特許異議申立
2021-700424
集電体、電極シート及び電気化学装置
- 審判番号
- 2021-700424
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-054247外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6781788
- 請求日
- 2021年04月30日
- 審決日
- 2022年03月25日
- 公報発行日
- 2022年06月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
- 【権利者代理人】松本 征二
- 【異議申立人】ジュネスプロパティーズ 株式会社
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6781788号発明「集電体、電極シート及び電気化学装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6781788号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第6781788号の請求項1、4~14に係る特許を維持する。
特許第6781788号の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6781788号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成31年 3月22日(パリ条約による優先権主張2018年 9月17日 中国(CN))の出願(特願2019-54247号。以下、「本願」という。)であって、令和2年10月20日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月 4日にその特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、令和3年 4月30日付けで、特許異議申立人ジュネスプロパティーズ株式会社(以下、「申立人」という。)により、請求項1~14(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、同年 9月 6日付けで取消理由が通知され、同年12月 9日に特許権者により意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。なお、本件訂正請求について、期間を指定して申立人に意見を求めたが、意見書の提出はなかった。
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、令和3年12月 9日付けの訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1において、
本件訂正前の
「自体の厚さ方向に沿って、対向する2つの面を含む支持層と、
前記支持層の2つの面のうちの少なくとも一方に設けられた導電層と、
を備え、
前記支持層は、高分子材料及び高分子系複合材料のうちの1種類又は複
数の種類である支材料を含み、前記支持層の光透過率Tは、0≦T≦98
%を満たしており、
前記支持層には着色剤が含有されていることを特徴とする、集電体。」を
「自体の厚さ方向に沿って、対向する2つの面を含む支持層と、
前記支持層の2つの面のうちの少なくとも一方に設けられた導電層と、
を備え、
前記支持層は、高分子材料及び高分子系複合材料のうちの1種類又は複
数の種類である支持材料を含み、前記支持層の光透過率Tは、15≦T≦
90%を満たしており、
前記支持層には着色剤が含有されていることを特徴とする、集電体。」に訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同じ。)。
イ 訂正事項2
請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
請求項3を削除する。
エ 訂正事項4
請求項9において、本件訂正前の「請求項1乃至8のいずれか一項に」を、「請求項1、4乃至8のいずれか一項に」に訂正する。
オ 訂正事項5
請求項10において、本件訂正前の「請求項1乃至8のいずれか一項に」を、「請求項1、4乃至8のいずれか一項に」に訂正する。
カ 訂正事項6
請求項13において、本件訂正前の「請求項1乃至12のいずれか一項に」を、「請求項1、4乃至12のいずれか一項に」に訂正する。
2 訂正の適否について
(1)訂正目的・新規事項の有無・特許請求の範囲の拡張又は変更について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1について、「前記支持層の光透過率Tは、0≦T≦98%を満たしており」との発明特定事項を、「前記支持層の光透過率Tは、15≦T≦90%を満たしており」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記訂正事項1は、本件訂正前の請求項3及び本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0022】の記載を根拠とするものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項2~6について
訂正事項2は請求項2を削除するものであり、訂正事項3は請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項4~6はいずれも、本件訂正前に請求項2、3を引用していた請求項9、10、13において、削除された請求項2、3の引用を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)一群の請求項について
ア 本件訂正前の請求項1~14について、請求項2~14はそれぞれ、請求項1を直接又は間接的に引用しており、請求項1に連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1~14は一群の請求項である。
イ そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項〔1~14〕についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~14〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
(3)独立特許要件について
