特許異議申立
2020-700626
有機性廃水の嫌気性処理方法
- 審判番号
- 2020-700626
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-146103
- 登録番号
- 6654981
- 請求日
- 2020年08月20日
- 審決日
- 2021年10月12日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】水ing株式会社
- 【権利者代理人】松山 美奈子
- 【異議申立人】片桐 麻希子
- 【異議申立人】黒崎 惇子
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 金 公彦
- 審判官 大光 太朗
- 分類
- P1651.113-YAA(C02F) / P1651.121-YAA(C02F) / P1651.161-YAA(C02F) / P1651.537-YAA(C02F) / P1651.841-YAA(C02F) / P1651.851-YAA(C02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条の2、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第3項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6654981号発明「有機性廃水の嫌気性処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6654981号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、4について訂正することを認める。
特許第6654981号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6654981号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成28年7月26日に特許出願され、令和2年2月4日にその特許権の設定登録がされ、同年2月26日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和2年8月20日に特許異議申立人片桐麻希子(以下、「申立人片桐」という。)により甲第1~6号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、請求項1~3に係る特許に対して、同年8月26日に特許異議申立人黒崎惇子(以下、「申立人黒崎」という。)により甲第1~10号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年10月29日付で当審より取消理由が通知され、その指定期間内である令和2年12月28日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされたので、特許法120条の5第5項の規定に基づき、訂正請求書等を送付して申立人片桐及び申立人黒崎に意見書を提出する機会を与えたところ、令和3年3月3日に申立人片桐より参考資料1を添付して意見書が提出され、同年3月5日に申立人黒崎より参考資料1~2を添付して意見書が提出されたものである。
その後、同年4月20日付で当審より取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年6月18日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたので、特許法120条の5第5項の規定に基づき、訂正請求書等を送付して申立人片桐及び申立人黒崎に意見書を提出する機会を与えたところ、同年7月30日に申立人黒崎より意見書が提出されたが、申立人片桐からは応答がなかったものである。
第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年6月18日にされた本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1~2からなるものである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
なお、令和2年12月28日にした訂正の請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に
「嫌気性微生物を担持することができる担体を保持する嫌気性反応槽に、有機性廃水を通水して処理する有機性廃水の嫌気性処理方法であって、
有機性廃水の通水開始時には、嫌気性微生物が付着している馴致担体と、嫌気性微生物が付着していない新規担体とを混在させ、当該馴致担体を全担体中の5vol%以上100vol%未満とし、
当該馴致担体は、担体表面に生物膜を形成しやすい種類の嫌気性微生物及びメタン生成菌が付着している担体であって、メタン生成菌が優占状態である担体である
ことを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理方法。」
と記載されているのを、
「嫌気性微生物を担持することができる担体を保持するメタン発酵槽に、有機性廃水を通水して処理する有機性廃水の嫌気性処理方法であって、
有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽に、有機性廃水の通水開始時には、嫌気性微生物が付着している馴致担体と、嫌気性微生物が付着していない新規担体とを混在させ、当該馴致担体を全担体中の5vol%以上100vol%未満とし、
当該馴致担体は、担体表面に生物膜を形成しやすい種類の嫌気性微生物及びメタン生成菌が付着している担体であって、メタン生成菌が優占状態である担体である
ことを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理方法。」
に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項4に
「嫌気性微生物を流動性担体表面に保持する嫌気性流動床方式の嫌気性反応槽と、
当該嫌気性反応槽に投入するための嫌気性微生物及びメタン生成菌が付着している馴致担体を調製する馴致担体調製用嫌気性反応槽であって、気固液分離装置を備えたUASBタイプの反応槽、担体分離機能を備えた完全混合タイプの反応槽、反応槽内もしくは反応槽外に分離膜を備えた嫌気性膜分離装置、及び回分式メタン発酵槽から選択される小型の嫌気性処理装置、又は酸化還元電位が-200mV以下の還元状態にある原水の貯留槽、処理水槽、及び余剰汚泥貯留槽から選択される既設水処理装置の水槽である馴致担体調製用嫌気性反応槽と、
を具備することを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理装置。」
と記載されているのを、
「嫌気性微生物を流動性担体表面に保持する嫌気性流動床方式のメタン発酵槽と、
当該メタン発酵槽に投入するための嫌気性微生物及びメタン生成菌が付着している担体であって、メタン生成菌が優占状態である馴致担体を調製する仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽であって、気固液分離装置を備えたUASBタイプの反応槽、担体分離機能を備えた完全混合タイプの反応槽、反応槽内もしくは反応槽外に分離膜を備えた嫌気性膜分離装置、及び回分式メタン発酵槽から選択される小型の嫌気性処理装置である仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽と、
を具備することを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理装置。」
に訂正する。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~3は、いずれも直接的に又は間接的に本件訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~3は一群の請求項である。また、本件訂正前の請求項4は独立請求項である。
したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、請求項4及び一群の請求項1~3について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1による訂正は、請求項1などについて、本件訂正前の「嫌気性反応槽」を「メタン発酵槽」とする訂正、及び、本件訂正前の「有機性廃水の通水開始時には、」の前に「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽に、」との記載を追加する訂正をするものである。
