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特許異議申立

2021-700342

窒化珪素焼結基板の製造方法

審判番号
2021-700342
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-152836
登録番号
6766509
請求日
2021年04月14日
審決日
2022年02月21日
公報発行日
2022年05月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日立金属株式会社
  • 【権利者代理人】高石 橘馬
  • 【権利者代理人】高石 健二
  • 【異議申立人】青木 眞理
審判長/審判官
  • 審判長 日比野 隆治
  • 審判官 宮澤 尚之
  • 審判官 関根 崇
分類
P1651.121-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6766509号発明「窒化珪素焼結基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6766509号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~17〕について訂正することを認める。 特許第6766509号の請求項1~7に係る特許を維持する。 特許第6766509号の請求項8~17に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6766509号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~17に係る特許についての出願は、平成28年8月3日に特許出願され、令和2年9月23日にその特許権の設定登録がされ、同年10月14日に特許掲載公報が発行された。 その後、その請求項1~17に係る特許に対して、令和3年4月14日に特許異議申立人青木眞理(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年6月8日付けで取消理由が通知され、特許権者より、同年8月6日に特許権者により意見書及び訂正請求書の提出がされ、同年9月30日に訂正請求書に対する手続補正書(方式)の提出がされ、同年11月24日に申立人により意見書の提出がされたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和3年9月30日提出の手続補正書(方式)により補正された、同年8月6日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項及び同法同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1~17を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「粒界相の凝固温度未満の温度T3」と記載されているのを、「粒界相の凝固温度より300℃低い温度以上凝固温度未満の温度T3」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「前記第一の冷却域P3における前記焼成容器内の第一の平均冷却速度v1が、前記第二の冷却域P4における前記焼成容器内の第二の平均冷却速度v2より大きいこと」と記載されているのを、「前記第一の冷却域P3における前記焼成容器内の第一の平均冷却速度v1が、前記第二の冷却域P4における前記焼成容器内の第二の平均冷却速度v2より大きく、前記第一の冷却域P3における前記第一の平均冷却速度v1を300℃/hr以上とし、前記第二の冷却域P4における前記第二の平均冷却速度v2を220℃/hr以下とすること」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5に「前記第一の冷却域P3における前記第一の平均冷却速度v1を300~600℃/hrとし、前記第二の冷却域P4における前記第二の平均冷却速度v2を160~220℃/hrとする」と記載されているのを、「前記第一の冷却域P3における前記第一の平均冷却速度v1を600℃/hr以下とし、前記第二の冷却域P4における前記第二の平均冷却速度v2を160℃/hr以上とする」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項8~17を削除する。 (5)訂正事項5 明細書の段落【0009】に「粒界相の凝固温度未満の温度T3」と記載されているのを、「粒界相の凝固温度より300℃低い温度以上凝固温度未満の温度T3」に訂正するとともに、「前記第一の冷却域P3における前記焼成容器内の第一の平均冷却速度v1が、前記第二の冷却域P4における前記焼成容器内の第二の平均冷却速度v2より大きいことを特徴とする。第一の冷却域P3における第一の平均冷却速度v1を300~600℃/hrとし、第二の冷却域P4における第二の平均冷却速度v2を160~220℃/hrとすることができる。」