特許異議申立
2022-700225
被覆銀粒子とその製造方法、導電性組成物、および導電体
- 審判番号
- 2022-700225
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-089424
- 登録番号
- 6938057
- 請求日
- 2022年03月16日
- 審決日
- 2022年08月05日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】協立化学産業株式会社
- 【権利者代理人】家入 健
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 太田 一平
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.121-Y (B22F) / P1651.537-Y (B22F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6938057号発明「被覆銀粒子とその製造方法、導電性組成物、および導電体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6938057号の請求項1~13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6938057号の請求項1~13に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年 3月28日を出願日とする特願2016-64296号の一部を、令和 2年 5月22日に新たな特許出願としたものであって、令和 3年 9月 3日にその特許権の設定登録がされ、同年 9月22日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、令和 4年 3月16日に、特許異議申立人中川賢治(以下、「申立人」という。)による請求項1~13(全請求項)に係る特許に対する特許異議の申立てが行われたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~13に係る発明(以下、「本件発明1~13」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~13に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「
【請求項1】
平均一次粒子径が0.02μm~0.5μmである銀核粒子と、
当該銀核粒子の表面に1nm2当り2.5~5.2分子の密度で配置された複数の脂肪族カルボン酸分子とを含み、
前記銀核粒子の表面に対して前記複数の脂肪族カルボン酸分子が物理吸着またはイオン吸着している、
被覆銀粒子。
【請求項2】
前記脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数が5~26である、請求項1に記載の被覆銀粒子。
【請求項3】
任意の20個の粒子の走査型電子顕微鏡観察により求められる一次粒子径の算術平均値をDSEMとし、一次粒子径の標準偏差をSDとしたとき、
DSEMが0.02~5.0μmであり、一般式SD/DSEMで定義される粒子径変動率が0.01~0.5である、
請求項1または2に記載の被覆銀粒子。
【請求項4】
前記脂肪族カルボン酸分子が、飽和脂肪族カルボン酸である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の被覆銀粒子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の被覆銀粒子の製造方法であって、
銀カルボン酸塩と脂肪族カルボン酸と媒体とを含む反応液を用意する工程と、
前記反応液中に生成する錯化合物を熱分解処理して金属銀を生成することにより銀核粒子を生成する工程と、
銀核粒子の表面に脂肪族カルボン酸が吸着する工程と、を含む、被覆銀粒子の製造方法。
【請求項6】
前記反応液はさらに錯化剤を含む、請求項5に記載の被覆銀粒子の製造方法。
【請求項7】
前記錯化剤と、前記媒体とのとのSP値の差であるΔSP値が4.2以上である、請求項6に記載の被覆銀粒子の製造方法。
【請求項8】
前記錯化剤がアミノアルコールである、請求項6または7に記載の被覆銀粒子の製造方法。
【請求項9】
前記アミノアルコールのSP値が11.0以上である、請求項8に記載の被覆銀粒子の製造方法。
【請求項10】
前記銀カルボン酸塩の熱分解温度が100℃以上である、請求項5乃至9のいずれか一項に記載の被覆銀粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の被覆銀粒子と媒体とを含む、導電性組成物。
【請求項12】
更に、前記被覆銀粒子よりも粒子径の大きい金属粉を含む、請求項11に記載の導電性組成物。
【請求項13】
請求項11または12に記載の導電性組成物の熱処理物である、導電体。」
第3 特許異議の申立てについて
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、以下2に示す甲第1号証~甲第5号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由により、本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。なお、下線は当審が付した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同じ。
(1)申立理由1(進歩性)
本件発明1~4、11~13は、甲1に記載された発明、及び甲2~甲5の記載事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0008】、【0121】、【0130】の記載を参照すれば、本件発明の解決しようとする課題は、「耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子を提供する」との目的のうち、「粒度安定性及び焼結性に優れた銀被覆粒子を提供する」ことである。
そして、本件明細書の実施例には、請求項1に規定する構成を有する被覆銀粒子のうち、脂肪族カルボン酸分子がラウリン酸分子であった場合に、上記課題を解決できることは説明されている。
しかし、本件明細書を参照しても、「粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造でき、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現する」のは「脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数」が「5以上」の場合であって、「脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数」が5未満のときにまで上記課題を解決し得る被覆銀粒子となるとの説明はない。
したがって、本件発明は、脂肪族カルボン酸分子が、「脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数」が「5以上」である「直鎖状分子」であることについて限定していないため、本件明細書の発明の詳細な説明に開示された発明の範囲を超えるものである。
よって、請求項1~13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証(甲1):特許第5425962号公報
甲第2号証(甲2):国際公開第2005/075132号
甲第3号証(甲3):特許第5611537号公報
甲第4号証(甲4):特開2015-110824号公報
甲第5号証(甲5):特開2011-21271号公報
3 当審の判断
当審は、申立人が主張するいずれの申立理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
(1)申立理由1について
ア 甲1の記載事項
甲1には、「加熱焼結性銀粒子の製造方法、ペースト状銀粒子組成物、固形状銀の製造方法、金属製部材の接合方法、プリント配線板の製造方法および電気回路接続用バンプの製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「
【請求項1】
平均粒径(メディアン径D50)が0.01μm~20μmであり、表面が炭素原子数5~24の1価脂肪酸(a1)または該脂肪酸(a1)の誘導体(a2)で被覆された銀粒子の該脂肪酸(a1)または脂肪酸(a1)の誘導体(a2)を、炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)または該カルボン酸(b1)の誘導体(b2)により、完全に置換することによって、置換後の銀粒子についての大気中における示差熱分析チャートにおいて、置換前の銀粒子の焼結による発熱ピークが消失するまで置換することを特徴とする、加熱焼結性銀粒子の製造方法。
【請求項2】
表面が炭素原子数5~24の1価脂肪酸(a1)で被覆された銀粒子の該脂肪酸(a1)を、炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)または該カルボン酸(b1)のアンモニウム塩により、完全に置換することによって、置換後の銀粒子についての大気中における示差熱分析チャートにおいて、置換前の銀粒子の焼結による発熱ピークが消失するまで置換することを特徴とする、請求項1に記載の加熱焼結性銀粒子の製造方法。
【請求項3】
表面が炭素原子数5~24の1価脂肪酸のアルカリ金属塩(a2)で被覆された銀粒子の該アルカリ金属塩(a2)を、炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)により、完全に置換することによって、置換後の銀粒子についての大気中における示差熱分析チャートにおいて、置換前の銀粒子の焼結による発熱ピークが消失するまで置換することを特徴とする、請求項1に記載の加熱焼結性銀粒子の製造方法。
【請求項4】
多価カルボン酸(b1)が2価脂肪族カルボン酸であることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の加熱焼結性銀粒子の製造方法。
【請求項5】
銀粒子の形状が球状、粒状またはフレーク状であることを特徴とする、請求項1記載の加熱焼結性銀粒子の製造方法。
【請求項6】
(A)平均粒径(メディアン径D50)が0.01μm~20μmであり、表面が炭素原子数5~24の1価脂肪酸(a1)または該脂肪酸(a1)の誘導体(a2)で被覆された銀粒子の該脂肪酸(a1)または該脂肪酸(a1)の誘導体(a2)を、炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)または該カルボン酸(b1)の誘導体(b2)により、完全に置換することによって、置換後の銀粒子についての大気中における示差熱分析チャートにおいて、置換前の銀粒子の焼結による発熱ピークが消失するまで置換した銀粒子と、(B)誘電率が20~90の揮発性分散媒とからなり、加熱により該揮発性分散媒が揮散し該銀粒子同士が焼結することを特徴とする、ペースト状銀粒子組成物。