イ そして、訂正事項1による訂正のうち、本件訂正前の「嫌気性反応槽」を「メタン発酵槽」とする訂正は、本件特許明細書の【0015】、【0016】の記載に基づいて、「嫌気性反応槽」を「メタン発酵槽」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ また、訂正事項1による訂正のうち、本件訂正前の「有機性廃水の通水開始時には、」の前に「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽に、」との記載を追加する訂正は、前記イで限定された「メタン発酵槽」を、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」に更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の【0037】には、「メタン発酵槽」の設計負荷を20kg/(m3・d)とし、比較例、実施例ともにCODCr容積負荷10kg/(m3・d)で14日間運転し、その後CODCr容積負荷20kg/(m3・d)で運転を継続することが記載されており、当該記載は、「メタン発酵槽」の「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷」を「10kg/(m3・d)」とすることを開示するものである。
一方、本件特許明細書の【0021】には、「メタン発酵槽」の設計負荷を5~50kg/(m3・d)の範囲とすることができること、及び、本件特許に係る発明は、馴致担体を利用することで、より高負荷処理が可能となることが記載されていることからみれば、本件特許明細書には、「メタン発酵槽」の「CODCr容積負荷」をより高負荷として処理できることが開示されているといえ、これらの本件特許明細書の開示事項からみれば、本件特許明細書には、「メタン発酵槽」の「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷」を、「10kg/(m3・d)」にとどまらず、より高負荷の「10kg/(m3・d)以上」として処理することが開示ないし示唆されているといえるから、訂正事項1による訂正のうち、本件訂正前の「有機性廃水の通水開始時には、」の前に「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽に、」との記載を追加する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえるものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
エ 前記ア~ウによれば、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2による訂正は、請求項4について、本件訂正前の「嫌気性反応槽」を「メタン発酵槽」とする訂正、本件訂正前の「メタン生成菌が付着している」と「馴致担体」の間に「担体であって、メタン生成菌が優占状態である」との記載を追加する訂正、本件訂正前の「馴致担体調製用嫌気性反応槽」を「仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽」とする訂正、及び、本件訂正前の「、又は酸化還元電位が-200mV以下の還元状態にある原水の貯留槽、処理水槽、及び余剰汚泥貯留槽から選択される既設水処理装置の水槽」との記載を削除する訂正をするものである。
イ そして、訂正事項2による訂正のうち、本件訂正前の「嫌気性反応槽」を「メタン発酵槽」とする訂正は、前記(1)イに記載したのと同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ また、訂正事項2による訂正のうち、本件訂正前の「メタン生成菌が付着している」と「馴致担体」の間に「担体であって、メタン生成菌が優占状態である」との記載を追加する訂正は、本件特許明細書の【0022】、【0031】の記載に基づいて、「馴致担体」を「メタン生成菌が優占状態である馴致担体」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
エ 更に、訂正事項2による訂正のうち、本件訂正前の「馴致担体調製用嫌気性反応槽」を「仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽」とする訂正、及び、本件訂正前の「、又は酸化還元電位が-200mV以下の還元状態にある原水の貯留槽、処理水槽、及び余剰汚泥貯留槽から選択される既設水処理装置の水槽」との記載を削除する訂正は、本件特許明細書の【0032】の記載に基づいて、「馴致担体調製用嫌気性反応槽」を「仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽」に限定するとともに、「仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽」に該当しない選択肢であった「酸化還元電位が-200mV以下の還元状態にある原水の貯留槽、処理水槽、及び余剰汚泥貯留槽から選択される既設水処理装置の水槽」を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
オ 前記ア~エによれば、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)なお、本件においては、本件訂正前の全ての請求項1~4について特許異議申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおりであるので、本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、訂正後の請求項〔1~3〕、4について訂正を認める。
第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正により訂正された特許の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
嫌気性微生物を担持することができる担体を保持するメタン発酵槽に、有機性廃水を通水して処理する有機性廃水の嫌気性処理方法であって、
有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽に、有機性廃水の通水開始時には、嫌気性微生物が付着している馴致担体と、嫌気性微生物が付着していない新規担体とを混在させ、当該馴致担体を全担体中の5vol%以上100vol%未満とし、
当該馴致担体は、担体表面に生物膜を形成しやすい種類の嫌気性微生物及びメタン生成菌が付着している担体であって、メタン生成菌が優占状態である担体である
ことを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理方法。
【請求項2】
前記馴致担体は、担体のかさ容量あたりのSSとして1g/L以上500g/L以下の嫌気性微生物が付着している担体である、請求項1に記載の有機性廃水の嫌気性処理方法。
【請求項3】
前記馴致担体は、既設の嫌気性反応槽で馴致させた担体及び/又は仮設の嫌気性反応槽で馴致させた担体である、請求項1又は2に記載の有機性廃水の嫌気性処理方法。
【請求項4】
嫌気性微生物を流動性担体表面に保持する嫌気性流動床方式のメタン発酵槽と、
当該メタン発酵槽に投入するための嫌気性微生物及びメタン生成菌が付着している担体であって、メタン生成菌が優占状態である馴致担体を調製する仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽であって、気固液分離装置を備えたUASBタイプの反応槽、担体分離機能を備えた完全混合タイプの反応槽、反応槽内もしくは反応槽外に分離膜を備えた嫌気性膜分離装置、及び回分式メタン発酵槽から選択される小型の嫌気性処理装置である仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽と、
を具備することを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理装置。」
第4 特許異議申立理由の概要
1 申立人片桐による特許異議申立理由
(1)甲各号証等
申立人片桐による特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。なお、以下、申立人片桐による甲第1~6号証をそれぞれ甲第1-1号証~甲第1-6号証といい、参考資料1を参考資料1-1という。
甲第1-1号証:特願2015-256855号(特開2017-119248号公報)
甲第1-2号証:特開2012-76001号公報
甲第1-3号証:特開2006-785号公報
甲第1-4号証:国際公開第2012/070493号
甲第1-5号証:国際公開第2016/103949号
甲第1-6号証:特開2008-36529号公報
参考資料1-1:特開2014-24032号公報
(2)特許法第29条の2(拡大先願)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明は、甲第1-1号証に係る出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「甲第1-1号証明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、本件発明の発明者は甲第1-1号証明細書等に記載された発明の発明者と同一ではなく、本件特許の出願時にその出願人が甲第1-1号証に係る出願の出願人と同一でもない。
