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特許異議申立

2020-700881

膜

審判番号
2020-700881
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-505551外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6707519
請求日
2020年11月17日
審決日
2023年01月10日
公報発行日
2023年02月24日
結論
維持
審判長/審判官
分類
P1651.121-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6707519号発明「膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6707519号の請求項1~15に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 35項目
理 由

第1 手続の経緯

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本件の特許第6707519号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2015年(平成27年) 8月 4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年 8月 4日 英国(GB))を国際出願日とする出願であって、令和 2年 5月22日にその特許権の設定登録がされ、同年 6月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~15(全請求項)に係る特許について、令和 2年11月17日に特許異議申立人である特許業務法人朝比奈特許事務所(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、令和 4年 6月 3日付けで取消理由が通知され、同年 9月 1日に特許権者から意見書が提出されたものである。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1~15に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本願の請求項1~15に係る発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明15」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。

「【請求項1】
(i)非イオン伝導性複素環式ポリマーから構成される絡み合ったナノファイバーから形成される多孔質マットであって、複素環式ポリマーが、塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であり、ナノファイバーが、100~400nmの平均直径を有する、多孔質マット、及び
(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマー
を備えた電解質膜であって、
続きを表示(全38行)
多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布している、
電解質膜。
【請求項2】
ナノファイバーがスピニングされたナノファイバーである、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
(i)非イオン伝導性複素環式ポリマーから構成される絡み合ったナノファイバーから形成される多孔質マットであって、複素環式ポリマーが、塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であり、ナノファイバーが、スピニングされたナノファイバーである、多孔質マット、及び
(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマー
を備えた電解質膜であって、
多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布している、
電解質膜。
【請求項4】
複素環式ポリマーが、ポリベンズイミダゾール、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)、ポリベンズチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾール、ポリトリアゾール、ポリオキサゾール及びポリチアゾール、並びにこれらの誘導体の群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項5】
複素環式ポリマーがポリアゾール又はその誘導体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項6】
ポリアゾールが、ポリベンズイミダゾール、ポリトリアゾール、ポリチアゾール及びポリジチアゾール、並びにこれらの誘導体からなる群より選択される、請求項5に記載の電解質膜。
【請求項7】
多孔質マットが70~98%の範囲の空隙率を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項8】
多孔質マットが1.0g/m2から7g/m2の範囲の平均坪量を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項9】
電解質膜内のイオン伝導性ポリマー:ナノファイバーの重量比が70:30より大きい、請求項1から8のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の電解質膜と、前記電解質膜の第1及び/又は第2の面上の触媒層とを備える触媒化膜。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の電解質膜と、前記電解質膜の第1及び/又は第2の面上のガス拡散電極とを備える膜電極アセンブリ。
【請求項12】
請求項10に記載の触媒化膜と、前記触媒層上のガス拡散層とを備える、膜電極アセンブリ。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項に記載の電解質膜と、請求項10に記載の触媒化膜又は請求項11若しくは12に記載の膜電極アセンブリとを備える燃料電池。
【請求項14】
燃料電池がPEMFCである、請求項13に記載の燃料電池。
【請求項15】
請求項1から9のいずれか一項に記載の電解質膜を備える電気分解装置。」

第3 申立理由の概要

申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第12号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~15に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(進歩性)

(1)申立理由1-1(甲第1号証を主たる引用例とするもの、取消理由として採用)

本件特許発明1~15は、甲第1号証に記載された発明、及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、及び甲第5号証の2)に基いて、その技術の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由1-2(甲第5号証の2を主たる引用例とするもの、取消理由として不採用)

本件特許発明1~15は、甲第5号証の2に記載された発明、周知技術(甲第1号証、甲第4号証、甲第6号証、及び甲第7号証)、及び甲第8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由1-3(甲第6号証を主たる引用例とするもの、取消理由として不採用)

本件特許発明1~15は、甲第6号証に記載された発明、及び周知技術(甲第1号証~甲第5号証の2)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(明確性要件、取消理由として不採用)

本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3には、「(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマーを備え」ることが記載され、この「部分的に」「フッ素化されたスルホン酸ポリマー」には、主骨格および特性が異なる広範なスルホン酸ポリマーも含まれ得るが、これらの広範なスルホン酸ポリマーがいずれも本件特許発明の効果を奏することは、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)および実施例から認識あるいは推測することができず、本件明細書の記載からは、上記「部分的に」「フッ素化されたスルホン酸ポリマー」が、いかなるスルホン酸ポリマーを意味しているか明確でない。

したがって、本件特許の請求項1、3及びこれらを直接又は間接的に引用する請求項2、4~15の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(サポート要件、取消理由として不採用)

本件特許発明1、3は、「(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマーを備え」るとの構成要件を備えるものであるが、本件特許明細書に実施例として開示されているのは、「完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマー」の例のみであり、「部分的に」「フッ素化されたスルホン酸ポリマー」を用いた場合であっても、本件特許発明の課題を解決し得るかどうかは、本件明細書に開示も示唆もないし、本願の出願時における技術常識でもない。

したがって、本件特許の請求項1、3及びこれらを直接又は間接的に引用する請求項2、4~15の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

<証拠方法>

甲第1号証 :特開2005-68396号公報
甲第2号証 :特開2012-238590号公報
甲第3号証 :特開2009-243031号公報
甲第4号証 :特開2011-246695号公報
甲第5号証の1:国際公開第2011/149732号
甲第5号証の2:特表2013-531867号公報(甲第5号証の1に対応する公表公報)
甲第6号証 :特開2007-83467号公報
甲第7号証 :特開2010-232121号公報
甲第8号証 :石田拓也 他3名, Nafion膜の構造と力学特性、Journal of the Society of Materials Science, Japan, Vol.56, No.11, pp.1005-1009, Nov. 2007
甲第9号証 :後藤幸平 他4名、伝導性・耐久性に優れた燃料電池用の芳香族系高分子電解質膜の開発、JSR TECHNICAL REVIEW No.116/2009, pp.1-11
甲第10号証 :特開2005-38834号公報
甲第11号証 :特開2006-45512号公報
甲第12号証 :特開2007-103378号公報

(以下、単に「甲1」等という。なお、甲第5号証の2を「甲5の2」という。)

第4 令和 4年 6月 3日付けで通知された取消理由の概要

令和 4年 6月 3日付けで当審から特許権者に対して通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

1 取消理由1(進歩性)

本件特許発明1~15は、甲1に記載された発明、及び甲2~甲4、甲5の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第5 本願明細書等の記載事項

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本願の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本願明細書等」という。)には、以下の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。