【請求項7】
表面が炭素原子数5~24の1価脂肪酸(a1)で被覆された銀粒子の該脂肪酸(a1)を、炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)または該カルボン酸(b1)のアンモニウム塩により、完全に置換することによって、置換後の銀粒子についての大気中における示差熱分析チャートにおいて、置換前の銀粒子の焼結による発熱ピークが消失するまで置換することを特徴とする、請求項6に記載のペースト状銀粒子組成物。
【請求項8】
表面が炭素原子数5~24の1価脂肪酸のアルカリ金属塩(a2)で被覆された銀粒子の該アルカリ金属塩(a2)を、炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)により、完全に置換することによって、置換後の銀粒子についての大気中における示差熱分析チャートにおいて、置換前の銀粒子の焼結による発熱ピークが消失するまで置換することを特徴とする、請求項6に記載のペースト状銀粒子組成物。
【請求項9】
多価カルボン酸(b1)が2価脂肪族カルボン酸であることを特徴とする、請求項6~請求項8のいずれか1項に記載のペースト状銀粒子組成物。
【請求項10】
銀粒子の形状が球状、粒状またはフレーク状であることを特徴とする、請求項6記載のペースト状銀粒子組成物。
【請求項11】
請求項6~請求項9のいずれか1項に記載のペースト状銀粒子組成物を70℃以上300℃以下で加熱することにより、該揮発性分散媒を揮散させて該銀粒子同士を焼結し、焼結後の体積抵抗率が1×10-5Ω・cm以下であり、かつ、熱伝導率が50W/m・K以上となることを特徴とする、固形状銀の製造方法。
【請求項12】
請求項6~請求項9のいずれか1項に記載のペースト状銀粒子組成物を複数の金属製部材間に介在させ、70℃以上300℃以下での加熱により、該揮発性分散媒を揮散させ該銀粒子同士を焼結して、複数の金属製部材同士を接合させることを特徴とする、金属製部材の接合方法。
【請求項13】
金属製部材が金属製基板または電子部品の金属部分であることを特徴とする、請求項12記載の金属製部材の接合方法。
【請求項14】
請求項6~請求項9のいずれか1項に記載のペースト状銀粒子組成物を、接着剤が塗布された基板上に塗布し、70℃以上300℃以下で加熱することにより、該揮発性分散媒を揮散させ該銀粒子同士を焼結して、接着剤上に銀配線を形成することを特徴とする、プリント配線板の製造方法。」
(イ)「
【背景技術】
【0002】
銀粉末を熱硬化性樹脂組成物中に分散させてなる導電性ペーストは、加熱により硬化して導電性被膜が形成されるので、プリント回路基板上の導電性回路の形成、抵抗器やコンデンサ等の各種電子部品及び各種表示素子の電極の形成、電磁波シールド用導電性被膜の形成、コンデンサ、抵抗、ダイオード、メモリ、演算素子(CPU)等のチップ部品の基板への接着、太陽電池の電極、特にアモルファスシリコン半導体を用いた高温処理のできない太陽電池の電極の形成、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ、積層セラミックアクチュエータ等のチップ型セラミック電子部品の外部電極の形成等に使用されている。
近年チップ部品の高性能化によりチップ部品からの発熱量が増え、電気伝導性はもとより、熱伝導性の向上が要求されるので、銀粒子の含有率を可能な限り増加して電気伝導性、熱伝導性を向上しようとすると、ペーストの粘度が上昇し、作業性が著しく低下するという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、本発明者らは、銀粉末と揮発性分散媒とからなるペースト状銀粒子組成物は加熱すると該揮発性分散媒が揮発し銀粉末が焼結して、極めて高い導電性と熱伝導性を有する固形状銀となり、金属製部材の接合や、導電回路の形成に有用なことを見出して国際出願した(特許文献1、特許文献2)。
しかしながら、電子機器、電子部品、チップ部品等およびこれらを構成する材料の耐熱性の制約から、低温度、例えば200℃以下の温度でペースト状組成物が焼結し、かつ、基材への接着性を有することを求められる場合が増えてきている。
しかし、特に低温度で焼結した場合に硬化性および接着性の発現が十分ではなく、この原因として銀粒子の凝集防止の目的で用いられている高級脂肪酸、高級脂肪酸塩等の銀粒子の被覆剤に問題があることに気がついた。そこで、これらの高級脂肪酸、高級脂肪酸塩を、より低級の脂肪酸やより低級の脂肪酸塩に置換して、低温度で焼結が可能な加熱焼結性銀粒子を製造する方法、該加熱焼結性銀粒子と揮発性分散媒からなるペースト状銀粒子組成物、該ペースト状銀粒子組成物を加熱して、該揮発性分散媒が揮発し銀粉末が焼結して、極めて高い導電性と熱伝導性を有する固形状銀となり、金属製部材の接合や、導電回路の形成に有用なことを見いだして特許出願した(特許文献3)。
しかし、該加熱焼結性銀粒子と揮発性分散媒からなるペースト状銀粒子組成物を金属製部材の接合に使用した場合に接着強度が不十分であるという問題がある。」
(ウ)「
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、上記問題のない銀ペースト、すなわち、比較的低温度で焼結し、かつ、接着強さ、硬さ、電気伝導性および熱伝導性が優れた固形状銀となる、ペースト状銀粒子組成物を開発すべく鋭意研究した結果、1価の脂肪酸若しくはその誘導体で被覆された銀粒子の該脂肪酸若しくはその誘導体を、より低級の炭素原子数2~4の多価カルボン酸に置換することが有効なことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の目的は、加熱すると銀粒子が比較的低温度で容易に焼結して接着強さ、硬さ、電気伝導性および熱伝導性が優れた固形状銀となる加熱焼結性銀粒子の製造方法;加熱すると銀粒子が比較的低温度で容易に焼結して接着強さ、硬さ、電気伝導性および熱伝導性が優れた固形状銀となるペースト状銀粒子組成物;ペースト状銀粒子組成物から強度と電気伝導性と熱伝導性が優れた固形状銀を製造する方法;該ペースト状銀粒子組成物を使用して金属製部材を電気伝導性と熱伝導性よく強固に接合する方法;基板への接着性と電気伝導性と熱伝導性が優れた銀配線を有するプリント配線板を製造する方法;および、電気伝導性と熱伝導性が優れた電気回路接続用バンプを製造する方法を提供することにある。」
(エ)「
【発明の効果】
【0017】
本発明の加熱焼結性銀粒子の製造方法によると、比較的低温度での加熱により、特には70℃以上300℃以下での加熱により、銀粒子(A)同士が焼結して接着強さと硬さと電気伝導性と熱伝導性が優れた固形状銀となる銀粒子を容易に製造することができる。
本発明のペースト状銀粒子組成物は、揮発性分散媒(B)が揮散し、特には70℃以上300℃以下での加熱により、銀粒子(A)同士が焼結して接着強さと硬さと電気伝導性と熱伝導性が優れた固形状銀となる。
【0018】
本発明の固形状銀の製造方法によると、比較的低温度での加熱により揮発性分散媒(B)が揮散し、特には70℃以上300℃以下での加熱により、銀粒子(A)同士が焼結して接着強さと硬さと電気伝導性と熱伝導性が優れた固形状銀を製造することができる。
本発明の金属製部材の接合方法によると、比較的低温度での加熱により、特には70℃以上300℃以下での加熱により、揮発性分散媒(B)が揮散し銀粒子(A)同士が焼結して複数の金属製部材同士を電気伝導性と熱伝導性よく強固に接合させることができる。」
(オ)「
【0033】
銀粒子表面を予め被覆している1価脂肪酸(a1)または該脂肪酸(a1)の誘導体(a2)を置換するための炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)は、2価カルボン酸が好ましく、ついで3価カルボン酸が好ましい。そのようなカルボン酸として、多価脂肪族カルボン酸が好ましく、特には2価脂肪族カルボン酸が好ましく、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、オキシジ酢酸(ジグリコール酸)が例示される。なお、銀表面がこれらの多価脂肪酸(b1)により被覆された銀粒子は通常、親水性を示す。」
(カ)「
【0041】
かくして得られた銀粒子表面を被覆している、炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)または該カルボン酸(b1)の誘導体(b2)の量は、銀粒子の焼結性と焼結してできた固形状銀の強度と電気伝導性と熱伝導性の点で、0.01~5.0質量%であることが好ましく、特には、0.1~2.5質量%であることが好ましい。」
(キ)「
【0046】
本発明のペースト状銀粒子組成物は、(A)平均粒径(メディアン径D50)が0.01μm~20μmであり、表面が炭素原子数5~24の1価脂肪酸(a1)または該脂肪酸(a1)の誘導体(a2)で被覆された銀粒子の該脂肪酸(a1)または該脂肪酸(a1)の誘導体(a2)を、炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)または該カルボン酸(b1)の誘導体(b2)により、示差熱分析において、初期の銀粒子の焼結による発熱ピークが検出されなくなるまで置換した銀粒子と、(B)誘電率が20~90の揮発性分散媒とからなり、加熱により該揮発性分散媒が揮散し該銀粒子同士が焼結することを特徴とする。このペースト状銀粒子組成物は、炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)または該カルボン酸(b1)の誘導体(b2)で被覆された銀粒子(A)と誘電率が20~90の揮発性分散媒(B)との混合物であり、粉末状の銀粒子(A)が揮発性分散媒(B)の作用によりペースト化している。ペースト化することによりシリンダーやノズルから細い線状に吐出でき、またメタルマスクによる塗布が容易であり、電極の形状に適用しやすくなる。なお、ペースト状は、クリーム状やスラリー状を含むものである。」
(ク)「
【0068】
[参考例]
表面を被覆している炭素原子数5~24の1価脂肪酸(a1)を、炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)で置換した銀粒子(A)を製造する方法は、次のとおりである。
ビーカに、炭素原子数5~24の1価脂肪酸(a1)で被覆された銀粒子100部と、炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1){25℃で液体の場合はそのまま用いた。25℃で固体の場合はエタノール(関東化学株式会社製の試薬)により30質量%の溶液にして用いた}100部を投入し、マグネチックスターラーを用いて25℃で5時間攪拌した。10分間静置して上澄み液(炭素原子数2~4の多価カルボン酸(b1)、またはそれらのエタノール溶液)をできるだけ取り除いてから、エタノール(関東化学株式会社製の試薬)100部を添加して、マグネチックスターラーを用いて同様に25℃で10分間攪拌した。同様に静置して上澄み液をできるだけ取り除いてから、再度アセトンを添加して同様に銀粒子を洗浄した。これを3回繰返してから銀粒子を取り出し、25℃で16時間風乾した。」
