特許異議申立
2021-700770
医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物及びこれらを用いた医薬品原薬又は医薬品
- 審判番号
- 2021-700770
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-561652外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6830165
- 請求日
- 2021年08月05日
- 審決日
- 2022年12月28日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三洋化成工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】小池 良
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6830165号発明「医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物及びこれらを用いた医薬品原薬又は医薬品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6830165号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第6830165号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6830165号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成30年12月21日(優先権主張 平成29年12月27日)を国際出願日として出願され、令和3年1月27日にその特許権の設定登録がされ、同年2月17日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年8月5日に特許異議申立人 小池 良(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年12月23日付け 取消理由通知
令和4年 3月 4日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 同月22日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 4月26日 意見書の提出(申立人)
同年 6月16日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 同月21日付け 審尋(特許権者)
同年 8月19日 訂正請求書、意見書及び回答書の提出(特許権者)
同年 9月15日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、令和4年3月4日になされた訂正請求は、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、令和4年9月15日付けの訂正請求があった旨の通知に対し、申立人による意見の提出はなかった。
第2 訂正の適否
1 請求の趣旨及び訂正の内容
令和4年8月19日提出の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は、「特許第6830165号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~12からなるものである。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「一般式(1)で表されるポリエーテル組成物(A)を含有する」との記載を、「一般式(1)で表されるポリエーテル組成物(A)を含有し、メマンチン塩酸塩に用いられる」に訂正する(下線は、訂正箇所を示す。以下、同じ。)。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
訂正前の請求項1の「医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物であって、」との記載を、「医薬品原薬用原料であって、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
訂正前の請求項1の「前記(A)が一般式(1)におけるmが1である化合物を前記(A)の重量を基準として90重量%以上含有する」との記載を、「前記(A)が一般式(1)におけるmが1である化合物を前記(A)の重量を基準として95重量%以上含有する」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
訂正前の請求項1の「重量%以上含有する医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物。」との記載を、「重量%以上含有する医薬品原薬用原料。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
訂正前の請求項1の「a、b、c及びdはそれぞれ独立に50~1200の整数であり、」との記載を、「a、b、c及びdはそれぞれ独立に52~1176の整数であり、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
訂正前の請求項1の「X1~X4はそれぞれ独立に水素原子、一般式(2)で表される置換基又は一般式(3)で表される置換基であり」との記載を、「X1~X4はそれぞれ独立に一般式(2)で表される置換基又は一般式(3)で表される置換基であり」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
訂正前の請求項1の「R6は炭素数1~10のアルキレン基を表し」との記載を、「R6はメチレン基を表し」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(8)訂正事項8
訂正前の請求項2の「請求項1記載の医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物。」との記載を、「請求項1記載の医薬品原薬用原料。」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3及び4も同様に訂正する。)
(9)訂正事項9
訂正前の請求項3の「医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物の重量を基準として」との記載を、「医薬品原薬用原料の重量を基準として」に訂正する。
(10)訂正事項10
訂正前の請求項3の「請求項1又は2記載の医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物。」との記載を、「請求項1又は2記載の医薬品原薬用原料。」に訂正する。
(11)訂正事項11
訂正前の請求項4の「請求項1又は2記載の医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物」との記載を、「請求項1又は2記載の医薬品原薬用原料」に訂正する。
(12)訂正事項12
訂正前の請求項4の「医薬品原薬又は医薬品。」との記載を、「医薬品原薬。」に訂正する。
なお、訂正前の請求項2~4は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項1~7によって訂正される訂正前の請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1~4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当するものであるので、本件訂正は一群の請求項について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「一般式(1)で表されるポリエーテル組成物(A)を含有する医薬品原薬用原料・・・」との記載を、「一般式(1)で表されるポリエーテル組成物(A)を含有し、メマンチン塩酸塩に用いられる医薬品原薬用原料・・・」とするものであり(下線は、訂正箇所を示す。)、医薬品原薬原料が用いられる対象をメマンチン塩酸塩に限定するものである。それゆえ、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、本件特許明細書には、
「【0040】
本発明の医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物は、製剤の性状、用途に応じて用いられる公知の有効成分、上記の有効成分と必要により用いられるその他の添加剤・・・及び水等を含有してもよい。
【0041】
上記の公知の有効成分としては日本薬局方収載の成分が挙げられ、具体的には、・・・メマンチン塩酸塩等が挙げられる。」(下線は、合議体による。)
との記載があり、実施例において、
「【0056】
<実施例34~44及び比較例13~16> [原薬への修飾]
実施例23~33及び比較例9~12で得られたポリエーテル組成物(A-23)~(A-33)及び(A’-9)~(A’-12)のそれぞれについて、ポリエーテル組成物5部、メマンチン塩酸塩[東京化成(株)製]3部及びトリエチルアミン2部をテトラヒドロフラン100部に溶解させ、40℃、5時間撹拌した。溶剤を留去した後、イソプロパノール100部を加え、5℃まで冷却し、析出物を濾取し、本発明の医薬品原薬用原料で修飾された医薬品原薬(B-1)~(B-11)及び比較用の医薬品原薬(B’-1)~(B’-4)各4部を得た。」(下線は、合議体による。)
との記載があり、医薬品原薬用原料で修飾されたメマンチン酸塩酸塩からなる医薬品原薬が実際に製造されたことが示されている。そうしてみれば、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新たな技術事項を導入するものではない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項1の「医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物」との記載において、選択肢の一つである「医薬品用添加物」を削除して、「医薬品原薬用原料」とするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1に係る「一般式(1)におけるmが1である化合物を前記(A)の重量を基準として90重量%以上含有する」ポリエーテル組成物(A)を含有する「医薬品原薬用原料」において、「mが1である化合物」の含有量を、本件特許明細書の「m=1の化合物を95重量%以上含有することが特に好ましく」との記載(【0028】)に基づいて、「90重量%以上」から「95重量%以上」に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正事項2と同様に、訂正前の請求項1の「医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物」との記載において、選択肢の一つである「医薬品用添加物」を削除して、「医薬品原薬用原料」とするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、本件特許明細書の表1及び表2の「一般式(1)におけるa~dの各値の平均値」の「52」(実施例3(表1)及び実施例36(表2))と「1176」(実施例6(表1)及び実施例39(表2))の数値に基づくものであるところ、表2には、「一般式(1)におけるa~dの各値の平均値」が「52」以上かつ「1176」以下であるポリエーテル組成物(A)を原薬用原料として使用した場合、修飾後の製剤安定性、修飾後の薬効の経時安定性及び生理食塩水への溶解性が優れていることが示されている。表2の数値は「a~dの各値の平均値」であり、「a、b、c及びd」の全ての値が52以上又は1176以下でない場合もあるが、「a、b、c及びd」が「それぞれ独立に52~1176の整数」であれば(「a、b、c及びd」の全ての値が52以上かつ1176以下であれば)、修飾後の製剤安定性、修飾後の薬効の経時安定性及び生理食塩水への溶解性が優れていることは本件特許明細書の表1及び表2の記載から明らかであるから、訂正事項5は新たな技術的事項を導入するものではない。それゆえ、訂正事項5は、願書に添付した本件特許明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項5は、「a、b、c及びd」について、「それぞれ独立に50~1200の整数」であったものを、「それぞれ独立に52~1176の整数」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項6
