審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2023-701369

船舶推進軸用の軸受

審判番号
2023-701369
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-516592
登録番号
7343940
請求日
2023年12月25日
審決日
2025年06月12日
公報発行日
2025年08月29日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】株式会社ミカサ
  • 【権利者代理人】鶴亀 國康
  • 【異議申立人】松井 和寿
審判長/審判官
  • 審判長 草野 顕子
  • 審判官 八木 誠
  • 審判官 横溝 顕範
分類
P1651.121-Z (B63H)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法113条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7343940号発明「船舶推進軸用の軸受」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7343940号の請求項1~3に係る特許を取り消す。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7343940号の請求項1~3に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2020年(令和2年)11月20日(優先権主張令和2年6月25日)を国際出願日とする出願であって、令和5年9月5日にその特許権の設定登録がされ、同年9月13日に特許掲載公報が発行された。 本件特許についての特許異議申立人松井和寿(以下「申立人」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和5年12月25日 特許異議の申立て 令和6年 4月30日付け 取消理由通知 同年 6月14日 特許権者による意見書の提出 同年10月 8日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年12月 9日 特許権者による意見書の提出 同年12月27日 特許権者による手続補正書(方式)の提出 令和7年 3月28日付け 申立人への審尋 同年 4月22日 申立人による回答書の提出 第2 本件発明 本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 船舶の推進軸を支持する円筒状のシェルの内周面に、一対の位置決めプレートと、複数の密閉形円弧片及び隙間形円弧片が配設されてなる軸受であって、 前記位置決めプレートは、前記シェルの水平軸上の対向する位置に固定され、 前記密閉形円弧片は、前記シェルの下側内周面の垂直軸を対称軸とする中心角θがθ=80°~160°の間に前記隙間形円弧片に対向するように配設されて前記推進軸の負荷にかかり、摺動層、弾性体からなる中間層及び前記シェルの内周面に密接する基台の三層構造体であって、前記位置決めプレートを介して相隣るそれぞれの摺動層、中間層及び基台が相互に押圧されて前記シェルの内周面に保持され、 前記隙間形円弧片は、摺動層、弾性体からなる中間層及び前記シェルの内周面に密接する基台の三層構造体であって、両側縁部に溝形成部を有し、前記位置決めプレートを介して相隣るそれぞれの中間層及び基台が相互に押圧されて前記溝形成部が冷却水を流通させる溝を形成してなる軸受。 ここで、シェルの水平軸とは、推進軸の重心の重力方向に直交するシェルの横断面の対称軸である。垂直軸とは、シェルの水平軸に直交する対称軸である。 【請求項2】 摺動層は、分子中にふっ素原子(F)を含有する合成高分子化合物、ポリアミド樹脂又はフェノール樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の軸受。 【請求項3】 中間層は、デュロメータ硬さ A50~90を有する弾性体が基台に接着されてなるものであることを特徴とする請求項1に記載の軸受。」 第3 取消理由の概要 請求項1~3に係る特許に対して、当審が通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。 [取消理由](進歩性) 本件特許の下記請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、この出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、下記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 以下、申立人が提出した「甲第○号証」は、「甲○」という。 記 甲1:Hiroyuki Sadaら、「PTFE Partial Arc Bearing for Large Water-lubricated Tail-shafts」、米国、Society of Naval Architects and Marine Engineers、2012年、the 13th Propellers/Shafting Symposium、1~8ページ 甲2:吉川文隆、「船舶推進系海水潤滑軸受の技術」、月刊トライポロジー、株式会社新樹社、2016年6月、30巻、6号、通巻346号、21~23ページ 甲3:特開2009-103307号公報 甲4:吉川文隆、「海水潤滑船尾管軸受の高性能化 環境と省エネに最適なフッ素系樹脂軸受」、日本マリンエンジニアリング学会誌、2011年、46巻、1号、32~37ページ 甲5:吉川文隆、「水潤滑軸受の信頼性向上に関する研究」、長崎大学大学院、平成20年12月、66~71ページ [取消理由と請求項及び引用文献等の関係] ・請求項 1、2 ・引用文献 甲1~4 ・請求項 3 ・引用文献 甲1~5 第4 引用文献の記載事項等 1 甲1について (1)記載事項 甲1には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア 1ページ左欄1~10行 「 [図:0001425723000001.jpg] 」 (訳:1.はじめに PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は、自己潤滑性と耐熱性に優れていることから、ベアリング材料としてよく知られている。PTFEは耐摩耗性に欠点があるが、PTFEにフィラーを添加することで、耐摩耗性は大幅に改善できる。水潤滑ベアリング用に、様々なPTFEベースの複合材料が開発されている。一部のPTFEベアリングは、船舶用のテールシャフトとして使用されている。[Yamajo 2003]) イ 1ページ右欄13~17行 「 [図:0001425723000002.jpg] 」 (訳:本論文では、新たに開発された、大型の水潤滑テールシャフト用のPTFEパーシャルアークベアリングについて概説する。その新しいベアリングの摩擦、摩耗と変形特性について説明する。さらに、そのPTFEパーシャルアークベアリングのために、摩耗寿命予測を提案する。) ウ 1ページ右欄18行~2ページ左欄15行 「 [図:0001425723000003.jpg] [図:0001425723000004.jpg] 」 (訳:2.PTFEパーシャルアークベアリング 2.1.パーシャルアーク設計 テールシャフトに適用される水潤滑ベアリングは、一般的に下部に溝がある。図1に示すように、パーシャルアーク設計は下部に溝はなく、油潤滑ベアリングの設計に似ている。 流体力学的膜厚は、様々な円弧角度に対して計算された。図2は最小膜厚とゾンマーフェルト数の関係を示す。図中の最小膜厚は、ラジアル隙間によって正規化される。水潤滑テールシャフトベアリングに適用されるゾンマーフェルト数は0.01より小さい。ゾンマーフェルト数(Sn)は次のように定義される。 式(1) ここで、ベアリング圧力(p)は次のように定義される。 式(2) 流体力学的膜厚は、円弧角度が大きくなるのに合わせて増加する。その結果は、溝のない設計(パーシャルアーク設計)が溝のある設計よりも厚い流体力学的膜を提供することを明確に示す。水潤滑テールシャフトベアリングにとって、流体力学的膜の効果を最大化するために、円弧角度が60°未満にすべきでないことも明らかである。) エ 2ページ左欄16~37行 「 [図:0001425723000005.jpg] 」 (訳:2.2.パーシャルアーク設計のPTFEベアリング 従来のPTFEパーシャルアークベアリングはリングタイプであるので、PTFE材料とパーシャルアーク設計の両方の適用は、実際には小型ベアリングに限定される。PTFEリングは非常に高い圧力下での予備成形と高温加熱を経て製造される必要があるので、サイズ、特に長さについて厳しい制限がある。リングタイプは、特に直径300mmを超えるテールシャフトには適用できない。 