(3)特許法第29条第2項(進歩性)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明は、甲第1-2号証に記載された発明及び甲第1-3号証~甲第1-6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、「当該馴致担体は、担体表面に生物膜を形成しやすい種類の嫌気性微生物及びメタン生成菌が付着している担体であって、メタン生成菌が優占状態である担体である」との発明特定事項を有し、メタン生成菌は嫌気性微生物の下位概念であるところ、担体に付着しているのがメタン生成菌のみであるのか、それともメタン生成菌を含む全ての嫌気性微生物であるのかが不明確であり、このことは、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に係る発明についても同様である。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、前記請求項1に従属する請求項2~3に係る発明及び本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に係る発明は明確でない。
2 申立人黒崎による特許異議申立理由
(1)甲各号証等
申立人黒崎による特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。なお、以下、申立人黒崎による甲第1~10号証を甲第2-1号証~甲第2-10号証といい、参考資料1~2を参考資料2-1~参考資料2-2という。
甲第2-1号証:特開2006-61879号公報
甲第2-2号証:特公平7-32915号公報
甲第2-3号証:片岡直明,「嫌気性生物処理技術の特徴と発展の流れ」,エバラ時報,No.229,2010年10月,p.27-38
甲第2-4号証:須藤隆一編著,「水環境保全のための生物学」,第1版第2刷,2005年10月7日,株式会社産業用水調査会,p.168-169
甲第2-5号証:閻 峰ら,「UASBリアクターを用いたメタノール廃水の嫌気性処理に関する研究」,日本水処理生物学会誌,第47巻,第2号,2011年,p.95-102
甲第2-6号証:特開2014-213320号公報
甲第2-7号証:荒木信夫ら,「(1)嫌気性流動床内生物膜の形成過程における微生物集積効果」,衛生工学研究論文集,第28巻,1992年,p.1-9
甲第2-8号証:越川博元ら,「粒状活性炭膨張床型反応器を用いた嫌気条件下におけるテトラクロロエチレン含有廃水の処理」,土木学会第58回年次学術講演会,平成15年9月,p.49-50
甲第2-9号証:特開2012-76001号公報
甲第2-10号証:特開2006-785号公報
参考資料2-1:須藤隆一編著,「水環境保全のための生物学」,第1版第2刷,2005年10月7日,株式会社産業用水調査会,p.141,156-163
参考資料2-2:特許第5685902号公報
(2)特許法第29条第2項(進歩性)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明及び甲第2-2号証~甲第2-10号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 取消理由の概要
1 令和2年10月29日付け取消理由通知書の取消理由の概要
(1)特許法第29条の2(拡大先願)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明は、甲第1-1号証明細書等に記載された発明と同一である。
(2)特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、甲第1-2号証に記載された発明及び甲第2-1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に係る発明は、甲第1-2号証に記載された発明であるか、甲第1-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 令和3年4月20日付け取消理由通知書の取消理由の概要
(1)特許法第29条の2(拡大先願)について
令和2年12月28日の訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、甲第1-1号証明細書等に記載された発明と同一である。
第6 取消理由についての当審の判断
事案に鑑み、前記第5の1(1)及び同2(1)の取消理由についてまとめて検討し、その後、同1(2)の取消理由について検討する。
1 特許法第29条の2(拡大先願)について
(1)甲第1-1号証明細書等の記載事項及びそこに記載された発明並びに参考資料2-1の記載事項
ア 甲第1-1号証明細書等の記載事項及びそこに記載された発明
(ア)甲第1-1号証明細書等には、以下の(1A)~(1D)の記載事項がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1A)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水を流動床式反応槽により嫌気条件で生物処理する有機性排水の処理方法であって、
前記生物処理を立ち上げる際には、前記反応槽内に、嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体と、前記生物膜が付着していない担体とを共存させ、前記有機性排水を通水することを特徴とする有機性排水の処理方法。
【請求項2】
前記反応槽へ投入する前記生物膜が付着している担体の投入率は、前記反応槽へ投入する担体の総量に対して20%~95%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の有機性排水の処理方法。」
(1B)「【0014】
本発明によれば、有機性排水を流動床式反応槽により嫌気条件で生物処理する有機性排水の処理方法において、生物処理の立ち上げ時に排出される処理水の水質悪化を抑えると共に、生物処理の立ち上げ期間の長期化を抑制することが可能な有機性排水の処理方法を提供することができる。」
(1C)「【0017】
図1は、本実施形態の有機性排水の処理方法に用いる排水処理装置の構成の一例を示す模式図である。図1に示す排水処理装置1は、流動床式反応槽10を備えており、流動床式反応槽10内には、担体12が投入されている。流動床式反応槽10の入口には、排水流入ライン14が設置され、流動床式反応槽10の出口には、処理水排出ライン16が設置されている。
【0018】
図1に示す流動床式反応槽10は、槽内の担体12を流動させながら、嫌気条件下で、有機性排水を生物処理するものである。図1に示す流動床式反応槽10は、撹拌型反応槽であり、槽内に略垂直に設置され上下が開口したドラフトチューブ18と、槽内の担体12を撹拌する撹拌装置20とを備える。…
【0019】
担体12は、嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体と、該生物膜が付着していない担体とを含む。ここで、生物膜とは、嫌気性微生物と、嫌気性微生物が産出する菌体外多糖等の生産物等が集合した膜状構造体であって、少なくとも10μm以上の膜厚、好ましくは20μm以上の膜厚を有するものである。上記膜厚は、担体12表面上からの厚みであり、10個~20個の担体12の平均値である。…一方、生物膜が付着していない担体とは、10μm未満の膜厚の膜状構造体が付着した担体12を含む概念であるが、処理水の水質悪化を抑制する観点等から、嫌気性微生物が付着していない担体であることが望ましい。
…
【0021】
図1に示す排水処理装置1を用いて、本実施形態の有機性排水の処理方法を説明する。
…
【0023】
生物処理の立ち上げにおいて、有機性排水が、排水流入ライン14から流動床式反応槽10に導入される。この有機性排水の通水開始前又は後において、流動床式反応槽10に、担体12が投入される。流動床式反応槽10内では、撹拌装置20により、担体12及び有機性排水が撹拌されながら、嫌気条件で生物処理が行われる。…流動床式反応槽10で生物処理された処理水は、処理水排出ライン16から系外へ排出される。このような処理を継続して、予め設定した負荷に達した段階で、生物処理の立ち上げが終了となる。生物処理の立ち上げが終了した後は、例えば、生物処理の立ち上げ期間で到達した負荷を維持しながら、有機性排水の生物処理(本処理)が実行される。生物処理立ち上げ期間における到達負荷は、例えばCODcr容積負荷で2kg/m3/day以上に設定されることが好ましく、10kg/m3/day以上に設定されることがより好ましい。
…
【0027】
嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体は、例えば、有機性排水に、微生物が付着していない担体を浸漬させて長期間馴養している馴養装置等から確保される。また、例えば、担体を用いた有機性排水の嫌気処理を長期に行っている別系統の処理装置から確保される。
…
【0036】
本実施形態では、流動床式反応槽10内の水温を20℃以上となるように温度調整することが好ましい。通常、20℃未満であると、分解反応速度が低下する傾向にある。…」
(1D)「【図1】
[図:0001380934000001.jpg]
」
