特許異議申立
2024-700030
調質圧延機のバックアップロール、調質圧延機および調質圧延方法
- 審判番号
- 2024-700030
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-012650
- 登録番号
- 7331874
- 請求日
- 2024年01月17日
- 審決日
- 2026年03月26日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】落合 憲一郎
- 【異議申立人】矢部 まどか
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 貴雄
- 審判官 田々井 正吾
- 審判官 刈間 宏信
- 分類
- P1651.537-YAA(B21B) / P1651.121-YAA(B21B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第36条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7331874号発明「調質圧延機のバックアップロール、調質圧延機および調質圧延方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7331874号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7331874号の請求項3~7に係る特許を維持する。
特許第7331874号の請求項1~2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許掲載公報の発行までの経緯
特許第7331874号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和3年1月29日に出願され、令和5年8月15日にその特許権の設定登録がされ、同月23日に特許掲載公報が発行された。
2 特許異議の申立て以降の経緯
本件特許についての特許異議の申立て以降の主な経緯は、次のとおりである。
(1)令和6年1月17日
特許異議申立人 矢部まどか(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1~7に係る特許に対する特許異議の申立て
(2)令和6年6月20日付け
取消理由通知書による取消理由の通知
(3)令和6年8月21日
特許権者 JFEスチール株式会社(以下「特許権者」という。)による訂正請求書及び意見書の提出
(4)令和6年11月13日
申立人による意見書の提出
(5)令和7年3月5日付け
取消理由通知書による取消理由(決定の予告)の通知
(6)令和7年4月22日
特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
(7)令和7年5月14日付け
手続補正指令書による手続補正の指令
(8)令和7年6月12日
特許権者による上記(6)の訂正請求書を補正する旨の手続補正書(方式)の提出
(9)令和7年6月12日
特許権者による上記(6)の意見書を補正する旨の手続補正書(方式)の提出
(10)令和7年9月19日
申立人による意見書の提出
(11)令和7年12月5日~11日
特許権者と審判合議体との電話及び電子メールでの応対
(12)令和7年12月16日付け
取消理由通知書による取消理由(以下「本件取消理由」という。)の通知
なお、3回目の通知となる本件取消理由は、上記(8)の手続補正書(方式)により補正がされた上記(6)の訂正請求書に係る訂正の請求(以下「先の訂正請求」という。)に係る訂正事項の軽微な不備を改めるために訂正の機会を与えることのみを目的として通知したものであって、決定の予告ではない(審判便覧67―05.5 P)。
(13)令和8年2月9日
特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
(14)令和8年2月19日付け
手続補正指令書による手続補正の指令
(15)令和8年3月9日
特許権者による上記(13)の訂正請求書を補正する旨の手続補正書(方式)の提出(以下、当該手続補正書(方式)により補正された上記(13)の訂正請求書に係る訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)
なお、本件訂正請求がされたから、上記(3)の訂正請求書に係る訂正の請求及び先の訂正請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
また、先の訂正請求に対して、上記(10)のとおり、申立人は意見書を提出する機会が与えられているところ、以下の第2の3(7)で付言するように、本件訂正は、先の訂正請求に係る訂正事項について、軽微な不備を改めるものに相当するから、本件訂正請求について、特許法120条の5第5項でいう、「申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情」があるといえる。
したがって、本件訂正について、改めて、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととする。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正は、一群の請求項〔1~7〕に対する訂正事項1~5からなる。
なお、下線は、訂正前後での訂正箇所を明らかにするために当審で付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「前記調質圧延機が、4段式または6段式の調質圧延機であることを特徴とする請求項1または2に記載の調質圧延機のバックアップロール。」
と記載されているのを
「一対のワークロール間に金属帯を通して調質圧延を行う2つ以上の圧延スタンドを備える調質圧延機における一対のバックアップロールであって、
該バックアップロールの胴部の幅方向断面形状は、平行部とテーパー部とからなり、
前記平行部は、前記バックアップロールの胴部の中央部に形成され、
前記テーパー部は、前記バックアップロールの胴部の端部から前記平行部の端部へ形成され、
前記ワークロールが、ダルワークロールまたはブライトワークロールであって、
前記ダルワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記胴部の中央部側にあり、かつ前記幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下であり、
テーパー角度(θ)が0.084°未満であり、
前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に3mm以上離間しており、
前記調質圧延機が、4段式または6段式の調質圧延機であることを特徴とする調質圧延機のバックアップロール。」
に訂正する。(請求項3の記載を引用する請求項4、5及び7も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1ないし3のいずれか1項に記載のバックアップロールを前記圧延スタンドの少なくとも1つに備えることを特徴とする調質圧延機。」
と記載されているのを
