特許拒絶査定不服審判
2022-018788
サーマルプリントヘッド
- 審判番号
- 2022-018788
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-066759
- 請求日
- 2022年11月22日
- 審決日
- 2024年01月24日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ローム株式会社
- 【請求人代理人】臼井 尚
- 審判長/審判官
- 審判長 殿川 雅也
- 審判官 藤本 義仁
- 審判官 門 良成
- 分類
- P18 .121-Z (B41J) / P18 .575-Z (B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 66759「サーマルプリントヘッド」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 7月 8日出願公開、特開2021-100826〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年9月15日(以下、「分割原出願日」という。)に出願した特願2016-180293号の一部を令和3年4月9日に新たな特許出願としたものであって、令和4年2月15日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年4月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月18日付けで拒絶理由(最後)が通知され、これに対して、同年7月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月9日付けで同年7月22日に提出された手続補正書による補正が却下されるとともに、拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し、同年11月22日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 令和4年11月22日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和4年11月22日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を全文にわたって補正をするものであって、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和4年4月14日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至3を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至3へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板に支持され且つ通電によって発熱する主走査方向に配列された複数の発熱部を有する抵抗体層と、
前記抵抗体層上に形成され且つ前記複数の発熱部に通電する配線層と、を備えるサーマルプリントヘッドであって、
前記半導体基板は、前記半導体基板の厚さ方向において互いに反対側を向く主面および裏面と、前記主面から前記厚さ方向に突出し且つ主走査方向に長く延びる凸状部と、を有し、
前記複数の発熱部は、前記厚さ方向視において前記凸状部と重なり、
前記主面は、前記凸状部を挟んで副走査方向に互いに離間する第1領域および第2領域を有し、
前記凸状部は、前記主面と平行であり且つ前記主面から前記厚さ方向に離間した天面と、前記天面と前記第1領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第1傾斜側面と、前記天面と前記第2領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第2傾斜側面と、を有し、
前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界とのすくなくともいずれかにおいて前記抵抗体層を覆う被覆導電層をさらに備え、
前記被覆導電層は、前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界との双方において前記抵抗体層を覆い、
前記被覆導電層は、前記抵抗体層と前記配線層との間に介在する下地導電層によって構成されており、
前記被覆導電層は、前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界との双方において前記抵抗体層を覆い、且つ前記配線層から露出しており、
前記配線層は、前記厚さ方向視において前記第1傾斜側面および前記第2傾斜側面と重なる、サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記被覆導電層は、Tiを含む、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記配線層は、Cuを含む、請求項1または2に記載のサーマルプリントヘッド。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板に支持され且つ通電によって発熱する主走査方向に配列された複数の発熱部を有する抵抗体層と、
前記抵抗体層上に形成され且つ前記複数の発熱部に通電する配線層と、を備えるサーマルプリントヘッドであって、
前記半導体基板は、前記半導体基板の厚さ方向において互いに反対側を向く主面および裏面と、前記主面から前記厚さ方向に突出し且つ主走査方向に長く延びる凸状部と、を有し、
