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特許異議申立

2020-700611

含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品

審判番号
2020-700611
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-568501外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6652203
請求日
2020年08月18日
審決日
2021年11月25日
公報発行日
2022年04月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6652203号発明「含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6652203号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
特許第6652203号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 19項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第6652203号(請求項の数11。以下、「本件特許」という。)は、平成30年2月9日(優先権主張:平成29年2月14日、日本国)を国際出願日とする特許出願(特願2018-568501号)に係るものであって、令和2年1月27日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年2月19日である。)。

その後、令和2年8月18日に、本件特許の請求項1~11に係る特許に対して、特許異議申立人である萩原真紀(以下、「申立人A」という。)から、同じく令和2年8月18日に、本件特許の請求項1~11に係る特許に対して、特許異議申立人である豊田奈津子(以下、「申立人B」という。)から、特許異議の申立てがなされた。

それ以降の手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年11月30日付け 取消理由通知書

令和3年 1月27日提出 意見書(特許権者)

同年 5月27日付け 取消理由通知書<決定の予告>

同年 7月 1日 応対記録(特許権者との連絡)

同年 7月30日提出 意見書・訂正請求書(特許権者)

同年 8月19日付け 通知書(申立人A及びB宛て)

同年 9月22日提出 意見書(申立人A)

同年 9月24日提出 意見書(申立人B)

よって、本件特許異議の申立て(以下、「申立て」という。)に係る審理においては、請求項1~11、すなわち、全請求項を審理対象とし、審理対象でない請求項は存しない。

第2 訂正の適否についての判断

令和3年7月30日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。

1.訂正の内容

(1)訂正事項1

訂正前の特許請求の範囲の請求項1の

「Zは、(r+s)価の連結基であり、
Lは水酸基または加水分解性基であり、
Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、
nは0~2の整数であり、
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、
nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、
rは1以上の整数であり、sは2または3であり、r+sは3~8であり、」を
「Zは、(r+s)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、
Lは水酸基または加水分解性基であり、
Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、
nは0~2の整数であり、
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、
nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、
rは1以上の整数であり、sは3であり、r+sは4~8であり、」

に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4、10及び11も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2

訂正前の特許請求の範囲の請求項5の

「Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、
Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、
LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、
RaおよびRbは水素原子または1価の炭化水素基であり、
n1およびn2は0~2の整数であり、
n1が0または1のときの(3-n1)個のLa、n2が0または1のときの(3-n)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
n1が2のときn1個のRa、n2が2のときn2個のRbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
r1およびr2は1以上の整数であり、r1が2以上のときr1個のRfaQaおよびRPFaはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、r2が2以上のときr2個のRfb、QbおよびRPFbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
s1およびs2は、2または3であり、s1個の[-SiRan1La3-n1]は、同一であっても異なっていてもよく、s2個の[-SiRbn2Lb3-n2]は、同一であっても異なっていてもよい。」を
「Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、
Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、
LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、
RaおよびRbは水素原子または1価の炭化水素基であり、
n1およびn2は0~2の整数であり、
n1が0または1のときの(3-n1)個のLa、n2が0または1のときの(3-n)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
n1が2のときn1個のRa、n2が2のときn2個のRbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
r1およびr2は1以上の整数であり、r1が2以上のときr1個のRfa、QaおよびRPFaはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、r2が2以上のときr2個のRfb、QbおよびRPFbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
s1およびs2は、3であり、s1個の[-SiRan1La3-n1]は、同一であっても異なっていてもよく、s2個の[-SiRbn2Lb3-n2]は、同一であっても異なっていてもよい。」

に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~11も同様に訂正する。)。

2.一群の請求項について

本件訂正前の請求項2~4、10~11は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。

本件訂正前の請求項6~11は、訂正前の請求項5を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項2によって訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。

そして、一群の請求項である訂正前の請求項1~4、10~11と同じく一群の請求項である訂正前の請求項5~11は、同請求項10~11で共通するから、訂正前の請求項1~11は、一つの一群の請求項といえ、訂正事項1~2は、請求項〔1-11〕の一群の請求項についてなされたものといえる。

以上からすると、本件訂正は、請求項〔1-11〕の一群の請求項に請求がなされたものというべきである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・

変更の存否

(1)訂正事項1

訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた「連結基」「Z」を、「置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基」である構造のものに限定するとともに、「連結基」「Z」の価数である「s」、「r+s」を、「2または3」、「3~8」から「3」、「4~8」に限定するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

そして、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、「連結基」「Z」の構造について、「(r+s)価の連結基であるZとしては、後述のZa、Zbで表される連結基が好ましく、たとえば置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する基、オルガノポリシロキサン基等が挙げられる。」(【0041】)、「無置換の炭化水素基としては、たとえば直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基、芳香族炭化水素環式基…直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基と芳香族炭化水素環式基との組み合わせからなる基…2以上の芳香族炭化水素環式基の組み合わせからなる基等が挙げられる。これらの中でも直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基が好ましい。」(【0047】)との記載があるので、「連結基」「Z」の構造に係る訂正は、新規事項の追加に該当しない。

また、「連結基」「Z」の価数「s」、「r+s」については、訂正前の「s」の「2または3」より「2」を削除し、「s」が「3」となったことに応じて、「r+s」を「3~8」より「4~8」に書き換えたものであるから、「連結基」「Z」の価数に係る訂正は、新規事項の追加に該当しないし、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するともいえない。

(2)訂正事項2

訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項5に記載されていた「連結基」「Za」及び「Zb」を、「置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基」である構造のものに限定するとともに、「連結基」「Za」の価数である「s1」及び「連結基」「Zb」の価数である「s2」を「2または3」から「3」に限定するものであるから、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

そして、本件明細書には、「連結基」「Za」及び「Zb」の構造について、「Zaとしては、たとえば(r1+s1)価の置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する(r1+s1)価の基、(r1+s1)価のオルガノポリシロキサン基等が挙げられる。Zbとしては、価数が(r2+s2)価である以外はZaと同様のものが挙げられる。」(【0046】、「無置換の炭化水素基としては、たとえば直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基、芳香族炭化水素環式基…直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基と芳香族炭化水素環式基との組み合わせからなる基…2以上の芳香族炭化水素環式基の組み合わせからなる基等が挙げられる。これらの中でも直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基が好ましい。」(【0047】)との記載があるので、「連結基」「Za」及び「Zb」の構造に係る訂正は、新規事項の追加に該当しない。

また、「連結基」「Za」の価数である「s1」及び「連結基」「Zb」の価数である「s2」については、訂正前の「2または3」より「2」を削除するものであるから、「連結基」「Za」及び「Zb」の価数に係る訂正は、新規事項の追加に該当しない。

そして、訂正事項2に係る訂正により、「連結基」「Za」及び「Zb」の構造、価数が限定されることにより、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するともいえない。

4.独立特許要件

本件特許異議の申立てがされている訂正前の請求項1~11(全請求項)については、独立特許要件の検討を要しない。

5.小括

以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1~2に係る訂正は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、いずれも同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。

したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明

本件訂正により訂正された請求項1~11に係る発明(以下、項番に従い、「本件発明1」などといい、これらを総称して、「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。なお、下線は、訂正箇所を示す。