(ケ)「
【0082】
[実施例6]
参考例の製造方法において、市販の還元法で製造され、表面が炭素原子数6の1価飽和脂肪酸であるヘキサン酸で被覆された略球状の銀粒子(レーザー回折法により得られる1次粒子の平均粒径(メディアン径D50)が0.02μmであり、有機物量(注:ヘキサン酸と微量の有機系還元剤の合計量である)が3質量%である)と、炭素原子数3で2価のカルボン酸であるマロン酸(関東化学株式会社製の試薬)を用いて、銀粒子の表面を被覆しているヘキサン酸(炭素原子数6)をマロン酸に置換した銀粒子(A)を得た。
【0083】
ヘキサン酸がマロン酸に置換されたことを確認するため、置換前と置換後の銀粒子について大気中における示差熱分析を行ない、置換前については図3に、置換後については図4に分析結果を示した。図3によると、置換前の銀粒子の焼結による発熱ピークは252.7℃である(145.2℃のピークは、ヘキサン酸の熱分解によるピークである)。図4によると、置換後の銀粒子(A)の焼結による発熱ピークは194.7℃であり(137.5℃のピークは、マロン酸の熱分解によるピークである)、置換前の銀粒子の焼結による発熱ピーク(252.7℃)は検出されていないことがわかった。したがって、ヘキサン酸はマロン酸に置換されたことが確認できた。また、置換後の銀粒子(A)表面の被覆剤量は、1.5質量%であった。
【0084】
この銀粒子(A)50部に、誘電率が49であるジメチルスルホキシド(関東化学株式会社製の試薬)12部を添加し、へらを用いて均一になるまで混合することによりペースト状銀粒子組成物を調製した。このペースト状銀粒子組成物は、メタルマスクでの塗布においてダレ、流れ等はなく良好な形状に塗布できた。このペースト状銀粒子組成物について加熱焼結物である固形状銀の硬さ、接着強さ、体積抵抗率、熱伝導率を測定し、結果を表2にまとめて示した。硬さ測定に使用したフィルム状銀は、固体状であるに十分な硬さを有していた。以上の結果より、このペースト状銀粒子組成物が、強固な固形状銀を製造するのに有用なこと、金属製部材を電気伝導性と熱伝導性よく強固に接合するのに有用なこと、耐摩耗性と基板への接着性と電気伝導性と熱伝導性が優れた銀配線を形成するのに有用なこと、および半導体素子上または基板上に銀バンプを形成するのに有用なことがわかった。」
(コ)「
【表2】
[図:0001388410000001.jpg]
」
(サ)「
【図4】
[図:0001388410000002.jpg]
」
イ 甲2の記載事項
甲2には、「複合型ナノ粒子及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「
従来の複合型金属ナノ粒子にあっては、金属核から有機物を脱離させて、金属核を均一に焼結させるのに、少なくとも約250℃以上の温度が必要であり、この複合型金属ナノ粒子を主材とした接合材料の接合温度も約250℃以上となる。このため、半導体装置や電気部品の接合等で多用されている、はんだ接合に必要とされる加熱温度(接合温度)が200℃内外の現状から判断すると、従来の複合型金属ナノ粒子を主材とした接合材料では、接合に要する温度が高過ぎる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、金属核から有機物を脱離させて金属核を均一に焼結させる温度を大幅に低減させるか、または無機金属化合物を含む中心部から有機物を脱離させて該中心部を金属化させる温度を大幅に低減させて、はんだによる接合の代替に応用できるようにした複合型ナノ粒子及びその製造方法を提案することを目的とする。」(3頁30行~4頁8行)
(イ)「
本発明の複合型ナノ粒子は、中心部が金属成分からなり該金属成分の周りを物理吸着的に結合した有機物で取囲んでいる。
このように、中心部の金属成分(金属核)の周りを物理吸着的に結合した有機物で取囲んだ構造にあっては、有機物は、化学的な結合とは異なり、金属成分の表面に緩く結合されており、このため、有機物が有機金属化合物を介して化学的に金属成分(金属核)の周囲に強固に結合した従来の複合型金属ナノ粒子に比べ、遙かに低い温度で、かつ低いエネルギで有機物を金属成分(金属核)の表面から脱離させることができる。
本発明の他の複合型ナノ粒子は、中心部が金属成分からなり、該金属成分の周りを、熱脱離開始温度が140℃以上で、190℃未満の有機物で取囲んでいる。
このように、中心の金属成分の周りを取囲む有機物の該金属成分からの熱脱離開始温度を140℃以上で、190℃未満とすることで、この複合型ナノ粒子(複合型金属ナノ粒子)を、例えば接合材料の主材として使用した場合、接合温度を200℃内外とすることができる。これによって、半導体装置や電気部品の接合等で多用されている、加熱温度(接合温度)が200℃内外のはんだによる接合を、この複合型ナノ粒子を応用した方法で代替することができる。」(4頁9~26行)
(ウ)「
本発明の更に他の複合型ナノ粒子は、中心部に少なくとも無機金属化合物を含み、該中心部の周りを物理吸着的に結合した有機物で被覆している。
従来の金属ナノ粒子の場合は、裸のままでは化学的に極めて活性であり、有機物で被覆することによって安定化させる必要がある。この発明の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)の場合は、中心部に比較的低温で熱分解する無機金属化合物を含んでおり、物理吸着程度の弱い結合力で該中心部の周囲を有機物で被覆するだけで安定な状態となる。このため従来の複合型金属ナノ粒子より低い200℃前後の温度で金属化させることが出来る。」(5頁29行~6頁5行)
(エ)「
前記無機金属塩は炭酸銀で、前記有機物質は高級アルコールであることが好ましい。
前記高級アルコールは、ミリスチルアルコールで、前記加熱温度は、70℃以上、140℃未満であることが好ましい。
このように、例えば炭酸銀(無機金属塩)とミリスチルアルコール(有機物質)とを70℃以上、140℃未満の温度で所定時間、例えば120℃の温度で2h加熱・保持することで、有機物が金属成分(銀)または無機金属化合物(炭酸銀)に化学的に結合されることなく、金属成分または無機金属化合物に物理吸着的に結合された複合型ナノ粒子を生成することができる。なお、炭酸銀(無機金属塩)とミリスチルアルコール(有機物質)を、上記限界範囲を超える140℃の温度で2h加熱・保持した場合には、有機物が金属成分(銀)または無機金属化合物(炭酸銀)と反応して有機金属化合物が生成され、金属成分または無機金属化合物に有機金属化合物を介して化学的に強固に結合された複合型ナノ粒子が生成される。」(7頁10~24行)
(オ)「
有機物14は、炭素(C)、水素(H)及び酸素(O)からなる。このように、複合型金属ナノ粒子10の有機物14に窒素(N)や硫黄(S)等が含まれないようにすることで、有機物14を金属成分12から脱離させた後、金属部分にNやSが残留し、これによって、金属成分12を焼結することによって得られる焼結金属の導電率が、残留するNやS成分によって低下してしまうことを防止することができる。」(9頁32行~10頁4行)
(カ)「
表3は、前述のように、炭酸銀とミリスチルアルコールを120℃×2hの加熱・保持することによって生成した複合型銀ナノ粒子(本発明)と、同じく140℃×2hの加熱・保持することによって生成した複合型銀ナノ粒子(比較例1)と、ステアリン酸銀を原料とし、これを窒素ガス雰囲気中で250℃に加熱することによって生成した複合型銀ナノ粒子(比較例2)の製造条件、特性及びこれらを接合材料の主材として使用した時の接合開始温度を示す。
【表3】
[図:0001388410000003.jpg]
本発明と比較例1の結果から明らかなように、わずか20℃の生成温度の違いによって、有機物の熱脱離温度、及び接合開始温度が大きく異なっており、本発明による複合型銀ナノ粒子の優位性が明らかとなっていることが判る。」(20頁7~20行)
(キ)「
請求の範囲
1. 中心部が金属成分からなり、該金属成分の周りを物理吸着的に結合した有機物で取囲んでいる複合型ナノ粒子。
2. 中心部が金属成分からなり、該金属成分の周りを、熱脱離開始温度が140℃以上で、190℃未満の有機物で取囲んでいる複合型ナノ粒子。
3. 中心部が金属成分からなり、該金属成分の周りを、脱離エネルギが金属原子1個当り0.3eV以下の有機物で取囲んでいる複合型ナノ粒子。
4. 前記有機物は、炭素、水素及び酸素のみからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合型ナノ粒子。
5. 前記金属成分は、Cu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合型ナノ粒子。
6. 前記金属成分の含有量が50~99重量%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合型ナノ粒子。
7. 前記中心部の平均粒径が、1~100nmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合型ナノ粒子。
8. 中心部に少なくとも無機金属化合物を含み、該中心部の周りを物理吸着的に結合した有機物で被覆している複合型ナノ粒子。
9. 前記有機物は、炭素、水素及び酸素のみからなることを特徴とする請求項8記載の複合型ナノ粒子。
10. 前記無機金属化合物は、Cu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくともいずれかの金属の無機化合物からなることを特徴とする請求項8記載の複合型無機金属化合物ナノ粒子。
11. 金属成分の含有量が50~99重量%であることを特徴とする請求項8記載の複合型ナノ粒子。
12. 前記中心部の平均粒径が、1~100nmであることを特徴とする請求項8記載の複合型ナノ粒子。
13. 無機金属塩と有機物質とを共存させ、
前記無機金属塩が分解して金属ナノ粒子が生成され、金属ナノ粒子と有機物が反応を起して有機金属化合物が生成されることなく、金属ナノ粒子の周りに有機物が物理吸着的に結合されるように前記金属塩と有機物質を所定の温度に加熱し一定時間保持することを特徴とする複合型ナノ粒子の製造方法。
14. 無機金属塩と有機物質とを共存させ、
前記無機金属塩の少なくとも一部が前記有機物質と反応を起して有機金属化合物が生成されることなく、前記無機金属塩ないしその熱分解により生成された無機金属化合物を含む中心部の周りに有機物質が物理吸着的に結合されるように前記無機金属塩と前記有機物質を所定の温度に加熱し一定時間保持することを特徴とする複合型ナノ粒子の製造方法。」
ウ 甲3の記載事項
甲3には、「導電性接合材料、それを用いた接合方法、並びにそれによって接合された半導体装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「
