した当業者であれば、甲1発明の設計変更に際し、「基材フィルム2」としては、厚み20μm~500μm、光学的に等方性、すなわち複屈折を有さない(Δn=0)、未延伸フィルムが好ましいと理解する。
そうすると、甲1発明において、「基材フィルム2」を、複屈折(Δn)を有し、厚みD(m)×リタデーションRe(Δn×厚みD(m))≧1.0×10-10(m2)を満たす構成とする動機付けはないから、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることが当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(ウ) 異議申立書における異議申立人の主張について
a(a) 異議申立人は、異議申立書46~47頁「(c)相違点1の検討」「ア 甲第7号証との組み合わせ」において、概略、
甲7の【0002】及び【0003】の記載から、表示装置(ディスプレイ)の表示面に配設される光学フィルムとして、基材層、光学機能層、カバー層、粘着層(または接着層)を含む透明積層フィルムが利用されていること、当該透明積層フィルムをディスプレイサイズに成形する方法として、打抜き加工が利用されていること、及び、当該打抜き加工の際にツーリングマーク(TM)と称される打抜き痕が生じるという課題が存在することは、当業者に周知の事項である、
甲1発明の防眩フィルムは、ディスプレイの表面に装着されるものであり([0024])、ディスプレイの表面に装着する際には粘着層を備えるものである([0024]、[図1])、
上記の周知の事項から、粘着層を備える実施形態の甲1発明の防眩フィルムは、ディスプレイサイズに合わせるために打抜き加工することが必要となり、その際にツーリングマーク(TM)と称される打抜き痕が生じないように設計することが求められるといえる、
したがって、当業者は、粘着層を備える実施形態の甲1発明の防眩フィルムを打抜き加工する際に、ツーリングマーク(TM)と称される打抜き痕が生じないように設計する動機がある、
そして、そのように設計する際に、上記の甲7記載事項を考慮して、甲1発明の構成を、防眩層、基材フィルム、接着層(粘着層)、離型層の構成に変更し、かつ、当該基材フィルム、当該接着層(粘着層)、当該離型層として、甲7記載事項に記載の実施例1~4の材料を用いるように変更する動機がある、
そのように変更した甲1発明は、その基材フィルムが平均厚み125μm、75μm又は140μmの三菱ケミカル(株)製「ダイアホイルO321E」であり、これらのうち平均厚み125μm、75μmのものは、本件明細書の【0117】の「(M24)ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムD:三菱樹脂(株)製「ダイアホイルO321」、フィルム厚み125μm(注::実施例9で使用)」、「(M21)ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムA:三菱樹脂(株)製「ダイアホイルO321(注:実施例1~6で使用)」、フイルム厚み75μm」と共通するから、本件発明1の式1を満たすものである、
また、甲7記載事項の実施例4の平均厚み140μmの三菱ケミカル(株)製「ダイアホイルO0213E」は、平均厚みがさらに厚いものであるから、同様に本件発明1の式1を満たすものであり、したがって、そのように変更した甲1発明は、基材フィルムが相違点1に係る構成を満たすといえる、
よって、相違点1に係る構成は、甲1、7に記載された発明から当業者が容易になし得るものである、
と主張する。
(b) また、異議申立人は、同47~49頁「イ 甲第9号証との組み合わせ」において、概略、
甲9の【0012】、甲10の【0005】に記載されているように、画像表示装置用の防眩フィルムの基材として、延伸PETフィルム等の面内に複屈折率を有する透明基材を用いた場合には、ニジムラの問題が生じ得ることは当業者の技術常識である、
甲1発明の「PETフィルム(三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」、基材フィルム2)」は二軸延伸ポリエステルフィルムであるため、ニジムラの問題を生じ得るものである、
甲9の【0020】には、「上記ポリエステル基材は、3000nm以上のリタデーションを有する。リタデーションが3000nm未満であると、本発明の防眩性フィルムを用いた液晶表示装置の表示画像にニジムラが生じてしまう。」と記載されている、
また、甲9の実施例1では、【0121】に記載のポリエステル基材を用いており、該ポリエステル基材は、延伸倍率4.5倍に延伸した後、前記延伸方向とは90度の方向に延伸倍率1.5倍にて延伸を行ったものであり、リタデーションが9900mnm、膜厚が100μmであるものであり、ニジムラを防止できるものである(【0151】の【表1】)、
