特許異議申立
2021-700578
エンボス化粧シート及びその製造方法
- 審判番号
- 2021-700578
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-199880
- 登録番号
- 6809110
- 請求日
- 2021年06月16日
- 審決日
- 2022年04月28日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】廣瀬 一
- 【権利者代理人】宮坂 徹
- 【権利者代理人】田中 秀▲てつ▼
- 【異議申立人】下河 あい
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 柳本 幸雄
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6809110号発明「エンボス化粧シート及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6809110号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第6809110号の請求項1、3~8に係る特許を維持する。
特許第6809110号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6809110号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成28年10月11日の出願であって、令和2年12月14日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯の概要は、次のとおりである。
令和3年 6月16日 :特許異議申立人下河あい(以下「申立人」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年11月12日付け:取消理由通知書
令和4年 1月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和4年 3月 9日 :申立人による意見書の提出
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された
「引っ張り弾性率が2000~10000kgf/cm2であり、
前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下であり、
前記接着剤層は、ウレタン樹脂系接着剤であることを特徴とする」を、
「引っ張り弾性率が2000~5000kgf/cm2であり、
前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下であり、
前記接着剤層は、ウレタン樹脂系接着剤であり、
前記プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5~30重量部の割合で含有することを特徴とする」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~8も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項5に記載された
「ことを特徴とする請求項1~2に記載のエンボス化粧シート。」を、
「ことを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。」に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~8も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項8に記載された
「請求項1から7のいずれか1項に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、」を、
「請求項1及び請求項3から7のいずれか1項に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、」に訂正する。
(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0061】に記載された
「引っ張り弾性率が2000未満の場合」を、
「引っ張り弾性率が10000kgf/cm2を超える場合」に訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~8は、請求項2~8が、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。
また、明細書の訂正に係る訂正事項5は、一群の請求項〔1~8〕の全てについて行うものである。
3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「引っ張り弾性率」及び「プライマー層」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、本件特許の明細書の【0097】、並びに訂正前の請求項2及び【0086】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3、4について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項5が請求項1、2を引用していたところ、請求項2の削除に伴い請求項1のみを引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
