特許異議申立
2023-700493
ポリエステルフィルム
- 審判番号
- 2023-700493
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-001638
- 登録番号
- 7187774
- 請求日
- 2023年05月12日
- 審決日
- 2024年04月05日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東レ株式会社
- 【異議申立人】浅野 幸義
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.121-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7187774号発明「ポリエステルフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7187774号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第7187774号の請求項1、3、4及び6に係る特許を維持する。
特許第7187774号の請求項2及び5に係る特許に対する特許異議申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7187774号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成30年1月10日(優先権主張 平成29年2月9日)の出願であって、令和4年12月5日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和5年5月12日に特許異議申立人 浅野 幸義(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし6)がされ、同年9月28日付けで取消理由が通知され、同年11月30日に特許権者 東レ株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年12月21日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、特許異議申立人より何ら応答がなかったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7187774号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「ホモポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルフィルムであって、該ポリエステルフィルムの冷結晶化温度(Tcc)が150℃以上165℃未満であり、該ポリエステルフィルムの環状三量体の含有量が0.01質量%以上1.00質量%以下であり、カリウム元素、マグネシウム元素、アンチモン元素、およびリン元素を含み、二軸配向フィルムである、ポリエステルフィルム。」と記載されているのを、
「ホモポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルフィルムであって、該ポリエステルフィルムの冷結晶化温度(Tcc)が150℃以上165℃未満であり、該ポリエステルフィルムの環状三量体の含有量が0.01質量%以上1.00質量%以下であり、カリウム元素、マグネシウム元素、アンチモン元素、およびリン元素を含み、
ポリエステル樹脂の固有粘度が0.70dl/g以上0.73dl/g以下および/または前記ポリエステルフィルムの厚みが16μm以上50μm以下であり、
前記ポリエステルフィルムのヘイズと前記ポリエステルフィルムを170℃3時間加熱した後のフィルムのヘイズの差ΔHzが0.06%以下の二軸配向フィルムである、ポリエステルフィルム。」に訂正する。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項3、4及び6についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2」と記載されているのを、「請求項1」に訂正する。
請求項3の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項4及び6についても同様に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか」と記載されているのを、「請求項1または3」に訂正する。
請求項4の記載を引用して特定する請求項6についても同様に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか」と記載されているのを、「請求項1、3、4のいずれか」に訂正する。
(7) 訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0014】を「上記目的を達成する本発明は以下である。
1)ホモポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルフィルムであって、該ポリエステルフィルムの冷結晶化温度(Tcc)が150℃以上165℃未満であり、該ポリエステルフィルムの環状三量体の含有量が0.01質量%以上1.00質量%以下であり、カリウム元素、マグネシウム元素、アンチモン元素、およびリン元素を含み、
ポリエステル樹脂の固有粘度が0.70dl/g以上0.73dl/g以下および/または前記ポリエステルフィルムの厚みが16μm以上50μm以下であり、
前記ポリエステルフィルムのヘイズと前記ポリエステルフィルムを170℃3時間加熱した後のフィルムのヘイズの差ΔHzが0.06%以下の二軸配向フィルムである、ポリエステルフィルム。
2)(削除)
3)前記ポリエステルフィルムを170℃3時間加熱した後のフィルムのヘイズが1.5%以下である1)に記載のポリエステルフィルム。