したがって、ニジムラを抑制するために、甲1発明の「PETフィルム(三菱樹脂(株)「ダイアホイル」、基材フィルム2)」を、甲9の【0020】に記載された3000nm以上のリタデーションを有するポリエステル基材に変更することは当業者が容易になし得ることであり、その際、当該ポリエステル基材として甲9の【0121】に記載のポリエステル基材を選択することは、当業者が容易になし得ることである、
甲9の【0121】に記載のポリエステル基材は、延伸倍率4,5倍に延伸した後、前記延伸方向とは90度の方向に延伸倍率1.5倍にて延伸を行ったものであるから二軸延伸フィルムであり、リタデーションが9900nm、膜厚が100μmであるから、本件発明1の式1の積算値の値は9.9×1010(m2)となる、
よって、甲1発明の「PETフィルム(三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」、基材フィルム2)」を、甲9の【0121】に記載のポリエステル基材に変更した甲1発明は、相違点1に係る構成を満たす、
また、申立理由2で述べるように、本件発明1の式1の積算値に技術的意義はないため、相違点1に係る構成に臨界的意義は認められない、
よって、相違点1に係る構成は、甲1、9、10に記載された発明から当業者が容易になし得るものである、
と主張する。
b しかしながら、上記(イ)で述べたとおり、甲1の[0036]の記載に接した当業者ならば、甲1発明の「基材フィルム2」について設計変更を行う際、光学的に等方性、すなわち複屈折を有さない(Δn=0)、未延伸フィルムが好ましいと理解するから、甲9に記載の3000nm以上のリタデーションを有する二軸延伸ポリエステル基材を採用しようとは当業者は考えない。同様なに、甲7の実施例1~4に、平均厚み125μm、75μm又は140μmの三菱ケミカル(株)製「ダイアホイルO321E」が記載されていたとしても、甲1発明の「基材フィルム2」として、複屈折(率)を有する二軸延伸フィルムである、これらのフィルムを採用しようとは当業者は考えない。
してみると、本件特許発明1は、甲1、甲7、甲9及び甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、異議申立人の上記aの主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲7、甲9、甲10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
3 本件特許発明2~8について
本件特許発明2~8は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。
そうすると、上記2(3)で述べた理由により、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲7、甲9、甲10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない以上、同様な理由により、本件特許発明2~8は、甲1に記載された発明、及び、甲7、甲9、甲10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
4 本件特許発明9について
(1) 甲1光学部材発明
上記1(1)の甲1の記載([0024]、実施例1等)からみて、甲1には、「表示装置16」「のディスプレイ16aの表面に装着される」光学部材であって、甲1発明(「防眩フィルム」)を備える、光学部材の発明(以下「甲1光学部材発明」という。)が記載されているものと認められる。
(2) 対比
本件特許発明9と、甲1光学部材発明の対比は、上記2(1)と同様である。
本件特許発明9と、甲1光学部材発明とを対比すると、両発明は、上記2(2)で抽出した(相違点1)及び(相違点2)と同じ点で少なくとも相違する。
(3) 判断
相違点2及び相違点1については、上記2(3)ア及びイで述べたとおりである。
してみると、上記2(3)ア及びイで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明9は、甲1に記載された発明、及び、甲7、甲9、甲10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
5 本件特許発明10について
(1) 甲1表示装置発明
上記1(1)の甲1の記載([0024]、実施例1、[0171]等)からみて、甲1には、甲1発明(「防眩フィルム」)が「ディスプレイ16aの表面に装着され」た「表示装置16」の発明(以下「甲1表示装置発明」という。)が記載されているものと認められる。
(2) 対比
本件特許発明10と、甲1表示装置発明の対比は、上記2(1)と同様である。
