特許異議申立
2022-700605
窒化珪素系セラミックス集合基板
- 審判番号
- 2022-700605
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-134833
- 登録番号
- 6990360
- 請求日
- 2022年07月08日
- 審決日
- 2023年01月23日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日立金属株式会社
- 【権利者代理人】高石 橘馬
- 【権利者代理人】高石 健二
- 【異議申立人】青木 眞理
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 山田 正文
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.536-YAA(H05K) / P1651.537-YAA(H05K) / P1651.121-YAA(H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6990360号発明「窒化珪素系セラミックス集合基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6990360号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
特許第6990360号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6990360号の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、平成28年3月14日(優先権主張平成27年3月31日)に出願した特願2016-49805号の一部を令和1年11月27日に新たな特許出願とした特願2019-214110号の一部を令和3年7月30日に新たな特許出願とした特願2021-124869号の一部を令和3年8月20日に新たな特許出願としたものであって、令和3年12月8日にその特許権が設定登録され、令和4年1月12日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 4年 7月 8日 :特許異議申立人青木眞理により請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 4年 9月 6日付け:取消理由通知
令和 4年10月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 4年12月13日 :特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年10月21日付けの訂正請求の趣旨は、特許第6990360号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接する稜角部分が先鋭形状を有している」と記載されているのを「前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接する稜角部分を有している」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0011】に「前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接する稜角部分が先鋭形状を有していることを特徴とする」と記載されているのを「前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接する稜角部分を有していることを特徴とする」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接する稜角部分が先鋭形状を有している」との記載を「前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接する稜角部分を有している」とするものである。
ここで、「先鋭」とは「鋭くとがっていること」といった意味を有するのもであるところ、矩形状の基板において基板側面の破断面と面取り部の壁面とがなす角度が鈍角であることは明らかであるから、訂正前の請求項1に記載された「先鋭形状」は基板側面の破断面と面取り部の壁面とがなす角度が鋭角あることを表すものではなく、単に基板側面の破断面と面取り部の壁面とが接する部分がとがっている(角があり、まるまっていない)ことを表すものと認められる。
そして、「稜角」には「とがったかど」や「多面体の稜が作る二面角」といった意味があるから、請求項1に記載された「前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接する稜角部分」とは、基板側面の破断面と面取り部の壁面とが接する部分が鈍角でとがったかどである(まるまっていない)ことを表している。
してみると、訂正前の請求項1と「先鋭形状」との記載が削除された訂正後の請求項1とは実質的に同一の構成を有するものであり、訂正事項1は重複する表現を整理することにより請求項1に係る発明の構成を明瞭とするものと認められる。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件明細書の段落【0026】に「隣接する辺ブレークライン13の各交点15の近傍に、辺ブレークライン13の両方と交差する各角ブレークライン14を形成する」、【0027】に「角ブレークライン14の辺ブレークライン13に対する傾きである交差角は30~60°が好ましい」、【0031】に「角ブレークライン14の内面(面取り部の壁面)」、【0036】に「辺ブレークライン13及び角ブレークライン14を形成した窒化珪素系セラミックス焼結基板1を各辺ブレークライン13に沿って折る」と記載されており、本件明細書の記載より、辺ブレークラインに沿って折ることにより形成された基板側面の破断面と角ブレークラインの内面である面取り部の壁面とが直接接続することは明らかである。また、辺ブレークラインに沿って折ることにより基板側面の破断面を形成した後研磨などの処理は行われていないから、上記直接接続する部分が鈍角でとがったかどとなる(まるまっていない)ことも明らかである。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし2について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人青木眞理(以下、「申立人」という。)は、令和4年12月13日の意見書において、概略、次のように主張している。
デジタル大辞泉(異議申立書において使用した辞典である)によると、稜角とは、
1 とがったかど。かど。
2 多面体の稜が作る二面角。
であり、先鋭とは、
1 鋭くとがっていること。また、そのさま。「-な穂先」
