特許異議申立
2023-700331
複合材料製航空機用部品およびその製造方法
- 審判番号
- 2023-700331
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-187994
- 登録番号
- 7149151
- 請求日
- 2023年03月31日
- 審決日
- 2024年03月26日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】川崎重工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人有古特許事務所
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 藤井 昇
- 審判官 一ノ瀬 覚
- 審判官 中村 則夫
- 分類
- P1651.536-YAA(B64C) / P1651.537-YAA(B64C) / P1651.113-YAA(B64C) / P1651.121-YAA(B64C) / P1651.851-YAA(B64C) / P1651.853-YAA(B64C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7149151号発明「複合材料製航空機用部品およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7149151号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8~10〕について訂正することを認める。
特許第7149151号の請求項1~6、8、10に係る特許を維持する。
特許第7149151号の請求項7及び9に係る特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7149151号の請求項1~10に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成30年10月3日に出願されたものであって、令和4年9月28日に特許権の設定登録がされ、同年10月6日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許異議申立人弁理士法人朝比奈特許事務所(以下「申立人」という。)による特許異議の申立てがされた。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 3月31日 特許異議の申立て
同年 9月11日付け 取消理由通知書
同年11月10日 特許権者より意見書、訂正請求書の提出
令和6年 1月12日 申立人より意見書の提出
第2 本件訂正について
令和5年11月10日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものである。
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、その内容は以下のとおりである(なお、下線部が訂正箇所である。以下、この項において同様。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「 強化繊維および樹脂組成物から少なくとも構成される複合材料層が複数積層された積層構造を有するとともに、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを有する、複合材料製航空機用部品であって、
前記複合材料層の少なくとも1つは、前記強化繊維が、接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を含む層であり、
同一の積層構造を有し立体構造を有さない平板成形体の厚さを基準厚さとしたときに、前記積層構造を保持した状態で前記基準厚さよりも厚さが小さい薄板部を含み、
さらに、前記強化繊維には、前記切込部が開いた状態である開切込部が含まれていることを特徴とする、
複合材料製航空機用部品。」
と記載されているのを、
「 強化繊維および樹脂組成物から少なくとも構成される複合材料層が複数積層された積層構造を有するとともに、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを有する成形体である、複合材料製航空機用部品であって、
前記複合材料層の少なくとも1つは、前記強化繊維が、接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を複数含む切込領域を有する層であり、前記切込領域は板厚の一方向側に偏在し、
前記複合材料製航空機用部品と同一の積層構造を有し前記立体構造を有さず、前記強化繊維および前記樹脂組成物が流動および伸展せずに加熱加圧成形された従来の平板成形体を基準として、当該平板成形体の厚さを基準厚さとしたときに、
当該基準厚さは、前記平板成形体における繊維体積含有率と、当該平板成形体の硬化前の複合材料積層体を構成する、硬化前のそれぞれの複合材料層における繊維目付と、を用いて算出された、当該平板成形体の算出厚さであり、
前記複合材料製航空機用部品は、前記積層構造を保持した状態で前記基準厚さよりも厚さが小さい薄板部を含み、
さらに、前記強化繊維には、前記切込部が開いた状態である開切込部が含まれていることを特徴とする、
複合材料製航空機用部品。」
