特許異議申立
2021-700807
熱可塑性樹脂組成物およびその成形体
- 審判番号
- 2021-700807
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-509452
- 登録番号
- 6835069
- 請求日
- 2021年08月17日
- 審決日
- 2022年06月01日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】住友化学株式会社
- 【権利者代理人】中山 亨
- 【権利者代理人】坂元 徹
- 【異議申立人】岡林 茂
- 【異議申立人代理人】黒田 博道
- 審判長/審判官
- 審判長 杉江 渉
- 審判官 近野 光知
- 審判官 土橋 敬介
- 分類
- P1652.536-ZC (C08L) / P1652.121-ZC (C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6835069号発明「熱可塑性樹脂組成物およびその成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6835069号の請求項1に係る特許を取り消す。
同請求項2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6835069号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月30日(優先権主張 平成28年3月31日、平成29年1月20日)を国際出願日とする出願であって、令和3年2月8日にその特許権の設定登録がされ、同年2月24日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和3年8月17日に、請求項1及び2に係る特許に対し、特許異議申立人岡林茂により特許異議の申立てがなされ、同年12月28日付けで取消理由が通知され、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは指定期間内に応答はなかった。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、請求項の番号順に、「本件発明1」等という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
重量平均分子量が109,000以上500,000以下であり、分子量分布が1.0以上3.5以下である非晶性熱可塑性樹脂(A)と、重量平均分子量が500以上50,000未満である非晶性熱可塑性樹脂(B)とを含有し、
上記非晶性熱可塑性樹脂(A)は、非晶性プロピレン樹脂、非晶性エチレン樹脂、およびスチレン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
上記非晶性熱可塑性樹脂(B)は、石油樹脂およびテルペン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
上記非晶性熱可塑性樹脂(A)と上記非晶性熱可塑性樹脂(B)の合計量を100質量%として、上記非晶性熱可塑性樹脂(A)の含有量が25質量%以上85質量%以下であり、上記非晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量が15質量%以上75質量%以下であり、
下記要件(1)および要件(2)を満足する熱可塑性樹脂組成物:
要件(1)上記熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が0℃以上200℃以下である;および
要件(2)上記熱可塑性樹脂組成物からなる厚さ1mmのシートのヘイズが8.0%未満である。
【請求項2】
熱可塑性樹脂組成物がさらに結晶性熱可塑性樹脂(C)を含有し、
熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の総量を100質量%として、上記結晶性熱可塑性樹脂(C)の含有量が0.01~9質量%であり、結晶性熱可塑性樹脂(C)が結晶性オレフィン樹脂である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。」
第3 申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、下記(1)のとおり、特許法113条2項に該当する理由を有するものであり、証拠方法として、下記(2)の甲第1号証~甲第6号証(以下、「甲1」等という。)を提出する。
(1)申立理由(進歩性)
請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1(甲6参照)に記載された発明、及び、甲2~甲5に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)証拠方法
甲1 国際公開第2014/170132号
甲2 特開平8-333560号公報
甲3 特表2009-511713号公報
甲4 PINOVA社より発行されるPiccolyte○R(当審注:○Rは丸付き文字を表す)A115の製品情報及び訳文、[令和3年7月20日検索]
