特許異議申立
2022-700277
放射冷却生地及び製品
- 審判番号
- 2022-700277
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-072967
- 登録番号
- 6944013
- 請求日
- 2022年04月01日
- 審決日
- 2023年03月30日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】寧波瑞凌新能源科技有限公司
- 【権利者代理人】幸谷 泰造
- 【権利者代理人】TRY国際弁理士法人
- 【異議申立人】小川 鐵夫
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 一ノ瀬 覚
- 審判官 内田 博之
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6944013号発明「放射冷却生地及び製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6944013号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~19〕について訂正することを認める。
特許第6944013号の請求項1~4、6~19に係る特許を維持する。
特許第6944013号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6944013号の請求項1~19に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和2年4月15日(パリ条約による優先権主張 2019年11月6日 (CN)中国、2019年11月8日 (CN)中国)に出願されたものであって、令和3年9月13日にその特許権の設定登録がされ、同年10月6日に特許掲載公報が発行された。
本件特許についての特許異議申立人小川鐵夫(以下「申立人」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 4月 1日 特許異議の申立て
同年 5月20日 手続補正書(方式)
同年 8月31日付け 取消理由通知
同年12月 1日 特許権者より意見書、訂正請求書の提出
令和5年 1月10日 申立人より意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年12月1日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)~(4)のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「積層配置されたフレキシブル基材層と機能層を含み、」とあるのを、「積層配置されたフレキシブル基材層と機能層を含み、前記機能層の厚さは200μm以下であり、」に訂正し、「前記第1機能層の厚さは10μm~200μmであり」とあるのを、「前記第1機能層の厚さは10μm~30μmであり」に訂正し、「前記第2機能層は、第2機能性フィラーを前記第1機能層の表面に固定し敷くことにより形成される」とあるのを、「前記第2機能層は、第2機能性フィラーを前記第1機能層の表面に固定し敷くことにより形成され、前記第2機能性フィラーの粒径は1μm~40μmであり、前記機能層に含まれるフィラーの質量分率が20%を超えない」に訂正する(請求項1の記載を直接ないし間接的に引用する請求項2~4及び16~19も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6~10に「請求項5に記載の放射冷却生地。」とあるのを、「請求項1に記載の放射冷却生地。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項19に「請求項1~18のいずれか一項に記載の放射冷却生地で製造される製品。」とあるのを、「請求項1~4又は請求項6~18のいずれか一項に記載の放射冷却生地で製造される製品。」に訂正する。
(5)一群の請求項
本件訂正の請求は、一群の請求項〔1~19〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、機能層の厚さの特定がなかったのを「200μm以下」との事項の限定をし、第1機能層の厚さが「10μm~200μm」であったのを「10~30μm」との事項の限定をし、第2機能性フィラーの粒径の特定がなかったのを「1μm~40μm」との事項の限定をし、機能層に含まれるフィラーの質量分率の特定がなかったのを「20%を超えない」との事項の限定をするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記の各限定は、段落【0078】、【0079】、訂正前の請求項5の記載からみて、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1により訂正前の請求項5の事項が請求項1に含まれることになったことに伴い、請求項6~10が引用するのを請求項1とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項2による請求項5の削除に伴い、請求項19が当該請求項5を引用しないものとするのであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 申立人の主張について