に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8において、
「 強化繊維および樹脂組成物から構成される複合材料層を複数積層して積層体を形成し、
当該積層体を成形型に設置して加熱加圧成形する、複合材料製航空機用部品の製造方法であって、
前記複合材料層として、部分的な切込部を複数含む切込領域を有し、かつ、接合部を含まない単一の強化繊維および樹脂組成物から構成されるものが少なくとも1つ用いられ、
前記成形型として、雌型部およびこれに嵌合する雄型部を備え、前記雄型部および前記雌型部の間に形成されるキャビティには、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを形成するための領域が含まれ、
前記積層体を前記成形型に設置したときには、前記立体構造に対応する部位およびその隣接部位の少なくとも一方に前記切込領域が位置するように、当該切込領域を前記複合材料層に形成することを特徴とする、
複合材料製航空機用部品の製造方法。」
と記載されているのを
「 強化繊維および樹脂組成物から構成される複合材料層を複数積層して積層体を形成し、
当該積層体を成形型に設置して加熱加圧成形することにより得られる成形体である、複合材料製航空機用部品の製造方法であって、
前記複合材料層として、部分的な切込部を複数含む切込領域を有し、かつ、接合部を含まない単一の強化繊維および樹脂組成物から構成されるものが少なくとも1つ用いられ、
前記成形型として、雌型部およびこれに嵌合する雄型部を備え、前記雄型部および前記雌型部の間に形成されるキャビティには、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを形成するための領域が含まれ、
前記切込領域を有する複合材料層を第一複合材料層としたときに、
前記複合材料層として、さらに、前記切込領域を有さず、接合部を含まない単一の強化繊維および樹脂組成物から構成される第二複合材料層が用いられ、
前記積層体を前記成形型に設置したときには、前記立体構造に対応する部位およびその隣接部位の少なくとも一方に前記切込領域が位置し、かつ、当該切込領域は板厚の一方向側に偏在するように、前記第一複合材料層および前記第二複合材料層を積層して前記複合材料層に形成し、
前記積層体を加熱加圧成形した後に得られる前記複合材料製航空機用部品には、当該複合材料製航空機用部品と同一の積層構造を有し、前記立体構造を有さず、前記強化繊維および前記樹脂組成物が流動および伸展せずに加熱加圧成形された従来の平板成形体を基準として、当該平板成形体の厚さを基準厚さとしたときに、
当該基準厚さは、前記平板成形体における繊維体積含有率と、当該平板成形体の硬化前の複合材料積層体を構成する、硬化前のそれぞれの複合材料層における繊維目付と、を用いて算出された、当該平板成形体の算出厚さであり、
前記複合材料製航空機用部品が、前記積層構造を保持した状態で前記基準厚さよりも厚さが小さい薄板部が形成されるとともに、
当該複合材料製航空機用部品の前記強化繊維には、前記切込部が開いて開切込部が形成されることを特徴とする、
複合材料製航空機用部品の製造方法。」
に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10に、「請求項8または9」と記載されているのを、「請求項8」に訂正する。
本件訂正の請求は、一群の請求項〔1~7〕、〔8~10〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「複合材料製航空機部品」が「成形体である」ことを特定し、以下同様に、「部分的な切込部を含む層」を「部分的な切込部を複数含む切込領域を有する層」とし「前記切込領域は板厚の一方向側に偏在し」ていることを特定し、「基準厚さ」が「前記複合材料製航空機用部品と同一の積層構造を有し前記立体構造を有さず、前記強化繊維および前記樹脂組成物が流動および伸展せずに加熱加圧成形された従来の平板成形体を基準として、当該平板成形体の厚さ」であり、「当該基準厚さは、前記平板成形体における繊維体積含有率と、当該平板成形体の硬化前の複合材料積層体を構成する、硬化前のそれぞれの複合材料層における繊維目付と、を用いて算出された、当該平板成形体の算出厚さであ」ることを特定し、「薄板部」が「前記複合材料製航空機用部品」に含まれるものであることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記の事項は、本件明細書の段落【0013】、【0014】、【0031】、【0034】、【0042】~【0047】、【0066】、【0069】~【0091】及び図4(C)、(D)の記載からみて、新規事項を追加するものではないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、申立人は、令和6年1月12日の意見書の2~4ページの「3(3)(3-1)(a)」において、訂正事項1の「基準厚さ」に係る訂正ついて、実質上特許請求の範囲を変更するものであり訂正要件違反である旨主張する。
