特許異議申立
2022-701010
二相ステンレスクラッド鋼およびその製造方法
- 審判番号
- 2022-701010
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-554680
- 登録番号
- 7054078
- 請求日
- 2022年10月12日
- 審決日
- 2024年03月29日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
- 【異議申立人】岩谷 幸祐
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 山口 大志
- 審判官 池渕 立
- 分類
- P1651.113-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C) / P1651.536-YAA(C22C) / P1651.537-YAA(C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第4項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7054078号発明「二相ステンレスクラッド鋼およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7054078号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7054078号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7054078号の請求項1~3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本願」という。)は、2021年(令和 3年) 1月28日(パリ条約による優先権主張 令和 2年 2月 6日、日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和 4年 4月 5日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~3(全請求項)に係る特許について、令和 4年10月12日に特許異議申立人 岩谷 幸祐(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。
令和 5年 2月 3日付け 取消理由通知
同年 3月29日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
同年 6月23日 申立人による意見書の提出
同年11月13日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年12月26日 特許権者による意見書の提出
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 5年 3月29日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「 PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
X=60δSi+40δMo ・・・(2)
Xc=60ΔSi+40ΔMo ・・・(3)
ただし、上記式中、元素記号は各元素の質量%を示し、
δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、
δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、
ΔSi=Si(0.5t位置)-Si(0.25t位置)、
ΔMo=Mo(0.5t位置)-Mo(0.25t位置)、
t:合せ材の板厚
を表す。」
と記載されているのを、
「 ここで、前記合せ材の素材は、連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう。
PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
ただし、(1)式中、元素記号は各元素の質量%を示す。
X=60δSi+40δMo ・・・(2)
ただし、(2)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、
δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、
δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、
t:合せ材の素材の板厚
を表す。
Xc=60ΔSi+40ΔMo ・・・(3)
ただし、(3)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、
ΔSi=Si(0.5t位置)-Si(0.25t位置)、
ΔMo=Mo(0.5t位置)-Mo(0.25t位置)、
t:合せ材の板厚
を表す。」に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の明細書【0010】に
「 PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
X=60δSi+40δMo ・・・(2)
Xc=60ΔSi+40ΔMo ・・・(3)
ただし、上記式中、元素記号は各元素の質量%を示し、δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、ΔSi=Si(0.5t位置)-Si(0.25t位置)、ΔMo=Mo(0.5t位置)-Mo(0.25t位置)、t:合せ材の板厚を表す。」とあるのを、
「 ここで、前記合せ材の素材は、連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう。
PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
ただし、(1)式中、元素記号は各元素の質量%を示す。
X=60δSi+40δMo ・・・(2)
ただし、(2)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、t:合せ材の素材の板厚を表す。
Xc=60ΔSi+40ΔMo ・・・(3)
ただし、(3)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、ΔSi=Si(0.5t位置)-Si(0.25t位置)、ΔMo=Mo(0.5t位置)-Mo(0.25t位置)、t:合せ材の板厚を表す。」に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の明細書【0038】に「しかしながら、1.50%を超えて含有すると」とあるのを、「しかしながら、2.00%を超えて含有すると」に訂正する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「合せ材の素材」について、「ここで、前記合せ材の素材は、連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう。」と訂正することにより、「合せ材の素材」が「合せ材」の製造工程におけるどの段階の材料であるのかを明確にするものである。
さらに、(1)~(3)式における元素記号が各元素の質量%を示すものであることをあらためて明確にするとともに、「δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)」および「δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)」における「t」が「合せ材の素材の板厚」であることを明確にするものである。
よって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について
上述のとおり、訂正事項1に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当するとはいえない。
また、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0030】には、「ここで、合わせ材の素材としては、連続鋳造鋳片や造塊・分塊圧延後であって、熱間圧延前のスラブや、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片を用いることができる。」、「ただし、δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、tは板厚を表し、0.25t位置は厚み方向で表面から合せ材の素材の板厚の1/4の位置を表す。」との記載があるから、訂正事項1による訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、【0010】の記載を、上記訂正事項1により訂正される特許請求の範囲の請求項1の記載に整合させるために行うものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、【0038】の「しかしながら、1.50%を超えて含有すると」の誤記を、「しかしながら、2.00%を超えて含有すると」に訂正するためのものである。なお、訂正前の【0038】の「より好ましい上限は1.50%である。」との記載は、いずれも上限を2.00%としている「W:0.01~2.00%」及び「Wを含有する場合、W含有量は0.01~2.00%の範囲とすることが好ましい。」なる記載と整合していないことから、誤記であることは明らかである。
よって、訂正事項3は誤記の訂正を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~3について、訂正前の請求項2~3はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1~3は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、請求項2、3について、別の訂正単位とする求めがなされているが、本件訂正請求は、請求項1との引用関係の解消を目的とするものではなく、訂正後の請求項2、3も訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用しているので、請求項1と請求項2、3とを別の訂正単位とすることはできない。よって、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~3〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(3)明細書の訂正に係る請求項について
本件訂正のうち訂正事項2に係る訂正は、明細書の記載事項を、訂正事項1により訂正された請求項1と整合させるための訂正であり、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3に関連する訂正であるから、訂正事項2に係る訂正は、一群の請求項である請求項1~3について行うものである。
また、本件訂正のうち訂正事項3に係る訂正は、段落【0038】のW含有量に関する誤記を訂正することを目的とする訂正であり、W含有量について特定されている請求項2に関連する訂正であるところ、上記(2)のとおり、本件訂正前の請求項1~3は一群の請求項であるから、訂正事項3に係る訂正は、一群の請求項である請求項1~3について行うものである。
したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。
(4)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~3について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、その訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、以下において、本件訂正後の請求項1~3に係る発明を順に「本件特許発明1」~「本件特許発明3」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。
「【請求項1】
母材鋼板の少なくとも片面に二相ステンレス鋼層を有する二相ステンレスクラッド鋼の合せ材の成分組成が、質量%で、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0050%以下、Ni:4.50~6.50%、Cr:21.00~24.00%、Mo:2.50~3.50%、N:0.08~0.20%、O:0.0100%以下を含み、下記(1)式で表されるPI値が32.0~36.0の範囲にあり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
該合せ材の素材は、下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であり、
前記合せ材は、下記(3)式で表されるXc値が50以下であることを特徴とする二相ステンレスクラッド鋼。
ここで、前記合せ材の素材は、連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう。
PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
ただし、(1)式中、元素記号は各元素の質量%を示す。
X=60δSi+40δMo ・・・(2)
ただし、(2)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、
δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、
δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、
t:合せ材の素材の板厚
を表す。
Xc=60ΔSi+40ΔMo ・・・(3)
ただし、(3)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、
ΔSi=Si(0.5t位置)-Si(0.25t位置)、
ΔMo=Mo(0.5t位置)-Mo(0.25t位置)、
t:合せ材の板厚
を表す。
【請求項2】
前記合せ材の成分組成が、さらに質量%で、A群[Cu:0.01~1.50%、W:0.01~2.00%、Co:0.01~1.50%およびV:0.01~0.80%から選ばれる少なくとも1種]、B群[Ti:0.01~0.10%およびNb:0.01~0.20%から選ばれる少なくとも1種]、C群[Sn:0.01~0.20%およびSb:0.01~0.20%から選ばれる少なくとも1種]、D群[Zr:0.01~0.20%、Mg:0.0005~0.