前記複数の発熱部は、前記厚さ方向視において前記凸状部と重なり、
前記主面は、前記凸状部を挟んで副走査方向に互いに離間する第1領域および第2領域を有し、
前記凸状部は、前記主面と平行であり且つ前記主面から前記厚さ方向に離間した天面と、前記天面と前記第1領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第1傾斜側面と、前記天面と前記第2領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第2傾斜側面と、を有し、
前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界とのすくなくともいずれかにおいて前記抵抗体層を覆う被覆導電層をさらに備え、
前記被覆導電層は、前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界との双方において前記抵抗体層を覆い、
前記被覆導電層は、前記抵抗体層と前記配線層との間に介在する下地導電層によって構成されており、
前記被覆導電層は、前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界との双方において前記抵抗体層を覆い、且つ前記配線層から露出しており、
前記配線層は、前記厚さ方向視において前記第1傾斜側面および前記第2傾斜側面と重なり、
前記発熱部は、前記主走査方向において互いに隣り合い且つ前記副走査方向における通電方向が互いに反対向きとなる第1部および第2部を含み、
前記配線層は、前記複数の発熱部に各別に繋がる複数の個別電極を有し、
前記発熱部の前記主走査方向の大きさと、前記個別電極の前記主走査方向の大きさとは、互いに等しい、サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記被覆導電層は、Tiを含む、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記配線層は、Cuを含む、請求項1または2に記載のサーマルプリントヘッド。」
2 補正目的及び新規事項追加の有無について
(1)本件補正は、
ア 本件補正前の請求項1の「サーマルプリントヘッド」の発明特定事項である「発熱部」の構成について、「前記発熱部は、前記主走査方向において互いに隣り合い且つ前記副走査方向における通電方向が互いに反対向きとなる第1部および第2部を含み」と、発熱部が、主走査方向において互いに隣り合い且つ副走査方向における通電方向が互いに反対向きとなる第1部および第2部を含むものであることに限定する補正(以下「補正事項1」という。)
イ 本件補正前の請求項1の「サーマルプリントヘッド」の発明特定事項である「配線層」の構成について、「前記配線層は、前記複数の発熱部に各別に繋がる複数の個別電極を有し」と、配線層が、複数の発熱部に各別に繋がる複数の個別電極を有しているものであることに限定する補正(以下「補正事項2」という。)
ウ 本件補正前の請求項1の「サーマルプリントヘッド」の発明特定事項である「発熱部」及び「個別電極」の構成について、「前記発熱部の前記主走査方向の大きさと、前記個別電極の前記主走査方向の大きさとは、互いに等しい」と、発熱部の主走査方向の大きさと、個別電極の主走査方向の大きさとが、互いに等しいものであることに限定する補正(以下「補正事項3」という。)
である。
(2)そして、上記各補正事項の内容からすれば、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることは明らかである。
(3)よって、請求項1に係る補正である補正事項1乃至3は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(4)また、補正事項1乃至3は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、及び図面の段落【0060】の「発熱部41の形状は特に限定されないが、図4に示す例においては、発熱部41は、屈曲形状とされている。」及び【図4】の記載に基づいており、新たな技術的事項を導入するものではない。
(5)よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
3 独立特許要件について
上記2(5)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、本件補正後の請求項1に係る発明(令和4年11月22日に提出された手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】(以下「本件補正発明」という。))が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に示した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められる。
(2)引用例
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の分割原出願日前である平成17年7月7日に頒布された刊行物である特開2005-178198号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばサーマルプリンタに搭載されるサーマルヘッドの製造方法に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来では、基板に段差を形成する際にウエットエッチングを用いるため、エッチング液により基板表面があれてしまうという問題があった。基板表面があれていると、発熱抵抗体や電極層などのパターン形成工程で露光中のフォーカスにズレが生じてしまい、パターン精度が上層になるほど低下してしまい、ヘッド性能が悪くなる。また、フッ硝酸エッチングを施した後の基板は、反り返ってしまったり周辺部が薄くなってしまったりすることが多い。このように基板の平面性が損なわれると、基板が割れやすく耐久性に欠けるほか、製造過程において真空チャックしづらくなり手間がかかる。