本件特許発明10と、甲1表示装置発明とを対比すると、両発明は、上記2(2)で抽出した(相違点1)及び(相違点2)と同じ点で少なくとも相違する。
(3) 判断
相違点2及び相違点1については、上記2(3)ア及びイで述べたとおりである。
してみると、上記2(3)ア及びイで述べた理由と同様な理由により、本件特許発明10は、甲1に記載された発明、及び、甲7、甲9、甲10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
第5 委任省令要件(特許法第36条第4項第1号)についての判断
1 異議申立書における異議申立人の主張
異議申立人は、異議申立書51~63頁「3-5-2.申立理由2(特許法第36条第4項第1号の委任省令要件違反)」において、概略、
「ア 式1に関する本件特許明細書等の記載について」(同58~59頁)において、
本件発明1は、基材フィルムが式1に示す関係を満たすことを特定している、
[式1]基材フィルム厚みD(μm)×リタデーションRe(m)≧1.0×10-10(m2)
本件発明1の式1の積算値に関して、本件明細書の【0015】には、「積算値(D×Re)を式1に示した下限値以上の値に設定することで、例えば、虹ムラが強くなりすぎて防眩層の表面の凹凸形状による透過光散乱だけでは虹ムラを抑制しきれなくなる問題を防止できる。」と記載され、
また、本件明細書の【0154】の【表2】では、防眩層構造を固定し、本件発明1の式1の積算値が異なる基材フィルムを用いて虹ムラを評価した結果が記載されており、本件明細書は、本件発明1の式1の積算値と虹ムラとを関連付けて記載している、と主張し、
「ウ 本件発明1の式1の積算値の技術的意義が不明である具体的理由」(60~63頁)において、
厚みが掛けられたパラメータである基材フィルムのリタデーションを所定の値以上にすることで虹ムラを抑制していた技術常識からは、当業者は、当該リタデーションにさらに重複して厚みを掛けた本件発明1の式1の積算値がなぜ虹ムラと関連するのかを到底理解することができない、
本件発明1の式1の積算値は、上記技術常識では虹ムラを抑制できないリタデーションが小さい基材フィルムであっても、該基材フィルムの厚みが厚ければ値が大きくなるものである、
甲9の実施例6及び比較例7のポリエステル基材に関して本件発明1の式1の積算値を計算すると、実施例6は1.47×10-10(m2)であり、比較例7は1.875×10-10(m2)であり、積算値を対比すると実施例6より比較例7の方が大きいが、虹ムラ(ニジムラ)の評価は比較例7より実施例6の方が良好である(【0151】の【表1】)、
以上のように、本件発明1の式1の積算値が所定の値以上であっても、基材フィルムのリタデーションが小さい場合には虹ムラを抑制することはできないことは当業者の技術常識である、
偏光子上に複屈折性を有する基材フィルムを配置して虹ムラ(干渉縞)を評価する際に、偏光子の吸収軸(偏光軸)と基材フィルムの遅相軸(配向主軸)との成す角度を考慮することは、当業者の技術常識である(甲9の【0113】、【0142】;甲12の[0007]、[0008]、[0060];甲13の【0026】;甲14の412頁の左欄)、
また、偏光子の吸収軸(偏光軸)と基材フィルムの遅相軸(配向主軸)との成す角度を0度前後又は900度前後とした際は虹ムラが観察されにくく(甲9の【0113】;甲13の【0026】;甲14の412頁の左欄参照)、該成す角度が45度の時に虹ムラが最も観察されやすい(甲14の412頁の左欄参照)、ことも当業者の技術常識である。また、該成す角度が0度前後又は90度前後の虹ムラを対比すると、0度前後の時の方が虹ムラが観察されにくいことも知られている(甲12の[0007]、[0008]、[0081]の[表1])、
上記のように、偏光子上に複屈折性を有する基材フィルムを配置して虹ムラを評価する際に、偏光子上に複屈折性を有する基材フィルムを配置して虹ムラを評価する際に、偏光子の吸収軸(偏光軸)と基材フィルムの遅相軸(配向主軸)との成す角度を考慮することが当業者の技術常識であるところ、本件明細書の虹ムラの評価手法(【0152】)では、該成す角度が何ら特定されていない、
したがって、該成す角度が特定されていない本件明細書の虹ムラの評価手法(【0152】)は、「LCDである(株)JAPANNEXT製「JN-T280UHD-NS」(解像度4K(28インチ、3840ドット×2160ドット))」の視認側偏光板の偏光子の吸収軸(偏光軸)と、防眩フィルムの基材フィルムの遅相軸(配向主軸)との成す角度により、虹ムラの程度が大きく変わる変動要因を含んでいる、
本件明細書の【0015】及び【0154】の【表2】の記載は、かかる変動要因、あるいはその他の光学的要因により特許権者が誤認を生じた結果の記載であり、技術的に誤った記載であると思料される、
上述したように、当業者は、本件発明1の式1の積算値がなぜ虹ムラと関連するといえるのかを到底理解することができない、