訂正事項6は、「X1~X4」について、「それぞれ独立に水素原子、一般式(2)で表される置換基又は一般式(3)で表される置換基」であったものを、「水素原子」の選択肢を削除し、「それぞれ独立に一般式(2)で表される置換基又は一般式(3)で表される置換基」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)訂正事項7
訂正事項7は、「R6」について、「炭素数1~10のアルキレン基」であったものを、炭素数1のアルキレン基である「メチレン基」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項7は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(8)訂正事項8~11
訂正事項8~11は、訂正事項2と同様に、訂正前の請求項2~4の「医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物」との記載において、選択肢の一つである「医薬品用添加物」を削除して、「医薬品原薬用原料」とするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項8~11は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(9)訂正事項12
訂正事項12は、訂正前の請求項4の「医薬品原薬又は医薬品」との記載において、選択肢の一つである「医薬品」を削除して、「医薬品原薬」とするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項12は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、本件訂正に関して、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正後の請求項1~4に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。また、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
一般式(1)で表されるポリエーテル組成物(A)を含有し、メマンチン塩酸塩に用いられる医薬品原薬用原料であって、
前記(A)の分子量分布が一峰性であり、
前記(A)の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比率(Mw/Mn)が1.20以下であり、
前記(A)が一般式(1)におけるmが1である化合物を前記(A)の重量を基準として95重量%以上含有する医薬品原薬用原料。
【化1】
[図:0001396250000001.jpg]
[式(1)中、OR1、R2O、R3O及びR4Oはそれぞれ独立に炭素数2~8のオキシアルキレン基であり、複数ある場合のOR1、R2O、R3O及びR4Oは同一でも異なっていてもよく、その結合形式はランダム形式でもブロック形式でもよく、a、b、c及びdはそれぞれ独立に52~1176の整数であり、X1~X4はそれぞれ独立に一般式(2)で表される置換基又は一般式(3)で表される置換基であり、mは1~10の整数である。]
【化2】
[図:0001396250000002.jpg]
【化3】
[図:0001396250000003.jpg]
[式(2)及び(3)中、R6はメチレン基を表し;式(2)中、R7は水素原子又は水素原子が炭素数1~10のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1~15の1価の炭化水素基であり;式(1)において式(2)又は(3)で表される置換基が複数個ある場合、それらの置換基におけるR6及びR7は同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記一般式(1)におけるOR1、R2O、R3O及びR4Oが、いずれもオキシエチレン基である請求項1記載の医薬品原薬用原料。
【請求項3】
前記ポリエーテル組成物(A)の含有量が、医薬品原薬用原料の重量を基準として0.1~99.5重量%である請求項1又は2記載の医薬品原薬用原料。
【請求項4】
請求項1又は2記載の医薬品原薬用原料を用いてなる医薬品原薬。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立人が、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~4に係る特許に対して申し立てていた特許異議の申立理由は、概略、以下の(1)~(4)のとおりであって、申立人は、特許異議申立書に添付して、証拠方法として、下記(5)の甲第1号証及び甲第2号証(以下、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。)を提出した。
(1)申立理由1(明確性要件違反)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、下記アの点で、明確でないから、特許法36条6項2号に規定される要件を満たしていない。それゆえ、請求項1~4に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件違反)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、下記アの点で、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法36条6項1号に規定される要件を満たしていない。それゆえ、請求項1~4に係る特許は同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 本件訂正前の請求項1においては、一般式(1)中、OR1、R2O、R3O及びR4Oの付加モル数a、b、c及びdは、それぞれ独立に、50~1200の整数としている。本件特許明細書には、a、b、c及びdが50未満の場合及び1200を超える場合、原薬等への修飾後の製剤安定性及び薬効の経時安定性が悪化すると記載され(【0017】)、実施例36(表2)においては、一般式(1)のa~dの平均値が52のポリエーテル組成物に修飾された原薬が、製剤安定性と経時安定性が良好になることが示されている。
しかしながら、この数値(「52」)は、a~dの平均値であるから、上記実施例におけるa~dの各数値は不明であって、50より下回ることもあり得る。そのため、本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、明確でない(申立理由1)。また、本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、本件特許明細書によって十分にサポートされていない(申立理由2)。
(3)申立理由3(新規性欠如)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、請求項1~4に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
(4)申立理由4(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)甲号証
甲1:特表2013-511539号公報
甲2:森 定雄著、サイズ排除クロマトグラフィー 高分子の高速液体クロマトグラフィー、2頁、43~45頁、51~55頁、共立出版株式会社、1991年12月10日発行
2 令和3年12月23日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~4に係る発明について、令和3年12月23日付け取消理由通知で通知した取消理由1~3は、それぞれ、上記1の特許異議の申立理由2~4を理由とするものであり、概略は、以下の(1)~(3)のとおりである。
なお、取消理由1及び2は、本件訂正により解消された。
(1)取消理由1(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(新規性欠如)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)取消理由3(進歩性欠如)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能 となった、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
<甲号証>(特許異議申立書に添付されたものと同じ)
甲1:特表2013-511539号公報
甲2:森 定雄著、サイズ排除クロマトグラフィー 高分子の高速液体クロマトグラフィー、2頁、43~45頁、51~55頁、共立出版株式会社、1991年12月10日発行
3 令和4年6月16日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要
令和4年3月4日提出の訂正請求書により訂正された請求項1~4に係る特許に対して、当審合議体が同年6月16日付け取消理由通知(決定の予告)「以下「取消理由通知(決定の予告)」という。」で通知した取消理由3(進歩性欠如)は、上記2の取消理由3(進歩性欠如)に基づくもの(上記1の特許異議の申立理由4を理由とするもの)である。
第5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由3についての判断
1 甲1に記載された事項及び甲1記載の発明
(1)甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は、合議体による。)。
甲1a 「【請求項1】
水溶性ポリマー-活性薬剤コンジュゲートの混合塩を含む組成物であって、前記コンジュゲートにおける前記活性薬剤が少なくとも1つの塩基性アミン基を有し、さらに前記活性薬剤中の各アミン基について、前記アミン基はプロトン化されているか、又はプロトン化されていないかのいずれかであり、任意の所与のプロトン化アミン基は無機酸又はトリフルオロ酢酸(TFA)の酸性塩形態である、組成物。
・・・
【請求項5】
前記水溶性ポリマーが直鎖状であるか、又はマルチアーム型である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記水溶性ポリマーがポリ(アルキレングリコール)又はそのコポリマー若しくはターポリマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記水溶性ポリマーがポリ(エチレングリコール)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記活性薬剤が、小分子薬物、ペプチド、及びタンパク質から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記活性薬剤がカンプトテシンである、請求項8に記載の組成物。