4)前記ポリエステルフィルムのヘイズが1.5%以下である1)または3)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
5)(削除)
6)光学用途に使用される1)、3)、4)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。」に訂正する。
(8) 訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0048】に「なお、実施例1,3,5,6,7は、それぞれ参考例1,3,5,6,7に読み替えるものとする。」を追記する。
(9) 訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0082】の【表1】に記載された「実施例1」、「実施例3」、「実施例5」、「実施例6」、「実施例7」を各々「参考例1」、「参考例3」、「参考例5」、「参考例6」、「参考例7」に訂正する。
(10) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1ないし6に対応する訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、ポリエステル樹脂の固有粘度や厚みを限定するとともに、ポリエステルフィルムのヘイズと前記ポリエステルフィルムを170℃3時間加熱した後のフィルムのヘイズ差を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許の特許請求の範囲の請求項2及び5、明細書の【0023】ないし【0029】、【0056】ないし【0060】及び【0082】の【表1】の記載から見て、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項3、4及び6についても同様である。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項2の訂正は、請求項2を削除するというものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項2の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項3の訂正は、訂正事項2に係る請求項2の訂正により請求項2が削除されることに伴い、引用先の請求項から請求項2を除くものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る請求項3の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項3の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項4及び6についても同様である。
(4) 訂正事項4について
訂正事項4に係る請求項4の訂正は、訂正事項2に係る請求項2の訂正により請求項2が削除されることに伴い、引用先の請求項から請求項2を除くものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4に係る請求項4の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項4の記載を引用して特定する請求項6についても同様である。
(5) 訂正事項5について
訂正事項5に係る請求項5の訂正は、請求項5を削除するというものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5に係る請求項5の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(6) 訂正事項6について
訂正事項6に係る請求項6の訂正は、訂正事項2に係る請求項2の訂正により請求項2が削除されること、及び、訂正事項5に係る請求項5の訂正により請求項5が削除されることに伴い、引用先の請求項から請求項2及び5を除くものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6に係る請求項6の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(7) 訂正事項7について
訂正事項7に係る明細書の段落【0014】は、訂正事項1ないし6により請求項1ないし6の記載が訂正されたことに伴い、訂正後の請求項1ないし6の記載に合わせるものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項7に係る明細書の段落【0014】の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(8) 訂正事項8及び9について
訂正事項8及び9に係る明細書の段落【0048】及び【0082】の【表1】の訂正は、いずれも、訂正事項1ないし6により請求項1ないし6の記載が訂正されたことに伴い、訂正後の請求項1ないし6の範囲に入らないものとなった例を「参考例」と読み替えるものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項8及び9に係る明細書の段落【0048】及び【0082】の【表1】の訂正の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和5年11月30日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ホモポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルフィルムであって、該ポリエステルフィルムの冷結晶化温度(Tcc)が150℃以上165℃未満であり、該ポリエステルフィルムの環状三量体の含有量が0.01質量%以上1.00質量%以下であり、カリウム元素、マグネシウム元素、アンチモン元素、およびリン元素を含み、
