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特許異議申立

2022-700505

アルミニウム合金製品

審判番号
2022-700505
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-538946
登録番号
6980527
請求日
2022年06月13日
審決日
2023年03月17日
公報発行日
2023年04月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】アルコニック テクノロジーズ エルエルシー
  • 【権利者代理人】弁理士法人 丸山国際特許事務所
  • 【権利者代理人】高松 薫
  • 【権利者代理人】鈴岡 正
  • 【権利者代理人】広瀬 文彦
  • 【権利者代理人】末岡 秀文
  • 【異議申立人】黒野 美穂
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 池渕 立
  • 審判官 土屋 知久
分類
P1651.113-Y (C22C) / P1651.121-Y (C22C) / P1651.536-Y (C22C) / P1651.537-Y (C22C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第113条第4号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6980527号発明「アルミニウム合金製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6980527号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6980527号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~18に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2016年(平成28年)1月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年 1月23日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、令和 3年11月19日に特許権の設定登録がされ、同年12月15日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 4年 6月13日に、請求項1~18(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である黒野美穂(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和 4年 9月12日付けで取消理由が通知され、これに対して、特許権者により同年12月15日受付で意見書が提出されたものである。 第2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~18に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明18」といい、これらを総合して「本件発明」という。)は、それぞれ、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品が: 外層を形成する一対の外部領域と、 該外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域と、からなり; 内部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第一濃度からなるとともに、外部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第二濃度からなり、共晶を形成する合金元素の濃度である第一濃度は、共晶を形成する合金元素の濃度である第二濃度より低く; アルミニウム合金製品は、0から0.10のデルタr値(Δr)を持ち; デルタr値は以下のように計算されるものであり: 絶対値 [(r_L + r_LT -2*r_45)/2] その中で、r_Lは、アルミニウム合金製品の圧延方向(longitudinal direction)におけるr値であり; その中で、r_LTは、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して横断方向(transverse direction)におけるr値であり;そして、 その中で、r_45は、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して45度方向(45 degree direction)におけるr値である、 構成からなる事を特徴とするアルミニウム合金製品。 【請求項2】 アルミニウム合金製品の調質(テンパー temper)が、T4、T43、およびO調質(テンパー)から成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製品。 【請求項3】 前記アルミニウム合金製品の調質(テンパー)が、T4であることを特徴とする請求項2記載のアルミニウム合金製品。 【請求項4】 前記アルミニウム合金製品の調質(テンパー)が、T43であることを特徴とする請求項2記載のアルミニウム合金製品。 【請求項5】 前記アルミニウム合金が、2xxx、6xxx、および7xxxシリーズの合金から成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製品。 【請求項6】 前記アルミニウム合金が、6xxxシリーズの合金であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製品。 【請求項7】 前記アルミニウム合金が、6022の合金であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製品。 【請求項8】 前記デルタr値(Δr)が、0から0.07であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製品。 【請求項9】 前記デルタr値(Δr)が、0から0.05であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製品。 【請求項10】 アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品が: 外層を形成する一対の外部領域と、該外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域と、からなり; 内部領域は、合金が、球状からなるデンドライト結晶(globular dendrites)で構成され; アルミニウム合金製品は、0から0.10のデルタr値を持ち; デルタr値は以下のように計算されるものであり: 絶対値 [(r_L + r_LT -2*r_45)/2] その中で、r_Lは、アルミニウム合金製品の圧延方向(longitudinal direction)におけるr値であり; その中で、r_LTは、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して横断方向(transverse direction)におけるr値である。そして、 その中で、r_45は、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して45度方向(45 degree direction)におけるr値である、 構成からなる事を特徴とするアルミニウム合金製品。 【請求項11】 アルミニウム合金製品の調質(テンパー temper)は、T4、T43、およびO調質(テンパー)から成る群から選択されることを特徴とする請求項10記載のアルミニウム合金製品。 【請求項12】 前記アルミニウム合金製品の調質(テンパー)が、T4であることを特徴とする請求項11記載のアルミニウム合金製品。 【請求項13】 前記アルミニウム合金製品の調質(テンパー)が、T43であることを特徴とする請求項11記載のアルミニウム合金製品。 【請求項14】 前記アルミニウム合金が、2xxx、6xxx、および7xxxシリーズの合金から成る群から選択されることを特徴とする請求項10記載のアルミニウム合金製品。 【請求項15】 前記アルミニウム合金が、6xxxシリーズの合金であることを特徴とする請求項10記載のアルミニウム合金製品。 【請求項16】 前記アルミニウム合金が、6022の合金であることを特徴とする請求項10記載のアルミニウム合金製品。 【請求項17】 前記デルタr値(Δr)が、0から0.07であることを特徴とする請求項10記載のアルミニウム合金製品。 【請求項18】 前記デルタr値(Δr)が、0から0.05であることを特徴とする請求項10記載のアルミニウム合金製品。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、本願の拒絶査定不服審判事件(不服2019-16288)で提出された書類である甲第2号証と甲第8号証を除いていずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1~9号証を提出して、以下の申立理由1~5により、本件特許のうち請求項1~18に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1(新規性、進歩性:取消理由として不採用) 本件発明1~3、5~6は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件発明1~9は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件発明1~9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 2 申立理由2(進歩性:取消理由として不採用) 本件発明1~18は、甲5に記載された発明と甲1、6、7等に記載された技術常識とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件発明1~18に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 3 申立理由3(実施可能要件:取消理由として採用) 発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~18が、従来の直接鋳造圧延法に比べて高速で鋳造及び圧延を行うことを可能とする特殊な鋳造圧延装置を用いる必要があるにもかかわらず、該装置の具体的構成が記載されていない点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、請求項1~18に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 4 申立理由4(サポート要件:取消理由として不採用) 特許請求の範囲の記載は、本件発明1~18について、以下(1)~(3)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、請求項1~18に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (1)本件発明1~18は、特許権者の主張によれば、「アルミニウム合金製品の延性を低下させることなく強度を高める」との課題を解決しようとする発明と解され、かかる課題を解決するための技術的手段として、所定の層構造が採用されているが、外部領域及び内部領域の厚みが特定されていない。そして、外部領域又は内部領域の厚みが薄くなれば、これらの層の作用効果が乏しくなると考えることが自然であるから、本件発明1~18の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないしい一般化できるとはいえない。 (2)本件発明1~9は、特許権者の主張によれば、「アルミニウム合金製品の延性を低下させることなく強度を高める」との課題を解決しようとする発明と解され、かかる課題を解決するための技術的手段として、所定の層構造が採用されているが、外部領域及び内部領域における共晶を形成する合金元素の濃度の大小関係のみ特定され、その具体的な差や各領域における合金元素の分布の態様については何ら特定されていない。そして、外部領域又は内部領域の共晶を形成する合金元素の濃度の差が小さくなれば、これらの層の作用効果が乏しくなると考えることが自然であるから、本件発明1~9の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないしい一般化できるとはいえない。 (3)本件発明1~9は、「アルミニウム合金製品の延性を低下させることなく強度を高める」との課題を解決するために、デルタr値(Δr)の範囲が特定されるものであるが、アルミニウム合金製品中のMgの濃度が特定されていない。そして、発明の詳細な説明(【0083】~【0090】)の記載によれば、Mgの濃度が0.58質量%以上と高い場合には、本件発明1~9のΔrの範囲を実現することができないから、本件発明1~9は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえない。 5 申立理由5(明確性要件:取消理由として不採用) 特許請求の範囲の記載は、本件発明1~18について、以下(1)及び(2)の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 したがって、請求項1~18に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (1)本件発明1~9は、連続鋳造法により得られたアルミニウム合金製品のみが包含されるべきところ、DC鋳造により得られる鋳塊から作製されたアルミニウム製品が含まれるか否かが明確ではない。 (2)本件発明1~18は、アルミニウム合金製品の板の厚さが特定されておらず、特に厚さが厚くデルタr値(Δr)の測定を行うための試験片を厚み方向の一部の領域から採取した場合において、板材の厚み方向の全領域を含む試験片のΔrの値と同一の技術的意義を有するΔrの値が得られるとはいえないから、Δrの範囲が明確であるとはいえない。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2006-97057号公報 甲第2号証:特願2017-538946号(本願)の拒絶査定不服審判事件(不服2019-016288)に係る審判請求書 甲第3号証:国際公開第2014/156907号 甲第4号証:新エネルギー・産業技術総合開発機構、「水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET)第II期研究開発 タスク10 低温材料の開発」、平成14年度成果報告書、平成15年3月、p.180、187、208、210 甲第5号証:特表2005-504635号公報 甲第6号証:特開2011-80155号公報 甲第7号証:特開2005-171295号公報 甲第8号証:特願2017-538946号(本願)の拒絶査定不服事件(不服2019-016288)に係る令和3年5月17日提出の意見書 甲第9号証:軽金属学会 研究委員会 鋳造・凝固部会編、「アルミニウムの連続鋳造技術とその鋳塊組織について」、軽金属学会、昭和56年(1981年)10月、p.16~17 (以下、甲第1号証~甲第9号証をそれぞれ「甲1」~「甲9」という。) 第4 取消理由の概要 申立人が提示する上記第3の申立理由のうち申立理由3を採用して、請求項1~18に係る特許に対して、実施可能要件について、以下の内容の取消理由を通知した。 本件明細書には、本件発明1~18のアルミニウム合金製品の製造に関し、【0070】には、アルミニウム合金条を連続鋳造することが示唆されており、また、【0087】~【0088】に記載された実施例(例1~10)には、50フィート/分(15.24メートル/分)を超える速さの鋳造が行われることが示されている。 そうすると、本件発明1~18のアルミニウム合金製品を製造するためには、50フィート/分(15メートル/分)を超える速さの鋳造を行うことができる連続鋳造装置が必要であることが理解される一方で、そのような従来知られていたより桁違いに速い鋳造を行うことのできる連続鋳造装置に関しては、本件明細書等に具体的構成が記載されておらず、また、本件特許の国際出願日の時点において広く一般に知られていたものともいえないから、当業者といえども、本件発明1~18の「アルミニウム合金製品」を製造する連続鋳造装置が、いかにして当該合金製品の製造に必要とされる速い鋳造速度を実現可能にしたものであるのかを、十分に把握することができない。 よって、発明の詳細な説明には、少なくとも、当業者が本件発明1~18の「アルミニウム合金製品」を製造することができる程度にまで、その製造装置に関する明確かつ十分な記載がなされているとはいえない。 したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~18を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、本件特許の請求項1~18に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 上記取消理由は、令和 4年12月15日受付の意見書によって解消しており、また、取消理由として採用されなかった申立理由1、2、4、5はいずれも採用できない。その理由は以下のとおりである。 1 取消理由(申立理由3)について (1)実施可能要件についての判断手法 物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである(実施可能要件を満たす)というためには、発明の詳細な説明には、当業者がその物を製造することができ、かつ、その物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要がある(以下、「判断手法」という。)が、アルミニウム合金製品という物の発明である本件発明が、上記判断手法に基づいて、実施可能であるといえるかについて、以下検討する。 (2)本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、本件発明のアルミニウム合金製品の製造方法について、使用する鋳造装置や当該装置を用いた製造方法の詳細については記載されていないが、以下の記載がある(下線は当審が付した。また、「…」は記載の省略を表す。)。 「【0026】 ここで使用される「原料」の用語は、条材(strip form)からなるアルミニウム合金を指す。いくつかの実施例において、本発明の実施に際して採用される原料は、米国特許第5,515,908号、第6,672,368号、および第7,125,612号において詳述される連続鋳造法(continuous casting)により製造され、それぞれ、本発明の譲受人(assignee)に譲渡(割り当て)され、全ての目的によって組み込まれる。いくつかの実施例では、原料は、ベルトキャスターおよび/またはロールキャスターを用いて生成される。」 「【0069】 いくつかの実施例では、本件発明によるアルミニウム合金製品は、以下の方法で製造され得る:(i)原料として連続鋳造したアルミニウム合金条(continuously-cast aluminum alloy strip)を準備する;… 【0070】 いくつかの実施例では、連続鋳造したアルミニウム合金条は、アメリカ合衆国特許第5,515,908号、6,672,368号、および/または、7,125,612号で詳述されている鋳造方法によって形成され、あらゆる目的のため、ここに参照として利用(包含・併合)される。」 そして、令和 4年12月15日受付の意見書では、いずれも本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、米国特許第6,672,368号を乙第1号証として、さらに、その日本出願の特許公報である特許第4375966号公報を乙第2号証として、米国特許第5,518,064号を乙第3号証として添付して、上記連続鋳造法について説明している。 (3)そこで、本件明細書で言及され、令和 4年12月15日受付の意見書にも添付された米国特許第6,672,368号(乙第1号証)を参照して、本件発明のアルミニウム合金製品が製造可能であるかについて検討する。 ア 乙第1号証には次の記載がある(翻訳として乙第2号証を参照する)。 「Referring to FIG. 1(which generically depicts horizontal continuous casting according to the prior art and according to the present invention), the present invention is practiced using a pair of counter-rotating cooled rolls R1 and R2 rotating in the directions of the arrows A1 and A2, respectively. By the term horizontal, it is meant that the cast strip is produced in a horizontal orientation or at an angle of plus or minus about 30# from horizontal. As shown in more detail in FIG. 3, a feed tip T, which may be made from a ceramic material, distributes molten metal M in the direction of arrow B directly onto the rolls R1 and R2 rotating in the direction of the arrows A1 and A2, respectively. Gaps G1 and G2 between the feed tip T and the respective rolls R1 and R2 are maintained as small as possible to prevent molten metal from leaking out and to minimize the exposure of the molten metal to the atmosphere along the rolls R1 and R2 yet avoid contact between the tip T and the rolls R1 and R2. A suitable dimension of the gaps G1 and G2 is about 0.01 inch (0.25 mm). A plane L through the centerline of the rolls R1 and R2 passes through a region of minimum clearance between the rolls R1 and R2 referred to as the roll nip N.」(第7欄42~62行) (当審訳:「【0024】従来技術に従った及び本発明に従った水平の連続鋳造を包括的に描く)図1を参照して、本発明は、それぞれ矢印A1及びA2の向きに回転する一組みの逆転の冷却ロールR1及びR2を使用して、実施される。用語、水平によって、鋳造されたストリップが、水平の位置付けで、又は水平位置からプラス若しくはマイナス約30°の角度で生産されることを意味する。図3により詳細に示すように、セラミック材料から作ってもよい、供給チップTは、それぞれ、矢印A1及びA2の向きで回転するロールR1及びR2上へ直接、矢印Bの向きに溶融した金属Mを分布させる。供給チップTとそれぞれのロールR1及びR2の間のギャップG1及びG2を、できるだけ小さく維持して、溶融した金属が漏れ出すことを防止し、ロールR1及びR2に沿った雰囲気への溶融した金属の露出を最小にするが、チップT及びロールR1及びR2の間の接触を回避する。ギャップG1及びG2の適切な寸法は、約0.01インチ(0.25mm)である。ロールR1及びR2の中心線を通じた平面Lは、ロールニップNと呼ばれるロールR1及びR2の間に最小のクリアランスの領域を通過する。) 「The molten metal M directly contacts the cooled rolls R1 and R2 at regions 2 and 4, respectively. Upon contact with the rolls R1 and R2, the metal M begins to cool and solidify. The cooling metal produces an upper shell 6 of solidified metal adjacent the roll R1 and a lower shell 8 of solidified metal adjacent to the roll R2. The thickness of the shells 6 and 8 increases as the metal M advances towards the nip N. Large dendrites 10 of solidified metal (not shown to scale) are produced at the interfaces between each of the upper and lower shells 6 and 8 and the molten metal M. The large dendrites 10 are broken and dragged into a center portion 12 of the slower moving flow of the molten metal M and are carried in the direction of arrows C1 and C2. The dragging action of the flow can cause the large dendrites 10 to be broken further into smaller dendrites 14 (not shown to scale). In the central portion 12 upstream of the nip N referred to as a region 16, the metal M is semi-solid and includes a solid component (the solidified small dendrites 14) and a molten metal component. The metal M in the region 16 has a mushy consistency due in part to the dispersion of the small dendrites 14 therein. At the location of the nip N, some of the molten metal is squeezed backwards in a direction opposite to the arrows C1 and C2. The forward rotation of the rolls R1 and R2 at the nip N advances substantially only the solid portion of the metal (the upper and lower shells 6 and 8 and the small dendrites 14 in the central portion 12) while forcing molten metal in the central portion 12 upstream from the nip N such that the metal is completely solid as it leaves the point of the nip N. Downstream of the nip N, the central portion 12 is a solid central layer 18 containing the small dendrites 14 sandwiched between the upper shell 6 and the lower shell 8. In the central layer 18, the small dendrites 14 may be about 20 to about 50 microns in size and have a generally globular shape.」(第7欄63行~第8欄29行)(当審訳:【0025】 溶融した金属Mは、それぞれ領域2及び4で冷却されたロールR1及びR2と直接接触する。ロールR1及びR2との接触で、金属Mは、冷えて固化し始める。冷える金属は、ロールR1に隣接する固化した金属の上側の殻6及びロールR2に隣接する固化した金属の下側の殻8を生成する。殻6及び8の厚さは、金属MがニップNに向かって進むにつれて、増加する。固化した金属の大きい樹枝状結晶10(比例するように示してない)は、上側及び下側の殻6及び8の各々並びに溶融した金属Mの間の境界で生産される。大きい樹枝状結晶10は、破壊され、溶融した金属Mのより遅く移動する流れの中央部分12へ引きずられ、矢印C1及びC2の向きに運ばれる。流れの引きずる作用は、大きい樹枝状結晶10を、より小さい樹枝状結晶14(比例するように示してない)へさらに破壊することを引き起こし得る。領域16と呼ばれるニップNの上流の中央部分12において、金属Mは、半固体であり、固体の成分(固化した小さい樹枝状結晶14)及び溶融した金属の成分を含む。領域16における金属Mは、その中に小さい樹枝状結晶14の分散により、部分的に、柔らかな軟度を有する。ニップNの場所で、溶融した金属のいくらかは、矢印C1及びC2と反対の向きに後方へ押し込まれる。金属が、それがニップNの点を離れるとき、完全に固体であるようにニップNから上流に中央部分12における溶融した金属を押しつける一方で、ニップNにおけるロールR1及びR2の前方回転は、実質的に、金属の固体の部分(上側及び下側の殻6及び8並びに中央部分12における小さい樹枝状結晶14)のみを進ませる。ニップNの下流で、中央部分12は、上側の殻6及び下側の殻8の間に挟まれた小さい樹枝状結晶14を含有する固体の中央層18である。中央層18において、小さい樹枝状結晶14は、大きさにおいて約20乃至約50ミクロンであると共におおよそ球形の形状を有してもよい。) 「The three layers of the upper and lower shells 6 and 8 and the solidified central layer 18 constitute a solid cast strip 20. The solid central layer 18 constitutes about 20 to about 30 percent of the total thickness of the strip 20. The concentration of the small dendrites 14 is higher in the solid central layer 18 of the strip 20 than in the semi-solid region 16 of the flow. The molten aluminum alloy has an initial concentration of alloying elements including peritectic forming alloying elements and eutectic forming alloying elements. Alloying elements which are peritectic formers with aluminum are Ti, V, Zr and Cr. All other alloying elements are eutectic formers with aluminum, such as Si, Fe, Ni, Zn, Mg, Cu and Mn. During solidification of an aluminum alloy melt, dendrites typically have a lower concentration of eutectic formers than the surrounding mother melt and higher concentration of peritectic formers. In the region 16, in the center region upstream of the nip, the small dendrites 14 are thus partially depleted of eutectic formers while the molten metal surrounding the small dendrites is somewhat enriched in eutectic formers. Consequently, the solid central layer 18 of the strip 20, which contains a large population of dendrites, is depleted of eutectic formers (typically by up to about 20 weight percent, such as about 5 to about 20 wt. %) and is enriched in peritectic formers (typically by up to about 45 percent such, as about 5 to about 45 wt. %) in comparison to the concentration of the eutectic formers and the peritectic formers in each of the metal M, the upper shell 6 and the lower shell 8.」