特許異議申立
2025-700549
厚鋼板の製造方法
- 審判番号
- 2025-700549
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-194593
- 登録番号
- 7589785
- 請求日
- 2025年05月23日
- 審決日
- 2025年09月29日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】川原 敬祐
- 【権利者代理人】酒匂 健吾
- 【異議申立人】後藤 麻衣子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 酒井 英夫
- 分類
- P1651.113-Y (C21D) / P1651.121-Y (C21D) / P1651.536-Y (C21D) / P1651.537-Y (C21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7589785号発明「厚鋼板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7589785号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7589785号(以下「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願(特願2023-194593号。以下「本願」という。)は、2022年(令和 4年) 9月22日(優先権主張 令和 3年11月19日)を国際出願日とする特願2022-578776号の一部を令和 5年11月15日に新たな特許出願としたものであって、令和 6年11月18日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月26日に特許掲載公報が発行された。本件は、その後、令和 7年 5月23日に、その請求項1~2(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である後藤 麻衣子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~2に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~2に係る発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明2」といい、総称して「本件特許発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
「【請求項1】
質量%で、
C :0.03~0.18%、
Si:0.03~0.70%、
Mn:0.30~2.50%、
P :0.030%以下、
S :0.0200%以下、
Al:0.001~0.100%、
O :0.0100%以下および
N :0.0100%以下
であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有し、
板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%以下である、厚鋼板を製造するための方法であって、
前記成分組成を有するスラブを準備する、準備工程と、
該スラブを熱間圧延する、熱間圧延工程と、をそなえ、
該熱間圧延工程における以下の(a)および(b)を満足する圧延パスでの合計の圧下率が30%超である、厚鋼板の製造方法。
(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上
(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上
【請求項2】
前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cu:2.00%以下、
Ni:2.50%以下、
Cr:1.50%以下、
Mo:1.00%以下、
Nb:0.100%以下、
Ti:0.100%以下、
V :0.30%以下、
B :0.0100%以下、
W :0.50%以下、
Ca:0.0200%以下、
Mg:0.0200%以下および
REM:0.0500%以下
からなる群より選択される1種または2種以上を含む、請求項1に記載の厚鋼板の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、下記4に示した甲第1~2号証(以下、「甲1」~「甲2」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すべきものであると主張している。
1 申立理由1(新規性、進歩性)
(1)申立理由1-1
本件特許発明2は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明2は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許発明2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2
本件特許発明1~2は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明1~2は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許発明1~2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、請求項1~2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、請求項1~2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、請求項1~2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲1:特開平9-41077号公報
甲2:特開昭60-56017号公報
第4 当合議体の判断
以下に述べるとおり、当合議体は、上記第3に示した申立理由1~3のいずれによっても、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1(新規性、進歩性)について
(1)申立理由1-1について
ア 甲1の記載事項、及び甲1に記載された発明
(ア)甲1の記載事項
本願の優先日前に公知となった甲1には、「亀裂伝搬停止特性に優れた高張力鋼板およびその製造方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様である。