0100%、Ca:0.0005~0.0100%、REM:0.01~0.20%およびB:0.0005~0.0200%から選ばれる少なくとも1種]およびE群[Al:0.003~0.080%]から選ばれる少なくとも1群の成分を含有することを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレスクラッド鋼。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成分組成の合せ材を素材とする二相ステンレスクラッド鋼の製造方法において、前記合せ材素材に圧下比5.0超えの熱間圧延を施して、圧延体を形成する工程と、前記母材となる母材素材および前記合せ材の圧延体を組み合わせた後、合せ材の圧延体部分を1100℃以上の温度域において60分以上加熱し、続いて圧下比3.0以上の熱間圧延を施し、圧延体を形成する工程を含む、ここで、圧下比は圧下前の板厚を圧下後の板厚で除したものであり、前記合せ材の成分組成は前記(1)式で表されるPI値が32.0~36.0の範囲にあり、前記合せ材の素材は、前記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であり、前記合せ材は、前記(3)式で表されるXc値が50以下である、ことを特徴とする二相ステンレスクラッド鋼の製造方法。」
第4 申立理由の概要
1 申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において公知となった、次の甲第1~4号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由1~5により、本件訂正前の請求項1~3に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
[証拠方法]
甲第1号証(甲1):特開2011-202247号公報
甲第2号証(甲2):特開2018-28146号公報
甲第3号証(甲3):Clara Herrera外2名, Characterization of the Microstructure, Crystallographic Texture and Segregation of an As-cast Duplex Stainless Steel Slab,steel research international,2008年 6月,Verlag Stahleisen GmbH、Volume 79、Issue 6、p.482-488
甲第4号証(甲4):ステンレス鋼の選び方・使い方[改訂版]、2010年6月16日、財団法人日本規格協会、p.108、109
(1)申立理由1(明確性要件)
ア 合せ材の素材の規定について
最終製品である二相ステンレスクラッド鋼の合せ材から、合せ材の素材の偏析状態を示すX値を把握することは不可能である。よって、本件訂正前の請求項1の記載から、具体的な物(二相ステンレスクラッド鋼)が発明の技術的範囲に属するか否かを予見することができない。
また、本件訂正前の請求項1が、プロダクト・バイ・プロセスクレーム(PBPクレーム)であると解するとしても、PBPクレームが認められるのは「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる」ところ、PBPクレームが認められる事情はない。
以上より、本件訂正前の請求項1及びこれを直接又は間接的に引用する請求項2、3の記載 は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ X値の測定方法について
本件明細書【0065】の「ビーム径0.1mm、測定間隔0.1mmの条件」による「線分析」では、測定位置がフェライト(α)のみの部位もしくはオーステナイト(γ)のみの部位であるかによる測定値のばらつきが大きいため、仮に一切の偏析が発生していなくとも、本件訂正前の請求項1における「X値」を一義的に決めることは極めて困難である。
したがって、本件訂正前の請求項1及びこれを直接又は間接的に引用する請求項2、3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(実施可能要件)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件訂正前の請求項3に係る発明は、(A)「合せ材素材に圧下比5.0超えの熱間圧延を施」すこと、(B)合せ材素材の圧延体と母材素材を組み合わせた後、「合せ材の圧延体部分を1100℃以上の温度域において60分以上加熱」すること、及び(C)「続いて圧下比3.0以上の熱間圧延を施」すことを含むが、本件明細書の記載からは、本件訂正前の請求項3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することはできない。
よって、本件訂正前の請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本件訂正前の請求項3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(新規性・進歩性)
本件訂正前の請求項2、3に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件訂正前の請求項2、3に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正前の請求項2、3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(進歩性)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明と、甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 追加の証拠方法
また、申立人は、令和 5年 6月23日提出の意見書とともに、追加の証拠方法として、以下の甲第5号証(以下、「甲5」という。)を提出している。
甲第5号証(甲5):鈴木章、他1名、実用鋼中の溶質元素の分配係数、1968年7月、日本金属学会誌、第32巻、第7号、p.625-628
第5 令和 5年 2月 3日付けで通知した取消理由の概要
当審が令和 5年 2月 3日付けで通知した取消理由は以下のとおりである。
1 取消理由1(実施可能要件:申立理由2に対応)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1~3に係る二相ステンレスクラッド鋼の、所定のX値を有する合せ材の素材を得る方法に関し、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
したがって、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
2 取消理由2(明確性要件、職権により追加)
(1)「合せ材の素材」について
本件訂正前の請求項1に記載された「合せ材の素材」の意味が、本件明細書の記載、及び本願出願時の技術常識を参酌しても明確であるとはいえない。
(2)合せ材の「素材」のX値を算出する(2)式で用いられる板厚tについて
本件訂正前の請求項1に記載された合せ材の「素材」に係る「X値」を、その板厚とは異なる「t:合せ材の板厚」を用いることにより、なぜ算出できるのかが明確であるとはいえない。
(3)したがって、本件訂正前の請求項1、及び請求項1を引用する請求項2、3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。
第6 令和 5年11月13日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
1 取消理由1(実施可能要件)
特許権者は、令和 5年 3月29日提出の意見書において、次の乙第1~3号証(以下、「乙1」等という。)を提出し、当業者は、本件明細書の記載に、乙第1号証~乙第3号証に記載されたような技術常識を参酌することで、本件特許発明の二相ステンレスクラッド鋼を実施できると主張している。
しかし、発明の詳細な説明の各記載に加え、乙1~乙3に示されている本願出願時の技術常識を参酌したとしても、本件特許発明における所定のX値を有する合わせ材の素材を得ることができることを当業者が理解できるとはいえない。
したがって、依然として、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、具体的にどのような条件で鋳造すれば、本件訂正後の請求項1~3に係る「二相ステンレスクラッド鋼」の、所定のX値を有する合せ材の素材を得ることができるか、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
よって、本件訂正後の請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
乙第1号証(乙1):荻林成章、連続鋳片の中心偏析生成機構および中心偏析モデルの現状と課題、Sanyo Technical Report、2012年、Vol.19、No.1、p.2-14
乙第2号証(乙2):瀬々昌文、他5名、凝固末期面圧下による連続鋳片のセミマクロ偏析の改善、鉄と鋼、2001年、Vol.87、No.2、p.77-84
乙第3号証(乙3):小島信司、他4名、連続鍛圧技術における中心偏析の改善、鉄と鋼、1992年、Vol.78、No.12、p.1794-1801
第7 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、令和 5年 2月 3日付けで通知した取消理由及び同年11月13日付け取消理由(決定の予告)並びに特許異議申立ての理由のいずれによっても、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1(実施可能要件)、申立理由2(実施可能要件)について
(1)特許権者の意見書における主張内容
特許権者は、令和 5年12月26日提出の意見書において、次の乙第4号証~乙第11号証をさらに提出し、当業者は、本件明細書の段落[0032]及び[0053]の記載に、乙第1号証~乙第11号証に記載されたような技術常識を参酌し、実施例に記載の測定法に基づきX≧30を満たす板厚範囲を考慮して、本件特許発明の構成C(「該合せ材の素材は、下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であり」)を満足する二相ステンレスクラッド鋼を実施することができる旨を主張している。
乙第4号証(乙4):村山順一郎、他3名、連続鋳造鋼片の中心偏析におよぼす合金元素の影響、鉄と鋼、1986年、Vol.72、No.15、p.2070-2077
乙第5号証(乙5):白岩俊男、他5名、連続鋳造材の中心偏析および鋼塊材の偏析と異常組織、鉄と鋼、1978年、Vol.64、No.3、p.411-419
乙第6号証(乙6):奥村裕彦、連続鋳造技術の動向と今後の展望、新日鉄技報、1994年、No.351、p.10-14
乙第7号証(乙7):特開昭62-179802号公報
乙第8号証(乙8):特開2017-080765号公報
乙第9号証(乙9):特開2003-094154号公報
乙第10号証(乙10):特開2006-007248号公報
乙第11号証(乙11):特開2008-093711号公報
(2)判断
ア 本願の出願前に公知となった乙4には、以下の記載がある。
(ア)「
[図:0001411244000001.jpg]
」(2070ページ右欄4~8行目)
(イ)「
[図:0001411244000002.jpg]
」(2071ページ 表1)
(ウ)「
[図:0001411244000003.jpg]
」(2071ページ左欄1~14行目)
(エ)「
[図:0001411244000004.jpg]
