特許異議申立
2022-700944
注射器
- 審判番号
- 2022-700944
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-132366
- 登録番号
- 7042954
- 請求日
- 2022年09月28日
- 審決日
- 2024年08月01日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】ノバルティス アーゲー
- 【権利者代理人】小林 浩
- 【権利者代理人】片山 英二
- 【権利者代理人】大森 規雄
- 【権利者代理人】藤 拓也
- 【権利者代理人】大川 亮
- 【異議申立人】冨田 圭太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 正章
- 審判官 井上 哲男
- 審判官 安井 寿儀
- 分類
- P1651.537-ZAA(A61F) / P1651.121-ZAA(A61F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7042954号発明「注射器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7042954号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~18〕について訂正することを認める。
特許第7042954号の請求項1~18に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7042954号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~18に係る特許出願は、2013年(平成25年)5月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年6月1日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願である特願2015-514516号の一部を、令和2年3月12日に新たな特許出願とした特願2020-43041号の一部を、令和3年4月5日に新たな特許出願とした特願2021-64330号の一部を、令和3年8月16日に新たな特許出願としたものであって、令和4年3月17日付けでその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:令和4年3月28日)がされた。
その後、令和4年9月28日に特許異議申立人冨田圭太郎(以下、「申立人」という。)より請求項1~18に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、その後の手続の経緯は次のとおりである。
令和 4年12月21日付け 取消理由通知書
令和 5年 4月24日提出 意見書(特許権者)、訂正請求書
同年 6月27日提出 意見書(申立人)
同年 9月28日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和 6年 1月22日提出 意見書(特許権者)、訂正請求書
同年 4月12日提出 意見書(申立人)
なお、令和 5年 4月24日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和 6年 1月22日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記ストッパの後面は中心の凹部を含む、」
とあるのを、
「前記ストッパの後面は中心の凹部を含み、前記ロッドが、前記一端部とは逆向きの少なくとも1つのロッドショルダを備え、前記注射器が、前記本体の後部に配置されたバックストップを含み、前記バックストップが、前記一端部に向いたバックストップショルダを含み、前記プランジャ接触面と前記ストッパが接触した状態で配置され、前記可変容量チャンバがその所期の最大容量であるとき、前記ロッドショルダと前記バックストップショルダとの間に0mmより大きく2mm以下の間隙が存在し、前記ストッパは、互いに少なくとも3mm、第1の軸に沿う方向に離隔される前側円周リブと後側円周リブを備え、前記可変容量チャンバが注射可能な薬剤の前記所期の最大容量を含む、」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項16に
「前記ラニビズマブは、」
とある前に、
「前記血管内皮増殖因子拮抗薬(VEGF拮抗薬)はラニビズマブであり、」
を追加する。
2.本件訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「注射器」について、「前記ロッドが、前記一端部とは逆向きの少なくとも1つのロッドショルダを備え、前記注射器が、前記本体の後部に配置されたバックストップを含み、前記バックストップが、前記一端部に向いたバックストップショルダを含み、前記プランジャ接触面と前記ストッパが接触した状態で配置され、前記可変容量チャンバがその所期の最大容量であるとき、前記ロッドショルダと前記バックストップショルダとの間に0mmより大きく2mm以下の間隙が存在し、前記ストッパは、互いに少なくとも3mm、第1の軸に沿う方向に離隔される前側円周リブと後側円周リブを備え、前記可変容量チャンバが注射可能な薬剤の前記所期の最大容量を含む、」限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、訂正事項1の「前記ロッドが、前記一端部とは逆向きの少なくとも1つのロッドショルダを備え、前記注射器が、前記本体の後部に配置されたバックストップを含み、前記バックストップが、前記一端部に向いたバックストップショルダを含」むとした点は、本件訂正前の【請求項13】、本件特許明細書の段落【0014】、【0040】及び図2の記載に基づくものであり、「前記プランジャ接触面と前記ストッパが接触した状態で配置され、前記可変容量チャンバがその所期の最大容量であるとき、前記ロッドショルダと前記バックストップショルダとの間に0mmより大きく2mm以下の間隙が存在」するとした点は、本件特許明細書の段落【0019】の記載に基づくものであり、「前記ストッパは、互いに少なくとも3mm、第1の軸に沿う方向に離隔される前側円周リブと後側円周リブを備え、」とした点は、本件特許明細書の段落【0016】、【0048】及び図5の記載に基づくものであり、また、「前記可変容量チャンバが注射可能な薬剤の前記所期の最大容量を含む、」とした点は、本件特許明細書の段落【0014】~【0019】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であり、特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項16の引用する請求項1との引用関係を明確にしたものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0022】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であり、特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(3)一群の請求項に係る訂正であることについて
