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特許拒絶査定不服審判

2022-013558

電流検出装置および測定装置

審判番号
2022-013558
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-128221
請求日
2022年08月30日
審決日
2023年08月17日
公報発行日
2023年11月24日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】日置電機株式会社
  • 【請求人代理人】酒井 伸司
審判長/審判官
  • 審判長 濱野 隆
  • 審判官 後藤 慎平
  • 審判官 田邉 英治
分類
P18 .55 -Z (G01R)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第17条の2第3項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2017-128221「電流検出装置および測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月24日出願公開、特開2019- 12002〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成29年6月30日に出願された特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。 令和3年 2月24日付け:拒絶理由通知書 同年 6月28日 :意見書、手続補正書の提出 同年 9月30日付け:拒絶理由通知書(最後) 令和4年 1月26日 :意見書、手続補正書の提出 同年 5月20日付け:補正の却下の決定 同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) (同月31日 :原査定の謄本の送達) 同年 8月30日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 (新規事項) 令和3年6月28日付け手続補正書による補正(以下「本件1次補正」という。)は、下記の点で本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 記 本件1次補正は、特許請求の範囲の請求項1、3についての補正を含むものであるところ、この補正により、本件1次補正前の請求項1の「前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続されている」なる記載は、「前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続され、前記第1抵抗の抵抗値および前記コンデンサの静電容量値は、前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域において前記直列回路のインピーダンスが前記第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように規定されている」なる記載に補正された。請求項3についても同様である。 当初明細書等の記載を参照しても、「前記第1抵抗の抵抗値および前記コンデンサの静電容量値は、前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域において前記直列回路のインピーダンスが前記第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように規定されている」という事項自体は記載されていない。 特に「直列回路のインピーダンス」と「第1抵抗の抵抗値」との関係について、「直列回路のインピーダンス」が「第1抵抗の抵抗値」の「10倍」程度のインピーダンスとなるように規定することは記載されておらず、また、「10倍以上」のインピーダンスとなるように規定することも記載されていない。 そして、当初明細書等の記載から自明な事項であるとも認められない。 したがって、本件1次補正は、いわゆる新規事項を追加するものと認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。 第3 当審の判断 審判合議体は、以下に詳述するとおり、本件1次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、新規事項を追加する不適法な補正であって、この点は、令和4年8月30日に提出された手続補正書による補正(以下「本件2次補正」という。)によっても解消していないと判断した。 1 本件1次補正及び本件2次補正の補正内容 本件1次補正は、次の(1)に示す、本件1次補正前の特許請求の範囲及び明細書の記載(願書に最初に添付した特許請求の範囲及び明細書の記載)を、次の(2)に示す、本件1次補正後の特許請求の範囲及び明細書の記載にそれぞれ補正するものである(明細書の補正は段落【0008】及び【0010】に限る。)。 また、本件2次補正は、次の(3)に示す本件2次補正前の明細書の段落【0048】の記載を、次の(4)に示す本件2次補正後の明細書の段落【0048】の記載に補正するものである。 下線は、審判合議体が付したものである。以下同様である。 (1) 本件1次補正前の特許請求の範囲及び明細書の記載 ア 特許請求の範囲 「【請求項1】 測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれて前記測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力する磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を巻回して構成された帰還巻線と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内に配設されて当該駆動電流を電圧に変換するための検出抵抗が接続される一対の抵抗接続端子とを備えている電流検出装置であって、 前記帰還巻線は、前記磁気コアの周方向に沿って配置された複数の巻線が直列に接続されて構成され、 前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続されている電流検出装置。 【請求項2】 前記一対の抵抗接続端子間に前記検出抵抗が接続されている請求項1記載の電流検出装置。 【請求項3】 測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれて前記測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力する磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を巻回して構成された帰還巻線と、前記磁気センサに励磁信号を出力する信号生成部と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内に配設されて当該駆動電流を電圧に変換して出力する検出抵抗とを備えて、前記検出抵抗によって変換された前記電圧を前記測定対象電線に流れる電流の電流値として検出する電流検出装置であって、 前記帰還巻線は、前記磁気コアの周方向に沿って配置された複数の巻線が直列に接続されて構成され、 前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続されている電流検出装置。 【請求項4】 前記共振防止回路は、前記第1抵抗よりも大きな抵抗値に規定されると共に前記直列回路に並列に接続された第2抵抗を含んで構成されている請求項1から3のいずれかに記載の電流検出装置。 【請求項5】 請求項1から4のいずれかに記載の電流検出装置と、 前記検出抵抗によって変換された前記電圧に基づいて前記電流値を測定する処理部と、 前記測定された電流値を出力する出力部とを備えている測定装置。」 イ 明細書 「 【0008】 上記目的を達成すべく請求項1記載の電流検出装置は、測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれて前記測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力する磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を巻回して構成された帰還巻線と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内に配設されて当該駆動電流を電圧に変換するための検出抵抗が接続される一対の抵抗接続端子とを備えている電流検出装置であって、前記帰還巻線は、前記磁気コアの周方向に沿って配置された複数の巻線が直列に接続されて構成され、前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続されている。」 