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特許異議申立

2024-701164

水系の微生物汚染抑制方法

審判番号
2024-701164
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-569360
登録番号
7495017
請求日
2024年12月02日
審決日
2025年12月10日
公報発行日
2026年03月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】栗田工業株式会社
  • 【権利者代理人】重野 剛
  • 【権利者代理人】重野 隆之
  • 【異議申立人】黒崎 惇子
審判長/審判官
  • 審判長 深草 祐一
  • 審判官 田口 裕健
  • 審判官 原 賢一
分類
P1651.121-YAA(C02F) / P1651.537-YAA(C02F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7495017号発明「水系の微生物汚染抑制方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7495017号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。 特許第7495017号の請求項1~3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7495017号の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和4年12月15日(優先権主張 令和3年12月20日)を国際出願日とするものであり、令和6年5月27日にその特許権の設定登録がされ、同年6月4日に特許掲載公報が発行され、その後、同年12月2日に、その請求項1~3に係る特許を対象として特許異議申立人黒崎 惇子(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされたものである。以降の主な手続きは以下のとおりである。 令和7年 3月26日付け 取消理由通知 同年 5月20日 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者) 同年 5月30日 手続補正書(特許権者、同年同月20日に提出された訂正請求書を補正するもの) 同年 7月 3日 意見書の提出(異議申立人) 同年 8月22日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年10月 1日 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)(以下、この訂正を「本件訂正」という。) なお、令和7年5月20日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「先の訂正」ということがある。)は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 また、先の訂正後、異議申立人に意見書の提出の機会が与えられたこと、そして、本件訂正は、後記第2の1で述べるように、上記意見書で記載要件に関する主張で唯一不備があるとしていた「安定化臭素系酸化剤」を削除するものであると共に、他の訂正は、(水系における)「還元剤」、「塩素系酸化剤」及び「スルファミン酸化合物」を、それぞれ、「亜硫酸水素イオン」、「次亜塩素酸及び/又はその塩」及び「スルファミン酸又はスルファミン酸塩」に限定的に相当程度減縮するものであり、特許異議申立書における取消理由、上記意見書で主張している理由以外で、上述の訂正に付随して何らかの本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すべきとする理由が生じる余地あるとはいえないこと、本特許異議申立事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても、上記「結論」にあるように、特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断したことから、本件訂正後には、異議申立人に意見書の提出の機会を与えていない。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 本件訂正は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「還元剤が添加され、還元剤を含有する水系に」とあるのを、「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質が添加され、亜硫酸水素イオンを含有する水系に」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項2、3も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化臭素系酸化剤」とあるのを、「次亜塩素酸及び/又はその塩とスルファミン酸又はスルファミン酸塩とからなり、該次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項2、3も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に「前記水系の還元剤濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり、該水系の該還元剤濃度に対する該安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」とあるのを、「前記水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり、該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項2、3も同様に訂正する。) (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項3に「前記還元剤が重亜硫酸ナトリウムである」とあるのを、「前記水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質が重亜硫酸ナトリウムである」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、水系に添加する「還元剤」を「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質」とし、水系に実際含有されている「還元剤」を「亜硫酸水素イオン」とするものである。 そして、水系に添加する「還元剤」として、本件明細書の【0026】に、「水系に含まれる還元剤としては、重亜硫酸ナトリウム(SBS)が代表的であるが、その他チオ硫酸ナトリウム等であってもよい。」との記載がある。 ここで、重亜硫酸ナトリウム(SBS)は、「NaHSO3」で表されるものであり、「亜硫酸水素ナトリウム」と同義である。 当審で引用する例えば、特開2016-179457号公報、特開2014-128802号公報、及び特開2013-206727号公報には、以下の記載がある。 ・特開2016-179457号公報 「【0059】 水処理システム1によって処理して得られた透過水(処理水)における、ホルムアルデヒド(HCHO)及び亜硫酸水素ナトリウム(SBS)の含有量をGC/MSで測定した。測定結果を表1に示す。なお、透過水は、ホルムアルデヒド濃度が0.08mg/L以下(水道水質基準)、SBS濃度が1.5mg/L以下である場合にレトルト装置の冷却水等として再利用可能と判断できる。溶液中において、SBSは亜硫酸水素イオンとして存在するが、濃度はナトリウム塩の濃度として表した。 また、図4は、第1薬注からの経過時間と生成したホルムアルデヒドの濃度との関係を示したグラフである。」 「【0069】 本願発明者らの研究によれば、残留塩素と亜硫酸水素イオンの酸化還元反応は、亜硫酸水素イオンとホルムアルデヒドの付加反応に比べて非常に早く進行することが判明している。そのため、残留塩素の存在は、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンの生成を阻害する方向に作用すると推察している。」 ・特開2014-128802号公報 「【0023】 亜硫酸水素イオン源化合物としては、水に溶解して亜硫酸水素イオンを生成するものであれば特に限定されず、例えば、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩、及び亜硫酸が挙げられる。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。上記で例示した亜硫酸水素イオン源化合物及びこれらの亜硫酸水素イオン源化合物とホルムアルデヒドとの反応生成物は、還元剤であるが、その還元作用は温和なので、RO膜等の除去手段への悪影響は小さい。また、上記で例示した亜硫酸水素イオン源化合物は、毒性が低く、食品添加物としても使用することができるものであることから、本発明により得られる処理水にこれらの亜硫酸水素イオン源化合物が残存していても、その処理水を飲用又は食品加工用に安全に用いることができる。中でも、ホルムアルデヒドとの反応に用いる際に、低濃度であってもよく、また、pHを特に調整しなくてもよい点で、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等の亜硫酸水素塩が好ましい。亜硫酸水素イオン源化合物は、1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。」 「【0038】 亜硫酸水素イオンとホルムアルデヒドとのモル比(亜硫酸水素イオン/ホルムアルデヒド)は、通常、1以上であればよい。なお、上記モル比を算出する場合、亜硫酸水素イオンのモル数から、原水W1中に含まれる次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤のモル数を差し引いておく必要がある。亜硫酸水素イオンは、還元剤として作用するため、原水W1中に含まれる酸化剤と反応して失われてしまう。亜硫酸水素イオンのモル数から、原水W1中に含まれる酸化剤のモル数を差し引いておくことにより、亜硫酸水素イオンとホルムアルデヒドとの有効モル比を算出することができる。」 「【0073】 また、実施例1及び2より、亜硫酸水素ナトリウムとホルムアルデヒドとの反応は、常温でも60℃でも、30分という短時間で進行することが確認できた。これに対し、還元剤として亜硫酸水素ナトリウムの代わりにチオ硫酸ナトリウムを用いた比較例2では、620nmにおけるピークの高さが比較例1のものと同じであり、ホルムアルデヒドとチオ硫酸ナトリウムとは全く反応しなかったことが分かる。亜硫酸水素ナトリウムは亜硫酸水素イオンを生成するのに対し、チオ硫酸ナトリウムは亜硫酸水素イオンを生成しない。よって、ホルムアルデヒドは、亜硫酸水素イオンとの反応によりヒドロキシメタンスルホン酸イオンに転換し、原水から消失したことが分かる。」 ・特開2013-206727号公報 「【0018】 還元性硫黄化合物としては、亜ジチオン酸イオン(S2O42-)、亜硫酸イオン(SO32-)、亜硫酸水素イオン(HSO3-)又はチオグリコール酸イオン(C2H3SO2-)を含有する化合物が挙げられる。具体的には、例えば、亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)、亜ジチオン酸カリウム、亜ジチオン酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カルシウム、チオグリコール酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、亜ジチオン酸イオンを含有する化合物が好ましく、亜ジチオン酸ナトリウムがより好ましい。水分散液中の還元性硫黄化合物の含有量は、多量に添加するとオリビン型シリケート化合物の生成を抑制してしまうため、遷移金属に対してモル比で0.001~1が好ましく、0.1~0.8がさらに好ましい。」 これらの記載について、重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム)、亜硫酸水素イオンに関する記載をまとめると、特開2016-179457号公報には、溶液中において、亜硫酸水素ナトリウム(SBS)は亜硫酸水素イオンとして存在すること(【0059】)、亜硫酸水素イオンは、残留塩素と酸化還元反応を行うものであること(【0069】)が記載され、特開2014-128802号公報には、水に溶解して亜硫酸水素イオンを生成するものとして亜硫酸水素ナトリウムがあること(【0023】、【0073】)、亜硫酸水素イオンは、還元剤として作用すること(【0038】)、特開2013-206727号公報には、還元性硫黄化合物としては、亜硫酸水素イオン(HSO3-)を含有する化合物が挙げられ、具体的には、例えば、亜硫酸ナトリウムが挙げられること(【0018】)が記載されているといえる。 以上の記載によれば、水系に添加する「還元剤」として、本件明細書の【0026】に記載される「重亜硫酸ナトリウム(SBS)」(亜硫酸水素ナトリウム)は、「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質」であるし、水に溶解することで生じた「亜硫酸水素イオン」は「還元剤」であることは、技術常識であるといえる。 そうすると、上記訂正事項1は、同【0026】等に、水系に添加する「還元剤」として、重亜硫酸ナトリウム(SBS)が記載されていることに基づいて、水系に添加する「還元剤」を「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質」に、水系に実際含有されている「還元剤」を「亜硫酸水素イオン」にそれぞれ、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件明細書の【0030】の「安定化塩素系酸化剤で用いる塩素系酸化剤に特に制限はなく、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸又はその塩・・・などを挙げることができる。これらのうち、塩形のものの具体例としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムなどの次亜塩素酸アルカリ金属塩;次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウムなどの次亜塩素酸アルカリ土類金属塩・・・などを挙げることができる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの中で、次亜塩素酸塩は取り扱いが容易なので、好適に用いることができる。」との記載によれば、塩素系酸化剤としては、次亜塩素酸又はその塩である場合、さらには、塩素系酸化剤は、2種以上を組み合わせて用いても良いのであるから、次亜塩素酸及びその塩である場合があることに基づいて、「塩素系酸化剤」(二箇所)を、塩素系酸化剤に含まれる「次亜塩素酸及び/又はその塩」に限定するものである。 また、訂正事項2は、同【0035】の「このようなスルファミン酸化合物としては、例えば、R1とR2がともに水素原子であるスルファミン酸のほかに、N-メチルスルファミン酸、N,N-ジメチルスルファミン酸、N-フェニルスルファミン酸などを挙げることができる。本発明に用いるスルファミン酸化合物のうち、前記化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩などの他の金属塩;アンモニウム塩;及びグアニジン塩などを挙げることができ、具体的には、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸カルシウム、スルファミン酸ストロンチウム、スルファミン酸バリウム、スルファミン酸鉄、スルファミン酸亜鉛などを挙げることができる。スルファミン酸及びこれらのスルファミン酸塩は、1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。」等の記載に基づき、「スルファミン酸化合物」(二箇所)を、スルファミン酸化合物に含まれる「スルファミン酸又はスルファミン酸塩」に限定するものである。 さらに、訂正事項2は、「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化臭素系酸化剤」との選択肢から、「安定化臭素系酸化剤」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、水系に実際含有されている「還元剤」を「亜硫酸水素イオン」にするものであるところ、この訂正は、上記(1)の「訂正事項1について」で述べたのと同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項3は、訂正事項2によって、「安定化臭素系酸化剤」が削除されたことに伴って、これに整合させるため「該水系の該還元剤濃度に対する該安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度」の選択肢から、「安定化臭素系酸化剤」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正事項1によって、水系に添加する「還元剤」が「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質」に限定されたことに伴って、これに整合させるため請求項3の「還元剤」を、同じく「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記(1)で述べたように願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~3〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~3に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。なお、「本件発明」については、本件訂正前のものに対しても区別せずに用いることがある。)は、次のとおり特定されるものである。 