特許異議申立
2025-700663
- 審判番号
- 2025-700663
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-567016
- 登録番号
- 7605635
- 請求日
- 2025年06月23日
- 審決日
- 2026年07月03日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】ノベリス・インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】鶴田 準一
- 【権利者代理人】渡辺 陽一
- 【権利者代理人】中村 和広
- 【権利者代理人】南山 知広
- 【権利者代理人】関根 宣夫
- 【異議申立人】スペイラ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
- 【異議申立人代理人】越川 隆夫
- 【異議申立人】黒野 美穂
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 富永 泰規
- 分類
- P1651.113-ZC (C22F) / P1651.121-ZC (C22F) / P1651.536-ZC (C22F) / P1651.537-ZC (C22F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第3項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7605635号発明「低ゲージのレベリングされた缶体原料及びそれを作製する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7605635号の請求項11に係る特許を取り消す。
特許第7605635号の請求項1~10、12~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7605635号(請求項の数14。以下「本件特許」という。)は、2019年(令和 1年) 5月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2018年 6月 1日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする外国語特許出願(特願2020-567016号。以下「本願」という。)に係るものであって、令和 6年12月16日にその特許権の設定登録がされ、同年12月24日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 7年 6月24日に、その全請求項(請求項1~14)に係る特許について、特許異議申立人であるスペイラ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング(以下「申立人01」という。)により、特許異議の申立て(以下「申立て01」という。)がされた。
また、令和 7年 6月23日に、その全請求項(請求項1~14)に係る特許について、特許異議申立人である黒野 美穂(以下「申立人02」という。)により特許異議の申立て(以下「申立て02」という。)がされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 7年 6月23日提出:特許異議申立書(申立人02)
(以下「申立書02」という。)
同年 6月24日提出:特許異議申立書(申立人01)
(以下「申立書01」という。)
同年 8月 1日提出:申立書01についての手続補正書(申立人01)
同年10月27日付け:取消理由通知書
なお、上記取消理由通知書に対して、特許権者から、意見の提出はなかった。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、本件特許の請求項1~14に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明14」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)
「 【請求項1】
アルミニウム合金シートを製造する方法であって、
0.05~0.4wt.%のCu、0.25~0.6wt.%のFe、0.8~3.0wt.%のMg、0.1~2.0wt.%のMn、0.3~0.7wt.%のSi、最大0.1wt.%のTi、最大0.25wt.%のZn、最大0.4wt.%のCr、不純物として他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%、及びAlからなるアルミニウム合金を鋳造して、鋳造アルミニウム合金を形成することと、
前記鋳造アルミニウム合金を少なくとも450℃に加熱することと、
前記鋳造アルミニウム合金を250℃~550℃の温度範囲で熱間圧延して、熱間圧延シートを製造することと、
前記熱間圧延シートを4mm未満の厚さに冷間圧延して、アルミニウム合金冷間圧延シートを製造することと、
前記アルミニウム合金冷間圧延シートをレベリングすることと、を含み、
前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒~15秒の時間で加熱することによりレベリングする、および/または前記アルミニウム合金冷間圧延シートをテンションレベリング、ストレッチレベリング、もしくはローラーレベリングで機械的レベリングし、
前記アルミニウム合金シートは、240μm未満の厚さであり、および少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有する、前記方法。
【請求項2】
鋳造することは、半連続ダイレクトチル鋳塊鋳造またはストリップ鋳造によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鋳造アルミニウム合金を加熱することは、前記鋳造アルミニウム合金を均質化することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金冷間圧延シートを脱脂することをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルミニウム合金冷間圧延シートからアルミニウム微粉、圧延油、及び破片を除去することをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
レベリングした後、カッピング生産のための潤滑剤により潤滑することをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルミニウム合金は、3xxxシリーズまたは5xxxシリーズアルミニウム合金である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記アルミニウム合金冷間圧延シートは、縦方向にテンションレベリングされる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記アルミニウム合金シートの1つ以上の表面は、1面あたり、1平方メートルあたり少なくとも200mg(mg/m2/面)の量でカッピング生産のための潤滑剤を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記アルミニウム合金シートは、飲料缶体に用いられる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
アルミニウム合金シートであって、
0.05~0.4wt.%のCu、0.25~0.6wt.%のFe、0.8~3.0wt.%のMg、0.1~2.0wt.%のMn、0.3~0.7wt.%のSi、最大0.1wt.%のTi、最大0.25wt.%のZn、最大0.4wt.%のCr、不純物として他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%、及びAlからなるアルミニウム合金を含み、
240μm未満の厚さであり、および少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有し、
前記アルミニウム合金シートの1つ以上の表面が、前記アルミニウム合金シート表面の1平方ミリメートル(mm2)あたり1重量%未満の圧延用潤滑剤、アルミニウム微粉及び破片を含む、前記アルミニウム合金シート。
【請求項12】
前記アルミニウム合金シートの1つ以上の表面は、0.1から0.7のテクスチャアスペクト比を有する、請求項11に記載のアルミニウム合金シート。
【請求項13】
前記アルミニウム合金シートの前記1つ以上の表面は、5mg/m2/面から100mg/m2/面の量で腐食を抑制するための潤滑剤を含む、請求項11または12のいずれか1項に記載のアルミニウム合金シート。
【請求項14】
前記腐食を抑制するための潤滑剤は、ジブチルアジパート、ジブチルセバケート、ジヘキシルアジパート、ジヘキシルセバケート、ジシクロヘキシルアジパート、ジシクロヘキシルセバケート、ジオクチルアジパート、ジオクチルセバケート、ジイソデシルアジパート、ジイソデシルセバケート、ジウンデシルアジパート、ジウンデシルセバケート、ジドデカニルアジパート、ジドデカニルセバケート、ジフェニルセバケート、またはジフェニルアジパートを含む、請求項13に記載のアルミニウム合金シート。」
第3 申立ての理由の概要
1 申立て01について
申立人01は、証拠方法として甲第1号証~甲第4号証(以下、申立て02の証拠方法と区別できるように、それぞれを「甲1-1」~「甲1-4」という。下記(4)参照。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
なお、申立書01の8頁の理由の要点には、請求項1~14について、「甲第1号証~甲第4号証に記載、若しくは当該甲第1号証~甲第4号証の記載事項から容易想到。」と記載され、同22頁には、「本件特許発明1~14は、甲第1号証~甲第4号証に開示されている。」と記載されているが、甲第3号証及び甲第4号証について、同21頁~22頁の(3-a)、(4-a)において、独立請求項に係る発明である本件特許発明1と本件特許発明11の全体との対比がされておらず、主たる引用文献ではないことが明らかである。この点を含め、申立て01は、申立書01全体の記載も踏まえ、以下の(1)~(3)の理由についてされているものと認める。
(1) 申立理由1-1(新規性・進歩性)
本件発明1~14は、甲1-1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるか、甲1-1に記載された発明並びに甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2) 申立理由1-2(新規性・進歩性)
本件発明1~14は、甲1-2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるか、甲1-2に記載された発明及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3) 申立理由1-3(新規事項)
令和 5年 1月12日付けでした手続補正は、外国語書面の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているとはいえないから、かかる手続補正をした特許出願に対してなされた本件特許は、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。
(4) 証拠方法
甲1-1:特開平11-269594号公報
甲1-2:特開2012-167333号公報
甲1-3:米国特許第7569525号公報
甲1-4:L. Chen、“Flattening, Leveling, Slitting, and Shearing of Coiled Product”、ASM Handbook Volume 14B Metalworking: Sheet Forming、ASM International、2006年9月、p.46~55
2 申立て02について
申立人02は、証拠方法として甲第1号証~甲第10号証(以下、申立て01の証拠方法と区別できるようにそれぞれを「甲2-1」~「甲2-10」という。下記(9)参照。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1) 申立理由2-1(進歩性)
本件発明1~3は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2~甲2-7に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2) 申立理由2-2(進歩性)
本件発明1~3は、甲2-8に記載された発明及び甲2-2~甲2-7に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3) 申立理由2-3(進歩性)
本件発明4~10は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4) 申立理由2-4(進歩性)
本件発明4~10は、甲2-8に記載された発明及び甲2-2~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5) 申立理由2-5(進歩性)
本件発明11~13は、甲2-1に記載された発明及び甲2-5~甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6) 申立理由2-6(進歩性)
本件発明11~13は、甲2-8に記載された発明、甲2-8の記載及び甲2-5~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(7) 申立理由2-7(進歩性)
本件発明14は、甲2-1に記載された発明及び甲2-5~甲2-10に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(8) 申立理由2-8(進歩性)
本件発明14は、甲2-8に記載された発明、甲2-8の記載及び甲2-5~甲2-7、甲2-9及び甲2-10に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(9) 証拠方法
甲2-1:特開2012-140664号公報
甲2-2:荒木甚一郎、「矯正技術に関する基礎理論」、生産研究、第25巻第10号、1973年10月、p.444~448
甲2-3:阿部敬三、第129回塑性加工講座「板形状矯正設備の最前線」講演資料の写し、2013年1月、(https://steelplantech.com/assets/pdf/technology/c8261ee2c75003fd379fc560da594768.pdf)
甲2-3の2:甲2-3へのリンクと発表年月が記載されたSteel Plantech社Webページの写し、(https://steelplantech.com/technology#product018)
甲2-4:藤牧正人、「テンションレベラによる矯正技術」、軽金属、一般社団法人軽金属学会、第70巻第5号、2020年5月15日、p.197~203
甲2-5:特開平11-181558号公報
甲2-6:土田信、「非熱処理型アルミニウム合金硬質板の組織制御と材料特性に関する研究」、名古屋大学学位論文、2009年6月
甲2-7:野口雅敏、「アルミニウムと缶」、軽金属、社団法人軽金属学会、第38巻第7号、1988年7月30日、p.414~425
甲2-8:特開2014-15643号公報
甲2-9:菱川滋、小林博幸、「アルミニウムの板圧延技術」、Furukawa-Sky Review、古河スカイ株式会社、No.4、2008年4月、p.1~9
甲2-10:特開平6-271889号公報
第4 取消理由の概要
当合議体は、上記第3の1の申立理由のうち、申立理由1-1の一部を採用し、令和 7年10月27日付けで、次の取消理由1を通知した。
1 取消理由1(進歩性)
本件発明11は、甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当合議体の判断
当合議体は、次に示すとおり、上記第4の1の取消理由1(進歩性)によって、本件特許の請求項11に係る特許を取り消すべきものと判断する。
