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特許異議申立

2021-700298

紙の製造方法

審判番号
2021-700298
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-027324外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6764136
請求日
2021年03月22日
審決日
2022年04月06日
公報発行日
2022年07月29日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6764136号発明「紙の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6764136号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。 特許第6764136号の請求項1~2に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6764136号の請求項1~2に係る特許についての出願は、平成31年2月19日に出願され、令和2年9月15日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月30日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年3月22日に特許異議申立人伊藤範子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年6月22日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年8月18日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その訂正自体を「本件訂正」という。)がされ、これに対して、同年9月30日に申立人より意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 本件訂正請求は、特許第6764136号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを求める、というものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1の「(メタ)アクリルアミド系重合体におけるアミノ基数」を、「下記式1に従って求められるアミノ基数」に訂正するとともに、「・(式1)(アミノ基数)=[{(d2)成分の仕込み重量}/(d2)成分の分子量(Mw)]×{(d2)成分のアミノ基の個数}」という記載を追加する。請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項1の「(メタ)アクリルアミド系重合体における・・・カルボキシル基数」を、「下記式2に従って求められるカルボキシル基数」に訂正するとともに、「・(式2)(カルボキシル基数)=[{(d3)成分の仕込み重量}/(d3)成分の分子量(Mw)]×{(d3)成分のカルボキシル基の個数}」という記載を追加する。請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。 (3)一群の請求項 本件訂正前の請求項1~2は、請求項2が、本件訂正の対象である請求項1の記載を直接引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。 2 訂正要件の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「(メタ)アクリルアミド系重合体におけるアミノ基数」との記載では、「(メタ)アクリルアミド系共重合体」に含まれる成分のうち、どの成分までアミノ基数の算出対象であるか不明確であったところ、訂正により、「下記式1に従って求められる」ものに限定し、(式1)のとおり(d2)成分からアミノ基数を算出することを明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「(メタ)アクリルアミド系重合体におけるアミノ基数」を「(メタ)アクリルアミド系重合体」に含まれる成分の一つである「カチオン性不飽和モノマー(d2)」に特定したのであって、請求項に記載された発明を特定するための事項を下位概念に変更したものに当たるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること アミノ基数が、(アミノ基数)=[{(d2)成分の仕込み重量}/(d2)成分の分子量(Mw)]×{(d2)成分のアミノ基の個数}という計算式に従って求められるものであることは、明細書の段落【0080】に記載されており、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「(メタ)アクリルアミド系重合体における・・・カルボキシル基数」との記載では、「(メタ)アクリルアミド系共重合体」に含まれる成分のうち、どの成分までカルボキシル基数の算出対象であるか不明確であったところ、訂正により、「下記式2に従って求められる」ものに限定し、(式2)のとおり(d3)成分からカルボキシル基数を算出することを明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、訂正前の請求項1の「(メタ)アクリルアミド系重合体における・・・カルボキシル基数」を「(メタ)アクリルアミド系重合体」に含まれる成分の一つである「アニオン性不飽和モノマー(d3)」に特定したのであって、請求項に記載された発明を特定するための事項を下位概念に変更したものに当たるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること カルボキシル基数が、(カルボキシル基数)=[{(d3)成分の仕込み重量}/(d3)成分の分子量(Mw)]×{(d3)成分のカルボキシル基の個数}という計算式に従って求められるものであることは、明細書の段落【0081】に記載されており、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 3 小括 以上のとおりであるから、訂正事項1~2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、本件訂正の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~2に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1~2を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 3価又は4価のカルボン酸(a1)と、炭素数が6~22のアルキル基又はアルケニル基を有する1価の脂肪族アルコール(a2-1)及び、炭素数が6~22のアルキル基及び/又はアルケニル基を有する脂肪族アミン(a2-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(a2)との脱水縮合物及び/又はその塩(A)及び乳化剤(B)を含む製紙用エマルジョンサイズ剤を、パルプスラリーへ添加する工程を含み、水溶性アルミニウム化合物(C)を添加せず、 更に(メタ)アクリルアミド(d1)、カチオン性不飽和モノマー(d2)及びアニオン性不飽和モノマー(d3)を含むモノマー成分の(メタ)アクリルアミド系重合体であり、下記式1に従って求められるアミノ基数及び、下記式2に従って求められるカルボキシル基数の比率が、(アミノ基数)/(カルボキシル基数)=1~15である両性の紙力増強剤(D)を添加する工程を含むことを特徴とする紙の製造方法。 ・(式1)(アミノ基数)=[{(d2)成分の仕込み重量}/(d2)成分の分子量(Mw)]×{(d2)成分のアミノ基の個数} ・(式2)(カルボキシル基数)=[{(d3)成分の仕込み重量}/(d3)成分の分子量(Mw)]×{(d3)成分のカルボキシル基の個数} 【請求項2】 (B)成分が、スチレン類(b1)及び/又は(メタ)アクリルアミド(b2)を含むモノマー成分の重合体を含む、請求項1の紙の製造方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~2に係る特許に対して、当審が令和3年6月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)(サポート要件)本件特許は、以下の理由ア及びイにより、請求項1~2に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア 臭気の低減について 本件発明は、パルプスラリーに対して水溶性アルミニウム化合物(C)成分を添加しないことにより臭気を低減することを課題とするものである(本件特許明細書【0006】)。しかしながら、臭気の原因となる硫酸イオンが乳化剤(B)成分及び紙力増強剤(D)成分の製造工程で使用されること、また、臭気の原因となる水酸化アルミニウムがパルプスラリーに用いられる段ボールに含まれること、臭気には細菌の増殖に由来するものも考えられることから、本件発明は、訂正前の請求項1、2にそれぞれ特定された全ての範囲において、臭気を低減するという課題を解決されていることが実証されているとは言い難いため、訂正前の請求項1~2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。 イ 紙力増強剤(D)のアミノ基数、カルボキシル基数について 訂正前の請求項1の記載では、「アミノ基数」の算出対象に、発明の詳細な説明に記載された「カチオン性不飽和モノマー(d2)」だけでなく、「(メタ)アクリルアミド(d1)」を含む「(メタ)アクリルアミド系共重合体」の全てが含まれ得るため、訂正前の請求項1~2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。また、訂正前の請求項1の記載では、「カルボキシル基数」の算出対象に、発明の詳細な説明に記載された「アニオン性不飽和モノマー(d3)」だけでなく、「(メタ)アクリルアミド系共重合体」の全てが含まれ得るため、訂正前の請求項1~2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。 (2)(進歩性)本件特許の請求項1~2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項、並びに、甲3~6号証に例示される周知技術に基いて(以下、各甲号証を「甲1」等ともいう。)、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 甲第1号証:特開2018-188746号公報 甲第2号証:特開2004-162201号公報 甲第3号証:美邉翔,JETI,Vol.62,No.1(2014),pp.116-121 甲第4号証:中島正人,紙パ技術協誌,第46巻第12号,pp.1497~1507 甲第5号証:特開2002-129492号公報 甲第6号証:特開2005-029920号公報 2 当審の判断 (1)サポート要件について ア 臭気の低減について 本件明細書には、次の記載がある。 「【0003】 ところで、近年の製紙業界では、古紙や白水の再利用、抄紙排水の低減等からクローズド化されており、抄紙系内の金属成分や夾雑物の影響によりサイズ効果が発現され難い環境となっている。