ポリエステル樹脂の固有粘度が0.70dl/g以上0.73dl/g以下および/または前記ポリエステルフィルムの厚みが16μm以上50μm以下であり、
前記ポリエステルフィルムのヘイズと前記ポリエステルフィルムを170℃3時間加熱した後のフィルムのヘイズの差ΔHzが0.06%以下の二軸配向フィルムである、ポリエステルフィルム。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムを170℃3時間加熱した後のフィルムのヘイズが1.5%以下である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムのヘイズが1.5%以下である請求項1または3のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
光学用途に使用される請求項1、3、4のいずれかに記載のポリエステルフィルム。」
第4 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
1 申立理由(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証の記載のみを根拠とする進歩性の理由、甲第1号証を主たる証拠とし甲第2号証の記載事項をあわせて根拠とする進歩性の理由、及び、甲第1号証を主たる証拠とし甲第3号証の記載事項をあわせて根拠とする進歩性の理由をそれぞれ主張しているが、何れも、甲第1号証を主たる証拠とする理由であるため、上記のとおり、まとめたかたちで申立理由とする。
2 証拠方法
・甲第1号証:特開2011-258498号公報
・甲第2号証:特開2010-285527号公報
・甲第3号証:特開2016-117178号公報
第5 令和5年9月28日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の概要
請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和5年9月28日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由が包含される。
・取消理由(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
当審は、令和5年9月28日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由では、本件特許の請求項1、3、4及び6に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
1 主な証拠の記載事項等
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「透明導電性ポリエステルフィルム」に関し、次の記載がある。
「【請求項1】
二軸延伸ポリエステルフィルムを基材フィルムとし、該基材フィルムの片面に透明導電性薄膜が積層された透明導電性ポリエステルフィルムであって、
下記構成要件(1)、(2)を満たす透明導電性ポリエステルフィルム。
(1)ヒドロキシル(OH)末端量が70eq/ton以下
(2)環状三量体含有量が0.45質量%以下
【請求項2】
上記透明導電性薄膜が、インジウム-スズ複合酸化物から形成されたものである請求項1に記載の透明導電性ポリエステルフィルム。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性ポリエステルフィルムに関する。詳しくは、後加工での加熱白化抑制に優れた透明導電性ポリエステルフィルムに関する。」
「【0008】
本発明は、上記従来の方法の有する問題点を解決し、加熱加工後の透明性に優れ、環状オリゴマーの析出が少ないフィルム、および低オリゴマー性に優れた透明導電性ポリエステルフィルムを提供することを目的とする。」
「【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリエステルの溶融時に再生される環状オリゴマーは、分子鎖のヒドロキシル(OH)末端の量に依存することを見出した。その理由に付いて次のように考えている。環状オリゴマーの主成分たる環状三量体は、ポリエステル分子鎖末端からの分解反応により生じるが、ヒドロキシル(OH)末端においてはヒドロキシル(OH)基による求核反応により環状三量体が生成しやすい。そこで、本発明では、ポリエステル樹脂のヒドロキシル(OH)末端量を所定量以下にすることにより、溶融時の環状オリゴマー量の再生を抑制し、好適に加熱白化を抑制するに至ったのである。これにより、後加工での高温での加熱処理においても加熱白化することなく、透明性の高い透明導電性ポリエステルフィルムを得ることができるようになった。
【0010】
すなわち、前記課題を解決することができる、本発明における第1の発明は、二軸延伸ポリエステルフィルムを基材フィルムとし、該基材フィルムの片面に透明導電性薄膜が積層された透明導電性ポリエステルフィルムであって、該基材フィルムが下記構成要件(1)、(2)を満たす透明導電性ポリエステルフィルムである。
(1)ヒドロキシル(OH)末端量が70eq/ton以下
(2)環状三量体含有量が0.45質量%以下
【0011】
本発明における第2の発明は、上記透明導電性薄膜が、インジウム-スズ複合酸化物から形成されたものである前記記載の透明導電性ポリエステルフィルムである。」
「【0014】
(基材フィルム)
本発明の基材フィルムは、機械的強度、耐薬品性、耐熱性などの点から、二軸延伸ポリエステルフィルムが望ましい。
・・・(略)・・・
【0017】
本発明のフィルムを170℃、20分間加熱したときのフィルムヘイズ変化量△Hz(△Hz=加熱後ヘイズ-加熱前ヘイズ)は0.5未満であることが望ましい。△Hzが0.5以上である場合には、フィルムの後加工工程において環状オリゴマーが析出し、加熱白化による視認性低下が生じる場合がある。発明における好ましい△Hzの上限は0.3であり、より好ましくは0.1である。△Hzは小さいことが好ましいく、△Hzの下限は0である。
