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特許拒絶査定不服審判

2022-005373

インクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法

審判番号
2022-005373
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-528972
請求日
2022年04月11日
審決日
2023年03月22日
公報発行日
2023年06月30日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】コニカミノルタ株式会社
  • 【請求人代理人】弁理士法人光陽国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 吉村 尚
  • 審判官 藤本 義仁
  • 審判官 佐藤 海
分類
P18 .121-Z (B41J) / P18 .57 -Z (B41J) / P18 .575-Z (B41J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-528972「インクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月17日国際公開、WO2019/012829〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年5月30日(優先権主張 平成29年7月10日)を国際出願日とする出願であって、令和3年10月19日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年12月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月28日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し、令和4年4月11日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 令和4年4月11日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和4年4月11日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲を全文にわたって補正をするとともに、合わせて明細書の記載について補正をするものであるところ、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和3年12月21日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至15を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至15へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。) (1)本件補正前の特許請求の範囲 「【請求項1】 インクを射出するノズルが形成された基材部と、 前記基材部の射出面側に形成され炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜と、 前記撥液層下地膜の射出面側に形成された撥液層と、を有するノズル基板を備え、 前記ノズル基板は、流路保護膜を前記ノズルの流路内及び射出面側に備え、射出面側の前記流路保護膜上に前記撥液層下地膜を備えるインクジェットヘッド。 【請求項2】 前記撥液層下地膜は、シリコンSiと炭素Cと酸素Oとの原子数比を示す三角図において、 Si:C:Oの原子数比が、1:1:0である第1の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、3:2:2である第2の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:2である第3の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:0である第4の座標点と、で囲まれた範囲内であり、かつ前記第1の座標点と前記第4の座標点とを結ぶ線上を除いた範囲の組成の前記炭化酸化シリコン膜を有する請求項1に記載のインクジェットヘッド。 【請求項3】 前記撥液層下地膜は、前記基材部の射出面側及び前記ノズルの内壁に形成される請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。 【請求項4】 前記撥液層下地膜は、膜厚が50[nm]以下である請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。 【請求項5】 前記基材部は、ケイ素、金属材料又は樹脂材料からなる請求項1から4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。 【請求項6】 請求項1から5のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドと、 前記撥液層の射出面側のインクを拭き取るクリーニング部と、を備えるインクジェット記録装置。 