これに対して、例えば、ロジン系サイズ剤が用いられる系では、硫酸アルミニウムを多く添加されている一方、抄紙系内で硫化水素由来の臭気が生じやすくなるため、環境負荷の低減から硫酸アルミニウムの添加量を減らす動きもある。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、抄紙系において水溶性アルミニウム化合物を使用せずに、優れたサイズ効果を示し、また臭気を低減できる紙の製造方法を提供することにある。」 「【発明の効果】 【0013】 本発明の紙の製造方法によれば、水溶性アルミニウム化合物を添加せずとも、優れたサイズ効果を示し、また抄紙工程時の臭気も低減することが可能となった。」 「【0088】 また、本発明の紙の製造方法は、前述のように、(C)成分を添加しないことも特徴である。(C)成分を添加すると、パルプスラリー中で硫酸イオンを生じ、水素イオンを結合することで硫化水素となる。その結果、臭気を発生する、またはマシンの腐食を招く。」 「【0117】 実施例1 固形分重量でN-UKP/段ボール古紙=20/80となる量を採取し、水道水でパルプ濃度2.0%になる量の水道水を加えて、ビーターを用いて380mlカナディアン・スタンダード・フリーネスまで叩解した。叩解したパルプスラリーを更に水道水で希釈しパルプ濃度1.5%に調整した。このパルプスラリーへ、パルプ固形分重量に対して、紙力増強剤(D-3)を0.3%、次いで製造例3-1の製紙用エマルションサイズ剤を0.2%添加した後、抄紙機(TAPPIStandard Sheet Machine(角型))でJIS P 8222に準じて、坪量80g/m2になるように抄紙した。この時の抄紙pHは7.5であった。次いで得られた湿紙を線圧5.5kg/cm、送り速度2m/分の条件のロールプレス機で脱水した後、回転式ドライヤーを用いて温度80℃にて150秒間乾燥させた。得られた紙の乾燥直後、恒温恒湿(23℃、50%相対湿度)環境下で24時間調湿した後、及び高温高湿(50℃、90%相対湿度)環境下で1週間調湿した後の2分コブサイズ度をそれぞれ測定した。条件及び結果を表3に示す。 【0118】 実施例2~31、比較例1~3 表3に示す条件にて、実施例1と同様に行い、紙をそれぞれ得た。なお、実施例31では、パルプスラリーへ、パルプ固形分重量に対して、製造例3-1の製紙用エマルジョンサイズ剤を0.2%、次いで紙力増強剤を0.3%添加して抄紙した。」 「【0120】 (臭気) (臭気) 抄紙工程を想定した臭気を測定した。実施例1~31及び比較例1~3で調整したパルプスラリー500gをDDJ(ダイナミック・ドネレージ・ジャー、80メッシュ)に採取、600rpmにて撹拌し、下穴から濾水150gをマヨネーズ瓶に採取し蓋をした。得られた濾水を温度40℃の恒温槽で5日間静置した後、臭気を嗅ぎ、以下の評価基準で評価した。 (評価基準) ○:臭いがない ×:臭いがある 【0121】 【表3】 [図:0001386108000001.jpg] 」 本件発明が解決しようとする課題は、「抄紙系において水溶性アルミニウム化合物を使用せずに、優れたサイズ効果を示し、また臭気を低減できる紙の製造方法を提供すること」(【0006】)であり、本件発明は、水溶性アルミニウム化合物を使用しないことで、水溶性アルミニウム化合物から発生する「硫化水素由来の臭気」を低減するものである。そして、本件明細書の表3に着目すると、実施例1と比較例1とは、硫酸アルミニウムの添加有無を除いて同じ条件で紙の抄紙がなされ、同一の条件で臭気の測定がされた結果、実施例1は〇:臭いがない、比較例1は×:臭いがあると判定され、実施例1と比較例2、3とは、異なる製紙用エマルジョンサイズ剤を使用したことを除き、実施例1と実施例14~24は、異なる紙力増強剤を使用したことを除いて同じ条件、すなわち、硫酸アルミニウムを添加せずに抄紙した結果、〇:臭いがないと判定されている。 これらの実施例から総合すると、製紙用エマルジョンサイズ剤の種類と臭気、又は紙力増強剤の種類と臭気との間に関連性は認められず、仮にこれらに臭気発生の原因があるとしても硫酸アルミニウムの添加有無に比較して影響が小さいと理解できる。 そして、本件特許は、臭気の要因となる硫酸アルミニウム、すなわち、「水溶性アルミニウム化合物(C)を添加せず」が特定されているから、硫化水素由来の臭気を低減する効果を有するものである。 したがって、本件発明1~2は、抄紙工程時の硫化水素由来の臭気を低減できるという課題を解決できたものであり、発明の詳細な説明に記載されたものである。 イ 紙力増強剤(D)のアミノ基数、カルボキシル基数について 本件訂正により、訂正後の請求項1において、アミノ基数が「下記式1に従って求められるアミノ基数」に、カルボキシル基数が「下記式2に従って求められるカルボキシル基数」にそれぞれ訂正され、「・(式1)(アミノ基数)=[{(d2)成分の仕込み重量}/(d2)成分の分子量(Mw)]×{(d2)成分のアミノ基の個数}」及び「・(式2)(カルボキシル基数)=[{(d3)成分の仕込み重量}/(d3)成分の分子量(Mw)]×{(d3)成分のカルボキシル基の個数}」という記載が追加されたため、「アミノ基数」の算出対象は「カチオン性不飽和モノマー(d2)」のみに限定され、「カルボキシル基数」の算出対象は、「アニオン性不飽和モノマー(d3)」のみに限定されたから、当該理由は解消した。 ウ 申立人の主張について 申立人は、令和3年9月30日に提出した意見書において、参考資料1~3を挙げて次のように主張している。 「人の嗅覚に対する悪臭物質濃度の影響はより小さく(参考資料1の第9頁)、また紙力増強剤(D)、及びサイズ剤由来の硫酸イオンから生じる硫化水素濃度も、本件明細書の実施例の条件下では人が臭気を感知できる閾値を十分に超えると考えられます。 