・・・
【請求項51】
予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーを好適な溶媒中でアルコキシル化してアルコキシル化ポリマー材料を形成するステップであって、前記予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーが、300ダルトン超の既知の定義された重量平均分子量を有するステップを含む方法。
・・・
【請求項54】
前記予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーが、(a)300ダルトン未満の分子量を有する前躯分子をアルコキシル化して、アルコキシル化可能なオリゴマーを含む反応混合物を形成することと、(b)前記反応混合物から前記アルコキシル化可能なオリゴマーを分離することとにより調製される、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記アルコキシル化がアルコキシル化剤としてエチレンオキシドを利用する、請求項51に記載の方法。
【請求項56】
前記前躯分子が、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール、ヘキサグリセロール、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエルシトール(dipentaerthitol)、及びトリペンタエリスリトールからなる群から選択される、請求項54に記載の方法。
・・・
【請求項62】
前記分枝状構造が4本のアームの分枝状構造である、請求項61に記載の方法。
・・・
【請求項66】
前記予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーが以下の構造:
[図:0001396250000004.jpg]
を有し、式中、前記構造中のnの平均値が2~50である、請求項51に記載の方法。
【請求項67】
前記アルコキシル化ポリマー材料が以下の構造:
[図:0001396250000005.jpg]
を有し、式中、前記構造中のあらゆる場合のnの平均値が10~1000である、請求項51に記載の方法。
・・・
【請求項73】
前記構造中のあらゆる場合のnの値の平均値が50~300である、請求項67、69及び71のいずれか一項に記載の方法。
・・・
【請求項96】
前記アルコキシル化ポリマー材料を、反応基を有するように修飾するステップであって、それにより水溶性ポリマー試薬を形成するステップをさらに含む、請求項50~92のいずれか一項に記載の方法。
【請求項97】
前記水溶性ポリマー試薬が以下の構造:
[図:0001396250000006.jpg]
を有し、式中、各nが約40~約500である、請求項96に記載の方法。」
甲1b 「【0107】
概要:混合塩コンジュゲート、アルコキシル化方法、及びアルコキシル化方法を用いてポリマー生成物から調製されるポリマー試薬から調製されるコンジュゲート(及びその混合塩形態)の組成物
混合塩:これまでに示したとおり、本発明の1つ又は複数の態様では、水溶性ポリマー及び活性薬剤コンジュゲートが提供され、ここでコンジュゲートは混合塩の形態である。かかるコンジュゲートは新規の固体状態の形態であり、少なくとも一部では、その形成において塩基で処理するにもかかわらずコンジュゲートが混合塩として沈殿するという発見に基づく。さらに、コンジュゲートが確実に且つ再現性のある形で混合塩として生成され得ることが発見された-ここでコンジュゲート中(及びコンジュゲートの活性薬剤成分中)の任意の所与の塩基性窒素原子は、様々な形態の一つで存在する。具体的には、本明細書に提供されるコンジュゲートは活性薬剤塩基性窒素原子、例えばアミノ基を有し、その各々はプロトン化されているか、又はプロトン化されていないかのいずれかであり、ここで任意の所与のプロトン化アミノ基は、2つの異なる陰イオンのうちの一方を有する酸性塩である。さらに、コンジュゲートの混合塩形態は、コンジュゲートの対応する遊離塩基又は単一の酸性塩形態と比較したときいくつかの予期せぬ有利な特性(すなわち、ポリマー骨格の分解に対するより高い安定性、より高い加水分解安定性等)を有することが発見された。
【0108】
アルコキシル化方法:同様にこれまでに示したとおり、本発明の1つ又は複数の態様では、方法が提供され、この方法は、予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーを好適な溶媒中でアルコキシル化して、アルコキシル化ポリマー生成物を形成するステップを含み、ここで予め分離されたアルコキシル化可能なオリゴマーは300ダルトン超(例えば500ダルトン超)の既知の定義された重量平均分子量を有する。数ある利点のなかでも特に、本明細書に提供されるアルコキシル化方法は、これまでに公知の方法により調製されるポリマー生成物と比べて優れた(例えば、一貫性及び純度の点で)ポリマー生成物をもたらす。1つ又は複数の実施形態では、本アルコキシル化方法により形成されたポリマーは、有利には本明細書に記載されるとおりの混合酸性塩の調製に使用され得る。
【0109】
アルコキシル化方法を用いてポリマー生成物から調製されるポリマー試薬から調製されるコンジュゲート(及びその混合塩形態)の組成物:同様にこれまでに示したとおり、本発明の1つ又は複数の実施形態では、水溶性ポリマー-活性薬剤コンジュゲートの混合塩が提供され、ここでコンジュゲートは、塩基の存在下でアミン含有活性薬剤(例えば、脱保護したグリシン-イリノテカン)をポリマー試薬(例えば、4アームペンタエリスリトリル-ポリ(エチレングリコール)-カルボキシメチルスクシンイミド)と(コンジュゲーション条件下で)カップリングしてコンジュゲートを形成することにより調製され、ここでコンジュゲートは混合塩コンジュゲートであり(例えば、コンジュゲートは窒素原子を有し、その各々はプロトン化されているか、又はプロトン化されていないかのいずれかであり、ここで任意の所与のプロトン化アミノ基は2つの異なる陰イオンの一方を有する酸性塩である)、さらに任意選択により、ポリマー試薬は、本明細書に記載されるとおり調製されたアルコキシル化生成物から調製される。
【0110】
コンジュゲート-一般的にポリマー
水溶性ポリマー-活性薬剤コンジュゲートは(具体的にとる形態、例えば、塩基形態、塩形態、混合塩などとは無関係に)水溶性ポリマーを含む。典型的には、コンジュゲートを形成するため、水溶性ポリマー-ポリマー試薬の形態-が活性薬剤と、その活性薬剤中に含まれる求電子体又は求核体で(コンジュゲーション条件下に)カップリングされる。例えば、水溶性ポリマー(ここでも、例えば活性化エステルを有するポリマー試薬の形態)を、1つ又は複数の塩基性アミン基(又は他の塩基性窒素原子)、すなわちpKが(コンジュゲーション後に測定して)約7.5~約11.5であるアミンを有する活性薬剤とカップリングすることができる。」
甲1c 「【0153】
新規アルコキシル化方法により生成されるアルコキシル化ポリマー材料
本明細書に記載される方法に基づき調製されるアルコキシル化ポリマー材料は、アルコキシル化可能なオリゴマーの構造に対応する基本構造を有し得る(すなわち、直鎖状のアルコキシル化可能なオリゴマーは直鎖状のアルコキシル化ポリマー材料となり、4アーム型のアルコキシル化可能なオリゴマーは4アーム型アルコキシル化ポリマー材料となる等)。結果として、アルコキシル化ポリマー材料は、直鎖状、分枝状及びマルチアーム型を含め、数多くの可能な幾何学的配置のいずれかをとり得る。
【0154】
分枝状の構造に関して、分枝状アルコキシル化ポリマー材料は3本以上の個別的なアームを有し得るが、4本、5本、6本、7本、8本、9本、又はそれ以上ものアームを有することもでき、4~8本のアームの分枝状構造が好ましい(4アーム分枝状構造、5アーム分枝状構造、6アーム分枝状構造、及び8アーム分枝状構造など)。
【0155】
アルコキシル化ポリマー材料の例示的な分枝状構造を以下に提供する:
【化15】(省略。合議体注:【化4】と同じ)
式中(直前の構造に限り)、nの平均値は以下の範囲の1つ又は複数を満足する:10~1,000;10~500;10~250;50~1000;50~250;及び50~120(又は他の方法では、構造の分子量が2,000ダルトン~180,000ダルトン、例えば2,000ダルトン~120,000ダルトンとなるように定義される);
【化16】(省略)
式中(直前の構造に限り)、nの平均値は以下の範囲の1つ又は複数を満足する:10~1,000;10~500;10~250;50~1,000;50~250;及び50~120(又は他の方法では、構造の分子量が2,000ダルトン~180,000ダルトン、例えば2,000ダルトン~120,000ダルトンとなるように定義される);
【化17】(省略)
式中(直前の構造に限り)、nの平均値は以下の範囲の1つ又は複数であり、それを満足する:10~750;40~750;50~250;及び50~120(又は他の方法では、構造の分子量が3,000ダルトン~200,000ダルトン、例えば12,000ダルトン~200,000ダルトンとなるように定義される);及び
【化18】(省略)
式中(直前の構造に限り)、nの平均値は以下の範囲の1つ又は複数であり、それを満足する:10~600及び35~600(又は他の方法では、構造の分子量が4,000ダルトン~215,000ダルトン、例えば12,000ダルトン~215,000ダルトンとなるように定義される)。
【0156】
直前の4つの構造の各々について、nの値はいずれの場合も実質的に同じであることが好ましい。従って、所与のアルコキシル化ポリマー材料についての全てのnの値を考えるとき、当該のアルコキシル化ポリマー材料アルコキシル化可能なオリゴマー又はプレポリマーの全てのnの値が3標準偏差内、より好ましくは2標準偏差内、及びさらにより好ましくは1標準偏差内であることが好ましい。
・・・
【0159】
任意の所与のアルコキシル化ポリマー材料に対して、アルコキシル化ポリマー材料を、それがポリマー試薬を形成するための特定の反応基を有するようにさらに変化させるため、任意選択のステップが実施されてもよい。従って、当該技術分野で周知されている技法を用いて、反応基(例えば、カルボン酸、活性エステル、アミン、チオール、マレイミド、アルデヒド、ケトンなど)を含むようにアルコキシル化ポリマー材料を官能化することができる。
・・・
【0161】
アルコキシル化ポリマー材料のさらなる組成物
本明細書に提供される本発明の別の態様は、アルコキシル化ポリマー材料を含む組成物であり、これにはアルコキシル化ポリマー材料を含む任意の組成物のみならず、アルコキシル化ポリマー材料を例えばポリマー試薬にさらに変化させた組成物、並びにかかるポリマー試薬の活性薬剤とのカップリングから形成されるコンジュゲートの組成物もまた含まれる。特に、本明細書に記載される方法の有益性は、高純度のアルコキシル化ポリマー材料を含有する組成物を実現する能力である。この組成物は、実質的に低い含有量の高分子量の不純物(例えば、所望のアルコキシル化ポリマー材料の分子量より大きい分子量を有するポリマー含有種)及び低い含有量の低分子量ジオール不純物(すなわち、HO-PEG-OH)の双方を有し、いずれかの不純物タイプが(及び好ましくは双方の不純物タイプとも)合計で8wt%未満、及びより好ましくは2wt%未満であるものとして特徴付けることができる。それに加えて又は代えて、組成物はまた、アルコキシル化ポリマー材料(並びにアルコキシル化ポリマー材料から形成されるポリマー試薬を含む組成物、及びかかるポリマー試薬と活性薬剤とのコンジュゲーションから形成されるコンジュゲートの組成物)の純度が92wt%超、93wt%超、又は94wt%超、95wt%超、好ましくは96wt%超、及びより好ましくは97wt%超であるものとして特徴付けることもできる。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)及びゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)を用いてアルコキシル化ポリマー材料を特徴付けることができる。こうしたクロマトグラフ法によれば、組成物を分子量に従いその成分に分けることが可能となる。実施例8及び実施例9に記載される生成物の例示的なGFCトレースを、図7及び図8として提供する。
