特許異議申立
2018-700843
軸受用炭素材料およびその軸受用炭素材料からなる摺動部材
- 審判番号
- 2018-700843
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-509895
- 登録番号
- 特許第6310906号(P6310906)
- 請求日
- 2018年10月17日
- 審決日
- 2019年08月28日
- 公報発行日
- 2020年02月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】東洋炭素株式会社
- 【権利者代理人】福島 祥人
- 【異議申立人】古川 興輝
- 審判長/審判官
- 審判長 平田 信勝
- 審判官 藤田 和英
- 審判官 尾崎 和寛
- 分類
- P1651.113-ZDA(F16C) / P1651.121-ZDA(F16C) / P1651.536-ZDA(F16C) / P1651.537-ZDA(F16C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6310906号発明「軸受用炭素材料およびその軸受用炭素材料からなる摺動部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6310906号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5、6、7、8について訂正することを認める。
特許第6310906号の請求項1、8に係る特許を取り消す。
同請求項2~7に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6310906号の請求項1~4に係る特許についての出願は、2014年3月25日(優先権主張 2013年4月1日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年3月23日に特許権の設定登録がされ、平成30年4月18日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年10月17日 :特許異議申立人古川興輝(以下「申立人」 という。)による請求項1~4に係る特許 についての特許異議の申立て
平成30年12月26日付け:取消理由通知書
平成31年 3月 7日 :特許権者による意見書の提出及び
訂正の請求
平成31年 3月28日付け:通知書(訂正請求があった旨の通知)
平成31年 4月18日 :申立人による意見書の提出
令和 元年 5月15日付け:取消理由通知書(決定の予告)
なお、取消理由通知書(決定の予告)に対して、特許権者からは何ら応答はなかった。
第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
平成31年3月7日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6310906号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。(下線部は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、」という事項を追加するとともに、「前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、」という事項を追加し、
「【請求項1】 軸受用炭素材料であって、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下である、軸受用炭素材料。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を独立形式に改めるとともに、「前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、」という事項、「前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、」及び「0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きい、」という事項を追加し、
「【請求項2】 軸受用炭素材料であって、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きい、軸受用炭素材料。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「前記炭素基材のかさ密度は、1.8Mg/m3以下である、請求項1または2記載の軸受用炭素材料。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、「前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、」、「前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、」、「0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、」、及び「前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上である、」という事項を追加し、
「【請求項3】 軸受用炭素材料であって、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上である、軸受用炭素材料。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「滑り軸受に用いられる摺動部材であって、請求項1~3のいずれか一項に記載の軸受用炭素材料により形成される、摺動部材。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、「前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、」、「前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、」、「0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、」、及び「前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上である、」という事項を追加し、
「【請求項4】 滑り軸受に用いられる摺動部材であって、
軸受用炭素材料により形成され、
前記軸受用炭素材料は、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上である、摺動部材。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に、「滑り軸受に用いられる摺動部材であって、請求項1~3のいずれか一項に記載の軸受用炭素材料により形成される、摺動部材。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、「前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、」、「前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、」、「0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、」、及び「前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上2.41Mg/m3以下である、」という事項を追加し、
「【請求項5】 滑り軸受に用いられる摺動部材であって、
軸受用炭素材料により形成され、