「 【0010】 また、請求項3記載の電流検出装置は、測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれて前記測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力する磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を巻回して構成された帰還巻線と、前記磁気センサに励磁信号を出力する信号生成部と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内に配設されて当該駆動電流を電圧に変換して出力する検出抵抗とを備えて、前記検出抵抗によって変換された前記電圧を前記測定対象電線に流れる電流の電流値として検出する電流検出装置であって、前記帰還巻線は、前記磁気コアの周方向に沿って配置された複数の巻線が直列に接続されて構成され、前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続されている。」 (2) 本件1次補正後の特許請求の範囲及び明細書の記載 ア 特許請求の範囲 「 【請求項1】 測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれて前記測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力する磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を巻回して構成された複数の巻線が直列に接続されて構成された帰還巻線と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内であって、前記複数の巻線のうちの隣り合う2つの巻線の間、および前記複数の巻線のうちのいずれか1つと基準電位との間のいずれかに配設されて当該駆動電流を電圧に変換するための検出抵抗が接続される一対の抵抗接続端子とを備えている電流検出装置であって、 前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続され、前記第1抵抗の抵抗値および前記コンデンサの静電容量値は、前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域において前記直列回路のインピーダンスが前記第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように規定されている電流検出装置。 【請求項2】 前記一対の抵抗接続端子間に前記検出抵抗が接続されている請求項1記載の電流検出装置。 【請求項3】 測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれて前記測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力する磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を巻回して構成された複数の巻線が直列に接続されて構成された帰還巻線と、前記磁気センサに励磁信号を出力する信号生成部と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内であって、前記複数の巻線のうちの隣り合う2つの巻線の間、および前記複数の巻線のうちのいずれか1つと基準電位との間のいずれかに配設されて当該駆動電流を電圧に変換して出力する検出抵抗とを備えて、前記検出抵抗によって変換された前記電圧を前記測定対象電線に流れる電流の電流値として検出する電流検出装置であって、 前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続され、前記第1抵抗の抵抗値および前記コンデンサの静電容量値は、前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域において前記直列回路のインピーダンスが前記第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように規定されている電流検出装置。 【請求項4】 前記共振防止回路は、前記第1抵抗よりも大きな抵抗値に規定されると共に前記直列回路に並列に接続された第2抵抗を含んで構成されている請求項1から3のいずれかに記載の電流検出装置。 【請求項5】 請求項1から4のいずれかに記載の電流検出装置と、 前記検出抵抗によって変換された前記電圧に基づいて前記電流値を測定する処理部と、 前記測定された電流値を出力する出力部とを備えている測定装置。」 イ 明細書 「 【0008】 上記目的を達成すべく請求項1記載の電流検出装置は、測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれて前記測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力する磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を巻回して構成された複数の巻線が直列に接続されて構成された帰還巻線と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内であって、前記複数の巻線のうちの隣り合う2つの巻線の間、および前記複数の巻線のうちのいずれか1つと基準電位との間のいずれかに配設されて当該駆動電流を電圧に変換するための検出抵抗が接続される一対の抵抗接続端子とを備えている電流検出装置であって、前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続され、前記第1抵抗の抵抗値および前記コンデンサの静電容量値は、前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域において前記直列回路のインピーダンスが前記第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように規定されている。」 「 【0010】 また、請求項3記載の電流検出装置は、測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれて前記測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力する磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を巻回して構成された複数の巻線が直列に接続されて構成された帰還巻線と、前記磁気センサに励磁信号を出力する信号生成部と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内であって、前記複数の巻線のうちの隣り合う2つの巻線の間、および前記複数の巻線のうちのいずれか1つと基準電位との間のいずれかに配設されて当該駆動電流を電圧に変換して出力する検出抵抗とを備えて、前記検出抵抗によって変換された前記電圧を前記測定対象電線に流れる電流の電流値として検出する電流検出装置であって、前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続され、前記第1抵抗の抵抗値および前記コンデンサの静電容量値は、前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域において前記直列回路のインピーダンスが前記第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように規定されている。」 (3) 本件2次補正前の明細書の段落【0048】の記載 「 【0048】 また、上記例では、第1抵抗9aおよびコンデンサ9bの直列回路だけで共振防止回路9を構成しているが、これに限定されるものではなく、例えば、図6に示す共振防止回路9のように、この直列回路に別の第2抵抗9cを直列に接続してもよい。この場合、この第2抵抗9cの抵抗値R2は、抵抗値R1よりも大きな値(十分に大きな値。例えば、100kΩ程度)に規定する。この共振防止回路9のインピーダンスの周波数特性では、電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fLの低周波側におけるインピーダンスが、図5で破線で示すように抵抗値R2で頭打ちとなるが、上記したように、抵抗値R2を十分に大きな値に規定しておくことにより、この共振防止回路9を経由して励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態の発生を十分に低減でき、S/N比の低下についても十分に回避することができる。」 (4) 本件2次補正後の明細書の段落【0048】の記載 「 【0048】 また、上記例では、第1抵抗9aおよびコンデンサ9bの直列回路だけで共振防止回路9を構成しているが、これに限定されるものではなく、例えば、図6に示す共振防止回路9のように、この直列回路に別の第2抵抗9cを並列に接続してもよい。この場合、この第2抵抗9cの抵抗値R2は、抵抗値R1よりも大きな値(十分に大きな値。例えば、100kΩ程度)に規定する。この共振防止回路9のインピーダンスの周波数特性では、電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fLの低周波側におけるインピーダンスが、図5で破線で示すように抵抗値R2で頭打ちとなるが、上記したように、抵抗値R2を十分に大きな値に規定しておくことにより、この共振防止回路9を経由して励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態の発生を十分に低減でき、S/N比の低下についても十分に回避することができる。」 