特許異議申立
2024-701001
二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法
- 審判番号
- 2024-701001
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-201972
- 登録番号
- 7466616
- 請求日
- 2024年10月11日
- 審決日
- 2025年10月14日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
- 【権利者代理人】木内 光春
- 【権利者代理人】大熊 考一
- 【権利者代理人】片桐 貞典
- 【権利者代理人】木内 加奈子
- 【異議申立人】伊藤 範子
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 関根 洋之
- 審判官 高松 大
- 分類
- P1651.121-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第113条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7466616号発明「二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7466616号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
特許第7466616号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7466616号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願(特願2022-201972号)は、令和3年(2021年)8月23日(パリ条約による優先権主張 2020年12月22日 米国、パリ条約の例による優先権主張 2021年4月12日 台湾)に出願した特願2021-135788号の一部を令和4年(2022年)12月19日に新たな特許出願としたものであって、令和6年4月4日にその特許権の設定登録がされ、令和6年4月12日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和6年10月11日に特許異議申立人 伊藤 範子(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和7年 1月20日付け:取消理由通知書
同年 4月21日 :意見書(特許権者)の提出
同日 :訂正請求書(この訂正請求書による訂正の
請求を、以下「本件訂正請求」という。)
の提出
同年 5月12日付け:手続補正指令書(方式)
同年 6月10日 :手続補正書(方式)(特許権者)の提出
同年 8月 5日付け:訂正請求があった旨の通知書
同年 9月 4日 :意見書(特許異議申立人)の提出
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7466616号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める請求項1についての訂正は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記溶解ポリエステル樹脂混合物は、リサイクルポリエステルおよび静電密着剤を含み、前記静電密着剤はエチレングリコールに溶解されて添加され、」
と記載されているのを、
「前記溶解ポリエステル樹脂混合物は、リサイクルポリエステルおよび静電密着剤を含み、前記リサイクルポリエステル材料の前記溶解ポリエステル樹脂混合物に対する重量比は、85%よりも大きく、100%以下であり、前記静電密着剤はエチレングリコールに溶解されて添加され、」
に訂正する。
3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1において、リサイクルポリエステル材料の溶解ポリエステル樹脂混合物に対する重量比の範囲を限定する訂正である。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
さらに、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の明細書の【0009】及び【0103】【表1】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
(2)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による請求項1についての訂正(訂正事項1に係る訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったから、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)は、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
キャスティングロール上に溶解ポリエステル樹脂混合物を形成して、厚いシートを形成し、
前記溶解ポリエステル樹脂混合物は、リサイクルポリエステルおよび静電密着剤を含み、前記リサイクルポリエステル材料の前記溶解ポリエステル樹脂混合物に対する重量比は、85%よりも大きく、100%以下であり、前記静電密着剤はエチレングリコールに溶解されて添加され、
引き延ばし前の前記厚いシートは、示差走査熱量測定(DSC)によって分析されると次の:結晶化割合が10%未満である、という物理的特性を有し、
前記厚いシートを双方向引き延ばして、二軸延伸ポリエステルフィルムを形成し、
前記二軸延伸ポリエステルフィルムは、次の:20℃/分の冷却速度で溶解状態において冷却された際、観察される再結晶温度(Tc(A))が175℃から200℃である、という物理的特性を有する、
ことを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。」
第4 取消しの理由の概要
令和7年1月20日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、次のとおりのものである。
理由1(進歩性欠如):本件特許の請求項1に係る発明は、最先の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1に係る特許は、同条の規定に違反してされたものである。
記
引用文献
・甲第1号証:特開2013-60584号公報(以下「甲1」という。)
・甲第2号証:“降温と昇温の違いは?その2|熱分析屋さんのつぶやき”,[online],2016年12月19日,PerkinElmer Japan,[令和6年9月9日検索],インターネット<URL:https://www.perkinelmer.co.jp/tabid/2111/Default.aspx>
・甲第4号証:特開2014-65282号公報
第5 取消理由通知書で通知した取消しの理由についての当合議体の判断
1 甲1発明
甲1には、実施例1に係る以下の2軸延伸ポリエステルフィルム製造方法の発明(甲1の【0256】~【0276】を参照のこと。以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「テレフタル酸及びエチレングリコールを直接反応させて水を留去し、エステル化した後、減圧下で重縮合を行なう直接エステル化法を用いて、連続重合装置により、酢酸マグネシウム四水和物のエチレングリコール溶液が添加された原料ポリエステル樹脂を得て、
