特許異議申立
2021-700508
高強度6XXXアルミニウム合金及びその作製方法
- 審判番号
- 2021-700508
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-528563
- 登録番号
- 6792618
- 請求日
- 2021年05月25日
- 審決日
- 2022年10月31日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ノベリス・インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】松谷 道子
- 【権利者代理人】山本 宗雄
- 【異議申立人】竹原 尚彦
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 宮部 裕一
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.113-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C) / P1651.536-YAA(C22C) / P1651.537-YAA(C22C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6792618号発明「高強度6XXXアルミニウム合金及びその作製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6792618号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~18〕、〔19~37〕、〔38~51〕について訂正することを認める。
特許第6792618号の請求項1、2、5~14、19~31、33~51に係る特許を維持する。
特許第6792618号の請求項3、4、15~18、32に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6792618号(請求項の数51。以下「本件特許」という。)の請求項1ないし51に係る特許についての出願(特願2018-528563号。以下「本願」という。)は、2016年(平成28年)12月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年(平成27年)12月18日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和 2年11月10日にその特許権の設定の登録がされ、同年 同月25日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 3年 5月25日 :特許異議申立人 竹原 尚彦(以下「申立人
竹原」という。)による全ての請求項に対す
る特許異議の申立て、及び
特許異議申立人 中川 賢治(以下「申立人
中川」という。)による請求項1~18に係
る特許に対する特許異議の申立て
令和 3年 9月27日付け:取消理由通知書
令和 3年12月24日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 4年 1月31日付け:訂正拒絶理由通知書
令和 4年 3月10日 :特許権者による意見書の提出
令和 4年 3月31日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 4年 6月 9日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 4年 7月13日 :申立人竹原による意見書の提出
なお、当審は、令和 4年 6月20日付けで、申立人竹原及び申立人中川に対し訂正請求があった旨を通知し、期間を指定して意見書の提出を求めたが、申立人中川からは意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容
令和 4年 6月 9日提出の訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~51について訂正することを求める、というものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は下記2のとおりである。
なお、令和 3年12月24日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
2 訂正事項
本件訂正請求に係る訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1において、「0.4~2.0重量%のCu」とあるのを「0.6~2.0重量%のCu」に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項1において、「およびを含み、」とあるのを「を含み、」に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
訂正前の請求項5~9、及び14において、引用する請求項を請求項1のみに訂正する。
(6)訂正事項6
訂正前の請求項14において、「0.4~0.8重量%」とあるのを「0.6~0.8重量%」に訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の請求項15を削除する。
(8)訂正事項8
訂正前の請求項16を削除する。
(9)訂正事項9
訂正前の請求項17を削除する。
(10)訂正事項10
訂正前の請求項18を削除する。
(11)訂正事項11
訂正前の請求項19において、「0.4~1.0重量%のCu」とあるのを「0.6~1.0重量%のCu」に訂正する。
(12)訂正事項12
訂正前の請求項32を削除する。
(13)訂正事項13
訂正前の請求項33において、「前記鋳造されたアルミニウム合金が、」とあるのを「前記6xxxアルミニウム合金シートが、」に訂正する。
(14)訂正事項14
訂正前の請求項33~36において、引用する請求項から請求項32を削除する。
(15)訂正事項15
訂正前の請求項37において、引用する請求項から請求項32及び請求項36を削除する。
(16)訂正事項16
訂正前の請求項38において、「0.4~1.0重量%のCu」とあるのを「0.6~1.0重量%のCu」に訂正する。
(17)訂正事項17
訂正前の請求項41~46において、「前記CW%」とあるのを「CW%」に訂正する。
(18)訂正事項18
訂正前の請求項50において、「前記連続的に鋳造されたアルミニウム合金が、」とあるのを「前記6xxxアルミニウム合金シートが、」に訂正する。
3 訂正目的、新規事項、実質拡張・変更について
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1におけるCuの配合量の数値範囲について「0.4~2.0重量%」と記載されているのを「0.6~2.0重量%」に訂正するものであり、Cuの配合量の下限を0.4重量%から0.6重量%に引き上げて数値範囲を減縮するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 訂正前の請求項1において、Cuの配合量の下限を0.6重量%とすることは、本願の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0055】表1、特許請求の範囲の請求項16に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項である。
ウ 訂正事項1は、上記のとおり、訂正前の請求項1におけるCuの配合量の下限を0.6重量%に引き上げて数値範囲を減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1における「不純物およびを含む、」との記載を「不純物を含む、」との記載に改めることで、誤記を訂正し又は明瞭でない記載を釈明しようとするものであるから、「誤記の訂正」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 訂正前の請求項1において、「不純物を含む、」との記載に改めることは、合金組成に関する本件特許明細書の段落【0024】~【0041】、特許請求の範囲の請求項2~4、19、38の記載にも支持されるとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項である。
ウ 訂正事項2は、上記のとおり、訂正前の請求項1における「不純物およびを含む、」との記載を「不純物を含む、」との記載に改めることで、誤記を訂正し又は明瞭でない記載を釈明しようとするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5~9、14の引用請求項を請求項1のみにするものであり、訂正事項3、4によって削除された請求項3、4を引用請求項から除くことを含むものであるから、「特許請求の範囲の減縮」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(6)訂正事項6について
ア 訂正事項6は、訂正前の請求項14におけるCuの配合量の数値範囲について「0.4~0.8重量%」と記載されているのを「0.6~0.8重量%」に訂正するものであり、Cuの配合量の下限を0.4重量%から0.6重量%に引き上げて数値範囲を減縮するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 訂正前の請求項14において、Cuの配合量の下限を0.6重量%とすることは、本件特許明細書の段落【0055】表1、特許請求の範囲の請求項16に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項である。
ウ 訂正事項4は、上記のとおり、訂正前の請求項14におけるCuの配合量の下限を0.6重量%に引き上げて数値範囲を減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項15を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(8)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項16を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(9)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項17を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(10)訂正事項10について
訂正事項10は、訂正前の請求項18を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(11)訂正事項11について
ア 訂正事項11は、訂正前の請求項19におけるCuの配合量の数値範囲について「0.4~1.0重量%」と記載されているのを「0.6~1.0重量%」に訂正するものであり、Cuの配合量の下限を0.4重量%から0.6重量%に引き上げて数値範囲を減縮するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 訂正前の請求項19において、Cuの配合量の下限を0.6重量%とすることは、本件特許明細書の段落【0055】表1、特許請求の範囲の請求項16に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項である。
ウ 訂正事項11は、上記のとおり、訂正前の請求項19におけるCuの配合量の下限を0.6重量%に引き上げて数値範囲を減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(12)訂正事項12について
訂正事項12は、訂正前の請求項32を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(13)訂正事項13について