2 本件1次補正についての当審の判断 本件1次補正後の請求項1の記載は「前記第1抵抗の抵抗値および前記コンデンサの静電容量値は、前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域において前記直列回路のインピーダンスが前記第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように規定されている」という発明特定事項を含むところ、以下に説示するとおり、このような発明特定事項を追加する補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものではないから、本件1次補正は、新規事項を追加する不適法な補正である。 (1) 当初明細書等の記載 ア 段落【0004】~【0015】 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ところで、上記の特許文献1には開示されていないが、上記の電流検出装置では、ゼロフラックス方式で動作する作動周波数帯域、つまり、駆動部が磁気センサからの検出信号を入力すると共にこの検出信号の振幅を低下させる駆動電流を帰還巻線に供給し得る周波数帯域(つまり、磁気コアに発生する磁束をゼロにし得る周波数帯域)を超える高周波領域においては、磁気センサや駆動部の利得が大幅に低下することから、駆動部から帰還巻線への出力電圧がほぼゼロボルトになる。これにより、帰還巻線の両端部(巻始め端側の端部と巻き終わり端側の端部)は実質的に同電位となって、等価的に互いに接続された状態となることから、帰還巻線は、高周波領域においてCT(カレントトランス)として機能するようになる。この構成により、上記の電流検出装置は、測定対象電線に流れる電流の周波数が低周波領域に含まれるときには、ゼロフラックス方式で動作してこの電流を検出すると共に、測定対象電線に流れる電流の周波数が高周波領域に含まれるときには、帰還巻線がCTとして動作してこの電流を検出することにより、測定対象電線に流れる電流を低周波領域から高周波領域までの広帯域に亘って検出し得るようになっている。 【0005】 また、この電流検出装置では、帰還巻線がCTとして動作する高周波領域において、帰還巻線の寄生容量に起因して生じる共振を防止して、周波数特性を改善するため(作動周波数帯域をより高域まで伸ばすため)に、第1帰還巻線と第2帰還巻線のそれぞれに並列に共振防止用抵抗を接続する構成を採用している。この場合、共振防止用抵抗は、抵抗値が大きすぎると共振防止の効果が発揮し得ないことから、共振防止用抵抗には、ある程度小さな抵抗値の抵抗を使用する必要がある。 【0006】 しかしながら、このような小さな抵抗値の抵抗を共振防止用抵抗として使用した場合には、ゼロフラックス方式で動作したときに、磁気センサに供給されている励磁信号の信号成分が帰還巻線を経由する経路ではなく、この共振防止用抵抗を経由する経路で検出抵抗に伝わる。このため、この電流検出装置には、ゼロフラックス方式で動作したときの(低周波領域での)S/N比が低下する虞があるという改善すべき課題が存在している。なお、帰還巻線がCTとして動作する高周波領域では、上記した磁気センサや駆動部と同様にして、信号生成部の利得も大幅に低下することから、励磁信号の振幅がほぼゼロになる。このため、励磁信号の信号成分の検出抵抗への影響は無視することができる。 【0007】 本発明は、かかる課題を改善すべくなされたものであり、ゼロフラックス方式での動作と、帰還巻線をCTとして機能させる動作とを組み合わせつつ、ゼロフラックス方式での動作におけるS/N比の低下を回避し、かつ帰還巻線をCTとして機能させる動作での帰還巻線での共振を防止し得る電流検出装置、およびこの電流検出装置を備えた測定装置を提供することを主目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 上記目的を達成すべく請求項1記載の電流検出装置は、測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれて前記測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力する磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を巻回して構成された帰還巻線と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内に配設されて当該駆動電流を電圧に変換するための検出抵抗が接続される一対の抵抗接続端子とを備えている電流検出装置であって、前記帰還巻線は、前記磁気コアの周方向に沿って配置された複数の巻線が直列に接続されて構成され、前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続されている。 【0009】 また、請求項2記載の電流検出装置は、請求項1記載の電流検出装置において、前記一対の抵抗接続端子間に前記検出抵抗が接続されている。 【0010】 また、請求項3記載の電流検出装置は、測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コアと、当該磁気コアに組み込まれて前記測定対象電線に流れる電流の電流値に比例して振幅が変化する検出信号を出力する磁気センサと、前記磁気コアの外表面に導線を巻回して構成された帰還巻線と、前記磁気センサに励磁信号を出力する信号生成部と、前記検出信号を入力すると共に当該検出信号の振幅を低下させる駆動電流を前記帰還巻線に供給する駆動部と、前記駆動電流の電流路内に配設されて当該駆動電流を電圧に変換して出力する検出抵抗とを備えて、前記検出抵抗によって変換された前記電圧を前記測定対象電線に流れる電流の電流値として検出する電流検出装置であって、前記帰還巻線は、前記磁気コアの周方向に沿って配置された複数の巻線が直列に接続されて構成され、前記複数の巻線のそれぞれには、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含んで構成される共振防止回路が並列に接続されている。 【0011】 また、請求項4記載の電流検出装置は、請求項1から3のいずれかに記載の電流検出装置において、前記共振防止回路は、前記第1抵抗よりも大きな抵抗値に規定されると共に前記直列回路に並列に接続された第2抵抗を含んで構成されている。 【0012】 また、請求項5記載の測定装置は、請求項1から4のいずれかに記載の電流検出装置と、前記検出抵抗によって変換された前記電圧に基づいて前記電流値を測定する処理部と、前記測定された電流値を出力する出力部とを備えている。 【発明の効果】 【0013】 請求項1,2,3,4記載の電流検出装置および請求項5記載の測定装置によれば、帰還巻線を構成する複数の巻線のそれぞれに、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含む共振防止回路を並列に接続したことにより、ゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域では、この直列回路を構成するコンデンサのインピーダンスが十分に大きい値となることから(つまり、共振防止回路のインピーダンスが十分に大きい値となることから)、この共振防止回路を経由して励磁信号の信号成分が検出抵抗(請求項1記載の電流検出装置では、一対の抵抗接続端子間に接続された検出抵抗)に流れ込む事態の発生を大幅に低減でき、S/N比の低下を確実に回避することができる。また、帰還巻線がCTとして機能する高周波領域では、この直列回路を構成するコンデンサのインピーダンスが十分に小さい値となることから(つまり、共振防止回路のインピーダンスが第1抵抗の抵抗値(十分に小さい抵抗値)となることから)、寄生容量に起因して生じる虞のある帰還巻線(各巻線)での共振の発生を確実に防止することができる。 【0014】 請求項1,4記載の電流検出装置および請求項5記載の測定装置によれば、例えば、駆動電流の電流値(つまり、測定対象電線に流れる電流の電流値)に応じて適切な抵抗値の検出抵抗を適宜選択して一対の抵抗接続端子に接続することができるため、測定対象電線に流れる電流の電流値についての測定範囲を広げることができる。 【0015】 請求項2,3,4記載の電流検出装置および請求項5記載の測定装置によれば、駆動電流の電流路内にこの駆動電流を電圧に変換するための検出抵抗が予め配設されているため、検出抵抗を別途用意する手間を省くことができる。」 イ 段落【0017】~【0046】、【図1】~【図3】、【図5】 「 【0017】 以下、添付図面を参照して、電流検出装置および測定装置の実施の形態について説明する。 【0018】 測定装置MSは、図1に示すように、電流検出装置としての電流検出装置61、処理部62および出力部63を備え、測定対象電線64に流れる電流Iの電流値I1を測定可能に構成されている。 【0019】 電流検出装置61は、図1に示すように、環状(本例では一例として円環状であるが、楕円形やロ字形などの非円形の環状であってもよい)の磁気コア2、磁気センサとしてのフラックスゲート型磁気センサ3(以下、「磁気センサ3」ともいう)、帰還巻線4、信号生成部5、駆動部6、検出抵抗7、差動検出部8および共振防止回路9を備え、磁気コア2に挿通された測定対象電線64に流れる電流Iの電流値I1に比例して電圧値V1が変化する電圧信号Soを出力する。 