前記軸受用炭素材料は、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上2.41Mg/m3以下である、摺動部材。」と記載し、新たな請求項5とする。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に、「滑り軸受に用いられる摺動部材であって、請求項1~3のいずれか一項に記載の軸受用炭素材料により形成される、摺動部材。」とあるうち、請求項1を引用する請求項3を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、「樹脂または金属」の「または金属」を削除し、「前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、」、「前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、」、「0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、」、及び「前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上である、」という事項を追加し、
「【請求項6】 滑り軸受に用いられる摺動部材であって、
軸受用炭素材料により形成され、
前記軸受用炭素材料は、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上である、摺動部材。」と記載し、新たな請求項6とする。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に、「滑り軸受に用いられる摺動部材であって、請求項1~3のいずれか一項に記載の軸受用炭素材料により形成される、摺動部材。」とあるうち、請求項2を引用する請求項3を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、「樹脂または金属」の「樹脂または」を削除し、「前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、」、「0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、」、及び「前記軸受用炭素材料のかさ密度は、2.21Mg/m3以上である、」という事項を追加し、
「【請求項7】 滑り軸受に用いられる摺動部材であって、
軸受用炭素材料により形成され、
前記軸受用炭素材料は、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、2.21Mg/m3以上である、摺動部材。」と記載し、新たな請求項7とする。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項3に、「前記炭素基材のかさ密度は、1.8Mg/m3以下である、請求項1または2記載の軸受用炭素材料。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、「前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、」、及び「前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上2.41Mg/m3以下である、」という事項を追加し、
「【請求項8】 軸受用炭素材料であって、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上2.41Mg/m3以下である、軸受用炭素材料。」と記載し、新たな請求項8とする。
なお、訂正事項8に関し、訂正請求書の第6ページ下2行~第7ページ1行には、「特許請求の範囲の請求項3に、『滑り軸受に用いられる摺動部材であって、請求項1~3のいずれか一項に記載の軸受用炭素材料により形成される、摺動部材。』とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立形式に改める」と記載されているが、訂正請求書の第7ページの表の記載(訂正後の請求項8は、訂正前の請求項2を引用する請求項3に対応)、及び第21ページの「訂正事項8は、訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1又は2の記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるための訂正」との記載に鑑みれば、上記『』内の記載は、訂正前の請求項3の内容を記載すべきところを誤って訂正前の請求項4の内容を記載したものと認められるから、上記『』内の記載は、「前記炭素基材のかさ密度は、1.8Mg/m3以下である、請求項1または2記載の軸受用炭素材料。」と読み換えることとした。
(9)訂正前後の請求項の対応
上記(1)~(8)を踏まえると、本件訂正前後の各請求項の対応関係は以下のとおりである。
訂正後の請求項1(訂正前の請求項1)
訂正後の請求項2(訂正前の請求項2)
訂正後の請求項3(訂正前の請求項1を引用する請求項3)
訂正後の請求項4(訂正前の請求項1を引用する請求項4)
訂正後の請求項5(訂正前の請求項2を引用する請求項4)
訂正後の請求項6(訂正前の請求項1を引用する請求項3を引用する
請求項4)
訂正後の請求項7(訂正前の請求項2を引用する請求項3を引用する
請求項4)
訂正後の請求項8(訂正前の請求項2を引用する請求項3)
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「炭素粉体」の材料を「人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体」に限定するとともに、訂正前の請求項1における「炭素基材」のかさ密度を「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1のうち、「炭素粉体」の材料については本件特許明細書の段落【0032】や段落【0075】~【0076】の表1及び表2の記載に基づくものであり、「炭素基材」のかさ密度については、段落【0013】、【0015】等の記載に基づくものであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
なお、本件訂正請求においては、訂正前の全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない(以下、訂正事項2~8についても同様。)。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるとともに、訂正前の請求項2における「炭素粉体」の材料、「炭素基材」のかさ密度、及び、「軸受用炭素材料」の細孔分布を具体的に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2のうち、「炭素粉体」の材料や「炭素基材」のかさ密度については、訂正事項1と同様に、明細書の段落【0013】、【0015】、【0032】、並びに段落【0075】~【0076】の表1及び表2の記載に基づくものである。
また、「軸受用炭素材料」の細孔分布については、明細書の段落【0102】における、「サンプル1~9については、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が8mm3/g以下と小さいため、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が比較的大きいと考えられる。そのため、サンプル1~9では、0.1μmよりも小さい細孔が焼付きの発生の抑制に寄与していると考えられる。・・・(略)」との記載、並びに、図6~9、11及び12における図示内容から導き出される事項である。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2の記載を引用する記載であったところ、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるとともに、訂正前の請求項3における「炭素粉体」の材料、「炭素基材」のかさ密度、「軸受用炭素材料」の細孔分布、及び「軸受用炭素材料」のかさ密度を具体的に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項3は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3のうち、「炭素粉体」の材料や「炭素基材」のかさ密度については、訂正事項1と同様に、明細書の段落【0013】、【0015】及び【0032】、並びに段落【0075】~【0076】の表1及び表2の記載に基づくものであり、「軸受用炭素材料」の細孔分布については、訂正事項2と同様に、明細書の段落【0102】の記載、並びに図6~9、11及び12における図示内容から導き出される事項である。