申立人は、令和5年1月10日付け意見書(以下「申立人意見書」という。)の1~3ページの3.(1)において、訂正事項1は、機能層として第1機能層のみを含む実施例9の記載に基づくものであり、機能層が第1機能層と第2機能層からなる場合からも導き出せるものとはいえないから、新規事項を追加するものであり訂正要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、本件の願書に添付された明細書(以下「本件特許明細書」という。)の実施例9を説明する段落【0078】の「機能層の厚さが200μmを超えると、生地の抗しわ性能は明らかに低下し」ということ、及び同【0079】の「機能層のフィラーが20%を超えると、機能層の厚さが薄くても、生地の抗しわ性が低下する」ということは、機能層の厚さ及びフィラーの質量分率のことを説明する記載であるから、機能層が第1機能層と第2機能層を含む場合であっても同様のことが成り立つことは、当業者であれば理解できることである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
4 小括
以上のとおり、訂正事項1~4による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項におけて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~19〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件訂正後の本件特許の請求項1~4、6~19に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1~4、本件発明6~11」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4、6~19に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
放射冷却生地であって、積層配置されたフレキシブル基材層と機能層を含み、前記機能層は第1機能層を含み、前記機能層の厚さは200μm以下であり、前記第1機能層の厚さは10μm~30μmであり、前記第1機能層は、第1機能樹脂と、前記第1機能樹脂に分散された第1機能性フィラーとを含み、前記第1機能層における前記第1機能性フィラーの質量分率は1%~20%であり、前記放射冷却生地の7μm~14μm波長帯での放射率は80%以上であり、前記放射冷却生地の300nm~2500nm波長帯での反射率は80%以上であり、前記放射冷却生地の径方向回復角度の平均値≧95°であり、緯方向回復角度の平均値≧91°であり、
前記機能層は第2機能層を更に含み、前記第1機能層は、前記フレキシブル基材層上に配置され、前記第2機能層は、前記第1機能層の前記フレキシブル基材層から離れる表面に配置され、前記第2機能層は、第2機能性フィラーを前記第1機能層の表面に固定し敷くことにより形成され、前記第2機能性フィラーの粒径は1μm~40μmであり、前記機能層に含まれるフィラーの質量分率が20%を超えない、ことを特徴とする放射冷却生地。
【請求項2】
前記フレキシブル基材層の厚さは300μm~2mmであり、前記第1機能層における第1機能性フィラーの質量分率は8%~20%であり、前記放射冷却生地の径方向回復角度の平均値≧98°であり、緯方向回復角度の平均値≧93°である、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項3】
前記第1機能性フィラーは第1フィラーと第2フィラーを含み、前記第1フィラーの粒径は0.01μm以上5μm未満であり、前記第2フィラーの粒径は5μm以上15μm以下であり、前記第1フィラーと前記第2フィラーとの質量比は4:1~1:4である、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項4】
前記第1フィラーと前記第2フィラーは、それぞれ独立して、セシウムタングステンブロンズ、酸化スズアンチモン、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛アルミニウム、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、窒化ケイ素のうちの1つ以上から選択される、ことを特徴とする請求項3に記載の放射冷却生地。
【請求項6】
前記第2機能性フィラーの粒径は、前記第1機能層の厚さの0.5倍~1.5倍である、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項7】
前記第2機能性フィラーの使用量は10g/m2~200g/m2である、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項8】
前記第2機能性フィラーは、セラミック粉末、チタン白粉末、ガラスミクロビーズ、二酸化ケイ素、重質炭酸カルシウム粉末、硫酸バリウム、滑石粉末、硫酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、重質炭酸カルシウム粉末、パール光沢粉末、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ロジウム、酸化マグネシウムのうちの1つ以上から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項9】
前記機能層の7μm~14μm波長帯での放射率は90%以上であり、300nm~2500nm波長帯での反射率は88%以上である、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項10】