・・・(略)・・・
【0019】
本発明の基材フィルムの環状三量体含有量は0.45質量%以下であることが望ましい。環状三量体含有量が0.45質量%以上である場合には、フィルム製膜工程においてオリゴマーが析出し、加熱白化が生じやすくなったり、フィルム製膜工程や後工程を汚染する場合がある。ポリエステルフィルムの環状三量体量を上記範囲にするためには、ポリエステル原料に熱処理などを施すことが好ましいが、本発明ではヒドロキシル(OH)末端量を低減させることにより、フィルム中の環状三量体量を上記範囲に好適に低減することができる。本発明における好ましい環状三量体含有量の上限は0.40質量%である。環状三量体量は少ないことが好ましいが、生産性の点を考えると、上記環状三量体量の下限は0.05質量%が好ましく、0.10質量%がより好ましく、0.20質量%よりさらに好ましい。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムの固有粘度は、0.40dl/gから0.68dl/gの範囲が好ましい。固有粘度が0.40dl/gよりも低いと、フィルムが裂けやすくなり、0.70dl/gより大きいと濾圧上昇が大きくなって高精度濾過が困難となる。PETの固有粘度の上限は0.65dl/gが好ましく、0.63dl/gがより好ましい。さらに、上記下限は0.50dl/gが好ましく、0.55dl/gがより好ましい。
【0021】
(ポリエステル樹脂)
本発明のフィルムは、ジカルボン酸成分とグリコール成分との重縮合反応により得られるポリエステル樹脂からなる。ジカルボン酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、グリコール成分としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、1、4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。本発明では強度や透明性などの点からポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートが好適であり、中でもポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0022】
ポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETという)の重合法としては、テレフタル酸とエチレングリコール、および必要に応じて他のジカルボン酸成分およびジオール成分を直接反応させる直接重合法、およびテレフタル酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のジオール成分を含む)とをエステル交換反応させるエステル交換法等の任意の製造方法が利用され得る。
【0023】
また、前記ポリエステルの固有粘度は、0.45dl/gから0.70dl/gの範囲が好ましい。固有粘度が0.45dl/gよりも低いと、フィルムが裂けやすくなり、0.70dl/gより大きいと濾圧上昇が大きくなって高精度濾過が困難となる。PETの固有粘度の上限は0.68dl/gが好ましく、0.65dl/gがより好ましい。さらに、上記下限は0.48dl/gが好ましく、0.50dl/gがより好ましい。
【0024】
粗製ポリエステル調製時の触媒として、従来公知のMn、Mg、Ca、Ti、Ge、Al、Sb、Co化合物、リン化合物、アンチモン化合物などが使用される。ポリエステル溶融時に環状オリゴマーの再生を抑制する方法として触媒を失活させる方法が提案されているが、本発明では係る工程を経ることなく好適に環状オリゴマーの再生を抑制することができる。なお、ここで「粗製ポリエステル」とは後述の熱処理前のポリエステルを区分して表現するものである。
【0025】
上記ジカルボン酸成分とグリコール成分とを含む組成物には、ポリエステルの最終用途に応じて、安定剤、顔料、染料、核剤、充填剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤などの添加剤が含有され得る。
【0026】
次に、得られた粗製ポリエステルをシートカット法、ストランドカット法などにより、適宜、チップ状(例えば、円柱状)、粒子状などに成形する。例えば、チップの成形は、粗製ポリエステルの溶融体をギヤーポンプでダイスから押出しストランドを形成し、このストランドをカッターで切断して、長軸×短軸×長さが約2.2×3.1×3.4mmの楕円柱状のチップを成形する。係るチップ形状に成型することにより、後述の熱処理により好適にフィルム原料のオリゴマー量の低減を図りつつ、チップ内部まで調湿効果を好適に及ぼすことができる。
【0027】
ポリエステルのヒドロキシル(OH)末端量を低減させる方法としては、ポリエステルの分子量を大きくして単位当たりの末端量を低減させる方法や、原料チップを水飽和させる方法などが挙げられる。なかでも、本発明ではフィルム原料となる粗製ポリエステルを水雰囲気下で熱処理を施すことにより、環状オリゴマー含有量を好適に低減させるとともに、ヒドロキシル(OH)末端量を好適に低減させることができるので好ましい。係る熱処理は、水含有の湿調不活性ガスの流量下で190~260℃での高温の熱処理を施すことを特徴とする。熱処理を不活性ガスの流量下で行うことにより、PET固有粘度を必要以上に上昇させることなく、好適に環状オリゴマーの低減を図ることができる。この点が従来の固相重合と相違する点である。また、従来、バッチ法で行なわれる固相重合法と異なり、流量下で連続的に処理ができる点で生産性にも優れる。
【0028】
