特許拒絶査定不服審判
2022-000085
記録画像読取制御方法及びインクジェット記録装置
- 審判番号
- 2022-000085
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-252852
- 請求日
- 2022年01月05日
- 審決日
- 2022年12月27日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】コニカミノルタ株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人光陽国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 藤本 義仁
- 審判官 佐藤 海
- 分類
- P18 .121-Z (B41J) / P18 .575-Z (B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-252852「記録画像読取制御方法及びインクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月22日出願公開、特開2019-119051〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年12月28日の出願であって、令和3年7月19日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年9月15日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月30日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し、令和4年1月5日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 令和4年1月5日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和4年1月5日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を全文にわたって補正をするものであるところ、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成29年12月28日に出願された時の)特許請求の範囲の請求項1乃至6を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至4へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
インクによる記録画像に係る記録画像読取制御方法であって、
前記インクを吐出して記録媒体に着弾させる画像記録工程、
記録媒体に着弾したインクによる画像を読み取る画像読取工程、
を含み、
前記画像読取工程は、記録媒体に着弾したインクのドット径の基準値からのずれ率が5%未満となった後、記録媒体に着弾したインクの光沢を示す所定値の基準値からのずれ率が10%以上である間に行われる
ことを特徴とする記録画像読取制御方法。
【請求項2】
前記インクは、所定波長の活性線により定着するインクであることを特徴とする請求項1記載の記録画像読取制御方法。
【請求項3】
前記記録媒体に着弾したインクに前記活性線を照射する定着工程を含み、
前記定着工程は、前記画像読取工程の後に開始される
ことを特徴とする請求項2記載の記録画像読取制御方法。
【請求項4】
前記基準値は、前記定着工程で定着されたときの最終的な値であることを特徴とする請求項3記載の記録画像読取制御方法。
【請求項5】
前記インクは温度に応じてゾル状態とゲル状態との間で相変化するインクであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の記録画像読取制御方法。
【請求項6】
インクを吐出して記録媒体に着弾させる記録動作部と、
前記記録媒体に着弾したインクによる画像を読み取る画像読取部と、
を備え、
前記画像読取部は、記録媒体に着弾したインクのドット径の基準値からのずれ率が5%未満となった後、記録媒体に着弾したインクの光沢を示す所定値の基準値からのずれ率が10%以上である間に前記画像を読み取る
ことを特徴とするインクジェット記録装置。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
インクによる記録画像に係る記録画像読取制御方法であって、
前記インクは、所定波長の活性線により定着するインクであり、
前記インクを吐出して記録媒体に着弾させる画像記録工程、
記録媒体に着弾したインクによる画像を読み取る画像読取工程、
前記記録媒体に着弾したインクに前記活性線を照射する定着工程、
を含み、
前記定着工程は、前記画像読取工程の後に開始され、
前記画像読取工程は、記録媒体に着弾したインクのドット径の基準値からのずれ率が5%未満となった後、記録媒体に着弾したインクの光沢を示す所定値の基準値からのずれ率が10%以上である間に行われる