1 「【0008】
上述のような強化膜により、機械的強度を維持しながらより薄い膜を使用することが可能になったが、依然として欠点が存在する。特に、比較的高いレベル(例えば冷状態からのスタートアップ)から極度の乾燥レベル(最大定格出力密度での動作)まで短時間のあいだに極めて大きく湿度の条件が変動し、膜が許容限度を超えて劣化しうる実用運転において、限界が見られる。この運転を模倣及び加速するように設計された加速ストレス試験において、湿性/乾性サイクル加速ストレス試験は、このような膜の解膨潤効果をより迅速に観察することができるように、膜の膨潤/解膨潤を引き起こす。
【0009】
本発明の目的は、PEMFC及びPEM 電気分解装置における使用に適した改良型電解質膜を提供することである。」
2 「【0010】
本発明は、
(i)非イオン的伝導性複素環式ポリマーからなるナノファイバーの多孔質マットであって、複素環式ポリマーが塩基性官能基を含み、有機溶媒に可溶である、多孔質マット、
及び
続きを表示(全14行)
(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマー
を備えた電解質膜であって、
多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜内の多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布している、
電解質膜を提供する。
・・・
【0015】
多孔質マットは、塩基性官能基を含む非イオン的伝導性の複素環式ポリマーの絡み合ったナノファイバーから形成される。複素環式ポリマーは、有機溶媒に可溶であり、特にポリマーはN-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)又はジメチルスルホキシド(DMSO)、適切にはDMAc又はDMSO、好ましくはDMAcに可溶である。
・・・
【0019】
複素環ポリマー、好ましくは塩基性複素環ポリマーには、ポリベンズイミダゾール、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)、ポリベンズチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾール、ポリトリアゾール、ポリオキサゾール及びポリチアゾール及びこれらの誘導体が含まれる。適切には、ポリマーは、官能化ポリアゾール又は双性イオン性ポリアゾール、例えばポリベンズイミダゾール、ポリトリアゾール、ポリチアゾール及びポリジチアゾール及びこれらの誘導体、最も適切にはポリベンズイミダゾールである。」
3 「【0029】
イオン伝導性ポリマーは、適切には、プロトン伝導性ポリマー、特に部分的又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーである。適切なプロトン伝導性ポリマーの例には、ペルフルオロスルホン酸イオノマー(例えばNafion(登録商標)(E.I.DuPont de Nemours and Co.)、Aciplex(登録商標)(Asahi Kasei)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymer)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Co.)が含まれる。」
4 「【0052】
実施例1
膜の製造
PBI Performance Products Inc.から得られるポリ[2,2`-(m-フェニレン)-5,5`-ビベンズイミダゾール](PBI)を、以下のパラメーターを用いて、ジメチルアセトアミド(DMAc)中13%溶液からエレクトロスピニングした:印加電圧15kV、流速0.12mL/時;針コレクターの距離10cm;ドラム式コレクター回転速度800rpm;及び並行移動速度10mm/s。エレクトロスピニングされたマットをドラムから取り出した。
続きを表示(全15行)
【0053】
PBIエレクトロスピニングマットは、ランダムに方向付けられたナノファイバーを含み、このナノファイバーは、140から280nmという比較的狭い繊維直径分布で平均繊維直径200nmを有し、長さは数十ミクロンである。
・・・
【0055】
エレクトロスピニングされたPBIマットは、厚さ10μm、空隙率83%及び坪量2.27g/m2を有する。
【0056】
Solvay Specialty Polymers社のAquivion(登録商標)PFSA当量700g/molの分散物(H2O/1-プロパノール/DMAc中60/35/5で13重量%)を、ドクターブレード法を用いてテフロンプレートにキャストした。次いで、PBIエレクトロスピニングマットを、キャストしたPFSA分散物の上に直接配置した。キャストしたPFSA分散物のナノファイバーマット中への含浸を目視により確認し、次いでPFSA分散物の第2の層をPBIエレクトロスピニングマットの上にキャストした。膜全体の厚さを、ドクターブレードのゲート厚により制御した。キャストされた電解質膜をまず室温で、続いて80℃で一晩乾燥させ、次いで高温(160℃)でホットプレスした(25kg/cm2)。
【0057】
溶媒除去及びホットプレスの後では、電解質膜は公称厚み30μmを有し、エレクトロスピニングPBIマットは電解質膜の厚さの約85%に広がっていた。電解質膜中のPFSA:ナノファイバーの重量比は90:10であった。
【0058】
電解質膜のSEM画像を図4に示す。断面のSEMを、液体窒素中における試料の凍結開裂法により行った。図4は、エレクトロスピニングされたマットが含浸の間に繊維のいくらかの変位を許容することにより、電解質膜の断面全体に繊維が存在することを示している。これは、電解質膜内部にPFSA-欠損領域がなくなるためにプロトンの伝導に対する障壁を低減するという利点を有する。これはまた、膨潤に起因する機械的ストレスを許容する電解質膜の柔軟性を高めることができる。凍結開裂後にはナノファイバーとPFSAマトリックスの間に目に見える分離はなく、エレクトロスピニングされたマットとPFSAの間の良好なインターフェースが示された。電解質膜では、ナノファイバーは、完全にPFSAに浸漬しているように見え、二つの間のインターフェースは明らかでなく、PFSAがナノファイバーの表面に強力に付着していることが示された。」
5 「【0059】
実施例2(比較)
DMAc/アセトン中20wt%のポリエーテルサルホン(PES)の溶液を、回転及び並行移動ドラム式コレクター上に25℃でエレクトロスピニングした。ナノファイバーを、140℃で収集及びプレスした。Solvay Specialty Polymers社のAquivion(登録商標)PFSA当量700g/molの分散物(H2O/1-プロパノール/DMAc中70/30で13重量%)を、ドクターブレード法を用いてテフロンプレート上にキャストした。次いで、PESエレクトロスピニングマットを、キャストしたPFSA分散物の上に直接配置した。次いでPFSA分散物の第2の層を、PESエレクトロスピニングマット上にキャストした。膜全体の厚さを、ドクターブレードのゲート厚保により制御した。キャストされた電解質膜を50℃で、次いで120℃で、次いで145℃で乾燥させた。
【0060】
実施例3(比較):
790g/mol(EW790)の当量でAquivion(登録商標)PFSAから調製された30μmの非強化膜
【0061】
実施例4(比較)
実施例1で使用された、700g/mol(EW700)の当量のAquivion(登録商標)PFSAから調製された30μmの非強化膜」
6 「【0069】
MEAの作製
MEA1:実施例1の膜及び電極を、テンプレートを使用して52x52mmにカットし、サブガスケットを使用して25cm2の活性面積を画定した。電極は、アノードに0.2mg/cm2の、カソードに0.4mg/cm2の白金触媒負荷をそれぞれ有する標準的な電極であった。MEAを、150℃で5分間のホットプレスにより作製した。
【0070】
続きを表示(全33行)
MEA2(比較):MEA2を、MEA1について記載した作製方法に従って、実施例2の膜を用いて調製した。
【0071】
MEA3(比較):MEA3を、MEA1について記載した作製方法に従って、実施例3の膜を用いて調製した。
【0072】
MEA4:MEA4を、実施例1の膜を用いて、活性面積が45cm2であり、MEAを170℃で2分間のホットプレスにより作製したことを除き、MEA1について上述した方式と同様にして、調製した。
【0073】
MEA5(比較):MEA5を、MEA4について記載した作製方法に従って、実施例3の膜を用いて調製した。
【0074】
MEA6(比較):MEA6を、MEA4について記載した作製方法に従って、実施例4の膜を用いて調製した。
【0075】
耐久性試験
開放電圧(OCV)ホールド加速ストレス試験:
膜の耐久性を評価するために、OCVホールド試験を以下の条件下で実施した:膜電極アセンブリを、85℃及び13%RHで開放電圧に保持し、セル電圧の下降を一定の時間にわたって監視した。図5に示すように、MEA3はOCVの大きな下降を示す一方、MEA1のOCVの下降はそれよりもずっと小さかった。
【0076】
湿性-乾性サイクル加速ストレス試験:
加水/脱水により引き起こされる体積の変化に対する膜の耐久性をさらに評価するために、湿性-乾性サイクル試験を、80℃及びOCVで、0%のRH(10分)から90℃の露点(10分)までを循環させることにより実施した。図6は、MEA1がMEA2及びMEA3と比較してはるかに安定性が高いことを示している。150時間後、MEA2とMEA3はOCVの崩壊率の上昇を示したが、MEA1は、依然として安定であり、MEA2及びMEA3と比較して有意に低い崩壊率を示し、これは、ナノファイバーの強化により、加水と脱水による体積変化により生じるストレスに対する機械的強度及び一体性が提供され、その結果安定性が大きく向上したことを示している。
【0077】
スタック耐久性試験:
活性面積45cm2の9個のMEAを含む短い燃料電池スタックを、MEA4、MEA5及びMEA6の各々からなる3個のMEAを含むように構築した。スタックを、現実環境における燃料電池の動作の実際の荷重サイクル条件を再現するように設計された加速耐久性試験のプロトコール化で動作させた。試験のプロトコールは、一定の高電流動作の反復期間と、それに続く高電流条件と低電流条件の循環、次いで低電流条件からシャットダウンへの切り替えと定電流条件へのスタートアップ(即ちオン-オフサイクルの繰り返し)を含んでいた。これら実際の動作モード間の急速なサイクルは、もっと短い時間の間に、現実生活動作の10万時間にわたる実際の燃料電池動作に見られるであろう動作特性を加速するように設計された。加速試験サイクルは、50kPagの入口圧及び30%の入口相対湿度(RH)、80℃のスタック温度で実施された。ガスを、アノードについて1.5×ストイキオメトリで、カソードについて2.0×ストイキオメトリで供給した。耐久性試験は約2000時間にわたり実行された。耐久性試験のプロトコール中定期的に、スタック中のMEAの性能を、電流対電圧分極化を実行することにより測定した。このような分極化試験は、アノード及びカソード両方について、70℃のスタック温度、大気圧、100%RHで実施した。水素/空気に対する分極化測定に基づいて、0.3Acm-2の電流密度における個々の電池電圧対時間のグラフを作成した。MEA4、MEA5及びMEA6のMEA型各々の電池電圧は、短いスタックに取り込まれた各種類3つのMEAから平均化された。
【0078】
三つのMEAの平均MEA電圧耐久性を図7に示す。図示のように、MEA5及びMEA6の各々は750時間付近において劇的な性能(電池電圧)の低下を示しているが、MEA4は、2000時間の試験中ずっと極めて安定したセル電圧を維持している。この燃料電池スタックの耐久性試験は、強化されていないが、他の点では同様の膜を用いる他のMEAと比較して、本発明の強化膜を用いるMEAに耐久性の大きな亢進が得られることを明瞭に示している。
【0079】
全体として、試験結果から、本発明のMEAが、対応する非強化膜又は異なる種類の強化材を用いた膜によって示されるものを超える耐久性の向上を示すことが分かる。
【0080】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、これが、エレクトロスピニングされたマットの相分離及び連続性と、エレクトロスピニングされたウェブ中のイオン伝導性ポリマーとナノファイバーの表面間のイオン性架橋(酸-塩基相互作用、又は水素結合)に起因するものであると考える。加えて、エレクトロスピニングされたマットは、繊維が厚み方向に沿って互いに対して移動可能であることにより厚み方向への膨潤の増大を可能にするが、繊維は弾性でないために面内方向への膨潤を制限する。
【0081】
さらに、エレクトロスピニングされたマットを形成するために使用される複素環式ポリマーは、酸化防止剤特性を有し、ペルオキシ遊離ラジカルのような有害種を除去することにより、電解質膜の安定性に寄与することができる。このような酸化防止剤特性により、酸化防止剤又はセリアのような過酸化水素分解触媒を膜に取り込む必要がもはやないのかもしれない。
【0082】
また、ナノファイバーとイオン伝導性ポリマーの間の強力な非共有結合性の相互作用が、動作中のピンホール形成といった小さな損傷後の電解質膜の再形成又は自己治癒を可能にすることが考えられる。このような再形成方法は、圧力/温度(動作中の燃料電池に既存の条件)の適用により促進されるであろう。」
7 「
【図5】
[図:0001393966000001.jpg]
」
8 「
【図6】
[図:0001393966000002.jpg]
」
9 「
【図7】
[図:0001393966000003.jpg]
」