また、「軸受用炭素材料」のかさ密度については、明細書の段落【0075】~【0076】の表1及び表2におけるサンプル1~4、6及び7の数値のうち最小のかさ密度が1.86Mg/m3であることから導き出される事項である。
よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項の記載を引用する記載であったところ、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるとともに、訂正前の請求項4における「炭素粉体」の材料、「炭素基材」のかさ密度、「軸受用炭素材料」の細孔分布、及び「軸受用炭素材料」のかさ密度を具体的に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項4は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4における「炭素粉体」の材料、「炭素基材」のかさ密度、「軸受用炭素材料」の細孔分布、及び「軸受用炭素材料」のかさ密度は、訂正事項3と同様に、明細書の段落【0013】、【0015】、【0032】、【0075】~【0076】(表1及び表2)、【0102】の記載、並びに図6~9、11及び12における図示内容から導き出される事項である。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項の記載を引用する記載であったところ、請求項2を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるとともに、訂正前の請求項4における「炭素粉体」の材料、「炭素基材」のかさ密度、「軸受用炭素材料」の細孔分布、及び「軸受用炭素材料」のかさ密度を具体的に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項5は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5における「炭素粉体」の材料、「炭素基材」のかさ密度、及び「軸受用炭素材料」の細孔分布は、訂正事項3と同様に、明細書の段落【0013】、【0015】、【0032】、【0075】~【0076】(表1及び表2)、【0102】の記載、並びに図6~9、11及び12における図示内容から導き出される事項である。
また、「軸受用炭素材料」のかさ密度については、明細書の段落【0075】~【0076】の表1及び表2におけるサンプル1~4、6及び7の数値のうち最小のかさ密度が1.86Mg/m3、最大のかさ密度が2.41Mg/m3であることから導き出される事項である。
よって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項の記載を引用する記載であったところ、請求項1を引用する請求項3を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるとともに、訂正前の請求項4における「樹脂または金属からなる含浸材料」を「樹脂からなる含浸材料」に限定し、あわせて、「炭素粉体」の材料、「炭素基材」のかさ密度、「軸受用炭素材料」の細孔分布、及び「軸受用炭素材料」のかさ密度を具体的に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項6は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6における「炭素粉体」の材料、「炭素基材」のかさ密度、「軸受用炭素材料」の細孔分布、及び「軸受用炭素材料」のかさ密度は、訂正事項3及び4と同様に、明細書の段落【0013】、【0015】、【0032】、【0075】~【0076】(表1及び表2)、【0102】の記載、並びに図6~9、11及び12における図示内容から導き出される事項である。
また、「樹脂からなる含浸材料」については、明細書の段落【0033】等の記載に基づくものである。
よって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項の記載を引用する記載であったところ、請求項2を引用する請求項3を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるとともに、訂正前の請求項4における「樹脂または金属からなる含浸材料」を「金属からなる含浸材料」に限定し、あわせて、「炭素粉体」の材料、「軸受用炭素材料」の細孔分布、及び「軸受用炭素材料」のかさ密度を具体的に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項7は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7における「炭素粉体」の材料及び「軸受用炭素材料」の細孔分布は、訂正事項3及び4と同様に、明細書の段落【0032】、【0075】~【0076】(表1及び表2)、【0102】の記載、並びに図6~9、11及び12における図示内容から導き出される事項である。
また、「金属からなる含浸材料」については、明細書の段落【0035】等の記載に基づくものである。
さらにまた、「軸受用炭素材料」のかさ密度については、明細書の段落【0076】の表2におけるサンプル6及び7の数値のうち最小のかさ密度が2.21Mg/m3であることから導き出される事項である。
よって、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的
訂正事項8は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2の記載を引用する記載であったところ、請求項2を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるとともに、訂正前の請求項3における「炭素粉体」の材料、及び「軸受用炭素材料」のかさ密度を具体的に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項8は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8のうち、「炭素粉体」の材料については、訂正事項1と同様に、明細書の段落【0032】、並びに段落【0075】~【0076】の表1及び表2の記載に基づくものであり、「軸受用炭素材料」のかさ密度については、訂正事項5と同様に、明細書の段落【0075】~【0076】の表1及び表2から導き出される事項である。
よって、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(9)一群の請求項及び別の訂正単位とする求めについて
訂正前の請求項2~4は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであり、請求項1~4は一群の請求項であるところ、請求項1に係る訂正事項1を含む本件訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。
ただし、特許権者は、訂正後の請求項1~8については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている(訂正請求書の第22ページ参照。)。そして、訂正事項1~8は、上記(1)~(8)で述べたとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、上記別の訂正単位とする求めを認め、訂正後の請求項2~8を、訂正後の請求項1とは別の訂正単位とすることを認める。