本件特許に対しては、訂正前のすべての請求項1~14について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する第126条第7項に規定される要件は課されない。
3 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は適法なものであるから、本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明14」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
自体の厚さ方向に沿って、対向する2つの面を含む支持層と、
前記支持層の2つの面のうちの少なくとも一方に設けられた導電層と、
を備え、
前記支持層は、高分子材料及び高分子系複合材料のうちの1種類又は複数の種類である支持材料を含み、前記支持層の光透過率Tは、15≦T≦90%を満たしており、
前記支持層には着色剤が含有されていることを特徴とする、集電体。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記着色剤は、カーボンブラック、コバルトブルー、群青、酸化鉄、カドミウムレッド、クロムオレンジ、モリブデンオレンジ、カドミウムイエロー、クロームイエロー、ニッケルチタンイエロー、チタンホワイト、リトポン、亜鉛ホワイト、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、アントラキノン系顔料、インジゴ系顔料及金属錯体顔料のうちの1種類又は複数の種類であることを特徴とする、請求項1に記載の集電体。
(当審注:「インジゴ系顔料及金属錯体顔料」は、「インジゴ系顔料及び金属錯体顔料」の誤記であると認められる。)
【請求項5】
前記支持層の厚さD1は、1μm≦D1≦30μmであることを特徴とする、請求項1に記載の集電体。
【請求項6】
前記支持層の厚さD1は、1μm≦D1≦20μmであることを特徴とする、請求項1に記載の集電体。
【請求項7】
前記支持層の機械方向MDの引張強度は、100MPa以上であることを特徴とする、請求項1に記載の集電体。
【請求項8】
前記支持層の厚さD1と前記支持層の光透過率Tは、
12μm≦D1≦30μmの場合、30%≦T≦80%、及び/又は、
8μm≦D1<12μmの場合、40%≦T≦90%、及び/又は、
1μm≦D1<8μmの場合、50%≦T≦98%を満たすことを特徴とする、請求項5に記載の集電体。
【請求項9】
前記導電層の厚さD2は、30nm≦D2≦3μmであることを特徴とする、請求項1、4乃至8のいずれか一項に記載の集電体。
【請求項10】
前記導電層の厚さD2は、300nm≦D2≦2μmであることを特徴とする、請求項1、4乃至8のいずれか一項に記載の集電体。
【請求項11】
前記高分子材料は、ポリアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンエチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリアセチレン、シリコーンゴム、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレングリコール、ポリ窒化硫黄系高分子材料、ポリフェニレン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピリジン、セルロース、澱粉、蛋白質、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、それらの誘導体、それらの架橋物及びそれらの共重合体のうちの1種類又は複数の種類であり、及び/又は、
前記高分子系複合材料は、前記高分子材料及び添加剤を含み、前記添加剤は、金属材料及び無機非金属材料のうちの1種類又は複数の種類であることを特徴とする、請求項1に記載の集電体。
【請求項12】
前記導電層は、金属材料、炭素系導電材料及び導電高分子材料のうちの1種類又は複数の種類であり、
前記金属材料は、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、銀、ニッケル銅合金及びアルミニウムジルコニウム合金のうちの1種類又は複数の種類であり、
前記炭素系導電材料は、黒鉛、超伝導炭素、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、炭素ドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの1種類又は複数の種類であり、
前記導電性高分子材料は、ポリ窒化硫黄系、脂肪族共役重合体、芳香環共役重合体及び芳香複素環共役重合体のうちの1種類又は複数の種類であることを特徴とする、請求項1に記載の集電体。
【請求項13】
請求項1、4乃至12のいずれか一項に記載の集電体と、
前記集電体に設けられた活物質層と、
を備えたことを特徴とする、電極シート。
【請求項14】
正極シートと、負極シートと、セパレートと、電解液と、を含み、前記正極シート及び/又は前記負極シートは、請求項13に記載の電極シートであることを特徴とする、電気化学装置。」
第4 申立理由、及び取消理由の概要
1 申立人の申立理由
申立人は、証拠方法として、いずれも本願優先日前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記2に示す甲第1号証~甲第4号証(以下、「甲1」~「甲4」という。)を提出し、以下の申立理由1~3により、請求項1~14に係る本件特許は取り消されるべきものである旨主張した。
なお、「特許異議申立書」の第1頁の3(1)の「理由3:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第2号)」は「理由3:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)」に、第10頁の「理由の要点」の「3.特許法第36条第6項第2号(理由3)」は「3.特許法第36条第6項第1号(理由3)」に、同頁の(3)の「条文 特許法第36条第6項第1号(同法第113条第2号)」は、「条文 特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)」に、第32頁第14行の「特許法第113条第2号」は「特許法第113条第4号」に職権訂正されている。
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1、2、4、5、11~14に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、請求項1、2、4、5、11~14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
