特許異議申立
2021-700191
化粧シート及び化粧板
- 審判番号
- 2021-700191
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-044648
- 登録番号
- 6746966
- 請求日
- 2021年02月19日
- 審決日
- 2022年05月11日
- 公報発行日
- 2022年08月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】廣瀬 一
- 【権利者代理人】宮坂 徹
- 【権利者代理人】田中 秀▲てつ▼
- 【異議申立人】下河 あい
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 久保 克彦
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B) / P1651.55 -YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6746966号発明「化粧シート及び化粧板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6746966号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について、訂正することを認める。
特許第6746966号の請求項1、3及び4に係る特許を維持する。
特許第6746966号の請求項2に係る特許についての申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6746966号(以下「本件特許」という)の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成28年3月8日を出願日とする特許出願(以下「本件特許出願」という)であり、令和2年8月11日にその特許権の設定登録がされ、同年8月26日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年2月19日 :特許異議申立人下河あい(以下「申立人」という)による請求項1~4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年9月22日付け :取消理由通知書
令和3年11月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年1月13日 :申立人による意見書の提出
第2 本件訂正
1 訂正の内容
令和3年11月29日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。また訂正自体を「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める、というものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。また、改行は適宜省略した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「基材と、前記基材上の絵柄模様層と、前記絵柄模様層上の艶調整層と、を備える化粧シートであって、前記基材は、シート状の部材を用いて形成され、前記絵柄模様層が形成する絵柄である第一絵柄と、前記艶調整層が形成する絵柄である第二絵柄とが、前記化粧シートの厚さ方向から見て、同一の輪郭により形成された絵柄であり、前記化粧シートの厚さ方向から見て、前記シート状の部材が搬送される方向である流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔は、前記流れ方向と直交する方向である幅方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔よりも大きいことを特徴とする化粧シート。」と記載されているのを、「基材と、前記基材上の絵柄模様層と、前記絵柄模様層上の艶調整層と、を備える化粧シートであって、前記基材は、シート状の部材を用いて形成され、前記絵柄模様層が形成する絵柄である第一絵柄と、前記艶調整層が形成する絵柄である第二絵柄とが、前記化粧シートの厚さ方向から見て、同一の輪郭により形成された絵柄であり、前記化粧シートの厚さ方向から見て、前記シート状の部材が搬送される方向である流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔は0mmを超えているとともに10mm以内であり、前記流れ方向と直交する方向である幅方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔は0mmを超えているとともに1.5mm以内であり、且つ前記流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔よりも小さいことを特徴とする化粧シート。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3、4の記載も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「前記絵柄模様層と前記艶調整層との間の凹凸模様をさらに備え、前記第一絵柄と、前記凹凸模様が形成する絵柄である第三絵柄とが、前記化粧シートの厚さ方向から見て、同一の輪郭により形成された絵柄であり、前記化粧シートの厚さ方向から見て、前記流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第三絵柄との間隔は、前記幅方向に沿った前記第一絵柄と前記第三絵柄との間隔よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載した化粧シート。」