ア 訂正事項13は、訂正前の請求項33における「前記鋳造されたアルミニウム合金」との記載を「前記6xxxアルミニウム合金シート」との記載に改めて、請求項33の各質別記号が、「前記鋳造されたアルミニウム合金」を溶体化処理した後、熱間圧延して得た「アルミニウム合金シート」に対する処理であることを明らかにするものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 訂正前の請求項33における「前記鋳造されたアルミニウム合金」が正しくは「前記6xxxアルミニウム合金シート」であることは、各質別記号の技術的意味からみて明らかであるから、訂正事項13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項である。
ウ 訂正事項13は、上記のとおり、訂正前の請求項33における「前記鋳造されたアルミニウム合金」との記載を「前記6xxxアルミニウム合金シート」との記載に改めて、請求項33の各質別記号が、「前記鋳造されたアルミニウム合金」を溶体化処理した後、熱間圧延して得た「アルミニウム合金シート」に対する処理であることを明らかにするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(14)訂正事項14について
訂正事項14は、訂正前の請求項33~36における引用請求項のうち、訂正事項12によって削除された請求項32を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(15)訂正事項15について
訂正事項15は、訂正前の請求項37における引用請求項のうち、訂正事項12によって削除された請求項32、及び、請求項36を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(16)訂正事項16について
ア 訂正事項16は、訂正前の請求項38におけるCuの配合量の数値範囲が「0.4~1.0重量%」と記載されているのを「0.6~1.0重量%」に訂正するものであり、Cuの配合量の下限を0.4重量%から0.6重量%に引き上げて数値範囲を減縮するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 訂正前の請求項38において、Cuの配合量の下限を0.6重量%とすることは、本件特許明細書の段落【0055】表1、特許請求の範囲の請求項16に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項である。
ウ 訂正事項16は、上記のとおり、訂正前の請求項38におけるCuの配合量の下限を0.6重量%に引き上げて数値範囲を減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(17)訂正事項17について
訂正事項17は、訂正前の請求項41~46における「前記CW%」との記載を「CW%」との記載に改めて、請求項の記載を明瞭化するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(18)訂正事項18について
ア 訂正事項18は、訂正前の請求項50における「前記連続的に鋳造されたアルミニウム合金」との記載を「前記6xxxアルミニウム合金シート」との記載に改めて、請求項50の各質別記号が、「前記連続的に鋳造されたアルミニウム合金」を溶体化処理した後、熱間圧延して得た「アルミニウム合金シート」に対する処理であることを明らかにするものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 訂正前の請求項50における「前記連続的に鋳造されたアルミニウム合金」が正しくは「前記6xxxアルミニウム合金シート」であることは、各質別記号の技術的意味からみて明らかであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項である。
ウ 訂正事項18は、上記のとおり、訂正前の請求項50における「前記連続的に鋳造されたアルミニウム合金」との記載を「前記6xxxアルミニウム合金シート」との記載に改めて、請求項50の各質別記号が、「前記連続的に鋳造されたアルミニウム合金」を溶体化処理した後、熱間圧延して得た「アルミニウム合金シート」に対する処理であることを明らかにするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(19)訂正目的、新規事項、実質拡張・変更についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項1~18に係る訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
4 一群の請求項について
本件訂正によって、本件訂正前の請求項1と同請求項1を引用する請求項2~18は連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1~18は一群の請求項であり、また、本件訂正前の請求項19と同請求項19を引用する請求項20~37は連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項19~37は一群の請求項であり、さらに、本件訂正前の請求項38と同請求項38を引用する請求項39~51が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項38~51は一群の請求項である。そして、本件訂正請求は上記一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
5 独立して特許を受けることができるかについて
本件特許についてはすべての請求項(請求項1~51)が特許異議の申立ての対象とされているので、本件訂正には、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定された、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。
6 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~18〕、〔19~37〕、〔38~51〕について、訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は認められるから、請求項1~51に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明51」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~51に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を表す。
「【請求項1】
0.001~0.25重量%のCr、0.6~2.0重量%のCu、0.15~0.30重量%のFe、0.8~2.0重量%のMg、0.15~0.30重量%のMn、0.5~1.5重量%のSi、最大で0.15重量%のTi、0.01~3重量%のZn、最大で0.2重量%のZr、最大で0.2重量%のSc、最大で0.25重量%のSn、最大で0.1重量%のNi、最大で0.15重量%の不純物を含み、残りがアルミニウムである6xxxアルミニウム合金製品であって、
前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも300MPaの降伏強度を有し、かつ
前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも10%の伸びを有する、6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項2】
0.03重量%のCr、0.8重量%のCu、0.15重量%のFe、1.0重量%のMg、0.2重量%のMn、1.2重量%のSi、0.04重量%のTi、0.01重量%のZn、及び最大で0.15重量%の不純物を含み、残りがアルミニウムである、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
0.05~0.15重量%のSnを更に含む、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項6】
前記Crが0.02~0.08重量%の量で存在する、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項7】
前記Crが0.08~0.15重量%の量で存在する、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項8】
前記Fe及び前記Mnの前記重量%の合計が0.35重量%未満である、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項9】
前記Znが0.05~2.5重量%の範囲で存在する、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項10】
前記Znが0.05~2重量%の範囲で存在する、請求項9に記載の6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項11】
前記Znが0.05~1.5重量%の範囲で存在する、請求項10に記載の6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項12】
前記Znが0.05~1重量%の範囲で存在する、請求項11に記載の6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項13】
前記Znが0.05~0.5重量%の範囲で存在する、請求項12に記載の6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項14】
前記Cuが0.6~0.8重量%の範囲で存在する、請求項1に記載の6xxxアルミニウム合金製品。
【請求項15】
(削除)
【請求項16】
(削除)
【請求項17】
(削除)
【請求項18】
(削除)
【請求項19】
6xxxアルミニウム合金シートを作製する方法であって、
6xxxアルミニウム合金を鋳造することと、
前記鋳造されたアルミニウム合金を510℃~590℃の温度に加熱することと、
前記鋳造されたアルミニウム合金を510℃~590℃の温度で0.5~4時間維持することと、
前記温度を420℃~480℃に低下させることと、
前記鋳造されたアルミニウム合金を前記アルミニウム合金シートに熱間圧延することであって、前記圧延されたアルミニウム合金シートが、330℃~390℃の熱間圧延出口温度で最大で18mmの厚さを有する、熱間圧延することと、
前記アルミニウム合金シートを510℃~540℃の温度で0.5~1時間熱処理することと、
前記アルミニウム合金シートを周囲温度に急冷することと、を含み、
前記6xxxアルミニウム合金が、0.02~0.15重量%のCr、0.6~1.0重量%のCu、0.15~0.30重量%のFe、0.8~2.0重量%のMg、0.15~0.30重量%のMn、0.8~1.4重量%のSi、0.005~0.15重量%のTi、0.01~3重量%のZn、及び最大で0.15重量%の不純物を含み、残りがアルミニウムであり、
前記6xxxアルミニウム合金シートが少なくとも300MPaの降伏強度を有し、かつ
前記6xxxアルミニウム合金シートが少なくとも10%の伸びを有する、方法。
【請求項20】
前記アルミニウム合金シートを160~240℃で0.5~6時間維持することを更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記アルミニウム合金シートを冷間圧延することと、
前記アルミニウム合金シートを200℃で0.5~6時間維持することと、を更に含む、請求項19または20の1項に記載の方法。
【請求項22】
CW%が、10%~45%である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
CW%が、10%~40%である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
CW%が、10%~35%である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