と記載されているのを、「前記第一の冷却域P3における前記焼成容器内の第一の平均冷却速度v1が、前記第二の冷却域P4における前記焼成容器内の第二の平均冷却速度v2より大きく、前記第一の冷却域P3における前記第一の平均冷却速度v1を300℃/hr以上とし、前記第二の冷却域P4における前記第二の平均冷却速度v2を220℃/hr以下とすることを特徴とする。」に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の段落【0011】に「前記第一の冷却域P3における前記第一の平均冷却速度v1を300~600℃/hrとし、前記第二の冷却域P4における前記第二の平均冷却速度v2を160~220℃/hrとするのが好ましい。」と記載されているのを、「前記第一の冷却域P3における前記第一の平均冷却速度v1を600℃/hr以下とし、前記第二の冷却域P4における前記第二の平均冷却速度v2を160℃/hr以上とするのが好ましい。」に訂正する。 (7)訂正事項7 明細書の段落【0014】~【0017】を削除する。 (8)訂正事項8 明細書の段落【0018】に「第一及び第二の方法において、前記焼結工程は」と記載されているのを、「前記焼結工程は」に訂正する。 (9)訂正事項9 明細書の段落【0019】に「第一及び第二の方法において、前記グリーンシートの堆積工程で」と記載されているのを、「前記グリーンシートの堆積工程で」に訂正する。 (10)訂正事項10 明細書の段落【0020】に「第一及び第二の方法において、前記グリーンシート堆積体とともに」と記載されているのを、「前記グリーンシート堆積体とともに」に訂正する。 (11)訂正事項11 明細書の段落【0021】に「第一及び第二の方法において、前記詰め粉は」と記載されているのを、「前記詰め粉は」に訂正する。 (12)訂正事項12 明細書の段落【0022】に「第一及び第二の方法において、前記焼成容器は」と記載されているのを、「前記焼成容器は」に訂正する。 2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、願書に添付された明細書の段落【0058】の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「凝固温度未満の温度T3」の下限値を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項5の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「第一の平均冷却速度v1」の下限値、及び「第二の平均冷却速度v2」の上限値を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、前記訂正事項2により請求項1の記載が訂正されることに伴い、訂正後の請求項1との重複する記載を削除して、請求項1の記載との整合を図るものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項8~17を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)訂正事項5~12について 訂正事項5~12は、前記訂正事項1~4により特許請求の範囲の記載が訂正されることに伴い、訂正後の特許請求の範囲の記載との整合を図るものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~17〕について訂正することを認める。 第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明) 前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に併せて「本件発明1」などといい、纏めて「本件発明」という。)。 「【請求項1】 80~98.3質量%の窒化珪素粉末、0.7~10質量%(酸化物換算)のMg化合物粉末、及び1~10質量%(酸化物換算)の少なくとも1種の希土類元素の化合物粉末の混合粉末のスラリーからグリーンシートを成形する工程と、 複数枚の前記グリーンシートを分離自在に堆積する工程と、 得られたグリーンシート堆積体を焼成容器に入れた状態で、焼成炉内で所定の温度に保持することにより前記グリーンシートを焼結する工程と、 得られた焼結体を前記焼成容器に入れたまま前記焼成炉内で冷却する工程とを有する窒化珪素焼結基板の製造方法であって、 前記冷却工程が、前記焼結工程の保持温度から粒界相の凝固温度より300℃低い温度以上凝固温度未満の温度T3までの第一の冷却域P3と、前記温度T3から900℃までの第二の冷却域P4とを有し、 前記第一の冷却域P3における前記焼成容器内の第一の平均冷却速度v1が、前記第二の冷却域P4における前記焼成容器内の第二の平均冷却速度v2より大きく、前記第一の冷却域P3における前記第一の平均冷却速度v1を300℃/hr以上とし、前記第二の冷却域P4における前記第二の平均冷却速度v2を220℃/hr以下とすることを特徴とする窒化珪素焼結基板の製造方法。 