特許異議申立
2022-700543
洗い落し式水洗大便器
- 審判番号
- 2022-700543
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-059714
- 登録番号
- 6987361
- 請求日
- 2022年06月20日
- 審決日
- 2024年03月28日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】TOTO株式会社
- 【権利者代理人】田中 伸一郎
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】弟子丸 健
- 【権利者代理人】倉澤 伊知郎
- 【権利者代理人】山本 泰史
- 【権利者代理人】鈴木 博子
- 【異議申立人】栗 暢行
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 住田 秀弘
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P1651.113-ZDB(E03D) / P1651.121-ZDB(E03D) / P1651.537-ZDB(E03D) / P1651.841-ZDB(E03D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第126条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6987361号発明「洗い落し式水洗大便器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
令和 5年11月 2日付け手続補正書により補正された令和 5年 8月10日付け訂正請求において、特許第6987361号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5、6について訂正することを認める。
特許第6987361号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。
同請求項5、6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6987361号の請求項1ないし6に係る特許は、令和2年3月30日に出願され、令和3年12月3日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許について、令和4年6月20日に、特許異議申立人 栗 暢行(以下「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、請求項1ないし6に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和 4年11月28日付け:取消理由通知
令和 5年 1月30日 :特許権者による意見書の提出及び
訂正の請求
令和 5年 4月20日 :申立人による意見書の提出
令和 5年 6月 9日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 5年 8月10日 :特許権者による意見書の提出及び
訂正の請求
令和 5年 9月29日付け:訂正拒絶理由通知
令和 5年11月 2日 :特許権者による意見書及び手続補正書
の提出
令和 6年 1月18日 :申立人による意見書の提出
なお、令和5年1月30日にされた訂正の請求は、令和5年8月10日にされた訂正の請求により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年8月10日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の下流側の一部には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも大きい流路断面積を有する拡大部が形成されており、」の後に「前記下降流路の途中に、前記拡大部よりも流路断面積が大きい第2拡大部が形成されていて、前記下降流路においてサイホンが発生してしまうことが抑制されており、」との記載を追加すると共に、「前記拡大部の頂面の上流側端は、前記上昇流路の底面の最高到達位置よりも低く、且つ、初期水位の溜水面よりも低い位置にある」と記載されているのを、「前記拡大部の頂面の上流側端は、前記上昇流路の底面の最高到達位置よりも低く、且つ、初期水位の溜水面よりも低い位置にあり、前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、上に凸の湾曲形状を有しており、前記拡大部の流路方向に垂直な断面において、前記拡大部の側面が、底面から頂面にかけて幅方向に広がっており、前記トラップ下降管部のうち斜め下向きに延在する領域の底面が、側面視で直線状である」に訂正する。
請求項1を引用する請求項2~4についても同様に訂正する。
(なお、上記「広がっており、前記トラップ下降管路のうち」について、訂正請求書では「前前記トラップ下降管路」と記載されているが、訂正特許請求の範囲には、上記のとおり記載されており、また文意からみて「前前記」は誤記であることが明らかであるから、訂正事項1は上記のとおり認定した。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記上昇流路の下流端には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも小さい流路断面積を有する縮小部が形成されている」と記載されているのを、「前記上昇流路の下流端には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも小さい流路断面積を有する縮小部が形成されており、前記縮小部の頂面は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、左右方向中央側の領域に上に凸の湾曲形状を有している」に訂正する。
請求項2を引用する請求項3~4についても同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5の冒頭に、「汚物を受けるボウル部と、前記ボウル部の下方部に接続された排水トラップ管路と、を備え、前記排水トラップ管路は、前記ボウル部の下方部に一端側が連続するまたは接続された入口管部と、前記入口管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて上昇流路を形成するトラップ上昇管部と、前記トラップ上昇管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて下降流路を形成するトラップ下降管部と、を有しており、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の下流側の一部には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも大きい流路断面積を有する拡大部が形成されており、
前記下降流路の途中に、前記拡大部よりも流路断面積が大きい第2拡大部が形成されていて、前記下降流路においてサイホンが発生してしまうことが抑制されており、前記拡大部は、前記上昇流路の上方側において拡大されており、前記拡大部の頂面の上流側端は、前記上昇流路の底面の最高到達位置よりも低く、且つ、初期推移の湛水面よりも低い位置にあり、前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、上に凸の湾曲形状を有しており、」との記載を追加すると共に、「前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、略鉛直方向に延在する壁面によって形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の洗い落し式水洗大便器」と記載されているのを、「前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、略鉛直方向に延在する壁面によって形成されていることを特徴とする洗い落し式水洗大便器」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6の冒頭に、「汚物を受けるボウル部と、前記ボウル部の下方部に接続された排水トラップ管路と、を備え、前記排水トラップ管路は、前記ボウル部の下方部に一端側が連続するまたは接続された入口管部と、前記入口管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて上昇流路を形成するトラップ上昇管部と、前記トラップ上昇管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて下降流路を形成するトラップ下降管部と、を有しており、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の下流側の一部には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも大きい流路断面積を有する拡大部が形成されており、