」(2076ページ右欄9~14行目)
(オ)「
[図:0001411244000005.jpg]
」(Fig.16)
イ 本願の出願前に公知となった乙5には、以下の記載がある。
(ア)
「
[図:0001411244000006.jpg]
」(411ページ右欄1~16行目)
(イ)「
[図:0001411244000007.jpg]
」(412ページ 表1)
(ウ)「
[図:0001411244000008.jpg]
」(417ページ左欄2~3行目)
(エ)「
[図:0001411244000009.jpg]
」(417ページ右欄2~7行目)
(オ)「
[図:0001411244000010.jpg]
」(Fig.4)
ウ 当審は、令和 5年11月13日付け取消理由通知(決定の予告)において、乙2にはP及びMnの偏析を低減する技術が記載されているものの、Moの偏析度がMnと同じとなる根拠や、Siの偏析については何ら説明がない旨を指摘した。
これに対し、特許権者は、乙4及び乙5を提出した。乙4からは、C、Si、Mn、P、Sを含む、砂型鋼塊に一方向圧延を施した圧延鋼板において、MnとMoの偏析率がほぼ一致することが理解できる。乙5からは、C、Si、Mn、P、Sを含む、連続鋳造鋼厚板及び鋼塊より製造した厚板において、Mn,Si,Cの順に偏析が小さくなっていること、MnとSiの偏析度がほぼ同等の範囲にあることが理解できる。
特許権者が提出したこれらの証拠に基づけば、本件特許発明における合わせ材と同様の、連続鋳造又は造塊法により作製したC、Si、Mn、P、Sを含む鋼板において、Mo及びSiの偏析はMnと同程度か、小さいものと理解するのが相当である。
エ 本願の出願前に公知となった乙8には、「鋼管用鋳片の連続鋳造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(なお、下線は当審が付し、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(ア)「【0029】
以下、本知見について詳細に説明する。
A)金属間化合物への影響について
通常、連続鋳造鋳片の凝固組織はデンドライト形態を呈している。複雑な組織として知られる二相ステンレス鋼も、初晶であるフェライトが晶出してデンドライトに成長し、その後、包共晶反応によりオーステナイトが晶出し、フェライト及びオーステナイト二相で凝固を完了する。この際、凝固過程でデンドライト形態である柱状晶から分岐柱状晶、等軸晶となった場合でも、溶質が排出される組織の樹間部からオーステナイトが晶出する。また、室温までの冷却過程でも、フェライトがオーステナイトに変態し、形態が大きく変わることが知られている。
【0030】
このように、凝固組織は凝固過程における溶質元素の拡散に起因して形成され、溶質元素はその平衡分配係数に依存して、デンドライトや分岐柱状晶、柱状晶の樹間部において濃化する。二相ステンレス鋼に含有されるCrやMoの平衡分配係数は1.0より小さいことから樹間部において濃化し、ミクロ的には特にオーステナイト晶出後、最終凝固位置となる粒界に、マクロ的には図1に示すように、最終凝固部1となる中心部に凝固偏析が残存し、当該領域で脆化相の溶体化、析出温度が上昇することにより、金属間化合物(σ相、Χ相)がさらに析出しやすいという特徴を有している。なお、図1中の2は外周部に形成された柱状晶域、3は柱状晶域2と最終凝固部1間の分岐柱状晶域又は等軸晶域を示す。」
(イ)「
【図1】
[図:0001411244000011.jpg]
」
オ 乙8の記載事項に関連して、当審では、参考資料A(特開2018-171650号公報)、参考資料B(特開2016-087623号公報)、参考資料C(特開2013-022609号公報)を発見した。
(ア)本願の出願前に公知となった参考資料Aには、「鋼板の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
「【0002】
一般に、連続鋳造鋳片は、その凝固過程において、炭素や燐、硫黄、マンガンなどの溶質元素が、凝固時の再分配により未凝固の液相側に濃化し、これがデンドライト樹間にトラップされてミクロ偏析となることが知られている。即ち、連続鋳造鋳片は、凝固収縮や熱収縮、連続鋳造機のロール間で発生する凝固シェルのバルジングなどによって、鋳片の厚み中心部に空隙が形成されたり、負圧が生じたりするため、この部分に溶鋼が吸収されていくのが普通である。特に、凝固末期の連続鋳造鋳片は未凝固部分に十分な量の溶鋼が存在していないことから、上記ミクロ偏析によって濃縮された溶鋼がそこに流動し、連続鋳造鋳片の中心部に集積して凝固するようになる。このようにして形成される偏析スポットは、溶質元素の濃度が溶鋼の初期濃度に比べて格段に高濃度となっており、これを一般に、マクロ偏析と呼び、またその存在部位からこれを、中心偏析と呼んでいる。
・・・
【0004】
これに対処すべく、従来、連続鋳造工程において鋳片の中心偏析を低減するか、無害化する対策が多数提案されている。
【0005】
例えば、連続鋳造機内における未凝固層を有する凝固末期の鋳片を、鋳片支持ロールによって凝固収縮量と熱収縮量との和に相当する圧下量で徐々に圧下しながら鋳造する方法が提案されている。(特許文献1、特許文献2)。これらの技術、即ち鋳片を凝固収縮量および熱収縮量の和に相当する圧下量で圧下するという、「軽圧下」あるいは「軽圧下法」と呼ばれているこの技術は、鋳造方向に並んだ複数対のロールを用いて、凝固収縮量および熱収縮量の和に見合う圧下量で鋳片を徐々に圧下し、未凝固層の体積を減少させることにより、鋳片中心部における空隙あるいは負圧部の形成を防止すると同時に、デンドライト樹間に形成される濃化溶鋼の流動を防止し、これによって鋳片の中心偏析を軽減する方法である。」
(イ)本願の出願前に公知となった参考資料Bには、「鋼の連続鋳造方法および連続鋳造鋳片」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
「【0002】
連続鋳造方法によってスラブやブルームなどの鋳片を鋳造する場合に、鋳片の中心部にリンやマンガン等の成分が偏析する、いわゆる中心偏析が発生することがある。中心偏析は、鋼材の靱性低下や水素誘起割れの原因となることがあるので、可能な限り抑制することが必要である。
【0003】
連続鋳造中の凝固末期において、溶鋼の凝固収縮に伴って未凝固溶鋼が最終凝固部の凝固完了点に向かって流動する。溶鋼流動に際して、固液界面の不純物濃化溶鋼が最終凝固部に集積する。これが中心偏析の原因となる。従って、中心偏析を軽減するためには、最終凝固部付近において、溶鋼の凝固収縮量に見合った分だけ凝固シェルを圧下することにより、最終凝固部付近の溶鋼流動を抑えることが有効となる。このような考え方に基づき、連続鋳造の二次冷却帯においてサポートロールによって鋳片を圧下する軽圧下技術が用いられている(例えば特許文献1)。」
(ウ)本願の出願前に公知となった参考資料Cには、「鋼の連続鋳造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
「【0002】
一般的に、連続鋳造によって製造された鋳片には中心偏析が発生することが多く、その中心偏析の生成原因は、鋳片の凝固末期における鋳片バルジングや凝固収縮等による溶鋼流動であると考えられている。この溶鋼流動を直接防止し、中心偏析の生成を抑制するには、凝固末期における鋳片の軽圧下が効果的であることが知られている。
【0003】
特許文献1には、軽圧下によって鋳片の中心偏析を抑制する技術として、鋳片の厚さ方向中心部の固相率が0を超え、0.3以下の範囲の任意の位置で測定した凝固殻厚さの実測値と、その測定位置で溶鋼の初期濃度及び鋳造条件を用いて算出した凝固殻厚さの計算値とを比較し、それらの計算値と実測値との差に基づいて鋳片における炭素の中心偏析度をオンラインで評価し、その評価結果に基づいて、炭素の中心偏析度が0.98~1.10の範囲となるように、二次冷却速度および軽圧下ロールの絞り込み勾配のうちの1以上を調整する方法が開示されている。」
カ 当審は、令和 5年11月13日付け取消理由通知(決定の予告)において、そもそも本件特許発明においては、中心部分の元素の偏析度を低減するだけでなく、「下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下」となるように、板厚全体にわたって「Si」と「Mo」両方の偏析をコントロールする必要があるところ、乙1~乙3において、そのような方法について言及された箇所は見いだせない点を指摘した。
キ これに対し、特許権者は、令和 5年12月26日提出の意見書の7ページ下3行目~8ページ11行目において、「X値が30以上を満たす板厚範囲とは、板厚中心部を含み、板厚方向に表面に向かって広がる溶質元素が濃化している領域のことをいう」ものであり、「ビーム径0.1mm(100μm)の平均濃度を測定していることから、その径以下のミクロ偏析は対象でな」いこと、及び、「「板厚全体にわたってSiとMo両方の偏析をコントロール」するわけではなく、板厚中央部、つまり、最終凝固部周辺の溶質濃化を軽減することで課題を解決するものである」と、主張している。
ク 特許権者が提出した乙8によれば、連続鋳造鋳片の中央に溶質が濃化した最終凝固部が残存することが理解できる。さらに、当審が発見した参考資料A~Cの記載を参酌すれば、濃化溶鋼によるMn等の偏析(マクロ偏析)を、軽圧下法により低減できることは本願の出願時点における技術常識であったと認められる。
ここで、上記ア~ウで検討したとおり、Mo及びSiの偏析度合いはMnと同程度か、小さいものと考えられるから、特許権者の意見者における主張や提出された証拠の内容を総合的に勘案すれば、軽圧下法により板厚中央におけるMo及びSiの濃化領域を低減できると解するのが相当である。
ケ そうすると、「連続鋳造時における軽圧下法や連続鍛圧法など」の鋳造技術を用いて、本件特許発明1の「下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下」という条件を満たす合せ材の素材を製造することが、当業者であれば、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要することなく実施できることが理解できるものとなった。
コ したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正後の請求項1~3に係る発明について、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、取消理由1(実施可能要件)、申立理由2(実施可能要件)によっては、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2(明確性要件)について
(1)明確であるとはいえないと指摘した本件訂正前の請求項1に記載された「合せ材の素材」について、本件訂正によって、「連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう」ものであるということが明確に把握できることとなった。
(2)また、明確であるとはいえないと指摘した本件訂正前の請求項1に記載された「(2)式」で用いられる「t」について、本件訂正によって、「合せ材の素材の板厚」を表すことが明らかになった。これによって、本件訂正後の請求項1に記載された(2)式において、合せ材の素材に係る「X値」が、合わせ材の素材の板厚に基づいて算出されることが明確に把握できることとなった。
(3)以上のとおり、本件訂正後の請求項1及びこれを直接又は間接的に引用する請求項2~3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえるから、取消理由2(明確性要件)によって、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由1(明確性要件)について