「【請求項1】
含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含む組成物であって、
前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)とが、いずれも、下式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物であり、
前記組成物中に含まれる前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との組合せにおいて、前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数よりも少なく、
続きを表示(全51行)
前記含フッ素エーテル化合物(A)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
[Rf-O-Q-RPF-]rZ[-SiRnL3-n]s・・・(A/B)
ただし、Rfは、ペルフルオロアルキル基であって、rが2以上の場合はr個のペルフルオロアルキル基は同一のペルフルオロアルキル基であり、
Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
RPFは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
Zは、(r+s)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、
Lは水酸基または加水分解性基であり、
Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、
nは0~2の整数であり、
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、
nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、
rは1以上の整数であり、sは3であり、r+sは4~8であり、
前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する[-SiRnL3-n]は同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が1~19、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数が2~20である、請求項1に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項3】
前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が1、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数が2または3であるか、前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が2、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数が3である、請求項1または2に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項4】
前記rが1~3である、請求項1~3のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項5】
下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)と下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)とを含み、前記含フッ素エーテル化合物(A1)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A1)と前記含フッ素エーテル化合物(B1)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
[Rfa-O-Qa-RPFa-]r1Za[-SiRan1La3-n1]s1 ・・・(A1)
[Rfb-O-Qb-RPFb-]r2Zb[-SiRbn2Lb3-n2]s2 ・・・(B1)
ただし、RfaおよびRfbは、ペルフルオロアルキル基であり、Rfaの炭素数は、Rfbの炭素数よりも少なく、
QaおよびQbは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
RPFaおよびRPFbは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、
Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、
LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、
RaおよびRbは水素原子または1価の炭化水素基であり、
n1およびn2は0~2の整数であり、
n1が0または1のときの(3-n1)個のLa、n2が0または1のときの(3-n)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
n1が2のときn1個のRa、n2が2のときn2個のRbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
r1およびr2は1以上の整数であり、r1が2以上のときr1個のRfa、QaおよびRPFaはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、r2が2以上のときr2個のRfb、QbおよびRPFbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
s1およびs2は、3であり、s1個の[-SiRan1La3-n1]は、同一であっても異なっていてもよく、s2個の[-SiRbn2Lb3-n2]は、同一であっても異なっていてもよい。
【請求項6】
前記式(A1)中のr1が2以上のときr1個のRfaが同一である、請求項5に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項7】
前記式(A2)中のr2が2以上のときr2個のRfbが同一である、請求項5または6に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項8】
前記式(A1)中のRfaの炭素数が1~19、前記式(B1)中のRfbの炭素数が2~20である、請求項5~7のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項9】
前記式(A1)中のRfaの炭素数が1、前記式(B1)中のRfbの炭素数が2または3であるか、前記式(A1)中のRfaの炭素数が2、前記式(B1)中のRfbの炭素数が3である、請求項5~8のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を有することを特徴とする物品。」

(以下では、式(A/B)、式(A1)、式(B1)の化学構造式は略すことがある。)

第4 取消理由通知で示した取消理由及び特許異議申立理由の概要

1.令和2年11月30日付け取消理由通知書で示した取消理由の概要

(1)取消理由1(サポート要件)

本件発明が解決しようとする課題は、水滴滑落性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに水滴滑落性に優れる表面層を有する物品の提供であると解される。

本件明細書の段落【0113】の記載によると、優れた水滴滑落性は、化合物(A)および化合物(B)それぞれのRf基を基材側とは反対側に配向することで、形成される表面層の表面エネルギーを低くし、これに加えて、化合物(A)および化合物(B)それぞれのRf基の炭素数を異なるものとすることで、表面層の表面の撥水性をさらに高め、水滴の接触角や転落角を小さくすることで発揮されるものである。

本件明細書の段落【0041】、【0046】~【0048】には、式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物おける連結基Zとしては、たとえば置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する基、オルガノポリシロキサン基等が挙げられることが記載されており、実施例におけるA-1,A-2,B-1,B-2の連結基以外にも、種々の連結基が挙げられている。

しかしながら、例えば、引用文献A(特開2006-206765号公報、申立人Bによる甲第2号証)、引用文献B(特開2000-144121号公報、申立人Bによる甲第3号証)に記載されているように、連結基の種類によって、転落角の物性が変化することは公知の事項である。

そうすると、式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物おける連結基Zとして、任意の連結基を包含する本件発明1は、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により訂正前の本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。

訂正前の本件発明5についても、訂正前の本件発明1で述べたのと同様の理由により、訂正前の本件発明5が、上記課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない。

したがって、訂正前の本件発明1、5及び、訂正前の本件発明1、5を直接又は間接的に引用する訂正前の本件発明2~4、6~11は、発明の詳細な説明に記載されているとは認められず、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

(2)取消理由2(進歩性)

訂正前の本件発明1~11は、引用文献1(申立人Aの甲第1号証、申立人Bの甲第1号証)に記載された発明及び引用文献2(申立人Aの甲第2号証)、引用文献3(特開2016-204656号公報)に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2.令和3年5月27日付け取消理由通知書<決定の予告>で示した

取消理由の概要

(1)取消理由1(サポート要件)

本件発明が解決しようとする課題は、水滴滑落性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに水滴滑落性に優れる表面層を有する物品を提供することにあると解される。

本件明細書の段落【0113】には、含フッ素エーテル化合物(A)および含フッ素エーテル化合物(B)のそれぞれのRf基を、基材側とは反対側に配向することで、形成される表面層の表面エネルギーが低くなり、表面層の表面が撥水性となること、更に、含フッ素エーテル化合物(A)および含フッ素エーテル化合物(B)のそれぞれのRf基の炭素数を異なるものとすることで、撥水性がさらに高くなり、水滴の接触角や転落角が小さくなって優れた水滴滑落性が発揮されることが説明されている。

しかるところ、本件明細書の段落【0041】,【0046】~【0048】には、実施例に記載されたA-1、A-2、B-1、B-2が有する連結基Zの上位概念に相当する、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる「直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基」の他に、「芳香族炭化水素環式基」等の化学構造が異なる各種の連結基Zを採用できる旨が記載されている。

そして、上記の「直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基」以外の連結基Zを採用する場合には、連結基Zの化学構造や[Rf-O-Q-RPF-]又は[-SiRnL3-n]sの置換位置によっては、式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物の有するRf基が、[-SiRnL3-n]基が結合する基材側の反対側に配向することが困難となることがあり、そうした場合には、表1、2に示されるような転落角や滑落速度を得ることは期待できないといえる。

そうすると、訂正前の本件発明1の式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物は、連結基Zとして、上記の「直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基」以外の化学構造が異なる連結基を採用した場合には、本件発明の課題を解決できないことがあるので、訂正前の本件発明1は、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものといえる。

また、訂正前の本件発明1と同様の理由により、訂正前の本件発明5は、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。

したがって、訂正前の本件発明1、5及び、訂正前の本件発明1、5を直接又は間接的に引用する訂正前の本件発明2~4、6~11は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由2(進歩性)

訂正前の本件発明1~11は、甲A1(申立人Aの甲第1号証)に記載された発明及び本件特許の優先日の技術常識(甲A2(申立人Aの甲第2号証)、特開2016-204656号公報、特開2000-327772号公報、特開2012-233157号公報に記載された事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

<特許権者が提出した証拠方法>

以上の取消理由に対し、特許権者が、令和3年1月27日提出の意見書に添付した証拠は、以下のとおりである。

乙第1号証:国際公開第2018/216404号
乙第2号証:国際公開第2016/152644号
乙第3号証:特開2016-117263号公報
乙第4号証:特開2012-031347号公報
乙第5号証:特開2000-003631号公報
乙第6号証:特開2006-182904号公報
乙第7号証:特開2010-247333号公報
乙第8号証:特開2012-046765号公報
乙第9号証:国際公開第2013/121984号

(以下、「乙第1号証」~「乙第9号証」を「乙1」~「乙9」という。)

3.特許異議申立理由の概要

申立人A、Bが、本件特許異議申立書でした申立の理由(以下、「申立理由」という。)は、それぞれ以下のとおりである。

(1)申立人Aの申立理由

申立人Aは、下記の甲第1~3号証を提示して、本件特許異議申立書(以下、「申立書A」という。)において、本件特許には、以下の特許異議申立理由(以下、「申立理由A1」~「申立理由A2」 という。)が存すると主張している。

ア.申立理由A1(進歩性)

訂正前の本件発明1~11は、甲第1号証の記載から、または、甲第1号証ないし甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

イ.申立理由A2(サポート要件)

本件明細書の実施例において、効果が示されているのは、化合物(A-1)と化合物(B-1)とを組み合わせて用いた場合のみである。

一般に、パーフルオロエーテル基の繰り返し単位数、Q,Z等によっては、基材表面の表面物性等が異なるものとなることが出願時の技術常識である。したがって、訂正前の本件発明に記載された含フッ素エーテル組成物の全てについてまで、本件所望の効果を発揮することを直ちに推認できず、その点について発明の詳細な説明の記載および出願時の技術常識を参酌しても不明であるし、本件の課題を解決できるように十分な裏付けをもって記載されているともいえない。