2 思想・行動などが急進的、過激であること。また、そのさま。「-な活動家」
である。とすれば、稜角とは本件においては、「とがったかどまたはかど」を意味し、先鋭とは「鋭くとがった」ことを示すものであり、先鋭と稜角の言葉の間には被申立人が述べているような同一の意味を想起させる言葉ではなく、鋭いか否かといった意味が含有されるかされないかといった違いを有している。したがって、登録時の特許請求の範囲に存在していた鋭いことは、本件特許請求項の訂正により削除されている。
さらには、稜角とは被申立人が主張するようなとがった角に限定されるものではなく単なる「かど」も含むものである。以上より、被申立人が令和4年10月21日付で行った訂正は特許請求の範囲を実質的に拡張(鋭くとがっていることから単にかどであることに拡張)するものであり、訂正は特許法第120条の5第2項第1号に基づき認められるべきではない。(第3頁第3ないし22行)
(イ)上記主張について検討する。
上記アで検討したように、「先鋭」とは「鋭くとがっていること」といった意味を有するのもであるところ、矩形状の基板において基板側面の破断面と面取り部の壁面とがなす角度が鈍角であることは明らかであるから、訂正前の請求項1に記載された「先鋭形状」は、基板側面の破断面と面取り部の壁面とがなす角度が鋭角であること、すなわち鋭くとがっていることを表したものではなく、単に基板側面の破断面と面取り部の壁面とが接する部分がとがっている(角があり、まるまっていない)ことを表したものと解するのが妥当である。
してみると、訂正前の請求項1と「先鋭形状」との記載が削除された訂正後の請求項1とは実質的に同一の構成を有するものであり、訂正事項1は重複する表面を整理することにより請求項1に係る発明の構成を明瞭とするものと認められる。
よって、申立人の主張は採用できない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0011】に記載された「前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接する稜角部分が先鋭形状を有していることを特徴とする」を「前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接する稜角部分を有していることを特徴とする」に訂正するものである。
そして、上記(1)アで検討したのと同様に、訂正事項2は重複する表現を整理することにより基板の構成を明瞭とするものと認められる。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
上記(1)イで検討したように、本件明細書の記載より、基板側面の破断面と面取り部の壁面とが直接接続し鈍角でとがったかどとなる(まるまっていない)ことは明らかである。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 一群の請求項、及び、願書に添付した明細書の訂正に係る請求項について
訂正事項1について、請求項2は請求項1を引用するものであるから、訂正事項1は、一群の請求項[1-2]について訂正請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。また、明細書の段落【0011】には請求項1に対応する構成が記載されているから、訂正事項2は上記一群の請求項[1-2]に関係する明細書について訂正請求されたものであり、同条第9項において準用する同法第126条第4項に適合する。
4 小括
以上とおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし2〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明2」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
多数の回路形成部を有する窒化珪素系セラミックス基板部と縁部とを有するとともに、前記縁部の外周部の四隅に面取り部を有する矩形状の窒化珪素系セラミックス集合基板であって、
前記窒化珪素系セラミックス集合基板の厚さは0.2~1.0 mmであり、
前記面取り部の壁面がレーザ加工面で構成され、
前記面取り部を除いた基板側面が、基板表面から厚さ方向に順にレーザ加工面と破断面とで構成され、
前記基板側面の破断面が前記面取り部の壁面に直接接続し、
前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接続する稜角部分を有していることを特徴とする窒化珪素系セラミックス集合基板。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化珪素系セラミックス集合基板であって、
一方の面に回路を形成する第一の銅板が複数個接合され、
他方の面の前記第一の銅板と整合する位置に、放熱板となる複数個の第二の銅板が接合されていることを特徴とする窒化珪素系セラミックス集合基板。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和4年9月6日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件の下記の請求項に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである
記
・請求項1、2について
請求項1には、「前記基板側面の破断面が前記面取り部の壁面に直接接続し、前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接続する稜角部分が先鋭形状を有している」と記載されている。
ここで「稜角部分」は基板側面の破断面と面取り部の壁面とが接続する部分であり、「先鋭」とはとがっていることであるから、当該記載は、基板側面の破断面と面取り部の壁面とがなす角度が鋭角であることを表しているものと認められる。(なお、本件の発明の詳細な説明には、「稜角部分が先鋭形状を有している」との構成について具体的な定義は記載されていない。)
ところで、請求項1には、「縁部の外周部の四隅に面取り部を有する矩形状の窒化珪素系セラミックス集合基板」とも記載されている。
矩形状の基板の隣接する基板側面同士は通常略直交しており、請求項1に係る集合基板は当該基板側面が略直交する四隅の部分に面取り部を有するものと認められる。
してみると、請求項1に係る集合基板において、基板側面と面取り部の壁面とのなす角度は、通常90度を超え180度未満となり、当然に基板側面の破断面と面取り部の壁面とがなす角度も、通常90度を超え180度未満、すなわち鈍角になるものと認められる。
したがって、請求項1の「縁部の外周部の四隅に面取り部を有する矩形状の窒化珪素系セラミックス集合基板であって、」「前記基板側面の破断面が前記面取り部の壁面に直接接続し、前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接続する稜角部分が先鋭形状を有している」とは、窒化珪素系セラミックス集合基板がどのような形状であることを特定しているのか不明である。