ことを特徴とする記録画像読取制御方法。
【請求項2】
前記基準値は、前記定着工程で定着されたときの最終的な値であることを特徴とする請求項1記載の記録画像読取制御方法。
【請求項3】
前記インクは温度に応じてゾル状態とゲル状態との間で相変化するインクであることを特徴とする請求項1又は2記載の記録画像読取制御方法。
【請求項4】
所定波長の活性線により定着するインクを吐出して記録媒体に着弾させる記録動作部と、
前記記録媒体に着弾したインクによる画像を読み取る画像読取部と、
前記記録媒体に着弾したインクに前記活性線を照射する定着部と、
を備え、
前記定着部は、前記画像読取部による前記画像を読み取った後に前記活性線の照射を開始し、
前記画像読取部は、記録媒体に着弾したインクのドット径の基準値からのずれ率が5%未満となった後、記録媒体に着弾したインクの光沢を示す所定値の基準値からのずれ率が10%以上である間に前記画像を読み取る
ことを特徴とするインクジェット記録装置。」
2 補正の適否について
(1)本件補正により、本件補正前の請求項1の「記録画像読取制御方法」の発明特定事項である「インク」について、「前記インクは、所定波長の活性線により定着するインクであり、」と補正し(以下「補正事項1-1」という。)、「記録画像読取制御方法」に、「前記記録媒体に着弾したインクに前記活性線を照射する定着工程」(以下「補正事項1-2」という。)及び「前記定着工程は、前記画像読取工程の後に開始され、」(以下「補正事項1-3」という。)との事項が追加された。
(2)そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
(3)そうすると、請求項1に係る補正である補正事項1-1乃至1-3は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(4)また、補正事項1-1乃至1-3は、願書の最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の段落【0019】に「吐出されるインクは、ここでは、紫外線(所定波長の活性線)が照射されることで定着固化(硬化)する紫外線硬化型のインクであり、また、温度に応じてゾル状態とゲル状態との間で相変化する。」、段落【0021】に「定着部40は、搬送面上の記録媒体Mに対して紫外線を照射して、記録媒体M上に着弾したインクを固化定着させる。定着部40は、画像読取部30に対し、記録媒体Mの搬送方向について下流側に設けられている。すなわち、定着動作(定着工程)は、画像読取部30による画像読み取り動作(画像読取工程)の終了後に開始される。定着部40は、照射する紫外線が照射範囲から大きく漏れを生じないように、カバー部材などが設けられ得る。」、段落【0035】に「本実施形態のインクジェット記録装置1では、記録媒体Mにインクを着弾させた後、画像を先に読み取ってからインクの定着動作を行う。」、段落【0052】~【0053】の「また、用いられるインクは、所定波長の活性線、ここでは紫外光により定着するインクである。このようなインクを用いた場合に読取タイミングを上記のように定めることで、特に、定着前の光沢の変化中に速やかにドット径の変化が収束するので、より効率良く検出結果をフィードバックさせることが可能になる。 また、記録媒体Mに着弾したインクに紫外線を照射する定着工程を含み、この定着工程は、画像読取工程の後に開始される。光沢の変化が安定するには、ドット径の変化より長い時間がかかるので、先に画像の読み取り動作を行っておき、その後光沢が安定してから定着動作を行うことで、画像欠陥を速やかに検出しつつ、適正な画質の出力画像を得ることができる。」との記載に基づいており、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
3 独立特許要件について
上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、本件補正後の請求項1に係る発明(令和4年1月5日に提出された手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】乃至【請求項4】(以下、それぞれ「本件補正発明1」乃至「本件補正発明4」という。))における本件補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。
(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正発明1は、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載された事項により特定されるものと認められる。
(2)引用例
ア 引用例
本願の出願前に頒布された公開公報である特開2013-937号公報(以下「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項4】