訂正事項1に係る訂正前の請求項1~18について、請求項2~18は、それぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1と一群の請求項である。
したがって、本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~18〕についての訂正を認める。
第3 本件発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~18に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明18」といい、またそれらをまとめて「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。
【請求項1】
滅菌済みの注射器であって、前記注射器は、本体と、ストッパと、プランジャとを備え、前記最終的に滅菌済みの注射器は、パッケージ内に封止された製品を滅菌することにより得られ、前記本体が、出口のある一端部を備え、前記ストッパが、前記ストッパの前面と前記本体とが可変容量チャンバを画定するように前記本体内部に配置され、前記可変容量チャンバから、前記出口を通して流体を押し出すことができ、前記プランジャが、第1の端部にあるプランジャ接触面と、前記プランジャ接触面と後部との間に延在するロッドとを備え、前記プランジャ接触面が、前記ストッパに接触するが、前記ストッパに結合はしないように構成され、それにより、前記ストッパを前記本体の前記一端部に向けて押し進めて前記可変容量チャンバの前記容量を減少するために前記プランジャを使用することができるが、前記一端部から離れる向きに前記ストッパを移動させるために前記プランジャを使用することができず、前記注射器は眼科用注射に適しており、前記可変容量チャンバが注射可能な薬剤を含み、前記注射可能な薬剤は血管内皮増殖因子拮抗薬(VEGF拮抗薬)であり、前記ストッパの後面は中心の凹部を含み、前記ロッドが、前記一端部とは逆向きの少なくとも1つのロッドショルダを備え、前記注射器が、前記本体の後部に配置されたバックストップを含み、前記バックストップが、前記一端部に向いたバックストップショルダを含み、前記プランジャ接触面と前記ストッパが接触した状態で配置され、前記可変容量チャンバがその所期の最大容量であるとき、前記ロッドショルダと前記バックストップショルダとの間に0mmより大きく2mm以下の間隙が存在し、前記ストッパは、互いに少なくとも3mm、第1の軸に沿う方向に離隔される前側円周リブと後側円周リブを備え、前記可変容量チャンバが注射可能な薬剤の前記所期の最大容量を含む、
滅菌済みの注射器。
【請求項2】
前記ストッパは、液密シールを用いて可変容量チャンバの後部を画定することによって封止機能を提供し、前記液密シールは、滅菌性シールも提供する請求項1に記載の注射器。
【請求項3】
前記ストッパに結合しない前記プランジャが、使用者が前記プランジャおよびそこに接続されたストッパを移動させること、滅菌していない空気または他の流体を前記注射器内に引き込むこと、または滅菌していない領域に前記ストッパを移動させることを防止する請求項1または2に記載の注射器。
【請求項4】
前記出口から離れる向きへの前記ロッドの移動は制約される請求項1から3のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項5】
前記可変容量チャンバが3mmから6mmの内径を有する請求項1から4のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項6】
前記注射器の本体の長さは、70mm未満である請求項1から5のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項7】
前記注射器はシリコーンを含まない請求項1から6のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項8】
前記本体は、プラスチックまたはガラスからなる請求項1から7のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項9】
0.4ml以上0.6ml以下の間の公称最大容量を有するように寸法設定される請求項1から8のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項10】
0.5mlの公称最大充填容量を有する請求項1から9のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項11】
前記注射器は、4.5mmから4.8mmの内径を有する請求項1から10のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項12】
前記出口は、封止デバイスにより可逆的に封止される請求項1から11のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項13】
前記ロッドが、前記一端部とは逆向きの少なくとも1つのロッドショルダを備え、前記注射器が、前記本体の後部に配置されたバックストップを含み、前記バックストップが、前記一端部に向いたバックストップショルダを含み、前記ロッドショルダと協働して、前記バックトップショルダとロッドショルダが接触するときに前記一端部から離れる向きへの前記プランジャロッドの移動を防止する請求項1から12のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項14】