前記拡大部は、前記上昇流路の上方側において拡大されており、前記拡大部の頂面の上流側端は、前記上昇流路の底面の最高到達位置よりも低く、且つ、初期水位の湛水面よりも低い位置にあり、前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、略鉛直方向に延在する壁面によって形成されており、」との記載を追加すると共に、
「前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、上に凸の湾曲形状を有していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の洗い落し式水洗大便器」と記載されているのを、「前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、上に凸の湾曲形状を有していることを特徴とする洗い落し式水洗大便器」に訂正する。
2 訂正拒絶理由通知について
令和5年9月29日付け訂正拒絶理由通知の概要は以下のとおりである。
訂正事項1の後半に記載された訂正のうち「前記拡大部の流路方向に垂直な断面において、前記拡大部の側面が、底面から頂面にかけて幅方向に広がっており」(以下「構成要件A」という。)を追加する訂正事項(以下「訂正事項A」という。)について検討すると、本件特許の図2~図4には構成要件Aは記載されているとは認められないから、構成要件Aを追加する訂正は、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであって、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、よって、訂正事項Aを含む訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものではないから、訂正事項1は認めることができない。
3 手続補正書について
(1)令和5年11月2日に提出された手続補正書による、本件訂正請求に係る訂正請求書の補正の内容は以下のとおりである。
ア 「7 請求の理由」「(3)訂正の理由」「ア 一群の請求項についての説明」における「本訂正請求による訂正は、特許権全体に対す請求であるので、説明を省略する。」とあった記載を、「訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。」に補正する。
イ 「7 請求の理由」「(3)訂正の理由」「イ 訂正事項がすべての訂正要件に適合している事実の説明」「(ア)訂正事項1」「d 特許出願の際に独立して特許を受けることができること」「(v)」における「これに対して本件発明1によれば、拡大部の底面から頂面にかけて汚物に回転を与える作用が促されるような排水に流速差が生じ得る。」とあった記載を、「これに対して本件発明1によれば、拡大部の底面から頂面にかけて汚物に回転力を与える作用が促される。」に補正する。
ウ 「7 請求の理由」「(3)訂正の理由」の最後に、「ウ 別の訂正単位とする求め」として、「訂正後の請求項5、6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。」なる記載を追加する。
(2)上記(1)の各補正は、いずれも訂正請求書に記載された各訂正事項を補正するものではなく、訂正請求の要旨を変更するものではないから、当該補正は認められる。
4 訂正の適否について
(1)訂正事項1
訂正拒絶理由通知で指摘した構成要件Aを追加する訂正事項Aについて検討する。
ア 上記構成要件Aを追加する訂正の根拠について、訂正請求書には「図2、図3及び図4に基づいており、」(5頁下から6~4行)とのみ記載されていることから、図2、図3及び図4を検討するために、以下にそれらの図を示す。
(ア)【図2】「
[図:0001413276000001.jpg]
」
(イ)【図3】「
[図:0001413276000002.jpg]
」
(ウ)【図4】「
[図:0001413276000003.jpg]
」
イ 図2は、明らかに側面視の図であって、拡大部の流路方向に垂直な断面の形状を読み取ることはできないから、ここでは検討しない。
ウ 図3において、拡大部の流路の高さ63mmを示す矢印に対して、その上下に引き込み線が記載されており、そのうち、上側の引き込み線で示されている箇所から横方向に延びる面を頂面とし、下側の引き込み線で示されている箇所から横方向に延びる面を底面とみると、該頂面及び底面の左右両端をそれぞれ繋ぐ縦方向に延びる面を一対の側面とみることができる。
そして、該一対の側面をみると、該底面から頂面にかけて、その間隔が幅方向に明確に広がっているとは認められない。
仮に、図3図面から、各部分の寸法を直接測定することにより、該側面の間隔が幅方向に微妙に広がっていたとしても、特許出願の願書に添付された図面は、設計図面のように各寸法等が正確に書かれているものではないことから、そのように測定した寸法による微妙な広がりに基づいて、上記構成要件Aが記載されているとは認められない。
また、令和6年1月18日付け手続補正書により補正された令和5年8月10日付け訂正請求書において、「甲1の実施例2の構成では、拡大部の流路方向に垂直な断面において、拡大部の側面が、底面から頂面にかけて幅方向に狭まっている(上方側が尖った略三角形状断面である)。すなわち、甲1には、訂正後の請求項1の構成要件I「前記拡大部の流路方向に垂直な断面において、前記拡大部の側面は、底面から頂面にかけて幅方向に広がっており」が記載も示唆もされていない。これに対して本件発明1によれば、拡大部の底面から頂面にかけて汚物に回転力を与える作用が促される。」(10頁(v))と主張するところ、そのような作用を奏することは本件明細書等には記載されておらず、図2~図4から自明な事項とも認められないし、当該作用を奏するほどの幅の変化が、底面から頂面にかけて形成されているとも認められない。
上記したことは、図4においても同様である。
エ 以上のことから、図3及び図4には、構成要件Aは記載されておらず、また、発明の詳細な説明中にも構成要件Aは記載されておらず、示唆する記載も見当たらないことから、構成要件Aを追加する訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではないものと認める。
よって、訂正事項Aを含む訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものではないから、訂正事項1は認めることができない。
(2)訂正事項2
下記(5)で検討したとおり、訂正後の請求項1~4は、一群の請求項である。そして、訂正事項2は、請求項2に係る訂正であるところ、上記(1)で検討したとおり、訂正事項1に係る請求項1の訂正は認められないことから、訂正事項2も認めることはできない。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項5の記載が、請求項1乃至4のいずれかの記載を引用するところ、そのうち、請求項1の記載事項のみに限定し、他の請求項の記載を引用しないものとし、さらに、請求項1に係る発明の発明特定事項である「下降流路」及び「上昇流路」に関して、それぞれ、「前記下降流路の途中に、前記拡大部よりも流路断面積が大きい第2拡大部が形成されていて、前記下降流路においてサイホンが発生してしまうことが抑制されており、」及び「前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、上に凸の湾曲形状を有して」いるとの限定を加える訂正であるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更