第6 各甲号証の記載事項、及び甲1、甲5の2、甲6に記載された発明

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1 甲1の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲1には、「複合イオン交換膜」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
両面に開孔部を持つ連続した空隙を有する支持体膜にイオン交換樹脂が含浸されてなる複合膜を有する複合イオン交換膜であって、該支持体膜の空隙へのイオン交換樹脂の充填率が、90%以上であることを特徴とする複合イオン交換膜。
・・・
【請求項7】
支持体膜がポリベンザゾール系ポリマーからなることを特徴とする請求項1乃至6の少なくともいずれかに記載の複合イオン交換膜。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は電解質膜に関係し、詳しくは、液体燃料透過抑止性に優れるとともに高いイオン伝導性を有する複合イオン交換膜に関するものである。」
(3)「【0003】
液体燃料を燃料として使用する燃料電池のイオン交換膜には、通常プロトン伝導性のイオン交換樹脂膜が使用される。
・・・
【0008】
ポリベンゾオキサゾール(PBO)やポリベンズイミダゾール(PBI)のようなポリベンザゾール系ポリマーは高耐熱性、高強度、高弾性率の点で優れることから、高分子固体電解質膜の補強材料に適していることが期待される。・・・」
(4)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、液体燃料透過性が低く、かつイオン伝導性に優れた高分子固体電解質膜として使用するのに適した複合イオン交換膜ならびに複合イオン交換膜を使用した燃料電池を提供するものである。」
(5)「【0025】
本発明の支持体膜として使用されるポリベンザゾール系ポリマーとは、ポリマー鎖中にオキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環を含む構造のポリマーをいい、下記一般式で表される繰り返し単位をポリマー鎖中に含むものをいう。
【0026】
【化5】
[図:0001393966000004.jpg]
【0027】
ここで、Ar1,Ar2,Ar3は、芳香族単位を示し、各種脂肪族基、芳香族基、ハロゲン基、水酸基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基等の置換基を有していても良い。これら芳香族単位は、ベンゼン環などの単環系単位、ナフタレン、アントラセン、ピレンなどの縮合環系単位、それらの芳香族単位が2個以上任意の結合を介してつながった多環系芳香族単位でも良い。また、芳香族単位におけるNおよびXの位置はベンザゾール環を形成できる配置であれば特に限定されるものではない。さらに、これらは炭化水素系芳香族単位だけでなく、芳香環内にN,O,S等を含んだヘテロ環系芳香族単位でも良い。XはO,S,NHを示す。
上記Ar1は、下記一般式で表されるものが好ましい。」
(6)「【0088】
支持体膜の多孔質構造を実現する手段としては、製膜されたポリベンザゾール系ポリマー溶液を、貧溶媒と接触させて凝固する方法を用いる。貧溶媒はポリマー溶液の溶媒と混和できる溶媒であって、液相状態であっても気相状態であっても良い。さらに、気相状態の貧溶媒による凝固と液相状態の貧溶媒による凝固を組み合わせることも好ましく用いることができる。凝固に用いる貧溶媒としては、水、酸水溶液や無機塩水溶液の他、アルコール類、グリコール類、グリセリンなどの有機溶媒等を利用することができるが、使用するポリベンザゾール系ポリマー溶液との組み合わせによっては、支持体膜の空隙率が小さくなったり、支持体膜の内部に不連続な空洞ができたりするなどの問題が生じるため、凝固に用いる貧溶媒の選択には特に注意が必要である。本発明における等方性ポリベンザゾール系ポリマー溶液の凝固においては、水蒸気、メタンスルホン酸水溶液、リン酸水溶液、グリセリン水溶液の他、塩化マグネシウム水溶液などの無機塩水溶液などの中から貧溶媒と凝固条件を選択することにより支持体膜表面および内部の構造、空隙率を制御するに至った。特に好ましい凝固の手段は水蒸気と接触させて凝固する方法や、凝固の初期において水蒸気に短時間接触させた後に水に接触させて凝固する方法、メタンスルホン酸水溶液に接触させて凝固する方法などである。
・・・
【0091】
上記に述べたポリベンザゾール系ポリマー溶液を用い、上記に述べたような方法から選ばれた適当な凝固手段を用いることにより本発明の目的に適した構造を有するポリベンザゾール系ポリマーよりなる支持体膜が得られる。すなわち、支持体膜の少なくとも一方の表面に開口部を持つ連続した空隙を有する多孔質の支持体膜である。支持体膜はポリベンザゾール系ポリマーのフィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、三次元的に連続した空隙を有することを、実施例に示したような原子間力顕微鏡を用いる水中での支持体膜表面の観察、および、エポキシ包埋-脱エポキシにより水中の構造を保持した支持体膜の透過型電子顕微鏡観察による断面観察から確認した。特開2002-203576には膜の厚さ方向に貫通する連通孔を有する膜支持体にイオン伝導性物質が導入された電解質膜が記載されているが、これに記載されているような連通孔の方向性が主に膜の厚さ方向に限定されている支持体を燃料電池の電解質膜に用いた場合、膜の面方向のイオン伝導性物質の連続性が小さいために燃料電池のイオン交換膜に用いた場合に燃料ガスの濃度分布や電極触媒の付着量など面方向に不均一な状態が生じ、イオン交換膜の局所的な劣化が生じやすいなどの問題があるため好ましくない。
・・・
【0094】
さらに本発明の支持体膜の空隙率は50体積%以上であることが好ましく、さらに好ましくは70体積%以上である。空隙率がこの範囲よりも小さいと、イオン交換樹脂を複合化させた場合のイオン交換樹脂の含有率が小さく、イオン伝導性が低下するため好ましくない。一方、液体燃料透過性とイオン伝導性を両立するためには、支持体膜の空隙率は99.5体積%以下であることが好ましく、さらに好ましくは99体積%以下である。強固なポリベンザゾール系ポリマーの三次元構造により、イオン交換樹脂の膨潤を抑えることが可能であるため、液体燃料透過性をイオン交換樹脂単独から構成される固体高分子電解質膜に比べて、低く抑えることが可能となる。」
(7)「【0098】
その結果、両面に開孔部を持つ連続した空隙を有する支持体膜にイオン交換樹脂が含浸されてなる複合膜を有する複合イオン交換膜であって、該支持体膜の空隙へのイオン交換膜の充填率が、90%以上であることを特徴とする複合イオン交換膜を作製可能であり、好ましくは94%以上、さらに好ましくはは98%以上であることを特徴とする複合イオン交換膜を作製できる。そのため、高いプロトン伝導性と低液体燃料透過性を両立することができる。」
(8)「【0125】
また、本発明の複合イオン交換膜は、表面に主としてイオン交換樹脂から形成される表面スキン層が存在している方が好ましく、三層構造からなる複合イオン交換膜となる。複合イオン交換膜が該複合層と該表面層を有することにより、表面に触媒層を形成させた際の触媒層との密着性に優れるという特長を有する。この際、複合イオン交換膜全体としての厚みは30から200μmの範囲にあり、かつ複合イオン交換膜に占める複合層の厚みの割合が、複合イオン交換膜の厚みに対して25から98%の範囲にあることが望ましい。複合イオン交換膜全体としての厚みが30μmよりも薄くなると、液体燃料透過抑止性が低下するため発電性能が低下し、逆に200μmよりも厚くなると、イオン伝導性が低下する。また、該表面層が存在しない場合は、触媒層との密着性が悪くなり、イオン伝導性が低下するため好ましくなく、該表面層の厚みが厚くなりすぎると、複合層による補強の効果が複合イオン交換膜の最外表面まで及ばず、複合イオン交換膜が吸湿した場合に表面層のみが大きく膨潤して表面層が複合層から剥離するなどするため好ましくない。」
(9)「【0137】
<複合イオン交換膜中の複合層空隙率>
複合イオン交換膜中の複合層の空隙率は次の方法により測定した。まず5×5cmの大きさに切り出したサンプルの複合層の厚みと面積から複合層の体積Vm[mL]を算出した。次いで、複合イオン交換膜サンプル中に占める支持体膜の重量および支持体膜を形成する材料の密度から支持体膜の体積Vwを算出した。次いで、VwとVmから以下の計算により支持体膜の空隙率を求めた。
複合イオン交換膜中の複合層空隙率[%]=(Vm-Vw)/Vm×100」
(10)「【0146】
<発電特性>
下記2種類の方法により発電特性を評価した。
<発電特性評価1>
デュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液(品番:SE-20192)に、触媒担持カーボン(カーボン:Cabot社製ValcanXC-72、白金-ルテニウム触媒担持量:40重量% 白金/ルテニウムのモル比=1/1)を、白金-ルテニウム触媒とナフィオン(商品名)の重量比が2.7:1になるように加え、撹拌して触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、東レ製カーボンペーパーTGPH-060に白金の付着量が2mg/cm2になるように塗布、乾燥して、アノード用電極触媒層付きガス拡散層を作製した。また、デュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液(品番:SE-20192)に、触媒担持カーボン(カーボン:Cabot社製ValcanXC-72、白金触媒担持量:40重量%)を、白金触媒とナフィオンの重量比が2.7:1になるように加え、撹拌して触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、東レ製カーボンペーパーTGPH-060に白金の付着量が1mg/cm2になるように塗布、乾燥して、カソード用電極触媒層付きガス拡散層を作製した。上記2種類の電極触媒層付きガス拡散層の間に、膜試料を、電極触媒層が膜試料に接するように挟み、ホットプレス法により120℃、2MPaにて3分間加圧、加熱することにより、膜-電極接合体とした。この接合体をElectrochem社製評価用燃料電池セルFC25-02SPに組み込んでセル温度80℃で、アノードおよびカソードにそれぞれ75℃の水・メタノール混合溶液と空気を供給し、電流密度0.2A/cm2で放電試験を行った。
<発電特性評価2>
・・・
【0147】
実施例1
ポリ燐酸中にIV=26dL/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを14重量%含んだドープにメタンスルホン酸を加えて希釈し、ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール濃度1重量%の等方性溶液を調製した。この溶液を、75℃に加熱したガラス板上にクリアランス600μmのアプリケータを用いて製膜した。このようにしてガラス板上に製膜したドープ膜をそのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って支持体膜を作成した。作成した支持体膜は両面に開口部を持つ連続した空孔を有する多孔質の膜であることを顕微鏡による表面形態観察により確認した。この支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定し、支持体膜の内部の水をイオン交換樹脂溶液であるデュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液(品番:SE-20192)の溶媒組成とほぼ同じ水:エタノール:1-プロパノール=26:26:48(重量比)の混合溶媒で置換した。この支持体膜を20%ナフィオン(商品名)溶液に25℃で15時間浸漬した後溶液から取り出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したナフィオン(商品名)溶液の溶媒を風乾により揮発させ乾燥させた。乾燥させた膜は60℃のオーブン中で1時間予備熱処理して残留した溶媒を除いた後、窒素雰囲気下、140℃で1時間熱処理を行なうことにより実施例1の複合イオン交換膜を調製した。」
(11)「【0158】
実施例1、2、3、4、5、比較例1、2、3、4、5、6の物性値を表1に示す。
【0159】
【表1】
[図:0001393966000005.jpg]
【0160】
実施例1から5の複合イオン交換膜は、比較例のイオン交換膜または複合イオン交換膜と対比して、イオン伝導度とメタノール透過抑止性がいずれも優れており、優れた発電特性を有する燃料電池を提供可能であることが分かる。また実施例4及び5の複合イオン交換膜の性能が特に優れるのは、炭化水素系イオン交換樹脂と複合化した効果が、良い形で現れたためと考えている。いずれかに劣る膜は優れた電池性能が発現されない。また、比較例6は、イオン伝導度とメタノール透過性が両立されているように見えるが、膜厚が厚いために、膜抵抗が実施例の膜に比べて大きく、性能を引き出すことができない。」
(12)「【図1】
[図:0001393966000006.jpg]
【図2】
[図:0001393966000007.jpg]
」

2 甲1に記載された発明

上記1(1)~(12)の記載事項を総合勘案し、特に、実施例1の「複合イオン交換膜」に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

なお、上記1(6)に摘記した【0091】の「支持体膜はポリベンザゾール系ポリマーのフィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、三次元的に連続した空隙を有することを、実施例に示したような原子間力顕微鏡を用いる水中での支持体膜表面の観察、および、エポキシ包埋-脱エポキシにより水中の構造を保持した支持体膜の透過型電子顕微鏡観察による断面観察から確認した。」との記載を考慮すると、実施例1の「複合イオン交換膜」における「支持体膜」は、「フィブリル状繊維から形成される立体網目構造からな」るものと認められる。

「ポリ燐酸中にIV=26dL/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを14重量%含んだドープにメタンスルホン酸を加えて希釈して調整したポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール濃度1重量%の等方性溶液を、75℃に加熱したガラス板上にクリアランス600μmのアプリケータを用いて製膜し、このようにしてガラス板上に製膜したドープ膜をそのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って作成したものであって、フィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、両面に開口部を持つ連続した空孔を有する多孔質の膜であることを顕微鏡による表面形態観察により確認した支持体膜を、
水中でステンレス製のフレームに固定し、支持体膜の内部の水をイオン交換樹脂溶液であるデュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液(品番:SE-20192)の溶媒組成とほぼ同じ水:エタノール:1-プロパノール=26:26:48(重量比)の混合溶媒で置換し、
この支持体膜を20%ナフィオン(商品名)溶液に25℃で15時間浸漬した後溶液から取り出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したナフィオン(商品名)溶液の溶媒を風乾により揮発させ乾燥させ、乾燥させた膜を60℃のオーブン中で1時間予備熱処理して残留した溶媒を除いた後、窒素雰囲気下、140℃で1時間熱処理を行なうことにより調整した複合イオン交換膜であって、
複合イオン交換膜の全膜厚が69μmであり、複合層の厚みが54μmであり、表面ICP(イオン交換樹脂)層厚み(表面)が8μmであり、表面ICP層厚み(裏面)が7μmであり、複合層の空隙率が91%であり、複合イオン交換膜空隙へのICP含有率が98%である、
複合イオン交換膜。」(以下、「甲1発明」という。)

3 甲2の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲2には、「複合膜およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布の空隙にスルホン化ポリイミドが充填されており、しかもリン酸を含む複合膜。
【請求項2】
ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を作製する工程、
前記ナノファイバー不織布の空隙に、スルホン化ポリイミドを充填する工程、
スルホン化ポリイミドを充填する前のナノファイバー不織布、及び/又は、スルホン化ポリイミドを充填した後のナノファイバー不織布に、リン酸をドープする工程、
を含む、複合膜の製造方法。
・・・
【請求項5】
ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を静電紡糸法により作製する、請求項2~4のいずれか一項に記載の製造方法。」
(2)「【0057】
ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布を静電紡糸法により作製することにより、均一性が高く、空隙率の高い支持体とすることができる。ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布の空隙率は、50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、更に好ましくは85%以上であり、上限は99%である。
・・・」
(3)「【0072】
《合成例2:ポリベンズイミダゾールナノファイバー不織布の作製》
ジメチルスルホキシド(DMSO)に合成例1のポリベンズイミダゾールを加えたバイアル瓶を窒素で満たし、一晩攪拌し、8重量%となるように溶解させ、ポリベンズイミダゾール溶液を調製した。エレクトロスピニング装置7100-E0003(Fuence社製)のコレクター部位にガラス皿を設置し、エレクトロスピニング装置に、ポリベンズイミダゾール溶液が充填されたシリンジをセットして、ポリベンズイミダゾール溶液の放出量を0.12mL/時として、エレクトロスピニングを行った。シリンジとコレクターの距離を10cmとし、シリンジに20kvの電圧を印加した。これにより、PBIナノファイバー不織布をガラス皿上に積層した。また、得られたPBIナノファイバーは一部アルミホイル上に積層させ80℃で6時間真空乾燥させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。SEM画像の結果から均一なナノファイバーが作製できたことを確認し、そのファイバー径は約100nmであった。」

4 甲3の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲3には、「ナノファイバー、電解質膜、膜電極接合体及び燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
ポリイミドを含むナノファイバーであって、
該ポリイミドは、スルホン酸基を有する構成単位を有することを特徴とするナノファイバー。
・・・
続きを表示(全13行)
【請求項6】
エレクトロスピニング法を用いて製造されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のナノファイバー。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のナノファイバーを含むことを特徴とする電解質膜。
・・・
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれか一項に記載の電解質膜が電極と接合されていることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項13】
請求項12に記載の膜電極接合体を有することを特徴とする燃料電池。」
(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、優れたプロトン伝導性と高温での安定性を両立することのできるナノファイバー、該ナノファイバーを含む電解質膜、該電解質膜を有する膜電極接合体及び該膜電極接合体を有する燃料電池を提供することを目的とする。」
(3)「【0035】
本発明のナノファイバーは、平均ファイバー径が30~1000nmであることが好ましく、300nm以下が特に好ましい。平均ファイバー径が30nm未満であると、製造が困難になることがあり、1000nmを超えると、プロトン伝導性及び高温での安定性を向上させる効果が小さくなることがある。
【0036】
本発明のナノファイバーを製造する方法としては、特に限定されないが、ファイバー径の制御を考慮すると、エレクトロスピニング法が好ましい。」
(4)「【0049】
[実施例1~5]
N,N-ジメチルホルムアミドに合成例1で得られたスルホン化ランダムコポリイミド塩を加えて、一晩攪拌し、14重量%(実施例1)、15重量%(実施例2)、17重量%(実施例3)、18重量%(実施例4)及び19重量%(実施例5)となるように溶解させ、スルホン化ランダムコポリイミド塩溶液を調製した。
【0050】
次に、エレクトロスピニング装置7100-E0003(Fuence社製)に、実施例1~5のスルホン化ランダムコポリイミド塩溶液が充填されたシリンジをセットして、スルホン化ランダムコポリイミド塩溶液の放出量を0.12mL/時として、エレクトロスピニングを行った。なお、コレクターは、両端にアルミニウム製の電極が設置されたガラス基板であり、コレクターの中央部にろ紙を設置した。また、シリンジと基板の距離を10cmとし、シリンジ及びコレクターの両端に設置された電極の一方にそれぞれ24kV及び1kVの電圧を印加した。これにより、1軸配向ナノファイバー集積体をろ紙上に作製した。
【0051】
スルホン化ランダムコポリイミド塩溶液の放出時間がそれぞれ60秒及び120秒のときに、ろ紙を切り取り、80℃で10時間真空乾燥した後、金でコーティングし、SEMによるナノファイバー集積体の観察を行った(JEOL製JSM-6100で観察、撮影を行った)。観察したSEM像から各スルホン化ランダムコポリイミド塩溶液を用いて作製されたナノファイバーのファイバー径を算出した。その結果を図2に示す。また、図3に、実施例1のナノファイバー(放出時間60秒)のSEM像を示す。」
(5)「【0056】
【表1】
[図:0001393966000008.jpg]
」