また、当合議体は、次に示すとおり、取消理由1を除く上記第3の1及び2の特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~10、12~14に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1(進歩性)(申立理由1-1の一部、甲1-1を主たる引用文献とするもの)について
(1) 甲1-1に記載された事項及び甲1-1に記載された発明
ア 甲1-1の記載事項
本願の優先権主張の日前に公知となった甲1-1には、「アルミニウム合金積層板およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
アルミニウム合金板と、その片面または両面に熱可塑性樹脂フィルムを積層したアルミニウム合金積層板において、
アルミニウム合金板が、重量%で
Mn 0.6~1.2%
Mg 1.5~3.2%
Si 0.2~0.5%
Cu 0.3~0.5%
Fe 0.3~0.6%
を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成を有するとともに、その耐力が300MPa以上、かつ、引張強さと耐力との比が1.15以上であることを特徴とするアルミニウム合金積層板。」
(イ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、飲料用缶のエンド部に用いるアルミニウム合金積層板に関するものである。」
(ウ) 「【0027】<製造方法>以下本発明アルミニウム合金積層板の製造方法について説明する。本発明の積層板に用いるアルミニウム合金板は、半連続鋳造で製造された鋳塊に、均質化処理を施し、熱間圧延後、冷間圧延し、その後中間焼鈍を施し、さらに所望板厚まで冷間圧延を行い、熱可塑性樹脂フィルムを積層する。」
(エ) 「【0032】以上の冷間圧延により所望板厚となったアルミニウム合金板は、クロメート処理、あるいは、陽極酸化処理、エッチング処理などの表面処理を施した後、熱可塑性樹脂フィルムを積層する。積層は、加熱した合金板の少なくとも片面に熱可塑性樹脂フィルムを加圧ロール等を用いて加圧圧着して行われる。加圧圧着後、フイルムの密着性やフイルム特性を制御するため、さらに加熱・保持を実施することが望ましい。以上の一連の積層工程中、アルミニウム合金板の最高加熱温度は285℃とし、かつ245~280℃の間に1~60秒加熱・保持することにより、300MPa以上の耐力と、1.15以上の引張り強さと耐力との比(TS/YS)とを得ることができる。加熱温度が上記温度より低いか、加熱保持時間が短いと引張り強さと耐力との比(TS/YS)が低くなり、また加熱温度が上記温度範囲より高いか、加熱保持時間が長いと耐力が低くなる。量産性を考慮すると、短い方が好ましく、1~30秒が好ましい。」
(オ) 「【0037】
【発明の実施の形態】<従来例>まず、従来提案されてきた方法で製造した3XXX系アルミニウム合金板を用いて製造した積層板、エンド部に基づき、その問題点を指摘する。表2に示す合金のうちA8およびA9の合金を溶製、半連続鋳造し、厚さ600×幅1400×長さ4000mmの鋳塊とした。鋳塊の圧延面となる表面を12.5mm面削後、565℃で8h保持の均質化処理を施し、保持終了後直ちに熱間圧延を行い、厚さ7mmの熱間圧延板とした。熱間圧延板を中間焼鈍板厚(0.588または0.940または1.07mm)まで冷間圧延し、その後、表3に示すIV、VIII、IX、X、XIのいずれかの工程で0.235mmの圧延板を製造した。表3中の中間焼鈍は、いずれの場合も連続焼鈍炉を用いて行った。
【0038】
【表2】
[図:0001439167000001.jpg]
【0039】
【表3】
[図:0001439167000002.jpg]
【0040】なお、工程IV、VIIIの条件は、表3に記載されているように、中間焼鈍後、それぞれ60%、78%の冷間圧延を施した。工程XIは、工程VIIIにより得られた0.235mm厚の冷間圧延板を170℃に加熱し、1h保持する時効処理を施したものである。また、工程X、XIは、表3に示す条件の中間焼鈍を施した後、38%の冷間圧延をし、ついで160℃で4h保持する中間時効処理後、さらに、それぞれ、36%、59%の冷間圧延を施して、0.235mmの板厚とした(以下、この工程を「TMT工程」ということがある)。
【0041】以上の各条件で得られた板は、脱脂、水洗、燐酸クロム酸処理、水洗、乾燥工程を施し、20mg/平方メートルの燐酸クロム酸皮膜をその表面に形成した。積層フィルムとしては、共押出し後、2軸延伸した2層PETフィルムを用いた。アルミニウム合金板と接する側の内層フィルムは、フタル酸成分として、79mo1%のテレフタル酸と21mo1%のイソフタル酸、および、ジオール成分として、100mo1%のエチレングリコールを主成分として含有し、その他少量の不純物とオリゴマー等の副生成物を含有する非結晶性の共重合PETフィルムとした。なお、厚さは1.0μm、融点は199℃である。また、外層フィルムとしては、フタル酸成分として、98mol%のテレフタル酸と2mol%のイソフタル酸、および、ジオール成分として、100mol%のエチレングリコールを主成分として含有し、滑剤として、800ppmの無定型シリカを含有し、その他少量の不純物とオリゴマー等の副生成物を含有するPETを用いた。このPETフィルムは、2軸延伸し、熱安定化された構造を有し、厚さ8μm、融点255℃である。
【0042】フィルムの積層は、アンコイラー、予備加熱装置、加圧圧着ロール、後加熱装置、保持炉、水冷装置、乾燥装置、巻き取り装置が順に配置された連続式積層装置を用いて行った。積層時のアルミニウム合金板の温度変化の例を図1に示す。まず、アンコイラーから導かれたアルミニウム合金板は予備加熱装置により予備加熱温度T1まで加熱され、加圧圧着ロールヘ導かれる。アルミニウム合金板の通板ラインの両側に配置されたフィルム用アンコイラーから、フイルムが供給され、加圧圧着ロールにて、アルミニウム合金板の両面にフイルムが加圧圧着される。予備加熱装置から加圧圧着装置に導かれる過程で放熱により合金板の温度がやや低下する。加圧ロール直前で測定した金属板温度がT2である。合金板の温度は、温度制御された加圧ロールでフイルムを圧着する際に急激に低下し、さらに後加熱装置に導かれる過程でやや低下し、後加熱装置直前で、積層板の温度はT3となる。ついで、積層板は、後加熱装置により温度T4まで加熱される。ついで、冷却速度を制御するために設けられた保持炉中を冷却されながら通過し、水冷装置直前で温度T5となる。水冷された積層板は水切り後乾燥され、コイル状に巻き取られる。表4のA欄には、本従来例のT1~T5の各温度を示す。
【0043】
【表4】
[図:0001439167000003.jpg]
【0044】上記の方法で製造された積層板および5182合金に塗装が施されている市販のエンド用塗装板について、引張試験を行い引張強さおよび耐力を求めた。また、ビール等の飲料用缶に用いられる204(2+4/16インチ)径エンド用の金型を用いて飲料用缶のエンド部を試作し、耐圧試験および実際に開口してみて問題が生じないかどうかの開口性を評価した。その結果を表5に示す。
【0045】
【表5】
[図:0001439167000004.jpg]
」
(カ)「【0046】従来例1は、典型的なボディ部用合金板と同様の条件で製造した合金板を用いて積層板を製造した例である。5182合金を用いた従来例11と比較すると著しく耐圧強度が低い。中間焼鈍を施した後、38%の冷間圧延し、ついで160℃で4h保持する中間時効処理後、さらに、36%の冷間圧延を施した従来例2、あるいは従来例1に比べて最終圧延率を高くした従来例3は、従来例1に比べると耐圧強度が向上するものの、5182合金に比べると未だ耐圧強度が低い。
【0047】中間焼鈍を施した後、38%の冷間圧延をし、ついで160℃で4h保持する中間時効処理後、さらに、59%の冷間圧延を施した従来例4では、5182合金にに近い耐圧強度を示すが、ブローアップ発生率が高くなる。従来例5,従来例7,従来例9は、通常のボディ部を構成する合金に比べるとMgおよびCu量がやや高い合金を用いた例である。高最終冷延率、TMT工程、時効処理工程を採用することにより、5182合金と同等以上の耐圧強度が得られるが、いずれもブローアップ発生率が著しく高い。従来例6,従来例8,従来例10は、エンド部成形時のスコア加工条件を変え、スコア部の残厚を厚くした例である。ブローアップ発生率は低下するが、通常の開口操作で、スコア部が全周破断して蓋が完全に開く前に、ヒンジ部が部分的に破断して、開口不良が生じてしまった。
【0048】以上の結果から、従来より提案されてきた各種の強化方法により、合金板の強度を高め、耐圧強度を向上することは可能であるが、さらに耐ブローアップ性、開口性とを満足させることが困難であることが解る。なおこれらの合金を用いた場合でも、アルミニウム合金板の板厚を厚くしたり、エンド部の各部形状を最適化することにより、充分な耐圧強度と耐ブローアップ性、開口性が確保できることは言うまでもないが、素材重量が増加したり、成形寸法の許容誤差が減少したり、あるいは、エンド設計の自由度が低下し、意匠性や種々の機能性の点で不利が生じることが懸念される。
【0049】<実験例A>表2のA1~A7(本発明で規定する合金組成の範囲内)、A10~A14(本発明で規定する合金組成の範囲外)の合金、表3のIまたはIIの合金板製造条件、表4のAのフィルム積層条件を採用し、他の工程は前記従来例と同様(スコア部の残厚はすべて0.100mmとした)にして、アルミニウム合金積層板、エンド部を製造、試作して同様の評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
[図:0001439167000005.jpg]
【0051】実施例1~7のアルミニウム合金積層板はいずれも本発明で規定する合金組成を有し、しかも本発明で規定する条件で製造されているため、300MPa以上の耐力と1.15以上の引張強さと耐力との比(TS/YS)を満足し、高い耐圧強度と低いブローアップ率が達成されることが解る。
【0052】これに対して、本発明で規定する製造条件を適用しても、本発明で規定する範囲外の合金からなる場合は、耐圧強度が低いか(比較例2)、あるいは耐圧強度が高いとしてもブローアップ率が高くなる(比較例1、3~5)ことが解る。
【0053】<実験例B>表2のA1またはA2の合金、表3のIの合金板製造条件、表4のA~Fの積層条件を採用し、他の工程は前記従来例と同様にして、アルミニウム合金積層板、エンド部を製造、試作して同様の評価を行った。結果を表7に示す。
【0054】
【表7】
[図:0001439167000006.jpg]
」
イ 甲1-1に記載された発明
(ア) 甲1-1には、前記ア(イ)、(ウ)によれば、飲料用缶のエンド部に用いるアルミニウム合金積層板に関し、半連続鋳造で製造された鋳塊に、均質化処理を施し、熱間圧延後、冷間圧延し、その後中間焼鈍を施し、さらに所望板厚まで冷間圧延を行い、熱可塑性樹脂フィルムを積層する製造方法が記載されている(段落【0027】)。
(イ) 前記ア(オ)には、従来例として、表2に示されるA8及びA9の合金を溶製、半連続鋳造し、厚さ600×幅1400×長さ4000mmの鋳塊とし、鋳塊の圧延面となる表面を12.5mm面削後、565℃で8h保持の均質化処理を施し、保持終了後直ちに熱間圧延を行い、厚さ7mmの熱間圧延板とし、熱間圧延板を中間焼鈍板厚(0.588または0.940または1.07mm)まで冷間圧延し、その後、表3に示すIV、VIII、IX、X、XIのいずれかの工程で0.235mmの圧延板を製造(段落【0037】)し、以上の各条件で得られた板に、脱脂、水洗、燐酸クロム酸処理、水洗、乾燥工程を施し、その両面に内層フィルムが1.0μm、外層フィルムが8μmのPETフィルムの積層を、アンコイラー、予備加熱装置、加圧圧着ロール、後加熱装置、保持炉、水冷装置、乾燥装置、巻き取り装置が順に配置された連続式積層装置を用いて表4のA欄に示す条件で行う積層板の製造方法が記載されている(段落【0037】~【0043】)。
(ウ) ここで、表2には、A8の合金について、Mn:0.90wt%、Mg:1.27wt%、Si:0.31wt%、Cu:0.28wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%であること、A9の合金ついて、Mn:0.90wt%、Mg:1.45wt%、Si:0.31wt%、Cu:0.40wt%、Fe:0.44wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%であることが示されているところ、前記ア(ア)の特許請求の範囲の記載を踏まえると、A8の合金とA9の合金は、表に示される成分を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成を有するものであると認められる。
(エ) 前記(イ)の製造方法で製造された積層板の評価結果を示す表5におけるNo.4に着目すると、合金組成がA8のもので耐力が309MPaであることが示されている。同表5におけるNo.5~10に着目すると、合金組成がA9のもので耐力が323MPa、338MPa又は345MPaであることが記載されている(段落【0044】、【0045】)。
(オ) 同様にA1~A7、A10~A14の合金、表3のI又はIIの合金板製造条件、表4のAのフィルム積層条件を採用し、他の工程は上記(イ)~(エ)で検討した従来例と同様にして製造したアルミニウム合金積層板の評価結果を示す表6には、以下の(カ)~(サ)のものが記載されている(段落【0049】~【0052】)。
(カ) 合金組成がA1(Mn:0.90wt%、Mg:2.48wt%、Si:0.31wt%、Cu:0.40wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)のもので耐力が306MPaのアルミニウム合金積層板(実施例1)。
(キ) 合金組成がA3(Mn:0.90wt%、Mg:2.99wt%、Si:0.30wt%、Cu:0.32wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)のもので耐力が313MPaのアルミニウム合金積層板(実施例3)。
(ク) 合金組成がA5(Mn:0.91wt%、Mg:2.42wt%、Si:0.45wt%、Cu:0.40wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)のもので耐力が315MPaのアルミニウム合金積層板(実施例5)。
(ケ) 合金組成がA6(Mn:0.90wt%、Mg:2.49wt%、Si:0.30wt%、Cu:0.39wt%、Fe:0.55wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)のもので耐力が309MPaのアルミニウム合金積層板(実施例6)。
(コ) 合金組成がA11(Mn:0.91wt%、Mg:3.00wt%、Si:0.31wt%、Cu:0.27wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)のもので耐力が299MPaのアルミニウム合金積層板(比較例2)。
(サ) 合金組成がA12(Mn:0.90wt%、Mg:2.51wt%、Si:0.54wt%、Cu:0.30wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)のもので耐力が325MPaのアルミニウム合金積層板(比較例3)。
(シ) また、同様に、表2のA1の合金、表3のIの合金板製造条件、表4のA~Fの積層条件を採用し、他の工程は前記(イ)~(エ)で検討した従来例と同様にして製造したアルミニウム合金積層板の評価結果を示す表7には、実施例8、9、比較例6として、合金組成がA1のもので、耐力が304MPa、303MPa、298MPaのアルミニウム合金積層板が記載されている(段落【0053】~【0054】)。