よって、請求項1に係る発明、請求項1を引用する請求項2に係る発明は、明確でない。
2 当審の判断
令和4年9月6日付け取消理由通知では、「稜角部分」は基板側面の破断面と面取り部の壁面とが接続する部分であり、「先鋭」とはとがっていることであるから、請求項1の記載は、基板側面の破断面と面取り部の壁面とがなす角度が鋭角であることを表しているものと認められるのに対し、基板側面の破断面と面取り部の壁面とがなす角度は通常90度を超え180度未満、すなわち鈍角になるものと認められるから、請求項1の「前記基板側面の破断面が前記面取り部の壁面に直接接続し、前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接続する稜角部分が先鋭形状を有している」とは、窒化珪素系セラミックス集合基板がどのような形状であることを特定しているのか不明であるとした。
しかしながら、本件訂正により請求項1の「先鋭形状」との記載が削除され、請求項1の記載は基板側面の破断面と面取り部の壁面とが直接接続する部分が鈍角でとがったかどである(まるまっていない)ことを表すことが明瞭となった。
したがって、本件請求項1に係る発明、請求項1を引用する請求項2に係る発明は、明確である。
3 申立人の主張について
申立人は、令和4年12月13日の意見書において、概略、次のように主張している。
(1)本件被申立人は、2つの面が直接接続することによって形成される角がとがっていることと丸みがないことを同列として扱っているが、とがった形状となっているが丸みを帯びた形状を有する場合が有り、角がとがっていることと、丸みがないこととは同列に扱うことができるものではない。訂正後の請求項1の『稜角部分を有している』は「2つの面が直接接続することによって形成される角が鋭角の2面角を有する部分」を意味し、依然として不明確である。(第1頁第9ないし19行)
(2)下図2は、本件特許図面の図2に対し、破断面1,2、角θ1,θ2を申立人が付与したものである。
下図2において、本件特許請求項1に記載の「破断面」は、面取り部との交点の上側の部分(破断面1) と、下側の部分(辺ブレークライン同士の交点側:破断面2) とのどちらとも解釈することができる。したがって、本件特許請求項1に記載の「稜角」が角θ1と角θ2のいずれを指すのか依然として不明確である。(第1頁第20行ないし第2頁第4行)
[図:0001396287000001.jpg]
[図2] 本件特許図面の図2に破断面1,2、角θ1,θ2が付与された図
上記主張について検討する。
(3)「(1)の主張」について
上記「第2」の「2(1)ア」で検討したように、「稜角」には「とがったかど」や「多面体の稜が作る二面角」といった意味がある。
してみると、請求項1に記載された「前記基板側面の破断面と前記面取り部の壁面とが接する稜角部分」が、基板側面の破断面と面取り部の壁面とが接する部分が鈍角でとがったかど、すなわち、鈍角で交差する上記2つの面の接続部で傾きが不連続に変化することを意味することは明瞭であり、2つの面が接する部分が鋭角の2面角であることを意味するとは認められない。
そしてこのことは、とがった形状となっているが丸みを帯びた形状を有する場合が有るか否かに関わらない。
よって、訂正後の請求項1の『稜角部分を有している』は「2つの面が直接接続することによって形成される角が鋭角の2面角を有する部分」を意味し、依然として不明確であるとの申立人の主張は採用できない。
(4)「(2)の主張」について
請求人のいう「破断面2」は「窒化珪素系セラミックス焼結基板」より請求項1に係る「窒化珪素右傾セラミックス集合基板」を形成するにあたり分離される「角マージン部17」の面であり、「窒化珪素右傾セラミックス集合基板」である請求項1に係る発明の構成ではない。
そして、請求項1に記載された「窒化珪素右傾セラミックス集合基板」の「基板側面の破断面」は集合基板の側面で有るから、請求人のいう「破断面1」であることは明らかである。
よって、申立人の主張は採用できない。
第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 実施可能要件について
(1)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、概略、次のように主張している。
ア 本件特許請求項1は、「前記縁部の外周部の四隅に面取り部を有する矩形状の窒化珪素系セラミックス集合基板」である。
一方で、本件特許明細書の段落0020には、「4つの辺ブレークライン13と4つの角ブレークライン14で囲われた面取り部」と記載されている。国語辞典(明鏡国語辞典の「面取り」の解説によると、「角材の角を削って面を作ること。」と記載されている。そのため、面取り部の形状は問われないものである。
他方、本件特許請求項1と、本件特許明細書の段落0011には、「先鋭形状」と記載されている。デジタル大辞泉(小学館)の「先鋭」の解説によると、「鋭くとがっていること。また、そのさま。」と記載されている。つまり、「先鋭」とは、単純にとがっているだけでなく、鋭くなくてはならない。したがって、発明の詳細な説明にその角度について定義がない点、どのように角度を測るのか(例えば、端部に丸みを帯びた面取りをしていてもよいのか)に関して定義されていない点でどのように特許請求の範囲に入る程度で窒化珪素系セラミックス集合基板を生産することができるのか、発明の詳細な説明からは不明瞭である。
例えば、本件特許明細書段落0027「角ブレークライン14の辺ブレークライン13に対する傾きである交差角は30-60゜が好ましい。」としている。一方で、本件特許図面の図2を参照すると、角マージン部17は直角三角形であるので、角ブレークライン14の下側(横軸)に対する角度(以下、「第1の角度」と呼ぶ)が60゜であると、角ブレークライン14の上側(縦軸)に対する角度(以下、「第2の角度」と呼ぶ)は30゜になる。仮に、第1の角度が70゜であると、第2の角度は20゜になる。そのため、第1の角度と第2の角度とは、どちらかの角度が大きくなると、もう一方の角度は小さくなる関係にある。第1の角度と第2の角度のそれぞれの角度範囲に関する定義がないため発明の詳細な説明の記載不明瞭である。(第5頁第17行ないし第6頁第14行)
イ 甲第3号証の段落0040には「この基板に面取り部(CまたはR面取り)を形成したセラミックス集合基板」とあるように、面取り形状にはC面やR面がある。そのため、「先鋭形状」はC面やR面と区別する記載が必要である。(第6頁第15ないし17行)
(2)当審の判断
上記主張について検討する。
ア 「(1)アの主張」について
上記「第4」の「2」で検討したように、本件訂正により請求項1の「先鋭形状」との記載が削除され、請求項1の記載は基板側面の破断面と面取り部の壁面とが直接接続する部分が鈍角でとがったかどである(まるまっていない)ことを表すことが明瞭となった。