と記載されているのを、「前記絵柄模様層と前記艶調整層との間の凹凸模様をさらに備え、前記第一絵柄と、前記凹凸模様が形成する絵柄である第三絵柄とが、前記化粧シートの厚さ方向から見て、同一の輪郭により形成された絵柄であり、前記化粧シートの厚さ方向から見て、前記流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第三絵柄との間隔は0mmを超えているとともに10mm以内であり、前記幅方向に沿った前記第一絵柄と前記第三絵柄との間隔は0mmを超えているとともに1.5mm以内であり、且つ前記流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第三絵柄との間隔よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載した化粧シート。」
に訂正する。
(請求項3の記載を引用する請求項4の記載も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1から3のうちいずれか1項に記載した化粧シートを基板に貼り合わせたことを特徴とする化粧板。」と記載されているのを、「請求項1又は3に記載した化粧シートを基板に貼り合わせたことを特徴とする化粧板。」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0038】に記載された「第一絵柄と第三絵柄との幅方向に沿った間隔を1.5[mm]以内とし、第一絵柄と第三絵柄との流れ方向に沿った間隔を10[mm]以内として形成した。」を、「第一絵柄と第三絵柄との幅方向に沿った間隔を1.5[mm]とし、第一絵柄と第三絵柄との流れ方向に沿った間隔を10[mm]として形成した。」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0039】に記載された「第一絵柄と第二絵柄との幅方向に沿った間隔を1.5[mm]以内とし、第一絵柄と第二絵柄との流れ方向に沿った間隔を10[mm]以内として形成した。」を、「第一絵柄と第二絵柄との幅方向に沿った間隔を1.5[mm]とし、第一絵柄と第二絵柄との流れ方向に沿った間隔を10[mm]として形成した。」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の段落【0040】に記載された「化粧シートの厚さ方向から見て、第一絵柄と第三絵柄との幅方向に沿った間隔を2[mm]以内とし、第一絵柄と第三絵柄との流れ方向に沿った間隔を15[mm]以内として形成した。」を、「化粧シートの厚さ方向から見て、第一絵柄と第三絵柄との幅方向に沿った間隔を2[mm]とし、第一絵柄と第三絵柄との流れ方向に沿った間隔を15[mm]として形成した。」に訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0040】に記載された「化粧シートの厚さ方向から見て、第一絵柄と第二絵柄との幅方向に沿った間隔を2[mm]以内とし、第一絵柄と第二絵柄との流れ方向に沿った間隔を15[mm]以内として形成した。」を、「化粧シートの厚さ方向から見て、第一絵柄と第二絵柄との幅方向に沿った間隔を2[mm]とし、第一絵柄と第二絵柄との流れ方向に沿った間隔を15[mm]として形成した。」に訂正する。
(9)一群の請求項等
本件訂正前の請求項1~4は、請求項2~4が、本件訂正の対象である請求項1の記載を引用し、請求項1の記載の訂正に伴って訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~4〕について請求されたものである。
また、明細書に係る訂正である訂正事項5~8は、一群の請求項〔1~4〕について請求されたものである。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア.訂正事項1は、請求項1に記載された「流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔」、「前記流れ方向と直交する方向である幅方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔」がそれぞれどの程度のものであるか特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という)には、図2に符号4a,4b,L1,Lを伴った化粧シート1を厚さ方向から見た状態が示されるとともに段落【0026】【0027】に
「第一実施形態では、図2中に表すように、第一絵柄4aとして木目を選択している。このため、第一実施形態では、図2中に表すように、第二絵柄10aとして木目を選択した場合について説明する。なお、図2中には、第二絵柄10aを、化粧シート1の厚さ方向から見た状態を表す。
また、図2中では、木目として選択した第二絵柄10aを、実線で表す。また、第一絵柄4a及び第二絵柄10aは、図2中に表すように、基材2、絵柄模様層4及び艶調整層10を積層した方向から見て、間隔L1が間隔L2よりも大きくなるように形成する。
間隔L1は、流れ方向に沿った第一絵柄4aと第二絵柄10aとの間隔である。
間隔L2は、幅方向に沿った第一絵柄4aと第二絵柄10aとの間隔である。
第一実施形態では、第一絵柄4a及び第二絵柄10aを、間隔L2が1.5[mm]以内となり、間隔L1が10[mm]以内となるように形成した場合を説明する。」
との記載があり、また、本件訂正前の請求項2には「前記化粧シートの厚さ方向から見て、前記流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔は10mm以内であり、前記幅方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔は1.5mm以内であることを特徴とする請求項1に記載した化粧シート。」と記載されていた。
