特許異議申立
2022-700753
セラミックグリーンシート製造用離型フィルム
- 審判番号
- 2022-700753
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-021578
- 登録番号
- 7017184
- 請求日
- 2022年08月02日
- 審決日
- 2022年10月18日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋紡株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
- 【異議申立人】渋谷 都
- 【異議申立人】吉澤 悦子
- 審判長/審判官
- 審判長 久保 克彦
- 審判官 稲葉 大紀
- 審判官 石田 智樹
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7017184号発明「セラミックグリーンシート製造用離型フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7017184号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7017184号の請求項1~7に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)5月8日(優先権主張 平成28年5月16日 日本国)を国際出願日とする出願である特願2017-528866号の一部を、平成29年10月18日に新たな特許出願(特願2017-201565)とし、その一部を令和2年2月20日に新たな特許出願(特願2020-27456号)(以下「原出願」という)とし、さらにその一部を令和3年2月15日に新たな特許出願(特願2021-21578号)としたものであって、令和4年1月31日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年8月2日に特許異議申立人渋谷都(以下「申立人1」という。)が、同日に特許異議申立人吉澤悦子(以下「申立人2」という。)が、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」等という。まとめて「本件特許」ともいうことがある。)は、それぞれ、本件特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリエステルフィルム基材と、前記基材の一方の表面上に易滑塗布層とを有し、
前記ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートから選ばれる少なくとも1種を含むポリエステルフィルムであり、
前記易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下であり、
前記易滑塗布層の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下である、
コーティングポリエステルフィルム。
【請求項2】
易滑塗布層が粒子を含む、請求項1に記載のコーティングポリエステルフィルム。
【請求項3】
易滑塗布層の厚みが0.001μm以上2μm以下である請求項1または2に記載のコーティングポリエステルフィルム。
【請求項4】
セラミックグリーンシート製造用の請求項1~3のいずれかに記載のコーティングポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のコーティングポリエステルフィルムを用いるセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項6】
製造するセラミックグリーンシートの厚みが、0.2μm以上2μm以下である請求項5に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載のセラミックグリーンシートの製造方法を採用するセラミックコンデンサの製造方法。」
第3 申立理由の概要
1 申立人1は、次の甲第1号証~甲第4号証(以下「甲1-1」~「甲1-4」という。)を提出して、以下の申立理由1-1及び申立理由1-2を申し立てている。
甲1-1:特開2016-60158号公報
甲1-2:国際公開第2013/080925号
甲1-3:株式会社不二製作所、「Z BOOK 便利帳」、[Online]、[検索日:2022年7月25日]、インターネット
<https://www.fujimfg.co.jp/service/benricho/roughness/>
甲1-4:特開2010-69868号公報
(1)理由1-1(進歩性)
本件発明1~7は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2~甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)理由1-2(サポート要件)
本件発明1~7に係る特許は、下記の点で、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
ア 本件発明1において、ポリエステルフィルム基材が粒子を含有するか否かの特定はないから、粒子を含有し得るといえる。一方、発明の詳細な説明において、粒子を含有する積層フィルムZを基材に用いた比較例4~6では、RSmの値を十分に下げることができずピンホールが発生しており、このような粒子を含む基材を用いた場合において、どうすればRSmを10μm以下にできるかについて発明の詳細な説明に記載はないから、本件発明の課題が解決できると認識できるとはいえない。そうすると、基材が粒子を含む本件発明1~7は、発明の課題が解決できると認識できる範囲にあるとはいえない。
イ 本件発明1における「易滑塗布層の・・・(RSm)が10μm以下」のうち、発明の詳細な説明の実施例1~8で示される2.2μm~2.7μmの範囲を外れた範囲について、本件発明の課題が解決できるか否かは本件明細書の記載からは明らかではないから、本件発明の課題が解決できると認識できるとはいえない。そうすると、RSmが2.7μmを超え10μm以下の範囲を含む本件発明1~7は、発明の課題が解決できると認識できる範囲にあるとはいえない。
2 申立人2は、次の甲第1号証~甲第6号証(以下「甲2-1」~「甲2-6」という。)を提出して、以下の理由2-1~理由2-2を申し立てている。
甲2-1:特開2012-6213号公報
甲2-2:特開2008-98344号公報