(第8欄30~57行) (当審訳:【0026】 上側及び下側の殻6及び8の三つの層並びに固化した中央層18は、固体の鋳造されたストリップ20を構成する。固体の中央層18は、ストリップ20の合計の厚さの約20乃至約30パーセントを構成する。小さい樹枝状結晶14の濃度は、流れの半固体の領域16におけるよりもストリップ20の固体の中央層18において高い。溶融したアルミニウム合金は、包晶を形成する合金をつくる元素及び共晶を形成する合金をつくる元素を含む初期濃度の合金をつくる元素を有する。アルミニウムとの包晶形成体である合金をつくる元素は、Ti、V、Zr、及びCrである。全ての他の合金をつくる元素は、Si、Fe、Ni、Zr、Mg、Cu、及びMnのような、アルミニウムとの共晶形成体である。アルミニウム合金の溶融物の固化の間に、樹枝状結晶は、典型的に、周囲の母溶融物よりも低い濃度の共晶形成体及びより高い濃度の包晶形成体を有する。このように、領域16において、ニップの上流における中央領域で、小さい樹枝状結晶を囲む溶融した金属が、いくらか、共晶形成体を富化させる一方で、小さい樹枝状結晶14は、部分的に、共晶形成体を枯渇させる。結果として、大きい占有率の樹枝状結晶を含有する、ストリップ20の固体の中央層18は、金属M、上側の殻6及び下側の殻8の各々において共晶形成体及び包晶形成体の濃度と比較して、共晶形成体を(典型的には、約5乃至約20重量%のような、約20重量パーセントまで)枯渇させ、包晶形成体を(典型的には、約5乃至約45重量パーセントのような、約45パーセントまでに)富化させる。) 「The control, maintenance and selection of the appropriate speed of the rolls R1 and R2 may impact the operability of the present invention. The roll speed determines the speed that the molten metal M advances towards the nip N. If the speed is too slow, the large dendrites 10 will not experience sufficient forces to become entrained in the central portion 12 and break into the small dendrites 14. Accordingly, the present invention is suited for operation at high speeds such as about 25 to about 400 feet per minute or about 100 to about 400 feet per minute or about 150 to about 300 feet per minute. The linear rate per unit area that molten aluminum is delivered to the rolls R1 and R2 may be less than the speed of the rolls R1 and R2 or about one quarter of the roll speed. High-speed continuous casting according to the present invention may be achievable in part because the textured surfaces D1 and D2 ensure uniform heat transfer from the molten metal M.」(第9欄20~30行) (当審訳:【0029】 ロールR1及びR2の適切なスピードの制御、維持、及び選択は、本発明の実施可能性に強い影響を与える場合もある。ロールスピードは、溶融した金属Mが、ニップNへ向かって進むスピードを決定する。スピードが遅すぎるとすれば、大きい樹枝状結晶10は、表面の力を経験せず、中央部分12に浮遊して運ばれ、壊れて小さい樹枝状結晶14になることになる。よって、本発明は、約25乃至約400フィート毎分又は約100乃至約400フィート毎分又は約150乃至約300フィート毎分のような高速での動作に適する。溶融したアルミニウムがロールR1及びR2へ送り出される、単位面積当たりの線速度は、ロールR1及びR2のスピード又は約四分の一のロールスピードよりも小さい場合もある。本発明に従う高速の連続鋳造は、模様を付けられた面D1及びD2が、溶融した金属Mからの均一な熱伝達を確実にするので、部分的に達成可能である場合もある。) 「BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS … FIG. 1 is a schematic of a portion of a caster with a molten metal delivery tip and a pair of rolls; FIG. 2 … FIG. 3 is an enlarged cross-sectional schematic of the molten metal delivery tip and rolls shown in FIG. 1 operated according to the present invention;」(第6欄19~36行) (当審訳:【図面の簡単な説明】 【図1】 溶融した金属の送り出しチップ及び一組みのロールを備えた鋳造機の一部分の概略である。 【図2】 … 【図3】 本発明に従って動作する溶融した金属の送り出しチップ及び図1に示すロールの拡大した断面の概略である。) 「 [図:0001396283000001.jpg] (当審訳:【図1】先行技術) 」 「 [図:0001396283000002.jpg] 」 (当審訳:【図3】) イ 上記アの記載によれば、図1及びその部分拡大図である図3の鋳造機を用いることにより、供給チップTから供給された溶融した金属Mは、ロールニップNと呼ばれる最小のクリアランスの領域を有する一組の冷却ロールR1とR2と接触して冷却され固化することにより、上側の殻6と下側の殻8を生成し、それら殻に挟まれた中央層18には球形で小さい樹枝状結晶14が含まれる(【0024】、【0025】)。このようにして形成された上側の殻6、下側の殻8及び中央層18は、固体の鋳造されたストリップ20を構成する。 そして、上記溶融した金属Mは、Si、Fe、Ni、Zr、Mg、Cu、及びMnのような、アルミニウムとの共晶を形成する合金をつくる元素を初期濃度で含むアルミニウム合金であり、中央層18は、金属M、上側の殻6及び下側の殻8の各々における共晶形成体の濃度と比較して、共晶形成体が枯渇している(【0026】)。 また、上記ストリップ20の形成は、ロールスピードを約25乃至約400フィート毎分の高速動作とすることにより可能となる(【0029】)。 ウ 以上から、乙第1号証の図1、図3に記載された鋳造機を用いて、ロールスピードを約25乃至約400フィート毎分の高速動作とすることによって、本件発明1の「外層を形成する一対の外部領域と、該外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域と、からなり;内部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第一濃度からなるとともに、外部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第二濃度からなり、共晶を形成する合金元素の濃度である第一濃度は、共晶を形成する合金元素の濃度である第二濃度より低」いストリップ20、すなわち、「アルミニウム合金条」を形成できることが理解できる。 同様に、乙第1号証の図1、図3に記載された鋳造機を用いて、ロールスピードを約25乃至約400フィート毎分の高速動作とすることによって、本件発明10の「外層を形成する一対の外部領域と、該外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域と、からなり;内部領域は、合金が、球状からなるデンドライト結晶(globular dendrites)で構成され」るストリップ20、すなわち、「アルミニウム合金条」を形成できることが理解できる。 エ そして、上記ウで形成されたストリップ20すなわち「アルミニウム合金条」に対して、本件明細書の段落【0069】に記載されたように、「(ii)少なくとも一のスタンドを経由させ、任意的に最終製品ゲージへ、インライン(in-line)で、要求される厚さまで該原料を熱間または温間圧延する、(iii)原料を冷間圧延(cold rolling)する;(iv)要求される合金および調質に依拠して、インラインまたはオフライン(offline)で原料を固溶化熱処理する(solution heat-treating);そして(v)原料を焼き入れ(quenching)した後、張力を平準化して巻き取る」ことによって、本件発明のアルミニウム合金製品が製造される。 (4)以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載と、技術常識として参酌する当該発明の詳細な説明において言及された文献(乙第1号証)の記載に基づいて、当業者が本件発明のアルミニウム合金製品を製造することができるといえるし、このように製造された本件発明のアルミニウム合金製品が、例えばプレス成形におけるアルミ合金板に使用できることは明らかであるから、上記(1)の判断手法に基づいて本件発明は実施可能であるといえる。 したがって、上記1の取消理由は解消した。 2 甲号証の記載及び記載された発明 (1)甲1の記載、及び甲1に記載された発明 ア 甲1には、「耐ボディしわ性に優れたアルミニウム合金及びその製造方法(発明の名称)に関して、次の記載がある。(なお、下線は当審が付与し、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。 (1ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、 Mg:0.1~1.0、 Si:0.2~2.0を含み、 Mn:0.03~0.4、 Cr:0.03~0.4、 Ti:0.005~0.2、 Fe:0.03~0.5、 Zn:0.03~2.5以下、 Cu:0.1~1.0のうち1種もしくは2種以上を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、 そのYSが140MPa以下であり、 r値の平均が0.69以上であり、 r値の異方性を示すΔrが0.20以下であることを特徴とする、耐ボディしわ性に優れたアルミニウム合金。」 (1ウ)「【技術分野】 【0001】 本発明の技術分野は形状の凹凸の大きい部品、例えば自動車用のパネル部品の材料として用いられるアルミニウム合金に関するものである。 【背景技術】 【0002】 自動車のパネル部品等のプレス成形において、材料の流入により形状を得る成形が実施されることがある。このような成形では、流入した材料が特定の形状部分で面外に変位し、金型表面の形状に比べて波打った、形状精度の悪い状態になることがある。このような面外への変形による波状の形状がボディしわである。」 (1エ)「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明における課題はボディしわの発生を抑制する材料を示すことであり、金型の形状や成形方法の限定せずに材質特性を限定することで、様々な形状の金型の成形に対して、ボディしわの発生を抑制する手段を示すことである。 【課題を解決するための手段】 【0009】 材料流入を伴う成形において、特定の金型形状部位にて、材料の流入増量を板厚増でまかなえずに面外変形する現象がボディしわである。つまり、ボディしわとは幅縮みによる成形部位にて発生する現象である。それゆえ、材料の幅縮みの抵抗が小さければ、材料流入量は幅縮みによる体積増、すなわち板厚増となり、ボディしわのような面外への変位は発生しないと考えられる。本発明者等は、この考えの基、まず幅縮み抵抗に影響を及ぼすと思われる材料因子について検討した。 【0010】 まず、幅縮み変形が塑性変形であることから、降伏応力YSが小さければしわは発生しないと考えた。次に、引張試験でのr値も重要な因子であると考えた。r値が大きいことは幅縮みが容易であることを示しているからである。ところで、材料流入は1方向のみでなく、複数の方向から起こる。それゆえ、複数方向の幅縮み変形に対して、幅縮みの抵抗に方向差がないことがしわ抑制に望ましいと考えることが出来る。つまり、YSとr値の異方性差がないことが望ましい。本発明者等は、YSよりもr値の異方性の方がしわ抑制に対する影響が大きいと考えた。すなわち、r値の異方性差を示すΔrを小さくすることがしわ発生抑制に重要であり効果的であると考えた。その他、引張強度TSもボディしわ抑制に効果あるが、上記YS、r値の平均、Δrの規制にて殆どのボディしわ発生が抑制できると考えた。それ故、YS、r値の平均、Δrのみでボディしわの抑制方法を見い出した。なお Δrは(rL+rC-2rX)/2で定義されるr値の異方性差を示す量である。ここでrLは圧延面上の素材圧延方向のr値、rCは圧延面上の素材圧延方向と垂直な方向のr値、rXは圧延面上の素材圧延方向から45°回転した方向のr値である。」 (1オ)「【発明を実施するための最良の形態】 【0015】 本発明は、自動車用の材料である6000系アルミ合金に対してなされたものである。したがって、主たる添加元素であるMgは、質量%として0.1以上1.0以下、Siは0.2以上2.0以下が必須である。これらのMgとSiの添加量であれば、プレス成形以外に要求される材料特性、例えば強度や焼付け効果性などを満足する。しかし、ここで限定する以上の添加を行えば、YSやTSが大きくなり、r値の平均値やΔrを制御してもボディしわの発生を抑制するこが極めて困難になる。また逆に、限定量以下の添加であれば、十分な強度を得ることが出来ずにプレス成形時に破断が発生する。 【0016】 Cu、Mn、Cr、Ti、Fe、Zn、これらの元素は、強度向上、結晶粒微細化、成形性向上などに効果があり、1種または2種以上を添加する。 … 【0018】 以上の添加元素の下、以下の特性を規制することによりボディしわの抑制が可能になると考える。 【0019】 YSは幅縮み抵抗に重要な特性であり、値が低いと抵抗が小さくなり、しわ発生しにくくなる。つまり、YSが低いことは塑性変形し易いことを意味し、幅縮み変形で塑性変形し易くなれば、幅縮みの応力が板厚増に費やされるため幅縮み応力は緩和されて流入抵抗が小さくなる。流入の抵抗が小さくなれば座屈による面外変位、すなわちしわは発生しにくくなる。しかし、YSが140MPaを越えると流入抵抗は極端に大きくなり、面外座屈変形が発生する。なお、YSの下限値は特に設けない。上記成分であれば成形に十分な最低の強度が得られるからである。 【0020】 r値もまた幅縮み抵抗に重要な特性であり、r値の平均値が幅縮み抵抗を表すパラメータである。したがって、r値の平均値が高くなればしわ発生は抑制され、0.69未満になると幅縮み変形での面外座屈が顕著になり、しわ発生する。r値は幅縮みによる板厚増の大きさに対応する。したがって、上述したYSと同じく、r値が大きければ塑性変形により幅縮応力は板厚増へと緩和されて面外座屈しにくくなる。 【0021】 Δrの限定は幅縮み抵抗の異方性差の解消を意味する。材料流入は多方向に亘るため、それぞれの方向からの幅縮み抵抗の差がしわ発生を引き起こす。上記r値の平均が0.69以上の場合では、Δrが0.20以下であればしわ発生を抑制することが出来る。本発明の特徴は、塑性変形により幅縮み応力を板厚増へと緩和させるために、YSとr値を同時に規定したところにある。 【0022】 上述した成分系にてこれらの特性を有する材料の製造では、結晶粒方位のランダム化が最も重要である。つまり、結晶粒方位のランダムになればΔrは小さくなり、また、r値も平均的に増大する傾向となる。」 (1カ)「【0026】 また、最後の焼鈍工程、すなわち溶体化処理工程では固溶元素の析出状態が決定する。これにより材料の強度が決まる。結晶粒が粗大化せず、かつ添加元素が十分固溶する温度にて保持し、その後の冷却工程では、成形性に必要な最低限の強度が得られ、かつYSが140MPa以下になる析出状態を形成しなくてはならない。 