特許異議申立
2025-700884
mRNA送達のための脂質ナノ粒子組成物および方法
- 審判番号
- 2025-700884
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-137929
- 登録番号
- 7645058
- 請求日
- 2025年09月12日
- 審決日
- 2026年02月04日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】トランスレイト バイオ, インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】結田 純次
- 【権利者代理人】守安 智
- 【異議申立人】小池 良
- 審判長/審判官
- 審判長 冨永 みどり
- 審判官 伊藤 幸司
- 審判官 今村 明子
- 分類
- P1652.113-Y (A61K) / P1652.121-Y (A61K) / P1652.537-Y (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法114条4項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第44条第2項、特許法第113条第4号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第41条第2項、特許法第114条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7645058号発明「mRNA送達のための脂質ナノ粒子組成物および方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7645058号の請求項1~10、16~19、22~27、30、31に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7645058号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10、16~19、22~27、30、31に係る特許についての出願(以下「本件特許出願」という。)は、令和2年8月18日にされた特許法第44条第2項の規定による出願である。
本件特許出願は、2011年6月8日を第一国における出願日(以下「本件優先日」ともいう。)として、米国特許庁において受理された「米国仮出願61/494881号」(以下「優先権基礎出願1」ともいう。)に基づくパリ条約による優先権主張を伴う、2012年6月8日を出願日(以下「本件出願日」ともいう。)とする特願2014-514907号(以下「原出願」ともいう。)を最先の出願とする、いわゆる第4世代分割出願であるところ、各世代の分割出願は、次のとおりのものである。
原出願 :特願2014-514907号
第1世代分割出願 :特願2016-200575号
第2世代分割出願 :特願2017-161030号
第3世代分割出願 :特願2019-252号
第4世代分割出願(本件特許出願):特願2020-137929号
そして、本件特許出願について、令和7年3月5日にその特許権の設定登録がされ、令和7年3月13日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和7年9月12日に、本件特許の請求項1~10、16~19、22~27、30、31に係る特許に対して、特許異議申立人である小池 良(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~10、16~19、22~27、30、31に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~10、16~19、22~27、30、31に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の項番に従い「本件発明1」~「本件発明10」、「本件発明16」~「本件発明19」、「本件発明22」~「本件発明27」、「本件発明30」、「本件発明31」ともいい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
タンパク質またはペプチドの生体内での生産のためのメッセンジャーRNA(mRNA)の送達のための組成物であって、
前記組成物は、前記タンパク質または前記ペプチドをコードするmRNAおよび脂質ナノ粒子を含み、前記mRNAは前記脂質ナノ粒子内にカプセル化されており、
前記組成物の投与は、前記mRNAにコードされる前記タンパク質または前記ペプチドの発現をもたらし、前記脂質ナノ粒子は、
(i)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の1%より多くのモル比のPEG修飾脂質、
(ii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の20%~70%のモル比のカチオン性脂質、
(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質、
および
(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロール を含み、
前記非カチオン性脂質はDOPEまたはDSPCを含む、 組成物。
【請求項2】
前記非カチオン性脂質がDSPCを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記脂質ナノ粒子が、総脂質の1%~20%のモル比のPEG修飾脂質を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記脂質ナノ粒子が、総脂質の5%~90%のモル比の非カチオン性脂質を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記非カチオン性脂質がDOPEを含む、請求項1に記載の組成物。 【請求項6】
1つ以上のPEG修飾脂質がDMG-PEG-2000を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
全身投与されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
筋肉内投与されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
皮下投与されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物の投与が、投与後少なくとも48時間標的組織において検出可能な前記mRNAにコードされる前記タンパク質または前記ペプチドの発現をもたらす、請求項1に記載の組成物。」
「【請求項16】
