特許拒絶査定不服審判
2021-015811
印刷装置及び印刷方法
- 審判番号
- 2021-015811
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-013679
- 請求日
- 2021年11月17日
- 審決日
- 2022年12月27日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社ミマキエンジニアリング
- 【請求人代理人】折坂 茂樹
- 【請求人代理人】小林 直樹
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 藤本 義仁
- 審判官 佐藤 海
- 分類
- P18 .113-Z (B41J) / P18 .121-Z (B41J) / P18 .536-Z (B41J) / P18 .57 -Z (B41J) / P18 .575-Z (B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 13679「印刷装置及び印刷方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月 8日出願公開、特開2019-130719〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年1月30日に特許出願としたものであって、令和3年6月1日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年8月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月17日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し、同年11月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 令和3年11月17日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年11月17日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を全文にわたって補正をするとともに、合わせて明細書の記載について補正をするものであるところ、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和3年8月10日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至9を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至9へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、
前記媒体へインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射するエネルギー線照射部と
を備え、
前記インクジェットヘッドが吐出する前記インクは、
エネルギー線の照射により重合する物質である重合物質と、
溶媒と
を含み、エネルギー線が照射されることで発熱し、かつ、エネルギー線が照射されるタイミングに対して遅延して硬化が完了するインクであり、
前記エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射して、前記インクを発熱させることで、前記インク中の前記溶媒の少なくとも一部を蒸発させて、滲みが発生しない粘度にまで、前記インクの粘度を高め、
かつ、エネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になるように、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射することにより、前記インク中の前記溶媒が沸騰する温度にまで前記インクを発熱させることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記エネルギー線照射部は、エネルギー線を照射して前記インク中の前記重合物質を重合させることにより、前記媒体上のインクの粘度を、200mPa・sec以上にまで高め、
かつ、前記インクへのエネルギー線の照射を開始してから前記インクの粘度が200mPa・sec以上になるまでの時間を高粘度化所要時間と定義した場合、前記高粘度化所要時間は、100ms以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記インクは、エネルギー線を吸収することで発熱するエネルギー線吸収物質を更に含み、
前記エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射して、前記エネルギー線吸収物質を発熱させることにより、前記インクを発熱させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項5】
前記重合物質は、重合時に熱を発生する物質であり、
前記エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射して、前記重合物質を重合させることにより、前記インクを発熱させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】
前記重合物質は、紫外線の照射により重合する物質であり、
前記エネルギー線照射部は、エネルギー線として紫外線を照射することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
前記重合物質は、カチオン重合性のモノマー又はオリゴマであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項8】
前記インクは、前記溶媒を、30重量%以上含むことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項9】
媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷方法であって、
前記媒体へインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射するエネルギー線照射部と
を用い、
前記インクジェットヘッドが吐出する前記インクは、
エネルギー線の照射により重合する物質である重合物質と、
溶媒と
を含み、エネルギー線が照射されることで発熱し、かつ、エネルギー線が照射されるタイミングに対して遅延して硬化が完了するインクであり、
前記媒体に付着した前記インクへ前記エネルギー線照射部にエネルギー線を照射させ、前記インクを発熱させることで、前記インク中の前記溶媒の少なくとも一部を蒸発させて、滲みが発生しない粘度にまで、前記インクの粘度を高め、
かつ、前記エネルギー線照射部によりエネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になるように、前記媒体に付着した前記インクへ前記エネルギー線照射部にエネルギー線を照射させることを特徴とする印刷方法。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、
前記媒体へインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射するエネルギー線照射部と
を備え、
前記インクジェットヘッドが吐出する前記インクは、
エネルギー線の照射により重合する物質である重合物質と、
溶媒と
を含み、エネルギー線が照射されることで発熱し、かつ、エネルギー線が照射されるタイミングに対して遅延して硬化が完了するインクであり、
前記エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射して、前記インクを発熱させることで、前記インク中の前記溶媒の少なくとも一部を蒸発させて、印刷の品質において問題となる滲みが実質的に発生しない粘度にまで、前記インクの粘度を高め、
かつ、エネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になるように、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射することにより、前記インク中の前記溶媒が沸騰する温度にまで前記インクを発熱させることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記エネルギー線照射部は、エネルギー線を照射して前記インク中の前記重合物質を重合させることにより、前記媒体上のインクの粘度を、200mPa・sec以上にまで高め、
かつ、前記インクへのエネルギー線の照射を開始してから前記インクの粘度が200mPa・sec以上になるまでの時間を高粘度化所要時間と定義した場合、前記高粘度化所要時間は、100ms以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記インクは、エネルギー線を吸収することで発熱するエネルギー線吸収物質を更に含み、
前記エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射して、前記エネルギー線吸収物質を発熱させることにより、前記インクを発熱させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項5】
前記重合物質は、重合時に熱を発生する物質であり、
前記エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射して、前記重合物質を重合させることにより、前記インクを発熱させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】
前記重合物質は、紫外線の照射により重合する物質であり、
前記エネルギー線照射部は、エネルギー線として紫外線を照射することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
前記重合物質は、カチオン重合性のモノマー又はオリゴマであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項8】
前記インクは、前記溶媒を、30重量%以上含むことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項9】
媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷方法であって、
前記媒体へインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射するエネルギー線照射部と
を用い、
前記インクジェットヘッドが吐出する前記インクは、
エネルギー線の照射により重合する物質である重合物質と、
溶媒と
を含み、エネルギー線が照射されることで発熱し、かつ、エネルギー線が照射されるタイミングに対して遅延して硬化が完了するインクであり、
前記媒体に付着した前記インクへ前記エネルギー線照射部にエネルギー線を照射させ、前記インクを発熱させることで、前記インク中の前記溶媒の少なくとも一部を蒸発させて、印刷の品質において問題となる滲みが実質的に発生しない粘度にまで、前記インクの粘度を高め、
かつ、前記エネルギー線照射部によりエネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になるように、前記媒体に付着した前記インクへ前記エネルギー線照射部にエネルギー線を照射させることを特徴とする印刷方法。」
2 補正の適否について
(1)本件補正事項
本件補正は、本件補正前の請求項1の「印刷装置」の発明特定事項である「エネルギー線照射部」が媒体に付着したインクへエネルギー線を照射して、前記インクを発熱させることで、前記インク中の溶媒の少なくとも一部を蒸発させて、高める「インクの粘度」を、「滲みが発生しない粘度」から「印刷の品質において問題となる滲みが実質的に発生しない粘度」へと補正するものである(以下「補正事項1」という。)。