【0027】 溶体化熱処理でも同様に、所望の強度や微細な結晶粒を得るためにその温度範囲は上記同様450℃以上560℃以下で5分以下の保持が必要である。また、この温度域及び保持時間では添加元素が十分に固溶すること、及び、固溶した元素の析出を抑制するためにその後の冷却工程では80℃までの間を15℃/s以上の冷却速度で冷却する必要があること、が知見された。逆に、15℃/s以下の冷却速度では、冷却途中にてMgSi系の比較的粗大な析出物が生成し、140MPa以下のYSの調整が困難となる。したがって、最後の焼鈍工程、すなわち溶体化処理工程は、加熱を450℃以上560℃以下で5分以下の保持とし、その後の冷却を80℃まで15℃/s以上の冷却速度で冷却することとする。」 (1キ)「【実施例】 【0028】 … 【0029】 表1は試験に供した材料であり、これらは全てラボにて、鋳造、均熱処理、熱延、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延、溶体化処理の順にて製造されたものである。各材料について強度とr値を測定し、上述したしわ評価の小型試験を実施した。しわ評価において、○はしわなし、×はしわ有りを示し、破断は40mmの深絞り成形において金型のポンチ肩にてネッキングもしくは破断が起こったことを示す。なお、ここに示した材料の製造工程は全て同じであり、熱延以後の工程条件は表2のプロセス1と記載した条件である。なお、表2中の全条件にて中間焼鈍と溶体化処理での所定温度での保持時間は全て1分である。 … 【0032】 [図:0001396283000003.jpg] 」 イ 甲1に記載された発明 (ア)甲1において解決しようとする課題は、自動車用のパネル部品等の材料として用いられるアルミニウム合金において、材料の流入により形状を得るプレス成形におけるボディしわの発生を抑制する材料を示すことである(【0001】、【0002】、【0008】)。 (イ)甲1のアルミニウム合金は、ボディしわの発生を抑制するために、降伏応力YSを小さくし、r値を大きくして幅縮みを容易にするとともに、r値の異方性差を示すΔrを小さくしている。ここで、Δrとは、(rL+rC-2rX)/2で定義されるr値の異方性差を示す量であり、rLは圧延面上の素材圧延方向のr値、rCは圧延面上の素材圧延方向と垂直な方向のr値、rXは圧延面上の素材圧延方向から45°回転した方向のr値である(【0010】)。 具体的には、YSが140MPa以下であり、r値の平均が0.69以上の場合、Δrが0.20以下であればしわ発生を抑制することが出来る(【請求項1】、【0018】~【0021】)。 (ウ)上記(イ)のアルミニウム合金の実施例として、【0032】の【表1】のNo.Bの材料に注目すると、当該材料は、Mgを0.89、Siを0.95含有するアルミニウム合金であり、鋳造、均熱処理、熱延、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延、溶体化処理の順にて製造されたものである(【0029】)。そして、当該材料のYSは114MPa、r値の平均値は0.73、Δrは0.08であると測定された。なお、MgとSiの上記含有量について、その単位は、段落【0015】に「主たる添加元素であるMgは、質量%として0.1以上1.0以下、Siは0.2以上2.0以下が必須である。」と記載されていることから、質量%であるものと認められる。 (エ)したがって、甲1には、No.Bの材料で製造された材料に注目すると、次の「アルミニウム合金の材料」が記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。)。 「Mgを0.89質量%、Siを0.95質量%含有するアルミニウム合金の材料であって、鋳造、均熱処理、熱延、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延、溶体化処理の順にて製造されたものであり、 YSは114MPaであり、 r値の平均値は0.73であり、 Δrは0.08である、アルミニウム合金の材料。 ただし、Δrはr値の異方性差を示す量であり、次の式で定義されるものである。 Δr=(rL+rC-2rX)/2、 rLは圧延面上の素材圧延方向のr値、 rCは圧延面上の素材圧延方向と垂直な方向のr値、 rXは圧延面上の素材圧延方向から45°回転した方向のr値。」 (2)甲2の記載 甲2には、次の記載がある。 「なお、米国特許第6,672,368号に係る実施例によれば、連続鋳造のための溶融したアルミニウム合金は、包晶を形成する元素及び共晶を形成する元素を有しており、前者は、Ti、V、Zr、及びCrであり、後者は、Si、Fe、Ni、Zr、Mg、Cu、及びMnのような、アルミニウムとの共晶を形成する元素であります。」(13頁4~8行) 「特に、引用文献2(当審注:特開2003-129156号公報)にはDC鋳造によるインゴットの製造に係る技術が開示されており(例えば、引用文献2の〔0031〕段落)、本願発明によるアルミニウム合金条の製造のための構成を満たさないものであると考えられます。つまり、引用文献2に係る鋳造方法によって、本願発明の特徴である内側領域と外側領域を形成することはありません。」(17頁7~12行) (3)甲3の記載、及び甲3に記載された発明 甲3には、「包装容器用アルミニウム合金板およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (3ア)「[0001] 本発明は、DI缶またはボトル缶等に適用される包装容器用アルミニウム合金板およびその製造方法に関する。」 (3イ)「[0004] これらの飲料用アルミニウム缶には、実用に適する強度、加工性が要求される他に、外観の美しさも要求される。しかし、飲料用アルミニウム缶の缶胴には、しばしば年輪状の褐色ないしは黒色の筋が見られ外観が損なわれることがある。その原因は板表面にあるAlおよびMgの酸化物、酸化膜によるものとされている。」 (3ウ)「[0010] 本発明は、前記課題を解決するためのものであり、強度および加工性に優れ、製造において煩雑な工程を必要とすることなく、DI加工後あるいは、ネック成形後の缶胴の表面に年輪状の褐色ないしは黒色の筋が見られない、表面品質に優れた包装容器用アルミニウム合金板およびその製造方法を提供することを課題とする。」 (3エ)「[0011] 本発明者らは鋭意検討した結果、以下の事項を見出した。 アルミニウム合金製のDI缶、ボトル缶に発現する年輪状の模様は、アルミ板表面のMg系酸化物の影響によるものと考えられており、表面からのMgおよびその酸化物の除去が有効である。先に記した技術は、いずれも、熱間圧延後あるいは冷間圧延途中に苛性処理など表面エッチングを行うため、良好な表面形態が得られるが、新たに1工程増える上に、薬剤の処理コストが増えるなど、望ましい工程ではない。本発明は、新たな工程を増やすことなくできる方法を検討した結果得られたものである。また、従来から行われている方法として、均熱後の面削が行われているが、単に、均熱後に面削を行うだけでは、熱間圧延のための加熱および熱延中に、スラブおよび熱延板表面にMgの酸化物が形成され、表面品質が低下する。そこで、均熱時間を従来よりも長く保持し、板表面へのMgの拡散を促進させ、その後、表面に濃化したMg層を面削により除去することで、板表面のMg濃度が低くなり、熱延後も板表面を良好にすることができることを見出した。」 (3オ)「[0034] 次に、本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板の製造方法について説明する。 ≪包装容器用アルミニウム合金板の製造方法≫ アルミニウム合金板の製造方法は、第1工程、第2工程、第3工程、第4工程および第5工程を含むものである。 以下、各工程について説明する。 [0035]<第1工程> 第1工程は、アルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する工程である。 ここで、アルミニウム合金の成分は、Mn:0.50~1.50質量%、Mg:0.50~1.50質量%、Si:0.10~0.50質量%、Fe:0.10~0.70質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものである。また、さらに、Cu:0.50質量%以下を含有してもよい。 また、さらに、Cr:0.001~0.3質量%、Zn:0.05~1.0質量%からから選択された一種または二種を含有してもよい。さらには、0.005~0.2質量%のTiを単独で、又は0.0001~0.05質量%のBと併せて含有してもよい。 各成分の説明については、前記したとおりであるため、ここでは省略する。 [0036]<第2工程> 第2工程は、第1工程で作製された鋳塊を均質化熱処理する工程である。 ここで、第2工程においては、均質化熱処理を、580~620℃の到達温度で24時間以上保持した後、室温まで冷却する条件で行う。 [0037][580~620℃の到達温度で24時間以上保持] 均質化熱処理の到達温度が580℃未満もしくは保持時間が24時間未満では、鋳塊表面に濃化するMg量が少なくなる。そのため、その後の工程により鋳塊表面を面削しても、本発明の所望のMgの存在比が得られない。一方、到達温度が620℃を超えると、スラブ(鋳塊)表面がバーニングを起こし、アルミニウム合金板の製造そのものができなくなる。なお、保持時間の上限は特に規定されるものではないが、経済的な観点から36時間以下が好ましい。 … [0039]<第3工程> 第3工程は、第2工程で均質化熱処理された鋳塊表面を面削する工程である。 従来から行われている方法として、均熱後の面削が行われているが、単に、均熱後に面削を行うだけでは、熱間圧延のための加熱および熱延中に、スラブおよび熱延板表面にMgの酸化物が形成され、表面品質が低下する。そこで、均熱保持時間を従来よりも長くし、鋳塊表面へのMgの拡散を促進させ、その後、表面に濃化したMg層を面削により除去することで、鋳塊表面のMg濃度が低くなり、熱延後も板表面を良好にすることができる。 ここで、第3工程においては、鋳塊表面を5mm以上面削する。面削が5mm未満では、表面に濃化したMg層の除去が不十分となり、鋳塊表面のMg濃度が十分に低くならない。そのため、本発明の所望のMgの存在比が得られない。なお、上限については特に規定されるものではないが、生産性等の観点から20mm以下の面削とすることが好ましい。 [0040] なお、鋳塊表面とは、最終製品板であるアルミニウム合金板において、製缶した場合に外面にくる側の面である。ただし、最終製品板の両面において本発明の所望のMgの存在比を満たすようにする場合は、鋳塊の両面である。 面削の方法としては、エンドミル切削やダイヤモンドバイト切削等の切削法、表面を砥石等で削る研削法、バフ研磨等の研磨法等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。 [0041]<第4工程> 第4工程は、第3工程で面削された鋳塊を熱間圧延して圧延板を作製する工程である。 ここで、前記第4工程においては、前記第3工程で面削した鋳塊を再加熱することで、前記熱間圧延を、熱間圧延温度を450~520℃の条件で行うことが好ましい。 … [0045]<第5工程> 第5工程は、第4工程で作製された圧延板を冷間圧延してアルミニウム合金板を作製する工程である。 ここで、第5工程においては、冷間圧延間の中間焼鈍は行わない。 中間焼鈍を行うと、DI成形後にネック部の強度が高くなり、ネック成形時のシワの発生やフランジ部の割れ発生等、成形性が劣化する。また、工程が増えることで、コストアップになる。 [0046] また、冷間圧延は、冷間圧延時の冷間加工率を80~92%の条件下で行うことが好ましい。 冷間圧延時の冷間加工率を80%以上とすることで、アルミニウム合金板の強度が向上し、缶強度が向上する。一方、92%以下とすることで、成形時に45°耳の発達を抑え、フランジ部の寸法不良等を招きにくく、所定の缶寸法が得易くなる。 [0047] 以上説明した本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板は、図2に示すような従来の一例のボトル缶1(2ピースボトル缶または3ピースボトル缶)や、図3に示すような従来の一例のDI缶11等に好適に用いることができると共に、従来の種々のアルミニウム合金板の樹脂被覆材(不図示)にも好適な素材である。」 (3カ)「実施例 … [0053] ≪アルミニウム合金板の作製≫ 表1に示すような合金組成を備えたアルミニウム合金を溶解、鋳造し、次に均質化熱処理、面削、続いて熱間圧延を行い、板厚2.2mmのホットコイルを製造した。熱間圧延では、熱間圧延中の圧延ワークロールに形成されるコーティングの厚さをブラシロールで制御し、コーティングの厚さを1.7μmにして圧延した。さらに、このホットコイルに冷間圧延を施し、製缶用のアルミニウム合金板(板厚0.320mm)とした。ここで、面削量は5~20mmの間で適宜設定した。 また、均質化熱処理、熱間圧延における各条件については、表2、3に示すとおりである。また、表1~3において、本発明の構成を満たさないものについては、数値に下線を引いて示す。 [0054] [表1] [図:0001396283000004.jpg] [0055]≪アルミニウム合金板のMgの存在比≫ 次に、このようにして製造されたアルミニウム合金板のMgの存在比を調べた。 Mgの存在比は、アルミニウム合金板から深さ方向に、高周波グロー放電発光分光分析装置GD-OES(株式会社堀場製作所(HORIBA,Ltd.)製、JY-5000RF)にて元素分析を行うことにより測定した。分析においては、同装置により、パルスモード(周波数200Hz、デューティサイクル0.0625)でアルゴンスパッタリングして、アルミニウム合金板の主要組成である、Al、Si、Fe、Mn、Mgの各金属元素を深さ方向に定量分析(アトミックパーセント)を行った。得られたMgの深さ方向分布における、表面から20nmの範囲までのMg元素の存在量と、深さ1000~1020nmの20nmの範囲に存在するMg元素の存在量との比を求めた。すなわち、「(Mg濃度の深さ方向分布曲線における表面から20nmの範囲で曲線とX軸、Y軸に囲まれた面積)/(深さ1000~1020nmの20nmの範囲で深さ方向分布曲線とX軸に囲まれた面積)」を求めた。」 (3キ)「[0060] [表面状態] ネック成形したネック部を目視により観察し、年輪状の筋模様(フローマーク)の濃さを評価した。5点満点で、4点以上を合格とした。 前記の各試験結果を表2、3に示す。また、No.1およびNo.7のMg濃度分布のグラフ(深さ方向分布曲線)を図5A、図5Bに示す。 [0061][表2] [図:0001396283000005.jpg] 」 (3ク)「[図5A] [図:0001396283000006.jpg] [図5B] [図:0001396283000007.jpg] 」 (4)甲4の記載 甲4には、次の記載がある。 「(1)溶接用素材の作製方法 溶接用アルミニウム合金素材として、Mg含有量の異なるA5454-O材およびA5083-Oの2種類を作製した。母材はいずれも均質化処理,熱間圧延により板厚30mmの圧延板を作製し、最終焼鈍を行った。Table3.2.2-1に母材の化学組成を、Fig.3.2.2-l,2にそれぞれ5454母材および5083母材のミクロ組織を示す。母材の結晶粒は熱間圧延により伸ばされたパンケーキ状であった。」(180頁下から11~6行) 「(6)溶接部EPMA分析結果 Fig.3.3.2-27~30にEPMA(エレクトロンプローグ マイクロアナライザー)による母材部および溶接部のMg量の測定結果を示す。これより溶接部のMg量の低下はほとんど認められておらず、硬さ測定結果と対応していることが認められた。また母材中央部に見られるMg偏析部が電子ピーム溶接により解消されていることが認められた。」(187頁下から11~7行) 「 [図:0001396283000008.jpg] Fig.3.3.2-27 Analysis of Mg content of both 5454 base metal and RPEB weld metal by EPMA」(208頁)(当審訳:5454母材金属とRPEB溶接金属両方のEPMAを用いたMg含有量についての分析) 「 [図:0001396283000009.jpg] Fig. 3.3.2-29 Analysis of Mg content of both 5083 base metal and RPEB weld metal by EPMA」(209頁)(当審訳:5083母材金属とRPEB溶接金属両方のEPMAを用いたMg含有量についての分析) (5)甲5の記載、及び甲5に記載された発明 ア 甲5には「アルミニウムの連続鋳造」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (5ア)「【特許請求の範囲】 … 【請求項28】 アルミニウム合金の一組みの外側の層、及び 前記外側の層の間に位置決めされる前記アルミニウム合金の中央の層を含み、 前記外側の層及び前記中央の層は、一組みのロールの間における溶融したアルミニウム合金の組成物の連続鋳造によってストリップに生産されており、 前記溶融したアルミニウム合金は、初期濃度で共晶を形成する合金をつくる元素を含み、 前記中央の層における前記共晶を形成する合金をつくる元素の濃度は、各々の前記外側の層における前記共晶を形成する合金をつくる元素の濃度よりも少ない、アルミニウム合金のストリップ。 … 【請求項40】 アルミニウム合金の一組みの外側の層、及び 前記外側の層の間に位置決めされると共に球形の樹枝状結晶を含む前記アルミニウム合金の中央の層を含み、 前記外側の層及び前記中央の層は、一組みの回転するロールへ送り出される前記アルミニウム合金の組成物の溶融物の連続鋳造によって、ストリップに生産されてある、アルミニウム合金のストリップ。」 (5イ)「【0024】 (従来技術に従った及び本発明に従った水平の連続鋳造を包括的に描く)図1を参照して、本発明は、それぞれ矢印A1及びA2の向きに回転する一組みの逆転の冷却ロールR1及びR2を使用して、実施される。用語、水平によって、鋳造されたストリップが、水平の位置付けで、又は水平位置からプラス若しくはマイナス約30°の角度で生産されることを意味する。図3により詳細に示すように、セラミック材料から作ってもよい、供給チップTは、それぞれ、矢印A1及びA2の向きで回転するロールR1及びR2上へ直接、矢印Bの向きに溶融した金属Mを分布させる。供給チップTとそれぞれのロールR1及びR2の間のギャップG1及びG2を、できるだけ小さく維持して、溶融した金属が漏れ出すことを防止し、ロールR1及びR2に沿った雰囲気への溶融した金属の露出を最小にするが、チップT及びロールR1及びR2の間の接触を回避する。ギャップG1及びG2の適切な寸法は、約0.01インチ(0.25mm)である。ロールR1及びR2の中心線を通じた平面Lは、ロールニップNと呼ばれるロールR1及びR2の間に最小のクリアランスの領域を通過する。 【0025】 溶融した金属Mは、それぞれ領域2及び4で冷却されたロールR1及びR2と直接接触する。ロールR1及びR2との接触で、金属Mは、冷えて固化し始める。冷える金属は、ロールR1に隣接する固化した金属の上側の殻6及びロールR2に隣接する固化した金属の下側の殻8を生成する。殻6及び8の厚さは、金属MがニップNに向かって進むにつれて、増加する。固化した金属の大きい樹枝状結晶10(比例するように示してない)は、上側及び下側の殻6及び8の各々並びに溶融した金属Mの間の境界で生産される。大きい樹枝状結晶10は、破壊され、溶融した金属Mのより遅く移動する流れの中央部分12へ引きずられ、矢印C1及びC2の向きに運ばれる。流れの引きずる作用は、大きい樹枝状結晶10を、より小さい樹枝状結晶14(比例するように示してない)へさらに破壊することを引き起こし得る。領域16と呼ばれるニップNの上流の中央部分12において、金属Mは、半固体であり、固体の成分(固化した小さい樹枝状結晶14)及び溶融した金属の成分を含む。領域16における金属Mは、その中に小さい樹枝状結晶14の分散により、部分的に、柔らかな軟度を有する。ニップNの場所で、溶融した金属のいくらかは、矢印C1及びC2と反対の向きに後方へ押し込まれる。金属が、それがニップNの点を離れるとき、完全に固体であるようにニップNから上流に中央部分12における溶融した金属を押しつける一方で、ニップNにおけるロールR1及びR2の前方回転は、実質的に、金属の固体の部分(上側及び下側の殻6及び8並びに中央部分12における小さい樹枝状結晶14)のみを進ませる。ニップNの下流で、中央部分12は、上側の殻6及び下側の殻8の間に挟まれた小さい樹枝状結晶14を含有する固体の中央層18である。中央層18において、小さい樹枝状結晶14は、大きさにおいて約20乃至約50ミクロンであると共におおよそ球形の形状を有してもよい。 【0026】 上側及び下側の殻6及び8の三つの層並びに固化した中央層18は、固体の鋳造されたストリップ20を構成する。固体の中央層18は、ストリップ20の合計の厚さの約20乃至約30パーセントを構成する。小さい樹枝状結晶14の濃度は、流れの半固体の領域16におけるよりもストリップ20の固体の中央層18において高い。溶融したアルミニウム合金は、包晶を形成する合金をつくる元素及び共晶を形成する合金をつくる元素を含む初期濃度の合金をつくる元素を有する。アルミニウムとの包晶形成体である合金をつくる元素は、Ti、V、Zr、及びCrである。全ての他の合金をつくる元素は、Si、Fe、Ni、Zr、Mg、Cu、及びMnのような、アルミニウムとの共晶形成体である。アルミニウム合金の溶融物の固化の間に、樹枝状結晶は、典型的に、周囲の母溶融物よりも低い濃度の共晶形成体及びより高い濃度の包晶形成体を有する。このように、領域16において、ニップの上流における中央領域で、小さい樹枝状結晶を囲む溶融した金属が、いくらか、共晶形成体を富化させる一方で、小さい樹枝状結晶14は、部分的に、共晶形成体を枯渇させる。結果として、大きい占有率の樹枝状結晶を含有する、ストリップ20の固体の中央層18は、金属M、上側の殻6及び下側の殻8の各々において共晶形成体及び包晶形成体の濃度と比較して、共晶形成体を(典型的には、約5乃至約20重量%のような、約20重量パーセントまで)枯渇させ、包晶形成体を(典型的には、約5乃至約45重量パーセントのような、約45パーセントまでに)富化させる。」 (5ウ)「【0036】 [実施例] 表1に示す重量による百分率で存在する合金をつくる元素を有する溶融したアルミニウム合金を、上側のベルトが、ニップの下流で固化する金属に接触しなかった、熱シンクのベルト鋳造機上で連続して鋳造した。 【0037】 ここで報告する試験を、ロール鋳造機で行わなかった。しかしながら、工程を設計して、固化した金属を動作させることのない一組みのロール上への鋳造をシミュレーションした。 【0038】 【表1】 [図:0001396283000010.jpg] 様々なギャップの設定に関するロールのスピード対合金1及び2に加えられた単位幅当たりの力を、それぞれ図4及び5に線図で示す。全ての実例において、ロールによって加えられた力は、200ポンド/幅インチよりも小さかった。 【0039】 合金1のストリップ(0.09インチの厚さ)を、合金をつくる元素の分離に関して分析した。ストリップの厚さを通じた合金をつくる元素の濃度は、共晶を形成する元素(Si、Fe、Ni、及びZn)に関して図6における、及び包晶を形成する元素(Ti、V、及びZr)に関して図7における、線図で与えられる。包晶を形成する合金をつくる元素が、ストリップの中央部分で富化する一方で、共晶を形成する合金をつくる元素は、ストリップの中央部分で部分的に枯渇する。 … 【0042】 合金2のストリップ(0.1インチの厚さ)を、合金をつくる元素の分離に関して分析した。ストリップの厚さを通じた合金をつくる元素の濃度は、共晶を形成する元素(Mg、Mn、Cu、Fe、及びSi)に関して図10における、及び包晶を形成する元素(Ti、及びV)に関して図11における、線図で与えられる。包晶を形成する合金をつくる元素が、ストリップの中央部分で富化する一方で、共晶を形成する合金をつくる元素は、ストリップの中央部分で部分的に枯渇する。」 (5エ)「【図面の簡単な説明】 【図1】 溶融した金属の送り出しチップ及び一組みのロールを備えた鋳造機の一部分の概略である。 【図2】 … 【図3】 本発明に従って動作する溶融した金属の送り出しチップ及び図1に示すロールの拡大した断面の概略である。」 (5オ)「【図1】 [図:0001396283000011.jpg] 」 (5カ)「【図3】 [図:0001396283000012.jpg] 」 (当審注:甲5には【図3】は添付されていないため、甲5に係る国際出願の国際公開パンフレットのFIG.3を【図3】と読み替えた。) (5キ)「【図6】 [図:0001396283000013.jpg] 」 (5ク)「【図10】 [図:0001396283000014.jpg] 」 イ 甲5に記載された発明 (ア)上記(5イ)によれば、図1及びその部分拡大図である図3の鋳造機を用いることにより、チップTから供給された溶融した金属Mは、ロールニップNと呼ばれる最小のクリアランスの領域を有する一組のロールR1とR2と接触して冷却され固化することにより、上側の殻6と下側の殻8を生成し、それら殻に挟まれた中央層18には球形で小さい樹枝状結晶14が含まれる(【0024】、【0025】)。このようにして形成された上側の殻6、下側の殻8及び中央層18は、固体の鋳造されたストリップ20を構成する。 そして、上記溶融した金属Mは、Si、Fe、Ni、Zr、Mg、Cu、及びMnのような、アルミニウムとの共晶を形成する合金をつくる元素を初期濃度で含むアルミニウム合金であり、中央層18は、金属M、上側の殻6及び下側の殻8の各々における共晶形成体の濃度と比較して、共晶形成体が枯渇している(【0026】)。 (イ)上記(5ウ)によれば、【表1】の合金2の合金組成を有するアルミニウム合金から上記(ア)の鋳造機を用いて鋳造したストリップ20は、0.1インチの厚さであり、上記(5ク)の図10に示されるように、共晶を形成する元素(Mg、Mn、Cu、Fe、及びSi)の濃度がストリップ中央部分で部分的に枯渇していることを確認することができる。なお、ここで枯渇とは、共晶を形成する元素の濃度がその周囲よりも低いことを意味している。 (ウ)したがって、合金2から製造されたストリップ20に注目して、請求項28、40の記載にならうと、甲5には次の二つの「アルミニウム合金のストリップ」が記載されているものと認められる。 「アルミニウム合金の一組の外側の層6、8及び 前記外側の層の間に位置決めされる前記アルミニウム合金の中央の層18を含み、 前記外側の層6、8及び前記中央の層18は、一組のロールR1、R2の間における溶融したアルミニウム合金の組成物の連続鋳造によってストリップ20に生産されており、 前記溶融したアルミニウム合金は、初期濃度で共晶を形成する合金をつくる元素である、Mg:0.9重量%、Mn:0.9重量%、Cu:0.5重量%、Fe:0.45重量%、及びSi0.3重量%を含み、 前記中央の層18における前記共晶を形成する合金をつくる元素の濃度は、各々の前記外側の層6、8における前記共晶を形成する合金をつくる元素の濃度よりも少ない、厚さ0.1インチのアルミニウム合金のストリップ。」 (以下、「甲5発明」という。) 「アルミニウム合金の一組みの外側の層6、8及び 前記外側の層の間に位置決めされると共に球形の樹枝状結晶14を含む前記アルミニウム合金の中央の層18を含み、 前記外側の層6、8及び前記中央の層18は、一組の回転するロールR1、R2へ送り出される前記アルミニウム合金の組成物の溶融物の連続鋳造によって、ストリップ20に生産されてある、厚さ0.1インチのアルミニウム合金のストリップ。」 (以下、「甲5樹枝発明」という。) (6)甲6の記載 ア 甲6には「ボトムしわ性が良好なキャンボディ用アルミニウム合金板」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (6ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 Mg:0.8~1.5%(質量%、以下同じ)、Mn:0.7~1.5%、Cu:0.05~0.25%、Si:0.1~0.4%、Fe:0.2~0.6%を含有し、更にTi:0.005~0.05%,B:0.0001~0.001%を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金板で、最終冷間圧延のラストパスを120℃以上の高温で仕上げた最終素板の、r値の平均が0.75以上、かつ、r値の面内異方性Δrが-0.15から+0.05の範囲内、伸びが5%以上である事を特徴とするボトムしわ性が良好なキャンボディ用アルミニウム合金板。」 (6イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、ボトムしわ性に優れたキャンボディ用アルミニウム合金板に関するものである。」 (6ウ)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の目的はしごき成形性、フランジ成形性、缶体強度等の特性を損なう事なくボトムしわ性を向上させた缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法の提供することを目的とする。」 (6エ)「【0017】 次に特性について説明する。 r値の平均値を0.75以上としたのは、0.75未満ではボトムしわ性が悪化するからである。 r値の面内異方性Δrを-0.15から+0.05としたのは、このΔrは材料の異方性(耳率)と非常に大きな相関があり、Δrの絶対値が大きいほど絞りやネッキング加工時に耳を生じやすい。また、プラス側にはずれると0°位置の耳が極端に高くなるいわゆる2点耳となり、耳の上端部か切れてアルミ片がダイス内に混入し、しごき時に破胴の原因となる場合があるのでマイナス側より厳しい規制を必要とする。よってr値の面内異方性Δrは-0.15から+0.05とした。この範囲を外れるとしごき成形後のトリミングしろが増大したり、破胴の原因となるアルミ片がダイス内に混入したりしやすくなる。r値の制御のためには後述の製造工程、特に熱間仕上げ圧延の条件規制が重要である。」 (6オ)「【0020】 次に本願発明をなすための好ましい製造工程について説明する。 【0021】 均質化処理は過飽和に固溶した溶質元素を排出すると共に微細な析出物を整理し、熱延終了後に再結晶しやすくするため行なう。その範囲は580℃~620℃の温度範囲で4hr以上が好ましい。その理由は、580℃未満または4hr未満ではその効果が十分ではなく、620℃を超えると局所的に融解する部分が発生し、表面品質が低下するからである。 【0022】 熱間圧延工程は熱延板の結晶粒微細化と最終板のr値の制御に重要な工程であり、r値については立方体方位と圧延集合組織を適度に発達させる必要がある。 【0023】 熱間粗圧延の最終パスの前パスの圧下率を30%以下、最終パスの圧下率を40%以下とするのが好ましい。それぞれの圧下率を越えると熱間仕上げ圧延開始までの間に熱間粗圧延板の再結晶が進み粗圧延での歪みを仕上げ圧延に持ち込む量が少なくなり立方体方位が十分に成長せず、r値の平均値は高くてもΔrが-0.15よりマイナス側に外れてしまうためである。 【0024】 熱間粗圧延を施した後の熱間仕上げ圧延は3スタンド以上のタンデムで行なうのが望ましい。また、前述の立方体方位は圧延方向に長く引き伸ばされた立方体方位の結晶粒(キューブバンド)から核生成し成長するが、その際歪みをより蓄えた方がキューブバンドからの再結晶粒(立方体方位)の成長をより促進でき、結果としてより立方体方位の占める割合の大きい再結晶集合組織とすることができる。シングルミルの圧延機では歪みを多く蓄積できず立方体方位の成長が十分ではなくr値の平均値は高く出来てもΔrが-0.15よりマイナス側に外れてしまうためである。 【0025】 熱間仕上げ圧延の開始温度は400℃~450℃とすることが好ましい。その理由は400℃未満では後述の熱間仕上げ圧延終了温度の望ましい範囲に入れる事が工業上困難となり、450℃を超えると熱間粗圧延板の再結晶が進み粗圧延での歪みを仕上げ圧延に持ち込む量が少なくなり立方体方位が十分に成長せず、r値の平均値は高くてもΔrが-0.15よりマイナス側に外れてしまうためである。 【0026】 熱間仕上げ圧延の終了温度は320~340℃とすることが好ましい。その理由は320℃未満では熱延板を再結晶状態とすることが出来ないためであり、340℃を超えると表面性状が悪化する。尚、熱延板の再結晶率は95%以上でないと強度が高くなり、耳率が悪化する。そのためしごき成形性、ボトムしわ性が悪化する。 【0027】 熱間仕上げ圧延での総圧下量を90~93%とすることで、適度に立方体方位を形成することが出来る。90%未満では立方体方位の発達が不十分でΔrが悪化する。93%を超えると立方体方位が過度に発達し、r値の平均値が低下し、Δrもプラス側にはずれてしまうためである。 【0028】 熱間仕上げ圧延の最終パスでの歪み速度は立方体方位の発達とr値の平均値とΔrに影響するため、80~120sec-1と規定する。歪み速度が80sec-1未満では立方体方位の発達が不十分でΔrが悪化する。120sec-1を超えると立方体方位が過度に発達し、r値の平均値が低下し、Δrもプラス側にはずれてしまうためである。 【0029】 最終冷間圧延率を85~88%とするのが好ましい。それは、85%未満では最終板の強度が十分ではなく、缶体強度が低下する。88%を超えると素板強度が高くなりすぎ、しごき成形性が低下し、さらにボトムしわ性が低下するためである。」 (6カ)「【実施例】 【0031】 以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。 表1に示す合金成分を常法により溶解鋳造して厚さ500mmのスラブ(板状鋳塊)を得た。