そして、請求項1に係る発明は、矩形の基板において基板側面の破断面と面取り部の壁面とが直接接続する部分が鋭角で有る必要はなく、とがったかどであれば足りるものであること、基板側面の破断面と面取り部の壁面とのなす角度が90°を越え180°未満で有ることは明らかであることを考慮すれば、明細書に上記直接接続する部分の角度についての定義がないこと、どのように角度を測るのかに関して定義されていないとしても、当業者は請求項1に係る発明の窒化珪素系セラミックス集合基板を生産し得るものと認められる。
なお、申立人のいう「第1の角度」、「第2の角度」はいずれも、三角形状で有る「角マージン部17」の角度で有り、請求項1に係る発明で有る「窒化珪素系セラミックス集合基板」の構成ではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ 「(1)イの主張」について
上記「第4」の「2」で検討したように、請求項1の記載は、基板側面の破断面と面取り部の壁面とが直接接続する部分が鈍角でとがったかどである(まるまっていない)ことを表す、すなわちC面取りであることが明瞭である。
よって、申立人の主張は採用できない。
2 サポート要件について
(1)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、概略、次のように主張している。
本件特許請求項1は、「前記面取り部の壁面がレーザ加工面で構成され」るものである。
一方で、本件特許明細書の段落0021、段落0022の記載によれば、発明の詳細な説明では、YAGレーザ及びCO2レーザによる加工を除外している。
発明の詳細な説明ではYAGレーザ及びCO2レーザによる加工を除外しているにも関わらず、請求項1では「レーザ加工面」をYAGレーザ及びCO2レーザによるものである(当審注:「よるものである」は「よるものでない」の誤記と認める。)という特定をしていない。出願時の技術常識を鑑みても、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を、このような請求項1の構成についてまで拡張ないし一般化することはできない。その結果、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではない。(第6頁第23行ないし第7頁第17行)
(2)当審の判断
上記主張について検討する。
本件明細書【0021】にはファイバーレーザを用いる場合のCO2レーザ及びYAGレーザを用いた場合に対する利点が記載され、【0022】にはYAGレーザ及びCO2レーザを用いた場合の問題点が記載されているものの、【0021】には「各辺ブレークライン13は、窒化珪素系セラミックス焼結基板1の各外縁部10の内側にファイバレーザのビームスポットを微小移動させながら連続的に照射することにより形成するのが好ましい」と記載されている。
すなわち、本件明細書には、レーザ加工にファイバレーザを用いることが好ましいことが記載されているにすぎず、その他のレーザを用いることを除外することが記載されているとは認められない。
したがって、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、申立人の主張は採用できない。
3 明確性について
(1)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、概略、次のように主張している。
ア 本件特許請求項1は、「多数の回路形成部を有する窒化珪素系セラミックス基板部と縁部とを有する」ものである。一方で、本件特許明細書の段落0039には、窒化珪素系セラミックス集合基板12が、(1)(当審注:丸に数字は括弧に数字とした。以下、同様。)第一の銅板23aと銅板縁部(本件特許図面の図5 (a) においてセラミックス基板部25のうち第一の銅板23aを除く部分を定義)とを有する多数の回路形成部19と(2)縁部21と、を有することが記載されている。しかしながら、請求項1は、銅板と銅板縁部とを有する多数の回路形成部を有する窒化珪素系セラミックス基板部と縁部とを有するものなのか(本件特許図面の図5 (a)) 、銅板縁部がなく銅板のみを有する多数の回路形成部を有する窒化珪素系セラミックス基板部と縁部とを有するものをも含み得るのかが不明瞭である。つまり、請求項1の「縁部」が銅板縁部をも含むものであるのか否かが不明瞭である。(第7頁第23行ないし第8頁第9行)
イ 本件特許請求項1は、「前記縁部の外周部の四隅に面取り部を有する矩形状の窒化珪素系セラミックス集合基板」である。この「有する」とはどの言葉にかかっているのか不明瞭である。つまり、窒化珪素系セラミックス集合基板の四隅に面取り加工が施されているのか、分割後の窒化珪素系セラミックス基板部それぞれの四隅に面取り加工が施されているのか不明瞭である。(第8頁第10ないし14行)
ウ 本件特許請求項1は、「前記面取り部の壁面がレーザ加工面で構成され」るものである。請求項1の「レーザ加工面」がファイバレーザによる加工のみを含むものなのか、YAGレーザ及びCO2レーザによる加工であってもよいのか不明である。さらに、「レーザ加工面」との記載があるが、これは、レーザ加工後にアルミナ砥粒を用いた湿式ブラスト処理を行っていることが本件特許明細書の段落0043に記載されている。したがって、本件特許請求項1の「面取り部の壁面がレーザ加工面で構成され」との記載のレーザ加工面はレーザ加工後の表面処理を行った後の加工面を指すのか、レーザ加工のみで得られているのかが不明である。(第8頁第25行ないし第9頁第4行)
エ 本件特許請求項1は、「多数の回路形成部を有する窒化珪素系セラミックス基板部と縁部とを有する」。この「多数の回路形成部」について、本件特許請求項1において定義が記載されていない。したがって、この「多数の回路形成部」とはブレークラインに囲まれた1カ所あたりに回路形成部が複数個所存在してもよいのかが不明である。また、このブレークラインに囲まれた1箇所あたりに存在する回路形成部の数に偏りがあって、多数の回路形成部がブレークラインに囲まれた1箇所のみに片寄っていて他のブレークラインに囲まれた箇所には回路形成部が存在しない場合も含むのか否かが不明である。よって、「多数の回路形成部」がどのような条件を含むものなのかが不明である。(第9頁第5ないし13行)
オ 請求項1の「窒化珪素系」とはどの程度の窒化珪素を含有しているものなのかが不明である。(第9頁14ないし15行)
カ 本件特許請求項1は、「前記窒化珪素系セラミックス集合基板の厚さは0.2~1.0 mmであ」る。この窒化珪素系セラミックス集合基板の厚さとは多数の回路形成部を有するとあるので、この厚さは窒化珪素系セラミックス基板部の厚さであるのか、面を重ねるように多数の回路形成部も含めた厚さなのかが不明である。(第9頁第16ないし20行)
(2)当審の判断
