特許異議申立
2025-700012
水洗式大便器
- 審判番号
- 2025-700012
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-080037
- 登録番号
- 7511817
- 請求日
- 2024年12月23日
- 審決日
- 2025年10月27日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOTO株式会社
- 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】山崎 一夫
- 【権利者代理人】弟子丸 健
- 【権利者代理人】山本 泰史
- 【権利者代理人】鈴木 博子
- 【権利者代理人】磯貝 克臣
- 【異議申立人】栗 暢行
- 審判長/審判官
- 審判長 有家 秀郎
- 審判官 立澤 正樹
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1652.16 -Y (E03D) / P1652.537-Y (E03D) / P1652.55 -Y (E03D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第17条の2第3項、特許法第29条の2
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7511817号発明「水洗式大便器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7511817号の請求項3、4、6及び7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 出願分割の経緯の概略
特許第7511817号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成29年3月14日(優先権主張 平成28年3月14日)に出願した特願2017-048898号の一部を令和3年11月4日に新たな特許出願(特願2021-180124号)とし、さらにその一部を令和5年5月15日に新たな特許出願としたものである。
2 本件の出願後の手続の経緯の概略
出願後の手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和 5年 6月 9日 :上申書、手続補正書の提出
同年 7月 3日付け:拒絶理由通知書
同年 9月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月27日付け:拒絶理由通知書
令和 6年 3月29日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月28日 :特許権の設定登録
同年 7月 8日 :特許掲載公報の発行
同年12月23日 :本件特許の請求項3、4、6及び7に係る
特許に対する特許異議申立人栗 暢行(以
下「申立人」という。)による特許異議の
申立て
令和 7年 3月10日付け:取消理由通知書
同年 5月12日 :意見書の提出
令和 7年 6月 9日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 8月13日 :意見書、上申書の提出
第2 本件発明
本件特許の請求項3、4、6及び7の特許に係る発明(以下、請求項番号により「本件発明3」等といい、まとめて「本件発明」という場合がある。)は、その特許請求の範囲の請求項3、4、6及び7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項3】
ボウル形状の汚物受け面と、当該汚物受け面の上縁部に形成されたリム部と、を有するボウル部と、
前記リム部に設けられ、前記ボウル部内に洗浄水を吐水して当該洗浄水による旋回流を形成するリム吐水部と、
前記リム吐水部まで洗浄水を導水する導水路と、
前記ボウル部の下方に接続されトラップ流路を有する排水路と、
前記導水路から前記排水路の上面側に至る水抜流路と、
を備え、
前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されており、前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有しており、
前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において開口されており、前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有しており、
前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい
ことを特徴とする水洗式大便器。
【請求項4】
前記導水路の底面は、前記水抜流路の入口開口に向けて、高さ位置が低くなっている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水洗式大便器。
【請求項6】
前記中実領域は、陶器製である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水洗式大便器。
【請求項7】
前記水抜流路の少なくとも一部は、泥漿を外部に排出するために形成された排泥流路の一部からなる
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の水洗式大便器。」
第3 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての概要
申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)中において、概略以下の申立てをしている。
(1)申立理由1(サポート要件違反:特許法36条6項1号)
請求項3、4、6及び7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(2)申立理由2(明確性要件違反:特許法36条6項2号)
請求項3、4、6及び7に係る発明は、明確でない。
(3)申立理由3(補正要件違反:特許法17条の2第3項)
令和6年3月29日付け手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
(4)申立理由4(拡大先願:特許法29条の2)
請求項3、4、6及び7に係る発明は、甲第1号証により出願公開がされた特願2014-227428号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一である。
(5)証拠方法
申立人は、申立理由4に関し、申立書に添付して以下の甲第1~3号証を提出した。
甲第1号証 特開2016-89542号公報
甲第2号証 意匠登録第1532605号公報
甲第3号証 意匠登録第1532606号公報
(以下、甲第1号証等を「甲1」等という場合がある。)
2 取消理由通知書(決定の予告)において通知した取消理由の概要
当審において令和7年6月9日付け取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)(補正要件違反)令和5年6月9日提出の手続補正書でした補正、同年9月7日提出の手続補正書でした補正及び令和6年3月29日提出の手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件特許の請求項3、4、6及び7に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
(2)(サポート要件違反)本件特許の請求項3、4、6及び7に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 取消理由通知書(決定の予告)において通知した取消理由についての当審の判断
1 補正要件違反について
補正要件違反の有無の判断では、申立人が申立理由3においてする主張についても検討することとする。
(1)手続の経緯の概略
本件特許の手続の概略は、上記「第1」に記載したとおりである。
(2)当初明細書等の記載
本件特許に係る出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、願書に最初に添付された明細書を「当初明細書」といい、特許請求の範囲及び図面とあわせて「当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
ボウル形状の汚物受け面と、当該汚物受け面の上縁部に形成されたリム部と、を有するボウル部と、
前記リム部に設けられ、前記ボウル部内に洗浄水を吐水して当該洗浄水による旋回流を形成するリム吐水部と、
前記汚物受け面の後方側に位置するリム通水開始領域まで洗浄水を導水する導水路と、
前記導水路に接続され前記リム通水開始領域から前記リム吐水部まで洗浄水を導水するリム通水路と、
前記ボウル部の下方に接続されトラップ流路を有する排水路と、
前記導水路から前記排水路の上面側に至る水抜流路と、
を備えたことを特徴とする水洗式大便器。
【請求項2】
前記導水路の底面は、前記水抜流路の入口開口に向けて、高さ位置が低くなっていることを特徴とする請求項1に記載の水洗式大便器。
・・・
【請求項4】
前記リム通水路の底面は、前記導水路または前記水抜流路の入口開口に向けて、高さ位置が低くなっている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水洗式大便器。
・・・
【請求項7】
前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側において開口されており、
前記水抜流路が当該出口開口の近傍領域で延びる、当該出口開口に向かって後方向きである
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水洗式大便器。
・・・
【請求項10】
前記水抜流路の入口開口の近傍領域の断面積は、前記水抜流路の入口開口の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の水洗式大便器。
【請求項11】
前記水抜流路の少なくとも一部は、泥漿を外部に排出するために形成された排泥流路の一部からなる
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の水洗式大便器。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗式大便器に係り、特に、洗浄水源から供給される洗浄水により便器本体を洗浄して汚物を排出する水洗式大便器に関する。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件発明者は、従来の水洗便器について、リム吐水口から吐出される洗浄水によるボウル部の洗浄が終了した後、残水がリム吐水口から点滴し、吐水(洗浄)が終了していないとの誤解を与える可能性があると共に、見映えが宜しくなく、また、残水の点滴によりボウル部に水垢が発生する懸念があることを把握した。
【0006】