(ス) 以上の検討を踏まえ、特に前記(ウ)、(オ)~(サ)、(シ)のアルミニウム合金積層板のアルミニウム合金板部分に着目すると、甲1-1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「A1の合金(Mn:0.90wt%、Mg:2.48wt%、Si:0.31wt%、Cu:0.40wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)、
A3の合金(Mn:0.90wt%、Mg:2.99wt%、Si:0.30wt%、Cu:0.32wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)、
A5の合金(Mn:0.91wt%、Mg:2.42wt%、Si:0.45wt%、Cu:0.40wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)、
A6の合金(Mn:0.90wt%、Mg:2.49wt%、Si:0.30wt%、Cu:0.39wt%、Fe:0.55wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)、
A8の合金(Mn:0.90wt%、Mg:1.27wt%、Si:0.31wt%、Cu:0.28wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)、
A9の合金(Mn:0.90wt%、Mg:1.45wt%、Si:0.31wt%、Cu:0.40wt%、Fe:0.44wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)、
A11の合金(Mn:0.91wt%、Mg:3.00wt%、Si:0.31wt%、Cu:0.27wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)、
又は、A12の合金(Mn:0.90wt%、Mg:2.51wt%、Si:0.54wt%、Cu:0.30wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)を、
溶製、半連続鋳造、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延して0.235mmの圧延板を製造し、脱脂、水洗、燐酸クロム酸処理、水洗、乾燥工程を施したアルミニウム合金板であって、
その両面に内層フィルムが1.0μm、外層フィルムが8μmのPETフィルムの積層を行ったアルミニウム合金積層板の耐力が
A1の合金について、298MPa、303MPa、304MPa又は306MPaである、
A3の合金について、313MPa、
A5の合金について、315MPa、
A6の合金について、309MPa、
A8の合金について、309MPa、
A9の合金について、323MPa、338MPa又は345MPa、
A11の合金について、299MPa、
A12の合金について、325MPaである、
アルミニウム合金板。」(以下「甲1-1発明」という。)
(2) 本件発明11について
ア 本件発明11と甲1-1発明とを対比する。
(ア) 甲1-1発明の「アルミニウム合金板」は、アルミニウム合金からなる板(シート)であるから、本件発明11の「アルミニウム合金シート」に相当する。
(イ) 甲1-1発明のアルミニウム合金板のA1、A3、A5、A6、A8、A9、A11、A12の合金は、それぞれ本件発明11のCu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn、Crの組成範囲を満たす。
(ウ) 甲1-1発明のアルミニウム合金板は、冷間圧延し0.235mm(235μm)の圧延板としたものであって、その後の脱脂、水洗、燐酸クロム酸処理、水洗、乾燥工程によってアルミニウム合金板の板厚は変化しない(少なくとも増加しない)と認められるから、本件発明11の「240μm未満の厚さであ」ることを満たす。
(エ) そうすると、本件発明11と甲1-1発明とは、
「 アルミニウム合金シートであって、
0.05~0.4wt.%のCu、0.25~0.6wt.%のFe、0.8~3.0wt.%のMg、0.1~2.0wt.%のMn、0.3~0.7wt.%のSi、最大0.1wt.%のTi、最大0.25wt.%のZn、最大0.4wt.%のCr、不純物及びAlからなるアルミニウム合金を含み、
240μm未満の厚さである、
前記アルミニウム合金シート。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1-1>
アルミニウム合金の不純物成分について、本件発明11が「他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%」であることを特定するのに対して、甲1-1発明は、他の微量元素の含有量及び不純物の合計量が不明である点
<相違点1-1-2>
本件発明11が「前記アルミニウム合金シートの1つ以上の表面が、前記アルミニウム合金シート表面の1平方ミリメートル(mm2)あたり1重量%未満の圧延用潤滑剤、アルミニウム微粉及び破片を含む」のに対して、甲1-1発明は、この点が不明である点
<相違点1-1-3>
本件発明11がアルミニウム合金シートが「少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有する」のに対して、甲1-1発明は、積層板としての耐力が298MPa~345MPaである点
イ 相違点1-1-1について
(ア) 甲1-1発明は、他の微量元素の含有量及び不純物の合計量を特定するものではないから、相違点1-1-1は実質的な相違点である。
(イ) そこで、この相違点について検討すると、甲1-1の段落【0026】をみると、本発明における積極的な添加元素ではないが、UBCを原料とする場合に含有することがある成分(つまり、不可避的に混入する元素であって不純物として認識される成分)として、Zn、Ti、Crが挙げられている。そして、段落【0038】の表2には、これらの3元素についてもその組成が記載されているところ、表2に記載される元素以外の元素は、原則として含有せず、仮に含有するとしても不可避的に混入する元素であって、Zn、Ti、Crの含有量に比べると、微量であると認められる。
(ウ) また、アルミニウム合金の不純物元素の量について、JIS H4000:2014 「アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条」の5.2の表2をみると、その他の成分は、個々で0.05%以下、合計で0.15%以下(技術常識からみて、%は、重量%であると認められる。)とされていることから、アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条の不純物元素の量として、個々で0.05重量%以下、合計で0.15重量%以下とすることは一般的なものであるといえる。
(エ) 一般に不純物元素の量が少ない方が望ましいことは明らかであるから、甲1-1発明において、不純物の含有量について、「他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%」の一般的な範囲に制限することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
ウ 相違点1-1-2について
(ア) 本件発明11の「前記アルミニウム合金シートの1つ以上の表面が、前記アルミニウム合金シート表面の1平方ミリメートル(mm2)あたり1重量%未満の圧延用潤滑剤、アルミニウム微粉及び破片を含む」ことについて、本件明細書の段落[0053]には、脱脂するプロセスにより、熱間圧延及び冷間圧延プロセスから表面に蓄積した残留油を除去するための処理であり、圧延プロセスから残留した表面破片、圧延油、及びアルミニウム微粉も除去することができると記載されている。
そうすると、本件発明11は、脱脂剤として、水(温水であってもよい)及び/又は溶媒により脱脂するプロセスを経ることによって、アルミニウム合金シートが上記した所定の表面の状態となるようにしていると認められる。
(イ) 一方、甲1-1発明は、圧延板を製造した後に、「脱脂、水洗、燐酸クロム酸処理、水洗、乾燥工程を施」すものであるから、この工程によって、圧延用潤滑剤、アルミニウム微粉及び破片が除去され、「前記アルミニウム合金シートの1つ以上の表面が、前記アルミニウム合金シート表面の1平方ミリメートル(mm2)あたり1重量%未満の圧延用潤滑剤、アルミニウム微粉及び破片を含む」状態となっているものと認められる。
(ウ) そうすると、この相違点1-1-2は、実質的な相違点ではない。
エ 相違点1-1-3について
(ア) 甲1-1発明のアルミニウム合金板は、積層板としての耐力が298MPa~345MPaである。
(イ) ここで、明確に降伏点を示さないアルミニウムのような材料においては、0.2%耐力を降伏点に代わる強度の指標として用いているという技術常識、また、JIS H4000:2014 「アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条」の7.2 引張試験の表25試験片の採取方向にあるように、3xxx系アルミニウム合金の引張試験の試験片は、圧延方向に平行(すなわち、「縦方向」)に採取するとされているという技術常識を踏まえると、甲1-1発明の耐力は縦方向降伏強度と同様の意味であるといえる。
(ウ) また、両面に加圧圧着されるフィルムは、PETフィルムであり、内層フィルムが1.0μm、外層フィルムが8μmであるから両面合わせても18μmであるから、アルミニウム合金板235μmに対して10%以下の厚みであって、両面にフィルムが積層された状態のアルミニウム合金積層板の耐力は、その大部分を占めるアルミニウム合金板の特性を反映しているものと認められる。(フィルム(PET)とアルミニウム合金板との引張強度が同様であると仮定して、アルミニウム合金板の引張強度が板厚の比に比例するとして検討しても276MPa(≒298MPa×235mm/(235+18)mm)であり、270MPa以上である。)
(エ) そうすると、本件発明11のアルミニウム合金シートは、「少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有」するといえるから、この相違点1-1-3は実質的な相違点ではない。
オ また、相違点1-1-1に係る特定事項を備えた本件発明11によって奏される効果は、格別顕著なものとはいえず、当業者が予測し得る範囲内のものである。
カ したがって、本件発明11は、甲1-1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 小括
よって、本件発明11は、甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができるものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由1-1(新規性・進歩性:取消理由1を除く、本件発明1~10、12~14に対して、甲1-1を主たる引用文献とするもの)について
(1) 甲1-1に記載された発明
ア 甲1-1の記載(【0001】、【0027】、【0032】、【0037】~【0048】)によれば、上記1(1)の検討を踏まえ、【0037】~【0048】に記載される発明の実施の形態のうち、「<従来例>」に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「アルミニウム合金板の製造方法であって、
半連続鋳造で鋳塊を製造し、
均質化処理を施し、
熱間圧延し、
冷間圧延し、その後中間焼鈍を施し、さらに所望板厚まで冷間圧延を行い、
熱可塑性樹脂フィルムを積層する、方法において、
半連続鋳造する合金が、
A8の合金(Mn:0.90wt%、Mg:1.27wt%、Si:0.31wt%、Cu:0.28wt%、Fe:0.45wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)、又は、
A9の合金(Mn:0.90wt%、Mg:1.45wt%、Si:0.31wt%、Cu:0.40wt%、Fe:0.44wt%、Cr:0.002wt%、Ti:0.02wt%、Zn:0.07wt%を含有し、残部アルミニウムとその他の不純物元素からなる組成)であり、
均質化処理が、565℃で8h保持であり、
熱間圧延が、保持終了後直ちに行い、厚さ7mmの熱間圧延板とするものであり、
冷間圧延し、その後中間焼鈍を施し、さらに所望板厚まで冷間圧延を行う処理が、熱間圧延板を中間焼鈍板厚(0.588または0.940又は1.07mm)まで冷間圧延し、その後、表3に示すIV、VIII、IX、X、XIのいずれかの工程で0.235mmの圧延板を製造するものであり、
冷間圧延された板を、脱脂、水洗、燐酸クロム酸処理、水洗、乾燥し、
フィルムの積層は、アンコイラー、予備加熱装置、加圧圧着ロール、後加熱装置、保持炉、水冷装置、乾燥装置、巻き取り装置が順に配置された連続式積層装置を用いて行い、
製造された積層板の耐力が、
合金組成がA8で、
素板製造条件がVIIIの場合に耐力が286MPa、
XI の場合に耐力が309MPa、
合金組成がA9で
素板製造条件がVIIIの場合に耐力が323MPa、
IX の場合に耐力が338MPa、
XI の場合に耐力が345MPaである
方法」(以下「甲1-1方法発明」という。)
(2) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1-1方法発明とを対比する。
(ア) 甲1-1方法発明の「アルミニウム合金板の製造方法」は、本件発明1の「アルミニウム合金シートを製造する方法」に相当する。
(イ) 甲1-1方法発明のA8、A9の合金は、それぞれ本件発明1のCu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn、Crの組成範囲を満たす。
(ウ) 甲1-1方法発明の「半連続鋳造で鋳塊を製造」することは、本件発明1の「アルミニウム合金を鋳造して、鋳造アルミニウム合金を形成すること」に相当する。
(エ) 甲1-1方法発明の「半連続鋳造で鋳塊を製造し」た後に、「均質化処理を施し、」「均質化処理が、565℃で8h保持であ」ることは、本件発明1の「前記鋳造アルミニウム合金を少なくとも450℃に加熱すること」に相当する。
(オ) 甲1-1方法発明の「熱間圧延し、」「熱間圧延が、保持終了後直ちに行い、厚さ7mmの熱間圧延板とするものであ」ることは、熱間圧延の温度範囲は不明であるものの、少なくとも本件発明1の「熱間圧延して、熱間圧延シートを製造すること」に相当する。
(カ) 甲1-1方法発明の「熱間圧延し」た後に、「冷間圧延し、その後中間焼鈍を施し、さらに所望板厚まで冷間圧延を行い、」「0.235mmの圧延板を製造するものであ」ることは、本件発明1の「前記熱間圧延シートを4mm未満の厚さに冷間圧延して、アルミニウム合金冷間圧延シートを製造すること」、「前記アルミニウム合金シートは、240μm未満の厚さであ」ることに相当する。
(キ) 甲1-1方法発明の「製造された積層板の耐力」の値は、技術常識を踏まえるとアルミニウム合金において「耐力」と「縦方向降伏強度」とは同様の値であるから、本件発明1の「少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有する」ことを満たす。
(ク) 以上によれば、本件発明1と甲1-1方法発明とは、
「アルミニウム合金シートを製造する方法であって、
0.05~0.4wt.%のCu、0.25~0.6wt.%のFe、0.8~3.0wt.%のMg、0.1~2.0wt.%のMn、0.3~0.7wt.%のSi、最大0.1wt.%のTi、最大0.25wt.%のZn、最大0.4wt.%のCr、不純物及びAlからなるアルミニウム合金を鋳造して、鋳造アルミニウム合金を形成することと、
前記鋳造アルミニウム合金を少なくとも450℃に加熱することと、
前記鋳造アルミニウム合金を熱間圧延して、熱間圧延シートを製造することと、
前記熱間圧延シートを4mm未満の厚さに冷間圧延して、アルミニウム合金冷間圧延シートを製造することと、
前記アルミニウム合金シートは、240μm未満の厚さであり、および少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有する、前記方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1-4>