上記アのとおり、引用する請求項を減らした上で他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとし、訂正前の発明特定事項について限定を加えたものであって、請求項5に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
ウ 新規事項
訂正事項3は、上記アのとおり、請求項1の記載事項のみに限定して他の請求項の記載を引用しないものとしていること、及び、本件特許の明細書の段落【0057】及び訂正前の請求項6の記載からみて、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、本件訂正前の請求項6の記載が、請求項1乃至5のいずれかの記載を引用するところ、そのうち、請求項1及び請求項5に記載された事項のみに限定し、さらに他の請求項の記載を引用しないものとすることから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であることも明らかである。
(5)一群の請求項
訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は、直接または間接的に請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
なお、令和5年11月2日提出の手続補正書により、訂正後の請求項5、6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めているところ、上記(3)及び(4)のとおり、訂正事項3、4に係る請求項5、6の訂正は認められるから、訂正後の請求項5、6については、上記の一群の請求項とは別途訂正するものである。
3 訂正請求のまとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1は、特許法第126条の5第9項により準用する同法第126条第5項に適合するものではないから、認めることはできず、さらに、訂正事項2に係る請求項2は、訂正事項1に係る請求項1と一群の請求項を構成しているから、請求項1に係る訂正事項1が認められないことにより、訂正事項2も認められない。
また、訂正事項3及び訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とし、同法第126条第9項により準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲において、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5、6について訂正することを認めるが、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりの訂正後の請求項1~4についてする訂正は認めることはできない。
第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり、訂正事項1、2に係る請求項1~4の訂正は認められず、訂正事項3、4に係る請求項5、6の訂正は認められるから、本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許公報の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定され、また、本件特許の請求項5、6に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項5、6に記載された事項により特定されるものであり、次のとおりのものである(以下、各請求項に記載された発明を、その請求項番号に対応して「本件発明1」等といい、全体の発明を「本件発明」という。)。
【請求項1】
汚物を受けるボウル部と、
前記ボウル部の下方部に接続された排水トラップ管路と、
を備え、
前記排水トラップ管路は、
前記ボウル部の下方部に一端側が連続するまたは接続された入口管部と、
前記入口管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて上昇流路を形成するトラップ上昇管部と、
前記トラップ上昇管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて下降流路を形成するトラップ下降管部と、
を有しており、
前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の下流側の一部には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも大きい流路断面積を有する拡大部が形成されており、
前記拡大部は、前記上昇流路の上方側において拡大されており、
前記拡大部の頂面の上流側端は、前記上昇流路の底面の最高到達位置よりも低く、且つ、初期水位の溜水面よりも低い位置にある
ことを特徴とする洗い落し式水洗大便器。
【請求項2】
前記上昇流路の下流端には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも小さい流路断面積を有する縮小部が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の洗い落し式水洗大便器。
【請求項3】
前記上昇流路の底面は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の上流端から少なくとも前記拡大部の上流端まで略同一の曲率半径で形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の洗い落し式水洗大便器。
【請求項4】
前記上昇流路の流路方向に垂直な断面に関して、前記上昇流路の前記拡大部の底面は、略一定の断面形状を有している
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の洗い落し式水洗大便器。
【請求項5】
汚物を受けるボウル部と、
前記ボウル部の下方部に接続された排水トラップ管路と、
を備え、
前記排水トラップ管路は、
前記ボウル部の下方部に一端側が連続するまたは接続された入口管部と、
前記入口管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて上昇流路を形成するトラップ上昇管部と、
前記トラップ上昇管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて下降流路を形成するトラップ下降管部と、
を有しており、
前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の下流側の一部には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも大きい流路断面積を有する拡大部が形成されており、
前記下降管路の途中に、前記拡大部よりも流路断面積が大きい第2拡大部が形成されていて、前記下降流路においてサイホンが発生してしまうことが抑制されており、
前記拡大部は、前記上昇流路の上方側において拡大されており、
前記拡大部の頂面の上流側端は、前記上昇流路の底面の最高到達位置よりも低く、且つ、初期水位の溜水面よりも低い位置にあり、前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、上に凸の湾曲形状を有しており、
前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、略鉛直方向に延在する壁面によって形成されている
ことを特徴とする洗い落し式水洗大便器。
【請求項6】
汚物を受けるボウル部と、
前記ボウル部の下方部に接続された排水トラップ管路と、
を備え、
前記排水トラップ管路は、
前記ボウル部の下方部に一端側が連続するまたは接続された入口管部と、
前記入口管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて上昇流路を形成するトラップ上昇管部と、
前記トラップ上昇管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて下降流路を形成するトラップ下降管部と、
を有しており、
前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の下流側の一部には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも大きい流路断面積を有する拡大部が形成されており、
前記拡大部は、前記上昇流路の上方側において拡大されており、
