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特許異議申立

2024-701181

有機溶媒の精製方法及び精製有機溶媒の製造方法、並びに有機溶媒の精製システム

審判番号
2024-701181
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-154166
登録番号
7498530
請求日
2024年12月09日
審決日
2025年10月10日
公報発行日
2026年02月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】室町ケミカル株式会社
  • 【権利者代理人】森 博
  • 【異議申立人】黒崎 惇子
審判長/審判官
  • 審判長 井上 典之
  • 審判官 松元 麻紀子
  • 審判官 小石 真弓
分類
P1651.121-YAA(B01J) / P1651.537-YAA(B01J) / P1651.536-YAA(B01J)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

結論

結 論 特許第7498530号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕、〔10~13〕について訂正することを認める。 特許第7498530号の請求項1~13に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7498530号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、令和5年9月21日に出願され、令和6年6月4日に特許権の設定登録がされ、同年同月12日にその特許掲載公報が発行され、その後、同年12月9日に本件特許の請求項1~13に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 黒崎 惇子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和7年3月28日付け 取消理由通知(特許権者宛て) 同年6月 2日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者) 同年同月30日付け 訂正請求があった旨の通知(申立人宛て) 同年7月30日 意見書の提出(申立人) 第2 訂正の請求について 1 訂正の請求の趣旨 令和7年6月2日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、 「特許第7498530号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求める。」 というものである。 2 訂正の内容 下記(1)のとおり、本件訂正は、訂正前の請求項1~9に対応する訂正後の請求項1~9からなる「一群の請求項」(以下「一群の請求項A」という。)、及び、訂正前の請求項10~13に対応する訂正後の請求項10~13からなる別の「一群の請求項」(以下「一群の請求項B」という。)について、それぞれの「一群の請求項」ごとに訂正の請求がされたものである。 そして、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の記載、訂正請求書の記載、及び、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の記載からみて、本件訂正の内容は、下記(2)及び(3)に示す訂正事項1~4からなるものと認める。なお、下線は、訂正による記載の変更箇所を示す。 (1)一群の請求項について ア 一群の請求項A 本件訂正前の請求項1~9について、請求項2~9は、請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する関係にあり、下記(2)アの訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1~9に対応する訂正後の請求項1~9は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する「一群の請求項」(「一群の請求項A」)である。 イ 一群の請求項B 本件訂正前の請求項10~13について、請求項11~13は、請求項10の記載を直接的に又は間接的に引用する関係にあり、下記(3)アの訂正事項3によって記載が訂正される請求項10に連動して訂正されるから、訂正前の請求項10~13に対応する訂正後の請求項10~13は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する「一群の請求項」(「一群の請求項B」)である。 (2)一群の請求項Aの訂正 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程を含み、 前記第1イオン交換体がNーメチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなることを特徴とする有機溶媒の精製方法。」 と記載されているのを、 「有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程を含み、 前記有機溶媒が、極性有機溶媒であり、 前記不純物カチオンが金属カチオンであり、 前記第1イオン交換体がNーメチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなることを特徴とする有機溶媒の精製方法(但し、前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除く。)。」 に訂正する。 請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項2~9も同様に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項6に 「下記(A)から(C)のいずれかの処理を含む有機溶媒の精製方法。 (A)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第2イオン交換体の単床に接触させる処理 (B)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第2イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第1イオン交換体の単床に接触させる処理 (C)前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体の混床に接触させる処理」 と記載されているのを、 「下記(A)または(B)の処理を含む有機溶媒の精製方法。 (A)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第2イオン交換体の単床に接触させる処理 (B)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第2イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第1イオン交換体の単床に接触させる処理」 に訂正する。 請求項6の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項7~9も同様に訂正する。 (合議体注:訂正請求書の2~3頁の「イ 訂正事項2」の項目には、 「(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項7~9も同様に訂正する。)」 と記載されているが、この「請求項1」とは、「請求項6」の明らかな誤記と解されるので、上記のとおり認定した。) (3)一群の請求項Bの訂正 ア 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項10に 「有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒が通液される第1イオン交換体を具備する精製手段を有し、 前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなることを特徴とする有機溶媒の精製システム。」 と記載されているのを、 「有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒が通液される第1イオン交換体を具備する精製手段を有し、 前記有機溶媒が、極性有機溶媒であり、 前記不純物カチオンが金属カチオンであり、 前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなることを特徴とする有機溶媒の精製システム(但し、前記第1イオン交換体を具備する精製手段が、前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を有する精製手段である場合を除く。)。」 に訂正する。 請求項10の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項11~13も同様に訂正する。 イ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項13に 「下記(A)から(C)のいずれかの精製手段を含む有機溶媒の精製システム。 (A)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体の単床と、該第1イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第2イオン交換体の単床を有する精製手段 (B)前記被処理有機溶媒が通液される前記第2イオン交換体の単床と、該第2イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第1イオン交換体の単床を有する精製手段 (C)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床を有する精製手段」 と記載されているのを、 「下記(A)または(B)の精製手段を含む有機溶媒の精製システム。 (A)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体の単床と、該第1イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第2イオン交換体の単床を有する精製手段 (B)前記被処理有機溶媒が通液される前記第2イオン交換体の単床と、該第2イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第1イオン交換体の単床を有する精製手段」 に訂正する。 3 訂正要件の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的の適否 (ア)訂正事項1の構成 訂正事項1は、次の3つの訂正事項からなるものと認められ、いずれの訂正事項も請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項2~9も同様に訂正するものである。 a 請求項1に記載の「有機溶媒」を、「極性有機溶媒」に特定する訂正事項(以下「訂正事項1a」という。)。 b 請求項1に記載の「不純物カチオン」を、「金属カチオン」であるものに特定する訂正事項(以下「訂正事項1b」という。)。 c 請求項1に記載の「有機溶媒の精製方法」から、「前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様」を「除く」とする訂正事項(以下「訂正事項1c」という。)。 (イ)訂正事項1aについて 訂正事項1aによる訂正は、請求項1に記載の「有機溶媒の精製方法」における「被処理有機溶媒」の「有機溶媒」を、「極性有機溶媒」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (ウ)訂正事項1bについて 訂正事項1bによる訂正は、請求項1に記載の「有機溶媒の精製方法」における「被処理有機溶媒」が含む、除去される「不純物カチオン」を、「金属カチオン」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (エ)訂正事項1cについて 訂正事項1cによる訂正は、請求項1に記載の「有機溶媒の精製方法」から、同項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該方法に包含される態様である「前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様」を「除く」とすることにより、請求項に記載の「有機溶媒の精製方法」の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (オ)まとめ したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 (ア)訂正事項1aについて 本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0034】には、「本発明において、有機溶媒は、本発明の目的を損なわない限り任意であり、極性有機溶媒及び非極性有機溶媒のいずれであってもよいが、極性有機溶媒が好ましい。」と記載されている(下線は当審合議体が付した。以下同じ。)。 したがって、訂正事項1aによる訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲、及び図面(以下「本件明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 (イ)訂正事項1bについて 本件明細書の【0039】~【0040】には、「本発明において、不純物カチオンは、カチオン性の不純物であり、・・・特に限定されず、金属カチオン、有機金属カチオン、非金属カチオンのいずれも除去対象になる。・・・本発明において、不純物カチオンの典型例は金属カチオンである。」と記載されている(「・・・」は摘記の省略を示す。以下同じ。)。 したがって、訂正事項1bによる訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 (ウ)訂正事項1cについて 訂正請求書の記載によれば、訂正事項1cによる訂正は、請求項1に係る発明から、取消理由通知書で引用された甲1(国際公開第2019/131629号)に開示されている発明との重複するおそれのある部分を除くことのみを目的としたものであるとされている。 訂正事項1cによる訂正は、請求項1に記載の「有機溶媒の精製方法」から、特定の「態様」を「除く」としているだけであり、本件明細書等の記載全体からみて、請求項1に記載の「有機溶媒の精製方法」は、当該特定の「態様」を概念的に包含し得るといえる一方で、当該特定の「態様」の採用の必要性や何らかの技術的な意義が示されているわけではないから、当該特定の「態様」のみを、請求項1に記載の「有機溶媒の精製方法」から「除く」とすることは、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 (エ)まとめ したがって、訂正事項1による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、上記ア及びイのとおり、請求項1に記載された「有機溶媒の精製方法」において、「有機溶媒」及び「不純物カチオン」の種類を特定し限定するとともに、当該「有機溶媒の精製方法」から特定の「態様」を「除く」としているだけであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 エ 訂正事項1についてのまとめ 上記ア~ウのとおり、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的の適否 訂正事項2による訂正は、請求項6に記載の「有機溶媒の精製方法」について、訂正前は「下記(A)から(C)のいずれかの処理を含む」とされているのを、訂正後は「下記(A)または(B)の処理を含む」とすることにより、「有機溶媒の精製方法」に含まれる「処理」の選択肢の一つである「(C)」の処理を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 訂正事項2による訂正は、上記アで示したとおり、請求項6に記載の「有機溶媒の精製方法」に含まれる「処理」のうちの選択肢の一つを削除するものであるから、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 したがって、訂正事項2による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、請求項6に記載の「有機溶媒の精製方法」に含まれる「処理」の選択肢の一つを削除するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 エ 訂正事項2についてのまとめ 上記ア~ウのとおり、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的の適否 (ア)訂正事項3の構成 訂正事項3は、次の3つの訂正事項からなるものと認められ、いずれの訂正事項も請求項10の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項11~13も同様に訂正するものである。 a 請求項10に記載の「有機溶媒」を、「極性有機溶媒」に特定する訂正事項(以下「訂正事項3a」という。)。 b 請求項10に記載の「不純物カチオン」を、「金属カチオン」であるものに特定する訂正事項(以下「訂正事項3b」という。)。 c 請求項10に記載の「有機溶媒の精製システム」から、「前記第1イオン交換体を具備する精製手段が、前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を有する精製手段である場合」を「除く」とする訂正事項(以下「訂正事項3c」という。)。 (イ)訂正事項3aについて 訂正事項3aによる訂正は、請求項10に記載の「有機溶媒の精製システム」における「被処理有機溶媒」の「有機溶媒」を、「極性有機溶媒」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (ウ)訂正事項3bについて 訂正事項3bによる訂正は、請求項10に記載の「有機溶媒の精製システム」における「被処理有機溶媒」が含む、除去される「不純物カチオン」を、「金属カチオン」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (エ)訂正事項3cについて 訂正事項3cによる訂正は、請求項10に記載の「有機溶媒の精製システム」から、同項に記載した事項の記載表現を残したままで、同項に係る発明に包含される態様である「前記第1イオン交換体を具備する精製手段が、前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を有する精製手段である場合」を「除く」とすることにより、請求項10に記載された「有機溶媒の精製システム」の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (オ)まとめ したがって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 (ア)訂正事項3aについて 本件明細書の【0034】には、上記(1)イ(ア)で認定した事項が記載されている。 したがって、訂正事項3aによる訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 (イ)訂正事項3bについて 本件明細書の【0039】~【0040】には、上記(1)イ(イ)で認定した事項が記載されている。 