<URL:https://www.pinovasolutions.com/index.php?/products/content/piccolyte-a115>
甲5 特開2007-23036号公報
甲6 特表2016-519710号公報
2 取消理由通知書に記載した取消理由
当審が令和3年12月28日付けの取消理由通知にて特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由(実施可能要件)
請求項1に係る特許は、その発明の詳細な説明が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
「本件発明1は、「重量平均分子量が109,000以上500,000以下であり、分子量分布が1.0以上3.5以下である非晶性熱可塑性樹脂(A)と、重量平均分子量が500以上50,000未満である非晶性熱可塑性樹脂(B)とを含有し」と記載されていることから、樹脂(A)及び樹脂(B)を含有すれば、その他の樹脂成分を含有してもよいと解釈し得るものであり、本件明細書にも、熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の剛性を高くするために、熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の総量を100質量%として、結晶性熱可塑性樹脂(C)(以下、「樹脂(C)」という。)を0.01~9質量%の含有量とするのが好ましいことが記載されている(【0038】~【0040】)。
一方、本件明細書の実施例1~5及び比較例1~15を見てみると、実施例1~3は、熱可塑性樹脂の総量に対する樹脂(C)の含有量が3~5質量%であり、実施例4及び5は、樹脂(C)を含有しないものであり、要件(1)及び要件(2)を満たすものである。また、比較例7~10はいずれも、本件発明1の樹脂(A)及び樹脂(B)の種類、並びに、樹脂(A)と樹脂(B)の含有割合の発明特定事項を満たすが、熱可塑性樹脂の総量に対する樹脂(C)の含有量が上記「0.01~9質量%」の上限を超えるものであり、要件(2)を満たさないものである。なお、比較例9のA-8は、本件発明1における樹脂(A)の重量平均分子量及び分子量分布を満たし、ΔH(融解エンタルピー)が0J/gの非晶性熱可塑性樹脂であるから(【0009】を参照)、本件発明1における樹脂(A)の具体例である。
このように、上記実施例及び比較例を考慮すると、本件発明1は、樹脂(A)及び樹脂(B)の種類と含有量を満たす場合に自ずと要件(1)及び(2)を満たすものではなく、実施例4及び5のように樹脂(C)を含有しないか、実施例1~3のように樹脂(C)を含有する組成物の場合に樹脂(C)の含有量の上限を9質量%に制限する場合に限り、要件(1)及び要件(2)を満たすものであって、本件明細書には、樹脂(C)の含有量を制限すること以外に、要件(1)及び(2)を満たす調製方法は記載されていないものと解される。また、本件発明1において、樹脂(C)の含有量が任意である場合に、要件(1)及び(2)を満たすための調製方法が、本件出願時の技術常識であると解することもできない。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載では、本件発明1において、要件(1)及び(2)を満たすために当業者に過度の試行錯誤をする必要があることとなるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」
第4 当審の判断
1 本件発明1について
第1で述べたとおり、本件発明1について、令和3年12月28日付けで取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。
そして、上記取消理由は妥当なものと認められるので、本件発明1に係る特許は、上記取消理由によって取り消すべきものである。
2 取消理由通知において採用しなかった申立理由
上記1で述べたとおり、本件発明1に係る特許は取り消されるべきものであるが、本件発明2は、請求項1を直接引用するものであるため、便宜上、本件発明1に対する申立理由についても判断する。
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
甲1には、以下の記載がある。なお、甲6は、甲1の国際公開公報に係る国際出願について提出された翻訳文を国内公表したものであるから、甲1の記載事項は、甲6の記載及び記載箇所により示す。
「【請求項1】
次のものを少なくとも含む感圧接着剤:
(a)少なくとも1種のエラストマー、ここで、該エラストマーは接着剤組成物に基づいて少なくとも40質量%の割合を有し、使用されるエラストマーは、ポリブタジエンブロック共重合体の少なくとも1種を含み、
(b)少なくとも90℃の軟化温度を有する少なくとも1種の部分水素化炭化水素樹脂(樹脂種1)、
(c)任意に、少なくとも90℃の軟化温度を有する、少なくとも1種の追加の炭化水素樹脂、テルペン-フェノール樹脂及び/又はロジン(樹脂種2)、
(d)任意に可塑性樹脂、