また、本件発明1の式1の積算値と虹ムラとを関連付けた本件明細書の【0015】及び【0154】の【表2】の記載は、技術常識を考慮した際に合理的疑いがある、
したがって、本件発明1の式1の積算値は虹ムラと関連付けられるものではなく、技術的意義が不明であるといえる、
したがって、当業者は、本件明細書及び出願時の技術常識に基づいて、発明の課題(虹ムラの抑制)と、本件発明1の式1の積算値との実質的な関係を理解することができず、発明の課題の解決手段を理解できないから、発明の技術上の意義が不明であり、本件発明1を引用する本件発明2~10も同様である、
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~10について、発明が解決しようとする課題の解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、本件発明1~10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する委任省令要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、
と主張する。
2 合議体の判断
(1) 発明が解決しようとする課題
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0004】~【0005】からは、本件特許発明が解決しようとする課題は、「十分な機械強度を有すると共に虹ムラを抑制できる防眩フィルムを低コストで提供可能にする」こと(【0005】)であると理解される。
(2) 課題解決手段
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、課題を解決するための手段として、【0006】には、「本開示の一態様に係る防眩フィルムは、式1に示す関係を満たし、且つ、面内に複屈折率を有する二軸延伸フィルムである基材フィルムと、前記基材フィルムに重ねて配置された防眩層と、を備え、前記防眩層の前記基材フィルム側とは反対側の表面は、短波長のカットオフ値λsを50μmに設定したときのフラクタルパラメーターであるSafcが、0.02以上の範囲の値であり、且つ、長波長のカットオフ値λcを25μmに設定し且つ短波長のカットオフ値λsを2.6μmに設定したときのSmr1が、14%以上の範囲の値である凹凸形状を有する。
[式1]
基材フィルム厚みD(m)×リタデーションRe(m)≧1.0×10-10(m2)」と記載されている。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0015】には、「積算値(D×Re)を式1に示した下限値以上の値に設定することで、例えば、虹ムラが強くなりすぎて防眩層の表面の凹凸形状による透過光散乱だけでは虹ムラを抑制しきれなくなる問題を防止できる。」、「防眩フィルム2では、積算値が1.0×10-10(m2)以上の範囲の値に設定されると共に、後述するように、防眩層4の基材フィルム3側とは反対側の表面4aが、短波長のカットオフ値λsを50μmに設定したときのフラクタルパラメーターであるSafcが、0.02以上の範囲の値であり、且つ、長波長のカットオフ値λcを25μmに設定し且つ短波長のカットオフ値λsを2.6μmに設定したときのSmr1が、14%以上の範囲の値である凹凸形状を有することで、虹ムラを適切に抑制できる。」、「一例として、基材フィルム3は1000nm以上4000nm以下の範囲の値であるリタデーションReを有する。基材フィルム3のリタデーションReの値は、これに限定されない。」、
同【0016】には、「二軸延伸フィルムである基材フィルム3は、例えば特許文献2のフィルムとは異なり、製造時において、遅相軸方向と進相軸方向とに十分に延伸されている。このため、例えば当該両方向のうち、一方が他方に比べて延伸程度が低いために、外力が及んだ際に基材フィルム3に亀裂等の損傷が生じにくい。これにより、基材フィルム3は良好な機械強度を有する。」、
同【0019】には、「前記Safcの測定の際の短波長のカットオフ値λsを50μmに設定することで、例えば、防眩層4の表面4aの虹ムラには影響のない凹凸形状を除去できる。また例えば、短波長のカットオフ値λsを50μmに設定したときの前記Safcの値が高いほど、防眩層4の表面4aの凹凸形状は、自己相似性が高く且つ微細構造を有するようになる。これにより、防眩層4の表面4aで透過光を散乱させて、虹ムラを抑制し易くできる。前記Safcは、例えば0.02以上1.00以下の範囲の値が望ましく・・・略・・・例えば、前記Safcの上限値を1.00とすることで、防眩フィルム2が装着されたディスプレイ面16aに表示される小さい文字でも視認し易くできる。」、