所望のドロップ数のインク滴をそれぞれ吐出して印刷用紙にそれぞれドットを形成する複数のノズルを備えたインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドによって印刷用紙に形成されたドットの大きさを読み取る読取部と、を備えたインクジェットプリンターの制御方法において、
前記インクジェットヘッドの異なるノズルから、互いに異なるドロップ数のインク滴をそれぞれ吐出させて複数のドットを印刷用紙に形成させ、前記読取部にこの印刷用紙に形成された前記複数のドットを読み取らせ、前記インクジェットヘッドの解像度に合致する又は最も近いドットを形成するために前記ノズルから吐出されたインク滴のドロップ数を最適制御データとして取得し、画像を形成する際に前記最適制御データを基に前記インクジェットヘッドを制御することを特徴とするインクジェットプリンターの制御方法。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、インク滴を吐出して印刷用紙にドットを形成することにより所望の画像を形成するインクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンターに係り、特に、用紙の種類や環境条件等の変動に係わりなく高精細な画像の再現が可能であるため、例えば細字であっても滲みなく見やすい印刷を行なうことができるインクジェットプリンターに関するものである。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された発明によれば、所定のテストパターンを印刷した記録媒体のエリア濃度に基づいて当該用紙の種類を判別することが可能であり、濃度で判別した用紙の種類に対応する限りにおいてインク吐出の制御を行なうことはできるが、用紙の種類だけでなく印刷時の状態(環境湿度、装置の状態等)にも対応し、当該インクジェットヘッドに要求される精細度を確実に実現できるようなインク吐出の制御を行なうことはできなかった。このため、インクの滲みによって画像のつぶれが発生しやすい細字を適正に印刷することは困難であり、細字がつぶれて判読できない場合が生じる不都合があった。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、濃度に基づいて判別した用紙の種類のみに基づいてインク吐出の制御を行なうのではなく、当該インクジェットヘッドの精細度を実際の条件下で確実に実現するために必要なインク吐出の最適制御データを利用してインク吐出制御を行なうことにより、細字のような印刷によってつぶれ易い画像であっても、高い再現性で見やすく印字できるようにすることを目的としている。」
(エ)「【0014】
本実施形態のインクジェットプリンターにおける印刷最適化手法の原理を図1~図4を参照して説明する。
本実施形態のインクジェットプリンターは、印刷用紙にテストパターンを印刷できるインクジェットヘッド1と、このテストパターンを読み取る読取部と、これらを制御する制御部とを備えている。このようなインクジェットプリンターにおいて、実際に使用する印刷用紙を用いて、インクジェットヘッド1でインク滴の数を変えて種々のドット径のドットを印刷するテスト印字を行なう。その結果を読取部で読み取り、インクジェットヘッド1の解像度(dpi)に最も近いドット径となっているドットを選び、そのドット径を実現するために吐出したインク滴数を最適制御データとして取得する。実際の印刷時には、テスト印字に用いたのと同一の印刷用紙に対し、前記最適制御データのインク滴数でドットを形成することにより、精細度の高い印刷を行なうことができる。すなわち、そのインクジェットヘッド1の精細度を実現した印刷を行なうことができる。
【0015】
図1は、本実施形態のインクジェットプリンターが有するインクジェットヘッド1である。このインクジェットヘッド1は、1列に並んだ複数のノズル2を備えており、印刷用紙が搬送される副走査方向と直交する主走査方向に対し、ノズル2の列が平行となるように配置されている。各ノズル2からは、必要な数のインク滴3を、それぞれ印刷用紙上の同一位置に重ねて吐出することにより、それぞれ印刷用紙上に1ドットを形成することができる。ノズル2から吐出するインク滴3のドロップ数を変えれば、印刷用紙のインク吸収性に対応して、当該印刷用紙上にそれぞれ異なるサイズのドットを形成することができる。一般的には、ある所定のドット径のドットを形成するために必要なインク滴の数は、互いに比較した場合、インクを吸収しやすい用紙(例えばざら紙等)では相対的に少なく、表面をコートした用紙(例えば写真紙等)では相対的に多くなる。インクを吸収しやすい用紙では吸い取られたインクが広がりやすいからであり、表面をコートした用紙ではインクの吸収や広がりが少ないからである。また、このインクの吸収し易さや吸収された後の広がり易さは、印刷時の湿度や温度等の環境条件にも依存する。
【0016】
そこで、実際に使用する印刷用紙に、実際に印刷を行なう環境条件下で、前記インクジェットヘッド1の各ノズル2から、互いに異なるドロップ数のインク滴3をそれぞれ吐出し、図2に示すように、ドット径が異なる複数のドット4からなるドット列を形成させる。
【0017】