(1)合せ材の素材の規定について
a X値は(2)式で明確に定義されており、例えば本件明細書の【0065】に記載されている方法に従えば、合せ材の素材に対する測定結果から、Si及びMoの含有量を算出し、X値を計算することは可能であるから、当業者であれば、本件訂正後の請求項1~2に係る発明を明確に把握することができるといえる。
b 申立人は、特許異議申立書において、「合せ材の「素材」の偏析状態と合せ材の偏析状態とは異なるのであって、最終製品である二相ステンレスクラッド鋼の合せ材から、圧延体となる前の合せ材の「素材」のX値を把握することは不可能である。」「したがって、当業者においても具体的な物(二相ステンレスクラッド鋼)が発明の技術的範囲に属するか否かを予見することができない。」と主張しているが、圧延後の最終製品の合せ材から、合せ材の素材のX値を把握することができるか否かと、本件訂正後の請求項1、2に係る発明が明確に把握できるか否かとは、別問題であって、直接関係するものではない。
c また、申立人は、特許異議申立書において、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの可能性について主張しているが、本件訂正後の請求項1、2においては、合わせ材の素材のX値(偏析状態)を規定しているに過ぎず、「物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合」には該当しないから、この主張は採用しない。
(2)X値の測定方法について
本件明細書の【0065】に記載されているように電子線マイクロアナライザーにおいて「ビーム径0.1mm、測定間隔0.1mmの条件」で測定するという測定方法が定まっていれば、Si及びMoの含有量を測定することができ、X値を算出することができる。
上記条件ではビーム径と測定間隔が同じであるため、測定対象の合せ材を隙間なく測定することができるのであり、それによれば、測定位置がフェライト(α)相及びオーステナイト(γ)相のいずれであるかにかかわらず、Si及びMoの含有量を算出することができ、それによりX値も計算することができるから、その結果、「X値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下」となるのであれば、本件特許発明の範囲のものであると理解することができる。
(3) 以上のとおり、本件訂正後の請求項1及びこれを直接又は間接的に引用する請求項2~3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえるから、申立理由1(明確性要件)によって、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(サポート要件)について
(1)本件明細書の【0009】の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「合せ材の板厚中心部まで耐食性に優れる二相ステンレスクラッド鋼およびその製造方法を提供すること」である。
(2)そして、本件明細書の【0015】、【0028】~【0034】によれば、製造される「二相ステンレスクラッド鋼」が、「前記合せ材の成分組成は(1)式で表されるPI値が32.0~36.0の範囲にあり」、「該合せ材の素材は、下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であり」、「前記合せ材は、下記(3)式で表されるXc値が50以下である」という事項を満たすことにより、上記課題を解決することができることが理解される。
(3)申立人は、特許異議申立書の8~10ページにおいて、Xc値が50に近接する実施例において、合せ部の化学組成や、圧下比を変更すれば、「Xc値が50以下」とならないことが予想されるから、訂正前の請求項3に係る発明の範囲まで一般化ないし拡張できないと主張する。
(4)しかし、請求項3及び請求項3が引用する請求項1において、「Xc値が50以下である」ことが特定されているので、Xc値が50を超える製法は請求の範囲から排除されると解釈できる。よって、申立人の主張はサポート要件の判断に影響するものではない。
(5)また、申立人は、実施例について、一部の製造条件を変更してXc値がどのようになるかを議論しているが、1つの条件を変更すれば、他の条件も連動して変更する必要がでてくることは当然想定され得ることである。よって、申立人の主張は採用できない。
(6)以上の検討によれば、本件訂正後の請求項3の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、申立理由3(サポート要件)によって、本件訂正後の請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由4(新規性・進歩性)について
(1)甲2の記載
甲2には、「クラッド鋼用二相ステンレス鋼及びクラッド鋼」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
質量%で、C:0.03%以下、Si:0.05~1.0%、Mn:0.1~6.0%、P:0.05%以下、S:0.0001~0.0014%、Cr:20.0~28.0%、Ni:0.5~9.0%、Mo:5.0%以下、W:3%以下、Co:1.0%以下、Cu:3.0%以下、N:0.05~0.35%、V:0.5%以下、Nb:0.15%以下、Ti:0.05%以下、B:0.0050%以下、Al:0.003~0.05%、Ca:0.0005~0.0040%、Mg:0.0030%以下、O:0.001~0.004%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、鋼表面における最大径5μm以上の大きさの酸化物系介在物中のCaとAlの重量比率(Ca/Al)が0.5以上3.5以下であることを特徴とするクラッド鋼用二相ステンレス鋼。
【請求項2】
請求項1の二相ステンレス鋼を合わせ材とし、母材を炭素鋼としたことを特徴とするクラッド鋼。
【請求項3】
前記合わせ材の組成に含まれる元素Cr、Mn、W、N、Moの含有量(%)との差が、Cr:-1.0%~+1.0%、Mn:-1.0%~+1.0%、W:-0.6%~+0.6%、N:-0.06%~+0.06%、Mo:-0.3%~+0.3%の範囲内であり、下記(1)式で表される耐食性指数PREWが-1.0~+1.0の範囲内にあり、Caが添加されていない組成を有し且つ固溶化熱処理された二相ステンレス鋼の孔食発生温度に対して、前記合わせ材の孔食発生温度が-5℃以上高いことを特徴とする請求項2に記載のクラッド鋼。
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N-Mn ・・・(1)
但し、式中の元素記号は当該元素の含有量(質量%)を意味し、元素が含まれないときは0を代入する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、CaSに起因する耐食性の低下が防止され、且つ、溶体化熱処理を施さなくとも、熱間圧延ままであっても溶体化熱処理同等の耐食性や熱間加工性を有する二相ステンレス鋼と、当該二相ステンレス鋼を合わせ材として用いたクラッド鋼の提供を目的とする。
・・・
【0016】
本開発で研究をおこなったクラッド合わせ材は熱間加工後に冷却された状態にあり、熱処理を施さない工程では内部歪みと微小な析出物や酸化物系介在物、硫化物系介在物を内包している。これら歪みと析出物、介在物の影響により、合わせ材の耐孔食性が支配されており、溶体加熱処理されたクラッド鋼と同等の耐孔食性を維持するには析出物及び介在物の量や形態、組成を高度に制御する必要があると本発明者らは考え、研究開発を進めた。その結果、クラッド合わせ材表層部に存在する最大径が5μm以上の大きさの酸化物系介在物中のCaとAlの重量比率(Ca/Al)の値が0.5~3.5となる条件の二相ステンレス鋼を合わせ材とすることで、熱間圧延まま或いは冷間圧延ままの状態で、合わせ材素材の熱間加工性とクラッド鋼の合わせ材の耐孔食性が両立できることを知見した。
【0017】
本発明者らは合わせ材の圧延時に耳割れが少なく、クラッド圧延後の合わせ材の孔食発生温度Aと孔食発生温度Bの差が小さい条件を見いだすべく、さらに種々の条件を変化させた溶製・鋳造・圧延実験をおこない、熱間加工性評価、耐孔食性評価を精力的におこなった。以上の実験を通じて、得られた知見をもとにして、本発明の完成に至った。
【0018】
すなわち、本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.03%以下、Si:0.05~1.0%、Mn:0.1~6.0%、P:0.05%以下、S:0.0001~0.0014%、Cr:20.0~28.0%、Ni:0.5~9.0%、Mo:5.0%以下、W:3%以下、Co:1.0%以下、Cu:3.0%以下、N:0.05~0.35%、V:0.5%以下、Nb:0.15%以下、Ti:0.05%以下、B:0.0050%以下、Al:0.003~0.05%、Ca:0.0005~0.0040%、Mg:0.0030%以下、O:0.001~0.004%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、鋼表面における最大径5μm以上の大きさの酸化物系介在物のCaとAlの重量比率(Ca/Al)が0.5以上3.5以下であることを特徴とするクラッド鋼用二相ステンレス鋼。
(2)上記(1)の二相ステンレス鋼を合わせ材とし、母材を炭素鋼としたことを特徴とするクラッド鋼。
(3)前記合わせ材の組成に含まれる元素Cr、Mn、W、N、Moの含有量(%)との差が、Cr:-1.0%~+1.0%、Mn:-1.0%~+1.0%、W:-0.6%~+0.6%、N:-0.06%~+0.06%、Mo:-0.3%~+0.3%の範囲内であり、下記(1)式で表される耐食性指数PREWが-1.0~+1.0の範囲内にあり、Caが添加されていない組成を有し且つ固溶化熱処理された二相ステンレス鋼の孔食発生温度に対して、前記合わせ材の孔食発生温度が-5℃以上高いことを特徴とする(2)に記載のクラッド鋼。
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N-Mn ・・・(1)
但し、式中の元素記号は当該元素の含有量(質量%)を意味し、元素が含まれないときは0を代入する。
(4)前記合わせ材の組成に含まれる元素Cr、Mn、W、N、Mooの含有量(%)との差が、Cr:-1.0%~+1.0%、Mn:-1.0%~+1.0%、W:-0.6%~+0.6%、N:-0.06%~+0.06%、Mo:-0.3%~+0.3%の範囲内であり、下記(1)式で表される耐食性指数PREWが-1.0~+1.0の範囲内にあり、Caが添加されていない組成を有し且つ固溶化熱処理された二相ステンレス鋼の硬さの1.05倍以上1.30倍以下であることを特徴とする(2)又は(3)に記載のクラッド鋼。
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N-Mn ・・・(1)
但し、式中の元素記号は当該元素の含有量(質量%)を意味し、元素が含まれないときは0を代入する。」
ウ 「【0021】
本発明においてクラッド鋼とは、母材と合わせ材により構成され、母材は強度・靱性などクラッド鋼の基本的な力学特性を担わされ、合わせ材は相対的に高価な鋼が用いられ、腐食環境に対する耐食性など、適用での特殊機能性を担わされた鋼である。尚、前記母材には炭素鋼などの相対的に安価な鋼が用いられ、特に限定されない。
・・・
【0023】
以下に、先ず、本発明のクラッド鋼の合わせ材用二相ステンレス鋼の成分について説明する。なお、各成分の含有量は質量%を示す。
