特許異議申立
2023-700616
フィルム
- 審判番号
- 2023-700616
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-552090
- 登録番号
- 7200675
- 請求日
- 2023年06月09日
- 審決日
- 2024年03月26日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東レ株式会社
- 【異議申立人】浅野 幸義
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 一ノ瀬 覚
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7200675号発明「フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7200675号の請求項1~15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7200675号の請求項1~15に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2018年(平成30年)9月11日(優先権主張 平成29年10月10日)を国際出願日とする出願であって、令和4年12月26日にその特許権の設定登録がされ、令和5年1月10日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、令和5年6月9日に特許異議申立人浅野幸義(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~15に係る発明(以下「本件発明1~15」ともいい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
60°光沢度(G60)と、85°光沢度(G85)がいずれも27以下である低光沢層(A層)を有するフィルムであって、前記A層が少なくとも片側の表層にあり、前記60°光沢度(G60)と、前記85°光沢度(G85)が下記(I)式を満足し、前記A層の片側に基材層を有し、基材層、A層ともポリエステル樹脂を主成分とし、長手方向(MD)、幅方向(TD)のうち少なくとも一方向のMIT屈曲破断回数が7500回以上であるフィルム。
0.1≦(G85)/(G60)≦3・・・(I)
【請求項2】
前記低光沢層(A層)の60°光沢度(G60)と、85°光沢度(G85)がいずれも10以下である請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記A層の厚みが3μmを超えて20μm以下である請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記A層が粒子を含んでおり、前記粒子の円形度が0.995以下である請求項1~3のいずれかに記載のフィルム。
【請求項5】
前記粒子が無機粒子である請求項4に記載のフィルム。
【請求項6】
前記粒子の嵩高度が0.5以上である請求項4または5に記載のフィルム。
【請求項7】
二軸配向してなる請求項1~6のいずれかに記載のフィルム。
【請求項8】
60°光沢度(G60)が6未満である請求項1~7のいずれかに記載のフィルム。
【請求項9】
長手方向(MD)、幅方向(TD)の100℃から150℃の範囲での熱寸法変化率が、いずれも0.015%/℃以下である請求項1~8のいずれかに記載のフィルム。
【請求項10】
前記A層表面の中心線平均粗さ(SRa)が1000nmを超えて3000nm以下である請求項1~9のいずれかに記載のフィルム。
【請求項11】
長手方向(MD)、幅方向(TD)の150℃での熱収縮率がいずれも2%以下である請求項1~10のいずれかに記載のフィルム。
【請求項12】
下記方法により測定した150℃、10分間熱処理後のカール高さが0mm以上30mm以下である請求項1~11のいずれかに記載のフィルム。
(測定方法) フィルムを任意の一方向に100mm、該方向に直交する方向に100mmの大きさに切り出し、サンプルとする。該サンプルを、150℃の熱風循環式オーブンで10分間放置して熱処理を行った後、ガラス板上に置き、ガラス板面から垂直方向での4隅の浮き上がり量を測定し、最大の高さをカール高さとする。
【請求項13】
前記A層表面の表面自由エネルギーが44mN/m以下である請求項1~12のいずれかに記載のフィルム。
【請求項14】
転写用途に使用される請求項1~13のいずれかに記載のフィルム。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載のフィルムのA層の表面に離型層が積層されてなる積層体。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由の要旨は次のとおりである。
1 理由A(新規性)
本件の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 理由B(進歩性)
本件の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
3 理由C(実施可能要件)
本件の下記の請求項に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第4項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