CW%が、10%~30%である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
CW%が、10%~25%である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
CW%が、10%~20%である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.05~0.15重量%のSnを更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
前記6xxxアルミニウム合金シートの降伏強度及び伸びを測定して、前記6xxxアルミニウム合金シートが所望の降伏強度及び伸びを達成するかどうかを決定することを更に含む、請求項19~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記6xxxアルミニウム合金を鋳造することが、インゴットを直接冷却鋳造することを含む、請求項19~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記6xxxアルミニウム合金を鋳造することが、スラブ、シェート、プレート、またはシートを連続的に鋳造することを含む、請求項19~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
(削除)
【請求項33】
前記6xxxアルミニウム合金シートが、T6、T8x、T4、またはF質別にある、請求項19~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記6xxxアルミニウム合金シートが、300MPa~450MPaの降伏強度を有する、請求項19~31および33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記アルミニウム合金シートの最小r/t比が、亀裂を伴わずに1.2である、請求項19~31および33~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記6xxxアルミニウム合金シートが、2~14mmの最終ゲージを有する、請求項19~31および33~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記6xxxアルミニウム合金シートが、1mm未満の最終ゲージを有する、請求項19~31および33~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
6xxxアルミニウム合金シートを作製する方法であって、
6xxxアルミニウム合金を連続的に鋳造することと、
前記連続的に鋳造されたアルミニウム合金を510℃~590℃の温度に加熱することと、
510℃~590℃の前記温度を0.5~4時間維持することと、
前記温度を420℃~480℃に低下させることと、
前記連続的に鋳造されたアルミニウム合金を熱間圧延して前記アルミニウム合金シートを作ることであって、前記アルミニウム合金シートが、330℃~390℃の熱間圧延出口温度で1mm未満の厚さを有する、作ることと、
前記アルミニウム合金シートを510℃~540℃の温度で0.5~1時間熱処理することと、
前記アルミニウム合金シートを周囲温度に急冷することと、を含み、
前記6xxxアルミニウム合金が、0.02~0.15重量%のCr、0.6~1.0重量%のCu、0.15~0.30重量%のFe、0.8~2.0重量%のMg、0.15~0.30重量%のMn、0.8~1.4重量%のSi、0.005~0.15重量%のTi、0.01~3重量%のZn、及び最大で0.15重量%の不純物を含み、残りがアルミニウムであり、
前記6xxxアルミニウム合金シートが少なくとも300MPaの降伏強度を有し、かつ
前記6xxxアルミニウム合金シートが少なくとも10%の伸びを有する、方法。
【請求項39】
前記アルミニウム合金シートを160~240℃で0.5~6時間維持することを更に含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記アルミニウム合金シートを冷間圧延することと、
前記アルミニウム合金シートを200℃で0.5~6時間維持することと、を更に含む、請求項38または39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
CW%が、10%~45%である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
CW%が、10%~40%である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
CW%が、10%~35%である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
CW%が、10%~30%である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
CW%が、10%~25%である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
CW%が、10%~20%である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記6xxxアルミニウム合金シートの降伏強度及び伸びを測定して、前記6xxxアルミニウム合金シートが所望の降伏強度及び伸びを達成するかどうかを決定することを更に含む、請求項38~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記6xxxアルミニウム合金を連続的に鋳造することが、二重ベルト鋳造機、二重ロール鋳造機、またはブロック鋳造機を使用することを含む、請求項38~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記6xxxアルミニウム合金が、0.05~0.15重量%のSnを更に含む、請求項38に記載の方法。
【請求項50】
前記6xxxアルミニウム合金シートが、T6、T8x、T4、またはF質別にある、請求項38~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記6xxxアルミニウム合金シートが、300MPa~450MPaの降伏強度を有する、請求項38~50のいずれか1項に記載の方法。」
第4 特許異議の申立ての理由の概要
1 申立人竹原による申立理由の概要
申立人竹原は、証拠方法として、後記する甲第1~4号証を提示し、次の理由により本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。
以下では、各申立理由について、当審が通知した取消理由との関係を括弧書きにて表示した。
(1)申立理由1(新規性)(不採用)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(2)申立理由2-1(進歩性:甲1を主たる引用文献とする場合)(取消理由Aとして一部通知、一部職権通知)
本件訂正前の請求項1、7、8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(3)申立理由2-2(進歩性:甲2を主たる引用文献とする場合)(不採用)
本件訂正前の請求項1、6~8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(4)申立理由2-3(進歩性:甲3を主たる引用文献とする場合)(不採用)
本件訂正前の請求項1、7、8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(5)申立理由3(サポート要件)(不採用)
本件訂正前の請求項1~51に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
(6)申立理由4(明確性)(取消理由Bとして一部通知、一部職権通知)
本件訂正前の請求項1~18、32の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
(7)申立理由5(実施可能要件)(取消理由Cとして一部通知、一部職権通知)
本件訂正前の請求項1~18、32に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2014-208879号公報
甲第2号証:特開平8-60285号公報
甲第3号証:特開2004-43907号公報
甲第4号証:The Aluminum Association、 REGISTRATION RECORD SERIES TEAL SHEETS “International Alloy Designations and Chemical Composition Limits for Wrought Aluminum and Wrought Aluminum Alloys”(2015年1月改訂)
なお、以下において、申立人竹原が提出した甲第1~4号証を「甲1」~「甲4」という。
2 申立人中川による申立理由の概要
また、申立人中川は、次の理由により本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。
なお、括弧書きで、当審が通知した取消理由との関係を表示した。
(1)申立理由6(サポート要件)(不採用)
本件訂正前の請求項1~18に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
第5 取消理由の概要
1 訂正前の請求項1~51に係る特許に対して、当審が令和 3年 9月27日付けの取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由A(進歩性:申立理由2-1に一部対応、職権により理由を追加)
本件訂正前の請求項1、14、15に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当する。
(2)取消理由B(明確性:申立理由4に一部対応、職権により理由を追加)
本件訂正前の請求項6~18、32~37、41~48、50、51に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
(3)取消理由C(実施可能要件:申立理由5に一部対応、職権により理由を追加)
本件訂正前の請求項32~37、50、51に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
2 取り下げられたとみなされる令和 3年12月24日提出の訂正請求書により訂正請求されたが、訂正が認められなかった請求項1~18に係る特許のうち、請求項1、6~18に対して、当審が令和 4年 3月31日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は以下のとおりである。
(1)取消理由A’(申立理由2に一部対応、職権により理由を追加)
上記1(1)の取消理由Aと同旨
(2)取消理由B’(申立理由4に一部対応、職権により理由を追加)
本件訂正前の請求項6~18に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
第6 各甲号証の記載事項
1 甲1の記載事項
甲1は「自動車用アルミニウム合金鍛造材及びその製造方法」(発明の名称)に関するものであって、次の記載がある(下線は、強調のため当審が付した。以下同様。)。
「【請求項1】
押出加工と鍛造を行って製造された自動車用アルミニウム合金鍛造材であって、
Si:0.7~1.5質量%、
Fe:0.5質量%以下、
Cu:0.1~0.6質量%、
Mg:0.6~1.2質量%、
Ti:0.01~0.1質量%、
Mn:0.25~1.0質量%を含有し、且つ
Zn:0.05質量%以下に規制し、さらに、
Cr:0.1~0.4質量%及びZr:0.01~0.2質量%の群から選択される少なくとも1つを含有し、
水素量を0.25ml/100gAl以下に規制し、残部が不可避的不純物及びAlからなるとともに、
押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率が60%以上、
引張強さが400MPa以上、
伸びが10.0%以上である