なお、申立人は、平成31年4月18日の意見書において、「この訂正請求は請求項の数を増加させる訂正であり、訂正要件不備の疑義がある」と主張している。しかしながら、本件訂正前後の請求項の対応関係は上記1(9)に記載のとおりであり、訂正前後の請求項の間で一対一の対応関係が成立するから、請求項の数を実質的に増加させる訂正であるとは認められない。(審判便覧38-03 Pの2.(3)ウ及び6.を参照。)
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1~8について、訂正することを認める。
第3 本件発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】 軸受用炭素材料であって、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下である、軸受用炭素材料。
【請求項2】 軸受用炭素材料であって、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きい、軸受用炭素材料。
【請求項3】 軸受用炭素材料であって、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上である、軸受用炭素材料。
【請求項4】 滑り軸受に用いられる摺動部材であって、
軸受用炭素材料により形成され、
前記軸受用炭素材料は、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上である、摺動部材。
【請求項5】 滑り軸受に用いられる摺動部材であって、
軸受用炭素材料により形成され、
前記軸受用炭素材料は、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上2.41Mg/m3以下である、摺動部材。
【請求項6】 滑り軸受に用いられる摺動部材であって、
軸受用炭素材料により形成され、
前記軸受用炭素材料は、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上である、摺動部材。
【請求項7】 滑り軸受に用いられる摺動部材であって、
軸受用炭素材料により形成され、
前記軸受用炭素材料は、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きく、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、2.21Mg/m3以上である、摺動部材。
【請求項8】 軸受用炭素材料であって、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
前記炭素基材のかさ密度は、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下であり、
82HS以下のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下であり、
前記軸受用炭素材料のかさ密度は、1.86Mg/m3以上2.41Mg/m3以下である、軸受用炭素材料。」
第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
当審は、令和元年5月15日付け取消理由通知書(決定の予告)において、
「本件発明1及び8は、「大きい荷重が作用する場合でも、焼付きが発生しにくい」(本件特許明細書の段落【0005】参照。)という課題を解決することを目的としているが、平成31年3月7日の特許権者による意見書を参酌しても、上記取消理由通知書において指摘した、軸受用炭素材料の細孔分布に関して、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積を小さくすることと、焼付きの発生が抑制されることとの関係を理解することができない。
・・・(略)・・・
してみると、本件特許の出願時における技術常識に照らしても、本件発明1及び8の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。
したがって、本件発明1及び8は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、本件発明1及び8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」
とする旨の取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件発明1および8に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。
第5 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が平成30年12月26日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(進歩性)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
<刊行物>
引用文献1:「特殊炭素製品」,炭素工業技術委員会特殊炭素専門部会, 炭素協会,昭和49年(1974年)5月31日発行(昭和 56年(1981年)2月1日改訂),p.116~132 (第5章機械用炭素製品)
引用文献2:ル・カーボン株式会社特殊炭素製品チームの営業カタログ
「営業ご案内」,1993年10月
引用文献3:特開2003-314448号公報
引用文献4:石川敏功,長沖通,「新・炭素工業」,近代編集社,
昭和55年(1980年)10月20日発行,p.300~ 313(3.2.11 機械用炭素製品)
引用文献5:東洋炭素株式会社のカタログ「機械用カーボン摺動材」,
1991年11月
引用文献6:特開平11-180790号公報
引用文献7:特開2008-249129号公報
なお、引用文献1~6は、それぞれ、平成30年10月17日付けの申立人による特許異議申立書の甲第1~6号証であり、引用文献7は、当審において追加した文献である。
(2)取消理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)取消理由3(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由1について
(1)引用文献の記載事項及び引用発明
ア 引用文献1
引用文献1(甲第1号証)には、その116ページ下1行~119ページ28行の記載(特に表5.1の分類記号VII:金属含浸質、VIII:樹脂含浸質の硬さ(ショアー)、気孔率(%)の数値を参照。)に鑑みれば、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「機械用炭素製品であって、
微晶質炭素の粉末、微少質炭素を主原料として天然もしくは人造黒鉛粉末を少量添加した粉末、又は微少質炭素と黒鉛からなる粉末と、バインダーを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる人造黒鉛質、硬質炭素質、又は炭素黒鉛質と、
該人造黒鉛質、硬質炭素質、又は炭素黒鉛質に含浸される、樹脂又は金属からなる含浸質とを含み、
樹脂含浸質の場合は40~110のショアー硬さを有し、気孔率が0.1~12%であり、
金属含浸室の場合は50~100のショアー硬さを有し、気孔率が0.3~11%である、機械用炭素製品。」
イ 引用文献2
引用文献2(甲第2号証)は、「特殊炭素製品」についてのカタログであり、その7ページには、フェノール樹脂含浸グレード製品についての特性が記載されている。そして、当該フェノール樹脂含浸グレード製品が、多孔質性の炭素基材にフェノール樹脂からなる含浸材料を含浸させたものであることは自明である。
そうすると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「特殊炭素製品であって、
多孔質性の炭素基材と、
該炭素基材に含浸される、フェノール樹脂からなる含浸材料とを含み、
55~80のショアー硬度を有し(JP345、JP545、JP845、JP945、JP1245、JP1345)、