そこで、本発明の目的は、リム吐水口から吐出される洗浄水によるボウル部の洗浄が終了した後、残水がリム吐水口から点滴してしまうことを抑制できる水洗式大便器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ボウル形状の汚物受け面と、当該汚物受け面の上縁部に形成されたリム部と、を有するボウル部と、前記リム部に設けられ、前記ボウル部内に洗浄水を吐水して当該洗浄水による旋回流を形成するリム吐水部と、前記汚物受け面の後方側に位置するリム通水開始領域まで洗浄水を導水する導水路と、前記導水路に接続され前記リム通水開始領域から前記リム吐水部まで洗浄水を導水するリム通水路と、前記ボウル部の下方に接続された排水路と、前記導水路から前記排水路に至る水抜流路と、を備えたことを特徴とする水洗式大便器である。
【0008】
本発明によれば、導水路内の残水が、水抜流路を経て排水路に直接排水される。これにより、リム吐水口から吐出される洗浄水によるボウル部の洗浄が終了した後、残水がリム吐水口から点滴してしまうことを効果的に抑制することができる。
・・・
【0015】
あるいは、水抜流路の出口開口は、排水路の上面側の最下位置よりも前方側において開口されており、水抜流路が当該出口開口の近傍領域で延びる方向は、当該出口開口に向かって後方向きである。この場合も、水抜流路を通過してくる洗浄水が、封水を後方側(排出側)に向けて押し出すように作用するため、汚物、特に水の勢いに抗して浮遊してくる比較的微細な浮遊汚物の排出に効果的である(微弱サイホン)。
・・・
【0020】
前述のように、ボウル部の洗浄中においては、十分な量の洗浄水がリム吐水口から吐水されるべきであるから、水抜流路から排水されてしまう洗浄水の量は少ない方がよい。従って、水抜流路の入口開口の断面積は、小さい方がよい。具体的には、残水の水抜機能のみで足りる場合には、水抜流路の入口開口の断面積は7mm 2~20mm 2程度であることが好ましく、微弱サイホン作用を期待する場合には、水抜流路の入口開口の断面積は78mm 2~314mm 2程度であることが好ましい。また、このように水抜流路の入口開口の断面積が小さい場合、水抜流路の入口開口の近傍領域の断面積が水抜流路の入口開口の断面積よりも大きくなっていることが好ましい。当該構成は、表面張力が作用して残水が水抜流路の入口開口に流入しない、ということを抑制する上で効果的である。
・・・
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態による水洗式大便器の洗浄水の流れの様子を示す平面図(水洗式大便器を上から見た図)である。水洗式大便器の後方側が図1の左側となっており、水洗式大便器の前方側が図1の右側となっており、水洗式大便器の左方側が図1の下側となっており、水洗式大便器の右方側が図1の上側となっている。
【図2】本発明の第1実施形態による水洗式大便器の左右方向中央での断面図である。水洗式大便器の後方側が図2の左側となっており、水洗式大便器の前方側が図2の右側となっており、水洗式大便器の上方側が図2の上側となっており、水洗式大便器の下方側が図2の下側となっている。
・・・
【図4】本発明の第3実施形態による水洗式大便器の左右方向中央での断面図である。水洗式大便器の後方側が図4の左側となっており、水洗式大便器の前方側が図4の右側となっており、水洗式大便器の上方側が図4の上側となっており、水洗式大便器の下方側が図4の下側となっている。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による水洗式大便器を説明する。
先ず、図1及び図2により、本発明の第1実施形態による水洗式大便器の構成を説明する。図1は、本発明の第1実施形態による水洗式大便器の洗浄水の流れの様子を示す平面図であり、図2は、本発明の第1実施形態による水洗式大便器の左右方向中央での断面図である。
【0025】
図1及び図2に示すように、本発明の第1実施形態による水洗式大便器1は、ボウル部8内の水の落差による流水作用で汚物を押し流す洗い落し式便器であり、便器本体2を備えている。便器本体2には、洗浄水源である貯水タンク(図示せず)を介して、洗浄水が導入されるようになっている。便器本体2は、表面に釉薬層が形成された陶器製であり、下部にスカート部6が形成され、上部前方にボウル部8が形成されている。また、ボウル部8の後方には、貯水タンクの排水口に接続される導水路10が形成され、さらに、ボウル部8の後方下部に汚物を排出するための排水路12が形成されている。
・・・
【0029】
また、図1に示すように、ボウル部8の汚物受け面16の後方に形成された導水路10は、第1リム吐水口22に洗浄水を供給する第1リム通水路26(リム通水路)及び第2リム吐水口24に洗浄水を供給する第2リム通水路28(リム通水路)に分岐している。当該分岐領域10dが、リム通水開始領域となっている。
・・・
【0036】
本実施形態では、導水路10の底面(の少なくとも一部)、ボウル部8の後方側汚物受け面16b(の少なくとも一部)、及び、排水路12の上面(の少なくとも一部)は、中実領域S(陶器部分)の外表面によって構成されている。そして、当該中実領域Sに、導水路10の底面から排水路12の上面側に至る水抜流路40が形成されている。
【0037】
本実施形態の水抜流路40の出口開口42は、排水路12の上面側の最下位置において開口されている。そして、水抜流路40は出口開口42の近傍領域において、鉛直下向きに延びる。
【0038】
水抜流路40の入口開口41の断面積は、7mm 2~20mm 2程度である。但し、水抜流路40の入口開口41を除いた部分(水抜流路40の入口開口41の近傍領域を含む)の断面積は、水抜流路40の入口開口41の断面積よりも大きくなっており、具体的には、20mm 2~80mm 2程度である。なお、図1に示すように、本実施形態において入口開口41は円形であるが、本発明はこのような形態に限定されるものではなく、例えば、半円形や四角形等でもよい。
【0039】
そして、導水路10の底面は、水抜流路40の入口開口41に向けて、高さ位置が低くなっている。具体的には、傾斜角度5°程度で傾斜している。
【0040】
更に、本実施の形態の導水路10の底面は、深さ5mm程度の凹部10rを有しており、水抜流路40の入口開口41は、当該凹部10r内に設けられている。
・・・
【0055】
また、本実施の形態の水抜流路40の入口開口41の断面積は、直径3mm~5mm程度であるから、ボウル部8の洗浄中に水抜流路40から排水されてしまう洗浄水の量は少なく抑えられている。一方、水抜流路40の入口開口41の近傍領域の断面積が水抜流路40の入口開口41の断面積よりも大きくなっているために、表面張力が作用して残水が水抜流路40の入口開口41に流入しないということも防止されている。
【0056】
なお、水抜流路40の少なくとも一部、例えば入口開口41及びその近傍領域を除く部分は、泥漿を外部に排出するために形成された排泥流路の一部からなることが好ましい。すなわち、陶器として製造される中実領域Sの製造過程で形成される排泥流路の一部を、水抜流路40の少なくとも一部として流用することが好ましい。」
エ 「【0064】
次に、本発明の第3実施形態について、図4を用いて説明する。図4は、本発明の第3実施形態による水洗式大便器301の左右方向中央の断面図である。
【0065】
図4に示すように、本実施形態の水洗式大便器301においては、水抜流路340の出口開口342が、排水路12の上面側の最下位置よりも前方側において開口されている。但し、美観上の観点から、水抜流路340の出口開口342は、ボウル部8の上方からは見えない位置に設けられている。そして、水抜流路340は出口開口342の近傍領域において、当該出口開口342に向かって後方向きに延びている。
【0066】
本実施形態の水抜流路340の断面積は、入口開口341及びその近傍領域を含めて、78mm 2~314mm 2程度となっている。
【0067】
本実施形態のその他の構成については、図1及び図2を用いて説明した第1実施形態と略同様である。図4において、第1実施形態と同様の部分については、同様の符号を付している。また、本実施形態の第1実施形態と同様の部分については、詳しい説明を省略する。
【0068】
本実施形態の場合によっても、水抜流路340を通過してくる洗浄水が、封水を後方側(排出側)に向けて押し出すように作用する。この作用は、汚物の排出に効果的である(微弱サイホン)。
【0069】
特に、水抜流路340の断面積が、入口開口341及びその近傍領域を含めて78mm 2~314mm 2程度となっていることにより、微弱サイホン効果を十分に発揮することができる。
【0070】
また、本実施形態によっても、第1実施形態と同様の残水の水抜効果を得ることができる。」
オ 【図1】、【図2】、【図4】
【図1】
「
[図:0001429021000001.jpg]
」
【図2】
「
[図:0001429021000002.jpg]
」
【図4】
「
[図:0001429021000003.jpg]
」
(3)令和5年6月9日提出の手続補正書について
令和5年6月9日提出の手続補正書は、特許請求の範囲を補正するものであり、その請求項3、4、6及び7の記載は以下のとおりである(請求項3の下線は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1と異なる部分であり、当審において付与した。)
「 【請求項3】
ボウル形状の汚物受け面と、当該汚物受け面の上縁部に形成されたリム部と、
を有するボウル部と、
前記リム部に設けられ、前記ボウル部内に洗浄水を吐水して当該洗浄水による旋回流を形成するリム吐水部と、
前記リム吐水部まで洗浄水を導水する洗浄水路と、
前記ボウル部の下方に接続されトラップ流路を有する排水路と、
前記洗浄水路から前記排水路の上面側に至る水抜流路と、
を備え、
前記水抜流路の入口開口は、前記洗浄水路の底面において第1開口断面積で開口されており、
前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において第2開口断面積で開口されており、
前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい
ことを特徴とする水洗式大便器。
【請求項4】
前記洗浄水路の底面は、前記水抜流路の入口開口に向けて、高さ位置が低くなっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水洗式大便器。
【請求項6】
前記中実領域は、陶器製であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水洗式大便器。
【請求項7】
前記水抜流路の少なくとも一部は、泥漿を外部に排出するために形成された排泥流路の一部からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の水洗式大便器。」
(4)令和5年9月7日提出の手続補正書について
令和5年9月7日提出の手続補正書は、特許請求の範囲を補正するものであり、その請求項3、4、6及び7の記載は以下のとおりである(下線は補正箇所を表すものであり、提出時に出願人が付与した。)。
「 【請求項3】
ボウル形状の汚物受け面と、当該汚物受け面の上縁部に形成されたリム部と、を有するボウル部と、
前記リム部に設けられ、前記ボウル部内に洗浄水を吐水して当該洗浄水による旋回流を形成するリム吐水部と、