ことを特徴とする自動車用アルミニウム合金鍛造材。」
「【0001】
本発明は、自動車用アルミニウム合金鍛造材及びその製造方法に関する。」
「【0005】
近年、自動車用アルミニウム合金鍛造材に対して更なる軽量化が求められており、これを実現するためには高強度化が必要であるが、特許文献1に記載の発明では、引張強さ、0.2%耐力、伸びを高い水準で備えさせること、すなわち高強度化を図ることができない状況にあった。
【0006】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、高強度化された自動車用アルミニウム合金鍛造材及びその製造方法を提供することを課題とする。」
「【0020】
(Cu:0.1~0.6質量%)
Cuは、固溶強化にて強度の向上に寄与する他、人工時効処理に際して、最終製品の時効硬化を著しく促進する効果を有する。Cuの含有量が0.1質量%未満では、これらの効果が期待できず、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。また、これらの効果を安定的に得るためには好ましくはCuの含有量を0.3質量%以上とする。一方、Cuの含有量が0.6質量%を超えると、鍛造材の組織の応力腐食割れや粒界腐食の感受性を著しく高め、耐食性や耐久性を低下させる。さらには、高強度となりすぎるため、伸びが大きく低下してしまう。
従って、Cuの含有量は0.1~0.6質量%とする。」
「【0024】
(Zn:0.05質量%以下に規制)
Znは、人工時効処理においてMgZn2を微細かつ高密度に析出させて高強度を実現させる。一方、Znの含有量が0.05質量%を超えて含有されると、Mg2Siとして強度に寄与するMg量が減少してしまうため、十分な強度(例えば、引張強さ、0.2%耐力)が得られない。また、MgZn2は、Mg2Siを析出させるような人工時効処理条件では粗大となり、強度向上に寄与することができなくなる。
従って、Znの含有量は0.05質量%以下に規制する。
なお、Znは、スクラップ等の原料から、比較的容易に溶湯中に取り込まれる。従って、Znの含有量を0.05質量%以下に抑えるためには、低品位のスクラップの使用量を低減するとよい。」
「【0027】
(残部が不可避的不純物及びAl)
残部は不可避的不純物及びAlである。不可避的不純物としては、例えば、B、C、Na、Ni、Hf、V、Cd、Pbなどが挙げられる。これらの不可避的不純物は、各々が0.05質量%以下、総計で0.15質量%以下であれば本発明の効果を阻害しないので、この程度の含有量であれば許容される。」
「【0057】【表1】
[図:0001393056000001.jpg]
【0058】【表2】
[図:0001393056000002.jpg]
」
2 甲2の記載事項
甲2は「アルミニウム合金製バンパー補強材およびその製造方法」(発明の名称)に関するものであって、次の記載がある。
「【請求項1】 Mg0.5~1.2wt%、Si0.4~1.0wt%、Cu0.3~0.9wt%、Fe0.4wt%以下を含有し、残部Alと不可避的不純物とからなり、かつ析出物の大きさが50μm以下で、数が3個/mm2 以上であるアルミニウム合金中空形材により構成されていることを特徴とするアルミニウム合金製バンパー補強材。」
「【0026】
【実施例】以下本発明を実施例に基づき、更に詳細に説明する。表1に示す各種合金組成を有するアルミニウム合金鋳塊を連続鋳造法によって製造し、表1に示す条件で均質化処理した後、500℃の温度で押出し、図1に示す中空部を3個有する中空形材を得た。押出後の冷却速度、自然時効処理時間、人工時効処理の条件も表1に併記した。得られた中空形材より試料を採取して、析出物の大きさと数を電子顕微鏡により調査した。同じ試料につき引張試験機で機械的性質を確認すると共に、回転引き曲げ装置で図2に示すように端部を内側半径130mmで40°に曲げ加工を施し、その際の破断の有無を調査した。また両端部を曲げた補強材を車体重量1600kgの乗用車の前部に取付け、振り子試験で弾性内変位と永久変形を比較調査した。振り子は図1の上側から当て、速度は8km/時間の条件とした。これらの結果を表1に併記した。
【0027】
【表1】
[図:0001393056000003.jpg]
【0028】表1から明らかなように、本発明補強材は優れた強度と伸びがあり、曲げ加工の際曲げ破断が発生せず、振り子試験での永久変形量も15mm以下で一般的な乗用車の設計においては問題のない範囲である。これに対し本発明製造方法の範囲を外れる比較補強材は、機械的性質、曲げ加工性が劣ることが判る。」
3 甲3の記載事項
甲3は「強度部材用アルミニウム合金鍛造材および鍛造材用素材」(発明の名称)に関するものであって、次の記載がある。
「【0066】
【実施例】
次に、本発明の実施例を説明する。表1 に示す化学成分組成のAl合金鋳塊 (Al合金鋳造材、いずれもφ68mm径×580mm 長さの丸棒) を、ホットトップ鋳造法により、20℃/ sec の冷却速度により鋳造した。そして、この鋳塊を、昇温速度5 ℃/ 分として、550 ℃×4 時間で均質化熱処理した。
【0067】
更に、450 ℃の鍛造開始温度、400 ℃の鍛造終了温度で、上下金型を用いたメカニカル鍛造により合計の鍛造加工率が75% となるように3 回の熱間鍛造を行い、図3 に示すような自動車のサスペンション部品形状のAl合金鍛造材1 を各々製造した。この鍛造材1 は最薄肉部のアーム部分の厚みが25mmt であり、最薄肉部の厚みが30mm以下である本発明規定を満足している。
【0068】
次に、各Al合金鍛造材1 を硝石炉を用いて550 ℃で1 時間の溶体化処理した後水冷 (水焼入れ) を行い、人工時効処理を行った。
【0069】
本実施例では、各鍛造材表面の導電率を目的導電率に意図的に制御するために人工時効処理までの前記した製造条件を細かく規定して、しかもできるだけ条件を同じとして、人工時効処理までの製造履歴による各鍛造材表面の導電率のばらつきを抑制している。そして、各鍛造材表面の導電率を目標の値とするために、170 ~200 ℃×4 ~9 時間の範囲から、各鍛造材ごとに条件を変えて人工時効処理を行った。
【0070】
そして、前記最薄肉部T1のアーム部分から3 個の試験片を採取し、表2 に示すように、表面の導電率、引張強度 (σB 、MPa)、耐力 (σ0.2 、MPa)、伸び (δ、%)などの引張特性や、靱性= シャルピー衝撃値(J/cm2) 等の機械的性質の調査を行った。なお、表2 の各特性値は、各々3 個の採取試験片の平均値を示す。
【0071】
また、別途、Al合金鍛造材からC リングの試験片を採取し、応力腐食割れ性応力腐食割れ試験を行った。応力腐食割れ試験条件は、前記 Cリング試験片をASTMG47の交互浸漬法の規定に準じて行った。試験条件は、C リング試験片に試験片LT方向の耐力の75% の応力を負荷した状態で、塩水への浸漬と引き上げを繰り返して90日間行い、試験片の応力腐食割れ発生の有無を確認した。応力腐食割れが発生している場合を×、応力腐食割れではないが、応力腐食割れに至る可能性の高い粒界腐食が発生している場合を△、応力腐食割れや粒界腐食が発生していない場合 (表面的な全面腐食が発生している場合を含む) を○として、これらの結果を表2 に示す。
【0072】
表2 から明らかな通り、表1 のNo.1~6 までの本発明範囲内の化学成分組成であるAl合金を用い、時効処理後のAl合金鍛造材表面の導電率を41.0~42.5 IACS%の範囲とした発明例No.1~8 は、耐力 (σ0.2)の平均値が350MPa以上であり、シャルピー衝撃値の平均値も20J/cm2 以上と高く、高強度と高靱性を確保している。また、発明例No.1~8 は、Siが高めの発明例No.8を除き、耐応力腐食割れ性にも優れていることが分かる。したがって、本発明化学成分組成範囲と、時効処理後のAl合金鍛造材表面の導電率範囲の意義が分かる。
【0073】
ただ、表2 の発明例において、発明例No.1に比して、Cu含有量が比較的少ない発明例No.5、Mn、Cr、Zrなどの含有量が比較的少ない発明例No.4、6 、過剰Si量が比較的少ない発明例No.7は、発明例No.1に比べて、耐力が比較的低い。したがって、高強度を保証するための、過剰Si量や、Cu、Mn、Cr、Zrなどの含有と含有量との意義が分かる。
【0074】
一方、表1 のNo.1の本発明範囲内の化学成分組成であっても、時効処理後のAl合金鍛造材表面の導電率が41.0~42.5 IACS%の範囲から各々外れた比較例No.9、10、11では、発明例1 と同じ化学成分組成であるにもかかわらず、耐力やシャルピー衝撃値が発明例に比して著しく劣っている。
【0075】
更に、Mn、Cr、Zrなどを含有しない比較例No.12 ( 表1 のNo. 8 合金) 、Mn、Cr、Zrなどは含有するがCuを含有しない比較例No.13 ( 表1 のNo. 7 合金) 、6061合金相当で、過剰Siではない比較例No.14 ( 表1 のNo.9合金) は、時効処理後のAl合金鍛造材表面の導電率は本発明範囲を満足するものの、本発明化学成分組成範囲が外れ、Cuを含有するが耐力やシャルピー衝撃値が、発明例に比して著しく劣っている。
【0076】
したがって、これらの結果から、本発明導電率と本発明化学成分組成範囲との臨界的な意義が分かる。
【0077】
【表1】
[図:0001393056000004.jpg]
【0078】
【表2】
[図:0001393056000005.jpg]
」
4 甲4の記載事項
甲4の「REGISTRATION RECORD SERIES TEAL SHEETS」は、本件特許の優先日(平成27年12月18日)より前である平成27年1月に改訂版として公開された文献であって、次の記載がある。
「
[図:0001393056000006.jpg]
」(第9ページ)
「
[図:0001393056000007.jpg]
」(第10ページ)
第7 当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許を取り消すことはできない。
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由A、A’(進歩性:甲1を主たる引用文献とする場合)について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、上記第6の1に摘示した記載から、特に請求項1、表1、2の鍛造材No.5に着目すると、次の発明が記載されている。
「押出加工と鍛造を行って製造された自動車用アルミニウム合金鍛造材であって、
Si:1.20質量%、
Fe:0.22質量%、
Cu:0.40質量%、
Mg:0.90質量%、
Ti:0.02質量%、
Mn:0.25質量%を含有し、且つ
Zn:0.02質量%未満に規制し、さらに、
Cr:0.20質量%及びZr:0.01質量%未満を含有し、
水素量を0.15ml/100gAlに規制し、残部が不可避的不純物及びAlからなるとともに、
押出方向と平行な断面における<111>集合組織の面積比率が65%、
引張強さが438MPa、
0.2%耐力が413MPa、
伸びが14.4%である
自動車用アルミニウム合金鍛造材。」
(以下「甲1発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
a 甲1発明の「質量%」と本件発明1の「重量%」との間に実質的な差違はないので、甲1発明のSi、Fe、Mg、Ti、Mn、Cr及びZrは、各々、本件発明1のSi、Fe、Mg、Ti、Mn、Cr及びZrの組成範囲に包含される。
b 本件発明1の「最大で0.2重量%のSc」、「最大で0.25重量%のSn」、「最大で0.1重量%のNi」は、Sc、Sn及びNiの各元素が0重量%の場合(すなわち、当該各元素を含まない場合)を包含する。そうすると、甲1発明においてSc、Sn及びNiの各元素の含有量が明示されていないことは、各々、本件発明1においてSc、Sn及びNiの組成範囲に包含される。
c 甲1発明の「残部が不可避的不純物及びAlからなる」は、本件発明1の「不純物を含み、残りがアルミニウムである」に相当する。
d 上記a~cからみて、甲1発明の合金組成がAl-Mg-Si系合金であって本件発明1の「6xxxアルミニウム合金」に相当することは明らかであること、また、甲1発明の「自動車用」「鍛造材」が本件発明1の「製品」に包含されることも明らかであることから、甲1発明の「自動車用アルミニウム合金鍛造材」は、本件発明1の「6xxxアルミニウム合金製品」に相当する。