「請求項3に記載のバックアップロールを前記圧延スタンドの少なくとも2つに備えることを特徴とする調質圧延機。」
に訂正する。(請求項4の記載を引用する請求項5及び7も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に
「胴部の幅方向断面形状が、平行部とテーパー部とからなるバックアップロールを備える1つ以上の圧延スタンドを有し、一対のワークロール間に金属帯を通して調質圧延を行う調質圧延方法において、
前記ワークロールが、ダルワークロールまたはブライトワークロールであって、
前記ダルワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記ロール胴部の中央部側にあるバックアップロールを用い、
前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に離間しているバックアップロールを用いて
調質圧延を行うことを特徴とする調質圧延方法。」
と記載されているのを
「胴部の幅方向断面形状が、平行部とテーパー部とからなる一対のバックアップロールを備える2つ以上の圧延スタンドを有し、一対のワークロール間に金属帯を通して4段式または6段式の調質圧延を行う調質圧延方法において、
前記ワークロールが、ダルワークロールまたはブライトワークロールであって、
前記ダルワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記ロール胴部の中央部側にあるバックアップロールを用い、かつ前記幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下であり、
テーパー角度(θ)が0.084°未満であり、
前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に3mm以上離間しているバックアップロールを用いて
調質圧延を行うことを特徴とする調質圧延方法。」
に訂正する。(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1及び2について
訂正事項1及び2に係る訂正は、本件訂正前の請求項1及び2を削除するものであるから、その目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また、訂正事項1及び2に係る訂正が、本件特許に係る願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであることや、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
(2)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3が、請求項1の記載を引用する記載であったものを請求項1の記載を引用しないものとし、さらに、本件訂正前の請求項1に記載された「1つ以上の圧延スタンド」を「2つ以上の圧延スタンド」に限定し、同じく「調質圧延機におけるバックアップロール」を「調質圧延機における一対のバックアップロール」に限定し、同じく「ダルワークロールを備えたスタンド」について、「前記幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下であり、テーパー角度(θ)が0.084°未満」であることを付加し、同じく「ブライトワークロールを備えたスタンド」について、「胴部端部側に離間」することを「胴部端部側に3mm以上離間」することに限定するものであるから、訂正事項3に係る訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び同1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項3のうち、請求項3の記載を、請求項1の記載を引用しないものとすることにより付加された事項は、本件明細書等の請求項1に記載されている。
(イ)訂正事項3のうち、「2つ以上の圧延スタンド」は、本件明細書等の【0059】に「・・・本実施例においては、2スタンド6段式の乾式調質圧延機を対象に説明したが、スタンドの数を1あるいは3以上有する調質圧延機・・・についても同様に本発明が適用される・・・」と記載されている。
(ウ)訂正事項3のうち、「調質圧延機における一対のバックアップロール」は、本件明細書等の図2及び4に記載されている。
(エ)訂正事項3のうち、ダルワークロールを備えたスタンドについて、幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下であることは、本件明細書等の【0030】に「テーパー長(LT)は、85mm以上が好ましい。より好ましくは、85~115mmである。」と記載されている。そして、【0047】の「No.Cは、平行部端部が板端部上(±0mm)にあり、テーパー長(LT)は85mmで、このときのテーパー角度(θ)は0.084°である。」との記載によれば、テーパー長が85mmの場合は、平行部端部が板端部上にあることから、請求項3で特定するように、平行部端部の位置を板端部よりも胴部の中央部側とするためには、テーパー長が85mm超となることは明らかである。
(オ)訂正事項3のうち、テーパー角度(θ)が0.084°未満であることは、本件明細書等の【0047】に「No.Cは、平行部端部が板端部上(±0mm)にあり、テーパー長(LT)は85mmで、このときのテーパー角度(θ)は0.084°である。」と記載されているところ、上記(エ)のとおり、テーパー長が85mm、すなわち、テーパー角度が0.084°の場合は、平行部端部が板端部上にあることから、平行部端部の位置を板端部よりも胴部の中央部側とするためには、テーパー長が85mm超、すなわち、テーパー角度が0.084°未満となることは明らかである。
(カ)訂正事項3のうち、ブライトワークロールを備えたスタンドについて、胴部端部側に3mm以上離間することについては、本件明細書等の【0032】に「金属帯の板端部から前記胴部の端部側に離間している幅は、3mm以上が好ましいことが分かった」と記載されている。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、上記アのとおり、請求項3の記載を請求項1の記載を引用しないものとし、さらに、特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかであるから、訂正事項3に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
(3)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は、本件訂正前の請求項4が、請求項1ないし3のいずれか1項の記載を引用していたものを、請求項3の記載を引用するものに限定し、さらに、本件訂正前の請求項4に記載された「バックアップロールを前記圧延スタンドの少なくとも1つに備える」ことを「バックアップロールを前記圧延スタンドの少なくとも2つに備える」ことに限定するものであるから、訂正事項4に係る訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無