・・・
【0026】
Mnはオーステナイト相を増加させ靭性を改善する効果を有する。また窒化物の析出を抑制する効果を有するため本発明鋼材では積極的に添加することが好ましい。母材および溶接部の靱性のため0.1%以上添加する。しかしながら、6.0%を超えて添加すると耐食性および靭性が劣化する。そのため、上限を6.0%に限定する。好ましい含有量は0.3~4%であり、さらに好ましくは0.5~3%である。
・・・
【0030】
Crは、二相ステンレス鋼の基本的な耐食性を確保するため20.0%以上含有させる。一方28.0%を超えて含有させるとフェライト相分率が増加し靭性および溶接部の耐食性を阻害する。このためCrの含有量を20.0%以上28.0%以下とした。好ましい含有量は20.5~27.5%である。
【0031】
Niは、オーステナイト組織を安定にし、各種酸に対する耐食性、靭性を改善するため、0.5%以上含有させる。Ni含有量を増加することにより窒化物析出温度を低下させることが可能になる。一方高価な合金であり、合金元素節減型二相ステンレス鋼を対象とした本発明鋼ではコストの観点より9.0%以下の含有量に制限する。好ましい含有量は1.0~8.0%であり、さらに好ましくは1.5~7.5%である。
・・・
【0036】
Nは、オーステナイト相に固溶して強度、耐食性を高める有効な元素である。このために0.05%以上含有させる。Nを増量することによりNiの節減が可能となるため、積極的に添加したい元素である。一方、その含有量の上限はNの固溶限度以内の制限する必要がある。Nの固溶限度はCr、Mn含有量に応じて高くなるが、本発明鋼においては0.35%を越えて含有させるとCr窒化物を析出して靭性および耐食性を阻害するようになるとともに熱間製造性を阻害するようになるため含有量の上限を0.35%とした。好ましい含有量は0.08~0.32%である。」
エ 「【0047】
次に、本発明のクラッド鋼の合わせ材用二相ステンレス鋼の鋼表面において測定対象となる酸化物系介在物について説明する。
【0048】
酸化物系介在物中のCaとAlの重量比率(Ca/Al)は、本発明のクラッド鋼用二相ステンレス鋼の熱間加工性と耐食性を高める重要な指標であり、先に述べた研究開発により0.5~3.5の範囲を定めた。
【0049】
また、クラッド鋼用二相ステンレス鋼の耐孔食性は、鋼材表面に存在する最大径が5μm以上の比較的大きな酸化物系介在物とその周囲に存在する硫化物に支配されている。Caを添加した二相ステンレス鋼では鋼中にCaSが存在し、腐食環境にて容易に溶解して孔食起点になりうる。しかし、Ca添加を必須元素とする本発明のクラッド鋼の合わせ材用二相ステンレス鋼においては、前述した最大径5μm以上の酸化物系介在物中のCaとAlの重量比率(Ca/Al)を0.5~3.5に制御することにより、CaS等の硫化物を起点として孔食が発生することを防止し、高い耐孔食性を付与するものである。
【0050】
その作用機構については十分に明らかになっていないが、CaSのような硫化物系介在物が溶解することにより発生した微小ピット中の液性が、鋼が溶解をはじめるようなpHが低い環境に至ったときに、適正な(Ca/Al)を持つ酸化物が溶解して液性をアルカリ側に持ち来すことにより鋼の溶解を抑制する作用が発生している可能性が一例として想定される。いくつかの想定される機構とは別に、本発明者らは(Ca/Al)が0.5未満であると、孔食の発生を抑制することができず、一方(Ca/Al)が3.5を越えると本鋼の熱間加工性の低下が起きやすくなる実験結果を得た。このため(Ca/Al)を0.5~3.5と定めた。」
オ 「【0058】
次いで、本発明のクラッド鋼の耐孔食性及び表面硬さについて説明する。
【0059】
(本発明のクラッド鋼板の耐孔食性)
本発明の二相ステンレス鋼は固溶化熱処理されていないにも関わらず、その耐食性は、耐食性に影響を与える元素含有量、及び、二相ステンレス鋼の耐食性指標として多く用いられているPREW式[Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N-Mn]が同等程度である組成を有し、且つ固溶化熱処理された鋼と比べて遜色無い。尚、前記「同等程度」とは、前記耐食性に影響を与える元素に関して、ほぼ同じ含有量であり、前記PREW式で算出されるPREW値がほぼ同じであることを意味する。また、前記耐食性に影響を与える元素を同等程度含有し、前記PREW値が同等程度である鋼を「同等鋼」と定義する。
【0060】
ここで、本発明において前記「耐食性に影響を与える元素」とは、上記PREW式を構成する各元素である。従って、本発明における「同等鋼」は、その組成を対象となる鋼の組成と比較して、元素Cr、Mn、W、N、Moの含有量の差が、Cr:-1.0%~+1.0%、Mn:-1.0%~+1.0%、W:-0.6%~+0.6%、N:-0.06%~+0.06%、Mo:-0.3%~+0.3%の範囲内にあり、PREW式で算出されるPREW値に関して、-1.0~+1.0の範囲内にある鋼である。
【0061】
Ca無添加の鋼はCaS生成が無く、高い耐食性を示す。本発明のクラッド鋼の耐食性は、Ca無添加であって固溶化熱処理された同等鋼を用いたクラッド鋼と同等の耐食性を有する。すなわち、本発明のクラッド鋼の耐食性は、固溶化熱処理されていない状態の前記合わせ材(すなわち、本発明の二相ステンレス鋼)の孔食発生温度Aと、前記合わせ材の同等鋼であって且つCaが添加されていない組成を有し、固溶化熱処理された二相ステンレス鋼の孔食発生温度B0に対する差が-5℃以上(A-B0≧-5)である。
【0062】
前記臨界孔食温度試験(ASTM G48法)は、6%濃度の塩化第二鉄に塩酸を加えた溶液中に試験片を浸漬し、試験温度を上昇させながら0.025mm以上の深さの孔食が発生した最低の温度を求める試験である。このうちE法は各温度で24h浸漬する試験であり、ステンレス鋼の耐孔食性を測定するためによく用いられる試験である。本発明が対象としている二相ステンレス鋼の耐孔食性は孔食発生温度が5℃付近から80℃程度の高温となる鋼種まで広い範囲となる。Caを添加した二相ステンレス鋼合わせ材中の酸化物の組成が好ましくなく、孔食の起点となり易い組成となっている場合や熱間圧延条件が好ましくなく、合わせ材中にσ相や窒化物がある程度以上析出している場合は孔食発生温度Aが本来の孔食発生温度Bに比べて10~20℃程度低下する。孔食発生温度BはCaを添加しない二相ステンレス鋼の合わせ材を固溶化熱処理することにより求められる。」
カ 「【0067】
以下に実施例について記載する。本発明者らは25kgの真空溶解により、表1-1(本発明例)及び表1-2(比較例)に化学組成を示す供試鋼を作成した。MgOるつぼを主に用い、一部にCaOるつぼを使用した。また一部の溶解では塩基度を種々変更したCaO-Al2O3-CaF2系の精錬用フラックスを500~1000gを種々タイミングで投入して、溶融保持し、脱酸平衡に近づくよう精錬した。なお表1-1及び表1-2に記載されている成分は残部がFeおよび不可避的不純物元素である。また表1-1及び表1-2に示した成分について含有量が記載されていない部分(符号が「-」で表示された部分)は該当する元素成分を意図的に添加していないため、測定を行っていないことを示す。
【0068】
溶解材を鋳造した鋳片から60mm厚×160mm幅×150mm長の圧延素材に機械加工し、圧延仕上温度850℃で12mm厚まで熱間圧延をおこなって左右に発生した耳割れの最大長さを観察し、溶解材の熱間加工性を評価した。すなわち、12mm厚×180mm幅×600mm長の二相ステンレス鋼板の圧延定常部約400mm長さについて、それぞれ左右に発生した耳割れの最大長さをそれぞれ測定し、左右の最大長さの和を耳割れ長さとして集計した。SUS329J3L系鋼種について、合わせ材表面の酸化物組成(Ca/Al)の値との対応関係を図1に示した。
【0069】
次いで、この鋼板表面の酸化スケールを研削により除去し、板厚68mmの炭素含有量が0.12%の炭素鋼と合わせて溶接組み立てをおこない、この溶接組み立て材を2枚セットで、合わせ材を内側として溶接組み立てし、160mm厚×170mm幅×300mm長のサンドイッチ型クラッド鋼板の素材を作成した。
【0070】
各クラッド鋼板の素材を1200℃に加熱した後、表2-1或いは表2-2に示す圧延仕上げ温度にて40mm厚まで圧延し、表2-1或いは表2-2に示す水冷開始温度からスプレー水冷をおこない、550℃で水冷停止した。圧延後にクラッド鋼板を2枚に分離し、板厚20mm(母材17mm、合わせ材3mm)の二相ステンレス鋼クラッド鋼板を得た。
【0071】
このクラッド鋼板の合わせ材を機械加工によって取り出し、全表面をエメリー紙#120にて湿式で研磨した状態の、3mm厚×25mm幅×50mm長の孔食発生温度測定用試験片を各3ヶ採取するとともに、表面硬度用試験片を各1ヶを切りだした。
【0072】
合わせ材の耐孔食性の評価は、上記の全表面をエメリー紙#120にて湿式で研磨した状態の、3mm厚×25mm幅×50mm長の孔食発生温度測定用試験片をASTM G48のE法に従って、決められた温度にて24h浸漬し、発生した孔食の深さを測定した。0.025mm以上の深さの孔食が発生していない場合は、試験温度を5℃高めて次の試験を実施し、これを繰り返して試験片毎の孔食発生温度を求め、各3ヶの孔食発生温度のうち、最低の温度のものの値を孔食発生温度Aとした。SUS329J3L系合わせ材の孔食発生温度の結果を、合わせ材表面の酸化物系介在物の(Ca/Al)で整理した結果を図2に示した。
【0073】
また、表2-1及び表2-2に示すように、同等鋼毎に、Ca無添加の合わせ材を用いたクラッド鋼板を固溶化熱処理して得た合わせ材についても同様の方法で孔食発生温度B0を求めた。
【0074】
例えば、本発明例No.a1~a3、a5~a8及び比較例No.a0、a11~a15は同等鋼の関係にある。そこで、比較例No.a0を固溶化熱処理して二相ステンレス鋼の合わせ材を製造し、次いで当該合わせ材を用いて前述した製法によりクラッド鋼板を製造し、製造されたクラッド鋼板を用いて前述した方法により、本発明例No.a1~a3、a5~a8及び比較例No.a0、a11~a15に関する孔食発生温度B0を求めた。」
・・・
【0076】
【表1-1】
[図:0001411244000012.jpg]
・・・
【0078】
合わせ材表面の酸化物組成(Ca/Al)の値の測定は以下のようにおこなった。まず3mm厚×10mm幅×20mm長の試験片を機械加工により切り出し、表層部に対応する面を、酸化物、硫化物等の介在物が溶解しないようにし、ダイヤモンド砥粒にて鏡面研磨仕上げをおこなった。次いで、鋼表面の任意部分の5000μm×5000μmの範囲内において、鋼表層の検鏡面に存在する最大径5μm以上の介在物を光学顕微鏡にて確認した後に、走査型電子顕微鏡に試料を入れた。前記確認した介在物に対して電子線を照射し、反射されるX線のエネルギーを半導体検出器で分光することにより、軽元素を除く金属元素の重量比率を求め、上述した手法にて確認した5個以上の酸化物系介在物に含有されるCa/Alをそれぞれ求め、その平均値である(Ca/Al)を得た。その結果を表2-1及び表2-2に示す。尚、前記酸化物系介在物は酸化物、硫化物、一部に窒化物などが観察されたが、主体は展伸していないC系の酸化物であった。また、表2-2において(Ca/Al)が0.04以下の場合は0.0と表記している。
【0079】
表面硬度用試験片について表面をエメリー紙#600にて湿式研磨したのち、表面硬度Cを10kgのビッカース硬度にて測定した。また、孔食発生温度測定と同じ条件にて、同等鋼毎にCa無添加の合わせ材を用いたクラッド鋼板を固溶化熱処理材し、その後の合わせ材を同様に機械加工によって取り出し、同等鋼毎に表面硬度D0を測定した。以上の結果より(A-B0)及び(C/D0)を求めて表2-1及び表2-2の中に示した。