開気孔率<0.5%である、特殊炭素製品。」
ウ 引用文献3
引用文献3(甲第3号証)の段落【0034】の記載に鑑みれば、次の関係式が成立すると認められる。
「累積気孔容積(全気孔容積)=気孔率/かさ密度」
エ 引用文献4
引用文献4(甲第4号証)には(「表3.24 各種の機械用炭素材料の代表特性」参照。)、次の事項が記載されている。
「かさ密度(g/cm3)の代表特性値に関し、炭素質は1.60、黒鉛質は1.75、合成樹脂含浸質(炭素質)は1.75、合成樹脂含浸質(黒鉛質)は1.85、金属含浸炭素質(バビットメタル含浸)は2.5、金属含浸炭素質(アルミニウム含浸)は2.1であること」
オ 引用文献5
引用文献5(甲第5号証)は、「機械用カーボン摺動材」のカタログであり、その5ページの表には、「黒鉛質又は炭素黒鉛質で、かさ密度が1.72~1.78g/cm3となるもの」(IG-11等)が記載されている。
カ 引用文献6
引用文献6(甲第6号証)には、各種軸受材として用いるのに適した「摺動用炭素材及びその製造方法」が記載されており、その実施例1~4について、図1からは、0.01μmよりも大きい半径(0.02μmよりも大きい直径)を有する気孔の累積気孔容積が4mm3/gよりも十分低くなっていることが看取できる(なお、引用文献6は本件特許の審査過程で引用された引用文献1であるところ、平成29年9月7日に提出された意見書の2ページ1行~4行において、本件特許権者はこのことを認めている。)。
そうすると、引用文献6には、その段落【0001】、【0007】~【0018】、【0020】、表1の記載(特に実施例1~4の硬さ(ショアD)の数値を参照。)にも鑑みれば、次の発明(以下、「引用発明6」という。)が記載されていると認められる。
「各種軸受材として用いるのに適した摺動用炭素材であって、
炭素質原料および結合材を含む混練物を成形後、焼成することにより得られる焼結炭素材と、
該焼結炭素材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材とを含み、
炭素質原料は、物性の相異なる3種類の天然黒鉛を配合したものであり、
85~90の硬さ(ショアD)を有し、
水銀圧入法により測定される累積気孔分布において、累積気孔容積が5mm3/g以下であって、0.02μmよりも大きい直径を有する気孔の累積気孔容積が4mm3/gよりも十分低い、摺動用炭素材。」
キ 引用文献7
引用文献7の段落【0055】、【0056】、【0063】~【0065】には、実施例4として、細孔径0.5μm以上の開気孔の累積容積がカーボン摺動材の体積の0.10%である(すなわち、細孔径0.5μm以上の開気孔の気孔率が0.10%であるといえる。)カーボン摺動材が記載されている。そして、実施例4のかさ密度1800kg/m3=1.8×10-3g/mm3の数値、及び引用文献3の記載から認定した関係式(上記ウ参照。)を用いて当該累積容積を単位mm3/gに換算すると、細孔径0.5μm以上の開気孔の累積容積は、0.001/1.8×10-3≒0.56mm3/gであると認められる。
してみると、引用文献7には、その段落【0001】、【0014】~【0026】、【0039】~【0042】の記載にも鑑みれば、次の事項が記載されていると認められる。
「カーボン基材の開気孔に樹脂又は金属からなる含浸剤を含浸させた軸受用のカーボン摺動材であって、75HSのショア硬さを有し、水銀ポロシメータにより測定される細孔分布曲線に基づいて算出した、細孔径0.5μm以上の開気孔の累積容積が0.56mm3/gである、カーボン摺動材。」
また、引用文献7の図7からは、細孔径0.1μm以上の開気孔の累積容積は、細孔径0.5μm以上の開気孔の累積容積からほとんど増加していないことが看取できる(すなわち、細孔径0.1μm以上の開気孔の累積容積は、0.56mm3/gから大きくは増加しないものと認められる。)。
(2)引用発明1を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「機械用炭素製品」は、すべり軸受として用いられ得るものであるから(引用文献1の119ページ下4行参照。)、本件発明1の「軸受用炭素材料」に相当する。以下同様に、引用発明1の「微晶質炭素の粉末、微少質炭素を主原料として天然もしくは人造黒鉛粉末を少量添加した粉末、又は微少質炭素と黒鉛からなる粉末」は本件発明1の「炭素粉体」に、「バインダー」は「バインダ」に、「含浸質」は「含浸材料」にそれぞれ相当する。
引用発明1の「人造黒鉛質、硬質炭素質、又は炭素黒鉛質」は、いずれも微晶質炭素の粉末を原料として焼成により得られるものであって、約20%程度の気孔を含むものであることから(引用文献1の117ページの「1)人造黒鉛質」、「3)硬質炭素質」、「4)炭素黒鉛質」及び「7)含浸質」についての記載を参照。)、本件発明1の「多孔質性の炭素基材」に相当する。
引用発明1の「樹脂含浸質の場合は40~110のショアー硬さを有し、気孔率が0.1~12%であり、金属含浸室の場合は50~100のショアー硬さを有し、気孔率が0.3~11%である」構成に関し、「所定のショア硬さを有し、所定量の細孔を有する」構成である限りにおいて、本件発明1の「82HS以下のショア硬さを有し、水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下である」構成と一致する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「軸受用炭素材料であって、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
所定のショア硬さを有し、
所定量の細孔を有する、軸受用炭素材料。」
<相違点1>
「炭素粉体」に関し、本件発明1は、「人造黒鉛もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体」であるのに対し、引用発明1は、「微晶質炭素の粉末、微少質炭素を主原料として天然もしくは人造黒鉛粉末を少量添加した粉末、又は微少質炭素と黒鉛からなる粉末」である点。
<相違点2>
本件発明1は、「炭素基材のかさ密度」が「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」であるのに対し、引用発明1は、「人造黒鉛質、硬質炭素質、又は炭素黒鉛質」のかさ密度が不明である点。
<相違点3>
「所定のショア硬さ」に関して、本件発明1は、「82HS以下のショア硬さ」であるのに対し、引用発明1は、樹脂含浸質の場合は40~110のショアー硬さであり、金属含浸質の場合は50~100のショアー硬さである点。
<相違点4>
「所定量の細孔」に関して、本件発明1は、「水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下である」のに対し、引用発明1は、樹脂含浸質の場合は気孔率が0.1~12%であり、金属含浸質の場合は気孔率が0.3~11%である点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点2~4についてまとめて検討する。
a 炭素基材のかさ密度について
引用文献1の表5.1には、人造黒鉛質等に樹脂を含浸させた樹脂含浸質のかさ比重(かさ密度:Mg/m3)が1.70~1.90、金属を含浸させた金属含浸質のかさ比重が2.00~2.9であることが記載されている。
ここで、申立人は、特許異議申立書において、引用文献4の記載事項から、「金属含浸炭素質の場合、かさ密度は、『0.5~0.9』程度高くなることが分かる。」、「合成樹脂含浸質の場合、かさ密度は、炭素質や黒鉛質(基材)に比べて『0.10~0.15』程度高くなることがわかる。」とした上で、これらの認定によれば、引用発明1の人造黒鉛質、硬質炭素質、又は炭素黒鉛質(炭素基材)のかさ密度は本件発明1の「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」という数値範囲と重複する程度の値である旨主張している。