バックアップロールを圧延スタンドの少なくとも2つに備えることは、本件明細書等の【0059】に「・・・本実施例においては、2スタンド6段式の乾式調質圧延機を対象に説明したが、スタンドの数を1あるいは3以上有する調質圧延機・・・についても同様に本発明が適用される・・・」と記載されているから、訂正事項4に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、上記アのとおり、特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかであるから、訂正事項4に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
(4)訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5は、本件訂正前の請求項6に記載された「バックアップロールを備える1つ以上の圧延スタンド」を「一対のバックアップロールを備える2つ以上の圧延スタンド」に限定し、同じく「調質圧延を行う調質圧延方法」を「4段式または6段式の調質圧延を行う調質圧延方法」に限定し、同じく「ダルワークロールを備えたスタンド」について、「前記幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下であり、テーパー角度(θ)が0.084°未満」であることを付加し、同じく「ブライトワークロールを備えたスタンド」について、「胴部端部側に離間」することを「胴部端部側に3mm以上離間」することに限定するものであるから、訂正事項5に係る訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無
訂正事項5のうち、「4段式または6段式の調質圧延」については、本件明細書等の請求項3に「4段式または6段式の調質圧延機」として実質的に記載されている。
また、訂正事項5に係るその他の事項は、訂正事項3に係る事項と同様のものであるから、訂正事項3と同様に、訂正事項5に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、上記アのとおり、特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかであるから、訂正事項5に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
4 一群の請求項〔1~7〕について
(1)本件訂正前の請求項1~5、7について、請求項2~5、7は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1により請求項1が訂正されるから、訂正前の請求項1~5、7に対応する訂正後の請求項1~5、7は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項を構成する。
(2)本件訂正前の請求項6~7について、請求項7は、請求項6の記載を引用するものであり、訂正事項5により請求項6が訂正されるから、訂正前の請求項6~7に対応する訂正後の請求項6~7は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項を構成する。
(3)上記(1)~(2)の一群の請求項は、請求項7を共通とするものであるから、組み合わされて1つの一群の請求項となる(特許法施行規則45条の4)。
したがって、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7は、一群の請求項〔1~7〕である。
5 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、請求項1~7を対象としているので、訂正事項1~5に関して、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
6 本件訂正と先の訂正請求との関係についての付言
先の訂正請求は取り下げられたものとみなされるが、先の訂正請求に係る訂正事項と、本件訂正の訂正事項との関係について付言すると、以下に示すように、本件訂正は、先の訂正請求に係る訂正事項の軽微な不備を改めたものといえる。
(1)先の訂正請求に係る訂正事項1~2、4は、本件訂正の訂正事項1~2、4と一致する。
(2)先の訂正請求に係る訂正事項3(請求項3の訂正)のうち、
「テーパー長(LT)が85~115mmであり、テーパー角度(θ)が0.084°以下」という記載について、本件訂正の訂正事項3は、
「テーパー長(LT)が85mm超、115mm以下であり、テーパー角度(θ)が0.084°未満」と記載される点で相違し、訂正事項3のその余の記載は一致するところ、上記3(2)イ(エ)及び(オ)に示すとおり、テーパー長が85mmの場合や、テーパー角度が0.084°の場合には、請求項3における「前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記胴部の中央部側にあり」という記載と整合しないことから、本件訂正の訂正事項3は、先の訂正請求に係る訂正事項3の軽微な不備を改めたものに相当するといえる。
(3)本件訂正の訂正事項5(請求項6の訂正)は、本件訂正の訂正事項3と同様の訂正であって、上記(2)と同様の理由により、先の訂正請求に係る訂正事項5の軽微な不備を改めたものに相当するといえる。
(4)したがって、本件訂正は、先の訂正請求に係る訂正事項の軽微な不備を改めたものといえる。
7 小括
以上のとおり、本件訂正は、訂正の要件を全て満たすものであるから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認容されたから、本件特許の請求項3~7に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明3」などという。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである。なお、請求項1~2は削除された。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
一対のワークロール間に金属帯を通して調質圧延を行う2つ以上の圧延スタンドを備える調質圧延機における一対のバックアップロールであって、
該バックアップロールの胴部の幅方向断面形状は、平行部とテーパー部とからなり、
前記平行部は、前記バックアップロールの胴部の中央部に形成され、
前記テーパー部は、前記バックアップロールの胴部の端部から前記平行部の端部へ形成され、
前記ワークロールが、ダルワークロールまたはブライトワークロールであって、
前記ダルワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記胴部の中央部側にあり、かつ前記幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下であり、
テーパー角度(θ)が0.084°未満であり、
前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に3mm以上離間しており、
前記調質圧延機が、4段式または6段式の調質圧延機であることを特徴とする調質圧延機のバックアップロール。