前記中心の凹部は円筒形状である請求項1から13のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項15】
前記中心の凹部は第1の直径を有する開始穴を含み、前記開始穴は、前記ストッパの前記後面から第2の直径を有する内側凹部に延び、前記第2の直径は前記第1の直径よりも大きい請求項1から13のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項16】
前記血管内皮増殖因子拮抗薬(VEGF拮抗薬)はラニビズマブであり、前記ラニビズマブは、脈絡膜新生血管、加齢黄斑変性、網膜静脈分枝閉塞症(bRVO)と網膜中心静脈閉塞症(cRVO)の両方を含む、網膜静脈閉塞症(RVO)に続発する黄斑浮腫、病的近視(PM)に続発する脈絡膜新生血管、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症、および増殖網膜症から選択される眼病の治療のために用いられる、請求項1から15のいずれか一項に記載の注射器。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の最終的に滅菌済みの注射器を組み立てる方法であって、前記最終的に滅菌済みの注射器は、パッケージ内に封止された製品を滅菌することにより得られ、前記方法は、以下のステップ:
i)本体およびストッパを提供するステップであって、前記本体が、一端部にある出口を備え、前記ストッパが、前記ストッパの前面と前記本体とが可変容量チャンバを画定するように前記本体内部に配置され、前記可変容量チャンバから、前記出口を通して流体を押し出すことができ、前記出口が解放可能に封止され、前記可変容量チャンバが薬剤を含み、前記注射可能な薬剤は血管内皮増殖因子拮抗薬(VEGF拮抗薬)であり、前記ストッパの後面は中心の凹部を含むステップと、
ii)第1の端部にあるプランジャ接触面と、前記プランジャ接触面と後部との間に延在するロッドとを備えるプランジャを提供し、前記プランジャを前記ストッパに結合させずに、前記プランジャ接触面と前記プランジャの少なくとも一部とを前記本体内部に配置するステップと、
iii)前記本体内部に前記ストッパと前記プランジャとを配置した後に、最終的に滅菌するステップと
を含む方法。
【請求項18】
封止パッケージと、請求項1から16のいずれか一項に記載の最終的に滅菌済みの注射器とを備える注射器パック。
第4 取消理由の概要
本件発明に対し、令和 5年 9月28日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)には、概略次の取消理由が記載されている。
1 取消理由1(明確性)
本件特許発明の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
すなわち、本件発明1は、「滅菌済みの注射器」(以下、「本件注射器」という。)に係る発明であるところ、請求項1の「前記プランジャ接触面と前記ストッパが接触した状態で配置され、前記可変容量チャンバがその公称最大充填容量であるとき、前記ロッドショルダと前記バックストップショルダとの間に2mm以下の間隙が存在し、」の記載は、「公称最大充填容量」が「注射器」のどのような構造から、どのようにして一義的に決まるものであるのか不明確であり、物の発明としての本件注射器がどのような構造であることを特定したのか不明確である。
2 取消理由2(進歩性)
本件特許発明の請求項1~18に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(甲号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
刊行物(甲号証)一覧:
甲第1号証:特表2006-528044号公報
甲第2号証:特表2009-508593号公報
甲第3号証:米国特許出願公開第2010/0152646号明細書
甲第4号証:米国特許出願公開第2010/0181218号明細書
甲第5号証:国際公開第2012/019176号
甲第6号証:米国特許出願公開第2011/0137263号明細書
甲第7号証:国際公開第99/18994号
甲第8号証:米国特許出願公開第2008/0262435号明細書
甲第9号証:米国特許出願公開第2002/0193778号明細書
甲第10号証:米国特許出願公開第2011/0088493号明細書
甲第11号証:特表平8-504352号公報
甲第12号証:米国特許出願公開第2012/0078224号明細書
甲第13号証:米国特許出願公開第2006/0293270号明細書
甲第14号証:特表2009-540001号公報
甲第15号証:カナダ国特許発明第1123697号明細書
甲第16号証:国際公開第2011/122221号
甲第17号証:特許第4698613号公報
甲第18号証:実願昭63-33730号(実開平1-138454号)のマイクロフィルム
甲第19号証:Judy E. Kim 外3名 ”Short-term Intraocular Pressure Changes Immediately After Intravitreal Injections of Anti-Vascular Endothelial Growth Factor Agents”,American Journal of Ophthalmology(米国),Vol. 146, Issue 6,2008年12月1日, p.930-934
甲第20号証:特開2003-52819号公報
甲第21号証:特表2007-528825号公報
甲第22号証:国際公開第2012/019047号
甲第23号証:米国特許第7678078号明細書
甲第24号証:特許第2814983号公報
甲第25号証:米国特許第4543093号明細書
甲第26号証:米国特許出願公開第2008/0154213号明細書
甲第27号証:特表2007-517613号公報
甲第28号証:米国特許出願公開第2009/0247957号明細書
甲第29号証:特開2008-307237号公報
甲第30号証:特表2010-528773号公報
甲第31号証:国際公開第01/64266号
甲第32号証:米国特許第2602447号明細書
甲第33号証:特開昭64-49569号公報