(e)任意に追加の添加剤。」
「【0015】
したがって、目的は、高い保持及び接着性能、高い透明性、最小限の着色、光、熱及びオゾンに対する十分な安定性並びに十分な引裂き強度を示す感圧接着剤、また、当該感圧接着剤を含む自己接着製品を提供することである。対応する自己接着製品は、好ましくは、単層(キャリアなし)設計のものである。」
「【0026】
使用されるエラストマーは、少なくとも90質量%(総エラストマー量に基づいて)の範囲にまで、ポリブタジエンブロック共重合体又は異なるポリブタジエンブロック共重合体の混合物を含む。このポリブタジエンブロック共重合体又はこれらのポリブタジエンブロック共重合体は、主としてビニル芳香族化合物(Aブロック)、好ましくはスチレンによって形成される重合体ブロックと、主として1,3-ブタジエンの重合により形成される重合体ブロック(Bブロック)とを含む共重合体である。ポリブタジエンブロック共重合体は、ポリブタジエンブロックでは水素化されていない。
【0027】
本発明の好ましい一実施形態によれば、少なくとも1種のポリブタジエンブロック共重合体は、少なくとも2個のAブロックを有するトリブロック共重合体又はそれよりも高級のマルチブロック共重合体である。トリブロック共重合体としては、直鎖A-B-A構造を有することができる。同様に、使用するのが可能なものは、ラジアル構造のブロック共重合体であり、また、星型及び直鎖マルチブロック共重合体である。上記重合体の全ては、単独で又は互いの混合物で使用できる。さらに、存在する成分は、A-Bジブロック共重合体であることができる。ブロック共重合体の重量平均分子量は、通常50000g/モル~500000グラム/モルの間であり、好ましくは75000g/モル~200000g/モルの間である。
…
【0029】
本発明において、Aブロックを「ハードブロック」ともいう。それに対応し、Bブロックを「ソフトブロック」又は「エラストマーブロック」ともいう。これは、それらのガラス転移温度に従ってブロックを選択することを反映するものである(Aブロックについては少なくとも40℃、特に少なくとも60℃で、Bブロックについては-50℃まで、特に-80℃以下)。これらの数値は、純粋な非ブレンドブロック共重合体に関連するものである。」
「【0037】
粘着付与樹脂種1は、少なくとも90℃で、かつ、好ましくは125℃以下の軟化点を有する非水素化、好ましくは部分水素化炭化水素樹脂(Ring&Ball)を含む。非常に好ましくは、軟化温度は、少なくとも95℃でかつ115℃以下である。」
「【0046】
粘着付与樹脂種2の樹脂は、少なくとも90℃でかつ好ましくは115℃以下の軟化温度を有する。」
「【0091】
試験F-ヘイズ(大角度散乱)、透過:
単に透過と短く呼ばれる場合もあり、一般的に%で表される透明度又は透過度は、前面での光量入射に対する、光が照射される本体の裏面に到達する光量の比率である。透過は、反射及び場合によっては吸収に限定される。
【0092】
したがって、式は次のとおりである:透過率=(1-反射吸収率)。透過及びヘイズは、Byk-Gardner社製のヘイズガードプラスによりASTM D1003に従って決定される。これについての手順は、ASTM D1003のものであった。
【0093】
大角度散乱及び透過の測定のために、接着剤ストリップを、まずイソプロパノールで予備洗浄した顕微鏡ガラススライドに気泡なしで付着させる(VWR、ECN631-1552、#201107)。その後、厚さ50μmのPETフィルム(メリネックス(登録商標)401、デュポン帝人フィルム)を、気泡が存在しないこと及びほこりが存在しないことに厳密に注意を払って手動ローラーを使用して積層する。得られた積層体を3日間にわたって60℃で保存し、その後測定を行う。」
「【0103】
試験片の製造
混練配合物の全てを、Aachener Maschinenbau社製のKupper型式III-P1加熱可能ダブルシグマニーダーで製造した。ニーダーのジャケットを、Lauda社製の熱油加熱浴により加熱した。ここでは190℃の浴温を設定した。混練操作全体を通じて、CO2の不活性ガス雰囲気が存在した。ニーダーを50rpmで操作した。
【0104】
まず、エラストマーを、固体老化防止剤イルガノックス3052及びイルガフォス168(特定の配合物に存在する場合)と共に秤量し、そしてニーダーに投入した。その後、固体樹脂の量の約10%を添加し、混練を15分間行った。その後、10分の間隔で、粘着付与樹脂1、粘着付与樹脂2(特定の配合物中に存在する場合)、可塑性樹脂及び液体老化抑制剤及び/又は光安定剤(それぞれ、Weston 399及びTinuvin製品)の残部量をそれぞれ3分の1添加し、配合した。
【0105】
混練操作が終了した後に、混練配合物をニーダーから取り出し、そして室温にまで冷却した。
【0106】
冷却された組成物をシリコーン処理剥離紙の2つの層間に配置し、650μmの層の厚さを有する試験片と共に、Lauffer GmbH&CO KG社製の型式RLKV25のホットプレスを使用して130℃で手作業でプレスした。」
「【0111】
[図:0001389382000001.jpg]
」
「【0117】