ここで、本件明細書等には、両間隔の大きさについての下限が明示されていないが、本件特許に係る発明は、両間隔が存在することを前提にしたものと理解されるから、両間隔が“0mmを超える”大きさであることは自明である。
そうすると、訂正事項1のうちの「前記化粧シートの厚さ方向から見て、前記シート状の部材が搬送される方向である流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔は0mmを超えているとともに10mm以内であり、」との部分も、「前記流れ方向と直交する方向である幅方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔は0mmを超えているとともに1.5mm以内であり、且つ前記流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔よりも小さい」という部分も、これらの記載に基づくものといえる。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の事項である。
ウ.訂正事項1は、既に述べたように特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の事項であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
ア.訂正事項3は、訂正事項2により請求項2を削除することにともない、請求項3の記載が引用する請求項から請求項2を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
また、訂正事項3は、請求項3に記載された「流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第三絵柄との間隔」、「前記幅方向に沿った前記第一絵柄と前記第三絵柄との間隔」がそれぞれどの程度のものであるか及び両者の大小関係がどのようであるかを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
イ.本件明細書等には、第一実施形態に関して、段落【0038】に、
「・凹凸模様:木目を選択して第三絵柄を形成した。さらに、化粧シートの厚さ方向から見て、第一絵柄と第三絵柄との幅方向に沿った間隔を1.5[mm]以内とし、第一絵柄と第三絵柄との流れ方向に沿った間隔を10[mm]以内として形成した。」
との記載がある。
ここで、両間隔の下限については、既に上記(2)で述べたと同様に“0mmを超える”大きさであることは自明というべきである。
そして、請求項3の記載からは、化粧シートの厚さ方向から見て、第二絵柄、第三絵柄、第一絵柄がこの順に位置するものであるところ、請求項1の記載により幅方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔が流れ方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔よりも小さいのであるから、発明が解決しようとしている「本物に近い意匠を実現する」という課題に照らせば、幅方向に沿った第一絵柄と第三絵柄との間隔を流れ方向に沿った第一絵柄と第三絵柄との間隔よりも小さくすることも自明というべきである。
そうすると、訂正事項3は、本件特許明細書等の記載に基づくものといえる。
したがって、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の事項である。
ウ.また、訂正事項3は、既に述べたように、特許請求の範囲を減縮するものであり、所与の課題に応じたものといえるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項2により請求項2を削除することにともない、請求項4の記載が引用する請求項から請求項2を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5~8について
訂正事項5~8は、いずれも、実施例たる第一実施形態における絵柄の「間隔」の大きさに係るものである。
本件訂正前の発明の詳細な説明の記載では、「第一実施形態」として、段落【0038】で「第一絵柄と第三絵柄との幅方向に沿った間隔を1.5[mm]以内とし、第一絵柄と第三絵柄との流れ方向に沿った間隔を10[mm]以内として形成した。」と記載されている。一方、段落【0040】では、「(比較例の化粧板)」として、「第一絵柄と第三絵柄との幅方向に沿った間隔を2[mm]以内とし、第一絵柄と第三絵柄との流れ方向に沿った間隔を15[mm]以内として形成した。」と記載されている。
そうすると、本件訂正前の発明の詳細な説明に記載された「第一絵柄と第三絵柄との幅方向に沿った間隔」と、「第一絵柄と第三絵柄との流れ方向に沿った間隔」の数値範囲は、「第一実施形態」と「比較例」との間で重複した範囲があり、当該重複した範囲においては、同じ大きさの間隔が、「第一実施形態」でもあり、「比較例」でもあるといえるから、この点、不明瞭である。
よって、訂正事項5~8に係る訂正は、いずれも、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項5~8は、いずれも、「間隔」について本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という)において特定の値“以内”と表現されていたものをその特定の値にするものであるから、本件明細書等に記載された事項の範囲内のものといえる。
また、訂正事項5~8は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)小括