【0162】
アルコキシル化ポリマー材料及びそれから形成される組成物の例示的使用
本明細書に提供されるアルコキシル化ポリマー材料並びに特定の反応基を有するようにさらに修飾されたアルコキシル化ポリマー生成物(以下「ポリマー試薬」と称する)は、例えば活性薬剤とのコンジュゲートに有用である。本明細書に記載されるポリマー試薬との反応に適した生物学的に活性な薬剤の好ましい基は、求電子基及び求核基である。例示的な基としては、第一級アミン、カルボン酸、アルコール、チオール、ヒドラジン及びヒドラジドが挙げられる。本明細書に記載されるポリマー試薬との反応に適したかかる基は当業者に公知である。従って本発明は、コンジュゲーション条件下で活性薬剤を本明細書に記載されるポリマー試薬と接触させるステップを含む、コンジュゲートの作製方法を提供する。
【0163】
好適なコンジュゲーション条件は、ポリマー試薬と活性薬剤との間のコンジュゲーションを達成するのに十分な時間、温度、pH、試薬濃度、1つ又は複数の試薬官能基、活性薬剤に対して利用可能な官能基、溶媒などの条件である。当該技術分野において公知のとおり、具体的な条件は、特に、活性薬剤、所望のコンジュゲーションタイプ、反応混合物中における他の材料の存在などに依存する。任意の特定の場合においてコンジュゲーションを達成するのに十分な条件は、本明細書の開示を読み、関連文献を参照することで、及び/又はルーチンの実験を通じて、当業者により決定され得る。
【0164】
例えば、ポリマー試薬がN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル(例えば、スクシンイミジルスクシネート、スクシンイミジルプロピオネート、及びスクシンイミジルブタノエート)を含有し、且つ活性薬剤がアミン基を含有するとき、コンジュゲーションは約7.5~約9.5のpHで室温で達成することができる。加えて、ポリマー試薬がビニルスルホン反応基又はマレイミド基を含有し、且つ薬理学的に活性な薬剤がスルフヒドリル基を含有するとき、コンジュゲーションは約7~約8.5のpHで室温で達成することができる。さらに、ポリマー試薬に関連する反応基がアルデヒド又はケトンであり、且つ薬理学的に活性な薬剤が第一級アミンを含有するとき、コンジュゲーションは、薬理学的に活性な薬剤の第一級アミンがポリマーのアルデヒド又はケトンと反応する還元的アミノ化により達成することができる。約6~約9.5のpHで行うと、還元的アミノ化は最初、薬理学的に活性な薬剤とポリマーとがイミン結合によって連結されているコンジュゲートを生じる。続いてイミン結合を含有するコンジュゲートをNaCNBH3などの好適な還元剤で処理すると、イミンが還元されて第二級アミンとなる。これらの及び他のコンジュゲーション反応に関するさらなる情報については、Hermanson「Bioconjugate Techniques」,Academic Press,1996年が参照される。
・・・
【0168】
活性薬剤に関して、アルコキシル化ポリマー材料及びアルコキシル化ポリマー材料から調製されるポリマー試薬を好適なコンジュゲーション条件下で組み合わせてコンジュゲートを得ることができる。この点について、例示的な活性薬剤は、小分子薬物、オリゴペプチド、ペプチド、及びタンパク質からなる群から選択される活性薬剤であり得る。本明細書での使用における活性薬剤としては、限定はされないが、以下を挙げることができる:アドリアマイシン、γ-アミノ酪酸(GABA)、アミオダロン、アミトリプチリン、アジスロマイシン・・・
【0170】
さらに別の例示的活性薬剤としては、アセタゾラミド、アクラビスチン(acravistine)・・・
【0171】
さらに別の例示的活性薬剤としては、カンプトテシン分子ファミリーに属するものが挙げられる。・・・
【0173】
別の例示的な活性薬剤は7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシン(SN-38)であり、その構造を以下に示す。
(構造式は省略)
【0174】
さらに他の例示的な活性薬剤クラスとしては、タキサン分子ファミリーに属するものが挙げられる。・・・(構造式は省略)」
甲1d 「【0206】
一つの例示的なマルチアーム型ポリマーコンジュゲート構造は以下の構造に対応する:
[図:0001396250000007.jpg]
【0207】
前掲の構造は、簡略な形で「4アーム-PEG-Gly-Irino」(4アーム-ペンタエリスリトリル-PEG-カルボキシメチルグリシンイリノテカン)と称される;より完全な名称は、「ペンタエリスリトリル-4アーム-(PEG-1-メチレン-2-オキソ-ビニルアミノアセテート連結型イリノテカン)」に対応する。コンジュゲートの活性薬剤部分における塩基性アミノ基及び/又は窒素基は、コンジュゲートが本明細書に詳細に記載されるとおりの部分混合塩の特徴を有するという理解のもと、上記では中性型のみ示される。上記の構造から分かるとおり、カルボキシメチル修飾4アームペンタエリスリトリルPEG試薬は、ポリマー部分と活性薬剤イリノテカンとの間に介在するグリシンリンカーを有する。」
甲1e 「【0319】
実施例8
1.9KGスケールでのペンタエリチトールベースの4アーム-PEG-20Kの調製
材料及び方法。水分を含むとポリマージオール不純物がもたらされるため、利用可能な最小の含水量を有する極めて高い等級のエチレンオキシドを使用しなければならない。注意:エチレンオキシドは極めて反応性の高い化合物で、水分と爆発的に反応し得るため、従って反応装置及び移し替える装置における漏出は慎重に避けなければならない。また、実施においては人員に保護シールドの後方又はバンカー内で作業させることを含むよう注意を払わなければならない。
【0320】
2ガロンのジャケット付きステンレス鋼圧力反応器において無水トルエン(4L)を2時間還流した。次に、溶媒(3L)の一部を大気圧下で留去した。次に残留トルエンを排出し、反応器ジャケットに蒸気を通過させて減圧3~5mmHgを適用することにより反応器を一晩乾燥させた。次に反応器を室温に冷却し、無水トルエン(4L)で充填し、ペンタエリチトールベースの4ARM-PEG-2K(SUNBRIGHT PTE(登録商標)-2000ペンタエリスリトール、分子量約2,000ダルトン、日油株式会社;200g、0.100モル)を添加した。溶媒を減圧下で留去し、次に乾燥窒素雰囲気下で反応器を30℃に冷却した。1リットルの分子篩で乾燥したトルエン(含水量約5ppm)及び液状ナトリウム-カリウム合金(Na22%、K78%;1.2g)を反応器に添加した。反応器を110℃に加温し、反応温度を110~120℃に維持しながらエチレンオキシド(1,800g)を3時間かけて連続的に添加した。次に、反応器の内容物を2時間約100℃で加熱し、次に温度を約70℃に低下させた。余分なエチレンオキシド及びトルエンを減圧下で留去した。蒸留後、反応器の内容物を減圧下に保ち、窒素スパージを行って微量のエチレンオキシドを除去した。リン酸(1N)を添加して塩基性残基を中性化し、生成物を減圧下で乾燥した。最後に生成物を反応器から排出してろ過すると、冷却後に1,900gの白色固体が得られた。ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)を適用することにより、アルコキシル化ポリマー生成物であるペンタエリチトールベースの4アーム-PEG-20Kを特徴付けた。この分析的方法から、分子量によって成分が分離される組成物のクロマトグラムが提供された。Shodex KW-803GFCカラム(300×8mm)及び示差屈折率検出器を装備したAgilent 1100 HPLCシステムを使用した。移動相(0.1M NaNO3)の流量は0.5ml/分であった。GFCクロマトグラムを図7に示す。
【0321】
GFC分析から、4ARM-PEG-20K生成物は以下を含むことが示された:高MW生成物0.42%、4ARM-PEG-20K 99.14%、HO-PEG(10K)-OH 0.44%。」
甲1f 「【0322】
実施例9
市販の4ARM-PEG-20Kの分析
日油株式会社は、現在、市販用PEGの供給における主導的企業である。従って新鮮な市販のペンタエリスリトールベースの4ARM-PEG-20K(SUNBRIGHT PTE(登録商標)-20,000、分子量約20,000ダルトン、日油株式会社)を入手し、ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)を用いて分析した。Shodex KW-803 GFCカラム(300×8mm)及び示差屈折率検出器を装備したAgilent 1100 HPLCシステムを使用した。移動相(0.1M NaNO3)の流量は0.5ml/分であった。GFCクロマトグラムを図8に示す。
【0323】
GFC分析から、この市販の4ARM-PEG-20K生成物が、高MW生成物 3.93%、4ARM-PEG-20K 88.56%、HO-PEG(10K)-OH 3.93%、HO-PEG(5K)-OH 3.58%を含んだことが示された。」
甲1g 「【0324】
実施例10
15Kg規模でのアルコキシル化可能なオリゴマー:ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-2Kの調製
20ガロンのジャケット付きステンレス鋼圧力反応器を95℃の95kg脱イオン水で2回洗浄した。洗浄水を除去し、反応器ジャケットに蒸気を通して減圧(3~5mmHg)を適用することにより反応器を一晩乾燥させた。反応器に25kgの無水トルエンを充填し、溶媒の一部を減圧下で留去した。次に残留トルエンを排出して反応器を減圧下に保った。次に反応器を室温に冷却し、無水トルエン(15L)を充填し、及びペンタエリスリトール(1,020g)を添加した。溶媒の一部(約8L)を減圧下で留去し、次に乾燥窒素雰囲気下で反応器を30℃に冷却した。液体ナトリウム-カリウム合金(Na22%、K78%;2.2g)を反応器に添加した。無水エチレンオキシド(14,080g)を3時間かけて連続的に添加し、反応温度を150~155℃に保った。次に、反応器の内容物を約150℃で30分間加熱し、次に温度を約70℃に下げた。余分なエチレンオキシド及びトルエンを減圧下で留去した。蒸留後、反応器の内容物を減圧下に維持し、窒素スパージを実施して微量のエチレンオキシドを除去した。最後に生成物を反応器から排出させると、14,200gの粘稠液が得られた。ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)を適用して生成物ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-2Kを特徴付けた。この分析的方法から、分子量に提供された。Shodex KW-803 GFCカラム(300×8mm)及び示差屈折率検出器を装備したAgilent 1100 HPLCシステムを使用した。移動相(0.1M NaNO3)の流量は0.5ml/分であった。」
甲1h 「
[図:0001396250000008.jpg]
」(図7)
(2)甲1に記載の発明