【0006】
上記問題を解消するには、平坦な基板上にグレーズ層を用いて凸形状を形成することも考えられるが、プリンタの高精細化や高速化に応じて発熱抵抗体の駆動周期が非常に短くなると、発熱抵抗体のピーク温度を高くして所定の印字エネルギーを確保する必要があるため、蓄熱と合わさって発熱抵抗体のピーク温度がグレーズ層の耐熱温度700℃よりも高温に達することがある。この場合には、グレーズ層が変形又は溶融してしまい、正常な印字が行えなくなる。このため、高精細化による高品質印字および高速印字を実現する高出力型サーマルヘッドにはグレーズ層を備えることができない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高精細印字及び高速印字に対応しうる高耐熱性を有し、基板の平面性及び平坦性を損なうことなく凸形状を容易に形成可能なサーマルヘッドの製造方法を得ることを目的とする。」
(ウ)「【0021】
先ず、図1に示すように、基板1の平坦かつ平面的な表面上に、例えばSiO2からなる第1絶縁層2を全面的に成膜する。ここで、「平坦」とは基板表面に巨視的な凹凸のない平坦な状態を意味し、「平面的」とは基板表面にソリ及び欠け等の形状変化がない状態を意味する。基板1としては、例えばSi(シリコン)、AlN(窒化アルミニウム)、セラミック材料、又は金属等からなる基板を使用することができ、その材質は特に問わない。」
(エ)「【0029】
続いて、酸化物蓄熱層3の上に第2絶縁層4と抵抗層5を連続成膜し、抵抗層5の熱的な抵抗値を安定化させるために、約800~1000℃で再度、真空アニール処理を行なう。成膜にはスパッタや蒸着法を用いることができる。第2絶縁層4はSiO2により形成し、抵抗層5はTa2N又はTa-SiO2等のサーメット材料により形成する。上述したように基板表面及び酸化物蓄熱層3の表面には巨視的な凹凸が存在していない(基板表面及び酸化物蓄熱層3の表面があれていない)から、酸化物蓄熱層3の上に積層される各層を形成する際に行なう露光工程でフォーカスずれが生じず、上記各層を高精度でパターン形成することができる。これにより、抵抗層5の抵抗値のばらつきを防止可能である。真空アニール処理後は、抵抗層5の上にSiO2からなるバリア層6を成膜する。そして、酸化物蓄熱層3のテーパーエッジ部3b上に位置するバリア層6を所定形状にパターニングして、不要なバリア層6を除去する。これにより、抵抗層5上のバリア層6は、酸化物蓄熱層3のテーパーエッジ部3bの一部上に残る。このバリア層6で覆われた領域の抵抗層5が発熱抵抗体5aとなる。
【0030】
続いて、抵抗層5及びバリア層6の上に、例えばCrにより耐熱電極層を全面的に成膜する。成膜後は、フォトリソグラフィ技術を用いて、バリア層6上に位置する耐熱電極層をエッチング等により除去すると共に、耐熱電極層のパターン形状を規定する。これにより、酸化物蓄熱層3のテーパーエッジ部3bには、バリア層6で覆われた複数の発熱抵抗体5aが図示Y方向に微小な間隔をおいて配置され、耐熱電極層は、発熱抵抗体5aのすべてに接続する共通電極7と、各発熱抵抗体5aに個別に接続する個別電極8とに分離される。共通電極7及び個別電極8はバリア層6にオーバーレイしている。個別電極8には配線用のAl電極9が形成される。
【0031】
そして最後に、バリア層6、共通電極7及び個別電極8の上に耐磨耗保護層(不図示)を形成すると、図5に示すサーマルヘッドが得られる。
【0032】
以上のように本第1実施形態では、酸化物蓄熱層3の上に形成されたレジスト層Rが完全に除去されるまで該レジスト層Rと酸化物蓄熱層3をドライエッチングすることにより、基板1上の酸化物蓄熱層3の断面形状がレジスト層Rに対応した形状(同一形状又は相似形状)になる。すなわち、レジスト層Rの断面形状が酸化物蓄熱層3に転写される。レジスト層Rの断面形状はレジストベーク温度、時間及びその膜厚を制御することにより容易に設定可能であるから、酸化物蓄熱層3を用いて基板1上に凸部を容易に形成することができる。この際、ドライエッチングを用いているので、基板1の表面がエッチング液により腐食されることがなく、基板1の平坦性及び平面性を良好に保持することができる。また、耐熱温度が1000℃程度の高耐熱性を有する酸化物蓄熱層3により基板1上に凸部が形成されているので、発熱抵抗体5aのピーク温度が800℃程度まで上昇したとしても、酸化物蓄熱層3が変形することがなく、高精細印字及び高速印字に対応することができる。
【0033】
以上の第1実施形態では、酸化物蓄熱層3により基板1の上に凸部を形成しているが、酸化物蓄熱層3及び第1絶縁層2により凸部を形成することも勿論できる。また、第1絶縁層2のみにより凸部を形成してもよい。つまり、基板1上に形成された膜を用いて、基板1上に凸部を形成することができる。第1実施形態のように15~35μm程度の厚い膜厚を有する酸化物蓄熱層3を用いれば、他の層をわざわざ厚く形成する必要がなく、ヘッド全体の膜厚も増大させることがない。
【0034】
図6~図9は、本発明によるサーマルヘッドの製造方法の第2実施形態を示す断面図である。第2実施形態では、基板1の一端側近傍に断面台形形状の凸部αが形成されており、この凸部αを含む基板1の上に第1絶縁層2、酸化物蓄熱層3、第2絶縁層4、抵抗層5が順次積層されている。基板1の凸部αは、中央部の厚さが均一であり、この中央部に向けて凸部α外の基板表面から徐々に厚さが増大していくテーパーエッジ部1aを両端に有している。基板1自体に凸部αを形成する工程以外は第1実施形態と実質的に同じであり、図6~図9において第1実施形態と同一の構成要素には図1~図5と同一符号を付してある。以下では、基板1に凸部αを形成する方法について説明する。