ア 本件訂正前の請求項1~8、11~14に係る発明は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1~8、11~14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
イ 本件訂正前の請求項9、10に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項9、10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件訂正前の請求項1~14について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1~14に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
2 証拠方法
甲1:特開2018-55967号公報
甲2:特開昭63-152652号公報
甲3:特開2000-219753号公報
甲4:特開2018-113242号公報
3 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(新規性)
上記(1)の申立理由1(新規性)と同旨。
(2)取消理由2(進歩性)
上記(2)の申立理由2(進歩性)と同旨。
第5 当審の判断
当審は、本件訂正請求を認めることにより、当審による取消理由はいずれも解消し、また、申立人が主張する申立理由のいずれによっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1(新規性)について
(1)甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
ア 甲1の記載及び甲1に記載された発明
(ア)甲1の記載
本願の優先権主張の日(平成30年9月17日)前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には、「リチウムイオン電池用集電体、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池用集電体の製造方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。なお、下線は当審が付し、「・・・」は省略を表す(以下同様)。
「【請求項1】
第1面が第1の導電性フィラーである導電性カーボンを含む第1の導電性樹脂層からなり、第2面が白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素からなる第2の導電性フィラーを含む第2の導電性樹脂層からなるリチウムイオン電池用集電体。」
「【0005】
しかしながら、上述した従来の複層導電性フィルムは異なる導電性材料からなる層を正負極集電体として積層しているため、その界面での抵抗を十分に下げることが難しく、電池の使用中に界面での抵抗が上昇して長期の耐久性が得られない場合があるという課題があった。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、優れた長期の信頼性を有する双極型電池を得ることが可能なリチウムイオン電池用集電体、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池用集電体の製造方法の提供を、その目的の一つとしている。」
「【0015】
図2において、本実施形態のリチウムイオン電池用集電体が適用されたリチウムイオン電池Lは、リチウムイオン電池Lの外殻をなす、外装容器20(以下、単に容器20と称する)内に外形略平板状の積層発電部21が収納されて構成されている。ここで、積層発電部21は、単電池を複数層積層して構成された電池モジュールを構成する。
【0016】
積層発電部21は、本発明のリチウムイオン電池用集電体の一実施形態であり、略平板状の樹脂集電体である集電体2の間に、正極電極活物質と電解液とを含む略平板状の正極(第1極)活物質層である正極電極組成物層5と、同様に負極電極活物質と電解液とを含む略平板状の負極(第2極)活物質層である負極電極組成物層6とが、同様に略平板状のセパレータ4を介して積層されて構成され、全体として略平板状に形成されている。但し、積層発電部21の図中最上層には正極集電体7が配置され、図中最下層には負極集電体8が配置されている。
【0017】
集電体2は、図3に詳細を示すように、図3において集電体2の一方の面(第1面)に第1の導電性樹脂層である正極集電層7を有し、その上面(第2面)に第2の導電性樹脂層である負極集電層8が設けられて構成され、図2に記載の積層発電部21においては、正極電極組成物層5が接する面(第1面)に正極集電層7が位置し、同時に負極電極組成物層6が接する面(第2面)に負極集電層8が位置するように集電体2が配置されている。
【0018】
集電体2は、積層発電部21の端部に形成されたシール部材9により所定間隔をもって対向するように位置決めされている。また、セパレータ4の端部がこのシール部材9内に埋め込まれることで、このセパレータ4が支持されるとともに、セパレータ4と集電体2との位置関係が定められている。
・・・
【0020】
本実施形態のリチウムイオン電池Lを構成する容器20は、上容器20a及び下容器20bに分割されて構成されている。上容器20a及び下容器20bは略同一の形状に形成されており、上面が開口した上容器本体20c及び下容器本体20dと、これら上容器本体20c及び下容器本体20dの図1(当審注:図2の誤記の可能性がある。)において左右の端部から側方に突出する一対の上容器縁部20e及び下容器縁部20fとを備える。
【0021】
そして、上容器20a及び下容器20bが相対向して配置されることで形成される内部空間に積層発電部21が収納され、この内部空間が減圧された状態で、上容器縁部20e及び下容器縁部20fが図略のシール部材により封止されることで、本実施形態のリチウムイオン電池Lが構成されている。
【0022】
上容器20a及び下容器20bと積層発電部21との間には集電部材10、11がそれぞれ介在されており、この集電部材10、11の一部10a、11aは上容器縁部20e及び下容器縁部20fを通って、図2に示すようにリチウムイオン電池Lの外方にまで延出し、集電端子とされている。」
「【0040】
