特許異議申立
2022-700556
難燃性樹脂組成物及びその成形品
- 審判番号
- 2022-700556
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-561923
- 登録番号
- 6993545
- 請求日
- 2022年06月23日
- 審決日
- 2024年02月22日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ポリプラスチックス株式会社
- 【権利者代理人】園田・小林弁理士法人
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 【異議申立人】浅野 幸義
- 【異議申立人】東レ 株式会社
- 【異議申立人】岡本 敏夫
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 小出 直也
- 審判官 瀧澤 佳世
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6993545号発明「難燃性樹脂組成物及びその成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6993545号の特許請求の範囲を令和5年11月1日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、8、9、10について訂正することを認める。
特許第6993545号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6993545号(以下「本件特許」という。)は、令和3年8月19日(優先権主張 令和2年8月25日)を国際出願日とする特許出願(特願2021-561923号)に係るものであって、令和3年12月13日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和4年1月13日である。)。
その後、令和4年6月23日に、本件特許の請求項1,4,5に係る特許に対して、特許異議申立人である特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人A」という。)から、また、令和4年7月8日に、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して、特許異議申立人である浅野幸義(以下「申立人B」という。)から、また、令和4年7月11日に、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して、特許異議申立人である東レ株式会社(以下「申立人C」という。)から、また、令和4年7月11日に、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して、特許異議申立人である岡本敏夫(以下「申立人D」という。)から、それぞれ特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立て以降の主な経緯は、次のとおりである。
令和4年 9月29日付け :取消理由通知
同年11月25日 :訂正請求書・意見書(特許権者)の提出
同年12月 8日付け :訂正請求があった旨の通知書(申立人A~D宛て)
令和5年 1月11日 :意見書(申立人C)の提出
同年 同月12日 :意見書(申立人D)の提出
同年 同月13日 :意見書(申立人B)の提出
なお、申立人Aからの意見書の提出はなかった。
同年 3月 7日付け :取消理由通知(決定の予告)
同年 5月11日 :訂正請求書・意見書(特許権者)の提出
同年 5月25日付け :訂正請求があった旨の通知(申立人A~D宛て)
同年 6月28日 :意見書(申立人D)の提出
なお、申立人A~Cからの意見書の提出はなかった。
同年 9月 4日付け :取消理由通知(決定の予告)
同年11月 1日 :訂正請求書・意見書(特許権者)の提出
同年11月13日付け :訂正請求があった旨の通知(申立人A~D宛て)
同年12月13日 :意見書(申立人D)の提出
なお、申立人A~Cからの意見書の提出はなかった。
第2 訂正請求について
令和5年11月1日提出の訂正請求書(以下「本件請求書」という。)の趣旨は、「特許第6993545号の特許請求の範囲を、本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める。」というものである。
請求人が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
なお、本件訂正により、令和4年11月25日及び令和5年5月11日に提出された訂正請求書による訂正の請求は取り下げられたものとみなされる(特許法120条の5第7項)。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「アンチモン化合物(C)を含み、」とあるのを、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、」との限定を加えるとともに、フッ素樹脂(D)の含有量の下限値を変更して「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」とし、さらに「式1の値が4.4以上」であること、及び「オレフィン系エラストマー(F)を含み、オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」ことを記載する(請求項1の記載を引用する請求項2、4~7も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3~5について、請求項1を引用しないものに訂正する(請求項3~5の記載を引用する請求項6~7も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「アンチモン化合物(C)が、五酸化アンチモン及びアンチモン酸ナトリウムから選択される1以上を含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式に改めるとともに、特許請求の範囲の請求項1に、「アンチモン化合物(C)を含み、」とあるのを、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、」と限定し、アンチモン原子の含有量の下限値を変更して「0.08mol以上」と限定し、フッ素樹脂(D)の含有量の下限値を変更して「0.8~2.7質量部であり」と限定し、さらに、「オレフィン系エラストマー(F)を含み、オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」と記載し、新たに請求項8とする。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「フッ素樹脂(D)が滴下防止性能を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式に改めるとともに、特許請求の範囲の請求項1に「アンチモン化合物(C)を含み、」とあるのを、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、」、及び「(但し、スチレン系樹脂を除く)」と限定するとともに、フッ素樹脂(D)の含有量の下限値を変更して「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」とし、さらに「オレフィン系エラストマー(F)を含み、オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」ことを記載し、新たに請求項9とする。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、「カーボンブラック(E)のフタル酸ジブチル吸油量が350cm3/100g以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式に改めるとともに、特許請求の範囲の請求項1に「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)を含む難燃助剤を含み」とあるのを、「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤、フッ素樹脂(D)、カーボンブラック(E)、及びオレフィン系エラストマー(F)からなり、但し、充填剤(G)、安定剤、滑剤、離型剤、臭素系難燃剤(B)以外の難燃剤、難燃助剤、結晶化核剤、カーボンブラックを除く着色剤、潤滑剤、可塑剤、フッ素樹脂以外のドリッピング防止剤、酸化防止剤、及び熱安定剤から選択される1以上を含んでいてもよく、」と限定するとともに、フッ素樹脂(D)の含有量の下限値を変更して「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」とし、さらに「オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレー卜樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」ことを記載し、新たに請求項10とする。
(6)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(7)別の訂正単位とする求め
特許権者は、訂正後の請求項8、9及び10について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「アンチモン化合物(C)を含み、」とあるのを、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、」との限定を加えるとともに、フッ素樹脂(D)の含有量の下限値を変更して「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」とし、さらに「式1の値が4.4以上」であること、及び「オレフィン系エラストマー(F)」を含むことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項1による訂正後の請求項1における「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤」とする訂正は、本件明細書の【0033】に「アンチモン化合物(C)は、アンチモン原子を含む化合物であり、難燃助剤として作用する。」との記載に基づくものである。
訂正後の請求項1におけるフッ素樹脂の含有量の下限値を「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部」とする訂正は、本件明細書の【0041】に「フッ素樹脂(D)の含有量は、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、・・・より好ましくは0.1~2.0質量部であり」との記載に基づくものである。
訂正後の請求項1における「式1の値が4.4以上」であるとの限定を加える訂正は、本件明細書の実施例3における式1の値が「4.4」であることに基づくものである。
訂正後の請求項1における「オレフィン系エラストマー(F)を含み、オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」との限定を加える訂正は、本件明細書の【0048】に「本実施形態に係る樹脂組成物は、耐衝撃性を向上させるためにエラストマー(F)を含有していてもよい。・・・エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのオレフィン系エラストマーを添加することで燃焼時間が延びることがあるため、その添加量はポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0~65質量部が好ましく」との記載と、本件明細書の実施例7(【0063】)において、オレフィン系エラストマーF-1のポリアルキレンテレフタレート樹脂(A-1及びA-2)100質量部に対する配合量が26質量部であることに基づいている。
よって、訂正事項1による訂正は、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3~5について、請求項1を引用しないものに訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、訂正事項2が新規事項の追加や、特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3に、「アンチモン化合物(C)が、五酸化アンチモン及びアンチモン酸ナトリウムから選択される1以上を含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式に改めて新たに請求項8とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項3が引用する請求項1に、「アンチモン化合物(C)を含み、」とあるのを、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、」と限定し、アンチモン原子の含有量の下限値を「0.08mol以上」に限定し、フッ素樹脂(D)の含有量の下限値を変更して「0.8~2.7質量部」と限定し、さらに「オレフィン系エラストマー(F)を含み、オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部であり」との限定を加えるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項3のうち、「アンチモン化合物(C)を含み、」とあるのを、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、」と限定する訂正は、本件明細書の【0033】に「アンチモン化合物(C)は、アンチモン原子を含む化合物であり、難燃助剤として作用する。」との記載に基づくものである。
訂正事項3のうち、フッ素樹脂(D)の含有量の下限値を、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して「0.8質量部」とする訂正は、本件明細書の実施例1の配合量を根拠とするものであり、訂正事項3のうち、「オレフィン系エラストマー(F)を含み、オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」との限定を加える訂正は、上記(1)イで示したように、本件明細書の【0048】、【0063】の記載に基づくものである。
よって、訂正事項3による訂正は、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項4に、「フッ素樹脂(D)が滴下防止性能を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式に改めて新たに請求項9とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項4は、訂正前の請求項4が引用する請求項1に、「アンチモン化合物(C)を含み、」とあるのを、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、」、及び「(但し、スチレン系樹脂を除く)」と限定するとともに、フッ素樹脂(D)の含有量の下限値を変更して「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」とし、さらに「オレフィン系エラストマー(F)を含み、オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」との限定を加えるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項4のうち、「アンチモン化合物(C)を含み、」とあるのを、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、」と限定し、フッ素樹脂(D)の含有量の下限値を「0.1質量部」とする訂正は、上記(1)イで示したように本件明細書の【0033】、【0041】の記載に基づき、訂正事項3のうち、「オレフィン系エラストマー(F)を含み、オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」との限定を加える訂正は、上記(1)イで示したように、本件明細書の【0048】、【0063】の記載に基づくものである。
また、訂正事項4の「(但し、スチレン系樹脂を除く)」と限定する訂正は、訂正前の発明からスチレン系樹脂(を含むもの)を除くことを規定するものであって、新たな技術的事項を追加するものでないことは明らかである。
よって、訂正事項4による訂正は、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項4による訂正は、特許請求の範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項5に、「カーボンブラック(E)のフタル酸ジブチル吸油量が350cm3/100g以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式に改めて新たに請求項10とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項5は、訂正前の請求項5が引用する請求項1に、「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)を含む難燃助剤を含み」とあるのを、「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤、フッ素樹脂(D)、カーボンブラック(E)、及びオレフィン系エラストマー(F)からなり、但し、充填剤(G)、安定剤、滑剤、離型剤、臭素系難燃剤(B)以外の難燃剤、難燃助剤、結晶化核剤、カーボンブラックを除く着色剤、潤滑剤、可塑剤、フッ素樹脂以外のドリッピング防止剤、酸化防止剤、及び熱安定剤から選択される1以上を含んでいてもよく、」と限定するとともに、フッ素樹脂(D)の含有量の下限値を変更して「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」とし、さらに「オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレー卜樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」との限定を加えるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項5のうち、「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤、フッ素樹脂(D)、カーボンブラック(E)、及びオレフィン系エラストマー(F)からなり、但し、充填剤(G)、安定剤、滑剤、離型剤、臭素系難燃剤(B)以外の難燃剤、難燃助剤、結晶化核剤、カーボンブラックを除く着色剤、潤滑剤、可塑剤、フッ素樹脂以外のドリッピング防止剤、酸化防止剤、及び熱安定剤から選択される1以上を含んでいてもよく、」と限定する訂正は、【0063】の【表1】の記載、及び【0049】及び【0050】の充填剤及びその他の添加剤についての記載に基づくものである。