甲第34号証:米国特許第3618603号明細書
甲第35号証:英国特許出願公開第2245173号明細書
なお、以下それぞれ「甲1」~「甲35」という。
第5 当審の判断
1 取消理由1について
本件訂正により、請求項1に「前記プランジャ接触面と前記ストッパが接触した状態で配置され、前記可変容量チャンバがその所期の最大容量であるとき、前記ロッドショルダと前記バックストップショルダとの間に0mmより大きく2mm以下の間隙が存在し、前記ストッパは、互いに少なくとも3mm、第1の軸に沿う方向に離隔される前側円周リブと後側円周リブを備え、前記可変容量チャンバが注射可能な薬剤の前記所期の最大容量を含む、」(以下、「発明特定事項」という。)が付加された。
しかし、「所期の最大容量」がどのような容量なのか一義的に特定できず不明確である。
また、仮に、上記「所期の最大容量」が、「滅菌済みの注射器」を製作する過程での「所期」の状態での構成を特定したものであるとしても、そのような状態での構成の特定は、物の発明としての「滅菌済みの注射器」の構成を特定したものとはいえないから、本件訂正を加味しても依然、物の発明としての本件発明1に係る「滅菌済みの注射器」がどのような構造であるのか不明確である。
よって、上記発明特定事項の記載は不明確であるから、本件発明1及びこれを引用する発明を含めて、本件発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。
2 取消理由2について
(1)甲1の記載及び甲1発明
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、ピストンを具えたプレフィルドシリンジ型の医療用器具に関し、この器具は当該器具に例えば薬液が充填された場合、ピストンに対するアクセスおよびその抜き外しを防止するための手段を具えている。
【背景技術】
【0002】
すぐ使えるプレフィルドシリンジの分野において、このシリンジが使われてしまっているか否かを確認できるようにした器具がすでに示されている。これらの器具は、概ねシリンジの先端部、すなわちシリンジの注射針側の端部に関する。要するに、シリンジが使用可能となる前に破壊されるべきキャップで注射針を覆うことが提案されている。
【0003】
しかしながら、プレフィルドシリンジの場合、ピストンに対するアクセスを防止する器具を提供することが有用である。また、ピストンが抜き外されるのを防止する器具を提供することも有用である。これは、ピストンを作動させる操作ロッドが取り外され、次いでピストンが注射針によって突き破られ、シリンジに予期しないまたは無許可の液体または成分が注入されることが起こる可能性があるためである。このロッドはその後、ピストンに再装着される。
【0004】
この型のシリンジの製造中、シリンジは無菌環境にて充填され、次いで包装されて場合によっては殺菌消毒される。これら充填および包装の2つのステップの間で、これらのシリンジの内部空間が外部にさらされてはならず、またはここに収容される薬剤が汚染されてはならない。」
イ 「【0029】
図1は、ガラスから作られる筒状本体2と、この筒状本体内を摺動可能なピストン3とを具えた器具1を示している。筒状本体2は、その先端4に注射針、例えば中空の皮下注射針(図示せず)を取り付けるためのチップ5-このチップはキャップ6によって塞がれている-と、その基端12にフランジ13とを有する。
【0030】
ピストンの下部端7は、筒状本体2の内部に薬液9が充填される内部有効容積8を画成する。ピストン3から独立しているプラグ14は、筒状本体2の基端12から突出する操作ロッド11の先端36に固定されている。本発明の図示しない実施形態においては、操作ロッド11がプラグ14に固定されていない。このプラグ14は、これを先端方向に支持する前記ピストン3の基端側に対し、本体2内を自由に直線移動するように設定されている。そのため、プラグ14とピストン3との間に支承面10がある。」
ウ 「【0033】
図2は、本発明による器具の他の実施形態を示している。図1および図2において同じ部材を示す参照符号が繰り返される。操作ロッド11は、相互に逆方向に位置する径方向突起16が筒状本体2内に配される操作ロッドの部分に設けられている。ストッパ手段を形成するこれらの突起16は、ピストン3が筒状本体の基端12に向けてあらかじめ設定された限界を越えて動かされるのを阻止するように、カバー15と協力することができる。
【0034】
本発明のこの第2の実施形態によると、カバー15はステンレス鋼から作られ、フランジ13に対し環状のカラー17を使って確実にクリップ留めされる。このカバー15は、中央開口23へと延在する径方向タブ18をさらに具えており、基端方向への突起16の直線移動を停止することができる。
【0035】
図3は、ねじ、すなわちねじを切った部分19を使ってプラグ14内にねじ込まれる操作ロッド11を示している。ピストン3はプラグ14に連結されていない。このため、本発明のこの第1の実施形態によると、使用者はピストン3をシリンジの筒状本体2の基端に向けて動かすことができない。操作ロッド11がねじ込まれていない場合であっても、カバー15とピストン3との間のプラグ14の存在のため、ピストン3にアクセスすることも不可能である。」
エ 「
[図:0001422363000001.jpg]
」
オ 「
[図:0001422363000002.jpg]
」
カ 上記アの段落【0004】の下線部の記載からすれば、プレフィルドシリンジは殺菌消毒されたものである。
上記ア~ウの特に下線部の記載及びエ,オの図面の記載及びカの認定からすれば、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「殺菌消毒されたプレフィルドシリンジ型の医療用器具であって、前記医療用器具は、筒状本体2と、ピストン3と、先端36にプラグ14が固定された操作ロッド11とを備え、前記殺菌消毒されたプレフィルドシリンジ型の医療用器具は、シリンジの製造中、シリンジは無菌環境にて充填され、次いで包装されて場合によっては殺菌消毒されることにより得られ、前記筒状本体2が、先端4に皮下注射針を取り付けるためのチップ5を備え、前記ピストン3の下端部7は、筒状本体2の内部に薬液9が充填される内部有効容積8を画成し、前記先端36にプラグ14が固定された操作ロッド11が、ピストン3との間に支承面10があるプラグ14と先端36にプラグ14が固定されている操作ロッド11とを備え、ピストン3はプラグ14に連結されておらず、使用者はピストン3をシリンジの筒状本体2の基端に向けて動かすことができず、操作ロッド11は、相互に逆方向に位置する径方向突起16が筒状本体2内に配される操作ロッドの部分に設けられており、筒状本体2のフランジ13に対し環状のカラー17を使って確実にクリップ留めされるカバー15が、中央開口23へと延在する径方向タブ18をさらに具えている殺菌消毒されたプレフィルドシリンジ型の医療用器具。」