5 甲4の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲4には、「複合化高分子電解質膜およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
芳香族炭化水素系ポリマー繊維と高分子電解質膜を含む複合化高分子電解質膜の製造方法であって、可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーと溶媒からなる紡糸原液を用いた電解紡糸工程、得られた芳香族炭化水素系ポリマー繊維を不織布化する工程、および得られた芳香族炭化水素系ポリマー不織布に高分子電解質溶液を含浸させる工程を有し、高分子電解質溶液を含浸させる工程より前に可溶性付与基を除去して、紡糸した芳香族炭化水素系ポリマー繊維を高分子電解質溶液に不溶化することを特徴とする複合化高分子電解質膜の製造方法。」
(2)「【0015】
本発明はメルトブロー法やレーザー溶融による電解紡糸方法を用いることなく、高分子電解質との複合に適した溶剤難溶性の芳香族炭化水素系ポリマー繊維を含む複合化高分子電解質膜の製造方法を提供する。また、イオン伝導性が優れ、かつ含水寸法変化および含水時の機械的強度の低下が抑制された複合化高分子電解質膜を提供する。」
(3)「【0032】
本発明の芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホン等の構成成分の少なくとも1種を含むポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有するポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むとともに、特定のポリマー構造を限定するものではない。」
(4)「【0047】
本発明の電解紡糸工程で得られる芳香族炭化水素系ポリマー不織布の繊維径としては5μm以下の繊維を主体とすることが好ましい。ここでの主体とは電子顕微鏡などで観察した場合、観察視野内の繊維の50%以上を占めるという意味である。5μm以下の繊維を主体とすることで複合化高分子電解質膜の薄膜化が可能でありプロトン伝導性の観点から好ましい。また、繊維径が5μm以上の繊維のみからなる不織布では、複合化高分子電解質膜を薄膜化するためには、繊維の重なりを減らす、すなわち単位面積あたりの繊維量(以下目付量)を低く設計することになるが、必然的に繊維間の距離が広がり、最大孔径が大きくなり、膜厚方向でみると局所的に複合化されていない部分が生じる場合がある。その部分は、複合化高分子電解質膜の厚みによっては、複合化高分子電解質膜の劣化のトリガーとなる可能性があるので、この現象を防止する目的として、平均径5μm以下の繊維を主体とすることが好ましい。特に1μm以下の繊維を主体とする不織布が、複合化高分子電解質膜の厚みの増大によるプロトン伝導性の低下を抑制でき、かつ膜厚方向に複合化されていない部分を低減することができる。0.5μm以下の繊維を含むことがさらに好ましい。また、ポリプロピレンやポリエチレンなどのオレフィン系ポリマーやポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレートなどの溶媒に不溶な素材からなる不織布や抄紙体や織物を芳香族炭化水素系ポリマー繊維の捕集基材とし、電解紡糸で芳香族炭化水素系ポリマー繊維を積層し複合不織布として本発明に使用してもよい。その場合、捕集基材に直径5μm以上の繊維を含んでいても差し支えないが、繊維間の空隙は直径5μm以下の繊維の集合体で面方向から見て塞がれている状態が好ましい。
・・・
【0049】
このような、繊維径0.5μm以下の芳香族炭化水素系ポリマーの繊維を効率よく製造するためには、前述したエチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールを紡糸原液に添加する技術を採用することが好ましい。多価アルコールの添加により紡糸原液中の可溶性付与基を含む芳香族炭化水素系ポリマーの濃度が低い設定でも糸が断裂することなく電解紡糸が可能となり、0.5μm以下の繊維を得るのに極めて有効であることを発見した。」
(5)「【0090】
実施例1
紡糸原液Aを使用し、カトーテック社製エレクトロスピニングユニットを使用し、電圧40kV、シリンジポンプ吐出速度0.05cc/min、トラバース速度50mm/min、ドラム式ターゲット(直径100mm)の周速度0.8m/min、シリンジとターゲット間の距離100mmの条件で電解紡糸を実施した。
【0091】
得られた芳香族炭化水素系ポリマー繊維の直径の平均は400nmであり、ターゲット上に繊維を捕集し厚み15μmの芳香族炭化水素系ポリマー不織布Aを得た。」
(6)「【0102】
・・・
実施例4
紡糸原液Cを使用し、実施例1と同様に電解紡糸を実施し、平均繊維径150nmの芳香族炭化水素系ポリマー繊維からなる、厚み20μmの芳香族炭化水素系ポリマー不織布Cを得た。」

6 甲5の2の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲5の2には、「強化電解質膜」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
ナノファイバーマットで強化された第1のプロトン伝導性ポリマーを備える電解質膜であって、
前記ナノファイバーマットは、ポリマー及びポリマー配合物から選択される繊維材料を含むナノファイバーから作製され、
前記繊維材料は、繊維材料プロトン伝導度を有し、
続きを表示(全23行)
前記第1のプロトン伝導性ポリマーは、第1のプロトン伝導性ポリマー伝導度を有し、
前記繊維材料プロトン伝導度は、第1のプロトン伝導性ポリマー伝導度より低い、電解質膜。
・・・
【請求項3】
前記繊維材料が、PVDF、PES、PEI、PBI、PPO、PEEK、PPES、PEK、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される電界紡糸に好適なポリマーを含む、請求項1に記載の電解質膜。
・・・
【請求項6】
前記ナノファイバーが、電界紡糸ナノファイバーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解質膜。・・・
【請求項9】
前記第1のプロトン伝導性ポリマーが、高フッ化アイオノマー、過フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の電解質膜。
・・・
【請求項18】
前記ナノファイバーが、1000nm以下の平均直径を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項19】
前記ナノファイバーが、約80nm~700nmの範囲の平均繊維直径を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項20】
前記ナノファイバーマットが、約30%~約90%の範囲の多孔性を有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項29】
請求項1~28のいずれか一項に記載の電解質膜を備える、膜電極接合体。」
(2)「【0003】
(発明の分野)
本発明は、燃料電池のような電気化学的デバイスに使用できるような電解質膜に関する。本発明は、高温での動作時に、改善されたプロトン伝導性保持能力を示すことができ、かつ安定を保つことができる電解質膜に関する。」
(3)「【0011】
本開示の幾つかの実施形態では、電解質膜の繊維材料は、高フッ化ポリマー、過フッ化ポリマー、炭化水素ポリマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせを含み得る。本開示の幾つかの実施形態では、電解質膜の繊維材料は、PVDF、PES、PEI、PBI、PPO、PEEK、PPES、PEK、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される電界紡糸に好適なポリマーを含み得る。本開示の幾つかの実施形態では、電解質膜の繊維材料は電界紡糸ナノファイバーであり得る。本開示の幾つかの実施形態では、電解質膜の繊維材料はMn又はCeから選択される元素を含み得る安定化添加剤を含んでもよい。
【0012】
本開示の幾つかの実施形態では、電解質膜のナノファイバーマットはPES、及びPVDFと配合されたPESから選択される電界紡糸に好適な繊維材料を含むナノファイバーから作られ、その繊維材料は実質的に非伝導性である。・・・
【0014】
本開示の幾つかの実施形態では、電解質膜のナノファイバーはプロトン伝導性ポリマーを有してもよい。本開示の幾つかの実施形態では、電解質膜のナノファイバーは架橋されてもよい。本開示の幾つかの実施形態では、電解質膜のナノファイバーは1000nm以下の平均直径を有し得る。本開示の幾つかの実施形態では、電解質膜のナノファイバーは約80nm~700nmの範囲の平均直径を有し得る。」
(4)「【0031】
本開示で教示する強化電解質膜は、高温での苛酷な環境における燃料電池の動作中に熱的及び化学的に堅固でありかつ優れた寸法安定性を呈するように設計されたプロトン交換膜(PEM)の燃料電池電極の製造のような燃料電池用途に使用することができる。
【0032】
本開示で教示する強化電解質膜は、燃料電池MEAなどの膜電極接合体(MEA)に使用することができる。MEAは、水素燃料電池のようなプロトン交換膜燃料電池の中心要素である。燃料電池は、水素などの燃料と酸素などの酸化剤との触媒された混合物によって使用可能な電気を生み出す電気化学電池である。典型的なMEAは、固体電解質として機能するポリマー電解質膜(PEM)(イオン導電膜(ICM)としても既知である)を含む。PEMの一方の面はアノード電極層と接触し、反対側の面はカソード電極層と接触する。典型的な使用では、プロトンが、水素酸化を介してアノードにおいて形成され、PEMをわたってカソードに輸送されて酸素と反応し、電極を接続する外部回路内に電流を流す。各電極層は、典型的には白金金属を含む電気化学触媒を含む。PEMは、反応ガス間に、耐久性のある無孔の非導電性機械的障壁を形成するが、それでもやはりH+イオンを容易に通過させる。ガス拡散層(GDL)が、アノード及びカソード電極材料の間を行き来するガス輸送を促進して、電流を伝導する。GDLは、多孔質及び導電性の両方であり、典型的には炭素繊維から構成される。またGDLは、流体輸送層(FTL)又はディフューザ/集電体(DCC)と呼ばれる場合もある。いくつかの実施形態では、アノード及びカソード電極層をGDLに適用し、結果として生じる触媒コーティングされたGDLでPEMを挟んで、5層MEAを形成する。5層MEAの5層は、アノードGDL、アノード電極層、PEM、カソード電極層、及びカソードGDLの順である。他の実施形態では、アノード及びカソード電極層をPEMのいずれの側にも適用し、結果として生じる触媒コーティングされた膜(CCM)を2つのGDL間に挟んで、5層MEAを形成する。」
(5)「【0039】
図2Bは、ナノファイバーマット100で強化された本開示の電解質膜14の図である。図3には、ナノファイバーマット100によってほとんど占められた中央層区域40が示されており、中央層区域40は外層区域30及び50の厚さと同様の厚さを有するものとしても示されている。本明細書のその他の実施形態では、多様な層区域30、40、50は異なる厚さを有してもよい。例えば、図3は中央層区域45のほとんどを占めるナノファイバーマット110で強化された切れ目なく連続した電解質膜として図示されている電解質膜14の別の実施形態の略図であり、中央層区域45は外層区域35と55との間にあり、中央層区域45は、図2Bの30、40、50の相対的割合と比較して、外層区域35及び55いずれがよりも比例的に大きい厚さを有することができる。例えば、本開示の幾つかの実施形態では、ナノファイバーマット100の平均厚さは、電解質膜14の平均厚さの約20%~約60%の範囲であり得る。ナノファイバーマットからのプロトン伝導性材料の分離に関係する問題を避けるために、外層区域のそれぞれの厚さは、電解質膜14の平均厚さの少なくとも10%であることが望ましい場合がある。しかしながら、図示した実施形態は、個々の層区域の厚さ又はその割合の選択を制限することを意図せず、その選択は、所望の全体的な電解質膜の厚さ、材料の特性、及び製造の簡便性を含む因子の組み合わせに依存する場合がある。」
(6)「【0050】
本開示の一実施形態では、ナノファイバーマット100は、ナノファイバーの不織布ウェブであり得る。これらのナノファイバーは、80~1000ナノメートル、より典型的には約80~700ナノメートルの範囲の平均直径を有し得る。ナノファイバーマットとして有用な厚さは、5~25マイクロメートル、より典型的には約5~15マイクロメートルである。ナノファイバーマットが約30%~90%、典型的には約50%~80%、又はより典型的には約60%~70%の範囲の多孔性値を有することは有用である(「多孔性」は、実施例の項に説明されているように半経験的に決定される)。
【0051】
幾つかの実施形態では、ナノファイバーマットは、4.5g/m2~6.5g/m2、又は更には3.2g/m2~6.5g/m2の範囲の平均坪量(実施例の項を参照)を有することができる。2g/m2~10g/m2の範囲の平均坪量もまた有用であるとみなされる。
【0052】
本開示のナノファイバーは、電界紡糸に好適なポリマーを含む、ポリマー又はポリマー配合物を含む繊維材料で作ることができる。電界紡糸に好適なポリマーの例としては、Arkema Inc.(ペンシルベニア州Philadelphia)から入手可能なKYNAR 761及びKYNAR 2801(PVDFコポリマー)のような二フッ化ポリビニリデン(PVDF)材料を含むフッ素化ポリマーを挙げることができる。ナノファイバーを製造するための電界紡糸に好適なフッ素化されていないポリマーとしては、市販されているポリエーテルスルホン(PES)材料が挙げられ、その例としては、BASF(ニュージャージー州Florham Park)から入手可能なULTRASON E6020P及びSolvay(テキサス州Houston)から入手可能なVERADEL PESを挙げることができる。本開示のマットを製造するための電界紡糸に好適なその他のフッ素化されていない材料としては、炭化水素芳香族ポリマーが挙げられ、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンエーテルスルホン(PPES)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリベンズイミダゾールオキシド(PBIO)、並びにこれらの配合物及び組み合わせを挙げることができる。」