次にこのスラブを490mmの厚さに面削し、ついで均質化処理(600℃×4時間)とシングルリバースミルによる熱間粗圧延(開始温度480℃)を順に施し、ついで4スタンドのタンデム圧延機を用いて熱間仕上げ圧延を行なった。続いて常法により冷間圧延をして厚さ0.285mmの冷延板を得た。これに150℃で2時間の最終焼鈍を施して最終板とした。 【0032】 以上の工程について表2にまとめる。 【0033】 【表1】 [図:0001396283000015.jpg] 【0034】 【表2】 [図:0001396283000016.jpg] (当審注:【表2】は一部分のみ抜粋) 【0035】 このようにして得られた合金板について引張試験、耳率、r値、ボトムしわ性、しごき成形性、フランジ成形性、耐圧強度を測定した。各特性の測定・判定方法を以下に示す。 … 【0038】 r値は各方向のJIS5号試験片を作製し、これに引張方向と垂直にけがき線をいれ3%の引張歪みを加えた後の幅変化から計算した。 【0039】 ボトムしわ性:一次絞りカップを成形後、ボディメーカーにて再絞り、しごき加工を行なう際、しごきダイスをはずした状態で成形を行い再絞りカップを採取し、その再絞りカップのテーパー部の起伏を形状測定機にて測定し、その最大振幅にて評価した。振り幅200μm以下を○、200μmを超えたものを×とした。 … 【0043】 結果を表3にまとめた。 【0044】 【表3】 [図:0001396283000017.jpg] 」 (7)甲7の記載 ア 甲7には「成形加工用アルミニウム合金板およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (7ア)「【技術分野】 【0001】 この発明は、自動車ボディシートやそのほか各種自動車部品、各種機械器具、家電製品やその部品等の素材として、成形加工および塗装焼付を施して使用されるAl-Mg-Si系のアルミニウム合金板およびその製造方法に関するものであり、成形性、特にヘム曲げ性およびプレス加工性が良好であるとともに、塗装焼付後の強度が高く、かつ室温での経時変化が少ない成形加工用アルミニウム合金板およびその製造方法に関するものである。」 (7イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 前述のような自動車用ボディシート向けの時効性Al-Mg-Si系合金板についての従来の製造方法により得られた板では、最近の自動車用ボディシートに要求される特性を充分に満足させることは困難であった。 【0007】 すなわち、最近ではコストの一層の低減や自動車車体の軽量化等のために、自動車用ボディシートについてさらに薄肉化することが強く要求されており、そのため薄肉でも充分な強度が得られるように、一層の高強度化が求められると同時に、成形性、特にヘム曲げ性の改善が強く要求されているが、これらの性能をバランスよく満足させる点について従来の一般的な製造方法によって得られたAl-Mg-Si系合金板では不充分であった。特にヘム曲げ加工は、曲げ内径が1mm以下の180°曲げという過酷な曲げ加工であるため、良好なヘム曲げ性と強度とを両立させることが困難であるという問題があった。 … 【0013】 この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、曲げ加工性とプレス加工性とのバランスが優れていて、曲げ加工性とプレス加工性がともに良好であり、また曲げ異方性も小さく、さらには焼付硬化性が優れていて、塗装焼付時における強度上昇が大きく、しかも板製造後の室温での経時的な変化が少ない成形加工用アルミニウム合金板を提供するとともに、このように優れた性能を有する成形加工用アルミニウム合金板を、量産的規模で確実かつ安定して製造し得る方法を提供することを目的とするものである。」 (7ウ)「【0044】 そしてまたこの発明の成形加工用アルミニウム合金板においては、プレス加工性とヘム曲げ性で代表される曲げ加工性との良好なバランスをより一層安定的に得るため、面内塑性ひずみ異方性の指標としての製品板のランクフォード値(r値)の異方性(Δr値)を規定している。すなわち圧延方向と平行な方向のランクフォード値をr0、板面内において圧延方向に対し45°をなす方向のランクフォード値をr45、板面内において圧延方向に対し直交する方向のランクフォード値をr90として、次の(5)式により規定されるΔr値 Δr=(r0+r90)/2-r45 ・・・(5) が1.2未満であることを規定している。すなわちΔr<1.2であることが必要である。このようにΔr値<1.2を規定した理由は次の通りである。 【0045】 (5)式で表わされるΔr値は、塑性ひずみ値(r値)の板面内各方向でのばらつき、すなわち面内塑性ひずみ異方性を表わす指標であって、Δr値が大き過ぎれば、プレス加工などの深絞り時において板面内各方向での塑性変形に差が生じて、プレス加工性などが低下するおそれがあり、材料の特性バランス、特にプレス加工性とヘム曲げ性とのバランスにとっては好ましくない。」 (7エ)「【実施例】 【0065】 表1に示すこの発明の成分組成範囲内の合金記号A1~A4の合金について、それぞれ常法に従って溶製し、DC鋳造法によりスラブに鋳造し、得られたスラブに対して種々の条件で均質化処理を施した。均質化処理後は、一部のもの(製造番号2)については367℃まで冷却してから熱間圧延に供し、その他のものについては水冷により種々の冷却速度で200℃以下まで冷却してその後室温まで放冷し、その後2℃/hr以上の加熱速度で種々の温度に再加熱して、その温度で熱間圧延を開始した。熱間圧延では、スラブ厚(250mm以上)から、5mm(製造番号2、3)もしくは3mm(製造番号1、4~9)まで圧延した。またこの熱間圧延においては、中間板厚150~50mmの段階の代表板厚として100mm、60mmで材料温度の測定を行なうとともに、その板厚段階における熱間圧延開始からの温度降下量が150℃以内となるように制御し、さらに熱間圧延終了温度を測定した。熱間圧延終了後コイルに巻取り、その後、冷間圧延途中に中間焼鈍を施すことなく、1mmの板厚まで冷間圧延した。さらに一部のもの(製造番号7)については250℃×2時間保持の低温焼鈍を行なってから溶体化処理を行ない、その他のもの(製造番号1~6、8、9)については、上記の低温焼鈍を行なうことなく溶体化処理を行なった。溶体化処理は、加熱により種々の溶体化処理温度に到達した後、保持時間なしで直ちに100℃/min以上の冷却速度で種々の温度まで冷却(焼入れ)し、引き続いて種々の安定化処理を行なった。これらの製造プロセスの詳細な条件を表2、表3の製造番号1~9に示す。 … 【0067】 以上のようにして得られた各板について、室温に3ヶ月放置したのち、それぞれ2%ストレッチ後、170℃×20分の塗装焼付(ベーク)処理を施し、かつその焼付前の板について各方向に引張試験を行なって、各方向の加工硬化指数およびΔr値を調べるとともに、機械的強度として0.2%耐力値を測定した。また同じく焼付前の板について、板厚方向各位置における集合組織(結晶方位密度)を調べるとともに、結晶粒度を調べた。さらに塗装焼付後の板について各方向に引張試験を行なって0.2%耐力を調べるとともに、同じく塗装焼付後の板について、カップ絞り試験による耳率と、プレス成形性評価として角頭絞り高さを調べ、またヘム曲げ試験によるヘム曲げ加工性評価と、ポンチ張出し試験によるリジング・マーク発生評価を行なった。これらの結果を表4、表5に示す。 【0068】 各測定、試験の具体的手法を次に示す。 【0069】 引張試験(加工硬化指数n0、n45、n90、Δr値、耐力): 板の圧延方向に対し板面内0°、45°、90°の3方向にJIS5号引張試験片を採取し、それぞれについて引張試験に供した。そして0°方向の0.2%耐力値を調べるとともに、各方向について、伸びが10%となるときのn値(n0、n45、n90)を調べ、さらにランクフォード値(r値)として、各方向とも伸びが7.5%となるときのr値を求め、各方向のr値(r0、r45、r90)から前記(5)式に従ってΔr値を求めた。 … 【0076】 【表1】 [図:0001396283000018.jpg] 【0077】 【表2】 [図:0001396283000019.jpg] 【0078】 【表3】 [図:0001396283000020.jpg] 【0079】 【表4】 [図:0001396283000021.jpg] 」 (8)甲8の記載 甲8には、次の記載がある。 「 請求項1および請求項10に係る発明の外層および内層を備えるアルミニウム合金製品は、【0026】段落に記載された特許文献(米国特許第5,515,908号、第6,672,368号、および第7,125,612号)に開示された方法によって製造されるものでありますが、特に特許第6,672,368号(参考文献D)は、7~123メートル/分の速度で鋳造しております。本願の請求項1に係る発明は、鋳造速度が50フィート/分(15メートル/分)であり(【0087】【0088】段落参照。)であり、この構成とすることにより、(a)外層を形成する一対の外部領域と、外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域とからなる構成、(b)内部領域の共晶を形成する合金元素の濃度である第一濃度が、各外部領域の共晶を形成する合金元素の濃度である第二濃度より低い構成、または、(g)内部領域を構成する合金が、球状からなるデンドライト結晶で形成される構成、からなる本願のアルミニウム合金製品が構成され、アルミニウム合金製品の延性を低下させることなく強度を高めることが可能となったものであります。」(第4頁6~17行) (9)甲9の記載 甲9には、次の記載がある。 「 [図:0001396283000022.jpg] 」(第16頁) 3 申立理由1(甲1を主引例とする新規性・進歩性)について (1)本件発明1と甲1発明との対比 ア 本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の「いくつかの実施例では、アルミニウム合金製品は、アルミニウム合金条(aluminum alloy strip)である。いくつかの実施例では、アルミニウム合金製品は、OまたはT調質(テンパー)である場合がある。いくつかの実施例では、アルミニウム合金製品は、T4調質(テンパー)である場合がある。いくつかの実施例では、アルミニウム合金製品は、T4x調質(テンパー)である場合がある。いくつかの実施例では、アルミニウム合金製品は、T43調質(テンパー)である場合がある。」(【0068】)との記載によれば、本件発明1において、「アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品」とは、「アルミニウム合金条」そのものであるか、「アルミニウム合金条」を溶体化処理や冷間加工等を含む各種調質処理したものを意味しているものと認められる。 また、本件明細書には「ここで用いられる「条」(ストリップ:strip)の用語は、任意の適当な厚さからなり、一般的に、シートゲージ(sheet gauge)(0.006インチ(0.015センチ)~0.249インチ(0.632センチ))または薄板ゲージ(thin-plate gauge)(0.250インチ(0.635センチ)~0.400インチ(1.016センチ))からなり」とも記載されている(【0027】)。 そうすると、甲1発明の「アルミニウム合金の材料」は、「鋳造、均熱処理、熱延、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延、溶体化処理の順にて製造されたもの」であり、プレス成形により自動車用のパネル部品等とすることを意図したものであることを勘案すると、鋳造され圧延された板状の合金を溶体化処理により調質した材料であるといえるから、本件発明1の「アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品」に相当する。 イ 甲1発明の「rLは圧延面上の素材圧延方向のr値」、「rCは圧延面上の素材圧延方向と垂直な方向のr値」、「rXは圧延面上の素材圧延方向から45°回転した方向のr値」は、それぞれ、本件発明1の「r_Lは、アルミニウム合金製品の圧延方向(longitudinal direction)におけるr値」、「r_LTは、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して横断方向(transverse direction)におけるr値」、「r_45は、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して45度方向(45 degree direction)におけるr値」に相当する。 ウ 上記イの検討を踏まえると、甲1発明の「Δr=(rL+rC-2rX)/2」は、本件発明1の「デルタr値」である「絶対値 [(r_L + r_LT -2*r_45)/2]」において、絶対値を取る前の「(r_L + r_LT -2*r_45)/2」に相当しており、したがって、甲1発明の「Δrは0.08である」ことは、本件発明1の「アルミニウム合金製品は、0から0.10のデルタr値(Δr)を持」つことに相当する。 エ 甲1発明の「アルミニウム合金の材料」に含有される「Mg」及び「Si」は、本件明細書の段落【0033】の「ここで用いられる「共晶を形成する合金元素(alloying elements)」の用語は、Fe、Si、Ni、Znおよびこれに類するものを含み」との記載、甲第5号証の段落【0026】「全ての他の合金をつくる元素は、Si、Fe、Ni、Zr、Mg、Cu、及びMnのような、アルミニウムとの共晶形成体である。」との記載によれば、本件発明1の「共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)」に相当する。 したがって、甲1発明の「アルミニウム合金」が「Mgを0.89質量%、Siを0.95質量%含有する」ことと、本件発明1の「内部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第一濃度からなるとともに、外部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第二濃度からなり、共晶を形成する合金元素の濃度である第一濃度は、共晶を形成する合金元素の濃度である第二濃度より低」いことは、アルミニウム合金製品が、共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)を含有する点で共通している。 オ 以上によれば、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点1) 「アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品が: 共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)を含有し、 アルミニウム合金製品は、0から0.10のデルタr値(Δr)を持ち; デルタr値は以下のように計算されるものであり: 絶対値 [(r_L + r_LT -2*r_45)/2] その中で、r_Lは、アルミニウム合金製品の圧延方向(longitudinal direction)におけるr値であり; その中で、r_LTは、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して横断方向(transverse direction)におけるr値であり;そして、 その中で、r_45は、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して45度方向(45 degree direction)におけるr値である、 構成からなるアルミニウム合金製品。」の点。 (相違点1) 「アルミニウム合金製品」が、本件発明1では「外層を形成する一対の外部領域と、該外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域と、からなり;内部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第一濃度からなるとともに、外部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第二濃度からなり、共晶を形成する合金元素の濃度である第一濃度は、共晶を形成する合金元素の濃度である第二濃度より低」いものであるのに対して、甲1発明では、共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)を含む点で共通するものの、アルミニウム合金製品の内部における濃度分布が不明であり、したがって、上記のような一対の外部領域とその間に位置する内部領域からなるものであるか不明である点。 (2)相違点1についての検討 ア 甲1発明のアルミニウム合金材料の内部におけるMgとSiの濃度分布について、甲3の記載を参照して検討する。 