しかしながら、訂正前の「基準厚さ」が、本件明細書の段落【0036】の定義によるものと段落【0042】の定義によるものの両者を含み得るものであったのを、本件訂正により後者に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を変更するものではなく、申立人の上記主張は採用できない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項8に対し、実質的に訂正事項1と同様内容に訂正をするとともに、「前記切込領域を有する複合材料層を第一複合材料層としたときに、前記複合材料層として、さらに、前記切込領域を有さず、接合部を含まない単一の強化繊維および樹脂組成物から構成される第二複合材料層が用いられ」ること、及び、「当該複合材料製航空機用部品の前記強化繊維には、前記切込部が開いて開切込部が形成される」ことを特定するものであるから、上記(1)と同様に特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記の事項は、本件明細書の段落【0013】、【0014】、【0031】、【0034】、【0042】~【0047】、【0066】、【0069】~【0091】及び図4(C)、(D)の記載からみて、新規事項を追加するものではないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3、4について
訂正事項3、4は、請求項7、9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項4による請求項9の削除に伴い、請求項10において、当該請求項9を引用しないとするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項を追加するものではないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
以上のとおり、訂正事項1~5による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項におけて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8~10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件訂正後の本件特許の請求項1~6、8、10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6、8、10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
強化繊維および樹脂組成物から少なくとも構成される複合材料層が複数積層された積層構造を有するとともに、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを有する成形体である、複合材料製航空機用部品であって、
前記複合材料層の少なくとも1つは、前記強化繊維が、接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を複数含む切込領域を有する層であり、前記切込領域は板厚の一方向側に偏在し、
前記複合材料製航空機用部品と同一の積層構造を有し前記立体構造を有さず、前記強化繊維および前記樹脂組成物が流動および伸展せずに加熱加圧成形された従来の平板成形体を基準として、当該平板成形体の厚さを基準厚さとしたときに、
当該基準厚さは、前記平板成形体における繊維体積含有率と、当該平板成形体の硬化前の複合材料積層体を構成する、硬化前のそれぞれの複合材料層における繊維目付と、を用いて算出された、当該平板成形体の算出厚さであり、
前記複合材料製航空機用部品は、前記積層構造を保持した状態で前記基準厚さよりも厚さが小さい薄板部を含み、
さらに、前記強化繊維には、前記切込部が開いた状態である開切込部が含まれていることを特徴とする、
複合材料製航空機用部品。
【請求項2】
前記凸部が1つ以上存在することを特徴とする、
請求項1に記載の複合材料製航空機用部品。
【請求項3】
前記湾曲部は、一次元の湾曲または二次元の湾曲を含むものであることを特徴とする、
請求項1または2に記載の複合材料製航空機用部品。
【請求項4】
前記基準厚さを100%としたときに、前記薄板部の厚さは60%以上100%未満であることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1 項に記載の複合材料製航空機用部品。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含有するものであることを特徴とする、
請求項1から4のいずれか1 項に記載の複合材料製航空機用部品。
【請求項6】
前記強化繊維は炭素繊維であることを特徴とする、
請求項1から5のいずれか1 項に記載の複合材料製航空機用部品。
【請求項8】
強化繊維および樹脂組成物から構成される複合材料層を複数積層して積層体を形成し、
当該積層体を成形型に設置して加熱加圧成形することにより得られる成形体である、複合材料製航空機用部品の製造方法であって、
前記複合材料層として、部分的な切込部を複数含む切込領域を有し、かつ、接合部を含まない単一の強化繊維および樹脂組成物から構成されるものが少なくとも1つ用いられ、
前記成形型として、雌型部およびこれに嵌合する雄型部を備え、前記雄型部および前記雌型部の間に形成されるキャビティには、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを形成するための領域が含まれ、
前記切込領域を有する複合材料層を第一複合材料層としたときに、
前記複合材料層として、さらに、前記切込領域を有さず、接合部を含まない単一の強化繊維および樹脂組成物から構成される第二複合材料層が用いられ、