【0020】 磁気コア2は、一例として図1,2に示すように、磁気コア2の周方向に沿って磁気コア2の内部に形成された空隙21を備え、空隙21内には、磁気センサ3を構成する後述のフラックスゲートセンサ素子31が収納されている。 【0021】 磁気センサ3は、一例として図1,2に示すように、2つのフラックスゲートセンサ素子31a,31b(以下、特に区別しないときには「センサ素子31」ともいう)、差動増幅部32、および同期検波部33を備えている。各センサ素子31は、図示はしないが、一例として、同一形状に形成された円環状の絶縁基材の表面に検出巻線が同じ巻回数だけ巻回されてそれぞれ構成されている。また、各センサ素子31は、互いの検出巻線の巻線方向が互いに逆向きとなるように直列に接続され、かつ、図2に示すように、互いに重ね合わされた状態で磁気コア2の空隙21内に配設されている(磁気コア2に組み込まれている)。また、直列に接続された2つの検出巻線の各非接続端部(互いに接続されない側の端部)には引き出し線31c,31dがそれぞれ接続されると共に、各検出巻線の接続端部(互いに接続さる側の端部)には引き出し線31eが接続されて、2つの検出巻線は、各引き出し線31c,31d,31eを介して差動増幅部32に接続されている。 【0022】 この構成により、各センサ素子31a,31bは、信号生成部5から出力される後述の励磁電流I2(一定の周波数fの交流電流)が供給されているときに、互いの位相が反転する検出電圧Va,Vbをそれぞれの検出巻線間に発生させると共に、各検出電圧Va,Vbを各引き出し線31c,31d,31eを介して差動増幅部32に出力する。 【0023】 差動増幅部32は、図1に示すように、各センサ素子31に各引き出し線31c,31d,31eを介して接続されて、各センサ素子31から出力される検出電圧Va,Vbを入力すると共に、その差分電圧(Va-Vb)を検出する。また、差動増幅部32は、検出した差分電圧(Va-Vb)を増幅して、差分信号S1として出力する。磁気コア2に挿通されている測定対象電線64に電流Iが流れているときには、測定対象電線64の周囲に発生している磁界によって磁気コア2内の磁束が変化し、これに伴って各検出電圧Va,Vbの振幅が変化する。このため、差分電圧(Va-Vb)および差分信号S1は、励磁電流I2の2倍の周波数(2f)の信号成分が電流Iの振幅によって変調された振幅変調信号となる。 【0024】 同期検波部33は、差動増幅部32から出力される差分信号S1を、信号生成部5から出力される後述の同期信号S2(励磁電流I2に同期した周波数(2f)の矩形波信号)で同期検波することにより、測定対象電線64に流れる電流Iの電流値I1に比例して振幅が変化する検出信号S3を出力する。 【0025】 帰還巻線4は、図1に示すように、センサ素子31を覆うようにして磁気コア2の外表面に磁気コア2の周方向に沿って配設された複数の巻線(本例では一例として、2個の巻線4a,4b)が直列に接続されて構成されている。各巻線4a,4bは、図2に示すように、磁気コア2の外表面に導線41を、同じ巻回方向で、かつ同じ巻回数だけ巻回して構成されている。なお、図2は、巻線4b、および磁気コア2の内部構造を示すための磁気コア2における巻線4bが配設された部位の周方向と直交する平面での断面図であるが、図示はしないが、磁気コア2における巻線4aが配設された部位の断面も同様の断面図となる。 【0026】 また、図1に示すように、巻線4aは、その一端部42が駆動部6に接続されると共に、その他端部43が検出抵抗7の一端に接続されている。巻線4bは、その一端部44が検出抵抗7の他端に接続されると共に、その他端部45が基準電位(回路グランドG)に接続されている。この構成により、各巻線4a,4bは検出抵抗7を介して直列に接続されている。 【0027】 信号生成部5は、一定周波数fの交流電流である励磁信号としての励磁電流I2を生成して、センサ素子31に出力する。また、信号生成部5は、励磁電流I2に同期した周波数(2f)の信号を生成して同期信号S2として同期検波部33に出力する。 【0028】 駆動部6は、磁気センサ3の同期検波部33から出力される検出信号S3を入力すると共に駆動信号S4に増幅して、帰還巻線4を構成する巻線4aの一端部42に出力する。本例では、一例として、駆動部6は、図3に示すように、ボルテージフォロワ回路で構成されて、増幅した検出信号S3を非反転の状態で駆動信号S4に増幅して出力する。この場合、帰還巻線4および検出抵抗7には、駆動部6から駆動信号S4が出力(印加)されることにより、駆動電流Idが流れる。このため、磁気コア2内には、駆動電流Idが帰還巻線4を流れることによって、磁束が発生する。駆動部6は、この駆動電流Idが帰還巻線4を流れることによって磁気コア2に発生する磁束で、測定対象電線64に電流Iが流れることによって磁気コア2に発生する磁束を打ち消すように(ゼロフラックス状態となるように)、つまり、磁気センサ3から出力される検出信号S3の振幅を低下させる(ゼロに近づける)ように、駆動信号S4の振幅(電圧)を制御する。 【0029】 検出抵抗7は、図1,3に示すように、帰還巻線4を含む駆動電流Idの電流路内に配設されて、帰還巻線4に流れる駆動電流Idを電圧Vdに変換する。上記したように、本例では一例として、検出抵抗7は、帰還巻線4を構成する巻線4aと巻線4bとの間に配設されている。なお、検出抵抗7の配設位置は、これに限定されるものではなく、例えば、図示はしないが、巻線4aの他端部43と巻線4bの一端部44とを直接接続して、巻線4bの他端部45と基準電位(回路グランドG)との間に検出抵抗7を配設する構成を採用することもできる。 【0030】 差動検出部8は、検出抵抗7に接続されて、この検出抵抗7に両端間電圧として発生する電圧Vdを検出すると共に、増幅して電圧信号Soとして出力する。共振防止回路9は、図1,3に示すように、帰還巻線4を構成するすべての巻線(本例では、2つの巻線4a,4b)のそれぞれに並列に接続されている。また、本例では一例として共振防止回路9は、図3に示すように、第1抵抗9a(例えば、10kΩ程度の抵抗)およびコンデンサ9b(例えば、500pF程度のコンデンサ)の直列回路を含んで構成されている。 【0031】 以上のようにして構成された電流検出装置61は、測定対象電線64に流れる電流Iを、この電流Iが低周波領域fL(図5参照)に含まれる周波数の信号のときには、磁気センサ3を使用したゼロフラックス方式の電流検出装置として機能して検出し、この電流Iが高周波領域fH(図5参照)に含まれる周波数の信号のときには、帰還巻線4をCTとして使用する電流検出装置として機能して検出する。 【0032】 また、この電流検出装置61では、共振防止回路9のインピーダンス(本例では、共振防止回路9を構成する第1抵抗9aおよびコンデンサ9bの直列回路のインピーダンス)の周波数特性が図5において実線で示す特性となるように、第1抵抗9aの抵抗値R1およびコンデンサ9bの静電容量値が予め規定されている。具体的には、電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fL、および励磁電流I2の周波数fを含む周波数領域では、コンデンサ9bのインピーダンス成分が十分に大きい値(抵抗値R1よりも十分に大きい値)となるように、つまり、直列回路のインピーダンスが十分に大きい値となるように、この抵抗値R1およびこの静電容量値が規定されている。また、電流検出装置61において帰還巻線がCTとして機能する高周波領域fHでの特に共振の発生し易い周波数領域(図5において斜線を付した周波数領域)では、コンデンサ9bのインピーダンス成分が十分に小さい値(抵抗値R1よりも十分に小さい値)となって、直列回路のインピーダンスが抵抗値R1となるように、この抵抗値R1およびこの静電容量値が規定されている。この第1抵抗9aの抵抗値R1は、高周波領域fHでの上記の共振の発生を確実に防止(回避)し得る低抵抗値に規定されている。 【0033】 処理部62は、例えば、A/D変換器、メモリおよびCPU(いずれも図示せず)を備えて構成されて、電流検出装置61から出力される電圧信号Soの電圧値V1を測定すると共に、この測定した電圧値V1に基づいて測定対象電線64に流れる電流Iの電流値I1を算出(測定)する。また、処理部62は、測定した電流値I1を出力部63に出力する。 【0034】 出力部63は、一例として、LCDなどのディスプレイ装置で構成されて、処理部62から出力された電流値I1を画面に表示する。なお、出力部63は、ディスプレイ装置に代えて、種々のインターフェース回路で構成してもよく、例えば、メディアインターフェース回路としてリムーバブルメディアに電流値I1を記憶させたり、ネットワークインターフェース回路としてネットワーク経由で外部装置に電流値I1を伝送させたりする構成を採用することもできる。 【0035】 次に、電流検出装置61および測定装置MSの各動作について、図面を参照して説明する。 【0036】 上記したように、電流検出装置61では、低周波領域fLにおいては、信号生成部5が、帰還巻線4に対して周波数fの励磁電流I2を出力すると共に、フラックスゲート型の磁気センサ3における同期検波部33に同期信号S2を出力する。 