また、フッ素樹脂(D)の含有量の下限値を「0.1質量部」とする訂正は、上記(1)イで示したように本件明細書の【0041】の記載に基づき、「オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」との限定を加える訂正は、上記(1)イで示したように、本件明細書の【0048】、【0063】の記載に基づくものである。
よって、訂正事項5による訂正は、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。
(6)独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項1~7について特許異議の申立てがされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおり、訂正事項1~5による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号又は第4号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、8、9、10について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6993545号の請求項1~10に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~10に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項1~10に係る発明を「本件発明1」~「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」ということもある。本件特許の願書に添付した明細書については本件訂正により訂正されていないので、以下においても「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であり、
アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.05mol以上であり、
フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部であり、
カーボンブラック(E)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.3~2.7質量部であり、かつ、
以下の式1:
5. 6 ≧2d+2e+2c/(c’/100) (式1)
(但し、
d:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂(D)の含有量(質量部)
e:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(E)の含有量(質量部)
c:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量(mol)
c’:アンチモン化合物(C)中のアンチモン原子の含有量(質量%)
である)
を満たし、
式1の値が4.4以上であり
オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である、難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
臭素系難燃剤(B)が、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ化合物を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
アンチモン化合物(C)が、五酸化アンチモン及びアンチモン酸ナトリウムから選択される1以上を含む、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
フッ素樹脂(D)が滴下防止性能を有する、請求項2又は3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
カーボンブラック(E)のフタル酸ジブチル吸油量が350cm3/100g以下である、請求項2から4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート樹脂である、請求項1から5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、成形品。
【請求項8】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であり、
アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.08mol以上であり、
フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.8~2.7質量部であり、
カーボンブラック(E)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.3~2.7質量部であり、かつ、
以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100) (式1)
(但し、
d:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂(D)の含有量(質量部)
e:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(E)の含有量(質量部)
c:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量(mol)
c’:アンチモン化合物(C)中のアンチモン原子の含有量(質量%)
である)
を満たし、
オレフィン系エラストマー(F)を含み
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部であり、
アンチモン化合物(C)が、五酸化アンチモン及びアンチモン酸ナトリウムから選択される1以上を含む、難燃性樹脂組成物。
【請求項9】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み(但し、スチレン系樹脂を除く)、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であり、
アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.05mol以上であり、
フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部であり、
カーボンブラック(E)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.3~2.7質量部であり、かつ、
以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100) (式1)
(但し、
d:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂(D)の含有量(質量部)
e:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(E)の含有量(質量部)
c:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量(mol)
c’:アンチモン化合物(C)中のアンチモン原子の含有量(質量%)
である)
を満たし、
オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部であり、
フッ素樹脂(D)が滴下防止性能を有する、難燃性樹脂組成物。
【請求項10】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤、フッ素樹脂(D)カーボンブラック(E)、及びオレフィン系エラストマー(F)からなり、但し、充填剤(G)、安定剤、滑剤、離型剤、臭素系難燃剤(B)以外の難燃剤、難燃助剤、結晶化核剤、カーボンブラックを除く着色剤、潤滑剤、可塑剤、フッ素樹脂以外のドリッピング防止剤、酸化防止剤、及び熱安定剤から選択される1以上を含んでいてもよく、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であり、
アンチモン原子の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.05mol以上であり、
フッ素樹脂(D)の含量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100g質量部に対して0.1~2.7質量部であり、
カーボンブラック(E)の含有量が ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.3~2.7質量部であり、かつ、
以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100) (式1)
(但し、
d:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂(D)の含有量(質量部)
e:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(E)の含有葦(質量部)
c:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量(mol)
c’:アンチモン化合物(C)中のアンチモン原子の含有量(質量%)
である)
を満たし、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部であり、
カーボンブラック(E)のフタル酸ジブチル吸油量が350cm3/100g以下である、
難燃性樹脂組成物。」
第4 特許異議申立理由の概要、取消理由の概要及び証拠方法
1 申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年6月23日に申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
申立理由A-1:(新規性)本件特許の訂正前の請求項1、4に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1A号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由A-2:(進歩性)本件特許の訂正前の請求項1、4、5に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1A号証に記載された発明及び甲第2A号証に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
2 申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年7月8日に申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
申立理由B-1:(明確性要件違反)本件特許の訂正前の請求項1~7に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
<理由の概略>
(1)請求項1の式1における右辺の「2d」,「2e」,「2c/(c’/100)」の3つの項に付されている「2」の技術的意義が不明である。
(2)請求項1の式1における右辺の1つ目の項の「2d」及び2つ目の項の「2e」は質量に関するものであるが、3つ目の項の「2c/(c’/100)」はモルに関するものであり、式1の右辺は性質(単位)の異なるもの同士の和をとっていることになり、技術的意義が不明である。
(3)請求項1の式1の右辺の3つ目の項「2c/(c’/100)」は、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン化合物(C)の含有量をアンチモン原子の原子量で割ったものの二倍に相当するが、その技術的な意味が不明である。
(4)請求項1では、カーボンブラックは必須の成分として規定されているが、本件明細書の【0044】には「樹脂組成物は、カーボンブラック(E)を含有しない場合(又は含有量が少ない場合)でも、グローイング時間を短くすることができる。」と記載されており、両者の記載は整合していない。また、実施例5はカーボンブラックの含有量が0であり、請求項1の実施例に相当しないものが実施例として記載されている。このような記載は本件特許の権利範囲を著しく不明確にするものである。
申立理由B-2:(実施可能要件違反)本件特許の訂正前の請求項1~7に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
<理由の概略>
請求項1の式1の技術的意義は全く不明であるので、式1は理論的な裏付けのない経験式にすぎないところ、本件明細書の実施例においては、式1のそれぞれの値について、対応する実施例及び比較例はそれぞれ実質的に一つしか存在しておらず、式1の計算の元となるd、e、cの組み合わせは実質的に一つしか行っておらず、本件明細書の実施例の効果は、式1による効果ではなく、式1の計算の元となる特定のd、e、cの値の組み合わせによる効果でしかなく、本件特許は式1を満たす任意の配合全てに対して認められるべきではない。
申立理由B-3:(サポート要件違反)本件特許の訂正前の請求項1~7に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
<理由の概略>
請求項1の式1の技術的意義は全く不明であるので、式1は理論的な裏付けのない経験式にすぎないところ、本件明細書の実施例においては、式1のそれぞれの値について、対応する実施例及び比較例はそれぞれ実質的に一つしか存在しておらず、式1の計算の元となるd、e、cの組み合わせは実質的に一つしか行っておらず、本件明細書の実施例の効果は、式1による効果ではなく、式1の計算の元となる特定のd、e、cの値の組み合わせによる効果でしかなく、本件特許は式1を満たす任意の配合全てに対して認められるべきではない。
申立理由B-4:(新規性)本件特許の訂正前の請求項1、2、4~7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1B号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由B-5:(進歩性)本件特許の訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1B号証に記載された発明並びに甲第2B号証~甲第5B号証及び参考資料1Bに記載された技術的事項に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
3 申立人Cが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年7月11日に申立人Cが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
申立理由C-1-1:(新規性)本件特許の訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1C号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由C-1-2:(新規性)本件特許の訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2C号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由C-2-1:(進歩性)本件特許の訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1C号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由C-2-2:(進歩性)本件特許の訂正前の請求項1~4,6,7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2C号証に記載された発明に基いて、また、本件特許の請求項5に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2C号証に記載された発明及び甲第5C号証に記載された技術的事項に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
4 申立人Dが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年7月11日に申立人Dが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