[図:0001389382000002.jpg]
」
甲1の例5(表7)には、甲1の請求項1に係る感圧接着剤に含まれる以下の接着剤組成物が記載されている。
「次のものからなる接着剤組成物:
(a)エラストマーである「Kraton D1102 CS」(ポリスチレン-ポリブタジエンブロック共重合体) 38.00質量%、
(b)粘着付与樹脂1である「Regalite R7100」(部分水素化炭化水素樹脂) 32.00質量%、
(c)粘着付与樹脂2である「Piccolyte A115」(非水素化炭化水素樹脂) 15.00質量%、
(d)可塑性樹脂である「Wingtack 10」(脂肪族炭化水素樹脂) 3.50質量%、
(e)追加成分である「Kraton D1118 CS」(ポリスチレン-ポリブタジエンブロック共重合体)10.00質量%、「Tinuvin 571」(UV安定剤)0.50質量%、「Tinuvin 765」(酸化防止剤)0.50質量%、及び、「Irganox 3052」(酸化防止剤)0.50質量%」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「エラストマー」である「「Kraton D1102 CS」(ポリスチレン-ポリブタジエンブロック共重合体)」は、本件発明1の「非晶性熱可塑性樹脂(A)」である「スチレン系エラストマー」に相当する。
甲1発明の「粘着付与樹脂2」である「「Piccolyte A115」(非水素化炭化水素樹脂)」は、甲4によると、ポリテルペン樹脂である熱可塑性樹脂であるから、本件発明1の「非晶性熱可塑性樹脂(B)」である「テルペン樹脂」に相当する。
そして、甲1発明の「エラストマー」と「粘着付与樹脂2」の合計量を100質量%として、上記「エラストマー」及び「粘着付与樹脂2」の含有量は、それぞれ72質量%(=38/(38+15))及び28質量%(=15/(38+15))であるから、本件発明1の「非晶性熱可塑性樹脂(A)の含有量が25質量%以上85質量%以下であり」及び「非晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量が15質量%以上75質量%以下であり」を満たすといえる。
そして、甲1発明の「接着剤組成物」は、本件発明1の「非晶性熱可塑性樹脂」に相当する「エラストマー」及び「粘着付与樹脂2」を含有するから、本件発明1の「熱可塑性樹脂組成物」に相当するといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「非晶性熱可塑性樹脂(A)と、非晶性熱可塑性樹脂(B)とを含有し、
上記非晶性熱可塑性樹脂(A)は、非晶性プロピレン樹脂、非晶性エチレン樹脂、およびスチレン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
上記非晶性熱可塑性樹脂(B)は、石油樹脂およびテルペン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
上記非晶性熱可塑性樹脂(A)と上記非晶性熱可塑性樹脂(B)の合計量を100質量%として、上記非晶性熱可塑性樹脂(A)の含有量が25質量%以上85質量%以下であり、上記非晶性熱可塑性樹脂(B)の含有量が15質量%以上75質量%以下である、熱可塑性樹脂組成物」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:「非晶性熱可塑性樹脂(A)」が、本件発明1は、「重量平均分子量が109,000以上500,000以下であり、分子量分布が1.0以上3.5以下である」のに対して、甲1発明は、「エラストマーである「Kraton D1102 CS」(ポリスチレン-ポリブタジエンブロック共重合体)」の重量平均分子量及び分子量分布が不明である点
相違点2:「非晶性熱可塑性樹脂(B)」が、本件発明1は、「重量平均分子量が500以上50,000未満である」のに対して、甲1発明は、「粘着付与樹脂2である「Piccolyte A115」(非水素化炭化水素樹脂)」の重量平均分子量が不明である点
相違点3:本件発明1は、「要件(1)上記熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が0℃以上200℃以下である;および要件(2)上記熱可塑性樹脂組成物からなる厚さ1mmのシートのヘイズが8.0%未満である」を満たすものであるのに対して、甲1発明は、要件(1)及び(2)を満たすか不明である点
イ 検討
事案に鑑みて、相違点3から検討する。
(ア)要件1について
a 甲1には、「(b)少なくとも90℃の軟化温度を有する少なくとも1種の部分水素化炭化水素樹脂(樹脂種1)、(c)任意に、少なくとも90℃の軟化温度を有する、少なくとも1種の追加の炭化水素樹脂、テルペン-フェノール樹脂及び/又はロジン(樹脂種2)」(請求項1)と記載されており、甲1発明の「粘着付与樹脂1である「Regalite R7100」(部分水素化炭化水素樹脂)」及び「粘着付与樹脂2である「Piccolyte A115」(非水素化炭化水素樹脂)」の軟化温度が少なくとも90℃であることが示唆されている。また、甲1には、「粘着付与樹脂種1は…非常に好ましくは、軟化温度は、少なくとも95℃でかつ115℃以下である」(【0037】)及び「粘着付与樹脂種2の樹脂は、少なくとも90℃でかつ好ましくは115℃以下の軟化温度を有する」(【0046】)と記載されている。
