特許拒絶査定不服審判
2022-010364
表示装置およびプログラム
- 審判番号
- 2022-010364
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-043065
- 請求日
- 2022年07月04日
- 審決日
- 2023年04月17日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日置電機株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人後藤特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 中塚 直樹
- 審判官 波多江 進
- 審判官 後藤 慎平
- 分類
- P18 .575-Z (G09G) / P18 .121-Z (G09G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 43065「表示装置およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年 9月19日出願公開、特開2019-159007〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年3月9日の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和3年 9月 8日付け:拒絶理由通知書
同年11月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 4月 5日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月12日 :原査定の謄本の送達)
同年 7月 4日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年7月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年7月4日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和4年7月4日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正を含むものであって、本件補正前(令和3年11月9日にされた手続補正後をいう。)の特許請求の範囲の請求項1及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、それぞれ次の(1)及び(2)に示すとおりである(下線は補正箇所を示す。)。
(1) 本件補正前
「 【請求項1】
複数の数値を示す入力信号を画面上の座標に表示する表示装置であって、
前記座標の座標軸に対し、前記画面上における基準位置から前記入力信号の表示位置への変位量を設定する設定手段と、
前記変位量に基づいて前記画面上における前記座標軸の表示範囲を前記画面上における前記座標軸の端に向かって縮小する縮小手段と、
前記表示範囲の縮小に応じて前記画面上における前記座標軸の表示倍率を変更する変更手段と、
縮小後の前記表示範囲内に前記入力信号を変更後の前記座標軸の表示倍率で表示する表示手段と、
を含む表示装置。」
(2) 本件補正後
「 【請求項1】
入力信号に基づいて波形又はグラフを画面上の座標に表示する表示装置であって、
前記座標の一軸における両端を除く任意の位置である基準位置から、前記一軸における両端を除く利用者の都合の良い位置である表示位置への変位量を設定する設定手段と、
前記変位量に基づいて前記一軸の両端間の表示範囲を前記一軸の端に向かって縮小する縮小手段と、
前記表示範囲の縮小に応じて前記一軸の表示倍率を変更する変更手段と、
縮小後の前記表示範囲内に前記波形又はグラフを変更後の前記一軸の表示倍率で表示する表示手段と、
を含む表示装置。」
2 本件補正の適否についての当審の判断
(1) 本件補正の目的について
ア 本件補正で請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1についての以下の補正事項を含むものである。
(ア) 画面上の座標に表示することについて、本件補正前の「複数の数値を示す入力信号…を表示する」を、「入力信号に基づいて波形又はグラフ…を表示する」に限定する事項。
