特許異議申立
2022-700002
学習モデル生成方法、学習モデル生成装置、高炉の溶銑温度制御方法、高炉の溶銑温度制御ガイダンス方法、及び溶銑の製造方法
- 審判番号
- 2022-700002
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-133538
- 登録番号
- 6897723
- 請求日
- 2022年01月05日
- 審決日
- 2023年03月22日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】上原 洋子
- 審判長/審判官
- 審判長 見目 省二
- 審判官 大山 健
- 審判官 中里 翔平
- 分類
- P1651.121-YAA(G05B) / P1651.537-YAA(G05B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第7項、特許法第126条第6項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6897723号発明「学習モデル生成方法、学習モデル生成装置、高炉の溶銑温度制御方法、高炉の溶銑温度制御ガイダンス方法、及び溶銑の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6897723号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9、11~13〕、10について訂正することを認める。
特許第6897723号の請求項1、2、4~7、9~13に係る特許を維持する。
特許第6897723号の請求項3及び8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6897723号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願(特願2019-133538号)は、令和元年7月19日に出願したものであって、同3年6月14日にその特許権の設定登録がされ、同年7月7日に特許掲載公報が発行された。
そして、その後の本件特許異議の申立ての経緯は、概略次のとおりである。
令和4年 1月 5日 : 特許異議申立人上原洋子(以下「申立人」という。)による請求項1~13(全請求項)に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 3月30日付け : 取消理由通知
同年 6月 3日 : 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
同年 8月 5日 : 申立人による意見書の提出
同年 9月28日付け : 取消理由通知(決定の予告)
同年12月 5日 : 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出(この訂正請求による訂正を以下「本件訂正」という。)
令和5年 2月 9日 : 申立人による意見書の提出
なお、令和4年6月3日提出の訂正請求については、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~13を、以下のとおりに訂正することを請求する。
(1)請求項1~9、11~13に係る訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記画像データの履歴データが、各履歴データの数値に対して色及び/又は色の濃淡を対応付けて得られる画像である」と記載されているのを、「前記画像データの履歴データが、各履歴データの数値に対して色及び/又は色の濃淡を対応付けて得られる画像であり、前記プロセスは操作量の変更に対する応答の時定数が長い高炉プロセスであり、前記観測量には溶銑温度、羽口埋込温度、及びコークス比のうちの少なくとも一つが含まれ、前記操作量は高炉の溶銑温度を制御する操作量であり、
前記入カデータは、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある画像データであり、
前記予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間であり、
オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用する」(下線部は訂正箇所について特許権者が付したものである。以下同様。)と訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4~7、9、11~13も同様に訂正する)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4が、「請求項1~3のうち、いずれか1項に記載の学習モデル生成方法。」と、請求項1~3を引用するものであったのを、「請求項1又は2に記載の学習モデル生成方法。」に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5が、「請求項1~4のうち、いずれか1項に記載の学習モデル生成方法。」と、請求項1~4のうち、いずれか1項を引用するものであったのを、「請求項1、2、4のうち、いずれか1項に記載の学習モデル生成方法。」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6が、「請求項1~5のうち、いずれか1項に記載の学習モデル生成方法。」と、請求項1~5のうち、いずれか1項を引用するものであったのを、「請求項1、2、4、5のうち、いずれか1項に記載の学習モデル生成方法。」に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9が、「請求項8に記載の学習モデル生成方法。」と、請求項8を引用するものであったのを、「請求項1に記載の学習モデル生成方法。」に訂正する。
ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11が、「請求項8又は9に記載の学習モデル生成方法によって生成された・・・高炉の溶銑温度制御方法。」と、請求項8又は9を引用するものであったのを、「請求項1又は9に記載の学習モデル生成方法によって生成された・・・高炉の溶銑温度制御方法。」に訂正する。
ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項12が、「請求項8又は9に記載の学習モデル生成方法によって生成された・・・高炉の溶銑温度制御ガイダンス方法。」と、請求項8又は9を引用するものであったのを、「請求項1又は9に記載の学習モデル生成方法によって生成された・・・高炉の溶銑温度制御ガイダンス方法。」に訂正する。
なお、本件訂正前の請求項1~9、11~13は、その請求項2~9、11~13が、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~9、11~13〕について請求されている。
(2)請求項10に係る訂正
コ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に、「前記画像データの履歴データが、各履歴データの数値に対して色及び/又は色の濃淡を対応付けて得られる画像である」と記載されているのを、「前記画像データの履歴データが、各履歴データの数値に対して色及び/又は色の濃淡を対応付けて得られる画像であり、前記プロセスは操作量の変更に対する応答の時定数が長い高炉プロセスであり、前記観測量には溶銑温度、羽口埋込温度、及びコークス比のうちの少なくとも一つが含まれ、前記操作量は高炉の溶銑温度を制御する操作量であり、
前記入カデータは、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある画像データであり、
前記予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間であり、
オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用する」と訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
請求項1~9、11~13、及び請求項10についての訂正(訂正事項1~訂正事項10)について、訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否を以下に検討する。
なお、本件においては、本件訂正前の請求項1~13について特許異議申立てがされているので、訂正事項1~訂正事項10に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(1)請求項1~9、11~13に係る訂正
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に、「前記プロセスは操作量の変更に対する応答の時定数が長い高炉プロセスであり、前記観測量には溶銑温度、羽口埋込温度、及びコークス比のうちの少なくとも一つが含まれ、前記操作量は高炉の溶銑温度を制御する操作量であり、
前記入カデータは、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある画像データであり、
前記予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間であり、
オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用する」との事項を付加して、「プロセス」、及び「プロセス」の「観測量」と「操作量」についての発明特定事項を減縮するとともに、「学習」についての発明特定事項を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、「プロセス」、及び「プロセス」の「観測量」と「操作量」についての発明特定事項を減縮するとともに、「学習」についての発明特定事項を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1における「前記プロセスは高炉プロセスであり、前記観測量には溶銑温度、羽口埋込温度、及びコークス比のうちの少なくとも一つが含まれ、前記操作量は高炉の溶銑温度を制御する操作量」であるとの事項は、本件訂正前の請求項8に記載されているとともに、「高炉プロセス」が、「操作量の変更に対する応答の時定数が長い」ものであることについては、明細書の段落【0002】に、「高炉プロセスでは、コークスのガス化や鉱石の還元及び溶解等の種々の反応が生じている。また、炉内に固体が充填された状態で操業が行われるため、プロセス全体の熱容量が大きく、アクションに対する応答の時定数が長い。」と記載されている。