前記拡大部の頂面の上流側端は、前記上昇流路の底面の最高到達位置よりも低く、且つ、初期水位の溜水面よりも低い位置にあり、
前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、略鉛直方向に延在する壁面によって形成されており、
前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、上に凸の湾曲形状を有している
ことを特徴とする洗い落し式水洗大便器。」
第4 取消理由(決定の予告)の概要
令和5年1月30日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明に対して、令和5年6月9日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。
・請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当するから、取り消されるべきものである。
〔刊行物〕
甲第1号証:特開2011-174363号公報
(以下、「甲1」と呼ぶことがある。)
第5 証拠の記載
1 甲1
(1)甲1の記載
特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して提出された甲1には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。以下同様。)
ア 「【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】サイフォン式水洗便器の縦断面構成図である。
【図2】サイフォン式水洗便器の平面構成図である。
【図3】図1のA-A線断面図である。
【図4】図1のB-B線断面図である。
【図5】図1のC-C線断面図である。
【図6】図1のD-D線断面図である。
【図7】図1のE-E線断面図である。
【図8】図1のF-F線断面拡大図である。
【図9】図1のG-G線断面拡大図である。
【図10】図1のI-I線断面拡大図である。
【図11】図1のJ-J線断面拡大図である。
【図12】図1のK-K線断面拡大図である。
【図13】水洗便器における上昇管の部分の変更例である第2実施例を示す拡大
断面構成図である。
【図14】図13におけるL-L断面図である。
【図15】図13におけるM-M断面図である。
【図16】図13におけるN-N断面図である。
【図17】図13におけるO-O断面図である。
【図18】図13におけるP-P断面図である。」
イ 「【0017】
図1は、サイフォン式水洗便器の縦断面図を示し、図2は、サイフォン式水洗便器の平面図を示す。
サイフォン式水洗便器1の便器本体2内には、鉢面3が形成され、この鉢面3に連続して底側へ落ち込む立ち面4が形成され、最も深い位置にトラップ入口5が開口されて、このトラップ入口5から、後方側に向かって上傾する逆U字状のトラップ排水路6が形成されており、トラップ排水路6の下流端には下向きの排水口7が形成され、この排水口7に、円形状のゴムパッキン13を介し別体の排水ソケット8が接続されている。」
ウ 「【0019】
このように、鉢面3上を旋回して立ち面4内に流下する洗浄水と、上傾面4aに沿って流下する洗浄水が、トラップ入口5に集められると、トラップ排水路6内の溜水面Wが上昇し、洗浄水がトラップ排水路6内の頂部6aを超えて排水口7に流下し、排水ソケット8に形成されている絞り部8aで絞られることで、トラップ排水路6内が満水状態となり、このトラップ排水路6内が満水状態となった時の鉢面3側の溜水面Wとの水位差により排水方向に引き込み力が生じて、このサイフォン作用により良好に汚物を洗浄水とともに排出することができるものである。」
エ 「【0025】
・・・
また、このトラップ入口5の手前には、図1に示すように、トラップ入口5へ向かって下向きに延びる導入通路5aが設けられており、この導入通路5aの内周面に沿って洗浄水がトラップ排水路6内に流れ込む際に、洗浄水が絞られて整流化され、洗浄水の流れがスムーズなものとなる。
なお、トラップ入口5の前でしっかり整流化され、さらに、扁平形状のトラップ入口5で整流化できるため、洗浄水がトラップ排水路6内に整流のまま流れ込み、トラップ排水路の上昇管6Pの縦寸法を大きくしても乱流が起き難く、スムーズに洗浄水の排出ができる。」
オ 「【0028】
また、図12は、図1のK-K線断面構成図である。
図12に示すように、頂部6a手前のトラップ排水路6の断面形状は、横幅寸法bが77mmに設定されており、縦寸法cは62mmに設定されている。即ち、図12において、トラップ排水路6の内周の上面側中央部が上側へ膨らませて形成されており、この上側へ膨らんだ部分により汚物が回転し易いため、頂部6a付近で汚物の詰まりが発生し難いものとなる。
このように上面側中央部を膨らませて汚物回転用空間6bを形成したことにより、汚物回転用空間6b内で汚物が良好に回転して頂部6aを超えて排水口7に落下することができるものとなり、硬く長い汚物でも詰まることなく排出できるものとなる。
【0029】
なお、汚物が良好に頂部6aを超えることができれば良いため、良好に汚物が回転できる寸法として、縦寸法cは53mm以上に設定することが好ましい。また、横幅寸法bは70mm~85mmの範囲内に設定することが好ましい。
このように汚物が詰まらないようにして早期に排水ソケット8の絞り部8a(内径53mm)まで洗浄水を満水状態とさせて、早期にスムーズにサイフォンを起動させることができ、少ない水で良好に洗浄できるものとなる。
【0030】
また、図9は、図1のG-G線断面図を示す。
この図9は、トラップ排水路6の頂部6aの断面形状を示すものであり、この頂部6aの下面は水平形状となっており、横幅寸法bは、トラップ入口5の横幅寸法と同じ77mmに設定されている。
即ち、このトラップ排水路6の頂部6aも下面は水平形状で横幅が広いものとなっており、トラップ排水路6内に押し込まれた洗浄水により、トラップ排水路6内の溜水面Wの水位が頂部6aよりも僅かに上方へ上昇すると、横幅寸法bが広く下面は水平なために大量の水が勢いよく排水口7に向かって流れ落ちることとなり、速くサイフォンを起動させることができるのである。
なお、一般的には、この頂部6aの横幅寸法は50mm~60mmであるが、この横幅寸法bは75mm以上とするのが好ましい。
なお、図1において上昇管6Pの断面の縦寸法は、トラップ入口5から頂部6aにかけて徐々に広がっていく形状となっているが、頂部6aでの縦寸法は汚物の回転には支障はないため、図12のK-K線断面より狭くしても良い。
・・・
【0032】
なお、図2のような溜水面Wの平面視形状が前後方向に長い略楕円形や、図6および図7に示すような立ち面4の凸面状の形状や、図8のような横幅の広い扁平なトラップ入口5の形状や、図12のような汚物回転用空間6bを形成させたトラップ排水路6の断面形状等は、サイフォン式水洗便器に限らず、サイフォンゼット式水洗便器や、水道直結式のダイレクトバルブ式便器や、サイフォン作用が生じない洗い落とし式便器に採用することもでき、汚物および洗浄水がトラップ入口5に集まりやすく、少ない水で洗浄できる構造を確保することができるものとなる。」
カ 「【実施例2】
【0033】
次に、図13~図18では、水洗便器における上昇管6Pの部分の変更例である第2実施例を示す。
図13は、図1におけるトラップ排水路6の上昇管6Pの拡大断面図であり、この図13におけるL-L断面は図14に示し、M-M断面は図15に示し、N-N断面は図16に示し、O-O断面は図17に示し、P-P断面は図18に示す。
【0034】
即ち、図14,図15,図16,図17は、上昇管6Pにおける排水方向に対し直角の断面形状を示している。また、図18は、頂部6aの上流側近傍の排水方向に対し直角の断面形状を示している。
【0035】
上昇管6Pの内周面には、底側の底面61と、底面61の左右において縦方向(上下方向)に立ち上がる立ち面62,63と、立ち面62,63の上端の略山形状の上面64,65,66が連続して形成されている。
上面64,65,66は、洗浄水の排水方向に対し直角方向の中央部に位置する上面中央部64から左右に下向きに上面傾斜部65,66が立ち面62,63に向かって形成されており、図14では、上面傾斜部65,66はトラップ排水路6内に膨出した湾曲の傾斜状に形成されている。また、図15,図16,図17では、上面傾斜部65,66は略直線状に傾斜して形成されている。
また、図18では、左右の立ち面62,63の高さが、中間部から頂部6a近傍の間で最大となるような形状となっており、この図18に示す上昇管6Pの上昇端の面積が最大の面積となるように設定されている。