前記リム吐水部まで洗浄水を導水する導水路と、
前記ボウル部の下方に接続されトラップ流路を有する排水路と、
前記導水路から前記排水路の上面側に至る水抜流路と、
を備え、
前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において第1開口断面積で開口されており、
前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において第2開口断面積で開口されており、
前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい
ことを特徴とする水洗式大便器。
【請求項4】
前記導水路の底面は、前記水抜流路の入口開口に向けて、高さ位置が低くなっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水洗式大便器。
【請求項6】
前記中実領域は、陶器製である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水洗式大便器。
【請求項7】
前記水抜流路の少なくとも一部は、泥漿を外部に排出するために形成された排泥流路の一部からなる
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の水洗式大便器。」
(5)令和6年3月29日提出の手続補正書について
令和6年3月29日提出の手続補正書は、特許請求の範囲を補正するものであり、その請求項3、4、6及び7の記載は以下のとおり(下線は補正箇所を表すものであり、提出時に出願人が付与した。)。
「 【請求項3】
ボウル形状の汚物受け面と、当該汚物受け面の上縁部に形成されたリム部と、
を有するボウル部と、
前記リム部に設けられ、前記ボウル部内に洗浄水を吐水して当該洗浄水による旋回流を形成するリム吐水部と、
前記リム吐水部まで洗浄水を導水する導水路と、
前記ボウル部の下方に接続されトラップ流路を有する排水路と、
前記導水路から前記排水路の上面側に至る水抜流路と、
を備え、
前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されており、前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有しており、
前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において開口されており、前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有しており、
前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい
ことを特徴とする水洗式大便器。
【請求項4】
前記導水路の底面は、前記水抜流路の入口開口に向けて、高さ位置が低くなっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水洗式大便器。
【請求項6】
前記中実領域は、陶器製である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水洗式大便器。
【請求項7】
前記水抜流路の少なくとも一部は、泥漿を外部に排出するために形成された排泥流路の一部からなる
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の水洗式大便器。」
(6)本件発明の記載
ア 本件発明3
本件発明3は、上記「第2」の請求項3に記載のとおりのものであり、「前記リム吐水部まで洗浄水を導水する導水路」を備える水洗式大便器において、「前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されており、前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有しており、
前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において開口されており、前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有しており、
前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい」事項が特定されたものである。
イ 上記記載事項は、令和5年6月9日提出の手続補正書による補正により、請求項3において、洗浄水を導水する水路の記載が整理されて「前記リム吐水部まで洗浄水を導水する洗浄水路」とされるとともに、「前記水抜流路の入口開口は、前記洗浄水路の底面において第1開口断面積で開口されており、
前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において第2開口断面積で開口されており、
前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい」と特定されたものについて、同年9月7日提出の手続補正書により「洗浄水路」が「導水路」と補正され、さらに令和6年3月29日提出の手続補正書による補正により、入口開口の第1開口断面積及び出口開口の第2開口断面積について、「前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有しており、」及び「前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有しており、」と特定されたものである。
ウ 本件発明4、6及び7
本件発明4、6及び7は、それぞれ、上記「第2」の請求項4、6及び7に記載のとおりのものであり、本件発明3を直接または間接的に引用するものである。
(7)新規事項についての判断
ア 本件発明3について
上記(6)に示したとおり、本件発明3は、令和5年6月9日提出の手続補正書、同年9月7日提出の手続補正書及び令和6年3月29日提出の手続補正書により補正されたものであって、これら補正により、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1において、リム吐水部まで洗浄水を導水する水路について、「前記リム吐水部まで洗浄水を導水する導水路」と補正されるとともに、「前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されており、前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有しており、
前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において開口されており、前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有しており、
前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい」との構成が付加されたものである。
以下、本件発明3についての補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであるかについて検討する。
(ア)「前記リム吐水部まで洗浄水を導水する導水路」について
当初明細書の段落【0025】には、「貯水タンクの排水口に接続される導水路10」と記載され、同【0029】には、「導水路10は、第1リム吐水口22に洗浄水を供給する第1リム通水路26(リム通水路)及び第2リム吐水口24に洗浄水を供給する第2リム通水路28(リム通水路)に分岐している」と記載されている。
(イ)「前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されて」いることについて
当初明細書の段落【0036】には、「導水路10の底面(の少なくとも一部)、・・・及び、排水路12の上面(の少なくとも一部)は、中実領域S(陶器部分)の外表面によって構成され・・・当該中実領域Sに、導水路10の底面から排水路12の上面側に至る水抜流路40が形成されている」と記載され、同【0040】には、「導水路10の底面は、深さ5mm程度の凹部10rを有しており、水抜流路40の入口開口41は、当該凹部10r内に設けられている」と記載され、【図2】からも水抜流路40の入口開口41が凹部10r内において導水路10の底面に開口していることが看て取れる。
(ウ)「前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有して」いることについて
a 上記(イ)において示したように、当初明細書等において、入口開口41は、「導水路10の底面」に開口し、「導水路10の底面から排水路12の上面側に至る水抜流路40」が「中実領域S」に形成されるものである。
また、「入口開口41」は、「導水路10の底面」に開口しているのであるから、導水路の底面がいわば切断面であり、導水路の底面における入口開口、例えば、当初明細書の段落【0038】に、「図1に示すように、・・・入口開口41は円形である」と記載される場合には、この「円形」の「入口開口41」の面積が「入口開口41」の「有して」いる「第1開口断面積」であると理解できる。
b 申立人の主張について
ここで、申立人は、導水路の「底面に沿った断面」について、「沿った」が如何なる状態を意味するのか発明の詳細な説明には記載がなく、「底面に沿った断面」がいかなる断面か記載されておらず、入口開口の断面積が「底面に沿った断面」における断面積であることが、本件特許の出願時において技術常識であることを示す事実も見当たらないから、入口開口の断面積を「導水路の底面に沿った断面」における断面積とすることは、発明の詳細な説明に記載したものではなく、当初明細書等に記載された事項でもないと主張する。(申立書12頁下から6行~13頁18行、18頁15~19行)
しかし、上記(イ)及びaに示したとおり、当初明細書等に記載された実施形態において「中実領域S」に形成される「水抜流路40」の「入口開口41」は、「導水路10の底面」に開口するのであるから、「底面に沿った断面」は、底面を切断面とする、底面ないしそれを延長した面であって、「入口開口41」の開口断面積は、例えば図1に示されるように底面を切断面とする面における「水抜流路40」が表出する開口の面積であると理解できるから、上記申立人の主張を考慮しても、「前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有して」いることが当初明細書等に記載されていないとはいえない。
(エ)「前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において第2開口断面積で開口されており、前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有して」いることについて
当初明細書の段落【0036】には、「導水路10の底面(の少なくとも一部)、・・・及び、排水路12の上面(の少なくとも一部)は、中実領域S(陶器部分)の外表面によって構成され・・・当該中実領域Sに、導水路10の底面から排水路12の上面側に至る水抜流路40が形成されている」と記載され、同【0065】には、「水抜流路340の出口開口342が、排水路12の上面側の最下位置よりも前方側において開口されている」と記載されている。