同様に、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項5について
願書に添付した明細書には、「引っ張り弾性率」と「折り曲げ部の白化現象」の関係に関して、次の記載がある。
「【0061】
また、引っ張り弾性率が2000未満の場合には、低温での折り曲げ試験において、折り曲げ部の白化現象が発生する場合がある。」
「【0106】
(比較例1)(引っ張り弾性率が高すぎる)
第2の樹脂に、引っ張り伸度120%且つ引っ張り弾性率12000kgf/cm2であるポリプロピレン樹脂を使用する以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0107】
(比較例2)(引っ張り弾性率が低すぎる)
第2の樹脂に、引っ張り伸度200%且つ引っ張り弾性率1000kgf/cm2であるポリプロピレン樹脂を使用する以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。」
「【0114】
・・・
低温折り曲げ性評価:前記化粧板のMDF側からエンボス化粧シート1に達するV溝を刻んだ後、5℃の低温環境下に3時間放置した直後に折り曲げ加工を行い、曲げ部分のシートの白化の有無を確認した。
【0115】
○:白化は見られない ×:白化が見られた」
「【0123】
【表2】
[図:0001386121000001.jpg]
【0124】
比較例1より、透明熱可塑性樹脂層5の引っ張り弾性率が10000kgf/m2を超えると、化粧板とした後の切削加工により、バリが発生し、且つ低温屈折試験において、折り曲げ部の白化が生じることが判った。
【0125】
また、比較例2より、透明熱可塑性樹脂層5の引っ張り弾性率が2000kgf/m2より小さいと、化粧板とした後の切削加工により、バリが発生することが判った。」
願書に添付した明細書の【0061】には、「引っ張り弾性率」が2000kgf/cm2未満の場合には、低温での折り曲げ試験において、折り曲げ部の白化現象が発生する場合があることが記載されている。
他方、明細書の【0106】、【0107】、【0114】、【0115】、【0123】~【0125】には、「引張弾性率1000kgf/cm2」のように「引張弾性率が低すぎる」場合(比較例2)に、「低温屈曲性」が「白化は見られない」結果となっていること、及び「引っ張り弾性率12000kgf/cm2」のように「引っ張り弾性率が高すぎる」場合(比較例1)に、「低温屈曲性」が「白化が見られた」結果となっていることが記載されている。
そうすると、明細書の【0061】の記載と、明細書の【0106】、【0107】、【0114】、【0115】、【0123】~【0125】の記載とが整合していなかった。
訂正事項5は、明細書の【0106】、【0107】、【0114】、【0115】、【0123】~【0125】の記載との関係において不合理を生じていた明細書の【0061】の記載を正すものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項5は、本件特許の明細書【0124】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4~6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、3~8に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層、及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも前記透明熱可塑性樹脂層にエンボスが形成されており、且つ前記熱可塑性樹脂基材シートの裏面に表面活性化処理が施されており、該表面活性化処理された面にプライマー層を設けてあるエンボス化粧シートであって、
前記透明熱可塑性樹脂層は、前記熱可塑性樹脂基材シート側から、第1の樹脂を含んでなる層と、前記第1の樹脂とは異なる第2の樹脂を含んでなる層とがこの順に積層されており、
前記第1の樹脂を含んでなる層は透明マレイン酸変性ポリプロピレンを含んでおり、第2の樹脂を含んでなる層は、紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物と、透明ポリプロピレンとを含んでおり、且つ、引っ張り伸度が50~700%で且つ引っ張り弾性率が2000~5000kgf/cm2であり、
前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下であり、
前記接着剤層は、ウレタン樹脂系接着剤であり、
前記プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5~30重量部の割合で含有することを特徴とするエンボス化粧シート。」
「【請求項3】
前記第2の樹脂を含んでなる層に含まれる光安定剤がアミン型光安定剤であることを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。
【請求項4】
前記第2の樹脂を含んでなる層に含まれる光安定剤がアミノエーテル型光安定剤であることを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。
【請求項5】
前記表面保護層は熱硬化型樹脂又は電離放射線硬化型樹脂、又はその複合物からなり、更に紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。
【請求項6】
前記表面保護層に含まれる光安定剤がアミン型光安定剤であることを特徴とする請求項5に記載のエンボス化粧シート。
【請求項7】