【請求項7】 基材部の射出面側に、炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜を形成する撥液層下地膜形成工程と、 前記撥液層下地膜の射出面側に、撥液層を形成してノズル基板を生成する撥液層形成工程と、 インクを射出するノズルを前記基材部に形成するノズル形成工程と、 前記ノズル基板を備えるインクジェットヘッドを生成するインクジェットヘッド生成工程と、を含み、 前記撥液層下地膜は、シリコンSiと炭素Cと酸素Oとの原子数比を示す三角図において、 Si:C:Oの原子数比が、1:1:0である第1の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、3:2:2である第2の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:2である第3の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:0である第4の座標点と、で囲まれた範囲内であり、かつ前記第1の座標点と前記第4の座標点とを結ぶ線上を除いた範囲の組成比の前記炭化酸化シリコン膜を有し、 前記撥液層下地膜形成工程において、炭化シリコン膜又は炭化酸化シリコン膜に、追加で酸素添加を行うことで、最表面層が前記範囲の組成比の撥液層下地膜を形成するインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項8】 前記酸素添加に、酸素ガスを含む雰囲気下でのプラズマ処理を用いる請求項7に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項9】 基材部の射出面側に、炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜を形成する撥液層下地膜形成工程と、 前記撥液層下地膜の射出面側に、撥液層を形成してノズル基板を生成する撥液層形成工程と、 インクを射出するノズルを前記基材部に形成するノズル形成工程と、 前記ノズル基板を備えるインクジェットヘッドを生成するインクジェットヘッド生成工程と、を含み、 前記撥液層下地膜は、シリコンSiと炭素Cと酸素Oとの原子数比を示す三角図において、 Si:C:Oの原子数比が、1:1:0である第1の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、3:2:2である第2の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:2である第3の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:0である第4の座標点と、で囲まれた範囲内であり、かつ前記第1の座標点と前記第4の座標点とを結ぶ線上を除いた範囲の組成比の前記炭化酸化シリコン膜を有し、 前記撥液層下地膜形成工程において、酸化シリコン膜又は炭化酸化シリコン膜に、追加で炭素添加を行うことで、最表面層が前記範囲の組成比の撥液層下地膜を形成するインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項10】 前記炭素添加に、炭化水素ガスを含む雰囲気下でプラズマ処理を用いる請求項9に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項11】 前記撥液層下地膜形成工程において、前記基材部の射出面側及び前記ノズルの内壁に、前記撥液層下地膜を形成する請求項7から10のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項12】 前記ノズルの流路内に流路保護膜を形成する流路保護膜形成工程を含む請求項7から11のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項13】 前記ノズル形成工程において、前記基材部に前記撥液層下地膜及び前記撥液層を形成後、エキシマーレーザー加工により前記基材部、前記撥液層下地膜、及び前記撥液層をアブレーションさせて前記ノズルを形成する請求項7から12のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項14】 前記撥液層下地膜形成工程において、膜厚が50[nm]以下である前記撥液層下地膜を形成する請求項7から13のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項15】 前記基材部は、ケイ素、金属材料又は樹脂材料からなる請求項7から14のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 「【請求項1】 インクを射出するノズルが形成された基材部と、 前記基材部の射出面側に形成され炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜と、 前記撥液層下地膜の射出面側に形成された撥液層と、を有するノズル基板を備えたインクジェットヘッドであって、 前記ノズル基板には、前記基材部の前記ノズルの流路内及び前記基材部の射出面側に形成された流路保護膜をさらに備え、 前記ノズル基板の射出面側には、前記流路保護膜と、前記流路保護膜上に前記撥液層下地膜と、前記撥液層下地膜上に前記撥液層とを備えるインクジェットヘッド。 【請求項2】 前記撥液層下地膜は、シリコンSiと炭素Cと酸素Oとの原子数比を示す三角図において、 Si:C:Oの原子数比が、1:1:0である第1の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、3:2:2である第2の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:2である第3の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:0である第4の座標点と、で囲まれた範囲内であり、かつ前記第1の座標点と前記第4の座標点とを結ぶ線上を除いた範囲の組成の前記炭化酸化シリコン膜を有する請求項1に記載のインクジェットヘッド。 