【0011】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、接合後には耐熱性に優れ、接合時には樹脂を含有した導電性接合材料と比較して接合界面での金属結合をより低温で実現可能であり、接合プロセスにおいて加圧を必須としない無加圧での接合が可能な導電性接合材料及びそれを用いた接合方法、並びにそれによって接合された半導体装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明では、今まで着目されていなかった粒径が0.1~100μm(マイクロ粒子)の銀粉(銀粒子)と酸化銀粉(酸化銀粒子)を用いることで接合部の金属接合を可能としている。また、樹脂を用いない(有機物の含有量を少なくする)ことによって、接合過程における無加圧化を可能とし、接合プロセスの簡略化を達成する。」
(イ)「
【0025】
<接合材料の組成>
本発明は(A)銀粉と、(B)酸化銀粉と、(C)炭素数30以下で構成される有機物からなる分散剤と、を必須成分とする全導電性接合材料に関する。このような組成を有する導電性接合材料において、(A)銀粉と(B)酸化銀粉と(C)炭素数30以下で構成される有機物からなる分散剤の合計が99.0~100重量%となっている。つまり、従来の樹脂は含まれない構成となっている。接合時にこの導電性接合材料を加熱し、銀粒子と酸化銀粒子を焼結させて金属的な接合を行う。銀粉に酸化銀を混合させることで、接合時に分散剤と酸化銀が150℃以下の温度で酸化還元反応を起こし、銀粉の焼結を促進することで低温での接合強度向上が可能となる。」
(ウ)「
【0033】
なお、粒子形状は、上述の球状やフレーク状に限らず、四面体や八面体、ロッド状、繊維状のものを用いることが可能である。フレーク形状の場合、粒子同士が面で接することができるので、接触面積は大きくなる。
【0034】
<銀粒子と酸化銀粒子の混合率>
銀粒子と酸化銀粒子の混合率は、銀粒子100質量部(重量%)に対して酸化銀粒子を0.01質量部以上100質量部以下の範囲とするのがよい。0.01質量部以上としたのは、これより少ないと酸化銀からの還元銀の量も少なくなり、低温での銀粒子を融合する効果が表れなくなるからである。100質量部以下としたのは、これよりも加える酸化銀粒子の量が多くなると接合層にといて酸化銀の体積収縮が占める割合が多くなり、結果として接合強度が低下するようになるためである。接合強度を考慮すると、より好ましくは、40重量%程度が好適である(図3参照)。
【0035】
<分散剤の例>
炭素数30以下の有機物からなる分散剤(かつ、酸化銀の還元剤)としては、アルコール類、カルボン酸類、アミン類から選ばれた1種以上の混合物を用いることができる。これらは混合粒子の溶媒への金属粒子の周りを有機物で被覆し、有機溶剤への分散性を向上する作用がある。ここで、分散剤(銀粒子同士が付着しないようにするためのもの)として例えばステアリン酸を用いた場合、酸化銀と、銀粒子に付着していたステアリン酸とが140~150℃で還元反応を起こし、ステアリン酸が銀粒子から除去される。このため、酸化銀の混合割合がステアリン酸の量に比べて多すぎると、十分に還元反応を起こすことができずに酸化銀が接合材内に残ってしまう。これでは接合強度が上がらない。よって、酸化銀と分散剤との混合比は1対1を限度とするのが好ましい。
【0036】
ここで、炭素数30以下としたのは、炭素数が多くなりすぎると、分散剤の沸点が高くなってしまって、接合時に加熱(例えば200℃)しても分散剤が接合部分に残ってしまい、接合強度及び信頼性に問題となる可能性があるからである。」
(エ)「
【0038】
また、利用可能なカルボン酸を含む化合物としてアルキルカルボン酸がある。具体例としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸が挙げられる。また、上記アルコール基と同様に1級アルコール型に限らず、2級カルボン酸型、3級カルボン酸型、及びジカルボン酸、環状型の構造を有するカルボキシル化合物を用いることが可能である。」
(オ)「
【0042】
<分散剤の混合率>
分散剤の使用量は銀粒子と酸化銀粒子の合計を100質量部とした場合に0.01~20質量部の範囲にて用いることが出来る。これは分散剤の量が0.01質量部より少ないと銀粒子と酸化銀粒子の分散性が悪く、2次凝集を起こし、接合部分への均一な塗布が困難となり、無加圧での接合が不可能となるからである。また、20質量部以下としたのは、20質量部より多くなると、接合時の銀粒子同士の融合を妨げるようになり、接合強度の大きな低下が見られるからである。」
エ 甲4の記載事項
甲4には、「銀粉及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「
【請求項1】
銀錯体を含む銀溶液と還元剤溶液とを連続的に混合して反応液とし、該反応液中の銀錯体を還元して銀粒子スラリーを得た後、濾過、洗浄、乾燥の各工程を経て銀粉を製造する銀粉の製造方法であって、
銀錯体を含む核生成用銀溶液と、強還元剤を含む溶液と、分散剤とを混合して銀核溶液を得る銀核溶液調製工程と、
上記銀核溶液調製工程により得られた銀核溶液と、上記強還元剤より標準電極電位が高い弱還元剤とを混合して核含有還元剤溶液を得る核含有還元剤溶液調製工程と、
上記核含有還元剤溶液調製工程により得られた核含有還元剤溶液と、固形粒子の含有量が銀量に対して20質量ppm以下であり、銀錯体を含む粒子成長用銀溶液とを連続的に混合して反応液とし、該反応液中で銀錯体を還元して銀粒子を成長させる粒子成長工程と
を有し、
上記銀核溶液調製工程では、上記核生成用銀溶液中の銀量に対する上記強還元剤の当量が1.0当量以上4.0当量未満であり、上記強還元剤の標準電極電位が0.056V以下であり、上記核生成用銀溶液中の銀濃度が6.0g/L以下であり、
上記粒子成長工程では、上記粒子成長用銀溶液中の銀量が上記核含有還元剤溶液中の銀量の1500倍~250000倍であることを特徴とする銀粉の製造方法。
【請求項2】
上記核含有還元剤溶液との混合前に、上記粒子成長用銀溶液を限外ろ過するろ過工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の銀粉の製造方法。
【請求項3】
上記限外ろ過の分画分子量が150,000以下であることを特徴とする請求項2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項4】
上記強還元剤と上記弱還元剤の標準電極電位の差が1.0V以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の銀粉の製造方法。
【請求項5】
上記強還元剤はヒドラジン一水和物であり、上記弱還元剤はアスコルビン酸であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の銀粉の製造方法。
【請求項6】
上記核生成用銀溶液中の銀濃度が1.0g/L以下であり、上記粒子成長用銀溶液中の銀濃度が20g/L~90g/Lであることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の銀粉の製造方法。
【請求項7】
上記銀錯体が塩化銀をアンモニア水に溶解して得られた銀アンミン錯体であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の銀粉の製造方法。
【請求項8】
上記核生成用銀溶液中の銀量に対するアンモニア量がモル比で20~100であることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の銀粉の製造方法。
【請求項9】
上記分散剤の混合量が、上記核含有還元剤溶液と上記粒子成長用銀溶液の混合後における上記粒子成長用銀溶液中の銀量に対して0.2質量%~30質量%であることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の銀粉の製造方法。
【請求項10】
上記分散剤がポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、変性シリコンオイル系界面活性剤、ポリエーテル系界面活性剤から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載の銀粉の製造方法。
【請求項11】
上記核含有還元剤溶液と上記粒子成長用銀溶液との混合において、各溶液を個別に反応管に供給し、該反応管内に配置したスタティックミキサーで混合することを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の銀粉の製造方法。
【請求項12】
一次粒子の平均粒径が2.0μmを超え、3.0μm以下であり、該一次粒子の粒径の標準偏差値を平均粒径で除した粒径の相対標準偏差値が0.3以下であることを特徴とする銀粉。
【請求項13】
上記相対標準偏差値が0.25以下であることを特徴とする請求項12に記載の銀粉。」
(イ)「
【0005】
銀ペースト用の銀粉に求められる特性としては、用途及び使用条件により様々であるが、一般的且つ重要なことは、粒径が均一で凝集が少なく、ペースト中への分散性が高いことである。粒径が均一で、且つペースト中への分散性が高いと、硬化あるいは焼成が均一に進み、低抵抗で強度の大きい導電膜を形成できるからである。粒径が不均一で分散性が悪いと、印刷膜中に銀粒子が均一に存在しないため、配線や電極の太さや厚さが不均一となるばかりか、硬化あるいは焼成が不均一となるため、導電膜の抵抗が大きくなったり、導電膜が脆く弱いものになったりしやすい。
【0006】
さらに、銀ペースト用の銀粉に求められる事項として、製造コストが低いことも重要である。銀粉はペーストの主成分であることから、ペースト価格に占める割合が大きいためである。製造コストの低減のためには、使用する原料や材料の単価が低いだけでなく、廃液や排気の処理コストが低いことも重要となる。」
(ウ)「
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、このような従来の事情に鑑み、均一性を有し、所望の粒径範囲に制御された銀粉、及び、そのような銀粉を高い生産性でもって安定して製造することができる銀粉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、核を成長させる銀溶液に含まれる固形粒子が得られる銀粉の粒径に大きな影響を及ぼしており、固形粒子を低減することで、銀粉の粒径を、所望の範囲に制御することが可能であるとの知見を得た。さらに、核の銀量に対する核を成長させる銀溶液中の銀量の比率を制御することで、粒径が大きく、かつ均一な銀粉を得ることができるとの知見を得て、本発明に至ったものである。」
(エ)「
【0024】
さらに、本発明に係る銀粉は、一次粒子の平均粒径が2.0μmを超え、3.0μm以下であり、該一次粒子の粒径の標準偏差値を平均粒径で除した粒径の相対標準偏差値が0.3以下である。
【0025】
また、上記相対標準偏差は、0.25以下であることが好ましい。」
(オ)「
【0075】