【請求項4】
請求項3に記載のバックアップロールを前記圧延スタンドの少なくとも2つに備えることを特徴とする調質圧延機。
【請求項5】
請求項4に記載の調質圧延機を用いて調質圧延を行うことを特徴とする調質圧延方法。
【請求項6】
胴部の幅方向断面形状が、平行部とテーパー部とからなる一対のバックアップロールを備える2つ以上の圧延スタンドを有し、一対のワークロール間に金属帯を通して4段式または6段式の調質圧延を行う調質圧延方法において、
前記ワークロールが、ダルワークロールまたはブライトワークロールであって、
前記ダルワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記ロール胴部の中央部側にあるバックアップロールを用い、かつ前記幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下であり、
テーパー角度(θ)が0.084°未満であり、
前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に3mm以上離間しているバックアップロールを用いて
調質圧延を行うことを特徴とする調質圧延方法。
【請求項7】
前記調質圧延が乾式であることを特徴とする請求項5または6に記載の調質圧延方法。」
第4 本件取消理由の概要
先の訂正請求によって訂正される請求項3に係る特許に対して、当審が令和7年12月16日付けで特許権者に通知した本件取消理由の概要は、次のとおりである。
明確性の取消理由
(1)テーパー角度の明確性
先の訂正請求によって訂正される請求項3は、テーパー角度について「0.084以下」と記載され、「0.084°」が含まれると解されるが、本件明細書等の【0047】には、「0.084°」において、バックアップロールの胴部の平行部の端部が板端部の上にあることが記載されているから、請求項3の「平行部の端部の位置が前記金属板の板端部よりも前記胴部の中央部側にあり」という事項と整合しない。
したがって、先の訂正請求によって訂正される請求項3において、テーパー角度が「0.084°」であることと、「平行部の端部の位置が前記金属板の板端部よりも前記胴部の中央部側にあり」という事項との関係が明確であるとはいえない。
(2)テーパー長の明確性
先の訂正請求によって訂正される請求項3は、テーパー長について「85~115mm」と記載され、「85mm」を含むかどうか明確であるとはいえない。
したがって、先の訂正請求によって訂正される請求項3において、テーパー長が「85mm」を含むかどうか明確であるとはいえない。
第5 本件取消理由の当審の判断
本件発明3は、テーパー角度について「0.084°未満」と特定されているから、「0.084°」を含まないことが明確である。
また、テーパー長について、「85mm超、115mm以下」と特定されているから、「85mm」を含まないことが明確である。
したがって、本件発明3は、テーパー角度及びテーパー長のいずれについても明確であるから、本件取消理由によって、本件発明3に係る特許を取り消すことはできない。
第6 本件取消理由で採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立人による特許異議申立理由は、以下のとおり整理することができる。
(1)甲第1号証による新規性の理由
本件訂正前の請求項1、4~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
(2)甲第2号証による進歩性の理由
ア 本件訂正前の請求項1、6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項から容易に発明をすることができたものである。
イ 本件訂正前の請求項1、6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、並びに甲第1号証及び甲第3号証に係る周知技術から容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件訂正前の請求項2~5、7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証~甲第4号証に記載された事項から容易に発明をすることができたものである。
(3)甲第4号証による進歩性の理由
ア 本件訂正前の請求項1、6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明、並びに甲第1号証及び甲第3号証に係る周知技術から容易に発明をすることができたものである。
イ 本件訂正前の請求項2~5、7に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証~甲第3号証に記載された事項から容易に発明をすることができたものである。
(4)明確性の理由
本件訂正前の請求項1~5は、ある具体的なバックアップロールが請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていないから、発明が明確であるとはいえない。
2 申立人が提出した証拠
(1)特許異議申立書に添付された証拠
申立人は、特許異議申立書に添付して、以下の書証を提出した。
甲第1号証:特公平8-2453号公報
甲第2号証:特開昭60-250812号公報
甲第3号証:貝原利一、ほか5名、「プロセッシングラインにおける高精度形状制御技術」、日立論評 第70巻第6号、日立論評社発行、昭和63年6月25日、645~652及び110ページ
甲第4号証:特開平1-170505号公報
(以下、各甲号証を「甲1」などという。)
(2)令和6年11月13日の意見書に添付された証拠
申立人は、令和6年11月13日提出の意見書に添付して、以下の書証を提出した。
参考資料1:特開2018-15801号公報
参考資料2:特開平7-178437号公報
参考資料3:特開昭63-10003号公報
(以下、各参考資料を「参考1」などという。)
3 甲1の記載事項及び甲1発明
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。(なお、申立人が提出した甲1には、欄数及び行数が記載されていないが、特許庁が出願公告日に刊行物として発行した特公平8-2453号公報には、欄数及び行数が記載されているので、甲1の記載箇所は、当該欄数及び行数で特定する。)
ア 「本発明は圧延材の上下のロール本数が異なる多段圧延機に係わり、特に調質圧延或いはアルミの圧延に好適な5段圧延機、多段圧延機、調質圧延機、及び多段圧延機の圧延方法に関する。」(2ページ4欄46~49行)
イ 「即ち、一例として調質圧延の特徴を列記すると
・・・
ii)製品表面を梨地とするため、作業ロール表面を荒したダルロールが使用される場合が多い。」(3ページ6欄16~20行)
ウ 「〔作用〕
第1番目の発明では、中間ロールを備えた5段圧延機における前記中間ロールの胴長を圧延材の最大板幅より大きく形成し、前記上下作業ロールの夫々のロール端に上作業ロール用及び下作業ロール用のロールベンディング装置を夫々設け、前記中間ロールのロール端に中間ロール用のロールベンデイング装置を設けたことによつて、中間ロールはそのロール全長に亘つてロールベンデイング作用が及ぶので圧延材もその板幅全体に亘つて板厚が調節可能となる。」(4ページ8欄26~35行)