請求項9についても同様の補正がなされた(以下「補正事項2」という。)。
(2)補正目的について
ア 特許法第17条の2第5項の規定によれば、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲についての補正は、請求項の削除(第1号)、特許請求の範囲の減縮(第2号)、誤記の訂正(第3号)、明瞭でない記載の釈明(第4号)のいずれかを目的とするものに限るとされている。
イ そこで、補正事項1について、以下、検討する。
ウ 補正事項1における「滲み」とは、当該インクジェット方式で印刷を行う印刷装置の技術分野においては、一般的に印刷の品質に悪い影響を及ぼす要因と見なされているものである。
エ してみると、「印刷の品質において問題となる」とは、そもそも「滲み」がもつ評価を明示的に記載したものといえる。
オ また、補正事項1における「発生しない」を修飾する「実質的に」とは、単なる「発生しない」ことと何ら相違は認められない。
カ そうすると、補正事項1は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項をさらに限定するものとはいえないのであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
キ 補正事項2についても同様である。
ク また、補正事項1及び2が、同項第1、3、4の各号に掲げられた、いずれの目的とするものにも該当しないことは明らかである。
ケ してみると、補正事項1及び2は、同項第1号ないし4号に掲げられたいずれを目的とするものにも該当しない。
よって、補正事項1及び2を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定を満たすものではない。
3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下された。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和3年8月10日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、
前記媒体へインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射するエネルギー線照射部と
を備え、
前記インクジェットヘッドが吐出する前記インクは、
エネルギー線の照射により重合する物質である重合物質と、
溶媒と
を含み、エネルギー線が照射されることで発熱し、かつ、エネルギー線が照射されるタイミングに対して遅延して硬化が完了するインクであり、
前記エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射して、前記インクを発熱させることで、前記インク中の前記溶媒の少なくとも一部を蒸発させて、滲みが発生しない粘度にまで、前記インクの粘度を高め、
かつ、エネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になるように、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射することを特徴とする印刷装置。」
2 原査定の拒絶の理由
原査定の理由とされた、令和3年6月1日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、以下のものを含むものである。
(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(新規性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された特開2014-237741号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された特開2014-237741号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用例及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前である平成26年12月18日に頒布された刊行物である特開2014-237741号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤と、光重合性化合物と、光重合開始剤と、水と、を含む光硬化型の水性インクを複数有し、
前記複数の水性インクは、互いに色が異なり、かつ、光硬化後における温度の差が40℃以内である水性インクセット。
…
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の水性インクセットの各水性インクを吐出する吐出装置と、
吐出された前記各水性インクに対して、光を照射する光照射装置と、
を備える記録装置。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクセット、インクカートリッジセット、記録装置、及び記録方法に
関する。」
ウ 「【0035】
水性インクは、着色剤と、光重合性化合物と、光重合開始剤と、水と、を含む。水性インクは、必要に応じて、光吸収発熱剤、水溶性有機溶媒、界面活性剤、及びその他添加剤を含んでもよい。」
エ 「【0054】
<光重合性化合物>
光重合性化合物としては、紫外線によってラジカル重合する重合性基を有する化合物等が挙げられ、モノマー、オリゴマー、又はこれらを含む混合物であってもよい。この重合性基としては、例えば、エチレン性不飽和二重結合を有する基が挙げられ、具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、ビニルエーテル基、無水マレイン酸基、N-置換マレイミド基等が挙げられる。なお、光重合性化合物は、カチオン重合性化合物であってもよい。
【0055】