甲1には、高MW生成物0.42%、4ARM-PEG-20K 99.14%、HO-PEG(10K)-OH 0.44%を含む組成物が記載されている(甲1e)。ここで、4ARM-PEG-20Kは、甲1d及び甲1fによれば、ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20Kである。そして、ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20Kは、甲1aの請求項67記載の【化4】で表される物質、甲1cの【0156】記載の【化15】で表される物質の一実施態様であり、甲1cの【0161】や甲1dには、生物学的に活性な薬剤とのコンジュゲートの調製に用いられるものであることが記載されており、甲1h(図7)から、4ARM-PEG-20Kの分子量が17643であることが読み取れる。
以上の記載によれば、甲1には、以下の発明が記載されていると認める。
「生物学的に活性な薬剤とのコンジュゲート調製用の組成物であって、高MW生成物0.42%、ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20K(分子量17643) 99.14%、HO-PEG(10K)-OH 0.44%を含有する組成物。」の発明(以下、「甲1発明」という。)
2 甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている(下線は、合議体による。)。
甲2a 「B.基本用語
a.カラムパラメーター 移動相の流れているカラム系に試料を注入後,試料(溶質)帯の中心(ピーク頂点に相当)がカラムを出るまでに要する時間が保持時間(retention time,tR),また溶出した移動相の容積が保持容量(retention volume, VRである。移動相流量をFとするとVR=tR×Fとなる。」(2頁6~10行)
甲2b 「3.4 較正曲線の作成
これは保持容量と分子量の関係を図示したもので,カラムから溶出した試料の保持容量からその試料の分子量を推定するために用いられる。較正曲線(calibration curve)作成用の試料は分子量分布の狭い,分子量のわかっているポリマー,オリゴマーを用いる。分子量の異なるものが数点あることが望ましい。
分子量分布の狭い試料を標準品として用いる理由は次のとおりである。4章で説明するように,ポリマーは分子量の異なる多数の成分の混合物であり,分子量分布をもつ。この分子量分布のあるポリマーの平均分子量には,数平均分子量
[図:0001396250000009.jpg]
と重量平均分子量
[図:0001396250000010.jpg]
があり,両者は等しくない。このようなポリマーのSECクロマトグラムを測定したとき,クロマトグラムの頂点の分子量は
[図:0001396250000011.jpg]
でも
[図:0001396250000012.jpg]
でもなく,その中間の数値である。またクロマトグラムがブロードであると頂点の保持容量も決めにくい。一方,分子量分布の狭い試料ではクロマトグラム頂点の分子量を
[図:0001396250000013.jpg]
と
[図:0001396250000014.jpg]
の平均値,すなわち
[図:0001396250000015.jpg]
あるいは
[図:0001396250000016.jpg]
とみなすことが可能である。また
[図:0001396250000017.jpg]
としても差し支えない。
現在市販されている較正曲線作成用標準試料には,非水系SEC用としてポリスチレンとポリメチルメタクリレートが,水系SEC用として非イオン性のポリエチレンオキシド,プルラン,デキストラン,イオン性のポリスチレンスルホン酸ナトリウムがある。またタンパク質の標準試料としてミオグロビンや卵アルブミンなど数種類が用いられている。数平均分子量はメンブラン浸透圧法(MO)で,重量平均分子量は光散乱法(LS)で求められる。標準試料の分子量の値には誤差が含まれている。したがって,標準試料の組み合わせによって較正曲線に若干の相違が出てくる。それゆえ,使用する標準試料は常に同じ分子量の組み合わせにする必要がある。組み合わせを変更するときには較正曲線が若干変わることに留意しなければならない。」(43頁1~24行)
(合議体注:分子量を表す文字等を1行でしか表せないため、甲2の内容は同じだが、改行が異なる箇所が存在する。以下、同様。)
甲2c 「4.2 平均分子量計算法
A.計算の手順
ポリスチレン(PS)を例にとり,平均分子量計算手順について説明する。NIST(National Institute of Standards and Technology,USA(旧NBS))から市販されている,分子量分布の広い,分子量既知のSRM706ポリスチレンについて,SECを測定したときのクロマトグラムを図4.1に示す。またこのシステムで作成した較正曲線は図3.3に示した。図4.1のクロマトグラムにベースラインを引き,クロマトグラムを等分に,いくつかに分割する。この測定条件のもとでは1mlを4等分するのが望ましい。分割数が多いほど計算精度が向上する。分割数は一般に40点ほど必要である。
次に各分割点におけるベースラインからの高さを求める。高さの単位は任意である。ここではmmで求めている。表4.1の第1欄に保持容量を,第2欄にその位置でのクロマトグラム高さHを記入する。各分割点における分子量を図3.3の較正曲線から求め,これを第3欄に記入する。較正曲線を作成する際,自在定規を用いて曲線を引いた場合には,分子量も目測で読み取ることになる。2~3桁の有効数字しか求められないが,それで十分である。これを第3’欄に示す。直線あるいは三次式に近似した場合には,その式に保持容量の数値を代入して分子量Mを求めることができる。較正曲線を関数に近似することにより,個人差がはいらず,正確になる。図3.3の較正曲線を三次式に近似すると次のようになる。
[図:0001396250000018.jpg]
式(4.10)から求めた分子量を第3欄に示す。第3欄と第3’欄では一致するところと,3~5%の差が認められるところがあるが,個人差を防ぎ,計算の自動化には,式に近似するほうがよい。この較正曲線作成の際に測定した,標準PSの分子量と保持容量は次のとおりであった。分子量2,100―保持容量35.3ml,20,400―31.6,97,200―28.4,200,000―26.8,411,000―25.1,670,000―23.9,1,800,000―21.8。
(図4.1、表4.1省略)
B.計算式
平均分子量の計算式は次のように表せる。
[図:0001396250000019.jpg]
・・・
C.計算の実行
表4.1の第4欄に各保持容量における高さ(第2欄)をその位置の分子量(第3欄)で除した値(高分子数に相当する)を記入する。高さの有効数字は3桁であるが,ここではそれよりも多くする。分子量の高いほうの高さの最も小さい位置での有効数字の桁数を1~2桁とし,この数値の小数点以下の桁数に他を合わせる。
第5欄には,各保持容量における高さ(第2欄)と分子量(第3欄)の積を記入する。ここでも有効数字に関係なく,すべて記入する。第2,4,5欄の合計値を求め,式(4.11),(4.12)の計算式に従って,次のように平均分子量を計算する。
(計算式省略) 」(51頁6行~55頁8行)
3 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20K」は、ペンタエリスリトール(化学構造については、必要であれば、https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907089016245918&rel=1#%7B%22category%22%3A%220%22%2C%22keyword%22%3A%22%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AB%22%7Dを参照)の4つのヒドロキシル基にPEG(ポリ(エチレングリコール)。ポリ(オキシエチレン)ともいう。)基が結合した物質(分子量17643)であり、本件発明1における一般式(1)中、mが1であり、OR1、R2O、R3O及びR4Oがそれぞれオキシエチレン基である化合物であって、X1~X4の「一般式(2)で表される置換基又は一般式(3)で表される置換基」をそれぞれ水素原子としたものである。甲1には、PEGモノマーであるオキシエチレン基の繰り返し数については明記されておらず、本件発明1における一般式(1)中、a、b、c及びdに相当する繰り返し数は定かでないが、(OR1)a、(R2O)b、(R3O)c及び(R4O)dはオキシエチレン基をモノマーとするPEG基であるので、甲1発明の「ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20K」と本件発明1の一般式(1)で表されるポリエーテル組成物(A)とは、一般式(1)において末端置換基X1~X4を有する「ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG化合物」を含むポリエーテル組成物である限りにおいて一致する。
また、甲1発明の組成物は、「ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20K」を99.14%含むから、本件発明1の「前記(A)が一般式(1)におけるmが1である化合物を前記(A)の重量を基準として95重量%以上含有する」との発明特定事項を満足するものである。
そして、本件発明1は、一般式(1)で表されるポリエーテル組成物(A)以外の成分の有無を特定しないから、甲1発明が、高MW生成物やHO-PEG(10K)-OHを含むことは、相違点とはならない。
ところで、甲1発明の「生物学的に活性な薬剤とのコンジュゲート」とは、甲1b及び甲1dの記載によれば、アルコキシル化ポリマー材料又はアルコキシル化ポリマー試薬と活性薬剤とがカップリングした物質であるといえる。他方、本件発明1の「医薬品原薬」は、本件特許請求の範囲の請求項4、本件特許明細書の【0039】及び【0056】の記載によれば、有効成分であるメマンチン塩酸塩を、医薬品原薬用原料であるポリエーテル組成物(A)に反応させて得られる、医薬品原薬用原料で修飾された医薬品原薬である。そうすると、甲1発明の「生物学的に活性な薬剤とのコンジュゲート調製用の組成物」は、本件発明1の「医薬品原薬用原料」に相当するといえるので、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
一般式(1)で表されるポリエーテル組成物(A)を含有する医薬品原薬用原料であって、
前記(A)が一般式(1)におけるmが1である化合物を前記(A)の重量を基準として95重量%以上含有する医薬品原薬用原料。
【化1】
[図:0001396250000020.jpg]
[式(1)中、(OR1)a、(R2O)b、(R3O)c及び(R4O)dはオキシエチレン基をモノマーとするPEG基であり、X1~X4は末端置換基であり、mは1である。]
<相違点1>
一般式(1)で表されるポリエーテル組成物(A)について、本件発明1においては、(a)一般式(1)中、OR1、R2O、R3O及びR4Oが複数ある場合、その結合形式はランダム形式でもブロック形式でもよく、また、a、b、c及びdはそれぞれ独立に52~1176の整数であり、(b)分子量分布が一峰性であり、(c)数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比率(Mw/Mn)が1.20以下であり、と規定されているのに対し、甲1発明においては、かかる(a)~(c)の規定がなされていない、分子量17643のものである点
<相違点2>
一般式(1)中の「X1~X4」について、本件発明1においては、「それぞれ独立に一般式(2)で表される置換基又は一般式(3)で表される置換基」であり、と規定されているのに対して、甲1発明においては、いずれも水素原子である点
<相違点3>
本件発明1が「メマンチン塩酸塩に用いられる」医薬品原薬用原料であるのに対し、甲1発明は、「生物学的に活性な薬剤とのコンジュゲート調製用」の組成物である点