前記脂質ナノ粒子が、150nm未満の寸法を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記脂質ナノ粒子が、125nm未満の寸法を有する、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記脂質ナノ粒子が、100nm未満の寸法を有する、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物の投与が、対象に免疫を付与する、請求項1に記載の組成物。」
「【請求項22】
脂質ナノ粒子内にカプセル化されたタンパク質またはペプチドをコードするmRNAを含む組成物であって、
前記脂質ナノ粒子は、150nm未満の寸法を有し、
(i)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の1%より多くのモル比のPEG修飾脂質、
(ii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の20%~70%のモル比のカチオン性脂質、
(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質、
および
(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロール を含み、
前記mRNAは、
(i)5’-UTR、
(ii)3’ -UTR、
(iii)5’キャップ構造、および
(iv)ポリA尾部 を含む、組成物。
【請求項23】
前記脂質ナノ粒子が、総脂質の1%~15%のモル比のPEG修飾脂質を含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記脂質ナノ粒子が、総脂質の5%~90%のモル比の非カチオン性脂質を含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
1つ以上の非カチオン性脂質がDSPCを含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
1つ以上の非カチオン性脂質がDOPEを含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項27】
1つ以上のPEG修飾脂質がDMG-PEG-2000を含む、請求項24に記載の組成物。」
「【請求項30】
前記脂質ナノ粒子が、125nm未満の寸法を有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項31】 前記脂質ナノ粒子が、100nm未満の寸法を有する、請求項30に記載の組成物。」
第3 申立理由の概要及び証拠
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」ともいう。)において、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第14号証(以下、番号順にそれぞれ「甲1」~「甲14」ともいう。)を提出するとともに、概略、以下の申立理由A~Cにより、本件発明に係る特許は、取り消されるべきものであると主張している。
1 申立理由A(明確性違反)
本件特許1~10、16~19、22~27、30、31に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
2 申立理由B、C(新規性、進歩性欠如)
本件特許出願は、パリ条約による優先権主張の効果が認められないから、甲6は本件特許出願前に公開された文献である。
そして、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31は、甲6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、甲6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件特許1~10、16~19、22~27、30、31に係る発明は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 証拠方法
甲1:特表2014-523411号公報
甲2:特開2017-014278号公報
甲3:特開2017-203045号公報
甲4:特開2019-48900号公報
甲5:米国仮出願61/494881号の明細書、出願受領書及び和文翻訳文
甲6:国際公開第2012/031043号(公知日:2012年3月8日)
甲7:特表2013-536803号公報(公知日:2013年9月26日)(甲6の日本語ファミリー)
甲8:「分子細胞生物学」、第5版、表紙、奥付、87、88頁、2005年9月5日
甲9:「10月からの定期接種化等について 令和6年度第2回予防接種自治体向け説明会」、表紙、55-59頁、厚生労働省、令和6年9月24日
甲10:「令和第6年度第2回予防接種自治体向け説明会 資料」「新型コロナワクチン(製剤)に関するご質問への回答」、厚生労働省、令和6年10月11日
甲11:「自己増殖型mRNA(レプリコンワクチン)」本文及び目次1-11頁、日経バイオテク、2024年10月2日
甲12:報道発表資料「「マイクロRNA」によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明-mRNAの翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功」、独立行政法人 理化学研究所、2007年8月1日
甲13:ScriptCapTM m7Gキャッピングシステム(Epicentre Biotechnologies)のユーザーマニュアルの2006年11月16日時点の本文3枚及び画面スクリーンショット(プロトコル(2006.11.16))(4枚目)
甲14:Raghavendran et al.,“Structural and Functional Elements of the Promoter Encoded by the 5′ Untranslated Region of the Venezuelan Equine Encephalitis Virus Genome”,Journal of Virology,2009年,Vol. 83,No. 17,p.8327-8339
第4 当審の判断
当審合議体は、本件請求項1~10、16~19、22~27、30、31に係る特許は、上記第3に示した申立理由及び証拠によっては、取り消すことはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 申立理由A(明確性違反)について
(1)判断の前提
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載のみならず、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。
(2)判断
ア 当審合議体は、特許請求の範囲において、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確な記載は見当たらず、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31は明確であると判断する。