申立理由D-1-1:(新規性)本件特許の訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1D号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由D-1-2:(新規性)本件特許の訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3D号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由D-1-3:(新規性)本件特許の訂正前の請求項1~3,6,7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5D号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由D-1-4:(新規性)本件特許の訂正前の請求項1,2,6,7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6D号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由D-1-5:(新規性)本件特許の訂正前の請求項1~4,6,7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7D号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由D-2-1:(進歩性)本件特許の訂正前の請求項2に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3D号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、それらの発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由D-2-2:(進歩性)本件特許の訂正前の請求項3に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1D号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、それらの発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由D-2-3:(進歩性)本件特許の訂正前の請求項3に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲5D号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、それらの発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由D-2-4:(進歩性)本件特許の訂正前の請求項4に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲6D号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、それらの発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由D-3:(サポート要件)本件特許の訂正前の請求項1~7に係る特許は、以下の理由により特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
<理由の概略>
本件明細書の実施例では、臭素系難燃剤として熱硬化性樹脂であるテトラブロモビスフェノールA型エポキシ化合物しか評価されておらず、熱可塑性樹脂である臭素化ポリカーボネートや臭素化ポリスチレンなどについては評価されていない。前者は反応性を有するエポキシ基を有し、後者は有さないため、前者と後者とでは組成物中に添加したときの挙動が異なるから、臭素系難燃剤として熱可塑性樹脂を用いた場合においても、本件発明の効果を達成できるとはいえない。
5 取消理由(決定の予告)の概要
令和5年9月4日付けで当審が通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
取消理由1:(甲1Cによる進歩性)本件発明1~8は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1C号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
6 証拠方法
(1)申立人Aが提出した証拠方法
甲第1A号証:特開2017-122170号公報
甲第2A号証:三菱ケミカル株式会社,三菱カーボンブラック 物理化学特性表[online],令和4年5月18日(印刷日),インターネット,<URL:http://www.carbonblack.jp/product/list2_01.html>
(以下、申立人Aが提出した上記甲第1A号証~甲第2A号証を「甲1A」~「甲2A」という。)
(2)申立人Bが提出した証拠方法
甲第1B号証:特開2019-6866号公報
甲第2B号証:特開2011-184687号公報
甲第3B号証:特開2015-127394号公報
甲第4B号証:特開2001-164076号公報
甲第5B号証:特開2016-186006号公報
参考資料1B:三菱ケミカル株式会社,三菱カーボンブラック 物理化学特性表[online],令和4年6月30日(印刷日),インターネット,<URL:http://www.carbonblack.jp/product/list2_01.html>(「甲2A」と同じ)
(以下、申立人Bが提出した上記甲第1B号証~甲第5B号証を「甲1B」~「甲5B」といい、参考資料1Bは「甲2A」という。)
(3)申立人Cが提出した証拠方法
甲第1C号証:特開2014-133790号公報
甲第2C号証:特開2018-195561号公報
甲第3C号証:三菱ケミカル株式会社,三菱カーボンブラック 物理化学特性表[online],令和4年6月6日(印刷日),インターネット,<URL:http://www.carbonblack.jp/product/list2_01.html#900>(甲2Aと実質同じ)
甲第4C号証:2022年7月6日付け日本ピグメント株式会社より発行された東レ株式会社宛書状,令和4年7月6日(発行日)
甲第5C号証:特開平9-143350号公報
甲第6C号証:特開2015-81327号公報
甲第7C号証:国際公開第2014/199915号
甲第8C号証:国際公開第2014/168169号
(以下、申立人Cが提出した上記甲第1C、2C、4C~8C号証を、「甲1C」、「甲2C」、「甲4C」~「甲8C」といい、甲第3C号証は「甲2A」という。)
(4)申立人Dが提出した証拠方法
ア 特許異議申立書に添付した証拠方法
甲第1D号証:特開2014-133790号公報(「甲1C」と同じ)
甲第2D号証:三菱ケミカル株式会社,三菱カーボンブラック 物理化学特性表 #45及び#900,[online],令和4年6月17日(印刷日),インターネット,<URL:http://www.carbonblack.jp/product/list2_01.html>(「甲2A」と同じ)
甲第3D号証:特開2014-162820号公報
甲第4D号証:日産化学工業(株),サンエポック 五酸化アンチモン,平成25年3月11日(発行日)
甲第5D号証:特開2017-210609号公報
甲第6D号証:特開2017-122170号公報(「甲1A」と同じ)
甲第7D号証:特開平6-228411号公報
甲第8D号証:特開2011-246688号公報
甲第9D号証:ICLジャパン(株),製品案内IP製品,「臭素化エポキシ F-2300H」[online],第2ページ,インターネット,<URL:https://www.ici-japan.com/products/ici-products.html>
甲第10D号証:特開2013-155383号公報
甲第11D号証:特開平4-246456号公報
イ 令和5年1月12日付け意見書に添付した証拠方法
参考資料1:AGC化学品カンパニー ウェブサイト, <URL:https://www.agc-chemicals.com/jp/ja/fluorine/products/fluon/>
参考資料2:OKIエンジニアリング(沖エンジニアリング株式会社) ウェブサイト, <URL:https:www.oeg.co.jp/Rel/fire-ul.html#kikaku>
参考資料3:株式会社DJK ウェブサイト,<URL:https://www.djklab.com/service/koubunshibussei/597>
参考資料4:MiSUMi(株式会社ミスミグループ本社)ウェブサイト,
<URL:https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/electric_elecreonic_design/ee03/a0169.html>
ウ 令和5年6月28日付け意見書に添付した証拠方法
参考資料1D:特開平10-158487号公報
参考資料2D:特開2009-173857号公報
参考資料3D:特開昭55-5958号公報
参考資料4D:特開平6-145485号公報
参考資料5D:特開平10-60242号公報
参考資料6D:再公表特許WO2014/088105号(なお、申立人Dは令和5年6月28日提出の意見書の「証拠方法」において「国際公開第2014/088105号」と表記しているが、添付された文献は再公表特許である。)
(以下、申立人Dが提出した上記甲第3D~5D,7D~11D号証、参考資料1D~6D(令和5年6月28日付け意見書に添付したもの)を、それぞれ「甲3D」~「甲5D」,「甲7D」~「甲11D」,「参1D」~「参6D」といい、甲第1D号証、甲第2D号証、甲第6D号証は、それぞれ「甲1C」、「甲2A」、「甲1A」という。)
第5 当審の判断
当審は、特許異議申立書に記載した理由及び当審が通知した取消理由によっては、本件発明1~10についての特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1(甲1Cによる進歩性)、申立理由C-1-1(甲1Cによる新規性)、C-2-1(甲1Cによる進歩性)、D-1-1(甲1Cによる新規性)、D-2-2(甲1Cによる進歩性)について
申立理由C-1-1,C-2-1,D-1-1,D-2-2は、いずれも甲1Cを引用文献とする新規性、進歩性欠如をいうものであるから、取消理由1と併せて検討する。
(1)甲1Cに記載された発明
甲1Cには、「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、スチレン系共重合体(B)20~80質量部、相溶化剤(C)0~30質量部、強化充填材(D)15~130質量部、臭素系難燃剤(E)10~45質量部、アンチモン系難燃助剤(F)3~30質量部、アクリロニトリル-スチレン樹脂(G)0.1~5質量部及びカーボンブラック(H)0.001~3質量部を含有することを特徴とする電力計外装用ポリエステル樹脂組成物。」が記載されており(請求項1)、その具体例が【0111】~【0112】の表2,表3に実施例1~9として記載されている。
実施例で用いられた各成分の詳細は【0105】の表1に記載されており、実施例9に着目すると、甲1Cには、以下の発明(「甲1C発明」という。)が記載されている。
「ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製:ノバデュラン(登録商標)5008)を100質量部、ABS樹脂(UMG社製:BX201)を67質量部、臭素化ポリカーボネート(三菱ガス化学社製:FR-53,臭素濃度53質量%)を33質量部、難燃助剤として三酸化アンチモン(山中産業社製:GMA,Sb2O3:99.84%)を9.9質量部、滴下防止剤としてポリテトラフルオロエチレンを0.7質量部、安定剤としてBASF社製「イルガノックス1010」を0.7質量部及びADEKA社製「AX-71」を0.3質量部、離型剤を0.7質量部、強化充填剤としてガラス繊維を49質量部、炭酸カルシウムを33質量部、ガラスフレークを33質量部、カーボンブラックマスターバッチ(アクリロニトリル-スチレン樹脂にカーボンブラック(三菱化学社製「♯900」)を50質量%含有させたもの)を2.6質量部含む、UL94規格の難燃性評価がV-0である難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1C発明との対比
甲1C発明の「ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製:ノバデュラン(登録商標)5008)」、「臭素化ポリカーボネート(三菱ガス化学社製:FR-53,臭素濃度53質量%)」は、それぞれ、本件発明1の「ポリアルキレンテレフタレート樹脂」、「臭素系難燃剤」に相当する。
甲1C発明の「ポリテトラフルオロエチレン」は本件発明1の「フッ素樹脂」に相当し、そのポリブチレンテレフタレート100質量部に対する含有量は0.7質量部であり、本件発明1の範囲と重複する。
そして、甲1C発明の「三酸化アンチモン(山中産業社製:GMA,Sb2O3:99.84%)」は、本件発明1の「アンチモン化合物」に相当し、甲1C発明では難燃助剤としてそれしか用いられていないから、甲1C発明が「難燃助剤として三酸化アンチモン(山中産業社製:GMA,Sb2O3:99.84%)」を含む点は、本件発明1の「アンチモン化合物からなる難燃助剤」を含むことに相当する。
甲1C発明の臭素原子の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、33(質量部)×53(質量%)/100=17.49質量部であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂を100gとすると、17.49gになるから、臭素の原子量79.9をもとにモルに換算すると約0.22molとなる。
また、アンチモンの原子量121.76、酸素原子の原子量16,三酸化アンチモンの分子式(Sb2O3)をもとにアンチモン原子の含有量を求めると、ポリブチレンテレフタレート樹脂100gに対して、9.9(g)×99.84(%)/100×(2×121.76)/(2×121.76+3×16)=8.26gとなり、モルに換算すると約0.07molとなる。
そして、カーボンブラックの含有量は、PBT樹脂100質量部に対して、2.6(質量部)×50(質量%)/100=1.3質量部である。
次に、甲1C発明の、本件発明1の式1の右辺の値(以下「式1の値」という。)について計算する。
dの値は、フッ素樹脂の含有量であるから0.7である。
eの値は、カーボンブラックの含有量であるから、上記のとおり1.3である。
cの値は、アンチモン原子の含有量であるから、上記のとおり0.07である。
c’の値は、99.84(%)/100×2×121.76/(2×121.76+3×16)×100=83.4である。
よって、これらの値から式1の値を計算すると、2×0.7+1.3×2+0.06×2/(83.4/100)=約4.14となる。
また、甲1C発明の「難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物」は、本件発明1の「難燃性樹脂組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1C発明とは、
「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であり、
アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.05mol以上であり、
フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部であり、
カーボンブラック(E)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.3~2.7質量部であり、かつ、
以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100) (式1)
(但し、
d:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂(D)の含有量(質量部)
e:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(E)の含有量(質量部)
c:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量(mol)
c’:アンチモン化合物(C)中のアンチモン原子の含有量(質量%)
である)
を満たす、難燃性樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1-1>
本件発明1では「式1の値が4.4以上」であるのに対し、甲1C発明ではそのような特定がない点
<相違点1-1-2>
本件発明1では
「オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」
のに対し、甲1C発明は、「オレフィン系エラストマー(F)」を含まない点
イ 相違点についての判断
相違点1-1-1について検討する。
上記アで述べたように、甲1C発明において式1の値を計算すると約4.14になり、本件発明1の範囲を外れる。そして、甲1Cには、式1について記載がなく、その値を4.4以上にすることについても記載がない。よって、本件発明1は甲1Cに記載された発明ではない。
また、甲1Cには、式1のd、e、cに関連する、ポリテトラフルオロエチレン、カーボンブラック、アンチモン系難燃助剤の含有量についての記載があり(【0069】、【0079】、【0093】)、この配合量の中には式1の値が「4.4以上」「5.6以下」となるような範囲も含まれてはいるものの、甲1Cには式1の値が「4.4以上」かつ「5.6以下」となるように調節する技術思想が記載されていないから、甲1Cの記載に接した当業者が、甲1C発明において、式1の値が「4.4以上」かつ「5.6以下」となるように、ポリテトラフルオロエチレン、カーボンブラック、アンチモン系難燃助剤の含有量を調節することが動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明1は、式1の値を「4.4以上」かつ「5.6以下」とすることによって、2回目の接炎後の燃焼時間とグローイング時間の合計が短く、燃焼性に優れるという効果を発揮するものである(【0063】の実施例1~14と比較例3~8の結果を参照)。
したがって、相違点1-1-2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人Dの主張について
申立人Dは、令和5年12月13日付けの意見書において、主に以下の点を主張する。
(ア)「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)として三酸化アンチモンを含み、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であり、
アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.05molであり、
フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部であり、
カーボンブラック(E)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して2.6質量部であり、
オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して65質量部である、
難燃性樹脂組成物X」は、式1の値が5.5となり、本件発明1の範囲に含まれるが、このように難燃剤の含有量が少なく、カーボンブラックの含有量が多く、かつ、オレフィン系エラストマー(F)の含有量が多い樹脂組成物Xは、オレフィン系エラストマー(F)の含有量以外は、本件明細書の比較例5に近い組成となっており、比較例5のグローイング時間が長くなっていることを考慮すると、難燃性に劣る結果となることは明らかである。
すなわち、本件発明1で規定する範囲は広く、その値を満たすときにグローイング時間が短く難燃性に優れる樹脂組成物が得られるとする技術的根拠が見いだせないから、甲1Cから新規性があるとしても、進歩性を肯定する理由がない。
(イ)特許権者が主張しているグローイング時間が短く難燃性に優れるという効果は、各種甲号証に記載されたものであり、格別な効果ではない。
甲1C発明は、UL94規格の難燃性評価がV-0であり、短いグローイング時間を達成している。
そこでまず主張(ア)について検討すると、本件明細書の比較例5は、