(イ) 変位量について、本件補正前の「前記座標の座標軸に対し、前記画面上における基準位置から前記入力信号の表示位置への変位量」を、「前記座標の一軸における両端を除く任意の位置である基準位置から、前記一軸における両端を除く利用者の都合の良い位置である表示位置への変位量」に限定する事項。
イ そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
ウ したがって、本件補正で請求項1についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
(2) 独立特許要件について
前記(1)のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)の本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
イ 引用文献に記載された事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に発行された特開平6-324829号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。下線は当合議体が付したものである。
a 【0001】-【0003】
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、グラフィカル・ユーザ・インタフェイス(以下、GUIとする。)として用いられる表示装置の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】GUIは、グラフィック図形で表されたコマンドを画面上に表示しておき、オペレータがマウス等で画面上のコマンドを選択することによって操作を行うユーザ・インタフェイスである。GUIは初心者でも操作が容易であることから、最近はワークステーションやパソコンに多用されつつある。従来、GUIの機能を果たす表示装置では、データをグラフ化して表示したときに、データの表示範囲の指定、及び、表示倍率の拡大縮小は、次のとおりにして行うものがあった。
(1)キーボードからの直接入力によるもの。
(2)マウスを用いてグラフ上に表示範囲を指定するもの。
しかし、(1)の従来例ではキーボードを用いるため、操作性が悪いという問題点があった。また、(2)の従来例ではマウスを用いているため(1)に比べて操作性は向上しているものの、グラフのX軸とY軸の表示範囲が同時に決定されてしまう。表示倍率を拡大する場合は、1つのグラフ全体に対して1種類の表示倍率しか設定できないという問題点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、グラフ軸毎に独立に表示範囲と表示倍率を設定でき、しかも任意の表示倍率に設定可能な表示装置を実現することを目的とする。」
b 【0004】-【0005】
「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、コンピータと接続されたグラフィック表示部と、グラフィック画面上で任意の位置をカーソルで指示して画面入力を行うマウスとを有し、グラフィカル・ユーザ・インタフェイスの機能を果たす表示装置において、前記マウスから画面入力を受ける入力手段と、この入力手段で受けた画面入力を判別する判別手段と、データをグラフ化して表示した画面に対して、前記マウスで指定されたグラフ軸を軸単位で移動する処理を施す軸移動手段と、データをグラフ化して表示した画面に対して、前記マウスで指定されたグラフ軸を軸単位で拡大縮小する処理を施す拡大縮小手段と、前記軸移動手段により移動したグラフ軸、及び、前記拡大縮小手段により拡大縮小したグラフ軸を画面に再描画する軸表示手段と、移動したグラフ軸、及び、拡大縮小したグラフ軸に対応するようにグラフを画面に再描画するグラフ表示手段と、を具備し、前記マウスからの画面入力と前記マウスで指定したグラフ軸の中の位置に応じて、グラフの表示倍率を拡大縮小する表示倍率の拡大縮小処理、グラフの表示倍率は変えないで表示する値の範囲を拡大縮小する表示範囲の拡大縮小処理、及び、グラフを移動する移動処理を選択的に実行することを特徴とする表示装置である。
【0005】