「【請求項1】 水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質が添加され、亜硫酸水素イオンを含有する水系に、次亜塩素酸及び/又はその塩とスルファミン酸又はスルファミン酸塩とからなり、該次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤を添加して、該水系における微生物汚染を抑制する方法において、 前記水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり、 該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加することを特徴とする水系の微生物汚染抑制方法。 【請求項2】 前記水系が逆浸透膜給水系であることを特徴とする請求項1に記載の水系の微生物汚染抑制方法。 【請求項3】 前記水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質が重亜硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水系の微生物汚染抑制方法。」 第4 令和7年8月22日付けで通知した取消理由(決定の予告)、同年3月26日付けで通知した取消理由、及び異議申立人による特許異議の申立理由の概要 1 令和7年8月22日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要 ・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反) 本件特許は、先の訂正後の請求項1~3の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由1」とする。)。 2 令和7年3月26日付けで通知した取消理由の概要 (1)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如) 設定登録時の請求項1~3に係る発明は、下記4に記載の甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由2」という。)。 (2)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反) 設定登録時の請求項1~3に係る特許は、請求項1~3の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由3」という。)。 (3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反) 設定登録時の請求項1~3に係る特許は、請求項1~3の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由4」という。)。 3 異議申立人による特許異議の申立理由の概要 (1)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由1」という。) ア 設定登録時の請求項1~3に係る発明は、下記4に記載の甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4、6~9号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1-1」という。)。 イ 設定登録時の請求項1~3に係る発明は、下記4に記載の甲第2号証に記載された発明及び甲第1、4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1-2」という。)。 ウ 設定登録時の請求項1~3に係る発明は、下記4に記載の甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1-3」という。)。 (2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反) 設定登録時の請求項1~3に係る特許は、請求項1~3の記載が後記第5の1(1)イ(ア)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由2」という。下記4に記載の甲第2、5、9、10号証を引用している。)。 (3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反) 設定登録時の請求項1~3に係る特許は、請求項1~3の記載が後記第5の1(2)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由3」という。)。 4 提出された証拠 甲第1号証:特許第5967337号公報 甲第2号証:特開2016-221500号公報 甲第3号証:国際公開第2019/031430号 甲第4号証:特開2019-122943号公報 甲第5号証:特開2015-62889号公報 甲第6号証:特開2004-33800号公報 甲第7号証:特開2006-263510号公報 甲第8号証:国際公開第2011/125762号 甲第9号証:国際公開第2016/135916号 甲第10号証:特表平11-506139号公報 (以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。) 第5 当審の判断 当審は、上記取消理由1~4及び申立理由1~3のいずれにも理由がないと判断する。 以下、その理由について詳述する。 1 記載不備に関する取消理由1、3、4、申立理由2、3(サポート要件違反、明確性要件違反)について (1)サポート要件違反に関する取消理由1、4、申立理由2について ア 取消理由1、4について 上記第2の1で述べたように、本件訂正によって、特許請求の範囲が訂正されたので、訂正された特許請求の範囲の記載に基づいて改めてサポート要件の判断を行う。 (ア)サポート要件判断の規範と本件発明の課題 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。 本件発明の課題について検討すると、逆浸透(RO)膜の給水系等において、「塩素系酸化剤を水処理装置の上流側で添加し、RO膜装置の入口側で、重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の還元剤を添加して残留する遊離塩素を還元除去し、この還元剤添加後は、還元剤の添加点からRO膜装置の入口までの配管やRO膜面での微生物汚染を抑制するために、クロラミンやクロロスルファミン酸ナトリウムといった安定化塩素系酸化剤や安定化臭素系酸化剤、又はイソチアゾロン系化合物などの微生物増殖を抑制するスライムコントロール剤を添加することが知られてい」(【0005】)たところ、「安定化塩素系酸化剤や安定化臭素系酸化剤は、微生物汚染を抑制できることから幅広く用いられてきた」が「その抑制効果が現れやすい水系と現れにくい水系があった」(【0006】)との問題を受け、【発明が解決しようとする課題】の項目に続く、【0010】には、「本発明は、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤が添加され、残留還元剤を含む水系において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物からなる安定化臭素系酸化剤の添加による微生物汚染の抑制効果を安定かつ効果的に得ることができる水系の微生物汚染抑制方法を提供することを課題とする。」と記載されている。 ここで、上記第2の1(2)及び(3)で述べた訂正事項2及び訂正事項3で、訂正前の請求項1に係る発明から、「臭素系酸化剤とスルファミン酸又はスルファミン酸塩とからなる安定化臭素系酸化剤」が削除されたことも考慮すると、本件発明の課題は、「重亜硫酸ナトリウム等の還元剤が添加され、残留還元剤を含む水系において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化塩素系酸化剤の添加による微生物汚染の抑制効果を安定かつ効果的に得ることができる水系の微生物汚染抑制方法を提供すること」であるといえる。 (イ)本件発明の課題に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載 a 本件明細書における記載事項 上記(ア)の発明の課題を解決するための手段として、本件明細書の【0011】には、「スルファミン酸比率(塩素系酸化剤の有効塩素量及び/又は臭素系酸化剤の有効塩素換算量に対するスルファミン酸化合物の割合)の低い安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を添加すること」、同【0013】には、「還元剤を含有する水系における微生物汚染を抑制する方法において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該塩素系酸化剤の有効塩素1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化臭素系酸化剤を、該水系の該還元剤濃度に対する該安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5倍以上となるように該水系に添加すること」が記載されている。 ここで、本件発明の基礎となる<メカニズム>として、同【0022】には、「水系に含まれる還元剤が安定化塩素系酸化剤や安定化臭素系酸化剤の微生物汚染抑制効果に影響を与えて」いること、同【0023】には、「水中の重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の還元剤は後段で添加される安定化塩素系酸化剤及び安定化臭素系酸化剤をも還元」し、「この反応により、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化臭素系酸化剤は、スルファミン酸を放出する」ため、「残留還元剤濃度が高いほど、系内での有効塩素に対するスルファミン酸の比率は高くな」り、「スルファミン酸の比率が高くなると平衡関係から、成分としての反応性は下がる」こと、これに対し、同【0024】には、「スルファミン酸比率の低い安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を用いることにより、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤に還元されてもなお微生物汚染効抑制果を保つことができる」ことが記載されている。 そして、同【0026】には、「水系に含まれる還元剤としては、重亜硫酸ナトリウム(SBS)が代表的であるが、その他チオ硫酸ナトリウム等であってもよい。」こと、同【0027】には、「この残留還元剤を含む水系中の還元剤濃度は、0.01mg/L-Cl2以上であることが、本発明による効果を有効に得る上で好ましく、」「一方、還元剤濃度が過度に高いと後段で添加される安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤がその分還元され、必要添加量が高くなり処理コスト増をまねく。このため、処理対象水系の還元剤濃度は5mg/L-Cl2以下」「であることが好ましい。」ことが記載されている。 また、同【0029】には、「用いる安定化塩素系酸化剤は、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなるものであ」ること、同【0030】には、「安定化塩素系酸化剤で用いる塩素系酸化剤に特に制限はなく、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、塩素化イソシアヌル酸又はその塩などを挙げることができる。これらのうち、塩形のものの具体例としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムなどの次亜塩素酸アルカリ金属塩;次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウムなどの次亜塩素酸アルカリ土類金属塩;亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムなどの亜塩素酸アルカリ金属塩;亜塩素酸バリウムなどの亜塩素酸アルカリ土類金属塩;亜塩素酸ニッケルなどの他の亜塩素酸金属塩;塩素酸アンモニウム;塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウムなどの塩素酸アルカリ金属塩;塩素酸カルシウム、塩素酸バリウムなどの塩素酸アルカリ土類金属塩などを挙げることができる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの中で、次亜塩素酸塩は取り扱いが容易なので、好適に用いることができる。」こと、同【0032】~【0035】には、「スルファミン酸化合物としては、下記一般式[1]で表される化合物又はその塩が挙げられ」 [図:0001433069000001.jpg] 「一般式[1]において、R1及びR2は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基であ」り、「例えば、R1とR2がともに水素原子であるスルファミン酸のほかに、N-メチルスルファミン酸、N,N-ジメチルスルファミン酸、N-フェニルスルファミン酸などを挙げることができる」こと、「スルファミン酸化合物のうち、前記化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩などの他の金属塩;アンモニウム塩;及びグアニジン塩などを挙げることができ」ること、「スルファミン酸及びこれらのスルファミン酸塩は、1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる」こと(【0035】)が記載され、同【0037】には、「塩素系酸化剤及び/又は臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との割合としては、」「スルファミン酸比率の低い安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を用いる本発明では、スルファミン酸比率が1~1.5モル、好ましくは1~1.4モルの安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を用い」「この場合、スルファミン酸比率が1.5モルを超えると本発明による微生物汚染抑制効果を十分に得ることができ」ず、「スルファミン酸比率が1モル未満であると製造時にスルファミン酸の分解を招く」ことが記載されている。 さらに、同【0040】には、「安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加量」として、「安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤は、水系の還元剤濃度に対する安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5倍以上となるように添加」し、「安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加量が上記下限以上であれば良好な微生物汚染抑制効果を得ることができ」、「安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加量は多い程微生物汚染抑制効果の面では好ましいが、一方で薬品コストが嵩む」「ため、安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加量は水系の還元剤濃度に対してモル比で2.5~10倍、特に2.5~5倍となるように添加することが好ましい」ことが記載されている。 そして、同【0041】~【0053】に記載される【実施例】には、以下の同【0043】の【表1】に記載されるように、 [図:0001433069000002.jpg] 塩素系酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウム、スルファミン酸化合物としてのスルファミン酸とからなり、該塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1.2モルである薬品1と、2.2モルである薬品2を、常時添加量が0.6mg/L-Cl2となるように原水に添加し、通水1.5日目からは、上記被処理水に、被処理水中の還元剤濃度が0.1mg/L-Cl2となるように更に重亜硫酸ナトリウム(SBS)を添加したものを用い(安定化塩素系酸化剤/SBSモル比=6倍)、実施例1では薬品1を、比較例1では薬品2を用い(【0046】)、安定化塩素系酸化剤のスルファミン酸比率(H3NSO3/Cl2モル比)による微生物汚染の抑制効果の差異を調べる実験を行い、微生物汚染抑制効果は、非特許文献1にある膜ファウリングシミュレータを用い、差圧(流路における圧力損失)上昇の程度に基づいて評価したところ(【0044】)、両条件とも重亜硫酸ナトリウムが添加されるまでは差圧上昇を抑制できていたが、重亜硫酸ナトリウムを添加した後の挙動として、比較例1では差圧上昇を抑えられていないのに対して、実施例1では効果的に差圧を抑制でき、スルファミン酸比率が高い薬品2は、重亜硫酸ナトリウムの添加により微生物汚染の抑制効果を失いやすいのに対して、スルファミン酸比率が低い薬品1は、重亜硫酸ナトリウムの添加があっても微生物汚染の抑制効果を維持しやすいことが記載されている(【0047】)。 また、[試験例1]として、表2に示されるように、サンプル水中で種々濃度の重亜硫酸ナトリウム(SBS)と混合した薬品1を2時間曝露して、微生物量を示す指標である水中のATP(アデノシン三リン酸)の変化を観察したところ(【0048】)、その結果が表3に示され、 【0049】【表2】 [図:0001433069000003.jpg] 【0050】【表3】 [図:0001433069000004.jpg] 条件1と条件2では効果的にATP濃度を下げられているのに対して、条件3と条件4ではATPの減少幅が小さく、条件3のSBS量に対しては微生物汚染の抑制効果が低いが、条件2であればSBSが添加されていたとしても十分な微生物汚染の抑制効果があり、還元剤に対する安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5倍以上であることが微生物汚染の抑制効果において好ましいことが記載されている(【0051】)。 