図3において、本発明のリチウムイオン電池用集電体である集電体2の一方の面(第1面)を構成する正極集電層7は、第1の導電性フィラーである導電性カーボンを含む第1の導電性樹脂層であり、集電体2の他の面(第2面)を構成する負極集電層8は白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素からなる第2の導電性フィラーを含む第2の導電性樹脂層である。
【0041】
第1及び第2の導電性樹脂層はそれぞれ高分子材料と第1の導電性フィラー又は第2の導電性フィラーとからなり、高分子材料としては導電性を有する高分子材料であっても、導電性を有さない高分子材料であってもよい。
【0042】
導電性を有する高分子材料としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、及びポリオキサジアゾール等が挙げられる。
【0043】
導電性を有さない高分子材料としては、脂肪族ポリオレフィン[ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリイソブチレン、ポリブタジエン及びポリメチルペンテン(PMP)並びにこれらの共重合体等]、脂環式ポリオレフィン[ポリシクロオレフィン(PCO)等]、ポリエステル樹脂[等]、ポリエーテルニトリル(PEN)、合成ゴム[スチレンブタジエンゴム(SBR)等]、アクリル樹脂[ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)等]、架橋又は非架橋エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びこれらの混合物等が挙げられる。」
「【0059】
集電体2の第1面を構成する第1の導電性樹脂層である正極集電層7は第1の導電性フィラーである導電性カーボンを含み、導電性カーボンとしてはアセチレンブラック、カーボンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナ ノバルーン、ハードカーボン、グラファイト及びフラーレン等が挙げられる。 なかでも、界面抵抗等の観点からアセチレンブラックが好ましい。」
「【0063】
第1の導電性樹脂層中の第1の導電性フィラーの含有量は、集電機能を有効に発揮し、樹脂マトリックス機能を損なわない範囲であれば特に制限はない。これらの観点から第1の導電性フィラーの含有割合は、第1の導電性樹脂層の合計重量に対して、好ましくは5~90質量%であり、より好ましくは10~88質量%である。
【0064】
集電体2の第2面を構成する第2の導電性樹脂層である負極集電層8は白金、金、銀、銅、ニッケル及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素からなる第2の導電性フィラーを含み、耐久性等の観点から、なかでもニッケルからなる導電性フィラーが好ましい。」
「【0069】
上記の方法で得られた本発明のリチウムイオン電池用集電体2は、10~800μmの厚さを有することが好ましい。この範囲であると、集電体の強度等が良好となり好ましい。」
「【0087】
以上の構成を有する集電体2は、リチウム二次単電池1を複数層積層してなる積層発電部21に用いられて好適な集電体である。集電体2は、その第1面に第1極活物質層が積層され、第2面に第2極活物質層が積層された電極を構成する。この構成を有する電極は、一枚の集電体の両面に正負極電極活物質を有することから双極型電極といい、正極と負極との間の界面抵抗を低減することができるので、積層発電部21に好適に用いることができる。これにより、本実施形態によれば、リチウム二次単電池を複数層積層してなる積層発電部に適用可能なリチウムイオン電池用集電体、リチウムイオン電池及びリチウムイオン電池用集電体の製造方法を提供することができる。」
「【実施例】
【0090】
以下実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定するものではない。以下の記載において「部」は重量部を示す。
【0091】
<製造例1:第1の導電性樹脂負フィルムの作製>
二軸押出機にて、ポリプロピレン(商品名「サンアロマー(登録商標)PL500A」、サンアロマー株式会社製)75質量%、アセチレンブラックデンカブラック(登録商標)HS-100、電気化学工業株式会社製、(一次粒子の平均粒子径:36nm)20質量%、および分散剤(三洋化成工業株式会社製、商品名「ユーメックス(登録商標)1001」、無水マレイン酸変性ポリプロピレン)5質量%を、180℃、100rpm、滞留時間10分の条件で溶融混練し導 電性樹脂層用材料1-1を得た。得られた導電性樹脂層用材料1-1を、熱プレス機により圧延することで、厚さ60μmの第1の導電性樹脂層からなる樹脂フィルム1-1を得た。
【0092】
<製造例2:第2の導電性樹脂フィルムの作製>
二軸押出機にて、ポリプロピレン(商品名「サンアロマー(登録商標)PL500A」、サンアロマー株式会社製)30質量%、ニッケル粉(ヴァーレ社製Type123)70質量%を、180℃、100rpm、滞留時間10分の条件で溶融混練し導電性樹脂層用材料2-1を得た。得られた導電性樹脂層用材料2-1を、熱プレス機により圧延することで、厚さ70μmの第1の導電性樹脂層からなる樹脂フィルム2-1を得た。」
(当審注:「第1の導電性樹脂層」は、「第2の導電性樹脂層」の誤記と認められる。)
「【0094】
<実施例2>
製造例1で作製した導電性樹脂層用材料1-1、および製造例2で作製した導電性樹脂層用材料2-1を用い、2種2層の共押出機により第1の導電性樹脂層(共押出後の厚み=30μm)と第2の導電性樹脂層(共押出後の厚み=50μm)とを積層することで、第1の導電性樹脂層と第2の導電性樹脂層の2層を有する厚さ80μmの本発明のリチウムイオン電池用集電体を得た。」
「【図2】
[図:0001385159000001.jpg]
」
(当審注:符号11、12はそれぞれ10、11の誤記の可能性がある。)
「【図3】
[図:0001385159000002.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
上記(ア)の記載事項を総合勘案し、特に、請求項1及び実施例2(【0091】、【0092】、【0094】)の「リチウムイオン電池用集電体」に着目すると、甲1には、次の甲1発明が記載されていると認められる。
<甲1発明>
第1面が第1の導電性フィラーであるアセチレンブラックを含む第1の導電性樹脂層からなり、第2面がニッケルからなる第2の導電性フィラーを含む第2の導電性樹脂層からなるリチウムイオン電池用集電体であって、