(イ)前記(ア)(1A)、(1C)、(1D)によれば、甲第1-1号証明細書等には「有機性排水の処理方法」が記載されており、前記「有機性排水の処理方法」は、有機性排水を流動床式反応槽により嫌気条件で生物処理する有機性排水の処理方法であって、前記生物処理を立ち上げる際には、前記反応槽内に、嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体と、前記生物膜が付着していない担体とを共存させ、前記有機性排水を通水するものであり、前記反応槽へ投入する前記生物膜が付着している担体の投入率は、前記反応槽へ投入する担体の総量に対して20%~95%の範囲であるものである。
すなわち、前記「有機性排水の処理方法」は、流動床式反応槽、流動床式反応槽内に投入される担体、流動床式反応槽の入口に設置される排水流入ライン、流動床式反応槽の出口に設置される処理水排出ライン等を有する排水処理装置を用いるものであり、槽内の担体を流動させながら、嫌気条件下で、有機性排水を生物処理するものであって、担体は、嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体と、該生物膜が付着していない担体とを含むものであり、ここで、生物膜とは、嫌気性微生物と、嫌気性微生物が産出する菌体外多糖等の生産物等が集合した膜状構造体であって、少なくとも10μm以上の膜厚、好ましくは20μm以上の膜厚を有するものであり、生物膜が付着していない担体とは、10μm未満の膜厚の膜状構造体が付着した担体を含む概念であるが、処理水の水質悪化を抑制する観点等から、嫌気性微生物が付着していない担体であることが望ましいものである。
そして、生物処理の立ち上げにおいては、有機性排水が、排水流入ラインから流動床式反応槽に導入され、この有機性排水の通水開始前又は後において、流動床式反応槽に担体が投入され、流動床式反応槽内では、撹拌装置により担体及び有機性排水が撹拌されながら、嫌気条件で生物処理が行われ、流動床式反応槽で生物処理された処理水は、処理水排出ラインから系外へ排出され、このような処理を継続して、予め設定した負荷に達した段階で、生物処理の立ち上げが終了となるものであり、生物処理立ち上げ期間における到達負荷は、例えばCODcr容積負荷で2kg/m3/day以上に設定されることが好ましく、10kg/m3/day以上に設定されることがより好ましいものであり、嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体は、有機性排水に微生物が付着していない担体を浸漬させて長期間馴養している馴養装置等から確保され、また、例えば、担体を用いた有機性排水の嫌気処理を長期に行っている別系統の処理装置から確保されるものであり、更に、流動床式反応槽内の水温を20℃以上となるように温度調整することが好ましいものである。
(ウ)前記(イ)によれば、甲第1-1号証明細書等には、
「有機性排水を流動床式反応槽により嫌気条件で生物処理する有機性排水の処理方法であって、
前記生物処理を立ち上げる際には、前記反応槽内に、嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体と、前記生物膜が付着していない担体とを共存させ、前記有機性排水を通水するものであり、前記反応槽へ投入する前記生物膜が付着している担体の投入率は、前記反応槽へ投入する担体の総量に対して20%~95%の範囲である、有機性排水の処理方法であり、
流動床式反応槽、流動床式反応槽内に投入される担体、流動床式反応槽の入口に設置される排水流入ライン、流動床式反応槽の出口に設置される処理水排出ライン等を有する排水処理装置を用いて、槽内の担体を流動させながら、嫌気条件下で、有機性排水を生物処理するものであり、
担体は、嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体と、該生物膜が付着していない担体とを含むものであり、ここで、生物膜とは、嫌気性微生物と、嫌気性微生物が産出する菌体外多糖等の生産物等が集合した膜状構造体であって、少なくとも10μm以上の膜厚、好ましくは20μm以上の膜厚を有するものであり、生物膜が付着していない担体とは、10μm未満の膜厚の膜状構造体が付着した担体を含む概念であるが、処理水の水質悪化を抑制する観点等から、嫌気性微生物が付着していない担体であることが望ましいものであり、
生物処理の立ち上げにおいては、有機性排水が、排水流入ラインから流動床式反応槽に導入され、この有機性排水の通水開始前又は後において、流動床式反応槽に担体が投入され、流動床式反応槽内では、撹拌装置により担体及び有機性排水が撹拌されながら、嫌気条件で生物処理が行われ、流動床式反応槽で生物処理された処理水は、処理水排出ラインから系外へ排出され、このような処理を継続して、予め設定した負荷に達した段階で、生物処理の立ち上げが終了となるものであり、生物処理立ち上げ期間における到達負荷は、例えばCODcr容積負荷で2kg/m3/day以上に設定されることが好ましく、10kg/m3/day以上に設定されることがより好ましいものであり、
嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体は、有機性排水に微生物が付着していない担体を浸漬させて長期間馴養している馴養装置等から確保され、また、担体を用いた有機性排水の嫌気処理を長期に行っている別系統の処理装置から確保され、更に、流動床式反応槽内の水温を20℃以上となるように温度調整することが好ましい、有機性排水の処理方法。」
の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されていると認められる。
(エ)また、前記(イ)によれば、甲第1-1号証明細書等には、
「有機性排水を流動床式反応槽により嫌気条件で生物処理する有機性排水の処理装置であって、
前記生物処理を立ち上げる際には、前記反応槽内に、嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体と、前記生物膜が付着していない担体とを共存させ、前記有機性排水を通水するものであり、前記反応槽へ投入する前記生物膜が付着している担体の投入率は、前記反応槽へ投入する担体の総量に対して20%~95%の範囲である、有機性排水の処理装置であり、
流動床式反応槽、流動床式反応槽内に投入される担体、流動床式反応槽の入口に設置される排水流入ライン、流動床式反応槽の出口に設置される処理水排出ライン等を有する排水処理装置を用いて、槽内の担体を流動させながら、嫌気条件下で、有機性排水を生物処理するものであり、
担体は、嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体と、該生物膜が付着していない担体とを含むものであり、ここで、生物膜とは、嫌気性微生物と、嫌気性微生物が産出する菌体外多糖等の生産物等が集合した膜状構造体であって、少なくとも10μm以上の膜厚、好ましくは20μm以上の膜厚を有するものであり、生物膜が付着していない担体とは、10μm未満の膜厚の膜状構造体が付着した担体を含む概念であるが、処理水の水質悪化を抑制する観点等から、嫌気性微生物が付着していない担体であることが望ましいものであり、
生物処理の立ち上げにおいては、有機性排水が、排水流入ラインから流動床式反応槽に導入され、この有機性排水の通水開始前又は後において、流動床式反応槽に担体が投入され、流動床式反応槽内では、撹拌装置により担体及び有機性排水が撹拌されながら、嫌気条件で生物処理が行われ、流動床式反応槽で生物処理された処理水は、処理水排出ラインから系外へ排出され、このような処理を継続して、予め設定した負荷に達した段階で、生物処理の立ち上げが終了となるものであり、生物処理立ち上げ期間における到達負荷は、例えばCODcr容積負荷で2kg/m3/day以上に設定されることが好ましく、10kg/m3/day以上に設定されることがより好ましいものであり、
嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体は、有機性排水に微生物が付着していない担体を浸漬させて長期間馴養している馴養装置等から確保され、また、担体を用いた有機性排水の嫌気処理を長期に行っている別系統の処理装置から確保され、更に、流動床式反応槽内の水温を20℃以上となるように温度調整することが好ましい、有機性排水の処理装置。」
の発明(以下、「甲1-1’発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 参考資料2-1の記載事項
参考資料2-1には、以下の(a)の記載事項がある。
(a)「5.1 嫌気性処理概説
嫌気性処理(anaerobic treatment)は,酸素のない嫌気的条件において嫌気性微生物の代謝作用により,有機性排水・廃棄物を分解する生物学的プロセスである.同技術は,古くから汚水・汚泥の浄化処理に用いられ,すでに100年以上の歴史がある.厳密にいえば,嫌気性処理は好気性処理に対比して,酸素のいらない幅広い生物処理のことを指すキーワードであり,必ずしも「メタン発酵」だけを意味するものではない.たとえば,脱窒細菌,硫酸塩還元菌,水素発酵細菌などによる有機物の分解において,メタンの生成がなくても嫌気性処理といえる.しかし,用廃水の分野においてはどちらかといえば,「嫌気性処理」,「嫌気性消化(anaerobic digestion)」,「メタン発酵(methane fermentation)」の3つのキーワードをあまり区別せず使ってきている経緯があり,嫌気性処理または嫌気性消化をいう場合,有機物をメタンまで分解することを指すことが多く,実務においてもこのように理解されている.」(141頁1行~13行)