(2)本件発明1について
ア 対比
以下、本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「殺菌消毒されたプレフィルドシリンジ型の医療用器具」は、「先端4」に「注射針を取り付け」て用いられるものであるから、本件発明1の「滅菌済みの注射器」に相当する。
(イ)引用発明の「筒状本体2」、「ピストン3」及び「先端36にプラグ14が固定された操作ロッド11」は、機能及び構造上、本件発明1の「本体」、「ストッパ」及び「プランジャ」に相当する。
(ウ)甲1発明の「殺菌消毒されたプレフィルドシリンジ型の医療用器具」は、「シリンジの製造中、シリンジは無菌環境にて充填され、次いで包装されて場合によっては殺菌消毒されることにより得られ」るのであるから、本件発明1の「パッケージ内に封止された製品を滅菌することにより得られ」た「最終的に滅菌済みの注射器」に相当する。
(エ)注射針の先端部は通常出口を備えるから、甲1発明の「前記筒状本体2が、先端4に皮下注射針を取り付けるためのチップ5を備え」る構成は、本件発明1の「本体が、出口のある一端部を備える」構成に相当する。
(オ)構造上、甲1発明のピストン3が、内部有効容積8から注射針が取り付けられたチップ5を通して充填された薬剤を押し出すことができることは明らかであり、また、ピストン3はプラグ14に連結されていないのであるから、ピストン3を筒状本体2の一端部に向けて押し進めて内部有効容積8を減少するために先端36にプラグ14が固定された操作ロッド11を使用することができるが、前記一端部から離れる向きに前記ピストン3を移動させるためには前記先端36にプラグ14が固定された操作ロッド11を使用することができないことも明らかである。そうすると、甲1発明の「前記ピストン3の下端部7は、筒状本体2の内部に薬液9が充填される内部有効容積8を画成し、前記先端36にプラグ14が固定された操作ロッド11が、ピストン3との間に支承面10があるプラグ14と先端36にプラグ14が固定されている操作ロッド11とを備え、ピストン3はプラグ14に連結されておらず、使用者はピストン3をシリンジの筒状本体2の基端に向けて動かすことができず」は、本件発明1の「前記ストッパが、前記ストッパの前面と前記本体とが可変容量チャンバを画定するように前記本体内部に配置され、前記可変容量チャンバから、前記出口を通して流体を押し出すことができ、前記プランジャが、第1の端部にあるプランジャ接触面と、前記プランジャ接触面と後部との間に延在する操作ロッドとを備え、前記プランジャ接触面が、前記ストッパに接触するが、前記ストッパに結合はしないように構成され、それにより、前記ストッパを前記本体の前記一端部に向けて押し進めて前記可変容量チャンバの前記容量を減少するために前記プランジャを使用することができるが、前記一端部から離れる向きに前記ストッパを移動させるために前記プランジャを使用することができず」に相当する。
(カ)甲1発明の「内部有効容積8」は「薬液9」が充填されている点は、本件発明1の「可変容量チャンバが注射可能な薬剤を含」む点に相当する。
(キ)甲1発明の「径方向突起16」、「カバー15」及び「径方向タブ18」は、機能及び構造上、それぞれ本件発明1の「ロッドショルダ」、「バックストップ」及び「バックストップショルダ」に相当するから、甲1発明の「操作ロッド11は、相互に逆方向に位置する径方向突起16が筒状本体2内に配される操作ロッドの部分に設けられており、筒状本体2のフランジ13に対し環状のカラー17を使って確実にクリップ留めされるカバー15が、中央開口23へと延在する径方向タブ18をさらに具えている」構成は、本件発明1の「前記ロッドが、前記一端部とは逆向きの少なくとも1つのロッドショルダを備え、前記注射器が、前記本体の後部に配置されたバックストップを含み、前記バックストップが、前記一端部に向いたバックストップショルダを含」む構成に相当する。
してみれば、本件発明1と甲1発明は次の一致点及び相違点を有する。
【一致点】
滅菌済みの注射器であって、前記注射器は、本体と、ストッパと、プランジャとを備え、前記最終的に滅菌済みの注射器は、パッケージ内に封止された製品を滅菌することにより得られ、前記本体が、出口のある一端部を備え、前記ストッパが、前記ストッパの前面と前記本体とが可変容量チャンバを画定するように前記本体内部に配置され、前記可変容量チャンバから、前記出口を通して流体を押し出すことができ、前記プランジャが、第1の端部にあるプランジャ接触面と、前記プランジャ接触面と後部との間に延在するロッドとを備え、前記プランジャ接触面が、前記ストッパに接触するが、前記ストッパに結合はしないように構成され、それにより、前記ストッパを前記本体の前記一端部に向けて押し進めて前記可変容量チャンバの前記容量を減少するために前記プランジャを使用することができるが、前記一端部から離れる向きに前記ストッパを移動させるために前記プランジャを使用することができず、前記可変容量チャンバが注射可能な薬剤を含み、前記ロッドが、前記一端部とは逆向きの少なくとも1つのロッドショルダを備え、前記注射器が、前記本体の後部に配置されたバックストップを含み、前記バックストッパが、前記一端部に向いたバックストップショルダを含む、
滅菌済みの注射器。
【相違点1】
本件発明1は、眼科用注射に適しており、注射可能な薬剤は血管内皮増殖因子拮抗薬(VEGF拮抗薬)であるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。
【相違点2】
本件発明1は、ストッパの後面が中心の凹部を含むのに対し、甲1発明は、ピストン3はそのような凹部を含まない点。
【相違点3】
本件発明1は、プランジャ接触面とストッパが接触した状態で配置され、可変容量チャンバがその所期の最大容量であるとき、ロッドショルダとバックストップショルダとの間に0mmより大きく2mm以下の間隙が存在し、前記ストッパは、互いに少なくとも3mm、第1の軸に沿う方向に離隔される前側円周リブと後側円周リブを備え、前記可変容量チャンバ注射可能な薬剤の前記所期の最大容量を含むのに対し、甲1発明は、そのような構成を備えるのか不明である点。