上記主張について検討する。
ア 「(1)アの主張」について
請求項1によれば、窒化珪素系セラミックス集合基板は、多数の回路形成部を有する窒化珪素系セラミックス基板部と縁部とを有するものである。そして、請求項1において回路形成部はその構成を特定しないものであるから、請求項1の「回路形成部」は申立人のいう「銅板縁部」の有無を問わないものとして明瞭である。
なお、申立人の定義によれば、「銅板縁部」は窒化珪素系セラミックス基板部が有する回路形成部中の第一の銅板23aを除く部分であるから、申立人のいう「銅板縁部」は窒化珪素系セラミックス基板部に含まれ、縁部には含まれないことは明らかである。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ 「(1)イの主張」について
請求項1の「前記縁部の外周部の四隅に面取り部を有する矩形状の窒化珪素系セラミックス集合基板」との記載より、窒化珪素系セラミックス集合基板の四隅が面取り加工されていることは明瞭である。
なお、請求項1には窒化珪素系セラミックス集合基板を窒化珪素系セラミックス基板部に分割することは記載されていない。
よって、申立人の主張は採用できない。
ウ 「(1)ウの主張」について
請求項1の「前記面取り部の壁面がレーザ加工面で構成され」との記載は、面取り部の壁面がレーザの種類にかかわらずレーザにより加工した面であることを表していることは明瞭である。また、「レーザ加工面」とは、レーザ加工後の表面処理の有無にかかわらず、レーザにより加工した面を表していることは明瞭である。
よって、申立人の主張は採用できない。
エ 「(1)エの主張」について
請求項1の「多数の回路形成部を有する窒化珪素系セラミックス基板部」との記載より、窒化珪素系セラミックス基板部が多数の回路形成部を有していることは明瞭である。そして、請求項1にはブレークラインは記載されていないのであるから、ブレークラインに囲まれた1カ所あたりに存在する回路形成部の数、更には、ブレークラインの有無に関わりなく、窒化珪素系セラミックス基板部が複数の回路形成部を有していることは明瞭である。
よって、申立人の主張は採用できない。
オ 「(1)オの主張」について
請求項1の「窒化珪素系セラミックス」との記載は、窒化珪素(SiN)を主体としたセラミックスを表していることは、技術常識に照らして当業者には明らかである。
よって、申立人の主張は採用できない。
カ 「(1)カの主張」について
本件明細書の段落【0039】の「第一の銅板23aを接合した窒化珪素系セラミックス集合基板12の面に、個々の回路形成部(回路板を設ける部分)19に分割するための複数本の第二のブレークライン24を形成する。」なる記載によれば、回路形成部は、回路基板を設ける窒化珪素系セラミックス集合基板の部分、すなわち、窒化珪素系セラミックス集合基板の領域を指すものである。したがって、請求項1の「前記窒化珪素系セラミックス集合基板の厚さは0.2~1.0 mmであ」るとの記載が窒化珪素系セラミックス集合基板自体の厚さが0.2~1.0 mmであることを表していることは明瞭である。
よって、申立人の主張は採用できない。
4 進歩性について
(1)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、証拠方法として下記甲第1ないし3号証を提示して、以下の理由により請求項1ないし2に係る本件特許を取り消すべきである旨主張している。
請求項1ないし2に係る発明は甲第1ないし3号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
証拠方法
甲第1号証:特開平9-11221号公報
甲第2号証:国際公開第2009/154295号公報
甲第3号証:特開2008-198905号公報
(2)甲号証の記載事項、甲号証に記載された発明など
ア 甲第1号証
(ア)記載事項
甲第1号証には、次の事項が記載されている。
「【0015】
【実施例】本発明に係る基板を具体化した実施例について、図1ないし図5を参照して詳細に説明する。図中、1は、本例の基板であって、周縁に沿って所定の幅のダミー部2を有し、このダミー部2に囲まれた内側において縦横に複数のブレーク溝3,3a,4,4aが格子状に形成されている。縦横のブレーク溝3,3a,4,4aのうち、最外側のブレーク溝3a,4a以外のブレーク溝3,4は、それぞれ最外側のブレーク溝3a,4aを横断して若干外側(外方)に延びており、ダミー部2の途中で止められている。
【0016】一方、最外側の縦横のブレーク溝3a,4aのなす4つの交点5,5においては、各ブレーク溝3a,4aが基板1の縦横の各辺の縁端部6,7に至る途中(略中間)まで縁端部6,7側(外側)に真直ぐ延びている。そして、各交点5とも基板1の縁端部6,7側には、縦横のブレーク溝3,3a,4,4aに対して本例では略45度で傾斜してなる傾斜ブレーク溝8が、最外側の縦横のブレーク溝3a,4aの先端3b,4b寄り部位を斜めに横断する形で形成されている。ただし、本例ではこの傾斜ブレーク溝8は、基板1の縦横の各辺の縁端部6,7まで直線状に延びている。しかして、本例では、傾斜ブレーク溝8がそれに沿ってブレークされた際のブレーク断面には、最外側の縦横の両ブレーク溝3a,4aが現出するように形成されている。」
「【0018】本例のセラミック基板1は、このようなグリーンシートを所定温度で焼成することにより得られるが、基板1の周縁に沿ってダミー部2があり、縦横のブレーク溝3,3a,4,4aが基板1の各辺の縁端部6,7に至っていないことから、これが補強部の役割を果たし、縦横のブレーク溝に起因する焼成過程での反りや割れの発生が防止される。一方、傾斜ブレーク溝8は、基板1の縦横各辺の縁端部6,7まで至っているが、その長さは縦又は横のブレーク溝3,3a,4,4aより著しく短く、したがって、この傾斜ブレーク溝8に起因する反りや割れの発生は殆どない。また、その後工程においてもダミー部2があることから割れの発生を有効に防止することができる。
【0019】なお、本例の基板1に後工程でチップ抵抗等を形成した後、各単位に分割するにあたっては、まず、傾斜ブレーク溝8に沿って基板1のダミー部2の隅角(四隅)9をブレークする(図1~3参照)。この際、傾斜ブレーク溝8は短いから簡単に折り取ることができる。また、図4に示したように、このブレークにより、そのブレーク断面8bには、最外側の縦又は横のブレーク溝3a,4aが現出する。したがって、現出した最外側の縦及び横のブレーク溝3a,4aに沿って折り取るようにすれば、周縁のダミー部2が除去され、基板1は図5に示したようにその本体部11のみとなる。以後は従来と同様に、縦又は横のブレーク溝3,4に沿ってブレークして基板1の本体部11を短冊状とし、さらにそのものを各ブレーク溝に沿って次々とブレークすれば、1枚の基板1から所望とする多数のチップ抵抗やハイブリッドIC等を得ることができる。」