前記機能層は第3機能層を更に含み、前記第3機能層は、前記第2機能層の前記第1機能層から離れる表面に配置され、前記第3機能層は第2機能樹脂を含み、前記第3機能層の厚さは10μm~30μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項11】
前記第3機能層は第3機能性フィラーを更に含み、前記第3機能性フィラーは、セラミック粉末、チタン白粉末、ガラスミクロビーズ、二酸化ケイ素、重質炭酸カルシウム粉末、硫酸バリウム、滑石粉末、硫酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、重質炭酸カルシウム粉末、パール光沢粉末、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ロジウム、酸化マグネシウムのうちの1つ以上から選択され、前記第3機能性フィラーの粒径は4μm~20μmである、ことを特徴とする請求項10に記載の放射冷却生地。
【請求項12】
前記第1機能樹脂と前記第2機能樹脂は、それぞれ独立して、ポリイミド、シクロオレフィン系ポリマー、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル酸樹脂、シリコーン樹脂のうちの1つ以上から選択される、ことを特徴とする請求項10に記載の放射冷却生地。
【請求項13】
前記フレキシブル基材層は、布地層と、前記布地層の片面又は両面にコーティングされた樹脂コーティング層とを含み、前記樹脂コーティング層の厚さは1μm~20μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項14】
前記布地層の材料は、テリレン、ナイロン、アクリル繊維、シルク、綿、麻のうちの1つ又は複数の混紡から選択され、前記樹脂コーティング層の材料は、ポリ塩化ビニール、アクリル酸樹脂、エポキシ樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタンのうちの1つ以上から選択される、ことを特徴とする請求項13に記載の放射冷却生地。
【請求項15】
前記フレキシブル基材層と前記機能層との間にはインターフェース剤層がさらに設けられ、前記インターフェース剤層の厚さは1μm~20μmであり、前記インターフェース剤層の材料は、アクリル酸樹脂、ポリウレタン及びエポキシ樹脂のうちの1つ以上から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項16】
前記フレキシブル基材層の前記機能層から離れる側に防水層がさらに設けられ、前記防水層の厚さは1μm~20μmであり、前記防水層の材料は、アクリル酸樹脂、ポリウレタン及びエポキシ樹脂のうちの1つ以上から選択され、前記防水層の400nm~700nm可視光の範囲内での透過率≧80%である、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項17】
前記放射冷却生地は疎水層を更に含み、前記疎水層は、前記機能層の前記フレキシブル基材層から離れる側に配置され、前記疎水層の厚さは1μm~20μmであり、前記疎水層の材料は、フッ素含有樹脂、シリコーン樹脂のうちの1つ以上から選択され、前記疎水層にはナノスケールの二酸化ケイ素粒子が分散され、前記疎水層における前記二酸化ケイ素粒子の質量分率は0.5%~5%であり、7μm~14μm波長帯の赤外線に対する前記疎水層の透過率≧80%である、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項18】
前記放射冷却生地は耐候層を更に含み、前記耐候層は、前記機能層の前記フレキシブル基材層から離れる側に配置され、前記耐候層の材料は、フッ素含有樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル酸樹脂、シリコーン樹脂のうちの1つ以上から選択され、前記耐候層の厚さは10μm~50μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の放射冷却生地。
【請求項19】
請求項1~4又は6~18のいずれか一項に記載の放射冷却生地で製造される製品。」
第4 取消理由通知の概要
令和4年8月31日付けで当審が通知した取消理由通知の要旨は、次のとおりである。
(サポート要件)本件の請求項1~19に係る発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
1 判断
本件発明は、本件特許明細書の記載からみて、「日除け、受動的な温度低下機能を有し、抗しわ性に優れている放射冷却生地を提供する」(本件特許明細書の段落【0004】)という課題を解決するために発明されたものと認める。
ここで、本件訂正の訂正事項1により、請求項1において、抗しわ性に影響をもたらす「第2機能層」の厚さや、「第2機能性フィラー」の粒径や、機能層に含まれるフィラーの質量分率が、上記第3のとおり特定され、これらの構成を備える第1機能層と第2機能層を有する実施例10~14において、上記課題を解決することが確認されることから、請求項1及び請求項1を直接ないし間接的に引用する請求項2~4、6~19に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものとなった。
したがって、本件発明1~4、6~19は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