甲2-3:東洋紡績株式会社、「製品・技術紹介 高透明ポリエステルフィルム コスモシャイン○R」(当審注:○Rは丸囲み文字を表す。以下同様。)、成形加工 第19巻第10号2007年、p.654
甲2-4:OLYMPUS、「EVIDENT 工業用顕微鏡 表面粗さ測定-パラメーターについて」、[Online]、[検索日:2022年7月22日]、インターネット
<https://www.olympus-ims.com/ja/metrology/surface-roughness-measurement-portal/parameters/>
甲2-5:特開2011-9319号公報
甲2-6:特開2020-111052号公報
(1)理由2-1(新規性、進歩性)
本件発明1~7は、甲2-1に記載された発明であるか又は甲2-1に記載された発明及び甲2-2~甲2-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)理由2-2(分割要件違反を前提とする新規性及び進歩性)
本件出願は、下記の点から、分割要件を充足していないから、本件特許に係る出願の出願日は、上記第1に記載した特願2017-528866号の出願日である平成29年5月8日ではなく、現実の出願日である令和3年2月15日である。よって、本件発明1~7は、原出願の公開公報である甲2-6に記載された発明であるか又は甲2-6に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
原出願の出願当初明細書等には、ポリエステルフィルム基材が実質的に粒子を含有することは記載されていない。しかしながら、原出願の一部を新たな特許出願とした本件特許に係る出願は、「ポリエステルフィルム基材」に関し、「粒子を実質的に含有していない」という要件が削除されており、本件発明1のポリエステルフィルム基材は、粒子を実質的に含有するものも含むこととなる。したがって、本件分割出願は、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内でされたものではない。
第4 文献の記載及び引用発明
1 甲1-1
(1)甲1-1の記載(下線は強調のために当審が付した。)
「【請求項1】
2層以上からなる二軸配向ポリエステルフィルムを基材とし、前記基材は、粒子を実質的に含有していない表面層Aと粒子を含有する表面層Bを有し、表面層Aの表面上に離型塗布層が積層され、かつ表面層Bの表面上に平滑化塗布層が積層されてなり、平滑化塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が5nm以上25nm以下かつ最大突起高さ(P)が800nm以下であることを特徴するセラミックシート製造用離型フィルム。」
「【0001】
本発明は、超薄層のセラミックシート製造用離型フィルムに関するものであり、詳しくは超薄層のセラミックシート製造時にピンホール及び厚みムラによる工程不良の発生を抑制したものを製造し得る、超薄層のセラミックシート製造用離型フィルムに関するものである。」
「【0009】
本発明は、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、得られたものであり、超薄層のセラミックシート製造時に、厚み不良やピンホール等の欠点を実質上生じることがなく、ハンドリング性に優れた超薄層のセラミックシート製造用離型フィルムを提供しようとするものである。」
「【0016】
(ポリエステルフィルム)
本発明の基材として用いる二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、特に限定されず、離型フィルム基材として通常一般に使用されているポリエステルをフィルム成形したものを使用することが出来るが、好ましくは、芳香族二塩基酸成分とジオール成分からなる結晶性の線状飽和ポリエステルであるのが良く、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート又はこれらの樹脂の構成成分を主成分とする共重合体がさらに好適であり、とりわけポリエチレンテレフタレートから形成されたポリエステルフィルムが特に好適である。」
「【0047】
(平滑化塗布層)
本発明の離型フィルムにおいて、表面層Bの上に、平滑化塗布層が設けられている。
領域表面平均粗さを制御した表面層B上に、さらに平滑化塗布層を設けることで、より高度に領域表面平均粗さと最大突起高さを制御することができる。そのため、0.2~1.0μmの超薄層セラミックシートを離型塗布層に成型後、ロール状に巻き取った後でも、平滑化塗布層の凹凸転写がなく超薄層セラミックシートのピンホールなどの欠点を抑制することができる。
【0048】
本発明における平滑化塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)は5nm以上25nm以下かつ最大突起高さ(P)は800nm以下であることが好ましい。より好ましくは、領域表面平均粗さ(Sa)は7nm以上23nm以下かつ最大突起高さ(P)が750nm以下であり、Saが10nm以上20nm以下かつPが700nm以下がさらに好ましい。領域表面粗さ(Sa)が5nm以上であれば、滑り性が良く巻き取り時にシワなどが発生せず平面性が保たれるので好ましい。一方、領域表面平均粗さ(Sa)が25nm以下であり、且つ、最大突起高さ(P)が800nm以下の場合には、セラミックシート塗布後の巻取りにおいて、巻き取られたセラミックシートに、平滑化塗布層の突起の凹凸が転写されることがなく、ピンホールなどの欠点を生じるおそれが小さいので好ましい。最大突起高さ(P)は小さいことが好ましいが、10nm以上であっても構わず、20nm以上であっても構わない。
・・・
【0050】
平滑化塗布層の構成する樹脂の一部には、高度に平滑な表面でも滑り性を保持するために、易滑性樹脂を用いることが好ましい。易滑性樹脂とは、ポリエステルフィルム上に塗布後、乾燥及び/又は硬化して積層した樹脂層の表面自由エネルギーγsが25mN/m以下であるものをいい、例としては、シリコーン系樹脂やフッ素系の樹脂、長鎖アルキル変性された樹脂などが挙げられる。」
(2)甲1-1に記載された発明
上記(1)の記載事項を総合し、特に請求項1に着目すると、甲1-1には次の発明が記載されている(以下「甲1-1発明」という。)。
「2層以上からなる二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材とし、前記基材は、粒子を実質的に含有していない表面層Aと粒子を含有する表面層Bを有し、表面層Aの表面上に離型塗布層が積層され、かつ表面層Bの表面上に平滑化塗布層が積層されてなり、平滑化塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が5nm以上25nm以下かつ最大突起高さ(P)が800nm以下である、セラミックシート製造用離型フィルム。」