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明における「有機性排水を流動床式反応槽により嫌気条件で生物処理する有機性排水の処理方法」は、本件発明1における「嫌気性微生物を担持することができる担体を保持する」「槽に、有機性廃水を通水して処理する有機性廃水の嫌気性処理方法」に相当する。
また、甲1-1発明における「嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体」及び「生物膜が付着していない担体」は、それぞれ、本件発明1における「嫌気性微生物が付着している馴致担体」及び「嫌気性微生物が付着していない新規担体」に相当し、甲1-1発明において「前記生物処理を立ち上げる際には、前記反応槽内に、嫌気性微生物が生物膜となって付着している担体と、前記生物膜が付着していない担体とを共存させ、前記有機性排水を通水する」ことは、本件発明1において「有機性廃水の通水開始時には」、「槽に、嫌気性微生物が付着している馴致担体と、嫌気性微生物が付着していない新規担体とを混在させ」ることに相当する。
(イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲1-1発明とは、
「嫌気性微生物を担持することができる担体を保持する槽に、有機性廃水を通水して処理する有機性廃水の嫌気性処理方法であって、
有機性廃水の通水開始時には、槽に、嫌気性微生物が付着している馴致担体と、嫌気性微生物が付着していない新規担体とを混在させる、有機性廃水の嫌気性処理方法。」
の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「嫌気性微生物を担持することができる担体を保持する槽」が「メタン発酵槽」であり、前記「メタン発酵槽」が、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」であるのに対して、甲1-1発明は、「嫌気性微生物を担持することができる担体を保持する槽」が「メタン発酵槽」であるか否かが明らかでなく、「生物処理立ち上げ期間における到達負荷」が、より好ましくは「CODcr容積負荷で10kg/m3/day以上に設定される」ものである点。
(ウ)以下、前記(イ)の相違点1について検討すると、前記(1)イ(a)の参考資料2-1の記載からすれば、従来、用廃水の分野においては、「嫌気性処理」、「嫌気性消化(anaerobic digestion)」、「メタン発酵(methane fermentation)」の3つのキーワードをあまり区別せず使ってきている経緯があり、嫌気性処理または嫌気性消化をいう場合、有機物をメタンまで分解することを指すことが多いのであり、このことに基づけば、甲1-1発明における「嫌気性微生物を担持することができる担体を保持する槽」は、「メタン発酵槽」と解するのが妥当である。
そこで、更に進んで、甲1-1発明の「メタン発酵槽」が、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」であるか否かについて検討すると、甲1-1発明においては、生物処理の立ち上げにおいて有機性排水の処理を継続して、予め設定した負荷に達した段階で、生物処理の立ち上げが終了となるものであり、このときの「生物処理立ち上げ期間における到達負荷」は、10kg/m3/day以上に設定されることがより好ましいものである。
ところが、甲1-1発明における「生物処理立ち上げ期間における到達負荷」は、有機性排水の立ち上げ処理を継続した後の、予め設定した負荷に達した段階である立ち上げが終了となる際の負荷と解され、「有機性廃水の通水開始時のCODCr容積負荷」とは解されないから、甲1-1発明において、「生物処理立ち上げ期間における到達負荷」が10kg/m3/day以上に設定されているとしても、甲1-1発明の「メタン発酵槽」が、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」であるとはいえない。
また、甲第1-1号証明細書等には、ほかに、甲1-1発明における「メタン発酵槽」の「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷」を開示する記載はないから、仮に、甲1-1発明における「嫌気性微生物を担持することができる担体を保持する槽」が「メタン発酵槽」と解され、甲1-1発明において、「生物処理立ち上げ期間における到達負荷」が10kg/m3/day以上に設定されているとしても、前記「メタン発酵槽」が、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」であるとはいえないので、前記相違点1は実質的な相違点である。
(エ)なお、仮に、「メタン発酵槽」における「通水開始時のCODcr容積負荷」の設定が、馴養担体担体の処理能力、添加量に合わせて最適化すればよい設計的事項であるとしても、「生物処理立ち上げ期間における到達負荷」が2kg/m3/day以上に設定されることが好ましく、10kg/m3/day以上に設定されることがより好ましい甲1-1発明において、「有機性廃水の通水開始時のCODCr容積負荷」をいきなり「10kg/(m3・d)以上」まで高くすることは考え難いし、「有機性廃水の通水開始時」の「CODCr容積負荷」を「10kg/(m3・d)以上」とすることが通常行われる範囲のものであることを示す証拠もないから、甲1-1発明において、「有機性廃水の通水開始時のCODCr容積負荷」を「10kg/(m3・d)以上」とすることまでも設計的事項であるということはできない。
また、本件特許明細書には、「通水開始時のCODcr容積負荷」が「10kg/(m3・d)」よりも大きい場合にも立ち上げ期間が短縮できることは記載されていないが、本件特許明細書の【0011】、【0017】によれば、本件発明1は、嫌気性微生物が付着している馴致担体を投入するため、担体表面に高いメタン活性度を有する生物膜が形成されやすく、立ち上げ期間の短縮を行うことができるものであり、「通水開始時のCODcr容積負荷」が「10kg/(m3・d)」よりも大きい場合であっても、同様に、嫌気性微生物が付着している馴致担体を投入するため、担体表面に高いメタン活性度を有する生物膜が形成されやすく、立ち上げ期間の短縮を行うことができることが推認されるから、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)」の場合と同様の効果を奏することが推認できるものである。
したがって、前記相違点1は、特段の効果を奏しない設計的事項ということはできないので、実質的な相違点というべきものである。
(オ)以上のとおりであるので、本件発明1と甲1-1発明とは、少なくとも前記相違点1の点で実質的に相違するので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1-1発明と同一であるとはいえない。
イ 本件発明2、3について
本件発明2及び3は、直接的又は間接的に本件発明1を引用するものであって、本件発明2及び3と甲1-1発明とを対比すると、いずれも、少なくとも前記ア(イ)の相違点1の点で相違する。
すると、前記ア(オ)に記載したのと同様の理由により、本件発明2及び3と甲1-1発明も、少なくとも前記相違点1の点で実質的に相違するから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2及び3も甲1-1発明と同一であるとはいえない。
ウ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲1-1’発明とを対比すると、甲1-1’発明における「流動床式反応槽」は、本件発明4における「嫌気性微生物を流動性担体表面に保持する嫌気性流動床方式の」「槽」に相当し、甲1-1’発明における「有機性排水に微生物が付着していない担体を浸漬させて長期間馴養している馴養装置」、「担体を用いた有機性排水の嫌気処理を長期に行っている別系統の処理装置」は、「馴致担体」を確保するものであるから、本件発明4における「槽に投入するための」「馴致担体を調製する馴致担体調製用嫌気性反応槽」に相当し、甲1-1’発明における「排水処理装置」は、本件発明4における「有機性廃水の嫌気性処理装置」に相当する。
(イ)前記(ア)によれば、本件発明4と甲1-1’発明とは、
「嫌気性微生物を流動性担体表面に保持する嫌気性流動床方式の槽と、
当該槽に投入するための馴致担体を調製する馴致担体調製用嫌気性反応槽と、
を具備する、有機性廃水の嫌気性処理装置。」
の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点2:本件発明4は、「有機性廃水の嫌気性処理装置」における「馴致担体調製用嫌気性反応槽」が「仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽」であって、「気固液分離装置を備えたUASBタイプの反応槽、担体分離機能を備えた完全混合タイプの反応槽、反応槽内もしくは反応槽外に分離膜を備えた嫌気性膜分離装置、及び回分式メタン発酵槽から選択される小型の嫌気性処理装置である仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽」であるのに対して、甲1-1’発明は、「馴致担体調製用嫌気性反応槽」が、「有機性排水に微生物が付着していない担体を浸漬させて長期間馴養している馴養装置」、「担体を用いた有機性排水の嫌気処理を長期に行っている別系統の処理装置」である点。