また、訂正事項1における「前記入カデータは、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある画像データ」であるとの事項は、本件訂正前の請求項3に記載されている。
そして、「予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間」であることについては、明細書の段落【0041】の「本実施例では、高炉の溶銑温度を目標温度近傍に制御するためのアクションを上げ、下げ、様子見の3段階で判定するモデルを作成した。具体的には、溶銑温度を制御するために微粉炭比を操作変数として用い、微粉炭比の上げ、下げ、様子見の操作を目的変数とする。なお、操作変数として送風湿分やコークス比を用いてもよい。また、オペレータのアクションの中には誤ったアクションが含まれている可能性がある。このため、前処理として、誤ったアクションのデータを事前に除外することが望ましい。本実施例では、上げアクションを実施してから10時間後の溶銑温度の制御偏差(目標温度に対する偏差)が+10℃以上となっているケースのデータ、及び下げアクションを実施してから10時間後の溶銑温度の制御偏差が-10℃以下となっているケースのデータを事前に除外した。」との記載から、「アクションに対する応答の時定数が長い」(段落【0002】)「高炉プロセス」において、オペレータのアクションに対して正常なアクションか、誤ったアクションかが判断できる「予め定めた時間」(段落【0041】の「10時間後」)、すなわち「応答の時定数を考慮した時間」についても実質的に記載されているといえる。
さらに、訂正事項1の「オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用する」との事項については、上記段落【0041】の記載及び段落【0034】の「学習データとしては、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値が、それぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある、画像データと操作量との組み合わせを用いることが望ましい。これは、オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用するためである。」の記載から、実質的に記載されているといえる。
以上から、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項(以下「本件明細書等」という場合がある。)の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
ウ 訂正事項3
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項4が本件訂正前の請求項1~3のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1又は2を引用するように訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
エ 訂正事項4
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項5が本件訂正前の請求項1~4のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1、2、4のいずれかを引用するように訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
オ 訂正事項5
(ア)訂正の目的について
訂正事項5は、本件訂正前の請求項6が本件訂正前の請求項1~5のいずれかを引用する記載であったものを、請求項1、2、4、5のいずれかを引用するように訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
カ 訂正事項6
(ア)訂正の目的について
訂正事項6は、本件訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
キ 訂正事項7
(ア)訂正の目的について
訂正事項7は、本件訂正前の請求項9が請求項8を引用する記載であったものを、本件訂正前の請求項8の「前記プロセスは高炉プロセスであり、前記観測量には溶銑温度、羽口埋込温度、及びコークス比のうちの少なくとも一つが含まれ、前記操作量は高炉の溶銑温度を制御する操作量である」との事項が上記訂正事項1により実質的に請求項1に付加されたのに伴い、本件訂正後の請求項1を引用するように変更し、特許請求の範囲の他の記載と整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項7は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
ク 訂正事項8
(ア)訂正の目的について
訂正事項8は、本件訂正前の請求項11が請求項8又は9を引用する記載であったものを、本件訂正前の上記キ(ア)の請求項8の事項が上記訂正事項1により実質的に請求項1に付加されたのに伴い、本件訂正後の請求項1又は9を引用するように変更し、特許請求の範囲の他の記載と整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項8は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
ケ 訂正事項9
(ア)訂正の目的について
訂正事項9は、本件訂正前の請求項12が請求項8又は9を引用する記載であったものを、本件訂正前の上記キ(ア)の請求項8の事項が上記訂正事項1により実質的に請求項1に付加されたのに伴い、訂正後の請求項1又は9を引用するように変更し、特許請求の範囲の他の記載と整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項9は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2)請求項10に係る訂正
コ 訂正事項10
(ア)訂正の目的について
訂正事項10は、訂正事項1と同様に、本件訂正前の請求項10の「プロセス」、及び「プロセス」の「観測量」と「操作量」についての発明特定事項を減縮するとともに、「学習」についての発明特定事項を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項10において、訂正事項1と同様に構成を限定した点については上記アの訂正事項1について説示したとおりであるから、訂正事項10は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
3 小括
上記のとおり、請求項〔1~9、11~13〕、10についての訂正事項1ないし訂正事項10に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~9、11~13〕、10について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、訂正後の本件特許請求の範囲は以下のとおりである。(以下、請求項1、2、4~7、9~13に係る発明を、それぞれ「本件発明1」などという。また、合わせて、「本件発明」という場合がある。)
「【請求項1】
プロセスの操業状態又は機器の運転状態を示す1つ以上の観測量の履歴データを画像化した画像データを入カデータ、前記履歴データに基づいてオペレータが決定したプロセス又は機器の操作量を出カデータとして、オペレータがプロセス又は機器の操作量を決定する行動モデルを機械学習し、機械学習された行動モデルを出力するステップを含み、
前記画像データは、一方の軸に時間軸、他方の軸に前記履歴データを配置した2次元画像であり、
前記画像データの履歴データが、各履歴データの数値に対して色及び/又は色の濃淡を対応付けて得られる画像であり、
前記プロセスは操作量の変更に対する応答の時定数が長い高炉プロセスであり、前記観測量には溶銑温度、羽口埋込温度、及びコークス比のうちの少なくとも一つが含まれ、前記操作量は高炉の溶銑温度を制御する操作量であり、
前記入カデータは、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある画像データであり、
前記予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間であり、
オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用することを特徴とする学習モデル生成方法。
【請求項2】
前記入カデータは、予め定めた連続した所定時間区間の画像データであり、前記出カデータは、前記所定時間区間後の前記操作量であることを特徴とする請求項1に記載の学習モデル生成方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記画像データには、前記操作量の履歴データが含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の学習モデル生成方法。
【請求項5】
前記履歴データを画像化する前に該履歴データに対して正規化処理を施すステップを含むことを特徴とする請求項1、2、4のうち、いずれか1項に記載の学習モデル生成方法。
【請求項6】
前記行動モデルは、畳み込みニューラルネットワークであることを特徴とする請求項1、2、4、5のうち、いずれか1項に記載の学習モデル生成方法。
【請求項7】