イ 申立人の主張
申立人は、以下の点を主張する。
(ア)PEG修飾脂質の含有量について
請求項1には、脂質ナノ粒子が、「(i)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の1%より多くのモル比のPEG修飾脂質」を含むと記載されているから、脂質ナノ粒子が総脂質の1%モル比のPEG修飾脂質を含む場合は、請求項1の範囲外である。
一方、請求項3には、「前記脂質ナノ粒子が、総脂質の1%~20%のモル比のPEG修飾脂質を含む、請求項2に記載の組成物。」と記載されているところ、請求項3は請求項2を介して請求項1を引用するものであるから、請求項1において、範囲外である、総脂質の1%モル比のPEG修飾脂質を含む脂質ナノ粒子が、請求項3において範囲内であることは、請求項1及び3に係る発明の範囲を不明確とするものである。
また、請求項22及び23に係る発明についても、同様の明確性違反が存在する。
(イ)非カチオン性脂質の含有量について
請求項1には、「(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質」を含むと記載されている。
一方、請求項4には、「前記脂質ナノ粒子が、総脂質の5%~90%のモル比の非カチオン性脂質を含む」と記載されているところ、請求項4は請求項1を引用するものであるから、請求項1において、範囲外である、総脂質の5%モル比の非カチオン性脂質を含む脂質ナノ粒子が、請求項4において範囲内であることは、請求項1及び4に係る発明の範囲を不明確とするものである。
また、請求項22及び24に係る発明についても、同様の明確性違反が存在する。
(ウ)コレステロールの含有量について
請求項1における(i)、(ii)、(iii)の成分については「モル%」と単位を記載しているが、請求項1の(iv)には、「前記脂質ナノ粒子の総脂質の10%より多くのコレステロール」と記載されており、単位が記載されていないため、コレステロールが、「総脂質の10モル%より多い」のか、「総脂質の10質量%より多い」のか、「総脂質の10体積%より多い」のか不明確である。
請求項22についても、同様の明確性違反が存在する。
(エ)非カチオン性脂質とコレステロールの関係及び含有量について
請求項1は、脂質ナノ粒子が「(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質」、及び「(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロール」を含むことを記載しているところ、本件特許明細書の【0061】の記載によれば、非カチオン性脂質は、コレステロールを含むものであるから、非カチオン性脂質の含有量に加えて、当該非カチオン性脂質に含まれるコレステロールの含有量を記載することは、両者の関係を不明確とするものである。
また、非カチオン性脂質の含有量に加えて、別途コレステロールの含有量を記載することにより、非カチオン性脂質の含有量が、コレステロールの含有量を含むのか否か不明確である。
さらに、「(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロール」を含む以上、「(iii)」の脂質ナノ粒子中の総脂質における非カチオン性脂質の含有量は、「脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多く」なるはずであるにもかかわらず、「5%より多く」と記載されているため、「5~10モル%の数値範囲」で不可能な数値範囲を記載しているから、請求項1に係る発明は不明確である。
請求項22についても、同様の明確性違反が存在する。
(オ)請求項4及び24の数値範囲について
請求項4は、「脂質ナノ粒子が、5~90%のモル比の非カチオン性脂質を含む」と記載されているが、請求項4が引用する請求項1では、「(i)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の1%より多くのモル比のPEG修飾脂質、(ii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の20%~70%のモル比のカチオン性脂質」、「(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロール」と記載されていることから、非カチオン性脂質以外の脂質の合計量は最低でも、1+20+10%=31%のモル比より多くなるから、非カチオン性脂質の含有量は、最大でも「69%のモル比よりも少ない」ことになる。
ゆえに、請求項4は、「69モル%超~90モル%」の範囲で、請求項1と矛盾する不可能な数値範囲の限定をしているので、請求項4に係る発明は不明確である。
請求項24にも同様の明確性違反が存在する。
ウ 申立人の主張に対する当審の判断
(ア)PEG修飾脂質の含有量について
請求項1には、脂質ナノ粒子が、「(i)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の1%より多くのモル比のPEG修飾脂質」を含むと記載されていることから、脂質ナノ粒子中の総脂質に対するPEG修飾脂質の割合は「1%より多くのモル比」で含まれることは明らかである。そして、請求項2を介して請求項1を引用する請求項3には、「前記脂質ナノ粒子が、総脂質の1%~20%のモル比のPEG修飾脂質を含む、請求項2に記載の組成物」と記載されているが、請求項3は、請求項1を間接的に引用する以上、本件発明3において、総脂質に対するPEG修飾脂質の割合は、「1%」を含まないことは明らかである。したがって、請求項3における「総脂質の1%~20%のモル比のPEG修飾脂質を含む」との特定は、本件発明1及び3を不明確にするものではない。
以上より、本件発明1及び3におけるPEG修飾脂質の含有量に関する記載は第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、請求項22、及び請求項22を引用する請求項23における、総脂質に対するPEG修飾脂質の割合の特定についても、同様の理由により、本件発明22及び23を不明確とするものではない。
(イ)非カチオン性脂質の含有量について
請求項1には、脂質ナノ粒子が、「(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質」を含むと記載されていることから、脂質ナノ粒子中の総脂質に対する非カチオン性脂質の割合は「5%より多くのモル比」で含まれることは明らかである。そして、請求項3を引用し、さらに請求項2を介して請求項1を引用する請求項4には、「前記脂質ナノ粒子が、総脂質の5%~90%のモル比の非カチオン性脂質を含む、請求項3に記載の組成物」と記載されているが、請求項4は、請求項1を間接的に引用する以上、本件発明4において、総脂質に対する非カチオン性脂質の割合は、「5%」を含まないことは明らかである。したがって、請求項4における「総脂質の5%~90%のモル比の非カチオン性脂質を含む」との記載は、本件発明1及び4を不明確にするものではない。