【作用】このような本発明では、拡大縮小手段は、データをグラフ化して表示した画面に対して、マウスで指定されたグラフ軸を軸単位で拡大縮小する。軸表示手段は、拡大縮小手段により拡大縮小したグラフ軸を画面に再描画する。グラフ表示手段は、拡大縮小したグラフ軸に対応するようにグラフを再描画する。これによって、表示倍率の拡大縮小処理と表示範囲の拡大縮小処理が行われる。軸移動手段は、データをグラフ化して表示した画面に対して、マウスで指定されたグラフ軸を軸単位で移動する。軸表示手段は、軸移動手段により移動したグラフ軸を画面に再描画する。グラフ表示手段は、移動したグラフ軸に対応するようにグラフを再描画する。これによって、移動処理が行われる。マウスからの画面入力とマウスで指定したグラフ軸の中の位置に応じて、上述した3つの処理が選択される。」
c 【0006】、【図1】
「【0006】
【実施例】以下、図面を用いて本発明を説明する。図1は本発明の一実施例を示した構成図である。図1で、1はグラフィック表示部、2はマウス、3はコンピュータである。グラフィック表示部1は、コンピュータ3と接続されていて、コンピュータ3の制御に基づいて画面表示を行う。マウス2は、グラフィック表示部1で表示したグラフィック画面に対して画面入力を行う。コンピュータ3において、31はCPU、32は表示制御部、33は記憶部である。CPU31で、311はマウス2からの画面入力を受ける入力手段、312は入力手段311で受けた画面入力の種類を判別する判別手段である。313は軸移動手段であり、データをグラフ化して表示した画面に対してマウス2でグラフ軸を指定したときに、指定されたグラフ軸を移動する処理を行う。移動はグラフ軸単位で行うことができる。314は拡大縮小手段であり、データをグラフ化して表示した画面に対してマウス2でグラフ軸を指定したときに、指定されたグラフ軸を拡大縮小する処理を行う。拡大縮小はグラフ軸単位で行うことができる。移動処理と拡大縮小処理は、マウスの押したボタンとマウスで指定したグラフ軸の中の位置に応じて選択される。表示制御部32で、321は軸表示手段で、移動処理と拡大縮小処理を施したグラフ軸を画面に再描画する。322はグラフ表示手段で、移動処理と拡大縮小処理を施したグラフ軸に対応するようにグラフを画面に再描画する。33は記憶部で、グラフィック表示部1で表示する画像データが格納されていて、表示制御部32、軸移動手段313及び拡大縮小手段314によってアクセスされる。このような表示装置では、データをグラフ化して表示した画面に対して、表示倍率の拡大縮小処理、表示範囲の拡大縮小処理及びグラフの移動処理を行う。表示倍率の拡大縮小処理は、グラフ軸のスケール(目盛)を拡大または縮小して、グラフを拡大または縮小して表す処理である。表示範囲の拡大縮小処理は、グラフの表示倍率は変えないでグラフを表示する値の範囲を拡大または縮小する処理である。」
「【図1】
[図:0001399037000001.jpg]
」
d 【0007】、【図2】
「【0007】このように構成した表示装置の動作を説明する。図2は動作手順を示したフローチャートである。このフローチャートは、表示倍率の拡大縮小処理、表示範囲の拡大縮小処理及びグラフの移動処理の処理手順を示したフローチャートである。図2において、処理X1で、マウスのボタンを押したときに、マウスで指定した画面上の位置に応じて状態を設定する。マウスで指定した位置がグラフ軸の端であるときは拡大縮小モードの状態に設定され、グラフ軸の端以外の位置であるときは移動モードの状態に設定される。マウスのボタンを押したままでマウスを移動したときに、設定されている状態に応じてグラフ軸に対して拡大縮小処理または移動処理を施す。すなわち、拡大縮小モードの状態に設定されているときはグラフ軸を拡大縮小して再描画し、移動モードの状態に設定されているときはグラフ軸を移動し、移動先に描画する。マウスのボタンを放したときに、設定されている状態に応じてグラフに対して拡大縮小処理または移動処理を施す。すなわち、拡大縮小処理または移動処理によって変更されたグラフ軸に対応するようにグラフを再描画する。図2のフローチャートでは、表示倍率の拡大縮小処理と表示範囲の拡大縮小処理の両方を拡大縮小処理の中に含めている。これら2つの処理はマウスの押したボタンに応じて区別される。」
「【図2】
[図:0001399037000002.jpg]
」
e 【0009】、【図4】
「【0009】図1の表示装置で行う表示倍率の拡大縮小処理、表示範囲の拡大縮小処理及び移動処理を表示画面を例に挙げて説明する。図4は処理前の表示画面である。」
「【図4】
[図:0001399037000003.jpg]
」