大型テールシャフト用に、新しいPTFEパーシャルアークベアリングが開発された。図3に示すように、その新しいベアリングは、複数の長いステーブで構成されるバレルタイプである。図4に示すように、各ステーブは、PTFE層、ゴム層とベースプレートから構成される。ステーブは非常によく嵌め込まれているので、ステーブ間に隙間はない。バレルタイプは、直径1000mmのテールシャフトに適用できる。更に、バレルタイプは、テールシャフトを引き抜くことなく、ベアリングの取り外し、検査及び再取付が可能である。PTFEパーシャルアークベアリングは、摩擦を低減し、メンテナンスの柔軟性を高める。) オ 図1 パーシャルアーク設計 「 [図:0001425723000006.jpg] 」 カ 図2 流体力学的膜厚 「 [図:0001425723000007.jpg] 」 キ 図3 PTFEパーシャルアークベアリング 「 [図:0001425723000008.jpg] 」 ク 図4 ステーブ 「 [図:0001425723000009.jpg] 」 (2)認定事項 ア 図3の左図(バレルタイプ)の9時の位置にある部材がステーブを位置決めするための部材であることを勘案して、図3の各部材に対して、下記の参考図のように、当審が名称を付与した。 参考図 [図:0001425723000010.jpg] イ 上記(1)ア、ウ及びエの記載並びに図3及び参考図の図示内容によれば、図3はほぼ右半分が欠けているが、左右対称形状であることは明らかであり、円筒部の横断面上の水平方向の対称軸を円筒部の水平軸とすると、PTFEパーシャルアークベアリングは、船舶のテールシャフトを支持する円筒部の内周面に、一対の位置決めプレートと、複数の密閉形ステーブと隙間形ステーブが設けられてなるものであること、及び、位置決めプレートは、円筒部の水平軸上の対向する位置に固定されていることと認められる。 そして、テールシャフトに図3に示されるようなPTFEパーシャルアークベアリングを使用した場合、重力によって、テールシャフトの負荷が密閉形ステーブにかかることは明らかであり、PTFEパーシャルアークベアリングを水潤滑テールシャフトベアリングとして使用した場合、隙間形ステーブ間の溝は冷却水を流通させる溝となることも明らかであるから、円筒部の水平軸に直交する対称軸を垂直軸とし、図4も参照すると、密閉形ステーブは、円筒部の下側内周面の垂直軸を対称軸とする円弧角度が180°弱の間に隙間形ステーブに対向するように設けられてテールシャフトの負荷がかかり、PTFE層、ゴム層及び円筒部の内周面に密接するベースプレートの三層構造体であって、位置決めプレートを介して互いに隣接するそれぞれのPTFE層、ゴム層及びベースプレートが互いに押圧されて円筒部の内周面に保持されること、及び、隙間形ステーブは、PTFE層、ゴム層及び円筒部の内周面に密接するベースプレートの三層構造体であって、両側縁部に溝形成部を有し、位置決めプレートを介して互いに隣接するそれぞれのベースプレートが互いに押圧されて溝形成部が冷却水を流通させる溝を形成することが認められる。 (3)甲1発明 上記(2)イから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「船舶のテールシャフトを支持する円筒部の内周面に、一対の位置決めプレートと、複数の密閉形ステーブと隙間形ステーブが設けられてなるPTFEパーシャルアークベアリングであって、 位置決めプレートは、円筒部の水平軸上の対向する位置に固定され、 密閉形ステーブは、円筒部の下側内周面の垂直軸を対称軸とする円弧角度が180°弱の間に隙間形ステーブに対向するように設けられてテールシャフトの負荷がかかり、PTFE層、ゴム層及び円筒部の内周面に密接するベースプレートの三層構造体であって、位置決めプレートを介して互いに隣接するそれぞれのPTFE層、ゴム層及びベースプレートが互いに押圧されて円筒部の内周面に保持され、 隙間形ステーブは、PTFE層、ゴム層及び円筒部の内周面に密接するベースプレートの三層構造体であって、両側縁部に溝形成部を有し、位置決めプレートを介して互いに隣接するそれぞれのベースプレートが互いに押圧されて溝形成部が冷却水を流通させる溝を形成するPTFEパーシャルアークベアリング。 ここで、円筒部の横断面上の水平方向の対称軸を円筒部の水平軸とし、円筒部の水平軸に直交する対称軸を垂直軸とする。」 