前記表面保護層に含まれる光安定剤がアミノエーテル型光安定剤であることを特徴とする請求項5に記載のエンボス化粧シート。
【請求項8】
請求項1及び請求項3から7のいずれか1項に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、
熱可塑性樹脂基材シート上に、印刷によって絵柄模様層を形成した後、その絵柄模様層上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成し、同時に前記透明熱可塑性樹脂層にエンボス加工を行うことを特徴とするエンボス化粧シートの製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~8に係る特許に対して、当審が令和3年11月12日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
なお、取消理由は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由のすべてを含んでいる。
(1)取消理由1(記載要件不備)
本件特許は、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号、並びに同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 本件特許の課題を解決するための手段
請求項1に係る発明は、本件特許の課題を解決するための手段のうち、「プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5~30重量部の割合で含有する」ことを発明特定事項としてないため、請求項1に係る発明、及び請求項2を引用しない請求項3~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
イ 「引っ張り伸度」及び「引っ張り弾性率」について
請求項1に記載された「引っ張り伸度」及び「引っ張り弾性率」が不明であるから、請求項1~8に係る発明は不明確であり、発明の詳細な説明には、請求項1~8に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、請求項1~8に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではない。
ウ 「引っ張り伸度」及び「引っ張り弾性率」の数値について
発明の詳細な説明の【0061】の記載と、比較例2(【0107】、【0123】)の記載が整合していないため、低温折り曲げ加工性を良くするために、引っ張り弾性率をどのように変更すればよいのか、当業者であっても理解できない。
また、発明の詳細な説明の【0061】の記載と、比較例1(【0106】、【0123】)の記載が整合していないため、「低温屈折性」が「白化が見られた」結果となった比較例1についても、引っ張り弾性率をどのように変更すればよいのか、当業者であっても理解できない。
(2)取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲1:特開2016-168830号公報(甲第1号証)
甲2:特開2005-125582号公報(甲第2号証)
甲3:特開平10-296934号公報(甲第3号証)
2 当審の判断
(1)取消理由1(記載要件不備)について
ア 上記1(1)アについて
本件訂正の訂正事項1に係る訂正によって、本件発明1が「プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5~30重量部の割合で含有する」ことを発明特定事項とするものとなったため、本件発明1、3~8は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではなくなった。
イ 上記1(1)イについて
「伸度」は「伸びる度合」を意味すると解されるところ、「伸び」の「度合」に関する用語として、「プラスチック-引張特性の試験方法 第1部:通則」(JIS K 7161-1994)には、「引張ひずみ」が定義されているから、請求項1に記載された「引っ張り伸度」は、同規格の「引張ひずみ」に準拠するものであることが理解できる。
また、「プラスチック-引張特性の試験方法 第1部:通則」(JIS K 7161-1994)には、「引張弾性率」が定義されており、請求項1に記載された「引っ張り弾性率」は「引張弾性率」と読みが同じであることから、同規格の「引張弾性率」に準拠するものであることが理解できる。
ウ 上記1(1)ウについて
本件訂正の訂正事項5に係る訂正によって、明細書の【0061】の記載と、明細書の【0106】、【0107】、【0114】、【0115】、【0123】~【0125】の記載とが整合するものとなったため、エンボス化粧シートの低温折り曲げ加工性を良くするために、引っ張り弾性率をどのように変更すればよいのか、理解できるものとなった。
エ 小括
上記ア~ウのとおりであるから、本件発明1、3~8は明確であり、発明の詳細な説明は、本件発明1、3~8について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件発明1、3~8は発明の詳細な説明に記載したものである。
(2)取消理由2(進歩性)について
ア 引用文献
甲1には次の記載がある。
「【0006】