さらに、係る熱処理を所定の水雰囲気下で行うことにより、ポリエステル樹脂中のヒドロキシル(OH)末端量を好適に低減させることができる。水雰囲気下でヒドロキシル(OH)末端量が低減する理由については、以下のように考えている。すなわち、加熱処理によりヒドロキシル(OH)末端同士が脱エチレングリコール反応により結合し、ヒドロキシル(OH)末端が消費される。一方、水雰囲気下によりエステル反応の逆反応が生じ、ポリエステル分子量が低減し、新たな分子鎖末端が生じる。これらの反応が混合して生じるため、結果としてヒドロキシル(OH)末端が低減することになると考えられる。」
「【0057】
(4)環状三量体量
ポリエステルフィルム、またはポリエステル樹脂を細かく粉砕し、0.1gをヘキサフルオロイソプロパノールール(HFIP)/クロロホルム(2/3(容量比))の混合溶媒3mlに溶解した。得られた溶液にクロロホルム20mlを加えて均一に混合した。得られた混合液にメタノール10mlを加え、線状ポリエステルを再沈殿させた。次いで、この混合液を濾過し、沈殿物をクロロホルム/メタノール(2/1(容量比))の混合溶媒30mlで洗浄し、さらに濾過した。得られた濾液をロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。濃縮乾固物にジメチルホルムアミド10mlを加え、環状三量体測定溶液とした。この測定溶液を横河電機(株)社製LC100型の高速液体クロマトグラフィーを使用して定量した。」
「【0061】
(実施例1)
ジメチルテレフタレート1,000部、エチレングリコール700部、および酢酸亜鉛・2水塩0.3部をエステル交換反応缶に仕込み、120~210℃でエステル交換反応を行い、生成するメタノールを留去した。エステル交換反応が終了した時点で、リン酸0.13および三酸化アンチモン0.3部を加え、系内を徐々に減圧にし、75分間で1mmHg以下とした。同時に徐々に昇温し、280℃とした。同条件で70分間重縮合反応を実施し、溶融ポリマーを吐出ノズルより水中に押し出し、カッターによって、直径約3mm、長さ約5mmの円柱状チップとした。得られた粗製ポリエステルの固有粘度は0.610dl/gであり、ヒドロキシル(OH)末端量は70eq/tonであり、環状三量体の含有量は1.05質量%、融点は252℃であった。なお、実施例中にある「部」とは全て重量部を表す。得られた粗製ポリエステルをポリエステル樹脂(A)とする。
【0062】
PET樹脂(A)を減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が6.4g/Nm3に調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時70リットルの割合で流通し、207℃で48時間加熱処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.631dl/gであり、ヒドロキシル(OH)末端量は59eq/tonであり、環状三量体の含有量は0.27質量%であった。
【0063】
得られたポリエステル樹脂を、135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機に供給した。押出機に供給された原料を、押出機の溶融部、混練り部、ポリマー管、ギアポンプ、フィルターまでの樹脂温度は280℃、その後のポリマー管では275℃とし、口金よりシート状に溶融押し出した。また、前記のフィルターには、いずれもステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度:10μm粒子を95%カット)を用いた。また、口金の温度は、押出された樹脂温度が275℃になるように制御した。
【0064】
押し出した樹脂を、表面温度30℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化し、厚さ1360μmの未延伸フィルムを作成した。
【0065】
得られた未延伸シートを、78℃に加熱されたロール群でフィルム温度を75℃に昇温した後、赤外線ヒータで105℃に加熱し、周速差のあるロール群で、長手方向に3.4倍に延伸した。
【0066】
次いで、得られた一軸延伸フィルムをクリップで把持し、横延伸を行った。横延伸温度は120℃、横延伸倍率は4.0倍とした。次いで、240℃で15秒間の熱処理を行い、210℃で3%の弛緩処理を行い、100μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
【0067】
次に、得られた二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、インジウム-スズ複合酸化物からなる透明導電性薄膜を形成した。この際、スパッタリング前の圧力を0.0007Paとし、ターゲットとして酸化スズを5%含有した酸化インジウム(三井金属鉱業社製、密度7.1g/cm3)に用いて、2W/cm2のDC電力を印加した。また、Arガスを130sccm、酸素ガスを10sccmの流速で流し、圧力:0.4Paとして、DCマグネトロンスパッタリング法で透明導電性薄膜形成を行った。ただし、通常のDCではなく、アーク放電を防止するために、日本イーエヌアイ製「RPG-100」を用いて5μs幅のパルスを50kHz周期で印加した。また、センターロール温度は50℃とした。なお、雰囲気中の酸素分圧をスパッタプロセスモニター(伯東社製「SPM200」)を用いて常時観測しながら、インジウム-スズ複合酸化物薄膜中の酸化度が一定になるように酸素ガスの流量計およびDC電源にフィートバックした。以上の操作・条件により、厚み:22nmのインジウム-スズ複合酸化物からなる透明導電性薄膜を形成して、透明導電性ポリエステルフィルムを得た。
【0068】
透明導電性フィルムNo.1を一方のパネル板として用い、他方のパネル板として、ガラス基板上にプラズマCVD法で厚みが20nmのインジウム-スズ複合酸化物(酸化スズ含有量:10%)からなる透明導電性薄膜(日本曹達社製「S500」)を用いた。この2枚のパネル板を透明導電性薄膜が対向するように、直径:30μmのエポキシビーズを介して配置し、タッチパネルを作製した。得られたタッチパネルは視認性、導電性とも良好であった。