2 甲2について 甲2には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (1)21ページ中欄下から3行~右欄12行) 「2-2 軸受の構造 船舶推進系に使われる海水潤滑軸受において、合成ゴム軸受およびPTFE軸受の構造は、金属または合成樹脂の円筒状シェルの内側にゴムを直接加硫接着するフルモールドタイプ(図2)と、あらかじめ、金属または合成樹脂の板にゴムを貼り付け、それをシェルの内側に樽状に並べるバレルタイプ(図3)とがある。PTFE軸受は、ゴムをサンドイッチ構造にし、摺動面に5~7mm厚の自己潤滑性を持つPTFE(ポリテトラフルオロエチレン樹脂:フッ素樹脂)を配した構造となっている。図はPTFE軸受の構造を示している。」 (2)図3(22ページ) 「 [図:0001425723000011.jpg] 」 3 甲3について 甲3には、図面とともに以下の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、船舶のプロペラ軸受等に用いられ、円筒状のシェルメタルの内周にゴム系材料からなる円筒状のゴム軸受を接着し、該ゴム軸受の内周とロータ軸の外周との間に海水等の導電水が通流可能にされた隙間が形成されてなる電気防食軸受の製造方法に関する。」 「【0034】 図13に示される水中ゴム軸受を製造する第3実施例においては、前記第2実施例と同様に、金属あるいは合成樹脂からなる台金41の上面と、4フッ化エチレン、ポリアミド、高密度ポリエチレン等の摺動性の良好な合成樹脂からなるパッド材43の下面との間にゴム材42を加硫接着してゴム軸受材40を構成する(同図(B))。 【0035】 そして、複数個の前記セグメント状のゴム軸受材40は、前記シェルメタル1の内面1cに円周方向に沿って樽状に並べられ、前記台金41の底面即ち接着面46を前記シェルメタル1の内面1cに接着することにより固定される。各ゴム軸受材40の間には水路溝6が形成される。」 「【図13】 [図:0001425723000012.jpg] 」 4 甲4について 甲4には、以下の事項が記載されている。 (1)図1(c)(33ページ) 「 [図:0001425723000013.jpg] 」 (2)表1(33ページ) 「 [図:0001425723000014.jpg] 」 5 甲5について 甲5には、以下の事項が記載されている。 (1)表6-1(70ページ) 「 [図:0001425723000015.jpg] 」 第5 対比・判断 1 本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「船舶のテールシャフト」は、前者の「船舶の推進軸」に相当し、以下同様に、「円筒部」は「円筒状のシェル」に、「位置決めプレート」は「位置決めプレート」に、「密閉形ステーブ」は「密閉形円弧片」に、「隙間形ステーブ」は「隙間形円弧片」に、「設けられ」ることは「配設され」ることに、「PTFEパーシャルアークベアリング」は「軸受」に、「円弧角度」は「中心角θ」に、「PTFE層」は「摺動層」に、「ゴム層」は「弾性体からなる中間層」に、「ベースプレート」は「基台」に、「互いに隣接する」ことは「相隣る」ことに、「円筒部の横断面上の水平方向の対称軸を円筒部の水平軸とし、円筒部の水平軸に直交する対称軸を垂直軸とする」ことは「シェルの水平軸とは、推進軸の重心の重力方向に直交するシェルの横断面の対称軸である。垂直軸とは、シェルの水平軸に直交する対称軸である」ことに、それぞれ相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「船舶の推進軸を支持する円筒状のシェルの内周面に、一対の位置決めプレートと、複数の密閉形円弧片及び隙間形円弧片が配設されてなる軸受であって、 前記位置決めプレートは、前記シェルの水平軸上の対向する位置に固定され、 前記密閉形円弧片は、前記隙間形円弧片に対向するように配設されて前記推進軸の負荷にかかり、摺動層、弾性体からなる中間層及び前記シェルの内周面に密接する基台の三層構造体であって、前記位置決めプレートを介して相隣るそれぞれの摺動層、中間層及び基台が相互に押圧されて前記シェルの内周面に保持され、 前記隙間形円弧片は、摺動層、弾性体からなる中間層及び前記シェルの内周面に密接する基台の三層構造体であって、両側縁部に溝形成部を有し、前記位置決めプレートを介して相隣るそれぞれの中間層及び基台が相互に押圧されて前記溝形成部が冷却水を流通させる溝を形成してなる軸受。 ここで、シェルの水平軸とは、推進軸の重心の重力方向に直交するシェルの横断面の対称軸である。垂直軸とは、シェルの水平軸に直交する対称軸である。」 <相違点1> 密閉形円弧片について、本件発明1では、前記シェルの下側内周面の垂直軸を対称軸とする中心角θが「θ=80°~160°」の間に配設されるのに対し、甲1発明では、円筒部の下側内周面の垂直軸を対称軸とする円弧角度が180°弱の間に設けられている点。 <相違点2> 隙間形円弧片について、本件発明1では、相隣るそれぞれの「中間層及び」基台が相互に押圧されているのに対し、甲1発明では、互いに隣接するそれぞれのベースプレートが互いに押圧されているが、互いに隣接するそれぞれのゴム層が互いに押圧されているか不明である点。 (2)相違点についての判断 ア 相違点1について 甲1において、図3には、円弧角度を180°弱にしたものが図示され、上記「第4 1(1)」(特にウ参照。)や図2には、円弧角度を30°、60°、90°、120°とした結果から、60°より小さくない方がよいことが記載されていることから、甲1発明において、中心角を90°、120°を含む60°以上にすることが示唆されていると認められる。 よって、甲1発明において、円弧角度を90°、120°等の値とすることは、設計的事項にすぎないから、甲1発明において、円弧角度を80°~160°の範囲内の値とすることで、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 イ 相違点2について 船舶の推進軸に用いられる軸受の内周面に複数設けられて、相互の接続部分に溝を形成する部材において、摺動層、ゴムからなる中間層及び基台の三層構造体とし、隣り合う中間層及び基台が互いに押圧されることは、本件の優先日前の周知技術(例えば、甲2(上記「第4 2」)、甲3の【0034】、【0035】、図13、甲4の図1(c)等参照。)であるから、甲1発明において、該周知技術を適用して、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 ウ 特許権者の主張について (ア)特許権者の主張 a 令和6年6月14日の意見書での主張 特許権者は、下記の乙第1号証~乙第5号証(以下、それぞれ「乙1」~「乙5」という。)を提出し、令和6年6月14日の意見書(1~6、10、11ページ等参照。)において、乙1~乙3を参照すると、乙1の油潤滑軸受である部分軸受の特性に関する図21(a)の縦軸を偏心率から最小厚さに変換した図が甲1の図2とほぼ同じになること等から、甲1の図2は、油潤滑軸受である部分軸受の特性を表すグラフであり、水潤滑軸受である部分円弧軸受(パーシャルアークベアリング)の特性を表すグラフではないと推測され、また、図2の円弧角度が異なる複数の曲線は、ゾンマーフェルト数が0.001以下になると重複するようになると推測されることも勘案すると、甲1の2.1(上記「第4 1(1)イ」参照。)の「It is also clear that arc angle should not be less than 60 degrees for water-lubricated tail-shaft bearings to maximize the effect of hydrodynamic film.」(当審訳:水潤滑テールシャフトベアリングにとって、流体力学的膜の効果を最大化するために、円弧角度が60°未満にすべきでないことも明らかである。以下「甲1記載事項1」という。)との記載は、その技術内容が妥当ではないと認められるから、取消理由通知での、甲1記載事項1を根拠として本件発明1~3には進歩性はないとした判断には誤りがある旨主張する。 乙1:林洋次、滑り軸受(2)、ターボ機械、ターボ機械協会、1982年8月、10巻、8号、50~58ページ 乙2:日本潤滑学会編、潤滑ハンドブック、株式会社養賢堂、1987年9月、573~575ページ 乙3:機械工学事典、社団法人日本機械学会、1997年8月20日、513、667、771ページ 乙4:再公表特許第2012/137509号 乙5:特開2009-257590号公報 b 令和6年12月9日の意見書での主張 特許権者は、下記の乙第6号証~乙第8号証(以下、それぞれ「乙6」~「乙8」という。)を提出し、令和6年12月9日の意見書において、乙1、6~8を参照し、下記の(a)~(c)に示すように、甲1記載事項1の技術内容が妥当ではないと認められるから、取消理由通知(決定の予告)での、甲1記載事項1を根拠として本件発明1~3には進歩性はないとした判断には誤りがある旨主張する。 (a)甲1の図7では、ゾンマーフェルト数が1.5E-4(0.00015)以上の範囲で摩擦係数がほぼ0であり、0.00015より小さい範囲で摩擦係数が増大していること、並びに、乙6の「一般の滑り軸受においては、最小膜厚さが二つの滑り面の表面粗さの和より大きくなるように、軸受諸寸法や運転条件を定めるのが設計の基本である。この結果、滑り軸受は流体潤滑状態で使用することになるから、滑り面の金属接触は起こらないので、軸受寿命は永遠的であると考えることができる。・・・」(54ページ左欄5~10行)、及び、甲1の「水潤滑テールシャフトベアリングに適用されるゾンマーフェルト数は0.01より小さい。」(上記「第4 1(1)イ参照。」)との記載から、甲1に記載の水潤滑部分円弧軸受は、ゾンマーフェルト数が0.00015~0.01において流体潤滑状態であると解される。 そして、乙1の油潤滑軸受である部分軸受の特性に関する図21(a)の縦軸を偏心率から最小厚さに変換した乙1図では、流体潤滑状態である範囲のうち、ゾンマーフェルト数が0.00015~0.001において、円弧角度が90°、120°のものだけでなく、60°のものも、最小膜厚が一致し、最小膜厚の角度依存性がないことから、甲1記載事項1は妥当ではない。 (b)甲1の図2が、水潤滑軸受けにとって好ましいゾンマーフェルト数の範囲(0.001~0.00015)のデータが不足していること、及び、甲1の図2の曲線と乙1の油潤滑部分軸受に係る最小膜厚さの曲線がほぼ重複するから、甲1の図2は油潤滑軸受のグラフに相当し、水潤滑軸受のグラフとしては適切でないことを勘案すると、このような甲1の図2に基づいて水潤滑部分円弧軸受の円弧角度の好適な範囲を検討することは困難であるから、水潤滑部分円弧軸受に係る甲1記載事項1は妥当ではない。 (c)乙6の「レイノルズ方程式を解いて膜圧力を求めれば、滑り軸受の諸性能は算出される」(56ページ右欄下から2行~最終行。以下「乙6記載事項1」という。)との記載によれば、水潤滑部分円弧軸受の性能を解析するには、水膜厚さではなく水膜圧によるべきであるから、甲1の図2に基づいて、水潤滑部分円弧軸受の好ましい又は好ましくない円弧角度に関する技術的見地を得ることは困難であり、甲1記載事項1は妥当ではない。 乙6:林洋次、滑り軸受(1)、ターボ機械、ターボ機械学会、1982年6月、10巻、6号、52~58ページ 乙7:佐田裕之ら、実船試験における環境対応型船尾管潤滑油の0実用化研究、日本マリンエンジニアリング学会誌、2007年、42巻、4号、222~227ページ 乙8:特開平11-51054号公報 (イ)主張についての検討 a 令和6年6月14日の意見書での主張について 上記(ア)aの主張について検討する。 甲1記載事項1では、水潤滑テールシャフトベアリングでは円弧角度を60°未満にすべきでないことが明示されており、甲1において、唯一図2について言及している2.1(上記「第4 1(1)イ」参照。)では、油潤滑軸受についての言及は、「As shown in Figure 1, partial arc design has no groove in lower portion, and is similar to oil-lubricated bearing design.」(当審訳:図1に示すように、パーシャルアーク設計は下部に溝はなく、油潤滑ベアリングの設計に似ている。以下「甲1記載事項2」という。)との記載しかなく、そもそも、甲1は大型の水潤滑テールシャフト用のPTFEパーシャルアークベアリングについての論文であり(上記「第4 1(1)イ参照。」)、油潤滑軸受については、甲1記載事項2以外の記載はないことを勘案すると、図2は、水潤滑テールシャフトベアリングのパーシャルアーク設計に関するグラフであると解するのが相当である。 そして、甲1の2.1では、水潤滑テールシャフトベアリングに適用されるゾンマーフェルト数は0.01より小さいとしているところ、0.01より小さい領域でも、60°より90°や120°のものの最小膜厚が大きいことが、図2から看取できる。 したがって、甲1と直接は関係がない乙1~乙3に基づいて、甲1記載事項1の技術内容が妥当ではないとは認められないから、上記(ア)aの主張は、前提において根拠を欠くものであり、採用することはできない。 b 令和6年12月9日の意見書での主張について (a)上記(ア)b(a)及び(b)の主張について検討する。 これら主張は、甲1の図2が油潤滑軸受のグラフであることを前提にしていると認められるところ、上記aで説示したとおり、図2は、水潤滑テールシャフトベアリングのパーシャルアーク設計に関するグラフであると解するのが相当である。 