したがって、訂正事項3bによる訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 (ウ)訂正事項3cについて 訂正請求書の記載によれば、訂正事項3cによる訂正は、上記(1)イ(ウ)で述べたのと同旨の目的のものであるとされている。 訂正事項3cによる訂正は、請求項10に記載の「有機溶媒の精製システム」から、特定の「態様」を「除く」としているだけであり、本件明細書等の記載全体からみて、請求項10に記載の「有機溶媒の精製システム」は、当該特定の「態様」を概念的に包含し得るといえる一方で、当該特定の「態様」の採用の必要性や何らかの技術的な意義が示されているわけではないから、当該特定の「態様」のみを、請求項10に記載の「有機溶媒の精製システム」から「除く」とすることは、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 (エ)まとめ したがって、訂正事項3による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項3による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、上記ア及びイのとおり、請求項10に記載された「有機溶媒の精製システム」において、「有機溶媒」及び「不純物カチオン」の種類を特定し限定するとともに、当該「有機溶媒の精製システム」から特定の「態様」を「除く」としているだけであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 エ 訂正事項3についてのまとめ 上記ア~ウのとおり、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (4)訂正事項4について ア 訂正の目的の適否 訂正事項4による訂正は、請求項13に記載の「有機溶媒の精製システム」について、訂正前は「下記(A)から(C)のいずれかの精製手段を含む」とされているのを、訂正後は「下記(A)または(B)の精製手段を含む」とすることにより、「有機溶媒の精製システム」に含まれる「精製手段」の選択肢の一つである「(C)」の「精製手段」を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 訂正事項4による訂正は、上記アで示したとおり、請求項13に記載の「有機溶媒の精製システム」に含まれる「精製手段」のうちの選択肢の一つを削除するものであるから、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 したがって、訂正事項4による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項4による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、請求項10に記載された「有機溶媒の精製システム」に含まれる「精製手段」の選択肢の一つを削除するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 エ 訂正事項4についてのまとめ 上記ア~ウのとおり、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (5)独立特許要件について 訂正事項1~4による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件特許異議申立事件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~13に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正後の請求項1~13に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。 4 訂正の請求についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~9〕、〔10~13〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正発明 上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の本件特許の請求項1~13(以下、請求項の番号順に「本件訂正請求項1」等という。)の記載は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~13に記載された以下のとおりのものである(下線は、訂正による記載の変更箇所を示す。以下、請求項の番号順に「本件訂正発明1」などといい、また、これらを合わせて「本件訂正発明」ということがある。)。 「【請求項1】 有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程を含み、 前記有機溶媒が、極性有機溶媒であり、 前記不純物カチオンが金属カチオンであり、 前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなることを特徴とする有機溶媒の精製方法(但し、前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除く。)。 【請求項2】 前記N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂が、基体ポリマーにN-メチルグルカミン基が結合したキレート樹脂であり、 前記基体ポリマーが、スチレン系架橋共重合体、又は(メタ)アクリル系架橋共重合体である請求項1に記載の有機溶媒の精製方法。 【請求項3】 前記N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂が、式(2)に示すN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂である請求項1に記載の有機溶媒の精製方法。 【化2】 [図:0001432057000001.jpg] 【請求項4】 前記不純物カチオンが、多価金属カチオンである請求項1に記載の有機溶媒の精製方法。 【請求項5】 前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1ーメトキシー2ープロパノール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される1種以上の有機溶媒である請求項1に記載の有機溶媒の精製方法。 【請求項6】 請求項1に記載の有機溶媒の精製方法であって、前記第1イオン交換体と、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体とを用い、下記(A)または(B)の処理を含む有機溶媒の精製方法。 (A)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第2イオン交換体の単床に接触させる処理 (B)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第2イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第1イオン交換体の単床に接触させる処理 【請求項7】 前記第2イオン交換体が、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、フェノキシド基及び亜ヒ酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有するカチオン交換樹脂を含む請求項6に記載の有機溶媒の精製方法。 【請求項8】 請求項1から7のいずれかに記載の有機溶媒の精製方法を用いる工程を含む精製有機溶媒の製造方法。 【請求項9】 前記精製有機溶媒が、半導体基板洗浄用溶媒である請求項8に記載の精製有機溶媒の製造方法。 【請求項10】 有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒が通液される第1イオン交換体を具備する精製手段を有し、 前記有機溶媒が、極性有機溶媒であり、 前記不純物カチオンが金属カチオンであり、 前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなることを特徴とする有機溶媒の精製システム(但し、前記第1イオン交換体を具備する精製手段が、前記第1イオン交換体と、Nーメチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を有する精製手段である場合を除く。)。 【請求項11】 前記N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂が、基体ポリマーにN-メチルグルカミン基が結合したキレート樹脂であり、 前記基体ポリマーが、スチレン系架橋共重合体、又は(メタ)アクリル系架橋共重合体である請求項10に記載の有機溶媒の精製システム。 【請求項12】 前記N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂が、式(2)に示すN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂である請求項10に記載の有機溶媒の精製システム。 【化2】 [図:0001432057000002.jpg] 【請求項13】 請求項10から12のいずれかに記載の有機溶媒の精製システムであって、第1イオン交換体と、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体とを用い、下記(A)または(B)の精製手段を含む有機溶媒の精製システム。 (A)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体の単床と、該第1イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第2イオン交換体の単床を有する精製手段 (B)前記被処理有機溶媒が通液される前記第2イオン交換体の単床と、該第2イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第1イオン交換体の単床を有する精製手段」 第4 申立理由及び取消理由の概要 1 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して下記(6)に示す甲第1号証~甲第9号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」~「甲9」ともいう。)を提出し、申立書の全体の記載からみて、本件訂正前の請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由として、下記(1)~(5)に概要を示す特許異議の申立の理由(以下「申立理由」という。)を主張しているものと認められる。 なお、以下の摘記等における下線は当審合議体が付したものである。 (1)申立理由1-1(甲1に基づく進歩性欠如) 本件請求項1~13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明(、並びに、甲2及び甲3に記載された周知技術)に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由1-2(甲2に基づく進歩性欠如) 本件請求項1~13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由1-3(甲3を主引例とする進歩性欠如) 本件請求項1~13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明、並びに、甲1、甲2、及び甲4~甲6に記載された周知技術に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)申立理由2(サポート要件違反) 本件請求項1~13の記載は、以下のア~オの点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、本件特許の請求項1~13に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ア 有機溶媒について 本件発明の課題は、本件明細書の【0006】に記載されるように、 「有機溶媒中の不純物カチオンの除去性能に優れ、従来用いられてきたH形キレート交換体とは異なる官能基を用い、有機溶媒に含まれる不純物カチオンを除去する精製有機溶媒の製造方法及び有機溶媒の精製システムを提供すること」 である。 本件明細書の実施例において「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」による「不純物カチオンの除去効果」が実証されている「有機溶媒」は、 「1-メトキシ-2-プロパノール」(実験例1~4)、 「メタノール」(実験例5)、又は、 「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」(実験例6) のみであるところ、有機溶媒には様々な極性を有するものが存在し、極性の程度によって、樹脂への不純物カチオンの配位力も変化するため、「有機溶媒」の種類を特定していない本件発明1~4、6~13は、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 イ 不純物カチオンについて 本件明細書の実施例において「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」による除去効果が実証されている「不純物カチオン」は、「金属カチオン」のみであるところ、不純物カチオンには様々な種類のものが存在し、電荷の正負や強弱の程度の違いによって、樹脂への配位力も変化するから、「不純物カチオン」の種類を特定していない本件発明1~3、5~13は、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 ウ 「被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて不純物カチオンを除去する工程」及び「不純物カチオンを被処理有機溶媒が通液される第1イオン交換体を具備する精製手段」について 本件明細書には、不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を、「第1イオン交換体(N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂)」及び「第2イオン交換体(カチオン交換樹脂)」の「混床」で処理した具体例が示されておらず、「混床」で処理した効果が何ら実証されていないところ、「混床」の場合、樹脂間の相互作用も考慮する必要があるため、「単床」及び「複床」の実施例のみをもって、「混床」で不純物カチオンを有機溶媒中から除去する効果が得られるとは認められないから、具体的な「被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて不純物カチオンを除去する工程」の方法を特定していない本件発明1~13は、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 エ カチオン交換樹脂の種類について 本件発明6及び13は、「第1イオン交換体」に加えて「カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体」を併用するものであるが、本件明細書の実施例において「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」との組み合わせによって不純物カチオンの除去効果が実証されている「カチオン交換樹脂」は、「強酸性カチオン交換樹脂」のみであるところ、「カチオン交換樹脂」の種類を特定していない本件発明6~9、13は、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 オ 第1イオン交換体と第2イオン交換体の使用割合について 本件明細書の実施例において「第1イオン交換体(N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂)」と「第2イオン交換体(カチオン交換樹脂)」の組み合わせにおける不純物カチオンの除去効果が実証されているのは、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂50mL」と「カチオン交換樹脂50mL」とを使用した場合のみであり、一方の樹脂に対し他方の樹脂の使用量が多すぎると、対象物の除去性が落ちることが予想されるため、「第1イオン交換体と第2イオン交換体の使用割合」を特定していない本件発明6~9、13は、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 (5)申立理由3(明確性要件違反) 本件特許の審査における補正の経緯も考慮すると、本件請求項1及び10における「第1イオン交換体がN-メチルグルカミン基を有するキレート剤からなる」という記載は、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂のみをカラムに充填した」ものという意味と解される。 しかしながら、本件請求項1を引用する本件請求項6における 「(C)前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体の混床に接触させる処理」 という記載、及び、本件請求項10を引用する本件請求項13における 「(C)前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床を有する精製手段」 という記載は、上記の本件請求項1及び本件請求項10の記載と矛盾する。 したがって、本件請求項6~9、13の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものでないから、本件特許の請求項1~13に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (6)証拠方法 甲1:国際公開第2019/131629号 甲2:国際公開第2021/049208号 甲3:国際公開第2020/217911号 甲4:“IRON NICKEL SEPARATION AT HIGH CONCENTRATION SOLUTIONS USING ION EXCHANGE”,St.John's, Newfoundland and Labrador, August 23,2021,URL:http://research.library.mun.ca/15249/1/thesis.pdf,検索日:2024年11月11日 甲5:「N-メチルグルカミン樹脂によるエチレングリコール流出液からのゲルマニウムの分離」,J.ION EXCHANGE,Vol.3,No.1,pp.7-14 (1992),URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaie1990/3/1/3_1_7/_pdf/-char/en,検索日:2024年11月11日 甲6:“Application of Ion Exchangers with the N-Methyl-D-Glucamine Groups in the V(V) Ions Adsorption Process”,Burdzy et al.,Materials 2022,15,1026. URL:http://doi.org/10.3390/ma15031026,検索日:2024年11月11日 甲7:「イオン交換樹脂技術の系統化調査」,国立科学博物館産業技術史資料情報センター編,Vol.7,2014 March,URL:http://sts.kahaku.go.jp/diversity/system/pdf/087.pdf,検索日:2024年11月11日 甲8:技術資料「スミキレートTM MC960」、住友ケムテックス株式会社,2021年6月、URL:http://www.chemtex.co.jp/seihin/ion/usage/pdf/MC960_202106.pdf,検索日:2024年11月11日 甲9:「CAS RN: 1066-51-9,製品コード:A1072,(Aminomethyl)phosphonic Acid」,東京化成工業株式会社,URL:http://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/A1072,検索日:2024年11月11日 2 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~13に係る特許に対して、当審合議体が令和7年3月28日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。 