【0035】
先ず、図6に示すように、基板1の平坦且つ平面的な表面上の一部に、基板表面との間に段差を与える均一膜厚のレジスト層Rを形成する。この形成段階でレジスト層Rの断面形状は、基板表面に対してほぼ垂直なエッジ部を有する長方形状である。次に、レジストベークを行ない、レジスト層Rの断面形状、特にレジスト層Rのエッジ部の断面形状を設定する。レジスト層Rの断面形状は、第1実施形態と同様、レジストベーク温度、レジストベーク時間及びレジスト層Rの膜厚の少なくとも1つを制御することにより設定される。具体的にレジスト層Rのエッジ部は、図7に示すように、基板表面から、均一厚を有するレジスト層Rの中央部に向けて徐々に膜厚が増大する両テーパーエッジ部にする。レジストベーク後のレジスト層Rは、テーパーエッジ部の頂上が微量ながら突起している。
【0036】
レジスト層Rの断面形状が決定したら、図8に示すようにドライエッチング処理を行なう。ドライエッチング処理では、イオンミリング又はエッチング等により異なる複数の方向からレジスト層Rと基板1を削り、レジスト層Rを完全に除去する。この際、レジスト層Rと基板1の選択比(エッチングレート比)は0.8以上1.2以下になるように制御する。この範囲内であれば、図8の点線で示すように、レジスト層Rを完全に除去したときに基板1の一部が、前工程で決定したレジスト層Rの断面形状に対応した形状となる。特にレジスト層Rと基板1の選択比(エッチングレート比)が1である場合は、レジスト層Rの断面形状と同一断面形状の凸部αが形成される。形成された凸部αは、テーパーエッジ部1aの頂上が微量ながら突起して中央部よりも基板表面からの高さが高くなる(図8、図9参照)。
【0037】
上記凸部αを形成した以降の工程は、第1実施形態と同様であるから省略するが、凸部αの上方に位置してバリア層6で覆われる抵抗層5の複数の領域がそれぞれ複数の発熱抵抗体5aとなる。この第2実施形態により得られるサーマルヘッドを図9に示す。
【0038】
以上の第2実施形態によっても、基板1の上に形成されたレジスト層Rが完全に除去されるまで該レジスト層Rと基板1をドライエッチングすることにより、基板1にレジスト層Rの断面形状に対応する断面形状の凸部αが形成されるので、基板1の表面がエッチング液により腐食されることがない。形成された基板1の凸部α上には酸化物蓄熱層3及び抵抗層5(発熱抵抗体5a)が設けられ、この凸部αにより印刷時は非印字物に対して接触圧力が加えられることから印字品質を高めることができる。また、酸化物蓄熱層3が耐熱温度1000℃程度の高耐熱性を有していることから、高精細印字及び高速印字にも対応可能である。」
(オ)「【図9】
[図:0001408545000001.jpg]
」
(カ)図9より、基板1の凸部αの中央部の両端から両テーパーエッジ部1aに亘って、それぞれ、共通電極7及び個別電極8が設けられ、共通電極7及び個別電極8は、凸部αの中央部の両端から両テーパーエッジ部1aに亘って、抵抗層5を覆い、個別電極8は、抵抗層5と配線用のAl電極9との間に設けられ、且つAl電極9から露出しており、Al電極9は、積層厚さ方向視において、基板1、抵抗層5、個別電極8と重なり、凸部αの中央部のバリア層6で覆われた複数の領域の抵抗層5が複数の発熱抵抗体5aとなっていることが看取できる。
上記(ア)乃至(カ)の記載事項から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「Si(シリコン)基板1の一端側近傍に断面台形形状の凸部αが形成されており、この凸部αを含む基板1の上に第1絶縁層2、酸化物蓄熱層3、第2絶縁層4、抵抗層5が順次積層され、基板1の凸部αは、中央部の厚さが均一であり、この中央部に向けて凸部α外の基板表面から徐々に厚さが増大していくテーパーエッジ部1aを両端に有している、サーマルヘッドであって、
基板1の凸部αの中央部の両端から両テーパーエッジ部1aに亘って、それぞれ、共通電極7及び個別電極8が設けられ、共通電極7及び個別電極8は、凸部αの中央部の両端から両テーパーエッジ部1aに亘って、抵抗層5を覆い、個別電極8は、抵抗層5と配線用のAl電極9との間に設けられ、且つAl電極9から露出しており、Al電極9は、積層厚さ方向視において、基板1、抵抗層5、個別電極8と重なり、凸部αの中央部のバリア層6で覆われた複数の領域の抵抗層5が複数の発熱抵抗体5aとなっている、サーマルヘッド。」
イ 引用例2
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の分割原出願日前である平成3年10月25日に頒布された刊行物である特開平3-239562号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「2.特許請求の範囲
絶縁性基板上にグレーズ層を形成し、このグレーズ層上に、複数の発熱抵抗体ならびに各発熱抵抗体に選択的に通電する複数の電極をそれぞれ整列状に積層して各発熱抵抗体に発熱ドットを形成し、これらの上方を保護層により被覆してなるサーマルヘッドにおいて、前記グレーズ層に断面ほぼ台形状の突起を形成し、この突起の頂部に各発熱抵抗体の発熱ドットを位置せしめるとともに、前記電極を2層構造とし、このうち下層電極のみを前記グレーズ層のほぼ頂部にまで位置せしめ、上層電極が積層されていない下層電極の単独延在部において発生する電力損失を約1%以下としたことを特徴とするサーマルヘッド。」
(イ)〔産業上の利用分野〕