さらに、[試験例2]では、種々濃度の重亜硫酸ナトリウム(SBS)と混合した薬品1の酸化還元電位(ORP)を観察したところ(【0052】)、表4に示されるように、 【0053】【表4】 [図:0001433069000005.jpg] SBSに対する薬品1の塩素換算添加量のモル比が2.5倍以上であれば、十分な酸化ポテンシャルを有し、有効に微生物汚染を抑えることができることが記載されている(【0053】)。 b 本件明細書の記載事項に対する検討 上記(ア)の発明の課題に対して、それを解決するための手段として、上記【0013】に、還元剤を含有する水系における微生物汚染を抑制する方法において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該塩素系酸化剤の有効塩素1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤を、該水系の該還元剤濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5倍以上となるように該水系に添加する水系の微生物汚染抑制方法が記載されている。 ここで、この方法は、上記【0022】~【0024】に記載される、水系に含まれる還元剤が安定化塩素系酸化剤の微生物汚染抑制効果に影響を与えていること、すなわち、水中の重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の還元剤は後段で添加される安定化塩素系酸化剤をも還元し、この反応により、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化塩素系酸化剤は、スルファミン酸を放出することから、残留還元剤濃度が高いほど、系内での有効塩素に対するスルファミン酸の比率は高くなり、スルファミン酸の比率が高くなると平衡関係から、成分としての反応性は下がるため、スルファミン酸比率の低い安定化塩素系酸化剤を用いることにより、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤に還元されてもなお微生物汚染効抑制果を保つことができる、という作用機序を前提とするものである。 この作用機序によれば、還元剤や酸化対象物が反応するのは、安定化塩素系酸化剤において、スルファミン酸等と平衡関係にある遊離塩素等であるといえることから、実際に、安定化塩素系酸化剤が、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤に還元されてもなお微生物汚染効抑制果を保つことができるか否かは、遊離塩素(塩素系酸化剤)とスルファミン酸等との間の平衡関係や遊離塩素(塩素系酸化剤)、還元剤の反応性によるといえる。 そして、この平衡関係及び反応性は、塩素系酸化剤、臭素系酸化剤、還元剤の種類によって、様々であるところ、上記【0041】~【0053】に記載される【実施例】では、水系に加える還元剤として、「重亜硫酸ナトリウム」、安定化塩素系酸化剤として、塩素系酸化剤が「次亜塩素酸塩(ナトリウム)」、スルファミン酸化合物が「スルファミン酸」からなるものの組み合わせが記載されている。ここで、「重亜硫酸ナトリウム」は、上記第2の2(1)で述べたように、「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質」であって、水に溶解することで生じた「亜硫酸水素イオン」が「還元剤」となるものである。また、「次亜塩素酸塩」については、上記aに記載した【0030】の「安定化塩素系酸化剤で用いる塩素系酸化剤に特に制限はなく、例えば・・・次亜塩素酸又はその塩・・・などを挙げることができる。・・・これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。」との記載や技術常識から、「次亜塩素酸」も同列のものとして理解できる。また、「スルファミン酸」については、上記aに記載した【0035】の「スルファミン酸及びこれらのスルファミン酸塩は、1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる」との記載や技術常識から、「スルファミン酸塩」も同列のものとして理解できる。 以上によれば、これらの組み合わせを用いた場合に上記実施例で導かれた「塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合」(1~1.5モル)、「水系の還元剤濃度」(0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下)、「水系の還元剤濃度に対する安定化塩素系酸化剤の添加濃度のモル比」(2.5倍~)との条件のもとで、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤に還元されてもなお、安定化塩素系酸化剤が微生物汚染効抑制果を保つことができること、すなわち、上記(ア)の発明の課題を解決することができることを理解できる。 そして、上述のように、この作用を発揮するには、遊離塩素(塩素系酸化剤)等とスルファミン酸等との間の平衡関係や遊離塩素(塩素系酸化剤)等、還元剤の反応性が重要であるから、上記【0013】にあるように、単に、還元剤、塩素系酸化剤、スルファミン酸化合物、安定化塩素系酸化剤というだけでは、平衡関係も様々となり、また、塩素系酸化剤の反応性も様々であるから、上述の条件のもとで、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤に還元されてもなお、安定化塩素系酸化剤等が微生物汚染効抑制果を保つことができるとはいえないし、このようなことがいえる技術常識が存在するとはいえない。 そうすると、上記(ア)の発明の課題を解決するには、「水系の微生物汚染抑制方法」において、水系内における還元剤が「亜硫酸水素イオン」であること、安定化塩素系酸化剤が、塩素系酸化剤である「次亜塩素酸及び/又はその塩」、スルファミン酸化合物である「スルファミン酸又はスルファミン酸塩」からなるものであることが肝要であるといえ、これ以外の場合に、塩素系酸化剤の有効塩素1モルに対するスルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルであり、水系の還元剤濃度に対する安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5倍以上であり、さらには、残留還元剤を含む水系中の還元剤濃度が0.01mg/L-Cl2以上である場合に、上記(ア)の発明の課題を解決することができると理解することはできない。 (ウ)特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比 上記(イ)bで述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと、上記(ア)の発明の課題を解決するには、水系の微生物汚染抑制方法において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化塩素系酸化剤において、「該塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである」こと、「水系の還元剤濃度が0.01mg/L-Cl2以上」であること、水系の該還元剤濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5倍以上となるようにすることに加え、水系内における還元剤が「亜硫酸水素イオン」であること、安定化塩素系酸化剤が、塩素系酸化剤である「次亜塩素酸及び/又はその塩」、スルファミン酸化合物である「スルファミン酸又はスルファミン酸塩」からなるものであることが肝要であるといえる。 これに対し、上記第3に記載される本件発明(本件発明1)には、上記の構成が全て特定されている。 そうすると、本件発明(本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の特定事項を全て含む本件発明2、3)は、上記(ア)の発明の課題を解決するのに必要な構成を有していることになるから、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 (エ) まとめ 上記(ウ)について、上記(ア)のサポート要件判断の規範への当てはめを行うと、本件発明(本件発明1~3)は、サポート要件を満たしているから、取消理由1、4には、理由がない。 イ 申立理由2について 上記アで述べたとおり、本件発明は、サポート要件を満たすのであるから、申立理由2には、理由があるとはいえないが、念のため、以下判断を行う。 (ア)申立理由2の概要 a 「還元剤」について 設定登録時の請求項1には、「還元剤」との記載があり、具体的な「還元剤」の種類については何ら特定されていないが、本件明細書において具体的に実験結果をもって開示されている還元剤は、「重亜硫酸ナトリウム」のみである。 還元剤は、その種類によって、化学的性質(還元力)が異なるため、本件明細書の実施例における「重亜硫酸ナトリウム」による実験結果のみをもって、「還元剤」を特定しない本件発明1、2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。 b 「安定化臭素系酸化剤」について 設定登録時の請求項1には、「安定化塩素系酸化剤」と「安定化臭素系酸化剤」とが並列的に記載されている。 しかしながら、本件明細書において水系の微生物汚染の抑制に関する具体的な実験結果をもって開示されているのは「安定化塩素系酸化剤」のみであり、「安定化臭素系酸化剤」による実験結果は何ら開示されていない。 「安定化塩素系酸化剤」と「安定化臭素系酸化剤」は、同じハロゲン系の酸化剤とはいえ、その化学的性質(酸化力、殺菌力など)は大きく異なるものであるから、「安定化塩素系酸化剤」の実験結果のみをもって、本件発明1~3の「安定化臭素系酸化剤」にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。 c 「安定化塩素系酸化剤」と「安定化臭素系酸化剤」における塩素系酸化剤または臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対するスルファミン酸化合物のモル比について 設定登録時の請求項1には、「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化臭素系酸化剤を添加して、該水系における微生物汚染を抑制する方法において」と記載されている。 しかしながら、本件明細書において水系の微生物汚染の抑制に関する具体的な実験結果をもって開示されているのは、本件発明1に規定された水系の微生物汚染抑制方法として、還元剤として重亜硫酸ナトリウムを還元剤濃度が0.1mg/L-Cl2となるように添加し、酸化剤として「安定化塩素系酸化剤」における塩素系酸化剤として「次亜塩素酸ナトリウム」の有効塩素換算量1モルに対するスルファミン酸化合物として「スルファミン酸」のモル比が『1.2』(実施例1)と『2.2』(比較例1)とした例のみであり、「安定化塩素系酸化剤」における塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対するスルファミン酸化合物のモル比が「1~1.2モル未満」および「1.2超~1.5モル」において「微生物汚染の抑制効果(差圧(流路における圧力損失)の上昇の程度に基づく評価)」が得られるかは不明である。 実際、本件明細書の[図1]からわかる通り、上記モル比が「2.2」(比較例1)で大幅に差圧が上昇してしまっているため、「1.2超~1.5モル」で本当に差圧の上昇抑制効果(微生物汚染抑制効果)が得られるのか疑問であり、また「1.5」を境に差圧の上昇抑制効果が得られなくなるのかも疑問である。 また、「安定化臭素系酸化剤」に関しては「微生物汚染の抑制効果(流路における圧力損失)」について何らの実験も行っていないため、「安定化臭素系酸化剤」に関して「1~1.5モル」の範囲で差圧上昇抑制効果(微生物汚染抑制効果)が得られるのかさえも不明である。 したがって、「『安定化塩素系酸化剤』における塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対するスルファミン酸化合物のモル比『1.2』」の実施例のみをもって、「「安定化塩素系酸化剤」および『安定化臭素系酸化剤』における塩素系酸化剤または臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対するスルファミン酸化合物のモル比『1~1.5』」によって、差圧上昇抑制効果(微生物汚染抑制効果)が得られるとは認めることはできない。 このように、本件特許の出願時の技術常識に照らしても、「『安定化塩素系酸化剤』および『安定化臭素系酸化剤』における塩素系酸化剤または臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対するスルファミン酸化合物のモル比『1~1.5』」である本件発明1~3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 d 「水系の還元剤濃度」について 設定登録時の請求項1には「前記水系の還元剤濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり」と記載されている。 しかしながら、本件明細書において水系の微生物汚染の抑制に関する具体的な実験結果をもって開示されているのは、本件発明1に規定された水系の微生物汚染抑制方法として、還元剤として重亜硫酸ナトリウムを還元剤濃度が「0.1mg/L-Cl2」となるように添加し、酸化剤として安定化塩素系酸化剤における塩素系酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素換算星1モルに対するスルファミン酸化合物としてスルファミン酸のモル比が1.2(実施例1)と2.2(比較例1)とした例のみであり、水系の還元剤濃度が「0.01mg/L-Cl2以上、0.1mg/L-Cl2未満」および「0.1mg/L-Cl2超、5mg/L-Cl2以下」において「微生物汚染の抑制効果(差圧(流路における圧力損失)の上昇の程度に基づく評価)」が得られるかは不明である。 したがって、「水系の還元剤濃度が「0.1mg/L-Cl2」の実施例のみをもって、「水系の還元剤濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下」とすることによって差圧上昇抑制効果(微生物汚染抑制効果)が得られるとは認めることはできない。 このように、「水系の還元剤濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下」である本件発明1~3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 e 「水系の還元剤濃度に対する安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度」について 設定登録時の請求項1には「該水系の該還元剤濃度に対する該安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」と記載されている。 一方、本件明細書の【0040】には「スルファミン酸比率の低い安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を添加する本発明では、安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤は、水系の還元剤濃度に対する安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5倍以上となるように添加する。安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加量が上記下限以上であれば良好な微生物汚染抑制効果を得ることができる。」と記載されている。 しかしながら、本件明細書において水系の微生物汚染の抑制に関する具体的な実験結果をもって開示されているのは、本件発明1に規定された水系の微生物汚染抑制方法として、「1.8倍」と「3倍」(本件明細書の【0049】【表2】)、「2.9倍」と「2.2倍」(本件明細書の段落【0053】【表4】)の比較の記載はあるが、「2.5倍以上」で良好な微生物汚染抑制効果が得られることは確認できない。 したがって、これらの実施例のみをもって、「水系の還元剤濃度に対する安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」ことによって、良好な微生物汚染抑制効果が得られるとは認めることはできない。 そもそも、本件明細書では、このモル比が「2.5倍」での実験データは具体的に開示されておらず、「2.5倍」が臨界的意義を有さないことはもちろんのこと、「2.5倍」で本件発明1の効果を奏するかさえも定かではない。 加えて、本件明細書においては、「安定化臭素系酸化剤」に関する実験データは何ら一つも開示されていないことから、そもそも「安定化臭素系酸化剤」が、数値範囲のすべての範囲内において本件発明1の効果を奏するかさえも定かではない。 このように、本件特許の出願時の技術常識に照らしても、「水系の還元剤濃度に対する安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」という本件発明1~3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (イ)申立理由2に対する当審の判断 a 上記(ア)aについて 上記第2の1(1)における訂正事項1により、「還元剤」は、「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質」と訂正された。そして、実施例において実際に還元剤として作用しているのは、水中における「亜硫酸水素イオン」であるから、本件発明で特定される還元剤は、実施例の還元剤に対応するものである。 そうすると、上記(ア)aの点には、理由がない。 b 上記(ア)b及びcについて まず、「安定化臭素系酸化剤」は、上記第2の1(2)及び(3)における訂正事項2及び3により削除されているので、この点に関する理由はない。 本件明細書の【0023】の「水中の重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の還元剤は後段で添加される安定化塩素系酸化剤及び安定化臭素系酸化剤をも還元する。