(ウ)以下、前記(イ)の相違点2について検討すると、本件特許明細書の【0032】によれば、本件発明4における「仮設の嫌気性反応槽」とは、立ち上げ運転を行おうとする嫌気性反応槽に馴致担体を提供することを目的とする小型の嫌気性反応槽をいうものであり、立ち上げ運転を行おうとする嫌気性反応槽の処理対象と同一の有機性廃水に、種汚泥と新規担体とを浸漬させて、担体に種汚泥を付着させ、担体表面での種汚泥を増殖させて、嫌気性微生物を担持した馴致担体を提供するものである。
そして、甲第1-1号証明細書等には、甲1-1’発明における「有機性排水に微生物が付着していない担体を浸漬させて長期間馴養している馴養装置」及び「担体を用いた有機性排水の嫌気処理を長期に行っている別系統の処理装置」が、立ち上げ運転を行おうとする嫌気性反応槽に馴致担体を提供することを目的とする小型の嫌気性反応槽であり、立ち上げ運転を行おうとする嫌気性反応槽の処理対象と同一の有機性廃水に、種汚泥と新規担体とを浸漬させて、担体に種汚泥を付着させ、担体表面での種汚泥を増殖させて、嫌気性微生物を担持した馴致担体を提供するものであることが記載されるものではないし、このことをうかがわせる記載もない。
そうすると、甲1-1’発明が、本件発明4の「仮設の嫌気性反応槽」に相当する嫌気性反応槽を備えるものとはいえないので、前記相違点2は実質的な相違点である。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4が甲1-1’発明と同一であるとはいえない。
(3)小括
したがって、本件発明1~4は甲第1-1号証明細書等に記載された発明と同一であるとはいえないので、前記第5の1(1)及び第5の2(1)の取消理由はいずれも理由がない。
2 特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について
(1)各甲号証の記載事項等
ア 甲第1-2号証の記載事項及び甲第1-2号証に記載された発明
(ア)甲第1-2号証には、以下の(2A)~(2B)の記載がある。
(2A)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水原水が導入される酸生成槽と、該酸生成槽を通過した水が導入されるメタン発酵槽と、メタン発酵槽からの流出水の一部を酸生成槽に返送する手段とを備える二槽式嫌気性排水処理装置において、酸生成槽とメタン発酵槽の両方に担体が存在することを特徴とする排水処理装置。
…
【請求項3】
請求項1または2記載の排水処理装置を用いることを特徴とする排水処理方法。」
(2B)「【0014】
本発明において、酸生成槽およびメタン発酵槽へそれぞれ添加する担体の量は、特に制限はないが、必要とする効率に応じて添加すればよい。通常は槽容量に対して5容量%から70容量%が好ましく、10容量%から60容量%がより好ましく、20容量%から50容量%が最も好ましい。また、担体を添加した槽においては、担体と排水の接触効率を高めるために担体を流動させる方法をとってもよい。担体を流動させる方法としては、特に制限はないが、機械撹拌や酸素を含まないガスを散気する方法などが挙げられる。
…
【0017】
担体に菌を増殖させる方法としては、種汚泥と担体を実際に嫌気性排水処理する酸生成槽、メタン発酵槽に投入した後、実排水や人工排水などを少量ずつ導入し、処理状況に応じて排水の濃度や流量を上げる方法が挙げられる。また、実際に排水処理する酸生成槽やメタン発酵槽とは別に、菌を増殖させることのできる槽やタンクがある場合には、その槽で担体に菌を増殖させた後、実際に嫌気性排水処理する酸生成槽やメタン発酵槽に菌が増殖した担体を投入する方法を採用することもできる。
…
【0024】
本発明のメタン発酵槽における最大CODcr容積負荷(kg/m3・日)に特に制限はないが、10kg/m3・日以上であることが好ましい。従来の嫌気性排水処理に比べて効率よく処理するという観点から、20kg/m3・日以上であることがより好ましい。」
(イ)前記(ア)(2A)によれば、甲第1-2号証には「排水処理装置」が記載されており、当該「排水処理装置」は、排水原水が導入される酸生成槽と、該酸生成槽を通過した水が導入されるメタン発酵槽と、メタン発酵槽からの流出水の一部を酸生成槽に返送する手段とを備える二槽式嫌気性排水処理装置において、酸生成槽とメタン発酵槽の両方に担体が存在するものである。
また、甲第1-2号証には「排水処理方法」が記載されており、前記「排水処理方法」は、前記「排水処理装置」を用いるものである。
更に、前記(ア)(2B)によれば、前記「排水処理装置」及び「排水処理方法」においては、酸生成槽およびメタン発酵槽へそれぞれ担体を添加するのであるが、担体を添加した槽において、担体と排水の接触効率を高めるために担体を流動させる方法をとってもよいものであり、担体に菌を増殖させる方法は、実際に排水処理する酸生成槽やメタン発酵槽とは別に、菌を増殖させることのできる槽やタンクがある場合には、その槽で担体に菌を増殖させた後、実際に嫌気性排水処理する酸生成槽やメタン発酵槽に菌が増殖した担体を投入する方法を採用することができるものであり、メタン発酵槽における最大CODcr容積負荷(kg/m3・日)は、10kg/m3・日以上であることが好ましく、20kg/m3・日以上であることがより好ましいものである。
(ウ)前記(イ)によれば、甲第1-2号証には、
「排水原水が導入される酸生成槽と、該酸生成槽を通過した水が導入されるメタン発酵槽と、メタン発酵槽からの流出水の一部を酸生成槽に返送する手段とを備える二槽式嫌気性排水処理装置において、酸生成槽とメタン発酵槽の両方に担体が存在する排水処理装置を用いる排水処理方法であって、
酸生成槽およびメタン発酵槽へそれぞれ担体を添加するのであるが、担体を添加した槽において、担体と排水の接触効率を高めるために担体を流動させる方法をとってもよいものであり、
担体に菌を増殖させる方法は、実際に排水処理する酸生成槽やメタン発酵槽とは別に、菌を増殖させることのできる槽やタンクがある場合には、その槽で担体に菌を増殖させた後、実際に嫌気性排水処理する酸生成槽やメタン発酵槽に菌が増殖した担体を投入する方法を採用することができるものであり、
メタン発酵槽における最大CODcr容積負荷(kg/m3・日)は、10kg/m3・日以上であることが好ましく、20kg/m3・日以上であることがより好ましい、排水処理方法。」の発明(以下、「甲1-2発明」という。)が記載されていると認められる。
(エ)また、前記(イ)によれば、甲第1-2号証には、
「排水原水が導入される酸生成槽と、該酸生成槽を通過した水が導入されるメタン発酵槽と、メタン発酵槽からの流出水の一部を酸生成槽に返送する手段とを備える二槽式嫌気性排水処理装置において、酸生成槽とメタン発酵槽の両方に担体が存在する排水処理装置であって、
酸生成槽およびメタン発酵槽へそれぞれ担体を添加するのであるが、担体を添加した槽において、担体と排水の接触効率を高めるために担体を流動させる方法をとってもよいものであり、
担体に菌を増殖させる方法は、実際に排水処理する酸生成槽やメタン発酵槽とは別に、菌を増殖させることのできる槽やタンクがある場合には、その槽で担体に菌を増殖させた後、実際に嫌気性排水処理する酸生成槽やメタン発酵槽に菌が増殖した担体を投入する方法を採用することができるものであり、
メタン発酵槽における最大CODcr容積負荷(kg/m3・日)は、10kg/m3・日以上であることが好ましく、20kg/m3・日以上であることがより好ましい、排水処理装置。」の発明(以下、「甲1-2’発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 甲第2-1号証の記載事項
甲第2-1号証には、以下の(1a)~(1c)の記載がある。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水中に含有される基質を生物学的に除去する廃水処理方法において、
前記廃水と、微生物を包括固定化した包括微生物担体とを接触させて前記包括微生物担体の微生物を増殖させると共に、該増殖により前記包括微生物担体の担体内部から担体外部にリークしてくる微生物を含む廃水を付着固定化材に接触させて、前記リークした微生物を付着固定化材に付着増殖させることを特徴とする廃水処理方法。
…
【請求項8】
前記包括微生物担体と前記付着固定化材とは同じ生物処理槽内に混在されていることを特徴とする請求項1~7の何れか1の廃水処理方法。
…
【請求項10】
前記増殖する前の包括微生物担体は、前記付着固定化材に付着させたい微生物を105 (cells/cm3) 以上の濃度で包括固定化したものであることを特徴とする請求項1~9の何れか1の廃水処理方法。」
(1b)「【0001】
本発明の廃水処理方法及び装置は、環境保全のために、下水や廃水中のアンモニア性窒素やBOD成分を生物学的に処理して除去する廃水処理方法及び装置に関する。」
(1c)「【0031】