以上より、本件発明1及び4における非カチオン性脂質の含有量に関する記載は第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、請求項22、及び請求項22を間接的に引用する請求項24における、総脂質に対する非カチオン性脂質の割合の特定についても、同様の理由により、本件発明22及び24を不明確とするものではない。
(ウ)コレステロールの含有量について
請求項1における「(i)」、「(ii)」、「(iii)」では、それぞれの成分について、総脂質に対する割合の単位が「モル比」であることが明記されている一方で、請求項1には、「(iv)前記脂質ナノ粒子の総脂質の10%より多くのコレステロールを含」むと記載されており、総脂質に対するコレステロールの割合について単位が記載されていない。
ここで、「(iv)」の成分であるコレステロールについて、本件特許明細書における記載を検討すると、次のように記載されている。
「【0061】
本発明は、非カチオン性脂質の使用も企図する。本明細書で使用される「非カチオン性脂質」という語句は、任意の中性、両性イオン性、またはアニオン性脂質を指す。本明細書で使用される「アニオン性脂質」という語句は、生理学的pH等の選択されたpHで正味の負電荷を担持するいくつかの脂質種のうちのいずれかを指す。非カチオン性脂質には、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオールエオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオールエオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオールエオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジオールエオイル-ホスファチジルエタノールアミン4-(N-メレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート(DOPE-mal)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイル-ホスファチジル-エタノールアミン(DSPE)、16-O-モノメチルPE、16-O-ジメチルPE、18-1-トランスPE、1-ステアロイル-2-オレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、コレステロール、またはそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。そのような非カチオン性脂質は単独で使用され得るが、好ましくは、他の賦形剤、例えば、カチオン性脂質と組み合わせて使用される。カチオン性脂質と組み合わせて使用される場合、非カチオン性脂質は、移送ビヒクル中に存在する総脂質の5%~約90%、または好ましくは、約10%~約70%のモル比を含み得る。
【0062】
好ましくは、移送ビヒクル(例えば、脂質ナノ粒子)は、複数の脂質および/またはポリマー成分を合わせることによって調製される。例えば、移送ビヒクルは、モル比40:30:25:5のC12-200、DOPE、chol、DMG-PEG2K、またはモル比18:56:20:6のDODAP、DOPE、chol、DMG-PEG2K、またはモル比40:20:35:5のHGT5000、DOPE、chol、DMG-PEG2K、またはモル比40:20:35:5のHGT5001、DOPE、chol、DMG-PEG2Kを用いることによって調製され得る。カチオン性脂質、非カチオン性脂質、および/または脂質ナノ粒子を含むPEG修飾脂質の選択、ならびに相互に対するそのような脂質の相対モル比は、選択される脂質(複数を含む)の特性、対象とする標的細胞の性質、送達されるmRNAの特性に基づく。さらに考慮すべき事柄には、例えば、アルキル鎖の飽和、ならびに選択される脂質(複数を含む)の大きさ、電荷、pH、pKa、融合性、および毒性が含まれる。したがって、モル比は、それらに応じて調整され得る。例えば、実施形態において、脂質ナノ粒子中のカチオン性脂質の割合は、10%を超えるか、20%を超えるか、30%を超えるか、40%を超えるか、50%を超えるか、60%を超えるか、または70%を超え得る。脂質ナノ粒子中の非カチオン性脂質の割合は、5%を超えるか、10%を超えるか、20%を超えるか、30%を超えるか、または40%を超え得る。脂質ナノ粒子中のコレステロールの割合は、10%を超えるか、20%を超えるか、30%を超えるか、または40%を超え得る。脂質ナノ粒子中のPEG修飾脂質の割合は、1%を超えるか、2%を超えるか、5%を超えるか、10%を超えるか、または20%を超え得る。」
上記の【0060】によれば、コレステロールは、非カチオン性脂質に含まれるものである。
そして、【0060】及び【0061】において、脂質ナノ粒子中における非カチオン性脂質の相対的な割合は「モル比」を単位として表されている。
さらに、本件特許明細書には、コレステロールを含有する移送ビヒクルの組成について、「モル比40:30:25:5のC12-200、DOPE、chol、DMG-PEG2K」と記載されるように、脂質ナノ粒子におけるコレステロールの割合が、その他の構成成分であるカチオン性脂質、非カチオン性脂質、PEG修飾脂質と同様にモル比で表されている。
以上の検討によれば 、請求項1における、「(iv)前記脂質ナノ粒子の総脂質の10%より多くのコレステロール」という記載において、コレステロールの割合を示す「10%」という数値の単位は、特許請求の範囲の記載及び、本件特許明細書の記載を考慮すれば、「モル比」であると理解できる。
そして、上記解釈と異なることを示す、出願時の技術常識も見いだせない。
以上のとおり、本件発明1におけるコレステロールの割合の記載は、明確であり、特許請求の範囲の記載のみならず、本件特許明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、本件発明22におけるコレステロールの割合の単位についても同様の理由により、不明確であるとはいえない。
(エ)非カチオン性脂質とコレステロールの関係及び含有量について
請求項1には、脂質ナノ粒子が、「(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質」を含み、「(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロールを含」むことが記載されている。
ここで、上記(ウ)で検討したとおり、「(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロールを含」むという発明特定事項における「10%」の単位はモル比であると解釈される。