「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)として五酸化アンチモンを含み、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.22molであり、
アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.09molであり、
フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.2質量部であり、
カーボンブラック(E)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して2.7質量部である、
難燃性樹脂組成物」
であるが、この組成物は、アンチモン化合物の種類と、アンチモン原子の含有量において、明らかに樹脂組成物Xとは異なるものである。
したがって、樹脂組成物Xが比較例5と同様にグローイング時間が長くなるとの主張は採用できない。
次に主張(イ)について検討すると、上記イで示したように、甲1Cには式1の値が「4.4以上」かつ「5.6以下」となるように調節する技術思想が記載されていないから、甲1Cの記載に接した当業者が、甲1C発明において、式1の値が「5.6以下」となる範囲で「4.4以上」になるように各成分の配合量を調節することが動機付けられるとはいえない。
よって、申立人Dの主張は採用することができない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は甲1Cに記載された発明であるとも、また甲1Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、取消理由1,申立理由C-1-1、C-2-1、D-1-1、D-2-2によっては、本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明2~7について
本件発明2~7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1Cに記載された発明であるとも、また甲1Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2~7についても、甲1Cに記載された発明であるとも、また甲1Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、取消理由1,申立理由C-1-1、C-2-1、D-1-1、D-2-2によっては、本件発明2~7についての特許を取り消すことはできない。
(4)本件発明8について
ア 本件発明8と甲1C発明との対比
本件発明8を(2)アで検討した点も踏まえて甲1C発明と対比すると、両者は以下の点で相違する。
<相違点1-8-1>
本件発明8では、「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.08mol以上」であり、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.8~2.7質量部」であり、かつ、「以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100)(当審注:記号の説明は省略)」を満たすものであるのに対し、
甲1C発明では、式1は満たすものの、「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.07mol」であり、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.7質量部」である点
<相違点1-8-2>
本件発明8では
「オレフィン系エラストマー(F)を含み
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部であ」るのに対し、甲1C発明では「オレフィン系エラストマー(F)」を含まない点
<相違点1-8-3>
「アンチモン化合物(C)」が、本件発明8では「五酸化アンチモン及びアンチモン酸ナトリウムから選択される1以上を含む」のに対し、甲1C発明では「三酸化アンチモン(山中産業社製:GMA,Sb2O3:99.84%)」を含む点
イ 相違点についての判断
相違点1-8-1について検討する。
(2)イで言及したのと同様の理由により、甲1Cには、式1について記載がなく、その値を5.6以下にするという技術思想についての記載がない。
また、甲1Cには、アンチモン系難燃助剤の含有量についての記載があるものの(【0069】)、「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量」を「0.08mol以上」とする技術思想については記載がない。
よって、式1の値を「5.6以下」となるように調節する技術思想や、「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量」を「0.08mol以上」とする技術思想について記載がない甲1Cに接した当業者が、甲1C発明のポリテトラフルオロエチレンや三酸化アンチモン中のアンチモン原子の含有量を、式1の値が「5.6以下」となる範囲で、本件発明8で特定される範囲に調節することが動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明8は、式1の値を「5.6以下」とすることによって、2回目の接炎後の燃焼時間とグローイング時間の合計が短く、燃焼性に優れるという効果を発揮するものである(【0063】の実施例1~14と比較例3~8の結果を参照)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は甲1Cに記載された発明であるとも、また、甲1Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、取消理由1、申立理由C-1-1、C-2-1、D-1-1、D-2-2によっては、本件発明8についての特許を取り消すことはできない。
(5)本件発明9について
ア 本件発明9と甲1C発明との対比
甲1C発明の「ポリテトラフルオロエチレン」は「滴下防止剤」であるから、このことは本件発明9の「フッ素樹脂(D)が滴下防止性能を有する」ことに相当する。
したがって、本件発明9と甲1C発明を、上記(2)アで検討した点も踏まえて対比すると、両者は以下の点で相違する。
<相違点1-9-1>
「難燃性樹脂組成物」が、本件発明9では、「但し、スチレン系樹脂を除く」ものであるのに対し、甲1C発明では「ABS樹脂(UMG社製:BX201)」を含む点
<相違点1-9-2>
本件発明1では
「オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部であ」るのに対し、甲1C発明は、「オレフィン系エラストマー(F)」を含まない点
イ 相違点についての判断
相違点1-9-1について検討する。
甲1Cはその請求項1に記載されるように、「スチレン系共重合体(B)」を必須成分として含む発明に関するものであり、【0008】に記載されるように、「耐衝撃性、耐熱老化性、低ソリ性、耐加水分解性、難燃性、耐候性、外観等に優れ、電力計外装用として使用されるためのポリエステル樹脂組成物を提供すること」を目的とするものである。
そして、甲1Cには、スチレン系共重合体の例としてABS樹脂が記載され(【0021】)、スチレン系樹脂含有量が20質量部を下回ると成形品の反りが大きくなる場合があり、80質量部を上回ると耐熱性が低下する傾向にあるから、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、スチレン系樹脂を20~80質量部配合することも記載されている(【0032】)。
そうすると、「低ソリ性」に優れた組成物を提供する甲1C発明は、ABS樹脂などの「スチレン系共重合体(B)」を含むことが必須の要件であると認められ、「スチレン系共重合体(B)」を除く動機付けがあるとはいえないから、甲1C発明において「スチレン系樹脂を除く」という構成を採用することは、当業者が容易に想到することではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は甲1Cに記載された発明であるとも、また、甲1Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、取消理由1、申立理由C-1-1、C-2-1、D-1-1によっては、本件発明9についての特許を取り消すことはできない。
(6)本件発明10について
ア 本件発明10と甲1C発明との対比
本件発明10と甲1C発明を、上記(2)アで検討した点も踏まえて対比すると、両者は以下の点で相違する。
<相違点1-10-1>
「難燃性樹脂組成物」が、本件発明10では、「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤、フッ素樹脂(D)カーボンブラック(E)、及びオレフィン系エラストマー(F)からなり、但し、充填剤(G)、安定剤、滑剤、離型剤、臭素系難燃剤(B)以外の難燃剤、難燃助剤、結晶化核剤、カーボンブラックを除く着色剤、潤滑剤、可塑剤、フッ素樹脂以外のドリッピング防止剤、酸化防止剤、及び熱安定剤ら選択される1以上を含んでいてもよ」いものであるのに対し、甲1C発明では、(A)~(E)に相当する成分と、「安定剤」「離型剤」「充填剤」を含み、さらに「充填剤(G)、安定剤、滑剤、離型剤、臭素系難燃剤(B)以外の難燃剤、難燃助剤、結晶化核剤、カーボンブラックを除く着色剤、潤滑剤、可塑剤、フッ素樹脂以外のドリッピング防止剤、酸化防止剤、及び熱安定剤ら選択される1以上」のいずれにも該当しない「ABS樹脂(UMG社製:BX201)」を含む点
<相違点1-10-2>
本件発明1では
「オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部であ」るのに対し、甲1C発明は、「オレフィン系エラストマー(F)」を含まない点
<相違点1-10-3>
本件発明10では、「カーボンブラック(E)のフタル酸ジブチル吸油量が350cm3/100g以下である」のに対し、甲1C発明ではその値が不明な点
イ 相違点についての判断
相違点1-10-1について検討する。
上記(5)イで検討したのと同様の理由により、甲1C発明において、必須成分とされるABS樹脂を含まないものとすることは、当業者に動機付けられることではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明10は甲1Cに記載された発明であるとも、また、甲1Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、取消理由1、申立理由C-1-1、C-2-1、D-1-1によっては、本件発明10についての特許を取り消すことはできない。
2 申立理由A-1(甲1Aによる新規性)、A-2(甲1Aによる進歩性)、D-1-4(甲1Aによる新規性)、D-2-4(甲1Aによる進歩性)について
申立理由A-1、A-2、D-1-4、D-2-4は、いずれも甲1Aを引用文献とするものであるから、まとめて検討する。
(1)甲1Aに記載された発明
甲1Aには、0.35mm厚におけるUL94垂直燃焼試験による難燃性がV-0であるポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物について記載があり(請求項1)、その具体例が【0124】の表3に実施例1~8として記載されている。
実施例で用いられた各成分の詳細は【0115】の表1に記載されており、0.35mm厚におけるUL94垂直燃焼試験による難燃性がV-0であれば「難燃性」であるといえるから、実施例8に着目すると、甲1Aには、以下の発明(「甲1A発明」という。)が記載されている。
「ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製:ノバデュラン5008)を50質量部、ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製:ノバデュラン5007)を50質量部、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂(阪本薬品工業社製:SRT-5000,臭素濃度52質量%)を29質量部、三酸化アンチモン(鈴裕化学社製 AT3-CN、Sb濃度82.5%)を9.4質量部、硼酸亜鉛を2.1質量部、離型剤0.6質量部、安定剤0.6質量部、ガラス繊維63質量部、カーボンブラックマスターバッチ(カーボンブラック20質量%とポリブチレンテレフタレート樹脂(ノバデュラン5008)80質量%の混合物)4.2質量部を含む、0.35mm厚におけるUL94垂直燃焼試験による難燃性がV-0である難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1A発明との対比
甲1A発明の「ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製:ノバデュラン5008)」、「ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製:ノバデュラン5007)」は、いずれも本件発明1の「ポリアルキレンテレフタレート樹脂」に相当する。
甲1A発明の、「テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂(阪本薬品工業社製:SRT-5000,臭素濃度52質量%)」は、甲1Aの【0025】の「臭素系難燃剤」に挙げられている「臭素化エポキシ化合物」に相当するものであるから、本件発明1の「臭素系難燃剤」に相当する。
甲1A発明の「三酸化アンチモン(鈴裕化学社製 AT3-CN、Sb濃度82.5%)」は本件発明1の「アンチモン化合物」に相当する。
甲1A発明の臭素原子の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製:ノバデュラン5008,5007)の合計100質量部に対して、29(質量部)×52(質量%)/100=15.08質量部であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂を100gとすると、15.08gになるから、臭素の原子量79.9をもとにモルに換算すると約0.19molとなる。
また、アンチモン原子の含有量を同様に求めると、ポリブチレンテレフタレート樹脂100gに対して、9.4(g)×82.5(%)/100=7.76gとなり、アンチモンの原子量121.76をもとにモルに換算すると約0.06molとなる。
また、甲1A発明の組成物は、本件発明1の「フッ素樹脂」を含まないから、その含有量は0質量部であり、カーボンブラックの含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、4.2(質量部)×20(質量%)/100=0.84質量部となる。
次に、甲1A発明の、本件発明1の式1の値について計算する。
dの値は、フッ素樹脂を含有しないから0となる。
eの値は、カーボンブラックの含有量であるから、上記のとおり0.84である。
cの値は、アンチモン原子の含有量であるから、上記のとおり0.06である。
c’の値は、82.5である。
よって、これらの値から式1の値を計算すると、0.84×2+0.06×2/(82.5/100)=1.83となる。
そうすると、本件発明1と甲1A発明とは、
「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)を含み、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であり、
アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.05mol以上であり、
カーボンブラック(E)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.3~2.7質量部であり、かつ、
以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100) (式1)
(但し、
d:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂(D)の含有量(質量部)
e:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(E)の含有量(質量部)
c:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量(mol)
c’:アンチモン化合物(C)中のアンチモン原子の含有量(質量%)
である)
を満たす、難燃性樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1-1>
本件発明1は、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤」を含むのに対し、甲1A発明は「三酸化アンチモン(鈴裕化学社製 AT3-CN、Sb濃度82.5%)」、すなわち「アンチモン化合物」を含むものの、それが「難燃助剤」であるか否か、また、難燃助剤が「アンチモン化合物からなる」か否かが不明な点
<相違点2-1-2>
本件発明1では、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」であり、かつ、「式1の値が4.4以上」「5.6以下」であるのに対し、甲1A発明ではフッ素樹脂を含まず、かつ式1の値を4.4以上、5.6以下とすることの特定がない点
<相違点2-1-3>
本件発明1では、
「オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」
のに対し、甲1A発明は、「オレフィン系エラストマー(F)」を含まない点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2-1-2について検討すると、上記アで述べたように、甲1A発明において式1の値を計算すると1.83になり、本件発明1の範囲を外れる。そして、甲1Aには、式1について記載がなく、その値を4.4以上にすることについても記載がない。よって、本件発明1は甲1Aに記載された発明ではない。
また、甲1Aには、式1のd、e、cに関連する、含フッ素樹脂、カーボンブラック、三酸化アンチモンの含有量についての記載があり(【0053】、【0085】、【0087】)、この含有量の中には式1の値が「4.4以上」「5.6以下」となるような範囲も含まれてはいるものの、甲1Aには式1の値が「4.4以上」かつ「5.6以下」となるように調節する技術思想が記載されていないから、甲1Aの記載に接した当業者が、甲1A発明において、式1の値が「4.4以上」かつ「5.6以下」となるように、含フッ素樹脂を必須成分とした上で、それとカーボンブラック、アンチモン系難燃助剤の含有量を調節することが動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明1は、式1の値を「4.4以上」かつ「5.6以下」とすることによって、2回目の接炎後の燃焼時間とグローイング時間の合計が短く、燃焼性に優れるという効果を発揮するものである(【0063】の実施例1~14と比較例3~8の結果を参照)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は甲1Aに記載された発明であるとも、また甲1Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由A-1、A-2、D-1-4、D-2-4によっては、本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明2~7について