エ 「例えば、調質圧延機としての代表的なロール寸法である作業ロールの直径475mm、中間ロールの直径530mm、補強ロールの直径1000mm、各ロールのロール面長2050mmで板幅1880mmの5段圧延機について、各ベンダの制御次数を計算すると表1の如くとなる。」(6ページ11欄7~11行)
オ 「以下、本発明の一実施例の圧延機を第1図、第2図、及び第3図により説明する。該図において、1、2は上下の作業ロールであり、その直径はほぼ等しい値に設定されている。3、4は上下の補強ロール、5は中間ロールで、一方の作業ロールである上作業ロール1と上補強ロール3との間に設けられている。」(9ページ17欄7~12行)
カ 「更に本発明の効果を拡大する為には第4図、及び第5図に示す如く、6H側の補強ロール3の有効胴長を圧延材の最大板幅より小さくする。すなわち、第5図で4H側の補強ロール4の有効胴長L、最大板幅Bmax、6H側の補強ロール3の有効胴長lとすると、L>Bmax>lとするか、あるいは補強ロール4に高次の適当なロールクラウンをつけることにより6H側の作業ロール1と中間ロール5のベンデイング効果を制御次数で変らずに拡大できるわけである。」(9ページ18欄33~41行)
キ 第5図(B)
「
[図:0001436131000001.jpg]
」
ク 「本発明の圧延機におけるロールベンデイングの効果を拡大する他の例は、第6及び7図に示す如く、6H側の中間にロール5の胴長を圧延材6の最大板幅より大きい範囲で極力小さくすることである。即ち中間ロール5の面長を小さくすることは大径の補強ロール3との接触がロール端部で無くなるため6H側の中間ロール5のベンダ効果のみならず上作業ロール1のベンダの効果が拡大することになる。」(10ページ19欄29~36行)
(2)甲1記載の技術的事項
上記(1)の甲1の記載事項から、次の技術的事項を理解できる。
ア 甲1には、圧延材の上下のロール本数が異なる調質圧延機が記載されており(上記(1)ア)、調質圧延には、ダルロールが使用される場合が多い(上記(1)イ)から、甲1の調質圧延機にはダルロールが使用されるといえる。
イ 第5図(B)には、一対の作業ロール1、2間に圧延材6を通して圧延を行う1つの圧延スタンドを備える調質圧延機が示されており、作業ロール1、2のロール端と中間ロール5のロール端にロールベンディング装置を設けている(上記(1)ウ)。
ウ 第5図(B)の調質圧延機の補強ロール3の形状は、有効胴長lとテーパー部とからなり、有効胴長lは、補強ロール3の胴部の中央部に形成され、テーパー部は、補強ロール3の胴部の端部から有効胴長lの端部へ形成されているといえる。
エ 補強ロール3の有効胴長lを、圧延材の最大板幅Bmaxより小さくすることにより、作業ロール1と中間ロール5のロールベンディング効果を拡大できる。(上記(1)カ)
オ 調質圧延機としての代表的なロール寸法について、「各ロールのロール面長2050mmで板幅1880mm」(上記(1)エ)とされているところ、このロール「面長」という用語は、「6H側の中間にロール5の胴長を圧延材6の最大板幅より大きい範囲で極力小さくすることである。即ち中間ロール5の面長を小さくすること」(上記(1)ク)と記載されるように、「胴長」という用語と同じ意味と解される。
そして、上記エの有効胴長lは、代表的なロール寸法であるロール面長2050mmとは異なることになるが、その具体的な数値は不明である。
カ 第5図(B)の調質圧延機の補強ロール4の形状は、有効胴長Lのみからなり、有効胴長Lは、圧延材の最大板幅Bmaxより大きいが、有効胴長Lの具体的な数値は不明である。
キ 補強ロール3及び補強ロール4は、それぞれ1つであるから一対といえる。
(3)甲1発明
上記(2)の技術的事項をまとめると、甲1には、次の発明が記載されているといえる。
「一対の作業ロール1、2間に板幅が1880mmの圧延材6を通して圧延を行う1つの圧延スタンドを備える調質圧延機における一対の補強ロール3及び補強ロール4であって、
該補強ロール3の胴部の形状は、有効胴長lとテーパー部とからなり、
該補強ロール4の胴部の形状は、有効胴長Lのみからなり、
前記有効胴長lは、補強ロール3の胴部の中央部に形成され、
前記テーパー部は、前記補強ロール3の胴部の端部から前記有効胴長lの端部へ形成され、
前記作業ロール1、2が、ダルロールであって、
前記ダルロールを備えたスタンドでは、前記補強ロール3の前記有効胴長lを圧延材の最大板幅Bmax、すなわち、1880mmより小さくすることにより、作業ロール1と中間ロール5のロールベンディング効果を拡大でき、
前記調質圧延機が、5段式の調質圧延機である調質圧延機の補強ロール3及び補強ロール4。」(以下「甲1発明」という。)
4 甲4の記載事項及び甲4発明
(1)甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
ア 「本発明は、ワークロールにダルロールを使用した際に生じるロール間の焼付きを防止したダル仕上げロールによる圧延方法に関する。」(1ページ左下欄13~15行)
イ 「また、ダルロールは冷間圧延最終スタンドや調質圧延に用いられることが多い。」(1ページ右下欄2~4行)
ウ 「ダルロールをワークロールに使用する圧延機としては、例えば第3図に示すような6段式調質圧延機がある。3a、3bは直接圧延すべき鋼板と転接する一対をなすワークロール、4a、4bは一対のバックアップロール5a、5b間に介在する中間ロールであって、この圧延機ではこの中間ロール4a、4bを軸方向にシフトするとともにワークロールベンダーを作動させて鋼板の耳伸び、腹伸び等に対して有効に形状矯正を行うことのできる構成となっている。またワークロールの表面粗度を鋼板表面に転写しやすいことや、後工程での脱脂を容易にするなどの目的で、調質圧延剤を使用しない、いわゆるドライ圧延を行うことが多い。」(1ページ右下欄5行~下から3行)
エ 第3図(a)
「
[図:0001436131000002.jpg]
」
オ 第3図(b)
「
[図:0001436131000003.jpg]
」
(2)甲4記載の技術的事項
上記(1)の甲4の記載事項から、次の技術的事項を理解できる。
ア 甲4には、6段式調質圧延機が記載されており、当該調質圧延機はダルロールをワークロールに使用している(上記(1)ウ)。
イ 第3図(a)及び(b)には、一対のワークロール3a、3b間に鋼板2を通して調質圧延を行う1つの圧延スタンドを備える調質圧延機が示されている。
ウ 第3図(b)の調質圧延機のバックアップロール5a、5bの形状は、直線状の部分とテーパー部とからなり、直線状の部分は、バックアップロール5a、5bの胴部の中央部に形成され、テーパー部は、バックアップロール5a、5bの胴部の端部から直線状の部分の端部へ形成されているといえる。
(3)甲4発明
上記(2)の技術的事項をまとめると、甲4には、次の発明が記載されているといえる。
「一対のワークロール3a、3b間に鋼板2を通して調質圧延を行う1つの圧延スタンドを備える調質圧延機における一対のバックアップロール5a、5bであって、
該バックアップロール5a、5bの胴部の形状は、直線状の部分とテーパー部とからなり、
前記直線状の部分は、バックアップロール5a、5bの胴部の中央部に形成され、