そうすると、本件発明1は、脂質ナノ粒子が、「(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質」及び「(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのモル比のコレステロール」を含むことを特定したものと解釈される。そして、上記(ウ)で検討したとおり、コレステロールは、非カチオン性脂質に含まれるものであるから、両者の関係は明確であり、脂質ナノ粒子中の総脂質に対する非カチオン性脂質が含まれる割合である「5%より多くのモル比」に、脂質ナノ粒子中の総脂質に対するコレステロールが含まれる割合である「10%より多くのモル比」が含まれることも明確である。
そうすると、非カチオン性脂質が含まれる割合は、コレステロールが含まれる割合である「10%より多くのモル比」であり、「5%より多く10%」であるモル比は含まれないことが明らかである。
したがって、請求項1における、脂質ナノ粒子が、「(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質」を含み、「(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロールを含」むとの記載は、本件発明1を不明確にするものではない。
以上より、本件発明1における非カチオン性脂質とコレステロールの関係及び含有量に関する記載は、特許請求の範囲のみならず、本件特許明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、請求項22に記載される非カチオン性脂質とコレステロールの関係、及び含有量についても同様の理由により、不明確であるとはいえない。
(オ)請求項4及び24の数値範囲について
請求項4には、「前記脂質ナノ粒子が、総脂質の5%~90%のモル比の非カチオン性脂質を含む、請求項3に記載の組成物」と記載されており、引用する請求項3には、「前記脂質ナノ粒子が、総脂質の1%~20%のモル比のPEG修飾脂質を含む、請求項2に記載の組成物。」と記載されており、さらに引用する請求項1には、「前記脂質ナノ粒子は、(i)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の1%より多くのモル比のPEG修飾脂質、(ii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の20%~70%のモル比のカチオン性脂質、(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質、および(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロールを含み」と記載されている。
そうすると、請求項4は、請求項1に記載された「(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質」を含むという発明特定事項を、さらに「総脂質の5%~90%のモル比の非カチオン性脂質」を含むことを特定するものである。
そして、本件発明4が引用する請求項3及びさらに請求項3が引用する請求項1では、「(iii)」の「非カチオン性脂質」以外の成分について、「(i)」でPEG修飾脂質、「(ii)」でカチオン性脂質、「(iv)」でコレステロールについて、総脂質に対する割合がそれぞれ特定されているから、本件発明4は、「(i)」~「(iv)」のそれぞれの成分の総脂質に対する割合を、それぞれで特定する範囲から合計で100%を超えない範囲で選択するものと解するのが自然であるから、本件発明4が、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確であるとはいえない。
そして、請求項24に記載される数値範囲の記載についても同様の理由により、不明確であるとはいえない。
以上のとおり、申立人の主張は採用できない。
(3)まとめ
したがって、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するから、申立理由Aによっては本件特許発明1~10、16~19、22~27、30、31に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由B、C(新規性、進歩性欠如)について
本件優先日(2011年6月8日)の後であって、本件出願日(2012年6月8日)の前において公知となったものである、甲6に記載された事項に基づく申立理由B及びCはいずれも、優先権基礎出願1を伴う本件出願に係る、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31についてのパリ条約による優先権の主張の効果が認められないことが前提となるものである。
そこで、まず、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31についてのパリ条約による優先権の主張の効果が認められるか否かについて検討する。
(1)本件特許出願についてのパリ条約による優先権の主張の効果について
本件特許出願は、本件優先日にした優先権基礎出願1を基礎としてパリ条約による優先権を主張し、本件出願日を国際出願日とする原出願の一部を、2020年8月18日に新たな出願として分割出願されたものである。
そして、本件特許出願は、適法に分割出願された出願であると認める。
ここで、パリ条約では、優先権基礎出願に基づくパリ条約第4条Bの優先権主張の効果が認められるために、「発明の構成部分」が第一国出願に係る出願書類の全体により明らかにされていなければならないものとされている(パリ条約第4条H)。
(2)判断の前提
本件特許出願について、優先権基礎出願1に基づくパリ条約第4条Bの優先権主張の効果が認められるためには、本件特許出願の明細書、請求の範囲又は図面の全体の記載を考慮して把握される請求項に係る発明が、第一国出願である優先権基礎出願1の出願書類(以下「優先権基礎出願1明細書」等ともいう。)の全体に記載した事項の範囲内のものである必要がある。
このことは、本件発明に係る請求項の記載が、優先権基礎出願1明細書について補正されたものであると仮定した場合において、その補正がされたことにより、本件発明が「第一国出願の出願書類全体に記載した事項」、すなわち、優先権基礎出願1明細書全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないかという観点で判断されるべきものである。
(3)判断
当審合議体は、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31が、「第一国出願の出願書類全体に記載した事項」、すなわち、優先権基礎出願1明細書全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないと判断する。
ア 優先権基礎出願1明細書に記載された事項
優先権基礎出願1明細書(米国仮出願61/494881号明細書、甲5に相当。)には、次の事項が記載されている。