「【0026】なお、傾斜ブレーク溝もその長さが長くなるほど焼成過程で反りや割れが生じ易くなるので、なるべく短くするのが好ましく、したがってその傾斜角は40~50度が好ましく、とくには45度が最も好ましい。
【0027】さらに傾斜ブレーク溝は、上記実施例のようにその両端部が基板の縁端部に至っているとブレークしやすい一方で、ブレーク工程に至るまでの取り扱い過程で折れやすい。したがって、図9に示したように、傾斜ブレーク溝48はその両端48a,48aを基板の縁端部6,7まで延ばすことなく、折り易さを考慮した上で、すなわち、傾斜ブレーク溝48自体のブレークに支障がない範囲で、基板の縁端部6,7に至らせることなくその手前(ダミー部2の途中)で止めてもよい。このようにしておけば、本来のブレーク溝だけでなく、この傾斜ブレーク溝48自体も焼成工程などで割れ難く、したがって、最終工程まで基板が割れる危険性を一層小さくできる。なお、傾斜ブレーク溝48は、図9中、2点鎖線で示したように、最外側の縦横のブレーク溝3a,4aの端部3b,4bから若干離して形成することも可能である。
【0028】図10は、図9に示した実施例の変形とでもいうべき実施例であり、傾斜ブレーク溝48を、ブレークし易さを確保した状態で不連続に形成した例である。なお、図10においても同図中、2点鎖線で示したように傾斜ブレーク溝48は、最外側の縦横のブレーク溝3a,4aの端部3b,4bから若干離して形成することも可能である。また、本発明における傾斜ブレーク溝は交点よりも基板の縁端部側(外側)に設けることになるが、交点に近接して形成することも可能である。
【0029】なお、上記においてブレーク溝は、基板の焼成前のグリーンシートのときにプレスにより形成した場合を例示したが、このブレーク溝は、基板の焼成後にレーザー加工等により形成することも可能である。本発明は、上記実施例のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、基板の大きさや部品の種類、取個数等に応じて適宜設計変更して具体化できる。」
[図:0001396287000002.jpg]
[図:0001396287000003.jpg]
[図:0001396287000004.jpg]
(イ)上記摘記事項の記載より、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されているといえる。
a 【0015】の記載によれば、基板1は、周縁に沿って所定の幅のダミー部2を有し、このダミー部2に囲まれた内側において縦横に複数のブレーク溝3,3a,4,4aが格子状に形成される。【0019】の記載によれば、周縁のダミー部2が除去され、基板1は本体部11のみとなる。
してみると、基板1は、周縁に沿って所定の幅のダミー部2を有し、このダミー部2に囲まれた内側である本体部11において縦横に複数のブレーク溝3,3a,4,4aが格子状に形成される。
また、【0018】の記載によれば、基板1はセラミック基板である。
b 【0016】の記載によれば、最外側の縦横のブレーク溝3a,4aのなす4つの交点5,5においては、各ブレーク溝3a,4aが基板1の縦横の各辺の縁端部6,7に至る途中(略中間)まで縁端部6,7側(外側)に真直ぐ延び、各交点5とも基板1の縁端部6,7側には、縦横のブレーク溝3,3a,4,4aに対して略45度で傾斜してなる傾斜ブレーク溝8が、最外側の縦横のブレーク溝3a,4aの先端3b,4b寄り部位を斜めに横断する形で形成され、この傾斜ブレーク溝8は、基板1の縦横の各辺の縁端部6,7まで直線状に延びている。【0029】の記載によれば、ブレーク溝は、基板の焼成後にレーザー加工等により形成する。
c 【0019】の記載によれば、基板1に後工程でチップ抵抗等を形成した後、各単位に分割するにあたっては、まず、傾斜ブレーク溝8に沿って基板1のダミー部2の隅角(四隅)9をブレークする。
(ウ)上記(イ)より、甲第1号証には、図3に示された基板として以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「周縁に沿って所定の幅のダミー部2を有し、このダミー部2に囲まれた内側である本体部11において縦横に複数のブレーク溝3,3a,4,4aが格子状に形成されたセラミック基板1であって、
最外側の縦横のブレーク溝3a,4aのなす4つの交点5,5においては、各ブレーク溝3a,4aが基板1の縦横の各辺の縁端部6,7に至る途中(略中間)まで縁端部6,7側(外側)に真直ぐ延び、各交点5とも基板1の縁端部6,7側には、縦横のブレーク溝3,3a,4,4aに対して略45度で傾斜してなる傾斜ブレーク溝8が、最外側の縦横のブレーク溝3a,4aの先端3b,4b寄り部位を斜めに横断する形で形成され、
この傾斜ブレーク溝8は、基板の焼成後にレーザー加工等により形成され、基板1の縦横の各辺の縁端部6,7まで直線状に延びており、
基板1に後工程でチップ抵抗等を形成した後、各単位に分割するにあたって、まず、この傾斜ブレーク溝8に沿って基板1のダミー部2の隅角(四隅)9をブレークした、
セラミック基板1。」
イ 甲第2号証
(ア)記載事項
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
「[0032] 基板厚さBは、0.2mmから1.0mmが望ましい。さらには0.25mmから0.65mmが好ましい。基板厚さBが0.2mm未満となると、これを用いた作製した回路基板について表裏間の絶縁破壊電圧(絶縁耐圧)は、7kVを維持するものの、ばらつきが大きくなる傾向にある。また、Bが1.0mmとなると、絶縁耐圧のばらつきは小さく絶縁安定性に優れるものの、回路構成する金属板と絶縁を担うセラミックス基板の熱伝導率に差があるため、セラミックス基板の厚さが上昇すると、律則過程となって放熱が妨げれ、しいては回路基板の熱抵抗が上昇する不具合を生じる。また、用いる原料費の上昇、シート成形時の乾燥が困難なため、ドクターブレード成形機の乾燥ゾーンの大型化が必要となり製品コストが上昇する。」
「[0037] 次に、セラミックス基板1における品質特性について図2、図7を用いて説明する。
本集合基板10から分割されたセラミックス基板1は、少なくとも一側面がスクライブ溝21の分割面であり、通常、この側面は改めて加工されないため、分割面の面性状はセラミックス基板1の寸法精度、曲げ強度、絶縁耐圧など品質に影響する。分割面はスクライブ溝21のレーザ加工面211と分割時の破断面212とからなるが、本発明に係わるレーザスクライブは、高出力のパルスを高周期で発振して行うもので、例えば50KHzで発振させながら移動速度100mm/secでスクライブ加工を行うと、移動方向のずれ量(ピッチ)は2μmであり、側面及び底面の凹凸が小さな連続した溝が形成される。このようなスクライブ溝21に曲げ力を作用させると、スクライブ溝21の底部から破断されていくが、スクライブ溝底面は凹凸が少なく滑らかであるため、レーザ加工部と破断面との境界となる破断線部213は上下左右のぶれ量frが小さくほぼ直線状となる。これによって破断力の偏向性がなくなり、セラミックス基板1の寸法精度の悪化や、面粗さの増加そして強度の低下が抑制される。なお、移動速度は80~120mm/secまで変えてスクライブ加工を行ったが結果は変わらなかった。」