【請求項3】 前記撥液層下地膜は、前記基材部の射出面側及び前記ノズルの内壁に形成される請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。 【請求項4】 前記撥液層下地膜は、膜厚が50[nm]以下である請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。 【請求項5】 前記基材部は、ケイ素、金属材料又は樹脂材料からなる請求項1から4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。 【請求項6】 請求項1から5のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドと、 前記撥液層の射出面側のインクを拭き取るクリーニング部と、を備えるインクジェット記録装置。 【請求項7】 基材部の射出面側に、炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜を形成する撥液層下地膜形成工程と、 前記撥液層下地膜の射出面側に、撥液層を形成してノズル基板を生成する撥液層形成工程と、 インクを射出するノズルを前記基材部に形成するノズル形成工程と、 前記ノズル基板を備えるインクジェットヘッドを生成するインクジェットヘッド生成工程と、を含み、 前記撥液層下地膜は、シリコンSiと炭素Cと酸素Oとの原子数比を示す三角図において、 Si:C:Oの原子数比が、1:1:0である第1の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、3:2:2である第2の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:2である第3の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:0である第4の座標点と、で囲まれた範囲内であり、かつ前記第1の座標点と前記第4の座標点とを結ぶ線上を除いた範囲の組成比の前記炭化酸化シリコン膜を有し、 前記撥液層下地膜形成工程において、炭化シリコン膜又は炭化酸化シリコン膜に、追加で酸素添加を行うことで、最表面層が前記範囲の組成比の撥液層下地膜を形成するインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項8】 前記酸素添加に、酸素ガスを含む雰囲気下でのプラズマ処理を用いる請求項7に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項9】 基材部の射出面側に、炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜を形成する撥液層下地膜形成工程と、 前記撥液層下地膜の射出面側に、撥液層を形成してノズル基板を生成する撥液層形成工程と、 インクを射出するノズルを前記基材部に形成するノズル形成工程と、 前記ノズル基板を備えるインクジェットヘッドを生成するインクジェットヘッド生成工程と、を含み、 前記撥液層下地膜は、シリコンSiと炭素Cと酸素Oとの原子数比を示す三角図において、 Si:C:Oの原子数比が、1:1:0である第1の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、3:2:2である第2の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:2である第3の座標点と、 Si:C:Oの原子数比が、1:2:0である第4の座標点と、で囲まれた範囲内であり、かつ前記第1の座標点と前記第4の座標点とを結ぶ線上を除いた範囲の組成比の前記炭化酸化シリコン膜を有し、 前記撥液層下地膜形成工程において、酸化シリコン膜又は炭化酸化シリコン膜に、追加で炭素添加を行うことで、最表面層が前記範囲の組成比の撥液層下地膜を形成するインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項10】 前記炭素添加に、炭化水素ガスを含む雰囲気下でプラズマ処理を用いる請求項9に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項11】 前記撥液層下地膜形成工程において、前記基材部の射出面側及び前記ノズルの内壁に、前記撥液層下地膜を形成する請求項7から10のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項12】 前記ノズルの流路内に流路保護膜を形成する流路保護膜形成工程を含む請求項7から11のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項13】 前記ノズル形成工程において、前記基材部に前記撥液層下地膜及び前記撥液層を形成後、エキシマーレーザー加工により前記基材部、前記撥液層下地膜、及び前記撥液層をアブレーションさせて前記ノズルを形成する請求項7から12のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項14】 前記撥液層下地膜形成工程において、膜厚が50[nm]以下である前記撥液層下地膜を形成する請求項7から13のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。 【請求項15】 前記基材部は、ケイ素、金属材料又は樹脂材料からなる請求項7から14のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。」 2 補正の適否について (1)本件補正事項 本件補正後の請求項1についての本件補正事項は、本件補正前の請求項1の「インクジェットヘッド」の発明特定事項である「ノズル基板」について、「前記基材部の前記ノズルの流路内及び前記基材部の射出面側に形成された流路保護膜をさらに備え」と特定し(以下「補正事項1」という。)