e 甲1発明の「0.2%耐力」と本件発明1の「降伏強度」との間に実質的差違はないこと、及び、上記dよりみて、甲1発明の「0.2%耐力が413MPa、伸びが14.4%である」は、本件発明1の「前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも300MPaの降伏強度を有し、かつ前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも10%の伸びを有する」に相当する。
f 上記a~eより、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
「0.001~0.25重量%のCr、Cu、0.15~0.30重量%のFe、0.8~2.0重量%のMg、0.15~0.30重量%のMn、0.5~1.5重量%のSi、最大で0.15重量%のTi、Zn、最大で0.2重量%のZr、最大で0.2重量%のSc、最大で0.25重量%のSn、最大で0.1重量%のNi、および不純物を含み、残りがアルミニウムである6xxxアルミニウム合金製品であって、
前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも300MPaの降伏強度を有し、かつ前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも10%の伸びを有する、6xxxアルミニウム合金製品。」
(相違点1)
Znの含有量が、本件発明1では「0.01~3重量%のZn」であるのに対し、甲1発明では「Zn:0.02質量%未満に規制」したものである点。
(相違点2)
不純物の含有量が、本件発明1では「最大で0.15重量%」であるのに対し、甲1発明では明らかでない点。
(相違点3)
Cuの含有量が、本件発明1では「0.6~2.0重量%のCu」であるのに対し、甲1発明では「Cu:0.40質量%」である点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
a 甲1には、Cuの含有量について、段落【0020】に、「Cuの含有量は0.1~0.6質量%とする。」との記載があるに過ぎず、この記載を考慮しても、甲1発明において具体的に特定されたCuの含有量である「0.40質量%」を「0.6質量%」に変更する動機付けがあるとはいえない。
よって、甲1発明において、Cuの含有量を「0.40質量%」から「0.6質量%」に変更し、相違点3に係る特定事項を備えることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
b したがって、甲1発明において、上記相違点3に係る特定事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(ウ)小括
以上より、相違点1及び相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明14について
本件発明14は、本件発明1を直接引用するものであるが、上記イで述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明14についても同様に、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明15について
本件訂正により、特許請求の範囲の請求項15は削除されたから、訂正前の請求項15に係る上記取消理由A、A’は、いずれも解消した。
オ 取消理由A、A’(進歩性)についてのまとめ
したがって、取消理由A、A’(進歩性)によっては、本件訂正後の請求項1、14に係る特許を取り消すことはできない。また、請求項15は本件訂正により削除されたため、取消理由A、A’の対象となる請求項が存在しないものとなった。
(2)取消理由B、B’(明確性)について
ア 訂正前の請求項6の記載は「前記Crが0.02~0.08重量%の量で存在する、請求項1~5のいずれか1項に記載の6xxxアルミニウム合金製品。」である一方、同請求項4の記載は「0.1重量%のCr」であるため、請求項6のうち請求項4を直接又は間接的に引用するものについては、Crの含有量に関して技術的に不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項4が削除され、また請求項6が請求項1のみを引用するように訂正されたため、明確性に係る上記不備は解消された。
イ 訂正前の請求項7の記載は「前記Crが0.08~0.15重量%の量で存在する、請求項1~6のいずれか1項に記載の6xxxアルミニウム合金製品。」である一方、請求項2、3の記載はいずれも「0.03重量%のCr」であるため、請求項7のうち請求項2、3を直接又は間接的に引用するものについては、Crの含有量に関して技術的に不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項3が削除され、また請求項7が請求項1のみを引用し、請求項2を引用しないように訂正されたため、明確性に係る上記不備は解消された。
ウ 訂正前の請求項8の記載は「前記Fe及び前記Mnの前記重量%の合計が0.35重量%未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の6xxxアルミニウム合金製品。」である一方、同請求項2~4の記載はいずれも、「0.15重量%のFe」、「0.2重量%のMn」であり、合計すると0.35重量%であって、「前記Fe及び前記Mnの前記重量%の合計が0.35重量%未満」とならないから、請求項8のうち請求項2~4を直接又は間接的に引用するものについては、Fe及びMnの含有量に関して技術的に不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項3、4が削除され、請求項8が請求項1のみを引用し、請求項2を引用しないように訂正されたため、明確性に係る上記不備は解消された。
エ 訂正前の請求項9の記載は「前記Znが0.05~2.5重量%の範囲で存在する、請求項1~8のいずれか1項に記載の6xxxアルミニウム合金製品。」である一方、同請求項2~4の記載はいずれも、「0.01重量%のZn」であるから、請求項9のうち請求項2~4を直接又は間接的に引用するものと、当該請求項9を直接又は間接的に引用する請求項10~18については、Znの含有量に関して技術的に不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項3、4が削除され、請求項9が請求項1のみを引用し、請求項2を引用しないように訂正されたため、明確性に係る上記不備は解消された。
オ 訂正前の請求項15の記載は「前記Cuが0.4~0.6重量%の範囲で存在する、請求項14に記載の6xxxアルミニウム合金製品。」である一方、同請求項15が間接的に引用する請求項2の記載は「0.8重量%のCu」であるから、請求項15のうち請求項2を間接的に引用するものについては、Cuの含有量に関して技術的に不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項15が削除されたため、取消理由B、B’の対象となる請求項が存在しないものとなった。
カ 訂正前の請求項16の記載は「前記Cuが0.6~1.0重量%の範囲で存在する、請求項15に記載の6xxxアルミニウム合金製品。」である一方、請求項16が間接的に引用する請求項3、4の記載は、いずれも「0.4重量%のCu」であるから、請求項16のうち請求項3、4を間接的に引用するものと、当該請求項16を直接又は間接的に引用する請求項17、18については、Cuの含有量に関して技術的に不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項16~18が削除されたため、取消理由B、B’の対象となる請求項が存在しないものとなった。
キ 訂正前の請求項18の記載は「前記Cuが0.8~1.0重量%の範囲で存在する、請求項17に記載の6xxxアルミニウム合金製品。」である一方、同請求項18が間接的に引用する請求項15の記載は「前記Cuが0.4~0.6重量%の範囲で存在する」であるから、請求項18のうち請求項15を引用するものについては、Cuの含有量に関して技術的に不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項18が削除されたため、取消理由B、B’の対象となる請求項が存在しないものとなった。
ク 訂正前の請求項32における「前記6xxxアルミニウム合金を鋳造することが、押出物を押出すことを含む、請求項19~21のいずれか1項に記載の方法。」との記載は、「鋳造」が、鋳塊を製造する処理(溶融している金属を固める処理)を意味し、「押出」が、固まった鋳塊を押し出す処理であることを踏まえると、「鋳造」することが「押出物を押出す」とは、日本語としても技術的にも、その意味が不明であった。
しかしながら、本件訂正により、請求項32が削除されたため、取消理由B、B’の対象となる請求項が存在しないものとなった。
ケ 訂正前の請求項33における「前記鋳造されたアルミニウム合金が、T6、T8x、T4、またはF質別にある、請求項19~32のいずれか1項に記載の方法。」との記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(段落【0020】~【0023】)からみて、「前記鋳造されたアルミニウム合金」のうち、「T6、T8x、T4」各質別については、アルミニウム合金シートに熱間圧延する前に、溶体化後処理に付加した人工的時効処理、冷間加工及び人工時効処理、又は自然時効処理が既に施されていることを意味することとなるが、その技術的な意味が不明であるとの不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項33の「前記鋳造されたアルミニウム合金」を「前記6xxxアルミニウム合金シート」に訂正されたため、明確性に係る上記不備は解消された。
コ 訂正前の請求項41には「前記CW%」との記載があるが、請求項41が直接又は間接的に引用する請求項38~40の記載をみても、「CW%」は記載されていないから、請求項41は、「前記CW%」が参照できない点に関して技術的に不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項41の「前記CW%」が「CW%」に訂正されたため、上記不備は解消された。
サ 訂正前の請求項50における「前記連続的に鋳造されたアルミニウム合金が、T6、T8x、T4、またはF質別にある、請求項38~49のいずれか1項に記載の方法。」との記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(段落【0020】~【0023】)からみると、「前記連続的に鋳造されたアルミニウム合金」のうち、「T6、T8x、T4」各質別については、アルミニウム合金シートに熱間圧延する前に、溶体化後処理に付加した人工的時効処理、冷間加工及び人工時効処理、又は自然時効処理が既に施されていることを意味することとなるため、その技術的な意味が不明との不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項50の「前記鋳造されたアルミニウム合金」を「前記6xxxアルミニウム合金シート」に訂正されたため、明確性に係る上記不備は解消された。
シ 取消理由B、B’(明確性)についてのまとめ
以上より、取消理由B、B’によっては、本件訂正後の請求項6~14、33~37、41~48、50、51に係る特許を取り消すことはできない。また、請求項15~18、32は本件訂正により削除されたため、取消理由B、B’の対象となる請求項が存在しないものとなった。
(3)取消理由C(実施可能要件)について