しかしながら、軟化温度はガラス転移温度よりも高い値となることが本件出願時の技術常識であるとしても、甲1には、甲1発明の「粘着付与樹脂1」及び「粘着付与樹脂2」の軟化温度が記載されておらず、これらのガラス転移温度は不明であるといわざるを得ない。
b また、甲1には、甲1発明の「エラストマー」に関連して、「このポリブタジエンブロック共重合体又はこれらのポリブタジエンブロック共重合体は、主としてビニル芳香族化合物(Aブロック)、好ましくはスチレンによって形成される重合体ブロックと、主として1,3-ブタジエンの重合により形成される重合体ブロック(Bブロック)とを含む共重合体である。」【0026】、及び、「それらのガラス転移温度に従ってブロックを選択することを反映するものである(Aブロックについては少なくとも40℃、特に少なくとも60℃で、Bブロックについては-50℃まで、特に-80℃以下)」【0029】と記載され、上記「ビニル芳香族化合物(Aブロック)、好ましくはスチレンによって形成される重合体ブロック」のガラス転移温度は少なくとも40℃であり、上記「主として1,3-ブタジエンの重合により形成される重合体ブロック(Bブロック)」のガラス転移温度は-50℃以下であることが示されている。
しかしながら、甲1には、甲1発明に係る「接着剤組成物」のガラス転移温度は記載されておらず、甲1発明の「エラストマー」に関連した上記記載を見ても、甲1発明の「エラスマトマー」のガラス転移温度は不明であるといわざるを得ない。
c そうすると、ガラス転移温度が不明である上記「エラストマー」、「粘着付与樹脂1」及び「粘着付与樹脂2」を含む甲1発明に係る「接着剤組成物」も、そのガラス転移温度が不明であるといわざるを得ない。また、甲1の記載から、本件優先日時点の技術常識を参酌しても、甲1発明の「ガラス転移温度が0℃以上200℃以下である」ことが動機づけられるともいえない。さらに、甲2~5にも、甲1発明の「ガラス転移温度が0℃以上200℃以下である」ことを動機づける記載はない。
したがって、甲1発明において、「ガラス転移温度が0℃以上200℃以下である」とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(イ)要件2について
甲1には、【0091】~【0093】に記載の手順で測定されるヘイズ(%)が5.78であることが記載されているが(表13)、甲1の上記段落に記載の手順が、本件明細書の【0066】に記載の測定手順と同じであるか、又は、より厳しい測定条件であることを、甲1の記載から確認することはできない。また、特許異議申立書には、甲1の上記段落に記載の「ヘイズ」の測定手順と本願明細書の段落【0066】の手順との関係について何ら説明されておらず、甲1発明において、「厚さ1mmのシートのヘイズ」を本件明細書の上記手順に従って測定する場合に、「8.0%未満」となることが裏付けられるとはいえない。また、甲1の記載から、甲1発明において、本件明細書の手順に従った場合の「厚さ1mmのシートのヘイズが8.0%未満」とすることが動機づけられるともいえない。さらに、甲2~5にも、甲1発明の「厚さ1mmのシートのヘイズが8.0%未満である」ことを動機づける記載はない。
したがって、甲1発明において、「厚さ1mmのシートのヘイズが8.0%未満である」とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)小括
上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、甲1発明において、要件(1)及び(2)を満足することは当業者が容易に想到し得たことでなく、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、並びに、甲2~5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を直接的に引用するものであり、上記(1)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明、及び、甲2~5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は、甲1(甲6参照)に記載された発明、及び、甲2~5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないから、申立理由によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
第4で述べたとおり、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許の請求項2に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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