また、取消理由通知書では、「硫酸アンモニウム」由来の「アンモニウムイオン」や、「細菌の増殖に由来する臭気(有機酸)」も指摘されているにも関わらず、特許権者はこれら臭気に対して何の反論もできていません。」 当該主張について検討する。 上記アでも述べたとおり、本件発明が解決しようとする課題は、「抄紙系において水溶性アルミニウム化合物を使用せずに、優れたサイズ効果を示し、また臭気を低減できる紙の製造方法を提供すること」(【0006】)であり、水溶性アルミニウム化合物を添加しないことで硫化水素由来の臭気を低減するという一定の効果が認められるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 したがって、申立人の主張には理由がない。 エ 小括 以上のとおり、本件発明1~2は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。 したがって、本件発明1~2は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものである。 (2)進歩性について ア 甲1~6の記載 (ア)甲1について 甲1には、以下の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審が付した。以下同様。) a「【0003】 しかしながら、近年、紙の製造工程においては(i)安価填料である炭酸カルシウム利用による抄紙pHの上昇、(ii)古紙使用比率のアップ、(iii)抄紙排水低減のための抄紙系クローズド化により、前記した従来のサイズ剤では効果が発現し難い、あるいは抄紙系の汚れが問題となっている。また、溶存カルシウムイオンの等増加による抄紙用水の硬度上昇により、エマルションサイズ剤粒子の凝集や、パルプ繊維へのサイズ剤の定着不良によるサイズ効果の低下が問題となっている。 【0004】 これら問題を解決するべく、中性域のpHで適用可能であり、サイズ効果の立ち上り現象がなく、機械的安定性、希釈分散安定性を有するサイズ剤として、特定多価カルボン酸と特定脂肪族アルコールまたはアミンの脱水縮合物及び(メタ)アクリルアミド共重合体を有するエマルションサイズ剤が報告されている(特許文献1)。 (中略) 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 上記の(i)~(iii)が進んだ抄造条件下でも抄紙系内で希釈安定性及びサイズ性に優れ、機械的安定性が良好な製紙用サイズ剤が求められている。本発明は、これら課題を解決した製紙用サイズ剤を提供することを目的とする。 【0008】 本願発明者らは、前記した課題に鑑みて鋭意検討した結果、特定のアミドを有する縮合物及び特定の(メタ)アクリルアミド系共重合体を含有する製紙用サイズ剤が優れたサイズ効果を発揮し、硬水希釈安定性・機械的安定性に優れることを見出し、本発明を完成させた。」 b「【0031】 [縮合物(A)の製造例] 製造例1 溶融したジ硬化牛脂アルキルアミン(商品名「リポミン2HT」ライオン(株)製)303質量部(0.6モル)にクエン酸無水和物58質量部(0.3モル)を投入し、140~160℃で15時間、脱水縮合反応を続け、ワックス状脱水縮合物(A1)を得た。縮合物A1の融点59℃、酸価51mgKOH/gであった。 【0032】 [(メタ)アクリルアミド系共重合体(B)の製造例] 製造例2 1L容器の4つ口フラスコに攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応装置にイオン交換水128.78質量部、イソプロピルアルコール258.09質量部、濃度50質量%のアクリルアミド水溶液202.54質量部(81モル%)、イタコン酸4.58質量部(2モル%)、純度88質量%のスチレンスルホン酸ナトリウム28.85質量部(7モル%)、2-エチルヘキシルアクリレート3.24質量部(1モル%)、シクロヘキシルメタクリレート26.63質量部(9モル%)、n-ドデシルメルカプタン1.78質量部(重合成分の総モル数に対し0.5モル%)を仕込み、この混合液を攪拌しながら窒素ガス下で60℃まで昇温した。過硫酸アンモニウム(APS)3.61質量部(重合成分の総モル数に対し0.9モル%)を加え、80℃まで昇温し、3時間保持した。次いでイソプロピルアルコールの留去を行い、イオン交換水を加えて固形分25%の(メタ)アクリルアミド系共重合体(B)の水溶液(B1)を得た。B1の粘度は7300mPa・sであった。」 c「【0036】 [製紙用サイズ剤の調製] 実施例1 製造例1で得られた縮合物A1(120質量部)を加熱溶融し、次いで製造例2で得られた(メタ)アクリルアミド系共重合体B1(120質量部)と温水(70℃)260質量部と混合し、高圧乳化機を使用して分散することにより固形分濃度25%に調整した製紙用サイズ剤C1を得た。」 d「【0038】 [製紙用サイズ剤のサイズ性能評価] カナディアンスタンダードフリーネスが330cm3、紙中灰分が15質量%になるように調整した段ボール古紙パルプを用い、製紙用サイズ剤(C1~C28、RC1~RC4)を対パルプ乾燥質量で0.20質量%添加し、電導度200mS/mの用水で0.8%に希釈した後、NR12MLS(高分子歩留まり剤、ハイモ社製)を対パルプ乾燥質量で0.03質量%添加した。このパルプスラリーを用いて、ノーブルアンドウッド製シートマシンで坪量80g/m2となるよう手抄きを行い、ドラムドライヤーにて100℃、80秒の条件で乾燥した。得られた紙を23℃、50%RHの恒温恒湿室中で24時間調湿した後、120秒のコブ(Cobb)サイズ度を測定した。結果を表2に示す。120秒コブ(Cobb):JIS P-8140に準拠する。