前記畳み込みニューラルネットワークの畳み込み演算を時間軸方向に対してのみ行うことを特徴とする請求項6に記載の学習モデル生成方法。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記操作量は、微粉炭比、送風湿分、及びコークス比のうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の学習モデル生成方法。
【請求項10】
プロセスの操業状態又は機器の運転状態を示す1つ以上の観測量の履歴データを画像化した画像データを入カデータ、前記履歴データに基づいてオペレータが決定したプロセス又は機器の操作量を出カデータとして、オペレータがプロセス又は機器の操作量を決定する行動モデルを機械学習し、機械学習された行動モデルを出力する手段を備え、
前記画像データは、一方の軸に時間軸、他方の軸に前記履歴データを配置した2次元画像であり、
前記画像データの履歴データが、各履歴データの数値に対して色及び/又は色の濃淡を対応付けて得られる画像であり、
前記プロセスは操作量の変更に対する応答の時定数が長い高炉プロセスであり、前記観測量には溶銑温度、羽口埋込温度、及びコークス比のうちの少なくとも一つが含まれ、前記操作量は高炉の溶銑温度を制御する操作量であり、
前記入カデータは、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある画像データであり、
前記予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間であり、
オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用することを特徴とする学習モデル生成装置。
【請求項11】
請求項1又は9に記載の学習モデル生成方法によって生成された行動モデルを用いて高炉の溶銑温度を目標温度に制御可能な前記操作量を決定し、決定した操作量に従って高炉を制御するステップを含むことを特徴とする高炉の溶銑温度制御方法。
【請求項12】
請求項1又は9に記載の学習モデル生成方法によって生成された行動モデルを用いて高炉の溶銑温度を目標温度に制御可能な前記操作量を決定し、決定した操作量に従って該操作量の変更ガイダンスを行うステップを含むことを特徴とする高炉の溶銑温度制御ガイダンス方法。
【請求項13】
請求項11に記載の高炉の溶銑温度制御方法又は請求項12に記載の高炉の溶銑温度制御ガイダンス方法を用いて溶銑を製造するステップを含むことを特徴とする溶銑の製造方法。」
第4 当審が令和4年9月28日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由について
1 取消理由の概要
令和4年6月3日提出の訂正請求書により訂正された請求項1~17に係る特許に対して、当審が令和4年9月28日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(進歩性)請求項1~7、10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項8~9、11~17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~17に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2019-45905号公報(引用文献1)
甲第2号証:特開2018-124639号公報(引用文献2)
甲第8号証:特開2018-24935号公報(引用文献3)
甲第9号証:特開2019-19385号公報(引用文献4)
(以下、申立人が提出した甲各号証の証拠を、「甲1」などという。また、以下では、取消理由通知(決定の予告)において、引用文献1~4と表記したものを、それぞれ甲1、2、8、9と表記を改める。)
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)甲1の記載及び甲1発明について
ア 甲1の記載事項(なお、下線部は、当審が付した。以下同様。)
「【0001】
本発明は、機械学習の一種であるディープラーニングを用いた挙動予測システム及び挙動予測方法に関する。
・・・
【0004】
かかる予測手法については、例えば、製造プロセスの分野において自動運転や、操業支援、故障診断等での応用が期待されている。
【0005】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、製造プロセスにおける将来の挙動を予測できる挙動予測システム及び挙動予測方法を提案することを目的とする。
・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、現在時刻から将来に亘る予測変数の挙動を示した予測時系列データを算出することができるため、当該予測時系列データに基づいて、製造プロセスにおける将来の挙動を予測できる。
・・・
【0010】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
(1)本発明の概略
図1は、製造プロセスでの、ある所定の設備21を示す。本発明による挙動予測システムを適用可能な製造プロセスとしては、例えば、石油精製プラントの他、エチレンやプロピレン等の石油化学プラント、重合プラント等がある。この種の製造プロセスでは、各工程で用いる設備から流量や、液位、温度、圧力等を示すプロセス変数が得られ、これらプロセス変数の挙動を作業員(オペレータとも称する)が監視・制御することによって製品を製造する。
・・・
【0012】
ここでは、説明を簡単にするため、製造プロセスで用いられる、流量計22、制御弁23および貯留部24が設けられた設備21を一例に以下説明する。例えば、102という場所の流量計22における流量の測定値は、流量の物理量ID「F」と、場所の識別ID「102」と、測定値を示す属性ID「PV」を用いて、「F102PV」というタグで表される。
・・・
【0015】
オペレータは、製造プロセスの基本的な知識と、成功事例および失敗事例等の経験とを基に、製造プロセスで用いる各機器が正常に動作するように、設備21等から取得したプロセス変数の時系列データを監視・制御している。本発明による挙動予測システムは、製造プロセスで得られるプロセス変数のうち、オペレータが所望するプロセス変数の時系列データについて、将来の挙動を予測するものである。この際、予測対象とするプロセス変数(以下、予測変数とも称する)の過去の時系列データを利用するだけではなく、予測変数の数値変動に影響を与えるプロセス変数(以下、要因変数とも称する)の過去の時系列データをも利用し、その予測精度を高めるものである。
・・・
【0025】
また、液位計26にて測定される液位の将来における予測時系列データD3の挙動を基に、オペレータに対して事前に将来の状況に応じた処置を促すこともできる。本発明の挙動予測システムは、例えば、過去の操業データや、熟練オペレータの経験則から、液位計26にて測定される液位について所定の上限値L1を予め設定することもできる。これにより、挙動予測システムでは、例えば、上限値L1を基に、製造プロセスで異常状態が生じる目安を呈示し得、液位計26にて測定される液位の将来の予測時系列データD3と、上限値L1との乖離の程度を呈示することで、将来生じる恐れのある異常に対する対処をオペレータに促すこともできる。
・・・
【0032】
学習用入力データ取得部6は、予測変数の一定長の時系列データと、複数の要因変数の一定長の時系列データとを、学習用入力データとして、変数特定部5から取得してゆく。また、学習用出力データ取得部7は、学習用入力データ取得部6により取得した予測変数の時系列データに時系列に続く、予測変数の所定長の時系列データを、学習用出力データとして変数特定部5から取得してゆく。
【0033】
学習用入力データおよび学習用出力データは、後述する学習部8においてディープラーニングに使用される。ここで、図3は、学習部8によるディープラーニングにより作成される挙動予測モデル31の例を示す。学習済みとなった挙動予測モデル31は、予測変数の一定長の時系列データと、複数の要因変数の一定長の時系列データとが学習用入力データとして入力されると、当該予測変数の将来の挙動を示す一定長の時系列データが予測時系列データとして出力されるモデルである。
・・・
【0035】
この場合、学習用入力データ取得部6は、予測変数1個と要因変数N1個(N1は、1以上の整数)との合計N1+1個について、それぞれ過去の所定時間で得られる、T1個のデータ値が並んだ時系列データを取得してゆき、これを1単位の学習用入力データとして学習部8に送出する。過去の所定時間とは、例えば、過去のある時刻Taから所定時間経過した過去のある時刻までの時間幅をいう。
【0036】
図3中の32は、所定時間で得られた、時系列に並んだT1個の予測変換の時系列データを示し、33は、同じく所定時間で得られた、時系列に並んだT1個の要因変数の時系列データを示す。図3に示す学習用入力データは、予測変数および要因変数がそれぞれ時系列に並ぶ方向(所定時間で得られるT1個のデータが時系列に並ぶ時間軸方向)を行方向に示し、1個の予測変数およびN1個の要因変数が並ぶ方向を列方向に示しており、予測変数および要因変数の各時系列データが行列状に配置された構成としている。
【0037】
挙動予測モデル31の学習をする際、図3に示すように、得られた(N1+1)×T1でなる、予測変数および要因変数の時系列データは、学習用入力データとして、挙動予測モデル31の入力層に入力される。挙動予測モデル31の学習をする際、学習用出力データ取得部7は、学習用入力データとした予測変数の時系列データに時系列に続き、かつT4個のデータ毎に得られるN4個の過去の予測変数の時系列データを、学習用出力データとして取得し、これを挙動予測モデル31の出力として学習部8に与える。・・・
【0042】
次に、挙動予測モデル31における畳み込み層や、特徴マップ35、プーリング層、全結合層38について説明する。挙動予測モデル31は、畳み込み層を備える畳み込みニューラルネットワークを使用して学習が行われる。
【0043】