以上のとおりであるから、訂正事項1~8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法120条の5第4項、同条第9項において準用する同法第126条第4項乃至第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1、3及び4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明3」及び「本件発明4」という)は、令和3年11月29日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3及び4記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材と、前記基材上の絵柄模様層と、前記絵柄模様層上の艶調整層と、を備える化粧シートであって、
前記基材は、シート状の部材を用いて形成され、
前記絵柄模様層が形成する絵柄である第一絵柄と、前記艶調整層が形成する絵柄である第二絵柄とが、前記化粧シートの厚さ方向から見て、同一の輪郭により形成された絵柄であり、
前記化粧シートの厚さ方向から見て、前記シート状の部材が搬送される方向である流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔は0mmを超えているとともに10mm以内であり、前記流れ方向と直交する方向である幅方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔は0mmを超えているとともに1.5mm以内であり、且つ前記流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第二絵柄との間隔よりも小さいことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記絵柄模様層と前記艶調整層との間の凹凸模様をさらに備え、
前記第一絵柄と、前記凹凸模様が形成する絵柄である第三絵柄とが、前記化粧シートの厚さ方向から見て、同一の輪郭により形成された絵柄であり、 前記化粧シートの厚さ方向から見て、前記流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第三絵柄との間隔は0mmを超えているとともに10mm以内であり、前記幅方向に沿った前記第一絵柄と前記第三絵柄との間隔は0mmを超えているとともに1.5mm以内であり、且つ前記流れ方向に沿った前記第一絵柄と前記第三絵柄との間隔よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載した化粧シート。
【請求項4】
請求項1又は3に記載した化粧シートを基板に貼り合わせたことを特徴とする化粧板。」
第4 特許権者に通知した取消理由
本件訂正前の請求項1~4に係る特許に対して、当審が特許権者に対して令和3年9月22日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
・ 本件発明1~4は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものでないため、本件請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
【理由1】
・請求項1~4
・備考
本件特許明細書の記載(【発明が解決しようとする課題】【0004】)から、本件特許発明の課題は、「絵柄印刷層が形成する絵柄と艶調整層が形成する絵柄は、疑似的な立体表現であっても一致していないため、木目や石目等、本物に近い意匠を実現することが困難であった」ところ、「本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本物に近い意匠を実現することが可能な、化粧シート及び化粧板を提供すること」である。
そして、本件特許明細書には、
「・・・本発明例の化粧板と、比較例の化粧板に対し、以下に示す判断基準により、人の感性に基づく、外観観察、感性の性能評価を行なった。・・・
(判断基準)
○:違和感が無いため、合格
×:違和感が有るため、不合格」(【0041】)
「(評価結果)
表1中に表されるように、本発明例の化粧シートは、比較例の化粧シートと比較して、外観観察においても、感性においても、評価が高いことが確認された。」(【0043】)という記載がある。
しかし、上記「外観観察」、「感性の性能評価」を、どのような能力を有する者で何人くらいで行ったのかが、本件特許明細書の記載から明らかではなく、そのため、本件特許明細書の【0042】の【表1】記載されている「○」や「×」が、「外観観察」や「感性の性能評価」した際に、「化粧板」がどのような具体的な状態を表現するものであるのか、その詳細が把握できないから、上記「○」や「×」とされたものが、ただちに上記本件特許発明の課題を解決するものであるか否かと判断することはできない。
よって、本件特許発明1と本件特許発明1を引用する本件特許発明2~4は、本件特許発明の課題を解決するもので有るとはいえず、本件特許発明1~4は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
【理由2】
・請求項1~4
・備考
(1) 上記【理由1】に示したように、上記「○」や「×」とされたものが、ただちに上記本件特許発明の課題を解決するものであるか否かと判断することはできないが、仮に、「○」や「×」が、本件特許発明の課題を解決する否か判断できるものとして、以下、検討する。
本件特許発明1は、第一絵柄及び第二絵柄の流れ方向に沿った間隔及び幅方向に沿った間隔についてなんら規定されていないから、本件特許明細書の【0040】に記載された×評価の「比較例」をも包含し得るため、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えている。