したがって、訂正前の本件発明1~11まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

<申立人Aが提出した証拠方法>

申立人Aが、申立書Aに添付した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2016-017176号公報
甲第2号証:特開2014-218639号公報
甲第3号証:特開2015-221888号公報

(以下、申立人Aが提出した「甲第1号証」~「甲第3号証」を「甲A1」~「甲A3」という。)

また、申立人Aは、令和3年9月22日提出の意見書に添付して、下記の文献を提出した。

参考資料1:国際公開第2017/038830号

(2)申立人Bの申立理由

申立人Bは、下記の甲第1~3号証を提示して、本件特許異議申立書(以下、「申立書B」という。)において、本件特許には、以下の特許異議申立理由(以下、「申立理由B1」~「申立理由B2」 という。)が存すると主張している。

ア.申立理由B1(サポート要件)

訂正前の本件発明では、甲第1号証に示されるようなX基を含む連結基も含まれ得るが、このような連結基を有する化合物は含フッ素エーテル化合物の構造としては本件実施例で使用された化合物(A-1)、(A-2)、(B-1)、(B-2)とは大きく異なっており、ただちに訂正前の本件発明の作用効果を奏するものとは理解されない。

また、訂正前の本件発明において、「連結基の構造は、水滴滑落性への影響が小さい」(令和1年10月21日付け意見書)とされているが、甲第2、3号証では、反応基と加水分解性シリル基との連結基の構造によって表面層の水滴滑落性が異なることが示されており、訂正前の本件発明は、作用効果が具体的に立証されている範囲に比して広すぎるため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

したがって、訂正前の本件発明1~11は、サポート要件(特許法第36条第6項第1号)に違反しているから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

イ.申立理由B2(実施可能要件)

本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識を考慮すると、訂正前の本件発明1における含フッ素エーテル化合物(A)及び含フッ素エーテル化合物(B)、訂正前の本件発明5における含フッ素エーテル化合物(A1)及び含フッ素エーテル化合物(B1)について具体的にどのようなものであるかを理解することができないから、訂正前の本件発明1、5の実施に当たり、無数の化合物を製造、スクリーニングして確認するという当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があると認められる。

したがって、発明の詳細な説明は、訂正前の本件発明1~11を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本件明細書は、実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)に違反しているから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

<申立人Bが提出した証拠方法>

申立人Bが、申立書Bに添付した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2016-017176号公報
甲第2号証:特開2006-206765号公報
甲第3号証:特開2000-144121号公報

(以下、申立人Bが提出した「甲第1号証」~「甲第3号証」を「甲B1」~「甲B3」という。なお、「甲B1」と「甲A1」は、同じ文献であるため、以下では、「甲A1」と表記する。)

第5 当審の判断

当審は、以下のとおり、本件発明1~11に係る特許は、令和2年11月30日付け取消理由通知書に記載した取消理由1及び2、令和3年5月27日付け取消理由通知書<決定の予告>(以下、両方の取消理由通知書を総称して、「取消理由通知書」という。)に記載した取消理由1及び2、申立人Aによる申立理由A1及びA2、並びに申立人Bによる申立理由B1及びB2によっては取り消すことができないと判断する。

1.取消理由通知書の取消理由1(サポート要件)の判断

取消理由通知書で採用した取消理由1(サポート要件)は、申立人Bによる申立理由B1と同じである。

(1)本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項

本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

本a

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者によれば、特許文献1に記載の含フッ素エーテル化合物、組成物または混合物によって形成される表面層は、水滴滑落性が不充分であることが分かった。なお、水滴滑落性とは、傾斜面において水滴が滑落しやすい(転落角が小さい、または/および滑落速度が速い)性質である。本発明は、水滴滑落性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに水滴滑落性に優れる表面層を有する物品の提供を目的とする。」

本b

「【0015】
〔含フッ素エーテル組成物〕 本発明の含フッ素エーテル組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、含フッ素エーテル化合物(A)(以下、「化合物(A)」とも記す。)と、含フッ素エーテル化合物(B)(以下、「化合物(B)」とも記す。)とを含む。本組成物は、後述するように液状媒体は含まない。本組成物は、化合物(A)および化合物(B)からなるものでもよく、後述するように化合物(A)および化合物(B)以外の他の含フッ素エーテル化合物や、化合物(A)、化合物(B)および他の含フッ素エーテル化合物以外の不純物を含んでいてもよい。
化合物(A)および化合物(B)はそれぞれ、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖(以下、「RPF鎖」とも記す。)と、その一方の末端に結合したペルフルオロアルキル基(以下、「Rf基」とも記す。)と、下式(I)で表される基(以下、「基(I)」とも記す。)とを有する。
【0016】
続きを表示(全12行)
-SiRnL3-n ・・・(I)
ただし、Lは水酸基または加水分解性基であり、
Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、
nは0~2の整数であり、
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
化合物(A)が有するRf基の炭素数は、化合物(B)が有するRf基の炭素数よりも少ない。つまり本組成物は、RPF鎖とRf基と基(I)とを有する含フッ素エーテル化合物として、Rf基の炭素数が異なる2種を含む。これにより、表面層の水滴滑落性が優れる。
化合物(A)および化合物(B)それぞれが有するRPF鎖および基(I)はそれぞれ、同一であっても異なっていてもよい。」

本c

「【0041】
前記rは、前記RPF鎖の数、ひいてはRf基の数を表し、1以上の整数である。rは、前記のように、耐摩擦性の点から、1~3が好ましく、1~2が特に好ましい。
前記sは基(I)の数を表し、前記のように、表面層の水滴滑落性にさらに優れる点から、1~3が好ましく、表面層の耐摩擦性にさらに優れる点から、2または3が特に好ましい。
また、上記の点から、r+sは2~6であることが好ましく、3~5であることが特に好ましい。
続きを表示(全15行)
(r+s)価の連結基であるZとしては、後述のZa、Zbで表される連結基が好ましく、たとえば置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する基、オルガノポリシロキサン基等が挙げられる。好ましいZは、後述の好ましいZaやZbと同じ連結基である。
…
【0046】
Zaとしては、たとえば(r1+s1)価の置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する(r1+s1)価の基、(r1+s1)価のオルガノポリシロキサン基等が挙げられる。
Zbとしては、価数が(r2+s2)価である以外はZaと同様のものが挙げられる。
【0047】
無置換の炭化水素基としては、たとえば直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基、芳香族炭化水素環式基(たとえばベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素環から(a+b)個の水素原子を除いた基)、直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基と芳香族炭化水素環式基との組み合わせからなる基(たとえば前記芳香族炭化水素環式基に置換基としてアルキル基が結合した基、前記飽和炭化水素基の炭素原子間または/および末端にフェニレン基等のアリーレン基を有する基等)、2以上の芳香族炭化水素環式基の組み合わせからなる基等が挙げられる。これらの中でも直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基が好ましい。
置換の炭化水素基は、炭化水素基の水素原子の一部または全部が置換基で置換された基である。置換基としては、たとえば水酸基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノカルボニル基等が挙げられる。
【0048】
炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に有する炭化水素基以外の基または原子としては、たとえばエーテル性酸素原子(-O-)、チオエーテル性硫黄原子(-S-)、窒素原子(-N<)、ケイ素原子(>Si<)、炭素原子(>C<)、-N(R15)-、-C(O)N(R15)-、-OC(O)N(R15)-、-Si(R16)(R17)-、オルガノポリシロキサン基、-C(O)-、-C(O)-O-、-C(O)-S-等が挙げられる。ただし、R15は水素原子、アルキル基またはフェニル基であり、R16~R17はそれぞれ独立にアルキル基またはフェニル基である。
オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。」