2 甲1-2について
(1)甲1-2の記載
「[0001] 本発明は、プラスチックフィルム、特に位相差フィルムなどの光学フィルムの表面を保護するための表面保護フィルムの製造方法および製造装置ならびに表面保護フィルムに関する。」
「[0005] しかしながら、表面保護フィルムは粘着性のフィルムであるため、ロール状に巻取った際に粘着力のある面(以下、粘着面と称す)ともう一方の面(以下、背面と称す)が粘着し、ブロッキングが発生しやすいという特徴を有しており、かかる特許文献1の技術を用いるだけでは、仮にフィッシュアイをすべて押し潰すことができたとしても、表面保護フィルムの両表面が平滑なものとなり、かかるブロッキングの問題が顕著となり、フィルムが巻き戻せなくなるなど、実用に耐えがたいものとなる問題があった。」
「[0008] ・・・凹凸表面形状の被着体への転写は凹凸の大きさや密度が影響するため、算術平均粗さRaのみを考慮していては凹凸表面形状の被着体への転写を防止することは困難であることを本発明者らは見いだした。」
「[0011] 本発明の目的は、上記問題を解決し、ロール状に巻き取った際にブロッキングを生じること無く、かつ、被着体に貼り合わせた後にロール状に巻取り、長期保管した際にも、背面の凹凸形状が被着体に転写することのない表面保護フィルムを製造することができる製造方法および製造装置、ならびに表面保護フィルムを提供することにある。」
「[0060] ニップローラー3の表面の十点平均粗さRzは2~8μmであり、かつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であり、好ましくはSmが70μm以下である。ニップローラー3の表面粗さは溶融樹脂2に転写され、表面保護フィルム6の背面の凹凸形状を形成するため、ニップローラー3の十点平均粗さRzが8μmを超えると、表面保護フィルム背面6の十点平均粗さRzが10μmを超えてしまい位相差フィルムなどの軟質な被着体に表面保護フィルム6を貼り合わせた後、ロール状に巻取り長期間保管した際に、背面の凹凸表面形状が被着体表面に転写してしまう。また、ニップローラー3の十点平均粗さRzが2μmを下回ると、表面保護フィルム6の背面の十点平均粗さRzが3μmを下回り、粘着面との離型性が低下し、表面保護フィルム3を巻取った際にブロッキングが発生する可能性が高くなる。また、摩擦係数が上昇し滑りにくくなるために、シワなどの巻姿欠点が発生し易くなる。加えて、表面保護フィルム6の背面の凹凸形状によるクッション性が著しく低下するために、フィッシュアイが被着体に転写し易くなる。さらに、十点平均粗さRzが上記範囲にあったとしても、ニップローラー3の表面の凹凸の平均間隔Smが90μm以上である場合、上述のような凹凸表面形状の被着体への転写や、巻取り時のブロッキングやシワといった欠陥が生じやすくなる。ニップローラー3の表面の凹凸の平均間隔Smが90μmよりも大きくなると、表面保護フィルム6の背面の凹凸の平均間隔Smも90μm以上となり表面の凹凸形状における凸の数が少なくなり、被着体と表面保護フィルム6の背面の真実接触面積が減少する。これにより局所圧力が上昇するため、凹凸形状の被着体への転写が発生し易くなると考えられる。・・・
[0061] ニップローラー3および表面保護フィルム6の背面の表面形状のパラメータとして十点平均粗さRzを用いることで凹凸形状の転写の原因となる凹凸の絶対的な高さおよび深さを、凹凸の平均間隔Smを用いることで凹凸の密度を制御することが可能となる。なお、ニップローラー3および表面保護フィルム6の背面の算術平均粗さRaと十点平均粗さRzの値にはほとんど関係性は無く、発明者らの知見によれば、Rzの値はRaの値の3~20倍と広い範囲の値をとる。」
「[請求項16] 単層または複数の層からなる表面保護フィルムであって、一方の面の算術平均粗さRaが0.4μm以下であって、もう一方の面の十点平均粗さRzが3~10μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下であって、少なくとも十点平均粗さRzが3~10μmかつ凹凸の平均間隔Smが90μm以下である面を形成する層が低密度ポリエチレン(LDPE)または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)またはエチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)からなることを特徴とする表面保護フィルム。」
(2)甲1-2に記載された事項
上記(1)の記載事項を総合すると、甲1-2には以下の事項が記載されている(以下「甲1-2記載事項」という。)。
「ポリエチレンからなる表面保護フィルムにおいて、フィルム背面の十点平均粗さRzを3μm~10μmとすることで、ロール状に巻き取った際にフィルム背面とフィルム粘着面の離型性が低下することを防止するとともにフィルムを被着体に貼り合せた後ロール状に巻き取り長期間保管した際にフィルム背面の凹凸形状が被着体表面に転写されることを防止し、フィルム背面の凹凸の平均間隔Smを90μm以下とすることで、背面の凸部の局所圧力を低下して凹凸形状が被着体表面に転写されることを防止すること。」
3 甲1-3について
(1)甲1-3の記載
「
[図:0001390619000001.jpg]
」
(2)甲1-3に記載された事項
上記(1)の記載事項から、甲1-3には以下の事項が記載されている(以下「甲1-3記載事項」という。)。
「1994年表面粗さのJIS規格の見直しにより、最大高さRyは最大高さRzに、十点平均粗さRzは十点平均粗さRzjis94に、凹凸の平均間隔Smは粗さ曲線要素の平均長さRSmに変更されたこと。」
4 甲1-4について
(1)甲1-4の記載
「【0001】
本発明はグリーンシート成形用キャリヤーフィルムとして用いられる離型フィルムに関する。」
「【0072】
(第一の態様における表面粗さ)
本発明のグリーンシート成形用キャリヤーフィルムにおける第一の態様は、基材フィルムの一方の面に離型層を有するキャリヤーフィルムであるが、基材フィルムの他方の面における10点平均粗さRzは、10nm以上100nm以下である。基材フィルムの他方の面における10点平均粗さRzを上記数値範囲とすることによって、グリーンシートを成形した後に巻き取る工程において、かかる面の表面形状がグリーンシートへ転写するのを抑制することができ、グリーンシートにおける欠点を抑制することができる。・・・