前記積層体を前記成形型に設置したときには、前記立体構造に対応する部位およびその隣接部位の少なくとも一方に前記切込領域が位置し、かつ、当該切込領域は板厚の一方向側に偏在するように、前記第一複合材料層および前記第二複合材料層を積層して前記複合材料層に形成し、
前記積層体を加熱加圧成形した後に得られる前記複合材料製航空機用部品には、当該複合材料製航空機用部品と同一の積層構造を有し、前記立体構造を有さず、前記強化繊維および前記樹脂組成物が流動および伸展せずに加熱加圧成形された従来の平板成形体を基準として、当該平板成形体の厚さを基準厚さとしたときに、
当該基準厚さは、前記平板成形体における繊維体積含有率と、当該平板成形体の硬化前の複合材料積層体を構成する、硬化前のそれぞれの複合材料層における繊維目付と、を用いて算出された、当該平板成形体の算出厚さであり、
前記複合材料製航空機用部品が、前記積層構造を保持した状態で前記基準厚さよりも厚さが小さい薄板部が形成されるとともに、
当該複合材料製航空機用部品の前記強化繊維には、前記切込部が開いて開切込部が形成されることを特徴とする、
複合材料製航空機用部品の製造方法。
【請求項10】
前記切込領域は、前記複合材料層の一部であるか、当該複合材料層全体に及んでいることを特徴とする、
請求項8に記載の複合材料製航空機用部品の製造方法。」
第4 取消理由通知の概要
本件訂正前の請求項1~10に対し、令和5年9月11日付けの取消理由通知において、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1;(明確性要件)本件の下記の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
理由2;(実施可能要件)本件の下記の請求項に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第4項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
理由3;(新規性)本件の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
理由4;(進歩性)本件の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
1 取消理由と請求項の関係
(1)理由1、2について
請求項1~7
(2)理由3、4について
ア 甲1を主たる証拠とする場合
理由3:請求項1、2、5、6、8、10
理由4:請求項1~10
イ 甲2を主たる証拠とする場合
理由3:請求項1、2、3、5、6、8、10
理由4:請求項1~10
ウ 甲3を主たる証拠とする場合
理由3:請求項1、2、5、6、8、10
理由4:請求項1~10
引用文献一覧
甲1:国際公開第2008/038429号
甲2:特開2010-23449号公報
甲3:国際公開第2014/142061号
(それぞれ、申立人が提出した甲第1~3号証である。)
第5 当審の判断
1 取消理由1(明確性要件)及び取消理由2(実施可能要件)について
本件訂正により、請求項1~7は、上記第2の1(1)、(3)のとおりに訂正され、「基準厚さ」について本件発明1で特定された。
よって、取消理由1、2は解消された。
2 取消理由3(新規性)及び取消理由4(進歩性)について
甲1を主たる証拠とした場合
ア 本件発明1について
(ア)甲1に記載された発明
甲1の請求の範囲[1]、[6]、[7]、段落[0035]、[0074]及び図1の記載からみて、特に段落[0074]の態様Cを有するものとして、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「板状部と該板状部の少なくとも片側の面から隆起した突起部を有する板状体からなり、前記板状部および前記突起部が、多数本の強化繊維と、該多数本の強化繊維と一体となったマトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチックの航空機の構造部材において、
前記強化繊維は炭素繊維であり、
前記マトリックス樹脂は熱硬化性樹脂であり、
前記板状部および前記突起部における前記多数本の強化繊維が、それぞれにおける多数本の強化繊維の配列方向が異なる少なくとも2つの強化繊維層からなり、
前記各強化繊維層における前記多数本の強化繊維のそれぞれの繊維長が、10乃至100mmであり、
前記各強化繊維層は、連続状の強化繊維で構成される一方向プリプレグシートの全面に強化繊維を横切る方向に断続的な有限長の切り込みを入れたものであり、
前記各強化繊維層の少なくとも一部の強化繊維が、前記板状部から前記突起部に亘って連続して位置し、かつ、
前記突起部における前記少なくとも2つの強化繊維層の少なくとも1つの強化繊維層が、前記突起部の形状に沿った形状を有している、航空機の構造部材である繊維強化プラスチック。」
(イ)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
・後者の「強化繊維」は前者の「強化繊維」に相当し、以下同様に、「マトリックス樹脂」は「樹脂組成物」に、「強化繊維層」は「複合材料層」に、「突起部」は「立体構造」としての「立設部」あるいは「凸部」に、「繊維強化プラスチックの航空機の構造部材」は「成形体」及び「複合材料製航空機用部品」に、「切り込み」は「切込部」にそれぞれ相当する。また、後者の「少なくとも2つの強化繊維層」は、積層構造を有することが明らかである。