a 「【請求項1】重量%で、C:0.02~0.15%、Si:0.30%以下、Mn:0.4~1.5%、Cu:1.4%以下、Ni:0.50~6.0%、Cr:0.8%以下、Mo:0.8%以下、Nb:0.05%以下、V:0.08%以下、B:0.0025%以下、Ti:0.03%以下、solAl:0.001~0.08%およびN:0.006%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板であって、該鋼板上下面のそれぞれ板厚5%以上に相当する表層部が、平均粒径10μm以下の旧オーステナイト粒をもつマルテンサイト組織、またはマルテンサイトとベイナイトの混合組織から構成されることを特徴とする低温での亀裂伝播停止特性に優れた高張力鋼板。
【請求項2】請求項1に記載する範囲の組成を有する鋼片の熱間圧延において、一次圧延後、表面温度950℃以上から、平均冷却速度15℃/s以上にて冷却し、表面温度がAr3点より25℃以上低い温度でかつ350℃以上の温度範囲に至った後、冷却を中断し、外部の熱源によってまたは鋼片内部の熱によって表面温度がAc1とAc3の中間温度以上に復熱させる過程で、冷却停止から復熱終了までの間に累積圧下率50%以上の二次圧延を行い、鋼板表層部に対してはオーステナイト未再結晶域の温度範囲にて、同時にまた板厚の中心から上下にそれぞれ20%以上の範囲に相当する鋼板中心部に対してはオーステナイト再結晶領域の温度範囲にて圧下を付与し所定の板厚の鋼板とした後、焼入れし、Ac1点以下で焼戻すことを特徴とする低温での亀裂伝播停止特性に優れた高張力鋼板の製造方法。」
b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、海洋構造物、タンク、ペンストックなどの大型鋼構造物に使用される低温靱性に優れた、とくに低温での亀裂伝播停止特性に優れた高張力鋼板、およびその鋼板を高い生産性のもとに製造する方法に関するものである。」
c 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は現有の設備を用い、かつ高価な合金元素を使用することなく、優れた低温靱性および亀裂伝播停止特性をもつ780~950MPa級高張力鋼板およびその製造方法を提供することを課題としてなされたものである。
・・・
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、TSレベル780~950MPa級の高張力鋼板の板厚方向の組織を変化させて、低温靱性、とくに低温での亀裂伝播停止特性を向上させる検討をおこなった。その結果、以下の組織を有する鋼板およびその組織を与える圧延および熱処理方法が目的を達成することを確認した。」
d 「【0033】表層部においてこのような組織を持つ鋼板は次に説明する圧延および熱処理方法によって製造することができる。
【0034】3.圧延および熱処理条件
鋼片加熱温度:鋼片加熱温度は、完全にオーステナイト化することおよび後記する冷却後復熱中の圧延において鋼板中心部の温度を再結晶領域とするために950℃以上、望ましくは圧延能率向上のために1000℃以上とする。しかし、オーステナイト結晶粒の粗大化を防止するため1250℃を上限とするのが望ましい。
【0035】圧延および冷却:加熱後、鋼片は一次圧延に供され、その後鋼片は冷却される。冷却開始前の表面温度は中心部と大きな差異はない。図1は鋼板製造中の表面温度、表層部温度A(表面から板厚の5%の厚さ位置)および中心部の温度B(板厚中心位置)を示す図面である。同図において、強制冷却開始温度は表面温度で950℃以上から行わなければならない。このときの冷却速度は、表層部と板厚中心部との温度差が充分つき板厚中心部では高温に保たれるように表面での冷却速度で15℃/s以上となる条件で冷却する必要がある。表面温度950℃以上から、冷却速度15℃/s以上にて冷却することにより、後記する復熱途中の二次圧延の際、表層部では未再結晶域圧延であり同時に中心部では再結晶域圧延となる状態が現出する。冷却速度が大きくなりすぎ冷却が適切な温度域で停止しないことを避けるために、平均冷却速度は25℃/s以下が望ましい。これら冷却速度は通常の制御冷却装置により制御できる範囲内のものである。
【0036】なお、表面温度は実測することができるが、内部の温度分布は測定が容易でないので計算によって推定した。
【0037】冷却における表面温度:前記した冷却における表面温度は、Ar3点より25℃以上低くかつ350℃以上にする必要がある。この結果、表面のみならず表面から板厚5%以上内側に入った位置においてもAr3点以下に冷却され転位密度の高いマルテンサイトあるいはベイナイトが生成する。これら自体に対しても圧下を加え、さらに転位密度を高くすると、復熱によりオーステナイトに逆変態するとき極めて微細なオーステナイト粒が得られる。
【0038】この冷却により板厚中心部に効果的に圧下をかけることが可能となる。本発明の組成範囲内の鋼の場合、Ar3点は、フェライト変態開始温度ではなく、ベイナイトまたはマルテンサイトの変態開始温度を意味し、450~500℃付近の温度である。充分な量のベイナイトまたはマルテンサイトを生成させるには、Ar3点より50℃以上低い温度に冷却されることが望ましい。Ar3点より50℃以上低い温度に冷却することにより、Ar3点以下に冷却される表層部は表面片側づつ板厚の5%を超え、したがって合計10%を超える。この結果、微細な組織の範囲が広がり、かつ中心部への圧下の効果が強化される。しかし、350℃より低温に冷却すると鋼板中心部にも冷却の効果が及び、復熱が不十分となるので350℃より低くすることは避けなければならない。
【0039】復熱中の圧延:図1に示すように、表面温度をAr3点より25℃以上低い温度に急冷し、途中でその冷却を停止した後、外部の熱源によって加熱した後、または鋼片内部の熱によって復熱中に二次圧延を行う。外部の熱源による加熱は、あくまで補助的な加熱であり、中心部と表層部の温度の高低を逆転させるほどの加熱は行わない。この加熱はガス加熱炉、高周波加熱装置あるいは直接通電加熱装置等による加熱でよく、加熱方法にはとくに制約はない。外部からの加熱は圧延ライン上で行ってもよいし、またバイパスを設けてバイパスを通過中に行ってもよい。急冷停止からAc1とAc3の中間温度以上に復熱する間に累積圧下率50%以上の二次圧延を行う。この二次圧延は、鋼板表層部に対してはオーステナイト未再結晶域の温度範囲にあり、同時に板厚中心から上下に20%以上合計40%以上に相当する鋼板中心部(図1に示す中心部)に対してはオーステナイト再結晶領域の温度範囲となる状態で圧下を付与することになる。表層部と中心部とで温度差があり、かつ表層部は未再結晶温度域での圧延により加工歪が解消せずに加工硬化しているので、圧下は板厚中心部に有効にかかり、内部の再結晶したオーステナイト粒径を微細化する。鋼板の表層部および中心部の温度分布は前記したように計算により推定可能である。」