以上詳細に説明したが、上述した銀粉の製造方法によれば、微粒を含まない均一な粒径に制御した銀粉を製造することができる。具体的に、この製造方法により製造された銀粉は、走査型電子顕微鏡観察による一次粒子の平均粒径が2.0μmを超え、3.0μm以下であり、粒径の相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が0.3以下、好ましくは0.25以下となる。ここで、一次粒子とは、外見上から判断して、単位粒子と考えられるものを意味する。
【0076】
このような均一で粒度分布が狭い銀粉によれば、電子機器の配線層や電極等の形成に利用される樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペースト等のペースト用銀粉として好適に用いることができる。」
オ 甲5の記載事項
甲5には、「微小銀粒子粉末とその製造方法および該粉末を使用した銀ペーストとその利用方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「
【請求項1】
有機物からなる保護剤と、銀量に対して1~1000ppmの銅成分とが存在する銀溶液中で銀を還元し、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径(DTEM)が5~100nmの粒子を得る工程を備えた銀粒子の製造方法。
【請求項2】
銀量に対して1~1000ppm相当の銅成分と保護剤と還元剤を溶液中に混合する工程と、該溶液に銀溶液を添加して表面を有機物で被覆された銀粒子を析出させる工程とを備えることにより、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径(DTEM)が5~100nmの粒子を得る、銀粒子の製造方法。
【請求項3】
銀量に対して1~1000ppm相当の銅成分と
保護剤と還元剤を溶液中に混合する工程と、
銀溶液と前記銀溶液中の銀量に対して1~1000ppm相当の銅成分を混合する工程と、
前記2つの工程で得た混合溶液をさらに混合し、表面を有機物で被覆された銀粒子を析出させる工程とを備えることにより、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径(DTEM)が5~100nmの粒子を得る、銀粒子の製造方法。
【請求項4】
粒子表面を被覆する保護剤は炭素数が5~8のものを使用する、請求項1ないし3のいずれかに記載の銀粒子の製造方法。
【請求項5】
還元反応は40~80℃の条件下で行う、請求項1ないし4のいずれかに記載の銀粒子の製造方法。
【請求項6】
銀粒子の表面を被覆する有機物は、常温で液体であるときは沸点が250℃以下、常温で粉末であるときには、分解点あるいは昇華点が250℃以下のものを使用する、請求項1ないし5のいずれかに記載の銀粒子の製造方法。
【請求項7】
該銀粒子の表面を構成する有機物は、カルボキシル基もしくはヒドロキシル基を有する、請求項1ないし6のいずれかに記載の銀粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の銀粒子の製造方法によって得られた銀粒子を濾過、水洗、乾燥させて銀粒子凝集粉末を得、該凝集粉末を分散媒に分散させる工程を備えた、銀粒子分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法によって得られた分散液に対して、樹脂を添加する工程が付加された、銀粒子ペーストの製造方法。
【請求項10】
粒子表面が炭素数5~8の有機物からなる保護剤により被覆され、TEM写真から算出される平均粒子径(DTEM)が5~100nmであって、1~200ppmの銅を含有する銀粒子粉末。
【請求項11】
BET法により算出される比表面積は10~40m2/gの範囲にあるとともに、さらにはTEM写真から算出される粒子径の変動係数(CV値(%)=100×標準偏差/平均粒子径)が30%未満である。請求項10に記載の銀粉末。」
(イ)「
【0011】
そこで、本発明の目的は、粒子径の均整なナノ粒子の大量生産に適した方法を提供することにある。また、該方法により得られるナノ粒子粉末、及び該ナノ粒子を含んだ分散液ならびに該ナノ粒子を含んだペーストを提供することにある。」
(ウ)「
【0012】
本発明者らの検討によれば、銀量に対して1~1000ppmの銅および有機物からなる保護剤を添加した溶液で、銀を還元させることで上記目的が達成されうることがわかった。こうした操作を行うことで、透過型電子顕微鏡により計測される平均粒子径が、5~100nmである、銀ナノ粒子を得ることができるようになる。
・・・
【0018】
上述の反応を経て得られる物質は、粒子表面が炭素数5~8の有機物からなる保護剤により被覆され、透過電子顕微鏡写真(以下「TEM写真」または「TEM像」と呼ぶ。)から算出される平均粒子径が5~100nmであって、1~200ppmの銅を含有する粉末である。
【0019】
また、該粉末の比表面積は10~40m2/gの範囲にあり、さらにはTEM写真から算出される粒子径の変動係数(CV値(%)=100×標準偏差/平均粒子径)が30%未満である粉末である。」
カ 甲1に記載された発明
(ア)上記ア(イ)~(サ)、特に、上記ア(ク)~(サ)の参考例及び実施例6に着目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「表面が炭素原子数6の1価飽和脂肪酸であるヘキサン酸で被覆された略球状の銀粒子(レーザー回折法により得られる1次粒子の平均粒径(メディアン径D50)が0.02μmであり、有機物量(注:ヘキサン酸と微量の有機系還元剤の合計量である)が3質量%である)100部と、炭素原子数3で2価のカルボン酸であるマロン酸(関東化学株式会社製の試薬)100部を投入して25℃で5時間攪拌し、10分間静置して上澄み液をできるだけ取り除いてからエタノール100部を添加して25℃で10分間攪拌し、その後、同様に静置して上澄み液をできるだけ取り除いてから再度アセトンを添加して同様に銀粒子を洗浄し、これを3回繰返してから銀粒子を取り出し、25℃で16時間風乾することによって得られた、銀粒子の表面を被覆しているヘキサン酸(炭素原子数6)がマロン酸に置換され、表面の被覆剤量が1.5質量%である銀粒子(A)。」
キ 本件発明1と甲1発明の対比及び判断
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「略球状の銀粒子」は、その「表面がマロン酸で被覆され」ており、核に相当するものであるから、本件発明1の「銀核粒子」に相当する。
(イ)甲1発明の「マロン酸」は、HOOC-CH2-COOHで表される脂肪族ジカルボン酸の一種であるから、本件発明1の「脂肪族カルボン酸分子」に相当する。
また、甲1発明の「マロン酸」は、銀粒子を被覆するものであるため、甲1発明において、銀粒子の表面に配置されるマロン酸分子が複数存在していることは明らかである。
したがって、甲1発明の「銀粒子の表面を被覆している」「マロン酸」は、本件発明1の「銀核粒子の表面に」「配置された複数の脂肪族カルボン酸分子」に相当する。
(ウ)甲1発明の「銀粒子」は、その「表面がマロン酸で被覆され」ているところ、本件明細書の段落【0037】の「複数の脂肪族カルボン酸分子22は、銀核粒子21の表面に対して、親水基であるカルボキシ基を銀核粒子21側にして物理吸着し」との記載を踏まえると、マロン酸は、そのカルボキシ基が銀粒子と物理吸着しているといえる。
そうすると、甲1発明において、「銀粒子の表面がマロン酸で被覆され」ていることは、本件発明1において、「前記銀核粒子の表面に対して前記複数の脂肪族カルボン酸分子が物理吸着またはイオン吸着している」ことに相当する。
(エ)したがって、両者は、以下の点で一致する。
<一致点>
「銀核粒子と、
当該銀核粒子の表面に配置された複数の脂肪族カルボン酸分子とを含み、
前記銀核粒子の表面に対して前記複数の脂肪族カルボン酸分子が物理吸着またはイオン吸着している、
被覆銀粒子。」
(オ)また、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、銀核粒子の表面に「1nm2当り2.5~5.2分子の密度で」配置された複数の脂肪族カルボン酸分子とを含むのに対し、甲1発明では、銀核粒子の表面に配置された複数の脂肪族カルボン酸分子の「1nm2当り」の「分子の密度」が不明である点。
<相違点2>
本件発明1では、銀核粒子の「平均一次粒子径が0.02μm~0.5μm」であるのに対し、甲1発明では、銀粒子の「レーザー回折法により得られる1次粒子の平均粒径(メディアン径D50)が0.02μm」である点。
(カ)以下、相違点1について検討する。
a 本件明細書では、銀核粒子の表面に配置される脂肪族カルボン酸分子の密度の計算方法について、以下の事項が記載されている。
「
【0022】
被覆銀核粒子1gに含まれる脂肪族カルボン酸分子の分子数は、下記式(a)で表される。
[脂肪族カルボン酸分子の分子数]=Macid/(Mw/NA) ・・・(a)
ここで、Macidは被覆銀粒子1gに含まれる脂肪族カルボン酸分子量(g)であり、Mwは脂肪族カルボン酸分子の分子量(g/mol)であり、NAはアボガドロ定数である。
【0023】
銀核粒子の形状を球状と近似して、被覆銀粒子の質量から有機成分量を差し引いて、銀核粒子量MAg(g)を求める。
銀核粒子量MAg(g)から、被覆銀粒子1g中の銀核粒子数は、下式(b)で表される。
[被覆銀粒子1g中の銀核粒子数]=MAg/[(4πr3/3)×d×10-21] ・・・(b)
ここで、MAgは被覆銀粒子1gに含まれる銀核粒子量(g)であり、rはSEM画像観察により算出した銀核粒子の一次粒子径の半径(nm)であり、dは銀の密度である(d=10.49g/cm3))。
【0024】
被覆銀粒子1gに含まれる銀核粒子の表面積は式(b)から、下式(c)で表される。
[被覆銀粒子1gに含まれる銀核粒子の表面積(nm2)]=[銀核粒子数]×4πr2・・・(c)
【0025】
脂肪族カルボン酸分子による銀核粒子の被覆密度(分子/nm2)は、(a)式および(c)式を用いて、下記式(d)で算出される。
[被覆密度(分子/nm2)]=[脂肪族カルボン酸分子の分子数]/[銀核粒子表面積] ・・・(d)」
b 上記aから、銀核粒子の表面に配置される脂肪族カルボン酸分子の密度(分子/nm2)は、以下のように求められる。
(a)被覆銀粒子1gに含まれる脂肪族カルボン酸分子量Macidを求め、Macid、脂肪族カルボン酸分子の分子量Mw、アボガドロ定数NAを用いて、上式(a)から脂肪族カルボン酸分子の分子数を求める。
(b)銀核粒子の形状を球状と近似して、被覆銀粒子の質量から有機成分量を差し引いて、銀核粒子量MAgを求める。
(c)SEM画像観察により算出した銀核粒子の一次粒子径の半径rを求める。
(d)銀の密度d(=10.49g/cm3)、上記(b)で求めたMAg、上記(c)で求めたrを用いて、上式(b)から被覆銀粒子1g中の銀核粒子数を求める。
(e)上記(d)で求めた被覆銀粒子1g中の銀核粒子数、上記(c)で求めたrを用いて、上式(c)から被覆銀粒子1gに含まれる銀核粒子の表面積(nm2)を求める。