図2は、本実施形態のインクジェットプリンターが有するインクジェットヘッド1で印刷したテストパターンを示す。図2に示す例では、共通の印刷用紙の上に、副走査方向(図において左右方向)に平行な3本のドット列が、主走査方向(図において上下方向)に所定の間隔をおいて形成されている。これら各ドット列を構成する各ドット4は、対応するノズル2から吐出されるインク滴3のドロップ数が異なるためにドット径が異なっている。各ドット列を構成する各ドット4は、それぞれ1ドロップ以上のインク滴3から構成されており、例えば一番上のドット列では、インク滴3の1ドロップで1ドットが形成されており、中間のドット列では、インク滴3のnドロップで1ドットが形成されており、下段のドット列では、インク滴3の(n+α)ドロップで1ドットが形成されている。
【0018】
これは、インク滴数が異なるドット列が複数列形成されることを観念的に示す例示であり、実際には、互いに異なるドロップ数のドット4からなるドット列を必要な列数だけ形成する。より具体的には、前記インクジェットヘッド1の精細度に対応するドット径又はこれに最も近いドット径のドットが、いずれかのドット列において形成されるように、インク滴3のドロップ数が列間で段階的乃至連続的に変わるように複数列のドット列を形成する。例えば、使用するインクジェットヘッド1の精細度が300dpiであるとすれば、このインクジェットヘッド1で形成可能なドットの理想的なドット径は、2.5インチ/ 300ドットであり、概ね84.6μmとなるので、このようなドット径のドット4又はこれに近いドット径のドット4が、いずれかのドット列で形成されるように、ドット列の数、及び各ドット列におけるインク滴3の吐出数を設定する。この設定は、実験に基づいて定めても良いし、過去の実験データその他の知見に基づいて想定してもよい。
【0019】
図3は、このようにして形成したテストパターンの印刷物を読取部で読み取り、その結果から各ドット列を構成するドット4のドットゲインを検出するデータ処理手法を示している。このデータ処理手法は制御部において行なわれる。この図によれば、主走査方向(ノズル2が並ぶ方向、図中左右方向)の距離と、副走査方向(用紙移動方向、図中奥行き方向)の距離と、読取部(センサ)の出力値(光強度、図中上下方向)の直交3軸により、テストパターンの各ドット列の濃度が3D状に例示されている。図3に例示した各ドット列は、図2の最も下に示したドット列のように各ドット4が副走査方向に繋がって印刷されており、図示のように奥行き方向(副走査方向)について山の尾根のように連続している。この図において、光強度を表す縦軸において印刷用紙の地色を示す所定の光強度を設定し、その点を通る主走査方向と副走査方向で構成される水平面によって各ドット列の山を切断する。これによって、切断部における山の主走査方向の寸法、すなわちドット列の幅が、各ドット列におけるドット4のドット径として測定される。図3の例示では、左側のドット列のドット径d1が、右側のドット列のドット径d2よりも小さくなっている。
本実施形態では、ドット径の異なる各ドットの外径を略円形のドットごとに測定するのでなく、ドット列の幅として測定している。すなわち、インクジェットヘッドの解像度に合致する又はこれに最も近いドットを、ドット列の幅の比較で選ぶことができるので、寸法の測定及び比較が安定し、インクジェットヘッドの解像度を当該印刷用紙において高い再現性で実現するための作業をより確実かつ簡単に行うことができる。
【0020】
このようにして、テストパターンに印刷した多数のドット列について、それぞれドット径を測定し、その中から、使用したインクジェットヘッド1の精細度に対応するドット径、すなわち実質的に一致するか又は最も近い値のドット径のドット列を選択する。そして、このドット列のインク滴のドロップ数を最適制御データとしてメモリ等に記憶しておき、テストパターンの印刷に使用した印刷用紙と同一の印刷用紙に画像を形成する際に、前記最適制御データを用いて前記インクジェットヘッド1を制御する。このように、最適制御データを取得するためにテストパターンの印刷に実際に使用した印刷用紙と同一の印刷用紙において、最適制御データであるインク滴のドロップ数で実際に印刷を行なえば、前記インクジェットヘッド1の精細度に対応するドット径に近いドット径のドットを印刷することができる。この場合には、一例として挙げたインクジェットヘッド1の精細度である300dpiが実現される。このため、細字のように印刷によってつぶれ易い画像であっても、高い再現性で見やすく印字することができる。」
(オ)「【0041】