なお、上昇管6Pの上流端であるトラップ入口5の排水方向に対する直角の断面は、前記図8に示したような断面形状となっており、トラップ排水路6の頂部6aの断面形状は、図9と同じ形状となっている。
【0036】
なお、上昇管6P内で上流側から下流側に向かって排水方向に流れる洗浄水は、図13内の矢印WSに沿って流れの速い水流となる。
即ち、トラップ入口5では、断面における縦方向の下側へ潜り込む洗浄水は流速が遅くなり淀みが生じやすくなるが、トラップ入口5での断面における縦方向の上側では、水流は潜らないために速い流速を維持して上昇管6P内に流入され、この速い水流は上昇管6P内で頂部6aに向かって流れるため、上昇管6Pの中間部から下流側の頂部6aの手前の上昇端に至る間では、断面における縦方向の下側、即ち底面61側の水流の速度が速く、断面における縦方向の上側で水流が遅くなり淀みが生じやすくなる。そのため、上昇管6P内全体として水流の速度を良好に維持して洗浄水が圧損なくスムーズに流れるように、図14~図18に示したような断面形状に設定したものである。」
キ 図1、図9、図13~図18は以下のとおり。
「【図1】
[図:0001413276000004.jpg]
」
「【図9】
[図:0001413276000005.jpg]
」
「【図13】
[図:0001413276000006.jpg]
」
「【図14】
[図:0001413276000007.jpg]
」
「【図15】
[図:0001413276000008.jpg]
」
「【図16】
[図:0001413276000009.jpg]
」
「【図17】
[図:0001413276000010.jpg]
」
「【図18】
[図:0001413276000011.jpg]
」
ク 上記ア~カの各記載を踏まえると、上記キの各図面から以下の事項が看取できる。
・図1から、トラップ排水路6は、一端側がトラップ入口5に連続し、他端側が頂部6aに連続する上昇管6Pと、一端側が頂部6aに連結し、他端側が排水口7に連結する下降管とで構成されていることが看取できる。
・図13、及び図13におけるL-L断面図~P-P断面図である図14~図18をみると、上昇管6Pの長さ方向中間付近から頂部6aに向けて、立ち面62,63の高さが徐々に大きくなっていることが看取できる。
・図1から、上昇管6Pの長さ方向中間付近の頂面は、頂部6aよりも低く、且つ、溜水面Wよりも低い位置にあることが看取できる。
・図13におけるL-L断面図~P-P断面図である図14~図18をみると、上昇管6Pの底面61と立ち面62,63との連結部には、湾曲面が形成され、また、上面中央部64は湾曲面が形成されていることが看取できる。
・上記オ【0030】の「頂部6aでの縦寸法は汚物の回転には支障はないため、図12のK-K線断面よりも狭くしてもよい。」との記載を踏まえると、図1から、頂部6aの垂直方向断面の断面積は、その上流側の断面積よりも小さいことが看取できる。
・図1から、上昇管の頂部6aから下降管の溜水面Wにおいて、上昇管6Pの全ての部分の高さよりも高い部分が存在していることが看取できる。
・図1のG-G線断面拡大図である図9から、上昇管6Pの頂部6a付近の頂面の断面は、上に凸の湾曲面形状を有していることが看取できる。
(2)甲1発明
上記(1)からみて、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「便器本体2内には、鉢面3が形成され、この鉢面3に連続して底側へ落ち込む立ち面4が形成され、最も深い位置にトラップ入口5が開口されて、このトラップ入口5から、後方側に向かって上傾する逆U字状のトラップ排水路6が形成されており、トラップ排水路6の下流端には下向きの排水口7が形成されている、サイフォン式水洗便器1であって、
洗浄水が、トラップ入口5に集められると、トラップ排水路6内の溜水面Wが上昇し、洗浄水がトラップ排水路6内の頂部6aを超えて排水口7に流下するものであり、
トラップ入口5の手前には、トラップ入口5へ向かって下向きに延びる導入通路5aが設けられており、
トラップ排水路6は、一端側がトラップ入口5に連続し、他端側が頂部6aに連続する上昇管6Pと、一端側が頂部6aに連結し、他端側が排水口7に連結する下降管とで構成され、
上昇管6Pの長さ方向中間付近の頂面は、頂部6aよりも低く、且つ、溜水面Wよりも低い位置にあり、
上昇管6Pの内周面には、底側の底面61と、底面61の左右において縦方向(上下方向)に立ち上がる立ち面62,63と、立ち面62,63の上端の略山形状の上面64,65,66が連続して形成され、また、上面64,65,66は、洗浄水の排水方向に対し直角方向の中央部に位置する上面中央部64から左右に下向きに上面傾斜部65,66が立ち面62,63に向かって形成されており、
上昇管6Pの長さ方向中間付近から頂部6aに向けて、立ち面62,63の高さが徐々に大きくなっており、
上昇管6Pの底面61と立ち面62,63との連結部には、湾曲面が形成され、また、上面中央部64は湾曲面が形成されており、
上昇管6Pの頂部6aの垂直方向断面の断面積は、その上流側の断面積よりも小さく、
上昇管6Pの頂部6a付近の頂面の断面は、上に凸の湾曲形状を有しており、
上昇管の頂部6aから下降管の溜水面Wにおいて、上昇管6Pの全ての部分の高さよりも高い部分が存在している、
サイフォン式水洗便器1。」
第6 検討
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「便器本体2」は、本件発明1の「汚物を受けるボウル部」に相当し、甲1発明の「導入通路5a」、「トラップ排水路6」の「上昇管6P」、同「下降管」、及びそれらを合わせたものが、それぞれ、本件発明1の「入口管部」、「(上昇流路を形成する)トラップ上昇管部」、「(下降流路を形成する)トラップ下降管部」及び「排水トラップ管路」に相当する。
甲1発明において、「便器本体2内には、」「最も深い位置にトラップ入口5が開口されて」いることからみて、甲1発明の「トラップ入口5の手前に」「設けられ」た「導入通路5a」は、「便器本体2」の下方部に接続されているといえるから、本件発明1の「前記ボウル部の下方部に接続された排水トラップ管路(14)」に相当する。
イ 上記アの本件発明1の「排水トラップ管路」の対比を踏まえると、甲1発明の「トラップ入口5の手前に」「設けられ」た「導入通路5a」と、「一端側がトラップ入口5に連続し、他端側が頂部6aに連続する上昇管6Pと、一端側が頂部6aに連結し、他端側が排水口7に連結する下降管とで構成され」た「トラップ排水路6」を合わせて、本件発明1の「前記排水トラップ管路は、前記ボウル部の下方部に一端側が連続するまたは接続された入口管部と、前記入口管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて上昇流路を形成するトラップ上昇管部と、前記トラップ上昇管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて下降流路を形成するトラップ下降管部と、を有して」いることに相当する。
ウ 甲1発明の「上昇管6Pの内周面には、底側の底面61と、底面61の左右において縦方向(上下方向)に立ち上がる立ち面62,63と、立ち面62,63の上端の略山形状の上面64,65,66が連続して形成され、また、上面64,65,66は、洗浄水の排水方向に対し直角方向の中央部に位置する上面中央部64から左右に下向きに上面傾斜部65,66が立ち面62,63に向かって形成されており、
上昇管6Pの長さ方向中間付近から頂部6aに向けて、立ち面62,63の高さが徐々に大きくなって」いる構成において、上昇管6Pは、その長さ方向中間付近から、立ち面62,63の高さが徐々に大きくなっているのであるから、該付近から断面積が下流側に向けて拡大しており、言い換えれば該付近から下流側に向けて、または上方側に向けて拡大部が形成されているといえる。
してみると、甲1発明の上記構成は、本件発明1の「前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の下流側の一部には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも大きい流路断面積を有する拡大部が形成されて」いること、及び「前記拡大部は、前記上昇流路の上方側において拡大されて」いることに相当する。
エ 甲1発明の「上昇管6Pの長さ方向中間付近の頂面は、頂部6aよりも低く、且つ、溜水面Wよりも低い位置にあ」ることは、本件発明1の「前記拡大部の頂面の上流側端は、前記上昇流路の底面の最高到達位置よりも低く、且つ、初期水位の溜水面よりも低い位置にある」ことに相当する。