光重合性化合物は、水溶性の光重合性化合物であってもよいし、非水溶性の光重合性化合物であってもよい。なお、光重合性化合物において、水溶性とは、25℃の水100質量部に対する対象物質の溶解量が5質量部以上(好ましくは10質量部以上)であることを意味する。一方、非水溶性とは、25℃の水100質量部に対する対象物質の溶解量が5質量部未満であることを意味する。」
オ 「【0060】
光重合性化合物の含有量(濃度)は、例えば、インクに対して5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上30質量%以下がより好ましく、15質量%以上25質量%以下がさらに好ましい。」
カ 「【0104】
本実施形態に係る記録装置には、本実施形態に係る水性インクセットの各水性インク(光硬化型の水性インク)を収容し、当該記録装置に着脱されるようカートリッジ化されたインクカートリッジセットを備えていてもよい。」
キ 「【0107】
本実施形態に係るインクジェット記録装置12は、例えば、図1に示すように、筐体14内の下部に、給紙容器16が備えられており、給紙容器16内に積層された用紙P(記録媒体の一例)を取り出しロール18で1枚ずつ取り出す機構を有している。取り出された用紙Pは、搬送経路22を構成する複数の搬送ローラ対20で搬送される。」
ク 「【0119】
次に、本実施形態に係る記録装置12の動作について説明する。
本実施形態に係る記録装置12では、用紙Pは、給紙容器16から取り出しロール18で1枚ずつ取り出され、搬入経路22を経由して搬送ベルト28へ搬送される。
次に、用紙Pは、帯電ロール32により搬送ベルト28に静電吸着され、搬送ベルト28の回転により記録ヘッド30の下方へ搬送される。
次に、用紙Pは、記録ヘッド30により、インクが吐出され、目的とする画像が記録される。
【0120】
次に、用紙Pに付着したインクに対して、紫外線照射装置50により紫外線が照射され、インク中の紫外線重合性化合物の硬化反応(重合反応)が進行し、インク(インクによる画像)が硬化して用紙Pに固定化する。」
ケ 「【0129】[インクの作製]
<水性インク1>
・シアン色顔料水性分散液:20質量部
(着色剤、キャボット社製、品名:Cab-o-jet250C、顔料濃度10質量%、水含有量:90質量%)
・ウレタンアクリレートオリゴマー水性エマルション:50質量部
(光重合性化合物、荒川化学工業社製、品名:ビームセットEM-92、紫外線重合性化合物成分40質量%、水含有量:60質量%)50質量部*40%=20質量部
・ポリエチレングリコールジアクリレート#400:10質量部
(光重合性化合物、新中村化学工業社製、品名:A-400、)
・グリセリン(水溶性有機溶媒):4質量部
・界面活性剤(品名:サーフィノール440、日信化学社製):3質量部
・KayacureDETX-S(日本化薬社製):1.5質量部
(紫外線重合開始剤:チオキサントン化合物:2、4-ジエチルチオキサントン)
・KayacureEPA(日本化薬社製):1質量部
(紫外線重合開始助剤、3級アミン化合物:4-ジメチルアミノ安息香酸エチル)
・2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸:0.3質量部
(紫外線吸収剤)」
上記ア乃至ケから、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「着色剤と、光重合性化合物と、光重合開始剤と、水と、を含む光硬化型の水性インクを複数有し、
前記複数の水性インクは、互いに色が異なり、かつ、光硬化後における温度の差が40℃以内である水性インクセットの各水性インクを吐出する吐出装置と、
用紙に吐出された前記各水性インクに対して、光を照射する光照射装置と、
を備える記録装置であって、
光重合性化合物は、カチオン重合性化合物である、記録装置。」
4 当審の判断
(1)実施可能要件について
ア 願書に添付した明細書(以下「明細書等」という。)の発明の詳細な説明の記載
「【0005】
本願の発明者は、瞬間乾燥型のインクを用いる場合の様々な特徴について、鋭意研究を行った。そして、この鋭意研究において、瞬間乾燥型のインクを用いる場合には、インクが極めて短時間で乾燥することで新たな問題が生じる場合があることを見出した。より具体的に、例えば、瞬間乾燥型のインクを用いて印刷を行う場合、媒体への着弾の直後にエネルギー線(紫外線等)を照射することで、滲みの発生を抑えることができる。しかし、この場合、インクが瞬間的に加熱されることで、インクが十分に平坦化しない状態で乾燥し、インクの表面がマット状になる場合がある。また、この場合において、照射するエネルギー線の量が多いと、インクが突沸現象を起こす場合がある。そして、この場合、インクの表面が多孔質の被膜状になり、光沢性の高い印刷を行うことが難しくなる場合がある。また、インクの表面が粗面化することで、印刷の品質(画質)が低下すること等も考えられる。」
「【0022】
また、本例において用いるインクは、紫外線の照射により重合する物質である重合物質を更に含む。インク中の重合物質の含有量は、例えば10重量%以上(例えば、10~50重量%)、好ましくは20重量%以上である。また、この重合物質として、紫外線を照射してからある程度の時間をかけて重合する物質を用いる。この場合、インクは、紫外線の照射を開始してから、時間をかけて高い粘度に達することになる。インクへの紫外線の照射を開始してからの時間とは、例えば、媒体上の各位置においてその位置のインクへ紫外線光源104が紫外線の照射を開始してからの時間のことである。また、媒体上の各位置においてその位置のインクへ紫外線光源104が紫外線の照射を開始するタイミングとは、例えば、主走査動作時に紫外線光源104が移動することでその位置へ紫外線を照射する状態になるタイミングのことである。また、この場合、本例において用いるインクについては、例えば、紫外線を照射するタイミングに対して遅延して硬化が完了するインクであるUV遅延硬化インク等と考えることもできる。」
「【0025】
…滲みが発生しないとは、例えば、印刷に求められる品質等に応じて、問題となる滲みが実質的に発生しないことである。…」
「【0036】