前記テーパー部は、前記バックアップロール5a、5bの胴部の端部から前記直線状の部分の端部へ形成され、
前記ワークロール3a、3bが、ダルロールであって、
前記調質圧延機が6段式の調質圧延機である調質圧延機のバックアップロール5a、5b。」(以下「甲4発明」という。)
5 甲1による新規性の理由について
(1)本件訂正前の請求項1の新規性について
本件訂正により請求項1は削除されたから、本件訂正前の請求項1の新規性(上記1(1))に係る特許異議申立の対象が存在しない。
(2)本件発明3及び4の新規性について
ア 本件発明3と甲1発明の対比
甲1による新規性の理由では、本件発明4を対象とし、本件発明3を対象としていないが、本件発明4は本件発明3を引用するから、まず、本件発明3の新規性について検討する。
本件発明3と甲1発明を対比すると、甲1発明の「一対の作業ロール1、2」が、本件発明3の「一対のワークロール」に相当することは明らかであり、以下同様に、「圧延材6」が「金属帯」に、「圧延を行う」ことが「調質圧延を行う」ことに、「一対の補強ロール3及び補強ロール4」が「一対のバックアップロール」に、「前記作業ロール1、2が、ダルロール」であることが、「前記ワークロールが、ダルワークロール」であることに、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「5段式の調質圧延機」と、本件発明3の「4段式または6段式の調質圧延機」を対比すると、両者は「多段式の調質圧延機」という点で一致する。
イ 本件発明3と甲1発明の一致点及び相違点
上記の対比を踏まえると、本件発明3と甲1発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点1~4で相違する。
[一致点]
「一対のワークロール間に金属帯を通して調質圧延を行う圧延スタンドを備える調質圧延機における一対のバックアップロールであって、
前記ワークロールが、ダルワークロールであって、
前記調質圧延機が、多段式の調質圧延機である調質圧延機のバックアップロール。」である点。
[相違点1]
本件発明3は「該バックアップロールの胴部の幅方向断面形状は、平行部とテーパー部とからなり、前記平行部は、前記バックアップロールの胴部の中央部に形成され、前記テーパー部は、前記バックアップロールの胴部の端部から前記平行部の端部へ形成され」るのに対して、甲1発明は「補強ロール3」については、「胴部の形状は、有効胴長lとテーパー部とからなり、」「前記有効胴長lは、補強ロール3の胴部の中央部に形成され、前記テーパー部は、前記補強ロール3の胴部の端部から前記有効胴長lの端部へ形成」されるが、「該補強ロール4」の形状は、「有効胴長Lのみから」なり、テーパー部を有していない点。
[相違点2]
本件発明3は「前記ダルワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記胴部の中央部側にあり、かつ前記幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下であり、テーパー角度(θ)が0.084°未満」であるのに対して、甲1発明は「前記ダルロールを備えたスタンドでは、前記補強ロール3の前記有効胴長lを圧延材の最大板幅Bmax、すなわち、1880mmより小さくする」が、テーパーの長さや角度は不明な点。
[相違点3]
調質圧延機が、本件発明3は「2つ以上の圧延スタンドを備え」、「4段式または6段式」であるのに対して、甲1発明は「1つの圧延スタンドを備え」、「5段式」である点。
[相違点4]
本件発明3は「前記ワークロールが、」「ブライトワークロール」である場合を含み、「前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に3mm以上離間」しているのに対して、甲1発明は、ワークロールがブライトワークロールである場合に、バックアップロールの胴部の幅方向断面形状が平行部とテーパー部とからなるか不明であるし、平行部の端部が金属帯の板端部とどの程度離間するかも不明な点。
ウ 本件発明3及び4の新規性の判断
上記のとおり、本件発明3と甲1発明は相違点1~4で相違するから、本件発明3が甲1発明であるということはできない。
また、本件発明4は、本件発明3を引用し、本件発明3の発明特定事項を全て含むからから、本件発明3と同様に、本件発明4が甲1発明であるということはできない。
(3)本件発明5の新規性について
本件発明5は、本件発明4を引用し、本件発明4の発明特定事項を全て含むからから、本件発明4と同様に、本件発明5が甲1発明であるということはできない。
(4)本件発明6の新規性について
本件発明6は、以下に示すように、相違点1~4に係る本件発明3の構成と同様の構成を備えている。
・相違点1に係る構成と同様の「胴部の幅方向断面形状が、平行部とテーパー部とからなる一対のバックアップロール」に係る構成。
・相違点2に係る構成と同様の「前記ダルワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記ロール胴部の中央部側にあるバックアップロールを用い、かつ前記幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下であり、テーパー角度(θ)が0.084°未満」に係る構成。
・相違点3に係る構成と同様の「2つ以上の圧延スタンドを備える」構成及び「4段式または6段式の調質圧延を行う調質圧延方法」に係る構成。
・相違点4に係る構成と同様の「前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に3mm以上離間しているバックアップロール」に係る構成。
そして、甲1には、甲1発明に係る補強ロール3及び補強ロール4を用いて調質圧延を行う方法の発明(以下「甲1の方法発明」という。)についても実質的に記載されるといえるところ、本件発明6と甲1の方法発明を対比すると、相違点1~4と同様の点で相違するから、本件発明6が甲1の方法発明であるということはできない。
(5)甲1による新規性の理由の小括
以上のとおりであるから、甲1による新規性の理由により、本件特許の本件発明4~6に係る特許を取り消すことはできない。
6 甲4による進歩性の理由について
事案に鑑みて、上記1(2)の甲2による進歩性の理由より先に、同(3)の甲4による進歩性の理由について検討する。
(1)本件訂正前の請求項1~2の進歩性について
本件訂正により請求項1~2は削除されたから、本件訂正前の請求項1~2の進歩性(上記1(3)ア及びイ)に係る特許異議申立の対象が存在しない。
(2)本件発明3の進歩性について
ア 本件発明3と甲4発明の対比
本件発明3と甲4発明を対比すると、甲4発明の「一対のワークロール3a、3b」が本件発明3の「一対のワークロール」に相当することは明らかであり、以下同様に、「鋼板2」が「金属帯」に、「バックアップロール5a、5b」が「バックアップロール」に、「胴部の形状」が「胴部の幅方向断面形状」に、「直線状の部分」が「平行部」に、「ダルロール」が「ダルワークロール」に、それぞれ相当する。
また、甲4発明の「1つの圧延スタンド」と、本件発明3の「2つ以上の圧延スタンド」を対比すると、両者は「圧延スタント」という点で一致する。