オ 本件発明1の「洗い落し式水洗大便器」と甲1発明の「サイフォン式水洗便器1」とは、「水洗大便器」で共通する。
カ 上記アないしオからみて、本件発明1と甲1発明とは、
「汚物を受けるボウル部と、
前記ボウル部の下方部に接続された排水トラップ管路と、
を備え、
前記排水トラップ管路は、
前記ボウル部の下方部に一端側が連続するまたは接続された入口管部と、
前記入口管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて上昇流路を形成するトラップ上昇管部と、
前記トラップ上昇管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて下降流路を形成するトラップ下降管部と、を有しており、
前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の下流側の一部には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも大きい流路断面積を有する拡大部が形成されており、
前記拡大部は、前記上昇流路の上方側において拡大されており、
前記拡大部の頂面の上流側端は、前記上昇流路の底面の最高到達位置よりも低く、且つ、初期水位の溜水面よりも低い位置にある
水洗大便器。」で一致するものの、以下の点で相違している。
〔相違点1〕
水洗大便器について、本件発明1は、「洗い落し式」であるのに対し、甲1発明は、「サイフォン式」である点。
(2)判断
上記相違点1について検討する。
ア 甲3の【0040】に「上述した実施形態は、洗浄水がボウル部8の高さ方向の落差を利用して汚物を排出する洗い落とし式水洗大便器に適用した例である。本発明は基本的にサイホン作用を利用せずに洗浄水の流れにより便器本体2を洗浄する洗い落とし式水洗大便器に適用されるが、本発明は、サイホン作用が発生する、・・・他の水洗大便器にも適用可能である。」と記載され、甲5の【0031】に「なお、上述した本実施形態においては、例として、洗い落とし式の水洗大便器に適用した形態について説明しているが、このような形態に限定されるものではなく、他の水洗大便器の形態にも適用可能である。例えば、排水トラップ管路によるサイホン作用により汚物を押し流す、いわゆる、サイホン式の水洗大便器等、洗い落とし式の水洗大便器以外の便器形態についても適用可能である。」と記載され、甲6の【0050】に「上述した実施形態は、洗い落とし式水洗大便器であったが、本発明はサイホン式水洗大便器にも適用可能である。」と記載されているように、水洗大便器において、「サイホン式」及び「洗い落と式」ともに慣用的に用いられており、「サイホン式」の構成を「洗い落とし式」の構成に適用することは、当業者が適宜なし得る設計上の事項に過ぎないから、甲1発明のサイフォン式水洗便器1を洗い落とし式とすることは、当業者が容易になし得たことである。
イ 特許権者は、令和5年1月30日付け意見書において、甲1の記載(段落【0032】)を挙げ、「当該「実施例1」の構成については、「サイホン式」に限らず「洗い落とし式」にも適用可能であることが当業者に理解されるところであるが、甲1において、図13~図18等を用いて説明されている「実施例2」については、そのような説明が一切無いから、当該「実施例2」の構成については、「洗い落とし式」に適用可能であるか否か、当業者は直ちに判断することができない。」旨、及び「当該「実施例2」の構成は、「なお、上昇管6P内で上流側から下流側に向かって排水方向に流れる洗浄水は、図13内の矢印WSに沿って流れの速い水流となる。」(【0036】)というサイフォン式ならではの特徴を併せ持つものであり、更に、「このように、上昇管6P内における速い流れの水流WSの通る面積を広くして、逆に他の部分の面積を絞り、淀みを無くしてスムーズに洗浄水が流れる用に形成されている。」(【0038】)という特徴を併せ持つものであるから、このような「実施例2」の構成が「比較的少ない洗浄水量」で汚物を排出する「洗い落とし式」にも適用可能であるか否かは、当業者と雖も、実験等によって検証しなければ判断できない。」旨、主張している(4~5頁)。
しかしながら、甲1の「実施例2」は、あくまで「実施例1」の水洗便器における上昇管6Pの部分の変更例であって、甲1に記載の実施例2の構成をサイフォン式のみにしか適用できないことを示すものではなく、さらに、特許権者が主張する上記作用効果は、サイフォン式に限定されるものではなく、その他の洗い落とし式等においても、予測可能な範囲のことであるから、甲1における第1実施例の基本構成に、第2実施例の上昇管6Pの構成を加えた水洗式便器について、洗い落とし式への適用を当業者が適宜認識することは自然なことである。
したがって、特許権者の主張は採用できない。
ウ 以上のとおりであるから、甲1発明において、甲1の記載、または慣用的に用いられた事項を踏まえて、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 本件発明2
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに構成を限定した発明であるから、この限定した構成について検討する。
甲1発明において、「上昇管6Pの頂部6aの垂直方向断面の断面積は、その上流側の断面積よりも小さい」ことは、頂部6aの断面積はその上流側の断面積よりも縮小していることになるので、頂部6aは縮小部といえる。
また、甲1発明において、「上昇管6P」は、「一端側がトラップ入口5に連続し、他端側が頂部6aに連続する」ことから、「頂部6a」は、上昇管6Pの下流端に位置するといえる。
してみると、本件発明2の「前記上昇流路の下流端には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも小さい流路断面積を有する縮小部が形成されていること」と、甲1発明の「上昇管6Pの頂部6aの断面積は、その上流側の断面積よりも小さい」こととは、「前記上昇流路の下流端には、縮小部が形成されていること」で共通するから、本件発明2と甲1発明とは、縮小部が、本件発明2は、「上昇流路の上流側の流路断面積よりも小さい流路断面積を有する」のに対し、甲2発明は、そのような特定がない点(以下「相違点2」という。)、で相違する。
そこで相違点2について検討すると、断面の縮小の程度については、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計上の事項であるから、甲1発明の頂部6aの断面積を、上昇管6Pの上流側の断面積よりも小さいものとすることにより、上記相違点2に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
以上のことから、本件発明2は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 本件発明3
本件発明3は、本件発明1または2の発明特定事項をすべて含み、さらに構成を限定した発明であるから、この限定した構成について検討する。
甲1発明において、「上昇管6Pの底面61と立ち面62,63との連結部には、湾曲面が形成され、また、上面中央部64は湾曲面が形成されて」いることは、上昇管6Pの底面には、特定の曲率半径で形成されているといえる。
してみると、本件発明3の「前記上昇流路の底面は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の上流端から少なくとも前記拡大部の上流端まで略同一の曲率半径で形成されている」ことと、甲1発明の「上昇管6Pの底面61と立ち面62,63との連結部には、湾曲面が形成され、また、上面中央部64は湾曲面が形成されて」ていることとは、「前記上昇流路の底面は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、特定の曲率半径で形成されている」点で共通していることから、本件発明3と甲1発明とは、上昇流路の底面の曲率半径について、本件発明3は、「前記上昇流路の上流端から少なくとも前記拡大部の上流端まで略同一」「で形成されている」のに対し、甲1発明は、そのような特定がない点(以下「相違点3」という。)で、さらに相違している。
ここで、甲1発明の上昇管6Pについて検討すると、その全長のうち、本件発明の拡大部に相当する構成を備えた部分以外の部分については、特にその断面に変化をつけることが特定されておらず、一定の断面であると解するのが自然である。とすれば、甲1発明において、トラップ入口6aから長さ方向中間付近までは、一定の断面であるとすれば、その区間のアール部は、同一の曲率半径を有することとなる。