なお、以下の摘記等における下線は当審合議体が付したものである。 (1)取消理由1(甲1に基づく進歩性欠如) 本件特許の請求項1~13に係る特許は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (上記1(1)の申立理由1-1と同旨である。) (2)取消理由2(サポート要件違反) 本件特許の請求項1~13の記載は、以下のア~カの点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、請求項1~13に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア 有機溶媒について 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書、特に【0006】の記載からみて、 「有機溶媒中の不純物カチオンの除去性能に優れ、従来用いられてきたH形キレート交換体とは異なる官能基を用い、有機溶媒に含まれる不純物カチオンを除去する精製有機溶媒の製造方法及び有機溶媒の精製システムを提供すること」 にある。 本件発明1~4、6~13は、「有機溶媒」について何ら特定していないところ、本件明細書の実施例において、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」による不純物カチオンの除去効果が確認されている「有機溶媒」は、 「1-メトキシ-2-プロパノール(実験例1~4)」、 「メタノール(実験例5)」、又は、 「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(実験例6)」 のみであり、有機溶媒には様々な極性を有するものが存在し、極性の程度によって、樹脂への不純物カチオンの配位力も変化することが予測され、上記実施例で用いられた有機溶媒は、いずれも「極性有機溶媒」であり、これらの溶媒間でも、不純物カチオンの除去の程度に大きな違いがあるため、あらゆる「有機溶媒」を対象とする態様を含む、本件発明1~4、6~13は、発明の詳細な説明において、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 (上記1(4)の申立理由2のアと同旨である。) イ 不純物カチオンについて 本件発明1~3、5~13は、対象となる「不純物カチオン」について何ら特定していないところ、本件明細書の実施例において「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」による除去効果が確認されている不純物カチオンは「金属カチオン」のみであり、不純物カチオンには様々な種類のものが存在し、電荷の正負や強弱の程度の違いによって、樹脂への配位力も変化するから、あらゆる「不純物カチオン」を対象とする態様を含む、本件発明1~3、5~13は、発明の詳細な説明において、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 (上記1(4)の申立理由2のイと同旨である。) ウ 不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体及び第2イオン交換体の混床に接触させる処理について 本件明細書には、第1イオン交換体のみを使用する、有機溶媒の精製方法(1)((A)「単床」)と、第1イオン交換体及び第2イオン交換体を使用する、本発明の有機溶媒の精製方法(2)((B)「複床」及び(C)「混床」)が記載されているが、実施例においては、(C)「混床」を用いた結果は示されていないところ、「混床」の場合には、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」と「カチオン交換樹脂」との間の相互作用も考慮する必要があり、有機溶媒の種類によって不純物カチオンの拡散性やイオン交換体との親和性が異なるものといえるから、「混床」の態様を含む、本件発明1~13は、発明の詳細な説明において、課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 (上記1(4)の申立理由2のウと同旨の理由を包含する。) エ カチオン交換樹脂について 本件明細書の実施例において、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」と組み合わせて不純物カチオンの除去効果が確認されている「カチオン交換樹脂」は、「強酸性陽イオン交換樹脂」のみであるところ、「弱酸性カチオン交換樹脂」と「強酸性カチオン交換樹脂」とでは、官能基の種類が異なり、酸度も大きく異なるため、金属除去性は同一ではないから、「カチオン交換樹脂」を用いることを特定した態様を含む、本件発明6~9、13は、発明の詳細な説明において、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 (上記1(4)の申立理由2のエと同旨である。) オ 第1イオン交換体と第2イオン交換体の使用割合について 「第1イオン交換体」と「第2イオン交換体」とを用いる本件発明6及び13は、「第1イオン交換体」と「第2イオン交換体」の使用割合について何ら特定していないところ、本件明細書の実施例において不純物カチオンの除去効果が確認されているのは、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂50mL」と「カチオン交換樹脂50mL」とを使用した場合のみであり、一方の樹脂に対し他方の樹脂の使用量が多すぎると、対象物の除去性が落ちることが予想されるため、「カチオン交換樹脂」を用いることを特定した態様を含む、本件発明6~9、13は、発明の細な説明において、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 (上記1(4)の申立理由2のオと同旨である。) カ N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなる第1イオン交換体のみを用いる場合について 本件明細書には、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」からなる「第1イオン交換体」のみを使用する態様が説明されており、実施例の実験例1、5、6において、「N-メチルグルカミン型キレート樹脂(Muromac XMS-5119-FB、室町ケミカル株式会社製)」のみを用いて、不純物カチオンの除去効果を確認したことが示されている一方で、甲1の比較例では、「比較金属吸着剤4」、すなわち「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」である「式(A-1)5gを配合したもの」のみを使用したところ、金属除去性能が「不良」という結果が得られていることから、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」であっても、金属カチオンの除去性能が大きく異なる場合があることが理解される。 したがって、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」からなる「第1イオン交換体」のみを用いる態様を含む、本件発明1~5、8~12は、発明の詳細な説明において、課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 (3)取消理由3(実施可能要件違反) 本件明細書の実施例においては、 「キレート樹脂:N-メチルグルカミン型キレート樹脂(Muromac XMS-5119-FB、室町ケミカル株式会社製)」 及び 「カチオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂(Muromac XSC-1191-H、室町ケミカル株式会社製)」 という特定の製品を使用した場合には、金属カチオンを除去できたことが確認されているのみであるが、これら2種類の特定の製品のイオン交換体の具体的な性状は示されていない。 そして、取消理由2(サポート要件)のカでも指摘したとおり、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」であっても、金属カチオンの除去性能が大きく得られる結果が異なることが理解できるところ、当業者といえども、有機溶媒から不純物カチオンを除去するためには、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」の単独、又は「カチオン交換樹脂」と組み合わせた場合であっても、具体的にどのようなイオン交換体を用いればよいかは、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要する。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~13の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。 第5 取消理由についての当審の判断 当審合議体は、上記第4の2に概要を示した、当審合議体が通知した取消理由によっては、本件訂正請求項1~13に係る特許は取り消すことはできないと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。 1 取消理由1(甲1に基づく進歩性欠如)について (1)甲1の記載事項 甲1には、次の事項が記載されている。 以下の摘記において、下線は、原文に付されていたものに加え、当審合議体が追記したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。また、全て全角で表記する。これらの点については、他の証拠の摘記でも同様である。 (甲1a) 「[請求項1] 溶液中の金属不純物を除去する金属吸着剤であって、 該金属吸着剤はキレート剤(A)とキレート剤(B)とを含み、 前記キレート剤(A)はグルカミン型の官能基を含む担体を含む金属吸着剤であり、 前記キレート剤(B)はチオール基、チオウレア基、アミノ基、トリアザビシクロデセン誘導基、チオウロニウム基、イミダゾール基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、アミノ酢酸基、アミドオキシム基、アミノリン酸基、又はそれらの組み合わせを含む担体を含む金属吸着剤である、 金属吸着剤。 [請求項2] キレート剤(A)及びキレート剤(B)の担体がシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンである、請求項1に記載の金属吸着剤。 [請求項3] キレート剤(A)が式(A-1): [化1] [図:0001432057000003.jpg] (式中、nは1~10の整数を表し、A1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、A2は単結合又はA1と官能基を結びつける連結基であり、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアルキレン基を表す。)で表される単位構造を有する高分子物質を含む金属吸着剤である、 請求項1又は請求項2に記載の金属吸着剤。 [請求項4] キレート剤(B)が、式(B-1)乃至式(B-18): [化2] [図:0001432057000004.jpg] [化3] [図:0001432057000005.jpg] [化4] [図:0001432057000006.jpg] (式中、B1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、B2は単結合又はB1と官能基を結びつける連結基であり、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアルキレン基を示す。)で表される単位構造からなる群から選ばれる1種又は2種以上の単位構造を有する高分子物質を含む金属吸着剤である、 請求項1乃至請求項3のうち何れか1項に記載の金属吸着剤。 [請求項5] 前記溶液が水又は有機溶剤を含有する溶液である、 請求項1乃至請求項4のうち何れか1項に記載の金属吸着剤。 [請求項6] キレート剤(A)とキレート剤(B)を0.1~100:1の質量割合で含有する、 請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の金属吸着剤。 [請求項7] 除去される金属が第4周期~第7周期であり、且つ第3族~第12族の金属、多価金属イオン、又はそれらの金属水酸化物若しくは金属酸化物のコロイド物質である、 請求項1乃至請求項6のうちいずれか1項に記載の金属吸着剤。 [請求項8] 精製すべき被精製材料を液体に溶解又は分散した被精製材料溶液を準備する工程、 請求項1乃至請求項7のうちいずれか1項に記載の金属吸着剤を充填したカラムに上記被精製材料溶液を通液して精製溶液を得る工程、及び 上記精製溶液から精製材料を得る工程を含む、 材料の精製方法。」 (甲1b) 「技術分野 [0001] 本発明は溶剤中の金属不純物を除去する金属除去剤と、その金属除去方法に関する。 背景技術 [0002] 電子部品や半導体製造に用いられる製品の製造には多くの化学物質を含む組成物が適用される。例えば半導体製造のリソグラフィー工程に用いられるレジスト膜形成組成物やレジスト下層膜形成組成物では、微量に残存する金属イオンや、金属若しくは金属酸化物に由来する帯電性コロイド物質が最終製品や、その製造工程中のリソグラフィー工程、エッチング工程で予想外の悪影響を及ぼすことがある。 ・・・ 発明が解決しようとする課題 ・・・ [0005] 本願発明は、1種類のキレート樹脂ではなく特定のキレート樹脂を組み合わせた金属吸着剤により、半導体製造工程に用いられる塗布用組成物中の(不純物以外の)成分を吸着、変性することなく、多価金属、多価金属イオンや、その帯電性金属酸化物コロイド粒子といった金属不純物を被精製材料が溶解した組成物中から除去し、高純度化された精製材料組成物を得ようとするものである。 ・・・ 発明を実施するための形態 [0009] 本発明はキレート剤(A)とキレート剤(B)とを含む溶液中の金属不純物を除去する金属吸着剤である。 上記キレート剤(A)はグルカミン型の官能基を含む担体を含む金属吸着剤であり、キレート剤(B)はチオール基、チオウレア基、アミノ基、トリアザビシクロデセン誘導基、チオウロニウム基、イミダゾール基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、アミノ酢酸基、アミドオキシム基、アミノリン酸基、又はそれらの組み合わせを含む担体を含む金属吸着剤である。 [0010] 本発明の金属吸着剤は、キレート剤(A)とキレート剤(B)とを組み合わせて用いるものであり、キレート剤(B)は1種を単独にて使用することも、又は2種以上の組み合わせにて使用することも可能である。なお、キレート剤(A)とキレート剤(B)自体も、それ単体で金属吸着剤としての働きを有するものである。」 (甲1c) 「[0078] 被精製材料溶液(例えば塗布用組成物)が、水又は有機溶剤を含有する溶液であるとき、精製すべき被精製材料を溶解又は分散する液体(すなわち溶剤)としては、例えば水;n-ペンタン、・・・等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、・・・等の芳香族炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、・・・等のモノアルコール系溶媒;エチレングリコール、・・・等の多価アルコール系溶媒;アセトン、・・・等のケトン系溶媒;エチルエーテル、・・・、プロピレングリコールモノメチルエーテル、・・・、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、・・・等のエーテル系溶媒;ジエチルカーボネート、・・・等のエステル系溶媒;N-メチルホルムアミド、・・・等の含窒素系溶媒;硫化ジメチル、・・・等の含硫黄系溶媒等を挙げることができる。これらの溶剤は1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。」 (甲1d) 「実施例 ・・・ [0081] (対象となる塩系酸触媒のキレート材への吸着試験) 全容15mLのポリエチレン製シリンジに後述する各種キレート材を詰め、キレート材の上部と下部にポリエチレンフィルターを装着し、実施例1乃至実施例14、及び比較例1乃至比較例4の吸着試験評価用シリンジを作製した。後述する対象となる材料をPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)に溶解し、濃度1質量%のPGME溶液を作製した。 前記PGME溶液を、前記吸着試験評価用シリンジを用いて各10gずつろ過し、50g時点でのろ液中の対象材料の濃度をLC(液体クロマトグラフィー)で定量することで、対象となる材料のキレート材への吸着性を評価した。 ろ液中の対象材料の濃度が、ろ過前の濃度に対して95%以上となる場合を、吸着無く、ろ過性が良好と評価した。 [0082] (対象となる材料からのメタル除去試験) 全容30mLのポリエチレン製シリンジに後述する各種キレート材を詰め、キレート材の上部と下部にポリエチレンフィルターを装着し、実施例1乃至実施例14、及び比較例1乃至比較例4のメタル除去評価用シリンジを作製した。後述する対象材料をPGMEに溶解し、濃度0.5質量%となるようPGME溶液を作製した。 作製した対象材料と金属を溶解したPGME溶液を、前記メタル除去評価用シリンジを用いて各10gずつろ過し、50g時点でのろ液をICP-MSで測定し、メタル量を算出した。Na、K、Al、Cr、Cu、Fe、Ni、Zn、Agの濃度が低下した場合に金属除去能が良好と評価した。 [0083] 表1及び表2に、対象材料のキレート樹脂への吸着試験の結果と、対象となる材料からのメタル除去試験の結果を示す。 対象材料としては、米国、King(株)製、トリフルオロメタンスルホン酸の第4級アンモニウム塩(商品名TAG2689(熱酸発生剤))を用いた。 [0084] 表1中、金属吸着剤1は式(A-1)30gと式(B-1)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤2は式(A-1)30gと式(B-2)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤3は式(A-1)30gと式(B-3)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤4は式(A-1)30gと式(B-4)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤5は式(A-1)30gと式(B-5)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤6は式(A-1)30gと式(B-7)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤7は式(A-1)30gと式(B-9)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤8は式(A-1)30gと式(B-10)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤9は式(A-1)30gと式(B-11)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤10は式(A-1)30gと式(B-13)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤11は式(A-1)30gと式(B-14)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤12は式(A-1)30gと式(B-15)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤13は式(A-1)30gと式(B-17)5gの割合で配合したものである。 金属吸着剤14は式(A-1)30gと式(B-18)5gの割合で配合したものである。 [0085] 表2中、比較金属吸着剤1は式(B-8)5gを配合したものである。 比較金属吸着剤2は式(B-12)5gを配合したものである。 比較金属吸着剤3は式(B-16)5gを配合したものである。 比較金属吸着剤4は式(A-1)5gを配合したものである。 [0086] 上記金属吸着剤1~14及び比較金属吸着剤1~4に用いたキレート剤:式(A-1)、式(B-1)~式(B-5)、式(B-7)~式(B-18)は以下の通りである。 商品名CRB03は三菱化学(株)製のキレート剤(式(A-1))である。 商品名Si-Thiolは、SiliCycle社製のキレート剤(式(B-1))である。 商品名Si-Thioureaは、SiliCycle社製のキレート剤(式(B-2))である。 商品名MuromacXMS-5418は、室町ケミカル(株)製のキレート剤(式(B-3))である。 商品名Si-TMTは、SiliCycle社製のキレート剤(式(B-4))である。 商品名Si-DMTは、SiliCycle社製のキレート剤(式(B-5))である。 商品名IRC76-HGは、オルガノ(株)製のキレート剤(式(B-7))である。 商品名Si-Amineは、SiliCycle社製のキレート剤(式(B-8))である。 商品名CR20は、三菱化学(株)製のキレート剤(式(B-9))である。 商品名Si-Trisamineは、SiliCycle社製のキレート剤(式(B-10))である。 商品名Si-Imidazoleは、SiliCycle社製のキレート剤(式(B-11))である。 商品名Si-TBDは、SiliCycle社製のキレート剤(式(B-12))である。 商品名S910は、ピュロライト(株)製のキレート剤(式(B-13))である。 商品名Si-PHIは、SiliCycle社製のキレート剤(式(B-14))である。 商品名MPAは、Reaxa QuadraPure TM社製のキレート剤(式(B-15))である。 商品名Si-TAAcOHは、SiliCycle社製のキレート剤(式(B-16))である。 商品名IRC748は、オルガノ(株)製のキレート剤(式(B-17))である。 商品名IRC747UPSは、オルガノ(株)製のキレート剤(式(B-18))である。 [0087] 〔表1〕 表1 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 実施例 対象材料 金属吸着剤 ろ過性 金属除去性能 1 TAG2689 金属吸着剤1 良好 良好 2 TAG2689 金属吸着剤2 良好 良好 3 TAG2689 金属吸着剤3 良好 良好 4 TAG2689 金属吸着剤4 良好 良好 5 TAG2689 金属吸着剤5 良好 良好 6 TAG2689 金属吸着剤6 良好 良好 7 TAG2689 金属吸着剤7 良好 良好 8 TAG2689 金属吸着剤8 良好 良好 9 TAG2689 金属吸着剤9 良好 良好 10 TAG2689 金属吸着剤10 良好 良好 11 TAG2689 金属吸着剤11 良好 良好 12 TAG2689 金属吸着剤12 良好 良好 13 TAG2689 金属吸着剤13 良好 良好 14 TAG2689 金属吸着剤14 良好 良好 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― [0088] 〔表2〕 表2 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 比較例 対象材料 金属吸着剤 ろ過性 金属除去性能 1 TAG2689 比較金属吸着剤1 良好 不良 2 TAG2689 比較金属吸着剤2 良好 不良 3 TAG2689 比較金属吸着剤3 良好 不良 4 TAG2689 比較金属吸着剤4 良好 不良 」 (2)甲1に記載された発明 ア 甲1方法発明 甲1の請求項8は、請求項1乃至請求項7のうちいずれか1項に記載の金属吸着剤を用いる材料の精製方法に係る発明であるところ、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5を引用する請求項7に記載の金属吸着剤を用いる発明として、甲1には、次の「甲1方法発明」が記載されていると認める。 ≪甲1方法発明≫ 「精製すべき被精製材料を液体に溶解又は分散した被精製材料溶液を準備する工程、 溶液中の金属不純物を除去する金属吸着剤であって、 前記金属吸着剤はキレート剤(A)とキレート剤(B)とを含み、 前記キレート剤(A)は、グルカミン型の官能基を含む担体を含む金属吸着剤であって、式(A-1): [図:0001432057000007.jpg] (式中、nは1~10の整数を表し、A1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、A2は単結合又はA1と官能基を結びつける連結基であり、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアルキレン基を表す。)で表される単位構造を有する高分子物質を含む金属吸着剤であり、 前記キレート剤(B)は、チオール基、チオウレア基、アミノ基、トリアザビシクロデセン誘導基、チオウロニウム基、イミダゾール基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、アミノ酢酸基、アミドオキシム基、アミノリン酸基、又はそれらの組み合わせを含む担体を含む金属吸着剤であって、式(B-1)乃至式(B-18): [図:0001432057000008.jpg] [図:0001432057000009.jpg] [図:0001432057000010.jpg] (式中、B1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、B2は単結合又はB1と官能基を結びつける連結基であり、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアルキレン基を示す。)で表される単位構造からなる群から選ばれる1種又は2種以上の単位構造を有する高分子物質を含む金属吸着剤であり、 前記溶液が水又は有機溶剤を含有する溶液であり、 除去される金属が第4周期~第7周期であり、且つ第3族~第12族の金属、多価金属イオン、又はそれらの金属水酸化物若しくは金属酸化物のコロイド物質である、 金属吸着剤を充填したカラムに上記被精製材料溶液を通液して精製溶液を得る工程、及び 上記精製溶液から精製材料を得る工程を含む、 材料の精製方法。」 イ 甲1システム発明 上記アの甲1方法発明は、金属吸着剤を充填したカラムが用いられていることから、甲1には、甲1方法発明を実施する、次の「甲1システム発明」も記載されていると認める(以下、「甲1方法発明」と併せて「甲1発明」ということもある。)。 ≪甲1システム発明≫ 「精製すべき被精製材料を液体に溶解又は分散した被精製材料溶液から得た精製溶液から精製材料を得る、材料の精製システムであって、 前記精製システムは、 溶液中の金属不純物を除去する金属吸着剤であって、 前記金属吸着剤はキレート剤(A)とキレート剤(B)とを含み、 前記キレート剤(A)は、グルカミン型の官能基を含む担体を含む金属吸着剤であって、式(A-1): [図:0001432057000011.jpg] (式中、nは1~10の整数を表し、A1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、A2は単結合又はA1と官能基を結びつける連結基であり、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアルキレン基を表す。)で表される単位構造を有する高分子物質を含む金属吸着剤であり、 前記キレート剤(B)は、チオール基、チオウレア基、アミノ基、トリアザビシクロデセン誘導基、チオウロニウム基、イミダゾール基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、アミノ酢酸基、アミドオキシム基、アミノリン酸基、又はそれらの組み合わせを含む担体を含む金属吸着剤であって、式(B-1)乃至式(B-18): [図:0001432057000012.jpg] [図:0001432057000013.jpg] [図:0001432057000014.jpg] (式中、B1は担体としてのシリカ、シリカ成分含有物質、ポリスチレン、又は架橋化多孔質ポリスチレンを構成する単位構造であり、B2は単結合又はB1と官能基を結びつける連結基であり、該連結基は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい炭素原子数1~10のアルキレン基を示す。)で表される単位構造からなる群から選ばれる1種又は2種以上の単位構造を有する高分子物質を含む金属吸着剤であり、 前記溶液が水又は有機溶剤を含有する溶液であり、 除去される金属が第4周期~第7周期であり、且つ第3族~第12族の金属、多価金属イオン、又はそれらの金属水酸化物若しくは金属酸化物のコロイド物質である、 金属吸着剤を充填したカラムに上記被精製材料溶液を通液して精製溶液を得る手段、及び 上記精製溶液から精製材料を得る手段を含む、 材料の精製システム。」 (3)本件訂正発明1について ア 対比 本件訂正発明1と甲1方法発明とを対比する。 (ア)甲1方法発明における「除去される金属」である「第4周期~第7周期であり、且つ第3族~第12族の金属、多価金属イオン、又はそれらの金属水酸化物若しくは金属酸化物のコロイド物質」は、被精製材料溶液を通液するカラムに充填された金属吸着剤が「溶液中の金属不純物を除去する」とされているから、「被精製材料溶液」に含まれているものであるといえる。 したがって、甲1方法発明における「除去される金属」は、本件訂正発明1における「不純物カチオン」である「金属カチオン」に相当する。 また、甲1方法発明における「溶液が水又は有機溶剤を含有する溶液」であって、「金属不純物」すなわち「除去される金属」である「第4周期~第7周期であり、且つ第3族~第12族の金属、多価金属イオン、又はそれらの金属水酸化物若しくは金属酸化物のコロイド物質」と「精製すべき被精製材料を液体に溶解又は分散した被精製材料溶液」は、本件訂正発明1における「有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒」と、「被精製物及び不純物カチオンを含む被精製物含有液」である限りにおいて一致する。 (イ)甲1方法発明における「金属吸着剤」は、「グルカミン型の官能基」を含む「担体」を含む、「式(A-1)(式及び式の説明は省略。)で表される単位構造」を有する「高分子物質」を含む「金属吸着剤」である「キレート剤(A)」を含むものであって、「式(A-1)」において、nが4であるもの、すなわち「N-メチルグルカミン基」を有するものであると認められるから、本件訂正発明1における「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」からなる「第1イオン交換体」と、「N-メチルグルカミン型官能基を有するキレート構造を含む金属除去物質」である限りにおいて一致する。 (ウ)甲1方法発明における、「金属吸着剤を充填したカラムに上記被精製材料溶液を通液して精製溶液を得る工程」及び「上記精製溶液から精製材料を得る工程」を含む「材料の精製方法」は、本件訂正発明1における、「有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程」を含む「有機溶媒の精製方法」と、「被精製物及び不純物カチオンを含む被精製物含有液を金属除去物質に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程」を含む「被精製物の精製方法」である限りにおいて一致する。 (エ)そうすると、本件訂正発明1と甲1方法発明との間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。 <一致点> 「被精製物及び不純物カチオンを含む被精製物含有液を金属除去物質に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程を含み、 前記不純物カチオンが金属カチオンであり、 前記金属除去物質がN-メチルグルカミン型官能基を有するキレート構造を含む、被精製物の精製方法。」 <相違点1-1> 「被精製物及び不純物カチオンを含む被精製物含有液を金属除去物質に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程」を含む「被精製物の精製方法」が、 本件訂正発明1では、「有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程」を含む「有機溶媒の精製方法」であり、「有機溶媒が、極性有機溶媒」であることが特定されているのに対し、 甲1方法発明では、「溶液が水又は有機溶剤を含有する溶液」であって、「金属不純物」、すなわち「除去される金属」である「第4周期~第7周期であり、且つ第3族~第12族の金属、多価金属イオン、又はそれらの金属水酸化物若しくは金属酸化物のコロイド物質」と、「精製すべき被精製材料」を、「液体に溶解又は分散した被精製材料溶液」を、「準備する工程」と、「溶液中の金属不純物を除去する金属吸着剤」を「充填したカラムに上記被精製材料溶液を通液して精製溶液を得る工程」と、「上記精製溶液から精製材料を得る工程」と、を含む「材料の精製方法」である点。 <相違点1-2> N-メチルグルカミン型官能基を有するキレート構造を含む金属除去物質が、 本件訂正発明1では、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」からなる「第1イオン交換体」であり、「前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除く」ものであるのに対し、 甲1方法発明では、「式(A-1)(式及び式の説明は省略。)で表される単位構造」を有する「高分子物質」を含む「金属吸着剤」である「キレート剤(A)」と、「式(B-1)乃至式(B-18)(式及び式の説明は省略。)で表される単位構造からなる群から選ばれる1種又は2種以上の単位構造」を有する「高分子物質」を含む「金属吸着剤」である「キレート剤(B)」と、を含む「金属吸着剤」である点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点1-2から検討する。 甲1方法発明において用いられる「金属吸着剤」は、「N-メチルグルカミン型官能基」を有する「式(A-1)(式及び式の説明は省略。)で表される単位構造」を有する「高分子物質」を含む「金属吸着剤」である「キレート剤(A)」とともに、「式(B-1)乃至式(B-18)(式及び式の説明は省略。)で表される単位構造からなる群から選ばれる1種又は2種以上の単位構造」を有する「高分子物質」を含む「金属吸着剤」である「キレート剤(B)」を含むものであるから、甲1方法発明の「金属吸着剤」は、「N-メチルグルカミン型官能基」を有する「キレート剤(A)」と、「キレート剤(B)」の「混床」であるといえる。 そして、甲1において、「キレート剤(B)」は必須の「金属吸着剤」であるから(甲1a)、甲1方法発明において、「N-メチルグルカミン型官能基」を有する「キレート剤(A)」と「キレート剤(B)」との「混床」から、敢えて必須の「金属吸着剤」である「キレート剤(B)」を除くことにより、「キレート剤(A)」と「キレート剤(B)」の「混床」ではない態様に変更することに、動機付けがあるとはいえない。 そうすると、相違点1-1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件訂正発明2~7について 本件訂正発明2~7は、本件訂正発明1の特定事項を全て備え、さらに、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂の構造、不純物カチオンの種類、有機溶媒の種類、又は、第2イオン交換体を用いる態様を限定した発明であるから、上記(3)で述べたのと同様の理由により、甲1方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件訂正発明8及び9について 本件訂正発明8及び9は、本件訂正発明1~7のいずれかの特定事項を全て備える有機溶媒の精製方法を用いる工程を含む、精製有機溶媒の製造方法の発明であるから、上記(3)で述べたのと同様の理由により、甲1方法発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)本件訂正発明10について 本件訂正発明10は、本件訂正発明1について、発明のカテゴリーを「有機溶媒の精製方法」から「有機溶媒の精製システム」に変えたものにすぎないから、上記(3)及び(5)で述べたのと同様の理由により、甲1システム発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (7)本件訂正発明11~13について 本件訂正発明11~13は、本件訂正発明10の特定事項を全て備え、さらに、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂の構造、又は、第2イオン交換体を用いる態様を限定した発明であるから、上記(3)~(5)で述べたのと同様の理由により、甲1システム発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (8)申立人の主張について ア 申立人は、令和7年7月30日提出の意見書(以下「申立人意見書」という。)の5~7頁において、概略、次のように主張している。 <申立人の主張の概要> 甲1において、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」である「式(A-1)のキレート剤(A)」のみを用いた「比較金属吸着剤4」の「金属除去性能」が「不良」となっている実験結果に関して、特許権者は、令和7年6月2日提出の意見書(以下「特許権者意見書」という。)