また、「出口開口」は、「中実領域の外表面において第2開口断面積で開口されて」いるのであって、外表面における出口開口の面積が「外表面に沿った断面」において「出口開口」が「有して」いる「第2開口断面積」であるといえる。
申立人は、「出口開口」について「入口開口」と同様、「沿った」が如何なる状態を意味するのか発明の詳細な説明には記載がなく、出口開口の断面積が「中実領域の外表面に沿った断面」における断面積であることが、本件特許の出願時において技術常識であることを示す事実も見当たらないから、出口開口の断面積を「中実領域の外表面に沿った断面」における断面積とすることは、発明の詳細な説明に記載したものではなく、当初明細書等に記載された事項でもないと主張する。(申立書12頁下から6行~13頁18行、18頁15~19行)
当該主張については、上記(ウ)bにおいて入口開口について説示したのと同様に理由により、「前記出口開口は、前記中実領域の外表面に沿った断面において第2開口断面積を有して」いることが当初明細書等に記載されていないとはいえない。
(オ)「前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい」ことについて
当初明細書段落【0036】~【0038】、第1実施形態による水洗式大便器の「平面図」である【図1】とあわせて「第1実施形態による水洗式大便器の左右方向中央での断面図」である【図2】をみると、【図2】には、「中実領域Sに、導水路10の底面から排水路12の上面側に至る水抜流路40が形成されている」ことが示されていることが理解できる。すなわち、【図1】において水洗式大便器の左右方向中央に開口された水抜流路40の入口開口41が【図2】においても引き出し線で41と指示されて示されているとともに、水抜流路40の出口開口42が引き出し線で42と指示されて示されており、排水路12の上面側において開口されていることが理解できる。
そして、水抜流路40の入口開口41は、開口幅が小さく、水抜流路40の入口開口41のすぐ下の近傍領域までは流路幅が漸増し、該近傍領域から出口開口42までは流路幅が略同じである様子が看取できる。この【図2】の入口開口41から出口開口42までの流路幅の推移は、段落【0038】の「水抜流路40の入口開口41を除いた部分(水抜流路40の入口開口41の近傍領域を含む)の断面積は、水抜流路40の入口開口41の断面積よりも大きくなっており、具体的には、20mm 2~80mm 2程度である」との記載と整合し、さらに、出口開口42においても、断面積は、水抜流路40の入口開口41の断面積よりも大きくなっていることも理解できる。
ここで、当初明細書段落【0064】~【0070】の「水抜流路340の出口開口342が、排水路12の上面側の最下位置よりも前方側において開口されている」第3実施形態について、「第3実施形態による水洗式大便器の左右方向中央での断面図」である【図4】をみると、【図4】の入口開口341から出口開口342までの流路幅の推移は、水抜流路340の入口開口341は、開口幅が小さく、水抜流路340の入口開口341のすぐ下の近傍領域までは流路幅が漸増し、該近傍領域から出口開口342までは流路幅が略同じである点で、【図2】と共通している。
そうすると、第3実施形態においても「水抜流路の入口開口を除いた部分」であって出口近傍を含む部分の断面積は、水抜流路の入口開口の断面積よりも大きくなっており、したがって、「中実領域の外表面」における「出口開口」の開口面積である「第2開口断面積」は「底面に沿った断面」における「入口開口の断面積」である「第1開口断面積」より大きいことが【図4】から理解できる。
以上のとおりであるから、「前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい」ことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、当該記載を追加する補正は、当初明細書等に記載された範囲内においてするものである。
申立人は、申立書において、第3実施形態における水抜水路の断面積は、「入口開口341及びその近傍領域を含めて、78mm 2~314mm 2程度」(【0066】)と記載されているのであって、第3実施形態として、水抜流路における大小関係を特定した記載は見当たらない旨主張する(申立書13頁下から8行~14頁19行、18頁15、16、20、21行)。
しかし、先に検討したとおり、第3実施形態においても「中実領域の外表面」における「出口開口」の開口面積である「第2開口断面積」は「導水路」の「底面に沿った断面」における「入口開口の断面積」である「第1開口断面積」より大きいといえる。そして、第3実施形態の水抜流路340の流路幅の入口開口341から出口開口342までの推移を第1実施形態の水抜流路40の入口開口41から出口開口42までの流路幅の推移と同様にすれば、微弱サイホン効果の十分な発揮を期待して水抜流路の断面積を第1実施形態より大きくした第3実施形態においても、表面張力によって残水が水抜流路の入口開口に流入しないことが抑制される。
よって、申立人の上記主張を考慮しても、本件発明3において「前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい」とする補正が、当初明細書等に記載された範囲内においてするものではないということはできない。
(カ)本件発明3についてのまとめ
以上のとおり、リム吐水部まで洗浄水を導水する水路を「前記リム吐水部まで洗浄水を導水する導水路」とし、「前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されており、前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有しており、
前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において開口されており、前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有しており、
前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい」ものとする補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、当該記載を追加する補正は、当初明細書等に記載された範囲内においてするものである。
イ 本件発明4、6及び7について
(ア)本件発明4、7において付加される発明特定事項は、それぞれ、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項2、11と同様である。
(イ)本件発明6において付加される発明特定事項について、当初明細書の段落【0056】には、「陶器として製造される中実領域Sの製造過程で形成される排泥流路の一部を、水抜流路40の少なくとも一部として流用することが好ましい」と記載される。
(ウ)本件発明3については、補正が当初明細書等に記載された範囲内においてするものであることは、上記アにおいて検討したとおりであり、本件発明3を直接または間接的に引用する本件発明4、6及び7についても、本件発明3を引用することを含め、補正は当初明細書等に記載された範囲内においてするものである。
(8)小括
以上のとおりであるから、令和5年6月9日提出の手続補正書、同年9月7日提出の手続補正書及び令和6年3月29日提出の手続補正書による補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
2 サポート要件違反について
サポート要件違反の判断では、申立人が申立理由1においてする主張についても検討することとする。
(1)本件発明
本件発明3、4、6及び7は、それぞれ、上記「第2」の請求項3、4、6及び7に記載したとおりである。
(2)本件明細書等の記載
本件特許に係る出願において、明細書及び図面は補正されていないから、本件特許の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の内容は、当初明細書等(上記1(2))のそれと同じである。
(3)サポート要件についての判断
ア 判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、上記判断基準に基づいて、判断する。
イ 特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるか
上記1(7)において示したように、本件発明3、4、6及び7の、「前記リム吐水部まで洗浄水を導水する導水路」を備える水洗式大便器において、「前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されており、前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有しており、
前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において開口されており、前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有しており、
前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい」ことは、当初明細書等に記載した事項の範囲内と認識できるものであり、本件明細書及び図面の内容が当初明細書及び図面と同じであることから、本件発明3、4、6及び7の上記した特定は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものである。
また、本件発明3、4、6及び7のその余の部分も、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものである。
ウ 当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか
(ア)解決すべき課題
本件発明の課題は、従来の水洗便器は、リム吐水口から吐出される洗浄水によるボウル部の洗浄が終了した後、残水がリム吐水口から点滴してしまうことである(【0005】)。
(イ)解決手段
本件発明は、上記(ア)の課題を、「前記導水路から前記排水路に至る水抜流路」を備えた水洗式大便器であって、導水路内の残水が、水抜流路を経て排水路に直接排水されることにより、リム吐水口から吐出される洗浄水によるボウル部の洗浄が終了した後、残水がリム吐水口から点滴してしまうことを効果的に抑制することができる水洗式大便器を提供する(【0006】~【0008】)ことにより解決するものである。
(ウ)本件発明3、4、6及び7が、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか
本件発明3は、「前記リム吐水部まで洗浄水を導水する導水路と、
前記ボウル部の下方に接続されトラップ流路を有する排水路と、
前記導水路から前記排水路の上面側に至る水抜流路と、
を備え」た水洗式大便器であるから、導水路から前記排水路の上面側に至る水抜流路を、導水路内の残水を適切に排水できるように設計すれば、上記課題は解決できる。