(f)上記(a)で求めた脂肪族カルボン酸分子の分子数、上記(e)で求めた銀核粒子の表面積を用いて、上式(d)から、脂肪族カルボン酸分子による銀核粒子の被覆密度(分子/nm2)を求める。
c 上記b(c)~(e)から、銀核粒子の表面に配置される脂肪族カルボン酸分子の密度(分子/nm2)の計算には、SEM画像観察により算出した銀核粒子の一次粒子径の半径rを求めることが必要であり、本件発明1の「平均一次粒子径」を求めることが必要であることが理解される。
d ここで、本件発明1の「平均一次粒子径」について、本件明細書の段落【0015】の記載を踏まえると、本件発明1の「平均一次粒子径」とは、SEM観察により任意の20個の粒子を抽出し、抽出した粒子の一次粒子径の算術平均を求めて得られるもの(DSEM)であるといえる。
e 一方、甲1発明では、「1次粒子の平均粒径」は、レーザー回折法により求めたメディアン径D50である。
f ここで、平均粒子径とメディアン径D50について、内藤牧男・牧野尚夫編著、「初歩から学ぶ粉技術」、第1版、森北出版株式会社、2013年10月15日(第2刷)、p.12-13、には、以下の事項が記載されている。
(a)「
[図:0001388410000004.jpg]
」(12頁8~28行)
(b)「
[図:0001388410000005.jpg]
」(13頁2~8行)
g 上記f(a)~(b)から、平均粒子径は、同じ粉体であってもどの定義で求めた平均粒子径かによって値が異なること、及びメディアン径D50は、粒径に分布のある粉体の代表値であって、平均粒子径とは異なるものであることが理解される。
h そうすると、甲1発明の「レーザー回折法により得られる1次粒子の平均粒径(メディアン径D50)」は、本件発明1の「平均一次粒子径」とは異なるものであり、また、両者の対応関係も不明であるから、甲1発明の「レーザー回折法により得られる1次粒子の平均粒径(メディアン径D50)」の値(0.02μm)から、本件発明1の「平均一次粒子径」を求めることはできない。
i さらに、「銀粒子の表面を被覆しているヘキサン酸(炭素原子数6)がマロン酸に置換され、表面の被覆剤量が1.5質量%である銀粒子(A)」である甲1発明の「被覆剤」には、置換前のヘキサン酸とともに含まれていた「微量の有機系還元剤」や、その他の不純物も含まれている可能性があるため、1.5質量%の前記「被覆剤」は、そのすべてがマロン酸かどうか不明である。
そうすると、甲1発明において、「被覆剤量が1.5質量%である」からといって、そこから直ちに、被覆銀粒子1gに含まれる脂肪族カルボン酸分子量Macidが0.015gであるともいえない。
j したがって、甲1発明では、上記「平均一次粒子径」や上記Macidの値を求めることができず、上記bの計算ができないため、銀核粒子の表面に配置された複数の脂肪族カルボン酸分子の「1nm2当り」の「分子の密度」の具体的な値は不明である。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点である。
k そして、本件明細書の段落【0008】、【0026】、【0049】に記載されているように、本件発明の解決しようとする課題は、「耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子を提供すること」であり、特に、銀核粒子の表面に配置された複数の脂肪族カルボン酸分子の1nm2当りの分子密度を規定する目的は、「被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果」を「効果的に発現」させることである。
l 一方、甲1発明は、上記ア(ウ)に記載されているように、加熱すると銀粒子が比較的低温度で容易に焼結して接着強さ、硬さ、電気伝導性および熱伝導性が優れた固形状銀となるペースト状銀粒子組成物を提供することを解決しようとする課題とするものであり、耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子を提供すること、特に、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果を目的とすることについては記載されていないから、甲1発明において、「銀核粒子の表面に」「複数の脂肪族カルボン酸分子」を「1nm2当り2.5~5.2分子の密度で配置」する積極的な動機は認められない。
m 甲2は、上記イ(ア)~(キ)に記載されているように、金属核から有機物を脱離させて金属核を均一に焼結させる温度を大幅に低減させるか、または無機金属化合物を含む中心部から有機物を脱離させて該中心部を金属化させる温度を大幅に低減させて、はんだによる接合の代替に応用できるようにした複合型ナノ粒子及びその製造方法を提案することを解決しようとする課題とするもので、中心部を金属成分とし、その周りを、熱脱離開始温度が140℃以上で、190℃未満の有機物で取囲むことで前記課題の解決を図るものである。
そして、甲2には、耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被銀粒子を提供すること、特に、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果を目的とすることについては記載されていない。
そのため、甲2には、「銀核粒子の表面に」「複数の脂肪族カルボン酸分子」を「1nm2当り2.5~5.2分子の密度で配置」する積極的な動機は認められない。
n 甲3は、上記ウ(ア)~(オ)に記載されているように、接合後には耐熱性に優れ、接合時には樹脂を含有した導電性接合材料と比較して接合界面での金属結合をより低温で実現可能であり、接合プロセスにおいて加圧を必須としない無加圧での接合が可能な導電性接合材料及びそれを用いた接合方法、並びにそれによって接合された半導体装置を提供することを解決しようとする課題とするものであり、粒径が0.1~100μm(マイクロ粒子)の銀粉(銀粒子)と酸化銀粉(酸化銀粒子)と炭素数30以下で構成される有機物からなる分散剤を用い、接合時の加熱において、銀粒子と酸化銀粒子を焼結させて金属的な接合を行うことで、接合時に分散剤と酸化銀が150℃以下の温度で酸化還元反応を起こし、銀粉の焼結を促進させて、前記課題の解決を図るものである。
そして、甲3には、耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子を提供すること、特に、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果を目的とすることについては記載されていない。
そのため、甲3には、「銀核粒子の表面に」「複数の脂肪族カルボン酸分子」を「1nm2当り2.5~5.2分子の密度で配置」する積極的な動機は認められない。
o 甲4は、上記エ(ア)~(オ)に記載されているように、均一性を有し、所望の粒径範囲に制御された銀粉、及び、そのような銀粉を高い生産性でもって安定して製造することができる銀粉の製造方法を提供することを解決しようとする課題とするものであり、核を成長させる銀溶液に含まれる固形粒子を低減し、核の銀量に対する核を成長させる銀溶液中の銀量の比率を制御することで前記課題の解決を図るものである。
そして、甲4には、耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子を提供すること、特に、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果を目的とすることについては記載されていない。
そのため、甲4には、「銀核粒子の表面に」「複数の脂肪族カルボン酸分子」を「1nm2当り2.5~5.2分子の密度で配置」する積極的な動機は認められない。
p 甲5は、上記オ(ア)~(ウ)に記載されているように、粒子径の均整なナノ粒子の大量生産に適した方法を提供することにある。また、該方法により得られるナノ粒子粉末、及び該ナノ粒子を含んだ分散液ならびに該ナノ粒子を含んだペーストを提供することを解決しようとする課題とするものであり、銀量に対して1~1000ppmの銅および有機物からなる保護剤を添加した溶液で、銀を還元させることで前記課題の解決を図るものである。
そして、甲5には、耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子を提供すること、特に、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果を目的とすることについては記載されていない。
そのため、甲5には、「銀核粒子の表面に」「複数の脂肪族カルボン酸分子」を「1nm2当り2.5~5.2分子の密度で配置」する積極的な動機は認められない。
q したがって、「銀核粒子の表面に」「複数の脂肪族カルボン酸分子」を「1nm2当り2.5~5.2分子の密度で配置」する動機がない甲1発明、及び甲2~甲5に記載された事項からでは、「当該銀核粒子の表面に1nm2当り2.5~5.2分子の密度で配置された複数の脂肪族カルボン酸分子とを含み」との構成を実現するということを、当業者が容易に想到し得るということはできない。
よって、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明、及び甲2~甲5の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(キ)以上から、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び甲2~甲5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ク 本件発明2~4、11~13と甲1発明の対比及び判断
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1をさらに限定したものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1において、上記キ(カ)で判断したのと同様の理由によって、甲1発明、及び甲2~甲5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明11~13は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1にさらに構成を追加したものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1において、上記キ(カ)で判断したのと同様の理由によって、甲1発明、及び甲2~甲5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ケ 申立理由1の小括
以上のとおりであるから、本件発明1~4、11~13は、甲1に記載された発明、及び甲2~甲5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないものであるから、取り消すことはできない。
(2)申立理由2について
ア 発明が解決しようとする課題