e 「【0050】表1は本発明で定める組成範囲内の組成を有する発明鋼5種およびその範囲外の比較鋼7種の組成を示す一覧表である。表2はこれら鋼のAc1点およびAc3点を示す一覧表である。これらの組成を有する鋼を実験室的に溶製し、鋳造により得られた鋼片を種々の圧延および熱処理条件に供し板厚50および78mmの鋼板とした。表3はこれらの圧延、冷却および熱処理条件を示す一覧表である。また表4はこのような圧延および冷却に伴う板厚中心部および表層部での熱履歴を示す一覧表である。」
f 「【表1】
[図:0001428011000001.jpg]
」
g 「【表3】
[図:0001428011000002.jpg]
」
h 「【表4】
[図:0001428011000003.jpg]
」
(イ) 甲1に記載された発明
上記(ア)に摘記した甲1の記載事項を総合勘案し、特に、請求項2、【0050】の記載を前提として、発明鋼X1(表1)を用いた発明例1(表3、4)として記載された高張力鋼板の製造方法に着目すると、甲1には次の発明が記載されていると認められる。
「重量%で、C:0.12%、Si:0.12%、Mn:0.80%、Cu:0.30%、Ni:1.51%、Cr:0.55%、Mo:0.50%、V:0.033%、Ti:0.012%、B:0.0013%、solAl:0.034%、N:0.0042%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼を溶製し、鋳造により得られた鋼片を1160℃に加熱して、圧延開始温度1130℃、圧延中断温度1050℃で、板厚135mmまで一次圧延した後、表面温度1000℃から425℃まで平均冷却速度20℃/sで水冷し、表面温度が720℃、中心部温度が970℃となった時点で冷却を中断し、圧延を再開し、表面温度が800℃、中心部温度が910℃となるまで累積圧下率63%の二次圧延を行い、板厚50mmの鋼板とした後、焼入れし、615℃で焼戻す高張力鋼板の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 本件特許発明2について
(ア)対比
本件特許発明2と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「鋼片」は、本件特許発明2の「スラブ」に相当する。
また、甲1発明において、「鋼を溶製し、鋳造」することによって「鋼片」を「得」ることは、鋼片を準備していることが明らかであるから、本件特許発明2の「スラブを準備する、準備工程」に相当する。
b 甲1発明において、「重量%で、C:0.12%、Si:0.12%、Mn:0.80%、Cu:0.30%、Ni:1.51%、Cr:0.55%、Mo:0.50%、V:0.033%、Ti:0.012%、B:0.0013%、solAl:0.034%、N:0.0042%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する」ことは、本件特許発明2において、「質量%で、 C :0.03~0.18%、 Si:0.03~0.70%、 Mn:0.30~2.50%、 P :0.030%以下、 S :0.0200%以下、 Al:0.001~0.100%、 O :0.0100%以下および N :0.0100%以下であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有し、」「前記成分組成が、さらに、質量%で、 Cu:2.00%以下、 Ni:2.50%以下、 Cr:1.50%以下、 Mo:1.00%以下、 Nb:0.100%以下、 Ti:0.100%以下、 V :0.30%以下、 B :0.0100%以下、 W :0.50%以下、 Ca:0.0200%以下、 Mg:0.0200%以下および REM:0.0500%以下からなる群より選択される1種または2種以上を含む」ことと、「質量%で、 C :0.03~0.18%、 Si:0.03~0.70%、 Mn:0.30~2.50%、」「Al:0.001~0.100%、」「 N :0.0100%以下」である成分組成を有し、当該成分組成が、「さらに、質量%で、 Cu:2.00%以下、 Ni:2.50%以下、 Cr:1.50%以下、 Mo:1.00%以下、 Nb:0.100%以下、 Ti:0.100%以下、 V :0.30%以下、 B :0.0100%以下、 W :0.50%以下、 Ca:0.0200%以下、 Mg:0.0200%以下および REM:0.0500%以下 からなる群より選択される1種または2種以上を含む」ものである限りにおいて共通する。
c 甲1発明の「一次圧延」及び「二次圧延」は、熱間で行われていることは明らかであるから、いずれも、本件特許発明2の「熱間圧延」に相当する。
d 本件明細書【0048】の「本発明の一実施形態に従う厚鋼板の板厚は、30~240mmが好ましい。」なる記載をみるに、本件特許発明2の「厚鋼板」は、30~240mm程度の厚さを有する鋼板である。そして、甲1発明の「鋼板」及び「高張力鋼板」は、50mmの厚さを有するものであるから、いずれも、本件特許発明2の「厚鋼板」に相当する。
e そうすると、本件特許発明2と甲1発明とは、
「質量%で、
C :0.03~0.18%、
Si:0.03~0.70%、
Mn:0.30~2.50%、
Al:0.001~0.100%、
N :0.0100%以下
である成分組成を有する、厚鋼板を製造するための方法であって、
前記成分組成を有するスラブを準備する、準備工程と、
該スラブを熱間圧延する、熱間圧延工程と、をそなえ、
前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cu:2.00%以下、
Ni:2.50%以下、
Cr:1.50%以下、
Mo:1.00%以下、
Nb:0.100%以下、
Ti:0.100%以下、
V :0.30%以下、
B :0.0100%以下、
W :0.50%以下、
Ca:0.0200%以下、
Mg:0.0200%以下および
REM:0.0500%以下
からなる群より選択される1種または2種以上を含む、厚鋼板の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明2では、鋼の成分組成が「P :0.030%以下、 S :0.0200%以下、」「O :0.0100%以下」と特定されているのに対して、甲1発明では、P、S、Oの含有量が不明である点。
<相違点1-2>
本件特許発明2では、「厚鋼板」の「板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%以下である」のに対して、甲1発明では、「鋼板」及び「高張力鋼板」の「板厚中心位置における空隙欠陥の面積率」が不明である点。
<相違点1-3>