(2)相違点1について
ア 相違点1の(a)について検討するに、一般式(1)のポリエーテル組成物(A)についての上記結合形式の規定は、OR1、R2O、R3O及びR4Oが複数ある場合についてのものであり、複数ではない場合についてこれをなんら規定するものではない。一方、甲1発明の組成物は、OR1、R2O、R3O及びR4Oがいずれも炭素数2のオキシアルキレン基であって、複数ではない場合に当たるから、この点は相違点ではない。
次に、OR1、R2O、R3O及びR4Oの繰り返し数a、b、c及びdについて検討するに、甲1発明のペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20Kは、その分子量が17643の分子である。そして、甲1の【0156】には、ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20Kを包含する、同【0155】記載の【化15】(【化4】(甲1aの請求項67)と同じ。)で表される物質のオキシエチレン基の繰り返し数nに関し、実質的に同じであることが好ましいとの記載がある(甲1c)。そうすると、同物質のPEGの繰り返し数は、その分子量及びnに関する記載から、
C+[(CH2)+(OH)]*4+[O+C2H4]*4n=12+[14+17]*4+[16+28]*4n=12+124+44*4n=136+176n=17643
n≒99
と概算される。そして、ポリマーは、下記ウで説示のとおり、通常、分子量の異なる成分の混合物からなると理解されることに照らせば、甲1発明のペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20KのPEGの繰り返し数は上記の概算値99の前後の数値範囲のものと推測され、それらは本件発明1のa、b、c及びdの範囲52~1176と重複しているといえるから、この点もまた相違点ではない。
仮に、一般式(1)中の炭素数2のオキシアルキレン基の繰り返し数について、本件発明1においては、「a、b、c及びdはそれぞれ独立に52~1176の整数」であり、と規定されているのに対し、甲1発明においては、概略99であると認められる点を相違点としても、甲1発明のペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20Kは、甲1の請求項67の【化4】(甲1a)又は【0155】の【化15】(甲1c。【化4】と同じ。)の「nの平均値が10~1000」であるアルコキシ化ポリマーの実施の態様であるところ、甲1発明のPEG基のオキシアルキレン基の繰り返し数を、当該態様の範囲内にすること、又は99前後の程度のものに変更することは、当業者が適宜なし得る事項である。
イ 相違点1の(b)について検討するに、本件発明において一峰性とは、本件特許明細書の【0031】の記載によれば、一般式(1)で表される物質を、後述の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した際に、一般式(1)で表される物質の溶出ピークの溶出時間を横軸に、その示差屈折率(RI)を縦軸にしたグラフに、溶出時間毎の示差屈折率(RI)をプロットした場合に、極大を示すピークが1つの場合を言う、とされている。
一方、甲1には、実施例8に記載の方法により調製された、ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20Kを含む甲1発明の組成物のゲルろ過クロマトグラフィー後のクロマトグラムが図7(甲1h)に記載されており、同図からは、その主たる分子量ピークはペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20Kに由来するもののみであると読み取れるから、甲1発明は、本件発明1の「分子量分布が一峰性であり」との発明特定事項を満足するものである。それゆえ、(b)の点は、相違点ではない。
ウ 相違点1の(c)について検討するに、甲1の図7(甲1h)には、ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20K、高MW生成物、HO-PEG(10K)-OHのMp(ピーク分子量)が、順に、17643、35669、9653であると記載されている。
ところで、ポリマーは、通常、分子量の異なる成分の混合物からなり、分子量分布を持つものであること、かかる分子量分布を持つポリマーの平均分子量には、数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwがあり、両者は等しくないこと、そして、このようなポリマーのSEC(合議体注:サイズ排除クロマトグラムフィー)のクロマトグラムを測定したとき、クロマトグラムの頂点の分子量はMnとMwの中間の数値であることは、本願優先日当時の技術常識である(甲2b。合議体注:甲2には、Mn、Mwについて、各々Mの上にラインがあるが、甲2の記載事項を引用する箇所を除き、本取消理由においてはその記載を省略する。以下、同じ。)。
そうすると、ポリマーの一種であるペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20Kを含有する甲1発明の組成物にもMnとMwとの2つの分子量が存在するといえる。
そこで、それら分子量について以下検討する。
ゲルろ過クロマトグラフィーは、カラムに充填されたゲルに対して浸透を繰り返しながら溶媒の流れにそって分子が移動し、分子サイズに応じて異なる時間で溶出されることを利用した分析手段であり、分子量やその分布の測定に広く用いられている。甲2cによれば、分子量測定は、一般的に、まず、分子量が既知の標準試料について分子量と保持容量の較正曲線(calibration curve、検量線)を作成し、次に、同一条件下、未知試料を測定し、各溶出時間と較正曲線から分子量を算出すること、そして、分子量の計算は、クロマトグラムベースラインを引き、クロマトグラムを等分にいくつかに分割し、次に、各分割点におけるベースラインからの高さHを求め、各分割点における分子量Mを較正曲線から求めるか、あるいは直線あるいは三次式に近似した場合には、その式に保持容量の数値を代入して分子量を、また、各保持容量における高さをその位置の分子量で除した値N=H/M(高分子数に相当する)を求めたのちに、次の計算式から平均分子量が算出できることを理解することができる。
Mn=ω/ΣNi=Σ(MiNi)/ΣNi=ΣHi/Σ(Hi/Mi)
Mw=Σ(ωiMi)/ω=Σ(Mi2Ni)/Σ(MiNi)=Σ(HiMi)/ΣHi
(式中、ωは試料の重量、Mは分子量、Nは分子数、Hはクロマトグラムの高さである。)
そこで、これを甲1発明のペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20Kに当てはめて、その分子量について検討すると、甲1の図7(甲1h)には、ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20K、高MW生成物とHO-PEG(10K)-OHのMp(ピーク分子量)が、順に、17643、35669、9653であると記載されている。そして、分子量の測定は上記のとおり、較正曲線を作成したのち算出されるのが通常であるから、上記物質の分子量についてもそのようにして得られたものと推認され、上記の三つのピーク点から甲1発明の組成物の較正曲線を作成し、計算式に当てはめて、MnとMwの2つの平均分子量を算出する。ここで、図7に示されているクロマトグラムは、保持時間と分子量との関係を表すものであるが、甲2aのように、移動相流量をFとすると、カラムの保持時間tRと保持容量VRとは、VR=tR×Fの関係にあるから、甲2の保持容量を甲1の保持時間に置き換えても甲2記載の事項が成り立つといえる。そして、甲1発明の組成物の較正曲線は、以下のとおり、図式化(異議申立書22頁の図1)することができ、それは下記式(以下、「近似式」という)に近似することができる。
[図:0001396250000021.jpg]
y=8386286.1404474e-0.7321325x
(式中、xは分子量、yは保持時間)
次に、甲1の図7のクロマトグラムを原紙の2.82倍に拡大コピーした上、横軸の目盛りを参照に0.1分(0.3mm)ごとに分割し、また、図7に記載されている表の3つのピークトップにおいても、同様に分割した。その後、各分割点におけるベースラインからの高さH(cm)を測定した。測定の始点はベースラインの線の太さの中央とし、測定の終点はクロマトグラムの線の太さの上部に統一した。そして、以下の計算図(異議申立書24頁)が得られた。
[図:0001396250000022.jpg]
そして、甲2の記載に従い、各分割点における、保持容量に代えての保持時間、クロマトグラム高さH、分子量M(Mpの三点は実測値、それ以外は上記の近似式に代入して算出した値)、高分子数N=H/M、HM値は以下のとおりである(異議申立書26頁の表2)。
[図:0001396250000023.jpg]
上記の値を甲2のMn、Mwの計算式に代入すると、以下のとおりである。
Mn=ω/ΣNi=Σ(MiNi)/ΣNi=ΣHi/Σ(Hi/Mi)
=101.60/0.0057892=17549.818
Mw=Σ(ωiMi)/ω=Σ(Mi2Ni)/Σ(MiNi)=Σ(HiMi)/ΣHi
=1803380/101.60=17749.804
以上によれば、Mw/Mn=1.011と算出される。そうすると、甲1発明は、本件発明1の「数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比率(Mw/Mn)が1.20以下であり」との発明特定事項を満足するから、上記(c)の点も相違点ではない。
(3)相違点2について
甲1には、アルコキシル化ポリマー材料を、それが特定の反応基(例えば、カルボン酸、活性エステル等)を有するようにさらに修飾されたアルコキシル化ポリマー生成物(以下「ポリマー試薬」という)とすること、該ポリマー試薬が活性薬剤のコンジュゲートの作製に有用であること、さらに、ポリマー試薬として例えばN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルが含まれることが記載されている(甲1aの請求項96及び請求項97、甲1bの【0109】並びに甲1cの【0159】、【0162】及び【0164】)。
そうすると、甲1の上記記載事項に接した当業者であれば、甲1発明のペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20Kを、活性薬剤とのコンジュゲートの作製に有用であると甲1に記載されている反応基を有するポリマー試薬とし上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、格別の創意を要することなくなし得たことである。
(4)相違点3について
甲1には、「生物学的に活性な薬剤」として、「小分子薬物、ペプチド、及びタンパク質から選択される」ことが記載され、「活性薬剤がカンプトテシンである」ことが記載されている(甲1aの請求項8及び9)。また、甲1には、活性薬剤として、カンプトテシンを含む多数の化合物が例示されている(甲1cの【0168】~【0174】)。
しかしながら、上記例示された化合物として、メマンチン塩酸塩はなく、甲1及び甲2には、甲1発明の「生物学的に活性な薬剤」として、メマンチン塩酸塩を用いることを動機付けるような記載や示唆はない。また、本件特許の優先日において、そのようなことを動機付けるような技術常識はない。
そうしてみれば、当業者といえども、甲1発明において、上記相違点3に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできない。
(5)効果について