そして、本件発明3は、水抜流路について「前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されており、前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有しており、
前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において開口されており、前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有しており、
前記第2開口断面積は、前記第1開口断面積よりも大きい」と特定しているところ、本件明細書等には、「水抜流路340の出口開口342が、排水路12の上面側の最下位置よりも前方側において開口されている」実施形態(第3実施形態)において、水抜水路の断面積は、「入口開口341及びその近傍領域を含めて、78mm 2~314mm 2程度」とできること、及び、水抜流路340の入口開口341は、開口幅が小さく、水抜流路340の入口開口341のすぐ下の近傍領域までは流路幅が漸増し、該近傍領域から出口開口342までは流路幅が略同じものとすることが示されているのであるから、当業者であれば、水抜流路の入口開口の断面積、出口開口の断面積を含む流路の断面積について、本件発明3の構成とすることで、導水路内の残水を適切に排水できるように設計することができ、本件発明3は、上記(ア)の課題を解決できると認識できる。
本件発明3を直接または間接的に引用する本件発明4、6及び7も同様である。
(4)申立人の主張
ア 主張の概要
(ア)申立人は、上記1(7)ア(ウ)bにおける新規事項の主張と同様、本件発明の導水路の「底面に沿った断面」について、「沿った」が如何なる状態を意味するのか発明の詳細な説明には記載がなく、「底面に沿った断面」がいかなる断面か記載されておらず、入口開口の断面積が「底面に沿った断面」における断面積であることが、本件特許の出願時において技術常識であることを示す事実も見当たらないから、入口開口の断面積を「導水路の底面に沿った断面」における断面積とすることは、発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張する(申立書12頁下から6行~13頁18行)。
(イ)また、上記1(7)ア(オ)における新規事項の主張と同様、第3実施形態として、水抜流路における入口開口と出口開口の大小関係について、第2開口断面積を第1開口断面積よりも大きくすることは記載されていない旨主張する(申立書13頁下から8行~14頁19行)。
(ウ)申立人は、さらに、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された課題を解決できないことについて主張する(申立書14頁下から7行~15頁14行)。
その具体的理由は以下のとおりである。
たとえ水抜き流路を設けたとしても、表面張力が作用して残水が水抜流路の入り口開口に流入しない場合には、前記課題を解決できないのであるから、前記課題を解決するためには水抜き流路の入口開口の近傍の断面積を、入口開口の断面積よりも大きくすることが必要である。これに対して、本件発明3、4、6及び7は、水抜流路の出口開口の断面積を入口開口断面積よりも大きくしたにすぎず、水抜流路の入口開口の近傍領域の断面積が入口開口の断面積と等しい又は小さい水洗式大便器を含むものであり、導水路内の残水が水抜流路の入口開口に流入できず、残水がリム吐出口から点滴してしまう課題が未解決である。
イ 主張の検討
上記ア(ア)及び(イ)については、上記(3)イにおいて検討したとおりであり、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、上記ア(ウ)については、上記(3)ウにおいて検討したとおりであり、本件発明3及び本件発明3を引用する本件発明4、6及び7は、いずれも、課題を解決できると認識できる。
よって、申立人の主張は、上記(3)の判断の結論を左右するものではない。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件発明3、4、6及び7は、いずれも、発明の詳細な説明に記載したものであって、特許法36条6項1号の規定に違反しているものではない。
第5 取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 明確性要件違反(申立理由2)について
(1)本件発明
本件発明3、4、6及び7は、それぞれ、上記「第2」の請求項3、4、6及び7に記載したとおりである。
(2)申立人の主張
申立人は、概略以下の主張をする。
ア 本件発明3の「沿った」とは如何なる状態を意味するのかについては発明の詳細な説明に記載がないため、「底面に沿った断面」は、少なくとも、参考図1に示す「導水路の底面を延長する仮想平面」、「水抜き流路の入口開口を通る水平面」の2つの意味を有しており、「底面に沿った断面」がいずれか一方の意味であるのか双方の意味を含むのか、あるいは別の意味であるのかについては、発明の詳細な説明に基づいても特定できない。及び「外表面に沿った断面」においても同様に、「中実領域を延長する仮想曲面」と「水路の出口開口を通る平面」という2つの意味を有しており、「外表面に沿った断面」がいずれか一方の意味であるのか双方の意味を含むのか、あるいは別の意味であるのかについては、発明の詳細な説明に基づいても特定できない。
[図:0001429021000004.jpg]
[図:0001429021000005.jpg]
(申立書15頁下から10行~17頁8行)
イ 発明の詳細な説明には、「断面」を定義した記載はないことから、本件発明3の「断面」とは、一般的な日本語の意味として解すべきであり、「断面」とは、「もののきりくちの面。切断面。」(広辞苑第六版)という意味を有する。
本件発明3の「前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されており、前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有しており、」は、水抜流路の入口開口は、水抜流路を底面に沿って切断した面であることを特定したものと思われるが、そもそも、水抜流路は入口開口から出口開口までの流路であって、水抜流路を切断した面が入口開口となるものではない。出口開口についても同様であり、本件発明における「断面」が何を切断した面であるのかを特定することができず、本件発明3は明確でない。(申立書17頁11行~18頁12行)
ウ 本件発明3を引用する本件発明4、6及び7についても上記ア及びイの点は、同様に明確でない。(申立書17頁9~10行、18頁12~13行)
(3)明確性要件についての判断
ア 判断基準
特許法36条6項2号の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合に、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
上記判断基準に基づいて、判断する。
イ 「底面に沿った断面」及び「外表面に沿った断面」について
本件明細書の段落【0036】には、「導水路10の底面(の少なくとも一部)、・・・及び、排水路12の上面(の少なくとも一部)は、中実領域S(陶器部分)の外表面によって構成され・・・当該中実領域Sに、導水路10の底面から排水路12の上面側に至る水抜流路40が形成されている」と記載されており、この記載によれば「中実領域S」に形成される「水抜流路40」の「入口開口41」は、「導水路10の底面」に開口するのであるから、「底面に沿った断面」は、底面を切断面とする、底面ないしそれを延長した面であって、「入口開口41」の開口断面積である第1開口断面積は、例えば図1に示されるように底面を切断面とする面における「水抜流路40」が表出する開口の面積であると理解できる。
出口開口についても、「中実領域S」に形成される「水抜流路40」が「排水路12の上面側に至」り、排水路12の上面側において開口されるものであるから、その開口断面積である第2開口断面積は、排水路12の上面側において表出する開口の面積であり、「外表面に沿った断面」は水抜流路の出口開口を通る平面であると理解できる。
以上のとおりであって、入口開口及び出口開口について、本件発明3は、「底面に沿った断面」及び「外表面に沿った断面」との記載によって、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確となるものではない。
ウ 本件発明における「断面」が何を切断した面であるのかを特定することができないことについて
上記イにおいて検討したとおり、本件発明3の「底面に沿った断面」及び「外表面に沿った断面」は明確であり、「底面に沿った断面」及び「外表面に沿った断面」により「第1開口断面積」及び「第2開口断面積」が特定できるのであるから、本件発明3は、「断面」が何を切断した面かの説明がないことによって、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確となるものではない。
エ 本件発明4、6及び7について
上記イ及びウのとおり、本件発明3は明確であるから、本件発明3を引用する本件発明4、6及び7についても同様である。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明3、4、6及び7は、いずれも、発明は明確であって、特許法36条6項2号の規定に違反しているものではない。
2 拡大先願(申立理由4)について
(1)本件発明
本件発明3、4、6及び7は、それぞれ、上記「第2」の請求項3、4、6及び7に記載したとおりである。
(2)証拠
ア 甲1
甲1は、本件特許の優先権主張の日より前の平成26年11月7日に出願され、その後の平成28年5月23日に公開された、特願2014-227428号(以下「先願」という。)の、公開特許公報(特許出願公開番号 特開2016-89542号)である。
先願の出願人及び発明者は、本件特許に係る出願の出願人及び発明者と、同一ではない。
(ア) 記載事項
甲1には、次の記載がある(下線は、当審において付した。以下、同様。)。
a 「【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、各実施形態では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略する。
【0017】
[第1の実施の形態]
図1は第1実施形態に係る便器本体12が用いられる水洗大便器10の側面断面図である。以下の説明では、水洗大便器10の便座(図示せず)に通常の姿勢で座る人の向きを基準として前後左右を表す。
【0018】
便器本体12は、後述する便鉢部14を含む各部位が陶石、ろう石、長石、珪石等の陶器原料を用いた鋳込み成形により一体成形される。便器本体12は、前部に設けられる便鉢部14と、便鉢部14の下方に形成される排水入口18を通して便鉢部14に連通されるトラップ部16と、便鉢部14の上端縁部20から外側に広がる上面部22と、を備える。
【0019】