本件特許発明2では、熱間圧延工程における「(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上」および「(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上」「を満足する圧延パスでの合計の圧下率が30%超である」のに対し、甲1発明では、二次圧延における「(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上」および「(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上」「を満足する圧延パスでの合計の圧下率が30%超である」か否かが不明である点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点1-3、相違点1-2について検討する。
a 相違点1-3が実質的な相違点であるかについて
(a)本件明細書【0055】の「上記(a)および(b)で規定する温度条件を満足するか否かは、当該圧延パスの圧延開始時点のスラブの表面温度および板厚中心位置での温度により、判断する。」なる記載からみて、本件特許発明2における「(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上」および「(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上」「を満足する圧延パス」とは、圧延開始時点において、スラブの表面温度および板厚中心位置での温度が(a)及び(b)の条件を満たす圧延パスを意味していることが明らかである。
(b)一方、甲1発明において、二次圧延は、表面温度が720℃、中心部温度が970℃となった時点で再開されるものであり、表面温度が800℃、中心部温度が910℃となるまで行うものである。そして、甲1の上記ア(ア)dに示した、二次圧延の「累積」圧下率が50%以上であるとの記載(【0039】)や技術常識を鑑みるに、該二次圧延は、複数回の圧延パスで行われる工程と解される。
したがって、甲1発明における二次圧延は、複数回の圧延パスで、板厚を135mmから50mmとする工程と認められ、その合計の圧下率は63%である。そして、甲1発明における上記複数回の圧延パスのうち、第1圧延パスについては、表面温度が720℃、中心部温度が970℃であるから、本件特許発明2における(a)及び(b)の条件をいずれも満たすものである。
しかし、甲1発明における二次圧延において、第2圧延パス以降の各圧延パスについて、該(a)及び(b)の条件を満たしているか否かは不明である。また、仮に、第2圧延パス以降の各圧延パスにおいて、該(a)及び(b)の条件を満たす圧延パスがあるとしても、これらの条件を満たす各圧延パスにより、合計でどの程度の圧下率で圧延が行われたのかは不明である。
以上によれば、甲1発明において、二次圧延における「(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上」および「(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上」「を満足する圧延パスでの合計の圧下率が30%超である」かどうかは不明である。
(c)したがって、上記相違点1-3は実質的な相違点である。
b 相違点1-3の容易想到性について
甲1には、二次圧延における第2圧延パス以降の各圧延パスの条件及び圧下率に着目した記載は見当たらないし、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、二次圧延における第2圧延パス以降の各圧延パスの条件及び圧下率を所定の範囲に設定する動機付けがあるとはいえない。
そうすると、甲1発明において、上記相違点1-3に係る特定事項を備えることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
c 相違点1-2が実質的な相違点であるかについて
(a)甲1には、鋼板の板厚中心位置における空隙欠陥の面積率に着目した記載は見当たらない。
また、鋼板の板厚中心位置における空隙欠陥の減少には、圧延時の板厚中心位置の温度、表面と板厚中心位置における温度差、及び、圧下率以外にも、圧下時の表面温度等の他の条件が影響することは当業者において自明であるから、甲1発明において製造された鋼板が、「板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%以下である」かどうかは不明である。
(b)したがって、相違点1-2は実質的な相違点である。
d 相違点1-2の容易想到性について
甲1には、鋼板の板厚中心位置における空隙欠陥の面積率に着目した記載は見当たらないし、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、鋼板の板厚中心位置における空隙欠陥の面積率を0.5%以下に設定する動機付けがあるとはいえない。
そうすると、甲1発明において、上記相違点1-2に係る特定事項を備えることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件特許発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件特許発明2は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)申立理由1-2について
ア 甲2の記載事項、及び甲2に記載された発明
(ア)甲2の記載事項
本願の優先日前に公知となった甲2には、「低温靱性の優れた厚鋼板の製造法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
a 「2.特許請求の範囲
(1)鋼片または鋼塊をAc3点以上に加熱し、粗熱間圧延した後、該粗熱間圧延材の平均温度が(Ar3+100)℃以下になる迄強制冷却すると共に、上記粗熱間圧延材の表面部を冷却硬化せしめ、次いで該粗熱間圧延材の表層部と中心部との温度差を付けた状態で引続き仕上熱間圧延を行うことを特徴とする低温靱性の優れた厚鋼板の製造法。」
b 「(産業上の利用分野)
本発明は低温靱性に優れ内部欠陥の少ない厚鋼板の製造法に関するものである。」(第1頁左欄第18~20行)
c 「(発明の目的)
本発明は上記のような従来法の欠点を排除しうる低温靱性の優れた厚鋼板の製造方法、即ち、粗熱間圧延後の鋼板中のオーステナイト結晶粒の粗大化を防止すると共に、鋼板中心部の内部欠陥も軽減しうる厚鋼板の製造方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は鋼片または鋼塊を粗熱間圧延した後、仕上圧延機に入る前の粗圧延材の表層部と中心部とに積極的に温度差をつける方法を提供するものである。」(第2頁左上欄第7~17行)