また、通常、ポリプロピレン樹脂の球晶サイズは可視光の波長(400~750nm)よりも大きいため乳白色であるが、透明樹脂層においては、下層に設けられた絵柄層や原反シートを保護するとともに、それらに印刷された絵柄や模様等が化粧シートの最表面からクリアに見えることが必要であり、意匠性の観点から透明樹脂層に用いられる材料には特に高い透明性が求められている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明においては、意匠性の観点から高い透明性と、表面の耐擦傷性およびV溝曲げ加工等の後加工の影響を受けない耐後加工性とに優れた透明樹脂層およびトップコート層を備える化粧シートを提供することを目的とする。」
「【0055】
本発明の化粧シートにおいては、透明樹脂層に対してナノサイズの造核剤、より好ましくは、造核剤ベシクルを含有させていることにより、結晶性ポリプロピレン樹脂の結晶部における球晶の平均粒径を極めて小径として、優れた耐擦傷性を実現している。特に、造核剤ベシクルを含有させることにより、結晶性ポリプロピレン樹脂中に造核剤を均一に分散させて、結晶性ポリプロピレンの結晶化度をコントロールして当該透明樹脂層の硬度および靭性が最適となるように調整し、引張弾性率が800MPa以上、2000MPa以下、かつ、引張破断伸度が200%以上の優れた耐擦傷性および耐後加工性を実現することができる。」
「【0068】
原反層としては、意匠性、耐擦傷性および耐後加工性に特化させた化粧シートとする場合には、薄葉紙、チタン紙、樹脂含浸紙などの紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、アクリルなどの合成樹脂、あるいはこれら合成樹脂の発泡体、エチレン-プロピレン共重合ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合ゴム、ポリウレタンなどのゴム、有機もしくは無機系の不織布、合成紙、アルミニウム、鉄、金、銀などの金属箔などから適宜選択して用いることができる。
【0069】
不燃材料からなる化粧シートとする場合には、前記ナノサイズの添加剤が含まれた樹脂層からなる原反層を採用することが好ましく、ナノサイズの添加剤としての分散剤と、無機フィラーとを含むことが重要である。特に、当該ナノサイズの分散剤がベシクルの状態(分散剤ベシクル)で含有されていることが好ましい。分散剤は、超臨界逆相蒸発法における外膜のその他の形態にて挙げた分散剤から適宜選択して用いることができるが、ベシクルに内包する物質と外膜に用いられる物質とは異なる物質を用いることが好ましい。無機フィラーは、原反層の主成分であるポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、50~900重量部の割合で含まれていることが重要である。なお、本明細書においては、原反層を構成する樹脂組成物を調製する際の混合比によって形成後の原反層に対する無機フィラーの含有量を特定することとしているが、これは、前記配合量を添加して得られた樹脂組成物から形成された原反層は、完成した化粧シートに対して曲げ加工などの後加工がなされると、その加工の変形に伴って無機フィラーが移動する現象が生じるが、当該無機フィラーの移動は原反層の全体に亘って均一に生じるものではなく、例えば、表面付近は樹脂の変形が大きく、それに伴って無機フィラーの移動量も多くなるので、原反層内部の無機フィラーの密度と表面付近の無機フィラーの密度とに差異が生じるため、一概に、形成された後の原反層について単位体積当たりに含まれる無機フィラーの含有量を特定することは現実的に困難とされているためである。また、形成された後の原反層中の無機フィラーの含有量を特定する場合、当該原反層を構成する樹脂組成物を無機材料と有機材料とに分離し、当該無機材料中に含まれる無機フィラーの含有量を分析する必要があり、この分析を行うためには複数工程の前処理を要するため、形成された後の原反層中の無機フィラーの含有量の特定には膨大な時間を要し現実的ではない。」
「【0090】
化粧シートの表面の硬度をさらに向上させるためには、トップコート層4として紫外線や電子線照射で硬化する樹脂の使用も可能である。さらに耐候性を向上させるために紫外線吸収剤及び光安定剤を適宜添加してもよい。また各種機能を付与するために抗菌剤、防カビ剤等の機能性添加剤の添加も任意に行える。さらに、表面の意匠性から艶の調整のため、あるいはさらに耐磨耗性を付与するために、アルミナ、シリカ、窒化珪素、炭化珪素、ガラスビーズ等の添加も任意に行える。塗布厚みは通常2μm~10μmが妥当である。」
「【0093】
図2に示す化粧シートは、紙面上部側から順に、トップコート層4、透明樹脂層1、接着剤層6(感熱接着剤層、アンカーコート層、ドライラミ接着剤層)、絵柄層2、原反層7、プライマー層5と積層されている。」
「【0095】
また原反層7としてオレフィン系の原反層のような表面が不活性な基材を用いる場合は、原反層7の表裏にコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、電子線処理、紫外線処理、重クロム酸処理等を行うことが望ましい。さらには原反層7と絵柄層2との間にも密着を確保させるためにプライマー層を設けることもある。また、化粧シートに隠蔽性を付与したい場合には、原反層7として隠蔽性の着色シートを使用しても良いし、隠蔽層3を設けても良い。」
「【0098】
接着剤層6は接着方法として任意の材料選定が可能で、熱ラミネート、押出ラミネート、ドライラミネート等による積層方法があり、接着剤はアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系等の材料から選定できる。通常はその凝集力から2液硬化タイプのものとして、特にイソシアネートを用いたポリオールとの反応で得られるウレタン系の材料を用いることが望ましい。」
「【0102】