なお、英文で記載されているため、当審合議体による翻訳文にて記載し、また、下線は当審合議体が付し、「・・・」は中略を示す。
(ア)2頁1~8行
「発明の概要
既存の遺伝子的欠陥を修正することができ、及び/又は1以上の標的細胞に有益な機能を提供することができる核酸の細胞内送達の方法が開示されている。標的組織及び標的細胞への送達に成功した後、標的細胞及び核酸(例えば、mRNA)は、目的の遺伝子産物(例えば、機能性タンパク質又は酵素)に翻訳されるか、又は、目的の遺伝子産物の存在又は発現を変調又は制御することができる。」
(イ)2頁22~28行
「1つの実施形態において、本明細書で提供される組成物は、核酸、移送ビヒクル、及び任意選択的に、標的細胞との接触及びその後のトランスフェクションを促進する薬剤を含み得る。核酸は、臨床的に有用な遺伝子産物又はタンパク質をコードすることができる。例えば、核酸は機能性尿素回路酵素又はリソソーム蓄積症に関与する酵素をコードし得る。
好ましい態様において、核酸はRNAであり、より好ましくは、機能性タンパク質又は酵素をコードするmRNAである。・・・」
(ウ)3頁5~14行
「・・・ある実施態様では、mRNAは、(例えば、野生型又は天然バージョンのmRNAと比較して)mRNAに安定性を付与する1つ以上の修飾を含んでもよく、また、野生型に対して、関連するタンパク質の異常発現に関与する欠陥を修正する1つ以上の修飾を含んでもよい。例えば、本発明の核酸は、5’及び3’非翻訳領域の一方又は両方に対する修飾を含み得る。このような修飾には、サイトメガロウイルス(CMV)前初期1(IE1)遺伝子、ポリAテール、CapI構造、又はヒト成長ホルモン(hGH)をコードする配列が含まれるが、これらに限定されない。」
(エ)5頁30~32行
「移送ビヒクルは、例えば、リポソーム又は脂質ナノ粒子であり得る。移送ビヒクルは、1以上のカチオン性脂質、1以上の非カチオン性脂質、及び/又は1以上のPEG修飾脂質を含むことができる。・・・」
(オ)7頁12~19行
「・・・本明細書に記載された研究はまた、(a)少なくともその一部が機能性ポリペプチドをコードする少なくとも1つのmRNA;及び(b)移送ビヒクルを含む組成物を投与することを含む、標的細胞において機能性タンパク質を発現する方法を提供し、ここで、該組成物の投与後、該mRNAは標的細胞において発現されて機能性ポリペプチドを生成し、かつ該ポリペプチドは、投与後4時間、6時間、12時間、24時間、又は48時間を超える有意なレベルで該標的細胞により発現される。・・・」
(カ)23頁16~19行
「・・・・いくつかの態様において、リポソームのような移送ビヒクルは、生物学的活性を損なうことなく核酸をカプセル化する。・・・・」
(キ)26頁16~18行
「意図されるリポソーム移送ビヒクル及び脂質ナノ粒子は、1以上のカチオン性脂質、非カチオン性脂質及びPEG修飾脂質を様々な比率で含む、多成分脂質混合物によって調製され得る。・・・」
(ク)28頁下から3行~29頁2行
「・・・カチオン性脂質は、移送ビヒクル中に存在する総脂質の約1%~約90%、約2%~約70%、約5%~約50%、約10%~約40%、又は好ましくは移送ビヒクル中に存在する総脂質の約20%~約70%のモル比を含むことができる。」
(ケ)30頁2~5行
「本発明のPEG修飾リン脂質および誘導体化脂質は、リポソーム移送ビヒクル中に存在する総脂質の約0%~約20%、約0.5%~約20%、約1%~約15%、約4%~約10%、又は約2%のモル比を含むことができる。」
(コ)30頁6~24行
「本発明はまた、非カチオン性脂質の使用を意図する。・・・非カチオン性脂質には、ジステアリルホスファチジルコリン(DSPC)、・・・ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、・・・コレステロール、又はそれらの混合物が含まれるが、これに限定されない。・・・カチオン性脂質を組み合わされて使用される場合、非カチオン性脂質は、移送ビヒクル中に存在する総脂質の約5%~約90%、又は好ましくは約10%~約70%のモル比を含むことができる。」
(サ)34頁2~4行
「一般に、移送ビヒクルのサイズは、約25~250nmの範囲内であり、好ましくは、約250nm、175nm、150nm、125nm、100nm、75nm、50nm、25nm、又は10nm未満である。」
(シ)41頁23~28行
「核酸は、全長抗体又はより小さい抗体(例えば、重鎖及び軽鎖の両方)をコードして、被験体に免疫性を付与することができる、本発明の一実施形態は、被験体に(例えば、機能性抗体をコードするmRNA核酸の翻訳を介して)免疫性を付与するのに有用な方法および組成物に関する。・・・」
(ス)43頁7~10行
「適切な投与経路には、例えば、経口、直腸、膣、経粘膜、又は腸管投与、筋肉内、皮下、髄内注射、並びに髄腔内、直接的な脳室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内、又は眼内注射を含む非経口送達が含まれる。」
(セ)56頁26行~61頁29行
「実施例9
ポリヌクレオチド組成物のデリバリーによるタンパク質産生デポ
・・・
実施例9A:
C12-200、DOPE、Chol及びDMG-PEG2Kエタノール溶液50mg/mLのアリコートを混合し、エタノールで希釈して最終容量3mLとした。
別に、1mg/mLストックからGLAmRNAの水性緩衝液(10mMクエン酸塩/150mMNacl、pH4.5)を調製した。脂質溶液をmRNA水溶液に急速に注入し、振盪して、20%エタノール中の最終懸濁液を得た。得られたナノ粒子懸濁液を濾過し、1×PBS(pH7.4)で透析濾過し、濃縮し、2~8℃で保存した。最終濃度=0.85mg/mL GLA mRNA(封入)。Z平均=81.2nm(DV(50),=63.2nm;DV(90)=104nm)。
実施例9B
DODAP、DOPE、Chol及びDMG-PEG2Kエタノール溶液50mg/mLのアリコートを混合し、エタノールで希釈して最終容量3mLとした。
別に、1mg/mLストックからEPOmRNAの水性緩衝液(10mMクエン酸塩/150mMNacl、pH4.5)を調製した。脂質溶液をmRNA水溶液に急速に注入し、振盪して、20%エタノール中の最終懸濁液を得た。得られたナノ粒子懸濁液を濾過し、1×PBS(pH7.4)で透析濾過し、濃縮し、2~8℃で保存した。最終濃度=1.35mg/mL EPO mRNA(封入)。Z平均=75.9nm(DV(50),=57.3nm;DV(90)=92.1nm)。
・・・
結果
この実施例に記載された研究は、タンパク質の産生のためのデポ源としてもmRNAカプセル化脂質ナノ粒子の使用を実証する。このようなデポ効果は、体内の複数の部位(すなわち、肝臓、腎臓、脾臓、筋肉など)で達成され得る、リポソームナノ粒子を介して送達されたメッセンジャーRNAから誘導された所望の外因性ベースのタンパク質の測定が達成され、定量化され、ヒトエリスロポエチン(EPO)及びヒトα-ガラクトシダーゼ(GLA)を用いたデポからタンパク質の分泌が実証された。」