本d

「【0113】
〔作用効果〕
本組成物および本コーティング液にあっては、化合物(A)および化合物(B)を含み、それらのうちRf基の炭素数が少ない化合物(A)の含有量が、化合物(A)および化合物(B)の合計に対し30~95質量%であるため、水滴滑落性に優れる表面層を形成できる。
化合物(A)および化合物(B)はそれぞれ、RPF鎖の一方の末端にRf基が結合していることにより、RPF鎖の他方の末端側に基(I)が存在する。かかる構造を有する化合物(A)および化合物(B)によれば、基材上に表面層を形成したときに、各化合物のRf基が基材側とは反対側に配向しやすい。Rf基が基材側とは反対側に配向することで、形成される表面層の表面エネルギーが低くなる。
これに加えて、化合物(A)および化合物(B)それぞれのRf基の炭素数が異なることにより、表面層の表面に炭素数の異なるRf基が特定の比率で分散配置されており、物性的または物理的な微細凹凸構造が形成されると考えられる。これにより、表面層の表面の撥水性がさらに高まり、水滴の接触角や転落角が小さくなって優れた水滴滑落性が発揮されると考えられる。」

本e

「【実施例】
【0116】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、「%」は特に断りのない限り「質量%」である。
例1~10のうち、例3~9は実施例であり、例1~2、10は比較例である。
続きを表示(全79行)
【0117】
〔物性および評価〕
(数平均分子量)
含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、1H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシペルフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めることによって算出した。末端基は、たとえば基(I)またはRf基である。
【0118】
(水滴の転落角)
水平に保持した物品の表面(表面層)に50μLの水滴を滴下した後、物品を徐々に傾け、水滴が転落しはじめた時の物品と水平面との角度(転落角)を測定した。
【0119】
(水滴の滑落速度)
物品の表面と水平面との角度(傾斜角)を40°に設定し、物品の表面(表面層)に50μLの水滴を滴下し、水滴が50mm移動したときの時間を測定した。この移動時間を滑落速度とする。
【0120】
〔合成例1〕
国際公開第2013/121984号の実施例6に記載の方法にしたがい、化合物(14I-1)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)OCH3 ・・・(14I-1)
化合物(14I-1):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,700。
【0121】
50mLのナスフラスコに、化合物(14I-1)の9.0gおよびH2N-CH2-C(CH2CH=CH2)3の0.45gを入れ、12時間撹拌した。NMRから、化合物(14I-1)がすべて化合物(17I-1)に変換していることを確認した。また、副生物であるメタノールが生成していた。得られた溶液をCF3CH2OCF2CF2H(旭硝子社製、AE-3000)の9.0gで希釈し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:AE-3000)で精製し、化合物(17I-1)の7.6g(収率84%)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C(CH2CH=CH2)3 ・・・(17I-1)
化合物(17I-1):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,800。
【0122】
10mLのPFA製サンプル管に、化合物(17I-1)の6.0g、白金/ 1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2%)の0.07g、HSi(OCH3)3の0.78g、ジメチルスルホキシドの0.02g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の0.49gを入れ、40℃で10時間撹拌した。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、1.0μm孔径のメンブランフィルタでろ過し、化合物(A-1)の6.7g(収率100%)を得た。
CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C[CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3 ・・・(A-1)
【0123】
化合物(A-1)のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.8(6H)、1.3~1.6(12H)、3.4(2H)、3.7(27H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55.2(3F)、-82.1(54F)、-88.1(54F)、-90.2(2F)、-119.4(2F)、-125.4(52F)、-126.2(2F)。
単位数x3の平均値:13、化合物(A-1)の数平均分子量:5,100。
【0124】
〔合成例2〕
国際公開第2013/121984号の実施例2に記載の方法にしたがい、化合物(14I-2)を得た。
CF3CF2-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x4(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)OCH3 ・・・(14I-2)
化合物(14I-2):単位数x4の平均値13、数平均分子量4,800。
【0125】
化合物(14I-1)の代わりに、化合物(14I-2)を用いた以外は例1-2と同様にして、化合物(17I-2)の8.4g(収率93%)を得た。
CF3CF2-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x4(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C(CH2CH=CH2)3 ・・・(17I-2)
化合物(17I-2):単位数x4の平均値13、数平均分子量4,900。
【0126】
化合物(17I-1)の代わりに、化合物(17I-2)を用いた以外は例1-3と同様にして、化合物(B-1)の6.7g(収率100%)を得た。
CF3CF2-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x4(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C[CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3 ・・・(B-1)
【0127】
化合物(B-1)のNMRスペクトル;
1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.8(6H)、1.3~1.6(12H)、3.4(2H)、3.7(27H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-84.0(54F)、-88.2(3F)、-89.2(58F)、-119.7(2F)、-126.5(54F)。
単位数x4の平均値:13、化合物(B-1)の数平均分子量:5,200。
【0128】
〔例1~10〕
化合物(A-1)と化合物(B-1)とを使用し、表1に示す質量比で混合して組成物を調製し、下記評価に供した。ただし、例1では化合物(A-1)のみ、例2では化合物(B-1)のみを使用した。
【0129】
(評価)
例1~10で得た各化合物または組成物を用いて、基材の表面処理を行い、基材の表面に表面層を有する物品を得た。表面処理方法として、各例について下記のドライコーティング法およびウェットコーティング法をそれぞれ用いた。基材としては化学強化ガラス(ドラゴントレイル)を用いた。得られた物品について、水接触角および水滴の滑落速度を評価した。結果を表1に示す。
【0130】
<ドライコーティング法>
ドライコーティングは、真空蒸着装置(ULVAC社製、VTR-350M)を用いて行った(真空蒸着法)。例1~10で得た各化合物または組成物の0.5gを真空蒸着装置内のモリブデン製ボートに充填し、真空蒸着装置内を1×10-3Pa以下に排気した。組成物を配置したボートを昇温速度10℃/分以下の速度で加熱し、水晶発振式膜厚計による蒸着速度が1nm/秒を超えた時点でシャッターを開けて基材の表面への成膜を開始させた。膜厚が約50nmとなった時点でシャッターを閉じて基材の表面への成膜を終了させた。組成物が堆積された基材を、120℃で30分間加熱処理し、AK-225にて洗浄することによって、基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0131】
<ウェットコーティング法>
例1~10で得た各化合物または組成物と、液状媒体としてのC4F9OC2H5(3M社製、ノベック(登録商標)7200)とを混合して、固形分濃度0.05%のコーティング液を調製した。コーティング液に基材をディッピングし、30分間放置後、基材を引き上げた(ディップコート法)。塗膜を120℃で30分間乾燥させ、AK-225にて洗浄することによって、基材の表面に表面層を有する物品を得た。
【0132】
【表1】
[図:0001383232000001.jpg]
【0133】
化合物(A-1)と化合物(B-1)とを含み、化合物(A-1)の含有量が、それらの合計に対して30~95質量%である例3~9の組成物は、化合物(A-1)、化合物(B-1)をそれぞれ単独で用いた例1、2に比べて、転落角が低く滑落速度が速く、表面層の水滴滑落性に優れていた。
化合物(A-1)の含有量が、それらの合計に対して30質量%未満の例10における表面層の水滴滑落性は、例1と同等であった。
【0134】
(例11~20)
市販のCF3O{(CF2CF2O)m(CF2O)n}CF2CH2OHで表される化合物(mの平均値が20、nの平均値が21)を使用し、特許5761305号の合成例11~15記載の方法にしたがい、下記化合物(A-2)を得た。
CF3-O-{(CF2CF2O)20-(CF2O)21}-CF2CH2OCH2CH2CH2-Si[CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3 ・・・(A-2)
また、国際公開第2017/038830号の実施例1に記載の方法にしたがい、下記化合物(B-2)を得た。
CF3CF2CF2-O-(CF2CF2O)2{(CF2O)21(CF2CF2O)20}-CF2-CH2OCH2-C[CH2OCH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3 ・・・(B-2)
上記化合物(A-2)と化合物(B-2)を用いて、例1~10と同様にして、基材にドライコーティングし、得られた物品について転落角及び転落速度を評価した。結果を表2に示す。
【0135】
【表2】
[図:0001383232000002.jpg]
【0136】
化合物(A-2)と化合物(B-2)とを含み、化合物(A-2)の含有量が、それらの合計に対して30~90質量%である例13~19の組成物は、化合物(A-2)、化合物(B-2)をそれぞれ単独で用いた例11、12に比べて、転落角が低く滑落速度が速く、表面層の水滴滑落性に優れていた。
化合物(A-2)の含有量が、それらの合計に対して30質量%未満の例20における表面層の水滴滑落性は、例11と同等であった。」