便鉢部14は、上側に開放する鉢面部24と、鉢面部24の下縁部から下方に窪んで形成される溜水部26とを備える。鉢面部24は、環状に連続して設けられ、その中央側に向けて下り勾配で傾斜する。便鉢部14の上端内周部には、便鉢部14の上端縁部20と鉢面部24の上縁部28とをつなぐ立面部30が設けられる。立面部30は、鉢面部24の上縁部28から便鉢部14の上端縁部20に向けて略鉛直に立ち上がり、鉢面部24の上縁部28から便鉢部14の上端縁部20にかけての範囲でひさし状に内側に張り出すことなく設けられる。溜水部26の底部の後方領域には、トラップ部16の排水入口18が形成される。便鉢部14は、便鉢部14の上端縁部20から溜水部26に至る範囲で環状に連続して設けられ、その一部には後述する吐水孔32のみが開口として形成される。
【0020】
トラップ部16は、便鉢部14内の汚物を排出するための排水路34の一部となる。トラップ部16は排水入口18から斜め後方に下降する第1下降通路36と、第1下降通路36の下流端部から斜め後方に上昇する上昇通路38と、上昇通路38の下流端部から下降する第2下降通路40とを有する。第1下降通路36は下流側に向かうにつれて下降し、上昇通路38は下流側に向かうにつれて上昇する。トラップ部16の下流端部には排出口42が設けられる。トラップ部16の第1下降通路36及び上昇通路38には洗浄水が封水44として貯溜され、通水方向での空気の流れが封水44により遮断される。
【0021】
上面部22は、便鉢部14の上端縁部20から前方、両側方に広がるリム部46と、便鉢部14の上端縁部20から後方に広がる台座部48と、台座部48の後方に設けられる収納部50とを有する。台座部48には取付孔(図示せず)が左右に間隔を空けて設けられる。台座部48には便座が載せられ、便座は取付孔に挿通されるねじ等の固定具(図示せず)により固定される。
【0022】
図2は水洗大便器10の平面断面図である。
収納部50は、図1、図2に示すように、便器本体12の上面部にて窪んで形成され、収納部50上には洗浄水を貯溜する貯水タンク52が取り付けられる。収納部50内には、貯水タンク52から供給される洗浄水を分配し、第1吐出部54、第2吐出部55から洗浄水を吐き出す分配器56の一部が配置される。貯水タンク52と分配器56は、後述する通水部58内に洗浄水を供給し、吐水孔32に供給される第1内部主流F3、第2内部主流F4を形成する洗浄水供給装置60を構成する。分配器56の各吐出部54、55の先端部は、収納部50に形成される供給孔62に挿通され、後述する通水部58内に配置される。
【0023】
図3は通水部58を拡大した平面断面図である。
便器本体12は、図1、図3に示すように、便鉢部14の後方に設けられる通水部58を備える。通水部58は吐水孔32の上流側に設けられ、洗浄水供給装置60の各吐出部54から吐水孔32に供給される洗浄水が内部を通る。通水部58は、上壁部64と、前壁部66と、下壁部68と、後壁部70と、両横壁部72とに囲まれる中空構造に形成される。上壁部64は前述した便器本体12の上面部22に設けられる台座部48である。両横壁部72は、上壁部64の左右両端部から略鉛直に垂下する。下壁部68は、両横壁部72の下端部をつなぐ。後壁部70は、通水部58内と収納部50内を隔てる。前壁部66は、便鉢部14の上端内周部の一部であって、便鉢部14内と通水部58内を隔てる。前壁部66は、通水部58の吐水孔32から離れる側である奥側に向けて凹むように湾曲して形成される。便器本体12は、両横壁部72と前壁部66とをつなぐ第1遮壁部74を備える。
【0024】
通水部58の下壁部68は、図3に示すように、前後方向の中間位置で左右方向の内寸法を狭めるとともに、その中間位置から前後方向の両側に向かうにつれて内寸法を広げる形状に形成される段差部76を有する。通水部58の下壁面78は、段差部76を境界として左右方向内側の方が外側より低位置となるように高低差が設けられる。通水部58の便鉢部14寄りの位置には、前壁部66と段差部76の間にて左右方向の外側に袋小路となるように行き止まり部80が設けられる。段差部76の左右方向の内寸法が狭くなる部位には孔壁部82が設けられ、孔壁部82内には上下に貫通する取付孔84が形成される。
【0025】
便鉢部14の上端内周部の後側領域には吐水孔32が形成される。吐水孔32は、溜水部26より後方であって、便鉢部14の前方から見て左右方向の中心位置より左寄りの位置に形成される。吐水孔32は左右方向に長い長孔である。吐水孔32は通水部58内に供給される洗浄水を便鉢部14内に吐き出し、便鉢部14内が洗浄される。
【0026】
便器本体12は、図1、図3に示すように、本便器本体12の鋳込み成形時に通水部58内で生じる未硬化状態の泥しょうを下方に排出するための排泥通路86を備える。排泥通路86は、通水部58の便鉢部14寄りの位置において形成される流入口88と、流入口88より下方に形成される流出口90とを有する。ここでの「便鉢部14寄りの位置」とは、通水部58の前後方向の中心位置P1(図3参照)より便鉢部14寄りの位置をいう。排泥通路86は、便鉢部14の後側の一部領域93の裏側に形成され、その一部領域93の形状に沿うように、流入口88から下方の流出口90に向けて形成される。
【0027】
流入口88は、前壁部66に形成される吐水孔32とは別に形成され、その前壁部66と下壁面78との間の隅角部92に形成される。また、流入口88は、通水部58の左右方向の中心位置に形成される。流入口88は、吐水孔32から作業者の指を入れたときに指が届く範囲に設けられる。
・・・
【0031】
通水部58の下壁面78には勾配を有する複数の案内領域100が設けられる。案内領域100は、本例では、下壁面78の全域に亘り設けられる。ここでの勾配とは、水平面に対する傾きをいう。各案内領域100の勾配は、各案内領域100上の泥しょう、水等の流動体を排泥通路86の流入口88まで案内可能に設けられる。
【0032】
案内領域100は、図3に示すように、段差部76より下位に設けられる第1案内領域100A~第4案内領域100Dと、段差部76より上位に設けられる第5案内領域100E、第6案内領域100Fとを有する。本図では各案内領域100A~100Fの勾配を矢印で示す。第1案内領域100A、第2案内領域100Bは、通水部58の便鉢部14側とは反対の奥側であって、左右方向中間位置を挟んだ左右両側に設けられる。第3案内領域100C、第4案内領域100Dは、通水部58の便鉢部14側に行き止まり部80を含む範囲であって、左右方向中間位置を挟んだ左右両側に設けられる。第5案内領域100E、第6案内領域100Fは、左右方向中間位置を挟んだ左右両側に設けられる。
【0033】
第1案内領域100A、第2案内領域100Bは、通水部58の奥側から便鉢部14側に向かう方向であって、左右方向中間位置に向かう方向に下り勾配となる。第3案内領域100C、第4案内領域100Dは、左右方向の外側寄りの範囲において、行き止まり部80の左右方向の外側から左右方向の中間位置に向かう方向であって、通水部58の奥側に向かう方向に下り勾配となる。また、第3案内領域100C、第4案内領域100Dは、左右方向の内側寄りの範囲において、左右方向の外側から左右方向の中間位置に向かう方向に下り勾配となる。第5案内領域100E、第6案内領域100Fは、左右方向の中間位置に向かう方向に下り勾配となる。第5案内領域100E、第6案内領域100F上の流動体は段差部76側に案内され、段差部76から第1案内領域100A~第4案内領域100D上に落ちる。第1案内領域100A~第4案内領域100D上にある流動体は、勾配の下側にある流入口88まで案内される。
・・・
【0035】
空間116は便鉢部14、リム部46、周壁部110、支持壁部114により囲まれて形成され、通水部58内の空間は、前述のように、上壁部64、前壁部66、下壁部68、後壁部70、両横壁部72に囲まれて形成される。つまり、空間116と通水部58内の空間とは別々の空間となるように区画される。
【0036】
以上の便器本体12では、図2に示すように、複数の吐出部54、55から洗浄水が吐き出されると、通水部58内で吐水孔32に供給される第1内部主流F3、第2内部主流F4が形成される。第1内部主流F3は第1吐出部54から吐水孔32に向けて流れる。第2内部主流F4は第2吐出部55から右側の行き止まり部80に向けて流れ、その行き止まり部80から吐水孔32に導かれる。各内部主流F3、F4は吐水孔32から便鉢部14内に吐き出され、鉢面部24内を旋回する第1主流F1と、吐水孔32から溜水部26に向けて流れ、鉢面部24内から溜水部26内に落ち込むように流入する第2主流F2とが形成される。第1主流F1、第2主流F2により便鉢部14内が洗浄され、便鉢部14内の汚物がトラップ部16に向けて排出される。
【0037】
図5は複数の型枠を用いて便器本体12を成形する途中状態を示す図である。
型枠は石膏等の吸水性を有する素材を用いて構成される。型枠は、本例では、上側に配置される上型枠102A、下側に配置される下型枠102B、左右両側に配置される一対の横型枠102Cが用いられる。各型枠102A~102Cは便器本体12の形状に応じた隙間空間が形成されるように配置され、下型枠102Bに形成される複数の通路103を通して隙間空間に泥しょうが流し込まれる。各通路103は、便器本体12の下方に面する複数の部位に対応する箇所に繋がるように設けられる。より詳細には、各通路103は、便器本体12のトラップ部16の第1下降通路36と上昇通路38の間の下端部、支持壁部114、排出口42の中央位置に対応する箇所に繋がるように設けられる。各型枠102A~102Cの隙間空間には、水頭圧、ポンプ等を利用して圧力をかけて泥しょうが流し込まれ、圧力をかけた状態で保持される。泥しょうは各型枠102の表面に沿って硬化し、中間成形品104が得られる。この中間成形品104には、各通路103と繋がる位置に排出穴108が設けられる。」
b 「【0048】
[第2の実施の形態]
図6は第2実施形態に係る便器本体12が用いられる水洗大便器10を示す側面断面図である。
図1の排泥通路86の流出口90は、トラップ部16の第1下降通路36に向けて開放する例を説明した。本実施形態の排泥通路86の流出口90は、トラップ部16の封水44内にて上昇通路38の下流側に向けて開放する。流出口90は、上昇通路38の上面の下端95より上方に位置する。また、流出口90は、上昇通路38の下面の上端94より下方に位置しており、封水面96より下方に位置、つまり、封水44内に配置される。
【0049】
また、図2の排泥通路86は蓋材98により閉塞されたが、本実施形態の排泥通路86は流入口88から流出口90にかけての範囲で開かれており、通水部58内の洗浄水を排泥通路86を通して排水路34に流通可能に設けられる。
【0050】
以上の便器本体12では、通水部58内の洗浄水を排泥通路86を通して排水路34に流通可能であるため、通水部58内の残水が排水路34まで流れ落ち易くなる。よって、通水部58内に残水が滞留し難くなり、通水部58内を衛生的に保ち易くなる。特に、通水部58には案内領域100が設けられるため、その案内領域100により流入口88まで多くの残水を案内して排水路34まで流れ落とせ、通水部58内をより衛生的に保ち易くなる。」
c 図2
「
[図:0001429021000006.jpg]
」
d 図6
「
[図:0001429021000007.jpg]
」
e 上記a及びbの記載を踏まえると、上記dの図6から、通水部58の下壁面78に設けられた案内領域100に沿った面を観念できる。
そして、上記a及びbの記載を踏まえると、上記dの図6から、以下のことが看取される。