本件発明1では、アルミニウム合金の不純物成分について、「他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%」であるのに対して、甲1-1方法発明では、他の微量元素の含有量及び不純物の合計量が不明である点
<相違点1-1-5>
本件発明1では、「250℃~550℃の温度範囲で」熱間圧延するのに対して、甲1-1方法発明では、熱間圧延の温度範囲が不明である点
<相違点1-1-6>
本件発明1では、「前記アルミニウム合金冷間圧延シートをレベリングすることと、を含み、」「前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒~15秒の時間で加熱することによりレベリングする、および/または前記アルミニウム合金冷間圧延シートをテンションレベリング、ストレッチレベリング、もしくはローラーレベリングで機械的レベリングし、」ているのに対し、甲1-1方法発明では、冷間圧延された板をレベリングすることが特定されていない点
イ 相違点1-1-5について
事案に鑑み、相違点1-1-5から検討する。
(ア) まず、相違点1-1-5が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 甲1-1方法発明は、565℃での均質化処理し「保持終了後直ちに熱間圧延を行」うことは特定されているものの、このことから熱間圧延の開始温度及び圧延中の温度が「250℃~550℃の温度範囲」であるとはいえない。
b よって、相違点1-1-5は、実質的な相違点である。
(イ) 次に、相違点1-1-5の容易想到性について検討する。
a 甲1-1には、甲1-1方法発明の熱間圧延の温度範囲について、均質化処理の保持終了後直ちに熱間圧延を行うことが記載されているのみである。そうすると、本願の優先権主張の日当時の技術常識を踏まえても、甲1-1に記載された事項から、甲1-1方法発明の熱間圧延の温度範囲を「250℃~550℃の温度範囲」とすることが動機づけられるとはいえない。
b また、いずれの文献をみても、甲1-1方法発明において、その熱間圧延温度を「250℃~550℃の温度範囲」とすることを動機づける記載は見当たらない。
c 以上によれば、甲1-1方法発明において、熱間圧延温度を「250℃~550℃の温度範囲」とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 相違点1-1-6の検討
次に、相違点1-1-6について検討する。
(ア) まず、相違点1-1-6が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 甲1-1方法発明の冷間圧延された板は、脱脂、水洗、燐酸クロム酸処理、水洗、乾燥されるものの、これらの工程が、レベリングに該当しないことは明らかである。
b 次に、甲1-1方法発明におけるフィルムの積層は、アンコイラー、予備加熱装置、加圧圧着ロール、後加熱装置、保持炉、水冷装置、乾燥装置、巻き取り装置が順に配置された連続式積層装置を用いて行われるとされ、テンションレベリング、ストレッチレベリング、もしくはローラーレベリングで機械的レベリングするものではない。そこで、フィルムの積層における加熱が、「170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒~15秒の時間で加熱することによりレベリングする」ものであるかについて、さらに検討する。
c 甲1-1の【0032】には、冷間圧延シートに対する処理として、245~280℃の間、つまりこの所定の温度範囲に1~60秒加熱・保持することが記載されているが、最高到達板温度において保持することについて記載されておらず、最高到達板温で5秒から15秒の時間で加熱するものとは認められない。
また、甲1-1の【0042】の記載、図1、表4の記載のいずれをみても、最高到達板温で5秒から15秒の時間で加熱するものとは認められない。
そうすると、甲1-1方法発明のフィルムの積層における加熱が「前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒から15秒の時間で加熱することによりレベリングする」ことであるとはいえない。
d この点について、申立人01は、申立書01(13~14頁、17頁)において、甲1-1の「半連続鋳造で製造された鋳塊に、均質化処理を施し、熱間圧延後、冷間圧延し、その後中間焼鈍を施し、さらに所望板厚まで冷間圧延を行う」(段落0027)、「245~280℃の間に1~60秒加熱・保持することにより、300MPa以上の耐力と、1.15以上の引張り強さと耐力との比(TS/YS)とを得る」、「量産性を考慮すると、1~30秒が好ましい」(段落0032)、「アンコイラー、予備加熱装置、加圧圧着ロール、後加熱装置、保持炉、水冷装置、乾燥装置、巻き取り装置が順に配置された連続式積層装置」(段落0042)、図1、表4のA欄(T1~T5)から本件特許発明の構成G(相違点1-1-6の事項)が看取できる旨主張している。
しかしながら、甲1-1の【0027】にはレベリングすることについて具体的に記載されていないし、中間焼鈍は冷間圧延中に行われるものであって、この中間焼鈍における加熱処理は冷間圧延された板に対する処理ではないから、冷間圧延シートをレベリングすることに該当しないことは明らかである。また、【0032】、【0042】、図1、表4の記載は、冷間圧延された板に対する処理についての記載であるが、上記a~cで検討したとおり、本件発明1の「レベリング」に該当しない。
よって、この主張は採用できない。
e よって、相違点1-1-6は、実質的な相違点である。
(イ) 次に、相違点1-1-6の容易想到性について検討する。
a 甲1-1には、甲1-1方法発明において、レベリングを行うことについて記載されておらず、本願の優先権主張の日当時の技術常識を踏まえても、甲1-1に記載された事項から、甲1-1方法発明において「前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒~15秒の時間で加熱することによりレベリングする、および/または前記アルミニウム合金冷間圧延シートをテンションレベリング、ストレッチレベリング、もしくはローラーレベリングで機械的レベリング」することが動機づけられるとはいえない。
b 甲1-4には、平坦化とレベリングが、コイル状シート、ストリップ、プレートなどの形状欠陥を修正し、必要な平坦形状条件を達成するためのプロセスであり、スタンピング、ロール形成、長さ切り、スリッティングラインにおいて広く採用されていること、ローラーレベラー、クラスターレベラー、テンションレベラーが知られることが記載されている。
そこで、仮に、甲1-1方法発明において、冷間圧延後に何らかのレベリング処理を行うことが動機づけられるとして検討すると、レベリングを行うことにより機械的特性が変化することを踏まえると、甲1-1方法発明において、レベリングを行うようにすることは、縦方向降伏強度が変化して、新たな相違点が生じてしまう可能性がある。
そして、甲1-3及び甲1-4のいずれの文献をみても、甲1-1方法発明において、270MPaの縦方向降伏強度を維持するように、冷間圧延後にレベリングを行うことを動機づける記載は見当たらない。
c また、いずれの文献をみても、甲1-1方法発明において、冷間圧延後に「前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒から15秒の時間で加熱することによりレベリングする」ことについての記載は見当たらない。
d 以上によれば、甲1-1方法発明において、「前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒~15秒の時間で加熱することによりレベリングする、および/または前記アルミニウム合金冷間圧延シートをテンションレベリング、ストレッチレベリング、もしくはローラーレベリングで機械的レベリング」することは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
エ なお、上記ア~ウにおいては、甲1-1の【0037】~【0048】に記載される発明の実施の形態のうち、「<従来例>」に着目して甲1-1方法発明を認定して検討したが、「<実験例A>」の実施例1、3、5、6、比較例2、3に着目した発明、「<実験例B>」の実施例8、9、比較例6に着目した発明及び「<実験例C>」の実施例12、13、14、比較例10に着目した発明をそれぞれ認定たとしても、本件発明1と対比すると、相違点1-1-4~相違点1-1-6と同様の相違点で相違し、少なくとも、相違点1-1-5及び相違点1-1-6について、上記イ及びウで検討したものと同様の理由により、実質的な相違点であり、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
オ したがって、相違点1-1-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-1に記載された発明並びに甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3) 本件発明2~10について
本件特許の請求項2~10は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明2~10は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲1-1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-1に記載された発明及び甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~10についても同様に、甲1-1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-1に記載された発明及び甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 本件発明12について
ア 本件特許の請求項12は、請求項11の記載をを引用するものであって、本件発明11は、本件発明11の発明特定事項を全て備え、さらに、以下の事項を特定するものである。
「前記アルミニウム合金シートの1つ以上の表面は、0.1から0.7のテクスチャアスペクト比を有する」
イ 上記1の検討を踏まえ、本件発明12と甲1-1発明とを対比すると、上記相違点1-1-1~1-1-3に加え、以下の相違点で相違する。
<相違点1-1-7>
本件発明12では、「前記アルミニウム合金シートの1つ以上の表面は、0.1から0.7のテクスチャアスペクト比を有する」のに対して、甲1-1発明では、テクスチャアスペクト比が不明である点
ウ 相違点1-1-7の検討
相違点1-1-7について検討する。
(ア)まず、相違点1-1-7が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1-1には、テクスチャアスペクト比について記載されておらず、本件出願時の技術常識を踏まえても甲1-1発明のテクスチャアスペクト比が0.1から0.7であるとは認められない。
よって、相違点1-1-7は、実質的な相違点である。
(イ) 次に、相違点1-1-7の容易想到性について検討する。
a 甲1-1には、甲1-1発明において、テクスチャアスペクト比を調整することについて記載されていないから、甲1-1に記載された事項から、甲1-1発明において、「テクスチャアスペクト比が0.1から0.7」とすることが動機づけられるとはいえない。
b 甲1-3及び甲1-4のいずれの文献をみても、テクスチャアスペクト比を調整することについて記載されていないから、甲1-1に記載された事項から、甲1-1発明において、「テクスチャアスペクト比が0.1から0.7」とすることが動機づけられるとはいえない。
c この点について、申立人01は、申立書01(18頁)において、当業者にとって自明であると主張するが、この主張を裏付ける証拠もなく、出願時の技術常識を踏まえてもこのことが自明であるともいえない。
よって、この主張は採用できない。
d 以上によれば、甲1-1発明において、「テクスチャアスペクト比が0.1から0.7」とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
エ したがって、本件発明12は、甲1-1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-1に記載された発明並びに甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(5) 本件発明13について
ア 本件特許の請求項13は、請求項11又は12の記載を引用するものであって、本件発明13は、本件発明11又は12の発明特定事項を全て備え、さらに、以下の事項を特定するものである。
「前記アルミニウム合金シートの前記1つ以上の表面は、5mg/m2/面から100mg/m2/面の量で腐食を抑制するための潤滑剤を含む」
イ 上記1の検討、及び、上記(4)の検討を踏まえ、本件発明13と甲1-1発明とを対比すると、上記相違点1-1-1~1-1-3に加え、少なくとも、以下の相違点で相違する。
<相違点1-1-8>
本件発明13では、「前記アルミニウム合金シートの前記1つ以上の表面は、5mg/m2/面から100mg/m2/面の量で腐食を抑制するための潤滑剤を含む」のに対して、甲1-1発明では、「PETフィルム」が「積層」された「アルミニウム合金板」の表面が上記のような潤滑剤を含むか否か不明である点
ウ 相違点1-1-8の検討
相違点1-1-8について検討する。
(ア) まず、相違点1-1-8が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1-1発明は、脱脂、水洗、燐酸クロム酸処理、水洗、乾燥工程を施し、PETフィルムの積層を行うものであり、表面に腐食を抑制するための潤滑剤を塗布するものではないから、相違点1-1-8は明らかに実質的な相違点である。
(イ) 次に、相違点1-1-8の容易想到性について検討する。
a 甲1-1には、甲1-1発明において、その表面に潤滑剤を含むようにすることについて記載されておらず、本願の優先権主張日当時の技術常識を踏まえても、甲1-1に記載された事項から、甲1-1発明において、「前記アルミニウム合金シートの前記1つ以上の表面は、5mg/m2/面から100mg/m2/面の量で腐食を抑制するための潤滑剤を含む」ようすることが動機づけられるとはいえない。また、甲1-1発明は、その表面にPETフィルムが積層されるものであることからみても、アルミニウムの表面が大気に触れるものではなく、腐食を抑制するための潤滑剤を塗布する動機がないことは明らかである。
b また、甲1-3、甲1-4のいずれの文献をみても、PETフィルムを積層した積層板の表面に腐食を抑制するための潤滑材を塗布することについて記載されていないから、甲1-1発明において、「前記アルミニウム合金シートの前記1つ以上の表面は、5mg/m2/面から100mg/m2/面の量で腐食を抑制するための潤滑剤を含む」ようにすることが動機づけられるとはいえない。
c この点について、申立人01は、申立書01(p18)において、当業者にとって自明であると主張するが、この主張を裏付ける証拠もなく、出願時の技術常識を踏まえてもこのことが自明であるともいえない。
よって、この主張は採用できない。
d 以上によれば、甲1-1発明において、「前記アルミニウム合金シートの前記1つ以上の表面は、5mg/m2/面から100mg/m2/面の量で腐食を抑制するための潤滑剤を含む」ようにすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
エ したがって、本件発明13は、甲1-1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-1に記載された発明並びに甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(6) 本件発明14について