また、以上説明した実施形態では、テストパターンの印刷後、スキャナ12でドット列を読み取るまでの時間経過については、特に言及しなかった。しかしながら、本発明者の知見によれば、印刷用紙にインクが吸収されてできたドットは、インク滴の着弾後、時間の経過とともに径が拡大していくが、その拡大の速度は一定ではない。インク着弾以後の所定時間は比較的浸透、拡大が早いが、その後所定時間が経過すると減速して拡大が停止する定着状態に移行する。このような径の拡大時の拡大速度や、定着状態に移行する経過時間は、印刷用紙の種類やインクの種類によって異なり、実験によって予め定めておくことができる。すなわち、インク滴着弾後に拡大していくドット径と時間との関係を示す曲線の形状は、印刷用紙の種類及びインクの種類の組み合わせにより異なった特有のものとなる。そこで、本実施形態では、テストパターンの印刷後、十分な時間をおいてインクが定着してから読み取りを行なってもよいし、インク滴着弾後、定着に至らないある時間経過後に、それまでの前記曲線の形状からドット径の定着時の収束値を予測するものとしてもよい。このようにすれば、より早い最適制御データの決定及びメモリへの記憶が可能となる。」
(カ)上記(オ)より、インク滴着弾後、定着に至らないある時間経過後に、インク滴着弾後に拡大していくドット径と時間との関係を示す曲線の形状からドット径の定着時の収束値が予測できる時点で読み取りを行なうものと認められる。
そうすると、上記記載事項(ア)乃至(オ)及び認定事項(カ)より、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「所望のドロップ数のインク滴をそれぞれ吐出して印刷用紙にそれぞれドットを形成する複数のノズルを備えたインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドによって印刷用紙に形成されたドットの大きさを読み取る読取部と、を備えたインクジェットプリンターの制御方法において、
前記インクジェットヘッドの異なるノズルから、互いに異なるドロップ数のインク滴をそれぞれ吐出させて複数のドットを印刷用紙に形成させ、インク滴着弾後、定着に至らないある時間経過後に、インク滴着弾後に拡大していくドット径と時間との関係を示す曲線の形状からドット径の定着時の収束値が予測できる時点で読み取りを行ない、前記インクジェットヘッドの解像度に合致する又は最も近いドットを形成するために前記ノズルから吐出されたインク滴のドロップ数を最適制御データとして取得し、画像を形成する際に前記最適制御データを基に前記インクジェットヘッドを制御するインクジェットプリンターの制御方法。」
(3)当審の判断
ア 本件補正発明1と引用発明との対比
(ア)後者の「インク滴」は、前者の「インク」に相当する。
(イ)後者の「インクジェットプリンターの制御方法」は、複数のドットを印刷用紙に形成させ、インク滴着弾後、定着に至らないある時間経過後に、インク滴着弾後に拡大していくドット径と時間との関係を示す曲線の形状からドット径の定着時の収束値が予測できる時点で読み取りを行なうものであるところからすると、複数のドット~なる画像の読み取りの制御を行っているといえるから、後者の「インクジェットプリンターの制御方法」は、前者の「記録画像読取制御方法」に相当する。
(ウ)後者の「インクジェットプリンターの制御方法」は、互いに異なるドロップ数のインク滴をそれぞれ吐出させて複数のドットを印刷用紙に形成させるものであるから、前者の「記録画像読取制御方法」と、後者の「インクジェットプリンターの制御方法」とは、「インクを吐出して記録媒体に着弾させる画像記録工程」を備える点で一致する。
(エ)後者の「インクジェットプリンターの制御方法」は、インク滴着弾後、定着に至らないある時間経過後に、それまでの前記曲線の形状からドット径の定着時の収束値が予測できる時点で読み取りを行なうものであるから、前者の「記録画像読取制御方法」と、後者の「インクジェットプリンターの制御方法」とは、「記録媒体に着弾したインクによる画像を読み取る画像読取工程」を備える点で一致する。
イ 本件補正発明1と引用発明の一致点と相違点について
上記アの対比を踏まえると、本件補正発明1と引用発明とは、つぎの一致点で一致し、相違点において相違する。
[一致点]
「インクによる記録画像に係る記録画像読取制御方法であって、
前記インクを吐出して記録媒体に着弾させる画像記録工程、
記録媒体に着弾したインクによる画像を読み取る画像読取工程、
を含む、
記録画像読取制御方法。」
[相違点1]
本件補正発明1は、「インクは、所定波長の活性線により定着するインク」であり、「記録媒体に着弾したインクに前記活性線を照射する定着工程」を備え、「前記定着工程は、画像読取工程の後に開始され」るものであるのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。
[相違点2]
本件補正発明1は、「画像読取工程は、記録媒体に着弾したインクのドット径の基準値からのずれ率が5%未満となった後、記録媒体に着弾したインクの光沢を示す所定値の基準値からのずれ率が10%以上である間に行われる」ものであるのに対し、引用発明はその点が不明である点。
ウ 上記各相違点についての検討
(ア)[相違点1]について
引用発明は、「インク滴着弾後、定着に至らないある時間経過後に、インク滴着弾後に拡大していくドット径と時間との関係を示す曲線の形状からドット径の定着時の収束値が予測できる時点で読み取りを行な」うものであるから、本件補正発明1と引用発明とは、「画像読取工程の後」に「定着工程」が開始される点では一致する。