、「ノズル基板の射出面側」について、「前記流路保護膜と、前記流路保護膜上に前記撥液層下地膜と、前記撥液層下地膜上に前記撥液層とを備える」と特定するもの(以下「補正事項2」という。)である。 (2)補正目的について 特許法第17条の2第5項の規定によれば、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲についての補正は、請求項の削除(第1号)、特許請求の範囲の減縮(第2号)、誤記の訂正(第3号)、明瞭でない記載の釈明(第4号)のいずれかを目的とするものに限るとされている。 そこで、上記各補正事項について、以下、検討する。 ア 補正事項1について 上記補正事項1は、「ノズル基板」について、「前記基材部の前記ノズルの流路内及び前記基材部の射出面側に形成された流路保護膜をさらに備え」と特定するものであるところ、本件補正前の請求項1においては、「インクを射出するノズルが形成された基材部と、前記基材部の射出面側に形成され炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜」及び「流路保護膜を前記ノズルの流路内及び射出面側に備え、射出面側の前記流路保護膜上に前記撥液層下地膜を備える」と記載されており、「基材部」に「ノズル」が形成されていること、「射出面」とは「基材部」に形成されていること、「流路保護膜」が「ノズルの流路内」及び「射出面側」に備えられていること、が特定されていたのであるから、上記補正事項1は、本件補正前の請求項1に、既に特定されていた事項である。 イ 補正事項2について 上記補正事項2は、「ノズル基板の射出面側」について、「前記流路保護膜と、前記流路保護膜上に前記撥液層下地膜と、前記撥液層下地膜上に前記撥液層とを備える」と特定するものであるところ、本件補正前の請求項1においては、「ノズルが形成された基材部」、「前記基材部の射出面側に形成され炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜」、「前記撥液層下地膜の射出面側に形成された撥液層」、「前記ノズル基板は、流路保護膜を前記ノズルの流路内及び射出面側に備え」と記載されており、「「ノズルが形成された基材部」の射出面側」に、「流路保護膜」、「流路保護膜上に撥液層下地膜」及び「撥液層下地膜に撥液層」が形成されていることが特定されていたのであるから、上記補正事項2は、本件補正前の請求項1に、既に特定されていた事項である。 ウ そうすると、補正事項1及び2は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項である「ノズル基板」及び「ノズル基板の射出面側」をさらに限定するものとはいえないのであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。 エ また、補正事項1及び2が、同項第1、3、4の各号に掲げられた、いずれの目的とするものにも該当しないことは明らかである。 オ してみると、補正事項1及び2は、同項第1号乃至第4号に掲げられたいずれを目的とするものにも該当しない。 カ よって、補正事項1及び2を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定を満たすものではない。 (3)むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 3 独立特許要件について 上記のとおり、本件補正前の請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当するものではないが、念のため、本件補正後の請求項1に係る補正が限定的減縮であると仮定して、本件補正後の請求項1に係る発明(令和4年4月11日に提出された手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。))が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 (1)本願補正発明 本願補正発明は、上記「1 (2)」に示した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められる。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前である平成25年9月26日に頒布された刊行物である特開2013-188874号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。 ア 「【【技術分野】 【0001】 本発明は液滴吐出ヘッドの製造方法に係り、特に、液滴吐出ヘッドのノズルプレート表面に撥水膜を有する液滴吐出ヘッドの製造方法に関する。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 上記特許文献1から3は、ノズルプレート表面の撥水材料との密着性を向上させることを目的としている。一方で、ノズル内部は、インクが通過する流路であるため、化学耐久性を有する内部保護膜を有することが望まれている。 【0008】 一般的なUV照射やプラズマ照射などで表面処理を行った場合、ノズル表面の下地機能膜の表面活性化と同時に内部保護膜の表面活性化も進めてしまう。これにより、内部保護膜の表面活性が高い状態となるため、インク成分と反応しやすくなり、結果的に化学耐性が大幅に劣化する。化学耐性が劣化することによって、例えば、インクが内部に付着しやすくなり、ノズル詰まりや吐出方向不良を発生しやすくなる。