本発明において包括微生物担体に固定化する微生物は純粋菌株、活性汚泥などの複合微生物が用いられる。複合微生物としては、例えば活性汚泥、硝化細菌群、脱窒細菌群、嫌気性アンモニア酸化細菌群などがある。また、純粋菌株としては、例えば硝化細菌、脱室細菌、嫌気性アンモニア細菌、アオコ分解菌、PCB分解菌、ダイオキシン分解菌、環境ホルモン分解菌などがある。包括微生物担体に固定化する微生物の総菌数の濃度は105(cells/cm3) 以上であることが好ましい。これは、担体内部の微生物濃度が106(cells/ cm3) 以上で活性が発現するので、105(cells/ cm3) 以上の濃度で固定化することにより、担体内部で108(cells/ cm3) 以上に増殖し、これにより包括微生物担体からの微生物のリークが促進されるからである。…」
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1-2発明とを対比すると、甲1-2発明における、「排水原水が導入される酸生成槽と、該酸生成槽を通過した水が導入されるメタン発酵槽と、メタン発酵槽からの流出水の一部を酸生成槽に返送する手段とを備える二槽式嫌気性排水処理装置において、酸生成槽とメタン発酵槽の両方に担体が存在する排水処理装置を用いる排水処理方法」は、本件発明1における、「嫌気性微生物を担持することができる担体を保持するメタン発酵槽に、有機性廃水を通水して処理する有機性廃水の嫌気性処理方法」に相当する。
また、甲1-2発明における、「実際に排水処理する酸生成槽やメタン発酵槽とは別に、菌を増殖させることのできる槽やタンクがある場合に」、「その槽で担体に菌を増殖させた後、実際に嫌気性排水処理する」「メタン発酵槽」に投入される「担体」は、本件発明1における「馴致担体」に相当し、甲1-2発明において、「メタン発酵槽へ」「担体を添加し、担体を添加した槽において、担体と排水の接触効率を高めるために担体を流動させ」ることは、本件発明1において、「嫌気性微生物が付着している馴致担体」「を混在させ」ることに相当する。
(イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲1-2発明とは、
「嫌気性微生物を担持することができる担体を保持するメタン発酵槽に、有機性廃水を通水して処理する有機性廃水の嫌気性処理方法であって、
嫌気性微生物が付着している馴致担体を混在させる、
有機性廃水の嫌気性処理方法。」
の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点3:本件発明1は、「メタン発酵槽」が、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」であるのに対して、甲1-2発明は、「メタン発酵槽における最大CODcr容積負荷(kg/m3・日)」が、「10kg/m3・日以上であることが好ましく、20kg/m3・日以上であることがより好ましい」ものである点。
(ウ)以下、前記(イ)の相違点3について検討すると、甲1-2発明の「メタン発酵槽における最大CODcr容積負荷(kg/m3・日)」は、「メタン発酵槽」の設計上の「最大」の「CODcr容積負荷(kg/m3・日)」であって、「通水開始時のCODCr容積負荷」とは異なるものと解されるから、甲1-2発明における「メタン発酵槽における最大CODcr容積負荷(kg/m3・日)」が本件発明1における「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷」に相当するものとはいえない。
このため、甲1-2発明における「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷」は明らかでないので、前記相違点3は実質的な相違点である。
(エ)そして、仮に、「通水開始時のCODcr容積負荷」の設定が、馴養担体担体の処理能力、添加量に合わせて最適化すればよい設計的事項であるとしても、甲第2-1号証には、「メタン発酵槽」を、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」とすることが記載も示唆もされるものでもなく、「有機性廃水の通水開始時のCODCr容積負荷」を「10kg/(m3・d)以上」とすることが通常行われる範囲のものであることを示す証拠もないから、甲1-2発明において、「メタン発酵槽」を、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」として、前記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、当業者が容易になし得るものではない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-2発明及び甲第2-1号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2、3について
本件発明2及び3は、いずれも本件発明1を引用するものであって、本件発明2及び3と甲1-2発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも前記ア(イ)の相違点3の点で相違する。
そうすると、前記ア(ウ)、(エ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2及び3も、甲1-2発明及び甲第2-1号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲1-2’発明とを対比すると、甲1-2’発明における「酸生成槽を通過した水が導入されるメタン発酵槽」は、「担体が存在する」ものであって、甲1-2’発明は、「担体を添加した槽において」、「担体と排水の接触効率を高めるために担体を流動させる」ものであるから、本件発明4における、「嫌気性微生物を流動性担体表面に保持する嫌気性流動床方式のメタン発酵槽」に相当する。
また、甲1-2’発明における「実際に排水処理する酸生成槽やメタン発酵槽とは別」の「菌を増殖させることのできる槽やタンク」は、「メタン発酵槽」に投入するための「馴致担体」を調製するものといえるから、本件発明4における「メタン発酵槽に投入するための」「馴致担体を調製する」「馴致担体調製用嫌気性反応槽」に相当し、甲1-2’発明における「排水処理装置」は、本件発明4における「有機性廃水の嫌気性処理装置」に相当する。
(イ)前記(ア)によれば、本件発明4と甲1-2’発明とは、
「嫌気性微生物を流動性担体表面に保持する嫌気性流動床方式のメタン発酵槽と、
当該メタン発酵槽に投入するための馴致担体を調製する馴致担体調製用嫌気性反応槽と、
を具備する、有機性廃水の嫌気性処理装置。」
の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点4:本件発明4は、「有機性廃水の嫌気性処理装置」が、「仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽であって、気固液分離装置を備えたUASBタイプの反応槽、担体分離機能を備えた完全混合タイプの反応槽、反応槽内もしくは反応槽外に分離膜を備えた嫌気性膜分離装置、及び回分式メタン発酵槽から選択される小型の嫌気性処理装置である仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽」「を具備する」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1-2’発明は、「馴致担体調製用嫌気性反応槽」が、「実際に排水処理する酸生成槽やメタン発酵槽とは別」の「菌を増殖させることのできる槽やタンク」である点。
(ウ)以下、前記(イ)の相違点4について検討すると、前記1(2)ウ(ウ)に記載したのと同様の理由により、甲1-2’発明が、本件発明4の「仮設の嫌気性反応槽」に相当する嫌気性反応槽を備えるものとはいえないので、前記相違点4は実質的な相違点である。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4が甲1-2’発明であるとはいえない。
そして、甲1-2’発明において、「馴致担体調製用嫌気性反応槽」を、本件発明4の「仮設の嫌気性反応槽」に相当する嫌気性反応槽とする動機付けは存在しないので、甲1-2’発明において、「有機性廃水の嫌気性処理装置」を、「仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽であって、気固液分離装置を備えたUASBタイプの反応槽、担体分離機能を備えた完全混合タイプの反応槽、反応槽内もしくは反応槽外に分離膜を備えた嫌気性膜分離装置、及び回分式メタン発酵槽から選択される小型の嫌気性処理装置である仮設の馴致担体調製用嫌気性反応槽」「を具備する」、との前記相違点4に係る本件発明4の発明特定事項を有するものとすることを、当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1-2’発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)小括
したがって、本件発明1~3は、甲第1-2号証に記載された発明及び甲第2-1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明4は、甲第1-2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないので、前記第5の1(2)の取消理由は理由がない。
3 まとめ
以上のとおりであるので、前記第5の取消理由はいずれも理由がない。