d 「以下本発明を詳細に説明する。本発明の実施にあたり、先ず鋼片または鋼塊をAc3点以上に加熱し、オーステナイト化した後、粗圧延を行なう。粗圧延の圧下量は後の仕上圧延における必要圧下量より決定されるが通常は0~80%である。粗圧延終了後、粗圧延材は強制冷却により鋼板平均温度がAr3点+100℃以下まで冷却される。この冷却の方法は噴流冷却、浸漬冷却など任意であり、冷媒も水、気体、溶融塩など任意のものが選ばれうる。上記の強制冷却終了温度がAr3+100℃を超えると、仕上圧延温度が高いためオーステナイト結晶粒が部分的再結晶をおこし混粒が発生し靱性劣化の原因となる。強制冷却終了温度の下限は特に規定しないが通常はAr3点以上が望ましい。しかし二相域圧延による高強度化を目的とする場合はAr3点以下まで強制冷却してもよい。
強制冷却を受けた粗圧延材は放冷の場合と比較して板厚方向に大きな温度分布が生じており粗圧延材表層部は低温部となっており硬く、中心部は高温部であるためやわらかくなっている。このような鋼を再加熱せずに大きな温度差をつけたまま仕上圧延をすると圧延変形抵抗は表層部で大きく中心部で小さいため仕上圧延における圧下量が中心部に集中し、ザクなどの板厚中心部特有の欠陥が圧着されて中心部の内質が改善される。本発明の目的である表層部と中心部の温度差の増大およびオーステナイト結晶粒の粗大化防止の観点から、強制冷却速度は大きいほど良い。」(第2頁右上欄第8行~左下欄第15行)
e 「粗圧延、仕上圧延の圧下率の配分については、前記のように強制冷却時の粗圧延材の板厚が厚いほど強制冷却によって温度分布がつきやすいので、仕上圧延の圧下率を40%以上とすることが望ましい。より好ましい仕上圧延圧下率は60%以上であり、圧延機能力が許せば粗圧下率0%すなわち仕上圧下率100%でもかまわない。」(第2頁左下欄第20行~右下欄第6行)
f 「すなわち、本発明はC:0.3wt%以下、Si:0.5wt%以下、Mn:3.0wt%以下、Al:0.05wt%以上0.2wt%未満を含有し、残部Fe及び不可避不純物よりなるような通常製造されている、厚鋼板の化学成分の鋼に対して有効である。なおこれら成分に必要に応じてCu、Ni、Cr、Mo、Nb、Ti、V等を添加してもよいことは勿論である。」(第2頁右下欄第19行~第3頁左上欄第5行)
g 「次に本発明を実施例にもとづいて説明する。
まず第1表に示す代表的な成分の供試鋼について第2表に示す本発明および比較法を適用した場合について説明する。
[図:0001428011000004.jpg]
[図:0001428011000005.jpg]
」(第3頁左上欄第7行~右上欄末行)
h 「(発明の効果)
前記実施例より明らかなように粗圧延材に強制冷却をほどこした鋼は比較鋼に比して良好な伸び、靱性を示しさらに降伏応力も高い。これにより粗圧延材強制冷却によるオーステナイト結晶粒粗大化防止および内部欠陥の軽減効果が顕著に認められた。さらに本発明により制御圧延時の粗圧延と仕上圧延間の温度低下待ち時間が著しく短縮され生産性も飛躍的に向上した。」(第5頁左上欄第1~9行)
(イ) 甲2に記載された発明
上記(ア)に摘記した甲2の記載事項を総合勘案し、特に、特許請求の範囲の記載を前提として、供試鋼G(第1表~第3表)として記載された厚鋼板の製造法に着目すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「C:0.12wt%、Si:0.25wt%、Mn:1.0wt%、Al:0.03wt%を含有し、残部Fe及び不可避不純物よりなる鋼片または鋼塊を、1200℃に加熱して、粗圧延終了温度1000℃で板厚50mmまで粗熱間圧延した後、粗熱間圧延材の平均温度が(Ar3+100)℃以下になるまで平均冷却速度8.0℃/secで強制冷却するとともに、上記粗熱間圧延材の表面部を冷却硬化せしめ、次いで、該粗熱間圧延材の表層部と中心部との温度差を100℃とした状態で引き続き、仕上圧延開始温度800℃、仕上圧下率40%で仕上熱間圧延を行う厚鋼板の製造法。」(以下、「甲2発明」という。)
イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明の「鋼片または鋼塊」は、本件特許発明1の「スラブ」に相当する。
また、甲2発明において、「鋼片または鋼塊」を用いていることは、「鋼片または鋼塊」を準備していることが明らかであるから、本件特許発明1の「スラブを準備する、準備工程」に相当する。
b 甲2発明において、「C:0.12wt%、Si:0.25wt%、Mn:1.0wt%、Al:0.03wt%を含有し、残部Fe及び不可避不純物よりなる」ことは、本件特許発明1において、「質量%で、 C :0.03~0.18%、 Si:0.03~0.70%、 Mn:0.30~2.50%、 P :0.030%以下、 S :0.0200%以下、 Al:0.001~0.100%、 O :0.0100%以下および N :0.0100%以下であり、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有」することと、「質量%で、 C :0.03~0.18%、 Si:0.03~0.70%、 Mn:0.30~2.50%、」「Al:0.001~0.100%、」である「成分組成を有」するものである限りにおいて共通する。
c 甲2発明の「粗熱間圧延」及び「仕上熱間圧延」は、本件特許発明1の「熱間圧延」に相当する。
d そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは、
「質量%で、
C :0.03~0.18%、
Si:0.03~0.70%、
Mn:0.30~2.50%、
Al:0.001~0.100%、
である成分組成を有する、厚鋼板を製造するための方法であって、
前記成分組成を有するスラブを準備する、準備工程と、
該スラブを熱間圧延する、熱間圧延工程と、をそなえる、厚鋼板の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明1では、鋼の成分組成が「P :0.030%以下、 S :0.0200%以下、」「O :0.0100%以下、 N:0.0100%以下」と特定されているのに対して、甲2発明では、P、S、O、Nの含有量が不明である点。
<相違点2-2>
本件特許発明1では、「厚鋼板」の「板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%以下である」のに対して、甲2発明では、「厚鋼板」の「板厚中心位置における空隙欠陥の面積率」が不明である点。
<相違点2-3>
本件特許発明1では、熱間圧延工程における「(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上」および「(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上」「を満足する圧延パスでの合計の圧下率が30%超である」のに対し、甲2発明では、「粗熱間圧延」及び「仕上熱間圧延」における「(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上」および「(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上」「を満足する圧延パスでの合計の圧下率が30%超である」か否かが不明である点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点2-3、相違点2-2について検討する。