図3には図2とは異なる積層タイプの構成の一例を示す。プライマー層5、原反層7、絵柄層2、透明樹脂層1、トップコート層4、接着剤層6等は図2と全く同様であるが、異なるところは接着剤層6と透明樹脂層1の間に接着性樹脂層8が設けられているところである。これは、特に押出ラミネート方法でさらなるラミネート強度を求める場合に行うが、透明樹脂層1と接着性樹脂層8との共押出法でラミネートを行う。
【0103】
上記接着性樹脂層8は、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル系等の樹脂に酸変性を施したもので、厚みは接着力向上の目的から2μm以上、また厚すぎると、折角、高結晶性の透明樹脂層1で表面硬度を向上させたにも関わらず、接着性樹脂層8自体の柔らかさの影響を受けるため20μm以下が望ましい。」
「【0117】
<実施例3>
実施例3においては、図3の構成における実施形態1の化粧シートを作製した。具体的には、隠蔽性のある70μmの原反層7に2液硬化型ウレタンインキ(V180:東洋インキ製造(株)製)にて柄印刷を施して絵柄層2を施し、また、その原反層7の裏面にプライマーコートを施してプライマー層5を設けた。
【0118】
他方、アイソタクチックペンタッド分率が97.8%、MFR(メルトフローレート)が15g/10min(230℃)、分子量分布MWD(Mw/Mn)が2.3の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010:チバスペシャリティケミカルズ社製)を500PPMと、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チヌビン328:チバスペシャリティケミカルズ社製)を2000PPMと、ヒンダードアミン系光安定剤(キマソーブ944:チバスペシャリティケミカルズ社製)を2000PPMと、晶析法によりナノ化処理した2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウムを1000PPMとを添加した樹脂を、ポリエチレン系の易接着性樹脂と共に溶融押出機を用いて共押出しして、透明樹脂層1として使用する厚さ80μmの高結晶性ポリプロピレン製の透明樹脂シートと接着性樹脂層8とを製膜し、前記接着性樹脂層8を介して前記原反層7の絵柄層2面と高結晶性ポリプロピレン製の前記透明樹脂シートによる透明樹脂層1とをエクストルージョンラミネート法により貼り合わせた。なお、共押出製膜時の冷却条件のコントロールにより、製膜された透明樹脂シートの結晶性ポリプロピレン樹脂のヘイズ値は8.3%となった。
【0119】
次に貼り合わせたシートの前記透明樹脂シートによる透明樹脂層1の面に、エンボス用の金型ロールを用いてプレスしてエンボス模様1aを施した後、そのエンボス模様1a面上に2液硬化型ウレタントップコート(W184:大日本インキ(株)製)を塗布量3g/m2にて塗布して、図3に示す総厚155μmの化粧シートを得た。」
「【0189】
<引張弾性率および引張破断伸度の測定方法>
得られた化粧シートについてJISK-7127-4に準じたスーパーダンベルカッター(ダンベル社製)を用いて引張試験用の試験片を作製する。得られた試験片を、引張試験機(テンシロン社製)にセットし、引張り速度50mm/分にて引張り、試験片が切れる直前の長さと、試験前の長さとの比から引張破断伸度を算出する。さらに、当該試験において得られた応力-歪曲線の応力と歪とが比例関係になる弾性領域における傾きから引張弾性率を算出した。」
「【図3】
[図:0001386121000002.jpg]
」
以上の記載事項から、甲1の【図3】に記載された化粧シートは、「接着剤層6と透明樹脂層1の間に接着性樹脂層8が設けられている」(甲1の【0102】)ものであることを踏まえて、実施例3に着目すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「順に、トップコート層4、透明樹脂層1、接着性樹脂層8、接着剤層6、絵柄層2、原反層7、プライマー層5と積層され、透明樹脂層1の面にエンボス模様1aが施されている化粧シートであって、
透明樹脂層1として使用する厚さ80μmの高結晶性ポリプロピレン製の透明樹脂シートは、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤と、ヒンダードアミン系光安定剤と、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウムとを添加した樹脂を、ポリエチレン系の易接着性樹脂と共に溶融押出機を用いて共押出ししてなり、接着性樹脂層8と製膜したものであり、
接着性樹脂層8は、ポリエチレン系の易接着性樹脂に酸変性を施したものであり、
化粧シートは、引張破断伸度が320%で、引張弾性率が1480MPaであり、
原反層7が70μm、化粧シートの総厚が155μmである化粧シート。」
イ 本件発明1について
(1)対比
化粧シートは、「印刷された絵柄や模様等が化粧シートの最表面からクリアに見えることが必要」(甲1の【0006】)であり、「絵柄層2」よりも表面側に設けられた層が透明であることは自明であるから、甲1発明において、「接着性樹脂層8」が透明であること、また、「透明樹脂層1」、「接着性樹脂層8」は、それぞれ熱可塑性樹脂である「ポリプロピレン」、「ポリエチレン」からなることから、甲1発明の「透明樹脂層1」及び「接着性樹脂層8」は、本件発明1の「透明熱可塑性樹脂層」に相当する。
甲1発明の「トップコート層4」は本件発明1の「表面保護層」に相当し、以下同様に「透明樹脂層1」は「第2の樹脂を含んでなる層」に、「接着性樹脂層8」は「第1の樹脂を含んでなる層」に、「接着剤層6」は「接着剤層」に、「絵柄層2」は「絵柄模様層」に、「プライマー層5」は「プライマー層」に、相当する。