【0080】
表2-1及び表2-2に示す実施例より、本発明が開示するクラッド鋼板の合わせ材用二相ステンレス鋼板は耳割れ長さが3mm以下であって熱間加工性が良好であり、クラッド鋼板合わせ材の孔食発生温度(A-B0)が-5℃以上であって耐食性が良好であることが明らかである。また合わせ材の表面硬度がC/D0が1.05以上1.30以下の圧延加工ままの状態で、熱処理を施すこと無く良好な耐食性を有するため、最終焼鈍が省略でき、このため経済的なクラッド鋼板が提供できることが明らかである。」
・・・
【0082】
【表2-1】
[図:0001411244000013.jpg]
」
(2)甲2に記載された発明
上記(1)カに摘記した記載の、特に【0067】~【0070】、【0076】表1-1の番号a1の鋼及び【0082】表2-1の番号1における製造条件に着目すると、上記(1)アの請求項1、2の記載も考慮すれば、表1-1中「-」は含有していないか不可避的に含有しており、残部がFeおよび不可避的不純物よりなることを意味すると解される。また、【0069】における「板厚68mmの炭素含有量が0.12%の炭素鋼」が【0070】における「母材」となるから、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、C:0.018%、Si:0.35%、Mn:1.52%、P:0.024%、S:0.0008%、Cr:22.1%、Ni:5.64%、Mo:3.02%、N:0.165%、Al:0.015%、Ca:0.0018%、O:0.0032%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、
鋼表面における最大径5μm以上の大きさの酸化物系介在物中のCaとAlの重量比率(Ca/Al)が1.6であるクラッド鋼用二相ステンレス鋼を合わせ材とし、母材を炭素鋼としたクラッド鋼において、
前記合わせ材は、溶解材を鋳造した鋳片から60mm厚×160mm幅×150mm長の圧延素材に機械加工し、圧延仕上温度850℃で12mm厚まで熱間圧延をおこなって、鋼板表面の酸化スケールを研削により除去したものであり、
前記クラッド鋼から合わせ材を機械加工によって取り出した試験片の孔食発生温度Aが40℃である、
クラッド鋼。」(以下「甲2発明」という。)
「質量%で、C:0.018%、Si:0.35%、Mn:1.52%、P:0.024%、S:0.0008%、Cr:22.1%、Ni:5.64%、Mo:3.02%、N:0.165%、Al:0.015%、Ca:0.0018%、O:0.0032%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる溶解材を鋳造した鋳片から60mm厚×160mm幅×150mm長の圧延素材に機械加工し、圧延仕上温度850℃で12mm厚まで熱間圧延をおこなって、12mm厚×180mm幅×600mm長の二相ステンレス鋼板を作製し、
次いで、前記二相ステンレス鋼板の鋼板表面の酸化スケールを研削により除去して合わせ材とし、板厚68mmの炭素含有量が0.12%の炭素鋼と合わせて溶接組み立てをおこない、得られた溶接組み立て材を2枚セットで、前記合わせ材を内側として溶接組み立てし、160mm厚×170mm幅×300mm長のサンドイッチ型クラッド鋼板の素材を作成し、
前記クラッド鋼板の素材を1200℃に加熱した後、950℃の圧延仕上げ温度にて40mm厚まで圧延し、850℃の水冷開始温度からスプレー水冷をおこない、550℃で水冷停止し、圧延後に前記クラッド鋼板を2枚に分離することによる、
板厚20mm(母材17mm、合わせ材3mm)の二相ステンレス鋼クラッド鋼板を得る方法。」(以下「甲2方法発明」という。)
(3)甲2に記載された発明との対比・判断
ア 本件特許発明2について
(ア)本件特許発明2の「二相ステンレス鋼層」の「二相」とは、本件明細書の【0023】~【0024】より、「ガンマ相」と「アルファ相」のことである。甲2の【0026】、【0030】~【0031】、【0036】において、合わせ材用二相ステンレス鋼の成分についての説明の中で、二相ステンレス鋼が「オーステナイト相(ガンマ相)」と「フェライト相(アルファ相)」を含むことが記載されているから、甲2発明の「クラッド鋼用二相ステンレス鋼」は、本件特許発明2の「二相ステンレス鋼層」に相当する。
また、甲2発明の「クラッド鋼用二相ステンレス鋼」による「合わせ材」は、明らかに本件特許発明2の「合せ材」に相当し、甲2発明の「炭素鋼」である「母材」は「合わせ材」と接合されるもので、本件特許発明1の「母材鋼板」に相当する。
よって、甲2発明の「クラッド鋼用二相ステンレス鋼」を「合わせ材」とし、「母材」を「炭素鋼」とした「クラッド鋼」は、本件特許発明2の「母材鋼板」の「少なくとも片面に」「二相ステンレス鋼層」を有する「二相ステンレスクラッド鋼」に相当する。
(イ)甲2発明の「合わせ材」である「クラッド鋼用二相ステンレス鋼」と、本件特許発明2の「合わせ材」の成分組成を対比すると、甲2発明の「クラッド鋼用二相ステンレス鋼」のC、Si、Mn、P、S、Ni、Cr、Mo、N、Oの含有量の値は、本件特許発明2における「合わせ材」のC、Si、Mn、P、S、Ni、Cr、Mo、N、Oの含有量の数値範囲に包含される。
(ウ)甲2発明の「合わせ材」である「クラッド鋼用二相ステンレス鋼」のAl、Caの含有量の値は、本件特許発明2における、D群及びE群のCa、Alの含有量の数値範囲に包含される。
(エ)また、甲2発明の「クラッド鋼用二相ステンレス鋼」は、本件特許発明1の(1)式で表されるPI値が34.706であるから、本件特許発明2で規定される「合わせ材」のPI値の数値範囲(32.0~36.0)に包含される。
(オ)そして、甲2発明において「クラッド鋼用二相ステンレス鋼」の「残部がFeおよび不可避的不純物よりな」ることは、本件特許発明2において「合わせ材」の「残部がFeおよび不可避的不純物からな」ることに相当する。
(カ)本件特許発明2と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「母材鋼板の少なくとも片面に二相ステンレス鋼層を有する二相ステンレスクラッド鋼の合せ材の成分組成が、質量%で、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0050%以下、Ni:4.50~6.50%、Cr:21.00~24.00%、Mo:2.50~3.50%、N:0.08~0.20%、O:0.0100%以下を含み、
さらに質量%で、D群[Zr:0.01~0.20%、Mg:0.0005~0.0100%、Ca:0.0005~0.0100%、REM:0.01~0.20%およびB:0.0005~0.0200%から選ばれる少なくとも1種]およびE群[Al:0.003~0.080%]の成分を含有し、
下記(1)式で表されるPI値が32.0~36.0の範囲にあり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる二相ステンレスクラッド鋼。
PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
ただし、(1)式中、元素記号は各元素の質量%を示す。」
<相違点1-1>
本件特許発明2において、「合せ材の素材」は、(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であるのに対し、甲2発明の熱間圧延前の「合わせ材」は、(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の何%か不明である点。
<相違点1-2>
本件特許発明2において、「合せ材」は、(3)式で表されるXc値が50以下であるのに対し、甲2発明の「合わせ材」である「クラッド鋼用二相ステンレス鋼」は、Xc値が不明である点。
(キ)事案に鑑み、上記相違点1-2について検討する。甲2において、合せ材の0.25t位置及び0.5t位置におけるSiとMoの含有量を測定することや、(3)式に基づきXc値を計算することについての直接的な記載や、これを示唆するような記載は見当たらない。この点については、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、同様である。
したがって、上記相違点1-2は実質的な相違点であるから、上記相違点1-1について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2に記載された発明であるとはいえない。
(ク)上記相違点1-2の容易想到性についてさらに検討する。
上記(キ)のとおり、甲2には、合せ材の0.25t位置および0.5t位置のSi含有量およびMo含有量を測定することや、(3)式に基づきXc値を計算することについての直接的な記載や、これを示唆するような記載は見当たらないし、そうすることが本願優先日当時の技術常識ともいえないから、甲2発明において「(3)式で表されるXc値」に着目して、これを「50以下」とする動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲2発明において、上記相違点1-2に係る発明特定事項を備えようすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ケ)よって、上記相違点1-1について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(コ)この点について、申立人は、特許異議申立書の12ページにおいて、「そして、本件特許明細書の段落0068に記載されるように、このように偏析を減らすことによって得られる作用効果は、孔食発生温度(CPT)が40℃以上となることである(段落0068)。」、「前掲の甲第2号証の鋼a1~a6およびa8は、その表2-1に示されるようにいずれも孔食発生温度が40℃以上である。してみると、甲第2号証の鋼a1~a6およびa8の素材は「X値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下」を満足し、合せ材が「Xc値が50以下」を満足すると解される。」と主張している。
しかし、甲2の【0049】~【0050】に記載されているように、甲2発明は、最大径5μm以上の酸化物系介在物中のCaとAlの重量比率(Ca/Al)を0.5~3.5に制御することにより、CaS等の硫化物を起点として孔食が発生することを防止し、高い耐孔食性を付与すると考えられているものであり、Si及びMoの偏析を抑制することにより孔食の低減を実現するものか否かが不明と言わざるを得ない。
そうすると、孔食発生温度が40℃以上であれば、ただちに合せ材の「Xc値が50以下」を満足するものであるという、申立人の主張は前提を欠いているものであり、採用しない。
なお、特許異議申立書の13~15ページにおいて、製造方法の観点からも補足的に説明しているが、上記のとおり、そもそも甲2発明の合せ材が「Xc値が50以下」を満足すると断言できないので採用しない。
(サ)なお、申立人は、令和 5年 6月23日提出の意見書5ページにおいて「特許権者の取消理由1での主張は、当業者が低合金鋼の柱状晶での偏析対策として通常行っている軽圧下などをそのまま実施すれば、二相ステンレス鋼の偏析を「X値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下」とすることができるというものである。・・・よって、特許権者による取消理由1による主張が妥当であるとすれば、甲第1号証および甲第2号証に記載の二相ステンレス鋼も通常の鋼と同様に偏析が少ない、すなわち、「X値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下」を満足すると解するのが相当である。」と主張しているが、仮に偏析対策が通常行われるものであったとしても、上記(コ)のとおり甲2発明は偏析対策によって孔食の低減を実現するものか不明といわざるを得ないから、採用しない。