【請求項2】 請求項1に記載の窒化珪素焼結基板の製造方法において、前記温度T3が1200℃であることを特徴とする窒化珪素焼結基板の製造方法。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の窒化珪素焼結基板の製造方法において、前記第一の平均冷却速度v1と前記第二の平均冷却速度v2との比(v1/v2)が1.3以上であることを特徴とする窒化珪素焼結基板の製造方法。 【請求項4】 請求項1~3のいずれかに記載の窒化珪素焼結基板の製造方法において、前記第一の平均冷却速度v1と前記第二の平均冷却速度v2の比(v1/v2)が1.5以上であることを特徴とする窒化珪素焼結基板の製造方法。 【請求項5】 請求項1~4のいずれかに記載の窒化珪素焼結基板の製造方法において、前記第一の冷却域P3における前記第一の平均冷却速度v1を600℃/hr以下とし、前記第二の冷却域P4における前記第二の平均冷却速度v2を160℃/hr以上とすることを特徴とする窒化珪素焼結基板の製造方法。 【請求項6】 請求項1~5のいずれかに記載の窒化珪素焼結基板の製造方法において、前記第一の冷却域で前記焼成炉内に冷却用ガスとして雰囲気ガスを供給することにより強制的な冷却を行い、前記第二の冷却域で前記雰囲気ガスの供給を停止して、炉冷を行うことを特徴とする窒化珪素焼結基板の製造方法。 【請求項7】 請求項6に記載の窒化珪素焼結基板の製造方法において、前記第一の冷却域における強制冷却を、(a) 前記焼成炉内の雰囲気ガスを冷却器で冷却して循環させるか、(b) 前記焼成炉内への雰囲気ガスの流量を増大させることにより行うことを特徴とする窒化珪素焼結基板の製造方法。」 第4 取消理由通知書に記載した取消理由について 当審が令和3年6月8日付けで特許権者に通知した取消理由のうち、設定登録時の請求項8~17に係る特許に対する取消理由については、本件訂正によって、対象となる請求項8~17に係る発明が削除され、当該取消理由は理由がないものとなったので、ここでは、設定登録時の請求項1~7に係る特許に対する取消理由について検討する。 1 取消理由の概要 設定登録時の請求項1~7に係る特許に対する取消理由は、要するに、設定登録時の請求項1~7に係る発明は、「粒界相の凝固温度未満の温度T3」、「第一の平均冷却速度v1」及び「第二の平均冷却速度v2」を特定していないため、発明の詳細な説明の記載などから、当業者において「焼成炉に投入するシート状成形体の枚数を増加させても、反りが小さく高強度を有する窒化珪素焼結基板を歩留り良く製造する方法を提供する」(段落【0007】)という課題を解決できると認識できる範囲のものといえず、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないことを論拠として、設定登録時の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。 2 取消理由に対する当審の判断 (1)サポート要件の判断手法について 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。 (2)サポート要件適合性の判断 ア 本件発明の課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】~【0007】の記載によれば、前記1で示したとおり、「焼成炉に投入するシート状成形体の枚数を増加させても、反りが小さく高強度を有する窒化珪素焼結基板を歩留り良く製造する方法を提供する」ことといえる。 イ そして、発明の詳細な説明の実施例1~5には、MgO粉末が3.0質量%、Y2O3粉末が2.0質量%、残部がSi3N4粉末及び不可避的不純物である原料粉末のスラリーからグリーンシートを形成し、複数枚のグリーンシートをBN粉末を介して重ねてグリーンシート堆積体とし、複数のグリーンシート堆積体を1つの焼成容器に入れ、さらに、この焼成容器を小型焼成炉に入れて、焼成容器内の温度プロファイルとして、25℃/hrの昇温速度で10時間の徐熱域P0、1860℃の温度T1で5時間の第一の温度保持域P1、1650℃の温度T2で1時間の第二の温度保持域P2、1650℃から1200℃までの第一の冷却域P3、及び1200℃から900℃までの第二の冷却域P4を有し、第一の冷却域P3の平均冷却速度v1が300~600℃/hrの範囲であり、第二の冷却域P4の平均冷却速度v2が160~220℃/hrの範囲であるとの温度プロファイルにより、グリーンシートを焼結して、窒化珪素焼結基板を製造したことが記載され、さらに、冷却工程における第一の冷却域P3の平均冷却速度v1が480℃/hr、第二の冷却域P4の平均冷却速度v2が380℃/hrである比較例1や、第一の冷却域P3の平均冷却速度v1が150℃/hr、第二の冷却域P4の平均冷却速度v2が150℃/hrである比較例2に比べて、反りや曲げ強度の合格率が高いことも記載されているから、当業者において、実施例1~5の「窒化珪素焼結基板の製造方法」によって、本件発明の課題を解決できると認識できる。 