本件発明14は、本件発明13を直接引用するものであり、本件発明13の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(5)で述べたとおり、本件発明13が、甲1-1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-1に記載された発明及び甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明14についても同様に、甲1-1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-1に記載された発明及び甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(7) まとめ
以上のとおり、本件発明1~10、12~14は、甲1-1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-1に記載された発明並びに甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、申立理由1-1(新規性・進歩性)によっては、本件特許の請求項1~10、12~14に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由1-2(新規性・進歩性)について
(1) 甲1-2に記載された発明
本願の優先権主張の日前に公知となった甲1-2(発明の名称:缶ボディ用アルミニウム合金板およびその製造方法)の【0001】~【0002】、【0009】~【0011】、【0028】、【0038】~【0049】の記載、特に、【表1】~【表3】に示される試験材2の製造方法に着目すると、甲1-2には、次の発明が記載されていると認められる。
「アルミニウム合金板の製造方法であって、
mass%で、1.3%のMn、1.5%のMg、0.30%のCu、0.33%のFe、0.29%のSiを含有し、残部アルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を、
DC鋳造により造塊し、
得られた鋳塊を、常法にしたがって均質化処理した後、
熱間粗圧延スタンドにおいて、530℃の温度で熱間粗圧延を開始し、
460℃の温度で熱間粗圧延を終了し、板厚20mmとし、
熱間粗圧延を終了した圧延材を、熱間仕上げ圧延スタンドに移行して、
終了温度を320℃とする熱間仕上げ圧延を行い、
その後、冷間圧延を行って、厚さ0.23mmの冷間圧延板とし、
冷間圧延板の耐力(σ0.2)が313MPaである方法。」(以下「甲1-2方法発明」という。)
また、試験材2の冷間圧延板に着目すると、甲1-2には、次の発明が記載されていると認められる。
「アルミニウム合金板であって、
mass%で、1.3%のMn、1.5%のMg、0.30%のCu、0.33%のFe、0.29%のSiを含有し、残部アルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金を含み、
厚さ0.23mmであり、冷間圧延板の耐力(σ0.2)が313MPaであるアルミニウム合金板。」(以下「甲1-2物発明」という。)
(2) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1-2方法発明とを対比する
(ア) 甲1-2方法発明の「アルミニウム合金板の製造方法」は、本件発明1の「アルミニウム合金シートを製造する方法」に相当する。
(イ) 甲1-2方法発明の「mass%で、1.3%のMn、1.5%のMg、0.30%のCu、0.33%のFe、0.29%のSiを含有し、残部アルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金」は、Siの含有量について本件発明1の組成範囲から外れるものの、本件発明1のCu、Fe、Mg、Mnの組成範囲を満たす。
(ウ) 甲1-2方法発明の「DC鋳造により造塊し」は、本件発明1の「アルミニウム合金を鋳造して、鋳造アルミニウム合金を形成すること」に相当する。
(エ) 甲1-2方法発明の「得られた鋳塊を、常法にしたがって均質化処理した後、」「熱間粗圧延スタンドにおいて、530℃の温度で熱間粗圧延を開始」することは、本件発明1の「前記鋳造アルミニウム合金を少なくとも450℃に加熱すること」に相当する。
(オ) 甲1-2方法発明の「熱間粗圧延スタンドにおいて、530℃の温度で熱間粗圧延を開始し、」「460℃の温度で熱間粗圧延を終了し、板厚20mmとし、」「熱間粗圧延を終了した圧延材を、熱間仕上げ圧延スタンドに移行して、」「終了温度を320℃とする熱間仕上げ圧延を行」うことは、本件発明1の「前記鋳造アルミニウム合金を250℃~550℃の温度範囲で熱間圧延して、熱間圧延シートを製造すること」に相当する。
(カ) 甲1-2方法発明の「冷間圧延を行って、厚さ0.23mmの冷間圧延板と」することは、本件発明1の「前記熱間圧延シートを4mm未満の厚さに冷間圧延して、アルミニウム合金冷間圧延シートを製造すること」に相当する。
(キ) 甲1-2方法発明の「冷間圧延板の耐力(σ0.2)が313MPaである」ことは、上記1(2)エ(イ)で検討したように、「耐力(σ0.2)」が「縦方向降伏強度」に相当するといえるから、本件発明1の「前記アルミニウム合金シートは、」「少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有する」ことに相当する。
(ク) 以上によれば、本件発明1と甲1-2方法発明とは、
「アルミニウム合金シートを製造する方法であって、
0.05~0.4wt.%のCu、0.25~0.6wt.%のFe、0.8~3.0wt.%のMg、0.1~2.0wt.%のMn、Si、不純物及びAlからなるアルミニウム合金を鋳造して、鋳造アルミニウム合金を形成することと、
前記鋳造アルミニウム合金を少なくとも450℃に加熱することと、
前記鋳造アルミニウム合金を250℃~550℃の温度範囲で熱間圧延して、熱間圧延シートを製造することと、
前記熱間圧延シートを4mm未満の厚さに冷間圧延して、アルミニウム合金冷間圧延シートを製造することと、
前記アルミニウム合金シートは、240μm未満の厚さであり、および少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有する、前記方法。」である点で一致し、
以下の点で相違する。
<相違点1-2-1>
鋳造するアルミニウム合金の合金組成におけるSiの含有量について、本件発明1が「0.3~0.7」wt.%であるのに対して、甲1-2方法発明が「0.29」wt.%である点
<相違点1-2-2>
鋳造するアルミニウム合金の合金組成におけるTi、Zn、Crの含有量について、本件発明1が、「最大0.1wt.%のTi、最大0.25wt.%のZn、最大0.4wt.%のCr」であるのに対して、甲1-2方法発明は、Ti、Zn、Crの含有量が不明である点
<相違点1-2-3>
鋳造するアルミニウム合金の合金組成における不純物の含有量について、本件発明1が「他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%」であるのに対して、甲1-2方法発明の不純物の含有量が不明である点
<相違点1-2-4>
本件発明1の方法が、「前記アルミニウム合金冷間圧延シートをレベリングすることと、を含み、」「前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒~15秒の時間で加熱することによりレベリングする、および/または前記アルミニウム合金冷間圧延シートをテンションレベリング、ストレッチレベリング、もしくはローラーレベリングで機械的レベリング」するのに対して、甲1-2方法発明がレベリングすることを特定していない点
イ 相違点1-2-1の検討
(ア) 相違点1-2-1は、明らかに実質的な相違点であるから、相違点1-2-1の容易想到性について検討する。
(イ) 甲1-2には、Siの含有量について、以下の記載がある。
「【0019】
Siは、不純物として不可避的に含まれるものであり、好ましい含有量は、0.1~0.3%の範囲である。・・・。0.3%を超えると、Al-Mn-Si系金属間化合物や粗大なMg2Si金属間化合物が生成し、強度向上の妨げとなる。また、突き刺し試験時の割れの伝播経路と成り、突き刺し強度向上の妨げとなる。」
(ウ) 上記(イ)の記載によれば、甲1-2においてSiは不純物であり、強度向上の妨げとなるものであるから、その含有量を減らすことが想定されており、好ましい含有量の上限値として0.3%が示されているとしても、甲1-2方法発明のSiの含有量を増加することには、阻害要因があるといえる。
(エ) 仮にSiの含有量を増加して、「0.3~0.7」wt.%とする動機を得たとしても、Siの含有量を増加させるために、他の含有量を減少させる調整も必要となる一方、合金組成が変化することによって機械的特性が変化することを踏まえると、甲1-2方法発明において、合金組成を調整することによって縦方向降伏強度が変化して、新たな相違点が生じてしまう可能性がある。
そして、甲1-2方法発明において、縦方向降伏強度を維持しつつ合金組成を調整することについて甲1-2~甲1-4のいずれの文献をみても、このことを動機づける記載は見当たらない。
(オ) 以上によれば、甲1-2方法発明において、Siの含有量を増やし、「0.3~0.7」wt.%の範囲とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 相違点1-2-4の検討
(ア) 甲1-2には、甲1-2方法発明において、レベリングを行うことについて記載されていないから、甲1-2に記載された事項から、甲1-2方法発明において「前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒~15秒の時間で加熱することによりレベリングする、および/または前記アルミニウム合金冷間圧延シートをテンションレベリング、ストレッチレベリング、もしくはローラーレベリングで機械的レベリング」することが動機づけられるとはいえない。
(イ) 甲1-4には、平坦化とレベリングが、コイル状シート、ストリップ、プレートなどの形状欠陥を修正し、必要な平坦形状条件を達成するためのプロセスであり、スタンピング、ロール形成、長さ切り、スリッティングラインにおいて広く採用されていること、ローラーレベラー、クラスターレベラー、テンションレベラーが知られることが記載されている。
そこで、仮に、甲1-2方法発明において、冷間圧延後に何らかのレベリング処理を行うことが動機づけられるとして検討すると、レベリングを行うことにより機械的特性が変化することを踏まえると、甲1-2方法発明において、レベリングを行うようにすることは、耐力(σ0.2)が変化して、新たな相違点が生じてしまう可能性がある。
そして、いずれの文献をみても、甲1-2方法発明において、耐力(σ0.2)を維持するように、冷間圧延後にレベリングを行うことを動機づける記載は見当たらない。
(ウ) また、いずれの文献をみても、甲1-2方法発明において、冷間圧延後に「前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒から15秒の時間で加熱することによりレベリングする」ことについての記載は見当たらない。
(エ) 以上によれば、甲1-2方法発明において、「前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒~15秒の時間で加熱することによりレベリングする、および/または前記アルミニウム合金冷間圧延シートをテンションレベリング、ストレッチレベリング、もしくはローラーレベリングで機械的レベリング」することは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
エ したがって、相違点1-2-2、相違点1-2-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-2に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-2に記載された発明並びに甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3) 本件発明2~10について
本件特許の請求項2~10は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明2~10は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲1-2に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-2に記載された発明及び甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~10についても同様に、甲1-2に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-2に記載された発明及び甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 本件発明11について
ア 対比
本件発明11と甲1-2物発明とを対比する
(ア) 甲1-2物発明の「アルミニウム合金板」は、本件発明11の「アルミニウム合金シート」に相当する。
(イ) 甲1-2物発明の「mass%で、1.3%のMn、1.5%のMg、0.30%のCu、0.33%のFe、0.29%のSiを含有し、残部アルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金」は、Ti、Zn、Crについて不可避不純物としての含有量であると認められるから、Siの含有量について本件発明11の組成範囲から外れるものの、本件発明11のCu、Fe、Mg、Mn、Ti、Zn、Crの組成範囲を満たす。
(ウ) 甲1-2物発明の「厚さ0.23mmであり、冷間圧延板の耐力(σ0.2)が313MPaである」ことは、上記1(2)エ(イ)で検討したように、「耐力(σ0.2)」が「縦方向降伏強度」に相当するといえるから、本件発明11の「240μm未満の厚さであり、および少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有する」ことに相当する。
(エ) 以上によれば、本件発明11と甲1-2物発明とは、
「アルミニウム合金シートであって、
0.05~0.4wt.%のCu、0.25~0.6wt.%のFe、0.8~3.0wt.%のMg、0.1~2.0wt.%のMn、Si、最大0.1wt.%のTi、最大0.25wt.%のZn、最大0.4wt.%のCr、不純物及びAlからなるアルミニウム合金を含み、
240μm未満の厚さであり、および少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有する前記アルミニウム合金シート。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-2-5>
本件発明11では、鋳造するアルミニウム合金の合金組成におけるSiの含有量について、「0.3~0.7」wt.%であるのに対して、甲1-2物発明では、「0.29」wt.%である点を有するか不明である点
<相違点1-2-6>
本件発明11では、鋳造するアルミニウム合金の合金組成における不純物の含有量について、「他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%」のに対して、甲1-2物発明では、不純物の含有量が不明である点
<相違点1-2-7>
本件発明11では、「前記アルミニウム合金シートの1つ以上の表面が、前記アルミニウム合金シート表面の1平方ミリメートル(mm2)あたり1重量%未満の圧延用潤滑剤、アルミニウム微粉及び破片を含む」のに対して、甲1-2物発明では、上記の点が不明である点
イ 相違点1-2-5について
相違点1-2-5は、相違点1-2-1と同様の相違点であるから、上記(2)イで検討したものと同様の理由により、明らかに実質的な相違点であるし、甲1-2物発明において、Siの含有量を増やし、「0.3~0.7」wt.%の範囲とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ したがって、相違点1-2-6、相違点1-2-7について検討するまでもなく、本件発明11は、甲1-2に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-2に記載された発明並びに甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(5) 本件発明12~14について