7 甲5の2に記載された発明

上記6(1)~(6)の記載事項を総合勘案し、特に、請求項1、3、6、9、19、20に係る「電解質膜」に着目すると、甲5の2には、次の発明が記載されていると認められる。

「ナノファイバーマットで強化された第1のプロトン伝導性ポリマーを備える電解質膜であって、
前記ナノファイバーマットは、約30%~約90%の範囲の多孔性を有するものであり、ポリマー及びポリマー配合物から選択される繊維材料を含み、約80nm~700nmの範囲の平均繊維直径を有し、電界紡糸ナノファイバーであるナノファイバーから作製され、
前記繊維材料は、繊維材料プロトン伝導度を有し、PVDF、PES、PEI、PBI、PPO、PEEK、PPES、PEK、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される電界紡糸に好適なポリマーを含み、
前記第1のプロトン伝導性ポリマーは、第1のプロトン伝導性ポリマー伝導度を有し、高フッ化アイオノマー、過フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択され、
前記繊維材料プロトン伝導度は、第1のプロトン伝導性ポリマー伝導度より低い、電解質膜。」(以下、「甲5発明」という。)

8 甲6の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲6には、「複合シート」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
有機成分からなる平均繊維径が1μm以下の有機極細繊維からなる平均流量孔径が2μm以下の繊維シートと樹脂とを含み、前記繊維シートと樹脂とが混在する領域を備えていることを特徴とする複合シート。
・・・
【請求項3】
有機極細繊維が静電紡糸法により製造したものであることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の複合シート。」
(2)「【0013】
この有機極細繊維における「有機成分」とは、炭素結合鎖を骨格とする高分子を意味する。この有機極細繊維の有機成分は複合シートを構成する樹脂、複合シートの用途などによって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ニトロセルロースなどのセルロース化合物、更には絹フィブロインなどの天然高分子などを挙げることができる。なお、有機極細繊維は単一有機成分から構成されていても、二種類以上の有機成分から構成されていても良い。
【0014】
本発明の有機極細繊維は厚さの薄い複合シートであることができるように、平均繊維径が1μm以下である。有機極細繊維の平均繊維径が小さければ小さい程、より薄い複合シートであることができるため、0.8μm以下であるのが好ましく、0.6μm以下であるのがより好ましく、0.45μm以下であるのが更に好ましい。なお、有機極細繊維の平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.01μm程度が適当である。」
(3)「【0020】
本発明の繊維シートを構成する有機極細繊維は静電紡糸法により製造したものであるのが好ましい。・・・」
(4)「【0024】
本発明の繊維シートは樹脂が進入しやすく、樹脂の存在しないボイドを発生することなく、繊維シートと樹脂とが混在していることができるように、繊維シートの空隙率は30%以上であるのが好ましく、50%以上であるのがより好ましい。一方で、繊維シートは平均流量孔径が2μm以下であり、機械的強度も優れているように、95%以下であるのが好ましく、85%以下であるのがより好ましい。この「空隙率」は次の式から算出される値をいう。
P={1-M/(T×D)}×100
ここで、Pは空隙率(%)、Mは繊維シートの目付(g/cm2)、Tは繊維シートの厚さ(cm)、Dは有機極細繊維を構成する樹脂の密度(g/cm3)をそれぞれ意味する。なお、有機極細繊維が密度の異なる2種類以上の樹脂からなる場合、有機極細繊維の樹脂の密度(D)は、それら樹脂の密度の質量平均値を意味する。
【0025】
本発明の繊維シートの形態は特に限定するものではないが、平均流量孔径が2μm以下であることができるように、不織布形態であるのが好ましい。また、繊維シートの目付(JIS L1085に準じて、試験片の大きさを10cm×10cmとして測定した値)及び厚さは、複合シートの用途等によって異なるため、特に限定するものではないが、0.5~100g/m2であるのが好ましく、1~50g/m2であるのがより好ましく、2~20g/m2であるのが更に好ましい。また、繊維シートの厚さは薄く可撓性に優れた複合シートであることができるように、マイクロメーターを用いて測定した値で、1~100μmであるのが好ましく、2~50μmであるのがより好ましく、5~20μmであるのが更に好ましい。
【0026】
・・・なお、複合シートを構成する樹脂は複合シートの用途等によって異なるため、特に限定するものではない。・・・また、複合シートをイオン伝導材として使用する場合には、パーフルオロスルホン酸、金属イオンを含有するポリエチレンオキシドゲルなどを挙げることができる。」
(5)「【0032】
本発明の複合シートは薄く、可撓性及び機械的強度に優れ、しかも均一な物理的性質を有するものであるため、薄く、可撓性及び機械的強度を必要とする用途に使用できるのは勿論、薄い必要がない用途、可撓性を特に必要としない用途、又は機械的強度を特に必要としない用途にも使用できるものである。樹脂によって用途は異なるが、例えば、フレキシブルプリント配線板、プリント基板プリプレグ、絶縁テープなどの絶縁材料、イオン交換樹脂シート、ガス吸着フィルム、高分子電解質フィルム、色素増感太陽電池基材用フィルム、圧電性フィルム、シーリングフィルム、メンブレンスイッチ、電磁波シールド用フィルムなどとして使用することができる。」
(6)「【0039】
(繊維シート4の製造)
平均重合度1000の完全けん化ポリビニルアルコールを水に溶解させた、濃度12.5mass%の紡糸溶液を用意した。
【0040】
他方、シリンジにポリテトラフルオロエチレン製チューブを接続し、更に前記チューブの先端に、内径が0.5mmのステンレス製ノズルを取り付けて、紡糸装置とした。次いで、前記ノズルに高電圧電源を接続した。更に、前記ノズルと対向し、10cm離れた位置に、表面に導電シリコーンゴム加工を施したメタルドラム(直径:20cm、接地)を設置した。
【0041】
次いで、前記紡糸溶液を前記シリンジに入れ、マイクロフィーダーを用いて、重力の作用方向と直角方向へ吐出(吐出量:0.5cc/時間)するとともに、前記メタルドラムを一定速度(表面速度:6m/分)で回転させながら、前記高電圧電源からノズルに+19kVの電圧を印加して、吐出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し、前記メタルドラム上に連続した有機極細繊維を集積させ、表1に示すような物性を有する、不織布繊維シート4を形成した。なお、不織布繊維シートを形成する際に、前記ノズルはメタルドラムの回転方向と直角方向に一定速度(移動速度:20cm/分)で往復揺動させて、有機極細繊維の分散性を高め、不織布繊維シートの均一性を高めた。また、不織布繊維シートの形成は温度25℃、相対湿度50±5%の環境下で行った。」
(7)「【0043】
(表1)
[図:0001393966000009.jpg]
Aは平均繊維径(単位:μm)、Bは有機極細繊維の繊維径の標準偏差(Dd)の平均繊維径(Da)に対する比(Dd/Da)、Cは平均流量孔径(単位:μm)、Dは比(最大孔径/平均流量孔径)、Eは空隙率(単位:%)、Fは目付(単位:g/m2)、Gは厚さ(単位:μm)をそれぞれ意味する。」
(8)「【0052】
(実施例5)
パーフルオロスルホン酸(アルドリッチ製、5mass%ナフィオン117、メタノール-水混合溶媒)をガラス板上にキャスティングし、厚さ10μmの液膜を形成した。この液膜上に不織布繊維シート4を載せ、温度60℃で乾燥した後にガラス板から剥離し、不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した複合シート(厚さ:5μm)を得た。この複合シートは図1に示すような不織布繊維シートとパーフルオロスルホン酸とが混在する領域のみからなるもので、高い透明性を有し、均一に複合一体化したものであった。この複合シートは曲げ試験の結果、破断することのない、可撓性に優れるものであった。また、この複合シートを電解質膜としての利用を想定し、24時間水に浸漬し、膨潤させた後に引張り強度を測定すると約0.8N/10mmであった。この複合シートは電池の電解質膜として好適なものであった。」
(9)「【図1】
[図:0001393966000010.jpg]
」

9 甲6に記載された発明

上記8(1)~(9)の記載事項を総合勘案し、特に、不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した実施例5の「複合シート」に着目すると、甲6には、次の発明が記載されていると認められる。

「平均重合度1000の完全けん化ポリビニルアルコールを水に溶解させた、濃度12.5mass%の紡糸溶液を用意し、
次いで、前記紡糸溶液を紡糸装置のシリンジに入れ、マイクロフィーダーを用いて、重力の作用方向と直角方向へ吐出(吐出量:0.5cc/時間)するとともに、前記紡糸装置のメタルドラムを一定速度(表面速度:6m/分)で回転させながら、高電圧電源から前記紡糸装置のノズルに+19kVの電圧を印加して、吐出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し、前記メタルドラム上に連続した有機極細繊維を集積させて、平均繊維径が0.15μm、有機極細繊維の繊維径の標準偏差(Dd)の平均繊維径(Da)に対する比(Dd/Da)が0.17、平均流量孔径が0.45μm、比(最大孔径/平均流量孔径)が2.50、空隙率が81%、目付が1g/m2、厚さが4.3μmの不織布繊維シート4を形成し、
パーフルオロスルホン酸(アルドリッチ製、5mass%ナフィオン117、メタノール-水混合溶媒)をガラス板上にキャスティングして形成した厚さ10μmの液膜上に上記不織布繊維シート4を載せ、温度60℃で乾燥した後にガラス板から剥離して得た、不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した、厚さ5μmの複合シート。」(以下、「甲6発明」という。)

10 甲7の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲7には、「電解質複合膜、膜-電極接合体、および固体高分子型燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
芳香族単位を主体とする液晶ポリエステルからなる不織布を補強材とし、該補強材と電解質からなることを特徴とする電解質複合膜であって、前記電解質が、イオン伝導性基を有する重合体ブロック(A)と実質的にイオン伝導性を有しないゴム状重合体ブロック(B)を構成成分とするブロック共重合体からなり、該補強材に充填され、かつ、積層されている電解質複合膜。」
(2)「【0029】
本発明の電解質複合膜の厚さは、特に制限はないが、5~200μmの範囲であることが好ましく、10~100μmの範囲であることがより好ましく、15~60μmの範囲であることがより好ましい。また、電解質層と補強材層の厚さの比は5:95~80:20の範囲であることが好ましく、10:90~70:30の範囲であることがより好ましく、20:80~60:40の範囲であることが更に好ましい。」

11 甲8の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲8には、「Nafion膜の構造と力学特性」(論文の題目)に関して、以下の事項が記載されている。

「2・1 試料
試料には、DuPont製のNafion117(膜厚180μm)およびNafion112(膜厚51μm)を用いた(ポリマー密度1.97g/cm2).」