加えて、発明の詳細な説明には、「本発明者は、焼結後に高い冷却速度の第一の冷却域と、それより低い冷却速度の第二の冷却域を設けることにより、焼成炉に投入するグリーンシートの枚数を増加させても、反りの抑制と高強度が両立できることを発見し、本発明に想到した。」(段落【0008】)こと、及び、「冷却工程の温度プロファイルは、焼成容器20内の温度が1650℃から粒界相の凝固温度未満の温度T3までの第一の冷却域P3と、温度T3から900℃までの第二の冷却域P4とを有する。なお、粒界相の凝固温度は粒界相の凝固が終わる温度であり、そこまでが粒界相の固化温度域であり、それ以降が硬化温度域である。・・・例えば、温度T3と粒界相の凝固温度との差は100~300℃であるのが好ましく、100~250℃であるのがより好ましい。・・・第一の冷却域P3は、粒界相が融解状態から過冷却状態に変わる温度域と考えられ、この温度域における冷却速度が低いと、焼結助剤として添加されたMgが分離し、Mg凝集相が生成する。また、第二の冷却域P4は、粒界相が過冷却状態からガラス状態(固体)に変化する温度域だと考えられ、冷却速度が高いと窒化珪素焼結基板の反りが増加する。」(段落【0058】~【0059】)ことが記載され、冷却工程の焼成容器内の温度プロファイルにおいて、窒化珪素焼結基板の粒界相の凝固温度又は凝固温度より300℃低い温度までの過冷却温度域の温度を境界にして、当該境界温度以上の粒界相が融解状態から過冷却状態に変わる温度域の冷却速度を大きくして、焼結助剤として添加されたMgが分離し、Mg凝集相が生成することを抑制し、当該境界温度以下の粒界相が過冷却状態からガラス状態(固体)に変化する温度域の冷却速度を小さくして、窒化珪素焼結基板の反りの抑制と高強度を両立することも示されている。 また、発明の詳細な説明には、「熱電対60の耐熱温度より高い焼結温度を経る窒化珪素焼結基板の製造工程では、グリーンシート堆積体10の温度を焼成容器20内の温度により(小型焼成炉70内の温度により)表すのが好ましい。」(段落【0048】)こと、及び、「大型焼成炉90の場合も、小型焼成炉70と同様に、グリーンシート堆積体10の温度と焼成容器20内の温度との間にも乖離があるが、両者の差は僅かである。従って、グリーンシート堆積体10の温度を焼成容器20内の温度(焼成炉90内の温度から求める。)により表す。」(段落【0050】)ことが記載され、小型焼成炉及び大型焼成炉のいずれを用いる場合でも、グリーンシート堆積体の温度が、焼成容器内の温度と略等しいことも示されている。 したがって、これらの記載を併せ考えると、小型焼成炉及び大型焼成炉のいずれを用いる場合でも、冷却工程の焼成容器内の温度プロファイルについて、第一の冷却域P3と第二の冷却域P4との境界である温度T3が粒界相の凝固温度より300℃低い温度以上凝固温度未満であり、第一の冷却域P3の平均冷却速度v1が300℃/hr以上の範囲であり、第二の冷却域P4の平均冷却速度v2が220℃/hr未満の範囲である温度プロファイルとした場合には、当業者において、前記実施例1~5の製造方法と同様に、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲といえる。 ウ これに対して、本件発明1~7に係る特許請求の範囲の記載は、前記第3のとおりであるところ、本件発明1は、「グリーンシート堆積体を焼成容器に入れた状態で」、焼成炉内で焼結及び冷却する「窒化珪素焼結基板の製造方法」において、「前記冷却工程が、前記焼結工程の保持温度から粒界相の凝固温度より300℃低い温度以上凝固温度未満の温度T3までの第一の冷却域P3と、前記温度T3から900℃までの第二の冷却域P4とを有し、前記第一の冷却域P3における前記焼成容器内の第一の平均冷却速度v1が、前記第二の冷却域P4における前記焼成容器内の第二の平均冷却速度v2より大きく、前記第一の冷却域P3における前記第一の平均冷却速度v1を300℃/hr以上とし、前記第二の冷却域P4における前記第二の平均冷却速度v2を220℃/hr以下とする」こと(以下、「本件冷却温度プロファイル」という。)を特定するものであるから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2~7は、当業者において、当該発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲といえる。 エ したがって、前記(1)の判断手法に従えば、本件発明1~7に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 (3)申立人の主張の検討 申立人は、令和3年11月24日提出の意見書において、本件発明1~4において、「第一の平均冷却速度v1」の上限値、及び、「第二の平均冷却速度v2」の下限値を特定していないことを理由にして、(i)本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を、本件発明1~4まで拡張又は一般化できないため、サポート要件を満たさないこと、及び、(ii)「第一の平均冷却速度v1」及び「第二の平均冷却速度v2」の数値範囲の技術的意味を当業者が理解できないため、明確性要件を満たさないことを主張している。 