イ 本件発明1~10、16~19、22~27、30、31が優先権基礎出願1明細書に記載されていることについて
(ア)本件発明1について
本件発明1は、本件特許の請求項1に記載されるとおり、
「タンパク質またはペプチドの生体内での生産のためのメッセンジャーRNA(mRNA)の送達のための組成物であって、
前記組成物は、前記タンパク質または前記ペプチドをコードするmRNAおよび脂質ナノ粒子を含み、前記mRNAは前記脂質ナノ粒子内にカプセル化されており、
前記組成物の投与は、前記mRNAにコードされる前記タンパク質または前記ペプチドの発現をもたらし、前記脂質ナノ粒子は、
(i)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の1%より多くのモル比のPEG修飾脂質、
(ii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の20%~70%のモル比のカチオン性脂質、
(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質、
および
(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロール
を含み、
前記非カチオン性脂質はDOPEまたはDSPCを含む、
組成物。」である。
一方、優先権基礎出願1明細書には、発明の概要において、「既存の遺伝的欠陥を修正することができ、及び/又は1以上の標的細胞に有益な機能を提供することができる核酸の細胞内送達の方法が開示されている」こと、「標的細胞への送達に成功した後、標的細胞及び核酸(例えば、mRNA)は、目的の遺伝子産物(例えば、機能性タンパク質又は酵素)に翻訳される」ことができることが記載されており(摘記ア(ア))、「核酸」は、「機能性タンパク質又は酵素をコードするmRNAである」ことが記載されている(摘記ア(イ))。
そして、優先権基礎出願1明細書には、「標的細胞において機能性タンパク質を発現」させるための組成物であって、「機能性ポリペプチドをコードする少なくとも1つのmRNA及び、移送ビヒクルを含む組成物」が記載されており(摘記ア(オ))、前記「移送ビヒクル」は、「核酸をカプセル化する」こと(摘記ア(カ))、「脂質ナノ粒子であり得」、「1以上のカチオン性脂質、1以上の非カチオン性脂質、1以上のPEG修飾脂質を含むことができる」こと(摘記ア(エ))が示されている。
また、優先権基礎出願1明細書には、脂質ナノ粒子における脂質の混合比率について、「脂質ナノ粒子は、1以上のカチオン性脂質、非カチオン性脂質及びPEG修飾脂質を様々な比率で含む、多成分脂質混合物によって調製され得る。」(摘記ア(キ))と記載された上で、「カチオン性脂質は、移送ビヒクル中に存在する総脂質の約20%~約70%のモル比を含むことができる。」こと(摘記ア(ク))、「PEG修飾リン脂質は、移送ビヒクル中に存在する総脂質の約0%~約20%、約1%~約15%、約4%~約10%、又は約2%のモル比を含むことができる。」こと(摘記ア(ケ))、「非カチオン性脂質は、移送ビヒクル中に存在する総脂質の約5%~約90%、又は好ましくは約10%~約70%のモル比を含むことができる。」こと(摘記ア(コ))が記載されている。
さらに、優先権基礎出願1明細書には、「非カチオン性脂質には、ジステアリルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(EOPE)、コレステロール、又はそれらの混合物が含まれる。」ことも記載されている(摘記ア(コ))。
くわえて、優先権基礎出願1明細書には、C12-200、DOPE、Chol、DMG-PEG2Kを含む脂質ナノ粒子に、GLAmRNAを封入した態様や、DODAP、DOPE、Chol、DMG-PEG2Kを含む脂質ナノ粒子に、EPOmRNAを封入した態様も開示されている(摘記ア(セ))。
ここで、優先権基礎出願1明細書では、脂質ナノ粒子中の総脂質における、PEG修飾脂質のモル比について、「1%より多く」のモル比とすることが明記されてはいない。
しかしながら、優先権基礎出願1明細書では、脂質ナノ粒子における脂質について、1以上のカチオン性脂質、非カチオン性脂質およびPEG修飾脂質を様々な比率で含む多成分脂質とできることが記載された上で、PEG修飾脂質について、脂質ナノ粒子中の総脂質における好ましいモル比として、上記の「約1%~約15%」とあるように、その下限を約1%とすること記載されていることにくわえて、「約1%」を超える「約4%~約10%、または約2%」とすることも記載されていることを考慮すれば、PEG修飾脂質のモル比について、「1%より多く」することは、優先権基礎出願1明細書の全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでない。
また、優先権基礎出願1明細書では、脂質ナノ粒子中の総脂質における、非カチオン性脂質について、「5%より多く」のモル比とすることは明記されていない。
しかしながら、優先権基礎出願1明細書では、脂質ナノ粒子における脂質について、1以上のカチオン性脂質、非カチオン性脂質およびPEG修飾脂質を様々な比率で含む多成分脂質とできることが記載された上で、非カチオン性脂質について、脂質ナノ粒子中の総脂質における好ましいモル比として、上記の「約5%~約90%」とあるように、その下限を約5%とすることが記載されていることにくわえて、「約5%」を超える「約10%~約70%」が好ましい態様として記載されていることを考慮すれば、非カチオン性脂質のモル比について、「5%より多く」することについては、優先権基礎出願1明細書の全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでない。
さらに、優先権基礎出願1明細書では、脂質ナノ粒子中の総脂質における、コレステロールについて、「10%より多く」のモル比とすることは明記されていない。
しかしながら、優先権基礎出願1明細書では、脂質ナノ粒子における脂質について、1以上のカチオン性脂質、非カチオン性脂質およびPEG修飾脂質を様々な比率で含む多成分脂質とできることが記載された上で、非カチオン性脂質について、脂質ナノ粒子中の総脂質における好ましいモル比として、上記の「約10%~約70%」とあるように、その下限を約10%とすること記載されており、ここで、非カチオン性脂質はコレステロールを含むことが記載されていることを考慮すれば、コレステロールのモル比について、「10%より多く」することについては、優先権基礎出願1明細書の全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでない。
以上によれば、優先権基礎出願1明細書には、本件発明1である本件請求項1における記載自体はないものの、当該記載が優先権基礎出願1明細書について補正されたものであると仮定した場合において、その補正がされたことにより、本件発明1が「第一国出願の出願書類全体に記載した事項」、すなわち優先権基礎出願1明細書全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから 、本件発明1についてパリ条約による優先権の主張の効果が認められるといえる。