12 甲9の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲9には、「伝導性・耐久性に優れた燃料電池用の芳香族系高分子電解質膜の開発」(論文の題目)に関して、以下の事項が記載されている。

「
[図:0001393966000011.jpg]
」

13 甲10の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲10には、「高分子電解質複合膜、その製造方法及びその用途」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

「【0032】
参考例1(高分子電解質の製造例)
4,4’ジヒドロキシビフェニル(DOD) 167.59g(900mmol)とベンゾフェノン600gを加熱攪拌溶解させた後、炭酸カリウムを132.68g(960mmol)、トルエン180mlを加えて加熱し共沸脱水後、180℃でm-ジブロモベンゼン200.52g(850mmol)を添加し、続いて臭化銅(I)0.43g(3mmol)を加え、200℃、6時間保温攪拌した。反応液を冷却し、塩酸/メタノール/アセトンの重量比を(2/70/30)とした溶液中に注ぎ、析出したポリマーを濾過し、水洗、メタノール洗浄後減圧乾燥し、ポリマーa1を製造した。
続いてスミカエクセルPES5003P(住友化学工業製、水酸基末端ポリエーテルスルホン)144gと上記のポリマーa1 48gをDMAcに溶解し、続いて炭酸カリウム4.84gとデカフルオロビフェニル9.52gを加え80℃で4h攪拌した。冷却し、希塩酸に反応混合物を注いでポリマーを沈殿させた。水、メタノールで洗浄しブロック共重合体a2を得た。次いでこのa2を濃硫酸でスルホン化することにより、下記スルホン化ブロック共重合体Aを得た。
【0033】
[図:0001393966000012.jpg]
」

14 甲11の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲11には、「高分子電解質膜及びそれを用いた燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

「【0046】
合成例1
ランダム共重合体(RC-1)の合成例
・・・
ランダム共重合体である下記式(9)の高分子電解質RC-1が茶色の粉末として5.82g得られた。該高分子電解質のイオン交換容量を滴定法により測定したところ、1.3meq/gであった。また、RC-1の比粘度は1.25であった。
[図:0001393966000013.jpg]
」

15 甲12の記載事項

本願の優先日前に公知となった甲12には、「燃料電池用バインダ、これを利用した触媒層形成用組成物、及びこれを利用した燃料電池用膜-電極接合体とその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

「【請求項12】
下記の化学式1及び化学式2に示される化合物からなる群より選択される少なくとも一つの高分子を含むことを特徴とする、高分子電解質膜。
【化10】
[図:0001393966000014.jpg]
【化11】
[図:0001393966000015.jpg]
前記式で、A、B、及びCは、各々独立的に、酸素、硫黄、SO、カルボニル基、またはスルホニル基であり、
x、y、及びzは、各々独立的に、1~10の整数であり、
R1、R2、R3、R4、及びR5は、各々独立的に、水素、ハロゲン原子、アルキル基、アリル基、アリール基、アルキルリン酸基、アルキルスルホン酸基、少なくとも一つの水素がフッ素で置換されたフルオロアルキルスルホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホニン酸基またはこれらの誘導体であり、
j、k、l、m、及びnは、各々独立的に1~3であり、aは1~100,000であり、bは3~10,000である。」

第7 当審の判断

以下に述べるとおり、当審は、上記第4の取消理由1、及び第3の各申立理由のいずれによっても、本件特許の請求項1~15に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

1 取消理由1(進歩性:申立理由1-1と同旨)について

(1)本件特許発明1について

ア 本件特許発明1と甲1発明との対比

(ア)甲1発明の「支持体膜」を構成する「ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマー」は、複素環式ポリマーであって、上記第5の2に摘記した本願明細書等の【0015】の「複素環式ポリマーは、有機溶媒に可溶」との記載や、同じく本願明細書等の【0019】の「塩基性複素環ポリマーには、・・・ポリオキサゾール・・・の誘導体が含まれる。」との記載、及びイオン伝導性を有しないことが明らかであることを考慮すると、本件特許発明1の「塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であ」る「非イオン伝導性複素環式ポリマー」に相当する。

そうすると、甲1発明の「支持体膜」は、上記「ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマー」から構成され、「フィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、両面に開口部を持つ連続した空孔を有する多孔質の膜」であるから、本件特許発明1の「多孔質マット」とは、「(i)非イオン伝導性複素環式ポリマーから構成される」「多孔質マットであって、複素環式ポリマーが、塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であ」る「多孔質マット」である点で共通する。

(イ)甲1発明の「デュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液(品番:SE-20192)」に含まれるナフィオンは、本件特許発明1の「(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマー」に相当する。

(ウ)甲1発明の「複合イオン交換膜」は、「ナフィオン(商品名)溶液」が「支持体膜」の「内部に含浸および膜表面に付着」して調整されたものであって、「複合イオン交換膜空隙へのICP含有率が98%である」から、本件特許明細書の【0030】の「多孔質マットは、イオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されて、電解質膜を形成する。「基本的に完全に含浸」とは、多孔質マットの少なくとも80%、適切には少なくとも90%、適切には少なくとも95%、理想的には100%の孔がイオン伝導性ポリマーで充填されることを意味する。」との記載を考慮すれば、「多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されて」いる「電解質膜」に相当する。

(エ)また、甲1発明の「複合イオン交換膜」は、全膜厚が「69μm」であるのに対して、「ナフィオン(商品名)溶液」が含浸された「支持体膜」の部分である「複合膜」(上記第6の1(7)に摘記した甲1の【0098】参照)、すなわち「複合層」の厚みは「54μm」であり、(複合層の厚み/複合イオン交換膜の全膜厚)≒78.3%であるから、本件特許発明1の「電解質膜」とは、「電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの」所定の割合「にわたって分布している」点で共通する。

(オ)そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、

「(i)非イオン伝導性複素環式ポリマーから構成される多孔質マットであって、複素環式ポリマーが、塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶である、多孔質マット、及び
(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマーを備えた電解質膜であって、
多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの所定の割合にわたって分布している、
電解質膜。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-1>

「非イオン伝導性複素環式ポリマーから構成される」「多孔質マット」が、本件特許発明1では、「100~400nmの平均直径を有する」「絡み合ったナノファイバーから形成される」ものであるのに対して、甲1発明では、「フィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、両面に開口部を持つ連続した空孔を有する」構造ではあるものの、所定の平均直径を有する「絡み合ったナノファイバーから形成される」ものか否か不明な点。

<相違点1-2>

本件特許発明1では、「電解質膜における多孔質マットの厚さ」が「電解質膜の厚さの少なくとも80%」にわたって分布しているのに対して、甲1発明では、「支持体膜」の厚さが電解質膜の厚さの約78.3%にわたって分布している点。

イ 相違点についての検討

事案に鑑み、上記相違点1-1について検討する。

(ア)上記第6の1(10)に摘記したとおり、甲1の【0147】には、「ポリ燐酸中にIV=26dL/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを14重量%含んだドープにメタンスルホン酸を加えて希釈し、ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール濃度1重量%の等方性溶液を調製した。この溶液を、75℃に加熱したガラス板上にクリアランス600μmのアプリケータを用いて製膜した。このようにしてガラス板上に製膜したドープ膜をそのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って支持体膜を作成した。」と記載されており、また、上記第6の1(6)に摘記した同じく甲1の【0088】の「支持体膜の多孔質構造を実現する手段としては、製膜されたポリベンザゾール系ポリマー溶液を、貧溶媒と接触させて凝固する方法を用いる。」との記載、及び同じく甲1の【0091】の「上記に述べたポリベンザゾール系ポリマー溶液を用い、上記に述べたような方法から選ばれた適当な凝固手段を用いることにより本発明の目的に適した構造を有するポリベンザゾール系ポリマーよりなる支持体膜が得られる。すなわち、支持体膜の少なくとも一方の表面に開口部を持つ連続した空隙を有する多孔質の支持体膜である。支持体膜はポリベンザゾール系ポリマーのフィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、三次元的に連続した空隙を有することを、実施例に示したような原子間力顕微鏡を用いる水中での支持体膜表面の観察、および、エポキシ包埋-脱エポキシにより水中の構造を保持した支持体膜の透過型電子顕微鏡観察による断面観察から確認した。」との記載も併せて考慮すれば、甲1発明の「フィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、両面に開口部を持つ連続した空孔を有する」「支持体膜」は、製膜されたポリベンザゾール系ポリマー溶液を、貧溶媒と接触させて凝固する方法により得られたものと認められる。

(イ)ここで、当審にて発見した特開2005-296849号公報には、「多孔質膜の製造方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。

a 「【0011】
以下、本発明の多孔質膜の製造方法について詳しく説明する。本発明で言う三次元網目構造とは、多孔質膜を形成するポリマーが、フィブリル状となって三次元的に相互に連通し、粗大で独立した球状の空隙部を実質的に有さない網目構造のことである。
・・・
【0012】
湿式紡糸による多孔質膜の製造について概説する。
まず、膜基材となる疎水性ポリマーと、相分離を制御するための親水性ポリマーを、それぞれのポリマーを溶解することができる共通の良溶媒を用いて溶解させ、製膜原液とする。製膜原液には、必要に応じてその他の添加成分を加えてもよい。
【0013】
この原液を、中空ノズルを用いて中空状に賦型したのち、疎水性ポリマーに対しては非溶媒であるが、親水性ポリマーに対しては良溶媒である溶媒を含む凝固液に吐出すると、疎水性ポリマーが凝固されて、疎水性ポリマー及び親水性ポリマーで構成される中空糸状の多孔質膜が得られる。」
b 「【実施例1】
【0029】
疎水性ポリマーとして、エルフ・アトケム・ノース・アメリカ社製ポリフッ化ビリニデン、商品名:カイナー301F(230℃、5KgにおけるMFR 0.18g/10min.)と、エルフ・アトケム・ノース・アメリカ社製ポリフッ化ビリニデン、商品名:カイナー9000(230℃、5KgにおけるMFR 16-24g/10min.)を、301F:9000=3:2(質量比)となるように混合したものを用い、親水性ポリマーとして、I.S.P社製ポリビニルピロリドン、商品名:K30(粘度平均分子量40,000)を用いた。これらのポリマーを、疎水性ポリマー:親水性ポリマー:ジメチルアセトアミド=18:27:73(質量比)となるような組成で、ジメチルアセトアミドに50℃で4時間攪拌させ、製膜原液を調整した。
【0030】
続きを表示(全16行)
そして、スライドグラス上に固定された厚さ1mmのシリコンゴムプレートに設けられた直径8mmの穴に、この製膜原液を30℃の温度で流し込み、シリコンゴムプレートと共に、70℃に保持したジメチルアセトアミド10%水溶液からなる凝固液に10分間浸漬し、凝固させて多孔質膜を得た。
【0031】
次に凝固液からシリコンゴムプレートを取り出し、これから凝固した多孔質膜を取り出した後、約0.3質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、多孔質膜を12時間浸漬して親水性ポリマー(ポリビニルピロリドン)を分解除去し、さらに2時間水洗して多孔質膜を作製した。得られた多孔質膜の構造を、走査型電子顕微鏡:日本電子(株)製JSM-5300(以下SEMという)で観察した。
観察は、得られた多孔質膜を液体窒素中に約5分間浸漬させ、凍結させた後に、カミソリで切断したものについて行った。結果を図1に示した。得られた多孔質膜は3次元網目構造を有していた。
【0032】
<実施例2>
疎水性ポリマー:親水性ポリマー:ジメチルアセトアミド=50:68:177(質量比)となるように、ジメチルアセトアミドに溶解させた以外は、実施例1と同様に製膜原液を作成した。
【0033】
この製膜原液を二環状ノズルから30℃で吐出させ、ノズル上部から導入したポリエステルマルチフィラメント単織組紐(マルチフィラメント:トータルデシテックス830/96フィラメント、16打ち)に塗布した後、ノズル吐出面から4cm下方に設置した、70℃に保持したジメチルアセトアミド5%水溶液からなる凝固液に導き凝固させた。その後、沸騰水による洗浄を18時間行い、親水性ポリマー(ポリビニルピロリドン)を除去し、多孔質膜を作製した。
【0034】
得られた多孔質膜を、実施例1と同様の方法でSEM観察を行った。得られた多孔質は図2に示すように3次元網目構造を有していた。
得られた多孔質膜の透水性能を示す純粋透過係数は、193m3/m2/h/MPaであり、ろ過膜として十分なろ過流量を保持した膜であった。」
c 「【図1】
[図:0001393966000016.jpg]
」
d 「【図2】
[図:0001393966000017.jpg]
」