「[請求項8]セラミックス焼結基板の片面または両面に、回路基板を多数個取りするための分割用の連続溝がレーザ加工により設けられたセラミックス集合基板から分割されたセラミックス基板であって、少なくともその一つの側面は前記連続溝に沿って分割されて形成された面であり、該側面の算術平均粗さRaにおいて、前記連続溝加工部表面の算術平均粗さRa2の方が破断部表面の表面粗さ算術平均粗さRa1よりも小さいことを特徴とするセラミックス基板。」
「[請求項11]前記セラミックスは窒化ケイ素であり、前記連続溝はファイバーレーザの照射で形成されていることを特徴とする請求項8乃至10の何れか1項に記載のセラミックス基板。」
図1
[図:0001396287000005.jpg]
(イ)上記摘記事項の記載より、甲第2号証には、次の技術的事項(以下、「甲第2号証記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「セラミックス焼結基板の片面または両面に、回路基板を多数個取りするための分割用の連続溝がレーザ加工により設けられたセラミックス集合基板から分割されたセラミックス基板において、
分割面はスクライブ溝のレーザ加工面と分割時の破断面とからなり、
セラミックスは窒化ケイ素とする」技術。
ウ 甲第3号証
(ア)記載事項
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
「【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載のセラミックス基板の一面に金属回路板を設け、他面に金属放熱板を設けてなるセラミックス回路基板となし、前記金属回路板には半導体素子が搭載され、前記金属放熱板には冷却部材が固定されてなることを特徴とする半導体モジュール。」
「【0040】
次に、この基板に面取り部(CまたはR面取り)を形成したセラミックス集合基板について説明する。
図8は1枚の集合基板5から9個のセラミックス基板1を作製する9個取りの一例である。集合基板の外周側面は、製造工程での基板寸法精度や回路基板パターン精度および位置合わせ精度を改善するためにレーザー切断加工で形成してある。また、基板の外周側の枠部には捨て代となる余肉部2を設けている。これは基板強度低下防止の観点から全ての基板側面を切断加工部ではなくスクライビング加工部にするためである。その理由は、既述したようにレーザー切断加工では熱応力によるマイクロクラックの生成で、基板強度が低下するためである。またそれ以外の理由として、ハンドリング性の改善、前記ハンドリングによる基板または回路基板の落下・突き当てによる欠け防止、回路基板を製造する際の金属/セラミックス接合部のボイド不良の低減なども理由として挙げられる。
【0041】
断続的なスクライビング孔による分割線3は格子状に形成され、格子状の分割線によって個々のセラミックス基板1が区画されている。スクライビング孔の加工部は基板厚さによって加工条件は異なるが、最深部に曲率を有する円錐状のノッチ状の孔(以下では凹部と表現することもある)を、所望の孔径で、所望の深さで、所望のピッチ間隔で導入するもので、通常は基板を貫通するものではない。また、前記孔の表面周囲には黒色のドロス状の物質が付着することもある。また、基板表面の加工孔周囲に盛り上がり箇所が出来ることもある。これらは基板中の酸化物や、分解した窒化物の残留物が付着したものであるが、アシストガスによる除去や、適正化した加工条件で加工した基板においては、基板の絶縁性能に問題を及ぼすものではないことを確認済みである。
【0042】
次に、四隅の面取り部については、板厚を貫通するレーザー切断加工により形成する。但し、面取り部の形状が大きく手作業での分割が容易である場合には、面取り部もスクライビング加工で対応しても良い。
レーザー切断加工では基板四隅の面取り部に位置する箇所を菱形状に加工してC面取り4を形成する。ここで、四隅のみを狙って面取りするのでも良いが、分割時の欠け不良を低減させるためには、図8に示すように余肉部2にも対称形状になるように面取り部4’を形成した方が好ましい。これは図9で示すようにR面取り6を設ける場合も同様で、四隅の加工部は対称形状になるようにし、余肉部2についてもR面取り部6’を施すことが望ましい。」
[図:0001396287000006.jpg]
(イ)上記摘記事項の記載より、甲第3号証には、次の技術的事項(以下、「甲第3号証記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「集合基板から9個のセラミックス基板を作製する集合基板において、
集合基板の外周側面は、製造工程での基板寸法精度や回路基板パターン精度および位置合わせ精度を改善するためにレーザー切断加工で形成し、
断続的なスクライビング孔による分割線は格子状に形成され、格子状の分割線によって個々のセラミックス基板が区画され、
四隅の面取り部については、板厚を貫通するレーザー切断加工により形成する」技術。
(3)当審の判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「セラミック基板1」は「周縁に沿って所定の幅のダミー部2を有し、このダミー部2に囲まれた内側である本体部11において縦横に複数のブレーク溝3,3a,4,4aが格子状に形成され」、「後工程でチップ抵抗等を形成した後、各単位に分割」されるものである。引用発明において、当該各単位への分割が本体部11に形成された複数のブレーク溝3,3a,4,4aにより行われるのは明らかである。
してみると、引用発明の「セラミック基板1」の有する「周縁に沿って所定の幅のダミー部2」は、本件発明1の「縁部」に相当する。
また、引用発明の「セラミック基板1」の「各単位」に対応する領域は、本件発明1の「多数の回路形成部」に相当し、引用発明の「セラミック基板1」の「ダミー部2に囲まれた内側である本体部11」は、本件発明1と「多数の回路形成部を有する」「セラミックス基板部」である点で一致する。ただし、セラミックスが、本件発明1は「窒化珪素系」であるのに対して、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。
そして、引用発明の「セラミック基板1」は、「縦横のブレーク溝3,3a,4,4aに対して略45度で傾斜してなる傾斜ブレーク溝8が、最外側の縦横のブレーク溝3a,4aの先端3b,4b寄り部位を斜めに横断する形で形成され」「この傾斜ブレーク溝8は、基板の焼成後にレーザー加工等により形成され」「この傾斜ブレーク溝8に沿って基板1のダミー部2の隅角(四隅)9をブレークした」ものであるから、セラミック基板1の四隅は斜めにブレークされた面取り部となっていることは明らかであり、引用発明の「セラミック基板1」は、本件発明1と「前記縁部の外周部の四隅に面取り部を有する矩形状」「セラミックス集合基板」である点で一致する。ただし、セラミックスが、本件発明1は「窒化珪素系」であるのに対して引用発明はその旨特定されていない点で相違する。