イ 判断
(ア)相違点1について
甲1の段落【0001】の記載からすれば、甲1発明はプレフィルドシリンジ型の医療機器としての注射器を意図したものである。
そして、プレフィルドシリンジ型の注射器として眼科用注射器のような小容量のものは周知(例えば、甲8(段落[0024]~[0025]参照。)や甲15(段落[0048]参照。)や甲39(特表2012-509736号公報:段落【0032】参照。))であるから、引用発明を、眼科用注射に適した物とすることは当業者にとって容易である。
また、注射器として眼科用注射器は、例えば、甲2~5,12~14,19に記載されているように本願優先日前周知であり、また、眼科用の注射器で使用する薬剤として具体的に血管内皮増殖因子拮抗薬(VEGF拮抗薬)を用いることも、甲2(段落【0082】、【0094】),甲3(段落[0077]),甲12(段落[0148]),甲13(段落[0002]),甲14(段落【0001】),甲19(930ページ左欄)に記載されているように通常のものである。
そして、注射器に相違点1に係る構成を採用することによる作用効果は、小容量の注射器一般について生じるものであり、格別なものではない。
よって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは当業者にとって容易である。
(イ)相違点2について
注射に用いる器具のストッパとして後面に中心の凹部を設けたものは、例えば、甲6(図14,15),甲15(図5),甲18(第1~5図),甲25(図5,11,14,21,23,25),甲28(図4),甲29(図3,23),甲30(図2B),甲31(第1,4図),甲32(図5,6),甲33(第2図),甲34(図9,10),甲35(図4D)に記載されているようにストッパの形状として周知のものである。
そして、部品の共通化という周知の課題に基づき、甲1発明のピストン3に、当該周知の後面に中心の凹部を設けたストッパを採用することは当業者であれば容易である。
特許権者は令和6年1月22日提出の意見書において、「甲6,15,18,25,28~35に記載のストッパの凹部はプランジャ前面の形状とは、ひとかたまりの技術思想であるといえるから、このようなひとかたまりの技術思想を一部であるストッパの凹部のみを抜き出して、甲1発明の構成と結びつけることはできない。」と主張する(17頁1~5行)。
しかし、例えば、甲6や甲28や甲32や甲33に記載されたものはプランジャの関係から離れて後面の中心に凹部を設けたストッパである。
よって、上記特許権者の主張は採用できない。
また、一般的に、部材の材料の減少は部材の作成においては当然考慮されることであり、ストッパとしての機能を失わない箇所(例えば、ストッパの後面)に凹部を設けることは当業者であれば容易になし得ることである。
(ウ)相違点3について
上記第5の1で検討したように相違点3に係る構成は不明確である。
しかし、仮に相違点3に係る構成が、請求項1に記載されたとおりの構成として本件発明1に係る注射器の構成を特定するとしても、甲1の図2に記載の状態(すなわち、操作ロッド11の径方向突起16がカバー15の径方向タブ18に接した状態)では、薬液9は内部有効容積8に最大限充填されており(すなわち、所期の最大容量であり)、そのとき径方向突起16と径方向タブ18の間に間隙は0mmである。
そして、本件発明1では、ロッドショルダとバックストップショルダとの間に0mmより大きく2mm以下の間隙が存在するとされているが、注射器の組立上の誤差等を加味すれば、ロッドショルダとバックショルダの間にごく僅かな隙間が生じることは通常であり、「0mm」と「0mmより大きい」の間に実質的な差異はない。
一方、ピストン3のリブ間には甲1の図2,3の記載からすれば、0mmより大きくある程度離間しており、「ストッパの移動による滅菌領域が破られることを防止する」という課題を解決していると理解できる。
そして、甲1発明のピストン3のリブ間の離間距離は、ロッドショルダとバックストップショルダとの間の間隙に比して十分に大きいのであるから、同様の作用効果を奏するものと認められ、当該ピストン3のリブ間の離間距離の下限を具体的に少なくとも3mmにしたことは、設計的事項にすぎない。
よって、相違点3に係る構成の採用は当業者が容易になし得ることである。
(エ)効果について
また、上記各相違点を総合的に勘案しても、本件発明1の奏する作用効果は、甲1発明及び周知の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明2について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
また、請求項2で新たに特定された「前記ストッパは、液密シールを用いて可変容量チャンバの後部を画定することによって封止機能を提供し、前記液密シールは、滅菌性シールも提供する」構成については、甲1発明のピストン3(ストッパ)は、筒状本体2(本体)に接するリブを備えており(図1~3参照。)、当該リブの一般的な作用として液密シール及び滅菌性シールを提供できることは当業者にとって周知の技術である。
よって、本件発明2は、甲1発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件発明3について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
また、請求項3で新たに特定された「前記ストッパに結合しない前記プランジャが、使用者が前記プランジャおよびそこに接続されたストッパを移動させること、滅菌していない空気または他の流体を前記注射器内に引き込むこと、または滅菌していない領域に前記ストッパを移動させることを防止する」構成については、甲1発明のピストン3(ストッパ)は、先端36にプラグ14が接続された操作ロッド11(プランジャ)に結合されておらず、甲1発明も注射器である以上、少なくとも使用者が前記先端36にプラグ14が接続された操作ロッド11(プランジャ)およびそこに接続されたピストン3(ストッパ)を移動させるように構成されていることは自明である。
よって、請求項3で新たに特定された構成は、甲1に実質的に記載された構成である。