本発明は、サーマルプリンタに搭載され、印字情報に従って通電加熱することにより所望の印字を行なうサーマルヘッドに係り、特に、その熱効率および機械強度の改良に関する。」(1頁右欄2~6行)
(ウ)「〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながら、前述した従来のサーマルヘッドにおいては、各電極4の膜厚が約2μ扉あるため、発熱抵抗体3の発熱ドット3Aと、対応する電極4の先端部間には段部が形成されることになる。したがって、共通電極4aと個別電極4bとの間に位置する発熱ドット3Aの上部に形成される凹部は、保護層15により上部を被覆しても解消することができない。この結果、インクリボン等の感熱記録部材により印字を行なうと、この凹部は、サーマルヘッドから感熱記録部材への熱伝導率が最も低くなる空隙を生ずるため、印加電圧を高めないと所望の印字濃度が得られず、高電圧故にサーマルヘッドの寿命を縮めることになる。また、電極4は一般的にAl等の軟質物質により構成されているため、感熱記録部材のバックアップとなるプラテンの押圧力により電極4を構成するAI等の先端部上方の保護層5の変形や欠落あるいは剥離を生じて発熱抵抗体3の抵抗値に変化をきたし、印字が劣化したり、サーマルヘッドの信頼度や寿命を低下させる原因となっていた。
前述した従来のサーマルヘッドにおける欠点を克服するため、第5図に示すように、グレーズ層2に縦断面円弧状でかつ直線状に延在する突起2Aを形成し、さらに、この突起2Aの頂部に縦断面ほぼ台形状の小突起2Bを数μmの厚さに形成して、共通電極4aおよび各個別電極4bの先端部を小突起2Bの下部に配置し、発熱ドツト3Aに凹部が形成されるのを防止したものがある。
このように構成すれば、それほど印加電圧を高めることなく良好な印字強度を保持することができるが、断面台形状の小突起2Bを設け、各電極の先端部を小突起2Bの頂面より低い位置に設けた場合、発熱抵抗体3をフォトリソグラフィ技術のエッチングにより形成する際、小突起2Bの両側に段部があるため、フォトレジストの厚みのばらつきが著しく大きいものとなるし、また、マスクとの間に間隙が発生するほど露出精度が低下することから、グレーズ層2の小突起2B上に高精度にパターンを形成できず、ショートエッチングやオーバーエッチング等が生じ、抵抗値のばらつきが多発するという問題点があった。
ところで、近年、高精細高速印字あるいはカラーグラフィック印字等高信頼度の得られるサーマルヘッドが要望されているが、抵抗値のばらつきを極少にして熱効率を向上しないと高速高印字品質になり得ないため、前述した小突起2Bの頂面から斜面にかけて発熱抵抗体3の発熱ドツト3Aを形成する構成においては、発熱抵抗体3の抵抗値が不安定になり、量産性を損うという問題点を有している。よって、グレーズ層2の小突起2Bの高さを数μm以上とするのが難しく、この結果、プラテンとの接触性も不満足なものとなっていた。
本発明は、前述した従来のものにおける問題点を克服し、高い信頼性が得られ安定した印字品質の印字を行なうことのできるサーマルヘッドを提供することを目的とする。」(2頁左下欄10行~3頁右上欄6行)
(エ)「〔実施例〕
以下、本発明を図面に示す実施例により説明する。
第1図および第2図は本発明に係るサーマルヘッドの第1実施例を示すものであり、アルミナ等により形成された絶縁性基板1上には、上面を平面に形成されたガラスからなるグレーズ層2が焼付けにより積層されており、このグレーズ層2上の後述する各発熱ドツト3Aの形成領域には、縦断面台形状の細長い直線状の突起2Cが一体に形成されている。この突起2Cの形成は、具体的には、フォトリソグラフィ技術のエッチングによりグレーズ層2を削成することにより行なわれ、この突起2Cの頂面までの高さは約30μmとされている。
前記グレーズ層2上には、その突起2C上も含めて発熱抵抗体3が積層されている。この発熱抵抗体3は、まず、Ta2NやTa-Si02等からなる発熱抵抗体層を蒸着、スパッタリング等によりグレーズ層2上に積層したうえで、この発熱抵抗体層に対しフォトリソグラフィ技術のエッチングを行なうことにより約1000Åの膜厚に形成される。
前記発熱抵抗体3上には、電極4が積層されている。この電極4は、前記発熱抵抗体3上に積層される下層電極4Aと、この下層電極4A上にさらに積層される上層電極4Bとにより構成されており、グレーズ層2の突起2Cの頂面上に形成される発熱抵抗体3の発熱ドット3Aの一側に導出される共通電極4a、他側に導出される複数本の個別電極4bともそれぞれ重積された下層電極4Aおよび上層電極4Bにより構成されている。
前記下層電極4Aは、W、Mo、Cr、Ti等からなる硬質の高融点金属により形成されており、この下層電極4Aは、まず、これらの材質からなる電極層をグレーズ層2および各発熱抵抗体3上に蒸着、スパッタリング等により積層したうえで、この電極層に対しフォトリソグラフィ技術のエッチングを行なうことにより、先端部が突起2Cの頂面上に位置するようにして所定のパターンに形成され、グレーズ層2の突起2Cの頂面上に位置する各発熱抵抗体3の両側上に積層される。そして、相互に間隔を隔てた共通電極4aをなす下層電極4Aの先端と個別電極4bをなす上層電極4Bの先端間に発熱ドット3Aが形成される。この下層電極4Aの膜厚は、前記発熱抵抗体3と同様、約1000Åと薄く形成されている。
前記下層電極4A上に積層される上層電極4Bは、Al等の良電導金属に形成されており、この上層電極4Bも、下層電極4Aと同様、フォトリソグラフィ技術により先端部がグレーズ層2の突起2C上に全く到達しないように所定のパターンに形成されている。この上層電極4Bの膜厚は、上層電極4Bと比較して厚い約2μmに形成されている。また、この上層電極4Bの幅は、前記グレーズ層2の突起2C上における下層電極4Aよりも狭く形成されているこの部位の下層電に4Aの幅と等しくされている。」(3頁左下欄11行~4頁右上欄8行)