【0069】
(実施例2)
ポリエステル樹脂(A)を減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が15.3g/Nm3に調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時300リットルで流通し、230℃で12時間加熱処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.617dl/gであり、ヒドロキシル(OH)末端量は71eq/tonであり、環状三量体の含有量は0.28質量%であった。新たに得られたポリエステル樹脂を用いること以外は実施例1と同様にして透明導電性ポリエステルフィルムを得た。
【0070】
(実施例3)
実施例1と同様にして、固有粘度が0.648dl/gであり、ヒドロキシル(OH)末端量は64eq/tonであり、環状三量体の含有量が1.2質量%、融点が245℃である粗製ポリエステルを得た。得られた粗製ポリエステルを、減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が15.3g/Nm3に調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時300リットルで流通し、220℃で24時間加熱処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.623dl/gであり、ヒドロキシル(OH)末端量は57eq/tonであり、環状三量体の含有量は0.27質量%であった。新たに得られたポリエステル樹脂を用いること以外は実施例1と同様にして透明導電性ポリエステルフィルムを得た。
【0071】
(実施例4)
実施例1と同様にして、固有粘度が0.613dl/gであり、ヒドロキシル(OH)末端量は70eq/tonであり、環状三量体の含有量が1.03質量%、融点が255℃である粗製ポリエステルを得た。該ポリエステルを、減圧下160℃にて乾燥し、次いで、含水量が6.4g/Nm3に調湿された窒素ガスを粗製ポリエステル1kg当たり、毎時70リットルで流通し、この反応系を1.2kg/cm2の微加圧に調整し、207℃で48時間加熱処理を行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.629dl/gであり、ヒドロキシル(OH)末端量は60eq/tonであり、環状三量体の含有量は0.28重量であった。新たに得られたポリエステル樹脂を用いること以外は実施例1と同様にして透明導電性ポリエステルフィルムを得た。」
「【0079】
【表1】
[図:0001412287000001.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載、特に請求項1の記載について整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「二軸延伸ポリエステルフィルムを基材フィルムとし、該基材フィルムの片面に透明導電性薄膜が積層された透明導電性ポリエステルフィルムであって、
下記構成要件(1)、(2)を満たす透明導電性ポリエステルフィルム。
(1)ヒドロキシル(OH)末端量が70eq/ton以下
(2)環状三量体含有量が0.45質量%以下」(以下、「甲1発明」という。)
(2) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「フィルム用ポリエステル組成物およびその製造方法」に関し、次の記載がある。
「【請求項1】
重縮合触媒としてアンチモン化合物を使用し、マグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を添加して、得られるフィルム用ポリエステル組成物であって、当該ポリエステル組成物の275℃での溶融比抵抗が0.15~0.30×108Ω・cmであり、さらに下記(1)~(3)の条件を満たすフィルム用ポリエステル組成物。
(1)Mg含有量:当該ポリエステル組成物に対して15~35ppm
(2)K含有量:当該ポリエステル組成物に対して5~20ppm
(3)P含有量:当該ポリエステル組成物に対して5~15ppm」
「【技術分野】
【0001】
本発明はフィルム用ポリエステル組成物およびその製造方法に関する。」
「【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートに代表される飽和線状ポリエステルは、優れた力学特性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等を有するため、従来から包装用途、写真用途、電気用途、磁気テープ等の様々な用途のフィルムとして使用されている。また、近年においては、光学用フィルムとして有用されている。例えば、液晶表示装置におけるレンズフィルムに用いる基材フィルムやプラズマディスプレイ、CRTおよび液晶表示装置の保護フィルム等である。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、良好な静電密着性を有し、しかも、異物の存在量が極めて少なく、従来よりも高度の清澄度を有するフィルム用ポリエステル組成物およびその製造方法を提供することを目的としている。
また、特に、良好な静電密着性および高度の清澄度を有するとともに、優れた耐熱性を有するフィルム用ポリエステル組成物およびその製造方法を提供することを目的としている。」
「【0009】
本発明は以下の構成を特徴とする。
すなわち、重縮合触媒としてアンチモン化合物を使用し、マグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を添加して、得られるフィルム用ポリエステル組成物であって、当該ポリエステル組成物の275℃での溶融比抵抗が0.15~0.30×108Ω・cmであり、さらに下記(1)~(3)の条件を満たすフィルム用ポリエステル組成物。