(5)本件発明4について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
そして、請求項4で新たに特定された「前記出口から離れる向きへの前記ロッドの移動は制約される」構成については、甲1の段落【0033】~【0034】及び図2に、先端4から離れる向きへの操作ロッド11(ロッド)の移動を制約することが記載されている。
よって、請求項4で新たに特定された構成は、甲1に記載された構成である。
(6)本件発明5、6について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
そして、請求項5及び6は、それぞれ注射器の可変容量チャンバの内径及び注射器の本体の長さを特定するが、注射器の各部のサイズの具体的数値は設計的事項にすぎず、また、請求項5、6で特定された具体的数値は、例えば、甲5(段落[0434])、甲7(18ページ第1段落)、甲8(段落[0025])、甲9(段落[0044])、甲10(段落[0009])に記載されているように、通常用いられる周知の数値にすぎない。
よって、本件発明5、6は、甲1発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)本件発明7について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
そして、請求項7で新たに特定された「前記注射器はシリコーンを含まない」構成については、甲1の段落【0023】の記載からすれば、甲1発明はシリコーンを含むものでないし、仮に「シリコーンを含まない」の意味が、シリコーン油を用いないことを意図するとしても、シリコーン油フリーの眼科用注射器は、例えば甲12(段落[0145]参照。)に記載されているように周知の技術である。
よって、本件発明7は、甲1発明及び甲1の記載ないし周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(8)本件発明8について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
そして、請求項8で新たに特定された「前記本体は、プラスチックまたはガラスからなる」構成については、甲1の段落【0029】に記載されているように、甲1発明の筒状本体2(本体)はガラスからなっている。
また、注射器の本体をプラスチックまたはガラスで構成することは、甲11(18ページ第1段落),甲13(段落[0055]),甲14(段落【0068】),甲17(段落【0053】)に記載されているように周知の技術である。
よって、本件発明8は、甲1発明及び甲1の記載ないし周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(9)本件発明9~11について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
そして、請求項9~11は、それぞれ注射器の公称最大容量及び注射器の内径を特定するが、注射器の容量や各部のサイズの具体的数値は設計的事項にすぎず、また、請求項9~11で特定された注射器の容量や内径の具体的数値は、例えば、請求項9で特定される数値については、甲2(段落【0040】),甲10(段落[0032]),甲15(請求項28),甲16(段落[0039])に、請求項10で特定される数値については、甲10(段落[0032]),甲16(段落[0039])に、また、請求項11で特定される数値については、甲5(段落[0434]),甲7(18ページ第1段落),甲8(段落[0025]),甲9(段落[0044]),甲10(段落[0009]),甲17(段落【0054】)に記載されているように、通常用いられる周知の数値にすぎない。
よって、本件発明9~11は、甲1発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(10)本件発明12について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
そして、請求項12で新たに特定された「前記出口は、封止デバイスにより可逆的に封止される」構成については、甲1の段落【0029】及び図1には、先端4をキャップ6(封止デバイス)により可逆的に封止することが記載されているから、甲1に記載された事項であり、また、甲11(図1),甲23(18ページ下から5~3行)にも同様の記載があるから、周知の技術である。
よって、本件発明12は、甲1発明及び甲1の記載ないし周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(11)本件発明13について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
そして、請求項13で新たに特定された「前記ロッドが、前記一端部とは逆向きの少なくとも1つのロッドショルダを備え、前記注射器が、前記本体の後部に配置されたバックストップを含み、前記バックストップが、前記一端部に向いたバックストップショルダを含み、前記ロッドショルダと協働して、前記バックトップショルダとロッドショルダが接触するときに前記一端部から離れる向きへの前記プランジャロッドの移動を防止する」構成については、甲1の段落【0033】~【0034】及び図2を参照すれば、甲1記載の突起16、カバー15及び径方向タブ18は、それぞれ本件発明1のロッドショルダ、バックストップ及びバックストップショルダに相当し、これらは協働して、先端4から離れる向きへの操作ロッド11(プランジャロッド)の移動を防止しているから、甲1に記載された事項であり、また、甲24(段落【0019】),甲25(8欄36~53行),甲26(段落[0061]~[0064])にも同様の記載があるから、周知の技術である。
よって、本件発明13は、甲1発明及び甲1の記載ないし周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(12)本件発明14について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
また、請求項14で新たに特定された「前記中心の凹部は円筒形状である」構成については、例えば、甲6(図14,15),甲8(図3),甲11(図1,14,15),甲15(図5),甲18(第1~5図),甲25(図5,11,14,21,23,25),甲29(図3,23),甲30(図2B),甲31(第1,4図),甲32(図2),甲33(第2図),甲34(図9,10)に記載されているように周知の技術である。