・・・
【0074】
上記のような10点平均粗さRz、および中心線平均表面粗さRaは、フィルム基材に含有する粒子の平均粒径や添加量を適宜調整したり、フィルム基材にコーティング層を設ける場合においては、かかるコーティング層に含有される粒子の平均粒径や添加量等を適宜調整したりすることによって達成される。本発明における特に好ましい態様は、実質的に粒子を含有していない(基材フィルムの質量に対して5ppm以下)か、極少量(基材フィルムの質量に対して50ppm以下)の粒子しか含有していない基材フィルムに、粒子を含有するコーティングを施し、表面を租面化する態様である。」
(2)甲1-4に記載された事項
上記(1)の記載事項から、甲1-4には以下の事項が記載されている(以下「甲1-4記載事項」という。)。
「グリーンシート成形用キャリヤーフィルムとして用いられる離型フィルムにおいて、離型層とは反対の面の10点平均粗さRzを、当該面に設けたコーティング層に含有する粒子の平均粒径や添加量等で調整できること。」
5 甲2-1について
(1)甲2-1の記載
「【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に、中間層および離型樹脂層を設けた離型フィルムであって、該離型樹脂層が、ヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンとSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの付加反応により架橋したものであり、該離型樹脂を成形したシートのゴム硬度が60~75であることを特徴とする積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルム。」
「【0001】
積層セラミックコンデンサのグリーンシート成型用途に用いられ、グリーンシートの剥離性およびセラミックスラリーのハジキ、積層不良等の問題を解決するために用いられる積層セラミックコンデンサグリーンシート成型用離型フィルムに関するものである。特に1μm以下の厚みの積層セラミックコンデンサグリーンシートの成型に適した離型層を有する離型フィルムに関するものである。」
「【0017】
本発明の基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等が挙げられるが、特にMLCCグリーンシートのような平面性が要求されるシート成型に使用される基材フィルムとしては、機械的強度、耐熱性、熱寸法安定性および耐薬品性に優れ、且つ経済的である二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好適に用いられる。基材フィルムの厚みとしては、18~125μmが好ましく、さらに好ましくはコストの面から25~50μmである。」
「【0020】
基材層の基材フィルムとしてのポリエチレンテレフタレートフィルムとしては、東レ(株)製「ルミラー」(登録商標)R80や、東洋紡(株)製“コスモシャイン”A4100などの市販のフィルムを用いることができる。」
(2)甲2-1に記載された発明
上記(1)の記載事項を総合し、特に請求項1に着目すると、甲2-1には次の発明が記載されている(以下「甲2-1発明」という。)。
「ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡(株)製“コスモシャイン”A4100)の少なくとも片面に、中間層および離型樹脂層を設けた、積層セラミックコンデンサグリーンシートの成型に適した離型層を有する離型フィルム。」
6 甲2-2について
(1)甲2-2の記載
「【請求項1】
ジアミンと芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるポリアミド酸を支持体に流延・乾燥して、ポリイミド前駆体フィルムの一方の面(A面)のイミド化率をIMaとし、他一方の面(B面)のイミド化率をIMbとするとき、IMa、IMbの両者の差が5以下であるポリイミド前駆体フィルムを得、該ポリイミド前駆体フィルムを熱によりイミド化させて得られるポリイミドフィルムであって、波長500nmでの光線透過率が50%以上である無色透明ポリイミド長尺フィルムに光電変換薄膜を積層したことを特徴とするフィルム状太陽電池。」
「【0001】
本発明は、可撓性基板である耐熱性ポリイミドフィルムであって、しかも表裏差の少ない透明ポリイミドフィルムを利用したフィルム状太陽電池に関する。」
「【0031】
ポリアミド酸溶液を塗布する支持体は、ポリアミド酸溶液をフィルム状に成形するに足る程度の剛性を有していればよく、表面が金属(より好ましくは錆びなくて耐腐食に優れるステンレス)、プラスチックなどであるドラム又はベルト状回転体などが挙げられる。
また、適度な剛性を有する高分子フィルムを利用する方法も好ましい態様である。
金属支持体の表面にはCr、Ni、Snなどの金属メッキを施してもよい。
支持体表面はフィルムの必要表面凹凸構造に応じて、任意の表面凹凸構造を付与することができ、この支持体上の表面凹凸構造は支持体全面に付与してもよく、部分的に付与してもよく、またドラム又はベルト状回転体支持体に直接付与してもよく、フィルムや金属に付与したものを貼り合わせて使用してもよい。凹凸構造の深さは0.5μm~80μmが好ましいが、より好ましくは0.5μm~50μm、さらに好ましくは0.5μm~40μmである。
支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、スキージコーティング、リバースコーティング、ダイコーティング、アプリケータコーティング、ワイヤーバーコーティング等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
また、支持体上にポリアミド酸溶液を塗布した後に過熱により溶剤を一部放出させ、事故指示性のある程度になった段階で、凹凸のあるロール押し付けにより表面凹凸構造を付与することもできる。
これらの処方によって、Rtが0.3μm~50μm、RSmが0.5μmから40μm程度の凹凸構造を有しているポリイミドフィルムが比較的容易に得られる。
【0032】
上記のポリイミドフィルムには、滑剤をポリイミド中に添加含有せしめるなどしてフィルム表面に微細な凹凸を付与しフィルムの滑り性を改善することもできる。」
「【0034】
両面乾燥工程の具体的方法としては、例えば支持体上の第一乾燥工程を終了した前駆体フィルムを支持体から剥離して、支持体に密接していたフィルム面側をフリーとした状態で前駆体フィルムを乾燥せしめる方法が挙げられる。」
「【0048】