4 理由D(サポート要件)
本件の下記の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
理由並びに請求項及び引用文献の関係(申立人が提出した甲第○号証は、甲○と略記する。)
・理由A
請求項1~8、11、12、14、15
甲1
・理由B
請求項1~8、10~12、14、15
甲1
・理由B
請求項9、13
甲1、2
・理由C
請求項1~15
・理由D
請求項1~15
・引用文献一覧
甲1:特開2016-97522号公報
甲2:特開2013-129076号公報
第4 当審の判断
第4-1 理由A(新規性)、理由B(進歩性)について
1 甲1の記載事項等
(1)記載事項
甲1には以下の記載がある(下線は当審で付加した。)。
・「【請求項1】
基材層と少なくとも一方の表面に粒子含有の艶消し層とを有する積層ポリエステルフィルムであって、該艶消し層表面の中心線平均粗さ(Ra)が400~1000nm、10点平均粗さ(Rz)が4000~8000nmであり、該表面における光沢度(G60)が6~20であり、かつ、表面の突起のボイド破れ率が20%以下であることを特徴とする、二軸配向ポリエステルフィルム。」
・「【請求項9】
電磁波シールドフィルム転写用の支持フィルムとして用いられる、請求項1~8のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。」
・「【0018】
粒子の形状は特に規定するものではないが、不定形であると粒度分布が広くなり、凝集による粗大突起を引き起こしやすく、剥離性改善効果が低くなったり、フィルムの製膜性が低下することがある。したがって粒子の形状は球状もしくは多面状であることが好ましい。好ましい粒子として、球状もしくは多面状の合成ゼオライトが例示される。特に多面形状の粒子の場合は艶消し効果が得られやすい。多面形状の粒子の中でも、特に立方体形状の粒子が好ましい。
これらの粒子の添加方法は特に制限されないが、例えばポリエステルの重縮合中にグリコール分散系として添加する方法、押出中マスターバッチを介して艶消し層に添加する方法等が挙げられる。
かかる艶消し層の厚みは3~10μm、好ましくは4~9μmの範囲が適当である。」
・「【0034】
1.光沢度(G60)
JIS規格(Z8741)に準拠し、日本電色工業(株)製のグロスメーター「VGS-SENSOR」を用いて測定した。入射角、受光角ともに60°にて測定(N=5)し、その平均値を用いた。」
・「【0045】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.63dl/g)に表1に示すとおりの粒子およびを添加して艶消し層(A層)を形成するためのA層ポリマーとし、また、A層と同様に粒子および樹脂を表1の含有量にて添加し、基材層(B層)を形成するためのB層ポリマーとし、それぞれ280℃に加熱された押出機に供給し、A層ポリマー、B層ポリマーをA/Bの積層構成となるような2層フィードブロック装置を用い合流させ、その積層状態を維持したままダイスよりシートを20℃に維持した回転冷却ドラム上に溶融押出して未延伸フィルムとし、次いで該未延伸フィルムを縦方向に3.2倍延伸し、その後、140℃で横方向に3.4倍に延伸し、235℃で熱固定して、二軸配向ポリエステルフィルム(厚さ50μm)を得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0046】
[実施例2]
A層ポリマーおよびB層ポリマーに添加する樹脂の含有量を表1記載のとおりとする以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0047】
[実施例3]
B層ポリマーに使用するポリエチレンテレフタレートを、固有粘度が0.63dl/gと0.68dl/gの2種を用い、その混合割合を前者7質量部、後者2質量部とする以外は実施例2と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0048】
[実施例4~9、比較例1~2]
A層ポリマーおよびB層ポリマーに添加する粒子および樹脂の種類および量を表1記載のとおりに変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。」
(合議体注:段落【0045】の「表1に示すとおりの粒子およびを添加して」は「表1に示すとおりの粒子および樹脂を添加して」の誤記と認める。)
「【0050】
表1中のPBTはポリブチレンテレフタレート、PTMTはポリトリメチレンテレフタレート、PCHTはポリ(シクロヘキシレンジメチレン)テレフタレートを意味する。」
・表1は次のとおりである。
[図:0001409125000001.jpg]
(2)甲1発明
上記(1)より、実施例9に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「基材層(B層)と少なくとも一方の表面に粒子含有の艶消し層(A層)とを有する積層ポリエステルフィルムであって、
該積層ポリエステルフィルムは、
ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.63dl/g)に平均粒径5.3μmの合成ゼオライトを20質量%、ポリブチレンテレフタレートを10質量%添加して艶消し層(A層)を形成するためのA層ポリマーとし、また、A層と同様に平均粒径5.3μmの合成ゼオライトを3質量%、ポリブチレンテレフタレートを1質量%添加し、基材層(B層)を形成するためのB層ポリマーとし、
それぞれ280℃に加熱された押出機に供給し、A層ポリマー、B層ポリマーをA/Bの積層構成となるような2層フィードブロック装置を用い合流させ、その積層状態を維持したままダイスよりシートを20℃に維持した回転冷却ドラム上に溶融押出して未延伸フィルムとし、次いで該未延伸フィルムを縦方向に3.2倍延伸し、その後、140℃で横方向に3.4倍に延伸し、235℃で熱固定して、二軸配向ポリエステルフィルム(厚さ50μm)を得たものであり、
該艶消し層(A層)表面における光沢度(G60)が8である、積層ポリエステルフィルム。」
2 対比・判断
2-1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
・後者の「艶消し層(A層)」は前者の「低光沢層」に相当し、以下同様に、「基材層(B層)」は「基材層」に、「光沢度(G60)」は「60°光沢度(G60)」に、「積層ポリエステルフィルム」は「フィルム」に、それぞれ相当する。
そして、上記の相当関係を踏まえると、以下のことがいえる。
・後者の「艶消し層(A層)表面における光沢度(G60)が8である」「基材層(B層)と少なくとも一方の表面に粒子含有の艶消し層(A層)とを有する積層ポリエステルフィルム」と、前者の「60°光沢度(G60)と、85°光沢度(G85)がいずれも27以下である低光沢層(A層)を有するフィルム」とは、「60°光沢度(G60)が27以下である低光沢層(A層)を有するフィルム」である点で共通する。
・後者の「A/Bの積層構成となる」ことは、前者の「前記A層が少なくとも片側の表層にあり、前記A層の片側に基材層を有し」ていることに相当する。
・後者の「該積層ポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.63dl/g)に・・・ポリブチレンテレフタレートを10質量%添加して艶消し層(A層)を形成するためのA層ポリマーとし、また、A層と同様に・・・ポリブチレンテレフタレートを1質量%添加し、基材層(B層)を形成するためのB層ポリマーとし」ていることは、「基材層、A層ともポリエステル樹脂を主成分とし」ていることに相当する。
以上のことより、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点〕
「60°光沢度(G60)が27以下である低光沢層(A層)を有するフィルムであって、前記A層が少なくとも片側の表層にあり、前記A層の片側に基材層を有し、基材層、A層ともポリエステル樹脂を主成分としているフィルム。」
〔相違点1〕
「低光沢層(A層)」について、本件発明1は、「85°光沢度(G85)」についても「27以下」であり、「前記60°光沢度(G60)と、前記85°光沢度(G85)が下記(I)式を満足」「0.1≦(G85)/(G60)≦3・・・(I)」しているのに対し、甲1発明は、そのような特定はない点。
〔相違点2〕
本件発明1は、「長手方向(MD)、幅方向(TD)のうち少なくとも一方向のMIT屈曲破断回数が7500回以上である」のに対し、甲1発明は、そのような特定はない点。
(2)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1発明で認定したとおりに製造された積層ポリエステルフィルムが、「長手方向(MD)、幅方向(TD)のうち少なくとも一方向のMIT屈曲破断回数が7500回以上である」という条件を満たすものであることを示す証拠は提出されていない。
したがって、相違点2は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明ではない。
また、甲1には、屈曲破断回数に関する記載も示唆もないから、甲1発明において、上記相違点2に係る事項とする動機はなく、当業者にとって容易に想到し得たことではない。
よって、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
なお、上記相違点2について、申立人は、特許異議申立書の20~21ページにおいて、甲1の実施例のポリマーと粒子濃度は、本件の実施例17、18に類似するから、MIT屈曲破断回数に係る上記事項を満たしている旨主張する。
しかしながら、本件の実施例17、18と、甲1発明(実施例9)や甲1に記載される他の実施例(甲1の段落【0043】~【0048】及び表1参照。)とは、樹脂や粒子の種類や配合量が異なるものであり、本件の表1~5に記載の各実施例を検討するに、樹脂や粒子の種類や配合量により、MIT屈曲破断回数が異なることが示されている上、本件の実施例17、18(本件明細書の段落【0086】、【0102】、【0103】参照。)と、甲1発明や甲1に記載される他の実施例とは、延伸の条件(甲1では、長手方向の延伸温度の明示はなく、長手方向及び横方向の延伸倍率も本件の実施例17、18と相違。)も異なることから、申立人の上記主張は採用できない。
2-2 本件発明2~15について