(イ)本件発明22について
本件発明22は、本件特許の請求項22に記載されるとおり、
「脂質ナノ粒子内にカプセル化されたタンパク質またはペプチドをコードするmRNAを含む組成物であって、
前記脂質ナノ粒子は、150nm未満の寸法を有し、
(i)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の1%より多くのモル比のPEG修飾脂質、
(ii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の20%~70%のモル比のカチオン性脂質、
(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質、
および
(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロール を含み、
前記mRNAは、
(i)5’-UTR、
(ii)3’ -UTR、
(iii)5’キャップ構造、および
(iv)ポリA尾部 を含む、組成物。」である。
ここで、(ア)で検討したとおり、「脂質ナノ粒子内にカプセル化されたタンパク質またはペプチドをコードするmRNAを含む組成物であって、(i)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の1%より多くのモル比のPEG修飾脂質、(ii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の20%~70%のモル比のカチオン性脂質、(iii)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の5%より多くのモル比の非カチオン性脂質、および(iv)前記脂質ナノ粒子中の総脂質の10%より多くのコレステロールを含」む「組成物」については、当該「組成物」に係る記載が優先権基礎出願1明細書について補正されたものであると仮定した場合において、その補正がされたことにより、「第一国出願の出願書類全体に記載した事項」、すなわち、優先権基礎出願1明細書全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
くわえて検討するに、優先権基礎出願1明細書には、「mRNAは、」「mRNAに安定性を付与する1つ以上の修飾を含んで」よいこと、当該修飾として、「5’及び3’非翻訳領域の一方又は両方に対する修飾を含み得」、「このような修飾には、ポリAテール、CapI構造をコードする配列が含まれる」ことが記載され(摘記ア(ウ))、「移送ビヒクルのサイズは、150nm未満」(摘記ア(サ))であることが記載されている。
そうしてみると、本件発明22についても、摘記ア(ア)~(セ)に記載した事項を含めた優先権基礎出願1明細書全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、パリ条約による優先権の主張の効果が認められるといえる。
(ウ)本件発明2~10、16~19、23~27、30、31について
本件発明1、22を直接的又は間接的に引用する本件発明2~10、16~19、23~27、30、31における各発明特定事項についても、そのいずれも、優先権基礎出願1の出願時における技術常識を踏まえ、摘記ア(ア)~(セ)に記載した事項を含めた優先権基礎出願1明細書全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件発明2~10、16~19、23~27、30、31についても、パリ条約による優先権の主張の効果が認められる。
ウ 申立人の主張について
申立人は、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31は、甲5(優先権基礎出願1明細書)に記載されていないから、甲5(優先権基礎出願1明細書)に基づく優先権の主張の効果は認められず、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31は甲5(優先権基礎出願1明細書)に基づく優先権主張の利益を享受することはできない旨、主張する(申立書15頁11行~18頁6行)。
しかしながら、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31が、優先権基礎出願1に基づいてパリ条約による優先権の主張の効果が認められることは上記イに記載したとおりであり、申立人の主張は採用できない。
エ まとめ
以上のとおり、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31は、第一国出願である米国仮出願61/494881号に基づいてパリ条約による優先権の主張の効果が認められる。
そして、特許法第41条第2項の規定により、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31についての同法第29条の規定の適用については、本件出願は、米国仮出願61/494881号の出願の時である「2011年6月8日」にされたものとみなされる。
(2)申立理由B、C(新規性、進歩性の欠如)について
申立人が、申立理由B、C(新規性、進歩性の欠如)の根拠とする証拠である甲6(国際公開第2012/031043号)は、「2012年3月8日」を公知日とする特許文献である。
ここで、甲6の公知日である「2012年3月8日」は、本件特許についての出願がされた時とみなされる「2011年6月8日」よりも後の日であるから、甲6に記載された発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」に該当しない。
そうすると、申立人の主張する、本件発明1~10、16~19、22~27、30、31が特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとする申立理由B、及び本件発明1~10、16~19、22~27、30、31が同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとする申立理由Cはいずれも理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1~10、16~19、22~27、30、31に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~10、16~19、22~27、30、31に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1~10、16~19、22~27、30、31に係る特許について、結論のとおり決定する。
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2025-700884