得られた各ポリアミド酸溶液を、支持体としての厚さ188μm、幅800mmのポリエステルフィルム(コスモシャインA4100(東洋紡績株式会社製))の滑剤を含まない面に幅740mmとなるようにコーティングし、各フィルム作製条件を適応させて各ポリイミドフィルムを得た。得られた各フィルムの性能などを表1に示す。」
「【表1】
[図:0001390619000002.jpg]
」
表面粗さパラメータにおいて、「Rt」が最大断面高さであり、「RSm」が平均長さであることは技術常識から明らかである。
(2)甲2-2に記載された事項
上記(1)の記載事項を総合すると、甲2-2には次の事項が記載されている。
「フィルム状太陽電池に用いる無色透明ポリイミドフィルムにおいて、フィルムの表面凹凸構造は、支持体表面の凹凸構造に応じて付与するほか、凹凸のあるロール押し付けにより付与することにより、最大断面高さ(Rt)が0.3μm~50μm、平均長さ(RSm)が0.5μmから40μm程度の凹凸構造を有しているポリイミドフィルムが比較的容易に得られること。」(以下「甲2-2記載事項1」という。)
「フィルム状太陽電池に用いる無色透明ポリイミドフィルムにおいて、支持体として用いたコスモシャイン4100(東洋紡績株式会社製)の滑剤を含まない面にポリアミド酸溶液をコーティングしてポリイミドフィルムを得たこと。」(以下「甲2-2記載事項2」という。)
7 甲2-3について
(1)甲2-3の記載
「
[図:0001390619000003.jpg]
」
「
[図:0001390619000004.jpg]
」
「
[図:0001390619000005.jpg]
」
(2)甲2-3に記載された事項
上記(1)の記載事項を総合すると、甲2-3には次の事項が記載されている(以下「甲2-3記載事項」という。)
「コスモシャイン○Rは、内部に粒子を含まない純ポリエステルフィルムの片面又は両面に、粒子を含む滑り性のインラインコートによるコート層を付与したポリエステルフィルムであること。」
8 甲2-4について
(1)甲2-4の記載
「
[図:0001390619000006.jpg]
」
(当審注:「J成IS’82でRmax」は「JIS’82ではRmax」の誤記である。)
(2)甲2-4に記載された事項
上記(1)の記載事項を総合すると、甲2-4には次の事項が記載されている(以下「甲2-4記載事項」という。)
「表面粗さパラメータにおいて、最大断面高さ(Rt)は、基準長さではなく評価長さにおいて、輪郭曲線の山高さZpの最大値と谷深さZvの最大値の和であること。」
9 甲2-5について
(1)甲2-5の記載
「【0001】
本発明は、薄膜セラミックコンデンサグリーンシートを製造する際に使用するセラミックコンデンサグリーンシート製造用高平滑性離型フィルム及びその製造方法に関するものであって、・・・」
「【0087】
本発明について、以下に実施例を挙げて更に具体的に説明する。
(実施例1)
基材として、厚さ50μmの表面粗さ(Ra)の実測値が4.0nmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡製A4100)を使用し、これをプラズマ化学気相成長装置の送り出しロールに装着後、下記に示す蒸着条件で、上記基材フィルムの片側コロナ処理面に、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を蒸着材料としたプラズマ化学気相成長法を用いて厚さ10nm、表面粗さ4.2nm、表層から3.0nmまでのC/Si比が2.7の酸化珪素膜の平滑層を形成して本発明にかかる高平滑性離型フィルムを得た。」
(2)甲2-5に記載された事項
上記(1)の記載事項を総合すると、甲2-5には次の事項が記載されている(以下「甲2-5記載事項」という。)。
「セラミックコンデンサグリーンシート製造用高平滑性離型フィルムの基材フィルムとして用いた東洋紡製A4100の表面粗さ(Ra)の実測値が4.0nmであったこと。」
10 甲2-6について
(1)甲2-6の記載
「【請求項1】
粒子を実質的に含有していないポリエステルフィルムを基材と、前記基材の一方の表面上に易滑塗布層とを有し、
前記ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートから選ばれる少なくとも1種を含むポリエステルフィルムであり、
前記易滑塗布層の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下である、
コーティングポリエステルフィルム。
【請求項2】
易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下である請求項1に記載のコーティングポリエステルフィルム。
【請求項3】
易滑塗布層の厚みが0.001μm以上2μm以下である請求項1または2に記載のコーティングポリエステルフィルム。
【請求項4】
セラミックグリーンシート製造用の請求項1~3のいずれかに記載のコーティングポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のコーティングポリエステルフィルムを用いるセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項6】
製造するセラミックグリーンシートの厚みが、0.2μm以上2μm以下である請求項5に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載のセラミックグリーンシートの製造方法を採用するセラミックコンデンサの製造方法。」
(2)甲2-6に記載された事項
上記(1)の記載事項を総合し、特に、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4に着目すると、甲2-6には次の事項が記載されている(以下「甲2-6記載事項」という。)。
「粒子を実質的に含有していないポリエステルフィルム基材と、前記基材の一方の表面上に易滑塗布層とを有し、
前記ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートから選ばれる少なくとも1種を含むポリエステルフィルムであり、
前記易滑塗布層の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下であり、
易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下であり、
易滑塗布層の厚みが0.001μm以上2μm以下である、
セラミックグリーンシート製造用のコーティングポリエステルフィルム。」