(ウ)上記(イ)に摘記した事項を参照すると、いわゆる「湿式紡糸」により非溶媒(貧溶媒)に接触させて凝固させることにより形成された「多孔質膜」は、多孔質膜を形成するポリマーが、フィブリル状となって三次元的に相互に連通し、粗大で独立した球状の空隙部を実質的に有さない網目構造、すなわち「三次元網目構造」を備えていると認められるものの、上記(イ)c、dに摘記した図1、図2を見る限り、ナノファイバーが絡み合った構造になっているとは認められない。

(エ)したがって、ポリベンザゾール系ポリマー溶液を貧溶媒と接触させて凝固する方法を用い製膜された、甲1発明の「フィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、両面に開口部を持つ連続した空孔を有する」「支持体膜」もナノファイバーが絡み合った構造になっているとは認められないから、上記相違点1-1は、実質的な相違点である。

(オ)そこで、上記相違点1-1の容易想到性について検討するに、上記(ア)において検討したとおり、甲1発明は、「フィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、両面に開口部を持つ連続した空孔を有する」「支持体膜」を、製膜されたポリベンザゾール系ポリマー溶液を、貧溶媒と接触させて凝固する方法により得ることを前提としたものであるから、これを「絡み合ったナノファイバーから形成された」ものとする動機付けがあるといえない。

(カ)そうすると、甲2~甲12の記載事項を参照しても、甲1発明において、上記相違点1-1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ よって、上記相違点1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、及び甲2~甲4、甲5の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明3について

ア 本件特許発明3と甲1発明との対比

上記(1)ア(ア)~(エ)において検討した点を考慮すると、本件特許発明3と甲1発明とは、

「(i)非イオン伝導性複素環式ポリマーから構成される多孔質マットであって、複素環式ポリマーが、塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶である、多孔質マット、及び
(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマー」

を備えた電解質膜であって、

多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの所定の割合にわたって分布している、

電解質膜。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-3>

「非イオン伝導性複素環式ポリマーから構成される」「多孔質マット」が、本件特許発明3では、「スピニングされたナノファイバー」が「絡み合っ」て「形成される」ものであるのに対して、甲1発明では、「フィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、両面に開口部を持つ連続した空孔を有する」構造ではあるものの、「スピニングされたナノファイバー」が「絡み合っ」て「形成される」ものか否か不明な点。

<相違点1-4>

本件特許発明3では、「電解質膜における多孔質マットの厚さ」が「電解質膜の厚さの少なくとも80%」にわたって分布しているのに対して、甲1発明では、「支持体膜」の厚さが電解質膜の厚さの約78.3%にわたって分布している点。

イ 相違点についての検討

事案に鑑み、上記相違点1-3について検討する。

(ア)上記(1)イ(ア)~(エ)において検討したとおり、甲1発明の「フィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、両面に開口部を持つ連続した空孔を有する」「支持体膜」は、「スピニングされたナノファイバー」が「絡み合っ」た構造になっているとは認められない。

(イ)そうすると、上記相違点1-3は、実質的な相違点である。

(ウ)そこで、上記相違点1-3の容易想到性について検討するに、上記(1)イ(ア)において検討したとおり、甲1発明は、「フィブリル状繊維から形成される立体網目構造からなり、両面に開口部を持つ連続した空孔を有する」「支持体膜」を、製膜されたポリベンザゾール系ポリマー溶液を、貧溶媒と接触させて凝固する方法により得ることを前提としたものであるから、これを「絡み合ったナノファイバーから形成された」ものとする動機付けがあるといえない。

(エ)そうすると、甲2~甲12の記載事項を参照しても、甲1発明において、上記相違点1-3に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ よって、上記相違点1-4について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1発明、及び甲2~甲4、甲5の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明2、4~15について

本件特許発明2、4~15は、本件特許発明1又は本件特許発明3の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(1)ウ、及び上記(2)ウのとおり、本件特許発明1又は本件特許発明3が、甲1発明、及び甲2~甲4、甲5の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲1発明、及び甲2~甲4、甲5の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括

したがって、本件特許発明1~15は、甲1発明、及び甲2~甲4、甲5の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、取消理由1(申立理由1-1と同旨)によっては同発明に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由1-2(進歩性)について

(1)本件特許発明1について

ア 本件特許発明1と甲5発明との対比

(ア)甲5発明の「ナノファイバーマット」は、「PVDF、PES、PEI、PBI、PPO、PEEK、PPES、PEK、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される電界紡糸に好適なポリマーを含」む「繊維材料を含」み、「約80nm~700nmの範囲の平均繊維直径を有」する「電界紡糸ナノファイバーであるナノファイバーから作製され」るものであって、しかも「約30%~約90%の範囲の多孔性を有するものであ」るから、本件特許発明1の「多孔質マット」とは、ポリマーから構成されるナノファイバーから形成される多孔質マットであって、ナノファイバーが所定の平均直径を有する多孔質マットである点で共通する。

(イ)甲5発明の「第1のプロトン伝導性ポリマー伝導度を有し、高フッ化アイオノマー、過フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択され」る「第1のプロトン伝導性ポリマー」は、本件特許発明1の「部分的又は完全に不フッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマー」とは、イオン伝導性ポリマーである点で共通する。

(ウ)甲5発明の「ナノファイバーマットで強化された第1のプロトン伝導性ポリマーを備える電解質膜」は、本件特許発明1の「電解質膜」に相当する。

(エ)そうすると、本件特許発明1と甲5発明とは、

「(i)ポリマーから構成されるナノファイバーから形成される多孔質マットであって、ナノファイバーが所定の平均直径を有する多孔質マット、及び
(ii)イオン伝導性ポリマーを備えた
電解質膜。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5-1>

多孔質マットを形成するナノファイバーの材質が、本件特許発明1では、「塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であ」る「非イオン伝導性複素環式ポリマー」であるのに対して、甲5発明では、「PVDF、PES、PEI、PBI、PPO、PEEK、PPES、PEK、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される電界紡糸に好適なポリマー」である点。

<相違点5-2>

多孔質マットを形成するナノファイバーが、本件特許発明1では、「絡み合っ」ており、「平均直径」が「100~400nm」であるに対して、甲5発明では、「電界紡糸ナノファイバーから作製され」るものではあるものの、「絡み合っ」ているか否かは不明であり、しかも「平均直径」が「約80nm~700nmの範囲」である点。

<相違点5-3>

「電解質膜」が備える「イオン伝導性ポリマー」が、本件特許発明1では、「部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーである」のに対して、甲5発明では、「第1のプロトン伝導性ポリマー伝導度を有し、高フッ化アイオノマー、過フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択され」るものである点。

<相違点5-4>

本件特許発明1は、「多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布している」のに対して、甲5発明は、電解質膜が備える「第1のプロトン伝導性ポリマー」が「ナノファイバーマットで強化された」ものではあるものの、その具体的な態様が不明である点。

イ 相違点についての検討

事案に鑑み、上記相違点5-1について検討する。

(ア)上記第5の4に摘記したとおり、本願明細書等の【0052】には、本件特許発明1の実施例1として、その「多孔質マット」をポリ[2,2`-(m-フェニレン)-5,5`-ビベンズイミダゾール](PBI)を用いて、エレクトロスピニングにより形成した例が記載されていることからすると、甲5発明は、「ナノファイバーマット」を形成する「電界紡糸に好適なポリマー」である「PBI」、すなわち「塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であ」る「非イオン伝導性複素環式ポリマー」を選択肢の一つとして含むものであり、「PVDF、PES、PEI、PBI、PPO、PEEK、PPES、PEK、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群」の中から当該「PBI」を選択する動機付けはあるといえる。

(イ)しかしながら、上記第5の4~6、8に摘記した本願明細書等の「PBI」を用いた「実施例1」、「PES」(ポリエーテルサルホン)を用いた「実施例2(比較)」についての記載(【0052】~【0059】)、「実施例1」及び「実施例2(比較)」の膜をそれぞれ用いた「MEA1」、「MEA2(比較)」についての記載(【0069】、【0070】)、及び「MEA1」、「MEA2(比較)」及び「MEA3(比較)」に対する「湿性-乾性サイクル加速ストレス試験」についての記載及びその結果を示す【図6】を参照すると、本件特許発明1が多孔質マットを形成するナノファイバーの材質として「塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であ」る「非イオン伝導性複素環式ポリマー」である「PBI」を採用することによって、甲5発明が、多孔質マットを形成する「電界紡糸に好適なポリマー」に好適な材質として選択肢に含むものの、「塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であ」る「非イオン伝導性複素環式ポリマー」ではない「PES」を採用した場合に比べて、少なくとも「湿性-乾性サイクル加速ストレス試験」の結果においては、「はるかに安定性が高いこと」(【0076】)が実証されていると認められる。

(ウ)そして、本件特許発明1によって奏される上記(イ)の効果は、甲1~甲12の記載事項や本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲5発明から当業者が予測可能な範囲を超えるものであって、顕著なものと認められる。

(エ)そうすると、甲1~甲12の記載事項を参照しても、甲5発明において、上記相違点5-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ よって、上記相違点5-2~相違点5-4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5発明、甲1、甲4、甲6、及び甲7に記載された周知技術、及び甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明3について

ア 本件特許発明3と甲5発明との対比

上記(1)ア(ア)~(ウ)において検討した点に加えて、甲5発明の「ナノファイバーマット」が「電界紡糸ナノファイバーであるナノファイバー」、すなわち、本件特許発明3の「スピニングされたナノファイバー」から作製されたものに相当することも考慮すると、本件特許発明3と甲1発明とは、

「(i)ポリマーから構成されるナノファイバーから形成される多孔質マットであって、ナノファイバーがスピニングされたナノファイバーである、多孔質マット、及び
(ii)イオン伝導性ポリマーを備えた
電解質膜。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5-5>

多孔質マットを形成するナノファイバーの材質が、本件特許発明3では、「塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であ」る「非イオン伝導性複素環式ポリマー」であるのに対して、甲5発明では、「PVDF、PES、PEI、PBI、PPO、PEEK、PPES、PEK、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択される電界紡糸に好適なポリマー」である点。

<相違点5-6>

多孔質マットを形成するナノファイバーが、本件特許発明3では、絡み合っており、スピニングされたナノファイバーであるに対して、甲5発明では、「電界紡糸ナノファイバーから作製され」るものではあるものの、絡み合っているか否かは不明である点。

<相違点5-7>

電解質膜が備えるイオン伝導性ポリマーが、本件特許発明3では、「部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーである」のに対して、甲5発明では、「第1のプロトン伝導性ポリマー伝導度を有し、高フッ化アイオノマー、過フッ化アイオノマー、炭化水素アイオノマー、及びそれらの配合物並びに組み合わせからなる群から選択され」るものである点。

<相違点5-8>

本件特許発明3は、「多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布している」のに対して、甲5発明は、電解質膜が備える「第1のプロトン伝導性ポリマー」が「ナノファイバーマットで強化された」ものではあるものの、その具体的な態様が不明である点。

イ 相違点についての検討

事案に鑑み、上記相違点5-5について検討するに、上記(1)イにおいて、上記相違点5-1について検討したのと同様であるから、甲1~甲12の記載事項を参照しても、甲5発明において、上記相違点5-5に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ よって、上記相違点5-6~相違点5-8について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲5発明、甲1、甲4、甲6、及び甲7に記載された周知技術、及び甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明2、4~15について

本件特許発明2、4~15は、本件特許発明1又は本件特許発明3の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(1)ウ、及び上記(2)ウのとおり、本件特許発明1又は本件特許発明3が、甲5発明、甲1、甲4、甲6又は甲7に記載された周知技術、及び甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲5発明、甲1、甲4、甲6又は甲7に記載された周知技術、及び甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括

したがって、本件特許発明1~15は、甲5発明、甲1、甲4、甲6又は甲7に記載された周知技術、及び甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由1-2によっては同発明に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由1-3(進歩性)について