本件特許の請求項12~14は、請求項11の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明12~14は、本件発明11の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(4)で述べたとおり、本件発明11が、甲1-2に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-2に記載された発明及び甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明12~14についても同様に、甲1-2に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-2に記載された発明及び甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6) まとめ
以上のとおり、本件発明1~14は、甲1-2に記載された発明であるとはいえず、また、甲1-2に記載された発明並びに甲1-3及び甲1-4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、申立理由1-2(新規性・進歩性)によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由1-3(新規事項)について
(1) 新規事項を追加する補正であるかの検討は次の判断手法による。すなわち、補正が、外国語特許出願の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)(以下「翻訳文等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができる(平成18年(行ケ)第10563号)。
(2) 特許権者が、令和 5年 1月12日に提出した手続補正書でした補正は、請求項1及び11に記載された鋳造するアルミニウム合金の組成について、Feの含有量を「0.25~0.6wt.%のFe」とする補正事項、及びSiの含有量を「0.3~0.7wt.%のSi」とする補正事項を含む。(下線は、強調のため当合議体が付した。)
(3) ここで、翻訳文等には、Feの含有量と、Siの含有量について、それぞれ、以下の記載がある。下線は、強調のため当合議体が付した。
ア 「【0033】
一部の例において、本明細書に記載されている合金は、合金の総重量に基づいて約0.25%から約0.9%(例えば、約0.3%から約0.85%または約0.4%から約0.8%)の量で鉄(Fe)を含む。例えば、合金は、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、0.30%、0.31%、0.32%、0.33%、0.34%、0.35%、0.36%、0.37%、0.38%、0.39%、0.40%、0.41%、0.42%、0.43%、0.44%、0.45%、0.46%、0.47%、0.48%、0.49%、0.5%、0.51%、0.52%、0.53%、0.54%、0.55%、0.56%、0.57%、0.58%、0.59%、0.6%、0.61%、0.62%、0.63%、0.64%、0.65%、0.66%、0.67%、0.68%、0.69%、0.7%、0.71%、0.72%、0.73%、0.74%、0.75%、0.76%、0.77%、0.78%、0.79%、0.8%、0.81%、0.82%、0.83%、0.84%、0.85%、0.86%、0.87%、0.88%、0.89%、または0.9%のFeを含んでもよい。全て、wt.%単位で表される。」
イ 「【0036】
一部の例において、本明細書に記載されている合金は、合金の総重量に基づいて約0.2%から約0.7%(例えば、約0.25%から約0.6%または約0.3%から約0.55%)の量でケイ素(Si)を含む。例えば、合金は、0.2%、0.21%、0.22%、0.23%、0.24%、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、0.3%、0.31%、0.32%、0.33%、0.34%、0.35%、0.36%、0.37%、0.38%、0.39%、0.4%、0.41%、0.42%、0.43%、0.44%、0.45%、0.46%、0.47%、0.48%、0.49%、0.5%、0.51%、0.52%、0.53%、0.54%、0.55%、0.56%、0.57%、0.58%、0.59%、0.6%、0.61%、0.62%、0.63%、0.64%、0.65%、0.66%、0.67%、0.68%、0.69%、または0.7%のSiを含んでもよい。全て、wt.%単位で表される。」
(4) 上記(2)に示した補正事項は、それぞれ、上記(3)ア、イに記載されたFeの含有量とSiの含有量の値を、Feの含有量の上限値及びSiの含有量の下限値としたものであるから、いずれの補正事項も翻訳文等に記載した事項の範囲内でしたものである。
(5) 申立人01は、申立書01(22頁)において、出願当初明細書の段落0033及び段落0036には、Fe(鉄)及びSi(ケイ素)の含有量について羅列されているものの、請求項1、11の含有範囲の臨界値(Feの上限値及びSiの下限値)を示すことは記載されておらず示唆もないから、Fe(鉄)、Si(ケイ素)の含有量の範囲について臨界値(上限値及び下限値)の補正は、いわゆる新規事項の追加である旨主張している。
しかしながら、上記(3)、(4)で検討したように、上記(2)の補正事項によって補正されたFeの含有量の上限値の値とSiの含有量の下限値の値はそれぞれ含有量の例示として記載される含有量である。また、Feの含有量の上限値の値とSiの含有量の下限値の値は、補正前の含有量の範囲内の値であって、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。
よって、この主張は採用できない。
(6) 以上によれば、特許権者が、令和 5年 1月12日に提出した手続補正書でした手続補正は、本件特許に係る翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
したがって、申立理由1-3(新規事項)によっては、本件発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由2-1(進歩性)、申立理由2-3(進歩性)、申立理由2-5(進歩性)、申立理由2-7(進歩性)について(甲2-1を主たる引用文献とするもの)
(1) 甲2-1に記載された発明
本願の優先権主張の日前に公知となった甲2-1の記載(【請求項1】、【0043】~【0052】)によれば、請求項1の記載を前提として、特に試料Noが27の試料の高強度缶ボディ用板材の製造方法に着目すると、甲2-1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「Al-0.3%Si-0.43%Fe-0.38%Cu-0.99%Mn-1.48%Mg-0.03%Cr-0.18%Zn-0.04%Tiなる組成のアルミニウム合金を溶解し、スラブに鋳造し、
鋳造したスラブを面削後均質化処理と均熱処理を施し、
均熱後、炉から取出したスラブに熱間圧延を施し、
熱間圧延後巻き取ったコイルを常温まで冷却後冷間圧延を施し、
中間焼鈍後、最終板厚まで冷間圧延する
表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法であって、
均質化温度が565℃であり、均質化時間が8hrであり、
均熱温度が545℃であり、均熱時間が1hrであり、
製品板厚が0.23mmである
表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法。」(以下「甲2-1方法発明」という。)
また、この方法により製造された高強度缶ボディ用板材に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「Al-0.3%Si-0.43%Fe-0.38%Cu-0.99%Mn-1.48%Mg-0.03%Cr-0.18%Zn-0.04%Tiなる組成のアルミニウム合金からなり
板厚が0.23mmである
表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材。」(以下「甲2-1物発明」という。)
(2) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2-1方法発明とを対比する。
(ア) 甲2-1方法発明の「表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材の製造方法」は、「アルミニウム合金」の「板材の製造方法」であるから、本件発明1の「アルミニウム合金シートを製造する方法」に相当する。
(イ) 甲2-1方法発明の「Al-0.3%Si-0.43%Fe-0.38%Cu-0.99%Mn-1.48%Mg-0.03%Cr-0.18%Zn-0.04%Tiなる組成」は、Cu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn、Crの含有量について、本件発明1の組成範囲を満たす。また、甲2-1方法発明においても、なんらかの不純物を含有するものと認められるから、上記組成以外は、不純物からなるものと認められる。
(ウ) 甲2-1方法発明の「アルミニウム合金を溶解し、スラブに鋳造」することは、本件発明1の「アルミニウム合金を鋳造して、鋳造アルミニウム合金を形成すること」に相当する。
(エ) 甲2-1方法発明の「鋳造したスラブを面削後均質化処理と均熱処理を施し、」「均質化温度が565℃であり、均質化時間が8hrであり、」「均熱温度が545℃であり、均熱時間が1hrであ」ることは、本件発明1の「前記鋳造アルミニウム合金を少なくとも450℃に加熱すること」に相当する。
(オ) 甲2-1方法発明の「均熱後、炉から取出したスラブに熱間圧延を施」すことは、本件発明1の「熱間圧延して、熱間圧延シートを製造すること」に相当する。
(カ) 甲2-1方法発明の「熱間圧延後巻き取ったコイルを常温まで冷却後冷間圧延を施し、」「中間焼鈍後」、「板厚が0.23mm」の「最終板厚まで冷間圧延する」ことは、本件発明1の「前記熱間圧延シートを4mm未満の厚さに冷間圧延して、アルミニウム合金冷間圧延シートを製造すること」、「前記アルミニウム合金シートは、240μm未満の厚さであ」ることに相当する。
(キ) 以上によれば、本件発明1と甲2-1方法発明とは、
「アルミニウム合金シートを製造する方法であって、
0.05~0.4wt.%のCu、0.25~0.6wt.%のFe、0.8~3.0wt.%のMg、0.1~2.0wt.%のMn、0.3~0.7wt.%のSi、最大0.1wt.%のTi、最大0.25wt.%のZn、最大0.4wt.%のCr、不純物及びAlからなるアルミニウム合金を鋳造して、鋳造アルミニウム合金を形成することと、
前記鋳造アルミニウム合金を少なくとも450℃に加熱することと、
前記鋳造アルミニウム合金を熱間圧延して、熱間圧延シートを製造することと、
前記熱間圧延シートを4mm未満の厚さに冷間圧延して、アルミニウム合金冷間圧延シートを製造することと、
前記アルミニウム合金シートは、240μm未満の厚さである、前記方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1-1>
本件発明1の「アルミニウム合金シート」は、アルミニウム合金の不純物が「不純物として他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%」であるのに対して、甲2-1方法発明の「表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材」は、上記の点が不明である点
<相違点2-1-2>
本件発明1では、熱間圧延の温度範囲が「250℃~550℃の温度範囲」であるのに対して、甲2-1方法発明では、熱間圧延の温度範囲が不明である点
<相違点2-1-3>
本件発明1では、「前記アルミニウム合金冷間圧延シートをレベリングすることと、を含み、」「前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒~15秒の時間で加熱することによりレベリングする、および/または前記アルミニウム合金冷間圧延シートをテンションレベリング、ストレッチレベリング、もしくはローラーレベリングで機械的レベリング」するのに対して、甲2-1方法発明では、レベリングすることが特定されていない点
<相違点2-1-4>
本件発明1の「アルミニウム合金シート」は、「少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有する」のに対して、甲2-1方法発明の高強度缶ボディ用板材は、縦方向降伏強度が不明である点
イ 相違点2-1-4について
事案に鑑み、相違点2-1-4について検討する。
(ア) 甲2-1には、高強度缶ボディ用板材の縦方向降伏強度について記載されておらず、甲2-2~甲2-10のいずれの文献に記載された事項からも、甲2-1方法発明の高強度缶ボディ用板材の縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上であるとは認められない。
よって、相違点2-1-4は実質的な相違点である。
(イ) 次に相違点2-1-4の容易想到性について検討する。
a 甲2-1には、高強度缶ボディ用板材の縦方向降伏強度について記載されておらず、本願の優先権主張の日当時の技術常識も考慮しても、甲2-1方法発明において、縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上となるようにする動機づけがない。
b 仮に縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上となるようにする動機づけを得たとしても、甲2-1方法発明は、合金組成及び製造条件が特定されたものであるから、その特性を変更するためには、合金組成又は製造条件を変更することが必要となり、この点が新たな相違点となる可能性があるが、合金組成及び製造条件を本件発明1の範囲内に維持した上で、縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上となるようにする動機づけについて、甲2-1~甲2-10のいずれの文献にも記載は見当たらない。
c 申立人02は、申立書02(45頁)において、甲2-6、甲2-7の記載を挙げ、甲2-1方法発明が、甲2-6、甲2-7の記載と同様の缶ボディ用板材に係る発明であり、技術分野及び用途が共通しているから、甲2-1方法発明において、甲2-6、甲2-7に記載された降伏応力の範囲を導くことは極めて容易であり、甲2-6、甲2-7に記載された降伏応力の範囲が、本件発明1の降伏応力の範囲と一部重複することを主張しているから、この主張について検討する。
d 甲2-6には、アルミニウムDI缶に使用される合金について、アルミニウム合金製飲料缶(DI缶)には、缶胴(can body)にAl-Mn-Mg系の3004合金が、蓋(end)とタブ(開口部に付ける引き手)にAl-Mg系の5182系合金が使用されていること(第25頁)が記載され、JIS規格に定められた合金成分範囲と実用材の化学成分の典型的な一例として以下の表1.5.1、量産されている3004合金製の缶胴材と缶蓋材の機械的性質の代表値として以下の表1.5.2、及び3004系硬質板のDI加工前後の引張性質として以下の表1.5.3がそれぞれ示されている。
[図:0001439167000007.jpg]
[図:0001439167000008.jpg]
[図:0001439167000009.jpg]