以上から、本件発明3と甲4発明は、以下の一致点で一致し、相違点5~8で相違する。
[一致点]
「一対のワークロール間に金属帯を通して調質圧延を行う圧延スタンドを備える調質圧延機における一対のバックアップロールであって、
該バックアップロールの胴部の幅方向断面形状は、平行部とテーパー部とからなり、
前記平行部は、前記バックアップロールの胴部の中央部に形成され、
前記テーパー部は、前記バックアップロールの胴部の端部から前記平行部の端部へ形成され、
前記ワークロールが、ダルワークロールである、
前記調質圧延機が、6段式の調質圧延機である調質圧延機のバックアップロール。」
である点。
[相違点5]
本件発明3のバックアップロールの調質圧延機は、圧延スタンドを「2つ以上」備えるのに対して、甲4発明のバックアップロール5a、5bの調質圧延機は、圧延スタンドを「2つ以上」備えるのか不明な点。
[相違点6]
バックアップロールの胴部の幅方向断面形状に関し、本件発明3は、「前記ダルワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記胴部の中央部側にあり、かつ前記幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下」であり、「テーパー角度(θ)が0.084°未満」であるのに対して、甲4発明は、ダルロールを備えたスタンドでは、直線状の部分の端部の位置が鋼板2の板端部よりも胴部の中央部側にあるかどうか不明であり、テーパー部の長さや角度も不明な点。
[相違点7]
本件発明3は「前記ワークロールが、」「ブライトワークロール」である場合を含み、「前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に3mm以上離間」しているのに対して、甲4発明は、ワークロールがブライトワークロールである場合に、バックアップロールの胴部の幅方向断面形状が平行部とテーパー部とからなるか不明であるし、平行部の端部が金属帯の板端部とどの程度離間するかも不明な点。
[相違点8]
本件発明3は「4段式」の調質圧延機を含むのに対して、甲4発明は「4段式」の調質圧延機を含むかどうか不明な点。
イ 相違点の判断
(ア)相違点6について
(a)事案に鑑みて、相違点6について検討すると、甲1には、上記3(2)エに示すとおり、補強ロール3の前記有効胴長lを圧延材の最大板幅Bmax、すなわち、1880mmより小さくすることが示されており、これにより、平行部(有効胴長)の端部の位置が金属帯(圧延材)の板端部よりも胴部の中央部側にあるといえる。
しかし、甲1には、テーパー部の長さや角度について、具体的な記載はないし、申立人が提出した甲2~甲3及び参考1~参考3を参照しても、テーパー部の長さや角度について、具体的な記載はない。
したがって、相違点6に係る本件発明3の構成が、甲4発明並びに甲1~甲3及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
(b)申立人は、令和7年9月19日に意見書を提出し、甲3には、調質圧延機において、端部にテーパー部を有する補強ロールの有効胴長が短すぎると、すなわち、補強ロールのテーパー部の長さが長すぎると、材料の中伸びが生じることが記載されているから、甲4発明のパックアップロールの胴部の幅方向断面形状について、甲3の記載事項を適用して、鋼板の中伸びが生じないように、パックアップロールのテーパー長を85mm超、115mm以下に設定することは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最満化又は好適化にすぎない旨を主張している(上記意見書の2~3ページ)。
(c)しかし、甲3には、補強ロールの有効胴長について記載されているにすぎず、テーパー部の長さについて記載されているわけではない。
申立人は、補強ロールの有効胴長が短くなれば、テーパー部の長さが長くなることを説明しているところ、当該説明は、補強ロールのテーパー部と有効胴長の合計長さが一定であることを前提とすれば、妥当といえるが、甲3には、補強ロールのテーパー部と有効胴長の合計長さを一定とすることについて開示されていないから、申立人の説明は前提を欠き、失当である。
(d)さらに、甲3には、ワークロールがダルワークロールであるかどうか明記がないから、甲4発明のようにダルワークロールを備えた調質圧延機のバックアップロールとして、甲3の記載事項を適用する動機があるとはいえない。
したがって、上記(a)のとおり、相違点6に係る本件発明3の構成が、甲4発明並びに甲1~甲3及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
(イ)相違点7について
事案に鑑みて、相違点7についても検討すると、申立人は、特許異議申立書の33ページにおいて、甲3の647ページ右欄6~11行には、補強ロールの有効胴長が1400mmであり、ストリップの最小板幅が700mmであるから、補強ロールの平行部の端部は、最小板幅のストリップの板端部からロール胴部端部側に離間していることが示されている旨を主張している。
しかし、甲3には、ワークロールがブライトワークロールであるかどうか明記がないから、相違点7のように、「前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に3mm以上離間」している構成が示されているとはいえない。
また、申立人が提出した甲1~甲2及び参考1~参考3を参照しても、ワークロールがブライトワークロールである場合に、ブライトワークロールを備えたスタンドでは、平行部の端部が金属帯の板端部からロール胴部端部側に3mm以上離間させることについて、記載や示唆はない。
したがって、相違点7に係る本件発明3の構成が、甲4発明並びに甲1~甲3及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
ウ 小括
上記イのとおりであるから、相違点5及び8について検討するまでもなく、本件発明3は、甲4発明並びに甲1~甲3及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明4~5の進歩性について
本件発明4~5は、本件発明3を直接的又は間接的に引用し、本件発明3の発明特定事項を全て含むからから、本件発明3と同様に、本件発明4~5は、甲4発明並びに甲1~甲3及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明6の進歩性について
本件発明6は、以下に示すように、相違点5~8に係る本件発明3の構成と同様の構成を備えている。
・相違点5に係る構成と同様の「2つ以上の圧延スタンド」に係る構成。
・相違点6に係る構成と同様の「前記ダルワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記ロール胴部の中央部側にあるバックアップロールを用い、かつ前記幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下であり、テーパー角度(θ)が0.084°未満」に係る構成。
・相違点7に係る構成と同様の「前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に3mm以上離間しているバックアップロール」に係る構成。