本件特許明細書には、本件発明の効果について、「本発明の医薬品原薬用原料・・・は、原薬、ポリペプチド、生理活性蛋白質及び酵素等への修飾後の製剤安定性並びに薬効の経時安定性に優れる。また、本発明の医薬品原薬用原料・・・を用いて製造された医薬品原薬・・・は、製剤安定性及び薬効の経時安定性に優れる。」(【0010】)との一般的な記載がある。
また、本件特許明細書の実施例においては、メマンチン塩酸塩を本件発明1に係る医薬品原薬用原料であるポリエーテル組成物(A)で修飾した医薬品原薬について、製剤安定性、薬効の経時安定性及び生理食塩水への溶解性の評価試験を行った結果が表2(【0066】)に示されており、同試験結果をみると、本件発明1の医薬品原薬用原料で修飾された医薬品原薬である(B-1)~(B-11)はいずれも、比較例である(B’-1)~(B’-4)より優れた性質を有するものであることを確認することができる。
一方、甲1には、甲1発明のような水溶性のアルコキシル化ポリマー及びそれから調製される活性薬剤コンジュゲートについて、当該コンジュゲートがポリマー骨格の分解に対するより高い安定性やより高い加水分解安定性等を有することや、純度の高いアルコキシル化ポリマー生成物を得ることを目的としていることが記載されているものの(甲1bの【0107】及び【0108】)、実際にメマンチン塩酸塩を活性薬剤としたコンジュゲートを製造した実施例があるわけでもなく(そもそも、活性薬剤としてメマンチン塩酸塩が例示されていない。)、当然、その安定性等を確認していない。
また、甲1には、活性薬剤コンジュゲートが生理食塩水への溶解性に優れることについて、何ら記載されていない。これにつき、令和4年8月19日提出の意見書には、一般式(3)の「R6」がエチレン基のポリエーテル組成物でメマンチン塩酸塩を修飾した医薬品原薬に比べ、本件発明である一般式(3)の「R6」がメチレン基のポリエーテル組成物でメマンチン塩酸塩を修飾した医薬品原薬の方が生理食塩水への溶解性に優れるのに対し、有効薬剤をイリノテカン化合物とした場合には、「R6」がメチレン基であっても、エチレン基であっても同様の生理食塩水への溶解性を示すことが示されている。これによれば、本件発明の生理食塩水への溶解性が改善されるという効果は、有効薬剤が特定のものであり、かつ、ポリエーテル組成物の構造が特定のものであるという特定の組み合わせによって発揮されるといえるところ、どのような組み合わせであれば、そのような効果を発揮できるかは、甲1を見ても明らかではないし、そのような本件特許の出願時の技術常識はない。
そうしてみれば、本件発明1の効果として本件特許明細書に示されている効果は、甲1を見た当業者であっても、予測の範囲を超えるものといえる。
(6)小括
よって、本件発明1は、甲1発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
4 本件発明2及び3について
本件発明2は、本件発明1において、「一般式(1)におけるOR1、R2O、R3O及びR4Oが、いずれもオキシエチレン基である」ことを特定するものであり、本件発明3は、本件発明1又は2について、さらに、「ポリエーテル組成物(A)の含有量が、医薬品原薬用原料の重量を基準として0.1~99.5重量%である」と規定するものである。
本件発明2及び3と甲1発明とを対比すると、上記3で述べたように、相違点1~3で相違し、相違点2及び3は実質的な相違点である。
そして、相違点3については、上記3で述べたように、甲1及び甲2の記載を参酌しても、当業者がそのような構成を採ることの動機付けが見当たらず、相違点3に基づく本件発明の効果は当業者の予測の範囲を超えるものであるから、本件発明2及び3は、甲1発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
5 本件発明4について
(1)対比
ア 本件発明4は、「請求項1又は2記載の医薬品原薬用原料を用いてなる医薬品原薬」であるところ、「請求項1又は2記載の医薬品原薬用原料」とは、「メマンチン塩酸塩に用いられる医薬品原薬用原料」であるから、本件発明4の医薬品原料は、メマンチン塩酸塩を本件発明1又は2に係る医薬品原薬用原料であるポリエーテル組成物(A)で修飾した医薬品原薬と認められる。
イ 一方、甲1には、甲1発明の組成物、すなわち、「生物学的に活性な薬剤とのコンジュゲート調製用の組成物であって、高MW生成物0.42%、ペンタエリスリトールベースの4アーム-PEG-20K(分子量17643) 99.14%、HO-PEG(10K)-OH 0.44%を含有する組成物」(上記1(2)を参照。)を用いてなる生物学的に活性な薬剤とのコンジュゲートが記載されている(以下「甲1発明(活性薬剤コンジュゲート)」という。)。
ウ 本件発明4と甲1発明(活性薬剤コンジュゲート)とを対比すると、上記3(1)で対比したように、相違点1~3で相違する。
(2)判断
上記3で述べたように、甲1及び甲2の記載を参酌しても、当業者が相違点3に係る構成を採ることの動機付けが見当たらず、相違点3に基づく本件発明の効果は当業者の予測の範囲を超えるものであるから、本件発明4は、甲1発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
6 小括
以上のとおり、本件発明1~4は、特許法29条2項に違反してされたものであるとはいえないので、本件請求項1~4に係る特許は同法113条2号の規定により取り消されるべきものではなく、取消理由3は理由がない。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由3は、上記第4 1の申立理由のうち、申立理由4(進歩性欠如)を理由とするものであり、取消理由通知(決定の予告)では、以下の申立理由については採用していない。
1 申立理由1(明確性要件違反)
2 申立理由2(サポート要件違反)
3 申立理由3(甲1に基づく新規性欠如)
なお、令和3年12月23日付け取消理由通知で通知した取消理由1(サポート要件違反)及び取消理由2(新規性欠如)は、それぞれ、特許異議申立ての申立理由2及び申立理由3に該当する。
以下に、これらの採用しなかった申立理由についての当審合議体の判断を述べる。
1 申立理由1(明確性要件違反)について
(1)明確性要件に関し、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである 。
(2)申立人は、第4 1(2)アを根拠に、本件発明が不明確であると主張する。
しかしながら、本件訂正後の請求項1において、一般式(1)中、OR1、R2O、R3O及びR4Oの付加モル数についての「a、b、c及びdはそれぞれ独立に52~1176の整数」であるとの記載は、「a、b、c及びd」の各値の範囲を「それぞれ独立に52~1176の整数」と規定するものであることを第三者は理解でき、第三者に不測の不利益を及ぼすものではないから、当該記載に何ら不明確なところはない。
(3)上記申立人の主張する根拠アは、本件訂正前の請求項1において、一般式(1)中、OR1、R2O、R3O及びR4Oの付加モル数について、「a、b、c及びdはそれぞれ独立に50~1200の整数」と記載されているのに対し、本件特許明細書の実施例では、「a~dの平均値」が示されていることを理由とするものであるが、実施例の記載にかかわらず、本件訂正前の請求項1における上記記載は、「a、b、c及びd」の各値の範囲を「それぞれ独立に50~1200の整数」と規定するものであることを第三者は理解できるから、本件訂正前の請求項1の記載は不明確ではない。また、本件訂正後の請求項1の記載も、上述のとおり、不明確ではない。
(4)したがって、申立人の主張は採用できず、申立理由1は、理由がない。
2 申立理由2(サポート要件違反)について
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、検討する。
(2)本件特許請求の範囲及び本件特許明細書には、以下の記載がある。
a 特許請求の範囲の記載
第3のとおり。
b 発明が解決しようとする課題について
「【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、原薬、ポリペプチド、生理活性蛋白質及び酵素等への修飾後の製剤安定性並びに薬効の経時安定性に優れる医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物を提供することにある。」
c 課題を解決するための手段について
「【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。即ち本発明は、一般式(1)で表されるポリエーテル組成物(A)を含有する医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物であって、上記(A)の分子量分布が一峰性であり、上記(A)の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比率(Mw/Mn)が1.20以下であり、上記(A)が一般式(1)におけるmが1である化合物を上記(A)の重量を基準として90重量%以上含有する医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物;上記医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物を用いてなる医薬品原薬又は医薬品である。」
d 発明の効果について
「【0010】
本発明の医薬品原薬用原料及び医薬品用添加物は、原薬、ポリペプチド、生理活性蛋白質及び酵素等への修飾後の製剤安定性並びに薬効の経時安定性に優れる。また、本発明の医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物を用いて製造された医薬品原薬又は医薬品は、製剤安定性及び薬効の経時安定性に優れる。」
e 実施例について
「【0048】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、部は重量部を示す。
【0049】
<実施例1> [一般式(1)のX1~X4が水素原子であるポリエーテル組成物(A)の製造]
出発物質であるポリオールとして、ペンタエリスリトール[Perstorp社製:上記の式(1)におけるm=1の原料となる化合物を99重量%含有、上記の式(1)におけるm=2の原料となる化合物を1重量%含有]2.9部、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド4モル付加物[日本乳化剤工業(株)製「PNT-40」:上記の式(1)におけるm=1となる化合物を100重量%含有]1.2部及び水酸化ナトリウム0.027部をオートクレーブに仕込み、アルゴンガスで置換してから減圧にし、95℃に昇温した。
0.001~0.003MPa、95℃で1時間脱水を行なった後、130℃に温度を下げて、アルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド996部をオートクレーブ内圧が0.2MPa以上にならないようにして、125~135℃の範囲で18時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、145~155℃でオートクレーブの内圧が滴下開始時と同じ圧力を示すまで2時間熟成させ、ポリエーテル組成物(A-1)1000部を得た。
得られた(A-1)からは未反応のエチレンオキサイドは検出されず、(A-1)は一般式(1)のm=1の化合物を99重量%[(A)の重量を基準とした重量割合]含有し、下記GPC測定から、(A-1)の分子量分布の形状は一峰性であり、(A-1)のMnは3.6万[一般式(1)におけるa~dの各値の平均値は225]、Mw/Mn=1.06であった。
【0050】
<GPCでの評価条件>
・装置:「HLC-8320GPC」[東ソー(株)製]
・カラム:「TSK gel Super AW」[東ソー(株)製]