ここで、当該インクジェット記録方法の分野において、所定波長の活性線により定着するインクを吐出して記録媒体に画像を形成した後、該画像を定着前に読み取り、その後記録媒体に着弾したインクに活性線を照射して定着する画像処理方法は、周知の技術手段である(例えば、特開2014-231155号公報(特に、【0025】、【0140】等参照。)、特開2014-61633号公報(特に、【0031】、【0037】等参照。)。以下「周知技術」という。)。
しみると、上記[相違点1]に係る本件補正発明1の発明特定事項における「インクは、所定波長の活性線により定着するインク」であること、及び「記録媒体に着弾したインクに前記活性線を照射する定着工程」との事項は、周知技術といえるものである。
そして、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面(以下「明細書等」という。)には、以下のとおり記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、記録媒体の表面に着弾したインクは、記録媒体の表面に広がり、また、記録媒体に浸透した状態で安定するまでに時間を要する。従来のように、インクによる画像が記録媒体上で安定してから画像を読み取って画質の評価を行っていたのでは、画像欠陥の検出が遅くなり、補正が行われるまでの時間、検出までのインクや記録媒体を無駄にするという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より効率良く速やかに画像欠陥を検出することのできる記録画像読取制御方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。」
また、本件補正発明1の「定着工程」は、「画像読取工程の後に開始され」と特定されている。
本件補正発明1は、より効率良く速やかに画像欠陥を検出することのできる記録画像読取制御方法を提供することを課題としていること、及び、当該画像欠陥の検出は定着工程の前に行われることが特定されていることからすれば、引用発明に前記周知技術を適用し、上記[相違点1]に係る本件補正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得るものである。
(イ)[相違点2]について
本願の明細書等の段落【0037】に「インクは、記録媒体Mに着弾後、記録媒体Mの内部に浸透したり上面に広がったりすることでドット径が拡大する。この拡大に要する時間は、ここでは、100msec程度であり、これ以降は変化率(単位時間当たりの変化)がほぼゼロとなって、最終的なドット径(すなわち、ここでは、定着された後のドット径)との差が十分に小さくなる。画像を読み取る場合に、ドット径は輝度(濃度)の検出に影響するので、最終的なドット径に対する各タイミングでのドット径に応じた濃度差(濃度比)は、不良ノズルの検出基準とされる濃度差の基準値未満である必要がある。基準値は、画像読取部30のラインセンサーの解像度に加えて、ノイズや読取面の汚れなどに伴う誤差などの影響(通常各々数%程度以下)をできるだけ排除できるように設定されるので、必ずしも小さく定められる必要はない。最終的なドット径に対するドット径のずれの割合(ずれ率)が5%以下となれば、誤判定(誤検出や検出漏れ)を避けた適切な基準値に基づく濃度変化の検出が可能である。」と記載されているように、最終的なドット径に対するドット径のずれの割合(ずれ率)が5%以下となれば、誤判定(誤検出や検出漏れ)を避けた適切な基準値に基づく濃度変化の検出が可能である、すなわち、ドット径のずれの割合(ずれ率)が5%以下とは、最終的なドット径が予測可能なドット径であって、読取時点の目安を示しているものと認められる。
これに対し、引用発明の「印刷用紙に形成されたドットの大きさ」の「読み取」りは、インク滴着弾後、定着に至らないある時間経過後に、それまでの前記曲線の形状からドット径の定着時の収束値が予測できる時点で行なわれるものである。
そうすると、引用発明の「収束値」と本件補正発明1の「基準値」とは、最終的なドット径との意味で一致し、いずれも、着弾したインクが基準値から所定の大きさに収まる時点で読み取ることで一致する。
してみると、本件補正発明1の「画像読取工程」と引用発明の「『印刷用紙に形成されたドットの大きさ』の『読み取』り」とは、記録媒体に着弾したインクのドット径の基準値からのずれ率が所定値未満となった後、に行われるものとの概念で一致する。
ここで、本件補正発明1の「記録媒体に着弾したインクのドット径の基準値からのずれ率が5%未満」における「5%未満」の境界値につき、明細書等に、当該数値の臨界的意義は何ら記載されていない。
してみると、引用発明において、「印刷用紙に形成されたドットの大きさ」の「読み取」りを、記録媒体に着弾したインクのドット径の基準値からのずれ率が所定値未満となった後、に行うところ、当該所定値を5%未満とすることは、当業者が適宜設定し得る設計的事項と認める。