あるいは、インク成分によっては内部保護膜との反応活性が高くなることで、内部保護膜が溶けだしてエッチングされてしまうことが生じる。内部保護膜がエッチング消失してしまうと基材がむき出しとなり、インクに対しての溶解速度が大きくなることでノズル内部形状が変化し、結果的に吐出インク速度、方向が変動してしまうという不具合が生じていた。 【0009】 撥水膜の下地機能膜とノズル内部の内部保護膜とは、プロセス簡略上の観点から同一材料で形成されていることが望ましい。しかしながら、上述したように、それぞれに求められる機能が異なるのでUV照射の有無でその機能を制御することができる。 【0010】 しかしながら、従来の紫外線照射処理では、ノズル内部へも紫外線が照射されてしまうため、ノズル内部の内部保護膜機能の下地膜の表面活性化を発現してしまうことが問題であった。ノズル内部が表面活性化すると、上述したような内部保護膜の化学耐性が劣化するという問題があった。 【0011】 また、ノズルプレートに高密度にノズルを形成する場合には、ノズル孔を先に開口した後に撥水膜を形成する、いわゆる先孔プロセスが重要となってくる。先に撥水膜を形成した後に、ノズルを開口する後孔プロセスでは、機械加工やレーザー加工などによるノズル加工を適用することになり、高い加工精度を確保することが困難である。先孔プロセスとすることで、例えば、シリコン基板を用いたリソグラフィ、エッチングプロセスを適用することが可能となり、高いノズル加工精度を実現することが可能となる。 【0012】 しかしながら、先孔プロセスでノズルプレートの形成を行った場合、ノズル孔の内部に撥水膜が回り込み、ノズル孔内に撥水膜が形成される。このノズル孔内に形成された撥水膜を除去するために、ノズルと逆面側の流路からプラズマフローする手段がとられている。したがって、ノズル内部に回り込んだ撥水膜をプラズマ処理で除去するかが重要となってくる。このプラズマによりノズル内部の撥水膜を除去する場合、ノズル面に保護フィルムを貼り付け、ノズル内からプラズマがノズル面側に拡散することで、ノズル面撥水膜にダメージを与えないようにしている。しかしながら、ノズル内部の撥水膜の密着性が強固であると、撥水膜を除去するために、プラズマの照射強度、時間を大きくする必要がある。照射強度、時間を大きくすると、ノズルプレートの保護フィルムの貼り付けの不完全な部分からプラズマが漏れ出して、ノズルプレートの撥水膜にダメージを与え、そのノズルが不吐出になるという問題があった。 【0013】 したがって、ノズルプレート表面においては、撥水膜の下地密着層として強固な密着性を確保する一方で、ノズル内部、特に、ノズル近傍内面の内部保護膜においては、表面活性化による密着性を抑制する必要があった。 【0014】 本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、下地膜を使用する箇所に適した機能に制御することができる液滴吐出ヘッドの製造方法を提供する。」 ウ 「【0063】 〔インクジェットヘッドの構造〕 次に、インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yの構造について説明する。なお、各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yの構造は共通しているので、以下では、これらを代表して符号250によってヘッドを示すものとする。 【0064】 図2(a)は、インクジェットヘッド250の構造例を示す平面透視図であり、図2(b)は、インクジェットヘッド250の他の構造例を示す平面透視図である。図3は、インク室ユニットの立体的構成を示す断面図である。 【0065】 記録紙面上に形成されるドットピッチを高密度化するためには、インクジェットヘッド250におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のインクジェットヘッド250は、図2(a)に示すように、インク滴の吐出孔であるノズル251と、各ノズル251に対応する圧力室252などからなる複数のインク室ユニット253を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙搬送方向と直交する主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。 【0066】 紙搬送方向と略直交する方向に記録媒体124の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図2(a)の構成に代えて、図2(b)に示すように、複数のノズル251が2次元に配列された短尺のヘッドブロック(ヘッドチップ)250’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録媒体124の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。また、図示は省略するが、短尺のヘッドを一列に並べてラインヘッドを構成してもよい。 【0067】 図3に示すように、各ノズル251は、インクジェットヘッド250のインク吐出面250aを構成するノズルプレート260に形成されている。ノズルプレート260は、例えば、Si、SiO2、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料、ポリイミドのような樹脂系材料で構成されている。 【0068】 ノズルプレート260の表面(インク吐出側の面)には、インクに対して撥水性を有する撥水膜262が形成されており、インクの付着防止が図られている。 【0069】 ノズルプレート260は、流路形成基板264に接合されており、流路形成基板264には、各ノズル251に対応して圧力室252が設けられている。