2 申立人の主張について
申立人は、申立人意見書の3~5ページの3.(2)において、第2機能層が第1機能層に比べて著しく厚い場合や、防水層やインターフェース層、疎水層の厚さが厚い場合、回復角度が小さくなり、抗しわ性が低下すると理解できるので、請求項1の記載は、課題を解決できると認識できない旨主張する。
しかしながら、本件発明1は、「前記放射冷却生地の径方向回復角度の平均値≧95°であり、緯方向回復角度の平均値≧91°であ」ることを発明特定事項とするものであり、申立人が主張するようなものは、元より本件発明1に含まれるものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
3 小括
以上のとおりであるから、取消理由の理由により、請求項1~4、6~19に係る特許を取り消すことはできない。
第6 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由
取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由は、次のとおりである。
理由A(進歩性):本件の請求項1~10、12、15、18、19に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された次の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
甲第1号証:中国特許出願公開第110317521号明細書
甲第2号証:特開2014-70466号公報
甲第3号証:特開2006-335949号公報
理由B:(明確性要件)本件の請求項1~19に係る発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、当該請求項に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 理由Aについて
(1)各甲号証の記載事項等
ア 甲第1号証
甲第1号証には、請求項1、25、26、段落[0024]、[0038]、[0066]、[0072]、[0075]、[0097]、図3a等の記載からみて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める(なお、申立人の抄訳文を参考にした。)。
「繊維製品である基材と選択的放射冷却塗料を含む複合材料であって、積層配置された繊維製品である基材と放射冷却機能層を含み、前記放射冷却機能層は第1の放射冷却機能層2を含み、前記第1の放射冷却機能層2の厚さは30μm~130μmであり、前記第1の放射冷却機能層2は、第1の放射冷却機能層樹脂22と、前記第1の放射冷却機能層樹脂22に分散された第1の微粒子充填剤21とを含み、前記放射冷却機能層の7μm~14μm波長帯域での放射率は80%以上であり、前記放射冷却機能層の300nm~2500nm波長帯域での反射率は80%以上であり、
前記放射冷却機能層は第2の放射冷却機能層3を更に含み、前記第1の放射冷却機能層2は、前記繊維製品である基材上に配置され、前記第2の放射冷却機能層3は、第2の放射冷却機能層樹脂32と、前記第2の放射冷却機能層樹脂32に分散された第2の微粒子充填剤31とを含み、前記第2の放射冷却機能層3は、前記第1の放射冷却機能層2の前記繊維製品である基材から離れる表面に配置された、複合材料。」
イ 甲第2号証
甲第2号証には以下の記載がある。
・「【0012】
補助生地自体の厚みは、例えば0.01mm~1.5mmの範囲が挙げられ、好ましくは0.01mm~1.0mmの範囲で、より好ましくは0.01mm~0.5mmの範囲である。薄いほど、軽量となるため好ましい。・・・」
ウ 甲第3号証
甲第3号証には以下の記載がある。
・「【請求項1】
(A)バインダー、(B)粒子径が0.5~5.0μmの大粒径二酸化チタン粉及び(C)シリカ粉又はシリケート粉を含有することを特徴とする遮熱塗料組成物。
【請求項2】
大粒径二酸化チタン粉を0.1~15.0重量%含有していることを特徴とする請求項1記載の遮熱塗料組成物。
【請求項3】
シリカ粉又はシリケート粉を0.1~15.0重量%含有し、シリカ粉又はシリケート粉が、それぞれ、粒子径が5.0~30.0μmのシリカ粉又はシリケート粉を主成分とするものである請求項1又は2記載の遮熱塗料組成物。」
・「【0008】
前述のような問題点を解決するために、本発明では以下のような手段によって遮熱塗料組成物及びそれらを塗膜形成した構築物を得た。
本発明に使用される(B)成分の大粒径二酸化チタン粉は粒子径が0.5~5.0μmであり、好ましくは0.7~3.0μmであり、更に好ましくは0.9~2.0μmである。ここで、大粒径二酸化チタン粉の粒径が0.5μm未満であると、十分な遮熱性能が得られず、5.0μmを超えると分散性が低下する傾向がある。前記大粒径二酸化チタ粉ンの含有量は、遮熱塗料組成物に対して、0.1~15.0重量%含有されることが好ましく、1.0~10.0重量%含有されることがより好ましく、2.0~6.0重量%含有されることがさらに好ましい。ここで、大粒径二酸化チタン粉の含有量が0.1重量%未満であると遮熱性効果がなく、15.0重量%を超えると塗料バランスがくずれ、接着力、粘度、耐クラック性などが低下する傾向がある。
【0009】