(2)特許法第36条第6項第1号の考え方

特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。そこで、この点について、以下に検討する。

(3)本件発明の課題

本件発明が解決しようとする課題は、水滴滑落性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに水滴滑落性に優れる表面層を有する物品を提供することにあると解される(本aの【0006】)。

(4)本件発明1のサポート要件について

本件明細書の【表1】には、含フッ素エーテル化合物(A)であるA-1と、含フッ素エーテル化合物(B)であるB-1とを特定の質量比で含む組成物、同【表2】には、含フッ素エーテル化合物(A)であるA-2と、含フッ素エーテル化合物(B)であるB-2とを特定の質量比で含む組成物が記載されており(本d)、A-1とB-1、A-2とB-2を組み合わせた組成物を用いて、基材の表面処理を行うと、A-1:B-1について、95~30:5~70の質量比で含む組成物(例3~9)、A-2:B-2について、90~30:10~70の質量比で含む組成物(例13~19)が、各化合物を単独で用いた場合(例1、2,11、12)やA-1,A-2が20質量%である場合(例10、20)と比べて、水滴滑落性に優れていることが示されている。

一方、本件発明1の含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基である連結基Zを含むものであり、式(A/B)によると、連結基Zの左側に[Rf-O-Q-RPF-]を配置し、連結基の右側に[-SiRnL3-n]を配置するものであり、実施例に記載された上記のA-1、A-2、B-1、B-2の化合物を上位概念化したものに相当する。

そして、本件明細書には、含フッ素エーテル化合物(A)および含フッ素エーテル化合物(B)のそれぞれのRf基を、基材側とは反対側に配向することで、形成される表面層の表面エネルギーが低くなり、表面層の表面が撥水性となること、更に、含フッ素エーテル化合物(A)および含フッ素エーテル化合物(B)のそれぞれのRf基の炭素数を異なるものとすることで、撥水性がさらに高くなり、水滴の接触角や転落角が小さくなって優れた水滴滑落性が発揮されることが説明されているところ(本dの【0113】)、[-SiRnL3-n]が、水酸基または加水分解性基である「L」を介して基材に結合し、鎖状を構成する[Rf-O-Q-RPF-]が、直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基である連結基「Z」を介して、基材側とは反対側に配向することは、上記のA-1、A-2、B-1、B-2の化合物に限らず、本件発明1の含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)において一般に観察されるものと推認できる。

また、実施例に記載された上記のA-1、A-2、B-1、B-2の化合物は、連結基「Z」として、下記構造の「直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基」を採用しているから(申立書Bの13頁)、連結基「Z」が炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有するものや、A-2とB-2の化合物のように、含フッ素エーテル化合物(A)および含フッ素エーテル化合物(B)で連結基「Z」の化学構造が異なるものであっても、「含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数」が、「含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数よりも少な」いという発明特定事項を備える場合には、本件明細書の【表1】【表2】(本e)に示される優れた水滴滑落性が得られること、すなわち、上記(3)の課題を解決できることを、当業者は理解できる。

[図:0001383232000003.jpg]

そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載より、本件発明1は、本件発明1の発明特定事項を備えることで、上記(3)の課題を解決できることを理解できるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載より、当業者が上記の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。

(5)申立人Bによる申立理由B1に係る主張について

申立人Bは、申立書Bにおいて、甲B2(令和2年11月30日付け取消理由通知書の引用文献A:特開2006-206765号公報)、甲B3(同引用文献B:特開2000-144121号公報)では、反応基と加水分解性シリル基との連結基の構造によって表面層の水滴滑落性が異なることが示されており、訂正前の本件発明は、作用効果が具体的に立証されている範囲に比して広すぎる旨を述べ、また、令和3年9月24日提出の意見書において、訂正により滅縮された連結基Zは、引用文献Aに開示の連結構造や引用文献Bに開示の連結構造を依然として含み得るので、本件発明1は、当業者が本件特許発明1の課題を解決できると認識できる範囲を超えている、連結基の鎖長が大きく異なる場合には、表面層の表面側の化合物(A)由来の層構成要素のRf基の位置と、化合物(B)由来の層構成要素のRf基の位置とは異なってしまい、果たして本件特許発明で想定している「物理的な微細凹凸構造」が形成されるものか不明である旨を述べ、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではないと主張する。

しかし、甲B2、甲B3に、連結基の構造により、水滴滑落性に差異が生じることが記載されているとしても、甲B2、甲B3には、Rf基の炭素数が異なる二種の含フッ素エーテル化合物を併用した場合の水滴滑落性は記載されていないし、上記(4)でも示したように、本件明細書の【表1】【表2】(本e)によれば、「含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数」が、「含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数よりも少な」いという発明特定事項を備えると優れた水滴滑落性が得られることが理解できる。

また、含フッ素エーテル化合物(A)および含フッ素エーテル化合物(B)で連結基の鎖長が異なっていても、両化合物の各々の[-SiRnL3-n]は、水酸基または加水分解性基である「L」を介して基材に結合し、鎖状を構成する[Rf-O-Q-RPF-]は、直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基である連結基「Z」を介して、基材側とは反対側に配向することができるから、Rf基の炭素数を異なることにより、優れた水滴滑落性が得られることを、当業者は期待できるといえる。

もっとも、申立人Bは、甲B2、甲B3に記載された連結基を採用した場合には、含フッ素エーテル化合物(A)および含フッ素エーテル化合物(B)のRf基の炭素数を異なるものとしても、所定の水滴滑落性が得られないことを明示する客観的証拠を提示していない。

そうすると、申立人Bの主張は理由がなく、甲B2、甲B3を勘案しても、上記(4)で示したとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載より、当業者が上記の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。

(6)本件発明5について

本件発明1と同様に、連結基「Za」、「Zb」が炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有する化学構造を有するものやA-2とB-2の化合物のように、含フッ素エーテル化合物(A1)および含フッ素エーテル化合物(B1)で連結基連結基「Za」、「Zb」の化学構造が異なるものであっても、「Rfaの炭素数は、Rfbの炭素数よりも少な」いという発明特定事項を備えた場合には、本件明細書の【表1】【表2】(本e)に示される優れた水滴滑落性が得られること、すなわち、上記(3)の課題を解決できることを、当業者は理解できる。

したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載より、本件発明5は、本件発明5の発明特定事項を備えることで、上記(3)の課題を解決できることを理解できるから、本件発明5は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載より、当業者が上記の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。

(7)本件発明2~4,6~11について

本件発明2~4,6~11は、本件発明1、5を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(4)、(6)で本件発明1、5について述べたものと同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載より、当業者が上記の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。

(8)まとめ

以上のとおり、本件発明1~11は、本件発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、取消理由通知書に記載した取消理由1(サポート要件)又は申立人Bによる申立理由B1より取り消すことができない。

2.取消理由通知書の取消理由2(進歩性)の判断

取消理由通知書で採用した取消理由2(進歩性)は、申立人Aによる申立理由A1と同じである。

(1)甲号証の記載事項及び甲A1に記載された発明

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異議申立人A、Bが挙げる甲A1(甲B1)、甲A2には、以下の事項が記載されている。

また、甲A1には、以下の発明(甲A1-1発明、甲A1-2発明)が記載されている。

なお、甲A3は、本件発明6~9の副引用例として提示されたものであるから、甲A3の摘記は省略する。

ア.甲A1(特開2016-017176号公報)