この反応により、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化臭素系酸化剤は、スルファミン酸を放出する。この反応において、残留還元剤濃度が高いほど、系内での有効塩素に対するスルファミン酸の比率は高くなる。スルファミン酸の比率が高くなると平衡関係から、成分としての反応性は下がる。」との記載によれば、安定化塩素系酸化剤におけるスルファミン酸の比率が低くなるほど平衡関係から、成分としての反応性は上がることが理解できる。 そして、「スルファミン酸」のモル比が1.2の場合(実施例1)に、微生物汚染の抑制効果(差圧(流路における圧力損失)の上昇の程度に基づく評価)で、効果的に差圧を抑制することができるのに対し、モル比が2.2の場合(比較例1)に、差圧上昇を抑えることができないことが本件明細書(【0047】)に示されていることから、上述の安定化塩素系酸化剤におけるスルファミン酸の比率と成分としての反応性の関係を考慮すれば、モル比が2.2の場合(比較例1)よりも、モル比が小さければ、少なくとも比較例1の場合よりは、微生物汚染の抑制効果が向上することが理解できる。 ここで、上述の安定化塩素系酸化剤におけるスルファミン酸の比率と成分としての反応性の関係では、スルファミン酸の比率の変化に応じて成分としての反応性が変化していき、特にある値を境に、臨界的に反応性が変化するものではないことが理解できるから、比較例2におけるスルファミン酸の比率である2.2よりは小さく、良好な微生物汚染の抑制効果が得られている実施例1におけるスルファミン酸の比率である1.2に近接する1.5以下であれば、実施例1ほどの良好な微生物汚染の抑制効果には及ばない可能性はあるものの、それでも十分な微生物汚染の抑制効果が得られることが理解できる。また、スルファミン酸の比率が1.2未満の「1~1.2モル未満」の場合についても、安定化塩素系酸化剤におけるスルファミン酸の比率が低くなるほど平衡関係から、成分としての反応性は上がることを考慮すれば、十分な微生物汚染の抑制効果が得られることが理解できる。 そうすると、「安定化塩素系酸化剤」における塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対するスルファミン酸化合物のモル比が「1~1.5」である本件発明1~3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない、ということはない。 よって、上記(ア)b及びcの点には、理由がない。 c 上記(ア)d及びeについて 上記(ア)dにおける「前記水系の還元剤濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり」との条件と、上記(ア)eにおける「該水系の該還元剤濃度に対する該安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」との条件は関連するものであるから、まとめて判断する。 まず、「安定化臭素系酸化剤」は、上記第2の1(2)及び(3)における訂正事項2及び3により削除されているので、この点に関する理由はない。 つぎに、「水系の還元剤濃度」であるが、本件発明は、本件明細書の【0023】の「水中の重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の還元剤は後段で添加される安定化塩素系酸化剤及び安定化臭素系酸化剤をも還元する。この反応により、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化臭素系酸化剤は、スルファミン酸を放出する。この反応において、残留還元剤濃度が高いほど、系内での有効塩素に対するスルファミン酸の比率は高くなる。スルファミン酸の比率が高くなると平衡関係から、成分としての反応性は下がる。」という現象に対し、同【0024】にあるように、「スルファミン酸比率の低い安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を用いることにより、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤に還元されてもなお微生物汚染効抑制果を保つことができる。」としたものであるから、安定化塩素系酸化剤をも還元する還元剤(重亜硫酸ナトリウム)の存在が発明の前提となるものである。 そして、本件発明1の「該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」との条件によれば、最終的に還元剤は、安定化塩素系酸化剤を消費し自身は消失し、差圧上昇抑制効果(微生物汚染抑制効果)自体は、安定化塩素系酸化剤が担うものであるといえるから、水系における還元剤濃度は、上述の「スルファミン酸比率の低い安定化塩素系酸化剤」がその技術的意義を発揮できるのに必要な、前提としての所定量を下限とすると共に、上限は、同【0027】に「還元剤濃度が過度に高いと後段で添加される安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤がその分還元され、必要添加量が高くなり処理コスト増をまねく。」とあるように、安定化塩素系酸化剤を過度に消費させないといった理由で適宜設定されるものである。 これによれば、水系における還元剤濃度は、「該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」という条件の下、上述の技術的意義を考慮した上で適宜設定し得るものであるといえるから、実施例に開示されている還元剤濃度が「0.1mg/L-Cl2」だけであるとしても、本件発明1の「前記水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下」の範囲で、差圧上昇抑制効果(微生物汚染抑制効果)が得られない、ということはできない。 また、「水系の還元剤濃度に対する安定化塩素系酸化剤の添加濃度」について、同【0040】に「安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加量は多い程微生物汚染抑制効果の面では好ましい」との記載がある。また、差圧上昇抑制効果(微生物汚染抑制効果)自体は、還元剤によって消費されなかった安定化塩素系酸化剤が担うものであり、この量が多くなれば、その量に応じて、差圧上昇抑制効果(微生物汚染抑制効果)が上昇することになるといえるから、この上昇に何らかの臨界的な変化が生じるとはいえない。 そして、実施例に開示されている、水系の還元剤濃度に対する安定化塩素系酸化剤のモル比に対する微生物汚染抑制効果が、「1.8倍」と「3倍」(同【0049】【表2】)、「2.9倍」と「2.2倍」(同【0053】【表4】)の比較だけであるとしても、これらの値の間にある「2.5倍」では、少なくとも、「1.8倍」及び「2.2倍」の場合より、微生物汚染抑制効果が上昇するといえる。 そうすると、水系の還元剤濃度に対する安定化塩素系酸化剤のモル比の下限は、どの程度の差圧上昇抑制効果(微生物汚染抑制効果)を必要とするかで適宜設定し得るといえる。また、その上限は、同【0040】に「安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤の添加量は多い程微生物汚染抑制効果の面では好ましいが、一方で薬品コストが嵩む。」とあるように、薬品コストの面で適宜設定されるものである。 以上によれば、本件明細書の記載に対して、本件発明1の「該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」の記載が、過大であるとはいえない。 よって、上記(ア)d及びeの点には、理由がない。 (ウ)申立理由2に対するまとめ 上記(イ)で述べたとおり、申立理由2には、理由がない。 ウ 異議申立人が令和7年7月3日に提出した意見書における取消理由4に関する主張について 異議申立人は、令和7年3月26日付取消理由通知書に記載のサポート要件違反の理由(取消理由4)に対して、特許権者が同年5月20日に提出した意見書において主張した内容では、上記理由を解消していない旨主張しているが(「3 意見の内容」の7及び8)、この主張の対象となる「安定化臭素系酸化剤」は、上記第2の1(2)及び(3)における訂正事項2及び3により削除されているので、異議申立人の取消理由4に関する主張は、理由がないものとなった。 (2)明確性要件違反に関する取消理由3、申立理由3について ア 取消理由3及び申立理由3の概要 設定登録時の請求項1には、「還元剤が添加され、還元剤を含有する水系に、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである安定化臭素系酸化剤を添加して、該水系における微生物汚染を抑制する方法」との記載があるが、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなり、該臭素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸化合物の割合が1~1.5モルである」とされる「安定化臭素系酸化剤」について、臭素系酸化剤の「有効塩素換算量」をどのように定めるものであるのかその定義が明らかでないから、上記の「安定化臭素系酸化剤」を一義的に特定することができない。 そうすると、上記の「安定化臭素系酸化剤」に関する特定を含む、設定登録時の請求項1の記載は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3の記載を含め、明確でない。 イ 取消理由3及び申立理由3に対する当審の判断 取消理由3及び申立理由3の対象となる「安定化臭素系酸化剤」は、上記第2の1(2)及び(3)における訂正事項2及び3により削除されている。 そうすると、取消理由3及び申立理由3には、理由がない。 ウ 異議申立人が令和7年7月3日に提出した意見書における取消理由3及び申立理由3に関する主張について 異議申立人は、令和7年3月26日付取消理由通知書に記載の明確性要件違反の理由(取消理由3)に対して、特許権者が同年5月20日に提出した意見書において主張した内容では、上記理由を解消していない旨主張している(「3 意見の内容」の6)が、取消理由3及び申立理由3の対象となる「安定化臭素系酸化剤」は、上記第2の1(2)及び(3)における訂正事項2及び3により削除されているので、異議申立人の取消理由3及び申立理由3に関する主張は、理由がないものとなった。 (3)記載不備に関する取消理由1、3、4、申立理由2、3(サポート要件違反、明確性要件違反)に関するまとめ 上記(1)及び(2)で述べたとおり、取消理由1、3、4、申立理由2、3には、理由がない。 2 進歩性欠如に関する取消理由2、申立理由1(申立理由1-1~1-3)について (1)甲1~4、6~9に記載された事項 ア 甲1に記載された事項 (ア)「【請求項1】 逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の濃縮水が導入されるエネルギー回収装置とを備えた逆浸透膜処理システムの運転方法において、 前記逆浸透膜装置の被処理水に、前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.1~10000mg/Lとなるように、結合塩素系および安定化臭素系の少なくともいずれかのスライムコントロール剤を添加することを特徴とする逆浸透膜処理システムの運転方法。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、逆浸透膜装置と、この逆浸透膜装置の濃縮水が導入されるエネルギー回収装置とを備えた逆浸透膜処理システムの運転方法及び逆浸透膜処理システムに関する。詳しくは、本発明は逆浸透膜装置とエネルギー回収装置におけるバイオファウリングを抑制して、造水量及びエネルギー回収率の向上と安定運転を図る逆浸透膜処理システムの運転方法及び逆浸透膜処理システムに関する。 【背景技術】 【0002】 海水を淡水化するシステムとして、海水を逆浸透膜装置(RO膜装置)に通水して脱塩する海水淡水化システムが知られている。海水淡水化システムでは、取水した海水に殺菌用の次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を1~3mg-Cl2/L程度添加した後、除塵処理し、次いで鉄系無機凝集剤を添加して凝集、濾過処理する前処理を行った後、前処理水を高圧ポンプで加圧してRO膜装置に圧送し、RO膜透過水を塩分が除去された淡水として取り出す。塩分が濃縮された濃縮水は排出する。高圧ポンプの入口側では、NaClOによるRO膜の劣化を防止するために、残留塩素の還元除去と間欠殺菌処理とを兼ねて重亜硫酸ナトリウム(NaHSO3)が添加され、また、スケール防止及び間欠殺菌処理用の硫酸が添加される(非特許文献1)。 ・・・ 【0005】 NaClO等の遊離塩素系酸化剤を用いる場合は、RO膜の酸化劣化を防止するために、添加した遊離塩素系酸化剤のうちの残留分を、RO膜装置の入口側でNaHSO3等の還元剤で還元除去することが行われている。」 (ウ)「【0044】 次亜塩素酸塩等の遊離塩素剤とスルファミン酸塩等のスルファミン酸化合物を混合すると、これらが結合して、クロロスルファミン酸塩を形成して安定化し、クロラミンのようなpHによる解離性の差、それによる遊離塩素濃度の変動を生じることなく、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能となる。 【0045】 本発明において、遊離塩素剤とスルファミン酸化合物との使用割合には特に制限はないが、遊離塩素剤の有効塩素1モルあたりスルファミン酸化合物を0.5~5.0モルとすることが好ましく、0.5~2.0モルとすることがより好ましい。」 (エ)「【0079】 以下の実施例及び比較例において、RO膜装置の水回収率を約40%としているため、RO給水の全塩素濃度に対して、濃縮水の全塩素濃度は理論的には1.7倍となる。ただし、添加した結合塩素系スライムコントロール剤は、RO膜面に付着した有機物や、RO中の給水配管及び濃縮水配管内に付着した有機物、RO中に残留したNaHSO3等によって分解されるために、濃縮水の全塩素濃度は、ROの全塩素濃度の1.7倍よりも低濃度となる場合もある。 ・・・ 【0082】 [比較例1] 貯水槽1において、NaClOを添加して殺菌処理した後、高圧ポンプPの入口側でNaHSO3を添加して残留NaClOを還元除去した海水をRO膜装置に供給してRO膜処理を1年間行った。その結果、エネルギー回収装置のエネルギー回収率(P1/P2×100、P1=エネルギー回収装置の入口圧力、P2=エネルギー回収装置によって変換(回収)された圧力の値)は年間平均85%で、エネルギー回収装置のバイオファウリングによる停止回数は1年間に3回であった。 【0083】 以下、エネルギー回収装置の年間平均のエネルギー回収率を単に「エネルギー回収率」と称し、1年間当たりの、エネルギー回収装置のバイオファウリングによる停止回数を「停止頻度」と称す。 【0084】 [実施例1,2、比較例2~4] 比較例1において、ポンプPの入口側、NaHSO3の添加箇所よりも後段側で、結合塩素系スライムコントロール剤としてモノクロロスルファミン酸ナトリウム(NHClSO3Na)を、RO給水の全塩素濃度が表1に示す濃度となるように連続添加したこと以外は、比較例1と同様に運転を行った。その結果、エネルギー回収装置の入口濃縮水の全塩素濃度、エネルギー回収装置のエネルギー回収率及び停止頻度は、表1に示す通りとなった。 ここで用いたモノクロロスルファミン酸ナトリウムは、後述の実験例Iにおける供試薬品の製造の項に記載される方法で製造したものである。 ・・・ 【0088】 【表1】 [図:0001433069000006.jpg] ・・・ 【0096】 1-1. モノクロロスルファミン酸ナトリウムの製造 純水67重量部に48重量%の水酸化ナトリウム水溶液を193重量部添加して溶解させ、さらにスルファミン酸120重量部を添加して溶解させた。その後、有効塩素濃度12重量%asCl2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液600重量部を添加して溶解させて、モノクロロスルファミン酸ナトリウム水溶液を調製した。」 イ 甲2に記載された事項 (ア)「【請求項1】 酸化剤を含む水を逆浸透膜装置で逆浸透膜処理する際の前処理方法であって、 該酸化剤を含む水に、亜硝酸及び/又はその塩を添加して該酸化剤を還元除去することを特徴とする逆浸透膜装置の前処理方法。 【請求項2】 請求項1において、前記亜硝酸及び/又はその塩添加後の水に酸化性薬品を添加することを特徴とする逆浸透膜装置の前処理方法。 【請求項3】 請求項2において、前記亜硝酸及び/又はその塩添加後の水に、亜硝酸及び/又はその塩とは異なる還元剤を、該水中に残留する酸化剤の当量以上添加した後、前記酸化性薬品を添加することを特徴とする逆浸透膜装置の前処理方法。 【請求項4】 請求項2又は3において、前記酸化性薬品がクロロスルファミン酸、クロロスルファミン酸の塩、及び安定化次亜臭素酸系スライムコントロール剤よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする逆浸透膜装置の前処理方法。 【請求項5】 請求項3又は4において、前記亜硝酸及び/又はその塩とは異なる還元剤が亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、及びチオ硫酸塩から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする逆浸透膜装置の前処理方法。」 (イ)「【背景技術】 【0002】 工業用水、市水、井水、河川水、湖沼水、工場廃水などを水処理して純水等を製造する手段として、RO膜装置が広く利用されている。この場合、これらの被処理水に含まれる微生物によるバイオファウリングを抑制するために、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系酸化剤や、過酸化水素、オゾン等の酸化剤が被処理水に添加される。また、電極を使用して塩素を生成させることも行われている。 酸化剤はまた、RO膜処理の前処理として、被処理水中の鉄やマンガンを酸化して濾過装置で除去するために添加される場合もある。 ・・・ 【0005】 また、RO膜処理では、被処理水に含まれる濁質や有機物によるRO膜の汚染(ファウリング)を防止するために、被処理水に2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(Cl-MIT)と2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)の混合物(ダウ・ケミカル社製 商品名「ケーソンWT」)、アンモニアクロラミン、クロロスルファミン酸、安定化次亜臭素酸系スライムコントロール剤(オルガノ(株)製 商品名「オルパージョン E266シリーズ」、Nalco社製 商品名「スタブレックス」)などの酸化性薬品が添加される場合がある。 なお、酸化剤とは、次亜塩素酸ナトリウム等の、対象物質を酸化するために使用する薬品であるのに対して、酸化性薬品は、上記ケーソンWT等のように酸化力を持つが使用目的が酸化に限られない薬品であり、両者は区別される。より具体的には、pH7.0,20℃において、亜硝酸イオンに当量添加したときに酸化還元反応する物質(強酸化剤)を「酸化剤」と定義し、同条件で酸化還元反応しない物質(弱酸化剤)を「酸化性薬品」と定義する。 【0006】 従って、上記の酸化剤と酸化性薬品を併用する場合は、例えば、被処理水に酸化剤を添加した後、凝集、濾過する前処理を行い、その後過剰量の還元剤を添加して残留酸化剤を分解除去し、次いで酸化性薬品を添加してRO膜処理することが行われる。しかし、このように、残留酸化剤の除去のために過剰量の還元剤を添加し、その後酸化性薬品を添加すると、余剰の還元剤と酸化性薬品とが反応して酸化性薬品が分解除去され、酸化性薬品の有効成分濃度が低下するため、酸化性薬品の添加量に見合う効果が得られない、目的の効果を得るために、還元剤による分解除去分を加算して酸化性薬品添加量を多くする必要がある、という問題がある。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は上述した事情に鑑み、酸化剤を含む水に酸化性薬品を添加してRO膜処理するに当たり、還元剤を添加して残留酸化剤によるRO膜の膜劣化を防止すると共に、添加した還元剤による酸化性薬品の分解を防止して酸化性薬品による水処理効果を有効に得るRO膜装置の前処理方法と水処理装置を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者は、上記課題を解決すべく、RO膜処理に影響しない新規の還元剤を提供するべく鋭意検討を行った結果、亜硝酸及び/又はその塩が最適であることを見出した。即ち、亜硝酸及び/又はその塩は、塩素等の残留酸化剤を還元除去すると共に、余剰分が残留しても、実用的な使用濃度では、DBNPA、Cl-MITとMITの混合物(商品名「ケーソン」)、アンモニアクロラミン、クロロスルファミン酸、安定化次亜臭素酸系スライムコントロール剤(オルガノ(株)製 商品名「オルパージョン E266シリーズ」、Nalco社製 商品名「スタブレックス」)等の酸化性薬品と酸化還元反応を生じることはなく、これらの酸化性薬品を還元除去して有効成分濃度を低減させることはない。 本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。」 (ウ)「【0027】 亜硝酸(塩)を添加して給水中の酸化剤と反応させる場合、条件によっては、当量以上の添加でも酸化剤が微量に残留することがある。この場合には、RO膜装置の前工程で、亜硫酸水素ナトリウムなどの反応性のよい従来の還元剤を第二還元剤として、酸化剤残留量に対して反応当量以上、好ましくは反応当量の2~3倍、特には酸化剤の残留を確実に防止するために3~5倍添加してもよい。 【0028】 前述の通り、第二還元剤として添加する亜硫酸水素ナトリウム等の従来の還元剤は、酸化性薬品を還元してその有効成分濃度を低減するものであるが、第一還元剤として亜硝酸(塩)を添加した後の酸化剤の残留量は微量であるため、その後に追加で添加する亜硫酸水素ナトリウムなどの第二還元剤添加率も少量となる。このため、第二還元剤が残留した場合でも、還元される酸化性薬品の量は微量であり、亜硫酸水素ナトリウムの有効成分濃度の低下を抑えることができる。」 ウ 甲3に記載された事項 (ア)「[請求項1] 前処理装置で前処理を施した供給水を逆浸透膜装置へ供給して逆浸透膜処理する方法において、 該供給水に、該前処理装置もしくは該前処理装置よりも上流側で酸化剤を添加するとともに、該前処理装置よりも下流側かつ該逆浸透膜装置よりも上流側で還元剤を添加し、更に、該還元剤の添加点から該逆浸透膜装置入口に至る経路の途中でスライムコントロール剤を添加する逆浸透膜処理方法であって、 該酸化剤の添加点からスライムコントロール剤の添加点までの経路で該供給水の酸化剤濃度或いは酸化剤濃度と相関性を有する指標を第1の測定値として測定し、該第1の測定値に基づいて前記還元剤の添加量を制御するとともに、 該スライムコントロール剤添加後の該逆浸透膜装置の供給水又は濃縮水のスライムコントロール剤濃度或いはスライムコントロール剤濃度と相関性を有する指標を第2の測定値として測定し、該第2の測定値に基づいて前記スライムコントロール剤の添加量を制御することを特徴とする逆浸透膜処理方法。」 (イ)「背景技術 [0003] 海水淡水化プラントや排水回収プラントでは、電解質や中低分子の有機成分を効率的に除去することができるRO膜装置が広く用いられている。RO膜装置を含む水処理装置では、通常、RO膜装置の前段に圧力濾過装置、重力濾過装置、凝集沈澱処理装置、加圧浮上濾過装置、浸漬膜装置、膜式前処理装置などの前処理装置が設けられる。被処理水はこれらの前処理装置により前処理された後RO膜装置に供給されてRO膜分離処理される。 [0004] 水処理装置では、被処理水中に含まれる微生物が、装置配管内や膜面で増殖してスライムを形成し、系内の微生物繁殖による臭気発生、RO膜の透過水量低下といった障害を引き起こすことがある。微生物による汚染を防止するために、被処理水に殺菌剤を常時又は間欠的に添加し、被処理水又は装置内を殺菌しながら水処理することがある。 [0005] 重力濾過処理、凝集沈殿処理などの前処理装置においては、次亜塩素酸ナトリウムなどの遊離塩素系酸化剤で微生物の殺菌を行う。ポリアミド系RO膜は遊離塩素に対する耐性が低いため、ポリアミド系RO膜の給水に遊離塩素系酸化剤を添加するとポリアミド系RO膜が劣化しやすい。 ポリアミド系RO膜の給水に重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を添加して遊離塩素を還元除去し、その後、クロラミンやクロロスルファミン酸ナトリウムといった結合塩素系酸化剤や、スライムコントロール剤を添加して、RO膜での微生物増殖を抑制することがある。スライムコントロール剤は、イソチアゾロン系化合物などの微生物増殖を抑制する化合物を含有する。 ・・・ [0007] 従来法では以下の問題がある。 1)被処理水の水質や水量の変化により、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤添加後の水の遊離塩素濃度や全塩素濃度が変動する。そのため、還元剤を定量添加する場合は、RO膜の劣化を確実に防止するために、通常、その変動量の最大値にあわせて還元剤を添加している。 [0008] この場合、塩素濃度が変動すると、残留する還元剤量も変動し、残留した還元剤がその後に添加されるスライムコントロール剤と反応する結果、スライムコントロール剤の有効成分量が減少してしまう。そのため、スライムコントロール剤も残留還元剤との反応を見越して、過剰に添加する必要がある。 ・・・ [0011] 本発明は、前処理中もしくは前処理よりも上流側で酸化剤を添加するとともに、前処理よりも下流側かつRO膜装置よりも上流側で還元剤を添加し、更に、還元剤の添加点からRO膜装置入口に至る経路の途中でスライムコントロール剤を添加するRO膜処理方法において、還元剤及びスライムコントロール剤の添加量を的確に制御して、これらの薬剤の薬注量を低減した上で、これらの薬剤の薬注効果を安定かつ確実に得るRO膜処理方法とそのための水処理装置を提供することを目的とする。」 (ウ)「[0029] 本発明のRO膜処理方法では、前処理装置で前処理を施した供給水をRO膜装置へ供給してRO膜処理する。該供給水に、該前処理装置もしくは前処理装置よりも上流側で酸化剤を添加する。該前処理装置よりも下流側かつ該RO膜装置よりも上流側で還元剤を添加する。該還元剤の添加点から該RO膜装置入口に至る経路の途中でスライムコントロール剤を添加する。該酸化剤の添加点からスライムコントロール剤の添加点までの経路で該供給水の酸化剤濃度或いは酸化剤濃度と相関性を有する指標値を測定して第1の測定値とする。該第1の測定値に基づいて前記還元剤の添加量を制御する。該スライムコントロール剤添加後の該RO膜装置の供給水(以下「RO給水」と称す場合がある。)又は濃縮水のスライムコントロール剤濃度或いはスライムコントロール剤濃度と相関性を有する指標値を測定して第2の測定値とする。該第2の測定値に基づいて前記スライムコントロール剤の添加量を制御する。 ・・・ [0034] RO膜装置15の入口側のスライムコントロール剤添加点より下流側の配管に、RO給水中のスライムコントロール剤濃度或いはスライムコントロール剤濃度と相関性を有する指標を測定する第2の測定手段2Aが設けられている。第2の測定手段2Aで測定された第2の測定値がスライムコントロール剤添加量制御手段2に入力される。入力された第2の測定値に基づいて、スライムコントロール剤添加量制御手段2からスライムコントロール剤添加量の制御信号が、スライムコントロール剤添加量の調整手段2Xに出力され、スライムコントロール剤の添加量が制御される。」 (エ)[0052] 結合塩素剤としては、特許文献2に示されたクロラミン、特許文献3に示された塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる結合塩素剤のほか、クロラミン-T(N-クロロ-4-メチルベンゼンスルホンアミドのナトリウム塩)、クロラミン-B(N-クロロ-ベンゼンスルホンアミドのナトリウム塩)、N-クロロ-パラニトロベンゼンスルホンアミドのナトリウム塩、トリクロロメラミン、モノ-もしくはジ-クロロメラミンのナトリウム塩またはカリウム塩、トリクロロ-イソシアヌレート、モノ-もしくはジ-クロロイソシアヌール酸のナトリウム塩またはカリウム塩、モノ-もしくはジ-クロロスルファミン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、モノクロロヒダントインもしくは1,3-ジクロロヒダントインまたはその5,5-アルキル誘導体等が挙げられる。 [0053] これらの中では、特許文献3に示された遊離塩素剤とスルファミン酸化合物とからなる結合塩素剤は、スルファミン酸を含み、スライム剥離性を有するので好ましい。特にスルファミン酸化合物と遊離塩素剤との混合比は、N:有効塩素(モル比)で1:0.45~0.90、好ましくは1:0.45~0.85とするのが好ましい。水溶液の濃度は、前述の通り、全塩素濃度換算で5~10重量%、特に5.5~7.5重量%とするのが好ましい。」 (オ)「実施例 [0073] 以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。 [0074] [実験条件] 以下の実施例及び比較例では、海水淡水化水処理装置において、以下の共通する実験条件で実験を行った。 対象水(被処理水):海水 還元剤添加前の海水の遊離塩素濃度:0.11~0.48mg/LasCl2で変動 還元剤:重亜硫酸ナトリウム(以下「SBS」と略記する。) 結合塩素型スライムコントロール剤:栗田工業(株)製「クリバーターIK-110」(以下「IK-110」と略記する。) 残留塩素濃度測定装置:栗田工業(株)製「S.sensingB」(海水仕様) ・・・ [0076] [測定・制御方法] 以下の実施例1~3及び比較例1~3では、下記表1に示す測定方法と制御方法で還元剤とスライムコントロール剤の添加量の制御を行った。 [0077] [表1] [図:0001433069000007.jpg] [0078] [実施例1] (1) 還元剤添加量制御:DPD法による被処理水の残留塩素濃度に対して、1.07倍モルのSBSを添加した。 (2) スライムコントロール剤添加量制御:IK-110添加後のRO給水の全塩素濃度をDPD法で測定し、この測定値が0.5mg/LasCl2になるようにPI制御した。 ・・・ [0081] [比較例1] 添加量制御は行わず、還元剤とスライムコントロール剤を定量添加した。 ・・・ [0084] 実施例1~3の処理結果を表2に示す。比較例1~3の処理結果を表3に示す。 ・・・ [0086] 表1~3におけるSBS添加量は、SBS自体の添加量であるが、IK-110添加量は、IK-110の結合塩素換算の添加量である。 ・・・ [0088] [表3] [図:0001433069000008.jpg] ・・・ [0091] 比較例1では、還元剤、スライムコントロール剤ともに定量添加であるため、還元剤が過剰に添加され、残存する還元剤によりスライムコントロール剤も消耗し、添加量が多い上に、濃度が変動し、スライムコントロール効果を維持できない。」 エ 甲4に記載された事項 (ア)「【請求項1】 分離膜を用いて被処理水の処理を行う水処理方法であって、 塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤を前記分離膜の給水中に存在させ、 前記塩素系酸化剤と前記スルファミン酸化合物とのモル比が、塩素系酸化剤:スルファミン酸化合物=1:1~1:1.5であり、 前記分離膜の給水のpHが、4以上7以下であることを特徴とする水処理方法。」 (イ)「【0019】 <分離膜を用いる水処理方法> 本発明の実施形態に係る水処理方法は、分離膜を用いて被処理水の処理を行う水処理方法であって、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む殺菌剤を分離膜の給水中に存在させ、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とのモル比が、塩素系酸化剤:スルファミン酸化合物=1:1~1:1.5であり、分離膜の給水のpHが、4以上7以下である方法である。 【0020】 本発明者らは、分離膜を用いて被処理水の処理を行う水処理において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とのモル比が、塩素系酸化剤:スルファミン酸化合物=1:1~1:1.5である殺菌剤は、pH4以上7以下のpH領域において殺菌剤の殺菌性能を向上することができることを見出した。」 オ 甲6に記載された事項 (ア)「【請求項2】 塩素を含む供給水中に還元剤を注入して供給水中の塩素を還元する還元工程と、還元剤の注入された供給水を逆浸透膜装置で処理する工程とを有する超純水の製造方法において、 前記還元工程で塩素が還元された供給水の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定工程と、 測定された酸化還元電位の測定値又はその変化から還元剤の注入状況を判定する判定工程と を有することを特徴とする超純水の製造方法。」 (イ)「【0028】 注入する還元剤は、当量で反応するために必要な量の1.5~3倍程度の注入量としておけば、注入が正常である限り、残留塩素濃度が残存することはない。」 カ 甲7に記載された事項 (ア)「【請求項1】 塩素系酸化剤及びスルファミン酸化合物を含有することを特徴とする膜分離用スライム防止剤。」 (イ)「【0033】 次亜塩素酸塩等の塩素系酸化剤とスルファミン酸塩等のスルファミン酸化合物を混合すると、これらが結合して、クロロスルファミン酸塩を形成して安定化し、従来のクロラミンのようなpHによる解離性の差、それによる遊離塩素濃度の変動を生じることなく、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能となる。 【0034】 本発明において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との使用割合には特に制限はないが、塩素系酸化剤の有効塩素1モルあたりスルファミン酸化合物を0.5~5.0モルとすることが好ましく、0.5~2.0モルとすることがより好ましい。」 キ 甲8に記載された事項 「【請求項1】 アルカリ金属水酸化物からなるアルカリと、スルファミン酸と、塩素系酸化剤とを含有する水溶液製剤からなる結合塩素剤であって、 水溶液製剤中のスルファミン酸と塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/N(モル比)で0.45~0.6であり、 アルカリと塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/アルカリ金属(モル比)で0.3~0.4であり、 水溶液製剤中の遊離塩素濃度が全塩素濃度の2重量%以下であることを特徴とする結合塩素剤。」 ク 甲9に記載された事項 「【請求項1】 臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、 スルファミン酸化合物と、 式(1)の単量体単位を含む重合体、式(2)の単量体単位を含む重合体、式(1)の単量体単位と式(3)の単量体単位とを含む二元共重合体、式(1)の単量体単位と式(3)の単量体単位と式(4)の単量体単位とを含む三元共重合体、式(5)のホスフィノカルボン酸共重合体、式(6)のビス(ポリ-2-カルボキシルエチル)ホスフィン酸、式(7)の2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸およびその塩、ならびにアゾール化合物のうちの少なくとも1つの防食剤と、 がpH13以上で配合されていることを特徴とする水処理剤組成物。(当審注:式の記載は省略する。)」 (2)甲1~3に記載された発明 ア 甲1に記載された発明 甲1の上記(1)ア(ア)には、「逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の濃縮水が導入されるエネルギー回収装置とを備えた逆浸透膜処理システムの運転方法において、 前記逆浸透膜装置の被処理水に、前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.1~10000mg/Lとなるように、結合塩素系および安定化臭素系の少なくともいずれかのスライムコントロール剤を添加することを特徴とする逆浸透膜処理システムの運転方法。」