しかしながら、炭素基材のかさ密度と合成樹脂含浸質のかさ密度との差は、炭素基材の焼成温度や焼成時間、炭素基材の樹脂への浸漬時間や処理条件等の製造条件によって大きく異なることから、一概に、「合成樹脂含浸質の場合、かさ密度は、炭素質や黒鉛質(基材)に比べて『0.10~0.15』程度高くなる」とまではいえない。また、引用文献4にも、「各品種の特性値は代表的なものを例示したに過ぎず,原料配合や製造条件の選択によって,かなり広範囲に変化させることができる」(302ページ右欄下から2行~303ページ左欄下から2行)と記載されている。
そうすると、引用文献4の記載事項のみから、引用発明1の人造黒鉛質、硬質炭素質、又は炭素黒鉛質(炭素基材)のかさ密度が「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」という数値範囲と重複する程度の値であるとはいえない。
他方で、引用文献1の表5.1には、軸受等に用いられる炭素製品の人造黒鉛質や天然黒鉛質のかさ比重が1.55~1.83であることが記載されていること、引用文献5には、黒鉛質又は炭素黒鉛質のかさ密度が1.72~1.78g/cm3であることが記載されていることに鑑みれば、軸受用炭素材料として用いられる炭素基材のかさ密度の数値範囲として、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下という値は、本件特許の優先日前において一般的な数値であったといえる。
b ショア硬さについて
引用発明1におけるショアー硬さの数値範囲(40~110、又は50~100)は、樹脂含浸質、金属含浸質のいずれの場合であっても、本件発明1におけるショア硬さの数値範囲(82HS以下)と一部重複するものである。
また、引用文献2、7の記載事項に鑑みれば、軸受用炭素材料のショア硬さを82HS以下とすることは、本件特許の優先日前に周知技術であったともいえる。
c 累積細孔容積について
引用発明1の気孔率について、引用文献1の表5.1に記載された「かさ比重」の数値、及び引用文献3の記載から認定した関係式を用いて累積気孔容積(全気孔容積)に換算すると、樹脂含浸質の場合は0.5~70.6mm3/g、金属含浸質の場合は1.0~55.0mm3/gの数値範囲となる。そして、全気孔容積が0.5~70.6mm3/g、又は1.0~55.0mm3/gの数値範囲となるのであるから、0.1μmよりも大きい直径を有する気孔(細孔)の累積気孔(細孔)容積は、当該数値範囲に含まれるか、それよりも低い値になると認められる。
そうすると、引用発明1の気孔率は、本件発明1の「水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下」という数値範囲と一部重複する数値範囲であるといえる。
また、引用文献2、6、7の記載事項に鑑みれば、軸受用炭素材料において、水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下とすることは、本件特許の優先日前に周知技術であったともいえる。
d 各パラメータの組合せについて
引用文献1の表5.1に記載されている「かさ比重」、「硬さ(ショアー)」、「気孔率(%)」の値に関し、「国外主要メーカー(ル・カーボン,・・・)及び,国内各メーカーのカタログを参照した。」、「表の数値のうち上段のものは,カタログに現れた全部の数値の上限と下限を示し,下段の括弧内の数値は,それらのうち共通な部分の範囲を示す。」(119ページ「注1」、「注3」参照。)と記載されていることに鑑みれば、表5.1に記載の値は、特殊炭素製品において採り得る値の目安を示したものであって、引用文献1には、それぞれの数値範囲に含まれる値を自由に組み合わせることが可能であったことまでは示唆されていない。
他方で、引用文献2、7の記載事項に鑑みれば、機械用炭素製品の技術分野において、82HS以下のショア硬さと低い気孔率(累積細孔容積)が両立しうる条件であることは、本件特許の優先日前に周知の技術事項であったことが伺える。
しかしながら、引用文献2には、55~80のショアー硬度を有し、開気孔率<0.5%である製品(JP345、JP545、JP845、JP945、JP1245、JP1345)の炭素基材のかさ密度については具体的に記載されておらず、また、引用文献7の段落【0057】の記載によれば、実施例4のカーボン基材となる比較例4のかさ密度は、1650(kg/m3)=1.65(Mg/m3)であると認められるから、いずれの場合においても、82HS以下のショア硬さと低い気孔率(累積細孔容積)に加えて、炭素基材のかさ密度が「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」の条件を満たすことまでは示唆されていない(むしろ、引用文献7における他の実施例や比較例において、本件発明1における炭素基材のかさ密度、ショア硬さ、累積細孔容積の条件を満たすカーボン摺動材が記載されていないことに鑑みれば、これら3つの条件を満たすことを容易には想到し得ないことが示唆されているともいえる。)。
以上を踏まえると、たとえ本件発明1において特定された炭素基材のかさ密度、ショア硬さ、累積細孔容積の数値範囲がそれぞれ従来から知られていた程度の数値範囲に過ぎないとしても、これら3つのパラメータ全てを本件発明1において特定された数値範囲に設定することまで引用文献1~7に記載又は示唆されているとはいえないから、当業者といえども、引用発明1及び周知技術に基いて、かかる3つのパラメータを組み合わせた構成を採用することが容易であったとまではいえない。
e 申立人の主張について
平成31年4月18日に提出された意見書において、申立人は、「引用文献1~7によって周知事項である物性の中から、ある数値を選択することは、当業者にとって何ら困難性は無い。構成の困難性がない以上、こうした構成を採用すれば必然的に得られる効果も自明である。」(4ページ下から6行~下から4行)と主張している。
しかしながら、各パラメータの個々の数値範囲が周知であったとしても、それを特定の組合せとすることの積極的な動機付けはなく、またその数値範囲の組合せが当業者にとって容易であったことを根拠付ける証拠も見当たらないから、申立人の主張は採用できない。
したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
イ 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1を更に減縮したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明1及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)引用発明2を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「特殊炭素製品」は、「炭素材料」である限りにおいて、本件発明1の「軸受用炭素材料」と一致する。また、引用発明2の「フェノール樹脂からなる含浸材料」は、本件発明1の「樹脂からなる含浸材料」に相当し、同様に、「55~80のショアー硬度」は「82HS以下のショア硬さ」に相当する。
また、引用発明2の「開気孔率<0.5%」である構成に関し、「所定量の細孔を有する」構成である限りにおいて、本件発明1の「水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下である」構成と一致する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「炭素材料であって、
多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂からなる含浸材料とを含み、
82HS以下のショア硬さを有し、
所定量の細孔を有する、炭素材料。」
<相違点5>
本件発明1は、「炭素材料」が「軸受用炭素材料」であり、「多孔質性の炭素基材」が「炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる」ものであるのに対し、引用発明2の特殊炭素製品は軸受用として用いられるか不明であり、炭素基材の製造方法や炭素粉体の種類も不明な点。
<相違点6>