(オ)「なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。例えば、第3図に示すように、グレーズ層2に突起2Aと小突起2Bを形成したうえで第1実施例のような下層電極4Aおよび上層電極4Bの構成を採用してもよいし、また、第3図に示すように、上層電極4Bの先端を小突起2Bの上下方向の中間位置にまで到達するようにしてもよい。」(5頁右上欄末行~左下欄7行)
(カ)「第3図
[図:0001408545000002.jpg]
」
(キ)第3図から、上層電極4Bは、小突起2Bの頂部を除いた左右両斜面の下層電極4A上に積層されていることが看取できる。
上記(ア)乃至(キ)の記載事項から、引用例2には、次の技術事項(以下「引用例2に記載の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
「絶縁性基板上にグレーズ層を形成し、このグレーズ層上に、複数の発熱抵抗体ならびに各発熱抵抗体に選択的に通電する複数の電極をそれぞれ整列状に積層して各発熱抵抗体に発熱ドットを形成し、これらの上方を保護層により被覆してなるサーマルヘッドにおいて、前記グレーズ層に断面ほぼ台形状の突起を形成し、この突起の頂部に各発熱抵抗体の発熱ドットを位置せしめるとともに、前記電極を2層構造とし、このうち下層電極のみを前記グレーズ層のほぼ頂部にまで位置せしめ、上層電極4Bは、小突起2Bの頂部を除いた左右両斜面の下層電極4A上に積層されている、サーマルヘッド。」
(3)対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
ア 後者の「Si(シリコン)基板1」、「複数の発熱抵抗体5a」、「抵抗層5」、「Al電極9」、「サーマルヘッド」、「断面台形形状の凸部α」は、それぞれ、前者の「半導体基板」、「複数の発熱部」、「抵抗体層」、「配線層」、「サーマルプリントヘッド」、「主面から厚さ方向に突出した凸状部」に相当する。
イ 後者の「複数の発熱抵抗体5a」は、サーマルヘッドの技術分野における技術常識からすれば、Si(シリコン)基板1に支持され且つ通電によって発熱する主走査方向に配列され、互いに隣り合っているものであることは明らかである。
ウ 後者の「個別電極8」は、抵抗層5を覆うものであるから、複数の発熱抵抗体5aに通電していることは明らかであるところ、Al電極9は、個別電極8を介して、抵抗層5と重なっているから、前者の「配線層」と、後者の「Al電極9」とは、「抵抗体層上に形成され且つ複数の発熱部に通電する」ものとの概念で一致する。
エ 後者の「Si(シリコン)基板1」は、その一端側近傍に断面台形形状の凸部αが形成されているから、前者の「半導体基板」と、後者の「Si(シリコン)基板1」とは、「半導体基板の厚さ方向において互いに反対側を向く主面および裏面と、前記主面から前記厚さ方向に突出し且つ主走査方向に長く延びる凸状部」を有している点で一致する。
オ 後者の「複数の発熱抵抗体5a」は、凸部αの中央部のバリア層6で覆われた複数の領域の抵抗層5であるから、前者の「複数の発熱部」と、後者の「複数の発熱抵抗体5a」とは、「厚さ方向視において凸状部と重な」っている点で一致する。
カ 後者の「Si(シリコン)基板1の凸部α」は、断面台形形状であるから、前者の「半導体基板」と、後者の「Si(シリコン)基板1」とは、「主面は、凸状部を挟んで副走査方向に互いに離間する第1領域および第2領域を有し」ているとの概念で一致する。
キ 同様に、前者の「凸状部」と、後者の「凸部α」とは、「主面と平行であり且つ前記主面から厚さ方向に離間した天面と、前記天面と第1領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第1傾斜側面と、前記天面と第2領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第2傾斜側面と、を有し」ているとの概念で一致する。
ク 後者の「共通電極7及び個別電極8」は、「凸部αの中央部の両端から両テーパーエッジ部1aに亘って、抵抗層5を覆」うものであるから、前者の「被覆導電層」に相当し、前者の「被覆導電層」と、後者の「共通電極7及び個別電極8」とは、「天面および第1傾斜側面の境界と前記天面および第2傾斜側面の境界との双方において抵抗体層を覆う」点で一致する。
ケ 後者の「個別電極8」は、「抵抗層5と配線用のAl電極9との間に設けられ」ているものであるから、前者の「被覆導電層」と、後者の「個別電極8」とは、「抵抗体層と配線層との間に介在する下地導電層」との概念で一致する。
コ 同様に、前者の「被覆導電層」と、後者の「個別電極8」とは、「天面および第1傾斜側面の境界において抵抗体層を覆い、且つ配線層から露出して」いるとの概念で一致するとともに、後者の「共通電極7」上には、「Al電極9」が設けられていないから、前者の「被覆導電層」と、後者の「共通電極7」とは、「天面および第2傾斜側面の境界において抵抗体層を覆い、且つ配線層から露出して」いるとの概念で一致する。
サ 後者の「Al電極9」は、個別電極8及び抵抗層5上に設けられているから、前者の「配線層」と、後者の「Al電極9」とは、「複数の発熱部に各別に繋がる複数の個別電極を有し」ているとの概念で一致する。
そうすると、本件補正発明と引用発明1とは、
[一致点]
「半導体基板と、
前記半導体基板に支持され且つ通電によって発熱する主走査方向に配列された複数の発熱部を有する抵抗体層と、
前記抵抗体層上に形成され且つ前記複数の発熱部に通電する配線層と、を備えるサーマルプリントヘッドであって、