しかしながら、発明の詳細な説明には、前記(2)イで検討したとおり、冷却工程の焼成容器内の温度プロファイルを、前記「本件冷却温度プロファイル」とすることで、本件発明の課題を解決できることが記載されているから、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載された事項を拡張又は一般化できる範囲のものといえる。 また、本件発明1の「本件冷却温度プロファイル」において、平均冷却速度v1を300℃/hr以上、平均冷却速度v2を220℃/hr未満とすることの技術的意義も前記(2)イで検討とおり明確である。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 (4)小活 以上のとおりであるから、取消理由に理由はない。 第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立理由の概要 申立人が主張する特許異議申立理由のうち、前記第4の取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。 ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。 甲第1号証:国際公開第2013/146789号 甲第2号証:特開2002-68849号公報 甲第3号証:セラミックデータブック1989【工業と製品No.71】 、工業製品技術協会、平成1年8月1日、第216頁 (1)申立理由1(サポート要件違反) 設定登録時の請求項1~17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記3(1)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)申立理由2(明確性要件違反) 設定登録時の請求項1~7、13~17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記3(2)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)申立理由3(進歩性欠如) 設定登録時の請求項1、3~5、8、10~17に係る発明は、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1、3~5、8、10~17に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 甲号証の記載事項 (1)甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、「窒化珪素焼結体基板及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。 ア 「請求の範囲 [請求項1] 80~98.3質量%のSi3N4、0.7~10質量%(酸化物換算)のMg、及び1~10質量%(酸化物換算)の少なくとも1種の希土類元素を含有し、縦横がそれぞれ100mm以上で、厚さ0.7mm以下の窒化珪素焼結体基板を製造する方法であって、 窒化珪素粉末と、Mg及び少なくとも1種の希土類元素を含有する焼結助剤粉末とを混合する工程と、 得られた混合粉末を成形する工程と、 得られたグリーンシートを窒素雰囲気中で焼成する工程とを有し、 前記グリーンシートに10~600Paの荷重がかかるように、前記グリーンシートの上に重し板を配置した状態で前記焼成工程を行うことを特徴とする方法。 [請求項2] 請求項1に記載の窒化珪素焼結体基板の製造方法において、前記焼成工程における温度プロファイルが、1600~2000℃の範囲内の温度に温度する第一の温度保持域の後に、1400~1700℃の範囲内で、前記第一の温度保持域より低い温度に0.5~45時間保持する第二の温度保持域を有することを特徴とする方法。 [請求項3] 請求項1又は2に記載の窒化珪素焼結体基板の製造方法において、前記焼成工程における温度プロファイルが、前記第二の温度保持域の後に、100℃/時間以上の速度で冷却する冷却域を有することを特徴とする方法。」 イ 「[0049] (f)冷却域 第二の温度保持域P2の後にある冷却域P3は、第二の温度保持域P2で維持された液相を冷却して固化し、得られる粒界相の位置を固定する温度域である。液相の固化を迅速に行って粒界相分布の均一性を維持するために、冷却域P3の冷却速度は100℃/時間以上が好ましく、300℃/時間以上がより好ましく、500℃/時間以上が最も好ましい。実用的には、冷却速度は500~600℃/時間が好ましい。このような冷却速度での冷却により、固化する焼結助剤の結晶化を抑制し、ガラス相を主体とした粒界相を構成できるので、窒化珪素焼結体基板の曲げ強度を高めることができる。冷却域P3の冷却速度を1200℃まで維持すれば、それより低い温度での冷却速度は特に限定されない。」 (2)甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、「セラミックス燒結体の製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 面積が100cm2以上で且つ厚みが2.0mm以下のセラミックス燒結体の製造方法であって、セラミックス燒結時における冷却速度を20℃/分以下とすることを特徴とするセラミックス燒結体の製造方法。 【請求項2】 前記冷却速度を20℃/分以下とする温度範囲が1000℃以上であることを特徴とする、請求項1に記載のセラミックス燒結体の製造方法。」 イ 「【0018】また、冷却速度を20℃/分以下とする焼結体の温度範囲は1000℃以上であることが好ましい。即ち、焼結体が少なくとも1000℃に冷却させるまでは、20℃/分以下の冷却速度で冷却させることが好ましい。1000℃以上の温度範囲においては、セラミックスはある程度の変形能を有することが考えられるために、変形能を有すると考えられる1000℃以上の温度範囲で冷却速度を遅くし、燒結体内の温度分布を小さくすることで、撓みの発生を抑制することができる。」 ウ 「【0026】 【実施例】主原料である酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素の各粉末に対して、所定量の燒結助剤、有機バインダー、溶剤を加え、ボールミル混合を行なった後、ドクターブレード法にて所定の厚みになるようにシート成形した。この時の各粉末の組成を以下表1に示す。 【0027】 【表1】 [図:0001384102000001.jpg] 【0028】上記のごとく成形した各シートを、燒結体の大きさが8×8×0.25cmになるように切断した。次に、これらのシートをそれぞれ窒素中にて800℃で脱脂し、更に下記表2に示す条件で追加脱脂した後、同じく表2に示す条件で燒結した。得られた各セラミックス燒結体について熱伝導率と比熱の測定を行ない、その結果を以下表2に併せて示した。尚、熱伝導率と比熱の測定は、ともにレーザーフラッシュ法にて行なった。また、全ての焼結には、厚さ2mmの窒化ホウ素の焼結治具を使用した。 【0029】 【表2】 [図:0001384102000002.jpg] 【0030】次に、上記の各追加脱脂及び燒結の条件において種々の形状の燒結体を作製し、その燒結条件における冷却速度を変化させて、得られたセラミックス焼結体の撓みについて評価した結果を、焼結体ごとに表3~6に示した。尚、冷却の際には、表3の徐冷温度範囲に示す温度以上において表示の冷却速度で冷却し、徐冷温度範囲に示す温度以下では炉冷した。 【0031】得られた各セラミックス焼結体の撓みの評価は、燒結体の両端を手で持ち、反りの方向が変化するときに要する力加減で評価した。即ち ◎:セラミックスに撓みの発生がないもの。 ○:外力を加えることで若干撓むもの。 △:外力を加えると撓みの方向が容易に変わるもの。 ×:水平に保持したセラミックスの向きを上下逆にするだけで撓み(反り)の向きが変化するもの。 ・・・ 【0034】 【表5】 [図:0001384102000003.jpg] ・・・ 【0036】上記の結果から分るように、大面積で且厚みの薄い焼結体については、冷却速度を遅くすることで、焼結の冷却時に発生する撓みの程度を改善することができる。特に、熱伝導率が高く、比熱が小さいセラミックスに対して、徐冷による撓み防止の効果が顕著であることが分る。」 (3)甲第3号証の記載事項 甲第3号証には、「ガス圧高温炉,ツインホットプレス」に関して、次の事項が記載されている。 「ガス圧高温炉 1.概要 非酸化物系セラミックスやグラファイトなどの焼成・焼結処理を,真空から高圧までの高温雰囲気中で行う大型高温炉です.トップローディング型で2機種,ボトムローディング型で3機種を標準化しています. 2.特徴 ・・・ (5) 各種の雰囲気が使用可能 処理材に応じて,窒素・アルゴン・ヘリウムなどの不活性ガスや,水素・一酸化炭素などの還元性ガスが使用できます. 3.主な仕様 ●炉内有効寸法:直径200~500mm 高さ200~700mm ●最高使用温度:2700℃ ●最高使用圧力:9.9kgf/cm2G ●オプション (1)高真空排気装置 (2)雰囲気ガス循環冷却装置 (3)水素ガス安全制御燃焼装置」(第216頁左欄) 3 申立理由に対する当審の判断 (1)申立理由1(サポート要件違反)について ア 具体的な指摘事項 当該申立理由は、要するに、(i)設定登録時の請求項1、8に係る発明が「複数枚のグリーンシート」の枚数を特定していないこと、(ii)設定登録時の請求項1に係る発明が「焼成容器」の個数を特定していないこと、及び、(iii)設定登録時の請求項3、4に係る発明の「第一の平均冷却速度v1と第二の平均冷却速度v2との比(v1/v2)」の下限値の技術的意義が不明確であることを論拠にして、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を、設定登録時の請求項1~17に係る発明まで拡張又は一般化できないから、当該発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない、というものである。 