ア 訂正前の請求項32における「前記6xxxアルミニウム合金を鋳造することが、押出物を押出すことを含む、請求項19~21のいずれか1項に記載の方法。」との記載は、「鋳造」が、鋳塊を製造する処理(溶融している金属を固める処理)を意味し、「押出」が、固まった鋳塊を押し出す処理であることを踏まえると、「鋳造」することが「押出物を押出す」とは、日本語としても技術的にもその意味が不明であったところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「鋳造」が「押出物を押出す」ことを含むという態様について何ら説明されておらず、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえない不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項32が削除されたため、取消理由Cの対象となる請求項が存在しないものとなった。
イ 訂正前の請求項33における「前記鋳造されたアルミニウム合金が、T6、T8x、T4、またはF質別にある、請求項19~32のいずれか1項に記載の方法。」との記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(段落【0020】~【0023】)からみて、「前記鋳造されたアルミニウム合金」のうち、「T6、T8x、T4」各質別については、アルミニウム合金シートに熱間圧延する前に、溶体化後処理に付加した人工的時効処理、冷間加工及び人工時効処理、又は自然時効処理が既に施されていることを意味することとなるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、そのような態様は何ら説明されておらず、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえないとの不備があった。
しかしながら、本件訂正により、請求項33の「前記鋳造されたアルミニウム合金」を「前記6xxxアルミニウム合金シート」に訂正されたため、上記不備は解消された。
ウ 取消理由C(実施可能要件)についてのまとめ
以上より、取消理由Cによっては、本件訂正後の請求項33~37、50、51に係る特許を取り消すことはできない。また、請求項32は本件訂正により削除されたため、取消理由Cの対象となる請求項が存在しないものとなった。
2 取消理由として採用しなかった特許異議の申立ての理由について
(1)申立理由1(新規性)
上記1「(1)取消理由A、A’(進歩性:甲1を主たる引用文献とする場合)について」のイ(ア)、(イ)で検討したとおり、本件発明1は、甲1発明と相違点1~3を有するものであり、少なくとも相違点3は実質的なものであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明でなく、新規性を有する。
したがって、申立理由1(新規性)によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
(2)申立理由2-2(進歩性:甲2を主たる引用文献とする場合)
ア 甲2に記載された発明
甲2には、上記第6の2に摘示した記載から、特に請求項1、表1の本発明補強材No.3に着目すると、次の発明が記載されている。
「Mg1.1wt%、Si0.9wt%、Cu0.8wt%、Fe0.1wt%、Mn0.3wt%、Cr0.01wt%、Ti0.01wt%を含有し、残部Alと不可避的不純物とからなり、450N/mm2の引張強さ、380N/mm2の耐力、及び15%の伸びを有するアルミニウム合金製バンパー補強材。」
(以下「甲2発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明との対比
a 甲2発明の「wt%」は、本件発明1の「重量%」と実質同じであることを踏まえ、本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明のSi、Mn、Mg、Cu、Cr及びTiは、各々、本件発明1のSi、Mn、Mg、Cu、Cr及びTiの組成範囲に包含される。
b 本件発明1の「最大で0.2重量%のZr」、「最大で0.2重量%のSc」、「最大で0.25重量%のSn」、「最大で0.1重量%のNi」は、Zr、Sc、Sn及びNiの各元素が0重量%の場合(すなわち、当該各元素を含まない場合)を包含する。そうすると、甲2発明においてZr、Sc、Sn及びNiの各元素の含有量が明示されていないことは、各々、本件発明1においてZr、Sc、Sn及びNiの組成範囲に包含される。
c 甲2発明の「残部Alと不可避的不純物とからなり」は、本件発明1の「不純物を含み、残りがアルミニウムである」に相当する。
d 甲2発明の合金組成がAl-Mg-Si系合金であって本件発明1の「6xxxアルミニウム合金」に相当することは明らかであること、また、甲2発明の「アルミニウム合金製バンパー補強材」が本件発明1の「製品」に包含されることも明らかであることから、甲2発明の「アルミニウム合金製バンパー補強材」は、本件発明1の「6xxxアルミニウム合金製品」に相当する。
e 甲2発明の「耐力」と本件発明1の「降伏強度」との間に実質的差違はなく、また甲2発明の耐力の値である「380N/mm2」を単位換算すると、「380MPa」であるから、甲2発明のアルミニウム合金製バンパー補強材が「380N/mm2の耐力、及び15%の伸びを有する」は、本件発明1の「前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも300MPaの降伏強度を有し、かつ前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも10%の伸びを有する」に相当する。
f 上記a~eより、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
「0.001~0.25重量%のCr、0.6~2.0重量%のCu、0.8~2.0重量%のMg、0.15~0.30重量%のMn、0.5~1.5重量%のSi、最大で0.15重量%のTi、最大で0.2重量%のZr、最大で0.2重量%のSc、最大で0.25重量%のSn、最大で0.1重量%のNi、および不純物を含み、残りがアルミニウムである6xxxアルミニウム合金製品であって、
前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも300MPaの降伏強度を有し、かつ前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも10%の伸びを有する、6xxxアルミニウム合金製品。」
(相違点4)
Znの含有量が、本件発明1では「0.01~3重量%のZn」であるのに対し、甲2発明では明示されておらず、不明である点。
(相違点5)
Feの含有量が、本件発明1では「0.15~0.30重量%のFe」であるのに対し、甲2発明では「Fe0.1wt%」である点。
(相違点6)
不純物の含有量が、本件発明1では「最大で0.15重量%」であるのに対し、甲2発明では明らかでない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点5について検討する。
甲2には、Feの含有量に関して、段落【0017】に、「Feは不純物として混入するが、0.4wt%を超えると押出性や曲げ加工性の低下を招く。」との記載があることから、甲2発明が含有する「Fe0.1wt%」は、不純物として混入したFeの含有量であると解される。
そして、合金製造において、不純物は望ましくなく、含有量がより低いことが好ましいとの技術常識に照らせば、甲2発明において、不純物として混入したFeの含有量をあえて「Fe0.1wt%」から「0.15~0.30重量%のFe」に増加することには阻害事由があるといえ、甲2の段落【0017】以外の記載や甲4の記載、及び本願出願時の技術常識を参酌しても、そのようにする動機付けを見いだせない。
(ウ)小括
してみれば、相違点4及び相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明と甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明6~8について
本件発明6~8は、本件発明1を直接引用するものであるが、上記イで述べたとおり、本件発明1が、甲2に記載された発明と甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明6~8についても同様に、甲2に記載された発明と甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 申立理由2-2(進歩性:甲2を主たる引用文献とする場合)についてのまとめ
したがって、申立理由2-2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、6~8に係る特許を取り消すことはできない。
(3)申立理由2-3(進歩性:甲3を主たる引用文献とする場合)
ア 甲3に記載された発明
甲3には、上記第6の3に摘示した記載から、特に請求項1、表1、表2の番号2の鍛造材に着目すると、次の発明が記載されている。
「Mg:1.00質量%、Si:1.2質量%、Cu:0.54質量%、Mn:0.12質量%、Cr:0.14質量%、Zr:0.06質量%、Fe:0.23質量%、Zn:0.01質量%、Ti:0.02質量%、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金鍛造材であって、人工時効硬化処理後のアルミニウム合金鍛造材表面の導電率が42.3 IACS%、0.2%耐力が364MPa、伸びが15.8%である強度部材用アルミニウム合金鍛造材。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲3発明との対比
a 甲3発明の「質量%」と本件発明1の「重量%」との間に実質的な差違はないので、甲3発明のSi、Fe、Mg、Cr、Zn、Ti及びZrは、各々、本件発明1のSi、Fe、Mg、Cr、Zn、Ti及びZrの組成範囲に包含される。
b 本件発明1の「最大で0.2重量%のSc」、「最大で0.25重量%のSn」、「最大で0.1重量%のNi」は、Sc、Sn及びNiの各元素が0重量%の場合(すなわち、当該各元素を含まない場合)を包含する。そうすると、甲3発明においてSc、Sn及びNiの各元素の含有量が明示されていないことは、各々、本件発明1においてSc、Sn及びNiの組成範囲に包含される。
c 甲3発明の「残部Alおよび不可避的不純物からなる」は、本件発明1の「不純物を含み、残りがアルミニウムである」に相当する。
d 甲3発明の合金組成がAl-Mg-Si系合金であって本件発明1の「6xxxアルミニウム合金」に相当することは明らかであること、また、甲3発明の「強度部材用アルミニウム合金鍛造材」が本件発明1の「製品」に包含されることも明らかであることから、甲3発明の「強度部材用アルミニウム合金鍛造材」は、本件発明1の「6xxxアルミニウム合金製品」に相当する。
e 甲3発明の「0.2%耐力」と本件発明1の「降伏強度」との間に実質的差違はない。してみれば、甲3発明のアルミニウム合金鍛造材が「0.2%耐力が364MPa、伸びが15.8%である」であることは、本件発明1の「前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも300MPaの降伏強度を有し、かつ前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも10%の伸びを有する」ことに相当する。
f 上記a~eより、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
「0.001~0.25重量%のCr、Cu、0.15~0.30重量%のFe、0.8~2.0重量%のMg、Mn、0.5~1.5重量%のSi、最大で0.15重量%のTi、0.01~3重量%のZn、最大で0.2重量%のZr、最大で0.2重量%のSc、最大で0.25重量%のSn、最大で0.1重量%のNi、不純物を含み、残りがアルミニウムである6xxxアルミニウム合金製品であって、
前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも300MPaの降伏強度を有し、かつ
前記6xxxアルミニウム合金製品が少なくとも10%の伸びを有する、6xxxアルミニウム合金製品。」
(相違点7)
Cuの含有量について、本件発明1では、「0.6~2.0重量%のCu」を含有するのに対し、甲3発明では「0.54質量%」である点。