e 甲2-1方法発明の合金組成を甲2-6の表1.5.1のAlloy3004の合金組成と対比すると、Cu、Mn、Mg、Tiの含有量が3004の合金組成範囲から外れている。そうすると、表1.5.2及び表1.5.3に3004材について、機械的性質が示されているとしても、甲2-1方法発明の合金組成において、同様の機械的性質であるとはいえないし、上記bで検討したとおり、合金組成及び製造条件を本件発明1の範囲内に維持した上で、縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上となるようにする動機づけがあるとはいえない。さらに、甲2-6が、甲2-1方法発明と、技術分野及び用途が同じであるとしても、そのことのみをもって、甲2-1発明において、甲2-6に記載された降伏応力の範囲とすることが動機づけられるともいえない。
f 甲2-7には、アルミ缶の製缶技術(3.表題)のDI缶(3.1表題)の材料(3.1.2表題)について、機械的性質ならびに加工限界が以下の表3に示されている。
[図:0001439167000010.jpg]
g 甲2-7の表3には、材質がアルミニウム合金板として材質が3004のものであるから、上記eで検討したものと同様の理由により、甲2-1方法発明の合金組成において、同様の機械的性質であるとはいえないし、上記bで検討したとおり、合金組成及び製造条件を本件発明1の範囲内に維持した上で、縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上となるようにする動機づけがあるとはいえない。さらに、甲2-7が、甲2-1方法発明と、技術分野及び用途が同じであるとしても、そのことのみをもって、甲2-1発明において、甲2-7に記載された降伏応力の範囲とすることが動機づけられるともいえない。
h よって、この主張は採用できない。
i 以上によれば、甲2-1方法発明において、「縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上となるようにする」ことは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ したがって、相違点2-1-1~相違点2-1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2~甲2-7に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、さらに甲2-8~甲2-10に記載された周知慣用技術を考慮しも、上記イにおいて検討したとおり、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 本件発明2、3について
本件特許の請求項2、3は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲2-1に記載された発明及び甲2-2~甲2-7に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、3についても同様に、甲2-1に記載された発明及び甲2-2~甲2-7に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 本件発明4~10について
本件特許の請求項4~10は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明4~10は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲2-1に記載された発明及び甲2-2~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明4~10についても同様に、甲2-1に記載された発明及び甲2-2~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5) 本件発明11について
ア 対比
本件発明11と甲2-1物発明とを対比する。
(ア) 甲2-1物発明の「高強度缶ボディ用板材」は、「アルミニウム合金」からなるものであるから、本件発明11の「アルミニウム合金シート」に相当する。
(イ) 甲2-1物発明の「Al-0.3%Si-0.43%Fe-0.38%Cu-0.99%Mn-1.48%Mg-0.03%Cr-0.18%Zn-0.04%Tiなる組成のアルミニウム合金」は、その組成が、Cu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn、Crの含有量について、本件発明11の組成範囲を満たす。また、甲2-1物発明のアルミニウム合金も、なんらかの不純物を含有するものと認められるから、明示される成分以外に、不純物を有するものと認められる。
(ウ) 甲2-1物発明の「板厚が0.23mmである」ことは、本件発明11の「240μm未満の厚さであ」ることに相当する。
(エ) 以上によれば、本件発明11と甲2-1物発明とは、
「アルミニウム合金シートであって、
0.05~0.4wt.%のCu、0.25~0.6wt.%のFe、0.8~3.0wt.%のMg、0.1~2.0wt.%のMn、0.3~0.7wt.%のSi、最大0.1wt.%のTi、最大0.25wt.%のZn、最大0.4wt.%のCr、不純物及びAlからなるアルミニウム合金を含み、
240μm未満の厚さである前記アルミニウム合金シート。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1-5>
本件発明11の「アルミニウム合金シート」は、アルミニウム合金の不純物が「不純物として他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%」であるのに対して、甲2-1物発明の「表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材」は、上記の点が不明である点
<相違点2-1-6>
本件発明11の「アルミニウム合金シート」は、「270MPaの縦方向降伏強度を有する」のに対して、甲2-1物発明の「表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材」は、縦方向降伏強度が不明である点
<相違点2-1-7>
本件発明11は、「前記アルミニウム合金シートの1つ以上の表面が、前記アルミニウム合金シート表面の1平方ミリメートル(mm2)あたり1重量%未満の圧延用潤滑剤、アルミニウム微粉及び破片を含む」のに対して、甲2-1物発明の「表面性状が良好な高強度缶ボディ用板材」は、表面の状態が不明である点
イ 相違点2-1-6について
事案に鑑み、相違点2-1-6から検討する。
相違点2-1-6は、上記(2)イで検討した相違点2-1-4と同様の相違点である。
甲2-1物発明は、製造条件を特定するものではないが、合金組成を特定する点で、甲2-1方法発明と共通し、上記(2)イで検討したものと同様の理由により、甲2-1物発明において、甲2-1~甲2-10のいずれの文献の記載をみても合金組成を本件発明1の範囲内に維持した上で、縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上となるようにする動機づけがあるとはいえない。
ウ 以上によれば、相違点2-1-5、相違点2-1-7について検討するまでもなく、本件発明11は、甲2-1に記載された発明及び甲2-5~甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、さらに甲2-10に記載された周知慣用技術を考慮しても、上記イにおいて検討したとおり、本件発明11は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6) 本件発明12、13について
本件特許の請求項12、13は、請求項11の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明12、13は、本件発明11の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(5)で述べたとおり、本件発明11が、甲2-1に記載された発明及び甲2-5~甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明12、13についても同様に、甲2-1に記載された発明及び甲2-5~甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(7) 本件発明14について
請求項14は、請求項13を介して間接的に請求項11を引用するものであるから、本件発明14は本件発明11の発明特定事項を全て備えるものであるが上記(5)で述べたとおり、本件発明11が、甲2-1に記載された発明及び甲2-5~甲2-10に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明14についても同様に、甲2-1に記載された発明及び甲2-5~甲2-10に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(8) まとめ
以上によれば、本件発明1~3は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2~甲2-7に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明4~10は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明11~13は、甲2-1に記載された発明及び甲2-5~甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
加えて、本件発明14は、甲2-1に記載された発明及び甲2-5~甲2-10に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由2-1(進歩性)、申立理由2-3(進歩性)、申立理由2-5(進歩性)、申立理由2-7(進歩性)によっては、本件発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由2-2(進歩性)、申立理由2-4(進歩性)、申立理由2-6(進歩性)、申立理由2-8(進歩性)について(甲2-8を主たる引用文献とするもの)
(1) 甲2-8に記載された発明
本願の優先権主張の日前に公知となった甲2-8の記載(請求項1、請求項4、【0002】、【0034】~【0038】)によれば、請求項4の記載を前提として、特に【0035】の【表1】に示されるA1、A2、A6、A8、A9、A10のアルミニウム合金の実施例に着目すると、甲2-8には、以下の発明が記載されていると認められる。
「合金成分が質量%でMn:0.55、Mg:1.0、Fe:0.42、Si:0.30、Cu:0.20、Zn:0.08、Ti:0.02、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA1アルミニウム合金、
合金成分が質量%でMn:1.5、Mg:1.0、Fe:0.40、Si:0.40、Cu:0.18、Zn:0.06、Ti:0.10、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA2アルミニウム合金、
合金成分が質量%でMn:0.7、Mg:1.2、Fe:0.58、Si:0.32、Cu:0.20、Zn:0.25、Ti:0.03、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA6アルミニウム合金、
合金成分が質量%でMn:1.2、Mg:1.3、Fe:0.34、Si:0.40、Cu:0.26、Zn:0.05、Ti:0.02、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA8アルミニウム合金、
合金成分が質量%でMn:1.0、Mg:1.0、Fe:0.40、Si:0.32、Cu:0.11、Zn:0.06、Ti:0.02、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA9アルミニウム合金、
合金成分が質量%でMn:1.1、Mg:0.9、Fe:0.41、Si:0.34、Cu:0.29、Zn:0.07、Ti:0.03、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA10アルミニウム合金
を常法により溶解し、半連続鋳造により、アルミニウム合金鋳塊を作製し、
得られたアルミニウム合金鋳塊に対し、空気炉において、600℃の温度で10時間の均質化処理を施し、
熱間圧延開始温度まで冷却し、
熱間圧延開始温度は490℃とし、
開始パスから最終パスまでにおいて450~500℃の温度範囲内にある積算保持時間が350~490秒となる条件で、板厚が30mmとなるまで熱間粗圧延を行い、
出側温度が300~330℃の条件で、板厚が2.4mmとなるまで熱間仕上圧延を行い、
冷間圧延最終パスの出側温度は145~155℃で、3パスの冷間圧延を行い、0.28mmの板厚の缶ボディ用アルミニウム合金板を製造する、
缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法」(以下「甲2-8方法発明」という。)
また、請求項1の記載を前提として、この方法により製造された「アルミニウム合金板」に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「合金成分が質量%でMn:0.55、Mg:1.0、Fe:0.42、Si:0.30、Cu:0.20、Zn:0.08、Ti:0.02、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA1アルミニウム合金、
合金成分が質量%でMn:1.5、Mg:1.0、Fe:0.40、Si:0.40、Cu:0.18、Zn:0.06、Ti:0.10、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA2アルミニウム合金、
合金成分が質量%でMn:0.7、Mg:1.2、Fe:0.58、Si:0.32、Cu:0.20、Zn:0.25、Ti:0.03、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA6アルミニウム合金、
合金成分が質量%でMn:1.2、Mg:1.3、Fe:0.34、Si:0.40、Cu:0.26、Zn:0.05、Ti:0.02、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA8アルミニウム合金、
合金成分が質量%でMn:1.0、Mg:1.0、Fe:0.40、Si:0.32、Cu:0.11、Zn:0.06、Ti:0.02、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA9アルミニウム合金、
合金成分が質量%でMn:1.1、Mg:0.9、Fe:0.41、Si:0.34、Cu:0.29、Zn:0.07、Ti:0.03、B:<0.01を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなるA10アルミニウム合金
からなり、
板厚が0.28mmであり、
A1アルミニウム合金の場合、圧延方向の引張強さ(TS)が294MPa、
A2アルミニウム合金の場合、圧延方向の引張強さ(TS)が319MPa、
A6アルミニウム合金の場合、圧延方向の引張強さ(TS)が300MPa、
A8アルミニウム合金の場合、圧延方向の引張強さ(TS)が304MPa、
A9アルミニウム合金の場合、圧延方向の引張強さ(TS)が288MPa、
A10アルミニウム合金の場合、圧延方向の引張強さ(TS)が304MPa
である、缶ボディ用アルミニウム合金板」(以下「甲2-8物発明」という。)
(2) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2-8方法発明とを対比する。
(ア) 甲2-8方法発明の「缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法」は、本件発明1の「アルミニウム合金シートを製造する方法」に相当する。