同【0021】には、「前記Smr1の測定の際の長波長のカットオフ値λcを25μmに設定することで、例えば、防眩層4の表面4aの虹ムラには影響のない大きな凹凸形状を除去できる。また例えば、長波長のカットオフ値λcを25μmに設定したときの前記Smr1の値が高いほど、防眩層4の表面4aで透過光を散乱させて、虹ムラを抑制し易くできる。前記Smr1は、例えば14%以上50%以下の範囲の値が望ましく・・・略・・・例えば前記Smr1の上限値を50%とすることで、例えば、防眩層4の表面4aの凹凸形状の凸部の比率を抑制し、防眩フィルム2の機械強度を維持し易くできる。」、
同【0022】には、「上記構成を有する防眩フィルム2によれば、防眩層4の表面4aの凹凸形状が上記したSafc及びSmr1の各値に設定されることで、当該凹凸形状が、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を有するように形成される。これにより、防眩層4の表面4aへの入射光を散乱し、防眩層4の表面4aへの外光による映り込みが適切に抑制される。従って、表示装置1の画像表示性能が低下するのが抑制される。」、
同【0023】には、「また、当該凹凸形状の表面4aを有する防眩層4と、式1を満たす基材フィルム3とを備えるように防眩フィルム2を構成することで、二軸延伸フィルムにより基材フィルム3を構成して十分な機械強度を維持すると共に、優れた防眩効果及び虹ムラ防止効果を奏する防眩フィルム2を低コストで実現できる。」、
同【0025】には、「基材フィルム3の厚みDは、式1が成立する範囲内において適宜設定可能である。基材フィルム3の厚みDは、例えば、20μm以上500μm以下の範囲の値が望ましく、50μm以上200μm以下の範囲がより望ましく、75μm以上150μm以下の範囲が一層望ましい。」、と記載されている。
さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0115】~【0156】には、
[虹ムラ]の評価を、「各防眩フィルムを、LCDである(株)JAPANNEXT製「JN-T280UHD-NS」(解像度4K(28インチ、3840ドット×2160ドット))のディスプレイ表面に装着した。当該LCDを白色画面を表示させるように駆動した状態で、ケニス(株)製偏光板「PZ-2」を通して画面を見たときの虹ムラを目視で確認した。このときの虹ムラを以下の5段階の基準で評価した。この評価値は、大きいほど高評価であることを示す。
5:表面をどの角度から見ても、虹ムラが確認できない。
4:表面を特定の角度から見た場合にのみ、薄い虹ムラを確認できる。
3:表面を特定の角度から見た場合にのみ、虹ムラを確認できる。
2:表面全体に薄い虹ムラを確認できる。
1:防眩層が無い場合と同程度の虹ムラを確認できる。」(【0152】)により行うこと、
実施例1~6、比較例1~6の[虹ムラ]評価等の試験結果として、
【0153】に、
【表1】
[図:0001425800000003.jpg]
、が得られたことが記載され、
実施例1及び(実施例1と同一の防眩層4を備え、実施例1とは、基材フィルム3の厚みD、リタデーションRe、及び積算値(D×Re)が異なる)実施例7~13及び比較例7の[虹ムラ]評価等の試験結果として、
【0154】に、
【表2】
[図:0001425800000004.jpg]
、が得られたことが記載されている。
イ 課題解決手段について
(ア) 偏光子上に複屈折性を有する基材フィルムを配置して虹ムラを評価する際に偏光子の吸収軸(あるいは偏光軸)と基材フィルムの遅相軸(配向主軸)(あるいは進相軸)との成す角度を考慮して評価を行うことが当業者の技術常識である。
ここで、本件特許明細書の【0152】の記載の[虹ムラ]の評価方法においては、LCDのディスプレイ表面に実施例あるいは比較例の防眩フィルムを装着する際に、LCDの出射側偏光板の偏光軸(透過軸)(あるいは吸収軸)と、防眩フィルムの基材フィルムの遅相軸(配向主軸)(あるいは進相軸)の配置角度については明記されていないものの、【0152】に記載の定義による5段階での実施例1~6、比較例1~6及び実施例7~12、比較例7の虹ムラの評価を行うのに適した配置角度に設定、固定して虹ムラの評価を行っていると、上記技術常識を持つ当業者は理解する。
(イ) そして、【表1】の実施例1~6と比較例1~6の対比より、([式1]を満たす、積算値が2.44×10-10m2の基材フィルムを用いた)防眩フィルムの眩層構造の凹凸のSafcを0.021~0.084(0.02以上)、及び、Smr1を14.7~18.8%(14%以上)の範囲とすることにより、上記(ア)で述べた本件特許明細書の【0152】の記載の[虹ムラ]の評価結果が3~5となり虹ムラが良好に改善できることが理解できる。