数値が小さいほど、サイズ効果に優れることを示す。」 e 摘記事項a、c及びdからみて、引用文献1の実施例1に係る「製紙用サイズ剤」は、「中性域のpHで適用可能」なエマルジョンサイズ剤であり、紙の製造工程において、硫酸アルミニウム等の「水溶性アルミニウム化合物」の添加をしないものと理解できる。 以上を実施例1に着目して総合すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「クエン酸無水和物と、ジ硬化牛脂アルキルアミンとの脱水縮合反応で得たワックス状脱水縮合物(A1)を、アクリルアミド水溶液を含む(メタ)アクリルアミド系共重合体(B)と混合し、分散することで調整した製紙用サイズ剤を、パルプスラリーに添加する工程を含み、水溶性アルミニウム化合物を添加しない紙の製造方法。」 (イ)甲2について a「【0002】 【従来の技術】 従来、紙を製造する際には、紙に強度を付与すべく紙力増強剤が用いられており、性能等の点からポリアクリルアミド系紙力増強剤が広く用いられている。通常、紙力増強剤を用いる場合には、一種の紙力増強剤を一度にまたは分割して紙料に添加される。しかしながら、紙力増強剤を一種類しか用いない場合には、地合いと濾水性のバランスを取ることが困難であり、紙力増強剤を多く使用しなければならなかった。 (中略) 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、地合いと濾水性のバランスを容易にとることができ、このため紙力を向上させ、結果として紙の製造に用いる紙力増強剤の使用量を減少させることができる紙の製造方法を提供することを目的とする。」 b「【0008】 【発明の実施の形態】 本発明の紙の製造方法には、(1)紙力増強剤の添加前後におけるJIS P8121により測定される濾水度の差が50ml以下となる両性ポリアクリルアミド系紙力増強剤(以後、(1)成分という)および(2)紙力増強剤の添加前後におけるJIS P 8121により測定される濾水度の差が50mlを超えるポリアクリルアミド系紙力増強剤(以後、(2)成分という)を用いる。なお、ここでいう濾水度の差とは、紙料に紙力増強剤を0.5重量%添加したときの、JIS P 8121に記載されるカナディアンフリーネステスターを使用した濾水量と、紙力増強剤を添加する前の紙料の、カナディアンフリーネステスターを使用した濾水量の差である。紙力増強剤の添加は、紙料固形分の濃度を1.0%~3.0%、紙料の温度を20~40℃とし、添加された紙力増強剤が紙料と十分混合させることにより行う。なお、紙力増強剤の他に、硫酸アルミニウムやサイズ剤等を使用する場合には、紙力増強剤を添加する前の濾水度は、紙力増強剤以外の薬品を添加したときの濾水度とする。なお、濾水度の差が50ml以下となる両性ポリアクリルアミド系紙力増強剤の代わりに濾水度の差が20ml以下となる両性ポリアクリルアミド系紙力増強剤を用いることにより、紙力強度をさらに向上させることができるためより好ましい。 【0009】 (中略) (1)成分としては、通常、(a)アニオン性ビニルモノマー(以下、(a)成分という)、(b)カチオン性ビニルモノマー(以下、(b)成分という)、(c)(メタ)アクリルアミド(以下、(c)成分という)などの共重合体が挙げられる。(a)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ムコン酸、シトラコン酸等のジカルボン酸;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、などの有機スルホン酸;またはこれら各種有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。(b)成分としては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの第三級アミノ基を有するビニルモノマーまたはそれらの塩酸、硫酸、酢酸などの無機酸もしくは有機酸の塩類、または該第三級アミノ基含有ビニルモノマーとメチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリンなどの四級化剤との反応によって得られる第四級アンモニウム塩を含有するビニルモノマー等が挙げられる。」 c「【0036】 製造例9(PAM9製造法) 製造例1と同様の反応装置に、アクリルアミド47.6部、62.5%硫酸2.9部、ジメチルアミノエチルメタクリレ-ト5.9部、80%アクリル酸水溶液3.4部、ジエチレングリコールジアクリレート0.03部及びイオン交換水370部を仕込み、窒素ガスを通じて反応系の酸素を除去した。系内を55℃にし攪拌下に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.08部とイオン交換水10部および亜硫酸水素ナトリウム0.03部とイオン交換水10部を投入した。90℃まで昇温した後30分保温し、過硫酸アンモニウム0.11部とイオン交換水10部を投入して1時間保温した。重合終了後、イオン交換水660部を投入し、固形分5.2%、粘度(25℃)が15,000mPa・sの共重合体水溶液を得た。各製造例で用いたモノマー成分と比率を表1に、また得られた共重合体水溶液の性状値を表2に示す。 【0037】 製造例10(PAM10製造法) 製造例1と同様の反応装置に、アクリルアミド29.5部、62.5%硫酸1.8部、ジメチルアミノエチルメタクリレ-ト3.6部、80%アクリル酸水溶液2.1部、ジエチレングリコールジアクリレート0.04部及びイオン交換水300部を仕込み、窒素ガスを通じて反応系の酸素を除去した。