二軸押出機にて、ポリプロピレン(商品名「サンアロマー(登録商標)PL500A」、サンアロマー株式会社製)75質量%、アセチレンブラックデンカブラック(登録商標)HS-100、電気化学工業株式会社製、(一次粒子の平均粒子径:36nm)20質量%、および分散剤(三洋化成工業株式会社製、商品名「ユーメックス(登録商標)1001」、無水マレイン酸変性ポリプロピレン)5質量%を、180℃、100rpm、滞留時間10分の条件で溶融混練して得た導電性樹脂層用材料1-1、および二軸押出機にて、ポリプロピレン(商品名「サンアロマー(登録商標)PL500A」、サンアロマー株式会社製)30質量%、ニッケル粉(ヴァーレ社製Type123)70質量%を、180℃、100rpm、滞留時間10分の条件で溶融混練して得た導電性樹脂層用材料2-1を用い、2種2層の共押出機により第1の導電性樹脂層(共押出後の厚み=30μm)と第2の導電性樹脂層(共押出後の厚み=50μm)とを積層することで得た、第1の導電性樹脂層と第2の導電性樹脂層の2層を有する厚さ80μmのリチウムイオン電池用集電体。
イ 甲2の記載
本願の優先権主張の日(平成30年9月17日)前に日本国内または外国において頒布された刊行物である甲2には、「遮光性フィルム」(発明の名称)について以下の記載がある。
「2.特許請求の範囲
1.ポリプロピレンと高密度ポリエチレンの樹脂との混合物100重量部とカーボンブラック2~15重量部からなることを特徴とする遮光性フィルム。」(第1頁左下欄第4~8行)
「産業上の利用分野
本発明は遮光性が良好で、反射光が少なく、かつ、耐熱性の優れた遮光性フィルムに関する。」(第1頁左下欄第13~15行)
「実施例1
ポリプロピレンホモポリマー(MI=1.5)に高密度ポリエチレン(密度0.961、MI=0,3、190℃)を10重量%添加した樹脂混合物100重量部、ファーネスブラック(平均粒子径24mμ(当審注:24μmの誤記の可能性がある。))5重量部およびステアリン酸カルシウム0.1重量部をへンシェルミキサーで混合したのち、230℃で65mmφ押出機によりペレットとした。
次いでこのペレットを230℃で65mmφTダイ押出機から押出し、エアーナイフとチルロールを併用して巾700mm、設定厚み75μmのフィルムを得た。得られたフィルムの性能評価を以下の項目について行った。結果を表-1に示す。」(第2頁左下欄第14行~同頁右下欄第6行)」
「(2)遮光性:JISK-7105により、東京電色(株)製ヘーズメーター(TC-HIII)を用いて光線透過率を測定した。光線透過率が小さいほど遮光性が良く、0%なら完全である。」(第2頁右下欄第12行~15行)
「比較例1~4
樹脂混合物の代わりに・・・ポリプロピレンホモポリマー(MI=1.5)(比較例3)・・・を単独で用いる他は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。評価結果を表-1に示す。」(第3頁右上欄第5~13行)
「
[図:0001385159000003.jpg]
」(第4頁上欄)
ウ 甲3の記載
本願の優先権主張の日(平成30年9月17日)前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3には、「遮光性フィルム」(発明の名称)について以下の記載がある。
「【請求項1】(イ)ポリプロピレン樹脂95~30重量%、および(ロ)分子中にビニル芳香族化合物からなる重合体ブロック(A)を2個以上有し、かつ、共役ジエン化合物からなる重合体ブロック(B)を1個以上有するブロック共重合体を水素添加して得られる水添物のうちtanδのピーク温度が-20℃以上であり、かつtanδのピーク値が0.3以上である水添ブロック共重合体5~70重量%からなり、かつ(ハ)カーボンブラックを前記(イ)および(ロ)の合計量に対し5~10重量%含有する遮光フィルム。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐傷性および柔軟性に優れた遮光フィルムに関する。」
「【0020】
【実施例】
【0021】
・・・
c)遮光性
実施例、比較例で得られたフィルムを用いて、40ワット蛍光灯の光を遮断できるかどうかで判定した。また、以下の実施例および比較例では、各構成成分として表1のものを使用した。
【0022】
【表1】
[図:0001385159000004.jpg]
【0023】実施例1~2
二軸押出機(東芝機械(株)製TEM-35B)を使用して、表2に示す配合に従って、各構成成分を230℃で溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットを200℃でインフレーション成形(モダンマシナリー(株)製50mmφ押出機、ダイス100mmφ、フィルム面長45cm、空冷式)して、それぞれ100μの厚みの試験片を得た。
【0024】比較例1~3
二軸押出を除いて、実施例1~2と同様にして試験片を得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0025】
【表2】
[図:0001385159000005.jpg]
」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
(ア)本件発明1の「支持層」について、「支持」とは、一般に「ささえること。ささえて持ちこたえること。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]を意味する。
ここで、甲1発明の「第1の導電性樹脂層」(図3の「正極集電層7」に相当する。)は、「第2の導電性樹脂層」(図3の「負極集電層8」に相当する。)と積層することで「第2の導電性樹脂層」をささえる機能も有しているといえる。
したがって、甲1発明の「第1の導電性樹脂層」と本件発明1の「支持層」とは、「支持層」である点で一致する。
(イ)そして、上記(1)ア(ア)で摘記した甲1の【0017】、図2、3から、甲1発明の「第1の導電性樹脂層」は、自体の厚さ方向に沿って、対向する2つの面を含むといえる。
そうすると、甲1発明の「第1の導電性樹脂層」は、本件発明1の「自体の厚さ方向に沿って、対向する2つの面を含む支持層」に相当する。
(ウ)また、甲1発明において、「第2の導電性樹脂層」は「第1の導電性樹脂層」と積層しており、甲1発明の「第2の導電性樹脂層」は、「第1の導電性樹脂層」の2つの面のうち一方に設けられているといえるから、本件発明1の「前記支持層の2つの面のうちの少なくとも一方に設けられた導電層」に相当する。