(ア)本件明細書の発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題について、以下の事項が記載されている。
a 「
【0004】
貴金属である金および銀に比して、銅は比較的酸化されやすく、表面に酸化皮膜が形成されやすい傾向がある。
本発明者らは先に、耐酸化性に優れた被覆銅粒子に関する発明を出願している。
本発明者らは、特許文献1において、銅核粒子と、長鎖脂肪族アミンを主成分とする被覆層とを含む被覆銅粒子とその製造方法を開示している(請求項1、請求項4等)。
本発明者らはまた、特許文献2において、脂肪族カルボン酸で表面が被覆された被覆銅粒子とその製造方法を開示している(請求項1)。
【0005】
特許文献1、2に記載の被覆銅粒子は、表面が有機物で被覆されていることから、耐酸化性、粒度安定性、および媒体中での粒子分散性に優れる。また、有機物は銅核粒子に対して単に吸着(物理吸着またはイオン吸着等)しているので、焼結時には、銅核粒子から容易に脱離することができる。そのため、特許文献1、2に記載の被覆銅粒子は、焼結性にも優れる。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2は、銅粒子に関する発明であり、銀粒子への適用について開示していない。銀粒子は耐酸化性に優れるが、硫化ガス等に対して腐食性を有する。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子を提供することを目的とするものである。」
b 「
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子を提供することができる。」
(イ)以下、本件発明の解決しようとする課題について検討する。
a 上記(ア)a~bから、本件発明の解決しようとする課題は、耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子を提供することであると認められる。
イ 課題を解決するための手段
(ア)本件明細書の発明の詳細な説明には、上記ア(イ)の課題を解決するための手段に関し、以下の事項が記載されている。
a 「
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の被覆銀粒子は、銀核粒子と、当該銀核粒子の表面に1nm2当り2.5~5.2分子の密度で配置された複数の脂肪族カルボン酸分子とを含むものである。
【0010】
本発明の被覆銀粒子において、前記脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数が5~26であることが好ましい。
任意の20個の粒子の走査型電子顕微鏡観察により求められる一次粒子径の算術平均値をDSEMとし、一次粒子径の標準偏差をSDとしたとき、DSEMが0.02~5.0μmであり、一般式SD/DSEMで定義される粒子径変動率が0.01~0.5であることが好ましい。」
b 「
【0035】
図1では、金属粉10は、平均一次粒子径の比較的大きい第1の金属粉11と、平均一次粒子径の比較的小さい第2の金属粉12とを含む場合について、図示してある。
平均一次粒子径の比較的大きい第1の金属粉11の平均一次粒子径は特に制限されず、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~50μmである。
平均一次粒子径の比較的小さい第2の金属粉12の平均一次粒子径は特に制限されず、好ましくは0.2~10μm、より好ましくは0.2~5μmである。
【0036】
本実施形態の導電性組成物1は、焼結剤として作用する被覆銀粒子20を含む。
図2に示すように、被覆銀粒子20は、金属粉10よりも粒子径の小さい銀核粒子21と、銀核粒子21の表面を被覆する複数の脂肪族カルボン酸分子22とを含む。
【0037】
本実施形態において、複数の脂肪族カルボン酸分子22は、銀核粒子21の表面に対して吸着している。吸着の態様としては特に制限されず、物理吸着およびイオン吸着等が挙げられる。
一態様において、複数の脂肪族カルボン酸分子22は、銀核粒子21の表面に対して、親水基であるカルボキシ基を銀核粒子21側にして物理吸着し、LB膜(Langmuir-Blodgett膜)のような単分子膜を形成することができる。
例えば、被覆銀粒子のTG-DTA測定において、被覆材料である脂肪族カルボン酸がその沸点以下で揮発する場合、被覆の態様が物理吸着等の吸着であると推定される。
【0038】
銀核粒子21が複数の脂肪族カルボン酸分子22で被覆された被覆銀粒子20は、最表面に脂肪族カルボン酸分子22の脂肪族基(疎水基)が存在する。
一般的に、銀粒子は耐酸化性に優れるが、硫化ガス等に対して腐食性を有する。
表面が脂肪族カルボン酸分子22で被覆された被覆銀粒子20は、耐酸化性に優れ、かつ、硫化ガス等に対する耐腐食性に優れる。
被覆銀粒子20の疎水基同士が相互作用して、被覆銀粒子20同士の凝集が抑制される。そのため、上記構造の被覆銀粒子20は、製造後の粒度安定性および媒体中での粒子分散性に優れる。
脂肪族カルボン酸分子22は、銀核粒子21に対して単に吸着(物理吸着またはイオン吸着等)しているので、焼結時には、銀核粒子21から容易に脱離することができる。したがって、被覆銀粒子20は焼結性にも優れる。
上記構造の被覆銀粒子20を含む本実施形態の導電性組成物1は、金属粉10および焼結剤として作用する被覆銀粒子20の粒子分散性と焼結性に優れる。」
c 「
【0043】
(脂肪族カルボン酸分子)
銀核粒子の表面を被覆する脂肪族カルボン酸分子の種類は、特に制限されない。
脂肪族カルボン酸分子に含まれるカルボキシ基の数は特に制限されず、好ましくは1~2、より好ましくは1である。
脂肪族カルボン酸分子は、飽和脂肪族カルボン酸分子であっても、不飽和脂肪族カルボン酸分子であってもよい。脂肪族カルボン酸分子が不飽和脂肪族カルボン酸分子である場合、不飽和脂肪族基に含まれる不飽和結合の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。
脂肪族カルボン酸分子に含まれる脂肪族基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0044】
粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造でき、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現することから、脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数は、好ましくは5以上である。
以下、脂肪族基の炭素数が5以上の脂肪族カルボン酸は、「長鎖カルボン酸」ともいう。
【0045】
脂肪族基の炭素数が5以上であると、被覆銀粒子の粒子径変動率が小さくなる傾向がある。一般的に、炭素鎖の長さは、会合力を左右するファンデルワールス力の大きさと相関性が高い。炭素鎖の長いカルボン酸は、会合力が強く、後記製造方法において、ミクロ反応場であるWater-in-oil Emulsion類似の相安定化に寄与することができる。これによって、粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造できると考えられる。
【0046】
粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造でき、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現し、かつ、焼結時の熱分解性が良好となることから、脂肪族基の炭素数は、好ましくは5~26、より好ましくは5~20、さらに好ましくは5~17、特に好ましくは7~17、最も好ましくは9~17である。
【0047】
脂肪族カルボン酸分子の沸点は、後記製造方法における、脂肪族カルボン酸銀錯体の熱分解温度よりも高いことが好ましい。
具体的には、脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。脂肪族カルボン酸分子の焼結時の熱分解性が良好となることから、脂肪族カルボン酸分子の沸点は、好ましくは400℃以下である。
【0048】
脂肪族カルボン酸分子としては、
オレイン酸およびリノール酸等の不飽和脂肪族カルボン酸分子;
および、
ステアリン酸、ヘプタデカン酸、ラウリン酸、およびオクタン酸等の飽和脂肪族カルボン酸分子が挙げられる。
【0049】
被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現することから、銀核粒子の表面に対する複数の脂肪族カルボン酸分子の被覆密度は、2.5~5.2分子/nm2、好ましくは3.0~5.2分子/nm2、より好ましくは3.5~5.2分子/nm2である。」
d 「
【実施例】
【0109】
以下、本発明に係る製造例、実施例および比較例について、説明する。
【0110】
[製造例1]「シュウ酸銀の製造」
攪拌機、温度計、および還流冷却管を備えた1000mLガラス製三ツ口フラスコをオイルバス内に設置した。このフラスコ内に、シュウ酸(関東化学社製)73gとイオン交換水200gとを入れ、攪拌混合した。この混合溶液に対して、フラスコ内容物を均一に攪拌しながら、硝酸銀(関東化学社製)200gをイオン交換水200gに溶かした硝酸銀水溶液を少しずつ滴下した。反応液を攪拌混合しながらオイルバスを用いて反応液を40℃に加熱し、この反応温度での加熱攪拌を継続した。反応開始直後から白色の結晶が徐々に析出した。滴下終了時から3時間後に反応を終了し、反応液を室温まで自然冷却した。得られた析出物をろ過し、イオン交換水1000mLで洗浄した。得られたろ過物は白色固体であった。最後に、ろ過物を温度40℃以下/圧力3kPa以下の条件で減圧乾燥(真空乾燥)して、白色のシュウ酸銀167gを得た。
得られたシュウ酸銀について、PXRD分析による結晶構造の同定を実施して、原料の消失と目的物の生成を確認した。
【0111】
[実施例1-1]「被覆銀粒子(AgP1)の製造」
攪拌機、温度計、および還流冷却管を備えた300mLガラス製三ツ口フラスコをオイルバス内に設置した。
上記フラスコ内に、
製造例1で得られたシュウ酸銀30gと、
ラウリン酸(東京化成社製)4gと、
媒体(補助媒体)としてのトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製、沸点:242℃、SP値:9.20)10gと、
媒体(主媒体)としての石油系炭化水素(C9アルキルシクロヘキサン混合物)(ゴードー社製「スワクリーン150」、沸点:149℃、SP値:7.99)54gとを入れ、
攪拌混合した。
【0112】
反応液を攪拌混合しながらオイルバスを用いて反応液を40℃に加熱した。この反応温度での加熱攪拌を継続しながら、反応液に対して錯化剤としての3-アミノ-1-プロパノール(東京化成社製)53gをゆっくり滴下した。滴下終了後、攪拌しながら、約1℃/minの昇温速度で液温度が85℃付近になるまで加熱し、さらにこの温度での加熱攪拌を続けた。滴下終了時から3時間後にオイルバスの加熱を停止して反応を終了し、反応液を室温まで自然冷却した。