が記載されているところ、この「逆浸透膜処理システムの運転方法」の実施例として、同(エ)の【0084】には、例えば、実施例1、2として、「比較例1において、ポンプPの入口側、NaHSO3の添加箇所よりも後段側で、結合塩素系スライムコントロール剤としてモノクロロスルファミン酸ナトリウム(NHClSO3Na)を、RO給水の全塩素濃度が表1に示す濃度となるように連続添加したこと以外は、比較例1と同様に運転を行った。その結果、エネルギー回収装置の入口濃縮水の全塩素濃度、エネルギー回収装置のエネルギー回収率及び停止頻度は、表1に示す通りとなった。 ここで用いたモノクロロスルファミン酸ナトリウムは、後述の実験例Iにおける供試薬品の製造の項に記載される方法で製造したものである。」と記載されている。 そして、上記の「実施例1、2」で「比較例1において」とされる「比較例1」は、同(エ)の【0082】で「貯水槽1において、NaClOを添加して殺菌処理した後、高圧ポンプPの入口側でNaHSO3を添加して残留NaClOを還元除去した海水をRO膜装置に供給してRO膜処理を1年間行った。」ものである。また、上記の「実施例1、2」で「RO給水の全塩素濃度が表1に示す濃度となるように連続添加した」とされる「RO給水の全塩素濃度」は、同(エ)の【0088】の【表1】によれば、実施例1で0.1mg/L、実施例2で20mg/Lである。さらに、上記の「実施例1、2」で、「ここで用いたモノクロロスルファミン酸ナトリウムは、後述の実験例Iにおける供試薬品の製造の項に記載される方法で製造したものである。」とされる「モノクロロスルファミン酸ナトリウム」は、同(エ)の【0096】で「純水67重量部に48重量%の水酸化ナトリウム水溶液を193重量部添加して溶解させ、さらにスルファミン酸120重量部を添加して溶解させた。その後、有効塩素濃度12重量%asCl2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液600重量部を添加して溶解させて、モノクロロスルファミン酸ナトリウム水溶液を調製した。」とされるように製造されたものである。 以上をまとめると、甲1には、特に実施例1、2について、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「貯水槽において、NaClOを添加して殺菌処理した後、高圧ポンプPの入口側でNaHSO3を添加して残留NaClOを還元除去した海水をRO膜装置に供給し、 ポンプPの入口側、NaHSO3の添加箇所よりも後段側で、結合塩素系スライムコントロール剤としてモノクロロスルファミン酸ナトリウム(NHClSO3Na)を、RO給水の全塩素濃度が0.1mg/L又は20mg/Lとなるように連続添加し、RO膜処理を1年間行う逆浸透膜処理システムの運転方法であって、 上記モノクロロスルファミン酸ナトリウムは、純水67重量部に48重量%の水酸化ナトリウム水溶液を193重量部添加して溶解させ、さらにスルファミン酸120重量部を添加して溶解させ、その後、有効塩素濃度12重量%asCl2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液600重量部を添加して溶解させて、調製したものである、 逆浸透膜処理システムの運転方法。」 イ 甲2に記載された発明 甲2の上記(1)イ(ア)には、【請求項1】~【請求項4】を直列的に引用する【請求項5】として、以下の「逆浸透膜装置の前処理方法」が記載されているといえる。 「酸化剤を含む水を逆浸透膜装置で逆浸透膜処理する際、 該酸化剤を含む水に、亜硝酸及び/又はその塩を添加し、前記亜硝酸及び/又はその塩添加後の水に、亜硝酸及び/又はその塩とは異なる還元剤を、該水中に残留する酸化剤の当量以上添加し、該酸化剤を還元除去した後、酸化性薬品を添加する逆浸透膜装置の前処理方法であって、 前記酸化性薬品がクロロスルファミン酸、クロロスルファミン酸の塩、及び安定化次亜臭素酸系スライムコントロール剤よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、 前記亜硝酸及び/又はその塩とは異なる還元剤が亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、及びチオ硫酸塩から選ばれる1種又は2種以上である、逆浸透膜装置の前処理方法。」 同(イ)の【0002】の「工業用水、市水、井水、河川水、湖沼水、工場廃水などを水処理して純水等を製造する手段として、RO膜装置が広く利用されている。この場合、これらの被処理水に含まれる微生物によるバイオファウリングを抑制するために、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系酸化剤や、過酸化水素、オゾン等の酸化剤が被処理水に添加される。」との記載によれば、逆浸透膜装置に供給する水に酸化剤を添加している上記「逆浸透膜装置の前処理方法」は、「被処理水に含まれる微生物によるバイオファウリングを抑制するための逆浸透膜装置の前処理方法」であるといえる。 そうすると、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 「酸化剤を含む水を逆浸透膜装置で逆浸透膜処理する際、 該酸化剤を含む水に、亜硝酸及び/又はその塩を添加し、前記亜硝酸及び/又はその塩添加後の水に、亜硝酸及び/又はその塩とは異なる還元剤を、該水中に残留する酸化剤の当量以上添加し、該酸化剤を還元除去した後、酸化性薬品を添加する、被処理水に含まれる微生物によるバイオファウリングを抑制するための逆浸透膜装置の前処理方法であって、 前記酸化性薬品がクロロスルファミン酸、クロロスルファミン酸の塩、及び安定化次亜臭素酸系スライムコントロール剤よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、 前記亜硝酸及び/又はその塩とは異なる還元剤が亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、及びチオ硫酸塩から選ばれる1種又は2種以上である、被処理水に含まれる微生物によるバイオファウリングを抑制するための逆浸透膜装置の前処理方法。」 ウ 甲3に記載された発明 甲3の上記(1)ウ(イ)の[0005]には、同(ア)に記載される[請求項1]に記載される発明の背景技術として、「重力濾過処理、凝集沈殿処理などの前処理装置においては、次亜塩素酸ナトリウムなどの遊離塩素系酸化剤で微生物の殺菌を行う。ポリアミド系RO膜は遊離塩素に対する耐性が低いため、ポリアミド系RO膜の給水に遊離塩素系酸化剤を添加するとポリアミド系RO膜が劣化しやすい。 ポリアミド系RO膜の給水に重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を添加して遊離塩素を還元除去し、その後、クロラミンやクロロスルファミン酸ナトリウムといった結合塩素系酸化剤や、スライムコントロール剤を添加して、RO膜での微生物増殖を抑制することがある。」との記載があり、この背景技術は、同(ア)に記載される[請求項1]の記載形式に則ると、この[請求項1]の「逆浸透膜処理方法であって」までの前半部に対応する以下のものであるといえる。 「前処理装置で前処理を施した供給水を逆浸透膜装置へ供給して逆浸透膜処理する方法において、 該供給水に、該前処理装置もしくは該前処理装置よりも上流側で酸化剤を添加するとともに、該前処理装置よりも下流側かつ該逆浸透膜装置よりも上流側で還元剤を添加し、更に、該還元剤の添加点から該逆浸透膜装置入口に至る経路の途中でスライムコントロール剤を添加する逆浸透膜処理方法。」 ここで、この背景技術では、同(イ)の[0007]及び[0008]の記載によれば、被処理水に次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤添加後に、還元剤を定量添加し、その後、残留還元剤との反応を見越してスライムコントロール剤を過剰に添加しているといえるところ、この背景技術が、同(オ)に実施例に対する比較例として記載されている。 この比較例では、同(オ)の[0074]の記載によれば、還元剤として、「重亜硫酸ナトリウム」を用い、スライムコントロール剤として、結合塩素型スライムコントロール剤:「クリバーターIK-110」(以下、単に「IK-110」ということがある。)を用いている。 ここで、同(エ)の[0053]には、「これらの中では、特許文献3に示された遊離塩素剤とスルファミン酸化合物とからなる結合塩素剤は、スルファミン酸を含み、スライム剥離性を有するので好ましい。」との記載があり、ここでの特許文献3(甲7)の上記(1)カ(イ)の【0033】の「次亜塩素酸塩等の塩素系酸化剤とスルファミン酸塩等のスルファミン酸化合物を混合すると、これらが結合して、クロロスルファミン酸塩を形成して安定化し、従来のクロラミンのようなpHによる解離性の差、それによる遊離塩素濃度の変動を生じることなく、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能となる。」との記載も考慮すると、「IK-110」は、「次亜塩素酸塩とスルファミン酸塩とからなる、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能な結合塩素剤」の具体例であるといえる。 そして、比較例の内容は、甲3の上記(1)ウ(オ)の[0088][表3]にまとめられているので、まず、比較例1を参照すると、重亜硫酸ナトリウム(SBS、NaHSO3)を0.85g/m3添加し、結合塩素型スライムコントロール剤(IK-110)を、同(オ)の[0086]の記載によれば、結合塩素換算で、0.70g/m3添加している。 また、同[表3]には、IK-110について、「測定値」の項目があるが、同(ウ)の[0034]の「RO膜装置15の入口側のスライムコントロール剤添加点より下流側の配管に、RO給水中のスライムコントロール剤濃度或いはスライムコントロール剤濃度と相関性を有する指標を測定する第2の測定手段2Aが設けられている。第2の測定手段2Aで測定された第2の測定値がスライムコントロール剤添加量制御手段2に入力される。入力された第2の測定値に基づいて、スライムコントロール剤添加量制御手段2からスライムコントロール剤添加量の制御信号が、スライムコントロール剤添加量の調整手段2Xに出力され、スライムコントロール剤の添加量が制御される。」との記載によれば、RO給水中のスライムコントロール剤濃度を測定する測定装置は、RO膜装置15の入口側のスライムコントロール剤添加点より下流側の配管に設けられていること、また、甲3に記載される同(ア)の[請求項1]に記載される発明は、同(イ)の[0008]に「この場合、塩素濃度が変動すると、残留する還元剤量も変動し、残留した還元剤がその後に添加されるスライムコントロール剤と反応する結果、スライムコントロール剤の有効成分量が減少してしまう。そのため、スライムコントロール剤も残留還元剤との反応を見越して、過剰に添加する必要がある。」という背景技術の問題点を、同(ウ)の[0029]に「該スライムコントロール剤添加後の該RO膜装置の供給水(以下「RO給水」と称す場合がある。)又は濃縮水のスライムコントロール剤濃度或いはスライムコントロール剤濃度と相関性を有する指標値を測定して第2の測定値とする。該第2の測定値に基づいて前記スライムコントロール剤の添加量を制御する。」と記載されるように、スライムコントロール剤添加後の該RO膜装置の供給水のスライムコントロール剤濃度に基づいて適切な量のスライムコントロール剤を添加しようとするものであるから、測定されるスライムコントロール剤濃度は、添加したスライムコントロール剤に対して残留した還元剤が反応した後のスライムコントロール剤濃度であるといえる。 さらに、上記[0008]の記載や、同(オ)の[0091]の「比較例1では、還元剤、スライムコントロール剤ともに定量添加であるため、還元剤が過剰に添加され、残存する還元剤によりスライムコントロール剤も消耗し、添加量が多い上に、濃度が変動し、スライムコントロール効果を維持できない。」等の記載によれば、添加したスライムコントロール剤の濃度の低減の要因の大きなものは、残留する還元剤との反応によるものといえる。 これらを踏まえると、同(オ)の[0088][表3]において、日数が0日で海水の遊離塩素濃度が0.30g/m3の場合、IK-110の添加量が0.70g/m3-Cl2に対して測定値が0.43g/m3-Cl2であるから、この差の0.27g/m3-Cl2を還元剤である重亜硫酸ナトリウムの濃度として見積もることができる。そして、還元剤である重亜硫酸ナトリウム濃度に対する安定化塩素系酸化剤の濃度のモル比は、0.70g/m3-Cl2/0.27g/m3-Cl2で約2.6となる。 他に、10日、20日、30日、40日、50日、60日、70日、80日でも、同様に計算すると、見積もられる供給水の重亜硫酸ナトリウムの濃度と、重亜硫酸ナトリウム濃度に対する安定化塩素系酸化剤の濃度のモル比の組み合わせは、それぞれ、「0.12g/m3-Cl2、約5.8」、「0.09g/m3-Cl2、約7.8」、「0.46g/m3-Cl2、約1.5」、「0.52g/m3-Cl2、約1.3」、「0.11g/m3-Cl2、約6.4」、「0.13g/m3-Cl2、約5.4」、「0.37g/m3-Cl2、約1.9」、「0.43g/m3-Cl2、約1.6」となる。 これらの内容を上述の[請求項1]の記載の前半部分の記載形式にあてはめると、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 「前処理装置で前処理を施した供給水を逆浸透膜装置へ供給して逆浸透膜処理する方法において、 該供給水に、該前処理装置もしくは該前処理装置よりも上流側で酸化剤を添加するとともに、該前処理装置よりも下流側かつ該逆浸透膜装置よりも上流側で重亜硫酸ナトリウムを添加し、更に、該重亜硫酸ナトリウムの添加点から該逆浸透膜装置入口に至る経路の途中で、次亜塩素酸塩とスルファミン酸塩とからなる、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能な結合塩素剤である、スライムコントロール剤:クリバーターIK-110を添加する逆浸透膜処理方法であって、 上記結合塩素剤が添加される供給水の重亜硫酸ナトリウムの濃度と、重亜硫酸ナトリウム濃度に対する上記結合塩素剤の濃度のモル比の組み合わせが、「0.27g/m3-Cl2、約2.6」、「0.12g/m3-Cl2、約5.8」、「0.09g/m3-Cl2、約7.8」、「0.46g/m3-Cl2、約1.5」、「0.52g/m3-Cl2、約1.3」、「0.11g/m3-Cl2、約6.4」、「0.13g/m3-Cl2、約5.4」、「0.37g/m3-Cl2、約1.9」、「0.43g/m3-Cl2、約1.6」である、逆浸透膜処理方法。」 (3)取消理由2及び申立理由1-1について 取消理由2及び申立理由1-1は、共に甲1を引用例とするものであるから、まとめて判断する。 ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 a 甲1発明の「NaHSO3」は、本件発明1の「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質」に相当する。そして、甲1発明の「NaHSO3」は、「残留NaClOを還元除去」するものであるが、甲1の上記(1)ア(エ)の【0079】の「添加した結合塩素系スライムコントロール剤は、RO膜面に付着した有機物や、RO中の給水配管及び濃縮水配管内に付着した有機物、RO中に残留したNaHSO3等によって分解される」との記載によれば、「モノクロロスルファミン酸ナトリウム」が添加される「RO給水」には、「NaHSO3」が溶解することで生じた「亜硫酸水素イオン」が残留しているといえるから、甲1発明の「貯水槽において、NaClOを添加して殺菌処理した後、高圧ポンプPの入口側でNaHSO3を添加して残留NaClOを還元除去した海水」は、本件発明1の「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質が添加され、亜硫酸水素イオンを含有する水系」に相当する。 b 甲1発明の「モノクロロスルファミン酸ナトリウム」は、甲1の上記(1)ア(ウ)の【0044】の「次亜塩素酸塩等の遊離塩素剤とスルファミン酸塩等のスルファミン酸化合物を混合すると、これらが結合して、クロロスルファミン酸塩を形成して安定化し、クロラミンのようなpHによる解離性の差、それによる遊離塩素濃度の変動を生じることなく、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能となる。」との記載によれば、安定した遊離塩素濃度を保つものであるから、本件発明1の「次亜塩素酸及び/又はその塩とスルファミン酸又はスルファミン酸塩とからな」る「安定化塩素系酸化剤」に相当する。 そして、上記「モノクロロスルファミン酸ナトリウム」は、「純水67重量部に48重量%の水酸化ナトリウム水溶液を193重量部添加して溶解させ、さらにスルファミン酸120重量部を添加して溶解させ、その後、有効塩素濃度12重量%asCl2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液600重量部を添加して溶解させて、調製したものである」ところ、「有効塩素濃度12重量%asCl2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液600重量部」における有効塩素量は、600×12/100=72重量部となり、これを、有効塩素の物質量に換算すると、塩素(Cl2)のモル質量が70.9g/molであるから、有効塩素の物質量は、72/70.9で約1.02molとなる。一方、「スルファミン酸」は120重量部含有され、これを、スルファミン酸の物質量に換算すると、スルファミン酸のモル質量が97.1g/molであるから、スルファミン酸の物質量は、120/97.1で約1.24molとなる。 