原料ポリエステル樹脂の溶融体(メルト)を冷却(チル)ロールに押出し、押出されたメルトを、静電印加法を用いて冷却ロールに密着させて冷却し、厚さ4mmのポリエステルシート(降温度結晶化温度は185℃、密度法から算出した結晶化度は1.2%)を得て、この厚さ4mmのポリエステルシートを二軸延伸する、
二軸延伸ポリエステルフィルム製造方法。」
2 対比・判断
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「キャスティングロール上に溶解ポリエステル樹脂混合物を形成して、厚いシートを形成し、
前記溶解ポリエステル樹脂混合物は、ポリエステルおよび静電密着剤を含み、前記静電密着剤はエチレングリコールに溶解されて添加され、
前記厚いシートを双方向引き延ばして、二軸延伸ポリエステルフィルムを形成し、
ことを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。」
(相違点1)
本件特許発明1は、「前記溶解ポリエステル樹脂混合物は、リサイクルポリエステル」「を含み、前記リサイクルポリエステル材料の前記溶解ポリエステル樹脂混合物に対する重量比は、85%よりも大きく、100%以下であり、」「引き延ばし前の前記厚いシートは、示差走査熱量測定(DSC)によって分析されると次の:結晶化割合が10%未満である、という物理的特性を有し、」「前記二軸延伸ポリエステルフィルムは、次の:20℃/分の冷却速度で溶解状態において冷却された際、観察される再結晶温度(Tc(A))が175℃から200℃である」のに対し、甲1発明は、原料ポリエステル樹脂の溶融体がリサイクルポリエステルを含んでおらず、そのような構成を有するのか明らかでない点。
(2)判断
相違点1について検討する。
甲1の【0091】には「また、原料樹脂は、樹脂フィルムの粉砕片を混合して調製してもよい。樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルムが好適であり、原料樹脂中のポリエステル樹脂と同種のポリエステルのフィルムが好ましい。樹脂フィルムの粉砕片は、例えば不要となったフィルムを粉砕して小片(いわゆるチップ)や屑片等にした粉砕物である」と記載されているが、当該記載は、甲1発明において、リサイクルポリエステル材料の原料ポリエステル樹脂の溶融体に対する重量比を「85%よりも大きく、100%以下」として、厚さ4mmのポリエステルシートの結晶化度及び二軸延伸ポリエステルフィルムの再結晶温度を特定の範囲の値にすることまで示唆するものではない。また、甲1発明の解決しようとする課題は、「屋外で長期間の使用に耐えうる十分な耐加水分解性、電気絶縁性、強度のほか、透明性を有するポリエステルフィルム、およびその製造方法を提供」(【0005】)することであるところ、例えば甲4の段落【0004】に記載のとおり、リサイクルポリエステルに、「異物が付着、混入している場合が多」いことは技術常識であるから、甲1発明のこのような課題に照らしてみると、甲1発明において、リサイクルポリエステル材料を含まないポリエステル材料に替えて、より品質に劣るリサイクルポリエステル材料を多量に用いることは想定されていないといえる。
そうすると、甲1発明において、相違点1に係る構成を採用する動機付けはないというべきである。
また、仮に、甲1発明において、リサイクルポリエステル材料の原料ポリエステル樹脂の溶融体に対する重量比を「85%よりも大きく、100%以下」としたとても、当該リサイクルポリエステル材料に含まれる不純物の種類やその量が不明であるから、厚さ4mmのポリエステルシートの結晶化度及び二軸延伸ポリエステルフィルムの再結晶温度がどの程度の値となるかは不明である。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことではない。
(3)令和7年9月4日提出の意見書(特許異議申立人)について
ア 特許異議申立人は、令和7年9月4日提出の意見書4頁において、「主張(A)」(同3頁)に対する反論として、「甲1にはリサイクルポリエステル材料の使用が示唆されておりますし、リサイクルポリエステル材料をできるだけ多く用いるべきことは、甲1に直接の記載が無くても、一般的な社会的要請であるといえますので、リサイクルポリエステル材料の使用割合を「85%よりも大きく、100%以下」に規定することに技術的な困難性は無いと思料いたします。」と主張する。
しかしながら、上記(2)で述べたとおりであって、仮に、リサイクルポリエステル材料をできるだけ多く用いるべきことが一般的な社会的要請であるといえたとしても、甲1発明において、リサイクルポリエステル材料を含まないポリエステル材料に替えて、より品質に劣るリサイクルポリエステル材料を多量に用いることは想定されていない。
したがって、上記主張は採用することができない。
イ 「主張(B)」(同3頁)及び「主張(B)」(同3頁)に対する反論としての主張は、甲1発明において、リサイクルポリエステル材料を含まないポリエステル材料に替えて、より品質に劣るリサイクルポリエステル材料を多量に用いることができることを前提とするものであるところ、上記アで述べたとおりであるから、採用することができない。
3 小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、請求項1に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すべきものでない。
第6 令和7年9月4日提出の意見書(特許異議申立人)における新たな取消しの理由の主張について
特許異議申立人は、令和7年9月4日提出の意見書9頁において、「溶解ポリエステル樹脂混合物に対するリサイクルポリエステルの重量比が「100%」である場合、他の成分の含有量は「0%」であり、他の成分を含む余地は無くなりますので、「溶解ポリエステル樹脂混合物は、リサイクルポリエステルおよび静電密着剤を含み」との規定と矛盾します。また、「溶解ポリエステル樹脂混合物は、リサイクルポリエステルおよび静電密着剤を含」むのであれば、「リサイクルポリエステル材料の溶解ポリエステル樹脂混合物に対する重量比」が「100%」にはなり得ません。よって、訂正後の本件請求項1に係る発明は不明確であると思料いたします。」と主張する。
しかしながら、本件特許の明細書の【0103】【表1】の記載からみて、当該「リサイクルポリエステル材料の溶解ポリエステル樹脂混合物に対する重量比」は、リサイクルポリエステル材料の、溶解ポリエステル樹脂混合物中のポリエステル樹脂に対する重量比であることは明らかであるから、本件特許の請求項1に係る発明は明確であり、請求項1の記載は特許法36条6項2号の明確性要件を満たしている。
したがって、上記主張は採用することができない。
第7 むすび
請求項1に係る特許は、取消理由通知書によって通知した取消しの理由及び令和7年9月4日提出の意見書(特許異議申立人)に記載された取消しの理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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