本件発明2~7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1Aに記載された発明であるとも、また甲1Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2~7についても、甲1Aに記載された発明であるとも、また甲1Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、申立理由A-1、A-2、D-1-4、D-2-4によっては、本件発明2~7についての特許を取り消すことはできない。
(4)本件発明9について
ア 本件発明9と甲1A発明との対比
甲1A発明は「スチレン系樹脂」を含むものではないから、これは本件発明9における「(但し、スチレン系樹脂を除く)」ことに相当する。よって、本件発明9を上記(2)アで検討した点も踏まえて甲1A発明と対比すると、両者は以下の点で相違する。
<相違点2-9-1>
本件発明9は、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤」を含むのに対し、甲1A発明は「三酸化アンチモン(鈴裕化学社製 AT3-CN、Sb濃度82.5%)」、すなわち「アンチモン化合物」を含むものの、それが「難燃助剤」であるか否か、また、難燃助剤が「アンチモン化合物からなる」か否かが不明な点
<相違点2-9-2>
本件発明9では、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」であって、「フッ素樹脂(D)が滴下防止性能を有する」ものであり、かつ、「以下の式1:5.6≧2d+2e+2c/(c’/100)」を満たすものであるのに対し、甲1A発明では、式1は満たすものの、フッ素樹脂を含まない点
<相違点2-9-3>
本件発明9では
「オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部であ」るのに対し、甲1A発明は、「オレフィン系エラストマー(F)」を含まない点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2-9-2について検討する。
甲1Aには、式1について記載がなく、その値を5.6以下にするという技術思想についての記載がない。
また、甲1Aには、式1のd、e、cに関連する、含フッ素樹脂、カーボンブラック、三酸化アンチモンの含有量についての記載があり(【0053】、【0085】、【0087】)、この含有量の中には式1の値が「5.6以下」となるような範囲も含まれてはいるものの、甲1Aには式1の値が「5.6以下」となるように調節する技術思想が記載されていないから、甲1Aの記載に接した当業者が、甲1A発明において、式1の値が「5.6以下」となるように、含フッ素樹脂を必須成分とした上で、それとカーボンブラック、アンチモン系難燃助剤の含有量を調節することが動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明9は、式1の値を「5.6以下」とすることによって、2回目の接炎後の燃焼時間とグローイング時間の合計が短く、燃焼性に優れるという効果を発揮するものである(【0063】の実施例1~14と比較例3~8の結果を参照)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は甲1Aに記載された発明であるとも、また、甲1Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由A-1、A-2、D-2-4によっては、本件発明9についての特許を取り消すことはできない。
(5)本件発明10について
本件発明10と甲1A発明を、上記(2)アで検討した点も踏まえて対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
<相違点2-10-1>
本件発明10では、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」であって、かつ、「以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100)」を満たすものであるのに対し、甲1A発明では、式1は満たすものの、フッ素樹脂を含まない点
しかしながら、上記相違点は、上記(4)アで示した相違点2-9-2と実質的に同じものであるから、上記(4)イで示したのと同様の理由により、当業者が容易に想到することではない。
よって、本件発明10は甲1Aに記載された発明であるとも、また、甲1Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由A-2によっては、本件発明10についての特許を取り消すことはできない。
3 申立理由B-4(甲1Bによる新規性)、B-5(甲1Bによる進歩性)について
申立理由B-4、B-5は、いずれも甲1Bを引用文献とするものであるから、まとめて検討する。
(1)甲1Bに記載された発明
甲1Bには、0.35mm厚におけるUL94垂直燃焼試験による難燃性がV-0であるポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物について記載があり(請求項1)、その具体例が【0124】の表3に実施例1~8として記載されている。
実施例で用いられた各成分の詳細は【0115】の表1に記載されており、その実施例8には、甲1Aの実施例8と同じ成分・配合量の組成物が記載されている。
したがって、甲1Bには、その実施例8に着目すると、上記2(1)で示した甲1A発明と同じ発明(以下、「甲1B発明」という。)が記載されているといえる。
(2)本件発明1~7、9、10について
甲1B発明は、上記のとおり甲1A発明と同じである。また、甲1Bの【0053】、【0085】、【0087】には、甲1Aの【0053】、【0085】、【0087】と同様の記載がある。
したがって、本件発明1と甲1B発明との対比、判断については、上記2(2)ア、イで指摘したのと同様のことがいえる。
また、本件発明2~7、9、10と甲1B発明との対比、判断についても、上記2(3)~(5)で指摘したのと同様のことがいえる。
よって、本件発明1~7、9、10は甲1Bに記載された発明であるとも、また甲1Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由B-4、B-5によっては、本件発明1~7、9、10についての特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明8について
本件発明8は、少なくとも「アンチモン化合物(C)が、五酸化アンチモン及びアンチモン酸ナトリウムから選択される1以上を含む」点で、「三酸化アンチモン」を含む甲1B発明と相違し、この相違点は当業者にとって容易に想到することではない。
申立人Bは、特許異議申立書35頁において、甲1Bの【0050】には「本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、(C)三酸化アンチモンを含有する。アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン(Sb2O3)、五酸化アンチモン(Sb2O5)およびアンチモン酸ナトリウム等が挙げられるが、本発明ではこれらの中でも三酸化アンチモンを含有する。」と記載され、三酸化アンチモンが良いが、五酸化アンチモン及びアンチモン酸ナトリウムについても次善のものとして使用の可能性を記載していること、甲1Bには三酸化アンチモンが良い理由については何ら記載されておらず、実施例でも三酸化アンチモンとそれ以外のアンチモン化合物との性能の対比は行っていないから、甲1Bは三酸化アンチモンの代わりに五酸化アンチモンやアンチモン酸ナトリウムを使用することを何ら禁止するものではない旨主張している。
しかしながら、甲1Bは、その請求項1に記載されるように、「三酸化アンチモン」を必須成分とする発明に関するものである。そして、【0050】の記載は、アンチモン化合物には、(三酸化アンチモン以外にも)五酸化アンチモンなども挙げられるが、甲1Bにおいてはこのうち三酸化アンチモンを使用することを述べているにすぎない。
そうすると、「三酸化アンチモン」を必須成分とする甲1B発明において、それを五酸化アンチモンやアンチモン酸ナトリウムに置き換えることは、当業者が容易に想到することではない。
よって、本件発明8は甲1Bに記載された発明であるとも、また甲1Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由B-4、B-5によっては、本件発明8についての特許を取り消すことはできない。
4 申立理由C-1-2(甲2Cによる新規性)、C-2-2(甲2Cによる進歩性)について
申立理由C-1-2、C-2-2は、いずれも甲2Cを引用文献とするものであるから、まとめて検討する。
(1)甲2Cに記載された発明
甲2Cには、「電子機器における外部コネクタを挿入接続するためのコネクタ接続口」に用いられる樹脂材料として、「ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、臭素系難燃剤を30~60質量部、アンチモン化合物を5~15質量部、無機充填材を30~100質量部含有し、結晶化温度が180~193℃であるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物」が記載されており(請求項1)、その具体例が【0085】の表3に実施例7~16として記載されている。
実施例で用いられた各成分の詳細は【0070】の表1に記載されている。これらの実施例の組成物は、請求項1でいう「臭素系難燃剤」を含むものであるから、「難燃性樹脂組成物」であるといえる。
また、甲2Cの【0039】には、アンチモン化合物が「難燃助剤」であることが記載されている。
したがって、実施例8及び【0039】に着目すると、甲2Cには、以下の発明(「甲2C発明」という。)が記載されている。
「ポリブチレンテレフタレート樹脂を100質量部、テトラブロモビスフェノールA系エポキシ化合物(DIC社製:ECX-30,臭素濃度58%)を32.5質量部、テトラブロモビスフェノールA系エポキシ化合物(WOOJIN COPOLYMER社製 CXB3000H 臭素濃度52%)を13.9質量部、難燃助剤である三酸化アンチモン(山中産業社製 GMA アンチモン濃度83.5質量%)を8.2質量部、エラストマー(エチレン-アクリル酸メチル-グリシジルメタクリレートコポリマー)を18.0質量部、離型剤を1.3質量部、安定剤を0.8質量部、カーボンブラックマスターバッチ(カーボンブラック50質量%を含有するアクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂とのマスターバッチ。日本ピグメント社製,商品名EX3531)を5.2質量部、エポキシ化合物を0.5質量部、無機充填剤を77.3質量部含む、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2C発明との対比
甲2C発明の「ポリブチレンテレフタレート樹脂」は、本件発明1の「ポリアルキレンテレフタレート樹脂」に相当する。
甲2C発明の「テトラブロモビスフェノールA系エポキシ化合物(DIC社製:ECX-30,臭素濃度58%)」及び「テトラブロモビスフェノールA系エポキシ化合物(WOOJIN COPOLYMER社製 CXB3000H 臭素濃度52%)」は、本件発明1の「臭素系難燃剤」に相当する。
甲2C発明の「難燃助剤である三酸化アンチモン(山中産業社製 GMA アンチモン濃度83.5質量%)」は本件発明1の「アンチモン化合物」に相当し、甲2C発明には、三酸化アンチモン以外に難燃助剤となるものは含まれていないから、これは本件発明1の「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤」に相当する。
甲2C発明の臭素原子の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100gに対して、32.5(g)×58(%)/100+13.9(g)×52(%)/100=26.08gであり、モルに換算すると約0.33molとなる。
また、アンチモン原子の含有量を同様に求めると、PBT樹脂100gに対して、8.2(g)×83.5(%)/100=6.85gとなり、モルに換算すると約0.06molとなる。
また、甲2C発明の組成物は、本件発明1の「フッ素樹脂」を含まないから、その含有量は0質量部であり、カーボンブラックの含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、5.2×50/100=2.6質量部となる。
次に、甲2C発明の、本件発明1の式1の値について計算する。
dの値は、フッ素樹脂を含有しないから0となる。
eの値は、カーボンブラックの含有量であるから、上記のとおり2.6である。
cの値は、アンチモン原子の含有量であるから、上記のとおり0.06である。
c’の値は、83.5である。
よって、これらの値から式1の値を計算すると、2.6×2+0.06×2/(83.5/100)=5.34となり、本件発明1の式1を満たす。
また、甲2C発明の「エラストマー(エチレン-アクリル酸メチル-グリシジルメタクリレートコポリマー)」は、本件発明1の「オレフィン系エラストマー(F)」に相当し、その含有量はポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して18.0質量部である。
そうすると、本件発明1と甲2C発明とは、
「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であり、
アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.05mol以上であり、
カーボンブラック(E)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.3~2.7質量部であり、かつ、
以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100) (式1)
(但し、
d:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂(D)の含有量(質量部)
e:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(E)の含有量(質量部)
c:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量(mol)
c’:アンチモン化合物(C)中のアンチモン原子の含有量(質量%)
である)
を満たし、
式1の値が4.4以上であり、
オレフィン系エラストマー(F)を含む、
難燃性樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点4-1-1>
本件発明1では、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」であって、かつ、式1の値が「4.4以上」「5.6以下」であるのに対し、甲2C発明では式1の値は満たすものの、フッ素樹脂を含まない点
<相違点4-1-2>
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するオレフィン系エラストマー(F)の含有量が、本件発明1では「26~65質量部」であるのに対し、甲2C発明は、「18質量部」である点
イ 相違点についての判断
相違点4-1-1について検討する。
甲2Cには、フッ素樹脂をポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.1~2.7質量部配合することは記載されていない。
また、甲2Cの【0059】には、効果を損なわない範囲で滴下防止剤を配合しても良いことが記載され、滴下防止剤としてフッ素樹脂は周知のものであるが、上記のとおり甲2Cにはその配合量について記載がない。
そして、甲2C発明は式1の値が「5.34」であり、ここにさらに滴下防止剤であるフッ素樹脂を配合して式1の値を5.6以下とするためには、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、わずか0.13質量部以下(=(5.6-5.34)/2)の配合量にとどめる必要があるところ、甲2Cには、式1について記載がなく、その値を5.6以下にするという技術思想についての記載がないのであるから、このような甲2Cに接した当業者が、甲2C発明において、滴下防止剤である含フッ素樹脂を、式1の値が「5.6以下」となる範囲で配合することが動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明1は、式1の値を「5.6以下」とすることによって、2回目の接炎後の燃焼時間とグローイング時間の合計が短く、燃焼性に優れるという効果を発揮するものである(【0063】の実施例1~14と比較例3~8の結果を参照)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2Cに記載された発明であるとも、また、甲2Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由C-1-2、C-2-2によっては、本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明2~7について
本件発明2~7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲2Cに記載された発明であるとも、また甲2Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2~7についても、甲2Cに記載された発明であるとも、また甲2Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、申立理由C-1-2、C-2-2によっては、本件発明2~7についての特許を取り消すことはできない。
(4)本件発明8について
ア 本件発明8と甲2C発明との対比
本件発明8を上記(2)アで検討した点も踏まえて甲2C発明と対比すると、両者は以下の点で相違する。