そして、上記の相当関係を踏まえると以下のことがいえる。
・後者の「少なくとも2つの強化繊維層」を有する「板状部と該板状部の少なくとも片側の面から隆起した突起部を有する板状体からなり、前記板状部および前記突起部が、多数本の強化繊維と、該多数本の強化繊維と一体となったマトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチックの航空機の構造部材」は、前者の「強化繊維および樹脂組成物から少なくとも構成される複合材料層が複数積層された積層構造を有するとともに、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを有する成形体である、複合材料製航空機用部品」に相当する。
・後者の「強化繊維層」について、「連続状の強化繊維で構成される」ということは、接合部を含まない単一の連続繊維からなることが明らかである。
そうすると、後者の「前記各強化繊維層における前記多数本の強化繊維のそれぞれの繊維長が、10乃至100mmであり、前記各強化繊維層は、連続状の強化繊維で構成される一方向プリプレグシートの全面に強化繊維を横切る方向に断続的な有限長の切り込みを入れたものであり」ということと、前者の「前記複合材料層の少なくとも1つは、前記強化繊維が、接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を複数含む切込領域を有する層であり、前記切込領域は板厚の一方向側に偏在し」ていることとは、「前記複合材料層の少なくとも1つは、前記強化繊維が、接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を複数含む切込領域を有する層であ」ることにおいて共通する。
・後者の「突起部」は、具体的には甲1の段落[0059]~[0060]、[0065]に示される、金型内で中間基材を加熱加圧する方法により形成されるものであるから、その積層状態を保持したまであることは明らかである。また、同一の積層構造で突起部を有さない平板形状に加熱加圧成形したものは、熱硬化性樹脂が突起部形成のための流動および伸展をしないことは明らかであるから、後者の加熱加圧後の強化繊維層を積層したものの少なくとも突起部周辺の厚さは、平板形状に加熱加圧成形したものよりも薄くなることが明らかであるし、少なくとも突起部を形成するプリプレグシートの「切り込み」自体は開いた状態になることも明らかである。
そうすると、後者の「前記板状部および前記突起部における前記多数本の強化繊維が、それぞれにおける多数本の強化繊維の配列方向が異なる少なくとも2つの強化繊維層からなり、」「前記各強化繊維層は、連続状の強化繊維で構成される一方向プリプレグシートの全面に強化繊維を横切る方向に断続的な有限長の切り込みを入れたものであり、前記各強化繊維層の少なくとも一部の強化繊維が、前記板状部から前記突起部に亘って連続して位置し、かつ、前記突起部における前記少なくとも2つの強化繊維層の少なくとも1つの強化繊維層が、前記突起部の形状に沿った形状を有している」ことと、前者の「前記複合材料製航空機用部品と同一の積層構造を有し前記立体構造を有さず、前記強化繊維および前記樹脂組成物が流動および伸展せずに加熱加圧成形された従来の平板成形体を基準として、当該平板成形体の厚さを基準厚さとしたときに、当該基準厚さは、前記平板成形体における繊維体積含有率と、当該平板成形体の硬化前の複合材料積層体を構成する、硬化前のそれぞれの複合材料層における繊維目付と、を用いて算出された、当該平板成形体の算出厚さであり、前記複合材料製航空機用部品は、前記積層構造を保持した状態で前記基準厚さよりも厚さが小さい薄板部を含み、さらに、前記強化繊維には、前記切込部が開いた状態である開切込部が含まれていること」とは、「前記複合材料製航空機用部品と同一の積層構造を有し前記立体構造を有さず、前記強化繊維および前記樹脂組成物が流動および伸展せずに加熱加圧成形された従来の平板成形体を基準として、当該平板成形体の厚さを基準厚さとしたときに、前記複合材料製航空機用部品は、前記積層構造を保持した状態で厚さが前記基準厚さよりも厚さが小さい薄板部を含み、さらに、前記強化繊維には、前記切込部が開いた状態である開切込部が含まれていること」において共通する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明Aとの一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点〕
「強化繊維および樹脂組成物から少なくとも構成される複合材料層が複数積層された積層構造を有するとともに、立体構造として立設部、凸部および湾曲部の少なくともいずれかを有する成形体である、複合材料製航空機用部品であって、
前記複合材料層の少なくとも1つは、前記強化繊維が、接合部を含まない単一の連続繊維で構成され、かつ、部分的な切込部を複数含む切込領域を有する層であり、
前記複合材料製航空機用部品と同一の積層構造を有し前記立体構造を有さず、前記強化繊維および前記樹脂組成物が流動および伸展せずに加熱加圧成形された従来の平板成形体を基準として、当該平板成形体の厚さを基準厚さとしたときに、
前記複合材料製航空機用部品は、前記積層構造を保持した状態で前記基準厚さよりも厚さが小さい薄板部を含み、
さらに、前記強化繊維には、前記切込部が開いた状態である開切込部が含まれている、