【0037】 この状態において、磁気センサ3では、この励磁電流I2の供給を受けて作動する2つのセンサ素子31a,31bが、互いの位相が反転すると共に、測定対象電線64に流れる電流Iの電流値I1に応じて振幅が変化する検出電圧Va,Vbをそれぞれ出力する。差動増幅部32は、この検出電圧Va,Vbの差分電圧(Va-Vb)を検出して、差分信号S1を出力する。同期検波部33は、この差分信号S1を同期信号S2で同期検波することにより、測定対象電線64に流れる電流Iの電流値I1に比例して振幅が変化する検出信号S3を出力する。 【0038】 次いで、駆動部6は、磁気センサ3から出力される検出信号S3を入力すると共に、駆動信号S4に増幅して、帰還巻線4に出力することで、帰還巻線4に駆動電流Idを供給する。また、駆動部6は、検出信号S3の振幅(電圧)が低下する(ゼロに近づく)ように、駆動信号S4の振幅(電圧)を制御する(つまり、駆動電流Idの電流値を制御する)。この場合、検出信号S3の振幅(電圧)がゼロになっている状態では、磁気コア2に発生している全磁束がゼロになっている状態、つまり、測定対象電線64に電流Iが流れることによって磁気コア2に発生する磁束が、帰還巻線4に駆動電流Idが流れることによって磁気コア2に発生する磁束を打ち消している状態(ゼロフラックス状態)となっている。つまり、駆動部6は、電流値が電流Iの電流値I1と比例する駆動電流Idを出力している状態となっている。 【0039】 続いて、帰還巻線4を構成する2つの巻線4a,4b間に配設された検出抵抗7が、この駆動電流Idを電圧Vdに変換し、差動検出部8が、この電圧Vdを検出して電圧信号Soとして出力する。上記したように、駆動電流Idの電流値は電流Iの電流値I1と比例した状態に維持されているため、電流検出装置61から出力される電圧信号Soもまた、その電圧値V1(振幅)が電流Iの電流値I1に比例した信号となっている。 【0040】 このようにして、電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fLでは、上記したように、共振防止回路9のインピーダンス(主として、コンデンサ9bのインピーダンス)は十分に大きい値であるため、各巻線4a,4bに並列に接続されている共振防止回路9を経由して励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態の発生が大幅に低減されている。これにより、電流検出装置61は、電圧Vdの検出に際してノイズ成分となる励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込むことに起因するS/N比の低下を確実に回避することが可能となっている。 【0041】 処理部62は、電流検出装置61から出力される電圧信号Soの電圧値V1を測定すると共に、この測定した電圧値V1に基づいて測定対象電線64に流れる電流Iの電流値I1を算出(測定)して出力部63に出力する。出力部63は、この電流値I1を画面に表示する。これにより、測定装置MSによる電流Iの電流値I1の測定が完了する。 【0042】 また、電流検出装置61では、高周波領域fHにおいては、帰還巻線4がCTとして動作する。この状態においては、帰還巻線4には、測定対象電線64に電流Iが流れることによって磁気コア2に発生する磁束に比例した電圧が誘起され、帰還巻線4および検出抵抗7には、この誘起された電圧に比例した電流が流れる。検出抵抗7は、この電流を電圧Vdに変換し、差動検出部8が、この電圧Vdを検出して電圧信号Soとして出力する。上記したように、検出抵抗7に流れる電流の電流値は電流Iの電流値I1と比例しているため、電流検出装置61から出力される電圧信号Soもまた、その電圧値V1(振幅)が電流Iの電流値I1に比例した信号となっている。 【0043】 処理部62は、電流検出装置61から出力される電圧信号Soの電圧値V1を測定すると共に、この測定した電圧値V1に基づいて測定対象電線64に流れる電流Iの電流値I1を算出(測定)して出力部63に出力する。出力部63は、この電流値I1を画面に表示する。これにより、測定装置MSによる電流Iの電流値I1の測定が完了する。 【0044】 帰還巻線4がCTとして動作し始める高周波領域fH内の低周波側においては、磁気センサ3および駆動部6の利得は大幅に低下し、また信号生成部5の利得も大幅に低下した状態となっている。この場合において、信号生成部5から出力されている励磁電流I2の振幅が十分に低くなっていないこともあり得るが、このときの共振防止回路9のインピーダンスは、図5に示すように、この励磁電流I2の影響を受けて帰還巻線4に漏れ込む周波数fの信号成分を十分に減衰させ得る大きさに維持されていることから、S/N比の低下は回避されている。 【0045】 一方、帰還巻線4がCTとして動作する高周波領域fH内の主たる領域(図5において斜線を付した周波数領域)では、共振防止回路9を構成するコンデンサ9bのインピーダンス成分が十分に小さい値(抵抗値R1よりも十分に小さい値)となって、直列回路のインピーダンスが抵抗値R1となる。これにより、寄生容量に起因して帰還巻線4(巻線4a,4b)に生じる虞のある共振については、共振防止回路9によって確実に防止される。 【0046】 このようにして、この電流検出装置61および測定装置MSによれば、帰還巻線4を構成する複数の巻線(上記の例では、2個の巻線4a,4b)のそれぞれに、第1抵抗9aおよびコンデンサ9bの直列回路を含む共振防止回路9を並列に接続したことにより、電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fLでは、この直列回路を構成するコンデンサ9bのインピーダンスが十分に大きい値(電流Iが直流または直流に近い周波数の信号のときには無限大に近い極めて大きな値)となることから(つまり、共振防止回路9のインピーダンスが十分に大きい値となることから)、この共振防止回路9を経由して励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態の発生を大幅に低減でき、S/N比の低下を確実に回避することができる。また、帰還巻線4がCTとして機能する高周波領域fHでは、この直列回路を構成するコンデンサ9bのインピーダンスが十分に小さい値となることから(つまり、共振防止回路9のインピーダンスが第1抵抗9aの抵抗値R1(十分に小さい抵抗値)となることから)、寄生容量に起因して生じる虞のある帰還巻線4(巻線4a,4b)での共振の発生を確実に防止することができる。」 「【図1】 [図:0001403328000001.jpg] 」 「【図2】 [図:0001403328000002.jpg] 」 「【図3】 [図:0001403328000003.jpg] 」 「【図5】 [図:0001403328000004.jpg] 」 ウ 段落【0048】、【図6】 「 【0048】 また、上記例では、第1抵抗9aおよびコンデンサ9bの直列回路だけで共振防止回路9を構成しているが、これに限定されるものではなく、例えば、図6に示す共振防止回路9のように、この直列回路に別の第2抵抗9cを直列(当審注:「並列」の誤記であると認められる。)に接続してもよい。この場合、この第2抵抗9cの抵抗値R2は、抵抗値R1よりも大きな値(十分に大きな値。例えば、100kΩ程度)に規定する。この共振防止回路9のインピーダンスの周波数特性では、電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fLの低周波側におけるインピーダンスが、図5で破線で示すように抵抗値R2で頭打ちとなるが、上記したように、抵抗値R2を十分に大きな値に規定しておくことにより、この共振防止回路9を経由して励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態の発生を十分に低減でき、S/N比の低下についても十分に回避することができる。」 「【図6】 [図:0001403328000005.jpg] 」 (2) 新規事項の追加の有無の検討 ア 直列回路のインピーダンスに関する補正 本件1次補正により、請求項1において「前記第1抵抗の抵抗値および前記コンデンサの静電容量値は、前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域において前記直列回路のインピーダンスが前記第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように規定されている」という発明特定事項(以下「補正事項A」という。)が追加された。 イ 補正事項Aと当初明細書等の対応関係 (ア) 第1抵抗の抵抗値及びコンデンサの静電容量値について a 補正事項Aの「前記第1抵抗の抵抗値および前記コンデンサの静電容量値」の「前記第1抵抗」及び「前記コンデンサ」は、請求項1の記載からみて、「測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コア」の「外表面に導線を巻回して構成された複数の巻線」の「それぞれ」に「並列に接続され」た「共振防止回路」を「構成」する「第1抵抗およびコンデンサの直列回路」における「第1抵抗」及び「コンデンサ」をそれぞれ指すものと認められる。 b この点に関し、当初明細書等の段落【0030】には、「共振防止回路9は、図1,3に示すように、帰還巻線4を構成するすべての巻線(本例では、2つの巻線4a,4b)のそれぞれに並列に接続されている。