第7 取消理由通知書で採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
以下、取消理由通知書で採用しなかった前記第4の1(3)、(4)及び同2(2)の特許異議申立理由について検討する。
1 申立人片桐による特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)本件発明1~3について
本件発明1~3と甲1-2発明とは少なくとも前記相違点3で相違することは、前記第6の2(2)ア(イ)及び同イに記載のとおりである。
すると、前記第6の2(2)ア(ウ)、(エ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-2発明及び甲第1-3号証~甲第1-6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明4について
本件発明4と甲1-2’発明とは少なくとも前記相違点4で相違することは、前記第6の2(2)ウ(イ)に記載のとおりである。
すると、前記第6の2(2)ウ(ウ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1-2’発明及び甲第1-3号証~甲第1-6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
したがって、本件発明1~4は、甲第1-2号証に記載された発明及び及び甲第1-3号証~甲第1-6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、前記第4の1(3)の特許異議申立理由は理由がない。
2 申立人片桐による特許法第36条第6項第2号(明確性)について
甲第2-7号証には以下の記載がある。
「好気性微生物による有機物の分解は単一の細胞内で炭酸ガスにまで分解が行われる。一方、嫌気性微生物による有機物の分解反応は、栄養形態の異なる四種の菌群、すなわち酸生成菌、水素生成酢酸化菌、水素資化性メタン菌と酢酸資化性メタン菌がその分解経路を分担することによって遂行される1)。…嫌気性付着増殖型プロセスでは、単に反応器内に高濃度に生物を生物を保持するだけではなく、これらの四種の菌群の共生関係が維持されていることが必要不可欠である。」(1頁下から4行目~2頁2行)
そして、前記甲第2-7号証の記載からみれば、嫌気性微生物による有機物の分解反応は、栄養形態の異なる四種の菌群、すなわち酸生成菌、水素生成酢酸化菌、水素資化性メタン菌及び酢酸資化性メタン菌がその分解経路を分担することによって遂行されるものであり、このことは本件出願日時点における技術常識といえ、係る技術常識に基づけば、当業者は、「メタン発酵槽」を備える本件発明1において担体に付着しているのは、専ら、これら酸生成菌、水素生成酢酸化菌、水素資化性メタン菌及び酢酸資化性メタン菌であって、メタン生成菌が優占状態であるものであることを理解する。
してみれば、本件発明1において担体に付着している嫌気性微生物は明確であるというべきであるから、本件発明1は明確であり、本件発明1を引用する本件発明2~3及び本件発明4も同様に明確であるので、前記第4の1(4)の特許異議申立理由は理由がない。
3 申立人黒崎による特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)甲第2-1号証に記載された発明
ア 前記第6の2(1)イ(1a)、(1c)によれば、甲第2-1号証には、廃水中に含有される基質を生物学的に除去する「廃水処理方法」において、前記廃水と、微生物を包括固定化した包括微生物担体とを接触させて前記包括微生物担体の微生物を増殖させると共に、該増殖により前記包括微生物担体の担体内部から担体外部にリークしてくる微生物を含む廃水を付着固定化材に接触させて、前記リークした微生物を付着固定化材に付着増殖させる「廃水処理方法」であって、前記包括微生物担体と前記付着固定化材とは同じ生物処理槽内に混在されており、前記増殖する前の包括微生物担体は、前記付着固定化材に付着させたい微生物を105(cells/cm3) 以上の濃度で包括固定化したものである、「廃水処理方法」が記載されている。
すなわち、前記「廃水処理方法」においては、包括微生物担体に固定化する微生物は純粋菌株、活性汚泥などの複合微生物が用いられるものであり、複合微生物としては、例えば活性汚泥、硝化細菌群、脱窒細菌群、嫌気性アンモニア酸化細菌群などがあり、また、純粋菌株としては、例えば硝化細菌、脱室細菌、嫌気性アンモニア細菌、アオコ分解菌、PCB分解菌、ダイオキシン分解菌、環境ホルモン分解菌などがあるものである。
イ 前記アによれば、甲第2-1号証には、
「廃水中に含有される基質を生物学的に除去する廃水処理方法において、前記廃水と、微生物を包括固定化した包括微生物担体とを接触させて前記包括微生物担体の微生物を増殖させると共に、該増殖により前記包括微生物担体の担体内部から担体外部にリークしてくる微生物を含む廃水を付着固定化材に接触させて、前記リークした微生物を付着固定化材に付着増殖させる廃水処理方法であって、
前記包括微生物担体と前記付着固定化材とは同じ生物処理槽内に混在されており、前記増殖する前の包括微生物担体は、前記付着固定化材に付着させたい微生物を105 (cells/cm3) 以上の濃度で包括固定化したものであり、
包括微生物担体に固定化する微生物は純粋菌株、活性汚泥などの複合微生物が用いられるものであり、複合微生物としては、例えば活性汚泥、硝化細菌群、脱窒細菌群、嫌気性アンモニア酸化細菌群などがあり、また、純粋菌株としては、例えば硝化細菌、脱室細菌、嫌気性アンモニア細菌、アオコ分解菌、PCB分解菌、ダイオキシン分解菌、環境ホルモン分解菌などがある、廃水処理方法。」の発明(以下、「甲2-1発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2-1発明とを対比すると、本件発明1と甲2-1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点5:本件発明1は、「嫌気性処理方法」が、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」を備えるのに対して、甲2-1発明は、「排水処理方法」の「生物処理槽」が、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」であるとはいえない点。
(イ)以下、前記(ア)の相違点5について検討すると、前記第6の2(1)イ(1b)によれば、甲2-1発明は、環境保全のために、下水や廃水中のアンモニア性窒素やBOD成分を生物学的に処理して除去するものであって、包括微生物担体に固定化する微生物は純粋菌株、活性汚泥などの複合微生物が用いられるものであり、複合微生物としては、例えば活性汚泥、硝化細菌群、脱窒細菌群、嫌気性アンモニア酸化細菌群などがあり、また、純粋菌株としては、例えば硝化細菌、脱室細菌、嫌気性アンモニア細菌、アオコ分解菌、PCB分解菌、ダイオキシン分解菌、環境ホルモン分解菌などがあるものであって、そもそも甲2-1発明においてメタン発酵を行うことは想定されていない。
そして、係る甲2-1発明において、「生物処理槽」を「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」とする動機付けは存在しないから、甲2-1発明において、「嫌気性処理方法」を、「有機性排水の通水開始時のCODCr容積負荷が10kg/(m3・d)以上のメタン発酵槽」を備える、との前記相違点5に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第2-2号証~甲第2-10号証の記載事項に関わらず、当業者が容易になし得るものではない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-1発明及び甲第2-2号証~甲第2-10号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2~3について
本件発明2及び3は、いずれも本件発明1を引用するものであって、本件発明2及び3と甲2-1発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも前記ア(ア)の相違点5の点で相違する。
そうすると、前記ア(イ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2及び3を、甲2-1発明及び甲第2-2号証~甲第2-10号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1~3は、甲第2-1号証に記載された発明及び及び甲第2-2号証~甲第2-10号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、前記第4の2(2)の特許異議申立理由は理由がない。
4 まとめ
以上のとおりであるので、前記第4の1(3)、(4)及び同2(2)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
第8 むすび
以上のとおり、請求項1~4に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700626