(a)通水部58の下壁面78に設けられた案内領域100に沿った面は、前壁部66より下方かつ前方で排泥通路86の前側内壁に至ること。
(イ)甲1発明
第2の実施形態に係る便器本体12が用いられる水洗大便器に着目すると、上記(ア)より、先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「先願の当初明細書等」という)には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
便器本体12が用いられる水洗大便器10であって、(【0048】)
便器本体12は、便鉢部14と、便鉢部14の下方に形成される排水入口18を通して便鉢部14に連通されるトラップ部16と、便鉢部14の上端縁部20から外側に広がる上面部22と、を備え、便鉢部14を含む各部位が陶器原料を用いた鋳込み成形により一体成形され、(【0018】)
便鉢部14は、上側に開放する鉢面部24と、鉢面部24の下縁部から下方に窪んで形成される溜水部26とを備え、鉢面部24は、環状に連続して設けられ、その中央側に向けて下り勾配で傾斜し、便鉢部14の上端内周部には、便鉢部14の上端縁部20と鉢面部24の上縁部28とをつなぐ立面部30が設けられ、(【0019】)
便鉢部14の上端内周部の後側領域には吐水孔32が形成され、吐水孔32は通水部58内に供給される洗浄水を便鉢部14内に吐き出し、便鉢部14内が洗浄され、(【0025】)
トラップ部16は、便鉢部14内の汚物を排出するための排水路34の一部となり、排水入口18から斜め後方に下降する第1下降通路36と、第1下降通路36の下流端部から斜め後方に上昇する上昇通路38と、上昇通路38の下流端部から下降する第2下降通路40とを有し、(【0020】)
上面部22は、便鉢部14の上端縁部20から前方、両側方に広がるリム部46と、便鉢部14の上端縁部20から後方に広がる台座部48と、台座部48の後方に設けられる収納部50とを有し、(【0021】)
貯水タンク52から供給される洗浄水を分配し、第1吐出部54、第2吐出部55から洗浄水を吐き出す分配器56は、通水部58内に洗浄水を供給し、吐水孔32に供給される第1内部主流F3、第2内部主流F4を形成する洗浄水供給装置60を構成し、(【0022】)
通水部58は、上壁部64と、前壁部66と、下壁部68と、後壁部70と、両横壁部72とに囲まれる中空構造に形成され、(【0023】)
便器本体12は、便器本体12の鋳込み成形時に通水部58内で生じる未硬化状態の泥しょうを下方に排出するための排泥通路86を備え、排泥通路86は、通水部58の便鉢部14寄りの位置において形成される流入口88と、流入口88より下方に形成される流出口90とを有し、便鉢部14の後側の一部領域93の裏側に形成され、その一部領域93の形状に沿うように、流入口88から下方の流出口90に向けて形成され、(【0026】)
流入口88は、前壁部66と下壁面78との間の隅角部92に形成され、また、流入口88は、通水部58の左右方向の中心位置に形成され、(【0027】)
通水部58の下壁面78に設けられた案内領域100に沿った面は、前壁部66より下方かつ前方で排泥通路86の前側内壁に至り、(【図6】)
便器本体12では、通水部58内で吐水孔32に供給される第1内部主流F3が形成され、内部主流F3は吐水孔32から便鉢部14内に吐き出され、鉢面部24内を旋回する第1主流F1が形成され、便鉢部14内の汚物がトラップ部16に向けて排出され、(【0036】)
排泥通路86の流出口90は、上昇通路38の上面の下端95より上方に位置し、(【0048】)
排泥通路86は流入口88から流出口90にかけての範囲で開かれており、通水部58内の洗浄水を排泥通路86を通して排水路34に流通可能に設けられる、(【0049】)
水洗大便器10
イ 甲2
甲2は、本件特許の優先権主張の日より前の平成27年9月7日に発行された意匠公報であり、以下の記載がある。
(ア)「【意匠に係る物品】取付用便器」
(イ)「【意匠の説明】右側面図は左側面図と対称になるため省略する。紫色で着色した部分以外の部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。各図面の表面部全面に表された濃淡は、立体表面の形状を表す濃淡である。A-A断面図、B-B断面図において、黄色で着色された部分は断面形状を表したものである。」
(ウ)斜視図
「
[図:0001429021000008.jpg]
」
(エ)正面図
「
[図:0001429021000009.jpg]
」
(オ)A-A断面図
「
[図:0001429021000010.jpg]
」
ウ 甲3
甲3は、本件特許の優先権主張の日より前の平成27年9月7日に発行された意匠公報であり、以下の記載がある。
(ア)「【意匠に係る物品】取付用便器」
(イ)「【意匠に係る物品の説明】本願意匠に係る取付用便器において、意匠登録を受けようとする部分は便鉢の内面上端部に形成される立上り面の後方領域であり、立上り面の後方領域には吐水穴が配置されている。」
(ウ)「【意匠の説明】右側面図は左側面図と対称になるため省略する。紫色で着色した部分以外の部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。各図面の表面部全面に表された濃淡は、立体表面の形状を表す濃淡である。A-A断面図、B-B断面図において、黄色で着色された部分は断面形状を表したものである。」
(エ)斜視図
「
[図:0001429021000011.jpg]
」
(オ)正面図
「
[図:0001429021000012.jpg]
」
(カ)A-A断面図
「
[図:0001429021000013.jpg]
」
(3)本件発明3
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「便鉢部14」の「環状に連続して設けられ、その中央側に向けて下り勾配で傾斜」する「鉢面部24」は、「鉢面部24内を旋回する第1主流F1」によって「汚物」が「排出」されるものであって、「汚物受け面」といえるから、本件発明3の「ボウル形状の汚物受け面」に相当する。
(イ)甲1発明の「便鉢部14の上端縁部20」、「便鉢部14の上端縁部20から前方、両側方に広がるリム部46」及び「便鉢部14の上端縁部20と鉢面部24の上縁部28とをつなぐ立面部30が設けられ」る「便鉢部14の上端内周部」は、本件発明3の、「当該汚物受け面の上縁部に形成されたリム部」に相当する。
(ウ)上記(ア)及び(イ)の対比を踏まえると、甲1発明の「便鉢部14」及び「リム部46」は本件発明3の「ボウル形状の汚物受け面と、当該汚物受け面の上縁部に形成されたリム部と、を有するボウル部」に相当する。
(エ)甲1発明の「便鉢部14の上端内周部」に「形成され」る「吐水孔32」は、「吐水孔32から便鉢部14内に吐き出され」た水流が、「鉢面部24内を旋回する第1主流F1」を「形成」するものであるから、本件発明3の「前記リム部に設けられ、前記ボウル部内に洗浄水を吐水して当該洗浄水による旋回流を形成するリム吐水部」に相当する。
(オ)甲1発明の「貯水タンク52から供給される洗浄水」を「吐水孔32に供給」する「通水部58」は、本件発明3の「前記リム吐水部まで洗浄水を導水する導水路」に相当する。
(カ)甲1発明の「排水入口18から斜め後方に下降する第1下降通路36と、第1下降通路36の下流端部から斜め後方に上昇する上昇通路38と、上昇通路38の下流端部から下降する第2下降通路40とを有」する「トラップ部16」が「一部とな」っている「便鉢部14内の汚物を排出するための排水路34」は、本件発明3の「前記ボウル部の下方に接続されトラップ流路を有する排水路」に相当する。
(キ)上記(オ)及び(カ)の対比を踏まえると、甲1発明の「流入口88から流出口90にかけての範囲で開かれており、通水部58内の洗浄水を排泥通路86を通して排水路34に流通可能に設けられる」「排泥通路86」であって、「流出口90」が「上昇通路38の上面」において開口する「排泥通路86」は、本件発明3の「導水路から前記排水路の上面側に至る水抜流路」に相当する。
(ク)甲1発明の「通水部58」の「下壁部68」は、本件発明3の「導水路の底面」に相当する。
(ケ)上記(キ)及び(ク)の対比を踏まえると、本件発明3の「前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されて」いることと、甲1発明の「排泥通路86」の「流入口88」が、「通水部58の左右方向の中心位置」において「前壁部66と下壁面78との間の隅角部92に形成され」いることとは、「水抜流路の入口開口は、前記導水路において開口されて」いる点で共通する。
(コ)甲1発明は「便鉢部14を含む各部位が陶器原料を用いた鋳込み成形により一体成形され」たものであるところ、「便鉢部14の後側の一部領域93の裏側」は、「中実領域」である蓋然性が高い。そうすると、甲1発明の「便鉢部14の後側の一部領域93の裏側」に「排泥通路86」が「形成され」ることから、「排泥通路86」の「流出口90」は「中実領域」の「外表面」において開口されている蓋然性が高く、その開口断面積が「第2開口断面積」であるといえる。
また、甲1発明の「排水路34」の「トラップ部16」は、「第1下降通路36の下流端部から斜め後方に上昇する上昇通路38」を有するものであるから、「上昇通路38の上面の下端95」は、本件発明3の「前記排水路の上面側の最下位置」に相当する部分であるといえ、甲1発明の「排泥通路86」の「流出口90」は、「排水路34」の「トラップ部16」の「上昇通路38の上面の下端95より上方に位置する」ものであるから、「最下位置」よりも「後方側」の位置において開口するものといえる。
そうすると、本件発明3の「前記水抜流路の出口開口は、前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において開口されており、前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有して」いることと、甲1発明の「便鉢部14を含む各部位が陶器原料を用いた鋳込み成形により一体成形され」たものであるとともに「便鉢部14の後側の一部領域93の裏側」に「排泥通路86」が「形成され」、「排泥通路86」の「流出口90」は、「排水路34」の「トラップ部16」の「上昇通路38の上面の下端95より上方に位置する」ものであることとは、「前記水抜流路の出口開口は、中実領域の外表面において開口されており、前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有して」いる点で共通する。
(サ)上記(ア)~(コ)より、本件発明3と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
ボウル形状の汚物受け面と、当該汚物受け面の上縁部に形成されたリム部と、を有するボウル部と、
前記リム部に設けられ、前記ボウル部内に洗浄水を吐水して当該洗浄水による旋回流を形成するリム吐水部と、
前記リム吐水部まで洗浄水を導水する導水路と、
前記ボウル部の下方に接続されトラップ流路を有する排水路と、
前記導水路から前記排水路の上面側に至る水抜流路と、
を備え、
前記水抜流路の入口開口は、前記導水路において開口されており、