前記半導体基板は、前記半導体基板の厚さ方向において互いに反対側を向く主面および裏面と、前記主面から前記厚さ方向に突出し且つ主走査方向に長く延びる凸状部と、を有し、
前記複数の発熱部は、前記厚さ方向視において前記凸状部と重なり、
前記主面は、前記凸状部を挟んで副走査方向に互いに離間する第1領域および第2領域を有し、
前記凸状部は、前記主面と平行であり且つ前記主面から前記厚さ方向に離間した天面と、前記天面と前記第1領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第1傾斜側面と、前記天面と前記第2領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第2傾斜側面と、を有し、
前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界とのすくなくともいずれかにおいて前記抵抗体層を覆う被覆導電層をさらに備え、
前記被覆導電層は、前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界との双方において前記抵抗体層を覆い、
前記被覆導電層は、前記抵抗体層と前記配線層との間に介在する下地導電層によって構成されており、
前記被覆導電層は、前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界との双方において前記抵抗体層を覆い、且つ前記配線層から露出しており、
前記発熱部は、前記主走査方向において互いに隣り合い、
前記配線層は、前記複数の発熱部に各別に繋がる複数の個別電極を有する、サーマルプリントヘッド。」
で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本件補正発明の「配線層」は、「厚さ方向視において第1傾斜側面および第2傾斜側面と重な」るものであるのに対し、引用発明1の「Al電極9」は、「積層厚さ方向視において、基板1、抵抗層5、個別電極8と重な」るのみで、テーパーエッジ部1aでは重ならず、共通電極7とは重なっていない点。
[相違点2]
本件補正発明が、「発熱部」は、「副走査方向における通電方向が互いに反対向きとなる第1部および第2部を含み」、「前記発熱部の前記主走査方向の大きさと、個別電極の前記主走査方向の大きさとは、互いに等しい」ものであるのに対し、引用発明の「複数の発熱抵抗体5a」の形状及び主走査方向の大きさは、明らかでない点。
(4)判断
ア 相違点1について
引用例2に記載の技術事項の「上層電極4B」は、小突起2Bの頂部を除いた左右両斜面の下層電極4A上に積層されているものであるから、本件補正発明の「厚さ方向視において第1傾斜側面および第2傾斜側面と重な」る「配線層」に相当するから、上記相違点1は、引用例2に記載の技術事項に示されているといえる。
ここで、引用発明1と引用例2に記載の技術事項とは、サーマルヘッドという技術分野に属している点で一致し、引用発明1の「共通電極7」、「個別電極8」、「Al電極9」も、引用例2に記載の技術事項の「上層電極4B」、「下層電極4A」のいずれも、凸部上の発熱抵抗体へ通電する機能で共通する。
そうすると、引用発明1に、引用例2に記載の技術事項を適用する動機付けがあるといえるから、通電機能で共通する引用発明1の「共通電極7」、「個別電極8」、「Al電極9」に、引用例2に記載の技術事項の小突起2Bの頂部を除いた左右両斜面の下層電極4A上に上層電極4Bを積層する構成を適用することにより、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
イ 相違点2について、
分割原出願日時点において、サーマルヘッドの技術分野において、「副走査方向における通電方向が互いに反対向きとなる第1部および第2部を含み、主走査方向の大きさと、個別電極の主走査方向の大きさとが、互いに等しい発熱部」は周知の技術手段である(例えば、特開昭57-82064号公報(2頁左上欄19行~右上欄18行、第3図参照。)、実願昭56-40215号(実開昭57-153550号)のマイクロフィルム(3頁13~19行、第3図参照。)。以下「周知技術」という。)
ここで、引用発明1と上記周知技術とは、サーマルヘッドという技術分野に属している点で一致し、低電力で駆動し、良好な発色を行うという自明な課題を有する点においても共通するといえるから、引用発明1に、前記周知技術を適用する動機付けはあるといえる。
してみると、引用発明1の「複数の発熱抵抗体5a」に、前記周知技術を適用し、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本件補正発明の効果も、引用発明1、上記周知技術から、当業者が予測し得る程度のものといえる。
したがって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、当業者が容易に発明できた発明である。
(5)独立特許要件についての検討のまとめ
以上検討したように、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件補正発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
4 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、上記において検討したように、本件補正発明は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下された。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和4年4月14日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板に支持され且つ通電によって発熱する主走査方向に配列された複数の発熱部を有する抵抗体層と、