f 【0010】、【図5】
「【0010】図5は表示倍率の拡大縮小処理を行うときの表示画面を示した図である。図5において、先ず、(a)図に示すように、変更したいグラフ軸をマウスで選択する(クリックする)。次に、(b)図に示すように、変更したいグラフ軸の端をマウスで指示し、この状態でマウスの左ボタンを押す。そして、左ボタンを押したままにしてマウスを適当な位置まで移動する。これによって、グラフ軸は引き延ばされる。そして、(c)図に示すように、グラフ軸を所望の位置まで引き延ばしたところでマウスの左ボタンを放す。これによって、グラフ軸のスケールが拡大され、拡大されたスケールのグラフ軸に対応するようにグラフ自体も拡大される。」
「
[図:0001399037000004.jpg]
」
(イ) 引用発明の認定
前記(ア)に摘記した引用文献の記載事項を総合すると、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「コンピータと接続されたグラフィック表示部と、グラフィック画面上で任意の位置をカーソルで指示して画面入力を行うマウスとを有し、グラフィカル・ユーザ・インタフェイスの機能を果たす表示装置であって、前記マウスから画面入力を受ける入力手段と、この入力手段で受けた画面入力を判別する判別手段と、データをグラフ化して表示した画面に対して、前記マウスで指定されたグラフ軸を軸単位で移動する処理を施す軸移動手段と、データをグラフ化して表示した画面に対して、前記マウスで指定されたグラフ軸を軸単位で拡大縮小する処理を施す拡大縮小手段と、前記軸移動手段により移動したグラフ軸、及び、前記拡大縮小手段により拡大縮小したグラフ軸を画面に再描画する軸表示手段と、移動したグラフ軸、及び、拡大縮小したグラフ軸に対応するようにグラフを画面に再描画するグラフ表示手段と、を具備し、前記マウスからの画面入力と前記マウスで指定したグラフ軸の中の位置に応じて、グラフの表示倍率を拡大縮小する表示倍率の拡大縮小処理、グラフの表示倍率は変えないで表示する値の範囲を拡大縮小する表示範囲の拡大縮小処理、及び、グラフを移動する移動処理を選択的に実行し、(【0004】)
拡大縮小手段は、データをグラフ化して表示した画面に対してマウスでグラフ軸を指定したときに、指定されたグラフ軸を拡大縮小する処理を行い、移動処理と拡大縮小処理は、マウスの押したボタンとマウスで指定したグラフ軸の中の位置に応じて選択され、軸表示手段は、移動処理と拡大縮小処理を施したグラフ軸を画面に再描画し、グラフ表示手段は、移動処理と拡大縮小処理を施したグラフ軸に対応するようにグラフを画面に再描画し、表示装置は、データをグラフ化して表示した画面に対して、表示倍率の拡大縮小処理、表示範囲の拡大縮小処理及びグラフの移動処理を行い、表示倍率の拡大縮小処理は、グラフ軸のスケール(目盛)を拡大または縮小して、グラフを拡大または縮小して表す処理であり、(【0006】)
マウスで指定した位置がグラフ軸の端であるときは拡大縮小モードの状態に設定され、グラフ軸の端以外の位置であるときは移動モードの状態に設定され、マウスのボタンを押したままでマウスを移動したときに、拡大縮小モードの状態に設定されているときはグラフ軸を拡大縮小して再描画し、マウスのボタンを放したときに、設定されている状態に応じて拡大縮小処理又は移動処理によって変更されたグラフ軸に対応するようにグラフを再描画し、(【0007】)
表示装置で行う表示倍率の拡大縮小処理の例として、(【0009】)
表示倍率の拡大縮小処理を行うときは、まず、変更したいグラフ軸をマウスで選択し(クリックし)、次に、変更したいグラフ軸の端をマウスで指示し、この状態でマウスの左ボタンを押し、そして、左ボタンを押したままにしてマウスを適当な位置まで移動し、これによって、グラフ軸は引き延ばされ、そして、グラフ軸を所望の位置まで引き延ばしたところでマウスの左ボタンを放し、これによって、グラフ軸のスケールが拡大され、拡大されたスケールのグラフ軸に対応するようにグラフ自体も拡大される、(【0010】)
表示装置」
ウ 対比
(ア) 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
a(a) 引用発明の「表示装置」は、「データをグラフ化して表示した画面に対して、表示倍率の拡大縮小処理…を行[う]」ものであるから、本件補正発明と「グラフを画面上に表示する表示装置」である点で共通する。