甲A1a

「【請求項1】
(i) 下記式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)、(D1)および(D2)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物:
【化1】
[図:0001383232000004.jpg]
続きを表示(全60行)
[式中:
Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基を表し;
PFPEは、それぞれ独立して、-(OC4F8)a-(OC3F6)b-(OC2F4)c-(OCF2)d-を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
R11は、各出現において、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~22のアルキル基を表し;
R12は、各出現において、それぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R13は、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
R14は、各出現において、それぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
R15は、それぞれ独立して、フッ素原子または低級フルオロアルキル基を表し;
Xは、それぞれ独立して、2~7価の有機基を表し;
Yは、各出現において、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、加水分解可能な基、または炭化水素基を表し;
Qは、各出現において、それぞれ独立して、-Z-SiR3fR43-fを表し;
Zは、各出現において、それぞれ独立して、2価の有機基を表し;
R3は、各出現において、それぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
R4は、各出現において、それぞれ独立して、炭素数1~22のアルキル基、またはQ’を表し;
Q’は、Qと同意義であり;
fは、各QおよびQ’において、それぞれ独立して、0~3の整数であって、fの総和は1以上であり;
Q中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
xは、それぞれ独立して、1~10の整数であり;
yは、それぞれ独立して、0または1であり;
zは、それぞれ独立して、0~2の整数であり;
mは、αを付して括弧でくくられた単位毎に独立して、0~2の整数であり;
nは、αを付して括弧でくくられた単位毎に独立して、1~3の整数であり;
αは、それぞれ独立して、1~6の整数であり;
SILは、各出現においてそれぞれ独立して、下記式:
【化2】
[図:0001383232000005.jpg]
(式中、X”は、各出現において、それぞれ独立して、2~7価の有機基を表し;
R16は、各出現において、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~22のアルキル基を表し;
gは、1~10の整数であり;
hは、1~10の整数であり;
gまたはhを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。)で表される基であり;
n”は、βを付して括弧でくくられた単位毎に独立して、0~3の整数であり;
α’は、それぞれ独立して、1~6の整数であり;
βは、各出現においてそれぞれ独立して、(SILの価数-1)に対応する整数である。]
および
(ii) 下記式(1)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシラン化合物:
【化3】
[図:0001383232000006.jpg]
[式中:
Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基を表し;
PFPEは、それぞれ独立して、-(OC4F8)a-(OC3F6)b-(OC2F4)c-(OCF2)d-を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
X1は、単結合または2価の有機基を表し;
R1は、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を表し;
R2は、-X2-SiQ1kY13-kを表し;
X2は、2価の有機基を表し;
Y1は、加水分解可能な基を表し;
Q1は、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を表し;
pは、0または1であり;
kは、0~2の整数である。]
を含んでなる、表面処理剤。
…
【請求項28】
さらに溶媒を含む、請求項1~27のいずれかに記載の表面処理剤。
…
【請求項32】
基材と、該基材の表面に、請求項1~29のいずれかに記載の表面処理剤より形成された層とを含む物品。」

甲A1b

「【0007】
本発明は、より高い摩擦耐久性を有する層を形成することのできる、新規な表面処理剤を提供することを目的とする。」
「【0063】
上記式(C1)および(C2)中、nは、1~3から選択される整数であり、好ましくは2以上、より好ましくは3である。nを3とすることにより、基材との結合が強固となり、高い摩擦耐久性を得ることができる。」
「【0098】
上記式(1)中、pは、0または1であり、好ましくは1である。pを1とすることにより、分子間での縮合が起こりにくくなり、保存安定性がより向上する。」
「【0160】
上記のようにして、基材の表面に、本発明の表面処理剤の膜に由来する表面処理層が形成され、本発明の物品が製造される。これにより得られる表面処理層は、高い表面滑り性と高い摩擦耐久性の双方を有する。また、この表面処理層は、高い摩擦耐久性に加えて、使用する表面処理剤の組成にもよるが、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れの付着を防止する)、表面滑り性(または潤滑性、例えば指紋等の汚れの拭き取り性や、指に対する優れた触感)などを有し得、機能性薄膜として好適に利用され得る。」