<相違点4-8-1>
本件発明8では、「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.08mol以上」であり、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.8~2.7質量部」であって、かつ、「以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100)」を満たすものであるのに対し、
甲2C発明では、式1は満たすものの、「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して約0.06mol」であり、「フッ素樹脂(D)」を含まない点
<相違点4-8-2>
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するオレフィン系エラストマー(F)の含有量が、本件発明8では「26~65質量部」であるのに対し、甲2C発明は、「18質量部」である点
<相違点4-8-3>
「アンチモン化合物(C)」が、本件発明8では「五酸化アンチモン及びアンチモン酸ナトリウムから選択される1以上を含む」のに対し、甲2C発明では「三酸化アンチモン」を含む点
イ 相違点についての判断
相違点4-8-1について検討する。
甲2Cには、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂の含有量を「0.8~2.7質量部」とすることは記載されていない。
また、甲2Cの【0059】には、効果を損なわない範囲で滴下防止剤を配合しても良いことが記載され、滴下防止剤としてフッ素樹脂は周知のものであるが、上記のとおり甲2Cにはその配合量について記載がない。
そして、甲2C発明は式1の値が「5.34」であり、ここにさらに滴下防止剤であるフッ素樹脂を、本件発明8の下限値である、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.8質量部配合した場合には、式1の値が2d、すなわち1.6上昇して6.94となり、5.6を超えることになる。
また、甲2Cには、式1について記載がなく、その値を5.6以下にするという技術思想についての記載がないのであるから、このような甲2Cに接した当業者が、甲2C発明において、滴下防止剤である含フッ素樹脂をポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して「0.8~2.7質量部」配合することに加えて、式1の値が「5.6以下」となるように、他の成分の配合量を減らすことが、動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明8は、式1の値を「5.6以下」とすることによって、2回目の接炎後の燃焼時間とグローイング時間の合計が短く、燃焼性に優れるという効果を発揮するものである(【0063】の実施例1~14と比較例3~8の結果を参照)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は甲2Cに記載された発明であるとも、また、甲2Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由C-1-2、C-2-2によっては、本件発明8についての特許を取り消すことはできない。
(5)本件発明9について
ア 本件発明9と甲2C発明との対比
本件発明9を上記(2)アで検討した点も踏まえて甲2C発明と対比すると、両者は以下の点で相違する。
<相違点4-9-1>
本件発明9では、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」であり、「フッ素樹脂(D)が滴下防止性能を有する」ものであり、かつ、「式1の値」が「4.4以上」「5.6以下」であるのに対し、甲2C発明では式1の値は満たすものの、フッ素樹脂を含まない点
<相違点4-9-2>
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するオレフィン系エラストマー(F)の含有量が、本件発明9では「26~65質量部」であるのに対し、甲2C発明は、「18質量部」である点
<相違点4-9-3>
本件発明9の難燃性樹脂組成物は「但し、スチレン系樹脂を除く」ものであるのに対し、甲2C発明ではカーボンブラックマスターバッチ中に「アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂」を含む点
イ 相違点についての判断
相違点4-9-1について検討すると、上記(2)アで指摘した相違点4-1-1と同様であるから、上記(2)イで述べたのと同様の理由により、当業者が容易に想到することではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は甲2Cに記載された発明であるとも、また、甲2Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由C-1-2、C-2-2によっては、本件発明9についての特許を取り消すことはできない。
(6)本件発明10について
本件発明10と甲2C発明を、上記(2)アで検討した点も踏まえて対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
<相違点4-10-1>
本件発明10では、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」であって、かつ、式1の値が「5.6以下」であるのに対し、甲2C発明では式1の値は満たすものの、フッ素樹脂を含まない点
しかしながら、この相違点は、上記(2)アで指摘した相違点4-1-1と同様のものであるから、上記(2)イで述べたのと同様に判断される。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明10は甲2Cに記載された発明であるとも、また、甲2Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由C-1-2、C-2-2によっては、本件発明10についての特許を取り消すことはできない。
5 申立理由D-1-2(甲3Dによる新規性)、D-2-1(甲3Dによる進歩性)について
申立理由D-1-2、D-2-1は、いずれも甲3Dを引用文献とするものであるから、まとめて検討する。
(1)甲3Dに記載された発明
甲3Dには、「ポリブチレンテレフタレート(A)100質量部に対し、エラストマー(B)を2~22質量部、カーボンブラック(C)を0.01質量部以上含有するポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を成形してなる成形体であって、
成形体の表層部において、エラストマー(B)の相は分散しており、かつ、その分散相は、各分散相の最大径をR、最大径Rに垂直な方向の径のうちの最大径をrとするとき、R/rが平均で8以下であることを特徴とする漆黒性に優れたポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物成形体。」が記載されており(請求項1)、さらに「アンチモン化合物(F)」を含むことも記載されている(請求項4)。
そして、その具体例が【0139】の表2に実施例1~10として記載され、実施例で用いられた各成分の詳細は【0124】の表1に記載されている。
また、【0078】には、「アンチモン化合物(F)」は「難燃助剤」であることが記載されている。
したがって、実施例3及び【0078】、【0079】に着目すると、甲3Dには、以下の発明(「甲3D発明」という。)が記載されている。
「ポリブチレンテレフタレート(ノバデュラン5009)を70質量部、アクリル系エラストマーを10質量部、カーボンブラック(三菱化学社製 三菱カーボンブラック#45)を0.26質量部、ポリカーボネート樹脂を30質量部、難燃剤として臭素化ポリカーボネート(三菱瓦斯化学社製:FR-53,臭素濃度58質量%)を22質量部、難燃助剤であるアンチモン化合物として酸化ナトリウムと五酸化アンチモンの複塩(日産化学社製「サンエポックNA-1030」)を9質量部、ドリップ抑制剤としてポリテトラフルオロエチレンを0.29質量部、安定剤としてシブロ化成社製 シーノックス412Sを0.29質量部、安定剤としてADEKA社製 アデカスタブAX-71を0.14質量部、離型剤を0.72質量部、核剤を0.72質量部、染顔料を0.20質量部含む、UL94規格の難燃性評価がV-0である難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3D発明との対比
甲3D発明の「ポリブチレンテレフタレート(ノバデュラン5009)」は、本件発明1の「ポリアルキレンテレフタレート樹脂」に相当する。
甲3D発明の「臭素化ポリカーボネート(三菱瓦斯化学社製:FR-53,臭素濃度58質量%)」は、本件発明1の「臭素系難燃剤」に相当する。
甲3D発明の「難燃助剤であるアンチモン化合物」としての「酸化ナトリウムと五酸化アンチモンの複塩(日産化学社製「サンエポニック」)は、甲3Dの【0079】に「アンチモン化合物(F)」である「五酸化アンチモン」が、他の金属酸化物との複塩であることが好ましい旨記載されていることを考慮すると、複塩全体が「アンチモン化合物」であるといえるから、本件発明1の「アンチモン化合物からなる難燃助剤」に相当する。
甲3D発明の「ポリテトラフルオロエチレン」は本件発明1の「フッ素樹脂」に相当する。
甲3D発明の臭素原子の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100gに換算すると、22(g)×58(%)/100×100/70(g)=18.23gであり、モルに換算すると約0.23molとなる。
また、カーボンブラックの含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.26(質量部)×100/70(質量部)=0.37質量部となる。
甲3D発明において、アンチモン原子の含有量は明らかでない。
しかしながら、甲4Dの記載によれば、日産化学社製「サンエポックNA-1030」は、五酸化アンチモンを80.5~84.5質量%の割合で含むものであるから、これをもとにポリブチレンテレフタレート樹脂100gあたりの五酸化アンチモンの含有量を計算すると、
9(g)×(80.5~84.5)(質量%)/100×100/70(g)=10.35~10.86gとなり、アンチモンの原子量(121.76)、酸素の原子量(16)をもとにアンチモン原子の含有量を計算すると、
(10.35~10.86)(g)×(2×121.76)/(2×121.76+5×16)=7.79~8.18gとなり、モルに換算すると約0.064~0.067molになる。
次に、甲3D発明の、本件発明1の式1の値について計算する。
dの値は、フッ素樹脂の含有量であり、0.29×100/70=0.41となる。
eの値は、カーボンブラックの含有量であるから、上記のとおり0.37である。
cの値は、アンチモン原子の含有量であるから、上記のとおり0.064~0.067である。
c’の値は、(80.5~84.5)(%)×(2×121.76)/(2×121.76+5×16)=60.6~63.6であり、c/(c’/100)の値は、下限と上限のどちらを採用しても約0.105となる。
よって、これらの値から式1の値を計算すると、0.41×2+0.37×2+2×0.105=約1.77となる。
また、甲3D発明の「アクリル系エラストマー」は、「エラストマー」である限りにおいて本件発明1の「オレフィン系エラストマー(F)」と一致する。
そして、甲3Dの「アクリル系エラストマー」の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、10(質量部)×100/70(質量部)=約14.3質量部となる。
そうすると、本件発明1と甲3D発明とは、
「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であり、
アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.05mol以上であり、
フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部であり、
カーボンブラック(E)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.3~2.7質量部であり、かつ、
以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100) (式1)
(但し、
d:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂(D)の含有量(質量部)
e:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(E)の含有量(質量部)
c:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量(mol)
c’:アンチモン化合物(C)中のアンチモン原子の含有量(質量%)
である)
を満たし、
エラストマーを含む、
難燃性樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点5-1-1>
本件発明1では「式1の値が4.4以上」であるのに対し、甲3D発明ではそのような特定がない点
<相違点5-1-2>
「エラストマー」が、本件発明1では「オレフィン系エラストマー」であって、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対する含有量が「26~65質量部」であるのに対し、甲3D発明は、「アクリル系エラストマー」であって、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対する含有量を「26~65質量部」とすることについて特定がない点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点5-1-2について検討する。
甲3Dの【0024】には、エラストマー(B)の具体例として「オレフィン系エラストマー」に相当する「エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとの共重合体」が記載されている。
しかしながら、甲3Dの【0035】には、「エラストマー(B)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート(A)100質量部に対し、2~22質量部である。エラストマー(B)の含有量が2質量部未満では、耐衝撃性の改良効果が小さく、22質量部を越えると耐熱性や剛性が低下する。」と記載されており、上記アで述べたように、甲3D発明における配合量も「14.3質量部」にすぎない。
そうすると、甲3Dにエラストマーの例としてオレフィン系エラストマーが記載されていても、甲3Dにはその含有量がポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して22質量部を越えると耐熱性や剛性が低下することが記載されているのであるから、その含有量を「26~65質量部」とすることは当業者に動機付けられることではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲3Dに記載された発明であるとも、また、甲3Dに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由D-1-2、D-2-1によっては、本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明2~7について
本件発明2~7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲3Dに記載された発明であるとも、また甲3Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2~7についても、甲3Dに記載された発明であるとも、また甲3Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、申立理由D-1-2、D-2-1によっては、本件発明2~7についての特許を取り消すことはできない。
(4)本件発明8~10について
上記(2)アで検討した点を踏まえ、本件発明8~10と甲3D発明とを対比すると、少なくとも上記(2)アで示した相違点5-1-2で相違することは明らかであり、その相違点については、上記(2)イで述べたのと同様に判断される。
よって、申立理由D-1-2、D-2-1によっては、本件発明8~10についての特許を取り消すことはできない。
6 申立理由D-1-3(甲5Dによる新規性)、D-2-3(甲5Dによる進歩性)について
申立理由D-1-3、D-2-3は、いずれも甲5Dを引用文献とするものであるから、まとめて検討する。
(1)甲5Dに記載された発明
甲5Dには、「(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、(B)臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリカーボネート化合物、及び、臭素化ポリスチレン化合物からなる群から選択される、異なる少なくとも2つ以上の臭素系難燃剤を合計で30~60質量部、(C)アンチモン化合物を5~15質量部、(D)エラストマーを5~30質量部、及び(E)離型剤を0.5~3質量部含有することを特徴とするポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。」が記載されており(請求項1)、その具体例が【0112】~【0113】の表2,表3に実施例1~24として記載されている。
実施例で用いられた各成分の詳細は【0099】の表1に記載されており、実施例の組成物はいずれも甲5Dの請求項1で規定された臭素系難燃剤を含むものであるから、「難燃性樹脂組成物」であるといえる。
また、【0035】には、「(C)アンチモン化合物」が難燃助剤であることが記載されている。
そうすると、実施例1及び【0035】の記載に着目すると、甲5Dには、以下の発明(「甲5D発明」という。)が記載されている。
「ポリブチレンテレフタレート樹脂を100質量部、臭素系難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA系エポキシ化合物を46.4質量部(DIC社製 ECX-30(臭素濃度58%)を37.1質量部と、WOOJIN COPOLYMER社製 CXB3000H(臭素濃度52%)を9.3質量部)、難燃助剤である三酸化アンチモン(山中産業社製 GMA アンチモン濃度83.5質量%)を8.2質量部、エチレン-アクリル酸メチル-グリシジルメタクリレートコポリマーであるエラストマー(アルケマ社製 ロタダーGMA)を18.0質量部、離型剤を1.3質量部、安定剤を0.8質量部、カーボンブラックマスターバッチ(カーボンブラック50質量%を含有するアクリロニトリル-スチレン共重合樹脂とのマスターバッチ 日本ピグメント社製 EX3531)を5.2質量部、エポキシ化合物を0.5質量部、無機充填剤を77.3質量部含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲5D発明との対比