よって、本件発明14は、甲1発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(13)本件発明15について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
また、請求項15で新たに特定された「前記中心の凹部は第1の直径を有する開始穴を含み、前記開始穴は、前記ストッパの前記後面から第2の直径を有する内側凹部に延び、前記第2の直径は前記第1の直径よりも大きい」構成については、甲8(図3),甲11(図1,14,15),甲15(図5),甲18(第1~5図),甲25(図5,11,14,21,23,25)に記載されているように周知の技術である。
よって、本件発明15は、甲1発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(14)本件発明16について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
そして、請求項16で新たに特定された「前記血管内皮増殖因子拮抗薬(VEGF拮抗薬)はラニビズマブであり、前記ラニビズマブは、脈絡膜新生血管、加齢黄斑変性、網膜静脈分枝閉塞症(bRVO)と網膜中心静脈閉塞症(cRVO)の両方を含む、網膜静脈閉塞症(RVO)に続発する黄斑浮腫、病的近視(PM)に続発する脈絡膜新生血管、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症、および増殖網膜症から選択される眼病の治療のために用いられる」構成については、ラニビズマブが血管内皮増殖因子拮抗薬(VEGF拮抗薬)であることは周知の事実であり、また、ラニビズマブが、糖尿病性網膜症や静脈閉鎖症や加齢黄斑変性や黄斑浮腫のような眼病の治療のために用いられることもまた、例えば甲19(930頁左欄)に記載されているように周知の技術である。
よって、本件発明16は甲1発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(15)本件発明17について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
そこで、本件発明17の「請求項1から16のいずれか一項に記載の最終的に滅菌済みの注射器を組み立てる方法であって、前記最終的に滅菌済みの注射器は、パッケージ内に封止された製品を滅菌することにより得られ、前記方法は、以下のステップ:
i)本体およびストッパを提供するステップであって、前記本体が、一端部にある出口を備え、前記ストッパが、前記ストッパの前面と前記本体とが可変容量チャンバを画定するように前記本体内部に配置され、前記可変容量チャンバから、前記出口を通して流体を押し出すことができ、前記出口が解放可能に封止され、前記可変容量チャンバが薬剤を含み、前記注射可能な薬剤は血管内皮増殖因子拮抗薬(VEGF拮抗薬)であり、前記ストッパの後面は中心の凹部を含むステップと、
ii)第1の端部にあるプランジャ接触面と、前記プランジャ接触面と後部との間に延在するロッドとを備えるプランジャを提供し、前記プランジャを前記ストッパに結合させずに、前記プランジャ接触面と前記プランジャの少なくとも一部とを前記本体内部に配置するステップと、
iii)前記本体内部に前記ストッパと前記プランジャとを配置した後に、最終的に滅菌するステップとを含む方法。」 について、以下に検討する。
ア 甲1発明に係る注射器を組み立てるに際し、注射器の構成に「筒状本体2が、一端部にあるチップ5を備え、前記ピストン3が、前記ピストン3の前面と前記筒状本体2とが内部有効容積8を画定するように前記筒状本体2内部に配置され、前記内部有効容積8から、前記チップ5を通して流体を押し出すことができ、前記チップ5が解放可能に封止され、前記内部有効容積8が薬液9を含み、前記注射可能な薬液9は血管内皮増殖因子拮抗薬(VEGF拮抗薬)であり、前記ピストン3の後面は中心の凹部を含む」構成を採用することは、上記(2)で検討したように甲1発明及び周知の技術に基いて当業者が容易になし得ることであるから、甲1発明に係る注射器を組み立てるに際して提供される筒状本体2およびピストン3として上記構成のものを採用し、上記i)のステップとすることは当業者にとって容易である。
イ また、甲1発明は、操作ロッド11の先端に固定されたプラグ14とピストン3が結合していないから、甲1発明に係る注射器を組み立てるに際して、当該操作ロッド11の先端に固定されたプラグ14とピストン3を筒状本体2の内部に配置するにあたって、上記ii)のステップを採用することは当業者にとって容易である。
ウ さらに、上記第5の2(1)アの段落【0004】の記載に照らせば、甲1発明は、包装された後殺菌消毒されているから、甲1発明に係る注射器を組み立てるに際しては、上記iii)のステップを備えていることは自明である。
してみれば、甲1発明を組み立てるにあたって、本件発明17に係る方法を採用することは、甲1発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易になし得たことである。
(16)本件発明18について
本件発明1を引用する部分については、上記(2)で検討したとおりである。
そして、請求項18は「封止パッケージと、請求項1に記載の最終的に滅菌済みの注射器とを備える注射器パック」を含むものであるが、甲1の段落【0004】の記載からすれば、甲1記載の器具は包装されるものであり、パッケージに包装され、注射に用いる器具のパックとして構成されている。
また、封止パッケージと滅菌済みの注射器とを備える注射器パックは、甲4(段落【0070】),甲20(要約),甲21(請求項18,19),甲22(要約)に記載されているように周知の技術である。
よって、本件発明18は甲1発明及び甲1の記載ないし周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~18に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第4号及び第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700944