(b) 引用発明の「表示装置」は、「前記軸移動手段により移動したグラフ軸、及び、前記拡大縮小手段により拡大縮小したグラフ軸を画面に再描画する軸表示手段」と、「移動したグラフ軸、及び、拡大縮小したグラフ軸に対応するようにグラフを画面に再描画するグラフ表示手段」とを具備するものであるところ、グラフ軸とグラフが描画される画面の領域は、本件補正発明の「座標」に相当するといえる。そうすると、前記(a)を踏まえれば、本件補正発明と引用発明は、「グラフを画面上の座標に表示する表示装置」である点で共通する。
b ここで、本件補正発明において、「基準位置」とは何の基準位置であるのか、また、「表示位置」とは何の表示位置なのか、必ずしも明確ではないが、本件補正後の請求項1の記載から見て、縮小手段が座標の一軸の両端間の表示範囲を縮小する際に基づく変位量を表すための、表示範囲における基準となる位置の変位前後の位置を意味すると解するのが相当である。
c(a) 引用発明は、表示倍率の拡大処理として、「変更したいグラフ軸の端をマウスで指示し、この状態でマウスの左ボタンを押し、そして、左ボタンを押したままにしてマウスを適当な位置まで移動し、これによって、グラフ軸は引き延ばされ、そして、グラフ軸を所望の位置まで引き延ばしたところでマウスの左ボタンを放し、これによって、グラフ軸のスケールが拡大され、拡大されたスケールのグラフ軸に対応するようにグラフ自体も拡大される」処理が例示されるものであるところ、【図5】の(c)から(a)に遷移する縮小処理においては、「変更したいグラフ軸の端をマウスで指示し、この状態でマウスの左ボタンを押し、そして、左ボタンを押したままにしてマウスを適当な位置まで移動し、これによって、グラフ軸は縮められ、そして、グラフ軸を所望の位置まで縮めたところでマウスの左ボタンを放し、これによって、グラフ軸のスケールが縮小され、縮小されたスケールのグラフ軸に対応するようにグラフ自体も縮小される」ことは自明であり、当該縮小処理は、引用発明として開示されているに等しい事項であると認められる。
(b) このとき、引用発明の「マウス」は、本件補正発明の「設定手段」に相当し、引用発明の「グラフ軸」は、本件補正発明の「座標の一軸」に相当する。
(c) また、引用発明として開示されているに等しい前記(a)の縮小処理においては、縮小処理前後のグラフ軸の端の位置をマウスで指定しているといえるから、前記bを踏まえると、縮小処理前のグラフ軸の端の位置が本件補正発明の「基準位置」に相当し、縮小処理後のグラフ軸の端の位置が本件補正発明の「表示位置」に相当するといえる。
(d) また、前記縮小処理後のグラフ軸の端の位置は、「所望の位置」であるから、本件補正発明の「前記一軸における利用者の都合の良い位置」に相当する。
(e) 前記(b)~(d)をまとめると、本件補正発明と引用発明は、「前記一軸における利用者の都合の良い位置である表示位置を設定する設定手段」を含む点で共通するといえる。
d(a) 引用発明の「拡大縮小手段」は、本件補正発明の「縮小手段」に相当する。
(b) 引用発明の「拡大縮小手段」は、引用発明として開示されているに等しい前記c(a)の縮小処理においては「変更したいグラフ軸の端をマウスで指示し、この状態でマウスの左ボタンを押し、そして、左ボタンを押したままにしてマウスを適当な位置まで移動し、これによって、グラフ軸は縮められ[る]」ものであって、グラフ軸の表示範囲をマウスで指示した端とは反対の端に向かって縮小するものといえるから、本件補正発明と引用発明は、縮小手段が「前記一軸の両端間の表示範囲を前記一軸の端に向かって縮小する」点で一致する。
(c) また、前記縮小処理は、前記c(c)のとおり、マウスによる縮小後のグラフ軸の端の位置の指定に基づいて行うものであり、本件補正発明と引用発明は、縮小手段が「設定手段の設定に基づいて」表示範囲を縮小する点で共通する。
(d) 前記(a)~(c)をまとめると、本件補正発明と引用発明は、「前記設定手段の設定に基づいて前記一軸の両端間の表示範囲を前記一軸の端に向かって縮小する縮小手段」を含む点で共通する。
e(a) 引用発明の「軸表示手段」は、「前記拡大縮小手段により拡大縮小したグラフ軸を画面に再描画する」ものであるから、本件補正発明の「変更手段」に相当する。