第5 当審の判断
1 申立人1の申立理由について
(1)理由1-1(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明の「2層以上からなる二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、本件発明1の「前記ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレート」「を含むポリエステルフィルムであ」る「ポリエステルフィルム基材」に相当し、以下同様に、「基材」の「表面層Bの表面上に」「積層されてな」る「平滑化塗布層」は「前記基材の一方の表面上」の「易滑塗布層」に相当し、「セラミックシート製造用離型フィルム」は「コーティングポリエステルフィルム」に相当する。
甲1-1発明の「平滑化塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が5nm以上25nm以下」であることと、本件発明1の「前記易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下」であることは、「前記易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が5nm以上25nm以下」である点で一致する。
以上から、本件発明1と甲1-1発明とは、以下の点で一致し、その余の点で相違する。
<一致点1>
「ポリエステルフィルム基材と、前記基材の一方の表面上に易滑塗布層とを有し、
前記ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレートを含むポリエステルフィルムであり、
前記易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が5nm以上25nm以下である、
コーティングポリエステルフィルム。」
<相違点1-1>
易滑塗布層について、本件発明1では、「前記易滑塗布層の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下である」のに対し、甲1-1発明では、かかる構成が特定されていない点。
<相違点1-2>
易滑塗布層について、本件発明1では、「最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下であ」るのに対し、甲1-1発明では、「最大突起高さ(P)が800nm以下である」点。
(イ)判断
相違点1-1について検討する。
本件発明1が、「前記易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下であり、前記易滑塗布層の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下である」ことについて、本件特許の発明の詳細な説明には、「平均粗さ(Sa)が1nm以上、最大突起高さ(P)が60nm以上であれば、・・・適度な滑り性が維持できるため好ましい。領域表面平均粗さ(Sa)が25nm以下、最大突起高さ(P)が500nm以下であれば、・・・突起によるセラミックグリーンシートの欠陥が発生せず好ましい。」(【0038】)との格別な作用効果を奏するのに加え、「粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を10μm以下に制御することで、・・・、突起一つ当たりにかかる圧力が分散され小さくなるため、ピンホールの発生を効果的に抑制できて好ましい。」(【0039】)との格別な作用効果を奏する旨、記載されている。
これに対し、甲1-1には、「平滑化塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)は5nm以上25nm以下かつ最大突起高さ(P)は800nm以下であることが好ましい。・・・領域表面粗さ(Sa)が5nm以上であれば、滑り性が良く巻き取り時にシワなどが発生せず平面性が保たれるので好ましい。一方、領域表面平均粗さ(Sa)が25nm以下であり、且つ、最大突起高さ(P)が800nm以下の場合には、セラミックシート塗布後の巻取りにおいて、巻き取られたセラミックシートに、平滑化塗布層の突起の凹凸が転写されることがなく、ピンホールなどの欠点を生じるおそれが小さいので好ましい。」(【0048】)とあるものの、突起一つ当たりにかかる圧力に着目した記載はないし、粗さ曲線要素の平均長さに着目した記載もない。そうすると、甲1-1発明を、上記相違点1-1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることの動機付けが存在するとはいえない。
ここで、甲1-2には、甲1-2記載事項として、「ポリエチレンからなる表面保護フィルムにおいて、フィルム背面の十点平均粗さRzを3μm~10μmとすることで、ロール状に巻き取った際にフィルム背面とフィルム粘着面の離型性が低下することを防止するとともにフィルムを被着体に貼り合せた後ロール状に巻き取り長期間保管した際にフィルム背面の凹凸形状が被着体表面に転写されることを防止し、フィルム背面の凹凸の平均間隔Smを90μm以下とすることで、背面の凸部の局所圧力を低下して凹凸形状が被着体表面に転写されることを防止すること。」が記載されている。
しかしながら、甲1-1発明は「セラミックシート製造用離型フィルム」に関するものであり、甲1-2記載事項は「表面保護フィルム」に関するものであるから、両者は技術分野が共通するとはいえない。
また、甲1-1発明の「平滑化塗布層」は、ポリエステルフィルム基材上に易滑性樹脂を塗布後、乾燥及び/又は硬化して形成されるものであり(【0050】)、「平滑化塗布層」の表面粗さは、ポリエステルフィルムの表面層Bの領域表面粗さに影響されるものである(【0047】)。一方、甲1-2記載事項の「表面保護フィルム」の背面の凹凸形状は、表面保護フィルムを挟圧形成するニップローラー表面の凹凸形状が転写されて形成されるものである。
そうすると、甲1-1発明における「平滑化塗布層」と甲1-2記載事項の「背面」とは、その形成手法が異なるとともに、表面に形成される凹凸形状の形成手法も異なるものであるから、甲1-2記載事項を甲1-1発明に適用することには阻害事由が存在する。
そして、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、上記した甲1-2のほか、甲1-3~甲1-4のいずれにも記載されていないし、同構成とする動機付けもない。さらに、その他の甲号証においても記載されていないし、同構成とすることの動機付けもない。
したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1-1発明及び甲1-2~甲1-4に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて限定するものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2~7は、甲1-1発明及び甲1-2~甲1-4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)理由1-2(サポート要件)について
ア 判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の解決しようとする課題について、「セラミックグリーンシートを薄膜化させた場合でも、良好な巻取り性と、ピンホールや部分的な厚みばらつき等の防止を両立させることができる優れたセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを提供する」(段落【0005】)と記載されており、この課題の解決のための手段として、本件特許の発明の詳細な説明には、「易滑塗布層の外表面の領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上、最大突起高さ(P)が60nm以上であれば、・・・適度な滑り性が維持できるため好ましい。領域表面平均粗さ(Sa)が25nm以下、最大突起高さ(P)が500nm以下であれば、・・・突起によるセラミックグリーンシートの欠陥が発生せず好ましい。・・・粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を10μm以下に制御することで、・・・突起一つ当たりにかかる圧力が分散され小さくなるため、ピンホールの発生を効果的に抑制できて好ましい。」(【0038】~【0039】)と記載されている。当該記載からすると、「前記易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下であり、前記易滑塗布層の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下である」ことで、本件特許の発明が上記課題を解決できると、当業者は認識できる。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【表1】には、実施例1~8と比較例1~6のうち、「領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下」、「最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下」及び「平均長さ(RSm)が10μm以下」の3つの条件を満たす実施例1~8において、ピンホール及び厚みばらつきがないことが示されているから、「前記易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下であり、前記易滑塗布層の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下である」とすることで上記課題が解決できることが裏付けられているといえる。
ここで、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~7は、上記「3つの条件」を満たすものであるから、上記本件発明が解決しようとする課題を解決するものである。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
イ 申立人1の主張について
(ア)ポリエステルフィルムが粒子を含むか否かについて
申立人1は、本件発明1~7において、ポリエステルフィルム基材が粒子を含有するか否かの特定はないから、粒子を含有し得るといえるところ、粒子を含有したポリエステルフィルム基材を用いた場合に、どうすればRSmを10μm以下にできるかについて発明の詳細な説明に記載はないから、本件発明の課題が解決できると認識できるとはいえないと主張している。
しかしながら、上記アで述べたように、発明の詳細な説明の記載からみて、本件発明1は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、申立人1の上記主張は採用できない。
(イ)平均長さ(RSm)が2.7~10μmの範囲について
申立人1は、本件発明1における「易滑塗布層の・・・(RSm)が10μm以下」のうち、発明の詳細な説明の実施例1~8で示される2.2μm~2.7μmの範囲を外れた範囲について、本件発明の課題が解決できるか否かは本件明細書の記載からは明らかではないから、本件発明の課題が解決できると認識できるとはいえないと主張している。
しかしながら、上記アで述べたように、発明の詳細な説明の記載からみて、本件発明1は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、申立人1の上記主張は採用できない。
2 申立人2の申立理由について
(1)理由2-1(新規性、進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
甲2-1発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡(株)製“コスモシャイン”A4100)」は本件発明1の「前記ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレート」「を含むポリエステルフィルムであ」る「ポリエステルフィルム基材」に相当する。
甲2-1発明の「少なくとも片面に、中間層および離型樹脂層を設けた」「積層セラミックコンデンサグリーンシートの成型に適した離型層を有する離型フィルム」は、本件発明1の「コーティングポリエステルフィルム」に相当する。
以上から、本件発明1と甲2-1発明とは、以下の点で一致し、その余の点で相違する。
<一致点2>
「ポリエステルフィルム基材を有し、
前記ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレートを含むポリエステルフィルムである、コーティングポリエステルフィルム。」
<相違点2-1>
本件発明1は、「前記基材の一方の表面上に易滑塗布層」を有するのに対し、甲2-1発明は、かかる構成を有することが特定されてない点。
<相違点2-2>