甲A1c

「【実施例】
【0167】
本発明の表面処理剤について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、パーフルオロポリエーテルを構成する繰り返し単位(CF2O)、(CF2CF2O)、(CF(CF3)CF2O)、(CF2CF2CF2O)、(CF(CF3)CF2O)および(CF2CF2CF2CF2O)の存在順序は任意である。また、以下に示される化学式はすべて平均組成を示す。
【0168】
続きを表示(全67行)
・アミノ基含有パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の合成
・合成例1
還流冷却器、滴下ロート、温度計および撹拌機を取り付けた2Lの4つ口フラスコに、含水量が330ppmのエタノール240g、トリエチルアミン19.6gを仕込み、窒素気流下、5℃で平均組成CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2COFで表されるパーフルオロポリエーテル変性カルボン酸フルオライド化合物500gを滴下し、その後、室温まで昇温させて、3時間撹拌した。続いて、パーフルオロヘキサン300gを加えて10分撹拌した後、分液ロートに移送し整置後、下層のパーフルオロヘキサン層を分取した。続いて、3規定塩酸水溶液による洗浄操作(より詳細には、パーフルオロヘキサン層(フルオラス層)にフルオロ系化合物を維持し、塩酸水溶液層に非フルオロ系化合物を分離除去する操作)を2回行った。次に、パーフルオロヘキサン層に無水硫酸マグネシウム30gを加えて、30分撹拌した後、不溶物を炉別した。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にエチルエステル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有アリル体(A)475gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有エチルエステル化合物(A):
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CO2CH2CH3
【0169】
・合成例2
還流冷却器、滴下ロート、温度計および撹拌機を取り付けた2Lの4つ口フラスコに、合成例1にて合成した末端にエチルエステルを有するパーフルオロポリエーテル基含有エチルエステル化合物(A)450gを仕込み、窒素気流下、室温でアミノプロピルトリエトキシシランNH2CH2CH2CH2Si(OC2H5)325.84gを滴下した後、65℃まで昇温させ1時間撹拌した。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリエチルシリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)472gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B):
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3
【0170】
・合成例3
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、平均組成CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OH(ただし、混合物中には(CF2CF2CF2CF2O)および/または(CF2CF2CF2O)の繰り返し単位を微量含む化合物も微量含まれる)で表されるパーフルオロポリエーテル変性アルコール体30g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20g、NaOH0.8gを仕込み、65℃で4時間撹拌した。続いて、アリルブロマイド2.4gを加えた後、65℃で6時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、パーフルオロヘキサン20g加えて不溶物をろ過し、分液ロートで3N塩酸による洗浄操作(より詳細には、パーフルオロヘキサン相(フルオラス相)にフルオロ系化合物を維持し、塩酸層(水相)に非フルオロ系化合物を分離除去する操作)を3回行った。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にアリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体(C)24gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ体(C):
CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH=CH2
【0171】
・合成例4
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、合成例3にて合成した末端にアリルオキシ基を有するパーフルオロポリエーテル基含有アリルオキシ化合物(C)20g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20g、トリアセトキシメチルシラン0.06g、トリクロロシラン1.80gを仕込み、窒素気流下、5℃で30分間撹拌した。続いて、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのPt錯体を2%含むキシレン溶液を0.10ml加えた後、60℃まで昇温させ、この温度にて5時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリクロロシランを有する下記式のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(D)20gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(D):
CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2SiCl3
【0172】
・合成例5
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、合成例4にて合成した末端にトリクロロシランを有するパーフルオロポリエーテル基含有トリクロロシラン化合物(D)20g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20gを仕込み、窒素気流下、5℃で30分間撹拌した。続いて、アリルマグネシウムブロマイドを0.7mol/L含むジエチルエーテル溶液を35.2ml加えた後、室温まで昇温させ、この温度にて10時間撹拌した。その後、5℃まで冷却し、メタノールを5ml加えた後、室温まで昇温させて不溶物をろ過した。続いて、減圧下で揮発分を留去した後、不揮発分をパーフルオロヘキサンで希釈し、分液ロートでメタノールによる洗浄操作(より詳細には、パーフルオロヘキサン相(フルオラス相)にフルオロ系化合物を維持し、メタノール相(有機相)に非フルオロ系化合物を分離除去する操作)を3回行った。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にアリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有アリル体(E)18gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有アリル体(E):
CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si(CH2CH=CH2)3
【0173】
・合成例6
還流冷却器、温度計、撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、合成例5にて合成した末端にアリル基を有するパーフルオロポリエーテル基含有アリル体(E)15g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン15g、トリアセトキシメチルシラン0.05g、トリクロロシラン4.2g仕込み、窒素気流下、5℃で30分間撹拌した。続いて、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのPt錯体を2%含むキシレン溶液を0.15ml加えた後、60℃まで昇温させ、この温度にて5時間撹拌した。その後、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリクロロシランを有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有トリクロロシラン化合物(F)16gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有トリクロロシラン化合物(F):
CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si(CH2CH2CH2SiCl3)3
【0174】
・合成例7
還流冷却器、温度計、撹拌機を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、合成例6にて合成した末端にトリクロロシランを有するパーフルオロポリエーテル基含有トリクロロシラン化合物(F)16g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン15gを加え、窒素気流下、50℃で30分間撹拌した。続いて、メタノール1.04gとオルソギ酸トリメチル48gの混合溶液を加えた後、65℃まで昇温させ、この温度にて3時間撹拌した。その後、室温まで冷却させて不溶物をろ過し、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリメチルシリル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)16gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G):
CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3
(なお、平均組成としては、(CF2CF2CF2CF2O)の繰り返し単位が0.12個および(CF2CF2CF2O)の繰り返し単位が0.16個含まれていたが、微量のため省略した。)
【0175】
実施例1
上記合成例2で得たパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)および合成例7で得たパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)を、質量比1:1で、ノベック7200(スリーエム社製)に溶解させて、濃度20wt%になるように、表面処理剤1を調製した。
【0176】
上記で調製した表面処理剤1を化学強化ガラス(コーニング社製、「ゴリラ」ガラス、厚さ0.7mm)上に真空蒸着した。真空蒸着の処理条件は、圧力3.0×10-3Paとし、まず、前処理として、電子線蒸着方式により二酸化ケイ素を7nmの厚さで、この化学強化ガラスの表面に蒸着させて二酸化ケイ素膜を形成し、続いて、化学強化ガラス1枚(55mm×100mm)あたり、表面処理剤2mg(即ち、化合物(B)を0.2mgおよび化合物(G)を0.2mg含有)を蒸着させた。その後、蒸着膜付き化学強化ガラスを、温度20℃および湿度65%の雰囲気下で24時間静置した。これにより、蒸着膜が硬化して、表面処理層が形成された。
【0177】
実施例2~4
下記表に示すように、化合物(i)として、合成例7で得たパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)、下記の構造を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(H)を用い、化合物(ii)として、合成例2で得た化合物(B)を用い、下記表に示す配合比としたこと以外は、実施例1に記載のように、実施例2~4の表面処理層を形成した。なお、表面処理剤の濃度は、実施例1と同じ20wt%とした。
【0178】
・パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(H)
CF3O(CF2CF2O)17(CF2O)18CF2CH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3
【0179】
【表1】
[図:0001383232000007.jpg]
【0180】
比較例1~2
パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)を用いずに、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)を単独で用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例1の表面処理層を形成した。また、パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)を用いずに、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(H)を単独で用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例2の表面処理層を形成した。なお、表面処理剤の濃度は、実施例1と同じ20wt%とした。
【0181】
比較例3
パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)を用いずに、パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)を単独で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製し、表面処理層を形成した。なお、表面処理剤の濃度は、実施例1と同じ20wt%とした。
【0182】
上記の実施例1~4および比較例1~3にて基材表面に形成された表面処理層について、消しゴム摩擦耐久試験により、摩擦耐久性を評価した。具体的には、表面処理層を形成したサンプル物品を水平配置し、消しゴム(コクヨ株式会社製、KESHI-70、平面寸法1cm×1.6cm)を表面処理層の表面に接触させ、その上に500gfの荷重を付与し、その後、荷重を加えた状態で消しゴムを20mm/秒の速度で往復させた。往復回数500回毎に水の静的接触角(度)を測定した。接触角の測定値が100度未満となった時点で評価を中止した。最後に接触角が100度を超えた時の往復回数を、下記表に示す。
【0183】
【表2】
[図:0001383232000008.jpg]
【0184】
上記の結果から、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)または(H)とパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)を組み合わせた実施例1~4では、それぞれ化合物(G)(H)または(B)を単独で用いた比較例1~3よりも、高い消しゴム耐久を示した。即ち、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物およびパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物の組み合わせによる相乗効果が確認された。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、これは、パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物のアミド基が、水素結合の相互作用によって、パーフルオロポリエーテル基を基材表面に効率よく配向させ、その結果、優れた消しゴム耐久性が得られたと考えられる。」

<甲A1に記載された発明(甲A1-1発明、甲A1-2発明)>

甲A1の甲A1a~甲A1cには、高い表面滑り性と高い摩擦耐久性の双方を有することに加え、撥水性等も有する表面処理剤として、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物およびパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシラン化合物を含んでなる表面処理剤が記載されており、特に甲A1cには、具体例として、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G):

CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3

および

パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化(B):

CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3を含んでなる表面処理剤が記載されている。

よって、甲A1の実施例1に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。

「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G):
CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3
および
パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B):
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3を、質量比1:1で、ノベック7200(スリーエム社製)に溶解させて、濃度20wt%になるようにした表面処理剤」

(以下、「甲A1-1発明」という。)

また、甲A1の実施例2に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。

「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G):
CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3
および
パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B):
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3を、質量比2:1で、ノベック7200(スリーエム社製)に溶解させて、濃度20wt%になるようにした表面処理剤」

(以下、「甲A1-2発明」という。)

イ.甲A2(特開2014-218639号公報)

「【0020】
本発明は、式(1a)または式(1b)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基(以下、「PFPE」ともいう)含有シラン化合物を提供する(以下、「本発明のPFPE含有シラン化合物」ともいう)。
【化7】
[図:0001383232000009.jpg]
続きを表示(全32行)
【0021】
上記式(1a)および式(1b)中、Aは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1-16アルキル基を表す。
…
【0025】
上記式(1a)および式(1b)中、Rfは、-(OC4F8)a-(OC3F6)b-(OC2F4)c-(OCF2)d-を表し、パーフルオロ(ポリ)エーテル基に該当する。
…
【0028】
上記式(1a)および式(1b)中、Xは、2価の有機基を表す。当該X基は、式(1a)および式(1b)で表される化合物において、主に撥水性および表面滑り性を提供するパーフルオロポリエーテル部(A-Rf-部または-Rf-部)と、加水分解して基材との結合能を提供するシラン部(-SiQkY3-k部)とを連結するリンカーと解される。
…
【0040】
上記式(1a)および式(1b)中、Yは、水酸基、加水分解可能な基、または炭化水素基を表す。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。
…
【0043】
上記式(1a)および式(1b)中、Qは、-Z-SiR1nR23-nを表す。
【0044】
上記Zは、各出現において、それぞれ独立して、2価の有機基を表す。
…
【0047】
上記R1は、各出現において、それぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。好ましくは、R1は、-OR6(式中、R6は、置換または非置換のC1-3アルキル基、より好ましくはメチル基を表す)である。
【0048】
上記R2は、各出現において、それぞれ独立して、C1-22アルキル基、またはQ’を表す。
【0049】
上記Q’は、Qと同意義である。
【0050】
上記nは、各QおよびQ’において、それぞれ独立して、0~3から選択される整数であり、nの総和は1以上である。各QまたはQ’において、上記nが0である場合、そのQまたはQ’中のSiは、水酸基および加水分解可能な基を有さないことになる。したがって、上記nの総和は、少なくとも1以上でなければならない。
…
【0057】
上記式(1a)および式(1b)中、kは、1~3から選択される整数であり、好ましくは2以上、より好ましくは3である。kを3とすることにより、基材との結合が強固となり、高い摩擦耐久性を得ることができる。」

(2)取消理由通知書で引用した参考文献の記載事項

折りたたみ中(クリックで表示)

当審が取消理由通知書で引用した参考文献1~3には、以下の事項が記載されている。

ア.参考文献1(特開2016-204656号公報)