甲1発明の「化粧シート」は、「エンボス模様1aが施されている」ものであるから、本件発明1の「エンボス化粧シート」に相当する。
甲1発明は、「透明樹脂層1」の「厚さ」が「80μm」で、「原反層7が70μm、化粧シートの総厚が155μmであ」るから、甲1発明の「透明樹脂層1」と「接着性樹脂層8」を合わせた厚さは、80~85μm程度であるから、本件発明1の「前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下」の数値範囲に含まれる。
甲1発明の「原反層7」と本件発明1の「熱可塑性樹脂基材シート」とは、「基材シート」の限りで一致し、甲1発明において、「順に」、「原反層7、プライマー層5」とが積層されることと本件発明1の「前記熱可塑性樹脂基材シートの裏面に表面活性化処理が施されており、該表面活性化処理された面にプライマー層を設けてある」こととは、「基材シートの裏面にプライマー層を設けてある」限りで一致する。
甲1発明の「接着性樹脂層8は、ポリエチレン系の易接着性樹脂に酸変性を施したものであ」ることと、本件発明1の「第1の樹脂を含んでなる層は透明マレイン酸変性ポリプロピレンを含んで」いることとは、「第1の樹脂を含んでなる層は変性ポリオレフィンを含んで」いる限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点]
「基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層、及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも前記透明熱可塑性樹脂層にエンボスが形成されており、基材シートの裏面にプライマー層を設けてあるエンボス化粧シートであって、
前記透明熱可塑性樹脂層は、前記基材シート側から、第1の樹脂を含んでなる層と、前記第1の樹脂とは異なる第2の樹脂を含んでなる層とがこの順に積層されており、
前記第1の樹脂を含んでなる層は変性ポリオレフィンを含んでおり、第2の樹脂を含んでなる層は、紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物と、透明ポリプロピレンとを含んでおり、
前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下である、エンボス化粧シート。」
[相違点1]
「基材シート」に関して、本件発明1は「熱可塑性樹脂基材シート」であるのに対して、甲1発明は「原反層7」である点。
[相違点2]
「基材シートの裏面にプライマー層を設けてある」ことに関して、本件発明1は、「前記熱可塑性樹脂基材シートの裏面に表面活性化処理が施されており、該表面活性化処理された面にプライマー層を設けてある」のに対して、甲1発明は、「順に」、「原反層7、プライマー層5」とが積層される点。
[相違点3]
「第1の樹脂を含んでなる層は変性ポリオレフィンを含んで」いることに関して、本件発明1は、「第1の樹脂を含んでなる層は透明マレイン酸変性ポリプロピレンを含んで」いるのに対して、甲1発明は、「接着性樹脂層8は、ポリエチレン系の易接着性樹脂に酸変性を施したものであ」る点。
[相違点4]
本件発明1は、「第2の樹脂を含んでなる層」が「引っ張り伸度が50~700%で且つ引っ張り弾性率が2000~5000kgf/cm2であ」るのに対して、甲1発明は、「化粧シート」が「引張破断伸度が320%で、引張弾性率が1480MPaであ」る点。
[相違点5]
本件発明1は、「前記接着剤層は、ウレタン樹脂系接着剤である」のに対して、甲1発明は、その点が不明である点。
[相違点6]
本件発明1は、「前記プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5~30重量部の割合で含有する」のに対して、甲1発明は、その点が不明である点。
(2)判断
事案に鑑み相違点4について検討する。
甲1の「当該透明樹脂層の硬度および靭性が最適となるように調整し、引張弾性率が800MPa以上、2000MPa以下、かつ、引張破断伸度が200%以上の優れた耐擦傷性および耐後加工性を実現することができる。」(甲1の【0055】)の記載から、甲1に記載された「透明樹脂層」の引っ張り弾性率の下限は、8158kgf/cm2(800MPa)程度であって、「引っ張り弾性率が2000~5000kgf/cm2」とすることについては、記載も示唆もされておらず、相違点4に係る本件発明1の構成とする動機付けがない。
したがって、甲1発明において、相違点4に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点1~3、5、6を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明3~8について
本件発明3~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて、本件発明1を限定するものであるから、上記イで検討したのと同じ理由により、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1、3~8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1、3~8に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
また、本件特許の請求項2は、本件訂正により削除されたため、請求項2に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700578