イ 甲3において解決しようとする課題は、DI加工後あるいはネック成形後の缶胴の表面に年輪状の褐色ないしは黒色の筋が見られない、表面品質に優れた包装容器用アルミニウム合金板を提供することである([0010])。上記課題について、従来、缶胴の表面からMgおよびその酸化物の除去が有効であるとされていたが、単に、均熱後に面削を行うだけであったので、その後に行う熱間圧延のための加熱および熱延中に、スラブおよび熱延板表面にMgの酸化物が形成され、表面品質が低下してしまうという問題があった。甲3に記載された発明は、当該問題を解決するために、均熱時間を従来よりも長く保持して、板表面へのMgの拡散を促進させ、その後、表面に濃化したMg層を面削により除去したものであり、このようにすることによって、板表面のMg濃度が低くなり、熱延後も板表面を良好にすることができる([0011])。 ウ そこで、甲3に記載の実施例のうち、[表1]の合金組成A1を備えたアルミニウム合金に対して、[表2]のNo.1の熱処理条件を採用したアルミニウム合金板(以下、「合金板1」という。)に注目する。 合金板1は、Si:0.28%、Fe:0.45%、Cu:0.20%、Mn:1.15%、Mg:1.20%、Al:Rem.(当審注:remainder又はremainsの短縮形であり、残余を意味すると解される)の組成のアルミニウム合金を、溶解、鋳造し、次に均質化熱処理、面削、続いて熱間圧延を行い、板厚2.2mmのホットコイルを製造し、さらに冷間圧延を施して板厚0.320mmの製缶用アルミニウム合金板としたものであり([0053])、ここで、均質化熱処理の均熱温度は610℃、均熱保持時間は24hであり([表2])、面削量は5~20mmである([0053])。なお、[0045]によれば、上記冷間圧延において中間焼鈍は行われない。 エ このように製造された板厚0.320mmの合金1について、深さ方向のMg濃度分布のグラフが図5Aに示されており([0060])、表面から20nm(0.02μm)の範囲にはMgの濃度が高い領域があることが見て取れる。なお、合金組成がA2で、熱処理条件がNo.7(均熱保持時間が6hと短い)である合金板(以下「合金板7」という。)の同グラフが図5Bに示されており([0060])、表面から20nmの範囲にMgの濃度が高い領域があるのは基板1と同様であるが、[表2]の「Mgの存在比」([0055])がNo.1は4.7であるのに対してNo.7は5.6であることから、Mgの存在量は合金板2の方が合金板1より多いことがわかる。 つまり、上記イに、均熱後に面削を行うことによって表面からMgとその酸化物が除去されると記載されていることも勘案すると、Mgを含有するアルミニウム合金板において、面削によって当該合金板表面を削除して表面のMgを除去しても、当該面削後に熱処理を行うと当該合金板表面にはMgの濃度の高い層が形成されるものと認められる。また、面削が行われない場合には合金板1、7よりも高濃度のMgが合金板表面に存在することは明らかである。 オ 上記エの検討を踏まえて、甲1発明のアルミニウム合金材料の内部におけるMg及びSiの濃度分布がどのようになっているか検討する。 まず、甲1発明は合金元素としてMgとSiのみが含まれているのに対して、合金板1、7は合金元素としてMgとSi以外にFe、Cu、Mnが含まれているものである。また、甲1発明の製造工程は、鋳造、均熱処理、熱延、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延、溶体化処理をこの順に行うものであるのに対して、合金板1、7の製造工程は、溶解、鋳造、均質化熱処理、面削、熱間圧延、冷間圧延(中間焼鈍なし)をこの順に行うものである。 そうすると、甲1発明と合金板1、7はいずれも、Mgを含有するアルミニウム合金であって、均熱処理(均質化熱処理)後に、面削の有無の違いはあるが、熱延(熱間圧延)等の熱処理を行うものであるから、甲1発明においても、合金板1、7と同様に材料表面にMgの高濃度領域が形成されている可能性がある。 しかしながら、甲1発明と合金板1、7は、MgとSi以外の合金元素の含有の有無の点で相違しているし、熱処理条件が同じともいえないので、これら組成の違いと熱処理条件の違いによって、金属組織の生成や金属間組成物の析出に伴う合金元素の挙動が同じになるとは限らないので、甲1発明が合金板1、7と同様のMgの分布になると断定することができない。 また、仮に、甲1発明の材料表面にMgの高濃度領域が形成されているとしても、アルミニウム合金における熱処理後のSiの濃度分布について開示した文献は提示されておらず、SiについてもMgと同様に材料表面に高濃度領域が形成されているか不明であるから、甲1発明の材料表面にSiとMgの合計濃度が高い領域が存在し、当該合計濃度が高い外部領域と、当該外部領域の間に位置する当該合計濃度が低い内部領域とからなっているということはできない。 カ そうすると、甲3の記載事項を勘案しても、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。 また、甲1発明において、「外層を形成する一対の外部領域と、該外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域と、からなり;内部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第一濃度からなるとともに、外部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第二濃度からなり、共晶を形成する合金元素の濃度である第一濃度は、共晶を形成する合金元素の濃度である第二濃度より低」いものとすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の特定事項を備えることを動機づける記載を甲1において見いだすことができない。 キ なお、相違点1に関して、申立人は異議申立書の第27頁の下から4~2行において「DC鋳造によって作成された鋳塊の表面には、鋳塊内部に比べて合金元素が濃縮された偏析層が形成されることが当業者における技術常識である。」と主張しているが、そのような技術常識を示す文献は提示されていないため上記主張を採用することができない。 ク 以上から、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件発明2~9について 本件発明1を直接又は間接的に引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2~3、5~6も、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明1を直接又は間接的に引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2~9も、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)小括 以上のとおり、本件発明1~3、5~6は甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明1~9は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、申立理由1は採用できない。 4 申立理由2(甲5を主引例とする新規性・進歩性)について (1)本件発明1と甲5発明との対比 ア 本件明細書の段落【0068】の「いくつかの実施例では、アルミニウム合金製品は、アルミニウム合金条(aluminum alloy strip)である。いくつかの実施例では、アルミニウム合金製品は、OまたはT調質(テンパー)である場合がある。いくつかの実施例では、アルミニウム合金製品は、T4調質(テンパー)である場合がある。いくつかの実施例では、アルミニウム合金製品は、T4x調質(テンパー)である場合がある。いくつかの実施例では、アルミニウム合金製品は、T43調質(テンパー)である場合がある。」との記載によれば、本件発明1において、「アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品」とは、「アルミニウム合金条」を溶体化処理や冷間加工等を含む各種調質処理したもの以外に、調質処理する前の「アルミニウム合金条」そのものも意味していると認められる。 また、本件明細書の【0027】には「ここで用いられる「条」(ストリップ:strip)の用語は、任意の適当な厚さからなり、一般的に、シートゲージ(sheet gauge)(0.006インチ(0.015センチ)~0.249インチ(0.632センチ))または薄板ゲージ(thin-plate gauge)(0.250インチ(0.635センチ)~0.400インチ(1.016センチ))からなり」とも記載されている。 そうすると、甲5発明の「アルミニウム合金のストリップ」は、連続鋳造によって形成された板状で、何ら調質されていない厚さ0.1インチのストリップであるから、本件発明1の「アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品」に相当する。 イ 甲5発明の「アルミニウム合金の一組の外側の層6、8」及び「前記外側の層の間に位置決めされる前記アルミニウム合金の中央の層18」は、それぞれ、本件発明1の「外層を形成する一対の外部領域」及び「該外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域」に相当する。 ウ 甲5発明の「中央の層18における前記共晶を形成する合金をつくる元素の濃度は、各々の前記外側の層6、8における前記共晶を形成する合金をつくる元素の濃度よりも少ない」ことは、本件発明1の「内部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第一濃度からなるとともに、外部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第二濃度からなり、共晶を形成する合金元素の濃度である第一濃度は、共晶を形成する合金元素の濃度である第二濃度より低」いことに相当する。 エ 以上によれば、本件発明1と甲5発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品が: 外層を形成する一対の外部領域と、 該外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域と、からなり; 内部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第一濃度からなるとともに、外部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第二濃度からなり、共晶を形成する合金元素の濃度である第一濃度は、共晶を形成する合金元素の濃度である第二濃度より低い; 構成からなるアルミニウム合金製品。 (相違点2) 「絶対値 [(r_L + r_LT -2*r_45)/2] その中で、r_Lは、アルミニウム合金製品の圧延方向(longitudinal direction)におけるr値であり; その中で、r_LTは、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して横断方向(transverse direction)におけるr値であり;そして、 その中で、r_45は、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して45度方向(45 degree direction)におけるr値である」のように計算される「デルタr値(Δr)」が、本件発明1では「0から0.10」であるのに対して、甲5発明では測定されておらず不明である点。 (2)相違点2についての検討 ア 甲1には、アルミニウム合金のプレス成形において、金型表面形状に比べて波打った状態になること、すなわちボディしわの発生を抑制するために、幅縮みが容易となるようにr値を大きくすること、また、r値の異方性差がないこと、すなわちΔrを小さくすることが重要であり効果的であることが記載されている(【0010】)。 イ 甲6には、キャンボディ用アルミニウム合金板において、フランジ成形性、缶体強度等の特性を損なう事なくボトムしわ性を向上させることを目的として、ボトムしわ性が悪化しないようにr値の平均値を0.75以上と大きくするとともに、絞りやネッキング加工時に耳を生じないように、r値の面内異方性Δrを-0.15から+0.05と小さくすることが記載されている(【0005】、【0017】)。 ウ 甲7には、曲げ加工性とプレス加工性とのバランスが優れていて、曲げ加工性とプレス加工性がともに良好である成形加工用アルミニウム合金板を提供することを目的として、プレス加工などの深絞り時において板面内各方向での塑性変形に差が生じて、プレス加工性などが低下しないように、Δr<1.2とすることが記載されている(【0013】、【0044】、【0045】)。 エ 以上、甲1、甲6、甲7の記載を踏まえると、アルミニウム合金板において、プレス成形性を高めるため、具体的には、塑性変形に異方性を生じて耳が発生したり、しわが発生したりすることを抑制することを目的として、Δrを小さくすることは当業者にとっての技術常識と認められる。 オ 一方、甲5には、甲5発明のストリップの具体的な用途については記載されておらず、プレス成形するものであるとはいえないため、甲5発明にプレス成形性を高めるとの課題が存在しているとはいえない。したがって、甲5発明のストリップにおいて、プレス成形性を高めるという動機が存在するとはいえないから、甲1、甲6、甲7に記載されたΔrを小さくするという手段を採用することが当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。 カ また、仮に、甲5発明のストリップの厚さが0.1インチ(約2.5mm)であるので、熱間圧延や冷間圧延によって適当な厚さとしたうえでプレス成形用のアルミ合金板として使用可能であることから、甲5発明のストリップにおいて、プレス時の成形性を高めるという課題が存在するものとして、甲5発明において、プレス時の成形性を高めるために、デルタr値を0.1以下となしうるかについて、甲1、甲6、甲7の記載を参照してさらに検討する。 (ア)甲1のアルミニウム合金は、上記アに記載したとおり、Δrを小さくするという課題の下に製造されたものであり、甲1の【表1】には、いろいろな種類のアルミニウム合金(A~M)を用いた材料において、どの程度小さいΔrのものを製造できるかについて示されているところ、甲5発明と同じ組成の材料は記載されておらず、合金元素の組み合わせが甲5発明と最も近い材料はNo.D(Mg,Si,Cu,Mn)とNo.F(Mg,Si,Mn,Fe)であり、No.DのΔrは「0.14」であることが、No.FのΔrは「0.13」であることが記載されているのみであり、これら材料D、FのΔrを0.1以下にできることは記載されていない。また、【表1】の13種類の材料中、最も小さいΔrはNo.Bの0.08であって0.1よりも小さい唯一の材料であるが、この材料BはMgとSiのみを含有するのみであり、合金元素の種類が大きく異なる甲5発明をこの材料Bと同様に0.1以下のΔrとなし得るか不明である。 (イ)甲6のキャンボディ用アルミニウム合金板は、上記イに記載したとおり、ボトムしわ性が悪化しないようにr値の平均値を0.75以上と大きくするとともに、絞りやネッキング加工時に耳を生じないように、r値の面内異方性Δrを-0.15から+0.05と小さくしたものである。甲6の【表1】~【表3】には、いろいろな種類のアルミニウム合金(A~L)を用いた材料において、どの程度小さいΔrのものを製造できるかについて示されているところ、甲5発明と同じ組成の合金は記載されておらず、合金元素の組み合わせが甲5発明と最も近い合金は合金A(Si:0.32%,Fe:0.45%,Cu:0.20%,Mn:0.95%,Mg:1.07%,Ti:0.03%,B:0.0002%)であり、合金Aを用いて表2のNo.1の製造条件によって製造されたNo.1の合金板のΔrが「-0.07」であるから、本件発明のデルタr値が0.10以下となることが記載されているが、TiとBを含有する点で甲5発明の組成と相違しているため、合金元素の種類が異なる甲5発明をこの合金Aと同様に0.1以下のデルタr値となし得るか不明である。 なお、合金Aとは含有合金元素が同じであるが組成比がわずかに異なる合金Bを用いて製造条件No.3によって製造されたNo.3の合金板のΔrが「-0.14」となっており、デルタr値は0.1を超えてしまうことから、わずかな組成の変更によってデルタr値が変化することが理解される。 (ウ)甲7の成形加工用アルミニウム合金板は、上記ウに記載したとおり、プレス加工などの深絞り時において板面内各方向での塑性変形に差が生じて、プレス加工性などが低下しないように、Δr<1.2としたものである。