畳み込みニューラルネットワークは、一般的には高い精度で画像を分類するために用いられている手法であり、例えば、インターネットURL(http://en.wikipedia.org/wiki/convolutional neural network)等に詳細に記載されている。畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は、脳の神経回路網を模したニューラルネットワークを多層にして学習するディープラーニング(ディープニューラルネットワーク;Deep Neural Network)の一種である。
・・・
【0046】
畳み込み層では、1×T2の行列でなるフィルタ34を用いることで、1個の予測変数とN1個の要因変数の合計N1+1個が並んだ方向に対しては畳み込み演算処理が実行されない。よって、予測変数の挙動に影響を与えるN1個の要因変数全てを残しつつ、これら予測変数および要因変数の時間軸方向に並ぶ時系列データについてのみ畳み込み演算処理を実行し得る。
・・・
【0068】
(4)オペレータに対する操作ガイダンスについて
上述した実施形態では、予測変数として、例えば液位計26での液位の測定値を予測変数として特定したが、図1との対応部分に同一符号を付して示す図5(エリアER4)のように、制御弁23の流量操作値(すなわち弁の開閉度)を予測変数として特定し、当該流量操作値の将来の挙動を示す予測時系列データD4を、挙動予測システム1により算出してもよい。
【0069】
図5は、液位計26の液位の測定値(タグはL103PV)に応じて、制御弁23の流量操作値(タグはF102MV)を制御するプロセスである。すなわち、オペレータは、液位計26の液位の測定値の挙動に応じて、制御弁23の流量操作値を所定の値に設定し、製造プロセスを操業している。
【0070】
従って、例えば、図5において、制御弁(操作機器)23の流量操作値(F102MV)を予測変数とした場合、当該予測変数の挙動に影響を与える要因変数は、流量計(測定機器)22の流量の測定値(F102PV)や、液位計26の液位の測定値(L103PV)となる。このように、制御弁23の流量操作値を予測変数とし、液位計26の液位の測定値等を要因変数とした場合、上述した挙動予測システム1は、制御弁23の流量操作値について将来の挙動を予測することができる。
【0071】
制御弁23の流量操作値を予測変数とし、現在時刻CTから当該予測変数の将来の挙動を示した予測時系列データD4は、オペレータの制御弁23の制御方法を予測したものであり、このような予測時系列データD4をオペレータに示すことによって、制御弁23について、これからどのように操作すべきかをオペレータに指示することが可能となる。
【0072】
従って、挙動予測システム1は、製造プロセスの異常予測について利用するだけでなく、オペレータに対して操作ガイダンスを示唆することにも利用可能である。
・・・
【0079】
(6)他の実施の形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施形態においては、製造プロセスで正常動作時に機器から得られる複数種類のプロセス変数として、流量計22による流量の測定値や、制御弁23における流量操作値、液位計26による液位の測定値を、具体的な一例として挙げたが、本発明はこれに限らない。例えば、温度計による温度の測定値や、圧力計による圧力の測定値、気圧計によるタンク内の気圧の測定値等、製造プロセスで使用する種々の機器から得られる数値をプロセス変数としてもよい。また、操作機器の操作値として、流量操作値の他、気圧調整器の気圧操作値や、圧力調整器の圧力操作値、温度調整器の温度操作値等、その他種々の操作機器の操作値を適用してもよい。」
「【図1】
[図:0001398231000001.jpg]
」
「【図3】
[図:0001398231000002.jpg]
」
「【図5】
[図:0001398231000003.jpg]
」
イ 甲1の記載事項及び図面から理解できる事項
上記アの記載事項から、以下のことが理解できる。
(ア)「この種の製造プロセスでは、各工程で用いる設備から流量や、液位、温度、圧力等を示すプロセス変数が得られ、これらプロセス変数の挙動を作業員(オペレータとも称する)が監視・制御することによって製品を製造する。」(段落【0010】)、「学習済みとなった挙動予測モデル31は、予測変数の一定長の時系列データと、複数の要因変数の一定長の時系列データとが学習用入力データとして入力されると、当該予測変数の将来の挙動を示す一定長の時系列データが予測時系列データとして出力されるモデルである。」(段落【0033】)、「学習用入力データおよび学習用出力データは、後述する学習部8においてディープラーニングに使用される。」(段落【0033】)、「制御弁(操作機器)23の流量操作値(F102MV)を予測変数とした場合、当該予測変数の挙動に影響を与える要因変数は、流量計(測定機器)22の流量の測定値(F102PV)や、液位計26の液位の測定値(L103PV)となる。」(段落【0070】)との記載から、段落【0068】~【0072】及び図5に示された実施形態において、製造プロセスで用いられる液位計26の液位の測定値(要因変数)の時系列データ及び制御弁23の流量操作値(予測変数)の時系列データが、挙動予測モデル31に対する学習用入力データであることが理解できる。
さらに、段落【0079】の記載等から、製造プロセスが、複数の測定値(流量計22による流量の測定値、液位計26による液位の測定値、温度計による温度の測定値や、圧力計による圧力の測定値、気圧計によるタンク内の気圧の測定値等)を有すること、及び複数の操作値(制御弁23における流量操作値、気圧調整器の気圧操作値、圧力調整器の圧力操作値、温度調整器の温度操作値等)から操作値が選択可能であることが理解できる。
(イ)上記(ア)の摘記と、「・・・図5(エリアER4)のように、制御弁23の流量操作値(すなわち弁の開閉度)を予測変数として特定し、当該流量操作値の将来の挙動を示す予測時系列データD4を、挙動予測システム1により算出してもよい。」(段落【0068】)及び「学習用出力データ取得部7は、学習用入力データ取得部6により取得した予測変数の時系列データに時系列に続く、予測変数の所定長の時系列データを、学習用出力データとして変数特定部5から取得してゆく。」(段落【0032】)との記載から、制御弁23の流量操作値(予測変数)の学習用入力データの時系列データに続く時系列データが、挙動予測モデル31に対する学習用出力データであることが理解できる。
また、「オペレータは、液位計26の液位の測定値の挙動に応じて、制御弁23の流量操作値を所定の値に設定し、製造プロセスを操業している。」(段落【0069】)との記載から、上記制御弁23の流量操作値は、液位計26の液位の測定値の挙動に応じてオペレータが設定する値であることも理解できる。
(ウ)「挙動予測モデル31は、畳み込み層を備える畳み込みニューラルネットワークを使用して学習が行われる。」(段落【0042】)及び「制御弁23の流量操作値を予測変数とし、現在時刻CTから当該予測変数の将来の挙動を示した予測時系列データD4は、オペレータの制御弁23の制御方法を予測したものであり、このような予測時系列データD4をオペレータに示すことによって、制御弁23について、これからどのように操作すべきかをオペレータに指示することが可能となる。」(段落【0071】)との記載から、制御弁23についての操作をオペレータに指示する挙動予測モデル31を、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により作成していることが理解できる。
(エ)上記(ア)の摘記と、「図3に示す学習用入力データは、予測変数および要因変数がそれぞれ時系列に並ぶ方向(所定時間で得られるT1個のデータが時系列に並ぶ時間軸方向)を行方向に示し、1個の予測変数およびN1個の要因変数が並ぶ方向を列方向に示しており、予測変数および要因変数の各時系列データが行列状に配置された構成としている。」(段落【0036】)との記載及び図3から、学習用入力データは、制御弁23の流量操作値(予測変数)及び液位計26の液位の測定値(要因変数)の時系列データが並ぶ方向を行方向、制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値が並ぶ方向を列方向として、制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値の時系列データが行列状に配置されたものであることが理解できる。
ウ 甲1発明
上記ア及びイから、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「製造プロセスで用いられる液位計26の液位の測定値の時系列データ及び制御弁23の流量操作値の時系列データを学習用入力データ、前記液位計26の液位の測定値の時系列データの挙動に応じてオペレータが設定する前記制御弁23の流量操作値の前記学習用入力データの時系列データに続く時系列データを学習用出力データとして、前記制御弁23についての操作をオペレータに指示する挙動予測モデル31を畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により作成する挙動予測方法であって、
学習用入力データは、制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値の時系列データが並ぶ方向を行方向、制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値が並ぶ方向を列方向として、制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値の時系列データが行列状に配置されたものである挙動予測方法。」
(2)甲2の記載及び甲2に記載の技術的事項について
ア 甲2の記載事項
「【0001】
本発明は、時系列データを分析するデータ分析システム、データ分析方法およびプログラムに関する。特に、本発明は、センサデバイスによって取得されたセンサデータを分析するデータ分析システム、データ分析方法およびプログラムに関する。
・・・
【0004】
例えば、工場の製造システムでは、現場の温度や酸度、原料や燃料の投入量、撹拌速度などといった生産状況に関するデータを複数のセンサを用いて収集する。そして、製造システムは、収集されたデータに基づいて、予め設定されたルールや人間による判断に従って制御される。また、予め設定されたルールや人間による判断の代わりに、機械学習を用いて判断や制御を自動化する方法が実現され始めている。