複合材料製航空機用部品。」
〔相違点1〕
「切込領域」について、本件発明1は、「前記切込領域は板厚の一方向側に偏在し」ているのに対し、甲1発明は、「前記各強化繊維層は、連続状の強化繊維で構成される一方向プリプレグシートの全面に強化繊維を横切る方向に断続的な有限長の切り込みを入れたもの」である点。
〔相違点2〕
「基準厚さ」について、本件発明1は、「前記平板成形体における繊維体積含有率と、当該平板成形体の硬化前の複合材料積層体を構成する、硬化前のそれぞれの複合材料層における繊維目付と、を用いて算出された、当該平板成形体の算出厚さであ」るのに対し、甲1発明は、そのような特定はない点。
(ウ)判断
上記相違点1について検討する。
まず、本件発明1における「前記切込領域は板厚の一方向側に偏在し」ているという事項について検討すると、当該「板厚」が「成形体」の厚さを意味していることは、請求項1の記載から明らかである。なお、このことは、本件明細書の段落【0014】の「得られる硬化物(航空機用部品)には、開切込部が生じるとともに、板厚が薄くなる薄板部が生じる」との記載や、同【0072】や【0098】の記載とも整合している。
そうすると、上記事項は、「切込領域」が、成形体の板厚の一方向側に偏在していることを特定するものである。
一方、甲1発明は、「前記各強化繊維層は、連続状の強化繊維で構成される一方向プリプレグシートの全面に強化繊維を横切る方向に断続的な有限長の切り込みを入れたもの」、すなわち、「繊維強化プラスチックの航空機の構造部材」(成形体)を構成する各強化繊維層に切り込みを入れたものであって、切り込みを設けた領域は、「繊維強化プラスチックの航空機の構造部材」の板厚の「一方向側に偏在」しているものではない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明ではない。
また、上記相違点1に係る本件発明1の事項は、甲2、甲3にも記載や示唆はなく、甲1発明において、当該事項を有するよう変更することが、設計的事項であるとする理由もない。
したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、上記アと同様の理由により、甲1発明ではないし、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明8、10について
本件発明8、10は、本件発明1~6に係る物の発明を製造する方法の発明であり、甲1に記載された発明とは、少なくとも上記相違点1と実質的に同様内容の相違点(特に、本件発明8の「当該切込領域は板厚の一方向側に偏在するように、前記第一複合材料層および前記第二複合材料層を積層して前記複合材料層に形成し」との事項を参照。)を含むものである。
したがって、上記アと同様の理由により、甲1発明ではないし、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)甲2、甲3を主たる証拠とした場合
甲2、甲3に記載された発明には、本件発明1~6、8、10との間に、少なくとも上記相違点1と実質的に同じ内容の相違点を含むものである。
したがって、上記(1)と同様の理由により、本件発明1~6、8、10は、甲2発明または甲3発明ではないし、また、甲2発明または甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
第6 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由及び意見書の主張について
申立人は、特許異議申立書の63~65ページの「3(4)(4-3)(4-3-2)」において、訂正前の請求項1~7に係る発明について、成形後の「複合材料製航空機用部品」から、繊維目付や繊維体積含有率や基準厚さを確定することができず、発明の範囲が不明確である旨主張し、また、令和6年1月12日の意見書の4~5ページの「3(3)(3-1)(b)」においても同様趣旨の主張をする。
しかしながら、訂正後の請求項1の「当該基準厚さは、前記平板成形体における繊維体積含有率と、当該平板成形体の硬化前の複合材料積層体を構成する、硬化前のそれぞれの複合材料層における繊維目付と、を用いて算出された、当該平板成形体の算出厚さであり、前記複合材料製航空機用部品は、前記積層構造を保持した状態で前記基準厚さよりも厚さが小さい薄板部を含み、」という記載は、成形後の「複合材料製航空機用部品」の「薄板部」を特定するものあって、当該「薄板部」において、「強化繊維」の「切込部が開いた状態である開切込部」が存在していることを、上記硬化前後の厚さの関係をもって示していることは明らかであり、当該請求項1の記載により特定される「(成形後の)複合材料製航空機用部品」の範囲は明確である。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~6、8、10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~6、8、10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項7及び9に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項7及び9に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700331