本件発明1は、「炭素基材のかさ密度」が「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」であるのに対し、引用発明2は、炭素基材のかさ密度が不明である点。
<相違点7>
「所定量の細孔」に関して、本件発明1は、「水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下である」のに対し、引用発明2は、開気孔率<0.5%である点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点6~7についてまとめて検討する。
a 炭素基材のかさ密度について
引用文献2の7ページには、フェノール樹脂含浸グレードのJP345、JP545、JP845、JP945、JP1245、JP1345の比重(かさ密度)が1.80~1.90であることが記載されている。
ここで、申立人は、異議申立書において、引用文献4の記載事項から、「金属含浸炭素質の場合、かさ密度は、『0.5~0.9』程度高くなることが分かる。」、「合成樹脂含浸質の場合、かさ密度は、炭素質や黒鉛質(基材)に比べて『0.10~0.15』程度高くなることがわかる。」と主張しているものの、当該主張を採用できなことは、上記(2)ア(イ)aで説示したとおりである。
そうすると、引用文献4の記載事項のみから、引用発明2の炭素基材のかさ密度が「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」という数値範囲と重複する程度の値であるとはいえない。
他方で、軸受用炭素材料として用いられる炭素基材のかさ密度の数値範囲として、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下という値は、本件特許の優先日前において一般的な数値であったといえる(引用文献1、5参照。)。
b 累積細孔容積について
引用発明2の開気孔率について、引用文献2の7ページに記載された「比重」の数値、及び引用文献3の記載から認定した関係式を用いて累積気孔容積(全気孔容積)に換算すると、2.6~2.8mm3/gの数値範囲となる(JP345:2.8mm3/g、JP545:2.7mm3/g、JP845:2.8mm3/g、JP945:2.6mm3/g、JP1245:2.8mm3/g、JP1345:2.8mm3/g)。そして、全気孔容積が2.6~2.8mm3/gの数値範囲となるのであるから、0.1μmよりも大きい直径を有する気孔(細孔)の累積気孔(細孔)容積は、当該数値範囲に含まれるか、それよりも低い値になると認められる。
そうすると、引用発明2の炭素材料は、本件発明1の「水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下」という数値範囲に包含される数値範囲の気孔(細孔)を有しているといえる。
c 各パラメータの組合せについて
引用発明2は、82HS以下のショア硬さと低い気孔率(累積細孔容積)を両立した特殊炭素製品ではあるものの、上記のとおり、その炭素基材のかさ密度は不明である。
これに対し、引用文献7には、実施例4として、75HSのショア硬さを有し、細孔径0.5μm以上の開気孔の累積容積が0.56mm3/gであるカーボン摺動材が記載されているものの、その炭素基材のかさ密度は1.65Mg/m3であると認められるから(上記(2)ア(イ)d参照。)、82HS以下のショア硬さと低い気孔率(累積細孔容積)を実現した上で、炭素基材のかさ密度が「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」の条件を満たすことが可能であることは示唆されていない(むしろ、引用文献7における他の実施例や比較例において、本件発明1における炭素基材のかさ密度、ショア硬さ、累積細孔容積の条件を満たすカーボン摺動材が記載されていないことに鑑みれば、これら3つの条件を満たすことを容易には想到し得ないことが示唆されているともいえる。)。
そうすると、たとえ本件発明1において特定された炭素基材のかさ密度、ショア硬さ、累積細孔容積の数値範囲について、個々の値は従来から知られていた程度の値に過ぎないとしても、これら3つのパラメータ全てを本件発明1において特定された数値範囲に設定することは、引用文献1~7のいずれにも記載又は示唆されているとはいえないから、当業者といえども、引用発明2及び周知技術に基いて、かかる3つのパラメータを組み合わせた構成を採用することが容易であったとまではいえない。
したがって、上記相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
イ 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1を更に減縮したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明2及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(4)引用発明6を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明6とを対比する。
引用発明6の「各種軸受材として用いるのに適した摺動用炭素材」は、本件発明1の「軸受用炭素材料」に相当し、以下同様に、「炭素質原料」は「炭素粉体」に、「結合材」は「バインダ」に、「混練物」は「混合物」に、「焼結炭素材」は「多孔質性の炭素基材」に、「含浸材」は「含浸材料」に、「物性の相異なる3種類の天然黒鉛を配合したもの」は「人造黒鉛質もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体」にそれぞれ相当する。
また、引用発明6の「85~90の硬さ(ショアD)」に関し、「所定のショア硬さ」である限りにおいて、本件発明1の「82HS以下のショア硬さ」と一致する。
引用発明6の「水銀圧入法により測定される累積気孔分布において、累積気孔容積が5mm3/g以下であって、0.02μmよりも大きい直径を有する気孔の累積気孔容積が4mm3/gよりも十分低い」構成に関し、「0.02μmよりも大きい直径を有する気孔の累積気孔容積が4mm3/gよりも十分低い」のであるから、「0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下である」ことは自明である。よって、引用発明6は、本件発明1の「水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下である」構成を有しているといえる。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「軸受用炭素材料であって、
炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材と、
前記炭素基材に含浸される、樹脂または金属からなる含浸材料とを含み、
前記炭素粉体は、人造黒鉛質もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体であり、
所定のショア硬さを有し、
水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下である、軸受用炭素材料。」
<相違点8>
本件発明1は、「炭素基材のかさ密度」が「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」であるのに対し、引用発明6は、炭素基材のかさ密度が不明である点。
<相違点9>
「所定のショア硬さ」について、本件発明1は、「82HS以下のショア硬さ」であるのに対し、引用発明6は、85~90の硬さ(ショアD)である点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点8~9についてまとめて検討する。
a 炭素基材のかさ密度について
引用文献6の表1に記載された実施例1~3は、含浸材としてフェノール樹脂を含浸させたものであり、得られた摺動用炭素材の嵩密度は1.85~1.87g/cm3(Mg/m3)である。また、実施例4は含浸材としてアンチモンを含浸させたものであり、得られた摺動用炭素材の嵩密度は2.30g/cm3である。