・試料溶液:0.25重量%のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液
・溶液注入量:10μL
・流量:0.6mL/分
・測定温度:40℃
・移動相:DMF
・検出装置:屈折率検出器
・基準物質:標準ポリエチレングリコール
【0051】
<実施例2~11及び比較例1~4>
出発原料となるポリオール及びアルキレンオキサイドを表1に記載の原料に変更し、仕込量を表1に記載の通りの部数に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテル組成物(A-2)~(A-11)及び比較用のポリエーテル組成物(A’-1)~(A’-4)を得た。
得られた(A-2)~(A-11)及び(A’-1)~(A’-4)からは未反応のアルキレンオキサイドは検出されなかった。
(A-2)~(A-11)及び(A’-1)~(A’-4)の分子量分布の形状、Mn、Mw/Mn、一般式(1)におけるa~dの各値の平均値及び一般式(1)におけるm=1の化合物の含有量[(A)の重量を基準とした重量割合]を表1に示す。
【0052】
【表1】
[図:0001396250000024.jpg]
【0053】
比較例1は一般式(1)におけるa~dの各値の平均値が1200よりも大きい例であり、比較例2は分子量分布形状が二峰性、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.2よりも大きく、かつ一般式(1)のm=1の化合物の含有率が90重量%よりも小さい例である。
また、比較例3は、一般式(1)のm=1化合物の含有率が90重量%よりも小さい例であり、比較例4は、一般式(1)におけるa~dの各値の平均値が50より小さい例である。
【0054】
<実施例12~22及び比較例5~8> [一般式(1)のX1~X4が一般式(2)で表される置換基である(A)の製造]
実施例1~11及び比較例1~4で得られたポリエーテル組成物(A-1)~(A-11)及び(A’-1)~(A’-4)のそれぞれについて、ポリエーテル組成物5部及びt-ブトキシナトリウム1部をトルエン100部に溶解させた後、クロロ酢酸ナトリウム1部を25℃にて10時間かけて滴下した後、40℃にて10時間撹拌した。その後、1Mの塩酸水溶液を加え分液にて有機相を回収し、飽和食塩水溶液で有機相を3回洗浄し、トルエンを減圧留去した後、イソプロパノールで再結晶することで、ポリエーテル組成物(A-12)~(A-22)及び比較用のポリエーテル組成物(A’-5)~(A’-8)各5.1部を得た。
【0055】
<実施例23~33及び比較例9~12> [一般式(1)のX1~X4が一般式(3)で表される置換基である(A)の製造]
実施例12~22及び比較例5~8で得られたポリエーテル組成物(A-12)~(A -22)及び(A’-5)~(A’-8)のそれぞれについて、ポリエーテル組成物5部、ジシクロヘキシルカルボジイミド1部及びN-ヒドロキシスクシンイミド1部をN,N-ジメチルホルムアミド100部に溶解させた後、40℃にて10時間撹拌した。その後、不溶物を濾去し、イソプロパノール100部を加え、5℃まで冷却し、析出物を濾取した。再度イソプロパノール100部を加え、5℃まで冷却し、析出物を濾取し、ポリエーテル組成物(A-23)~(A-33)及び比較用のポリエーテル組成物(A’-9)~(A’-12)各4部を得た。
(A-23)~(A-33)及び(A’-9)~(A’-12)の分子量分布の形状、Mw/Mn、及び一般式(1)におけるm=1の化合物の含有量[(A)の重量を基準とした重量割合]を表2に示す。
【0056】
<実施例34~44及び比較例13~16> [原薬への修飾]
実施例23~33及び比較例9~12で得られたポリエーテル組成物(A-23)~(A-33)及び(A’-9)~(A’-12)のそれぞれについて、ポリエーテル組成物5部、メマンチン塩酸塩[東京化成(株)製]3部及びトリエチルアミン2部をテトラヒドロフラン100部に溶解させ、40℃、5時間撹拌した。溶剤を留去した後、イソプロパノール100部を加え、5℃まで冷却し、析出物を濾取し、本発明の医薬品原薬用原料で修飾された医薬品原薬(B-1)~(B-11)及び比較用の医薬品原薬(B’-1)~(B’-4)各4部を得た。
【0057】
<修飾後の製剤安定性の評価>
上記で得られた医薬品原薬(B-1)~(B-11)及び(B’-1)~(B’-4)を、殺菌したイオン交換水に濃度10重量%で溶解させた。25℃の温度で1カ月保存後又は3カ月保存後の各水溶液の外観を目視で確認して下記水準で評価した結果を表2に示す。
変化なし・・・◎◎◎
僅かに変色・・・◎◎
やや変色・・・○○○
変色・・・○○
変色かつ僅かに析出あり・・・○
変色かつ析出あり・・・×
【0058】
<修飾後の薬効の経時安定性の評価>
上記製剤安定性の評価を行った各水溶液について、下記条件にて高圧送液タイプ高速液体クロマトグラフィー(UPLC)を用いて加水分解されたメマンチンを定量して、測定試料の重量に対する加水分解によって生成したメマンチンの重量の比率(重量%)を算出した結果を表2に示す。この比率が小さい程、加水分解されておらず、修飾後の薬効の経時安定性に優れる。
【0059】
<UPLCでの評価条件>
LCシステム:ACQUITY UPLC H-Class
カラム:ACQUITY UPLC CORTECS C+18、1.6μm、2.1×50mm
カラム温度:45℃
流速:0.6mL/分
注入量:1.0μL
溶媒:メタノール/水=1/1
MS検出器:ACQUITY QDa検出器
イオン化モード:ESI(+)
Single Ion Recording:180.2Da
サンプリングレート:10ポイント/秒
キャピラリー電圧:0.8kV
コーン電圧:15V
プローブ温度:600℃
【0060】
<生理食塩水への溶解性評価>
上記で得られた医薬品原薬(B-1)~(B-11)及び(B’-1)~(B’-4)1.0gを、25℃の生理食塩水10mLに加え、30分間撹拌し溶解させ評価用試料を作成した。
濁度計[品名:WA6000、日本電色工業(株)製]を用いて、セル中[光路長:10mm]の評価用試料について、25℃での散乱透過光量(Td)及び全透過光量(Tt)を測定し、以下の計算式からヘイズ値(Hz)を算出した。結果を表2に示す。
ヘイズ値が小さいほどかすみが少なく、生理食塩水への溶解性が高いことを示す。
HZ=Td/Tt×100
・・・
【0066】
【表2】
[図:0001396250000025.jpg]
・・・
【0068】
表2及び表3の結果から、本発明の医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物は、比較用の医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物に比べて、製剤安定性及び薬効の経時安定性に優れることが分かる。
また、医薬品を生理食塩水に溶解させた際にかすみが生じてしまうと、医薬品の溶解終点の判断が困難となるため、特に医薬品を注射製剤として用いる場合には、上記のかすみが少ないことが好ましい。ここで、本発明におけるポリエーテル組成物(A)が、一般式(1)においてm=1の化合物を上記(A)の重量を基準として95重量%以上含有する場合、上記(A)を用いてなる医薬品は、生理食塩水に溶解させた際にかすみがほぼ生じておらず、このようなポリエーテル組成物(A)は、医薬品原薬用原料又は医薬品用添加物として特に優れていることが分かる。」
(3)上記記載b及びcによれば、本件発明1~3が解決しようとする課題は、「原薬、ポリペプチド、生理活性蛋白質及び酵素等への修飾後の製剤安定性並びに薬効の経時安定性に優れる医薬品原薬用原料・・・を提供すること」であり、また、本件発明4が解決しようとする課題は、「製剤安定性並びに薬効の経時安定性に優れる」「上記医薬品原薬用原料・・・を用いてなる医薬品原薬」を提供することであると認められる。
(4)本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例には(記載e)、本件発明の一般式(1)で表されるポリエーテル組成物(A)を含有する医薬品原薬用原料として、「一般式(1)のX1~X4が水素原子」であり、一般式(1)中、OR1、R2O、R3O及びR4Oの付加モル数である「a、b、c及びd」の各値の平均値が「52~1176」の範囲であるポリエーテル組成物(A-1)~(A-11)を製造し(実施例1~11)、当該ポリエーテル組成物(A-1)~(A-11)から「一般式(1)のX1~X4が一般式(2)で表される置換基である」ポリエーテル組成物(A-12)~(A-22)を製造し(実施例12~22)、当該ポリエーテル組成物(A-12)~(A-22)から「一般式(1)のX1~X4が一般式(3)で表される置換基である」ポリエーテル組成物(A-23)~(A-33)を製造したことが示されている(実施例23~33)。
さらに、当該ポリエーテル組成物(A-23)~(A-33)ポリエーテル組成物(A)をメマンチン塩酸塩(原薬)に修飾して、医薬品原薬(B-1)~(B-11)を得たことが記載されている。そして、ポリエーテル組成物(A)で修飾した医薬品原薬について、製剤安定性、薬効の経時安定性及び生理食塩水への溶解性の評価試験を行った結果が表2(【0066】)に示されており、同試験結果をみると、本件発明の医薬品原薬用原料で修飾された医薬品原薬である(B-1)~(B-11)はいずれも、比較例である(B’-1)~(B’-4)より優れた性質を有するものであることが示されている。
そうしてみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、上記(3)の課題を解決するための手段が記載され、実施例で実際に得られた本件発明の医薬品原薬用原料で修飾された医薬品原薬が製剤安定性、薬効の経時安定性等に優れることも示されているから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明により当業者が本件発明の課題を解決できることを認識できるといえ、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえる。
(5)申立人は、第4 1(2)アを根拠に、本件発明はサポート要件を満たさないと主張する。
しかしながら、根拠アは、本件特許明細書の実施例で示されている数値が「a~dの平均値」であるから、上記実施例におけるa~dの各数値は不明であって、50より下回ることもあり得るため、本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、本件特許明細書によって十分にサポートされていないというものであるところ、本件訂正により、a~dの数値範囲から、本件特許明細書に原薬等への修飾後の製剤安定性及び薬効の経時安定性が悪化する可能性がある旨の記載がされていた「50より下回る」場合や「1200を超える」場合は含まれなくなったから、申立人の主張する不備は解消している。
したがって、申立人の主張は採用できず、申立理由2は、理由がない。
3 申立理由3(甲1に基づく新規性欠如)について
上記第5 3で述べたように、本件発明1と甲1発明とは、相違点1~3で相違し、相違点2及び3は実質的な相違点である。
そうしてみれば、本件発明1は甲1に記載された発明とはいえず、新規性を有する。
したがって、申立理由1は、理由がない。
第7 むすび
以上のとおり、令和3年12月23日付け取消理由通知で通知した取消理由、令和4年6月16日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由、及び特許異議申立理由によっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。そして、ほかに本件発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700770