甲7の表1~表4には、いろいろな種類のアルミニウム合金(A1~A4)を用いた材料において、どの程度小さいΔrのものを製造できるかについて示されているところ、甲5発明と同じ組成の合金は記載されておらず、合金A4(Mg:0.68%,Si:0.85%,Mn:0.07%,Fe:0.21%,Zn:0.21%,Zr:0.01%,V:0.01%,Ti:0.03%,B:0.0005%)を用いて表2、表3の製造番号6によって製造された合金板のΔr値が「0.05」であるから、本件発明のデルタr値が0.10以下となることが記載されているが、合金元素としてZn、Zr、V、TiとBを含有する点で甲5発明の組成と相違しているため、合金元素の種類が異なる甲5発明をこの合金A4と同様に0.1以下のデルタr値となし得るか不明である。 なお、上記製造番号6の合金板以外では、Δr値が0.1以下となる例は存在しておらず、製造番号6の合金板から合金組成や製造条件が変化した場合に、必ずデルタr値を0.1以下にできるとはいえない。 (エ)したがって、甲5発明において、仮に、プレス成形性を高めるとの課題が存在するとしても、当該課題を解決するために、甲1、甲6、甲7の記載を参照することによって、Δr値を「0から0.10」とすることが当業者にとって容易になし得たことであるということはできない。 (3)小括 以上から、本件発明1は、甲5に記載された発明と甲1、6、7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明2~9について 本件発明1を直接又は間接的に引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2~9も、本件発明1と同様の理由で、甲5に記載された発明と甲1、6、7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)本件発明10について ア 本件発明10と甲5樹枝発明とを対比する。 甲5樹枝発明の「球形の樹枝状結晶14」は、本件発明10の「球状からなるデンドライト結晶(globular dendrites)」に相当する。その他の対比は、上記(1)と同様にできるから、本件発明10と甲5樹枝発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品が: 外層を形成する一対の外部領域と、該外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域と、からなり; 内部領域は、合金が、球状からなるデンドライト結晶(globular dendrites)で構成される; 構成からなるアルミニウム合金製品。 (相違点3) 「絶対値 [(r_L + r_LT -2*r_45)/2] その中で、r_Lは、アルミニウム合金製品の圧延方向(longitudinal direction)におけるr値であり; その中で、r_LTは、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して横断方向(transverse direction)におけるr値であり;そして、 その中で、r_45は、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して45度方向(45 degree direction)におけるr値である」のように計算される「デルタr値(Δr)」が、本件発明10では「0から0.10」であるのに対して、甲5樹枝発明では測定されておらず不明である点。 イ 相違点3は相違点2と全く同じであるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明10は、甲5に記載された発明と甲1、6、7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明11~18について 本件発明10を直接又は間接的に引用することによって本件発明10の特定事項の全てを備える本件発明11~18も、本件発明10と同様の理由で、甲5に記載された発明と甲1、6、7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)小括 以上のとおり、本件発明1~18は、甲5に記載された発明と甲1、6、7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由2は採用できない。 5 申立理由4(サポート要件)について (1)本件明細書には以下の記載がある。 ア 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 改善されたアルミニウム合金製品を提供する。」 イ「【0021】 開示されたそれらの利点と改善の中で、本発明における目的と利点は、以下の説明より明らかになるであろう。本発明の詳細な実施形態は、ここに開示される;ただし、開示された実施例は、単にさまざまな形で具体化され得る発明の例示であることを理解すべきである。また、それぞれの例は、本発明の様々な実施例に関連して与えられるものであり、説明に役立つことを目的としているものであり、限定するものではない。 … 【0024】 ここで用いられる「デルタr値」は、次の式に基づいて計算される: 絶対値 [(r_L + r_LT -2*r_45)/2] その中で、r_Lは、アルミニウム合金製品の圧延方向におけるr値である。 その中で、r_LTは、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して横断方向におけるr値である。そして、 その中で、r_45は、アルミニウム合金製品の前記圧延方向に対して45度方向におけるr値である。 【0025】 ここで用いられる「r値」は、方程式「r値=εw/εt」で定義される、塑性ひずみ比(plastic strain ratio)、または真幅ひずみと真厚ひずみの比(the ratio of the true width strain to the true thickness strain)である。r値は、伸縮計を用いて縦(longitudinal)ひずみを測定する間、引張試験中に幅ひずみデータを収集する伸縮計を用いて測定される。真塑性長さおよび幅ひずみ(The true plastic length and width strains)はその際に計算され、厚ひずみは一定の想定値(量)から決定される。r値は、その後、引張試験によって得られた真塑性幅ひずみ対真塑性厚ひずみをプロットした傾きとして計算される。」 ウ「【0069】 いくつかの実施例では、本件発明によるアルミニウム合金製品は、以下の方法で製造され得る:(i)原料として連続鋳造したアルミニウム合金条(continuously-cast aluminum alloy strip)を準備する;(ii)少なくとも一のスタンドを経由させ、任意的に最終製品ゲージへ、インライン(in-line)で、要求される厚さまで該原料を熱間または温間圧延する、(iii)原料を冷間圧延(cold rolling)する;(iv)要求される合金および調質に依拠して、インラインまたはオフライン(offline)で原料を固溶化熱処理する(solution heat-treating);そして(v)原料を焼き入れ(quenching)した後、張力を平準化して巻き取ることになる。いくつかの実施例では、アルミニウム合金製品は、上で詳述した工程(i)-(v)の組み合わせによって製造され得る。」 エ「 [図:0001396283000023.jpg] 」 オ「 [図:0001396283000024.jpg] [図:0001396283000025.jpg] 」 (2)上記(1)アには、本件発明が解決しようとする課題について、「改善されたアルミニウム合金製品を提供する」ことであると記載されており、アルミニウム合金製品の何を改善するかについて、具体的な記載は認められないが、上記(1)イには、「本発明における目的」は「以下の説明より明らかになるであろう」と記載されており、発明の詳細な説明の記載から把握すべきであると説明されている。そこで、以下、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明が解決しようとする課題とその解決手段について検討する。 (3)上記(1)ウには、本件発明のアルミニウム合金製品の実施例は、(i)原料として連続鋳造したアルミニウム合金条を準備し、(ii)要求される厚さまで該原料を熱間または温間圧延し、(iii)原料を冷間圧延し、(iv)固溶化熱処理し、(v)原料を焼き入れし、巻き取ること、からなる製造方法により製造されることが記載されている(【0069】)。そして、【表1】の各種合金組成のアルミニウム合金を用いて、上記製造方法にしたがって製造することにより、【表4】の例1~10と【表5】の比較例1~7のアルミニウム合金製品が得られており、例1~10の「デルタr値」が0.01~0.06であるのに対して、比較例1~7の「デルタr値」が0.24~0.37であるから、例1~10は比較例1~7と比較して、デルタr値が改善されているものであることが理解される。そして、例1~10のデルタr値が0.01~0.06であることは、本件発明1で特定された「0から0.10のデルタr値(Δr)を持」つことに該当している。 (4)上記(1)イには、「r値」及び「デルタr値」の定義と算出方法が記載されているだけで、その技術的意義については特に記載されていないが、甲1には、アルミニウム合金のプレス成形において、金型表面形状に比べて波打った状態になること、すなわちボディしわの発生を抑制するために、幅縮みが容易となるようにr値を大きくすること及びΔrを小さくすることが重要であり効果的であると記載されている(【0010】)。また、甲6には、絞りやネッキング加工時に耳を生じないように、r値の面内異方性Δrを-0.15から+0.05とすることが記載されている(【0017】)。また、甲7には、プレス加工などの深絞り時において板面内各方向での塑性変形に差が生じて、プレス加工性などが低下しないように、Δr<1.2とすることが記載されている(【0044】)。 以上の甲号証の記載を踏まえると、板状のアルミニウム合金製品をプレス成形するにあたり、ボディしわの発生を抑制したり、絞りやネッキング加工時に耳が生じることや板面内各方向での塑性変形に差が生じることを抑制したりするため、すなわち、プレス成形性を改善するためにデルタrを小さくすることは、当業者にとって周知の技術事項であるといえる。 (5)そうすると、本件発明が解決しようとする課題とは、プレス成形性を改善したアルミニウム合金製品を提供することであるということができ、当該課題を解決する手段とは、連続鋳造法で準備されたアルミニウム合金条を原料としたアルミニウム合金製品であって、そのデルタr値を0~0.10とすることであるものと認められる。 (6)そして、本件発明1において、「アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品が:外層を形成する一対の外部領域と、該外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域と、からなり;内部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第一濃度からなるとともに、外部領域が共晶(eutectic)を形成する合金元素(alloying elements)の濃度である第二濃度からなり、共晶を形成する合金元素の濃度である第一濃度は、共晶を形成する合金元素の濃度である第二濃度より低」いことは、「連続鋳造法で準備されたアルミニウム合金条を原料としたアルミニウム合金製品」であることを意味しており、また、「アルミニウム合金製品は、0から0.10のデルタr値(Δr)を持」つことも特定されているから、本件発明1は上記(5)で検討した、本件発明の課題を解決するための手段の全てを備えているものと認められる。また、本件発明1を引用する本件発明2~9についても同様である。 (7)また、本件発明10において、「アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品が:外層を形成する一対の外部領域と、該外部領域の間に位置する内層を形成する内部領域と、からなり;内部領域は、合金が、球状からなるデンドライト結晶(globular dendrites)で構成され」ることは、「連続鋳造法で準備されたアルミニウム合金条を原料としたアルミニウム合金製品」であることを意味しており、また、「アルミニウム合金製品は、0から0.10のデルタr値(Δr)を持」つことも特定されているから、本件発明10は上記(5)で検討した、本件発明の課題を解決するための手段の全てを備えているものと認められる。また、本件発明10を引用する本件発明11~18についても同様である。 (8)なお、申立人は申立理由4において、本件発明が解決しようとする課題を「アルミニウム合金製品の延性を低下させることなく強度を高める」と主張しているが、この主張は本件明細書の記載に基づくものではないので採用できない。 また、申立理由4で指摘された(1)外部領域及び内部領域の厚みが特定されていないこと、(2)外部領域及び内部領域における共晶を形成する合金元素の濃度の大小関係のみ特定され、その具体的な差や各領域における合金元素の分布の態様については何ら特定されていないこと、(3)アルミニウム合金製品中のMgの濃度が特定されていないこと、によって、仮に、デルタr値が0.10よりも大きくなり、プレス成形性を改善したものとはいえないものとなってしまう場合には、そのような発明は、「0から0.10のデルタr値を持」つようなアルミニウム合金製品ではなく、本件発明の技術的範囲から排除されることになるので、本件発明がサポート要件に適合していない理由とはならない。 (9)小括 以上の検討から、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものであるから、申立理由4は採用できない。 6 申立理由5(明確性)について (1)申立理由5の(1)について 本件発明1~9において、「原料」である「アルミニウム合金条」の製造方法について特定されていないので、「アルミニウム合金条」が、本件明細書の段落【0026】、【0069】で言及された連続鋳造ではなく、DC鋳造によって作成されたものであっても、本件発明1の特定事項を備えるものであれば、本件発明1の技術的範囲に含まれることは明らかである。 したがって、本件発明1~9において、「原料」である「アルミニウム合金条」の製造方法についての特定がされていないことは、本件発明1が不明確であることの理由とはならない。 (2)申立理由5の(2)について 本件発明1~18において、アルミニウム合金製品の厚さが明示的には特定されていないけれども、本件発明1、10は、いずれも「アルミニウム合金条を原料とする板状のアルミニウム合金製品」であることが特定されており、「条」については、本件明細書に「ここで用いられる「条」(ストリップ:strip)の用語は、任意の適当な厚さからなり、一般的に、シートゲージ(sheet gauge)(0.006インチ(0.015センチ)~0.249インチ(0.632センチ))または薄板ゲージ(thin-plate gauge)(0.250インチ(0.635センチ)~0.400インチ(1.016センチ))からなり、すなわち、0.006インチ(0.015センチ)~0.400インチ(1.016センチ)の範囲の厚さを有する。」(【0027】)と記載されている。 そうすると、本件発明のアルミニウム合金製品は、その原料であるアルミニウム合金条の厚さが最大でも0.400インチ(1.016センチ)であり、その後の調質で行われる圧延工程によってさらに薄い厚さとなるから、r値やデルタr値の測定ができないような厚い厚さのものが含まれないことは明らかである。 また、別の言い方をすれば、Δrが特定されるということは、プレス成形における塑性変形の異方性が少ないという技術的意味を有しており、プレス成形が可能であるような厚さのアルミニウム合金製品を対象としていることは明らかであるから、通常の方法でΔrの値が得られず、プレス成形が実施できないような極めて厚い厚さのアルミニウム合金製品は、本件発明のアルミニウム合金製品には該当しないともいえる。 したがって、本件発明において、アルミニウム合金製品の板の厚さが特定されていないためにデルタr値の範囲が不明確であるとはいえない。 (3)小括 以上のとおり、本件発明1~18について、特許請求の範囲の記載に不明確といえる点はないから、申立理由5は採用できない。 第5 結び 以上のとおりであるから、当審から通知した取消理由と、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~18に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700505

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  • 2022-700561異議申立 / 2022-12-20 / 維持Fe-Ni基合金
    共通の審決分類: 113・C22C、121・C22C、536・C22C、537・C22C

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