本件発明1は、易滑塗布層の「領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下であり、前記易滑塗布層の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下である」のに対し、甲2-1発明は、易滑塗布層を有することが特定されていないこと。
(イ)判断
まず、相違点2-1について検討する。
甲2-1発明のポリエチレンテレフタレートは「東洋紡(株)製“コスモシャイン”A4100」であり、甲2-3記載事項を踏まえると、甲2-1発明のポリエチレンテレフタレートフィルムは、「一方の表面上に易滑塗布層」を有するといえる。したがって、相違点2-1は実質的な相違点ではない。
次に、相違点2-2について検討する。
甲2-2記載事項1のポリイミドフィルムの表面凹凸構造の表面粗さパラメータは、その数値範囲において相違点2-2に係る本件発明1の数値範囲と一部重複する範囲があるとしても、甲2-2記載事項1のフィルム状太陽電池に用いるポリイミドフォルムは、その用途において甲2-1発明と異なるものであるし、甲2-2の【0034】段落の記載からみて甲2-2記載事項1に係るポリイミドフィルムは支持体から剥離されたものであり、その層構造においても甲2-1発明と異なるものであるから、甲2-2記載事項1における表面粗さパラメータを甲2-1発明に適用する動機付けはない。
さらに、甲2-2記載事項2から、甲2-2記載事項1の支持体としてコスモシャイン4100(東洋紡績株式会社製)を用いることができるとはいえるものの、甲2-2記載事項1の支持体がコスモシャイン4100であるとまではいえないから、コスモシャイン4100の表面粗さパラメータが「最大断面高さ(Rt)が0.3μm~50μm、平均長さ(RSm)が0.5μmから40μm程度」であるとまではいえない。
さらに、甲2-5記載事項から、コスモシャイン4100の表面粗さ(Ra)が4.0nmであるとはいえるものの、ここでいう表面粗さが、甲2-3記載事項でいうコスモシャイン○Rのコート層を付与しているほうの面のものなのか、コート層を付与していないほうの面のものなのかは不明であるから、甲2-1発明におけるコスモシャイン4100の離型樹脂層とは反対側の面の表面粗さ(Ra)が4.0nmであるとまではいえない。
そして、相違点2-2に係る本件発明1の構成とすることは、上記した甲2-2、甲2-3及び甲2-5のほか、甲2-4にも記載されていないし、同構成とする動機付けもない。さらに、その他の甲号証においても記載はないし、同構成とすることの動機付けもない。
したがって、本件発明1は甲2-1発明及び甲2-2~甲2-5に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて限定するものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2~7は、甲2-1発明及び甲2-2~甲2-5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)理由2-2(分割要件違反を前提とする新規性及び進歩性)について
申立人2は、本件発明に係る出願が、分割要件違反であることを前提として、甲2-6発明に基づく新規性及び進歩性についての理由を申し立てている。
そこで、まず、分割要件について検討する。
ア 原出願当初明細書等の記載
原出願当初明細書等(甲2-6)には、「セラミックグリーンシート製造用離型フィルム」について、次の記載がある。
「【請求項1】
粒子を実質的に含有していないポリエステルフィルムを基材と、前記基材の一方の表面上に易滑塗布層とを有し、
前記ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートから選ばれる少なくとも1種を含むポリエステルフィルムであり、
前記易滑塗布層の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下である、
コーティングポリエステルフィルム。」
「【0054】
本発明において、離型塗布層を形成させたフィルム表面を所定の粗さ範囲に調節するためには、PETフィルムには実質的に粒子を含有しないことが好ましい。なお、本発明でいう「実質的に粒子を含有しない」とは、基材フィルム及び離型塗布層の両者について、例えば、無機粒子の場合、蛍光X線分析で粒子に由来する元素を定量分析した際に、50ppm以下であることで定義され、好ましくは10ppm以下、最も好ましくは検出限界以下である。これは積極的に粒子を基材フィルム中に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分や、原料樹脂あるいはフィルムの製造工程におけるラインや装置に付着した汚れが剥離して、フィルム中に混入する場合があるためである。」
イ 分割要件の充足について
上記アの【0054】の記載から、原出願当初明細書等には、ポリエステルフィルム基材が粒子を含有しないことが好ましいとしながらも、積極的に粒子を添加させなくてもコンタミ成分等がフィルム中に混入することが記載されている。そうすると、粒子が混入しているポリエステルフィルム基材を用いることは原出願当初明細書等において少なくとも記載されているに等しい事項であったといえる。
さらに、本件発明における課題解決手段は、上記1(2)アで述べたように、「前記易滑塗布層の領域表面平均粗さ(Sa)が1nm以上25nm以下、最大突起高さ(P)が60nm以上500nm以下であり、前記易滑塗布層の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下である」ことであるから、ポリエステルフィルム基材中の粒子の有無は、本件発明の課題解決とは特に関係のないことである。
そうすると、本件発明1が、原出願の請求項1から「粒子を実質的に含有していない」という要件を削除したものだとしても、当該削除が、新たな技術事項を導入するものであるとはいえない。
また、本件発明1を引用する本件発明2~7についても同様である。
以上のとおりであるから、本件発明1~7は、原出願当初明細書等との関係において、新たな技術事項を導入するものではないから、原出願当初明細書等に記載された事項の範囲内のものであり、本件特許に係る出願は、当該原出願の一部を適法に新たな特許出願したものといえ、分割要件に違反するとする事情は認められない。
よって本件特許に係る出願日は、現実の出願日である令和3年2月15日ではなく、上記第1に記載した特願2017-528866号の出願日である平成29年5月8日であるから、申立て理由2-2を採用することはできない。
第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700753