ここで、申立人は、異議申立書において、引用文献4の記載事項から、「金属含浸炭素質の場合、かさ密度は、『0.5~0.9』程度高くなることが分かる。」、「合成樹脂含浸質の場合、かさ密度は、炭素質や黒鉛質(基材)に比べて『0.10~0.15』程度高くなることがわかる。」と主張しているものの、当該主張を採用できなことは、上記(2)ア(イ)aで説示したとおりである。
そうすると、引用文献4の記載事項のみから、引用発明6の焼結炭素材(炭素基材)のかさ密度が「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」という数値範囲と重複する程度の値であるとはいえない。
他方で、軸受用炭素材料として用いられる炭素基材のかさ密度の数値範囲として、1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下という値は、本件特許の優先日前において一般的な数値であったといえる(引用文献1、5参照。)。
b ショア硬さについて
引用文献6には、実施例1~4として硬さ(ショアD)が85~90の摺動用炭素材が記載されている一方で、比較例1~2として硬さ(ショアD)が75~80の摺動用炭素材が記載されているが、比較例1~2は、本件発明1の「水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下である」という要件を満たさない。
また、引用文献の段落【0027】には、「本発明の要件を満たす実施例1~4はいずれも、従来例(仕上げ加工終了時点での摺動用炭素材)に相当する比較例1に比べて、組織の緻密度のレベルが非常に高く、この結果、機械的強度,耐摩耗性及び気密性等の点ではるかに優れていることが分かる。また、従来例(再含浸後の摺動用炭素材)に相当する比較例2と比べても、機械的強度,耐摩耗性及び気密性等の面でより優れていることが分かる。」と記載されており、「機械的強度、耐摩耗性及び気密性の向上」(段落【0006】参照。)を目的とする引用発明6において、あえて硬さ(ショアD)を低く設定する動機付けは認められない。
そうすると、たとえ軸受用炭素材料として82HS以下のショア硬さを有する炭素材料が従来からよく知られており、低い累積気孔容積とも両立しうることが従来から知られていたとしても(引用文献2、7参照。)、引用発明6において、硬さ(ショアD)を82HS以下とすることには阻害要因があったものと認められる。
加えて、炭素基材のかさ密度、ショア硬さ、累積細孔容積を、本件発明1において特定された数値範囲に設定することは、引用文献1~7のいずれにも記載又は示唆されておらず、当業者といえども、引用発明6及び周知技術に基いて、かかる3つのパラメータを組み合わせた構成を採用することが容易であったとはいえない。
したがって、本件発明1は、引用発明6及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
イ 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1を更に減縮したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明6及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
3 取消理由2について
訂正前の請求項1~4では、「炭素粉体」の具体的な種類が特定されていなかったところ、本件特許明細書には、人造黒鉛または天然黒鉛以外の炭素粉体を使用した場合でも、「82HS以下のショア硬さを有し、水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下である」軸受用炭素材料を製造でき、それにより「大きい荷重が作用する場合でも、焼付きが発生しにくい」(本件特許明細書の段落【0005】参照。)という課題を解決できることが記載または示唆されていなかった。
また、訂正前の請求項1~4では、「水銀圧入法により測定される細孔分布において、0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積が4mm3/g以下」であることは規定されていたものの、本件特許明細書の記載によれば、当該条件に加え、「0.1μm以下の直径を有する細孔」がある程度存在することと、炭素基材のかさ密度が「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」であることも、焼付きの発生を抑制する上での前提条件と解釈し得た。
これに対し、本件訂正により、訂正後の請求項1~8において、「炭素粉体」が「人造黒鉛質もしくは天然黒鉛、または人造黒鉛と天然黒鉛との混合粉体」であること、「炭素基材のかさ密度」が「1.7Mg/m3以上1.8Mg/m3以下」であることが特定され、請求項2~7において、「0.1μm以下の直径を有する細孔の合計の容積が0.1μmよりも大きい直径を有する細孔の累積細孔容積よりも大きい」ことが特定された。
この結果、本件発明2~7については、本件発明の課題を解決し得る発明となり、発明の詳細な説明に記載されたものとなったため、取消理由2(サポート要件)は解消した。
しかしながら、本件発明1及び8については、「0.1μm以下の直径を有する細孔」に関する構成が含まれないことから、依然としてサポート要件を満たしておらず、これらの発明に係る特許は取り消されるべきものである(上記第4参照。)。
4 取消理由3について
本件特許明細書の段落【0040】、【0048】、【0050】、【0052】には、炭素基材の成形条件、焼成条件(焼成時間もしくは焼成温度等)、炭素基材の含浸処理条件(含浸時間、含浸温度もしくは含浸処理時の圧力)等を調整することにより、軸受用炭素材料の累積細孔容積を調整することができることが記載されており、段落【0041】には、複数のサンプルを異なる条件で作製し、水銀ポロシメータを用いた水銀圧入法により細孔分布を測定しつつ、本件発明1~8の条件を満足するサンプルを選別することが示唆されている。
してみると、当業者であれば、上記の各種条件を試行錯誤によって調整することで、本件発明1~8に規定された累積細孔容積の条件を満足する軸受用炭素材料を製造することが可能であると認められる。
したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)について
特許異議申立書において、申立人は、本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証(引用文献1)又は甲第2号証(引用文献2)に実質的に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許を受けることができない発明である旨主張している。
しかしながら、本件訂正後の本件発明1~8は、上記第5の2で説示したとおり、引用発明1又は引用発明2と同一ではないから、当該申立理由には理由がない。
2 特許法第36条第6項第2号について
特許異議申立書において、申立人は、「0.1μmよりも大きい直径を有する細孔」に限定して累積細孔容積を規定する臨界的意義が不明であること、「炭素粉体およびバインダを含む混合物を成形後、焼成することにより得られる多孔質性の炭素基材」の焼成条件が不明であること、を理由として、本件訂正前の請求項1~4に係る発明は明確でない旨主張している。
しかしながら、上記各記載は、それ自体で本件発明の内容を不明確とする記載とは認められないから、本件発明1~8は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
よって、当該申立理由には理由がない。
第7 むすび
以上のとおり、本件発明1及び8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
本件発明2~7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明2~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700843