前記抵抗体層上に形成され且つ前記複数の発熱部に通電する配線層と、を備えるサーマルプリントヘッドであって、
前記半導体基板は、前記半導体基板の厚さ方向において互いに反対側を向く主面および裏面と、前記主面から前記厚さ方向に突出し且つ主走査方向に長く延びる凸状部と、を有し、
前記複数の発熱部は、前記厚さ方向視において前記凸状部と重なり、
前記主面は、前記凸状部を挟んで副走査方向に互いに離間する第1領域および第2領域を有し、
前記凸状部は、前記主面と平行であり且つ前記主面から前記厚さ方向に離間した天面と、前記天面と前記第1領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第1傾斜側面と、前記天面と前記第2領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第2傾斜側面と、を有し、
前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界とのすくなくともいずれかにおいて前記抵抗体層を覆う被覆導電層をさらに備え、
前記被覆導電層は、前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界との双方において前記抵抗体層を覆い、
前記被覆導電層は、前記抵抗体層と前記配線層との間に介在する下地導電層によって構成されており、
前記被覆導電層は、前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界との双方において前記抵抗体層を覆い、且つ前記配線層から露出しており、
前記配線層は、前記厚さ方向視において前記第1傾斜側面および前記第2傾斜側面と重なる、サーマルプリントヘッド。」
2 原査定の拒絶の理由
原査定の理由とされた、令和4年5月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、以下のものを含むものである。
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2005-178198号公報
2.特開平03-239562号公報
3 引用例
令和4年5月18日付けの拒絶理由通知書で引用された引用例、及び、その記載内容は上記「第2 3(2)」に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、実質的に、本件補正発明の「前記発熱部は、前記主走査方向において互いに隣り合い且つ前記副走査方向における通電方向が互いに反対向きとなる第1部および第2部を含み」、「前記配線層は、前記複数の発熱部に各別に繋がる複数の個別電極を有し」、「前記発熱部の前記主走査方向の大きさと、前記個別電極の前記主走査方向の大きさとは、互いに等しい」との事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明1とを対比すると、上記「第2 3(3)対比」での検討を勘案すると、両者は、
[一致点]
「半導体基板と、
前記半導体基板に支持され且つ通電によって発熱する主走査方向に配列された複数の発熱部を有する抵抗体層と、
前記抵抗体層上に形成され且つ前記複数の発熱部に通電する配線層と、を備えるサーマルプリントヘッドであって、
前記半導体基板は、前記半導体基板の厚さ方向において互いに反対側を向く主面および裏面と、前記主面から前記厚さ方向に突出し且つ主走査方向に長く延びる凸状部と、を有し、
前記複数の発熱部は、前記厚さ方向視において前記凸状部と重なり、
前記主面は、前記凸状部を挟んで副走査方向に互いに離間する第1領域および第2領域を有し、
前記凸状部は、前記主面と平行であり且つ前記主面から前記厚さ方向に離間した天面と、前記天面と前記第1領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第1傾斜側面と、前記天面と前記第2領域との間に介在し且つ前記主面に対して傾斜した第2傾斜側面と、を有し、
前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界とのすくなくともいずれかにおいて前記抵抗体層を覆う被覆導電層をさらに備え、
前記被覆導電層は、前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界との双方において前記抵抗体層を覆い、
前記被覆導電層は、前記抵抗体層と前記配線層との間に介在する下地導電層によって構成されており、
前記被覆導電層は、前記天面および前記第1傾斜側面の境界と前記天面および前記第2傾斜側面の境界との双方において前記抵抗体層を覆い、且つ前記配線層から露出している、サーマルプリントヘッド。」
で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本願発明の「配線層」は、「厚さ方向視において第1傾斜側面および第2傾斜側面と重な」るものであるのに対し、引用発明1の「Al電極9」は、「積層厚さ方向視において、基板1、抵抗層5、個別電極8と重な」るのみで、テーパーエッジ部1aでは重ならず、共通電極7とは重なっていない点。
そして、上記「第2 3(4)ア」の検討のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、当業者が容易に発明できた発明である。
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第4 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-018788