(エ)ここで、本件明細書には、「支持層は、支持材料を含み、支持材料は、高分子材料及び高分子系複合材料のうちの1種類又は複数の種類であってもよい。」(【0017】)、「上記高分子系複合材料は、上記高分子材料と添加剤とを複合したものであってもよく、添加は、・・・無機非金属材料・・・であってもよい。」(【0026】)、「一例として、・・・無機非金属材料は、炭素系材料・・・であってもよく、上記炭素系材料は、・・・アセチレンブラック、カーボンブラック・・・であってもよい。」(【0027】)、「本願実施例で提供する集電体において、支持層は着色剤が含有する。支持材料に着色剤を添加し、着色剤の含有量を調整することにより、支持層の光透過率を調整することができる。」(【0031】)、「着色剤は、無機顔料・・・であってもよい。」(【0033】)、「無機顔料は、例えば、カーボンブラック・・・であってもよい。」(【0034】)と記載されており、上記「添加剤」及び「着色剤」は両者とも「支持層」の「支持材料」に添加されるものであって、例えば、「カーボンブラック」が「添加剤」の例としても「着色剤」の例としても挙げられていることから、本件発明1の「着色剤」は、「支持層」が含む「支持材料」である「高分子系複合材料」において高分子材料と複合される添加剤ともなり得るものであると認められる。
(オ)そして、本件明細書の【0027】には、「添加剤」の例として「アセチレンブラック」が挙げられているから、甲1発明の「アセチレンブラック」は、本件発明1の「高分子系複合材料」において高分子材料と複合される添加剤に相当する。
(カ)また、甲1発明の「導電性樹脂層用材料1-1」は、「ポリプロピレン(商品名「サンアロマー(登録商標)PL500A」、サンアロマー株式会社製)75質量%、アセチレンブラックデンカブラック(登録商標)HS-100、電気化学工業株式会社製、(一次粒子の平均粒子径:36nm)20質量%、および分散剤(三洋化成工業株式会社製、商品名「ユーメックス(登録商標)1001」、無水マレイン酸変性ポリプロピレン)5質量%を、180℃、100rpm、滞留時間10分の条件で溶融混練して得た」ものであり、「ポリプロピレン」(高分子材料)と「アセチレンブラック」(添加剤)と分散剤を溶融混練したものであるから、甲1発明の「導電性樹脂層用材料1-1」は、本件発明1の「高分子系複合材料」(高分子材料と添加剤とを複合したもの)である「支持材料」に相当する。
(キ)上記(カ)から、甲1発明の「導電性樹脂層用材料1-1」、「および」「導電性樹脂層用材料2-1を用い、2種2層の共押出機により第1の導電性樹脂層(共押出後の厚み=30μm)と第2の導電性樹脂層(共押出後の厚み=50μm)とを積層することで得た、第1の導電性樹脂層と第2の導電性樹脂層の2層」における「第1の導電性樹脂層」が「導電性樹脂用材料1-1」を含む構成は、本件発明1の「前記支持層は、高分子材料及び高分子系複合材料のうちの1種類又は複数の種類である支持材料を含み」に相当する。
(ク)また、甲1発明の「リチウムイオン電池用集電体」は、本件発明1の「集電体」に相当する。
(ケ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
<一致点>
自体の厚さ方向に沿って、対向する2つの面を含む支持層と、
前記支持層の2つの面のうちの少なくとも一方に設けられた導電層と、
を備え、
前記支持層は、高分子材料及び高分子系複合材料のうちの1種類又は複数の種類である支持材料を含む、集電体。
<相違点1>
本件発明1では、「前記支持層の光透過率Tは、15≦T≦90%を満たしており」と特定しているのに対し、甲1発明では、「第1の導電性樹脂層」の光透過率Tは不明である点。
<相違点2>
本件発明1では、「前記支持層には着色剤が含有されている」と特定しているのに対し、甲1発明では、「第1の導電性樹脂層」に着色剤が含有されていることは特定されていない点。
イ 相違点1の検討
上記相違点1について検討する。
(ア)甲1には、「第1の導電性樹脂層」の光透過率Tについては記載されていない。
(イ)ここで、上記(1)イで摘記した甲2の第2頁左下欄第14行~同頁右下欄第6行、第2頁右下欄第12行~15行、第3頁右上欄第9~13行、表-1には、比較例3として、ポリプロピレンホモポリマー100重量部にカーボンブラック5重量部を含む設定厚み75μmのフィルムにおいて、JISK-7105により、東京電色(株)製ヘーズメーター(TC-HIII)を用いた測定方法で測定した光線透過率が0%であることが記載されている。
(ウ)上記(イ)から、ポリプロピレンホモポリマー100重量部にカーボンブラックを5重量部含ませると、設定厚み75μmでは、ほとんど光を通さないか、全く光を通さない構成となることが理解できる。
(エ)上記(ウ)を考慮すると、甲1発明において、「ポリプロピレン」「75質量%」、「無水マレイン酸変性ポリプロピレン」「5質量%」に対し、カーボンブラックの一種である「アセチレンブラック」「20質量%」を含ませた「導電性樹脂層用材料1-1」を材料として厚み30μmで形成された「第1の導電性樹脂層」は、光をほとんど通さないか、光を全く通さないと考えられるから、甲1発明の「第1の導電性樹脂層」の光透過率Tは、略0%にある蓋然性が高いと考えられる。
(オ)よって、上記相違点1は実質的な相違点である。
ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点2の検討をするまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。
(3)本件発明4、5、11~14について
本件発明4、5、11~14は、本件発明1を直接ないし間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明とはいえない。
(4)取消理由1(新規性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1、4、5、11~14に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。
2 取消理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 相違点1の容易想到性
甲1には、「第1の導電性樹脂層」の光透過率Tについては記載されておらず、また、甲1発明の「第1の導電性樹脂層」であれば、必ず光透過率Tが「15≦T≦90%」を満たすことが技術常識であるともいえない。
また、甲1に記載された発明は、上記(1)ア(ア)で摘記した甲1の【0005】にあるとおり、「従来の複層導電性フィルムは異なる導電性材料からなる層を正負極集電体として積層しているため、その界面での抵抗を十分に下げることが難しく、電池の使用中に界面での抵抗が上昇して長期の耐久性が得られない」との課題を解決しようとするものであり、さらに、その他の記載を考慮しても、「15≦T≦90%」の範囲の光透過率にする動機付けを見いだせない。