・・・
【0015】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、複数の時系列データを一括して分析することを可能とするデータ分析システムを提供することにある。
・・・
【0022】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係るデータ分析システムに関して図面を参照しながら説明する。本実施形態のデータ分析システムは、センサが検知対象とする事象における一定の期間単位(以下、事象の期間単位)のセンサデータを画像に変換することによって、教師データとなる画像群を生成する。なお、事象とは、例えば一つの製造工程などのことを意味する。
・・・
【0025】
センサデータは、検知対象の特定の性質に関する情報の物理量(データ量とも呼ぶ)を示す信号をまとめた時系列データである。以下においては、各センサから出力されるデータを時系列でまとめたデータ形式をセンサデータと呼び、複数のセンサデータをまとめたデータ形式をセンサデータ群と呼ぶ。なお、センサデータが単一であってもセンサデータ群と呼ぶことがある。
・・・
【0029】
学習装置12は、データ格納手段11に格納されたセンサデータを正規化し、正規化したセンサデータを事象の期間単位で画像変換して機械学習する。学習装置12は、正規化したセンサデータを事象の期間単位で画像化して、事象の期間単位ごとに生成した画像(変換画像とも呼ぶ)に教師信号を付与する。学習装置12は、教師信号が付与された変換画像を用いて予測モデルを生成し、生成した予測モデルを機械学習する。学習装置12は、学習した予測モデルを予測モデル格納手段14に格納する。
【0030】
例えば、学習装置12は、畳み込みニューラルネットワーク(以下、CNN:Convolutional Neural Network)と呼ばれる機械学習技術の一種を利用して予測モデルを生成する。以下においては、CNNを利用して機械学習することを前提として説明するが、CNN以外の手法を用いてセンサデータを機械学習してもよい。
・・・
【0040】
入力情報変換手段23(第2の入力情報変換手段とも呼ぶ)は、データ取得手段21が取得したセンサデータ群を学習手段25のCNNの入力信号として利用できるデータ形式(画像データ)に変換する。言い換えると、入力情報変換手段23は、所定期間を単位として時系列データを画像に変換する。例えば、入力情報変換手段23は、各センサデータのデータ値を濃淡で表現する変換画像を生成し、人間が直感的に特徴を理解しやすい形式、すなわちCNNの入力信号として適したデータ形式にする。
【0041】
入力情報変換手段23は、センサデータの正規化を行うデータ加工手段231と、正規化したセンサデータから変換画像を生成する画像生成手段232とによって、多次元のセンサデータを単一の入力データ(画像データ)に集約する。
・・・
【0043】
画像生成手段232は、データ加工手段231が正規化した各センサデータから変換画像を生成する。画像生成手段232は、事象の期間単位分に相当する全てのセンサデータのデータ値を変換画像で表現し、単一の入力信号とする。CNNでは画像を標準の入力要素とするため、画像生成手段232は、多次元のセンサデータを一つの入力信号にまとめ、学習手段25が機械学習モデルの一種であるCNNを利用することを可能とする。すなわち、画像生成手段232は、多次元のセンサデータから事象の期間単位で一つの変換画像を生成する。例えば、画像生成手段232は、分析対象の各センサデータのデータ値がピクセルの濃淡(輝度値)で表現される変換画像を生成する。
【0044】
学習手段25は、教師信号格納手段13から教師信号を取得し、取得した教師信号と、画像生成手段232が生成した画像群とを合わせて入力とし、CNNを用いた学習処理を行う。言い換えると、学習手段25は、入力情報変換手段23によって生成された複数の画像と、所定期間に対応する教師信号とを用いて予測モデルを機械学習する。学習手段25は、学習が終了して出力される予測モデルを予測モデル格納手段14に格納する。
・・・
【0046】
ここで、画像生成手段232によって生成される変換画像の一例を示す。図5は、正規化データ群(s’1~s’N)から生成される変換画像群140の一例を示す概念図である。変換画像群140は、最初の期間のセンサデータから生成される変換画像140-1、・・・、m番目の期間のセンサデータから生成される変換画像140-mによって構成される(m:自然数)。
【0047】
図5の例では、画像生成手段232は、複数のセンサから取得されたセンサデータを用いて生成されるセンサごとの画像(素画像とも呼ぶ)を事象の期間単位で一つの変換画像にまとめる。そして、画像生成手段232は、複数の事象の期間ごとに生成される変換画像を時間順に重ねて並べた画像群(変換画像群とも呼ぶ)を生成する。
【0048】
言い換えると、画像生成手段232は、データ加工手段231によって正規化された時系列データのデータ値に基づいて、所定期間を単位として検知対象ごとに生成した素画像を組み合わせて変換画像群140を生成する。本実施形態において、画像生成手段232は、データ加工手段231によって正規化された時系列データのデータ値に基づいた明度情報に基づいて素画像を生成する。
【0049】
図5の例では、正規化データs’1、正規化データs’2、正規化データs’2、・・・、正規化データs’Nから生成される素画像を上から順番に並べて一つにまとめている。図5の変換画像の濃淡(輝度情報)がセンサデータのデータ値を表す。図5の例では、画素が淡いほどデータ値が大きく、画素が濃いほどデータ値が小さい。すなわち、図5においては、輝度が小さいほどデータ値が大きく、輝度が大きいほどデータ値が小さい。なお、画素が淡いほど(輝度が小さいほど)データ値が小さく、画素が濃いほど(輝度が大きいほど)データ値が大きくなるように設定してもよい。
【0050】
図5の変換画像においては、センサデータを構成する各データのデータ値を1ピクセル幅で表現しているが、数ピクセル幅で表現しても良い。また、センサデータの変動が激しい場合は、一定時間分のデータの平均値や中央値、最頻値などの代表値を1ピクセル幅や数ピクセル幅にまとめて表現してもよい。
・・・
【0055】
判定手段55は、予測モデル格納手段14に保存されている予測モデルを読み込み、画像生成手段532が生成した画像群を入力することによって、検知対象の振る舞いの判別推定を行う。言い換えると、判定手段55は、予め記憶された学習モデルに基づいて画像を判定した判定結果に基づいて検知対象の状態を推定する。判定手段55は、判別推定が終了して出力される判別結果を判別結果格納手段16に格納する。
・・・
【0081】
以上のように、本実施形態のデータ分析システムは、多次元の時系列データをまとめて一種の入力信号として扱い、機械学習することによって検知対象の振る舞いを予測する。本実施形態のデータ分析システムは、多次元の時系列データの一部だけではなく全てを一度の入力情報として利用することと、入力信号を一つにまとめる際に時系列データの正規化処理と画像化処理とを用いることを特徴とする。
・・・
【0084】
本実施形態で利用する機械学習モデルの一種である畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)は、静止画や動画の認識に広く使われているモデルである。一般に、CNNは、時系列データなどの数値データをそのまま入力信号として用いられないという特性を有するため、多次元の時系列データの相互依存を考慮した分析には不向きである。一方、本実施形態のデータ分析システムは、時系列データをCNNの入力信号として適した画像データに変換するため、CNNを用いて時系列データを分析して機械学習できる。
・・・
【0089】
第1の実施形態では、正規化したセンサデータ群を画像化する際に、グレースケール画像に変換を行った。CNNでは画像の色合いも特徴値として認識できるため、本実施形態では、変換後のグレースケール画像からカラー画像を生成する例を示す。
・・・
【0096】
例えば、カラー変換手段233は、明度情報に変換された正規化データx’、y’およびz’のそれぞれをR、GおよびB(以下、RGB値)の明度情報に変換する。そして、カラー変換手段233は、センサごとに変換されたRGB値を時間軸を合わせて合成することによって、一つのカラー画像241を生成する。
・・・
【0127】
本発明の各実施形態に係るデータ分析システムは、種々のセンサから収集したセンサデータを分析する用途に利用できる。例えば、本発明の各実施形態に係るデータ分析システムは、工作機械製造や部品製造などの生産現場において切削具などの機器の消耗度を判定する用途に利用できる。」
「【図5】
[図:0001398231000004.jpg]
」
イ 甲2の記載事項及び図面から理解できる事項
上記アの記載事項から、以下のことが理解できる。
(ア)段落【0025】、【0030】、【0040】、【0043】、【0048】~【0049】及び【0055】の記載及び図5等から、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)で予測モデルを生成し、変換画像を予測モデルの入力信号とすること、及び該変換画像は、一方の軸に事象の期間単位のデータ、他方の軸に各センサから出力されるセンサデータを正規化した正規化データを配置した2次元画像であり、前記正規化データの時系列のデータ値に対して濃淡を対応付けて得られる画像であることが理解できる。
(イ)また、上記(ア)の変換画像の一方の軸の「事象の期間単位のデータ」について、段落【0046】~【0048】、【0050】の記載等から、所定期間のデータ、すなわち前の期間単位の終了時を開始点(横軸における左端)とし、次の期間単位の開始時を終了点(横軸における右端)とする時間軸で表したデータであることが理解できるから、上記変換画像の一方の軸は時間軸であり、当該一方の軸の事象の期間単位のデータは、正規化データの時系列のデータ値であることが理解できる。
(ウ)さらに、上記(ア)、(イ)及び段落【0089】の記載から、濃淡画像に換えてカラー画像を予測モデルの入力信号とすることも記載されていることが理解できる。
ウ 甲2に記載の技術的事項