以上のことより、引用発明の「セラミック基板1」は本件発明1と、「多数の回路形成部を有するセラミックス基板部と縁部とを有するとともに、前記縁部の外周部の四隅に面取り部を有する矩形状のセラミックス集合基板」である点で一致する。
しかしながら、セラミックスが、本件発明1では「窒化珪素系」であるのに対して、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。
b 本件発明1は「前記窒化珪素系セラミックス集合基板の厚さは0.2~1.0 mm」であるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。
c 引用発明は「傾斜ブレーク溝8は、基板の焼成後にレーザー加工等により形成され」「この傾斜ブレーク溝8に沿って基板1のダミー部2の隅角(四隅)9をブレークした」ものであるから、四隅をブレークした壁面である面取り部の壁面は、レーザ加工による面(レーザ加工面)と、ブレークによる面(破断面)とで形成されていることは明らかである。
してみると、本件発明1は「前記面取り部の壁面がレーザ加工面で構成」されているのに対して、引用発明はレーザ加工面と破断面とで構成されている点で相違する。
d 本件発明1は「前記面取り部を除いた基板側面が、基板表面から厚さ方向に順にレーザ加工面と破断面とで構成」されているのに対して、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。
e 引用発明は「傾斜ブレーク溝8は、基板の焼成後にレーザー加工等により形成され、基板1の縦横の各辺の縁端部6,7まで直線状に延びており」、「この傾斜ブレーク溝8に沿って基板1のダミー部2の隅角(四隅)9をブレークした」ものであるから、縦横の各辺の縁端部6,7の面と四隅9をブレークした壁面である面取り部の壁面とが直接接続し稜角部分を形成するのは明らかである。
してみると、引用発明は本件発明1と「前記基板側面」「が前記面取り部の壁面に直接接続し、前記基板側面」「と前記面取り部の壁面とが接続する稜角部分を有している」点で共通する。
ただし、面取り部の壁面に直接接続し稜角部分を形成する基板側面が、本件発明1は「破断面」であるのに対して、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。
f 以上を総合すると、本件発明1と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「多数の回路形成部を有するセラミックス基板部と縁部とを有するとともに、前記縁部の外周部の四隅に面取り部を有する矩形状のセラミックス集合基板であって、
前記基板側面が前記面取り部の壁面に直接接続し、
前記基板側面と前記面取り部の壁面とが接続する稜角部分を有していることを特徴とするセラミックス集合基板。」
〈相違点1〉
セラミックスが、本件発明1では「窒化珪素系」であるのに対して、引用発明はその旨特定されていない点。
〈相違点2〉
本件発明1は「前記窒化珪素系セラミックス集合基板の厚さは0.2~1.0 mm」であるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。
〈相違点3〉
本件発明1は「前記面取り部の壁面がレーザ加工面で構成」されているのに対して、引用発明はレーザ加工面と破断面とで構成されている点。
〈相違点4〉
本件発明1は「前記面取り部を除いた基板側面が、基板表面から厚さ方向に順にレーザ加工面と破断面とで構成」されているのに対して、引用発明はその旨特定されていない点。
〈相違点5〉
面取り部の壁面に直接接続し稜角部分を形成する基板側面が、本件発明1は「破断面」であるのに対して、引用発明はその旨特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点4について検討する。
甲第2号証記載の技術(上記「(2)イ(イ)」参照)には、分割面をレーザ加工面と破断面とからなる面とする技術が記載されているものの、当該分割面はセラミックス集合基板より多数の回路基板を取るために当該集合基板を分割した面であり、引用発明のセラミック基板1の縦横の各辺の縁端部6,7の面に相当する面ではない。
また、甲第3号証記載の技術(上記「(2)ウ(イ)」参照)の集合基板は9個のセラミックス基板を作製するものであるから、当該集合基板の外周側面は引用発明のセラミック基板1の縦横の各辺の縁端部6,7の面に相当するが、甲第3号証記載の技術では、集合基板の外周側面はレーザー切断加工で形成されており、レーザ加工面と破断面とで構成された面ではない。
そして、甲第1号証の【0018】に「本例のセラミック基板1は、このようなグリーンシートを所定温度で焼成することにより得られる」と記載されように、引用発明のセラミック基板1はグリーンシートを焼成して形成したものであるから、セラミック基板1の縦横の各辺の縁端部6,7は、焼成前のグリーンシート時に形成されたものである。グリーンシートは通常、原材料とバインダ等を混ぜペースト状としたものをシート形状に延ばし乾燥させたものであるから、ブレーク(破断)に適した剛性を有しているものとは認められない。
してみると、引用発明及び甲第2ないし3号証記載の技術に基づいて、基板側面である引用発明の縦横の各辺の縁端部6,7の面を「基板表面から厚さ方向に順にレーザ加工面と破断面とで構成」することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、引用発明及び甲第2ないし3号証に記載された技術事項に基づいて本件発明1の相違点4に係る構成を得ることが、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし3号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
イ 本件発明2について
本件発明1を引用する本件発明2に係る発明も少なくとも相違点4に係る構成を備えているから、本件発明1と同様に、引用発明及び甲第2ないし3号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし3号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1及び2に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論とのとおり決定する。
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2022-700605