a 相違点2-3が実質的な相違点であるかについて
(a)上記(1)イ(イ)a(a)に示したのと同様に、本件特許発明1における「(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上」および「(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上」「を満足する圧延パス」とは、圧延開始時点において、スラブの表面温度および板厚中心位置での温度が(a)及び(b)の条件を満たす圧延パスを意味していることが明らかである。
(b)一方、甲2発明における仕上熱間圧延は、技術常識を鑑みるに、複数回の圧延パスで行うことが通常である。
そして、甲2発明において、仕上熱間圧延は、圧延開始温度が800℃であり、圧延開始時の粗熱間圧延材の表層部と中心部との温度差が100℃とした状態で行われるものであるところ、「粗熱間圧延材の平均温度が(Ar3+100)℃以下になるまで」「強制冷却する」ことから、上記圧延開始温度である800℃とは、粗熱間圧延材の平均温度と解されるから、仕上熱間圧延開始時の中心部の温度は、少なくとも800℃を超えるものである。
したがって、甲2発明は、仕上熱間圧延における第1圧延パスについては、本件特許発明1における(a)及び(b)の条件をいずれも満たすものである。
しかし、甲2発明における仕上熱間圧延において、第2圧延パス以降の各圧延パスについて、該(a)及び(b)の条件を満たしているか否かは不明である。また、仮に、第2圧延パス以降の各圧延パスにおいて、該(a)及び(b)の条件を満たす圧延パスがあるとしても、これらの条件を満たす各圧延パスにより、合計でどの程度の圧下率で圧延が行われたのかは不明である。
以上によれば、甲2発明において、仕上熱間圧延における「(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上」および「(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上」「を満足する圧延パスでの合計の圧下率が30%超である」かどうかは不明である。
(c)なお、甲2発明は、「仕上圧下率40%で仕上熱間圧延を行う」ものであるが、該「仕上圧下率」は、上記ア(ア)eに示した「粗圧下率0%すなわち仕上圧下率100%でもかまわない」なる記載からみて、全熱間圧延に対して仕上熱間圧延をどの程度の割合で行うのかを表しており、本件特許発明1における「圧下率」とは異なる指標であることは明らかである。
(d)したがって、上記相違点2-3は実質的な相違点である。
b 相違点2-3の容易想到性について
甲2には、仕上熱間圧延における第2圧延パス以降の各圧延パスの条件及び圧下率に着目した記載は見当たらないし、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、仕上熱間圧延における第2圧延パス以降の各圧延パスの条件及び圧下率を所定の範囲に設定する動機付けがあるとはいえない。
そうすると、甲2発明において、上記相違点2-3に係る特定事項を備えることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。この判断は、甲1を参酌しても変わるものではない。
c 相違点2-2が実質的な相違点であるかについて
(a)甲2には、厚鋼板の板厚中心位置における空隙欠陥の面積率に着目した記載は見当たらない。
また、厚鋼板の板厚中心位置における空隙欠陥の減少には、圧延時の板厚中心位置の温度、表面と板厚中心位置における温度差、及び、圧下率以外にも、圧下時の表面温度等の他の条件が影響することは、当業者において自明であるから、仮に、上記相違点2-3が実質的な相違点ではないと解したとしても、甲2発明の厚鋼板が、「板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%以下である」かどうかは不明である。
(b)したがって、相違点2-2は実質的な相違点である。
d 相違点2-2の容易想到性について
甲2には、厚鋼板の板厚中心位置における空隙欠陥の面積率についての記載は見当たらないし、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、厚鋼板の板厚中心位置における空隙欠陥の面積率を所定以下に設定する動機付けがあるとはいえない。
そうすると、甲2発明において、上記相違点2-2に係る特定事項を備えることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。この判断は、甲1を参酌しても変わるものではない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件特許発明2について
本件特許の請求項2は、請求項1の記載を直接的に引用するものであるから、本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えたものである。
したがって、上記イのとおり、本件特許発明1が甲2に記載された発明であるとはいえず、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、同様に、本件特許発明2は、甲2に記載された発明であるとはいえないし、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件特許発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものである。また、本件特許発明1~2は、甲2に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないものである。
さらに、本件特許発明2は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。また、本件特許発明1~2は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
したがって、申立理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件)
(1)本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある。
ア 「【0049】
次に、本発明の一実施形態に従う厚鋼板の製造方法を説明する。
本発明の一実施形態に従う厚鋼板の製造方法は、