これに対し、本例においては、上記においても説明をしたように、紫外線の照射により重合する重合物質を含むインクを用いる。また、この重合物質として、紫外線を照射してからある程度の時間をかけて重合する物質を用いる。このように構成した場合、例えば、媒体50上のインクへ紫外線を照射することにより、インクを発熱させることに加え、重合物質を重合させることができる。そして、この場合、重合物質は、例えば、重合により硬化して、インクのバインダ樹脂として機能する。また、この場合、時間をかけて重合する重合物質を用いることで、重合物質の重合によりインクが更に高粘度化する前に、バインダ樹脂を適切かつ十分に平坦化することができる。そして、この場合、例えば、紫外線の照射により瞬間的に溶媒を蒸発させることの影響で一時的にインクの表面がマット化又は多孔質化等により粗面化したとしても、その後、インクの表面を適切に平坦化(平滑化)することができる。この場合、インクの表面を平坦化するとは、例えば、インクのドットを平坦化することである。また、インクの表面を平坦化することについては、例えば、多数のインクのドットで形成されるインクの層を平坦化すること等と考えることもできる。本例によれば、例えば、瞬間乾燥型のインクを用いる場合において、高品質な印刷をより適切に行うことができる。
【0037】
また、より具体的に、本例において、紫外線光源104は、例えば、紫外線を照射してインク中の重合物質を重合させることにより、媒体50上のインクの粘度を、最終的に、200mPa・sec以上にまで高める。重合物質の重合が完了した時点でのインクの粘度については、10000mPa・sec以上にすることがより好ましい。また、この場合において、時間をかけて重合する重合物質を用いることで、インクの硬化が十分に進むまでの時間である高粘度化所要時間を100ms以上にする。この場合、高粘度化所要時間については、例えば、媒体50上のインクへの紫外線の照射を開始してからインクの粘度が200mPa・sec以上になるまでの時間等と考えることができる。また、高粘度化所要時間については、例えば、紫外線の照射を開始してから硬化が十分に進むまでの遅延時間(遅延硬化樹脂のUV照射後の遅延硬化時間)等と考えることもできる。
【0038】
また、この場合、媒体50上のインクについて、例えば、紫外線光源により紫外線を照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態である構成等と考えることができる。時間の経過に応じて平坦化が進む状態とは、例えば、時間の経過によりインクの表面の状態が変化して、より平坦になる状態のことである。また、この場合、例えば、印刷される画像の品質について、時間の経過により光沢性がより高い状態に変化する状態等と考えることもできる。また、この場合、光沢性がより高い状態に変化するとは、例えば、人間の目で観察した印象において、実質的に、光沢性がより高い状態に変化することである。
【0039】
続いて、本例において用いるインクの組成等について、更に詳しく説明をする。上記においても説明をしたように、本例において、インクとしては、例えば、重合物質、紫外線吸収剤、及び溶媒等を含むインクを用いることが考えられる。また、クリアインク以外の有色のインクを用いる場合、インクは、インクの色に応じた色材(顔料等)を更に含む。また、この場合、重合物質としては、例えば、紫外線を照射した直後に重合(硬化)が完了する物質ではなく、紫外線の照射を開始するタイミングから遅延して重合が完了してバインダ樹脂となるモノマー又はオリゴマ(UV遅延硬化型のバインダ樹脂)を用いる。また、この場合、カチオン重合性のモノマー又はオリゴマ等を好適に用いることができる。このように構成すれば、例えば、上記のような特徴を有する重合物質を適切に選択することができる。また、より具体的に、重合物質としては、例えば、エポキシ系、ビニルエーテル系、又はオキセタン系のカチオン重合用モノマーやオリゴマ等を用いることが考えられる。
【0040】
また、この場合、UV遅延硬化型のバインダ樹脂となる重合物質の高粘度化所要時間については、例えば、インクが適切に平坦化する時間よりも長くすることが考えられる。インクが適切に平坦化する時間とは、例えば、紫外線の照射することでインク中の溶媒が蒸発した状況において、UV遅延硬化型のバインダ樹脂が適切かつ十分に平坦化するまでの時間のことである。また、この場合、高粘度化所要時間については、例えば、100mPa・sec程度以下の低粘度の状態から、流動性や滲みが無くなる程度の200mPa・sec以上の高粘度の状態になるまでの時間と考えることができる。そして、この場合、インクが適切に平坦化する時間よりも長くするためには、上記のように、高粘度化所要時間を100ms以上にすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、一時的にインクの表面がマット化又は多孔質化等で粗面化したとしても、その後において、インクを適切に平坦化することができる。また、これにより、例えば、画像のマット化等を防いで、光沢性の高い印刷等を適切に行うことができる。」
イ 判断
上記アのとおり、発明の詳細な説明には、本願発明の「エネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になるように、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射すること」について、具体的にどのような条件でエネルギー線を照射するのかは記載されていないし、エネルギー線の当該照射条件が技術常識であることも示されていない。
特に、明細書等の【0005】に記載されているように、瞬間乾燥型のインクの媒体への着弾後のエネルギー線(紫外線等)の照射タイミング次第で、インクが十分に平坦化しない状態で乾燥し、インクの表面がマット状になったり、エネルギー線(紫外線等)の照射量次第では、インクが突沸現象を起こし、インクの表面が多孔質の被膜状になり、光沢性の高い印刷を行うことが難しくなったりと、高品質な印刷をより適切に行うことができない虞があることを本願発明の発明者は認識しているにもかかわらず、エネルギー線(紫外線等)の照射タイミング及び照射量について、発明の詳細な説明には、何ら記載されていない。