圧力室252は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル251と供給口254が設けられている。各圧力室252は供給口254を介して共通流路255と連通されている。共通流路255はインク供給源たるインク供給タンク(不図示)とインク供給口259を介して連通しており、該インク供給タンクから供給されるインクは共通流路255を介して各圧力室252に分配供給される。なお、共通流路255は、図2(a)に示す副走査方向のインク室ユニット253に共通して設けられているため、共通流路255にインクを供給するインク供給口259は、共通流路255に1ヶ所設けられていればよい。 … 【0073】 <撥水膜の形成方法> 次に液滴吐出ヘッドに設けられる撥水膜の形成方法について説明する。 【0074】 図4は、本発明に係る液滴吐出ヘッドの撥水膜の形成方法を説明するための工程図である。撥水膜の形成は、(1)ノズルプレート表面およびノズル内部に下地膜を形成する下地膜形成工程と、(2)ノズルプレート表面の下地膜に高エネルギー線を照射する照射工程と、(3)ノズルプレート表面に撥水膜形成する表面撥水膜形成工程と、で構成される。以下、各工程について詳しく説明する。 【0075】 (1)下地膜形成工程 図4(a)、(b)に示すように、ノズル12を有するノズル形成基板(ノズルプレート)10に下地膜14を形成する。下地膜14は、撥水膜の下地膜およびノズル内部、流路などの内部保護膜となる。ノズル形成基板10には、圧力室、振動板、駆動用の圧電素子、フレキシブルケーブルなどの配線などがすでに形成された状態のものを使用することが好ましい。すなわち、撥水膜の形成は、液滴吐出ヘッドの製造の最終段階で行うことが好ましい。ノズルプレート表面の撥水膜を形成した後に、液滴吐出ヘッドの加工を行なうと、撥水膜に加工時の異物が撥水膜上に付着する、あるいは、形成時に熱を加えることにより、撥水膜の性能に変化を及ぼす可能性があるので、最終段階で行なうことが好ましい。 【0076】 ノズルはエッチング加工により形成することができる。また、ノズルのサイズは直径10~30μmとすることができる。ノズルの形状は図4(a)に示すように逆テーパー形状とすることが好ましい。逆テーパー形状とすることで、液滴吐出時のノズル内メニスカス位置を安定させることができる。逆テーパー形状の加工は、シリコン(Si)基板の面方位による異方性エッチングを利用して、Si基板とKrFエッチング溶液との組み合わせで形状制御することができる。また、ノズル12のテーパー角度αは、60度以下とすることが好ましい。テーパー角度αを60度以下とすることにより、次工程の照射工程において、高エネルギー線がノズル壁面に照射されることを防止することができる。 【0077】 下地膜14としては、SiO2膜またはSiOC膜などのシリカ膜とすることが好ましい。これらのシリカ膜を用いることにより、ノズル形成基板10の材料にシリカを用いた場合、ノズル形成基板10と下地膜14の密着性を高めることができる。また、撥水膜とシランカップリング結合するためのシラノール基を多く発現しやすいため、撥水膜との密着性を高めることもできる。さらに。シリカ膜は、安価で扱いやすい材料である。 【0078】 下地膜14の形成は、MVD(分子気相成膜)装置またはCVD(化学蒸着)装置にて形成することができる。上述したように、下地膜14は、ノズルプレート表面の撥水膜の下地膜としてだけでなく、ノズル内部、流路内部の内部保護膜となるため、ノズル内部、流路内部での被覆性が重要となる。したがって、成膜方法としては、反応ガスを流した後に弱いプラズマで成膜を推進するMVD成膜法で行なうことがより好ましい。また、流路内部をMVD法でSiO2の下地膜14を形成した後、CVD法でノズル内部付近およびノズルプレート表面にSiOCの下地膜14を形成することも可能である。 【0079】 MVD法、および、CVD法の成膜条件としては、例えば、以下の成膜条件を挙げることができる。 【0080】 (i)MVD法SiO2膜の成膜条件 原料ガス:SiCl4圧力0.1-10Torr H2O(水蒸気) 圧力0.05-5Torr 成膜温度:室温 膜厚:50nm (ii)CVD法SiOC膜の成膜条件 原料ガス:モノメチルシラン(CH3SiH3) 圧力1-10Torr 成膜温度:150℃ 膜厚:100nm (2)照射工程 次に図4(c)に示すように高エネルギー線の照射を行なう。また、図5は、照射工程のノズル近傍の照射状態を説明する図である。図5(a)はコヒーレント光源(UVレーザー光源)30を使用した場合の図であり。図5(b)はレンズ34で矯正されたUV平行光32を使用した図である。また、図6は、従来のUV拡散光36を使用した場合のノズル近傍の照射状態を説明する図である。 … 【0087】 図4(d)は紫外線照射工程後のノズルプレートの断面を示す概略図である。図4(d)に示すように、照射工程後の下地膜14は、紫外線を照射したノズルプレート表面の表面活性を高い状態とすることができ、高活性層16を形成することができる。特に、下地膜14がSiO2系、またはSiOC系のシリカ膜をベースとして形成されることにより、照射工程により高エネルギー線を照射することで、シラノール基を多く発現させた高活性層16とすることができ、撥水膜と高密度に接着させることができる。 【0088】 また、ノズル孔内部には、高エネルギー線が当たらないので、下地膜14が活性化されない。そのため、撥水膜が形成されたとしても、プラズマにより除去することが容易であり、また、撥水膜除去後の下地膜14においても、表面活性が低く抑えられているため、インク成分との反応が抑制され、内部保護膜として機能させることができる。 【0089】 (3)表面撥水膜形成工程 次にノズルプレート表面に撥水膜の形成を行う。