よって、本件特許発明1と本件特許発明1を引用する本件特許発明2~4は、本件特許発明の課題を解決するもので有るとはいえず、本件特許発明1~4は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない
(2) 本件特許明細書の段落【0040】に記載された「比較例」は、第一絵柄と第二絵柄との幅方向に沿った間隔を2[mm]以内とし、第一絵柄と第二絵柄との流れ方向に沿った間隔を15[mm]以内としたものである。そして、本件特許発明2には、第一絵柄と第二絵柄との幅方向に沿った間隔を1.5[mm]以内とし、第一絵柄と第二絵柄との流れ方向に沿った間隔を10[mm]以内とすることが規定されているところ、当該比較例は、「~[mm]以内」とするため、実際の評価に用いた寸法が不明であり、更には実施例の寸法を含む記載でもある。
よって、本件特許発明2~4は、本件特許発明の課題を解決するものであるとはいえず、本件特許発明2~4は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない
(3) 本件特許発明1は、第一の絵柄と第二の絵柄との流れ方向に沿った間隔と、第一絵柄と第二絵柄との幅方向に沿った間隔について、下限値が不明であり、本物に近い意匠を実現できないものを含み得るため、本件特許発明の課題を解決できない範囲を包含する。
よって、本件特許発明1と本件特許発明1を引用する本件特許発明2~4は、本件特許発明の課題を解決するものであるとはいえず、本件特許発明2~4は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない
第5 当審の判断
1 特許法第36条第6項第1号について
(1)性能評価について
a 特許権者は、意見書において「段落[0043]に記載されている「外観観察」と「感性の性能評価」は、化粧板の開発に数年間従事したことで化粧板の性能を評価するために必要な能力を有する者が、10人で行ったものである。これらの事項は、化粧板に対する外観観察や感性の官能評価を行う者の能力や人数として、一般的な事項であるため、明細書等には開示していない。また、段落[0042]に記載されている「○」や「×」の評価は、具体的に、上述した者達が「外観観察」や「感性の性能評価」を行った際に、絵柄がずれて見える状態を観察した場合に「○」と評価し、絵柄がずれて見える状態を観察した場合に「×」と評価したものである。これらの事項は、化粧板に対する外観観察や感性の官能評価を行う評価基準として、一般的な事項であるため、明細書等には開示していない。」と述べている。
(特許権者意見書2ページ16~最下行)。
b ここで、「○」と「×」の評価の説明として、いずれも“絵柄がずれて見える状態を観察した場合”としているが、これが誤記を含むことは明らかである。
上記意見書の記載からは、“絵柄がずれて見えるか”ということを評価基準とすることが把握できて、その評価は、実施例と比較例の間隔の大きさの違いを考えれば、絵柄がずれて見える状態を観察しなかった場合に「○」とし、絵柄がずれて見える状態を観察した場合に「×」とするものと理解するのが自然であり、そのように理解しても矛盾は生じない。
c また、本件発明1等に係る「化粧シート」は、住宅等の建築物の内装や外装の意匠向上に用いるものであって、かつ、その外観が問題とされていることから、ことさら高い専門性を備えた評価者により評価されなければならないといった事情が存在するものではない。
そうすると、特許権者の評価者についての説明は、ただちに不合理で信用できないというものではない。
d 以上を踏まえて、本件明細書等における性能評価の説明を検討すると、性能評価は、構成が具体的に特定された実施例と比較例を対象として行われ、両者の性能を比較しているものであって、両者の間に性能評価上の有意な違い、すなわち絵柄がずれて見える状態が観察されたか否かという違いが存在することが確認されたという事実が否定できるものではない。
そして、本件明細書等で【発明が解決しようとしている課題】として段落【0004】に記載された「絵柄印刷層が形成する絵柄と艶調整層が形成する絵柄は、疑似的な立体表現であっても一致していないため、木目や石目等、本物に近い意匠を実現することが困難であった」ところ、「本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本物に近い意匠を実現することが可能な、化粧シート及び化粧板を提供すること」という課題に照らすと、実施例と比較例の性能評価結果の違いは、所与の課題を解決できるかどうかという事柄に直接的に結びついたものといえる。
(2)各間隔の大きさについて
既に述べたように本件訂正が認められるから、本件発明1における流れ方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔、幅方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔は、それぞれ特定の範囲に限定された。
また、上記第2の2(5)で示したように、本件訂正により、第1実施例と比較例との間で数値範囲の重複に係る不明瞭な記載は解消され、比較例における流れ方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔及び幅方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔の寸法がいずれも明瞭になり、それらが実施例の寸法を含むのではないかといった懸念はなくなった。