上記ア及びイから、甲2には、以下の技術的事項(以下「甲2の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「CNN(畳み込みニューラルネットワーク)で生成した予測モデルに対して、一方の軸に時間軸、他方の軸に各センサから出力されるセンサデータを正規化した正規化データを配置した2次元画像であって、前記正規化データの時系列のデータ値に対して濃淡を対応付けて得られる変換画像又はカラー画像を、予測モデルの入力信号とすること。」
(3)甲8の記載及び甲8に記載の技術的事項について
ア 甲8の記載事項
「【請求項1】
非定常状態における高炉内の状態を計算可能な物理モデルを用いて高炉における溶銑温度を予測する溶銑温度予測方法であって、
前記物理モデルに含まれるパラメータを変化させた際の前記物理モデルの出力変数の応答を算出する応答算出ステップと、
過去の所定区間における前記出力変数と該出力変数の実測値との差分値を前記出力変数の誤差として算出する誤差算出ステップと、
前記応答算出ステップにおいて算出された前記物理モデルの出力変数の応答を用いて、前記出力変数の誤差を補償するための前記パラメータの調整量を算出する調整量算出ステップと、
前記調整量に基づいて過去の所定区間前における前記物理モデルのパラメータを調整する調整ステップと、
を含むことを特徴とする溶銑温度予測方法。
・・・
【請求項5】
請求項1~3のうち、いずれか1項に記載の溶銑温度予測方法を用いて予測された溶銑温度に従って高炉の操作変数を制御するステップを含むことを特徴とする高炉の操業方法。
・・・
【請求項8】
請求項4に記載の溶銑温度予測装置によって予測された溶銑温度に基づいて溶銑温度を制御する溶銑温度制御装置であって、
前記調整手段によって前記パラメータが調整された前記物理モデルを用いて、高炉の操作変数の現在の操作量を保持した場合の将来の溶銑温度を予測する予測手段と、
前記予測手段によって予測された溶銑温度と目標溶銑温度との差を最小にするように送風湿分、微粉炭吹込み量、炉頂におけるコークス比、及び送風温度のうちの少なくとも1つを含む高炉の操作変数の適正操作量を決定し、決定した適正操作量に従って高炉の操作変数を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする溶銑温度制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の溶銑温度制御装置が備える予測手段によって予測された将来の溶銑温度の推移と前記適正操作量に従って高炉の操作変数を制御した場合に予測される溶銑温度の推移とを提示することにより、高炉の操業を支援する提示手段を備えることを特徴とする操業ガイダンス装置。」
「【0001】
本発明は、溶銑温度予測方法、溶銑温度予測装置、高炉の操業方法、操業ガイダンス装置、溶銑温度制御方法、及び溶銑温度制御装置に関する。
・・・
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る溶銑温度予測方法及び溶銑温度予測装置によれば、溶銑温度の予測精度を向上させることができる。また、本発明に係る高炉の操業方法、操業ガイダンス装置、溶銑温度制御方法、及び溶銑温度制御装置によれば、炉熱を精度よく制御することができる。
・・・
【0019】
〔物理モデルの構成〕
まず、本発明において用いる物理モデルについて説明する。
【0020】
本発明において用いる物理モデルは、参考文献1(羽田野道春ら:“高炉非定常モデルによる火入れ操業の検討”,鉄と鋼,vol.68,p.2369)記載の方法と同様、鉱石の還元、鉱石とコークスとの間の熱交換、及び鉱石の融解等の物理現象を考慮した偏微分方程式群から構成された、非定常状態における炉内状態を計算可能な物理モデルである。
【0021】
図1に示すように、この物理モデルに対して与える境界条件の中で時間変化する主なもの(入力変数,高炉の操作変数(操業因子ともいう))は、炉頂におけるコークス比(溶銑生成量1トンに対して使用されるコークス重量)、送風流量(高炉に送風される空気の流量)、富化酸素流量(高炉に吹き込まれる富化酸素の流量)、送風温度(高炉に送風される空気の温度)、微粉炭吹込み量(溶銑生成量1トンに対して使用される微粉炭の重量,PCI)、及び送風湿分(高炉に送風された空気の湿度)である。
【0022】
また、この物理モデルの主な出力変数は、炉内におけるガス利用率(CO2/(CO+CO2),ηCO)、原料及びガス温度、ソルーションロスカーボン量(ソルロスカーボン量)、造銑速度(溶銑生成速度)、溶銑温度、炉体ヒートロス量(冷却水により炉体を冷却した際に冷却水が奪う熱量)、及び還元材比(溶銑1トンあたりの微粉炭吹込み量とコークス比との和,RAR)である。」
イ 甲8に記載の技術的事項
上記アから、甲8には、次の技術的事項(以下「甲8に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「高炉プロセスにおいて、偏微分方程式群から構成された物理モデルを用いて溶銑温度を予測し、炉頂におけるコークス比、送風流量、富化酸素流量、送風温度、微粉炭吹込み量、及び送風湿分等を操作量として、高炉の溶銑温度を制御する。」
(4)甲9の記載及び甲9に記載の技術的事項について
ア 甲9の記載事項
「【請求項1】
非定常状態における高炉内の状態を計算可能な物理モデルを用いて高炉における溶銑温度を予測する溶銑温度予測方法であって、
前記物理モデルを用いて高炉の操作変数の現在の操作量を保持した場合の将来の溶銑温度の予測値を算出する第1ステップと、
前記物理モデルを用いて計算された過去の期間における高炉内の状態を示す変数の計算値と実績値との差の時間変化率を算出する第2ステップと、
前記物理モデルを用いて計算された前記過去の期間における溶銑温度の計算値と実績値との差を溶銑温度の計算値の誤差として算出する第3ステップと、
前記第2ステップにおいて算出された時間変化率を用いて前記第3ステップにおいて算出された溶銑温度の計算値の誤差を求める回帰式を構築する第4ステップと、
前記物理モデルを用いて計算された現在における高炉内の状態を示す変数の計算値と実績値との差の時間変化率と前記第4ステップにおいて構築された回帰式とを用いて、現在における溶銑温度の計算値の誤差を算出する第5ステップと、
前記第1ステップにおいて算出された溶銑温度の予測値に前記第5ステップにおいて算出された誤差を加算することによって、前記第1ステップにおいて算出された溶銑温度の予測値を補正する第6ステップと、
を含むことを特徴とする溶銑温度予測方法。
・・・
【請求項3】
請求項1に記載の溶銑温度予測方法を用いて補正された溶銑温度に従って高炉の操作変数を制御するステップを含むことを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項4】
請求項2に記載の溶銑温度予測装置によって補正された将来における溶銑温度の予測値の推移及び適正操作を実行した場合における将来における溶銑温度の予測値の推移を提示することにより、高炉の操業を支援する手段を備えることを特徴とする操業ガイダンス装置。
・・・
【請求項6】
請求項2に記載の溶銑温度予測装置によって補正された溶銑温度の予測値に基づいて溶銑温度を制御する溶銑温度制御方法であって、補正された溶銑温度の予測値と目標溶銑温度との差を最小にするように送風湿分、微粉炭吹込み量、コークス比、及び送風温度のうちの少なくとも1つを含む高炉の操作変数の適正操作量を決定し、決定した適正操作量に従って高炉の操作変数を制御するステップを含むことを特徴とする溶銑温度制御装置。」
「【0001】
本発明は、溶銑温度予測方法、溶銑温度予測装置、高炉の操業方法、操業ガイダンス装置、溶銑温度制御方法、及び溶銑温度制御装置に関する。
・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る溶銑温度予測方法及び溶銑温度予測装置によれば、溶銑温度の変化量の予測精度を向上させて溶銑温度の予測精度を向上させることができる。また、本発明に係る高炉の操業方法、操業ガイダンス装置、溶銑温度制御方法、及び溶銑温度制御装置によれば、溶銑温度を精度よく制御することができる。
・・・
【0016】
〔物理モデルの構成〕
まず、本発明において用いる物理モデルについて説明する。
【0017】
本発明において用いる物理モデルは、参考文献1(羽田野道春ら:“高炉非定常モデルによる火入れ操業の検討”,鉄と鋼,vol.68,p.2369)記載の方法と同様、鉄鉱石の還元、鉄鉱石とコークスとの間の熱交換、及び鉄鉱石の融解等の複数の物理現象を考慮した偏微分方程式群から構成された、非定常状態における高炉内の状態を示す変数(出力変数)を計算可能な物理モデルである。
【0018】
図1に示すように、この物理モデルに対して与える境界条件の中で時間変化する主なもの(入力変数,高炉の操作変数(操業因子ともいう))は、炉頂におけるコークス比(炉頂から投入されるコークス量に対する鉄鉱石量の比)、送風流量(高炉に送風される空気の流量)、富化酸素流量(高炉に吹き込まれる富化酸素の流量)、送風温度(高炉に送風される空気の温度)、微粉炭吹込み量(溶銑生成量1トンに対して使用される微粉炭の重量,PCI)、及び送風湿分(高炉に送風される空気の湿度)である。
【0019】
また、物理モデルによって形成される主な出力変数は、炉内におけるガス利用率(CO2/(CO+CO2),ηCO)、原料及びガス温度、鉱石還元率、ソルーションロスカーボン量(ソルロスカーボン量)、酸素原単位、造銑速度(溶銑生成速度)、溶銑温度、炉体ヒートロス量(冷却水により炉体を冷却した際に冷却水が奪う熱量)、及び還元材比(溶銑1トンあたりの微粉炭吹込み量とコークス比との和,RAR)である。
【0020】
本発明では、出力変数を計算する際のタイムステップ(時間間隔)は30分とした。但し、タイムステップは目的に応じて可変であり、本実施形態の値に限定されることはない。本発明では、この物理モデルを用いて時々刻々変化する溶銑温度を含む出力変数を計算する。
・・・
【0037】
一般的な高炉プロセスでは、炉下部より吹込まれる高温送風の温度及び湿分(送風温度及び送風湿分)、微粉炭吹込み量、コークス比等を操作することにより、溶銑温度は一定に制御されている。以下では送風湿分を操作変数として選択したが、同様のロジックを他の操作変数についても構築可能である。」