イ 本件特許発明3について
(ア)上記ア(イ)~(オ)で示したのと同様、甲2方法発明の「二相ステンレス鋼板」の成分組成は、本件特許発明3で引用する請求項2における「合せ材」の成分組成の範囲に含まれている。
(イ)甲2方法発明における「溶解材を鋳造した鋳片から60mm厚×160mm幅×150mm長の圧延素材に機械加工し、圧延仕上温度850℃で12mm厚まで熱間圧延をおこなって、12mm厚×180mm幅×600mm長の二相ステンレス鋼板を作製」する工程は、本件特許発明3の「前記合せ材素材に圧下比5.0超えの熱間圧延を施して、圧延体を形成する工程」と、「前記合せ材素材に熱間圧延を施して、圧延体を形成する工程」である限りにおいて共通する。
(ウ)甲2方法発明における「前記二相ステンレス鋼板の鋼板表面の酸化スケールを研削により除去して合わせ材とし、板厚68mmの炭素含有量が0.12%の炭素鋼と合わせて溶接組み立てをおこない、得られた溶接組み立て材を2枚セットで、前記合わせ材を内側として溶接組み立てし、160mm厚×170mm幅×300mm長のサンドイッチ型クラッド鋼板の素材を作製し」、「前記クラッド鋼板の素材を1200℃に加熱した後、950℃の圧延仕上げ温度にて40mm厚まで圧延」する工程は、本件特許発明3の「前記母材となる母材素材および前記合せ材の圧延体を組み合わせた後、合せ材の圧延体部分を1100℃以上の温度域において60分以上加熱し、続いて圧下比3.0以上の熱間圧延を施し、圧延体を形成する工程」と、「前記母材となる母材素材および前記合せ材の圧延体を組み合わせた後、合せ材の圧延体部分を1100℃以上の温度域において」「加熱し、続いて圧下比3.0以上の熱間圧延を施し、圧延体を形成する工程」である限りにおいて共通する。
(エ)上記ア(ア)で示したのと同様、甲2方法発明の「二相ステンレス鋼クラッド鋼板」は、本件特許発明3の「二相ステンレスクラッド鋼」に相当するから、甲2方法発明の「二相ステンレス鋼クラッド鋼板を得る方法」は、本件特許発明3の「二相ステンレスクラッド鋼の製造方法」に相当する。
(オ)本件特許発明3と甲2方法発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「請求項1に記載の成分組成の合せ材を素材とする二相ステンレスクラッド鋼の製造方法において、前記合せ材素材に熱間圧延を施して、圧延体を形成する工程と、前記母材となる母材素材および前記合せ材の圧延体を組み合わせた後、合せ材の圧延体部分を1100℃以上の温度域において加熱し、続いて圧下比3.0以上の熱間圧延を施し、圧延体を形成する工程を含む、前記合せ材の成分組成は前記(1)式で表されるPI値が32.0~36.0の範囲にある、二相ステンレスクラッド鋼の製造方法。」
<相違点2-1>
本件特許発明3は「前記合せ材素材に圧下比5.0超えの熱間圧延を施」すものであるのに対し、甲2方法発明は「60mm厚×160mm幅×150mm長の圧延素材」を「12mm厚まで熱間圧延をおこな」うものであり、圧下比が5である点。
<相違点2-2>
本件特許発明3は「合せ材の圧延体部分を1100℃以上の温度域において60分以上加熱」するのに対し、甲2方法発明は加熱時間が不明である点。
<相違点2-3>
本件特許発明3は「圧下比は圧下前の板厚を圧下後の板厚で除したもの」と特定されているのに対し、甲2方法発明はそのような特定がない点。
<相違点2-4>
本件特許発明3は「前記合せ材の素材は、前記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であ」るのに対し、甲2方法発明において、甲2方法発明の熱間圧延前の「合わせ材」は、(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の何%か不明である点。
<相違点2-5>
本件特許発明3は「前記合せ材は、前記(3)式で表されるXc値が50以下である」のに対し、甲2方法発明の合わせ材は、Xc値が不明である点。
(カ)事案に鑑み、上記相違点2-5について検討する。上記ア(キ)、(ク)で示したのと同様、上記相違点2-5は実質的な相違点であり、甲2方法発明において、上記相違点2-5に係る発明特定事項を備えようすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(キ)よって、上記相違点2-1~2-4について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲2方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
上記ア、イに示したとおり、本件訂正後の請求項2、3に係る発明は、甲2に記載された発明とはいえず、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、申立理由4(新規性・進歩性)によっては、本件訂正後の請求項2、3に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由5(進歩性)について
(1)甲1の記載
甲1には、「耐食性に優れた二相ステンレス鋼材」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
質量%で、
C :0.04%以下、
Si:0.1~1.0%、
Mn:0.1~6.0%、
P :0.05%以下、
S :0.010%以下、
Cr:21.0~26.0%、
Ni:4.5~9.0%、
Mo:2.5~5.5%、
N :0.10~0.35%、
Cu:1.0%以下、
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、オーステナイト相面積率が40~70%である二相ステンレス鋼材であって、表層から厚さ方向に向かって鋼材の厚さの7/16~9/16の深さに位置するフェライト相の、下記(1)式により求めるMd(α)値が0.975以下であることを特徴とする耐食性に優れた二相ステンレス鋼材。
Md(α)=0.86Fe(α)a+1.90Si(α)a+0.96Mn(α)a+1.14Cr(α)a+0.72Ni(α)a+1.55Mo(α)a+0.62Cu(α)a ・・・(1)
ここで、元素名(α)aはフェライト相の各元素のモル分率を示す。
【請求項2】
更に、質量%で、
W :0.1~1.5%、
Ti:0.003~0.01%、
Nb:0.01~0.20%、
V :0.05~1.00%、
Al:0.001~0.04%、
Ca:0.0005~0.0050%、
Mg:0.0001~0.0050%、
B :0.0005~0.0040%
の1種または2種以上を含有し、Wを含有する場合は、下記(2)式により求めるMd(α)値が0.975以下であることを特徴とする請求項1記載の耐食性に優れた二相ステンレス鋼材。
Md(α)=0.86Fe(α)a+1.90Si(α)a+0.96Mn(α)a+1.14Cr(α)a+0.72Ni(α)a+1.55Mo(α)a+1.66W(α)a+0.62Cu(α)a ・・・(2)
ここで、元素名(α)aはフェライト相の各元素のモル分率を示す。」
イ 「【0011】
本発明は、高耐食二相ステンレス鋼において、鋳造時に鋳片のマクロ偏析にCr,Mo等が濃化し鋳片冷却時に生ずる鋳片中心部のσ相起因による耐食性低下を抑制しうる鋼材を提供すること、そのため、マクロ偏析のサイズの影響を明確にし、きめ細かな条件で拡散熱処理を行うことで過剰な熱処理を抑制しつつ、σ相生成を抑制し、耐食性の優れた二相ステンレス鋼製品を提供する製造方法を提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、二相ステンレス鋼においてσ相析出を抑制しうる条件について鋭意検討した結果、非特許文献1や2で開示されているMd値の計算を二相ステンレス鋼へ適用することで明確化できることを見出した。
Md値とは、各元素のd軌道のエネルギー準位を相安定性の評価に用いるMd-PHACOMP法で求められる値で、具体的には、Md=0.86Fea+1.90Sia+0.96Mna+1.14Cra+0.72Nia+1.55Moa+1.66Wa+0.62Cua-1.8Naで示される値であり、元素名aは各元素のモル分率を示す。」
ウ 「【0043】
次に、本発明の請求項3記載の限定理由について説明する。
請求項1,2に示すようなMd値の低いフェライト相を得るために、より具体的には、上記の(1)式または(2)式により求めるフェライト相のMd(α)値を0.975以下にしてσ相の析出を抑制するために、製造時の各工程によって熱を加えることにより、Md値算出式の係数が大きいCr,Mo等を拡散により均一化させる。その条件について、熱処理温度、時間に加え、偏析帯のサイズ、ひいては圧減比の効果を考慮しかつ、それぞれの処理を加算できるような指標を導出すべく下記のような検討を行った。」
エ 「【実施例】
【0048】
以下に実施例について記載する。表1に供試鋼の化学組成を示す。なお、この表1に記載されている成分以外はFeおよび不可避的不純物元素である。また、空欄は当該元素を意図的に添加していないため測定していないことを示す。
これらの成分鋼を実験室の50kg真空誘導炉にて溶製し、厚さが約200mmもしくは140mmの扁平鋼塊に鋳造した。鋼塊の本体部分より熱間圧延用素材を切出し、鋳片加熱の後ブレークダウンを行い水冷し、これを再加熱後熱間圧延を行い、水冷により熱延板とした。これを熱処理した後水冷し、熱間圧延焼鈍鋼板とした。板厚は60、20、12mmの3通りとした。
各々の条件を表2に示す。表2に示す条件で鋳片加熱、ブレークダウン、再加熱、熱延熱処理を行い、60mmか20mmまたは12mm厚の熱間圧延焼鈍鋼板を得た。
【0049】
上記により得られた厚鋼板について以下の通り特性評価を行った。Md値を算出するために、圧延方向と平行な断面を埋込み鏡面研磨したサンプルについて、表層から板厚方向に16分の7から16分の9に対応する部位について、ランダムに10点、フェライト相の元素濃度を分析した。分析法は、まず、マップ分析を行いCr,Moが濃化しているフェライト相を判定した後その中の約5μmφの面積について点分析を行った。
また、オーステナイト相面積率については、圧延方向と平行な断面を埋込み鏡面研磨し、KOH水溶液中で電解エッチングを行った後、光学顕微鏡観察により画像解析を行うことによって、着色されるフェライト面積率を測定し、残りの部分をオーステナイト面積率とした。更に耐食性を評価すべく、表層から各サンプルより8枚ずつ採取した試験片の表面を#600研磨し、ASTM G48のE法に規定されたCPT(臨界孔食発生温度)測定を行った。
【0050】
評価結果を表3に示す。各条件材のフェライト相の分析結果は、Md値の最大値と最小値に対応するものをそれぞれ示した。通常CPTはCr+3.3(Mo+0.5W)+16Nで計算されるPREN(Pitting Resistance Equivalent Number)に対応するため、想定されるCPT値を表3に併せて示した。
Md値が0.975を超えたサンプルは、想定CPTより10℃以上低くなっているのに対し、0.975以下のサンプルは想定CPTをクリアしている。KOH水溶液中で電解エッチングを行い、光学顕微鏡観察を行ったところ、Md(α)が0.975を超えたサンプルでは板厚中心部に黒色のσ相が多数観察された。」
オ 「【0053】
【表1】
[図:0001411244000014.jpg]
【0054】
【表2】
[図:0001411244000015.jpg]
【0055】
【表3】
[図:0001411244000016.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