表面撥水膜形成工程は、(3-1)ノズルプレート表面およびノズル内部に撥水膜を形成する全面撥水膜形成工程と、(3-2)ノズルプレート表面の撥水膜表面に保護フィルムを貼り付ける保護フィルム貼付工程と、(3-3)プラズマ処理によりノズル内部の撥水膜を除去するプラズマ照射工程と、(3-4)保護フィルムを剥離する保護フィルム剥離工程と、で構成される。 【0090】 撥水膜形成工程は、下地膜14への照射工程後、約1時間以内に開始することが好ましい。高エネルギー線照射により活性化し高活性層16に吸着水や大気中のコンタミが付着することで、活性度が低下してしまうからである。 【0091】 (3-1)撥水膜形成工程 図7(e)に示すように、撥水膜18の形成を行う。撥水膜18の形成方法としては、孔加工されたノズルプレートのノズル面側にフッ素系シランカップリング剤を用いて、撥水膜の形成を行う。 【0092】 撥水膜18として、例えば、蒸着法などの物理的気相成長法で成膜することができる。蒸着法とは、成膜基板を真空チャンバ内にセットし、真空チャンバ内で成膜したい材料を、気化する条件(すなわち蒸気圧が十分となる条件)で気化し、成膜する方法である。シランカップリング剤の場合は、シランカップリング剤を加熱して気化する事により成膜する方法が一般的である。また、浸漬処理やスピンコート法による液相法においても形成することができる。 … 【0099】 しかし、ノズル内部にもSi、もしくは、自然酸化膜SiO2が露出しているため、撥水膜はノズル内部においてもシランカップリング結合し、撥水膜18が形成される。そのため、ノズルプレート表面の撥水膜のみ残して、ノズル内部の撥水膜を除去する必要がある。 【0100】 なお、下地膜にSiO2膜またはSiOC膜を使用した場合、シランカップリング材を用いて撥水膜を成膜するため、同じチャンバを用いて下地膜の形成と撥水膜の形成を行うことができる。 … 【0101】 (3-2)保護フィルム貼付工程 次に、図7(f)に示すように、撥水膜18を残したい箇所に保護フィルム20を貼り付ける。保護フィルム20としては、例えば、厚み80μmのポリエステルフィルムを基材ベースとし、粘着材にオレフィン系エラストマーを用いた弱粘着性フィルムを用いることができる。 … 【0107】 (3-3)プラズマ照射工程 次に、図7(g)に示すように、ノズル12内部をプラズマ処理することにより、プラズマ暴露し、ノズル12内部の撥水膜18の除去を行なう。 【0108】 プラズマ処理の方法としては、例えば、真空チャンバ中にノズル形成基板10を配置した後、真空引き後、酸素置換を行い、酸素プラズマを発生させる。酸素プラズマの発生条件としては、例えば、出力30W、流量30sccmとし、15分間プラズマを発生させることで行うことができる。プラズマ照射は、図8に示すように、液体流路の導入側であるインク供給口259と排出側(図示せず)を通って、圧力室を経由してノズル内部に到達することで、撥水膜の除去をすることができる。 【0109】 なお、圧電素子258に直接プラズマを暴露することは、圧電素子258の劣化を引き起こすため、圧電素子258上にシリコンプレートで蓋をして圧電素子258に直接プラズマが暴露されないようにする。 【0110】 また、プラズマ処理工程は、上記のような真空減圧プラズマに限定されず、ガスフローによる大気圧プラズマを用いることもできる。この場合、ガスフローに乾燥空気または窒素(N2)を用い、プラズマの発生条件として、電圧15kV、周波数100Hz、出力150Wとして、ガス流量は20~40L/minとすることで、製造された液滴吐出ヘッドが、真空減圧プラズマにより形成した液滴吐出ヘッドと同様の吐出特性を得ることができており、ノズル内部の撥水膜が除去されていることが確認できる。 【0111】 (3-4)保護フィルム剥離工程 最後に図7(h)に示すように、保護フィルム20をノズルプレート表面から剥離し、取り去ることで、液滴吐出ヘッドを製造する。」 エ 「【図7】(h) [図:0001397820000001.jpg] 」 上記ア乃至エの記載事項及び図面から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められ。 「インク滴の吐出孔であるノズルが形成されたノズル形成基板と、 前記ノズル形成基板のインク吐出側の面に形成されSiOCの下地膜と、 前記SiOCの下地膜のインク吐出側の面に形成された撥水膜と、を有するノズルプレートを備えたインクジェットヘッドであって、 前記ノズルプレートには、前記ノズル形成基板の前記ノズルの流路内部に形成され、ノズル内部、流路内部の内部保護膜となるSiO2の下地膜をさらに備え、 前記ノズルプレートのインク吐出側の面には、前記SiO2の下地膜と、前記SiO2の下地膜上に前記SiOCの下地膜と、前記SiOCの下地膜上に前記撥水膜とを備えるインクジェットヘッド。」 (3)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア 後者の「インク滴」、「ノズル」、「ノズル形成基板」、「SiOCの下地膜」、「SiOCの下地膜のインク吐出側の面に形成された撥水膜」、「ノズルプレートを備えたインクジェットヘッド」及び「ノズル形成基板のノズルの流路内に形成され、ノズル内部、流路内部の内部保護膜となるSiO2の下地膜」は、それぞれ、前者の「インク」、「ノズル」、「基材部」、「炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜」、「、「撥液層下地膜の射出面側に形成された撥液層」、「ノズル基板を備えたインクジェットヘッド」及び「基材部のノズルの流路内に形成された流路保護膜」に相当する。 