そうすると、甲1発明の「モノクロロスルファミン酸ナトリウム」における、塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対するスルファミン酸の割合は、1.24/1.02で約1.22となり、甲1発明の「モノクロロスルファミン酸ナトリウム」は、本件発明1の「該次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである」との条件を満足するから、甲1発明の「ポンプPの入口側、NaHSO3の添加箇所よりも後段側で、結合塩素系スライムコントロール剤としてモノクロロスルファミン酸ナトリウム(NHClSO3Na)を、RO給水の全塩素濃度が0.1mg/L又は20mg/Lとなるように連続添加し」、「上記モノクロロスルファミン酸ナトリウムは、純水67重量部に48重量%の水酸化ナトリウム水溶液を193重量部添加して溶解させ、さらにスルファミン酸120重量部を添加して溶解させ、その後、有効塩素濃度12重量%asCl2の次亜塩素酸ナトリウム水溶液600重量部を添加して溶解させて、調製したものである」ことは、本件発明1の「次亜塩素酸及び/又はその塩とスルファミン酸又はスルファミン酸塩とからなり、該次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤を添加」することに相当する。 c 甲1発明の「逆浸透膜処理システムの運転方法」は、甲1の上記(1)ア(イ)の【0001】の「本発明は逆浸透膜装置とエネルギー回収装置におけるバイオファウリングを抑制して、造水量及びエネルギー回収率の向上と安定運転を図る逆浸透膜処理システムの運転方法及び逆浸透膜処理システムに関する。」との記載によれば、バイオファウリングを抑制するものであるから、本件発明1の「水系における微生物汚染を抑制する方法」に相当する。 d 以上によれば、本件発明1は甲1発明と、「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質が添加され、亜硫酸水素イオンを含有する水系に、次亜塩素酸及び/又はその塩とスルファミン酸又はスルファミン酸塩とからなり、該次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤を添加して、該水系における微生物汚染を抑制する方法」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1> 本件発明1では、「前記水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり、該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」のに対し、甲1発明では、モノクロロスルファミン酸ナトリウムを添加する位置でのNaHSO3の濃度、及びこの濃度に対して、モノクロロスルファミン酸ナトリウムの濃度をどの程度にしているのかが明らかでない点。 (イ)上記相違点に対する判断 a 甲1発明において、「貯水槽において、NaClOを添加して殺菌処理した後、高圧ポンプPの入口側でNaHSO3を添加して残留NaClOを還元除去」するのは、甲1の上記(1)ア(イ)の【0005】の「NaClO等の遊離塩素系酸化剤を用いる場合は、RO膜の酸化劣化を防止するために、添加した遊離塩素系酸化剤のうちの残留分を、RO膜装置の入口側でNaHSO3等の還元剤で還元除去することが行われている。」との記載によれば、RO膜の酸化劣化を防止するため、NaClO等による残留分の遊離塩素系酸化剤を還元除去するためである。 そして、このようなRO膜の酸化劣化を確実に防止するには、甲3の上記(1)ウ(イ)の[0007]の「1)被処理水の水質や水量の変化により、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤添加後の水の遊離塩素濃度や全塩素濃度が変動する。そのため、還元剤を定量添加する場合は、RO膜の劣化を確実に防止するために、通常、その変動量の最大値にあわせて還元剤を添加している。」との記載等にもあるとおり、NaClO等による残留分の遊離塩素系酸化剤より過剰に還元剤を添加すること、すなわち、NaHSO3等の還元剤を添加した場合、被処理水に還元剤が残留するように還元剤を添加することが普通であり、甲1発明においても、上記(ア)aでも述べたように、モノクロロスルファミン酸ナトリウムを添加する海水には、還元剤であるNaHSO3が含有されている。 また、甲1の上記(1)ア(エ)の【0079】の「添加した結合塩素系スライムコントロール剤は、RO膜面に付着した有機物や、RO中の給水配管及び濃縮水配管内に付着した有機物、RO中に残留したNaHSO3等によって分解される」との記載によれば、RO膜装置のバイオファウリングを防止するための「モノクロロスルファミン酸ナトリウム」が、残留したNaHSO3等によって分解されてしまうのであるから、甲1発明においても、甲3の上記(1)ウ(イ)の[0008]に「塩素濃度が変動すると、残留する還元剤量も変動し、残留した還元剤がその後に添加されるスライムコントロール剤と反応する結果、スライムコントロール剤の有効成分量が減少してしまう。そのため、スライムコントロール剤も残留還元剤との反応を見越して、過剰に添加する必要がある。」とあるように、残留するNaHSO3に対して過剰量のモノクロロスルファミン酸ナトリウムを添加しているといえる。 しかしながら、甲1には、残留するNaHSO3の濃度、及び残留するNaHSO3に対してどの程度の過剰量のモノクロロスルファミン酸ナトリウムを添加するのかについては、何らの記載も示唆もない。 b 次に、本件発明1の条件に合致する濃度で残留するNaHSO3に対して、本件発明1の条件に合致する値で過剰量のモノクロロスルファミン酸ナトリウムを添加することが知られている場合、この事項を甲1発明に適用できるか否かについて検討する。 本件明細書の【0023】、【0024】の「水中の重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の還元剤は後段で添加される安定化塩素系酸化剤及び安定化臭素系酸化剤をも還元する。この反応により、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化塩素系酸化剤、及び/又は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる安定化臭素系酸化剤は、スルファミン酸を放出する。この反応において、残留還元剤濃度が高いほど、系内での有効塩素に対するスルファミン酸の比率は高くなる。スルファミン酸の比率が高くなると平衡関係から、成分としての反応性は下がる。 しかし、スルファミン酸比率の低い安定化塩素系酸化剤及び/又は安定化臭素系酸化剤を用いることにより、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤に還元されてもなお微生物汚染効抑制果を保つことができる。」との記載によれば、本件発明1は、水中の重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の還元剤が後段で添加される安定化塩素系酸化剤をも還元することを前提として、スルファミン酸比率の低い安定化塩素系酸化剤を用いること、すなわち、次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対するスルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤を用いることを発明の特徴としている。 そして、水中の重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の還元剤が後段で添加される安定化塩素系酸化剤をも還元することは、本件発明1において、「水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であ」って「該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加すること」に関連しているといえるから、本件発明1において、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」と、「水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であ」って「水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加すること」は、一体的な技術的特徴であるといえる。 そうすると、本件発明1の条件に合致する濃度で残留するNaHSO3に対して、本件発明1の条件に合致する値で過剰量のモノクロロスルファミン酸ナトリウムを添加することが知られているというだけでは、この事項を甲1発明に適用することができるとはいうことができず、この事項が、さらに「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」を用いることを前提としていなければならない。 c これに対し、甲3には、上記(2)ウの甲3発明にあるように、「前処理装置で前処理を施した供給水を逆浸透膜装置へ供給して逆浸透膜処理する方法において、 該供給水に、該前処理装置もしくは該前処理装置よりも上流側で酸化剤を添加するとともに、該前処理装置よりも下流側かつ該逆浸透膜装置よりも上流側で重亜硫酸ナトリウムを添加し、更に、該重亜硫酸ナトリウムの添加点から該逆浸透膜装置入口に至る経路の途中で、次亜塩素酸塩とスルファミン酸塩とからなる、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能な結合塩素剤である、スライムコントロール剤:クリバーターIK-110を添加する逆浸透膜処理方法であって、 上記結合塩素剤が添加される供給水の重亜硫酸ナトリウムの濃度と、重亜硫酸ナトリウム濃度に対する上記結合塩素剤の濃度のモル比の組み合わせが、「0.27g/m3-Cl2、約2.6」、「0.12g/m3-Cl2、約5.8」、「0.09g/m3-Cl2、約7.8」、「0.46g/m3-Cl2、約1.5」、「0.52g/m3-Cl2、約1.3」、「0.11g/m3-Cl2、約6.4」、「0.13g/m3-Cl2、約5.4」、「0.37g/m3-Cl2、約1.9」、「0.43g/m3-Cl2、約1.6」である、逆浸透膜処理方法。」が知られているところ、「重亜硫酸ナトリウムの濃度(g/m3-Cl2)、重亜硫酸ナトリウム濃度に対する安定化塩素系酸化剤の濃度のモル比」が、「0.27、約2.6」、「0.12、約5.8」、「0.09、約7.8」、「0.11、約6、4」、「0.13、約5.4」の場合は、本件発明1での表現形式に則れば、「水系の還元剤濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり、該水系の該還元剤濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」との条件を満たすものである。 しかしながら、甲3で用いられている「スライムコントロール剤:クリバーターIK-110」が、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」であるのか明らかでない(特許権者が令和7年5月20日に提出した意見書の9頁16~19行の記載によれば、栗田工業(株)製「クリバーターIK-110」はスルファミン酸比率が、本件発明1の範囲外の2.2とされている。)から、当業者が、甲3に接したとしても、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量に対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合」が甲1発明とは同じとはいえない条件での、本件発明1の「水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり、該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」との条件を満たす、甲3における、重亜硫酸ナトリウムの濃度(g/m3-Cl2)と、重亜硫酸ナトリウム濃度に対する安定化塩素系酸化剤の濃度のモル比の例を採用しようとすることはないといえる。 d さらには、上述の甲3に記載された事項において、上述のように、「重亜硫酸ナトリウムの濃度(g/m3-Cl2)、重亜硫酸ナトリウム濃度に対する安定化塩素系酸化剤の濃度のモル比」が、「0.27、約2.6」、「0.12、約5.8」、「0.09、約7.8」、「0.11、約6、4」、「0.13、約5.4」は、本件発明1の「水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり、該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」との条件を満たすものであるが、「0.46、約1.5」、「0.52、約1.3」、「0.37、約1.9」、「0.43、約1.6」は、本件発明1の条件を満たさない場合である。 そして、このように、本件発明1の条件を満たさない場合も多数ある中で、甲1発明には、甲3に記載される事項の中から、上述の本件発明1の条件に合致する場合のみを選んで採用する動機付けがあるとはいえない。 e 他の甲2、4、6~9には、上記(1)イ、エ、オ~クに摘示する内容が記載されるものの、いずれも上記bで述べた、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」を用いた上で、「水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であ」って「水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」ことが記載されていないから、これらの甲号証を考慮したとしても、上記相違点に係る本件発明1の構成を、当業者が容易に想到し得るとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1発明及び甲2~4、6~9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明1が、甲1発明及び甲2~4、6~9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2、3も、同様に甲1発明及び甲2~4、6~9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 異議申立人が令和7年7月3日に提出した意見書における取消理由2に関する主張について (ア)異議申立人の主張の概要 異議申立人は、令和7年3月26日付取消理由通知書に記載の進歩性欠如の理由(取消理由2)に対して、特許権者が同年5月20日に提出した意見書において主張した内容に対する反論として、概略、以下の内容を主張し、上記進歩性欠如の理由(取消理由2)は、解消していないとしている。 a 先の訂正における請求項1に係る発明の「塩素系酸化剤とスルファミン酸又はスルファミン酸塩とからなり、該塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」について、スルファミン比率にとして、甲1には、「1.22モル」、甲4には、「1.0~1.5モル」、意見書に添付した参考資料1(特開2015-196104号公報)には、「1.5モル」、同参考資料2(特開2018-183751号公報)には、「1.11~1.57モル」であることが記載されているように、スルファミン酸比率が1~1.5モルであることは一般的である(「3 意見の内容」の1)。 b 先の訂正における請求項1に係る発明の「前記水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり」について、甲3に、安定化塩素系酸化剤が添加される被処理水中の亜硫酸水素イオン濃度が、0.27、0.12、0.09、0.11、0.13g/m3-Cl2と記載されているように、亜硫酸水素イオン濃度の「0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下」の範囲は、一般的な濃度範囲である(「3 意見の内容」の2)。 また、甲2にあるように、一般的な逆浸透膜処理では、逆浸透膜を酸化劣化させる次亜塩素酸を完全に還元するために過剰量の亜硫酸水素ナトリウムを添加することが一般的であり、この場合、亜硫酸水素ナトリウムを「経済的な観点から微量」残留させるのが一般的であり、この「微量」は「0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下」程度である(「3 意見の内容」の4)。 c 先の訂正における請求項1に係る発明の「該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」について、甲3に、重亜硫酸ナトリウム濃度に対する安定化塩素系酸化剤の濃度のモル比が、約2.6、約5.8、約7.8、約6.4、約5.4であることが記載されているように、亜硫酸水素イオン濃度に対する安定化塩素系酸化剤の添加濃度のモル比の「2.5~10倍」の範囲は、一般的な範囲である(「3 意見の内容」の3)。 d 本件発明により達成される効果は、顕著な効果ではない(「3 意見の内容」の5)。 (イ)上記(ア)の異議申立人の主張に対する当審の判断 上記(ア)a~cについて、安定化塩素系酸化剤において、塩素系酸化剤の有効塩素換算量1モルに対するスルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルであること、水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であること、水系の亜硫酸水素イオン濃度に対する安定化塩素系酸化剤の添加濃度のモル比が2.5~10倍であることは、それぞれ各甲号証等に記載されているのは、そのとおりであるが、上記ア(イ)bで述べたように、本件発明1において、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」と、「水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であ」って「水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加すること」は、一体的な技術的特徴であるといえるから、それぞれの構成が知られていることを主張するだけでは、本件発明は、当業者が容易に発明できたものである、とすることはできない。 上記意見書は、上述の3つの構成を一体的な技術的特徴として、当業者が容易に想到し得ることを主張するものではないし、上述の3つの構成がそれぞれ知られているとしても、本件発明は、当業者が容易に発明できたものではないことは、上記ア(イ)及び(ウ)で述べたとおりである。 また、上記(ア)dについて、本件発明の構成を、各甲号証の記載から容易に想到することができるとはいえないのであるから、効果について論ずるまでもなく、本件発明は、当業者が容易に発明できたものである、とすることはできない。 