(b) そして、引用発明の「軸表示手段」は「拡大縮小したグラフ軸を画面に再描画する」ものであるところ、引用発明の「表示装置」が「表示倍率の拡大縮小処理」を行い、「表示倍率の拡大縮小処理は、グラフ軸のスケール(目盛)を拡大または縮小[する]」処理であることを勘案すれば、「軸表示手段」が、グラフ軸の拡大縮小に応じて、すなわち、前記d(b)で検討したように表示範囲の拡大縮小に応じて、グラフ軸の表示倍率を変更して表示していることは明らかである。そうすると、本件補正発明と引用発明は、「前記表示範囲の縮小に応じて前記一軸の表示倍率を変更する変更手段」を含む点で一致する。
f(a) 引用発明の「拡大縮小したグラフ軸に対応するようにグラフを画面に再描画するグラフ表示手段」は、本件補正発明の「表示手段」に相当する。
(b) そして、引用発明の「表示手段」は「拡大縮小したグラフ軸に対応するようにグラフを画面に再描画する」ものであるところ、引用発明の「表示装置」が「表示倍率の拡大縮小処理」を行い、「表示倍率の拡大縮小処理は、グラフ軸のスケール(目盛)を拡大または縮小して、グラフを拡大または縮小して表す処理であ[る]」ことと、引用発明として開示されているに等しい前記c(a)の縮小処理が、「縮小されたスケールのグラフ軸に対応するようにグラフ自体も縮小される」ものであることを勘案すれば、引用発明の「表示手段」は、縮小されたグラフ軸の表示範囲内に、グラフを縮小されたグラフ軸の表示倍率で表示するものであるといえるから、本件補正発明と引用発明は、「縮小後の前記表示範囲内に前記グラフを変更後の前記一軸の表示倍率で表示する表示手段」を含む点で共通する。
(イ) 一致点及び相違点
前記(ア)の対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のa及びbに示すとおりである。
a 一致点
「グラフを画面上の座標に表示する表示装置であって、
前記一軸における利用者の都合の良い位置である表示位置を設定する設定手段と、
前記設定手段の設定に基づいて前記一軸の両端間の表示範囲を前記一軸の端に向かって縮小する縮小手段と、
前記表示範囲の縮小に応じて前記一軸の表示倍率を変更する変更手段と、
縮小後の前記表示範囲内に前記グラフを変更後の前記一軸の表示倍率で表示する表示手段と、
を含む表示装置」である点。
b 相違点
(a) 相違点1
画面上の座標にグラフを表示するに際し、本件補正発明は、「入力信号に基づいて」グラフを表示するのに対して、引用発明は「データをグラフ化して」表示する点。
(b) 相違点2
基準位置及び表示位置について、本件補正発明は基準位置が「前記座標の一軸における両端を除く任意の位置」であり、表示位置が「前記一軸における両端を除く…位置」であるのに対して、引用発明は、グラフ軸の端である点。
(c) 相違点3
設定手段について、本件補正発明は「基準位置から、…表示位置への変位量を設定する」のに対して、引用発明は縮小処理前後のグラフ軸の端の位置をマウスで指定し、縮小手段について、本件補正発明は「前記変位量に基づいて」縮小するのに対して、引用発明はグラフ軸の端の位置の指定に基づいて縮小する点。
エ 判断
(ア) 相違点についての判断
前記相違点について検討する。
a 相違点1について
表示装置にグラフを表示するに際し、複数の数値を示す入力信号に基づいてグラフを表示することは例を挙げるまでもない周知・慣用技術であり、引用発明においても「データ」として複数の数値を示す入力信号を用いることは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。
b 相違点2について
(a) まず、発明の詳細な説明には、本件補正発明の基準位置、表示位置が一軸における両端を除く位置であることの技術上の意義については特段記載がなく、かえって、【0099】の「また、上記実施形態では基準位置PbをY軸Dyの中心位置としたが、基準位置Pbは、Y軸Dyの任意の位置に設定可能であり、例えば基準位置Pbを上端位置Pu又は下端位置Plに設定してもよい。」との記載のとおり、上端位置や下端位置に設定してもよい旨が記載されている。
(b) 引用発明は拡大縮小処理として、グラフ軸の端の位置を指定する例が挙げられているが、引用発明は、「移動処理と拡大縮小処理は、マウスの押したボタンとマウスで指定したグラフ軸の中の位置に応じて選択され[る]」ものであることを考慮すれば、移動処理と拡大縮小処理に対応するグラフ軸の中の位置は適宜に設定できることが理解される。