したがって、甲1発明において、「第1の導電性樹脂層」の光透過率Tを「15≦T≦90%」とすることが動機付けられるとはいえないから、甲1発明において、「第1の導電性樹脂層」の光透過率Tを「15≦T≦90%」とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
イ 申立人の主張
(ア)申立人の主張は、その要旨を甲1発明に甲2及び甲3に記載された周知技術、すなわち、「第1の導電性フィラー」(例えば、カーボンブラック)の含有割合を変更することにより、甲1発明の「第1の導電性樹脂層」の光透過率Tを「15≦T≦90%」とすることは、当業者が適宜なし得る数値範囲の好適化にすぎないとするものである(特許異議申立書の第25頁下から第7行~第2行)。
(イ)そこで、甲2、甲3に記載をみてみると、上記1(1)イで摘記した甲2の第1頁左下欄第13~15行には、遮光性に優れたフィルムに関するとあり、表-1において、光線透過率が0%であるフィルムが実施例とされている。また、同ウで摘記した甲3の【0001】には、同様に遮光フィルムに関するとあり、表2において、40ワット蛍光灯の光を遮断できたフィルムが実施例とされている。
そうすると、甲2、甲3には、それぞれ、フィルムに関し光線透過率を0%とする技術、または光を遮断する技術は記載されているといえるものの、光線透過率を0%ではないある特定範囲とする技術が記載されているということはできない。
そして、甲1発明は、「リチウムイオン電池用集電体」に関する発明であるから、甲2、甲3の遮光フィルムに関する技術を適用する動機がない。
(ウ)したがって、甲2及び甲3に、申立人が主張するような周知技術が記載されているとは認められない。
なお、念のため、甲4の記載をみても、そのような周知技術を見出すことができない。
よって、申立人の主張にある周知技術について、その存在を認めることができない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明4~14について
本件発明4~14は、本件発明1を直接ないし間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)取消理由2(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1、4~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
3 申立理由3(サポート要件)について
特許法第36条第6項第1号に規定されるサポート要件適合性については、「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。」(知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10042号)と解される。
そこで、以下検討する。
(1)本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある。
「【0004】
しかしながら、ポリマー層と金属層との複合構造の集電体加工性能は劣っている。例えば、ポリマー層と金属層との複合構造の集電体を用いた電極シート及びリチウムイオン二次電池は、タブ成形工程において、従来のブレード金型を用いて成形し切断する場合、ブレード粘着現象が発生しやすく、ブレード金型の寿命が低下する。一方、レーザを用いて切断する場合、低出力レーザを使用すると、ブロッキングが起こりやすく且つ切断効率が低く、レーザ出力を上げると、金属層が焼けたりポリマー層が溶融したりする不具合が生じる。
【0005】
したがって、集電体、電極シート及び電気化学装置の加工性能を向上させるための設計を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の目的は、良好な加工性能を有する集電体、電極シート及び電気化学装置を提供することである。」
「【0011】
本願で提供する集電体は、支持層が高分子材料及び高分子系複合材料のうちの1種類又は複数の種類を含み、支持層の光透過率Tが0≦T≦98%を満たすため、集電体及び当該集電体を用いた電極シート及び電気化学装置は、レーザ切断処理時に高い加工性能及び加工効率を実現することができる。」
「【0016】
集電体
本願の実施例の第1の態様は、積層して配置された支持層と導電層とを備える集電体を提供する。具体的に、支持層自体の厚さ方向に対向する2つの面を有し、導電層は、支持層の2つの面の一方又は両方に配置され、導電及び集電の役割を果たす。」
「【0021】
また、本願で提供する集電体は、レーザエネルギーの吸収率が高いため、レーザ切断処理における集電体及び当該集電体を用いた電極シート並びに電気化学装置のより高い加工性能及び加工効率を実現することができ、特に、低出力レーザ切断処理において、高い加工性能及び加工効率を有する。前述レーザ切断処理時のレーザ出力は、例えば、100W以下である。
【0022】
支持層の光透過率Tは、0≦T≦95%を満たすことが好ましく、レーザ切断処理における集電体及び当該集電体を用いた電極シート並びに電気化学装置の加工性能及び加工効率をより向上させ、特に、低出力レーザ切断処理時の加工性能及び加工効率を向上させる。支持層の光透過率Tは、15%≦T≦90%を満たすことが更に好ましい。」
「【0031】
本願の実施例で提供する集電体において、支持層は着色剤が含有する。支持材料に着色剤を添加し、着色剤の含有量を調整することにより、支持層の光透過率を調整することができる。」
「【0039】
支持層の厚さと光透過率が上記関係を満たすことにより、レーザを支持層に照射する際に、支持層がレーザのエネルギーを極力吸収することができ、レーザ切断加工における集電体の加工性能及び加工効率を高め、特に、集電体が低出色レーザ切断処理時に高い加工性能及び加工効率を持ち、接着の発生を避ける。支持層の厚さと光透過率が上記関係を満たすことは、支持層に適切な機械的強度にも寄与し、集電体、電極タブおよび電気化学装置の加工中に支持層が断裂されることを防止するのに有利である。」
「【0089】
実施例1
支持層の製造
支持材料は、PETであり、PETに一定量の着色剤であるカーボンブラックを添加して、均一に混合し、PET熱溶融状態で、押出キャスト、冷間ロール圧延及び二軸延伸により、支持層を得る。
【0090】
集電体の製造
支持層を真空蒸着室内に置き、1300℃~2000℃の高温で金属蒸発室内の高純度アルミニウムワイヤを溶融蒸発させ、蒸発された金属は真空蒸着室内の冷却システムを経て、最後に支持層の両面に堆積され、導電層を形成し、両面上の導電層の厚さD2は等しい。