よって、上記相違点3に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
以上のことから、本件発明3は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 本件発明4
本件発明4は、本件発明1ないし3の発明特定事項をすべて含み、さらに構成を限定した発明であるから、この限定した構成について検討する。
甲1発明の「上昇管6Pの内周面には、底側の底面61と、底面61の左右において縦方向(上下方向)に立ち上がる立ち面62,63と、立ち面62,63の上端の略山形状の上面64,65,66が連続して形成され」ていることは、本件発明4の「前記上昇流路の流路方向に垂直な断面に関して、前記上昇流路の前記拡大部の底面は、略一定の断面形状を有している」ことに相当する。
よって、本件発明4は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
本件発明5及び本件発明6に対して、取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について、以下検討する。
1 甲1に基づく新規性及び進歩性欠如
申立人は、本件訂正前の請求項5及び請求項6は、甲1に記載された発明であるか、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨、特に本件訂正前の請求項5に記載された「前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、略鉛直方向に延在する壁面によって形成されていること」との構成は、甲1の図13に記載されている旨を主張している。
しかしながら、甲1の図13をみても、上昇流路の拡大部の頂面が、略鉛直方向に延在する壁面によって形成されていることを読み取ることはできない。
そして、本件訂正後の本件発明5及び本件発明6は、当該構成を備えることにより、段落【0021】に「このような態様で拡大部を形成する場合に、回転力をより効果的に与えることができる」との効果を奏するものと認められる。
よって、当該構成を備える本件訂正後の本件発明5及び本件発明6は、甲1に記載された発明ではない。
また、当該構成が容易になし得たことを示す証拠は示されておらず、本件発明5及び本件発明6は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 甲2に基づく新規性及び進歩性欠如
申立人は、本件訂正前の請求項5係る発明は、甲2に記載された発明であるか、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同請求項6に係る発明は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲1及び甲3)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨、特に訂正前の請求項6に記載された「前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、上に凸の湾曲形状を有していること」との構成は、甲1の図15~図17、甲3の段落28、図1、図6に記載されていることから周知技術である旨を主張している。
しかしながら、甲1の段落0035に、「図15,図16,図17では、上面傾斜部65,66は略直線上に形成されている。」と記載されているように、図15,図16,図17で示された断面において、頂面は基本的に直線及び角で形成されており、申立人が主張するような上に凸の湾曲形状が示されているとは認められない。
さらに、甲3の図1,図6で示された断面において、頂面は基本的に直線で形成されており、申立人が主張するような上に凸の湾曲形状が示されているとは認められない。
そして、本件発明5及び本件発明6は、上記構成を備えることにより、段落【0023】に「これによれば、拡大部において流路断面積が広がっていても、当該拡大部において洗浄水及び汚物の流れが過度に乱れることが効果的に抑制される」との効果を奏するものと認められる。
よって、当該構成を備える本件訂正後の本件発明5は、甲2に記載された発明ではない。
また、当該構成が容易になし得たことを示す証拠は示されておらず、本件発明5及び本件発明6は、甲2発明及び甲1及び甲3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 甲4に基づく新規性及び進歩性欠如
申立人は、本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲4に記載された発明であるか、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同請求項6に係る発明は、甲4に記載された発明及び周知技術(甲1及び甲3)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨、特に訂正前の請求項6に記載された「前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、上に凸の湾曲形状を有していること」との構成は、甲1の図15~図17、甲3の段落28、図1、図6に記載されていることから周知技術である旨を主張している。
しかしながら、本件訂正前の請求項6に記載された上記構成は、上記2で検討したとおり、甲1及び甲3には記載されていないから、上記2で検討した理由と同じ理由により、当該構成を備える本件訂正後の本件発明5は、甲4に記載された発明ではなく、本件発明5及び本件発明6は、甲4発明及び甲1及び甲3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 記載要件違反
申立人は、本件発明における「入口管部」、「トラップ上昇管部」、「トラップ下降管部」は、排水トラップ管路におけるどの範囲を規定しているのか不明瞭である旨、主張する。
しかしながら、本件訂正後の請求項5及び請求項6には、
「汚物を受けるボウル部」「の下方部に接続された排水トラップ管路」について、
「前記排水トラップ管路は、前記ボウル部の下方部に一端側が連続するまたは接続された入口管部と、前記入口管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて上昇流路を形成するトラップ上昇管部と、前記トラップ上昇管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて下降流路を形成するトラップ下降管部と、を有しており」と記載されており、汚物を受けるボウル部の下方部に接続された排水トラップ管路において、入口管部、トラップ上昇管部、トラップ下降管部が接続される位置およびそれらの構成が規定されているから、「入口管部」、「トラップ上昇管部」、「トラップ下降管部」が、排水トラップ管路におけるどの範囲であるのかを、当業者が明確に理解できる程度に規定されているものと認められる。
よって、申立人の主張は採用できない。
5 サポート要件違反
ア 申立人は、本件発明の目的は、比較的少ない洗浄水量であっても有効な汚物の排出性能を維持できる洗い落とし式水洗大便器を提供することであるところ、本件発明は、上昇流路に拡大部を設け、当該拡大部の頂面の上流側端を、上昇流路の底面の最高到達位置及び初期水位の湛水面よりも低い位置にあることのみ特定しているが、他方で、本件特許明細書に記載された作用効果は、段落42~58に記載された実施形態の排水トラップ管路の具体的構造によって得られたものであり、技術常識からみて、上記排出性能は、排出トラップ管路の他の構成(例えば、管路の具体的な断面積、断面形状、上昇角度)に依存するのであり、上記発明特定事項のみによって排出性能が向上するものでないから、本件発明は、発明の課題を解決し得ない多くの態様を包含しており、サポート要件に違反している旨、主張している。
以下、この主張について検討する。
イ 本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、水洗大便器においては、より一層の節水化が求められている。しかしながら、洗い落し式水洗大便器においては、洗浄水の量を減少すると、水位差を十分に確保できなくなり、汚物の排出性能が低下してしまうおそれがある。
【0007】