また、本件補正発明1の「記録媒体に着弾したインクの光沢を示す所定値の基準値からのずれ率が10%以上である間」とは、画像読取工程の終期を特定しているところ、引用発明の「印刷用紙に形成されたドットの大きさ」の「読み取」りは、インク滴着弾後、定着に至らないある時間経過後に、それまでの前記曲線の形状からドット径の定着時の収束値が予測できる時点で行なわれるものであるから、当然、ドット径が定着時の収束値になる前に読み取るものと認められる。
ここで、本件補正発明1の「記録媒体に着弾したインクの光沢を示す所定値の基準値からのずれ率が10%以上である間」における「10%以上」の境界値につき、明細書等に、当該数値の臨界的意義は何ら記載されていない。
また、画像読み取りを行う期間T1を超過しても、期間T2の間は「ずれ率」が10%以上となる状態が継続することから、読み取りの終期を規定する値として特定しているものではないとも解することもできる、
してみると、引用発明において、「印刷用紙に形成されたドットの大きさ」の「読み取」りを、記録媒体に着弾したインクのドット径の基準値からのずれ率が所定値未満となった後、に行うところ、記録媒体に着弾したインクの光沢を示す所定値の基準値からのずれ率が10%以上である間とすることは、当業者が適宜設定し得る設計的事項と認める。
そうすると、引用発明において、「印刷用紙に形成されたドットの大きさ」の「読み取」りを、記録媒体に着弾したインクのドット径の基準値からのずれ率が5%未満となった後、記録媒体に着弾したインクの光沢を示す所定値の基準値からのずれ率が10%以上である間に行うことは、当業者が適宜設定し得る設計的事項であるから、引用発明において、上記[相違点2]に係る本件補正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得るものである。
そして、本件補正発明1の効果も、引用発明及び上記周知技術から、当業者が予測し得る程度のものといえる。
エ 小括
上記で検討したとおり、本件補正発明1は、引用発明に上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(4)独立特許要件についての検討のまとめ
以上検討したように、本件補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件補正発明1は、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
4 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、上記において検討したように、本件補正発明1は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、出願時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
インクによる記録画像に係る記録画像読取制御方法であって、
前記インクを吐出して記録媒体に着弾させる画像記録工程、
記録媒体に着弾したインクによる画像を読み取る画像読取工程、
を含み、
前記画像読取工程は、記録媒体に着弾したインクのドット径の基準値からのずれ率が5%未満となった後、記録媒体に着弾したインクの光沢を示す所定値の基準値からのずれ率が10%以上である間に行われる
ことを特徴とする記録画像読取制御方法。」(以下「本願発明」という。)
2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、令和3年7月19日付けの拒絶理由通知書により通知された次に示すものを含むものである。
(進歩性)この出願の請求項1及び6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された特開2013-937号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用例
令和3年7月19日付けの拒絶理由通知書で引用された引用例、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)」に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、実質的に、本件補正発明1の「前記インクは、所定波長の活性線により定着するインク」について「所定波長の活性線により定着する」との限定を削除し、「前記記録媒体に着弾したインクに前記活性線を照射する定着工程」及び「前記定着工程は、前記画像読取工程の後に開始され」との事項を削除するものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 3 (3)ア 本件補正発明1と引用発明との対比」での検討を勘案すると、両者は、
「インクによる記録画像に係る記録画像読取制御方法であって、
前記インクを吐出して記録媒体に着弾させる画像記録工程、
記録媒体に着弾したインクによる画像を読み取る画像読取工程、
を含む、
記録画像読取制御方法。」
の点で一致し、上記[相違点2]で相違する。
そうすると、上記「第2 4 (3)ウ(イ)」における検討内容を踏まえれば、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-000085