イ 甲9に記載の技術的事項
上記アから、甲9には、次の技術的事項(以下「甲9に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「高炉プロセスにおいて、偏微分方程式群から構成された物理モデルを用いて溶銑温度を予測し、炉頂におけるコークス比、送風流量、富化酸素流量、送風温度、微粉炭吹込み量、及び送風湿分等を操作量として、高炉の溶銑温度を制御する。」
(5)対比
本件発明1と、甲1発明とを対比する。
甲1発明の「測定値」は本件発明1の「観測量」に相当し、以下同様に、「操作値」は「操作量」に、「製造プロセス」は「プロセス」に、「学習用入力データ」は「入力データ」に、「オペレータが設定」は「オペレータが決定」に、「制御弁23の流量操作値」は「プロセス又は機器の操作量」に、「制御弁23についての操作をオペレータに指示する」ことは「オペレータがプロセス又は機器の操作量を決定する」ことに、「挙動予測モデル31」は「行動モデル」に、「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により作成する」ことは「機械学習」することに、「挙動予測方法」は挙動予測モデル31を生成することから「学習モデル生成方法」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「製造プロセスで用いられる液位計26の液位の測定値の時系列データ及び制御弁23の流量操作値の時系列データを学習用入力データ」とすることは、学習用入力データが「プロセスの操業状態又は機器の運転状態を示す1つ以上の観測量の履歴データ」に対応する「液位計26の液位の測定値の時系列データ」を含むことから、本件発明1の「プロセスの操業状態又は機器の運転状態を示す1つ以上の観測量の履歴データを画像化した画像データを入力データ」とすることと、「プロセスの操業状態又は機器の運転状態を示す1つ以上の観測量の履歴データを入力データ」とする点では共通している。
さらに、甲1発明の「前記液位計26の液位の測定値の時系列データの挙動に応じてオペレータが設定する前記制御弁23の流量操作値の前記学習用入力データの時系列データに続く時系列データを学習用出力データ」は、「液位計26の液位の測定値の時系列データ」(履歴データ)の挙動に応じてオペレータが決定する「学習用入力データの時系列データに続く制御弁23の流量操作値の時系列データ(操作量)」を学習用出力データとするものであるから、本件発明1の「前記履歴データに基づいてオペレータが決定したプロセス又は機器の操作量を出力データ」に相当する。
さらに、甲1発明の「学習用入力データ」と本件発明1の「画像データ」とは「入力データ」である点で共通し、甲1発明の「学習用入力データは、制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値の時系列データが並ぶ方向を行方向、制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値が並ぶ方向を列方向として、制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値の時系列データが行列状に配置されたものである」ことと、本件発明1の「画像データは、一方の軸に時間軸、他方の軸に前記履歴データを配置した2次元画像であり、前記画像データの履歴データが、各履歴データの数値に対して色及び/又は色の濃淡を対応付けて得られる画像である」こととは、甲1発明の「行方向」及び「列方向」が本件発明1の「一方の軸」及び「他方の軸」に対応し、甲1発明の「時系列データ」及び「制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値」が本件発明1の「時間軸」及び「履歴データ」に対応することから、「入力データは、一方の軸に時間軸、他方の軸に前記履歴データを配置した2次元データである」点では共通している。
したがって、本件発明1と、甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点1>
プロセスの操業状態又は機器の運転状態を示す1つ以上の観測量の履歴データを入力データ、前記履歴データに基づいてオペレータが決定したプロセス又は機器の操作量を出力データとして、オペレータがプロセス又は機器の操作量を決定する行動モデルを機械学習するステップを含み、
入力データは、一方の軸に時間軸、他方の軸に前記履歴データを配置した2次元データである学習モデル生成方法。
<相違点1>
本件発明1は、「機械学習された行動モデルを出力」するのに対し、甲1発明は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により作成された挙動予測モデル31を出力するものではない点。
<相違点2>
行動モデルへの入力データが、本件発明1では、「画像化した画像データ」であり、「前記画像データは、一方の軸に時間軸、他方の軸に前記履歴データを配置した2次元画像であり、前記画像データの履歴データが、各履歴データの数値に対して色及び/又は色の濃淡を対応付けて得られる画像である」であるのに対し、甲1発明では、制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値が並ぶ方向を列方向、制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値の時系列データが並ぶ方向を行方向として、制御弁23の流量操作値及び液位計26の液位の測定値の各時系列データが行列状に配置されたものであって、画像データとするものではない点。
<相違点3>
本件発明1が、「前記プロセスは操作量の変更に対する応答の時定数が長い高炉プロセスであり、前記観測量には溶銑温度、羽口埋込温度、及びコークス比のうちの少なくとも一つが含まれ、前記操作量は高炉の溶銑温度を制御する操作量であり、
前記入カデータは、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある画像データであり、
前記予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間であり、
オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用する」のに対し、甲1発明は、そもそも高炉プロセスに関するものではない点。
(6)判断
事案に鑑みて、相違点3について検討する。
上記(3)、(4)に示したとおり、甲8、甲9には、「高炉プロセスにおいて、偏微分方程式群から構成された物理モデルを用いて溶銑温度を予測し、炉頂におけるコークス比、送風流量、富化酸素流量、送風温度、微粉炭吹込み量、及び送風湿分等を操作量として、高炉の溶銑温度を制御する。」との技術的事項が記載され、甲1の段落【0010】には、甲1発明の挙動予測モデルを適用する製造プロセスについて、各工程で用いる設備から流量や、液位、温度、圧力等を示すプロセス変数が得られ、これらプロセス変数の挙動を作業員が監視・制御することによって製品を製造するような製造プロセスである旨が記載されているところ、甲1発明を適用する製造プロセスとして、同じくプロセス変数の挙動を作業員が監視・制御することによって製品を製造する、甲8及び甲9に記載されている高炉プロセスに適用する動機はあるといえる。
したがって、甲1発明に甲8及び甲9の高炉プロセスについての技術的事項を適用して、甲1発明の製造プロセスとして高炉プロセスを選択し、高炉の溶銑温度を制御することを目的として、操作量を、微粉炭比、送風湿分又はコークス比とし、作業員が監視する観測量を、高炉の溶銑温度又は該高炉の溶銑温度に関連するプロセス変数とすることは、当業者が容易になし得ると判断する余地はある。
しかしながら、甲1、甲2、甲8、甲9のいずれにも、「高炉プロセス」が「操作量の変更に対する応答の時定数が長い」ものであること、及び学習モデルを生成する際に、「入カデータは、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある画像データであり、前記予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間であり、オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用する」ことは記載も示唆もされていない。
さらに、仮に、「高炉プロセス」が「操作量の変更に対する応答の時定数が長い」ものであり、学習モデルを生成する際に、「入カデータは、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある画像データであり、前記予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間であり、オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用する」ことが、公知又は周知の技術的事項であったとしても、甲1発明に甲8及び甲9の高炉プロセスについての技術的事項を適用し、甲1発明の製造プロセスとして高炉プロセスを選択した上で、その「挙動予測モデル31」を生成する際に、「高炉プロセス」が「操作量の変更に対する応答の時定数が長い」ことを前提に、「入カデータは、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある画像データであり、前記予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間であり、オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用する」こと、すなわち、甲1発明の製造プロセスとして高炉プロセスを選択し、さらに、高炉プロセスの事情を考慮した学習データを探求することは、多段階の改変を要するものであるから、当業者が容易になし得るものということはできない。
したがって、相違点1及び相違点2について検討するまでもなく、本件発明1が、甲1発明、甲2、甲8及び甲9に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