前記水抜流路の出口開口は、中実領域の外表面において開口されており、前記出口開口は、前記外表面に沿った断面において第2開口断面積を有している、
水洗式大便器。
(相違点1)
本件発明3においては、「前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されており、前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有して」いるとともに、「前記水抜流路の出口開口」が「外表面に沿った断面において」有する「第2開口断面積」が、「前記第1開口断面積よりも大きい」と特定されているのに対し、
甲1発明においては、「排泥通路86」の「流入口88」が、「前壁部66と下壁面78との間の隅角部92」に形成されたものであって、「下壁面78」において開口されたものではなく、「下壁面78」における開口が「下壁面78」に沿った断面において有する開口断面積について、「流出口90」の外表面に沿った断面における開口断面積との大小関係は不明である点。
(相違点2)
「中実領域の外表面において開口されている」「前記水抜流路の出口開口」が、本件発明3は、「前記排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する」のに対し、甲1発明は、前記排水路の上面側の最下位置よりも後方側に位置する点。
イ 判断
上記相違点1について、検討する。
(ア)上記相違点1として示したように、本件発明3においては、「水抜流路の入口開口」は「導水路の底面において開口されて」いるのに対し、甲1発明においては、「排泥通路86」の「流入口88」は「前壁部66と下壁面78との間の隅角部92」に形成されたものであって、「下壁面78」において開口されたものではなく、両者は流路の入口が開口する場所、及び開口の形態がいずれも実際に相違している。
(イ)入口開口の「断面積」を規定する「断面」について検討すると、本件発明3においては、「導水路の底面において開口」された「入口開口」が「前記底面に沿った断面」において有するのが「第1開口断面積」である。これに対し、甲1発明においては、「下壁面78に設けられた案内領域100に沿った面」は、「前壁部66より下方かつ前方で排泥通路86の前側内壁に至」るから、「案内領域100」に沿った面で「排泥通路86」を切断した断面は、「排泥通路86」のうち「下壁面78」で開口せず「下壁面78」より前方に延びた部分を含む断面となり、本件発明3における「第1開口断面積」を有する断面とは、異なる断面となる。
(ウ)上記(イ)のとおり、甲1発明に係る「排泥通路86」は、本件発明3における「第2開口断面積」との大小を特定する「第1開口断面積」を規定する断面に相当する断面を有さないから、甲1発明の「排泥通路86」は、その「入口開口」と「出口開口」について、本件発明3における「水抜流路」の「第2開口断面積」と「第1開口断面積」との大小を特定する構成と対比できるの断面積の大小関係を特定できるものではない。
(エ)そして、本件発明3における上記相違点1に係る構成は、リム吐水口から吐出される洗浄水によるボウル部の洗浄が終了した後、残水がリム吐水口から点滴してしまうことを抑制するという課題の解決に資するものであるから、甲1発明を具現化する上での微差であって新たな効果を奏さないものとはいえない。
(オ)さらに、甲2及び甲3をみても、相違点1に係る本件発明3の構成は認められない。
すなわち、甲2及び甲3は、いずれも、「取付用便器」に係る意匠であって、そのA-A断面図は、取付用便器の左右中央を前後方向に切断した断面形状であるが、A-A断面図には、甲1の図6に類似した図が示されているものの、それぞれの部分がどのような機能であるかは不明であって「排泥通路」が存在するかも不明である。
仮に、甲2及び甲3のA-A断面図が甲1の図6と同様の断面図であるとしても、甲1発明は、「前記水抜流路の入口開口が、前記導水路の底面において開口されて」いる点が本件発明との相違点(相違点1)に含まれるから、甲2または甲3をみても、相違点1に係る本件発明3の構成が記載されたものではない。
よって、相違点1は、甲2及び3に記載されておらず、相違点1に係る事項が甲2及び3に記載された周知技術であるとはいえないから、甲1発明に甲2及び甲3に記載の周知技術を適用して本件発明3の相違点1に係る構成とすることはできない。
(オ)以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明に周知技術を付加ないし転換してなし得た課題解決のための具体化手段における微差であって新たな効果を奏するものではないものとはいえない。
ウ 申立人の主張
申立人の、本件発明3が甲1発明と実質的に同一であるとの主張は、以下の事項を含む。
(ア)甲1発明における「排泥流路」の「流入口」は、通水部を構成する前壁部と下壁部との間の隅角部に形成されるものであるから、通水部の下壁部において開口している。そして、「排泥流路」の「流入口」は、下壁部を延長する仮想平面における断面の断面積を有しており、これらの断面積が、本件発明3の「第1開口断面積」に相当する。
そうすると、甲1発明における「流入口」は、本件発明3における「入口開口」に相当し、甲1発明は、本件発明3の「前記水抜流路の入口開口は、前記導水路の底面において開口されており、前記入口開口は、前記底面に沿った断面において第1開口断面積を有しており、」との構成を備える。(申立書30頁下から4行~31頁11行)
(イ)本件発明3の甲1発明とは、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明3の水抜き流路の出口開口は、排水路の上面側の最下位置よりも前方側に位置する中実領域の外表面において開口されているのに対し、甲1発明の排泥流路の流出口は、排水路の上面側の最下位置よりも上方に位置し、かつ排水路の下流側に向けて開放されている点。
(相違点2)
本件発明3の出口開口の第2開口断面積は、入口開口の第1開口断面積よりも大きいのに対し、甲1発明は、流出口の断面積は、流入口の断面積よりも大きいか否かは不明である点。(申立書32頁4行~下から6行)
(ウ)排泥流路に相当する流路の出口開口を、排水路の上面側最下位置よりも前方側に位置すること、流出口の断面積を流入口の断面積よりも大きくすることは、甲2及び甲3のA-A断面図に示されるように、双方ともに周知技術である。
(エ)そして、入口開口の近傍領域の断面積が入口開口の断面積よりも大きいことによってはじめて「表面張力が作用して残水が水抜流路の入口開口に流入しない」という課題を解決できるのであって、出口開口の断面積である「第2開口断面積」を、入口開口である「第1開口断面積」より大きくしても、何ら顕著な効果を生じるものではないから、本件発明3は、甲1に記載された発明と実質的に同一である。
エ 主張の検討
上記主張について検討する。
(ア)甲1発明における「排泥流路」の「流入口」について
甲1発明における「排泥流路」の「流入口」は、申立人の言及するとおり、通水部を構成する前壁部と下壁部との間の隅角部に形成されるものであるから、「排泥流路」の「流入口」のうち通水部の下壁部において開口している部分があるとしても、この「下壁部において開口している部分」のみをもって、本件発明3の「導水路の底面において開口されて」いる、「水抜流路の入口開口」に相当するといえるものではない。特に、「第1開口断面積」の対比にあたっては、甲1発明は「下壁部において開口している部分」のみにおいて排水されるものではないから、甲1発明は「下壁部において開口している部分」の所定の断面積のみを本件発明3の「導水路の底面において開口されて」いる、「水抜流路の入口開口」が「底面に沿った断面において」有する「第1開口断面積」と相当させることができるものではない。
(イ)相違点について
甲1発明は、流入口が前壁部と下壁部との間の隅角部に形成されるものであるから、本件発明3と甲1発明との相違点は、上記アに示したとおりに認定されるべきものである。
(ウ)周知技術及びその甲1発明への適用について
上記イ(オ)において指摘したとおり、仮に、甲2及び甲3のA-A断面図が甲1の図6と同様の断面図であるとしても、本件発明3と甲1発明の相違点である相違点1が、甲2及び甲3に記載された周知技術であるとはいえず、甲1発明に甲2及び甲3に記載の周知技術を適用して本件発明3の相違点1及び3に係る構成とすることはできない。
(エ)本件発明3の効果について
本件発明3は、「水抜流路の入口開口」が「導水路の底面において開口されて」おり、「水抜流路の出口開口」が「外表面に沿った断面」において有する「第2開口断面積」が、「底面に沿った断面」において有する「第1開口断面積」よりも大きいことを特定したものである。
ここで、本件発明3は、「水抜流路の入口開口」の面積を、「ボウル部の洗浄中においては、十分な量の洗浄水がリム吐水口から吐水されるべきであるから、水抜流路から排水されてしまう洗浄水の量は少ない方がよい。」(第4の1(2)イ 段落【0020】)ことを考慮して、水抜流路の入口開口を決定しているのであり、そのために、「水抜流路40の入口開口41を除いた部分(水抜流路40の入口開口41の近傍領域を含む)の断面積」であって、出口開口も含むものを「水抜流路40の入口開口41の断面積よりも大きくなって」いるものとしたものである(第4の1(7)イ(ア))。
そして、本件発明3は、「導水路の底面において開口され」る「水抜流路の入口開口」の「第1開口断面積」及び「水抜流路の出口開口」が「外表面に沿った断面」において有する「第2開口断面積」を含む流路の設計を適切に行えば、「ボウル部の洗浄中においては、十分な量の洗浄水がリム吐水口から吐水される」ように「水抜流路から排水されてしまう洗浄水の量」を調整し、「表面張力が作用して残水が水抜流路の入口開口に流入しない、ということを抑制する」とともに、微弱サイホン作用を期待できる流量とすることができるものである。
これに対し、甲1発明は、「排泥通路86」の「流入口88」が、「前壁部66と下壁面78との間の隅角部92に形成され」いるものであって、「下壁面78」の他に「前壁部66」にも開口されているため、「ボウル部の洗浄中においては、十分な量の洗浄水がリム吐水口から吐水される」ように「水抜流路から排水されてしまう洗浄水の量」を調整できるものではない。
以上のとおりであるから、本件発明3が甲1発明と比して何ら顕著な効果を生じるものではないとまでいうことはできず、申立人の主張を採用することはできない。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明3と甲1発明とは、同一ではない。
(4)本件発明4、6及び7
本件発明4、6及び7は、いずれも、本件発明3の構成を有し、さらに構成を付加したものである。
上記(3)において対比、判断したとおり、本件発明3は、甲1発明と同一であるとはいえないから、本件発明4、6及び7において付加された構成について検討するまでもなく、本件発明4、6及び7は、甲1発明と同一ではない。
第6 まとめ
以上のとおり、本件発明3、4、6及び7に係る特許は、特許異議申立理由、及び取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明3、4、6及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700012