(1)Mg含有量:当該ポリエステル組成物に対して15~35ppm
(2)K含有量:当該ポリエステル組成物に対して5~20ppm
(3)P含有量:当該ポリエステル組成物に対して5~15ppm
さらには、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであり、主たるリン化合物として、ジエチルホスホノ酢酸エチルを添加して得られるフィルム用ポリエステル組成物。
さらには、重縮合触媒としてアンチモン化合物を使用するポリエステル組成物の製造方法であって、下記の(a)~(b)の条件を満たすフィルム用ポリエステル組成物の製造方法によって達成される。
(a)缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶でエステル化反応を行う。
(b)マグネシウム化合物、カリウム化合物、リン化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちの第3番目以降のエステル化反応缶の同一反応缶に全量を添加する。」
「【0023】
本発明のポリエステル組成物は、重縮合触媒にアンチモン化合物を使用し、かつ、マグネシウム化合物とカリウム化合物およびリン化合物を添加して製造でき、マグネシウム原子の含有量、カリウム原子の含有量、およびリン原子の含有量が上記規定の範囲のとき、ポリエステル組成物の275℃での溶融比抵抗が0.15~0.30×108Ω・cmを満たすためには、その製造時に次の(a)~(b)の条件を満たすことが少なくとも必要である。
(a)缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶を用いてエステル化反応を行う。
(b)マグネシウム化合物、カリウム化合物、リン化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちの第3番目以降のエステル化反応缶の同一反応缶に全量を添加する。
【0024】
すなわち、上記(a)~(b)の条件を満足することは、以下の技術内容を意味する。
エステル化反応缶の缶内を減圧状態にすると、リン化合物だけでなく、マグネシウム化合物やカリウム化合物が飛散してしまう恐れがあり、残存量管理が困難になる。従って、これを避けるためにエステル化反応缶の圧力を常圧以上にする。圧力の上限は29.4kPaが好ましい。29.4kPaを超えると、ジエチレングリコール(DEG)の副生量が増加し、ポリエステルの軟化点を低下させ、フィルムの製膜時にフィルムの破断等を生じて、製膜作業性を悪化させてしまう。
【0025】
エステル化反応缶内に、ジカルボン酸(またはそのジアルキルエステル)とグリコールを供給すると、エステル化反応によって、ジカルボン酸-グリコールジエステルおよび/またはそのオリゴマーを生成する(例えば、テレフタル酸とエチレングリコールを供給した場合、ビス-(β-ヒドロキシエチルテレフタレート)および/またはそのオリゴマーを生成する。)が、第1および第2エステル化反応缶では生成するオリゴマーの酸価がまだ大きく、この段階でマグネシウム化合物やカリウム化合物を添加すると、マグネシウム化合物やカリウム化合物とジカルボン酸の間で不溶性の異物(Mg塩およびK塩)が生成しやすくなる。従って、マグネシウム化合物やカリウム化合物は3缶目以降のオリゴマーの酸価が小さいエステル化反応缶に供給する。
【0026】
また、リン化合物は液状のものが多くて特に飛散しやすく、リン化合物をマグネシウム化合物やカリウム化合物が存在しない反応缶に添加すると、リン化合物の系外飛散量が多くなり、反応系に有効に取り込まれなくなって目標の品質のポリエステル組成物が得られない。従って、マグネシウム化合物やカリウム化合物の存在下に添加するのが好ましく、そのために、リン化合物を、マグネシウム化合物、カリウム化合物を添加する反応缶と同じ反応缶に添加することが好ましい。
【0027】
なお、かかる本発明のポリエステル組成物の製造方法において、重合触媒であるアンチモン化合物の添加時期は特に制限されない。すなわち、エステル化反応における初期段階で添加しておいても、その後に添加してもよい。また、マグネシウム化合物、カリウム化合物およびリン化合物は、供給精度の点からエチレングリコール溶液として添加するのが好ましい。また。エステル化反応缶における缶内(反応系)温度は通常240~280℃、好ましくは255~265℃である。240℃未満では、オリゴマーが固化しやすくなり、反応速度が低下するので、好ましくなく、逆に、280℃を超えるとDEGの副生量が増大し、また、生成ポリマーの色相が悪化する傾向を示すので好ましくない。また、エステル化反応缶はポリエステルの製造効率の観点からは、5缶以下とするのが好ましい。
また、最終生成物(ポリマー)はろ過してから、チップ化されるのが好ましい。かかるろ過には、通常、目開き3~20μm程度のフィルターが使用される。」
「【0030】
実施例1
エステル化反応装置として、攪拌装置、蒸留塔、分縮器、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用し、TPAを2トン/hrとし、EGをTPA1モルに対して2モルとし、三酸化アンチモンを生成PETに対してSb原子が160ppmとなる量とし、これらのスラリーをエステル化反応装置の第1エステル化反応缶に連続供給し、常圧にて平均滞留時間4時間で、255℃で反応させた。
次に、上第1エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第2エステル化反応缶に供給し、第2エステル化反応缶内に第1エステル化反応缶から留去されるEGを生成PETに対し8重量%添加し、常圧にて平均滞留時間1.5時間で、260℃で反応させた。