上記した成分組成を有するスラブ(鋼素材)を準備する、準備工程と、
該スラブを熱間圧延する、熱間圧延工程と、をそなえ、
該熱間圧延工程における以下の(a)および(b)を満足する圧延パスでの合計の圧下率が30%超である、というものである。
(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上
(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上
これにより、上記した本発明の一実施形態に従う厚鋼板を、好適に製造することができる。以下、各工程について説明する。」
イ 「【0052】
[熱間圧延工程]
ついで、準備工程で準備したスラブを必要に応じて加熱し、熱間圧延を施して厚鋼板(熱延鋼板)とする。そして、この際、以下の条件を満足させることが極めて重要である。
【0053】
(a)および(b)を満足する圧延パス(以下、所定条件の圧延パスともいう)での合計の圧下率:30%超
(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上
(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上
スラブの板厚中心位置近傍に存在する空隙欠陥を閉塞させて金属結合により圧着するには、スラブの板厚中心位置における温度が700℃以上の状態でひずみを加えることが有効である。また、スラブの板厚中心位置近傍に加わるひずみ量を増加させるには、スラブの表面と板厚中心位置における温度差を100℃以上とした状態で、圧延を行うことが必要である。このようなスラブの板厚中心位置近傍に存在する空隙欠陥の閉塞および圧着のために必要なひずみ量を確保する観点から、所定条件の圧延パスでの合計の圧下率は30%超とする。所定条件の圧延パスでの合計の圧下率は、好ましくは40%以上である。なお、所定条件の圧延パスでの合計の圧下率の上限は特に限定されるものではないが、所定条件の圧延パスでの合計の圧下率は65%以下とすることが好ましい。
【0054】
なお、所定条件の圧延パスでの合計の圧下率は、次式(1)により算出する。
rt=100×{(ti1-tf1)/ti1+(ti2-tf2)/ti2+(ti3-tf3)/ti3+・・・+(tiN-tfN)/tiN} ・・・(1)
ここで、
rtは、所定条件の圧延パスでの合計の圧下率(%)
tiNは、所定条件の圧延パスのうち、N番目の圧延パスの圧延開始時点でのスラブの板厚(mm)、
tfNは、所定条件の圧延パスのうち、N番目の圧延パスの圧延終了時点でのスラブの板厚(mm)、
Nは、所定条件の圧延パスのパス数、である。
【0055】
また、上記(a)および(b)で規定する温度条件を満足するか否かは、当該圧延パスの圧延開始時点のスラブの表面温度および板厚中心位置での温度により、判断する。
【0056】
なお、スラブの表面と板厚中心位置における温度差の調整方法は特に限定されない。例えば、スラブの表面を空冷または水冷などにより強制冷却することにより、スラブの表面と板厚中心位置における温度差を上記の範囲に調整することができる。
【0057】
上記以外の条件については限定されず、常法に従えばよい。
例えば、スラブ加熱温度は950~1300℃とすることが好ましい。熱間圧延における合計の圧延パスは、5~60パスとすることが好ましい。N(所定条件の圧延パスのパス数)は、5~50パスとすることが好ましい。熱間圧延の圧下比(=[熱間圧延開始(最初の圧延パス開始)時点のスラブの厚さ(mm)]/[熱間圧延終了(最終の圧延パス終了)後に得られる鋼板の板厚(mm)])は、1.6~16とすることが好ましい。仕上げ圧延終了温度(最終パスの出側温度)は、650~1000℃とすることが好ましい。」
(2)実施可能要件についての判断
ア 上記第2のとおり、本件特許発明1は、「板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%以下である、厚鋼板を製造するための方法であって、」「該熱間圧延工程における以下の(a)および(b)を満足する圧延パスでの合計の圧下率が30%超である、厚鋼板の製造方法。 (a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上 (b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上」に関する発明である。
イ 一方、上記(1)イに示した本件明細書の【0053】には、「(a)および(b)を満足する圧延パス(以下、所定条件の圧延パスともいう)での合計の圧下率:30%超
(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上
(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上
スラブの板厚中心位置近傍に存在する空隙欠陥を閉塞させて金属結合により圧着するには、スラブの板厚中心位置における温度が700℃以上の状態でひずみを加えることが有効である。また、スラブの板厚中心位置近傍に加わるひずみ量を増加させるには、スラブの表面と板厚中心位置における温度差を100℃以上とした状態で、圧延を行うことが必要である。このようなスラブの板厚中心位置近傍に存在する空隙欠陥の閉塞および圧着のために必要なひずみ量を確保する観点から、所定条件の圧延パスでの合計の圧下率は30%超とする。」と記載されている。
該記載によれば、(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上、及び、(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上なる条件を満足する圧延パスでの合計の圧下率が30%超であることで、板厚中心位置近傍に存在する空隙欠陥の閉塞および圧着がなされることが理解される。
ウ 申立人は特許異議申立書において、発明の詳細な説明には、板厚中心位置における空隙欠陥の面積率を0.5%以下にするにあたって、(a)および(b)を満足する圧延パスでの合計の圧下率を30%超とする以外の要件については、常法に従えばよいと記載されているのみで、何らの言及もないことを主張している(第25頁第11~末行)。
エ しかし、上記(a)および(b)を満足する圧延パスでの合計の圧下率を30%超とする以外の要件については、スラブ加熱温度や圧延パス数、圧下比、仕上げ圧延終了温度等の条件が上記(1)イに示した【0057】に記載されている。そして、板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%以下となる適切な条件を、該【0057】に記載された事項を参照し、適宜に選択して、本件特許発明1を実施することは、当業者に過度の試行錯誤を強いるものではない。
オ これらの点は、本件特許の請求項1の記載を直接的に引用する本件特許発明2についても同様である。