(イ) 甲2-8方法発明のA1、A2、A6、A8、A9、A10のアルミニウム合金は、その組成が、Cu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn、Crの含有量について、本件発明1の組成範囲を満たす。
(ウ) 甲2-8方法発明の「アルミニウム合金を常法により溶解し、半連続鋳造により、アルミニウム合金鋳塊を作製」することは、本件発明1の「アルミニウム合金を鋳造して、鋳造アルミニウム合金を形成すること」に相当する。
(エ) 甲2-8方法発明の「得られたアルミニウム合金鋳塊に対し、空気炉において、600℃の温度で10時間の均質化処理を施」すことは、本件発明1の「前記鋳造アルミニウム合金を少なくとも450℃に加熱すること」に相当する。
(オ) 甲2-8方法発明の「開始パスから最終パスまでにおいて450~500℃の温度範囲内にある積算保持時間が350~490秒となる条件で、板厚が30mmとなるまで熱間粗圧延を行い、」「出側温度が300~330℃の条件で、板厚が2.4mmとなるまで熱間仕上圧延を行」うことは、本件発明1の「前記鋳造アルミニウム合金を250℃~550℃の温度範囲で熱間圧延して、熱間圧延シートを製造すること」に相当する。
(カ) 甲2-8方法発明の「冷間圧延最終パスの出側温度は145~155℃で、3パスの冷間圧延を行い、0.28mmの板厚の缶ボディ用アルミニウム合金板を製造する」ことは、本件発明1の「前記熱間圧延シートを4mm未満の厚さに冷間圧延して、アルミニウム合金冷間圧延シートを製造すること」に相当する。
(キ) 以上によれば、本件発明1と甲2-8方法発明とは、
「アルミニウム合金シートを製造する方法であって、
0.05~0.4wt.%のCu、0.25~0.6wt.%のFe、0.8~3.0wt.%のMg、0.1~2.0wt.%のMn、0.3~0.7wt.%のSi、最大0.1wt.%のTi、最大0.25wt.%のZn、最大0.4wt.%のCr、不純物及びAlからなるアルミニウム合金を鋳造して、鋳造アルミニウム合金を形成することと、
前記鋳造アルミニウム合金を少なくとも450℃に加熱することと、
前記鋳造アルミニウム合金を250℃~550℃の温度範囲で熱間圧延して、熱間圧延シートを製造することと、
前記熱間圧延シートを4mm未満の厚さに冷間圧延して、アルミニウム合金冷間圧延シートを製造することと、を含む前記方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-2-1>
本件発明1の「アルミニウム合金シート」は、アルミニウム合金の不純物が「不純物として他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%」であるのに対して、甲2-8方法発明の「缶ボディ用アルミニウム合金板」は、上記の点が不明である点
<相違点2-2-2>
本件発明1では、「前記アルミニウム合金冷間圧延シートをレベリングすることと、を含み、」「前記アルミニウム合金冷間圧延シートを170℃から280℃の範囲の最高到達板温で5秒~15秒の時間で加熱することによりレベリングする、および/または前記アルミニウム合金冷間圧延シートをテンションレベリング、ストレッチレベリング、もしくはローラーレベリングで機械的レベリング」するのに対して、甲2-8方法発明では、レベリングすることが特定されていない点
<相違点2-2-3>
本件発明1の「アルミニウム合金シート」は、「240μm未満の厚さであり、および少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有する」のに対して、甲2-8方法発明の「缶ボディ用アルミニウム合金板」は、「0.28mmの厚さ」であり、縦方向降伏強度が不明である点
イ 相違点2-2-3について
事案に鑑み、相違点2-2-3について検討する。
(ア) まず、相違点2-2-3が、実質的な相違点であるかについて検討する。
甲2-8には、【0035】の【表1】に、甲2-8方法発明の「缶ボディ用アルミニウム合金板」に用いられる各アルミニウム合金の圧延方向の引張強さ(TS)の値と、205℃で10分間熱処理した後の圧延方向での引張強さ(ABTS)の値(【0038】)について示されているが、縦方向降伏強度の値は示されておらず、不明である。
この点、【表1】には、上記各アルミニウム合金の上記引張強さ(TS)の値として、294MPa、319MPa、300MPa、304MPa、288MPa、304MPaであったことは示されているものの、一般に、降伏強度の値は、引張強さの値より低い値であるから、上記の引張強さ(TS)の値から、それぞれのアルミニウム合金の縦方向降伏強度の値が少なくとも270MPaであるとはいえない。
また、甲2-1~甲2-10のいずれの文献に記載された事項を考慮しても、甲2-8方法発明の缶ボディ用アルミニウム合金板の縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上であるとは認められない。
よって、相違点2-2-3は、実質的な相違点である。
(イ) 次に、相違点2-2-3の容易想到性について検討する。
a 甲2-8には、圧延方向の引張強さが320MPa以下であること(請求項1)、205℃で10分間熱処理した後の圧延方向での引張強さが275MPa以上であること(請求項2)が記載されているが、縦方向降伏強度に着目して、その値を少なくとも270MPaとすることについては記載されておらず、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲2-8方法発明において、「缶ボディ用アルミニウム合金板」の縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上となるようにする動機づけがない。
b 仮に縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上となるようにする動機づけを得たとしても、甲2-8方法発明は、合金組成及び製造条件が特定されたものであるから、その特性を変更するためには、合金組成又は製造条件を変更することが必要となり、新たな相違点が生じてしまう可能性があるが、合金組成及び製造条件を本件発明1の範囲内に維持した上で、縦方向降伏強度を少なくとも270MPa以上となるようにする動機づけについて、甲2-1~甲2-10のいずれの文献にも記載は見当たらない。
c この点について、申立人02は、申立書02(p48)において、甲2-6、甲2-7に示された周知技術に基いて、要件を導き、甲2-8方法発明に組み入れることは当業者が極めて容易になし得たことであると主張している。
しかしながら、上記5(2)イにおいて検討したものと同様の理由により、甲2-6、甲2-7に示された周知技術を考慮しても、合金組成及び製造条件を本件発明1の範囲内に維持した上で、縦方向降伏強度を少なくとも270MPa以上となるようにする動機づけがあるとはいえない。
よって、この主張は採用できない。
d 以上によれば、甲2-8方法発明において、「缶ボディ用アルミニウム合金板」の「縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上となるようにする」ことは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 以上によれば、相違点2-2-1、相違点2-2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-8に記載された発明及び甲2-2~甲2-7に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、さらに甲2-8~甲2-10に記載された周知慣用技術を考慮しても、上記5(2)イにおいて検討したものと同様の理由により、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ なお、申立人02は、申立書02(38頁、46頁)において、甲8a発明についてアルミニウム合金の組成を、Mn:0.5~1.5%(mass%、以下同じ)、Mg:0.8~1.5%、Fe:0.2~0.6%、Si:0.25~0.4%、Cu0.1~0.3%、Zn:0.25%以下、Ti:0.1%以下、B:0.05%以下を含有し、残部がAlと不可避的不純物と認定しているが、このように認定すると、FeとSiの下限値が新たな相違点となるが、甲2-1~甲2-10のいずれの文献をみても、甲8a発明のアルミニウム合金の組成において、Feの下限値を0.25に、Siの下限値を0.3とすることについて動機づける記載は見当たらない。
そうすると、甲2-8に記載された発明を甲8a発明のように認定したとしても、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(3) 本件発明2、3について
本件特許の請求項2、3は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲2-8に記載された発明及び甲2-2~甲2-7に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2、3についても同様に、甲2-8に記載された発明及び甲2-2~甲2-7に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 本件発明4~10について
本件特許の請求項4~10は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明4~10は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲2-8に記載された発明及び甲2-2~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明4~10についても同様に、甲2-8に記載された発明及び甲2-2~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5) 本件発明11について
ア 対比
本件発明11と甲2-8物発明とを対比する。
(ア) 甲2-8物発明の「缶ボディ用アルミニウム合金板」は、本件発明11の「アルミニウム合金シート」に相当する。
(イ) 甲2-8物発明のA1、A2、A6、A8、A9、A10のアルミニウム合金は、その組成が、Cu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn、Crの含有量について、本件発明11の組成範囲を満たす。
(ウ) 以上によれば、本件発明11と甲2-8物発明とは、
「アルミニウム合金シートであって、
0.05~0.4wt.%のCu、0.25~0.6wt.%のFe、0.8~3.0wt.%のMg、0.1~2.0wt.%のMn、0.3~0.7wt.%のSi、最大0.1wt.%のTi、最大0.25wt.%のZn、最大0.4wt.%のCr、不純物として他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%、及びAlからなるアルミニウム合金を含む前記アルミニウム合金シート。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-2-4>
本件発明11の「アルミニウム合金シート」は、アルミニウム合金の不純物が「不純物として他の微量元素のそれぞれが最大0.05wt.%、全ての不純物の合計が全体で最大0.15wt.%」であるのに対して、甲2-8物発明の「缶ボディ用アルミニウム合金板」は、上記の点が不明である点
<相違点2-2-5>
本件発明11の「アルミニウム合金シート」は、「240μm未満の厚さであり、および少なくとも270MPaの縦方向降伏強度を有する」のに対して、甲2-8物発明の「缶ボディ用アルミニウム合金板」は、「0.28mmの厚さ」であり、縦方向降伏強度が不明である点
<相違点2-2-6>
本件発明11の「アルミニウム合金シート」は、「前記アルミニウム合金シートの1つ以上の表面が、前記アルミニウム合金シート表面の1平方ミリメートル(mm2)あたり1重量%未満の圧延用潤滑剤、アルミニウム微粉及び破片を含む」のに対して、甲2-8物発明の「缶ボディ用アルミニウム合金板」は、表面の状態が不明である点
イ 相違点2-2-5について
事案に鑑み、相違点2-2-5から検討する。
相違点2-2-5は、上記(2)イで検討した相違点2-2-3と同様の相違点である。
甲2-8物発明は、製造条件を特定するものではないが、合金組成を特定する点で、甲2-8方法発明と共通し、上記(2)イで検討したものと同様の理由により、甲2-8物発明において、甲2-1~甲2-10のいずれの文献の記載をみても合金組成を本件発明1の範囲内に維持した上で、縦方向降伏強度が少なくとも270MPa以上となるようにする動機づけがあるとはいえない。
ウ 以上によれば、相違点2-2-4、相違点2-2-6について検討するまでもなく、本件発明11は、甲2-8に記載された発明、甲2-8の記載及び甲2-5~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、さらに甲2-10に記載された周知慣用技術を考慮しても、上記イにおいて検討したとおり、本件発明11は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6) 本件発明12~13について
本件特許の請求項12、13は、請求項11の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明12、13は、本件発明11の発明特定事項を全て備えるものであるが、上記(5)で述べたとおり、本件発明11が、甲2-8に記載された発明、甲2-8の記載及び甲2-5~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明12、13についても同様に、甲2-8に記載された発明、甲2-8に記載された事項及び甲2-5~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(7) 本件発明14について
請求項14は、請求項13を介して間接的に請求項11の記載を引用するものであるから、本件発明14は本件発明11の発明特定事項を全て備えるものであるが上記(5)で述べたとおり、本件発明11が、甲2-8に記載された発明、甲2-8の記載及び甲2-5~甲2-7、甲2-9及び甲2-10に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明14についても同様に、甲2-8に記載された発明、甲2-8の記載及び甲2-5~甲2-7、甲2-9及び甲2-10に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(8) まとめ
以上によれば、本件発明1~3は、甲2-8に記載された発明及び甲2-2~甲2-7に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明4~10は、甲2-8に記載された発明及び甲2-2~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明11~13は、甲2-8に記載された発明、甲2-8の記載及び甲2-5~甲2-7、甲2-9に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
加えて、本件発明14は、甲2-8に記載された発明、甲2-8の記載及び甲2-5~甲2-7、甲2-9及び甲2-10に記載された周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由2-2(進歩性)、申立理由2-4(進歩性)、申立理由2-6(進歩性)、申立理由2-8(進歩性)によっては、本件特許発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件発明11は、甲1-1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明1~10、12~14に係る特許は、取消理由通知書の記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1~10、12~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700663