甲5D発明の「ポリブチレンテレフタレート樹脂」は、本件発明1の「ポリアルキレンテレフタレート樹脂」に相当する。
甲5D発明の「テトラブロモビスフェノールA系エポキシ化合物」は、本件発明1の「臭素系難燃剤」に相当する。
甲5D発明の「三酸化アンチモン(山中産業社製 GMA アンチモン濃度83.5質量%)」は本件発明1の「アンチモン化合物」に相当し、甲5D発明の組成物には三酸化アンチモン以外に難燃助剤となるものは含まれていないから、これは本件発明1の「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤」に相当する。
甲5D発明の臭素原子の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100gに対して、37.1(g)×58(%)/100+9.3(g)×52(%)/100=26.35gであり、モルに換算すると約0.33molとなる。
また、アンチモン原子の含有量を同様に求めると、ポリブチレンテレフタレート樹脂100gに対して、8.2(g)×83.5(%)/100=6.85gとなり、モルに換算すると約0.06molとなる。
また、甲5D発明の組成物は、本件発明1の「フッ素樹脂」を含まないから、その含有量は0質量部であり、カーボンブラックの含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、5.2(質量部)×50(質量%)/100=2.6質量部となる。
次に、甲5D発明の、本件発明1の式1の値について計算する。
dの値は、フッ素樹脂を含有しないから0となる。
eの値は、カーボンブラックの含有量であるから、上記のとおり2.6である。
cの値は、アンチモン原子の含有量であるから、上記のとおり0.06である。
c’の値は、83.5である。
よって、これらの値から式1の値を計算すると、2.6×2+0.06×2/(83.5/100)=5.34となり、本件発明1の式1を満たす。
また、甲5D発明の「エチレン-アクリル酸メチル-グリシジルメタクリレートコポリマーであるエラストマー(アルケマ社製 ロタダーGMA)」は、本件発明1の「オレフィン系エラストマー(F)」に相当し、その含有量はポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して18.0質量部である。
そうすると、本件発明1と甲5D発明とは、
「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤を含み、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であり、
アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.05mol以上であり、
カーボンブラック(E)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.3~2.7質量部であり、かつ、
以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100) (式1)
(但し、
d:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂(D)の含有量(質量部)
e:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(E)の含有量(質量部)
c:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量(mol)
c’:アンチモン化合物(C)中のアンチモン原子の含有量(質量%)
である)
を満たし、
式1の値が4.4以上であり、
オレフィン系エラストマー(F)を含む、
難燃性樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点6-1-1>
本件発明1では、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部」であって、かつ、式1の値が「4.4以上」「5.6以下」であるのに対し、甲5D発明では式1の値は満たすものの、フッ素樹脂を含まない点
<相違点6-1-2>
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するオレフィン系エラストマー(F)の含有量が、本件発明1では「26~65質量部」であるのに対し、甲5D発明は、そのような特定がない点
イ 相違点についての判断
相違点6-1-1について検討する。
甲5Dには、フッ素樹脂をポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.1~2.7質量部配合することは記載されていない。
また、甲5Dの【0085】には、効果を損なわない範囲で滴下防止剤を配合しても良いことが記載され、滴下防止剤としてフッ素樹脂は周知のものであるが、上記のとおり甲5Dにはその配合量について記載がない。
そして、甲5D発明は式1の値が「5.34」であり、ここにさらに滴下防止剤であるフッ素樹脂を配合して式1の値を5.6以下とするためには、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、わずか0.13質量部以下(=(5.6-5.34)/2)の配合量にとどめる必要があるところ、甲5Dには、式1について記載がなく、その値を5.6以下にするという技術思想についての記載がないのであるから、このような甲5Dに接した当業者が、甲5D発明において、滴下防止剤である含フッ素樹脂を、式1の値が「5.6以下」となる範囲で配合することが動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明1は、式1の値を「5.6以下」とすることによって、2回目の接炎後の燃焼時間とグローイング時間の合計が短く、燃焼性に優れるという効果を発揮するものである(【0063】の実施例1~14と比較例3~8の結果を参照)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲5Dに記載された発明であるとも、また、甲5Dに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由D-1-3、D-2-3によっては、本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明2、3、6、7について
本件発明2、3、6、7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲5Dに記載された発明であるとも、また甲5Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2、3、6、7についても、甲5Dに記載された発明であるとも、また甲5Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、申立理由D-1-3、D-2-3によっては、本件発明2、3、6、7についての特許を取り消すことはできない。
(4)本件発明8について
ア 本件発明8と甲5D発明との対比
本件発明8を上記(2)アで検討した点も踏まえて甲5D発明と対比すると、両者は以下の点で相違する。
<相違点6-8-1>
本件発明8では、「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.08mol以上」であり、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.8~2.7質量部」であって、かつ、「以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100)」を満たすものであるのに対し、甲5D発明では、式1は満たすものの、「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して約0.06mol」であり、「フッ素樹脂(D)」を含まない点
<相違点6-8-2>
ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するオレフィン系エラストマー(F)の含有量が、本件発明8では「26~65質量部」であるのに対し、甲5D発明は、「18質量部」である点
<相違点6-8-3>
「アンチモン化合物(C)」が、本件発明8では「五酸化アンチモン及びアンチモン酸ナトリウムから選択される1以上を含む」のに対し、甲5D発明では「三酸化アンチモン」を含む点
イ 相違点についての判断
相違点6-8-1について検討する。
甲5Dには、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂の含有量を「0.8~2.7質量部」とすることや、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するアンチモン原子の含有量を「0.08mol以上」とすることは記載されていない。
また、甲5Dの【0085】には、効果を損なわない範囲で滴下防止剤を配合しても良いことが記載され、滴下防止剤としてフッ素樹脂は周知のものであるが、上記のとおり甲5Dにはその配合量について記載がない。
そして、甲5D発明は式1の値が「5.34」であり、ここにさらに滴下防止剤であるフッ素樹脂を、本件発明8の下限値である、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.8質量部配合した場合には、式1の値が2d、すなわち1.6上昇して6.94となり、5.6を超えることになる。
また、甲5Dには、式1について記載がなく、その値を5.6以下にするという技術思想についての記載もないのであるから、このような甲5Dに接した当業者が、甲5D発明において、滴下防止剤である含フッ素樹脂をポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して「0.8~2.7質量部」配合することに加えて、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するアンチモン原子の含有量を「0.08mol以上」としたうえで、さらに式1の値が「5.6以下」となるように、他の成分の配合量を減らすことが、動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明8は、式1の値を「5.6以下」とすることによって、2回目の接炎後の燃焼時間とグローイング時間の合計が短く、燃焼性に優れるという効果を発揮するものである(【0063】の実施例1~14と比較例3~8の結果を参照)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は甲5Dに記載された発明であるとも、また、甲5Dに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由D-1-3、D-2-3によっては、本件発明8についての特許を取り消すことはできない。
7 申立理由D-1-5(甲7Dによる新規性)について
(1)甲7Dに記載された発明
甲7Dには、「固有粘度が0.60~1.20の熱可塑性芳香族ポリエステル100重量部と、ポリオレフィン100重量%に下記一般式(I)
【化1】
[図:0001411233000001.jpg]
(式中、RはH又は炭素数1~6のアルキル基であり、Arはグリシジルオキシ基を少なくとも1つ有する炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、nは1~4の整数を表す。)で表されるグリシジル化合物0.01~30重量%をグラフト重合してなる変性ポリオレフィンであって、270℃での見掛けの剪断速度5000sec-1における見かけの熔融粘度が50~250の範囲にあり、かつ該熱可塑性芳香族ポリエステルの見掛けの熔融粘度に対する比が1~2.5にある変性ポリオレフィン1~30重量部と、臭素化ビスフェノールA系難燃剤及び/又は臭素で核置換されたフェニル基を有するビニル系ポリマー難燃剤1~30重量部とを熔融混合して得られる難燃性ポリエステル樹脂組成物。」が記載されており(請求項1)、その具体例が【0041】,【0042】の表1,表2に実施例1~3として記載されている。
実施例1に着目すると、甲7Dには、以下の発明(「甲7D発明」という。)が記載されている。
「ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(TRB-J)を44.0質量部、変性ポリオレフィン(RX1020-1)を7.59質量部、ガラス繊維(T-122H)を30.0質量部、難燃剤(F2300H)を13.0質量部、難燃助剤(NA1030)を4.0質量部、難燃助剤フルオンを0.3質量部、安定剤(Irg.1010)を0.2質量部、DHT-4A-2を0.3質量部、KOAcを0.01質量部、離型剤(Wax E)を0.3質量部、着色剤(MA600B)を0.3質量部含む、UL94規格がV-0である難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲7D発明との対比
甲7D発明の「ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂」は、本件発明1の「ポリアルキレンテレフタレート樹脂」に相当する。
甲7D発明の「難燃剤(F2300H)」は、甲9Dの「難燃剤」の「臭素化エポキシ F-2300H」の項目によれば、臭素含有量51~53%の臭素化エポキシ化合物であるから、本件発明1の「臭素系難燃剤」に相当する。
甲7D発明の「難燃助剤(NA1030)」は、甲4Dの「NA-1030」の項目より、五酸化アンチモンを80.5~84.5質量%を含む五酸化アンチモンと酸化ナトリウムとの複塩であるから、本件発明1の「アンチモン化合物」に相当する。
甲7D発明の臭素原子の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100gに対して、100/44.0×13.0(g)×(51~53)(%)/100=15.07~15.66gであり、モルに換算すると約0.19~0.20molとなる。
また、五酸化アンチモンの含有量を求めると、ポリブチレンテレフタレート樹脂100gに対して、100/44×4(g)×(80.5~84.5)(質量%)/100=7.32~7.68gとなり、アンチモンの原子量(121.76)、酸素の原子量(16)をもとにアンチモン原子の含有量を計算すると、(7.32~7.68)(g)×(2×121.76)/(2×121.76+5×16)=5.51~5.78gとなり、モルに換算すると約0.045~0.0475molになる。
また、甲7D発明の「難燃助剤フルオン」は、甲10Dの【0061】に「ポリテトラフルオロエチレン:旭硝子(株)製、フルオンCD-076」と記載されていることからみて、「ポリテトラフルオロエチレン」であり、本件発明1の「フッ素樹脂」に相当し、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対する含有量は0.3(質量部)×100/44(質量部)=0.68質量部となる。
そして、甲7D発明の「着色剤(MA600B)」は、甲11Dの【0050】の表1において、比較例1で使用されているカーボンブラックが三菱化成工業(株)の「MA600B」とされていることからみて、本件発明1の「カーボンブラック」に相当するものであり、その含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.3(質量部)×100/44=0.68質量部となる。
次に、甲7D発明の、本件発明1の式1の値について計算する。
dの値は、フッ素樹脂の含有量であるから、上記のとおり0.68である。
eの値は、カーボンブラックの含有量であるから、上記のとおり0.68である。
cの値は、上記のとおり0.045~0.0475であり、c’の値は、アンチモン化合物(NA-1030)中のアンチモン原子の質量%であるから、5(2)アと同様に60.6~63.6であり、c/(c’/100)の値は、下限と上限のどちらを採用しても約0.056となる。
よって、これらの値から式1の値を計算すると、0.68×2+0.68×2+2×0.056=2.83となり、本件発明1の式1を満たす。
そうすると、本件発明1と甲7D発明とは、
「ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)を含み、
臭素原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であり、
フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1~2.7質量部であり、
カーボンブラック(E)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.3~2.7質量部であり、かつ、
以下の式1:
5.6≧2d+2e+2c/(c’/100) (式1)
(但し、
d:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂(D)の含有量(質量部)
e:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(E)の含有量(質量部)
c:ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量(mol)
c’:アンチモン化合物(C)中のアンチモン原子の含有量(質量%)
である)
を満たし、
オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して28~65質量部である、
難燃性樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点7-1-1>
本件発明1は、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤」を含むのに対し、甲7D発明は「難燃助剤」として「アンチモン化合物」である「難燃助剤(NA1030)」に加えて「難燃助剤フルオン」を含む点
<相違点7-1-2>
本件発明1では、「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.05mol以上」であり、かつ、「式1の値」が「4.4以上」「5.6以下」であるのに対し、甲7D発明では「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して約0.045~0.0475mol」であり、かつ、式1の値を4.4以上5.6以下とすることについて特定がない点