(3)小括
以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1~2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由2によって、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)
(1)本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある。
ア 「【0012】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであって、特別な設備を必要とせずに低コストで(換言すれば、高い生産性の下で)製造可能である、内質特性に優れた厚鋼板を提供することを目的とする。また、本発明は、上記の厚鋼板の製造方法を提供することを目的とする。」
イ 「【0046】
板厚中心位置における空隙欠陥の面積率:0.5%以下
厚鋼板内部の空隙欠陥は、延性破壊、脆性破壊および疲労破壊等の破壊の起点となる。特に、厚鋼板の板厚中心位置において空隙欠陥が多量に残存する、具体的には、板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%を超えると、このような破壊が生じる頻度が高くなり、内質特性に優れた厚鋼板が得られない。そのため、板厚中心位置における空隙欠陥の面積率は0.5%以下とする。板厚中心位置における空隙欠陥の面積率は、好ましくは0.3%以下である。なお、板厚中心位置における空隙欠陥の面積率の下限は特に限定されず、0%であってもよい。」
ウ 「【0060】
次に、準備したスラブに、表2に示す条件で熱間圧延を行い、表2に示す板厚(mm)の厚鋼板を得た。なお、熱間圧延の圧下比は2.5~3.5の範囲とし、N(所定条件の圧延パスのパス数)は、5~37パスとした。また、スラブの表面温度は放射温度計で測定した値を用い、スラブの板厚中心温度は熱電対により測温した値を用いた。なお、スラブの表面と板厚中心位置における温度差は、スラブの表面を空冷または水冷などにより強制冷却することにより、調整した。上記以外の条件については、常法に従うものとした。
【0061】
かくして得られた各厚鋼板について、以下の要領で、板厚中心位置における空隙欠陥の面積率を測定した。測定結果を表2に併記する。」
エ 「【0064】
[板厚方向引張試験]
得られた各厚鋼板から、該厚鋼板の長手方向(圧延方向)中央位置において、引張試験片の長手方向が厚鋼板の板厚方向と平行になるように、引張試験片を採取した。ここで、引張試験片は、引張試験片の長手方向中心位置が、厚鋼板の板厚中心位置(板厚1/2位置)となるように採取した。また、板幅方向の採取ピッチを100mmとして、当該引張試験片を板幅全幅にわたり採取した。引張試験片の形状は、ASTM A770(2007) Type3形状のものとした。ついで、採取した各引張試験片を用い、ASTM A370(2010)に準拠した引張試験を行い、絞り率を測定した。そして、厚鋼板の板幅全幅にわたり採取した各引張試験片で測定した絞り率のうち、最小値を当該厚鋼板の絞り率とした。そして、その値が35%以上の場合に、優れた内質特性が得られていると評価した。」
オ 「【0066】
【表2】
[図:0001428011000006.jpg]
【0067】
表2に示したように、本発明例の厚鋼板ではいずれも、優れた内質特性が得られた。また、本発明例の厚鋼板はいずれも、一般的な熱間圧延設備により製造可能であり、特別な設備を必要とせずに低コストで(高い生産性の下で)製造可能なものであった。」
(2)サポート要件に関する判断
ア 上記第2のとおり、本件特許発明1は、「板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%以下である、厚鋼板を製造するための方法であって、」「該熱間圧延工程における以下の(a)および(b)を満足する圧延パスでの合計の圧下率が30%超である、厚鋼板の製造方法。 (a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上 (b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上」に関する発明である。
イ 一方、上記(1)アの記載からすると、本件特許発明1において解決すべき課題(以下、単に「課題」という。)は、内質特性に優れた厚鋼板を製造する方法を提供することと認められる。
ウ そして、(1)イに示した【0046】の記載からみて、板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%以下であれば、破壊が生じる頻度の少ない、内質特性に優れた厚鋼板が得られると認められる。また、(1)ウ~オに記載された実施例からみて、板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%以下である本発明例1~21は、絞り率が高く内質特性に優れた厚鋼板が得られているといえ、上記アに示した課題を解決できると認められる。
したがって、厚鋼板の板厚中心位置における空隙欠陥の面積率が0.5%以下であれば、内質特性が向上し、上記課題を解決できることが理解できる。
エ 申立人は、特許異議申立書において、本件明細書の実施例には、スラブの板厚中心位置における温度、及びスラブの表面と板厚中心位置における温度差のいずれについても一切記載されておらず、これらが本件特許発明1の範囲内であれば、上記課題を解決できると当業者が認識できるとはいえないことを挙げ、サポート要件を満たさないことを主張している(第26頁第6~末行)。
しかし、該実施例の各々には「所定条件の圧延パスでの合計の圧下率」が明記されており、該「所定条件の圧延パス」とは、上記2(1)アに示した【0049】の記載をみるに、「(a)スラブの板厚中心位置における温度:700℃以上」および「(b)スラブの表面と板厚中心位置における温度差:100℃以上」の条件を満たす圧延パスであることは明らかである。
オ そうすると、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、上記イの課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。
カ これらの点は、本件特許の請求項1の記載を直接的に引用する本件特許発明2についても同様である。
(3)小括
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~2の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由3によって、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700549