イ 後者の「インクジェットヘッド」は、ノズルプレートのインク吐出側の面に、「SiO2の下地膜」と、「SiO2の下地膜」上に「SiOCの下地膜」と、「SiOCの下地膜」上に「撥水膜」とを備えるものであるから、前者の「インクジェットヘッド」と後者の「インクジェットヘッド」とは、「ノズル基板の射出面側には、流路保護膜と、前記流路保護膜上に撥液層下地膜と、前記撥液層下地膜上に撥液層とを備える」ものとの概念で共通する。 そうすると、本願補正発明と引用発明とは、 【一致点】 「インクを射出するノズルが形成された基材部と、 前記基材部の射出面側に形成され炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜と、 前記撥液層下地膜の射出面側に形成された撥液層と、を有するノズル基板を備えたインクジェットヘッドであって、 前記ノズル基板には、前記基材部の前記ノズルの流路内に形成された流路保護膜をさらに備え、 前記ノズル基板の射出面側には、前記流路保護膜と、前記流路保護膜上に前記撥液層下地膜と、前記撥液層下地膜上に前記撥液層とを備えるインクジェットヘッド。」 で一致し、以下の点で相違する。 【相違点】 本願補正発明が、「基材部の射出面側」にも流路保護膜が形成されているのに対し、引用発明は、ノズルの流路内部にのみSiO2の下地膜が形成されている点。 (4)判断 ここで、引用例についてみると、上記(3)ウ【0080】のとおり、引用発明のSiO2の下地膜はMVD法で成膜されるところ、ノズルの流路内部にのみ成膜するとなると、ノズルプレート表面はSiO2が成膜されないようにマスク等で遮蔽する必要がある。 他方、上記(3)ウ【0077】のとおり、SiO2は撥水膜の下地膜14としても好適であることが記載されている。 そうすると、ノズルの流路内部にのみSiO2の下地膜をMVD法で成膜するに際しての手間と、撥水膜の下地膜14としてSiO2は好適であることを勘案すると、引用発明において、SiO2の下地膜をノズル形成基板のインク吐出側の面にも形成し、以て、上記相違点の構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。 そして、本願補正発明の効果も、引用発明から、当業者が予測し得る程度のものといえる。 (5)請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、“段落[0078]の流路内部をSiO2の下地膜14を形成した後、ノズル内部付近およびノズルプレート表面にSiOCの下地膜14を形成する構成でも、ノズル形成基板10のノズルプレート表面に、SiOCの下地膜14(高活性層16)と、撥水膜18と、の2層を有する構成になると思料します。”旨、主張する。 しかし、上記(4)判断のとおり、引用文献の記載を以てすれば、2層を3層とすることは、当業者が容易になし得る程度のことであるから、上記請求人の主張は採用できない。 したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記第2のとおり却下された。 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和3年12月21日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 インクを射出するノズルが形成された基材部と、 前記基材部の射出面側に形成され炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜と、 前記撥液層下地膜の射出面側に形成された撥液層と、を有するノズル基板を備え、 前記ノズル基板は、流路保護膜を前記ノズルの流路内及び射出面側に備え、射出面側の前記流路保護膜上に前記撥液層下地膜を備えるインクジェットヘッド。」 2 原査定の拒絶の理由 原査定の理由とされた、令和3年10月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、以下のものを含むものである。 (新規性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された特開2013-188874号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された特開2013-188874号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3 引用例 令和3年10月19日付けの拒絶理由通知書で引用された引用例、及び、その記載内容は上記「第2 3(2)」に記載したとおりである。 4 対比・判断 上記「第2 2(2)」のとおり、本願発明と、本願補正発明とは、実質的に何ら相違するところがないものである。 そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 3(3)対比」での検討を勘案すると、両者は、 【一致点】 「インクを射出するノズルが形成された基材部と、 前記基材部の射出面側に形成され炭化酸化シリコン膜を有する撥液層下地膜と、 前記撥液層下地膜の射出面側に形成された撥液層と、を有するノズル基板を備え、 前記ノズル基板は、流路保護膜を前記ノズルの流路内に備え、射出面側の前記流路保護膜上に前記撥液層下地膜を備えるインクジェットヘッド。」 で一致し、以下の点で相違する。 【相違点】 本願発明が、「流路保護膜」を「ノズルの射出面側」に備えるのに対し、引用発明は、ノズルの流路内部にのみSiO2の下地膜が形成されている点。 そうすると、上記「第2 2(3)」における検討内容を踏まえれば、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-005373

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