【0113】
室温まで冷却した反応液に対して、メタノール(関東化学社製)200mLを添加し、混合した。この混合溶液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。
上記沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)100mLとアセトン(関東化学社製)100mLとを添加し、混合した。この混合溶液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。これらの操作(メタノールおよびアセトンの添加とデカンテーション)をさらにもう一回繰り返した。
上記沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)200mLを添加し、混合した。この混合溶液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。
【0114】
得られた沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)100mLとイソ酪酸3-ヒドロキシー2,2,4―トリメチルペンチル1.7gとを添加し、混合した。これをナスフラスコに入れ、回転式エバポレータに設置し、内容物を温度40℃/圧力1kPa以下の条件で減圧乾燥(真空乾燥)した。減圧乾燥(真空乾燥)後、室温まで自然冷却した後、ナスフラスコ内を窒素置換しながら減圧解除した。
以上のようにして、18gの紫色の被覆銀粒子(AgP1)を得た。
【0115】
[実施例1-2]「被覆銀粒子(AgP2)の製造」
反応温度(3-アミノ-1-プロパノールを添加した後の加熱温度)を100℃とした以外は実施例1-1と同様にして、18gの紫色の被覆銀粒子(AgP2)を得た。
【0116】
[評価]
実施例1-1、1-2で得られた被覆銀粒子(AgP1)、(AgP2)について、以下の評価を実施した。
【0117】
(粉体X線回折分析(PXRD分析))
PXRD分析による結晶構造の同定を実施して、原料の消失と銀由来のピークを確認した。
【0118】
(ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS分析))
GC-MS分析により有機被覆物を同定したところ、ラウリン酸であることが確認された。
【0119】
(熱重量・示差熱分析(TG-DTA分析))
TG-DTA分析を実施して、有機被覆量を測定した。180℃程度から350℃程度の範囲(ラウリン酸の沸点付近)の重量減少率が、被覆層蒸発分(有機被覆量)に相当する。有機被覆量は、1.0~1.3質量%の範囲内であった。
実施例1-1の被覆銀粒子(AgP1)の有機被覆量は、1.2質量%であった。
実施例1-2の被覆銀粒子(AgP2)の有機被覆量は、1.3質量%であった。
実施例1-1、1-2において、TG-DTA測定結果から、ラウリン酸が物理吸着していることが示唆された。
代表として、実施例1-1の被覆銀粒子(AgP1)のTG曲線を図4に示しておく。
【0120】
(脂肪族カルボン酸の被覆密度の測定)
[課題を解決するための手段]の項に記載の方法にて、銀核粒子の表面を被覆している脂肪族カルボン酸(本実施例ではラウリン酸)の被覆密度を求めたところ、2.5~5.2分子/nm2の範囲内であった。
実施例1-1の被覆銀粒子(AgP1)の被覆密度は、5.1分子/nm2であった。
実施例1-2の被覆銀粒子(AgP2)の被覆密度は、4.1分子/nm2であった。
『化学と教育 40巻2号(1992年)ステアリン酸分子の断面積を求める-実験値と計算値-』では、ステアリン酸分子のVan der waals半径から最小面積が算出されており、その計算値から換算される飽和被覆面積理論値は約5.00分子/nm2である。この理論値から、被覆銀粒子(AgP1)、(AgP2)は比較的高密度にラウリン酸が銀核粒子の表面に吸着していることが推測された。
【0121】
(SEM観察)
SEM観察を実施して、粒子形状、平均一次粒子径DSEM、および粒子径変動率を評価した。
被覆銀粒子(AgP1)、(AgP2)のSEM写真を図5A、図5Bに示す。
粒子形状は球状であり、平均一次粒子径DSEMは0.02~5.0μmの範囲であった。
実施例1-1の被覆銀粒子(AgP1)の平均一次粒子径は、81.5nmであった。
実施例1-2の被覆銀粒子(AgP2)の平均一次粒子径は、58.1nmであった。
粒子径変動率は0.01~0.5の範囲内であり、実施例1-1、1-2では粒子径の揃った被覆銀粒子が得られた。」
e 「
【図2】
[図:0001388410000006.jpg]
」
(イ)以下、課題を解決するための手段について検討する。
a 「優れた耐腐食性」について
上記(ア)b、eにおいて指摘しているように、銀核粒子の最表面を覆う複数の脂肪族カルボン酸分子は、銀核粒子の表面に対して、親水基であるカルボキシ基を銀核粒子側にして物理吸着し、LB膜(Langmuir-Blodgett膜)のような単分子膜を形成する。
そのため、上記単分子膜が、硫化ガス等の外部環境から、銀核粒子を保護し、その影響を低減する効果を有すること、すなわち、上記単分子膜が存在しない場合と比べ、硫化ガス等に対する銀核粒子の腐食性を抑制できる(優れた耐腐食性を発揮する)ことは、当業者であれば理解できる。
そうすると、「優れた耐腐食性」を生じるのに必要な構成は、「銀核粒子の最表面を」「複数の脂肪族カルボン酸分子」で「覆う」ことであると認められる。
b 「優れた」「粒度安定性」について
上記(ア)b、eにおいて指摘しているように、銀核粒子の最表面を覆う複数の脂肪族カルボン酸分子は、銀核粒子の表面に対して、親水基であるカルボキシ基を銀核粒子側にして物理吸着し、LB膜のような単分子膜を形成する。
そのため、上記単分子膜が、銀核粒子同士の接触及び凝集を阻害する効果を有していることは、当業者であれば、理解できる。
そうすると、「優れた」「粒度安定性」を生じるのに必要な構成は、「銀核粒子の最表面を」「複数の脂肪族カルボン酸分子」で「覆う」ことであると認められる。
c 「優れた」「媒体中での粒子分散性」について
上記(ア)b、eにおいて指摘しているように、銀核粒子の最表面を覆う複数の脂肪族カルボン酸分子は、銀核粒子の表面に対して、親水基であるカルボキシ基を銀核粒子側にして、反対側を脂肪族基(疎水基)にして物理吸着し、LB膜(Langmuir-Blodgett膜)のような単分子膜を形成する。
ここで、疎水基(親油基)が、非水溶媒に溶ける(非水溶媒中に分散する)ことは技術常識であるから、当該技術常識を勘案すれば、上記単分子膜で覆われた銀核粒子が、上記(ア)dに記載された「石油系炭化水素」溶媒のような非水溶媒に分散することは、当業者であれば理解できる。
そうすると、「優れた」「媒体中での粒子分散性」を生じるのに必要な構成は、「銀核粒子の最表面を」「複数の脂肪族カルボン酸分子」で「覆う」ことであると認められる。
d 「優れた」「焼結性」について
上記(ア)bにおいて指摘しているように、脂肪族カルボン酸分子は、銀核粒子に対して単に吸着(物理吸着またはイオン吸着等)している。
ここで、単なる物理吸着やイオン吸着は、化学結合の場合と比べ、結合力が弱いことは技術常識である。
そのため、当該技術常識を勘案すれば、銀核粒子に対し単に吸着(物理吸着またはイオン吸着等)している脂肪族カルボン酸分子が、銀核粒子に対し化学結合する有機物と比べ、離脱しやすくなることは、当業者であれば理解できる。
そして、銀核粒子の焼結を阻害しているのが、銀核粒子を被覆する有機物であるから、銀核粒子21を被覆する有機物を離脱させれば、焼結が進む(焼結性が向上する)ことも、当業者であれば理解できる。
そうすると、「優れた」「焼結性」を生じるのに必要な構成は、「銀核粒子の最表面を」「複数の脂肪族カルボン酸分子」が「物理吸着またはイオン吸着」するように「覆う」ことであると認められる。
e 脂肪族基の炭素数が5以上の直鎖状の脂肪族カルボン酸を適用することについて
上記(ア)cには、「銀核粒子の表面を被覆する脂肪族カルボン酸分子の種類は、特に制限されない」、「脂肪族カルボン酸分子に含まれる脂肪族基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、」と記載されている。
また、上記(ア)cには、「粒子径の揃った被覆銀粒子を効率良く製造でき、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果が効果的に発現することから、脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数は、好ましくは5以上である。」とも記載されている。
これらの記載から、脂肪族カルボン酸分子の脂肪族基の炭素数を5以上とすることも、脂肪族カルボン酸分子を直鎖状とすることも、粒子径の揃った被覆銀粒子製造の効率性を向上させたり、被覆銀粒子の耐腐食性と粒子分散性の向上効果を改善したりするための「好ましい」態様であるに過ぎず、上記ア(イ)の課題である、「耐腐食性、粒度安定性、媒体中での粒子分散性、および焼結性に優れた被覆銀粒子」を提供できるか否かという観点において、本質的に必須な構成であるとまではいえない。
f 実施例について
上記(ア)dの実施例では、被覆銀粒子(AgP1)及び(AgP2)に、ラウリン酸が高密度で吸着していることが確認されており、「銀核粒子の最表面」が「複数の脂肪族カルボン酸分子」によって「覆」われることが実験的に確認されている。
g 以上をまとめると、上記ア(イ)の課題を解決するのに必要な構成は、「銀核粒子の最表面を」「複数の脂肪族カルボン酸分子」が「物理吸着またはイオン吸着」するように「覆う」ことであると認められる。
ウ 本件発明の検討
(ア)本件発明1~13は、上記第2の特許請求の範囲の記載を参照すれば明らかなように、
a 「当該銀核粒子の表面に1nm2当り2.5~5.2分子の密度で配置された複数の脂肪族カルボン酸分子とを含み」、
b 「前記銀核粒子の表面に対して前記複数の脂肪族カルボン酸分子が物理吸着またはイオン吸着している」、
との発明特定事項を有している。
(イ)そうすると、本件発明1~13は、「銀核粒子の最表面を」「複数の脂肪族カルボン酸分子」が「物理吸着またはイオン吸着」するように「覆う」ことが特定されているといえる。
(ウ)したがって、上記イの検討から、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明が、上記ア(イ)の課題を解決するのに必要な構成を全て有していると認識できる。
(エ)よって、本件発明1~13は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
エ 申立理由2の小括
以上から、請求項1~13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立てに係る申立理由によっては、本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700225