また、本願発明のインクの組成についても、重合物質、紫外線吸収剤、及び溶媒等を含み、重合物質としては、紫外線の照射を開始するタイミングから遅延して重合が完了してバインダ樹脂となるモノマー又はオリゴマ(UV遅延硬化型のバインダ樹脂)であって、カチオン重合性のモノマー又はオリゴマ等が好適であることは記載されているが、「エネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になるよう」なインクの具体的な組成については何ら記載されていないし、当該インクの組成が技術常識であることも示されていない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
(2)新規性・進歩性について
ア 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)後者の「用紙」、「記録装置」、「インク」、「インクを吐出する吐出装置」、「『用紙に吐出された前記各水性インクに対して、光を照射する光照射装置」、「カチオン重合性化合物」、及び「水」は、それぞれ、前者の「媒体」、「印刷装置」、「インク」、「媒体へインクを吐出するインクジェットヘッド」、「媒体に付着したインクへエネルギー線を照射するエネルギー線照射部」、「エネルギー線の照射により重合する物質である重合物質」、及び「溶媒」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
[一致点]
「媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、
前記媒体へインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射するエネルギー線照射部と
を備え、
前記インクジェットヘッドが吐出する前記インクは、
エネルギー線の照射により重合する物質である重合物質と、
溶媒と
を含むインクである印刷装置。」
で一致し、以下の点で一応相違する。
[一応の相違点]
本願発明が、「エネルギー線が照射されることで発熱し、かつ、エネルギー線が照射されるタイミングに対して遅延して硬化が完了する」インクであって、「前記エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射して、前記インクを発熱させることで、前記インク中の前記溶媒の少なくとも一部を蒸発させて、滲みが発生しない粘度にまで、前記インクの粘度を高め、かつ、エネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になるように、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射する」ものであるのに対し、引用発明は、その点が定かでない点。
(イ)上記「(1)実施可能要件について」で検討したとおり、本願発明の「エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射して、前記インクを発熱させることで、前記インク中の前記溶媒の少なくとも一部を蒸発させて、滲みが発生しない粘度にまで、前記インクの粘度を高め、かつ、エネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になるように、前記媒体に付着した前記インクへエネルギー線を照射する」について、特許請求の範囲には、そのエネルギー線の照射条件及びインクの組成について何ら特定されていないところ、インクの組成については、明細書等を参酌すると、重合物質としては、カチオン重合性のモノマー又はオリゴマが好適なものと推認できる。
そうすると、引用発明の光重合性化合物である「カチオン重合性化合物」は、本願発明のインクにおける重合物質に包含されるものと認められる。
(ウ)また、本願発明の「エネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になる」との特定事項は、明細書等において、エネルギー線の照射条件を何ら示していないことからすれば、インクの組成を特定しているものと認められる。そうすると、上記(ア)及び(イ)で検討したとおり、引用発明のインクの組成は、本願発明のインクの組成に包含されるものであるから、引用発明の「インク」は、実質的に本願発明のエネルギー線が照射されることで発熱し、かつ、エネルギー線が照射されるタイミングに対して遅延して硬化が完了する」インクであって「エネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になる」ものと認められる。
(エ)他方、一般に、「滲み」はインクジェット方式の記録装置において、解決すべき自明の課題であることからすれば、エネルギー線の照射条件を最適化し、「エネルギー線が照射されてから100msが経過した時点において、時間の経過に応じて平坦化が進む状態になる」ようにすることは、当業者が、適宜採用する事項ともいえる。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比した場合の上記一応の相違点は、実質的な相違点とはいえないか、少なくとも、当業者が適宜なし得るものといえる。
したがって、本願発明の発明特定事項は、すべて引用発明が備えているから、本願発明と、引用発明とに差異はないか、本願発明は、引用発明から当業者が容易に発明できたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないか、少なくとも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載されたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないか、すくなくとも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-015811