本件発明2~15は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、上記2-1と同様の理由により、本件発明2~8、11、12、14、15は、甲1発明ではなく、また、本件発明2~8、10~12、14、15は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明9、13は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
第4-2 理由C(実施可能要件)について
1 申立人は、特許異議申立書の29ページにおいて、本件発明1の「長手方向(MD)、幅方向(TD)のうち少なくとも一方向のMIT屈曲破断回数が7500回以上である」という事項の達成手段として、本件明細書の段落【0022】に「熱処理前にA層の結晶化温度(Tcc)以上の温度において延伸を行う」と記載されているのに、そのような処理を行っていない比較例2、3、4も上記事項を満たしており、どのようにして上記事項を満たすことができるのか不明であり、実施可能要件を満たしていない旨を主張するので、以下検討する。
まず、本件明細書の段落【0067】~【0110】には、各実施例の具体的な作成方法が記載され、同【0052】~【0053】には、「MIT屈曲破断回数」の具体的な算出方法も記載されている。
そして、表4の実施例17、18として、上記の作成方法(段落【0086】、【0102】、【0103】)により作成されたものが、上記の算出方法により算出された結果が、MIT屈曲破断回数に係る上記事項を満たすことが示されており、申立人が主張する比較例の事項に係る事情があるとしても、物の発明である本件発明1を実施すなわち生産できなくなるものではない。
そうすると、本件明細書は、本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
2 申立人は、特許異議申立書の29~30ページにおいて、本件発明6の「前記粒子の嵩高度が0.5以上である」という事項について、本件明細書に記載の実施例20と比較例6は、低光沢層(A層)の粒子として同じものを使用しているのに、嵩高度がそれぞれ0.53と0.48で異なっており、本件明細書は嵩高度をどのようにコントロールするのか記載がなく、実施可能要件を満たしていない旨を主張するので、以下検討する。
まず、上記1と同様、本件明細書の段落【0067】~【0110】には、各実施例の具体的な作成方法が記載され、同【0050】には、「嵩高度」の具体的な算出方法も記載されている。
そして、上記の作成方法(段落【0086】、【0102】、【0103】)により作成された実施例17、18について、上記の算出方法により算出された結果が、嵩高度に係る上記事項を満たすことが示されており、申立人が主張する実施例と比較例との関係があるとしても、物の発明である本件発明1を実施すなわち生産できなくなるものではない。
そうすると、本件明細書は、本件発明6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
第4-3 理由D(サポート要件)について
申立人は、特許異議申立書の30ページにおいて、本件発明1は粒子の形状と粒子の種類について規定されていないが、実施例において効果が示されているのは、六面体と八面体の珪酸アルミと、平板のアルミナのみであるから、サポート要件を満たしていない旨を主張するので、以下検討する。
本件発明は、「転写フィルムとして用いた場合に、入射角度によらない均一な低光沢外観を転写可能であるフィルムを提供する」(【0005】)を課題とし、請求項1で特定される「60°光沢度(G60)と、85°光沢度(G85)がいずれも27以下である低光沢層(A層)を有するフィルムであって、前記A層が少なくとも片側の表層にあり、前記60°光沢度(G60)と、前記85°光沢度(G85)が下記(I)式を満足」「0.1≦(G85)/(G60)≦3・・・(I)」という事項により、前記課題を解決するものである。
すなわち、課題解決のためには、上記の「60°光沢度(G60)」及び「85°光沢度(G85)」に係る要件を満たせばよいのであるから、粒子の形状や種類の特定は必須ではない。さらに、本件明細書の段落【0020】の「低光沢層(A層)の60°光沢度(G60)と、85°光沢度(G85)をいずれも27以下とし、上記(I)式を満足する方法としては、特に限定されないが、使用する粒子として多面体形状を有する粒子を用いる方法、単分散型の粒子を用いる方法、多面体形状を有し、かつ単分散型の粒子を用いる方法などが挙げられる。」との記載、及び、同【0016】の「A層に含有させる粒子は、無機粒子、有機粒子いずれも適用することができ、無機粒子と有機粒子を併用することも可能である。ここで、使用する無機粒子および/または有機粒子としては特に限定されるものではないが、たとえば、無機粒子としては、シリカ、ケイ酸アルミ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化アルミなど、有機粒子としては、スチレン、シリコーン、アクリル酸類、メタクリル酸類、ポリエステル類、ジビニル化合物などを構成成分とする粒子を使用することができる。」との記載を踏まえると、実施例で使用されたもの以外の形状や種類の粒子であっても課題を解決できることを当業者は理解できる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1~15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700616