次に、上記第2エステル化反応缶内の反応生成物を連続的に系外に取り出して第3エステル化反応缶に供給し、生成PETに対してMg原子が25ppmとなる量の酢酸マグネシウムを含むEG溶液と、生成PETに対してK原子が10ppmとなる量の酢酸カリウムを含むEG溶液、および生成PETに対してP原子が9ppmとなる量のDEPAを含むEG溶液を添加し、常圧にて平均滞留時間0.5時間で、260℃で反応させた。なお、添加剤の歩留まりはすべて100%として添加量を決定した。
【0031】
上記第3エステル化反応缶内で生成したエステル化反応生成物を3段の連続重縮合反応装置に連続的に供給して重縮合を行い、目開き5μmの焼結繊維フィルターで濾過後に、極限粘度0.620dl/gのPET(ポリエステル組成物)を得た。」
2 対比・判断
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「二軸延伸ポリエステルフィルム」は、本件特許発明1の「ポリエステルフィルム」に相当するとともに、「二軸配向フィルム」との特定事項をも満たす。
また、甲1発明の環状三量体含有量は「0.45質量%以下」であることから、本件特許発明1の「0.01質量%以上1.00質量%以下」との特定事項を満たすことも明らかである。
してみると、両者は、
「ポリエステルフィルムであって、該ポリエステルフィルムの環状三量体の含有量が0.01質量%以上1.00質量%以下であり、二軸配向フィルムである、ポリエステルフィルム。」
で一致し、次の点で相違する。
・相違点1
ポリエステルフィルムについて、本件特許発明1は「ホモポリエチレンテレフタレートを主成分とする」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
・相違点2
ポリエステルフィルムの冷結晶化温度(Tcc)に関し、本件特許発明1は「150℃以上165℃未満」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
・相違点3
ポリエステルフィルムに関し、本件特許発明1は「カリウム元素、マグネシウム元素、アンチモン元素、およびリン元素を含み」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
・相違点4
透明導電性ポリエステルフィルムに関し、本件特許発明1は「ポリエステル樹脂の固有粘度が0.70dl/g以上0.73dl/g以下および/または前記ポリエステルフィルムの厚みが16μm以上50μm以下であり」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
・相違点5
ポリエステルフィルムに関し、本件特許発明1は「前記ポリエステルフィルムのヘイズと前記ポリエステルフィルムを170℃3時間加熱した後のフィルムのヘイズの差ΔHzが0.06%以下」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点5について検討する。
甲第1号証の【0017】には、「 本発明のフィルムを170℃、20分間加熱したときのフィルムヘイズ変化量△Hz(△Hz=加熱後ヘイズ-加熱前ヘイズ)は0.5未満であることが望ましい。△Hzが0.5以上である場合には、フィルムの後加工工程において環状オリゴマーが析出し、加熱白化による視認性低下が生じる場合がある。発明における好ましい△Hzの上限は0.3であり、より好ましくは0.1である。△Hzは小さいことが好ましいく、△Hzの下限は0である。」と記載されているものの、具体的な実施例としては、0.2~0.7%の例のみである。
すると、甲第1号証の【0017】に「△Hzは小さいことが好ましいく、△Hzの下限は0である。」と記載されているものの、実際にΔHzが0.2%より小さいものが開示されていたものとまではいえない。
さらに検討するに、甲1発明のΔHzは、「フィルムを170℃、20分間加熱したときのフィルムヘイズ変化量△Hz」であるのに対し、本件特許発明1のΔHzは、「ポリエステルフィルムを170℃3時間加熱した後のフィルムのヘイズの差」であり、熱処理条件としても、本件特許発明1の方が、より過酷な条件であるといえる。
してみると、甲第1号証及び全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において、「前記ポリエステルフィルムのヘイズと前記ポリエステルフィルムを170℃3時間加熱した後のフィルムのヘイズの差ΔHzが0.06%以下」、すなわち、相違点5に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすようにすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件特許発明3、4及び6について
本件特許発明3、4及び6は、本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものである。
そして、上記(1)のとおり、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3、4及び6もまた、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 取消理由についてのまとめ
上記2のとおりであるから、取消理由通知で特許権者に通知した取消理由では、本件特許発明1、3、4及び6に係る特許を取り消すことができない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1、3、4及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3、4及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2及び5は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2及び5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700493