上記アに摘記した記載の、特に表1の鋼C、及び表2、3の条件No.16に着目すると、上記(1)アの請求項1、2の記載も考慮すれば、表1-1中の空欄は含有していないか不可避的に含有しており、残部はFe及び不可避不純物からなることを意味すると解されるから、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、
C :0.018%、
Si:0.68%、
Mn:1.19%、
P :0.015%、
S :0.0015%、
Ni:5.55%、
Cr:22.38%、
Mo:2.75%、
Cu:0.55%、
Al:0.011%、
N :0.180%、
W :0.91%、
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
オーステナイト相面積率が48%である二相ステンレス鋼材であって、
表層から厚さ方向に向かって鋼材の厚さの7/16~9/16の深さに位置するフェライト相の、下記(2)式により求めるMd(α)値が0.959~0.969であり、
CPT(臨界孔食発生温度)が40℃である、
耐食性に優れた二相ステンレス鋼材。
Md(α)=0.86Fe(α)a+1.90Si(α)a+0.96Mn(α)a+1.14Cr(α)a+0.72Ni(α)a+1.55Mo(α)a+1.66W(α)a+0.62Cu(α)a ・・・(2)
ここで、元素名(α)aはフェライト相の各元素のモル分率を示す。」(以下、「甲1発明」という。)
(3)甲1発明との対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)甲1発明の「二相ステンレス鋼材」は、「オーステナイト相(ガンマ相)」と「フェライト相(アルファ相)」を含むものであり、本件特許発明1の「二相ステンレス鋼層」に相当する。
(イ)甲1発明の「二相ステンレス鋼材」のC、Si、Mn、P、S、Ni、Cr、Mo、Nの含有量の値は、本件特許発明1における「合わせ材」のC、Si、Mn、P、S、Ni、Cr、Mo、Nの含有量の数値範囲に包含される。
また、甲1発明の「二相ステンレス鋼材」は、本件特許発明1における(1)式で表されるPI値が34.3であるから、本件特許発明1で規定されるPI値の数値範囲(32.0~36.0)に包含される。
また、甲1発明はCu、Al、Wを含むので、甲1発明において「残部がFeおよび不可避的不純物よりな」ることは、本件特許発明1の「残部がFeおよび不可避的不純物からな」ることと、「Feおよび不可避的不純物を含む」限りにおいて共通する。
(ウ)甲1発明の「二相ステンレス鋼材」と、本件特許発明1の「二相ステンレスクラッド鋼」とは、「二相ステンレス鋼を含む鋼材」である限りにおいて共通する。
(エ)本件特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「二相ステンレス鋼層の成分組成が、質量%で、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0050%以下、Ni:4.50~6.50%、Cr:21.00~24.00%、Mo:2.50~3.50%、N:0.08~0.20%を含み、下記(1)式で表されるPI値が32.0~36.0の範囲にあり、Feおよび不可避的不純物を含む、二相ステンレス鋼を含む鋼材。
PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)」
<相違点3-1>
本件特許発明1は「母材鋼板の少なくとも片面に二相ステンレス鋼層を有する」「二相ステンレスクラッド鋼」に係る発明であるのに対し、甲1発明は単層の「二相ステンレス鋼材」に係る発明である点。
<相違点3-2>
本件特許発明1は0.0100%以下のOを含むのに対し、甲1発明はOの含有量が明らかでない点。
<相違点3-3>
本件特許発明1はCu、Al、Wを含まないか、不可避不純物として含み、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」のに対して、甲1発明は、「Cu:0.55%」、「Al:0.011%」、「W:0.91%」「を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からな」る点。
<相違点3-4>
本件特許発明1は「該合せ材の素材は、下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であ」るのに対し、甲1発明は、「合わせ材」を有さず、「合わせ材の素材」といえるものも有さず、したがって、合わせ材の素材について特定する(2)式で表されるX値自体も特定できない点。
<相違点3-5>
本件特許発明1は「前記合せ材は、前記(3)式で表されるXc値が50以下である」のに対し、甲1発明は、「合わせ材」を有さず、したがって、合わせ材について特定する(3)式で表されるXc値自体も特定できない点。
<相違点3-6>
本件特許発明1は「前記合せ材の素材は、連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう」という特定があるが、甲1発明にはそのような特定がない点。
(オ)事案に鑑み、上記相違点3-1について検討する。
甲2の【0016】には、「クラッド合わせ材表層部に存在する最大径が5μm以上の大きさの酸化物系介在物中のCaとAlの重量比率(Ca/Al)の値が0.5~3.5となる条件の二相ステンレス鋼を合わせ材とする」ことが記載されており、甲1発明は、Caを含まないか、不可避不純物として含む程度であるから、甲1発明に対して、甲2に記載の技術事項を適用することに積極的な動機付けは見いだせない。
したがって、甲1発明において、上記相違点3-1に係る発明特定事項を備えようすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ここで、特許異議申立書の11ページ6行目に述べられているように、甲1の鋼Fの化学組成も、(O、Cu、Al、Nbを除き)本件特許発明1の合わせ材の化学組成に包含されるものであるが、鋼C同様にCaを含まないか、不可避不純物として含む程度であるから、上記判断に変更はない。
(カ)なお、申立人は、特許異議申立書の11ページ最終行~12ページ1行目において「二相ステンレス鋼材をクラッド鋼の合せ材に用いることは通常行われていることである」と述べており、「二相ステンレス鋼材をクラッド鋼の合せ材に用いること」が周知技術であったとして、上記相違点3-5についても念のため検討すると、甲1においても、0.25t位置及び0.5t位置における、SiとMo含有量を測定することや、(3)式に基づきXc値を計算することについての直接的な記載やこれを示唆するような記載は見当たらないし、本願優先日当時の技術常識ともいえないから、から、甲1発明において「(3)式で表されるXc値」に着目して、これを「50以下」とする動機付けがあるとはいえない。
(キ)よって、上記相違点3-1及び相違点3-5以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明と、甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2について
(ア)甲1発明の「二相ステンレス鋼材」は、「オーステナイト相(ガンマ相)」と「フェライト相(アルファ相)」を含むものであり、本件特許発明2の「二相ステンレス鋼層」に相当する。
(イ)甲1発明の「二相ステンレス鋼材」のC、Si、Mn、P、S、Ni、Cr、Mo、Nの含有量の値は、本件特許発明2における「合わせ材」のC、Si、Mn、P、S、Ni、Cr、Mo、Nの含有量の数値範囲に包含される。
また、甲1発明のCu、Al、Wの含有量の値は、本件特許発明2における、A群及びE群のCu、Al、Wの含有量の数値範囲に包含される。
また、甲1発明の「二相ステンレス鋼材」は、本件特許発明2における(1)式で表されるPI値が34.3であるから、本件特許発明2で規定されるPI値の数値範囲(32.0~36.0)に包含される。
また、甲1発明において「残部がFeおよび不可避的不純物よりな」ることは、本件特許発明2の「残部がFeおよび不可避的不純物からな」ることに相当する。
(ウ)甲1発明の「二相ステンレス鋼材」と、本件特許発明2の「二相ステンレスクラッド鋼」とは、「二相ステンレス鋼を含む鋼材」である限りにおいて共通する。
(エ)本件特許発明2と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「二相ステンレス鋼層の成分組成が、質量%で、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0050%以下、Ni:4.50~6.50%、Cr:21.00~24.00%、Mo:2.50~3.50%、N:0.08~0.20%を含み、
さらに質量%で、A群[Cu:0.01~1.50%、W:0.01~2.00%、Co:0.01~1.50%およびV:0.01~0.80%から選ばれる少なくとも1種]およびE群[Al:0.003~0.080%]から選ばれる成分を含有し、
下記(1)式で表されるPI値が32.0~36.0の範囲にあり、Feおよび不可避的不純物を含む、二相ステンレス鋼を含む鋼材。
PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)」
<相違点4-1>
本件特許発明2は「母材鋼板の少なくとも片面に二相ステンレス鋼層を有する」「二相ステンレスクラッド鋼」に係る発明であるのに対し、甲1発明は単層の「二相ステンレス鋼材」に係る発明である点。
<相違点4-2>
本件特許発明2は0.0100%以下のOを含むのに対し、甲1発明はOの含有量が明らかでない点。
<相違点4-3>
本件特許発明2は「該合せ材の素材は、下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であ」るのに対し、甲1発明は、「合わせ材」を有さず、「合わせ材の素材」といえるものも有さず、したがって、合わせ材の素材について特定する(2)式で表されるX値自体も特定できない点。
<相違点4-4>
本件特許発明2は「前記合せ材は、前記(3)式で表されるXc値が50以下である」のに対し、甲1発明は、「合わせ材」を有さず、したがって、合わせ材について特定する(3)式で表されるXc値自体も特定できない点。
<相違点4-5>
本件特許発明2は「前記合せ材の素材は、連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう」という特定があるが、甲1発明にはそのような特定がない点。
(オ)上記ア(オ)、(カ)で検討したのと同様、甲1発明において、上記相違点4-1、相違点4-4に係る発明特定事項を備えようすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(カ)よって、上記相違点4-1、相違点4-4以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1に記載された発明と、甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
上記ア、イに示したとおり、本件訂正後の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明と、甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、申立理由5(進歩性)によっては、本件訂正後の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
第8 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701010