(c) したがって、引用発明において、拡大縮小処理に対応する当該「マウスで指定したグラフ軸の中の位置」を、グラフ軸の端以外の位置にすること、例えば、拡大縮小処理時のマウス操作を容易にするために、グラフ軸を3等分して上下の領域を拡大縮小処理に、中央の領域を移動処理に割り当てたり、移動処理と拡大縮小処理にマウスの異なるボタンで割り当てて、いずれの処理についてもグラフ軸の任意の位置を割り当てたりすることは、前記(a)のとおり本件補正発明の相違点2に係る構成に格別の技術上の意義が認められないことを勘案すれば、当業者が適宜なし得る設計事項というほかない。
c 相違点3について
(a) 引用発明は、「変更したいグラフ軸の端をマウスで指示し、この状態でマウスの左ボタンを押し、そして、左ボタンを押したままにしてマウスを適当な位置まで移動し、これによって、グラフ軸は引き延ばされ、そして、グラフ軸を所望の位置まで引き延ばしたところでマウスの左ボタンを放[す]」、いわゆる「ドラッグ操作」を行うものであるところ、当該「ドラッグ操作」の「移動量」によって「変位量を設定」しているとも言える。よって、相違点3は実質的な相違点とは認められない。
(b) 仮に相違点3が実質的な相違点であるとしても、ユーザーインターフェース一般において、位置や値を変更する方法として、変更後の位置や値自体を指定することと、変更前後の位置や値の変化量を指定することは、互いに置換可能な常套手段にすぎず、引用発明においてマウスで拡大縮小後のグラフ軸の位置を指定することに代えて、例えばマウスのホイールなどを用いて拡大縮小前後のグラフ軸の位置の変化量を指定して、これに基づいてグラフ軸の縮小を行うことは、当業者が適宜なし得る設計変更の域を出るものではない。
d 総合検討
前記相違点1~3を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する効果としては、引用発明からは予測困難な効果であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ) 請求人の主張に対する判断
a 請求人の主張
請求人は、審判請求書において以下の主張をしている。
(a) 主張1
引用文献1には、図5に示されているように、先ず、変更したいグラフ軸をマウスで選択し、そのグラフ軸の端をマウスで指示してマウスの左ボタンを押したまま適当な位置まで移動して放すことにより、拡大されたスケールのグラフ軸に対応するようにグラフ自体を拡大する表示処理が開示されている(段落[0010]参照)。
言い換えると、引用文献1に記載された発明は、画面上に表示されたグラフ軸の長さを延ばしたり縮めたりすることによって、グラフ軸の表示範囲を拡大縮小するものであり、引用文献1に記載された発明は、画面上に設定されたグラフ軸の端の位置が変更されるものであり、本願発明のようにあらかじめ定められたグラフ軸の両端の範囲内において表示位置が設定されるものではない。それゆえ、引用文献1に記載されたグラフ軸の移動量は、本願発明における一軸の両端の範囲内の基準位置から表示位置への変位量とは相違する。
このように、引用文献1に記載された発明は、画面に設定された座標の一軸の両端を除く範囲において、任意の位置に定められた基準位置から利用者の都合の良い位置である表示位置への変位量を設定するものではない。例えば、本願発明において、引用文献1のように表示位置を一軸の端に設定してしまうと、一軸の表示範囲が無くなり、波形又はグラフが表示されなくなってしまう。
このため、引用文献1に記載された発明と本願発明とは大きく相違する。
(b) 主張2
引用文献1においては、単に、グラフ軸毎に独立に表示範囲と表示倍率を設定可能にすることを目的としており(段落[0003]参照)、本願発明の
ように視認性の低下を抑制しつつ入力信号を簡単に都合の良い位置に表示させるという技術的思想は内在していない。すなわち、引用文献1には、本願発明に想到するための動機づけとなり得る記載はない。
(c) 主張3
引用文献1では、キーボードを用いると操作性が悪くなるという課題を解決するために(段落[0002]参照)、マウスの使用を必須の構成要件としており、マウスでグラフ軸の一端の移動量を設定することが前提となる。これに対し、本願発明は、キーボードを使用して、一軸の範囲内において基準位置から表示位置への変位量を設定することも可能である。
それゆえ、操作性を良くするためにキーボードを使用しないことを前提とする引用文献1に接した当業者が、キーボードを用いて変位量を設定することができる本願発明を構成することは容易ではない。
b 請求人の主張についての検討
審判請求書における請求人の主張について検討する。