したがって、上記(ア)b(a)及び(b)の主張は、前提において根拠を欠くものであるから、採用することはできない。 (b)上記(ア)b(c)の主張について検討する。 乙6記載事項1は、甲1記載事項1の技術的内容を何ら否定するものではないから、乙6記載事項1に基づく上記(ア)b(c)の主張は、前提において根拠を欠くものであり、採用することはできない。 エ 小括 以上によれば、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 本件発明2について 本件発明2と甲1発明と対比すると、後者の「PTFE」は、前者の「分子中にふっ素原子(F)を含有する合成高分子化合物」に相当する。 そうすると、本件発明2と甲1発明とには、相違点1、2以外の相違点があるとは認められないから、上記1(2)で説示したのと同様の理由により、本件発明2も、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 本件発明3について (1)対比 本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、相違点1、2以外に以下の点で相違し、その余の点で一致する。 <相違点3> 中間層のデュロメータ硬さについて、本件発明3では、「A50~90」であるのに対し、甲1発明では、不明である点。 (2)相違点についての判断 甲4の表1、甲5の表6-1等によれば、船舶の推進軸に用いられる軸受の内周面に複数設けられて、相互の接続部分に溝を形成する部材において、摺動層、ゴムからなる中間層及び基台の三層構造体での中間層のデュロメータ硬さとしてA70程度は特殊な数値とは認められないから、甲1、甲4、甲5に接した当業者であれば、甲1発明において、中間層のデュロメータ硬さとしてA70前後の値とすることで、相違点3に係る本件発明3の構成とすることは、容易に想到し得たことである。 したがって、本件発明3は、甲1発明、甲4、5に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本件発明1、2は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3は、甲1発明、甲4、5に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-701369

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決7件(松井 和寿、株式会社ミカサ)
  • 2023-900277異議申立 / 2024-07-10 / 維持ミカサニンジャ、ミカサ、ニンジャ
    同じ当事者: 株式会社ミカサ
  • 2022-701060異議申立 / 2023-05-24 / 維持軸受片及び水中軸受
    同じ当事者: 株式会社ミカサ
  • 2021-700765異議申立 / 2021-10-20 / 維持鋼板のアルカリ洗浄工程で使用されるゴムロール
    同じ当事者: 株式会社ミカサ
  • 2020-013603拒絶査定不服審判 / 2021-06-16 / 原査定取消(特許/登録すべき)
    同じ当事者: 株式会社ミカサ
  • 2020-015471拒絶査定不服審判 / 2021-06-16 / 原査定取消(特許/登録すべき)
    同じ当事者: 株式会社ミカサ
同じ論点・分野の審決(審決分類)41件(121・B63H)
  • 2025-700040異議申立 / 2025-04-08 / 維持メタノール燃料船
    共通の審決分類: 121・B63H
  • 2022-700632異議申立 / 2024-09-26 / 請求成立(取消)舶用ディーゼルエンジン
    共通の審決分類: 121・B63H
  • 2023-700419異議申立 / 2023-11-30 / 訂正認容タンクコンテナ、及び液化ガス燃料船
    共通の審決分類: 121・B63H
  • 2022-700218異議申立 / 2023-05-08 / 請求成立(取消)船舶
    共通の審決分類: 121・B63H
  • 2022-700181異議申立 / 2022-07-05 / 維持エンジンのための燃料処理システムおよびシステムを使用する方法
    共通の審決分類: 121・B63H

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存