本発明に使用される(C)成分のシリカ粉又はシリケート粉のうち、シリケート粉としては種々のものが挙げられ、例えばアルミニウムナトリウムシリケート粉、ケイ酸アルミナ粉、クレー粉等が挙げられるが、アルミニウムナトリウムシリケート粉が好ましい。シリカ粉及びシリケート粉は、いずれも粒子径が5.0~30.0μm、好ましくは7.0~25.0μm、より好ましくは10.0~20.0μmのシリカ粉又はシリケート粉を主成分とするものであることが好ましい。ここで、主成分とは、使用されるシリカ粉及びシリケート粉各々の総量の少なくとも80.0重量%、好ましくは100重量%を構成する成分を意味する。また、シリカ粉及びシリケート粉の平均粒子径は、10.0~20.0μmであることが好ましく、12.0~18.0μmであることがより好ましく、13.0~17.0μmであることが更に好ましい。シリカ粉及びシリケート粉の含有量(一方のみを用いた場合はその含有量であり、両者を併用した場合はその合計の含有量である。)は、遮熱塗料組成物に対して、0.1~15.0重量%含有することが好ましく、1.0~10.0重量%含有することがより好ましく、2.0~6.0重量%含有することがさらに好ましい。ここでシリカ粉及びシリケート粉の含有量が0.1重量%未満であると、大粒径二酸化チタン粉の浮上効果不十分となる傾向があり、15.0重量%を超えると塗料の粘度、接着力、耐クラック性などが低下する傾向がある。」
(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
・後者の「繊維製品である基材と選択的放射冷却塗料を含む複合材料」は生地であることは明らかであるから、前者の「放射冷却生地」に相当する。また、後者の「繊維製品である基材」はフレキシブル性を有することは明らかであるから、前者の「フレキシブル基材層」に相当する。
・後者の「放射冷却機能層」は前者の「機能層」に相当し、以下同様に、「第1の放射冷却機能層2」は「第1機能層」に、「第1の微粒子充填剤21」は「第1機能性フィラー」に、「第2の放射冷却機能層3」は「第2機能層」に、「第2の微粒子充填剤31」は「第2機能性フィラー」に、それぞれ相当する。
上記の相当関係を踏まえると、以下のことがいえる。
・後者の「繊維製品である基材と選択的放射冷却塗料を含む複合材料であって、積層配置された繊維製品である基材と放射冷却機能層を含み、前記放射冷却機能層は第1の放射冷却機能層2を含み」ということは、前者の「放射冷却生地であって、積層配置されたフレキシブル基材層と機能層を含み、前記機能層は第1機能層を含み」ということに相当する。
・後者の「前記第1の放射冷却機能層2は、第1の放射冷却機能層樹脂22と、前記第1の放射冷却機能層樹脂22に分散された第1の微粒子充填剤21とを含み」ということは、前者の「前記第1機能層は、第1機能樹脂と、前記第1機能樹脂に分散された第1機能性フィラーとを含み」ということに相当する。
・後者の「前記放射冷却機能層の7μm~14μm波長帯域での放射率は80%以上であり、前記放射冷却機能層の300nm~2500nm波長帯域での反射率は80%以上であり」ということは、前者の「前記放射冷却生地の7μm~14μm波長帯での放射率は80%以上であり、前記放射冷却生地の300nm~2500nm波長帯での反射率は80%以上であり」ということに相当する。
・後者の「前記放射冷却機能層は第2の放射冷却機能層3を更に含み、前記第1の放射冷却機能層2は、前記繊維製品である基材上に配置され」ということは、前者の「前記機能層は第2機能層を更に含み、前記第1機能層は、前記フレキシブル基材層上に配置され、前記第2機能層は、前記第1機能層の前記フレキシブル基材層から離れる表面に配置され」ということに相当する。
・後者の「前記第2の放射冷却機能層3は、第2の放射冷却機能層樹脂32と、前記第2の放射冷却機能層樹脂32に分散された第2の微粒子充填剤31とを含み」ということと、前者の「前記第2機能層は、第2機能性フィラーを前記第1機能層の表面に固定し敷くことにより形成され」ということとは、「前記第2機能層は、第2機能性フィラーを含む」ということで共通するといえる。
以上のことから、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点〕
「放射冷却生地であって、積層配置されたフレキシブル基材層と機能層を含み、前記機能層は第1機能層を含み、前記第1機能層は、第1機能樹脂と、前記第1機能樹脂に分散された第1機能性フィラーとを含み、前記放射冷却生地の7μm~14μm波長帯での放射率は80%以上であり、前記放射冷却生地の300nm~2500nm波長帯での反射率は80%以上であり、
前記機能層は第2機能層を更に含み、前記第1機能層は、前記フレキシブル基材層上に配置され、前記第2機能層は、前記第1機能層の前記フレキシブル基材層から離れる表面に配置され、前記第2機能層は、第2機能性フィラーを含む、放射冷却生地。」
〔相違点1〕
機能層の厚さについて、本件発明1では、「前記機能層の厚さは200μm以下であり、前記第1機能層の厚さは10μm~30μmであ」るのに対し、甲1発明では、「前記第1の放射冷却機能層2の厚さは30μm~130μmであり、」「前記第2の放射冷却機能層3の厚さは10μm~60μmであ」る点。
〔相違点2〕
機能性フィラーについて、本件発明1では、「前記第1機能層における前記第1機能性フィラーの質量分率は1%~20%であり、」「前記第2機能性フィラーの粒径は1μm~40μmであり、前記機能層に含まれるフィラーの質量分率が20%を超えない」のに対し、甲1発明では、そのような特定がない点。
〔相違点3〕
放射冷却生地の回復角度について、本件発明1では、「前記放射冷却生地の径方向回復角度の平均値≧95°であり、緯方向回復角度の平均値≧91°であ」るのに対し、甲1発明では、そのような特定がない点。