(1)本件特許発明1について

ア 本件特許発明1と甲6発明との対比

(ア)甲6発明の「不織布繊維シート4」は、「平均流量孔径が0.45μm」で「空隙率81%」のものであり、本件特許発明1の「多孔質マット」に相当する。

(イ)甲6発明の「不織布繊維シート4」を形成するための「平均重合度1000の完全けん化ポリビニルアルコールを水に溶解させた」「紡糸溶液」に「電界を作用させて繊維化し」、「メタルドラム上に連続し」て集積させた「有機極細繊維」は、平均繊維径が0.15μm(=150nm)であるから、本件特許発明1の「ナノファイバー」とは、ポリマーから構成されるナノファイバーであって、100~400nmの平均直径を有するものである点で共通する。

(ウ)甲6発明の「パーフルオロスルホン酸(アルドリッチ製、5mass%ナフィオン117、メタノール-水混合溶媒)」は、本件特許発明1の「部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマー」に相当する。

(エ)甲6発明の「不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した」「複合シート」は、本件特許発明1の「電解質膜」に相当する。

(オ)甲6発明において、「パーフルオロスルホン酸(アルドリッチ製、5mass%ナフィオン117、メタノール-水混合溶媒)をガラス板上にキャスティングして形成した厚さ10μmの液膜上に上記不織布繊維シート4を載せ、温度60℃で乾燥した後にガラス板から剥離して得た、不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化し」て得た「複合シート」は、上記不織布繊維シート4がパーフルオロスルホン酸によって、少なくとも80%が充填されており、基本的に完全に含浸されていると認められる。

(カ)甲6発明の「厚さが4.3μmの不織布繊維シート4」は、「厚さ5μmの複合シート」の厚さの少なくとも80%にわたって分布していると認められる。

(キ)上記(オ)、(カ)より、本件特許発明1と甲6発明とは、「多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布している」点で共通する。

(ク)そうすると、本件特許発明1と甲6発明とは、

「(i)ポリマーから構成されるナノファイバーから形成される多孔質マットであって、ナノファイバーが、100~400nmの平均直径を有する多孔質マット、及び
(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマーを備えた電解質膜であって、
多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布している、
電解質膜。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点6-1>

多孔質マットを形成するナノファイバーの材質が、本件特許発明1では、「塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であ」る「非イオン伝導性複素環式ポリマー」であるのに対して、甲6発明では、「平均重合度1000の完全けん化ポリビニルアルコール」を原料としたものである点。

<相違点6-2>

多孔質マットを形成するナノファイバーが、本件特許発明1では、絡み合ったものであるに対して、甲6発明では、「吐出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し」たものではあるものの、絡み合っているか否かは不明である点。

イ 相違点についての検討

事案に鑑み、上記相違点6-1について検討する。

(ア)上記第6の8(2)に摘記したとおり、甲6の【0013】には、「有機極細繊維の有機成分は複合シートを構成する樹脂、複合シートの用途などによって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ニトロセルロースなどのセルロース化合物、更には絹フィブロインなどの天然高分子などを挙げることができる。」旨の記載があり、また、上記第6の6(1)に摘記したとおり、甲5の2の【請求項1】、【請求項3】には、電解質膜を強化するためのナノファイバーマットを作作製する繊維材料の好適な選択肢の一つとして、PBIを用いる旨の記載はあるものの、これらの記載や、甲1~甲5の2、甲7~甲12の他の記載事項、及び本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲6発明において、「不織布繊維シート」を形成するナノファイバーの材質として採用されている「平均重合度1000の完全けん化ポリビニルアルコール」を原料としたものに替えて、「塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であ」る「非イオン伝導性複素環式ポリマー」を採用する動機付けがあるとはいえない。

(イ)また、上記2(1)イ(イ)、(ウ)において検討したのと同様に、上記第5の4~9に摘記した本願明細書等の「PBI」を用いた「実施例1」、「PES」(ポリエーテルサルホン)を用いた「実施例2(比較)」、非強化膜を用いた「実施例3(比較)」及び「実施例4(比較)」についての記載(【0052】~【0061】)、「実施例1」、「実施例2(比較)」、「実施例3(比較)」及び「実施例4(比較)」の膜を用いた「MEA1」、「MEA2(比較)」、「MEA3(比較)」、「MEA4」、「MEA5(比較)」及び「MEA6(比較)」についての記載(【0069】~【0074】)、「MEA1」及び「MEA3(比較)」に対する「開放電圧(OCV)ホールド加速ストレス試験」についての記載及びその結果を示す【図5】、「MEA1」、「MEA2(比較)」及び「MEA3(比較)」に対する「湿性-乾性サイクル加速ストレス試験」についての記載及びその結果を示す【図6】、及び「MEA4」、「MEA5(比較)」及び「MEA6(比較)」に対する「スタック耐久性試験」についての記載及びその結果を示す【図7】を参照すると、本件特許発明1が多孔質マットを形成するナノファイバーの材質として「塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であ」る「非イオン伝導性複素環式ポリマー」である「PBI」を採用することによって、本件特許発明1の実施態様ではない各比較例よりも、「開放電圧(OCV)ホールド加速ストレス試験」の結果においては、「OCVの加工は(MEA3(比較)よりも)ずっと小さかった」こと(【0075】)、「湿性-乾性サイクル加速ストレス試験」の結果においては、「はるかに安定性が高いこと」(【0076】)、「スタック耐久性試験」の結果においては、「本発明の強化膜を用いるMEAに耐久性の大きな亢進が得られること」(【0078】)が実証されていると認められる。

(ウ)そして、本件特許発明1によって奏される上記(イ)の効果は、甲1~甲12の記載事項や本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲6発明から当業者が予測可能な範囲を超えるものであって、顕著なものと認められる。

(エ)そうすると、甲1~甲12の記載事項を参照しても、甲6発明において、上記相違点6-1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ よって、上記相違点6-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6発明、甲1~甲5の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明3について

ア 本件特許発明3と甲6発明との対比

上記(1)ア(ア)~(キ)において検討した点に加えて、甲6発明の「不織布繊維シート4」を形成するための「平均重合度1000の完全けん化ポリビニルアルコールを水に溶解させた」「紡糸溶液」に「電界を作用させて繊維化し」、「メタルドラム上に連続し」て集積させた「有機極細繊維」が、本件特許発明3の「スピニングされたナノファイバー」から作製されたものに相当することも考慮すると、本件特許発明3と甲6発明とは、

「(i)ポリマーから構成されるナノファイバーから形成される多孔質マットであって、ナノファイバーが、スピニングされたナノファイバーである、多孔質マット、及び
(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマーを備えた電解質膜であって、
多孔質マットがイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されており、電解質膜における多孔質マットの厚さが電解質膜の厚さの少なくとも80%にわたって分布している、
電解質膜。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点6-3>

多孔質マットを形成するナノファイバーの材質が、本件特許発明3では、「塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶であ」る「非イオン伝導性複素環式ポリマー」であるのに対して、甲6発明では、「平均重合度1000の完全けん化ポリビニルアルコール」を原料としたものである点。

<相違点6-4>

多孔質マットを形成するナノファイバーが、本件特許発明3では、絡み合ったものであるに対して、甲6発明では、「吐出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し」たものではあるものの、絡み合っているか否かは不明である点。

イ 相違点についての検討

事案に鑑み、上記相違点6-3について検討するに、上記(1)イにおいて、上記相違点6-1について検討したのと同様であるから、甲1~甲12の記載事項を参照しても、甲6発明において、上記相違点6-3に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ よって、上記相違点6-4について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲6発明、甲1~甲5の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明2、4~15について

本件特許発明2、4~15は、本件特許発明1又は本件特許発明3の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(1)ウ、及び上記(2)ウのとおり、本件特許発明1又は本件特許発明3が、甲6発明、及び甲1~甲5の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲6発明、及び甲1~甲5の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括

したがって、本件特許発明1~15は、甲6発明、及び甲1~甲5の2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由1-3によっては同発明に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由2(明確性要件)について

(1)上記第3に摘記したとおり、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1、3には、「(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマー

を備えた」との記載がある。

(2)そして、上記(1)の「部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマー」について、本願明細書の【0029】には、「イオン伝導性ポリマーは、適切には、プロトン伝導性ポリマー、特に部分的又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーである。適切なプロトン伝導性ポリマーの例には、ペルフルオロスルホン酸イオノマー(例えばNafion(登録商標)(E.I.DuPont de Nemours and Co.)、Aciplex(登録商標)(Asahi Kasei)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymer)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Co.)が含まれる。」(上記第5の3参照)と記載され、また、同じく【0056】には、実施例1として、ペルフルオロスルホン酸イオノマーである「Aquivion(登録商標)」採用した例が記載されるのみであり、「部分的にフッ素化されたスルホン酸ポリマー」の具体例についての記載はない。

(3)しかしながら、「部分的にフッ素化されたスルホン酸ポリマー」が、スルホン酸ポリマーを完全にはフッ素化せず、部分的にフッ素化したものを意味することは、文言上明らかであり、この記載により、第三者に不測の不利益をもたらす程の不明確さが生じるとはいえない。

(4)したがって、本願の特許請求の範囲の請求項1、3及び該請求項1、3を直接又は間接的に引用する請求項2、4~15の記載は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由2によっては同請求項に係る特許を取り消すことはできない。

5 申立理由3(サポート要件)について

(1)上記第5の1に摘記した本願明細書の【0008】、【0009】の記載からすると、本件特許発明が解決しようとする課題は、比較的高いレベル(例えば冷状態からのスタートアップ)から極度の乾燥レベル(最大定格出力密度での動作)まで短時間のあいだに極めて大きく湿度の条件が変動し、膜が許容限度を超えて劣化しうる実用運転においても、機械的強度を維持しながら使用可能な電解質膜を提供することであると認められる。

(2)そして、上記第5の6に摘記した本願明細書の【0052】~【0079】の実施例の記載、同じく【0080】の「理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、これが、エレクトロスピニングされたマットの相分離及び連続性と、エレクトロスピニングされたウェブ中のイオン伝導性ポリマーとナノファイバーの表面間のイオン性架橋(酸-塩基相互作用、又は水素結合)に起因するものであると考える。」との記載、及び同じく【0081】の「さらに、エレクトロスピニングされたマットを形成するために使用される複素環式ポリマーは、酸化防止剤特性を有し、ペルオキシ遊離ラジカルのような有害種を除去することにより、電解質膜の安定性に寄与することができる。」との記載を考慮すると、本願明細書の発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」は、電解質膜において、(i)非イオン伝導性複素環式ポリマーから構成される絡み合ったナノファイバーから形成される多孔質マットであって、複素環式ポリマーが、塩基性官能基を含み、かつ有機溶媒に可溶である多孔質マット、及び(ii)部分的に又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーであるイオン伝導性ポリマーを備えた電解質膜であることが理解できる。

(3)そうすると、本件特許発明1~15は、上記(2)の(i)、(ii)の発明特定事項をいずれも備えたものであるから、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとはいえない。

(4)この点につき、申立人は、特許異議申立書の第116~117頁において、「本件特許発明の効果は、PFSA(ペルフルオロスルホン酸イオノマー)の特有の作用に依存しているといえる。一方、・・・「部分的にフッ素化されたスルホン酸ポリマー」が本件特許発明の効果を奏することは、全く含まれてなく不明であり、また技術常識でもない」こと、及び「PFSA(完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマー)とは主骨格および特性が異なる広範なポリマーを含み得るが、これらの広範なポリマーが本特許発明の効果を奏することを認識することはもとより推測することも困難である」ことを主張しており、確かに、本件特許発明1~15の「部分的にフッ素化されたスルホン酸ポリマー」が完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーとは主骨格および特性が異なる広範なポリマーを含み得ることは否定できない。

(5)しかしながら、申立人は、主骨格および特性が異なる広範なポリマーを含み得る「部分的にフッ素化されたスルホン酸ポリマー」を採用した場合に、上記(1)の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えることについて、合理的な疑いが生じる程度の具体的な根拠を何ら示していない。

(6)そうすると、申立人の上記(4)の主張は、採用することができない。

(7)したがって、本願の特許請求の範囲の請求項1、3及び請求項2、4~15の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由3によっては同請求項に係る特許を取り消すことはできない。

第8 むすび

以上のとおりであるから、令和 4年 6月 3日付け取消理由通知で通知した取消理由、及び申立人による特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~15に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2020-700881

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