<相違点7-1-3>
本件発明1では
「オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」
のに対し、甲7D発明は、「オレフィン系エラストマー(F)」を含まない点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点7-1-2について検討すると、甲7Dには、ポリアルキレンテレフタレート樹脂100gに対するアンチモン原子の含有量を「0.05mol以上」とすることについて記載がない。
また、上記アで述べたように、甲7D発明において式1の値を計算すると2.83になり、本件発明1の範囲の範囲を外れる。そして、甲7Dには式1についての記載がなく、その値を4.4以上にすることについても記載がない。よって、本件発明1は甲7Dに記載された発明ではない。
また、甲7Dには、式1のd、e、cに関連する、フルオン、カーボンブラック、NA1030(アンチモン化合物)の含有量のうち、アンチモン化合物についてのみ(熱可塑性芳香族ポリエステル100重量部に対して)「0~20重量部」との記載があるのみで、その他の成分については実施例以外に配合量の記載がない。
そして、甲7Dには式1の値を「4.4以上」「5.6以下」となるように調節する技術思想も、またポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量を「0.05mol以上」とする技術思想も記載されていないから、甲7Dの記載に接した当業者が、甲7D発明において、式1の値が「5.6以下」となる範囲で、多数の配合成分の中からNA1030に着目し、その配合量を調節してポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量を「0.05mol以上」とすることが動機付けられるともいえない。
また、本件発明1は、式1の値を「4.4以上」、「5.6以下」とすることによって、2回目の接炎後の燃焼時間とグローイング時間の合計が短く、燃焼性に優れるという効果を発揮するものである(【0063】の実施例1~14と比較例3~8の結果を参照)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲7Dに記載された発明であるとも、また、甲7Dに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、申立理由D-1-5によっては、本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明2~4、6、7について
本件発明2~4、6、7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲7Dに記載された発明であるとも、また甲7Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2~4、6、7についても、甲7Dに記載された発明であるとも、また甲7Dに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、申立理由D-1-5によっては、本件発明2~4、6、7についての特許を取り消すことはできない。
(4)本件発明8について
ア 本件発明8と甲7D発明との対比
甲7D発明の「難燃助剤(NA1030)」は五酸化アンチモンを含むから、本件発明8を上記(2)アで検討した点も踏まえて甲7D発明と対比すると、両者は以下の点で相違する。
<相違点7-8-1>
本件発明8は、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤」を含むのに対し、甲7D発明は「難燃助剤」として「アンチモン化合物」である「難燃助剤(NA1030)」に加えて「難燃助剤フルオン」を含む点
<相違点7-8-2>
本件発明8では、「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.08mol以上」であり、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.8~2.7質量部」であり、かつ、「式1の値」が「5.6以下」であるのに対し、甲7D発明では式1の値は満たすものの、「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して約0.045~0.0475mol」であり、「フッ素樹脂(D)の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.68質量部」である点
<相違点7-8-3>
本件発明8では、
「オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」
のに対し、甲7D発明は、「オレフィン系エラストマー(F)」を含まない点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点7-8-2について検討する。
甲7Dには、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフッ素樹脂の含有量を「0.8~2.7質量部」とすること、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量を「0.08mol以上」とすることは記載されていない。
よって、本件発明8は甲7Dに記載された発明ではない。
また、上記(2)イで示したように、甲7Dには、式1のd、e、cに関連する、フルオン、カーボンブラック、NA1030(アンチモン化合物)の含有量のうち、アンチモン化合物についてのみ(熱可塑性芳香族ポリエステル100重量部に対して)「0~20重量部」との記載があるのみで、その他の成分については実施例以外に配合量の記載がない。
そして、甲7Dには式1の値が「5.6以下」となるように調節する技術思想が記載されていないから、甲7Dの記載に接した当業者が、甲7D発明において、式1の値が「5.6以下」となる範囲で、多数の配合成分のうちフルオンとNA1030に着目し、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対するフルオンの含有量を「0.8~2.7質量部」とし、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量を「0.08mol以上」とすることが動機付けられるともいえない。
そして、本件発明8は、式1の値を「5.6以下」とすることによって、2回目の接炎後の燃焼時間とグローイング時間の合計が短く、燃焼性に優れるという効果を発揮するものである(【0063】の実施例1~14と比較例3~8の結果を参照)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は甲7Dに記載された発明であるとも、また、甲7Dに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、申立理由D-1-5によっては、本件発明8についての特許を取り消すことはできない。
(5)本件発明9について
ア 本件発明9と甲7D発明との対比
甲7D発明の「フルオン」は、ポリテトラフルオロエチレンであり、それに滴下防止性能があることは技術常識である(甲1Cの【0093】を参照。)。また、甲7D発明はスチレン系樹脂を含んでいないから、このことは本件発明9の「但し、スチレン系樹脂を除く」に相当する。
よって、本件発明9を上記(2)アで検討した点も踏まえて甲7D発明と対比すると、両者は以下の点で相違する。
<相違点7-9-1>
本件発明9は、「アンチモン化合物(C)からなる難燃助剤」を含むのに対し、甲7D発明は「難燃助剤」として「アンチモン化合物」である「難燃助剤(NA1030)」に加えて「難燃助剤フルオン」を含む点
<相違点7-9-2>
本件発明9では、「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して0.05mol以上」であり、かつ、「式1の値」が「5.6以下」であるのに対し、甲7D発明では式1の値は満たすものの、「アンチモン原子の含有量が、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対して約0.045~0.0475mol」である点
<相違点7-9-3>
本件発明9では、
「オレフィン系エラストマー(F)を含み、
オレフィン系エラストマー(F)の含有量がポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して26~65質量部である」
のに対し、甲7D発明は、「オレフィン系エラストマー(F)」を含まない点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点7-9-2について検討する。
甲7Dには、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量を「0.05mol以上」とすることは記載されていない。
よって、本件発明9は甲7Dに記載された発明ではない。
また、上記(2)イで示したように、甲7Dには、式1のd、e、cに関連する、フルオン、カーボンブラック、NA1030(アンチモン化合物)の含有量のうち、アンチモン化合物についてのみ(熱可塑性芳香族ポリエステル100重量部に対して)「0~20重量部」との記載があるのみで、その他の成分については実施例以外に配合量の記載がない。
そして、甲7Dには式1の値を「5.6以下」となるように調節する技術思想も、またポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量を「0.05mol以上」とする技術思想も記載されていないから、甲7Dの記載に接した当業者が、甲7D発明において、式1の値が「5.6以下」となる範囲で、多数の配合成分の中からNA1030に着目し、その配合量を調節してポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)100gに対するアンチモン原子の含有量を「0.05mol以上」とすることが動機付けられるともいえない。
また、本件発明9は、式1の値を「5.6以下」とすることによって、2回目の接炎後の燃焼時間とグローイング時間の合計が短く、燃焼性に優れるという効果を発揮するものである(【0063】の実施例1~14と比較例3~8の結果を参照)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は甲7Dに記載された発明であるとも、また、甲7Dに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、申立理由D-1-5によっては、本件発明9についての特許を取り消すことはできない。
8 申立理由B-1(明確性)について
本件発明1は第3で示したとおりであり、「難燃性樹脂組成物」の発明で、組成物を構成する各成分とその配合割合が特定されており、「式1」についてもd、e、c、c’が一義的に決まるから、組成物が式1を満たすか否かを明確に判断することができる。
したがって、本件発明1は明確である。また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~7,及び本件発明1と同様の表現で特定されている本件発明8~10についても同様である。
以下、第4の2 申立理由B-1の<理由の概略>で示した(1)~(4)の主張について検討する。
主張(1)~(3)について、請求項1の式1における右辺の「2d」,「2e」,「2c/(c’/100)」の3つの項に付されている「2」の技術的意義が不明で、式1の右辺が性質の異なるもの同士の和をとっており、「2c/(c’/100)」の技術的な意味が不明であるとしても、上記のとおり、ある樹脂組成物が式(1)を満たすか否かは明確に判別することができるから、本件発明1は明確である。
主張(4)について、当初実施例として記載されていた実施例5が、その後の補正や訂正により特許請求の範囲を満たさなくなったとしても、上記のとおり、特許請求の範囲の記載は明確で、実施例5がその範囲に含まれないことを容易に理解することができるから、実施例5の記載が本件発明の権利範囲を著しく不明確にするとはいえない。
よって、本件発明1~10は明確であり、本件発明1~10についての特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、申立理由B-1によっては、本件発明1~10についての特許を取り消すことはできない。
9 申立理由B-2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の考え方
本件発明1~10は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を満たすためには、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
(2)実施可能要件についての判断
本件発明1~10は組成物の発明であり、組成物を構成する成分と配合割合が特定されたものである。そして、本件明細書には、組成物を構成する成分としてどのようなものが用いられるかの説明が【0011】~【0051】に記載され、組成物を製造するための方法が【0052】に記載され、組成物を製造した具体例が実施例1~15として記載され、それらの難燃性試験が良好で、組成物が難燃性を必要とする各種成形品の用途に用いられることも記載されている(【0057】)。
よって、本件発明1~10については、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるといえる。
申立人Bは、本件特許は式1を満たす任意の配合全てに対して認められるべきではないと主張するが、本件発明に含まれるどの部分について、当業者がその組成物を作ることができないのか、又は使用することができないのかを具体的に明らかにしていないから、その主張は採用することができない。
よって、本件発明1~10についての特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、申立理由B-2によっては、本件発明1~10についての特許を取り消すことはできない。
10 申立理由B-3(サポート要件)、D-3(サポート要件)について
申立理由B-3、D-3はいずれもサポート要件違反をいうものであるから、まとめて検討する。
(1)サポート要件の考え方
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。
(2)本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0007】の記載からみて、「難燃性に優れた樹脂組成物及びその成形品を提供すること」であると認められる。
(3)サポート要件の判断
本件明細書の【0006】には、「本発明者は、研究の過程で、難燃性の樹脂組成物に、非滴下剤として用いられるフッ素樹脂を添加すると、グローイング時間が長くなり樹脂組成物の難燃性が低下する場合があるとの問題点を見出した。また、樹脂組成物の着色や帯電防止剤として添加されることがあるカーボンブラックも樹脂組成物の難燃性に影響を与えるのではないかと考えた。これらの知見に基づいて鋭意研究を進めた結果、難燃剤及び難燃助剤に由来する臭素原子及びアンチモン原子、並びに、任意で添加されるフッ素樹脂やカーボンブラックの含有量が所定の関係式を満たす関係にある場合に、グローイング時間が短い樹脂組成物にすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。」と記載されている。
そして、本件明細書の【0063】の【表1】には、成分(A)として2種類の、成分(C)として3種類のものを用い、成分(B)、(D)、(E)、(F)は1種類であるものの、その配合量を変化させた合計15の実施例が記載され、そのうち本件発明1の条件を満たすものは実施例1~4、6~8、10~14であり、それらの燃焼性の評価試験(V-0)が「合格」、すなわちグローイング時間が短いことが示されている。また、【表2】には、本件発明1の条件を満たさない8種類の比較例が示されており、これらがいずれも燃焼性の評価試験(V-0)が「不合格」、すなわちグローイング時間が長く、特に比較例3、5~8は式1の値を満たさない以外は本件発明1の条件を満たすものであるが、これらもV-0が「不合格」であることが示されている。
これらの記載からみて、本件発明1~10で特定される要件のうち、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(A)、臭素系難燃剤(B)、アンチモン化合物(C)を含み、臭素原子、アンチモン原子、フッ素樹脂、カーボンブラック(E)の含有量が本件発明1で特定される範囲で、かつ式1の値が5.6以下という要件を満たす難燃性樹脂組成物であれば、本件発明1~10の課題を解決できることを当業者は認識できるといえる。
申立人Bは、本件特許は式1を満たす任意の配合全てに対して認められるべきではないと主張するが、本件発明に含まれるどの部分が本件発明の課題を解決できないといえるのか、具体的に明らかにしていないから、その主張は採用することができない。
申立人Dは、本件明細書の実施例で評価されている臭素系難燃剤(熱硬化性のエポキシ樹脂)は、反応性を有するエポキシ樹脂を有し、臭素化ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂とは組成物中に添加したときの挙動が異なるから、臭素系難燃剤として熱可塑性樹脂を用いた場合においても本件発明の効果を達成できるとはいえない旨主張する。
しかしながら、臭素系難燃剤は臭素を含有することで難燃性を発揮する周知の添加剤であるから、熱可塑性樹脂であっても難燃性が発揮されることは当業者が予測できることであるし、申立人Dは、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の組成物中での挙動と、本件発明の課題の解決がどのように関係するのか具体的な説明をしておらず、また、熱可塑性の臭素系難燃剤を配合した場合は本件発明の課題が解決されないことを示す実験結果を提示しているわけでもないから、その主張を採用することはできない。
よって、本件発明1~10についての特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、申立理由B-3、D-3によっては、本件発明1~10についての特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
特許第6993545号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、8、9、10について訂正することを認める。
そして、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700556