(相違点8)
Mnの含有量について、本件発明1では、「0.15~0.30重量%のMn」を含有するのに対し、甲3発明では、「0.12質量%」である点。
(相違点9)
不純物の含有量が、本件発明1では「最大で0.15重量%」であるのに対し、甲3発明では明らかでない点。
(イ)判断
以下相違点7、8について、順に検討する。
a 相違点7の容易想到性について
甲3には、Cuの含有量について、段落【0045】に、
「Cu:0.2~1.0%。
Cuは、固溶強化にて強度の向上に寄与する他、時効処理に際して、最終製品の時効硬化を著しく促進する効果を有する。Cuの含有量が0.2%未満では、これらの効果が期待できない。また、これらの効果を安定的に得るためには好ましくはCuの含有量を0.3%以上とする。一方、Cuの含有量が1.0%を越えた場合、Al合金鍛造材の組織の応力腐食割れや粒界腐食の感受性を著しく高め、Al合金鍛造材の耐食性や耐久性を低下させる。また、Cu含有量がこの範囲より多過ぎても、また少な過ぎても、製造条件の調整によって、鍛造材表面の導電率を41.0~42.5 IACS%の範囲とすることが難しくなる。したがって、Cuの含有量は0.2 ~1.0%、好ましくは0.3 ~1.0%の範囲とする。」との記載があるに過ぎず、甲3において、好ましい範囲内にあるCuの含有量を「0.54質量%」から「0.6~2.0重量%」に変更する動機付けがあるとはいえない。
よって、甲3発明において、Cuの含有量を「0.54質量%」から「0.6~2.0重量%」に変更し、相違点7に係る特定事項を備えることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
b 相違点8の容易想到性について
(a)甲3には、Mnの含有量について、段落【0044】に、
「Mn、Cr、Zrの含有量が少なすぎると、これらの効果が期待できず、一方、これらの元素の過剰な含有は溶解、鋳造時に粗大なAl-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系の金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、破壊の起点となり、靱性や疲労特性を低下させる原因となる。このため、これらの元素は各々、Mn:0.1~0.6%、Cr:0.1~0.2%およびZr:0.1~0.2%の範囲で一種または二種以上含有させる。」との記載があるに過ぎず、甲3において、所定の範囲内にあるMnの含有量を「0.12質量%」から「0.15~0.30重量%」に変更する動機付けがあるとはいえない。
よって、甲3発明において、Cuの含有量を質量%で「0.12質量%」から「0.15~0.30重量%」に変更し、相違点8に係る特定事項を備えることは、当業者が容易になし得たことではない。
(b)相違点8に関し、申立人竹原は、甲3の表1、2には、Mnの含有量が0.70質量%である番号1の鍛造材が、甲3発明に対応する番号2の鍛造材と同様の特性値(0.2%耐力、伸び)であることが示されているから、甲3には、Mnの含有量を0.70質量%まで必要に応じて増やしても良いことが示唆されていると述べ、甲3発明において、Mnの含有量を「0.15~0.30重量%」とすることは、当業者の設計事項の範囲内であると主張する。
しかしながら、甲3に記載された上記番号1の鍛造材と上記番号2の鍛造材とは、Mn以外の元素(Fe、Cr、Ti、Zr)の含有量が相違するものであるところ、当該含有量の相違が両鍛造材の特性値に影響を与えることは本願出願時の技術常識より明らかであるから、上記番号1、2の鍛造材の記載が、Mnの含有量を「0.12質量%」から「0.70質量%」に変更しても鍛造材の特性値が概ね変わらないことを示しているとはいえない。
また、Mnの含有量が「0.70重量%」の上記番号1の鍛造材と上記番号2の鍛造材の比較から、甲3発明におけるMnの含有量を「0.12質量%」から「0.70重量%」と異なる「0.15~0.30重量%」に変更することを動機付ける記載や本願出願時の技術常識があるともいえない。
したがって、申立人竹原の上記主張は妥当でなく、採用できない。
(ウ)小括
以上の検討より、甲3発明において、上記相違点7、8に係る特定事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえないから、相違点9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明7、8について
本件発明7、8は、本件発明1を直接引用するものであるが、上記イで述べたとおり、本件発明1が、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明7、8についても同様に、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 申立理由2-3(進歩性:甲3を主たる引用文献とする場合)についてのまとめ
したがって、申立理由2-3(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、7、8に係る特許を取り消すことはできない。
(4)申立理由3(サポート要件)、申立理由6(サポート要件)について
ア サポート要件についての判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 本件発明に関するサポート要件について
そこで、上記アの判断手法を踏まえ、本件発明に関する特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たしているか否かについて、以下検討する。
(ア)本件発明が解決しようとする課題
本願特許明細書の発明の詳細な説明の、特に段落【0002】、【0003】、【0007】の記載からみて、発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、高い降伏強度及び高い伸びを有する、高強度6xxxアルミニウム合金、及びこれらの合金を作製する方法を提供することにあると認められる。
(イ)課題を解決するための手段
a そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、特に段落【0005】~【0008】の記載からみて、「0.001~0.25重量%のCr、0.4~2.0重量%のCu、0.10~0.30重量%のFe、0.5~2.0重量%のMg、0.005~0.40重量%のMn、0.5~1.5重量%のSi、最大で0.15重量%のTi、最大で4.0重量%のZn、最大で0.2重量%のZr、最大で0.2重量%のSc、最大で0.25重量%のSn、最大で0.1重量%のNi、最大で0.15重量%の総不純物を含み得、残りの重量%はAl」との特定の化学組成からなり、少なくとも300MPaの降伏強度、及び少なくとも10%の伸びを達成する、高強度6xxx合金組成物とその製造方法を提供することにより、上記(ア)の課題を解決できることが記載されているといえる。
b そして、本件特許明細書には、段落【0055】の表1に「実施形態1」として示される上記6xxx合金組成物の具体的な例が、段落【0070】の表2に示されるように、「少なくとも300MPaの降伏強度」及び「少なくとも10%の伸び」に該当する機械的特性を有することが記載されている。
このことから、当業者であれば、上記aに示した特定の化学組成を備え、かつ、少なくとも300MPaの降伏強度、及び少なくとも10%の伸びを達成する、高強度6xxx合金組成物であれば、上記課題を解決できると合理的に理解できるといえる。
(ウ)本件発明についての特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合することについて
そして、本件特許請求の範囲に記載された本件発明1~18は、上記(イ)aに示した特定の化学組成の範囲内である化学組成を備え、かつ、少なくとも300MPaの降伏強度、及び少なくとも10%の伸びを達成する6xxxアルミニウム合金製品であり、また本件発明19~51も、上記(イ)aに示した特定の化学組成の範囲内である化学組成を備え、かつ、少なくとも300MPaの降伏強度、及び少なくとも10%の伸びを達成する高強度6xxxアルミニウム合金シートの製造方法であるから、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により上記課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
(エ)この点について、申立人竹原は、訂正前の請求項1について、
「本件特許の請求項1では広範な範囲が規定されているものの、・・・実際に実験結果が開示されているものは、4つのサンプルのみである。加えて、・・・本件特許の明細書において、各成分の技術的意義が全く説明されていない。このような本件特許を一読したところで、当業者であろうとも、本件特許の請求項1の広範な範囲を、たった4つのサンプルの結果がサポートできているとは判断できない。そして、本件特許の明細書を確認したところで、本件特許の請求項1の範囲に該当する全てのアルミニウム合金製品が、4つのサンプルと同様の効果を発揮するとは想定し得ない。」(当審注:上記「4つのサンプル」のうち、「実施形態1」以外の「実施形態2-1」、「実施形態2-2」及び「実施形態3」は、本件訂正により、本件発明1の化学組成から外れている。)と述べ、また訂正前の請求項8~13に至っては、実施例が存在せず、加えて訂正前の請求項8記載のFeとMnの合計含有量とすること、及び訂正前の請求項9~13のZnの含有量の範囲とすることのそれぞれの技術的説明がないことから、各請求項の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないと主張する。
しかしながら、上記主張において、本件発明1、2、5~14、19~31、33~51に係る化学組成のうち、上記「実施形態1」と各成分の含有量が異なる場合に、上記課題を解決できるとはいえない具体的根拠は不明であるところ、本件発明1~14に係る6xxxアルミニウム合金製品、及び本件発明19~31、33~51に係る6xxxアルミニウム合金シートは、いずれも上記(イ)aに示した特定の化学組成の範囲内である化学組成を備え、かつ、「少なくとも300MPaの降伏強度」及び「少なくとも10%の伸び」を有するものであるから、上記(ア)の課題を解決することができるものとして発明の詳細な説明に記載されたものということができる。したがって、上記申立人竹原の主張は採用することはできない。
また、申立人中川は、本件発明1のSi含有量は「0.5~1.5重量%」であり、Ti含有量は「最大で0.15重量%」であり、Sn含有量は「最大で0.25重量%」であるところ、機械的強度が測定された試験例は、表1に示された「実施形態1、2-1、2-2、3及び4」(当審注:上記「4つのサンプル」のうち、「実施形態1」以外の「実施形態2-1」、「実施形態2-2」及び「実施形態3」は、本件訂正により、本件発明1の化学組成から外れている。)のみであり、それらのSi含有量は「0.675%~1.3%」であり、Ti含有量は「0.04~0.048%」であり、またSnは含まれていないことから、Si、Ti及びSnの含有量が上記試験例の各含有量の範囲外である場合(Si含有量が、0.5%以上0.675%未満、及び1.3%超1.5%以下の場合、Ti含有量が、0%超0.04%未満、及び0.048%超0.15%以下の場合、Snが添加される場合)については、実験例で本件発明の効果を得られるかどうかが確認されておらず、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨を主張する。
しかしながら、上記主張において、本件発明1~18に係る化学組成のうち、上記「実施形態1」や上記試験例と各成分の含有量が異なる場合に、上記課題を解決できるとはいえない具体的根拠は不明であるところ、本件発明1~18の6xxxアルミニウム合金製品は、上記(イ)aに示した特定の化学組成の範囲内である化学組成を備え、かつ、「少なくとも300MPaの降伏強度」及び「少なくとも10%の伸び」を有するものであるから、上記(ア)の課題を解決することができるものとして発明の詳細な説明に記載されたものということができる。したがって、上記申立人中川の主張も採用することはできない。