系内を55℃にし攪拌下に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.05部とイオン交換水10部および亜硫酸水素ナトリウム0.02部とイオン交換水10部を投入した。90℃まで昇温した後30分保温し、過硫酸アンモニウム0.07部とイオン交換水10部を投入して1時間保温した。重合終了後、イオン交換水760部を投入し、固形分3.2%、粘度(25℃)が15,000mPa・sの共重合体水溶液を得た。各製造例で用いたモノマー成分と比率を表1に、また得られた共重合体水溶液の性状値を表2に示す。」 d「【0041】 【表1】 [図:0001386108000002.jpg] 表中の数字はいずれもモル%」 e「【0043】 実施例1 段ボ-ル古紙をナイアガラ式ビーターにて叩解し、カナディアン・スタンダ-ド・フリ-ネス(C.S.F)350mlに調整した紙料に硫酸バンドを1.0%添加してpH6.5とした。当該紙料スラリーを抄紙するにおいて、紙料濃度2.0%として製造例1で得られた重合体水溶液を紙力増強剤として対紙料固形量0.4%添加し、その後、紙料濃度1.0%として製造例9で得られた重合体水溶液を紙力増強剤として対紙料0.1%添加し、タッピ・シートマシンにて脱水し、5kg/cm2で2分間プレスして、坪量150g/m2となるよう抄紙した。」 f 表1には、製造例9、10で得られる共重合体水溶液について、いずれも、(a)アニオン性ビニルモノマーとしてAA(アクリル酸)を5モル%、(b)カチオン性ビニルモノマーとしてDM(ジメチルアミノエチルメタクリレート)を5モル%含むことが記載されている。また、AAがカルボキシル基を1個、DMがアミノ基を1個含有すること、そして「仕込み重量(g)」を「分子量(g/mol)」で割った商は「物質量(mol)」と等しいことは、いずれも技術常識であるから、甲2の製造例9、10の共重合体水溶液におけるアミノ基数及びカルボキシル基数は、それぞれ「物質量(mol)」と「アミノ基又はカルボキシル基の個数」の積と同等であり、その比率である(アミノ基数)/(カルボキシル基数)は(5mol×1個)/(5mol×1個)=1であると理解できる。 以上を総合すると、甲2には、(c)アクリルアミド、(b)カチオン性ビニルモノマーとしてジメチルアミノエチルメタクリレート及び(a)アニオン性ビニルモノマーとしてアクリル酸を含む共重合体水溶液であり、共重合体水溶液における(b)成分におけるアミノ基数及び(a)成分におけるカルボキシル基数の比率が、(アミノ基数)/(カルボキシル基数)=1である両性の紙力増強剤を添加する工程を含む紙の製造方法が記載されている。 イ 本件発明1について (ア)一致点・相違点 本件発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「クエン酸無水和物」は、3価のカルボキシ基を有するから、本件発明1に係る「3価のカルボン酸(a1)」に相当し、以下同様に、「ジ硬化牛脂アルキルアミン」は、炭素数が12~20のアルキル基を有する脂肪族アミンであるから、「炭素数が12~20のアルキル基を有する脂肪族アミン(a2-2)」に、それぞれ相当する。 また、構成及び作用からみて、「ワックス状脱水縮合物(A1)」は「脱水縮合物(A)」に、「(メタ)アクリルアミド系重合体(B)」は「乳化剤(B)」に、「分散することで調整した製紙用サイズ剤」は「製紙用エマルジョンサイズ剤」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、相違する。 <一致点> 「3価のカルボン酸(a1)と、炭素数が12~20のアルキル基を有する脂肪族アミン(a2-2)との脱水縮合物(A)及び乳化剤(B)を含む製紙用エマルジョンサイズ剤を、パルプスラリーへ添加する工程を含み、 水溶性アルミニウム化合物を添加しない紙の製造方法。」 <相違点> 本件発明1は、「更に(メタ)アクリルアミド(d1)、カチオン性不飽和モノマー(d2)及びアニオン性不飽和モノマー(d3)を含むモノマー成分の(メタ)アクリルアミド系重合体であり、下記式1に従って求められるアミノ基数及び下記式2に従って求められるカルボキシル基数の比率が、(アミノ基数)/(カルボキシル基数)=1~15である両性の紙力増強剤を添加する工程を含」み、式1及び式2が「・(式1)(アミノ基数)=[{(d2)成分の仕込み重量}/(d2)成分の分子量(Mw)]×{(d2)成分のアミノ基の個数}」及び「・(式2)(カルボキシル基数)=[{(d3)成分の仕込み重量}/(d3)成分の分子量(Mw)]×{(d3)成分のカルボキシル基の個数}」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特性を有する紙力増強剤を添加する工程を含むか不明である点。 (イ)相違点についての検討 上記相違点について検討する。 a 甲2の記載事項 甲2に記載された「(c)アクリルアミド」は本件発明1に係る「(メタ)アクリルアミド(d1)」に相当し、以下同様に、「(b)カチオン性ビニルモノマーとしてジメチルアミノエチルメタクリレート」は「カチオン性不飽和モノマー(d2)」に、「(a)アニオン性ビニルモノマーとしてアクリル酸」は「アニオン性不飽和モノマー(d3)」に、「共重合体水溶液」は「(メタ)アクリルアミド系重合体」に相当する。また、甲2に記載された共重合体水溶液における(b)成分におけるアミノ基数及び(a)成分におけるカルボキシル基数の比率が、(アミノ基数)/(カルボキシル基数)=1であって、本件発明1の「(アミノ基数)/(カルボキシル基数)=1~15である」の範囲内であると認められる。 