において、サポート要件違反の取消理由に対し、この甲1の実験結果を根拠として「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」が金属除去性能を有さないと直ちに判断することはできない、と主張している。 そうすると、当該実験結果は阻害要因とはならず、甲1の「式(A-1)のキレート剤(A)と式(B-1)乃至式(B-18)のキレート剤(B)とを含む金属吸着剤」から、「キレート剤(B)」を省略して、「キレート剤(A)」のみを用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。 イ 申立人の上記主張は、甲1の「式(A-1)のキレート剤(A)」のみを用いても、金属除去性能を有するから、「キレート剤(B)」を省略できるという趣旨であると解される。 しかしながら、甲1は、「キレート剤(A)」及び「キレート剤(B)」がいずれも金属除去能を有することを前提に、両キレート剤を併用することを特徴とするものであるから(甲1bの[0005]、[0009]~[0010]を参照。)、上記(3)イで説示したとおり、甲1発明において、「N-メチルグルカミン型官能基」を有する「式(A-1)のキレート剤(A)」と「キレート剤(B)」の「混床」から、甲1発明において必須の「金属吸着剤」である「キレート剤(B)」を除くことに、何ら動機付けがない、という判断に変わりはない。 ウ したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (9)まとめ したがって、本件訂正発明1~13は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、取消理由1(甲1に基づく進歩性欠如)は解消している。 2 取消理由2(サポート要件違反)について (1)サポート要件の判断の前提 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件訂正発明が解決しようとする課題 本件明細書の記載、特に【0006】からみて、本件訂正発明1~13が解決しようとする課題は、共通して、 「有機溶媒中の不純物カチオンの除去性能に優れ、従来用いられてきたH形キレート交換体とは異なる官能基を用い、有機溶媒に含まれる不純物カチオンを除去する精製有機溶媒の製造方法及び有機溶媒の精製システムを提供すること」 にあると認める。 (3)有機溶媒について ア 判断 上記第3に摘記したとおり、本件訂正請求項1~13に記載の「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」においては、「有機溶媒」が「極性有機溶媒」であることが特定されている。 本件明細書の【0017】には、 「N-メチルグルカミン型キレート樹脂が、有機溶媒中において、不純物カチオンを吸着するメカニズムの詳細について、現時点で明らかではないが、N-メチルグルカミン基に対する有機溶媒の影響、特に有機溶媒の物性(例えば、極性、親水性等)が影響しているものと推測される。」 と記載されており、同【0034】には、 「本発明において、有機溶媒は、本発明の目的を損なわない限り任意であり、極性有機溶媒及び非極性有機溶媒のいずれであってもよいが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒は、分子内に極性基(親水基)を有する有機溶媒であり、極性基(親水基)がN-メチルグルカミン基に対して作用することによって、金属カチオンの吸着能を向上させるものと推測される。」 と記載されている。 そして、本件明細書の【0103】~【0123】において、不純物カチオンを含む「極性有機溶媒」が、 「1-メトキシ-2-プロパノール」(実験例1~3)、 「メタノール」(実験例5)、及び、 「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」(実験例6) の3種のいずれかである場合、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」による金属カチオンの除去効果が発揮されることが具体的に確認されている。なお、実験例4では、被処理有機溶媒が「1-メトキシ-2-プロパノール」であるが、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」が用いられておらず、「カチオン交換樹脂」のみが用いられており、金属カチオンの除去効果が劣ることが示されている。 そうすると、上記【0017】及び【0034】に示された、極性有機溶媒が有する極性基が、N-メチルグルカミン基に対して作用することにより金属カチオンの吸着能を向上させる旨の理論的な説明も併せ考慮すれば、本件発明の「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」に用いられる「極性有機溶媒」として、金属カチオンの除去効果が得られることが具体的に確認されている「1-メトキシ-2-プロパノール」(実験例1~3)、「メタノール」(実験例5)及び「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」(実験例6)以外の「極性有機溶媒」を用いた場合であっても、本件発明1~13の構成によって、上記(2)の本件訂正発明の課題を解決できることを、当業者は認識できるといえる。 イ 申立人の主張について (ア)申立人は、申立人意見書の7~8頁において、概略、次のように主張している。 <申立人の主張の概要> 「極性有機溶媒」の中にも、様々な極性を有するものが存在し、それらの極性が異なる極性有機溶媒中における金属カチオンの挙動は有機溶媒の極性によって異なるところ、「極性有機溶媒」であっても、その極性の程度によって、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」への金属カチオンの配位力が変化するものであり、実際、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」のみを用いた、本件明細書に記載の実験例1、5、6では、「極性有機溶媒」の中でも、「1-メトキシ-2-プロパノール」と、「メタノール」と、「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」とでは、金属カチオンの除去力にも大きな違いがあるから、実施例で用いられたもの以外の全ての「極性有機溶媒」中の金属カチオンを除去する効果が得られるとは認められない。 (イ)しかしながら、上記アでも述べたとおり、本件明細書の【0017】及び【0034】の理論的な説明も併せ考慮すれば、「極性有機溶媒」の極性の程度により、当該溶媒に含まれる金属カチオンの吸着能の程度も変化するものの、金属カチオンを含む有機溶媒に極性がありさえすれば、一定程度の金属カチオン吸着能が発揮されると当業者は理解できるといえる。 そうすると、本件明細書において金属カチオンを除去する効果が得られることが具体的に確認されたもの以外の「極性有機溶媒」を用いた場合であっても、その極性の程度に応じて、一定程度の金属カチオンを除去する効果が発揮されるものと推定される。 (ウ)したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (4)不純物カチオンについて ア 判断 上記第3に摘記したとおり、本件訂正請求項1~13に記載の「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」においては、「不純物カチオン」が「金属カチオン」であることが特定されている。 本件明細書の【0040】には、 「本発明において、不純物カチオンの典型例は金属カチオンである。」 と記載されており、同【0034】には、 「極性有機溶媒は、分子内に極性基(親水基)を有する有機溶媒であり、極性基(親水基)がN-メチルグルカミン基に対して作用することによって、金属カチオンの吸着能を向上させるものと推測される。」 とも記載されている。 そして、本件明細書の【0103】~【0123】では、模擬不純物カチオンとして、表1~表6に記載の多種多様な金属カチオンを添加した被処理有機溶媒A~Cを調製したうえで、N-メチルグルカミン型キレート樹脂によって種々の金属カチオンが除去されることを具体的に確認しており(実験例1~3、5、6)、特に被処理有機溶媒として「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」を用いた場合(実験例6)、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン及びPbを含めて、添加した全ての金属カチオンを除去できたことも、具体的に確認されている。 そうすると、上記の【0040】及び【0034】の記載も考慮すれば、本件訂正発明の「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」においては、本件訂正発明1~13の構成により、「不純物カチオン」である「金属カチオン」を除去することができ、上記(2)の本件訂正発明の課題を解決できることを、当業者は認識できるといえる。 (5)不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体及び第2イオン交換体の混床に接触させる処理について ア 判断 上記第3に摘記したとおり、本件訂正請求項1~9に記載の「有機溶媒の精製方法」においては、 「但し、前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除く」 ことが特定されており、本件訂正請求項10~13に記載の「有機溶媒の精製システム」においては、 「但し、前記第1イオン交換体を具備する精製手段が、前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を有する精製手段である場合を除く」 ことが特定されている。 また、上記第2で説示したとおり、本件訂正により、本件訂正請求項6~9に記載の「有機溶媒の精製方法」においては、本件訂正前に処理の態様の一つとして含まれていた 「(C)前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体の混床に接触させる処理」 が削除され、本件訂正請求項13に記載の「有機溶媒の精製システム」においては、本件訂正前に精製手段の態様の一つとして含まれていた 「(C)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床を有する精製手段」 が削除されている。 そして、本件明細書の【0044】~【0048】及び【0068】に、一般記載として、第1イオン交換体のみを使用する「本発明の有機溶媒の精製方法(1)」((A)「単床」)と、第1イオン交換体及び第2イオン交換体を順次使用する「本発明の有機溶媒の精製方法(2)」((B)「複床」)が記載されており、(A)「単床」を用いた具体例(実験例1、5、6)、及び、(B)「複床」を用いた具体例(実験例2、3)によって、不純物カチオンが有機溶媒中から除去されたことも具体的に確認されている。 そうすると、本件訂正発明の「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」として、「第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除」いた態様、すなわち、上記の(A)「単床」及び上記(B)「複床」の態様について、本件発明1~13の構成によって、上記(2)の本件訂正発明の課題を解決できることを、当業者は認識できるといえる。 (6)カチオン交換樹脂について ア 判断 上記第3に摘記したとおり、本件訂正請求項6~9、13に記載の「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」においては、「第1イオン交換体」に加えて、さらに「第2イオン交換体」として「強酸性陽イオンカチオン樹脂」に特定されない「カチオン交換樹脂」を用いることが特定されている。 本件明細書の【0044】には、 「より効果的に1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)を除去するために、本発明の有機溶媒の精製方法は、前記第1イオン交換体に加えて、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体を用いてもよい。」 と記載されており、同【0046】には、上記「第2イオン交換体樹脂」を用いない精製方法について、「工程を簡素にすることができる。」と記載されているうえ、実験例1、5、6において、上記「第2イオン交換体樹脂」を用いず、第1イオン交換体のみを用いた精製方法によって、被処理有機溶媒中の金属カチオンを除去することができたことが具体的に確認されている。 そうすると、本件明細書に記載の「有機溶媒の精製方法」及び「精製システム」においては、「第2イオン交換体」である「カチオン交換樹脂」は、あくまで「より効果的に1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)を除去する」ための任意の補完的なイオン交換体であるにすぎず、上述のとおり、当該「カチオン交換樹脂」を併用しない場合であっても、上記(2)の本件訂正発明の課題を解決することができることが確認されている。 したがって、当該「カチオン交換樹脂」として、本件明細書の【0052】において「好ましく使用される」と記載されている「強酸性陽イオン交換カチオン樹脂」以外の「カチオン交換樹脂」を用いた場合であっても、上記「カチオン交換樹脂」を併用しない場合よりも「より効果的に1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)を除去する」ことができるといえる。 よって、本件訂正発明6~9、13の「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」は、「第1イオン交換体」に加えて、さらに「第2イオン交換体」として「強酸性陽イオンカチオン樹脂」に特定されない「カチオン交換樹脂」を用いたとしても、上記(2)の本件訂正発明の課題を解決できることを、当業者は認識できるといえる。 (7)第1イオン交換体と第2イオン交換体の使用割合について ア 判断 上記第3に摘記したとおり、本件訂正請求項6~9、13に記載の「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」においては、「第1イオン交換体」に加えて、さらに「第2イオン交換体」として「カチオン交換樹脂」を用いることを特定するものの、「第1イオン交換体」と「第2イオン交換体」の量比は特定されていない。 上記(6)アで説示したとおり、本件明細書に記載の「有機溶媒の精製方法」及び「精製システム」においては、「第2イオン交換体」である「カチオン交換樹脂」は、あくまで「より効果的に1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)を除去する」ための任意の補完的なイオン交換体であるにすぎず、当該「第2イオン交換体」を併用しない場合であっても、上記(2)の本件補正発明の課題を解決することができることが確認されている。 そうすると、「第1イオン交換体」と任意の「第2イオン交換体」の使用割合が特定されない場合であっても、当該「第2イオン交換体」を併用しない場合よりは、「より効果的に1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)を除去する」ことができるといえる。 よって、本件訂正発明6~9、13の「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」は、「第1イオン交換体」に加えて、さらに「第2イオン交換体」として「カチオン交換樹脂」を用いることを特定するものの、「第1イオン交換体」と「第2イオン交換体」の量比については特定しなくても、上記(2)の本件訂正発明の課題を解決できることを、当業者は認識できるといえる。 イ 申立人の主張について (ア)申立人は、申立人意見書の8~9頁において、概略、次のように主張している。 <申立人の主張の概要> 「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」に対して、「カチオン交換樹脂」の使用量が多すぎると、キレート樹脂とキレート樹脂が捕捉する不純物との接触時間が短すぎる、又は、樹脂塔全体に対するキレート樹脂の流速が早すぎるという理由のため、キレート樹脂で除去する対象物の除去性が落ちる。また、「カチオン交換樹脂」に対して、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」の使用量が多すぎると、カチオン交換樹脂とカチオン交換樹脂が捕捉する不純物との接触時間が短すぎる、又は樹脂塔全体に対するカチオン交換樹脂の流速が早すぎるという理由のため、カチオン交換樹脂で除去する対象物の除去性が落ちる。 「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂50mL」と「カチオン交換樹脂50mL」の実施例のみをもって、あらゆる「第1イオン交換体と第2イオン交換体の使用割合」において、極性有機溶媒中の金属カチオンを除去する効果が得られるとは認められない。 (イ)しかしながら、上記アで説示したとおり、本件明細書に記載の「有機溶媒の精製方法」及び「精製システム」において、「第2イオン交換体」である「カチオン交換樹脂」は、あくまで「より効果的に1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)を除去する」ための任意の補完的なイオン交換体にすぎず、当該「カチオン交換樹脂」を併用しない場合でも、上記(2)の本件訂正発明の課題を解決できたことが具体的に確認されている。 また、本件訂正発明6~9、13は、第1イオン交換体と第2イオン交換体の使用割合に特徴がある発明ではないから、当業者は、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂50mL」と「カチオン交換樹脂50mL」の実施例を参考にして、両イオン交換体の適切な使用割合を設定できるし、一方の樹脂に対し他方の樹脂の使用量が多すぎるといった極端な場合を想定することは適切ではなく、申立人は、両イオン交換体の使用割合が50mL:50mLから僅かに外れるだけで、極性有機溶媒中の金属カチオンを除去する効果が得られなくなるといったことを示すような試験データを提示しているわけでもない。 (ウ)したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (8)N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなる第1イオン交換体のみを用いる場合について ア 判断 本件訂正請求項1~5、8~12に記載された「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」は、「N-メチルグルカミン基を有するキレート剤」からなる「第1イオン交換体」のみを使用する態様を包含するものである。 そして、上記(6)アでも説示したとおり、本件明細書の【0046】においては、「第2イオン交換体樹脂」を併用せず、「第1イオン交換体」のみを用いる精製方法について、「工程を簡素にすることができる。」と記載されており、さらに実験例1、5、6においては、「第2イオン交換体樹脂」を用いずに、「N-メチルグルカミン基を有するキレート剤」からなる「第1イオン交換体」のみを使用する態様において、被処理有機溶媒中の金属カチオンを除去することができたことが具体的に確認されている。 