また、実施例1により虹ムラの評価結果5が得られる配置角度を前提として、実施例1及び実施例1と同一の防眩層4を備え、積算値(D×Re)を変化させた【表2】の実施例7~13と、比較例7を対比することにより、積算値を1.10~3.95×10-10m2([式1]では1.0×10-10m2以上)とすることにより、比較例1(積算値が0.44×10-10m2)の虹ムラ評価1から、虹ムラ評価3又は5となって、虹ムラを良好に改善できることが理解できる。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者は、[式1]の積算値と虹ムラ(改善)とが関連していることも理解できる(同じリタデーションRe(2500nm)を有する実施例9及び実施例10の評価結果から、積算値(D×Re)が1.25×10-10m2から3.13×10-10m2に変化すると、虹ムラ評価が3から5へと向上していることからも理解できる。)。
さらに、当業者であれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基けば、上記Safc(範囲)、Smr1(範囲)及び上記積算値(範囲)を有する実施例1~6及び実施例7~13の防眩フィルムにおいては、【表2】のリタデーションRe及び厚みから、(リタデーションReを厚みで除して求められる)Δn(複屈折の差)は0.02(実施例9)~0.057(実施例11)程度(かつ厚み自体も50~125μm)であって、基材フィルムは遅相軸方向と進相軸方向の二軸方向共に十分に延伸され、防眩フィルムは高い機械強度を有するものとなっていると理解できる。これに対し、上記積算値を有する比較例7は、Δnが0.082と(実施例と比較して)大きく、当該Δnを得るために、基材フィルムの一方の延伸倍率を他方の延伸倍率に対して小さくした結果、防眩フィルム(基材フィルム)の機械強度が弱いものになっている(かつ厚み(23μm)も薄く当然機械強度が弱い)と理解できる。
(ウ) 上記(イ)より、「厚みが掛けられたパラメータである基材フィルムのリタデーションを所定の値以上にすることで虹ムラを抑制」すること、「基材フィルムのリタデーションが小さい場合には虹ムラを抑制することはできないこと」が当業者の技術常識であるとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載の【0015】や実施例と比較例の対比結果から、当業者は、基材フィルムの積算値(基材フィルム厚みD(m)×リタデーションRe(m))が虹ムラ(改善)と関連すること、及び、リタデーションが低い基材フィルム(例えば、実施例7の記載フィルムでは2200nm)であったとしても、基材フィルムの積算値(基材フィルム厚みD(m)×リタデーションRe(m))を1.10~3.95×10-10m2、基材フィルムに重ねて配置された防眩層のSafcを0.021~0.084、及び、Smr1を14.7~18.8%とすることによって、防眩フィルムにおいて、実際に虹ムラを抑制できる(と共に十分な機械強度が得られる)、すなわち、上記(1)で述べた課題が解決できることが理解できる。
そうすると、本件特許発明(防眩フィルム)は、上記実施例の防眩フィルムの基材フィルムの積算値、防眩層のSafc及びSmr1に係る構成に対応する発明特定事項を具備するものであることから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づけば、当業者は、本件特許発明の課題(【0005】)及び課題解決手段(【0006】)等発明の技術上の意義について理解することができる。
してみると、請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
第6 サポート要件(特許法第36条第6項第1号)についての判断
1 異議申立書における異議申立人の主張
異議申立人は、異議申立書63~64頁において、概略、
当業者は、本件明細書及び出願時の技術常識に基づいて、発明の課題(虹ムラの抑制)と、本件発明1の式1の積算値との実質的な関係を理解することができない、
したがって、本件発明1の式1の積算値を1.0×10-10(m2)以上としても発明の課題(虹ムラの抑制)を解決できるとはいえない、
よって、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。本件発明1を引用する本件発明2~10についても同様である、
本件明細書の【0016】には、「二軸延伸フィルムである基材フィルム3は、例えば特許文献2のフィルムとは異なり、製造時において、遅相軸方向と進相軸方向とに十分に延仲されている。このため、例えば当該両方向のうち、一方が他方に比べて延伸程度が低いために、外力が及んだ際に基材フィルム3に亀裂等の損傷が生じにくい。これにより、基材フィルム3は良好な機械強度を有する。」と記載され、