(a) 主張1についての検討
まず、「引用文献1に記載された発明は画面上に設定されたグラフ軸の端の位置が変更されるものであり、本件補正発明のようにあらかじめ定められたグラフ軸の両端の範囲内において表示位置が設定されるものではない」旨の主張について検討すると、本件補正発明ではグラフ軸の両端があらかじめ定められたものであることは特定されておらず、また、引用発明の縮小処理においては縮小前のグラフ軸の両端の範囲内において縮小後のグラフ軸の端が設定され、これによりグラフ軸の表示範囲及び表示範囲の基準となる表示位置(グラフ軸の端)も設定されることとなるから、引用文献1に記載されたグラフ軸の移動量は、本件補正発明における一軸の両端の範囲内の基準位置から表示位置への変位量とは相違する旨の請求人の主張は採用できない。
また、基準位置及び表示位置が一軸の両端を除く位置であることについては前記(ア)bで検討したとおりであり、変位量を設定することについては前記(ア)cで検討したとおりである。
なお、「表示位置を一軸の端に設定してしまうと、一軸の表示範囲が無くなり、波形又はグラフが表示されなくなってしまう」旨の主張については、縮小前の一端を縮小後の他端とすることを意味していると解されるが、このことは表示位置が一軸の両端であるか否かとは本質的に無関係であり、例えば本願の実施形態においても、オフセット値を+5にすると表示範囲が無くなる。よって、請求人の当該主張は失当である。
(b) 主張2についての検討
引用文献1に記載された発明が解決しようとする課題である、グラフ軸毎に独立に表示範囲と表示倍率を設定でき、任意の表示倍率に設定可能な表示装置を実現することは、グラフの視認性の向上やグラフを都合の良い位置に表示することを目的として内在していることは明らかであり、請求人の主張には根拠がない。
(c) 主張3についての検討
本件補正発明ではキーボードを使用して変位量を設定することは特定されておらず、また、グラフ軸やその端の位置の指定はキーボードでも可能であるし、変位量の設定はマウスでも例えばホイールを用いて可能であることは前記(ア)cで説示したとおりであるから、キーボードとマウスの相違についての請求人の主張は理由がない。
(d) 審判請求書における請求人の主張についてのまとめ
以上検討したとおり、審判請求書における請求人の主張はいずれも採用できない。
オ 独立特許要件についての当審の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(3) 本件補正の適否についての当審の判断のまとめ
前記(2)に示したとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由2(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由2 (進歩性の欠如) 本願発明は、本願の出願前に発行された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
1.特開平6-324829号公報
3 引用文献に記載された事項、引用発明の認定
引用文献に記載された事項、引用発明の認定は、前記第2の2(2)イにおいて示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明に対して、画面上の座標に表示することについて、「入力信号に基づいて波形又はグラフ…を表示する」との限定を省いて、「複数の数値を示す入力信号…を表示する」とするとともに、
変位量の設定について、「前記座標の一軸における両端を除く任意の位置である基準位置から、前記一軸における両端を除く利用者の都合の良い位置である表示位置への変位量」との限定を省いて、「前記座標の座標軸に対し、前記画面上における基準位置から前記入力信号の表示位置への変位量」としたものである。
そして、グラフを表示するための入力信号が複数の数値を示すことは当然のことであることを勘案すれば、本願発明の発明特定事項を実質的に全て含み、当該発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の2(2)において説示したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本願発明も、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-010364