また、本例では一例として共振防止回路9は、図3に示すように、第1抵抗9a(例えば、10kΩ程度の抵抗)およびコンデンサ9b(例えば、500pF程度のコンデンサ)の直列回路を含んで構成されている。」と記載されている(【図3】も参照)。 c そうすると、補正事項Aの「第1抵抗」は、当初明細書等の第1抵抗9aのことであり、「前記第1抵抗の抵抗値」は、例えば10kΩ程度であり、補正事項Aの「コンデンサ」は、当初明細書等のコンデンサ9bのことであり、「前記コンデンサの静電容量値」は、例えば500pF程度であるという対応関係があると認められる。 (イ) 駆動電流が磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域について a 補正事項Aの「前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域」の「前記駆動電流」は、請求項1の記載からみて、「測定対象電線が内部に挿通される環状の磁気コア」の「外表面に導線を巻回して構成された複数の巻線が直列に接続されて構成された帰還巻線」に「駆動部」から「供給」される「駆動電流」を指すものと認められる。 b この点に関し、当初明細書等の段落【0028】には、「この場合、帰還巻線4および検出抵抗7には、駆動部6から駆動信号S4が出力(印加)されることにより、駆動電流Idが流れる。このため、磁気コア2内には、駆動電流Idが帰還巻線4を流れることによって、磁束が発生する。駆動部6は、この駆動電流Idが帰還巻線4を流れることによって磁気コア2に発生する磁束で、測定対象電線64に電流Iが流れることによって磁気コア2に発生する磁束を打ち消すように(ゼロフラックス状態となるように)、つまり、磁気センサ3から出力される検出信号S3の振幅を低下させる(ゼロに近づける)ように、駆動信号S4の振幅(電圧)を制御する。」と記載されており、また、段落【0031】には、「以上のようにして構成された電流検出装置61は、測定対象電線64に流れる電流Iを、この電流Iが低周波領域fL(図5参照)に含まれる周波数の信号のときには、磁気センサ3を使用したゼロフラックス方式の電流検出装置として機能して検出し、この電流Iが高周波領域fH(図5参照)に含まれる周波数の信号のときには、帰還巻線4をCTとして使用する電流検出装置として機能して検出する。」と記載されている。 c そうすると、補正事項Aの「前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域」は、当初明細書等の、電流検出装置61が磁気センサ3を使用したゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fLのことであるという対応関係があると認められる。 (ウ) 直列回路のインピーダンスが第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなることについて a 補正事項Aの「前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域において前記直列回路のインピーダンスが前記第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように」「前記第1抵抗の抵抗値および前記コンデンサの静電容量値」が「規定されている」ことについては、当初明細書等の段落【0032】の「電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fL、および励磁電流I2の周波数fを含む周波数領域では、コンデンサ9bのインピーダンス成分が十分に大きい値(抵抗値R1よりも十分に大きい値)となるように、つまり、直列回路のインピーダンスが十分に大きい値となるように、この抵抗値R1およびこの静電容量値が規定されている」という記載が一応対応すると考えられる。 b しかしながら、上記段落【0032】には、「低周波領域fL」において、「コンデンサ9bのインピーダンス成分が十分に大きい値(抵抗値R1よりも十分に大きい値)となるように、つまり、直列回路のインピーダンスが十分に大きい値となるように、この抵抗値R1およびこの静電容量値が規定されている」と記載されているのであって、前記(イ)の検討を踏まえて、「低周波領域fL」が補正事項Aの「前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域」に対応するものであると解したとしても、直列回路のインピーダンスが、第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように、抵抗値R1およびコンデンサの静電容量値が規定されているとは明記されていない。 c なお、当初明細書等の段落【0030】には、「本例では一例として共振防止回路9は、図3に示すように、第1抵抗9a(例えば、10kΩ程度の抵抗)およびコンデンサ9b(例えば、500pF程度のコンデンサ)の直列回路を含んで構成されている。」と記載されているものの、この記載において第1抵抗9aを10kΩ程度とし、コンデンサ9bを500pF程度として、第1抵抗9aの抵抗値及びコンデンサ9bの容量値を具体的に規定しても、直ちに直列回路のインピーダンスが第1抵抗9aの抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなることが導かれるものではないから、この記載は、補正事項Aの「前記駆動電流が前記磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域において前記直列回路のインピーダンスが前記第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように」「前記第1抵抗の抵抗値および前記コンデンサの静電容量値」を「規定」したことに直接対応するものであるとは認められない。 ウ 補正事項Aの「10倍以上」と当初明細書等の「十分に大きい値」について (ア) 当初明細書等の段落【0032】の「十分に大きい値」という語句については、その具体的な値がどの程度のものを指すのか当初明細書等に開示されておらず、出願時の技術常識に照らしても当該「十分に大きい値」の具体的な値は不明であるから、補正事項Aの「10倍以上」という語句は、「十分に大きい値」と同義であるとは認められない。また、当初明細書等の記載から自明な事項であるとも認められない。 (イ) もっとも、当初明細書等の段落【0040】には、「電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fLでは、上記したように、共振防止回路9のインピーダンス(主として、コンデンサ9bのインピーダンス)は十分に大きい値であるため、各巻線4a,4bに並列に接続されている共振防止回路9を経由して励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態の発生が大幅に低減されている。これにより、電流検出装置61は、電圧Vdの検出に際してノイズ成分となる励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込むことに起因するS/N比の低下を確実に回避することが可能となっている。」との記載があり(段落【0046】にも同様の記載がある)、この記載を手がかりとして、「十分に大きい値」の意味を解釈する余地がある。 以下では、「十分に大きい値」の意味を解釈する前提として、「共振防止回路9」の機能について、「高周波領域fH」と「低周波領域fL」の場合に分けて論じる。 (ウ) 「高周波領域fH」における「共振防止回路9」の機能について a 当初明細書等の記載 当初明細書等の段落【0045】及び【0046】には、「高周波領域fH」における「共振防止回路9」の機能に関して以下の記載がある。 「【0045】 一方、帰還巻線4がCTとして動作する高周波領域fH内の主たる領域(図5において斜線を付した周波数領域)では、共振防止回路9を構成するコンデンサ9bのインピーダンス成分が十分に小さい値(抵抗値R1よりも十分に小さい値)となって、直列回路のインピーダンスが抵抗値R1となる。これにより、寄生容量に起因して帰還巻線4(巻線4a,4b)に生じる虞のある共振については、共振防止回路9によって確実に防止される。」 「【0046】 このようにして、この電流検出装置61および測定装置MSによれば、帰還巻線4を構成する複数の巻線(上記の例では、2個の巻線4a,4b)のそれぞれに、第1抵抗9aおよびコンデンサ9bの直列回路を含む共振防止回路9を並列に接続したことにより、・・・帰還巻線4がCTとして機能する高周波領域fHでは、この直列回路を構成するコンデンサ9bのインピーダンスが十分に小さい値となることから(つまり、共振防止回路9のインピーダンスが第1抵抗9aの抵抗値R1(十分に小さい抵抗値)となることから)、寄生容量に起因して生じる虞のある帰還巻線4(巻線4a,4b)での共振の発生を確実に防止することができる。」 b 等価回路に基づく検討 (a) 等価回路について 上記aにおいて摘記した事項に基づくと、帰還巻線4がCTとして動作する高周波領域fHでは、第1抵抗9a及びコンデンサ9bの直列回路を含む共振防止回路9を帰還巻線4に並列に接続し、寄生容量に起因して生じる虞のある帰還巻線4での共振の発生を想定しているから、帰還巻線4の寄生容量Cまで考慮した帰還巻線4と共振防止回路9の等価回路は下図に示すとおりであると認められる。 [図:0001403328000006.jpg] (b) 直列回路のインピーダンスについて 第1抵抗9a及びコンデンサ9bの直列回路のインピーダンスZ1は、次の(A)式に示すように、第1抵抗のインピーダンス成分ZR1とコンデンサのインピーダンス成分ZC1の和として表される。 Z1=ZR1+ZC1 ・・・(A) ここで、第1抵抗の抵抗値R1とし、コンデンサの静電容量をC1とすると、 ZR1=R1 ・・・(B) ZC1=1/(jωC1)=1/(j2πfHC1) ・・・(C) となる。 ただし、jは虚数単位を表し、角周波数ωと周波数fとの間にはω=2πfHの関係がある。 (c) RLC並列共振回路のQ値について 段落【0045】には、「帰還巻線4がCTとして動作する高周波領域fH内の主たる領域(図5において斜線を付した周波数領域)では、共振防止回路9を構成するコンデンサ9bのインピーダンス成分が十分に小さい値(抵抗値R1よりも十分に小さい値)となって、直列回路のインピーダンスが抵抗値R1となる。」と記載されており、これは、高周波領域fHにおいては、(C)式におけるfHが大きいため、ZR1と比べてZC1を無視することができることを意味する。 その場合、前記(a)に示した等価回路は、第1抵抗9a、帰還巻線4、帰還巻線4の寄生容量を並列につないだ回路とみなすことができる(以下、この回路を「RLC並列共振回路」という。)。 ここで、RLC並列共振回路の共振の鋭さを示すQ値は、一般に次の(D)式にように表されることが知られている。 Q=R1√(C/L) ・・・(D) ただし、右辺の(C/L)は√の中にある。 すなわち、RLC並列共振回路のQ値は、第1抵抗9aの抵抗値R1に比例することになり、第1抵抗9aの抵抗値R1が十分に小さい抵抗値であるときは、RLC並列共振回路のQ値は小さく抑制されることになるため、前記【0046】に記載されているとおり、「寄生容量に起因して生じる虞のある帰還巻線4(巻線4a,4b)での共振の発生を確実に防止することができる」ことが導かれる(段落【0005】の記載も参照)。 c 「高周波領域fH」における「共振防止回路9」の機能のまとめ 以上a及びbの検討結果をまとめると、「高周波領域fH」における「共振防止回路9」の機能は、第1抵抗9a及びコンデンサ9bの直列回路のうち、主として第1抵抗9aが果たすものであり、第1抵抗9aが、いわゆる「ダンピング抵抗」(共振回路の共振の鋭さQを抑制することによってノイズを減衰させるための電気抵抗のこと)として機能することにより、寄生容量に起因して生じる虞のある帰還巻線4での共振の発生を確実に防止することに寄与しているといえる。 (エ) 「低周波領域fL」における「共振防止回路9」の機能について a 当初明細書等の記載 当初明細書等の段落【0040】及び【0046】には、「低周波領域fL」における「共振防止回路9」の機能に関して以下の記載がある。 「【0040】 電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fLでは、上記したように、共振防止回路9のインピーダンス(主として、コンデンサ9bのインピーダンス)は十分に大きい値であるため、各巻線4a,4bに並列に接続されている共振防止回路9を経由して励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態の発生が大幅に低減されている。これにより、電流検出装置61は、電圧Vdの検出に際してノイズ成分となる励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込むことに起因するS/N比の低下を確実に回避することが可能となっている。」 「【0046】 このようにして、この電流検出装置61および測定装置MSによれば、帰還巻線4を構成する複数の巻線(上記の例では、2個の巻線4a,4b)のそれぞれに、第1抵抗9aおよびコンデンサ9bの直列回路を含む共振防止回路9を並列に接続したことにより、電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fLでは、この直列回路を構成するコンデンサ9bのインピーダンスが十分に大きい値(電流Iが直流または直流に近い周波数の信号のときには無限大に近い極めて大きな値)となることから(つまり、共振防止回路9のインピーダンスが十分に大きい値となることから)、この共振防止回路9を経由して励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態の発生を大幅に低減でき、S/N比の低下を確実に回避することができる。」 b コンデンサ9bの機能について 前記(ウ)において述べたとおり、直列回路の第1抵抗9aの抵抗値R1は、共振回路のQ値を小さく抑制するために小さい抵抗値としているから、コンデンサ9bがないと、直列回路のインピーダンスZ1は、(A)及び(B)式より、Z1=ZR1=R1として小さくなってしまい、低周波領域fLにおいて、共振防止回路9を経由して励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態が発生してしまう恐れがある(段落【0006】の記載も参照)。 共振防止回路を第1抵抗9aの他にコンデンサ9bも含む直列回路として構成したのは、コンデンサ9bによって、低周波領域fLにおいて励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態の発生を招いてしまうことを防止するためであって、前記【0046】において、「低周波領域fLでは、この直列回路を構成するコンデンサ9bのインピーダンスが十分に大きい値(電流Iが直流または直流に近い周波数の信号のときには無限大に近い極めて大きな値)となる」とし、「低周波領域fLにおいては、共振防止回路9を経由して励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態の発生を大幅に低減できる」としているのは、低周波領域fLにおけるコンデンサ9bの機能について言及したものである。 c 図5に基づく検討 低周波数領域fLにおいては前記(C)式は ZC1=1/(jωC1)=1/(j2πfC1) ・・・(C’) として表される。 (A)、(B)及び(C’)式により、直列回路のインピーダンスZ1は Z1=R1+1/(j2πfC1) ・・・(E) として表されるところ、これは、直列回路のインピーダンスZ1が、周波数fに依存しない定数としての第1抵抗のインピーダンス成分ZR1と周波数fに反比例する関数としてのコンデンサのインピーダンス成分ZC1の和として表されることを意味しているから、本願の【図5】は、横軸に周波数fをとり、縦軸に直列回路のインピーダンスZ1をとったときの(E)式のグラフを概ね表しているといえる。 「【図5】に基づいて当審において作成した参考図 [図:0001403328000007.jpg] 」 d 「十分に大きい値」の意味について 周波数fの励磁電流I2が直列回路に入力したと仮定した場合の直列回路のインピーダンス値をZ1fとすると(上図参照)、直列回路のインピーダンスZ1が、周波数fの励磁電流I2の信号成分が共振防止回路9に入り込むことのない程度の十分大きな値を有することは、Z1fの値が、コンデンサ9bがないと仮定したときのインピーダンスZ1=ZR1=R1よりも十分大きな値であることを意味する。 Z1fの値をそのように設定すれば、高周波領域fHにおける共振防止の要請からR1の値を小さくしたとしても、電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として正常に動作すること(S/N比の低下を確実に回避すること)が保証されるのであるから、共振防止回路9のインピーダンスが「十分に大きい値」であることの意味を解釈するにあたっては、周波数fの励磁電流I2が直列回路に入力したと仮定した場合の直列回路のインピーダンス値Z1fと第1抵抗9aの抵抗値R1の比較に基づいて論じるべきである。 (オ) インピーダンス値Z1fと抵抗値R1の比較について 前記(E)式から明らかなように、周波数fの励磁電流I2が直列回路に入力したと仮定した場合の直列回路のインピーダンス値Z1fと第1抵抗9aの抵抗値R1の比較をするには、第1抵抗9aの抵抗値R1の値、コンデンサ9bの静電容量値C1及び励磁電流I2の周波数fの値が具体的にいくらであるか判明している必要がある。 ここで、当初明細書等の段落【0030】には、「本例では一例として共振防止回路9は、図3に示すように、第1抵抗9a(例えば、10kΩ程度の抵抗)およびコンデンサ9b(例えば、500pF程度のコンデンサ)の直列回路を含んで構成されている。」と記載されているから、R1=10kΩ、C1=500pFであると考えてよい。 しかしながら、当初明細書等の段落【0027】には、「信号生成部5は、一定周波数fの交流電流である励磁信号としての励磁電流I2を生成して、センサ素子31に出力する。」と記載されているものの、「励磁電流I2」の「一定周波数f」の値は、具体的に開示されていない(図5によれば低周波領域fLと高周波領域fHの境界線よりも右側付近にあることは読み取れるものの、そもそもfLとfHの境界線が何Hzなのか不明であるから、励磁電流I2の一定周波数fの値を図5から読み取ることはできない)。 