よって、「N-メチルグルカミン基を有するキレート剤」からなる「第1イオン交換体」のみを使用する態様を包含する、本件訂正発明1~5、8~12の「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」は、上記(2)の本件訂正発明の課題を解決することができることを、当業者は認識できるといえる。 イ 甲1の「比較金属吸着剤4」について 当審合議体は、取消理由通知書の「取消理由2(サポート要件違反)」の(7)の項目において、 「一方で、甲1の比較例において、「比較金属吸着剤4」、すなわち「式(A-1)5gを配合したもの」のみを用いたところ、金属除去性能が「不良」という結果が得られている(甲1dを参照。)。 そうすると、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」であっても、金属カチオンの除去性能が大きく異なることが理解される。」 と指摘したうえで、 「したがって、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」からなる「第1イオン交換体」のみを用いる態様を含む、本件訂正発明1~5及び8~12は、本件明細書の発明の詳細な説明において、・・・特に「有機溶媒中の不純物カチオンの除去性能に優れ」るという課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。」 との判断を示していた。 しかしながら、特許権者意見書の6~7頁において、特許権者も主張しているとおり、甲1において、金属除去性能が「良好」の結果を示した金属吸着剤1~14は、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」である式(A-1)30gと、(B-1)~(B-11)、(B-13)~(B-15)、(B-17)又は(B-18)5gとを、併用したものであるのに対し、金属除去性能が「不良」の結果を示した「比較金属吸着剤4」についてみると、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」である式(A-1)5gのみを使用したものである(甲1dの[0085]を参照。)。 そうすると、甲1において、「金属吸着剤1~14」と比べて、「比較金属吸着剤4」の金属除去性能が「不良」となった理由は、単に「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」である式(A-1)の使用量を30gから大幅に減らして5gとしたことによる影響である蓋然性が高く、必ずしも「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」である式(A-1)を単独で用いたことによって金属除去性能が「不良」となったとはいえない。 したがって、甲1において、「比較金属吸着剤4」の金属除去性能が「不良」であるということを根拠に、「「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」であっても、金属カチオンの除去性能が大きく異なることが理解される。」とは必ずしもいえず、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」からなる「第1イオン交換体」のみを用いる態様を含む、本件訂正発明1~5、8~12が、発明の詳細な説明において、上記(2)の本件訂正発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである、ともいえない。 ウ まとめ 上記ア及びイより、本件訂正発明1~5、8~12の「有機溶媒の精製方法」又は「有機溶媒の精製システム」は、上記(2)の本件訂正発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲のものである。 (9)取消理由2(サポート要件違反)のまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求項1~13の記載は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載された発明である。 したがって、取消理由2(サポート要件違反)は解消している。 3 取消理由3(実施可能要件違反)について (1)判断 本件訂正発明1~9は、極性有機溶媒及び不純物カチオンを含む「被処理有機溶媒」を、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」からなる「第1イオン交換体」に接触させて不純物カチオンを除去する工程を含む、「有機溶媒の精製方法」に関する発明であり、本件訂正発明10~13は、当該精製方法に対応する「有機溶媒の精製システム」に関する発明である。 これらのうち、本件訂正発明6~9、13は、上記「第1イオン交換体」に加え、「カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体」を用いる複床の態様を特定するものである。 そして、本件明細書の【0019】~【0032】には、本件訂正発明において用いられる「第1イオン交換体」を構成する「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」について詳細な説明が記載されており、【0029】には、 「N-メチルグルカミン型キレート樹脂の市販品として、具体的には、MUROMAC(登録商標)XMS-5119-FB(室町ケミカル株式会社製)、MUROMAC(登録商標)XMS-515B-FB(室町ケミカル株式会社製)、MUROMAC(登録商標)XMS-519B-FB(室町ケミカル株式会社製)、DIAION(登録商標)CRB03(三菱ケミカル株式会社製)、DIAION(登録商標)CRB05(三菱ケミカル株式会社製)、AMBERLITE(登録商標)IRA743(オルガノ株式会社製)、AMBERTEC UP7530(デュポン社製)等が挙げられる。」 と記載されている。 また、本件明細書の【0050】~【0053】には、本件訂正発明において用いられる「第2イオン交換体」に含まれる「カチオン交換樹脂」について詳細な説明が記載されており、【0052】には、 「より1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)の除去性能に優れる強酸性陽イオン交換樹脂が好ましく使用される。」 と記載され、これに続く【0053】には、 「強酸性陽イオン交換樹脂としては、市販品を使用してもよく、例えば、MUROMAC(登録商標)XSCシリーズ(室町ケミカル株式会社製)、MUROMAC(登録商標)XMCシリーズ(室町ケミカル株式会社製)、AMBERLITE(登録商標)HPRシリーズ(デュポン社製)、ダイヤイオン(登録商標)SKシリーズ、PKシリーズ、UBKシリーズ(三菱ケミカル株式会社製)、オルライト(登録商標)DSシリーズ(オルガノ株式会社製)、レバチット(登録商標)モノプラスシリーズ(ランクセス株式会社製)などが挙げられる。」 と記載されている。 さらに、実施例(【0103】~【0123】)においては、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」として、 「キレート樹脂:N-メチルグルカミン型キレート樹脂(Muromac XMS-5119-FB、室町ケミカル株式会社製)」 が使用され、「カチオン交換樹脂」として、 「カチオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂(Muromac XSC-1191-H、室町ケミカル株式会社製)」 が使用されており、上記「キレート樹脂」を、単床として(実験例1、5~6)、或いは、上記「カチオン交換樹脂」との複床として(実験例2~3)、使用することによって、複数種の被処理有機溶媒から種々の金属カチオンを除去できたことも、具体的に確認されている。 そうすると、当業者は、上記実験例1~3、5~6の記載を参考にして、本件明細書における「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」及び「カチオン交換樹脂」についての詳細な説明の記載も参照することにより、本件訂正発明1~13において、過度の試行錯誤を要することなく、被処理有機溶媒から金属カチオンを除去するために、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」を、単独で用いる場合、又は、「カチオン交換樹脂」と組み合わせて用いる場合に、それぞれ具体的にどのようなイオン交換体を用いればよいかを理解することができるといえる。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1~13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 (2)甲1の「比較金属吸着剤4」について ア 当審合議体は、取消理由通知書において、甲1では、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」である「比較金属吸着剤4」を用いたにも関わらず、金属除去性能が「不良」となっていることを根拠として、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」であっても、得られる金属除去の効果が異なるといえるから、本件明細書の実験例で用いられた 「キレート樹脂:N-メチルグルカミン型キレート樹脂(Muromac XMS-5119-FB、室町ケミカル株式会社製)」 の具体的な性状が明らかでない以上、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」として、具体的にどのようなイオン交換体を用いれば有機溶媒から不純物カチオンを除去できるのかについては、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するものと認められる旨を指摘していた。 イ これに対し、特許権者は、特許権者意見書の8頁において、本件明細書の実験例で用いられた 「キレート樹脂:N-メチルグルカミン型キレート樹脂(Muromac XMS-5119-FB、室町ケミカル株式会社製)」 及び 「カチオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂(Muromac XSC-1191-H、室町ケミカル株式会社製)」 について、これらは本件特許の出願時における開発中の品番であり、添付した乙1(室町ケミカル株式会社、高純度イオン交換樹脂「Muromac SG シリーズ」パンフレット)の記載を根拠に、令和7年6月2日現在、それぞれ、次の品番の市販品である 「Muromac SG-5」 及び 「Muromac SG-4」 に該当する旨を主張しているが、本件明細書の記載及び特許権者の上記主張を検討しても、本件明細書の実験例で用いられた上記2つの製品の品番が、本件特許の出願時に開発中のものであり、これらの製品が、特許権者が主張する乙1に記載された「現在の品番」の2つの市販品に該当するということについて、本件特許の出願時に当業者が理解できたとはいえない。 ウ しかしながら、上記2(8)イでも説示したとおり、特許権者意見書の6~7頁における主張によって、甲1において、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」である「比較金属吸着剤4」の金属除去性能が「不良」となった理由は、あくまで「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」である式(A-1)の使用量を30gから大幅に減らして5gとしたことによる影響である蓋然性が高く、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」の性状の違いによって、金属除去性能が「不良」となったとはいえないことが明らかとなった。 エ そうすると、本件明細書の実験例で用いられた「キレート樹脂」と「カチオン交換樹脂」の性状等の詳細な実態が把握できなくても、本件明細書の一般記載を含めた記載全体を参照すれば、上記実験例で用いられた「キレート樹脂」に限定されない「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」を用いることによって、被処理有機溶媒から金属カチオンを除去することができると、当業者は理解できるといえる。 (3)申立人の主張について 申立人は、申立人意見書の10~11頁において、本件明細書の実験例で用いられた「キレート樹脂」と「カチオン交換樹脂」について、特許権者が主張する乙1に記載された2つの品番の市販品に該当することは、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、当業者が理解することはできず、依然として、上記実験例で用いられた「キレート樹脂」と「カチオン交換樹脂」の具体的な性状は不明であり、極性有機溶媒から金属カチオンを除去するために、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」の単独、又は、「カチオン交換樹脂」と組み合わせた場合に、具体的にどのようなイオン交換体を用いればよいかは、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要する旨を主張している。 しかしながら、上記(2)ウ~エで述べたとおり、甲1の「比較金属吸着剤4」の結果が「不良」となった理由は、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」の性状の違いによる影響ではない蓋然性が高いということが明らかになったのであるから、本件明細書の一般記載を含めた記載全体を参酌すれば、上記実験例で用いられた「キレート樹脂」に限定されない「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」を用いることにより、被処理有機溶媒から金属カチオンを除去することができると、当業者は理解できるといえる。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (4)取消理由3(実施可能要件違反)のまとめ 以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1~13を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。 したがって、取消理由3(実施可能要件違反)は解消している。 第6 取消理由において採用しなかった申立理由について 上記第4に示したとおり、第4の1に概要を示した申立理由のうち、申立理由1-1(甲1に基づく進歩性欠如)は、取消理由1と同旨であり、申立理由2(サポート要件違反)のア~イ、エ~オは、取消理由2のア~イ、エオと同旨であり、申立理由2(サポート要件違反)のウは、取消理由2のウの理由に包含されるものである。 以下、取消理由において採用しなかった申立理由である、申立理由1-2(甲2に基づく進歩性欠如)、申立理由1-3(甲3を主引例とする進歩性欠如)、及び、申立理由3(明確性要件違反)について検討する。 1 甲号証の記載事項 (1)甲2の記載事項 甲2には、次の事項が記載されている。 (甲2a) 「請求の範囲 [請求項1] 半導体デバイス用の処理液であって、 水と、 有機溶剤と、を含み、 前記有機溶剤が、有機溶剤A及び有機溶剤Bからなる組合せであって、下記の組合せ1~6のいずれかである組合せを少なくとも含み、 pHが5以上である、 処理液。 組合せ1:前記有機溶剤Aが、エチレングリコールモノブチルエーテルであって、前記有機溶剤Bが、1-sec-ブトキシブタン、1-(2-ブトキシエトキシ)エタン-1-オール、1-((2-ブトキシエトキシ)メトキシ)ブタン、1-(2-(エトキシメトキシ)エトキシ)ブタン、(2-ブトキシエトキシ)酢酸、3,6,9,12-テトラオキサヘキサデカン-1-オール、グリセリン、オクタデカノール及びジ(2-ブトキシ)メタンからなる群B1より選択される少なくとも1種である組合せ。 組合せ2:前記有機溶剤Aが、ジエチレングリコールモノブチルエーテルであって、前記有機溶剤Bが、1-sec-ブトキシブタン、1-(2-ブトキシエトキシ)エタン-1-オール、1-((2-ブトキシエトキシ)メトキシ)ブタン、1-(2-(エトキシメトキシ)エトキシ)ブタン、(2-ブトキシエトキシ)酢酸、3,6,9,12-テトラオキサヘキサデカン-1-オール、グリセリン、オクタデカノール及びジ(2-ブトキシ)メタンからなる群B2より選択される少なくとも1種である組合せ。 組合せ3:前記有機溶剤Aが、ジメチルスルホキシドであって、前記有機溶剤Bが、ジメチルジスルフィド、ジメチルスルフィド及びジメチルスルフォンジメチルジスルフィドからなる群B3より選択される少なくとも1種である組合せ。 ・・・ [請求項16] 更に、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン誘導体及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のヒドロキシルアミン化合物、並びに、キレート剤を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の処理液。 ・・・ [請求項21] 請求項16~18のいずれか1項に記載の処理液の製造方法であって、 キレート剤を含む原料から金属を除去して、前記キレート剤を含む精製物を得る金属除去工程と、 前記精製物に含まれる前記キレート剤を用いて前記処理液を調製する処理液調製工程と、を有する、処理液の製造方法。 [請求項22] 前記金属除去工程が、前記原料をキレート樹脂及びイオン交換樹脂からなる群より選択される少なくとも1つの樹脂に通過させる工程を含む、請求項21に記載の処理液の製造方法。」 (甲2b) 「[0144] <金属除去工程> 処理液調製工程に使用する前に、各成分に対して、各成分を含む原料から金属を除去して、各成分を含む精製物を得る金属除去工程を行うことが好ましい。各成分に対して金属除去工程を施し、得られる精製物に含まれる各成分を用いて処理液を調製することにより、処理液に含まれる金属成分の含有量をより低減できる。 各成分を含む原料(以下「被精製物」ともいう)から金属を除去する方法としては、特に制限されず、被精製物をキレート樹脂及びイオン交換樹脂からなる群より選択される少なくとも1つの樹脂に通過させる方法、並びに、被精製物を金属イオン吸着フィルタに通過させる方法等の公知の方法が適用できる。 [0145] 金属除去工程の対象物となる成分としては、上記の処理液に含まれる成分(但し金属成分を除く)であれば特に制限されない。処理液がキレート剤を含む場合、他の成分に比較してキレート剤を含む原料に含まれる金属成分の含有量が多い傾向にあることから、キレート剤を含む原料に対して金属除去工程を施して得られるキレート剤を含む精製物を用いて、処理液を調製することがより好ましい。 金属除去工程を施す被精製物は、対象物以外の化合物を含んでいてもよく、溶剤を含むことが好ましい。溶剤としては、水及び有機溶剤が挙げられ、水が好ましい。 被精製物における対象物の含有量は、対象物の種類及び具体的な金属除去処理に応じて適宜でき、例えば、被精製物の全質量に対して1~100質量%であってよく、10~50質量%が好ましい。 [0146] 被精製物をキレート樹脂及びイオン交換樹脂からなる群より選択される少なくとも1つの樹脂に通過させる方法としては、特に制限されないが、容器に充填されたキレート樹脂及び/又はイオン交換樹脂に被精製物を通過させる方法が挙げられる。 被精製物を通過させるキレート樹脂及び/又はイオン交換樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上使用してもよい。また、被精製物を同一のキレート樹脂及び/又はイオン交換樹脂に2回以上通過させてもよい。 