・相違点8に係る構成と同様の「4段式」の調質圧延を行う調質圧延方法」に係る構成。
そして、甲4には、甲4発明に係るバックアップロール5a、5bを用いて調質圧延を行う方法の発明(以下「甲4の方法発明」という。)についても実質的に記載されるといえるところ、本件発明6と甲4の方法発明を対比すると、相違点5~8と同様の点で相違し、そのうちの相違点6~7と同様の点は、上記(2)イ(ア)及び(イ)と同様の理由により、甲4の方法発明並びに甲1~甲3及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえないから、本件発明6は、甲4の方法発明並びに甲1~甲3及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件発明7の進歩性について
本件発明7は、本件発明5又は6を引用し、本件発明5又は6の発明特定事項を全て含むからから、本件発明5又は6と同様に、本件発明7は、甲4発明又は甲4の方法発明並びに甲1~甲3及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)甲4による進歩性の理由の小括
以上のとおりであるから、甲4による進歩性の理由により、本件特許の本件発明3~7に係る特許を取り消すことはできない。
7 甲2による進歩性の理由について
(1)本件訂正前の請求項1~2の進歩性について
本件訂正により請求項1~2は削除されたから、本件訂正前の請求項1~2の進歩性(上記1(2)ア~ウ)に係る特許異議申立の対象が存在しない。
(2)本件発明3の進歩性について
甲4による進歩性の理由で検討したとおり、相違点6に係る本件発明3の構成、すなわち、「前記ダルワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記胴部の中央部側にあり、かつ前記幅方向断面形状におけるテーパー長(LT)が85mm超、115mm以下」という構成は、申立人が提出した甲1~甲4及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない(上記6(2)イ(ア))。
同様に、相違点7に係る本件発明3の構成、すなわち、「前記ワークロールが、」「ブライトワークロール」である場合に、「前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に3mm以上離間」する構成は、申立人が提出した甲1~甲4及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない(上記6(2)イ(イ))。
したがって、本件発明3は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲2に記載された発明並びに甲1、甲3~甲4及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明4~5の進歩性について
本件発明4~5は、本件発明3を直接的又は間接的に引用し、本件発明3の発明特定事項を全て含むからから、本件発明3と同様に、本件発明4~5は、甲2に記載された発明並びに甲1、甲3~甲4及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明6の進歩性について
本件発明6は、上記6(4)に示すとおり、相違点6~7に係る本件発明3の構成と同様の構成を備えているから、本件発明3と同様に、本件発明6は、甲2に記載された発明並びに甲1、甲3~甲4及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件発明7の進歩性について
本件発明7は、本件発明5又は6を引用し、本件発明5又は6の発明特定事項を全て含むからから、本件発明5又は6と同様に、本件発明7は、甲2に記載された発明並びに甲1、甲3~甲4及び参考1~参考3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)甲2による進歩性の理由の小括
以上のとおりであるから、甲2による進歩性の理由により、本件特許の本件発明3~7に係る特許を取り消すことはできない。
8 明確性の理由について
(1)申立人は、特許異議申立書の41ページにおいて、本件訂正前の請求項1は、バックアップロールの発明であるが、調質圧延機の加工対象物である金属帯の特徴との関係で発明が特定されており、同請求項1では、金属帯の幅が不明であるから、ある具体的なバックアップロールが発明の構成要件を満たすか否かが不明であり、本件訂正前の請求項1~5に係る発明は明確でない旨を主張している。
(2)しかしながら、次のとおり、本件発明3~5は明確であるから、本件の請求項3~5に係る特許を取り消すことはできない。
ア 特許法36条6項2号において,発明の明確性を要件とする趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。
イ 本件発明3についてみると、加工対象物である金属帯との関係では、次の[事項1]及び[事項2]が特定されているといえる。
[事項1]「ダルワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部の位置が前記金属帯の板端部よりも前記胴部の中央部側にあ」ること。
[事項2]「前記ブライトワークロールを備えたスタンドでは、前記平行部の端部が前記金属帯の板端部から前記ロール胴部端部側に3mm以上離間して」いること。
ウ 申立人は、金属帯の幅が不明であるから、ある具体的なバックアップロールがあったときに、そのバックアップロールが発明の構成要件を満たすか否かが不明である旨を主張するが、第三者としての当業者であれば、当該具体的なバックアップロールについて、その平行部の端部の位置と金属帯の板端部の位置が、上記[事項1]又は[事項2]を満たすか否かにより、本件発明3の構成要件を満たすか否かを明確に理解できるから、本件発明3が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である、とまでいうことはできない。
(3)したがって、本件発明3は明確であり、同様に、請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明4~5も明確であるから、明確性の理由によって、本件発明3~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件訂正前の請求項1~2は削除されたから、特許異議申立の対象が存在しない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項3~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項3~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項1~2は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による請求項1~2に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700030