したがって、周波数fの励磁電流I2が直列回路に入力したと仮定した場合の直列回路のインピーダンス値Z1fと第1抵抗9aの抵抗値R1の比較をしても、具体的にインピーダンス値Z1fが抵抗値R1の何倍であるかについては、当初明細書等の記載から読み取ることはできない。 そうすると、低周波領域fLにおいて、直列回路のインピーダンスZ1はZ1fの値よりも大きくなるとしても、具体的にインピーダンス値Z1が抵抗値R1の何倍であるかについては、当初明細書等の記載から読み取ることはできない。 (カ) 小括 以上を踏まえると、当初明細書等に記載された「十分に大きい値」との語句を手がかりとしても、具体的に直列回路のインピーダンス値が抵抗値R1の何倍であるかということを導くことはできない。 したがって、補正事項Aの「10倍以上」という語句は、当初明細書等の「十分に大きい値」と同義であるとはいえないし、「十分に大きい値」という語句から自明に導かれるものであるともいえない。 さらに、当初明細書等の他の箇所にも、補正事項Aは明示的に記載されていない。 したがって、当初明細書等には、補正事項Aは明示的に記載されておらず、また、当初明細書等の記載から自明な事項とは認められない。 エ 新たな技術的事項を導入するものか否かについての判断 (ア) 本願発明の課題及び効果について 本件1次補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の課題は、段落【0007】の記載のとおり、「ゼロフラックス方式での動作と、帰還巻線をCTとして機能させる動作とを組み合わせつつ、ゼロフラックス方式での動作におけるS/N比の低下を回避し、かつ帰還巻線をCTとして機能させる動作での帰還巻線での共振を防止し得る電流検出装置、およびこの電流検出装置を備えた測定装置を提供すること」にある。 また、本願発明の効果としては、段落【0013】の記載のとおり、「帰還巻線を構成する複数の巻線のそれぞれに、第1抵抗およびコンデンサの直列回路を含む共振防止回路を並列に接続したことにより、ゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域では、この直列回路を構成するコンデンサのインピーダンスが十分に大きい値となることから(つまり、共振防止回路のインピーダンスが十分に大きい値となることから)、この共振防止回路を経由して励磁信号の信号成分が検出抵抗(請求項1記載の電流検出装置では、一対の抵抗接続端子間に接続された検出抵抗)に流れ込む事態の発生を大幅に低減でき、S/N比の低下を確実に回避することができる。また、帰還巻線がCTとして機能する高周波領域では、この直列回路を構成するコンデンサのインピーダンスが十分に小さい値となることから(つまり、共振防止回路のインピーダンスが第1抵抗の抵抗値(十分に小さい抵抗値)となることから)、寄生容量に起因して生じる虞のある帰還巻線(各巻線)での共振の発生を確実に防止することができる」ということである。 (イ) 判断 a まず、補正事項Aのうち、「直列回路のインピーダンスが前記第1抵抗の抵抗値の10倍以上のインピーダンスとなるように規定」すること、特に「10倍以上」という数値範囲を定めることについて、当初明細書等には記載されていないことは前記ウにおいて検討したとおりである。 b そして、前記(ア)において説示した本願発明の課題及び効果に照らすと、技術常識を考慮しても「10倍以上」であれば必ず本願発明の課題を解決し、その効果を奏するものであるとはいえないから、「10倍以上」という特定を含む補正事項Aは、本願発明の課題を解決しない、したがって本願発明の効果を奏しない構成を含むことになるか、あるいは、本願発明の課題や効果に関係するとは言えない構成を含むことになる。 c したがって、本件1次補正は、補正事項Aの構成を採用しても本願発明の課題を解決でき、その効果も奏することになるという新たな概念をもたらすものであって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。 オ まとめ 以上を踏まえると、本件1次補正は、当初明細書等に明示的に記載された事項においてした補正でなく、当初明細書等の記載から自明な事項においてした補正でもなく、また、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえないから、本件1次補正は、新規事項を追加する不適法な補正である。 (3) 請求人の主張について ア 請求人の主張の内容 請求人は、審判請求書(「3.本願発明が特許されるべき理由」「(d)新規事項の理由について」)において、概略次のとおり主張をしている。 本願の明細書の段落【0032】には、「具体的には、電流検出装置61がゼロフラックス方式の電流検出装置として機能する低周波領域fL、および励磁電流I2の周波数fを含む周波数領域では、コンデンサ9bのインピーダンス成分が十分に大きい値(抵抗値R1よりも十分に大きい値)となるように、つまり直列回路のインピーダンスが十分に大きい値となるように、この抵抗値R1およびこの静電容量値が規定されている。」と記載されており、「駆動電流が磁気コアに発生する磁束を打ち消す周波数帯域において直列回路のインピーダンスが抵抗値R1に対して十分に大きい値である」ということが記載されている。 また、段落【0048】には、「この場合、この第2抵抗9cの抵抗値R2は、抵抗値R1よりも大きな値(十分に大きな値。例えば、100kΩ程度)に規定する。」と記載されているように、「第2抵抗9cの抵抗値R2が抵抗値R1(第1抵抗9aの抵抗値(10kΩ程度の抵抗))に対して十分に大きい値である」ということが記載されている。 このように、本願明細書の実施例において、「十分に大きい値」とは、第1抵抗9aの抵抗値と比較した値の大きさを示しており、その大きさは、段落【0048】に記載の通り、第1抵抗9aの抵抗値に対して約10倍であることが記載されている。 したがって、「直列回路のインピーダンス」と「第1抵抗の抵抗値」との関係について、「直列回路のインピーダンスが第1抵抗の抵抗値の10倍程度のインピーダンスとなるように規定されている」との事項は、段落【0013】、【0032】、【0040】、【0046】を含めて本願明細書全体に記載されている。 イ 請求人の主張に対する当審の判断 本願の当初明細書等の段落【0048】及び【図6】における実施形態において、「第2抵抗9cの抵抗値R2は、抵抗値R1よりも大きな値(十分に大きな値。例えば、100kΩ程度)に規定する」ことが記載されており、この記載から、第2抵抗9cの抵抗値R2を第1抵抗9aの抵抗値R1(10kΩ程度)の10倍の値とすることが読み取れる。 しかし、当該記載は、「抵抗値R2を十分に大きな値に規定しておくことにより、この共振防止回路9を経由して励磁電流I2の信号成分(周波数f)が検出抵抗7に流れ込む事態の発生を十分に低減でき、S/N比の低下についても十分に回避することができる」(【0048】)とするために、抵抗値R2の値を規定しているものであって、その抵抗値R2の値を抵抗値R1との関係において規定したものにすぎない。 そうすると、当該記載を根拠として、直列回路のインピーダンス値と抵抗値R1の関係における「十分に大きな値」を解釈するのは適当ではなく、当該記載を踏まえても、段落【0032】の「直列回路のインピーダンスが十分に大きい値」における「十分に大きい値」が第1抵抗の抵抗値の「10倍以上」を意味するとは認められない。 また、第1抵抗9aとコンデンサ9bは直列であり、第2抵抗9cとは並列の回路を形成していることからみても、その求められる「十分に大きな値」が異なることは技術常識から明らかであって、第1抵抗9aとコンデンサ9bからなる直列回路のインピーダンスを第1抵抗の抵抗値の「10倍以上」とすることが自明な事項であるとは認められない。 したがって、段落【0048】の記載を踏まえても、段落【0032】の「十分に大きい値」が第1抵抗の抵抗値の「10倍以上」を意味するとは認められず、当初明細書等全体の記載を参酌しても自明な事項とも認められないから、請求人の主張は採用できない。 3 本件2次補正についての当審の判断 本件2次補正は、前記1に示したように、前記1(3)に示す本件2次補正前の明細書の段落【0048】の記載を、前記1(4)に示す本件2次補正後の明細書の段落【0048】の記載に補正するものである。 したがって、本件2次補正は、前記2(2)アの補正事項Aの内容とは関係なくされたものであり、前記2に示した当審の判断を左右するものではなく、本件1次補正が不適法な補正であることを解消するものであるとも認められない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、令和3年6月28日に提出された手続補正書による補正(本件1次補正)は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず、この点は、令和4年8月30日に提出された手続補正書による補正(本件2次補正)によっても解消していない。 そうすると、本件1次補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないことになるから、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-013558

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