当該記載から、本件発明の課題である「十分な機械的強度」を解決するためには、基材フィルムは、「製造時において、遅相軸方向と進相軸方向とに十分に延伸され」たものであることを要すると理解できる、
本件発明1では、基材フィルムに関して、「式1に示す関係を満たし、且つ、面内に複屈折率を有する二軸延伸フィルム」であることを特定しているが、これらの特定では、製造時において、遅相軸方向と進相軸方向とに十分に延伸されず、機械的強度が十分ではないものも包含している、
具体的には、製造時に、遅相軸方向に強く延伸し、進相軸方向に弱く延伸したものは、二軸延伸フィルムであり、リタデーションも高くなるため式1を満たし、本件発明1の基材フィルムの条件を満たすが、進相軸方向に十分に延伸していないため機械的強度は不十分であるといえる。
したがつて、基材フィルムとして、「式1に示す関係を満たし、且つ、面内に複屈折率を有する二軸延伸フィルム」を用いている本件発明1の防眩フィルムは、本件発明1の範囲において課題(十分な機械的強度)を解決できるとはいえない、
よって、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない、
本件発明1を引用する本件発明2~10についても同様である、
以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~10の構成を満たすことによって、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているとはいえないから、本件明細書の請求項1~10に関する記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない、
したがって、本件発明1~10に係る特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない、と主張する。
2 合議体の判断
(1) 本件特許発明が解決しようとする課題は、「十分な機械強度を有すると共に虹ムラを抑制できる防眩フィルムを低コストで提供可能にする」こと(【0005】)であると認められる。
(2) 上記「第2」2(2)アの本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づけば、基材フィルムを[式1]の積算値を1.0×10-10m2以上とし、防眩層の表面を、短波長のカットオフ値λsを50μmに設定したときのフラクタルパラメーターであるSafcが、0.02以上1.00以下の範囲の値であり、且つ、長波長のカットオフ値λcを25μmに設定し且つ短波長のカットオフ値λsを2.6μmに設定したときのSmr1が、14%以上50%以下の範囲の値である凹凸形状を有する、ものとすることにより、虹ムラの評価結果が3以上となり、虹ムラを良好に改善できると認識できる。
また、防眩フィルムの防眩層が上記のSafcの範囲及びSmr1の範囲を満たした上で、基材フィルムの[式1]の積算値を1.0×10-10m2以上とする範囲(虹ムラを良好に改善できる範囲)内で、発明の詳細な説明の「基材フィルム3は1000nm以上4000nm以下の範囲の値であるリタデーションReを有する。」(【0015】)、「基材フィルム3の厚みDは、例えば、20μm以上500μm以下の範囲の値が望ましく、50μm以上200μm以下の範囲がより望ましく、75μm以上150μm以下の範囲が一層望ましい。」(【0025】)、「ある程度の基材フィルム厚みDを有する基材フィルムを用いることにより、・・・略・・・、機械強度に優れる防眩フィルムを実現し易くできる。」(【0167】)などの記載及び技術常識に基づき、基材フィルムの厚み(d)及び複屈折(Δn)の調整により、機械的強度に優れる基材フィルムを得ることができる(高リタデーション(Δn×d)フィルムであっても、フィルム自体の厚み(d)によって機械強度を担保することができる)と、当業者は認識できる。
さらに、製造時において、基材フィルムを遅相軸方向と進相軸方向とに十分に延伸する場合には、「各延伸方向の延伸程度を異ならせるように調整する処理や設備が別途となり、生産コストが増大する。」(本件特許明細書の【0004】)こともない。
(3) 前記(2)で述べた、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき理解される、上記(1)で述べた課題を解決するための構成は、本件特許発明1が具備する発明特定事項であるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。本件特許発明2~10についても同様である。
してみると、請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び異議申立人の提出した証拠によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700351