b 甲1発明と甲2記載事項の組合せについて 甲1発明は「(i)安価填料である炭酸カルシウム利用による抄紙pHの上昇、(ii)古紙使用比率のアップ、(iii)抄紙排水低減のための抄紙系クローズド化が進んだ抄造条件下でも「抄紙系内で希釈安定性及びサイズ性に優れ、機械的安定性が良好な製紙用サイズ剤を提供すること」(甲1、【0003】、【0007】)を課題とし、上記課題を解決する製紙用サイズ剤として、特定のアミドを有する縮合物及び特定の(メタ)アクリルアミド系共重合体を含有するものが、優れたサイズ効果、硬水希釈安定性・機械的安定性に優れることを見出したものであり、その実施例をみても、紙力増強剤を使用することは記載されていない。 これに対し、甲2には「地合いと濾水性のバランスを容易にとることができ、このため紙力を向上させ、結果として紙の製造に用いる紙力増強剤の使用量を減少させることができる紙の製造方法を提供すること」(【0005】)を課題とし、その実施例において「紙料に硫酸バンドを1.0%添加してpH6.5とした」(【0043】)ことが記載されており、甲2に記載された紙力増強剤は紙料に水溶性アルミニウム化合物を含む環境下でパルプに吸着するものと認められる。また、甲2には、サイズ剤の使用について「なお、紙力増強剤の他に、硫酸アルミニウムやサイズ剤等を使用する場合」(【0008】)と記載されているのみであって、サイズ剤のサイズ効果を高めることを目的として紙力増強剤を使用することは記載されていない。 したがって、甲1発明と甲2に記載された事項は、いずれも紙の製造方法である点で共通するものの、それぞれ別の課題を有し、甲1発明において、水溶性アルミニウム化合物を添加しないまま、甲2記載の紙力増強剤のみを採用しようとする動機がない。 仮に、甲1発明に対して甲2記載の紙力増強剤を添加しようとしても、甲2記載の紙力増強剤は、パルプへの吸着にあたり、紙料が水溶性アルミニウム化合物を含む環境であることを前提とするのであって、甲2記載の紙力増強剤を、水溶性アルミニウム化合物を添加しないまま使用することには阻害事由があるといえ、甲1発明において、水溶性アルミニウム化合物を添加しないまま、甲2記載の紙力増強剤のみを採用する組合せには到達し得ない。 また、甲3~6には、抄紙系に両性の紙力増強剤を添加することや、紙力増強剤をサイズ剤の定着剤として用いることは記載されているものの、甲3~5に記載された紙力増強剤は、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)の添加を前提とするものであり、甲6に記載された化粧シートに用いられるサイズ剤は、脂肪酸系サイズ剤であって、甲1発明のサイズ剤と構造が異なるから、甲3~6に記載された事項は、甲1発明において、水溶性アルミニウム化合物を添加しないまま、甲2記載の紙力増強剤のみを採用しようとする動機付けの根拠にはなり得ない。 よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2~6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。 (ウ)申立人の主張について 申立人は、令和3年9月30日に提出した意見書において、次のように主張している。 「引用文献1の発明(以下、引用発明1といいます)は「製紙用サイズ剤」に関するものであり、引用文献2は「紙の製造方法」に関するものでありますので、これら文献の「技術分野」が同一であること明らかです。」 「また、引用文献2の段落0002には、「従来、紙を製造する際には、紙に強度を付与するべく紙力増強剤が用いられており、性能等の点からポリアクリルアミド系紙力増強剤が広く用いられている。」と記載されており、「紙に強度を付与すべく紙力増強剤を用いる」ことは従来一般定期に行われておりますし、また、製紙のために紙力増強剤を用いることは「引用発明の内容に示唆」されているともいえます。 一方、引用発明1に引用文献2の開示内容を適用することに関しては、何ら阻害事由はありません。」 当該主張について検討する。 上記(イ)にも記載したとおり、甲2記載の紙力増強剤は、紙料に硫酸バンドを添加した環境下で使用するものであって、甲1発明に甲2記載の紙力増強剤を採用した場合、紙料に水溶性アルミニウム化合物の添加が必要とされるから、本件発明1の「水溶性アルミニウム化合物(C)を添加せず」の要件を満たさない。 したがって、申立人の上記進歩性に係る主張は採用できない。 ウ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1に対して、さらに技術的事項を追加したものである。 よって、上記イに示した理由と同様の理由により、本件発明2は、甲1発明及び甲2~6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 明確性違反に関する申立て理由について (1)乳化剤(B)と紙力増強剤(D)との関係 申立人は、本件発明範囲には、乳化剤(B)が紙力増強剤(D)の要件を全て満たす場合が含まれる結果、 ・乳化剤(B)として紙力増強剤(D)の要件を全て満たすものを用いてもよいのか否か、また、 ・乳化剤(B)および紙力増強剤(D)として全く同一のものを用いてもよいのか否か、不明確であり、更に、乳化剤(B)と紙力増強剤(D)とが同一である場合、 ・本件請求項1の製紙用エマルジョンサイズ剤の添加工程を実施すれば、同時に紙力増強剤(D)の添加工程を実施したことになる(紙力増強剤(D)の添加工程を別途実施しなくてもよい)のか、或いは、 ・パルプスラリーへ製紙用エマルジョンサイズ剤を添加した後、エマルジョンサイズ剤に含まれる乳化剤(B)と同一の成分を、改めて紙力増強剤(D)として別途添加しなければならないのか、不明確である旨主張する(特許異議申立書第8~10頁)。 そこで検討する。本件特許の明細書には、乳化剤(B)の製造例(【0105】~【0108】)と、紙力増強剤の製造例(【0114】~【0116】)を比較すると、両者はアクリルアミドやイタコン酸、メタリルスルホン酸等を含有する点で共通することは記載されているものの、製造条件を含め同一の組成で製造されることは記載されていない。