【0091】
実施例2~10
実施例1との相違点は、製造中で関連パラメータを調節することであり、具体的なパラメータを以下の表1に示す。
【0092】
比較例1
実施例4との相違点は、支持層に着色剤が添加されていないことである。
【0093】
測定部分
(1)支持層の光透過率の測定:
LS117光透過率計を使用して、GB2410-80規格によって支持層の光透過率を検出する。まず、機器の電源を入れて自己校正を行い、界面にT=100%、即ち校正OKが表示された後、支持層のサンプルをプローブとレシーバとの間に挟み、界面は、支持層の光透過率の数値を自動的に示す。
【0094】
・・・
【0095】
(3)集電体の切断性能の測定:
IPG社製のロット番号YLP-V2-1-100-100-100の光ファイバーレーザ機器を使用して、出力を100W、周波数を150kHzと設置し、集電体をレーザ機器の切断設備上に取り付けて切断を行い、集電体の最大切断可能速度を測定する。集電体の最大切断可能速度とは、レーザが当該集電体を切断する際に接着現象が起こらない時の最大切断速度を意味する。
【0096】
実施例1~10及び比較例1の測定結果は、以下の表1に示す通りである。
【0097】
【表1】
[図:0001385159000006.jpg]
実施例4、5と比較例1とを比較分析すると、支持層の光透過率を低下させることにより、集電体は低出力レーザ切断工程において、接着現象が起こらない切断速度が著しく向上することがわかる。
【0098】
実施例1~10の測定結果より、本願は、支持層の光透過率を低下させることにより、レーザー切断処理における集電体の切断性能及び切断速度を大幅に向上させることができ、特に、低出力レーザ切断処理における集電体の切断性能および切断速度は大幅に向上される。」
(2)本件におけるサポート要件について
ア 本件発明が解決しようとする課題
上記【0006】から、本件発明が解決しようとする課題は、「良好な加工性能を有する集電体、電極シート及び電気化学装置を提供すること」(以下、「本件課題」という。)であると認められる。
なお、上記「良好な加工性」の「加工性」とは、上記【0004】、【0005】から、レーザを用いて切断する場合の加工性であると解される。
イ 本件発明の作用機序
本件課題を解決する手段により本件課題が解決できる機序について、本件明細書の記載から次のことが理解できる。
(ア)支持層が高分子材料及び高分子系複合材料のうちの1種類又は複数の種類を含み、支持層の光透過率Tが0≦T≦98%を満たす集電体とすることで、レーザ切断処理時に高い加工性能及び加工効率を実現することができること(【0011】)。
(イ)集電体は、支持層と導電層とを備え、支持層自体の厚さ方向に対向する2つの面を有し、導電層は、支持層の2つの面の一方又は両方に配置されているものであること(【0016】)。
(ウ)光透過率はレーザのエネルギーの吸収率に関係し、レーザエネルギーの吸収率を高くすることで、レーザ切断処理における集電体及び当該集電体を用いた電極シート並びに電気化学装置のより高い加工性能及び加工効率を実現することができること(【0021】、【0022】、【0039】)。
(エ)着色剤の含有量を調整することにより、支持層の光透過率を調整していること(【0031】)。
(オ)支持層の光透過率を低下させることにより、レーザー切断処理における集電体の切断性能及び切断速度を大幅に向上させることができること(【0089】~【0098】)。
(カ)支持層の光透過率が40~98%の実施例1~10は、支持層の光透過率が100%の比較例1よりも最大切断可能速度が高く加工性能及び加工効率が高いこと(【表1】)。
ウ サポート要件の適否
上記イ(ア)~(カ)からすると、本件課題を解決する手段は、集電体について、支持層が高分子材料及び高分子系複合材料のうちの1種類又は複数の種類を含み、前記支持層の光透過率Tが0≦T≦98%を満たす集電体であって、集電体は、支持層と導電層とを備え、支持層自体の厚さ方向に対向する2つの面を有し、導電層は、支持層の2つの面の一方又は両方に配置されているものであり、着色剤によって支持層の光透過率を調整することと認められる。
そして、本件発明1、4~14は、上記構成を全て備え、かつ、支持層の光透過率Tについては、その範囲をより限定した「15≦T≦90%」とした集電体である以上、本件課題は解決されるといえるから、サポート要件を満たすものである。
エ 申立人の主張
(ア)申立人は、特許異議申立書の第30頁第22行~第31頁24行において、実施例1~10のうち、支持層の光透過率が最も低い実施例は、実施例10であり、その値は40%であるから、支持層の光透過率Tが0≦T<40%である集電体は、本件課題を解決したものではない旨主張する。
(イ)しかしながら、上記【0097】、【0098】には、支持層の光透過率を低下させることにより、レーザ切断処理における集電体の切断性能及び切断速度を大幅に向上できることが記載されているし、実施例4、5と比較例1の結果を比較すると、支持層の光透過率が低下する程、最大切断可能速度が高くなることが示されているから、当業者であれば、光透過率を実施例10に示された40%より低下させた場合においても、比較例1より高い最大切断可能速度が得られることを予測できたといえる。
(ウ)そして、申立人は、支持層の光透過率Tが0≦T<40%である実施例がないことを指摘するだけであって、支持層の光透過率Tが0≦T<40%であると本件課題を解決できないとする具体的な理由(理論的根拠や具体的な実験結果)については示していない。
(エ)したがって、支持層の光透過率Tが0≦T<40%である集電体が、本件課題を解決したものではないとはいえない。
(オ)よって、申立人の上記主張は採用できない。
(3)申立理由2(サポート要件)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、4~14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。
第6 むすび
以上のとおり、申立人による申立理由、及び、当審による取消理由によっては、本件特許の請求項1、4~14に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1、4~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項2、3については、本件訂正請求により削除されたから、特許異議の申立ての対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700424