ここで、排水トラップ管路は、一般に、ボウル部の下方部に一端側が連続するまたは接続された入口管部と、入口管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて上昇流路を形成するトラップ上昇管部と、トラップ上昇管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて下降流路を形成するトラップ下降管部と、を有している。
【0008】
従来のトラップ上昇管部は、図9に示すように、上昇流路の流路方向に垂直な断面に関して、上昇流路の流路断面積は略一定であった。このような従来のトラップ上昇管部において、節水化をしてしまうと、汚物が上昇管部を昇りきれずに、入口管部まで戻ってきてしまう等のおそれがある。
【0009】
このように、洗い落し式水洗大便器において、節水化をしつつ、汚物の排出性能を向上させるという点で、排水トラップ管路の形状、特にトラップ上昇管部の流路形状には、改善の余地がある。
【0010】
本発明の目的は、比較的少ない洗浄水量であっても有効な汚物の排出性能を維持できる洗い落し式水洗大便器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、汚物を受けるボウル部と、前記ボウル部の下方部に接続された排水トラップ管路と、を備え、前記排水トラップ管路は、前記ボウル部の下方部に一端側が連続するまたは接続された入口管部と、前記入口管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて上昇流路を形成するトラップ上昇管部と、前記トラップ上昇管部の他端側に一端側が連続してまたは接続されて下降流路を形成するトラップ下降管部と、を有しており、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の下流側の一部には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも大きい流路断面積を有する拡大部が形成されており、前記拡大部は、前記上昇流路の上方側において拡大されており、前記拡大部の頂面の上流側端は、前記上昇流路の底面の最高到達位置よりも低く、且つ、初期水位の溜水面よりも低い位置にあることを特徴とする洗い落し式水洗大便器である。
【0012】
本発明によれば、便器洗浄時において、洗浄水及び汚物が排水トラップ管路のトラップ上昇管部内へ流れ込む際、上方側において流路断面積が大きくなる拡大部において、上昇流路の最高到達位置を乗り越える前の洗浄水の一部が当該上方側に拡大された領域に流れ込む。このような洗浄水の挙動により、拡大部を通過する汚物に、回転力を与えることができ、上昇流路内を駆け上がるような方向に汚物を転がらせることができる。また、拡大部において、汚物の離散(固まりの分裂)も促される。これらの作用により、比較的少ない洗浄水量であっても、有効な汚物の排出性能を維持することができる。
【0013】
また、前記上昇流路の下流端には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも小さい流路断面積を有する縮小部が形成されていることが好ましい。
【0014】
これによれば、拡大部において広がった洗浄水及び汚物が再び集約されて効果的に整流される。これによっても、汚物の排出性能を高めることができる。
【0015】
また、前記上昇流路の底面は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の上流端から少なくとも前記拡大部の上流端まで略同一の曲率半径で形成されていることが好ましい。
【0016】
ここで、上昇流路の底面における拡大部の上流端とは、上昇流路の流路方向に垂直な線と拡大部の上流端とが交差する流路断面における、上昇周路の底面である。
【0017】
これによれば、洗浄水及び汚物が上昇流路内を円滑に流れることができる。
【0018】
また、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面に関して、前記上昇流路の前記拡大部の底面は、略一定の断面形状を有していることが好ましい。
【0019】
これによれば、拡大部において流路断面積が広がっていても、当該拡大部において洗浄水及び汚物の流れが過度に乱れることが効果的に抑制される。
【0020】
また、前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、略鉛直方向に延在する壁面によって形成されていることが好ましい。
【0021】
本件発明者によれば、このような態様で拡大部を形成する場合に、回転力をより効果的に与えることができる。
【0022】
また、前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、上に凸の湾曲形状を有していることが好ましい。
【0023】
これによれば、拡大部において流路断面積が広がっていても、当該拡大部において洗浄水及び汚物の流れが過度に乱れることが効果的に抑制される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、比較的少ない洗浄水量であっても、有効な汚物の排出性能を維持することができる洗い落し式水洗大便器を提供することができる。」
ウ 上記イの記載によれば、
「従来のトラップ上昇管部は、上昇流路の流路方向に垂直な断面に関して、上昇流路の流路断面積は略一定であ」って、「このような従来のトラップ上昇管部において、節水化をしてしまうと、汚物が上昇管部を昇りきれずに、入口管部まで戻ってきてしまう等のおそれがあ」り、「洗い落し式水洗大便器において、節水化をしつつ、汚物の排出性能を向上させるという点で、排水トラップ管路の形状、特にトラップ上昇管部の流路形状には、改善の余地がある」ことから、「本発明の目的は、比較的少ない洗浄水量であっても有効な汚物の排出性能を維持できる洗い落し式水洗大便器を提供することである」ところ、
本件発明5及び6は、「前記排水トラップ管路」の「前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、前記上昇流路の下流側の一部には、前記上昇流路の上流側の流路断面積よりも大きい流路断面積を有する拡大部が形成されており、」「前記拡大部は、前記上昇流路の上方側において拡大されており、前記拡大部の頂面の上流側端は、前記上昇流路の底面の最高到達位置よりも低く、且つ、初期水位の溜水面よりも低い位置にあ」る構成を備えることにより、
「便器洗浄時において、洗浄水及び汚物が排水トラップ管路のトラップ上昇管部内へ流れ込む際、上方側において流路断面積が大きくなる拡大部において、上昇流路の最高到達位置を乗り越える前の洗浄水の一部が当該上方側に拡大された領域に流れ込」み、「このような洗浄水の挙動により、拡大部を通過する汚物に、回転力を与えることができ、上昇流路内を駆け上がるような方向に汚物を転がらせることができ」、「また、拡大部において、汚物の離散(固まりの分裂)も促される。これらの作用により、比較的少ない洗浄水量であっても、有効な汚物の排出性能を維持することができる」ものであって、
さらに、「前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、前記上昇流路の流路方向に垂直な断面において、上に凸の湾曲形状を有して」いる構成、及び、
「前記上昇流路の前記拡大部の頂面の少なくとも一部は、略鉛直方向に延在する壁面によって形成されて」いる構成を備えることにより、それぞれ、
「これによれば、拡大部において流路断面積が広がっていても、当該拡大部において洗浄水及び汚物の流れが過度に乱れることが効果的に抑制され」、及び、「このような態様で拡大部を形成する場合に、回転力をより効果的に与えることができる」との効果を奏することが理解できるから、本件発明5及び本件発明6は、発明の詳細な説明に記載された課題を解決することができることが理解できるものである。
よって、申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし4は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当するから、取り消されるべきものである。
また、本件発明5、6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
さらに他に本件発明5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700543