また、乳化剤(B)は、特定の脱水縮合物を乳化して製紙用エマルジョンサイズ剤を得るために使用するものであるのに対し、紙力増強剤(D)は、紙中へサイズ剤を高く定着させるためにパルプスラリーに添加するものであって、両者はそれぞれ異なる目的のために添加するものであるから、製紙用エマルジョンサイズ剤の添加工程を実施すれば、同時に紙力増強剤(D)の添加工程を実施したことになるものではないことは明らかである。 よって、申立人の上記明確性に係る申立理由は採用できない。 (2)スチレン類モノマーについて 申立人は、本件明細書では、スチレン類(b1)として、スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン類と、前記スチレン類の芳香環に炭素数1~4のアルキル基を有するスチレン系モノマーが例示されている(段落0028)一方で、スルホ基含有不飽和モノマー(b4)の例として「スチレンスルホン酸」が例示されていたり(段落0035)、紙力増強剤の(d1)成分~(d5)成分以外の成分(d6)として、スチレンとα-メチルスチレンが例示されていたりするため、本件請求項2の「スチレン類(b1)」の範囲が全く不明確である旨主張する(特許異議申立書第11頁)。 しかしながら、「スチレン類」という用語自体は、明確であるから、申立人の上記明確性に係る申立理由は採用できない。 2 サポート要件違反に関する申立て理由について (1)課題解決の機序について 申立人は、本件発明の課題の一つとして「抄紙工程時の臭気の低減」(本件明細書の段落0013)が挙げられているが、本件発明で当該課題が解決されていることは実証されていない旨主張する(特許異議申立書第12頁)。 そこで検討する。本件発明の解決しようとする課題は、従来、抄紙系において水溶性アルミニウム化合物である「硫酸アルミニウムを併用して、pH4.5~7.0の酸性から中性領域で抄造」(【0002】)していたため、臭気が生じやすかったことから、「抄紙系において水溶性アルミニウム化合物を使用せずに、優れたサイズ効果を示し、また臭気を低減できる紙の製造方法を提供すること」(【0006】)である。 当該課題に対し、本件発明1に係る「乳化剤(B)を含む製紙用エマルジョンサイズ剤を、パルプスラリーに添加する」ことは、「(B)成分を使用することにより、(A)成分の水に対する分散性が安定化し、幅広いpHの領域で、高いサイズ効果を確保する」(【0050】)という作用を奏するものであり、本件発明1に係る「更に・・・である両性の紙力増強剤(D)を添加する」ことは、「紙中へサイズ剤を高く定着させる」(【0057】)という作用を奏するものであって、本件発明1は、発明の詳細な説明に示された課題を解決するための手段が反映されたものである。 (2)乳化剤(B)に係る申立人の主張について 申立人は、本件請求項1に係る乳化剤(B)について、本件明細書の実施例で具体的に使われている乳化剤(B)は、特定のポリ(メタ)アクリル酸ポリマーのみであり(製造例2-1~2-4)、これらをあらゆる乳化剤に拡張ないし一般化することは到底できない旨主張する(特許異議申立書第13頁)。 そこで検討する。本件発明における乳化剤(B)は、上記(1)にも示したとおり、「(A)成分の水に対する分散性が安定化し、幅広いpHの領域で、高いサイズ効果を確保する」【0050】ために添加されるものであって、乳化剤(B)として、実施例で具体的に使われている乳化剤に限らず、エマルジョンサイズ剤を使用するpH領域に合わせて、【0025】に例示された「ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、両性乳化剤等」が使用可能であることは明らかである。 よって、申立人の上記サポート要件に係る申立理由は採用できない。 (3)紙力増強剤(D)について 申立人は、本件請求項1に係る紙力増強剤(D)について、本件明細書の実施例で具体的に使われている紙力増強剤(D)は、「カチオン性不飽和モノマー(d2)」として「ジメチルアミノエチルメタアクリレートまたはその塩」から合成されたもののみであり、「アニオン性不飽和モノマー(d3)」として「イタコン酸」と「メタリルスルホン酸ナトリウム」から合成されたもののみであり(段落0113~0116)、これを本件請求項1、2で規定されている紙力増強剤(D)に拡張ないし一般化することは到底できない旨主張する(特許異議申立書第14頁)。 そこで検討する。本件発明は、紙力増強剤(D)に係る要件として、(式1)及び(式2)を特定したうえで、「(メタ)アクリルアミド(d1)、カチオン性不飽和モノマー(d2)及びアニオン性不飽和モノマー(d3)を含むモノマー成分の(メタ)アクリルアミド系重合体であり、下記式1に従って求められるアミノ基数及び、下記式2に従って求められるカルボキシル基数の比率が、(アミノ基数)/(カルボキシル基数)=1~15である」ことを規定しており、当該比率が1~15から外れる紙力増強剤を添加した条件(実施例20及び24)では、紙力増強剤を添加しない実施例よりも定着率は高いものの、サイズ効果が劣ることが示されている(【0115】表2、【0121】表3)。 そうすると、高い定着率と優れたサイズ効果との両立は、当該比率を満たした紙力増強剤によって達成したものと認められるから、上記要件が特定された本件発明1の紙力増強剤は、上記本件発明の課題を解決するものである。 よって、申立人の上記サポート要件に係る申立理由は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700298

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