金属除去工程において、キレート樹脂及びイオン交換樹脂の両者を用いてもよい。その場合、キレート樹脂及びイオン交換樹脂を複床又は混床で使用してもよい。 容器としては、キレート樹脂及び/又はイオン交換樹脂を充填でき、充填されたキレート樹脂及び/又はイオン交換樹脂に被精製物を通過できるものであれば特に制限されず、例えば、カラム、カートリッジ、及び、充填塔が挙げられる。 ・・・ [0148] キレート樹脂は、金属とキレート化する機能を有するキレート基を有する樹脂であれば、特に制限されない。 キレート基としては、例えば、イミノ二酢酸基、イミノプロピオン酸基、アミノメチレンホスホン酸基(-NH-CH3-PO3H2)等のアミノホスホン酸基、ポリアミン基、N-メチルグルカミン基等のグルカミン基、アミノカルボン酸基、ジチオカルバミン酸基、チオール基、アミドキシム基、及び、ピリジン基が挙げられ、イミノ二酢酸基又はアミノホスホン酸基が好ましく、アミノホスホン酸基がより好ましい。 これらのキレート基は対イオンとともに塩を形成していてもよいが、金属含有量をより低減できる点で、塩を形成していないことが好ましい。すなわち、キレート樹脂は、H型キレート樹脂であることが好ましい。H型キレート樹脂は、Na型、Ca型及びMg型等の金属イオン型のキレート樹脂を鉱酸と接触させて酸処理することにより、得られる。 キレート樹脂の基体は特に制限されず、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、及び、スチレン-エチルスチレン-ジビニルベンゼン共重合体が挙げられる。 [0149] キレート樹脂としては、市販品を使用でき、例えば、デュオライトES371N、デュオライトC467、デュオライトC747UPS、スミキレート(登録商標、以下同じ)MC760、スミキレートMC230、スミキレートMC300、スミキレートMC850、スミキレートMC640、スミキレートMC900、及び、スミキレートMC960(以上、住化ケムテックス社製);ピュロライトS106、ピュロライトS910、ピュロライトS914、ピュロライトS920、ピュロライトS930、ピュロライトS950、ピュロライトS957、及び、ピュロライトS985(以上、ピュロライト社製);並びに、オルライトDS-21、アンバーライトIRC748、及び、アンバーライトIRC747(以上、オルガノ社製)が挙げられる。 ・・・ [0153] 金属除去工程により被精製物から除去される金属は特に制限されず、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Zn及びPb等の金属が挙げられる。金属除去工程により得られる精製物は、被精製物に比較して、上記の金属含有量が低減されている。 精製物における金属の含有量は特に制限されないが、例えば、キレート剤を含む精製物におけるキレート剤の含有量に対する金属成分の各金属元素あたりの含有量の比率がいずれも、質量比で1.0×10-6以下であることが好ましく、1.0×10-7以下であることがより好ましく、1.0×10-8以下であることが更に好ましい。 また、金属除去工程により得られたキレート剤を含む精製物において、Na成分の含有量に対するCa成分の含有量の比率が、質量比で1.0以上であること(Na成分の含有量よりもCa成分の含有量が多いこと)が好ましく、1.1以上であることがより好ましく、1.2以上であることが更に好ましい。上限は特に制限されないが、Na成分の含有量に対するCa成分の含有量の比率が、質量比で50以下であることが好ましい。 なお、被精製物及び精製物中の金属の種類及び含有量は、処理液中の金属成分の種類及び含有量の測定方法として記載した方法に従って、測定できる。」 (甲2c) 「[0303] [実施例D-1~D-19] 〔金属除去工程:試験例1~13〕 試験例1~13として、処理液を調製するための第1液と第2液とを備えるキットを作製する前に、キレート樹脂を用いて特定のキレート剤を含む原料から金属を除去する金属除去工程を実施した。 [0304] 各試験例では、実施例B-1~B-19において使用したキレート剤のうち、第2液の調製に使用したCDC-G、CDC-Cl、アルギニン、PDG、TDG及び高分子1~6をそれぞれ含む被精製物を調製した。また、各試験例では、以下に示すキレート樹脂を使用した。樹脂1~3はいずれも、キレート基としてアミノメチルホスホン酸基を有するキレート樹脂である。 ・樹脂1:オルガノ社製「オルライトDS-21」 ・樹脂2:住化ケムテックス社製「スミキレートMC960」 ・樹脂3:ピュロライト社製「ピュロライトS950」 表8に、各試験例で使用したキレート剤とキレート樹脂との組合せを示す。 [0305] 以下、試験例1を例に、キレート樹脂を用いて実施した金属除去工程の詳細な手順を示す。 まず、CDC-Gを含む被精製物を調製した。このとき、被精製物におけるCDC-Gの含有量が被精製物の全質量に対して20質量%になるように、水(超純水)を添加して調整した。 直径2cmのカラムに25mlの樹脂1を充填した後、塩酸1%水溶液50ml、及び、超純水100mlをカラム内に続けて通過させることにより、樹脂1を洗浄した。その後、CDC-Gを含む被精製物をカラム内の樹脂1に通過させ、被精製物から金属を除去する処理を実施して、CDC-Gを含み、金属含有量が低減された精製物を得た。なお、被精製物の温度は20~25℃であり、キレート樹脂を通過する被精製物の速度(流速)は、SV(空間速度)=10であった。 表8に記載のキレート剤及びキレート樹脂を使用すること以外は、上記の試験例1と同様にして、試験例2~13を実施した。 [0306] 各試験例において、キレート樹脂により精製する前の被精製物における金属含有量、及び、精製した後の精製物における金属含有量を、実施例1~31において処理液に含まれるコバルトイオン含有量の測定方法として記載した方法に従って測定した。表8に、精製前の被精製物における金属含有量、及び、精製後の精製物における金属含有量の測定結果をそれぞれ示す。 [0307] [表12] [図:0001432057000015.jpg] [0308] 表8の結果から、キレート樹脂を用いて特定のキレート剤を含む原料から金属を除去する金属除去工程を実施することにより、金属含有量が著しく低減された精製物が得られることが確認された。特に、試験例1~13として実施した金属処理工程で得られたいずれの精製物においても、Naの含有量に比較してCaの含有量が多いことが確認された。」 (2)甲3の記載事項 甲3には、次の事項が記載されている。 (甲3a) 「請求の範囲 [請求項1] 被処理有機溶媒を、H形カチオン交換体(1)に接触させる第一処理工程と、 該第一処理工程の処理液を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に接触させる第二処理工程と、 を有することを特徴とする有機溶媒の精製方法。 ・・・ [請求項4] 前記H形カチオン交換体(1)が、H形キレート交換体であることを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の有機溶媒の精製方法。 ・・・ [請求項10] 前記有機溶媒が、極性有機溶媒であること特徴とする請求項1~9いずれか1項記載の有機溶媒の精製方法。 [請求項11] 被処理有機溶媒が通液されるH形カチオン交換体(1)の単床と、該H形カチオン交換体(1)の単床の処理液が通液されるアニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)の混床と、を有することを特徴とする有機溶媒の精製装置。 [請求項12] 被処理有機溶媒が通液されるH形カチオン交換体(1)の単床と、該H形カチオン交換体(1)の単床の処理液が通液されるアニオン交換体(2)の単床と、該アニオン交換体(2)の単床の処理液が通液されるH形強酸性カチオン交換体(3)の単床と、を有することを特徴とする有機溶剤の精製装置。 ・・・」 (甲3b) 「[0026] 本発明の第一の形態の有機溶媒の精製方法に係る第一処理工程は、被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1a)に接触させる工程である。 [0027] 本発明の第一の形態の有機溶媒の精製方法に係る被処理有機溶媒としては、特に制限されないが、例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール類、シクロヘキサンノン、メチルイソブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2-フェニル-1-プロペン等のアルケン系有機溶媒、N-メチルピロリドン及びこれらの混合有機溶媒が挙げられる。被処理有機溶媒としては、極性有機溶媒及び非極性有機溶媒のいずれであってもよく、極性有機溶媒が好ましい。また、極性有機溶媒としては、プロトン性の極性有機溶媒であって、非プロトン性の有機溶媒であってもよい。 [0028] 被処理有機溶媒は、金属不純物として、Na、K、Li等の1価の金属と、Cr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Zn等の2価以上の金属であり、キレート樹脂で除去し易い金属と、の両方を含有する。 ・・・ [0030] 本発明の第一の形態の有機溶媒の精製方法に係るH形カチオン交換体(1)は、H形キレート交換体(1a)である。 [0031] H形キレート交換体(1a)は、Na形、Ca形、Mg形等の金属イオン形のキレート交換体を、鉱酸と接触させることにより、酸処理されて、H形に変換されたものである。つまり、H形キレート交換体(1a)は、金属イオン形のキレート交換体の鉱酸接触処理物である。 [0032] H形キレート交換体(1a)が有する官能基は、金属イオンに配位してキレートを形成することができるものであれば、特に制限されず、例えば、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基、イミノプロピオン酸基等のアミノ基を有する官能基、チオール基等が挙げられる。これらのうち、キレート交換体の官能基としては、多数の多価金属イオンの除去性が高くなる点で、アミノ基を有する官能基が好ましく、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基、イミノプロピオン酸基が特に好ましい。 ・・・ [0038] 例えば、金属イオン形のキレート交換樹脂としては、三菱化学社製のCR-10、CR-11、住化ケムテックス社製のデュオライトC-467、住友化学社製のMC-700、ランクセス社製のレバチットTP207、レバチットTP208、レバチットTP260、ピュロライト社製のS930、S950、オルガノ製のDS-21、DS-22が挙げられる。 [0039] 第一処理工程では、被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1a)に接触させることにより、被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1a)で処理し、被処理有機溶媒中の主に2価以上の金属と、1価の金属の一部を除去する。」 (3)甲4の記載事項 甲4には、次の事項が記載されている。 なお、原文は英語で記載されているため、当審合議体による訳文にて摘記した。 (甲4a)70頁下から5行~71頁下から1行 「3.4.1.9 メチルグルカミン基を有する樹脂 Purolite S108に見られるようなメチルグルカミン基を有する樹脂は、Ni2+よりもFe3+の選択的な吸着を示した。Purolite S108は、最も高い樹脂投与量でFe3+の吸着が90%以上達成され、Ni2+の共吸着は18%であった(図3.10を参照)。・・・ ・・・N-メチルグルカミン基として商業化され、酸化形態のAs、Ge、及びBの除去に一般的に使用されている。」 (甲4b)129頁8~12行 「4.4.1.9 メチルグルカミン基を有する樹脂 メチルグルカミン基を有する樹脂は、研究対象となった基本金属よりもFe3+を優先的に吸着した(図4.9を参照)。基本金属の中では、Cu2+が最も高い共吸着を示した。樹脂の投与量が増加するにつれて金属の吸着量も増加したが、0.2g/mL以下の樹脂投与量では基本金属の共吸着は無視できる程度であった。」 (4)甲5の記載事項 甲5には、次の事項が記載されている。 (甲5a)7頁、要旨、1~2行 「 要旨 N-メチルグルカミン樹脂にGeが選択的に吸着されることを利用し,ポリエステル製造プラントから留去されたエチレングリコール(EG)溶液からのGeの分離を検討した。」 (甲5b)8頁左欄10行~右欄10行 「 2 実験 ・・・ ・・・。GeのEG溶液は,Ge(OC4H9)4・・・を温EGに溶解し,・・・調製した。・・・ ・・・ 2.2 実験法 バッチ法による吸着実験は,乾燥樹脂・・・を三角フラスコに取り,これに試料の溶液25cm3を加えて25℃の恒温槽中で所定時間振り混ぜて行った。・・・」 (甲5c)9頁右欄17行~11頁左欄6行 「3.3 吸着等温線 ・・・水溶液中のGeはゲルマニウム酸Ge(OH)4またはゲルマニウム酸イオン[GeO(OH)3]-及び[GeO2(OH)2]2-として存在し,ポリヒドロキシ化合物と陰イオン性の錯体を形成することが知られている。したがって,N-メチルグルカミン樹脂によるGeの吸着は,水溶液中に存在するこれらのGe化学種と樹脂官能基のOH基との間の錯体の形成によると考えられる。」 (甲5d)11頁右欄4行~12頁左欄3行 「3.4 Geの吸着に及ぼす水分の影響 ポリエステル製造工程から得られたEG留出液は水分を含んでいるので,Geの吸着に及ぼす水分の影響をバッチ法で検討した。・・・ いずれの溶液の場合も水分20wt%以上ではGe吸着量はほぼ一定となり,Ge水溶液の場合と同程度の吸着量が得られた。水分10wt%以下では吸着量は徐々に減少した。今回対象としたEG留出液の水分量は11.4wt%であるので,Ge水溶液の場合とほぼ同程度のGe吸着量が期待される。」 (5)甲6の記載事項 甲6には、以下の事項が記載されている。 なお、原文は英語で記載されているため、当審合議体による訳文にて摘記した。 (甲6a)1頁、Abstract、1~6行) 「要旨:N-メチル-D-グルカミン(NMDG)基を有するイオン交換体(・・・)のV(V)イオンに対する吸着容量を、・・・などのさまざまなパラメータの影響を考慮したバッチシステムでテストした。」 (甲6b)2頁3~10行 「溶液の濃度とpH値に応じて、バナジウムは水溶液中で11種以上のオキシアニオン化合物を形成します[8]。低pH範囲(<3)では、V(V)は主に陽イオンVO2+として溶液中に存在します。pHが上昇すると、アニオン形態、すなわちデカバナデート種・・・が現れます[9,10]。このように広いpH範囲でアニオン種が存在するため、アニオン交換基は廃水からバナジウムを除去するための潜在的に優れた方法となる。」 (甲6c)2頁24~25行 「この研究の目的は、N-メチル-D-グルカミン官能基を有するイオン交換体を用いた水溶液からのV(V)イオン除去の効率を決定することであった。」 (甲6d)2頁37~43行 「2.1.イオン交換体 ・・・ ・アンバーライトIRA743-N-メチル-D-グルカミン(NMDG)基を有するポリスチレン-ジビニルベンゼン マクロポーラス マトリックス(ST-DVB))」 2 引用発明 (1)甲2に記載された発明 甲2の請求項22に記載された「処理液の製造方法」(甲2a)の具体的な金属除去工程に関する[0144]~[0153](甲2b)の記載からみて、甲2には、次の「甲2発明」が記載されていると認める。 ≪甲2発明≫ 「処理液の各成分を含む原料である被精製物から金属を除去して、各成分を含む精製物を得る金属除去工程を含み、 被精製物をキレート樹脂及びイオン交換樹脂からなる群より選択される少なくとも1つの樹脂に通過させる方法、並びに、被精製物を金属イオン吸着フィルタに通過させる方法が適用でき、 被精製物は、溶剤を含むことが好ましく、溶剤としては、水又は有機溶剤が挙げられ、水が好ましく、 キレート樹脂は、イミノ二酢酸基、イミノプロピオン酸基、アミノメチレンホスホン酸基(-NH-CH3-PO3H2)などのアミノホスホン酸基、ポリアミン基、N-メチルグルカミン基などのグルカミン基、アミノカルボン酸基、ジチオカルバミン酸基、チオール基、アミドキシム基、及び、ピリジン基などの金属とキレート化する機能を有するキレート基を有する樹脂であり、 金属除去工程により被精製物から除去される金属は、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Zn及びPbなどの金属が挙げられる、 被精製物の精製方法。」 (2)甲3に記載された発明 甲3の請求項10に記載された「有機溶媒の精製方法」(甲3a)における第一の形態の有機溶媒の精製方法に係る第一処理工程に関する記載(甲3b)からみて、甲3には、次の「甲3発明」が記載されていると認める。 ≪甲3発明≫ 「金属不純物として、Na、K、Li等の1価の金属とCr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Zn等の2価以上の金属を含有する被処理有機溶媒を、 H型キレート交換樹脂である、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基又はイミノプロピオン酸基である官能基を有するH形キレート交換体(1a)に接触させる第一処理工程を含み、 前記被処理有機溶媒は極性溶媒が好ましい、 有機溶媒の精製方法。」 3 申立理由1-2(甲2に基づく進歩性欠如)について (1)本件訂正発明1について ア 対比 本件訂正発明1と甲2発明とを対比する。 (ア)甲2発明における「溶剤」、「除去される金属」として挙げられる「Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Zn及びPbなどの金属」、及び「被精製物」は、それぞれ、本件訂正発明1における「極性有機溶媒」である「有機溶媒」、「金属カチオン」である「不純物カチオン」、及び「被処理有機溶媒」と、「被精製物」、「金属カチオン」である「不純物カチオン」、及び「被精製物含有液」である限りにおいて一致する。 (イ)甲2発明における「キレート樹脂」は、本件訂正発明1における「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなる」「第1イオン交換体」と、「キレート樹脂を含む金属除去物質」である限りにおいて一致する。 (ウ)甲2発明の「処理液の各成分を含む原料である被精製物から金属を除去して、各成分を含む精製物を得る金属除去工程」を含む「被精製物の精製方法。」は、本件訂正発明1の「有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程」を含む「有機溶媒の精製方法」と、「不純物カチオンが金属カチオン」であり、「被精製物及び不純物カチオンを含む被精製物含有液を金属除去物質に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程」を含む「被精製物の精製方法」である限りにおいて一致する。 (エ)甲2発明における「被精製物をキレート樹脂及びイオン交換樹脂からなる群より選択される少なくとも1つの樹脂に通過させる方法、並びに、被精製物を金属イオン吸着フィルタに通過させる方法」は、本件訂正発明1における「但し、前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除く。」という条件を、「但し、前記金属除去物質と、前記キレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除く。」である限りにおいて満たしているといえる。 (オ)そうすると、本件訂正発明1と甲2発明との間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。 <一致点> 「被精製物及び不純物カチオンを含む被精製物含有液を金属除去物質に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程を含み、 不純物カチオンが金属カチオンであり、 前記金属除去物質がキレート樹脂を含む、被精製物の精製方法(但し、前記金属除去物質と、前記キレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除く。)。」 <相違点2-1> 「被精製物」が、 本件訂正発明1では、「極性有機溶媒」である「有機溶媒」であるのに対し、 甲2発明では、「水又は有機溶剤」である点。 <相違点2-2> 金属除去物質が、 本件訂正発明1では、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなる」「第1イオン交換体」であるのに対し、 甲2発明では、「イミノ二酢酸基、イミノプロピオン酸基、アミノメチレンホスホン酸基(-NH-CH3-PO3H2)などのアミノホスホン酸基、ポリアミン基、N-メチルグルカミン基などのグルカミン基、アミノカルボン酸基、ジチオカルバミン酸基、チオール基、アミドキシム基、及び、ピリジン基などの金属とキレート化する機能を有するキレート基を有する樹脂」である点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点2-1及び相違点2-2を同時に検討する。 甲2には、「処理液の各成分を含む原料である被精製物から金属を除去して、各成分を含む精製物を得る金属除去工程」を有し、「被精製物をキレート樹脂及びイオン交換樹脂からなる群より選択される少なくとも1つの樹脂に通過させる方法」の具体的な態様として、「被精製物」が「溶剤」として「水」のみを含む水溶液であり、「キレート樹脂」が「アミノメチレンホスホン酸基」を有するキレート樹脂である金属除去工程が開示されている(甲2c)。 ここで、甲2には、「被精製物」に含まれる「溶剤」として、「水及び有機溶剤が挙げられ」ると記載されているものの、あくまで「水が好ましい」と記載されているし(甲2b)、[0305]に記載された具体例においても、「溶剤」は「水」のみである(甲2c)。 また、甲2発明には、「キレート樹脂」が有する「キレート基」の例として、「アミノメチレンホスホン酸基・・・などのアミノホスホン酸基」と並んで、「N-メチルグルカミンなどのグルカミン基」も挙げられているものの(甲2bの[0148])、あくまでも多数の選択肢の一つとして記載されているにすぎない。 そうすると、甲2発明において、「キレート樹脂」が有する「キレート基」として多数例示された選択肢の一つにすぎない「N-メチルグルカミン基」を選択したうえで、さらに「溶剤」として好ましい「水」に代えて、わざわざ「極性有機溶剤」を選択することに、動機付けがあるとはいえない。 したがって、本件訂正発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件訂正発明2~7について 本件訂正発明2~7は、本件訂正発明1の特定事項を全て備え、さらに、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂の構造、不純物カチオンの種類、有機溶媒の種類、又は、第2イオン交換体を用いる態様を限定した発明であるから、上記(1)で述べたのと同様の理由により、甲2発明に基いて、から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件訂正発明8及び9について 本件訂正発明8及び9は、本件訂正発明1~7のいずれかの特定事項を全て備える有機溶媒の精製方法を用いる工程を含む、精製有機溶媒の製造方法の発明であるから、上記(1)で述べたのと同様の理由により、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件訂正発明10について 本件訂正発明10は、本件訂正発明1について、発明のカテゴリーを「有機溶媒の精製方法」から「有機溶媒の精製システム」に変えたものにすぎないから、上記(1)及び(3)で述べたのと同様の理由により、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件訂正発明11~13について 本件訂正発明11~13は、本件訂正発明10の特定事項を全て備え、さらに、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂の構造、又は、第2イオン交換体を用いる態様を限定した発明であるから、上記(1)~(3)で述べたのと同様の理由により、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)申立人の主張について (ア)甲2-1発明の認定について 申立人は、申立書の35~36頁において、以下のとおり、甲2-1発明を認定している。 ≪甲2-1発明≫ 「有機溶剤及び金属を含む被精製物をキレート樹脂に接触させて前記金属を除去する工程を含み、 前記キレート樹脂がイミノ二酢酸基、イミノプロピオン酸基、アミノメチレンホスホン酸基(-NH-CH3-PO3H2)等のアミノホスホン酸基、ポリアミン基、N-メチルグルカミン基等のグルカミン基、アミノカルボン酸基、ジチオカルバミン酸基、チオール基、アミドキシム基、または、ピリジン基を有するキレート樹脂からなることを特徴とする有機溶剤を含む処理液の精製方法。」 しかしながら、当該甲2-1発明は、甲2の複数の箇所に記載された事項の中から、予め選択肢等を捨象し、本件発明1に倣って構成を抽出したものであり、本件発明の構成を参照したうえで、恣意的に認定したものといえるから、当該甲2-1発明を甲2に記載された発明として採用することはできない。 (イ)甲2における、金属除去工程に用いられる「キレート樹脂」と、「被精製物」に含まれる「キレート剤」の混同について さらに、申立人は、申立書の69頁において、 「なお、「からなる」について、甲2の[0077]には「キレート剤は、1種単独で使用してもよい」と記載され、甲2の実施例でもキレート樹脂として「樹脂1、樹脂2、または樹脂3を単独で」用いていることから、甲2-1発明における「キレート樹脂」が「キレート樹脂からなるイオン交換体」であることは明らかである。」 と主張している。 しかしながら、甲2の[0077]における「キレート剤」の説明は、金属除去工程に用いられる「キレート樹脂」に関するものではなく、「被精製物」に含まれる「キレート剤」について、「1種単独で使用してもよい」と記載されているにすぎない。そうすると、当該[0077]における「被精製物」含まれる「キレート剤」の記載を根拠として、「甲2-1発明における「キレート樹脂」が「キレート樹脂からなるイオン交換体」であることは明らかである。」とする申立人の主張は認められない。 (ウ)したがって、申立人の主張は、いずれも採用できない。 (7)申立理由1-2(甲2に基づく進歩性欠如)についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正発明1~13は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由1-2は理由がない。 4 申立理由1-3(甲3を主引例とする進歩性欠如)について (1)本件訂正発明1について ア 対比 本件訂正発明1と甲3発明とを対比する。 (ア)甲3発明における「被処理有機溶媒」である「極性溶媒」及び「金属不純物」としての「Na、K、Li等の1価の金属とCr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Zn等の2価以上の金属」は、それぞれ、本件訂正発明1における「極性有機溶媒」である「極性溶媒」及び「金属カチオン」である「不純物カチオン」に相当する。 (イ)甲3発明における「金属不純物として、Na、K、Li等の1価の金属とCr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Zn等の2価以上の金属を含有する被処理有機溶媒」を、「粒状のH型キレート交換樹脂」である「H形キレート交換体(1a)」に「接触させる第一処理工程」を含む「有機溶媒の精製方法」は、上記(ア)を踏まえると、本件訂正発明1における「有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程」を含む「有機溶媒の精製方法」に相当する。 (ウ)甲3発明における「H型キレート交換樹脂である、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基又はイミノプロピオン酸基である官能基を有するH形キレート交換体(1a)」は、本件訂正発明1における「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなる」「第1イオン交換体」と、「キレート樹脂からなるイオン交換体」である限りにおいて一致する。 (エ)甲3発明における「H型キレート交換樹脂である、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基又はイミノプロピオン酸基である官能基を有するH形キレート交換体(1a)に接触させる第一処理工程」は、「イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様」には該当しないことから、甲3発明の方法は、本件訂正発明1における「(但し、前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除く。)」という条件を、「(但し、前記イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除く。)」である限りにおいて満たしているといえる。 (オ)そうすると、本件訂正発明1と甲3発明との間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。 <一致点> 「有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒をイオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程を含み、 前記有機溶媒が、極性有機溶媒であり、 前記不純物カチオンが金属カチオンであり、 前記イオン交換体がキレート樹脂からなることを特徴とする有機溶媒の精製方法(但し、前記イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除く。)。」 <相違点3-1> キレート樹脂からなるイオン交換体が、 本件訂正発明1では、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂からなる」「第1イオン交換体」であるのに対し、 甲3発明では、「H型キレート交換樹脂である、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基又はイミノプロピオン酸基である官能基を有するH形キレート交換体(1a)」である点。 イ 相違点についての判断 上記相違点3-1について検討する。 (ア)甲3には、「H型キレート交換樹脂」として、「N-メチルグルカミン基」を有するキレート交換樹脂については何ら記載されていない。 (イ)ここで、上記3(1)イで説示したとおり、甲2には、溶剤を含む被精製物をキレート樹脂等の樹脂に通過させることで金属を除去する工程が記載されており、「キレート樹脂」として、多数の選択肢の一つとして「N-メチルグルカミン基」を有するキレート樹脂が例示されているものの、その具体例はなく(甲2b、甲2c)、また、上記「溶剤」は「有機溶剤」よりも「水」が好ましく、具体例も「水」しか開示されていない(甲2b、甲2c)。 (ウ)また、甲4には、メチルグルカミン基を有する樹脂が、合成浸出液(Synthetic leach liquor)に含まれるFe3+及びCu2+を吸着した旨が記載されているものの(甲4a、甲4b)、甲4の56頁「3.3.2 Synthetic leach liquor」の記載、及び甲4の114頁「4.3.2 Synthetic leach liquor」の記載を参酌すれば、上記合成浸出液は「水溶液」であり、「極性有機溶剤」は含まれていない。 (エ)さらに、甲5には、N-メチルグルカミン樹脂がGeを吸着する旨が記載されているものの(甲5a~甲5d)、吸着対象であるGeを含む溶液は「水溶液」であり、「極性有機溶剤」は含まれていない。 (オ)同様に、甲6には、N-メチルグルカミン樹脂がVイオンを吸着する旨が記載されているものの(甲6a~甲6d)、吸着対象であるVイオンを含む溶液は「水溶液」であって、「極性有機溶剤」は含まれていない(甲6b、甲6c)。 (カ)そうすると、上記(イ)~(オ)より、甲2~甲6には、N-メチルグルカミン樹脂が金属イオン溶液中の金属イオンを吸着する旨が記載されているといえるものの、その金属イオン溶液はあくまで「水溶液」であり、甲2~6の記載を考慮しても、「極性有機溶媒」中に含まれる金属イオンを、N-メチルグルカミン樹脂によって除去できることを、当業者が認識できるとはいえない。 (キ)また、甲1には、「N-メチルグルカミン樹脂」のみを用いた「金属吸着剤」として、「比較金属吸着剤4」が記載されており、「有機溶媒」中の金属イオンに対する「金属除去性能」を確認したことが記載されているが、その「金属除去性能」は「不良」であったと記載されており(甲1d)、上記第5の1(8)イで説示したように、甲1は、「キレート剤(A)」と「キレート剤(B)」の併用を特徴とするものであるから、「キレート剤(A)」である「N-メチルグルカミン樹脂」のみからなる「金属吸着剤」を用いることを動機付けるものではない。 (ク)そうすると、甲1~甲2及び甲4~6の記載を参照しても、「N-メチルグルカミン樹脂」によって、「極性有機溶媒」中の金属イオンを除去できるということが、本件特許の出願前に当業者に周知であったとはいえず、「有機溶媒の精製方法」である甲3発明において、金属除去性能の発揮を目指して、「キレート交換樹脂」として、「N-メチルグルカミン樹脂」を採用することに、動機付けがあるとはいえない。 (ケ)したがって、本件訂正発明1は、甲3発明、並びに、甲1~甲2及び甲4~甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件訂正発明2~7について 本件訂正発明2~7は、本件訂正発明1の特定事項を全て備え、さらに、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂の構造、不純物カチオンの種類、有機溶媒の種類、又は、第2イオン交換体を用いる態様を限定したものであるから、上記(1)で述べたのと同様の理由により、甲3発明、並びに、甲1~甲2及び甲4~甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件訂正発明8及び9について 本件訂正発明8及び9は、本件訂正発明1~7のいずれかの特定事項を全て備える有機溶媒の精製方法を用いる工程を含む、精製有機溶媒の製造方法の発明であるから、上記(1)で述べたのと同様の理由により、甲3発明、並びに、甲1~甲2及び甲4~甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件訂正発明10について 本件訂正発明10は、本件訂正発明1について、発明のカテゴリーを「有機溶媒の精製方法」から「有機溶媒の精製システム」に変えたものにすぎないから、上記(1)及び(3)で述べたのと同様の理由により、甲3発明、並びに、甲1~甲2及び甲4~甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件訂正発明11~13について 本件訂正発明11~13は、本件訂正発明10の特定事項を全て備え、さらに、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂の構造、又は、第2イオン交換体を用いる態様を限定した発明であるから、上記(1)~(3)で検討したのと同様の理由により、甲3発明、並びに、甲1~甲2及び甲4~甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)申立人の主張について 申立人は、申立書の73頁において、甲1~甲2及び甲4~6の記載を根拠として、 「有機溶媒等の溶媒中の不純物カチオン等の金属カチオンを除去することができる」ものとして広く周知の「N-メチルグルカミン基」」 と主張しているものの、上記(1)イで説示したとおり、甲1~甲2及び甲4~6の記載を参照しても、「N-メチルグルカミン樹脂」によって、「極性有機溶媒」中の金属イオンを除去できるということが、本件特許の出願前に当業者に周知であったとはいえない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (9)申立理由1-3(甲3を主引例とする進歩性欠如)についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正発明1~13は、甲3に記載された発明、並びに、甲1~甲2及び甲4~甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由1-3は理由がない。 5 申立理由3(明確性)について (1)判断 上記第3に摘記したとおり、本件訂正請求項1~9に記載の「有機溶媒の精製方法」においては、 「但し、前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を用いる態様を除く」 ことが特定されており、本件訂正請求項10~13に記載の「有機溶媒の精製システム」においては、 「但し、前記第1イオン交換体を具備する精製手段が、前記第1イオン交換体と、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂以外のイオン交換体との混床を有する精製手段である場合を除く」 ことが特定されている。 また、上記第2で説示したとおり、本件訂正により、本件訂正請求項6~9に記載の「有機溶媒の精製方法」においては、本件訂正前に処理の態様の一つとして含まれていた 「(C)前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体の混床に接触させる処理」 が削除され、本件訂正請求項13に記載の「有機溶媒の精製システム」においては、本件訂正前に精製手段の態様の一つとして含まれていた 「(C)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床を有する精製手段」 が削除されている。 そうすると、本件訂正により、本件訂正発明1~13から「混床」の態様が除かれることが明確になったため、本件訂正請求項1~13の記載が明確でないということはできない。 (2)申立理由3(明確性)についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正請求項1~13の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるから、申立理由3は理由がない。 第7 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び証拠、並びに、申立人の申し立てた特許異議申立理由及び証拠によっては、本件訂正請求項1~13に係る特許を取り消すことはできない。 また、そのほかに本件訂正請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-701181

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