(オ)申立人竹原は、本件発明1~18の「6xxxアルミニウム合金製品」について、実際に実験結果が示された4つのサンプル(「実施形態1」、「実施形態2-1」、「実施形態2-2」、「実施形態3」)は全てシートであって、本件特許明細書を確認しても、実質的にシート以外の製品が説明されているとは判断できず、本件特許明細書の記載によってサポートされていない旨を主張する。
また、申立人中川も、本件特許明細書の段落【0077】以降には、実施例1~4として、アルミニウムインゴットを熱間圧延し、必要に応じて冷間圧延したシートの例のみが開示されているに過ぎず、降伏強度や伸びといった機械的特性が製造条件の影響を受けることを勘案すれば、圧延加工以外の製造方法(押出加工、鋳造加工、鋳物法、ダイカスト法)により製造された「6xxxアルミニウム合金製品」は、発明の詳細な説明に記載されたものでないと主張する。
しかしながら、本件発明1~18の「6xxxアルミニウム合金製品」は、上記特定の化学組成の範囲内である化学組成を有し、かつ、「少なくとも300MPaの降伏強度」及び「少なくとも10%の伸び」との機械的特性を備える限りにおいて、シートに限らない製品の形態で提供されることができ、上記課題を解決することができるものである。また、上記特定の化学組成の範囲内である化学組成を有し、かつ、「少なくとも300MPaの降伏強度」及び「少なくとも10%の伸び」との機械的特性を備える6xxxアルミニウム合金シートを原材料とし、シート以外の形態に加工された「6xxxアルミニウム合金製品」も、原材料のシートと同等の機械的特性を備え、上記課題を解決することができるものであることは当業者にとって明らかである。
してみれば、申立人竹原及び申立人中川の両主張は採用できない。
(カ)なお、申立人竹原は、訂正前の請求項32について「「前記6xxxアルミニウム合金を鋳造することが、押出物を押出すことを含む」と規定されているが、「鋳造」が「押出物を押出す」ことを含むという態様は当業者であろうと理解不可能である。」と主張するが、本件訂正により、請求項32は削除されたため、申立ての対象となる請求項が存在しないものとなった。
(キ)申立理由3(サポート要件)、申立理由6(サポート要件)についてのまとめ
以上より、本件発明1、2、5~14、19~31、33~51について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであり、サポート要件に適合するものである。
したがって、申立理由3(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1、2、5~14、19~31、33~51に係る特許を取り消すことはできない。また、申立理由6(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1、2、5~14に係る特許を取り消すことはできない。
(5)申立理由4(明確性)について
ア 「アルミニウム合金製品」の明確性について
申立人竹原は、特許異議申立書において、本件発明1~18における「アルミニウム合金製品」は、特定の製品に限定されておらず、如何なる製品を指しているのか不明確である。つまり、本件特許の請求項1の「アルミニウム合金製品」の文言は、当業者であろうとも所定の製品が含まれるのか/含まれないのかの判断が不可能となる不明確(権利範囲の外縁が不明確)な記載であり、その結果、本件特許発明1が明確ではない。」と主張する。
しかしながら、「アルミニウム合金製品」とは、アルミニウム合金からなる「製品」であって、原材料としてアルミニウム合金を用い、加工して作られた品物(製品)を意味すると解されるから、「アルミニウム合金製品」の文言の意味は明確である。
したがって、申立人竹原の上記主張は採用できない。
イ 申立理由4(明確性)についてのまとめ
したがって、申立理由4(明確性)によっては、本件特許の請求項1~18、32に係る特許を取り消すことはできない。
(6)申立理由5(実施可能要件)について
ア シート以外のアルミニウム合金製品について
(ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、特に段落【0005】~【0008】の記載からみて、「0.001~0.25重量%のCr、0.4~2.0重量%のCu、0.10~0.30重量%のFe、0.5~2.0重量%のMg、0.005~0.40重量%のMn、0.5~1.5重量%のSi、最大で0.15重量%のTi、最大で4.0重量%のZn、最大で0.2重量%のZr、最大で0.2重量%のSc、最大で0.25重量%のSn、最大で0.1重量%のNi、最大で0.15重量%の総不純物を含み得、残りの重量%はAl」との特定の化学組成からなり、少なくとも300MPaの降伏強度、及び少なくとも10%の伸びを達成する、高強度6xxx合金組成物とその製造方法を提供することが記載されている。
(イ)そして、本件特許明細書には、段落【0055】の表1に記載された上記6xxx合金組成物の具体的な例である「実施形態1」が、段落【0070】の表2に示されるように、「少なくとも300MPaの降伏強度」及び「少なくとも10%の伸び」との機械的特性を備えることが示されている。
(ウ)ここで、申立人竹原は、訂正前の請求項1~18に記載されたアルミニウム合金製品のうち、シート以外のアルミニウム合金製品は、本件特許明細書を参酌しても製造することができないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する、いわゆる実施可能要件を満たしていない旨を主張する。
しかしながら、当業者は、本件発明1~18の6xxxアルミニウム合金製品を、上記特定の化学組成の範囲内の化学組成を有し、かつ、「少なくとも300MPaの降伏強度」及び「少なくとも10%の伸び」との機械的特性を備える限りにおいて、シートに限らない製品の形態で提供されることができるといえる。また、上記特定の化学組成の範囲内である化学組成を有し、かつ「少なくとも300MPaの降伏強度」及び「少なくとも10%の伸び」との機械的特性を備える6xxxアルミニウム合金シートを原材料として、シート以外の形態に加工された「6xxxアルミニウム合金製品」を製造することができることも当業者にとって明らかである。
したがって、申立人の上記主張は採用することができるものでない。
イ 申立理由5(実施可能要件)についてのまとめ
したがって、申立理由5(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~18、32に係る特許を取り消すことはできない。
(7)令和4年7月13日に申立人竹原により提出された意見書について
a 申立人竹原は、令和4年7月13日提出の意見書の3(3)(進歩性違反の判断)において、新たな証拠として甲第5号証(特開2007-177308号公報)、及び甲第6号証(特開平6-330264号公報)を提示し、(訂正後の)本件発明1は、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に想到し得るため、進歩性を有しない旨を主張する。
しかしながら、訂正後の本件発明1が、訂正前の請求項1に係る発明をCuの配合量の数値範囲について減縮したものであることを踏まえると、申立人竹原の上記主張に係る理由及び証拠は、特許異議申立書の提出時に実質提示することのできたものであって、訂正に伴って生じたとはいえない新たな理由及び証拠を時機に後れて提示しているものと判断されるので、採用できない。
b なお、上記甲第5号証には、請求項2、段落【0034】【表1】、【0035】【表2】からみて、特に試験材No.4の発明例に着目すると、「質量%で、Si:1.02%、Fe:0.10%、Cu:0.67%、Mn:0.28%、Mg:0.76%、Cr:0.13%、Zn:0.02%、Ti:0.02%、Zr<0.01%、残部がAlおよび不純物からなり、耐力(σ0.2)が420MPaであり、引張強さ(σB)が445MPaであり、伸び(δ)が20%であるアルミニウム合金鍛造材」(以下「甲5発明」という。)が記載されている。
そして、甲5発明の「質量%」と本件発明1の「重量%」との間に実質的な差違はないことを踏まえ、本件発明1と甲5発明とを対比すると、Feの含有量について、前者は「0.15~0.30重量%のFe」を有するのに対し、後者は、質量%で「Fe:0.10%」を有する点、及び、Mgの含有量について、前者は「0.8~2.0重量%のMg」を有するのに対し、後者は、質量%で「Mg:0.76%」を有する点の、2点で両者は相違する。
ここで、甲第5号証には、Feの含有量について、上記段落【0034】、【0035】の他に特段の記載がなく、またMgの含有量について、段落【0022】に、「好ましい含有量は0.55~0.95%の範囲であり」との記載があるに過ぎないから、甲5発明のFeの含有量を「0.15~0.30重量%」の数値範囲内に変更し、かつ、同発明のMgの含有量を「0.8~2.0重量%」の数値範囲内に変更することの動機付けがあるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に想到し得るものということはできないから、本件発明1が進歩性を有しないとはいえない。
c また、上記甲第6号証には、請求項1、段落【0015】【表1】、【0016】【表2】からみて、特にNo.2~4の本発明合金に着目すると、「Si1.4wt%、Fe0.3wt%、Cu1.2wt%、Mn0.3wt%、Mg1.2wt%、Cr0.0wt%、Zr0.2wt%を含有し、残部Alと不可避的不純物とからなり、引張強さが419N/mm2、耐力が362N/mm2、伸びが15%であるアルミニウム合金鍛造材」(以下「甲6A発明」という。)、「Si1.0wt%(重量%)、Fe0.2wt%、Cu0.6wt%、Mn0.2wt%、Mg0.9wt%、Cr0.0wt%、Zr0.2wt%を含有し、残部Alと不可避的不純物とからなり、引張強さが404N/mm2、耐力が365N/mm2、伸びが15%であるアルミニウム合金鍛造材」(以下「甲6B発明」という。)、「Si0.8wt%、Fe0.2wt%、Cu0.8wt%、Mn0.2wt%、Mg1.0wt%、Cr0.0wt%、Zr0.1wt%を含有し、残部Alと不可避的不純物とからなり、引張強さが382N/mm2、耐力が357N/mm2、伸びが17%であるアルミニウム合金鍛造材」(以下「甲6C発明」という。)が記載されている。
そして、甲第6号証に記載の「wt%」は、本件発明1の「重量%」と実質同じであることを踏まえ、本件発明1と甲6A発明~甲6C発明のそれぞれとを対比すると、Crの含有量が、前者は「0.001~0.25重量%」であるのに対し、後者は「0.0wt%」である点、及び、Znの含有量について、前者は「0.01~3重量%」であるのに対し、後者は明示的な記載がなくZnを含有するかが不明な点の、2点で両者は相違する。
ここで、甲第6号証には、Znの含有量について、上記段落【0015】、【0016】の他に特段の記載がなく、またCrについて、段落【0008】に、結晶粒微細化の効果を有するが、溶体化処理や鍛造前の予備加熱等の熱履歴の影響を受け、結晶粒微細化の効果が持続しないという問題があるため、「その含有量を0.05wt%以下と限定した。」との記載があるに過ぎないから、甲6A発明~甲6C発明のZnの含有量を「0.01~3重量%」の数値範囲内に変更し、かつ、同発明のCrの含有量を「0.001~0.25重量%」の数値範囲内に変更することの動機付けがあるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に想到し得るものということはできないから、本件発明1が進歩性を有しないとはいえない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1、2、5~14、19~31、33~51に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、5~14、19~31、33~51に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項3、4、15~18、32は、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700508