2 本件発明2、4~7、9、11~13について
本件発明2、4~7、9、11~13は、直接又は間接的に本件発明1を引用するところ、甲1発明と対比して、上記1(5)に示した相違点3を有するものであるから、上記1(6)に示したのと同様の理由により、甲1発明、甲2、甲8及び甲9に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
3 本件発明10について
本件発明10は、相違点3に係る本件発明1と同様の構成を備えるところ、甲1発明と対比して、上記1(5)に示した相違点3を有するものであるから、上記1(6)に示したのと同様の理由により、甲1発明、甲2、甲8及び甲9に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
4 申立人の意見について
申立人は、令和5年2月9日提出の意見書において、本件訂正が認容されたとしても、本件発明は以下の取消理由を有する旨を主張している。
(1)申立人の主張
ア 明確性要件違反
本件発明1の「前記プロセスは操作量の変更に対する応答の時定数が長い高炉プロセスであり、」との記載における「応答の時定数が長い」は比較の基準若しくは程度が不明確な表現であるため、本件発明1の範囲は不明確である。
また、本件発明1の「オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、」との記載における「適切な変化をし」は用語の意味が曖昧であるため、本件発明1の範囲は不明確である。
そして、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、4~7、9、11~13及び本件発明1と同様の構成を有する本件発明10は、同様の理由により不明確である。
イ 進歩性欠如
本件訂正前の請求項1、3、8は、令和4年9月28日付け取消理由通知書において、それぞれ進歩性を有しない旨の判断がされている。
本件発明1の「前記プロセスは操作量の変更に対する応答の時定数が長い高炉プロセスであり、」、「前記予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間であり、」とする構成に関しては、甲1の図1に表されるように、設備21では、流量を測定する流量計22および貯留部24が、所定の長さを有する配管で接続されており、流量計22により測定された流量が貯留部24の液位に反映されるまでには、液体が配管を通過する所定の時間(応答の時定数)を要する。また、本件発明1において応答の時定数の範囲は明確に定められておらず、上記構成は、甲1に記載された構成と差異がなく、進歩性に寄与しない。さらに、「前記予め定めた時間は、前記応答の時定数を考慮した時間であり、」との構成は、例えば甲3(特開平7-160661号公報)及び参考資料1(「A predictive system for blast furnaces by integrating a neural network with qualitative analysis」と題する資料)に記載されているとおり当業者に自明であり、進歩性に寄与しない。
本件発明1の「前記入カデータは、操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある画像データ」であり、「オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用する」とする構成に関しては、機械学習でモデルを作成する際に、入カデータとして、正常な制御量のデータを用いることはよく知られており、また、時間遅れを有する制御系において、操作結果としての制御量は、操作に対して所定時間の遅れが生じるものであるから、オペレータが制御弁23の流量操作値を適切に操作したことにより、目標値から所定の範囲に制御できた所定時間の遅れを考慮した正常な制御量のデータを入カデータとすることは、当業者が容易になし得るものであり、そのような構成は、例えば上記甲3及び参考資料1に記載されている。
(2)判断
ア 明確性要件違反について
(ア)本件発明1の「前記プロセスは操作量の変更に対する応答の時定数が長い高炉プロセスであり、」との記載における「操作量の変更に対する応答の時定数が長い」との記載は、「高炉プロセス」を修飾していること、すなわち、高炉プロセスの特性を表しているにすぎないから、そのような記載の存在によりただちに不明確であるとはいえない。また、明細書の段落【0041】に「本実施例では、上げアクションを実施してから10時間後の溶銑温度の制御偏差(目標温度に対する偏差)が+10℃以上となっているケースのデータ、及び下げアクションを実施してから10時間後の溶銑温度の制御偏差が-10℃以下となっているケースのデータを事前に除外した。」と記載されていることからも、高炉プロセスにおいて、「操作量の変更に対する応答の時定数が長い」ことは具体的に理解される。さらに、「応答の時定数が長い」との表現について、比較の基準や程度が明らかでないことによって、「高炉プロセス」が理解できないような特段の事情も見当たらない。
(イ)本件発明1の「オペレータの操作結果として制御量が適切な変化をし、目標値から所定の範囲に制御できたデータを学習データとして利用する」との記載における「適切な変化をし」との記載については、「制御量」が「目標値から所定の範囲に制御できた」ことを表現しているにすぎないことは明らかであるから、そのような記載の存在によりただちに不明確であるとはいえない。
(ウ)以上から、申立人の明確性要件違反についての主張は採用できない。
イ 進歩性欠如について
(ア)まず、上記1(5)に示した相違点3に係る本件発明1の構成は、甲1発明との実質的な相違点であり、進歩性に寄与しないようなものではないこと、及び相違点3に係る本件発明1の構成が、甲1発明、甲2、甲8及び甲9に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないことは、上記1(6)で説示したとおりである。
(イ)続いて、相違点3に係る本件発明1の構成が、甲1発明、甲2、甲8及び甲9に記載の技術的事項に加えて、甲3及び参考資料1を参酌することで、当業者が容易になし得るか検討する。
(ウ)甲3は、「ニューラルネットワークの教師データ自動抽出方法」に係り、その段落【0041】に「ここで、上記図4(c)の時刻T2に於けるフロック形成池120でのフロック形成状態が良好である場合、図4(a)の時刻T0での原水状況をニューラルネットワークの入力値として、また、図4(b)の時刻T1に於ける凝集剤注入量をニューラルネットワーク出力層として、これを教師データに用いる。・・・」、段落【0048】に「・・・すなわち、上記の図4で説明したように、操作量である制御操作予測値(時刻T1に於ける凝集剤注入量)に対する制御結果(時刻T2に於けるフロック形成状態の判断)を用いて行う。この判定の結果、制御結果が良好な場合に、滞留時間(時刻T1から時刻T2)を考慮した教師データを運転データベース400から抽出する(272)。」との記載があるとしても、甲3は「高炉プロセス」について記載も示唆もないから、上記1(6)と同様に、本件発明1に至るには、多段階の改変を要することに変わりはない。
(エ)そして、参考資料1について検討しても、参考資料1は、申立人が提出した訳文によれば、時定数の長い高炉プロセスを対象にニューラルネットワークを用いるものであると解されるものの、「銑鉄中のシリコン含有量」を予測するものであって、「高炉の溶銑温度を制御する操作量」についても、「操作量変更後、予め定めた時間経過後の制御量として定めた観測量の1つ又は複数の値がそれぞれの目標値を中心とした所定範囲内にある」データについても記載も示唆もないから、甲1発明、甲2、甲8及び甲9に記載の技術的事項に加えて参考資料1を参酌しても、相違点3に係る本件発明1の構成には至らないというべきである。
(オ)以上から、申立人の進歩性欠如についての主張は採用できない。
5 小括
したがって、本件発明1、2、4~7、9~13は、甲1発明、甲2、甲8及び甲9並びにその他の文献に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書の52~63ページにおいて、本件訂正前の請求項1~13に関して、甲2に記載された発明(以下「甲2発明」という。)を主引例とした進歩性欠如の特許異議申立理由を主張した。
2 判断
しかしながら、甲2の記載事項及び甲2に記載の技術的事項については、上記第5の1(2)に説示したとおりであり、さらに甲2は「予測モデル格納手段14に保存されている予測モデルを読み込み、画像生成手段532が生成した画像群を入力することによって、検知対象の振る舞いの判別推定を行う」(段落【0055】)ものであるところ、甲2には、「高炉プロセス」についても、「操作量」についても、記載も示唆もされていないから、本件発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも、上記第5の1(5)で示した相違点3に係る本件発明1の構成で相違するものである。
そして、相違点3について、甲1、甲2、甲8及び甲9並びにその他の文献に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとはいえないことは、上記第5の1(6)及び4(2)イで説示したとおりである。
したがって、本件発明1、2、4~7、9~13は、甲2発明を主引例としても、当業者が容易になし得たものということはできず、申立人の主張する特許異議申立理由は、採用することができない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件の請求項1、2、4~7、10~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4~7、10~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項3、8に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項3、8に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700002