さらに、本件訂正により、本件発明1における流れ方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔及び幅方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔の下限が明らかになった。
そして、実施例における流れ方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔及び幅方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔は、それぞれ、10mm、1.5mmという特定の値であるのだが、化粧シートの構成としてそれらの間隔がそれぞれ、1.5mm、10mmよりも小さくても、絵柄がずれて見える状態を観察し得ないものと推認できる。
そして、これらの値の間隔により本件発明は、木目や石目等、本物に近い意匠を実現可能とするものである。
(3)小括
以上を踏まえると、本件発明1、3,4は、所与の課題を解決するものといえる。
したがって、本件訂正後の本件請求項1、3、4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものというべきであるから、特許法第113条第4号に該当しない。
2 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第2号及び同法同条第4項第1号に規定される要件について
a これらの条文を根拠とする申立人の主張は、要するに、流れ方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔が幅方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔よりも、どの程度大きければよいのか不明である、というものであった。
b しかし、両間隔の大きさの違いが特定されていないことをもって、ただちに発明が明確でないということにはならず、また、発明を実施することができないということにもならない。
さらに、本件訂正により、本件発明1、3、4には、流れ方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔が幅方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔よりも大きいことのみならず、それぞれの間隔の大きさも特定されるに至っており、当業者は、流れ方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔が幅方向に沿った第一絵柄と第二絵柄との間隔よりも大きくするという条件の下でそれぞれの間隔の大きさを特定された範囲内で選んで実施すればよいことになる。
c したがって、本件の請求項1、3、4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものというべきであるから、特許法第113条第4号に該当しない。
(2)特許法第17条の2第3項に規定される要件について
a この条文を根拠とする申立人の主張は、令和2年6月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3の「前記第一絵柄と、前記凹凸模様が形成する絵柄である第三絵柄とが、前記化粧シートの厚さ方向から見て、同一の輪郭により形成された絵柄」という事項は、新規事項である、というものであった。
b 本件特許の願書に最初に添付した、明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という)には、第一絵柄と第三絵柄の関係につき、段落【0022】に「絵柄模様層4の絵柄(第一絵柄4a)と、凹凸模様6aが形成する絵柄である第三絵柄(図示せず)とは、化粧シート1の厚さ方向(基材2、絵柄模様層4及び艶調整層10を積層した方向と同じ方向)から見て、疑似的に同調している。」と記載され、また、実施例に関して、段落【0038】に「・凹凸模様:木目を選択して第三絵柄を形成した。さらに、化粧シートの厚さ方向から見て、第一絵柄と第三絵柄との幅方向に沿った間隔を1.5[mm]以内とし、第一絵柄と第三絵柄との流れ方向に沿った間隔を10[mm]以内として形成した。」との記載があった。
ところで、同じ本件当初明細書等には、第一絵柄と第二絵柄の関係につき、段落【0027】に「絵柄模様層4が形成する絵柄である第一絵柄4aと、艶調整層10が形成する絵柄である第二絵柄10aとは、化粧シート1の厚さ方向から見て、疑似的に同調している。」と記載され、また、実施例に関して、段落【0039】に「化粧シートの厚さ方向から見て、第一絵柄と第二絵柄との幅方向に沿った間隔を1.5[mm]以内とし、第一絵柄と第二絵柄との流れ方向に沿った間隔を10[mm]以内として形成した。」との記載があった。
そうすると、第一絵柄と第三絵柄の関係は、本件当初明細書等の図2等の図面には示されていないものの、それは第一絵柄と第二絵柄と同様の関係のものと把握できる。
すなわち、上記請求項3記載の事項は、本件当初明細書等の記載から自明な事項といえる。
c したがって、本件の請求項1、3及び4に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす補正をした特許出願に対してされたものというべきであるから、特許法第113条第1号に該当しない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件の請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件の請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により請求項2が削除されたことによりその対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700191