以上のとおりであるから、上記(ア)の異議申立人の主張は、採用することができない。 (4)申立理由1-2について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2発明を対比する。 ア 甲2発明の「亜硫酸水素塩」は、本件発明1の「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質」に相当する。そして、甲2発明の「亜硫酸水素塩」は、「水中に残留する酸化剤の当量以上添加し、該酸化剤を還元除去」するものであるから、「クロロスルファミン酸、クロロスルファミン酸の塩」が添加される「被処理水」には、「亜硫酸水素塩」が溶解することで生じた「亜硫酸水素イオン」が残留しているといえる。 そうすると、甲2発明の「該酸化剤を含む水に、亜硝酸及び/又はその塩を添加し、前記亜硝酸及び/又はその塩添加後の水に」、「亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、及びチオ硫酸塩から選ばれる1種又は2種以上である」「亜硝酸及び/又はその塩とは異なる還元剤を、該水中に残留する酸化剤の当量以上添加し、該酸化剤を還元除去した」「被処理水」は、本件発明1の「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質が添加され、亜硫酸水素イオンを含有する水系」に相当する。 イ 甲2発明の「クロロスルファミン酸、クロロスルファミン酸の塩」は、例えば、甲1の上記(1)イ(ウ)の【0044】の「次亜塩素酸塩等の遊離塩素剤とスルファミン酸塩等のスルファミン酸化合物を混合すると、これらが結合して、クロロスルファミン酸塩を形成して安定化し、クロラミンのようなpHによる解離性の差、それによる遊離塩素濃度の変動を生じることなく、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能となる。」との記載によれば、安定した遊離塩素濃度を保つものであるから、本件発明1の「次亜塩素酸及び/又はその塩とスルファミン酸又はスルファミン酸塩とからな」る「安定化塩素系酸化剤」に相当する。 ウ 甲2発明の「被処理水に含まれる微生物によるバイオファウリングを抑制するための逆浸透膜装置の前処理方法」は、本件発明1の「水系における微生物汚染を抑制する方法」に相当する。 エ 以上によれば、本件発明1は甲2発明と、「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質が添加され、亜硫酸水素イオンを含有する水系に、次亜塩素酸及び/又はその塩とスルファミン酸又はスルファミン酸塩とからなる安定化塩素系酸化剤を添加して、該水系における微生物汚染を抑制する方法」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点2> 本件発明1では、安定化塩素系酸化剤について、「該次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルであ」り、「前記水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり、該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」のに対し、甲2発明では、これらの点が明らかでない点。 (イ)上記相違点に対する判断 a 甲2には、上記相違点2に係る本件発明1の構成に関する何らの記載も示唆もないことから、甲4を参照して上記相違点2に係る本件発明1の構成が容易に想到し得るか検討する。 上記(3)ア(イ)bで述べたように、本件発明1において、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」と、「水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であ」って「水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加すること」は、一体的な技術的特徴であって、この構成を、当業者にとり容易に想到し得ることであるというためには、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」を用いた上で、「水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であ」って「水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」ことが甲4に記載されていなければならない。 しかしながら、甲4に、このことは記載されていないのであるから、甲4を考慮したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得るとはいえない。 b さらに、甲2発明は、「酸化剤を含む水を逆浸透膜装置で逆浸透膜処理する際、 該酸化剤を含む水に、亜硝酸及び/又はその塩を添加し、前記亜硝酸及び/又はその塩添加後の水に、亜硝酸及び/又はその塩とは異なる還元剤を、該水中に残留する酸化剤の当量以上添加し、該酸化剤を還元除去した後、酸化性薬品を添加する、被処理水に含まれる微生物によるバイオファウリングを抑制するための逆浸透膜装置の前処理方法であって」とあるように、酸化剤を含む水に対して、まずは、「亜硝酸及び/又はその塩」を添加するものである。 そして、この「亜硝酸及び/又はその塩」を添加するのは、甲2の上記(1)イ(イ)の【0006】の記載によれば、従来、被処理水に酸化剤を添加した後、凝集、濾過する前処理を行い、その後過剰量の還元剤を添加して残留酸化剤を分解除去し、次いで酸化性薬品を添加してRO膜処理することが行われていたところ、このように、残留酸化剤の除去のために過剰量の還元剤を添加し、その後酸化性薬品を添加すると、余剰の還元剤と酸化性薬品とが反応して酸化性薬品が分解除去され、酸化性薬品の有効成分濃度が低下するため、酸化性薬品の添加量に見合う効果が得られないという問題があったところ、同(イ)の【0009】の記載によれば、塩素等の残留酸化剤を還元除去すると共に、余剰分が残留しても、実用的な使用濃度では、クロロスルファミン酸等の酸化性薬品と酸化還元反応を生じないものとして、「亜硝酸及び/又はその塩」を用いるものである。そして、同(ウ)の【0027】の記載によれば、亜硝酸(塩)を添加して給水中の酸化剤と反応させる場合、条件によっては、当量以上の添加でも酸化剤が微量に残留することがあるため、RO膜装置の前工程で、亜硫酸水素ナトリウムなどの反応性のよい従来の還元剤を第二還元剤として、酸化剤残留量に対して反応当量以上添加しても良いとされ、同(ウ)の【0028】の記載によれば、第二還元剤として添加する亜硫酸水素ナトリウム等の従来の還元剤は、酸化性薬品を還元してその有効成分濃度を低減するものであるが、第一還元剤として亜硝酸(塩)を添加した後の酸化剤の残留量は微量であるため、その後に追加で添加する亜硫酸水素ナトリウムなどの第二還元剤添加率も少量となるものであり、第二還元剤が残留した場合でも、還元される酸化性薬品の量は微量であり、酸化性薬品の有効成分濃度の低下を抑えることができるものである。 これによれば、甲2発明において、被処理水に含まれる酸化剤を還元除去するのは、「亜硝酸及び/又はその塩」が主体であって、酸化剤が微量に残留する場合に対して添加される亜硫酸水素ナトリウムも微量であるといえる。 そうすると、甲2発明における、微量に添加される亜硫酸水素ナトリウムによる亜硫酸水素イオン濃度、及び亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度のモル比が、水に含まれる酸化剤を還元除去する主体が、「亜硫酸水素イオン」である本件発明における、「水系の亜硫酸水素イオン濃度」及び「水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する安定化塩素系酸化剤の添加濃度のモル比」と同じであるということはできないし、上述のように、甲2発明においては、「亜硝酸及び/又はその塩」が必須であることから、甲2発明において、亜硫酸水素ナトリウムを還元剤の主体とするように、添加量を増やすなどして、本件発明1の「水系の亜硫酸水素イオン濃度」及び「水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する安定化塩素系酸化剤の添加濃度のモル比」の範囲に合致するようにする動機付けが、甲2発明にあるとはいえない。 以上によれば、相違点2に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得るとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲2発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明1が、甲2発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2、3も、同様に甲2発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)申立理由1-3について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲3発明を対比する。 a 甲3発明の「重亜硫酸ナトリウム」は、本件発明1の「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質」に相当する。そして、「該前処理装置もしくは該前処理装置よりも上流側で酸化剤を添加するとともに、該前処理装置よりも下流側かつ該逆浸透膜装置よりも上流側で重亜硫酸ナトリウムを添加し」た「該供給水」は、本件発明1の「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質が添加され、亜硫酸水素イオンを含有する水系」に相当する。 b 甲3発明の「次亜塩素酸塩とスルファミン酸塩とからなる、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能な結合塩素剤である、スライムコントロール剤:クリバーターIK-110」は、本件発明1の「次亜塩素酸及び/又はその塩とスルファミン酸又はスルファミン酸塩とからな」る「安定化塩素系酸化剤」に相当する。 c 「g/m3」は、「mg/L」と等価であるから、甲3発明において、「上記結合塩素剤が添加される供給水の重亜硫酸ナトリウムの濃度と、重亜硫酸ナトリウム濃度に対する上記結合塩素剤の濃度のモル比の組み合わせが、「0.27g/m3-Cl2、約2.6」、「0.12g/m3-Cl2、約5.8」、「0.09g/m3-Cl2、約7.8」、「0.11g/m3-Cl2、約6.4」、「0.13g/m3-Cl2、約5.4」である」ことは、本件発明1の「前記水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり、該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加すること」に相当する。 d 甲3発明の「次亜塩素酸塩とスルファミン酸塩とからなる、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能な結合塩素剤である、スライムコントロール剤:クリバーターIK-110を添加する逆浸透膜処理方法」は、本件発明1の「水系における微生物汚染を抑制する方法」及び「水系の微生物汚染抑制方法」に相当する。 e 以上によれば、本件発明1は甲3発明と、「水に溶解することで亜硫酸水素イオンとなる溶質が添加され、亜硫酸水素イオンを含有する水系に、次亜塩素酸及び/又はその塩とスルファミン酸又はスルファミン酸塩とからなる安定化塩素系酸化剤を添加して、該水系における微生物汚染を抑制する方法において、 前記水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であり、 該水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する水系の微生物汚染抑制方法」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点3> 本件発明1では、安定化塩素系酸化剤について、「該次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルであ」るのに対し、甲3発明では、この点が明らかでない点。 (イ)上記相違点に対する判断 a 甲3の上記(1)ウ(エ)の[0053]には「これらの中では、特許文献3に示された遊離塩素剤とスルファミン酸化合物とからなる結合塩素剤は、スルファミン酸を含み、スライム剥離性を有するので好ましい。特にスルファミン酸化合物と遊離塩素剤との混合比は、N:有効塩素(モル比)で1:0.45~0.90、好ましくは1:0.45~0.85とするのが好ましい。水溶液の濃度は、前述の通り、全塩素濃度換算で5~10重量%、特に5.5~7.5重量%とするのが好ましい。」との記載があり、「N:有効塩素(モル比)で1:0.45~0.90」を有効塩素を基準にしたモル比とすると、N:有効塩素(モル比)で1.11~2.22であるから、甲3には、本件発明1の「該次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルであ」る範囲と重複する結合塩素剤が記載されている。 しかしながら、甲3発明における結合塩素剤は、あくまで、「スライムコントロール剤:クリバーターIK-110」であって、この結合塩素剤では、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」であるのか明らかでない(特許権者が令和7年5月20日に提出した意見書の9頁16~19行の記載によれば、栗田工業(株)製「クリバーターIK-110」はスルファミン酸比率が、本件発明1の範囲外の2.2とされている。)から、甲3発明において、上記相違点3に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得るというには、甲1発明に、当業者が、甲3の上記[0053]や甲4を参照して、甲3発明における結合塩素剤を、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」とする動機付けがなければならない。 ここで、甲3の同(ア)の[請求項1]に記載される技術は、背景技術において、同(イ)の[0007]に記載される「還元剤を定量添加する場合は、RO膜の劣化を確実に防止するために、通常、その変動量の最大値にあわせて還元剤を添加し」、同(イ)の[0008]に記載される「スライムコントロール剤も残留還元剤との反応を見越して、過剰に添加する必要がある」という問題点を、同(イ)の[0011]に記載されるように、「還元剤及びスライムコントロール剤の添加量を的確に制御して、これらの薬剤の薬注量を低減した上で、これらの薬剤の薬注効果を安定かつ確実に得るRO膜処理方法とそのための水処理装置を提供する」ことにより解決するものであるところ、甲3発明は、ここで問題があるとされている背景技術であり、甲3の上記[請求項1]に記載される技術の効果を示すための比較例に対応するものである。 そうすると、この比較例に対して、例えば、何らかの意図をもって次亜塩素酸塩とスルファミン酸塩の比率を調整するといった改良を加える動機付けはないし、そもそも、甲3には、[請求項1]に記載される技術を含めて、次亜塩素酸塩とスルファミン酸塩の比率に何ら着目するものではないから、この点でも、甲1発明には、次亜塩素酸塩とスルファミン酸塩の比率を調整し、本件発明1の範囲に合致させる動機付けがあるとはいえない。 b さらに、甲4を参照して上記相違点3に係る本件発明1の構成が容易に想到し得るか検討する。 上記(3)ア(イ)bで述べたように、本件発明1において、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」と、「水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であ」って「水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加すること」は、一体的な技術的特徴であって、甲4の記載事項から、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」を、甲3発明に適用するには、「次亜塩素酸及び/又はその塩の有効塩素換算量1モルに対する該スルファミン酸又はスルファミン酸塩の割合が1~1.5モルである安定化塩素系酸化剤」を用いた上で、「水系の亜硫酸水素イオン濃度が0.01mg/L-Cl2以上、5mg/L-Cl2以下であ」って「水系の該亜硫酸水素イオン濃度に対する該安定化塩素系酸化剤の添加濃度がモル比で2.5~10倍となるように該水系に添加する」ことが甲4に記載されていなければならない。 しかしながら、甲4に、このことは記載されていないのであるから、甲4を考慮したとしても、上記相違点3に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得るとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明1が、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2、3も、同様に甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)進歩性欠如に関する取消理由2、申立理由1(申立理由1-1~1-3)に関するまとめ 上記(3)~(5)で述べたとおり、取消理由2、申立理由1(申立理由1-1~1-3)には、理由がない。 第6 むすび 上記第5で検討したとおり、本件特許1~3は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1~4及び上記申立理由1~3では、本件特許1~3を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1~3を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-701164

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