イ 申立理由1についての検討 前記第4の2(2)で検討したとおり、本件発明1は、小型焼成炉及び大型焼成炉のいずれを用いる場合でも、グリーンシート堆積体の温度が、焼成容器内の温度と略等しいことを前提として、冷却工程の焼成容器内の温度プロファイルを特定するものであるから、本件発明1は、積層するグリーンシートの枚数や焼成容器の個数に関係なく、本件発明の課題を解決できることは明らかである。 また、本件発明1~7は、前記第4の2(2)で検討したとおり、冷却工程の焼成容器内の温度プロファイルを前記「本件冷却温度プロファイル」とすることによって、本件発明の課題を解決するものであるから、本件発明3、4の「第一の平均冷却速度v1と第二の平均冷却速度v2との比(v1/v2)」の下限値の技術的意義に関わりなく、サポート要件を満たすことは明らかである。 ウ 小括 以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。 (2)申立理由2(明確性要件違反)について ア 具体的な指摘事項 当該申立理由は、要するに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、焼成炉内に焼成容器を1つ入れる場合と複数個入れる場合とでは異なる制御を行うことが記載されていることを理由にして、設定登録時の請求項1に係る発明では、焼成炉内に入れる焼成容器の個数を特定していないため、設定登録時の請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2~7、13~17に係る発明は明確でない、というものである。 イ 申立理由2についての検討 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「冷却工程については、小型焼成炉70と大型焼成炉90とで温度プロファイルが異なる。」(段落【0051】)ことが記載されているものの、当該温度プロファイルは、焼成炉内の温度に対するものであって、本件発明1で特定する焼成容器内の温度に対するものでない。そして、本件発明1は、前記(1)イで検討したとおり、焼成容器の個数に関係なく、本件発明の課題を解決できるから、本件発明1及びこれを引用する本件発明2~7は、焼成炉内に入れる焼成容器の個数が特定されていなくても、その発明が不明確にはならない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。 (3)申立理由3(進歩性欠如)について ア 申立理由3についての検討 本件発明1~7は、前記第3に記載したとおりの発明であって、「グリーンシート堆積体を焼成容器に入れた状態で」、焼成炉内で焼結及び冷却する「窒化珪素焼結基板の製造方法」において、前記「本件冷却温度プロファイル」で冷却することを特定する発明である。 他方、甲第1号証~甲第3号証の記載事項について、特に、冷却工程の温度プロファイルに注目してみてみると、甲第1号証には、前記2(1)ア及びイのとおり、窒化珪素焼結基板の製造方法における冷却工程に関して、焼成工程の保持温度から1200℃までの冷却速度を100℃/時以上、好ましくは500~600℃/時とすることで、固化する焼結助剤の結晶化を抑制して、窒化珪素焼結体基板の曲げ強度を高めることが、甲第2号証には、前記2(2)ア~ウのとおり、セラミックス燒結体の製造方法における冷却工程に関して、焼結温度から少なくとも1000℃に冷却させるまでの冷却速度を20℃/分以下とすることで、焼結体内の温度分布を小さくして、撓みの発生を抑制することや、その具体例として、Si3N4セラミックス焼結体の製造に関して、焼結温度から1000℃又は1200℃までの冷却速度を5~20℃/分(300~1200℃/時)とし、その後は炉冷することが、及び、甲第3号証には、前記2(3)のとおり、「ガス圧高温炉」の冷却手段として「雰囲気ガス循環冷却装置」が、それぞれ記載されているのみであり、甲第1号証~甲第3号証のいずれにも、前記「本件冷却温度プロファイル」に相当する温度プロファイルで冷却すること、特に、「第二の冷却域P4における第二の平均冷却速度v2を220℃/hr以下」で冷却することは、記載も示唆もされていない。 そうしてみると、甲第1号証~甲第3号証の記載に基づき、当該「本件冷却温度プロファイル」で冷却することは、当業者が容易想到な事項といえないから、その余の点を検討するまでもなく、本件発明1~7は、甲第1号証~甲第3号証の記載に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 小活 以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件請求項8~17に係る発明は、前記第2のとおり、本件訂正により削除された。これにより、本件請求項8~17に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700342

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