〔相違点4〕
第2機能層は、第2機能性フィラーを含むことについて、本件発明1では、「前記第2機能層は、第2機能性フィラーを前記第1機能層の表面に固定し敷くことにより形成され」るのに対し、甲1発明では、「前記第2の放射冷却機能層3は、第2の放射冷却機能層樹脂32と、前記第2の放射冷却機能層樹脂32に分散された第2の微粒子充填剤31とを含」むものである点。
イ 判断
事案に鑑み相違点4について検討する。
相違点4に係る本件発明1の事項は、甲第1号証には記載も示唆もなく、他の甲第2、3号証にも記載も示唆もなく、当該事項を容易想到とする理由も見当たらない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることはできたものではない。
(2-2)本件発明2~4、6~10、12、15、18、19について
本件発明2~4、6~10、12、15、18、19は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるので、上記と同様の理由により、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることはできたものではない。
(2-3)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の30~32ページの3.(4)(4-2)(4-2-2)(ア)において、甲第1号証の請求項4等には、微粒子充填剤が規則的に配列するように放射冷却層樹脂中に分布することが記載されているから、甲1発明において、上記相違点4に係る事項を有するものとすることは当業者が適宜なし得た旨主張する。
ここで、申立人の抄訳文によれば、甲第1号証の請求項4の記載は、「前記微粒子充填剤は、前記放射冷却機能層樹脂中に規則的に配列し、前記規則的な配列は、前記微粒子充填剤が前記放射冷却機能層樹脂中に均一に分布することと、前記微粒子充填剤が前記放射冷却機能層中に配向的に配列することからなる・・・」(下線は当審が付加。)というものである。
そして、第2の放射冷却機能層樹脂32中に第2の微粒子充填剤31を均一に分布させて第2の放射冷却機能層3を形成したものと、微粒子充填剤を下層(放射冷却機能層2)の表面に固定し敷くことによって放射冷却機能層自体を形成したものとは、層自体の構成が異なるものであり、甲第1号証の請求項4の記載は、上記相違点4に係る本件発明1の事項を示唆するものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(3)小括
以上のとおりであるから、理由Aによっては、請求項1~4、6~10、12、15、18、19に係る特許を取り消すことはできない。
3 理由Bについて
申立人は、特許異議申立書の42~43ページの3.(4)(4-4)において、請求項1の記載はいわゆる願望クレームであるから、不明確である旨主張する。
しかしながら、請求項1には、放射冷却生地の構成を特定するための各事項が記載されているのであるから、請求項1の記載は明確である。
また、申立人意見書の5~6ページの3.(3)において、第1機能層に含まれる第1機能性フィラーの質量分率が20%である場合、機能層全体におけるフィラーの質量分率が20%を超えないようにするには、第2機能層に含まれる第2機能性フィラーの質量分率が20%を超えないものとする必要があるところ、第2機能層は第2機能性フィラーのみから構成されるものであるから、機能層全体のフィラーの質量分率が20%を超えることとなり、技術的な不備がある旨主張し、さらに、第1機能層の厚さが10μmのときに機能層全体の厚さを200μmとするには、第2機能層の厚さを190μmとしなければならないが、第2機能性フィラーの粒径からそのようなことは不可能であり、技術的な不備がある旨主張する。
しかしながら、機能層は、第1機能層と第2機能層のみから構成されるものに限らず、請求項10~12に記載されるように、第3機能層を含む態様も含まれているところ、請求項1の記載は、「第1機能性フィラーの質量分率」、「機能層に含まれるフィラーの質量分率」、「機能層の厚さ」、「第1機能層の厚さ」、「第2機能性フィラーの粒径」の条件を満たすことを特定しているのであって、第3機能層を含む場合と含まない場合のそれぞれにおいて、それらの条件の範囲内において成立することは、当業者であれば当然に理解できることであり、技術的な不備があるとはいえない。
(なお、申立人は特許・実用新案審査基準の第II部第2章第3節「明確性要件」の2.2(2)aを念頭においていると思われるが、そこで示される例2は、A成分の最大値が取り得ないという技術的に正しくない場合であり、本件の請求項1とは前提条件が異なるものである。)
したがって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。
以上のとおりであるから、理由Bによっては、請求項1~4、6~19に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、請求項1~4、6~19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4、6~19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項5に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による請求項5に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700277