「【0012】
本発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランは、下記一般式(1)で表されるものである。
【化9】
[図:0001383232000010.jpg]
(式中、Rfは1価のフルオロオキシアルキル基又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基であり、Yは2~6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Wは2~6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Rは独立に炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に水酸基又は加水分解性基であり、nは1~3の整数であり、aは1~5の整数であり、mは1~5の整数であり、αは1又は2である。)
【0013】
本発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランは、1価のフルオロオキシアルキル基又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基(Rf)と、アルコキシシリル基等の加水分解性シリル基あるいは水酸基含有シリル基(-Si(R)3-n(X)n)が、炭化水素鎖(Y)及び(W)を介して結合した構造であり、ポリマー内に反応性官能基を3個以上有することで基材密着性が向上し、耐摩耗性に優れることを特徴としている。」
「【実施例】…
【0146】
[耐摩耗性の評価]
上記にて作製した硬化被膜を形成したガラスについて、ラビングテスター(新東科学社製)を用いて、下記条件で3,000回擦った後の硬化被膜の水に対する接触角(撥水性)を上記と同様にして測定し、耐摩耗性の評価とした。試験環境条件は25℃、湿度40%である。結果(摩耗後水接触角)を表1に示す。
続きを表示(全11行)
耐スチールウール摩耗性
スチールウール:BONSTAR#0000(日本スチールウール株式会社製)
接触面積:10mmφ
移動距離(片道)30mm
移動速度1,800mm/分
荷重:1kg/cm2
実施例1~6の化合物は、分…実施例1~6の化合物は、分子内の反応性官能基数が3個又は6個と、比較例1~3の化合物に比べて多いため、実施例1~6の化合物を用いた表面処理剤の硬化被膜は、接触角100°以上と耐摩耗性を発揮した。」

イ.参考文献2(特開2000-327772号公報)

「【0008】また、特開昭58-122979号公報には、ガラス表面の撥水撥油剤として、下記式(4)で示される化合物が提示されている。
【0009】
【化4】
[図:0001383232000011.jpg]
続きを表示(全14行)
(式中、Rfは炭素数1~20個のポリフルオロアルキル基であって、エーテル結合を1個以上含んでもよい。R1は水素原子又は低級アルキル基、Aはアルキレン基、xは-CON(R2)-Q-又は-SO2N(R2)-Q-(ただし、R2は低級アルキル基、Qは2価の有機基を示す)、zは低級アルキル基、Yはハロゲン、アルコキシ基又はR3COO-(ただし、R3は水素原子又は低級アルキル基を示す)、nは0又は1の整数、aは1~3の整数、bは0,1又は2の整数である。)
…
【0015】
【化6】
[図:0001383232000012.jpg]
(式中、X1,X2は加水分解性基、R1,R2は炭素数1~6の1価炭化水素基、Q1,Q2は2価の有機基、mは6~50の整数、nは2又は3、x及びyはそれぞれ1~3の整数である。)
【0016】
この表面処理剤の主成分である式(1)のパーフルオロポリエーテル変性アミノシランにはアミド結合が含まれているが、基材表面にフッ素変性基を効率よく配向させるにはアミド結合が有効であることが知られており、この点からも本発明に示す表面処理剤はこれまでのものよりも優れているといえる。
【0017】
また、分子中に加水分解性シリル基を2個有しており、従来の上記式(4)のアミノシランよりも反応性が向上したため、硬化性、被膜形成性に優れているといえる。」
「【0039】
〔合成例1〕
…
【0041】
続きを表示(全46行)
以上の結果から、得られた化合物の構造式は下記式(7)であることがわかった。
【0042】
【化10】
[図:0001383232000013.jpg]
【0043】
〔合成例2〕…合成例1と同様の方法で下記式(8)に示す化合物を得た。
【0044】
【化11】
[図:0001383232000014.jpg]
【0045】
〔合成例3〕…合成例1と同様の方法で下記式(10)に示す化合物を得た。
【0046】
【化12】
[図:0001383232000015.jpg]
【0047】
〔合成例4〕(比較例)…合成例1と同様の方法で下記式(12)に示す化合物を得た。
【0048】
【化13】
[図:0001383232000016.jpg]
【0049】
〔実施例1-1~1-3〕合成例1~3で合成されたパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン3.0gをパーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)97.0gに溶解させ、ガラス板(2.5×10×0.5cm)に刷毛塗りで塗布した。25℃,湿度70%の雰囲気下で1時間放置し、硬化被膜を形成させた。この試料片を用いて、以下のような評価を行った。
【0050】
(1)撥水撥油性の評価
接触角計(協和界面科学社製A3型)を用いて、硬化被膜の水及びn-ヘキサデカンに対する接触角を測定し、撥水撥油性の評価とした。
(2)離型性の評価
硬化被膜表面にセロハン粘着テープ(幅25mm)を貼り、その剥離力を測定して離型性の評価とした。測定は引張試験機を用いて180°の角度で剥離速度300mm/分で行った。
(3)被膜の耐久性の評価
セルロース製不織布によって硬化被膜表面を一定の荷重で30往復拭いた後、評価(1)で示した方法で水に対する接触角を測定して耐久性の評価とした。
(4)加水分解性(被膜形成性)の評価
合成例1~3で合成されたパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン3.0gをパーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)97.0gに溶解させ、ガラス板(2.5×10×0.5cm)に刷毛塗りで塗布した。25℃,湿度70%の雰囲気下で10分間放置した後、表面の未硬化分をセルロース製不織布で拭き取ってから、ガラス表面の水に対する接触角を測定して加水分解性(被膜形成性)の評価とした。これら(1)~(4)の評価結果を表1に示す。
【0051】
〔比較例1-1〕実施例1-1~1-3で用いたフルオロアミノシランの代わりに合成例4で合成されたフルオロアミノシランを用いた他は、実施例と同様の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0052】
〔比較例1-2〕実施例1-1~1-3で用いたフルオロアミノシランの代わりに下記式(13)に示す化合物を用いた他は、実施例と同様の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0053】
【化14】
[図:0001383232000017.jpg]
【0054】
【表1】
[図:0001383232000018.jpg]
【0055】
実施例は、いずれも従来品(比較例1-2)と同等もしくはそれ以上の撥水撥油性、離型性を示し、且つ耐久性、加水分解性(被膜形成性)に優れている。また、比較例1-1は実施例と比べて撥水撥油性、離型性に劣っており、実用に供し得ない。」

(3)本件発明1について

ア.本件発明1と甲A1-1発明、甲A1-2発明との対比

甲A1-1発明、甲A1-2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G):CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3」は、CF3基と、CF2CF2O単位、CF2O単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖と、3個のSi(OCH3)3基とを有する化合物であり、該「CF3基」、「CF2CF2O単位、CF2O単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖」、3個の「Si(OCH3)3基」、「CH2OCH2CH2CH2基」は、本件発明1の式(A/B)における「Rf」、「RPF」、「2または3個のSiRnL3-n」、「Z」にそれぞれ該当するから、甲A1-1発明、甲A1-2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)は、本件発明1の「含フッ素エーテル化合物(A)」に相当する。

甲A1-1発明、甲A1-2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B):CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3」は、CF3CF2CF2基と、CF2CF2CF2O単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖と、1個のSi(OC2H5)3基とを有する化合物であり、該「CF3CF2CF2基」、「CF2CF2CF2O単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖」、「Si(OC2H5)3基」、「CONHCH2CH2CH2基」は、本件発明1の式(A/B)における「Rf」、「RPF」、「SiRnL3-n」と「Z」にそれぞれ該当するから、これらを含む限りにおいて、甲A1-1発明、甲A1-2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)は、本件発明1の「含フッ素エーテル化合物(B)」と共通している。

そして、甲A1-1発明、甲A1-2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)」の末端ペルフルオロアルキル基は「CF3基」で炭素数1、「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)」の末端ペルフルオロアルキル基は「CF3CF2CF2基」で炭素数3であるから、本件発明1の「前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数よりも少なく」に相当する。

また、甲A1-1発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)」及び「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)」は、質量比1:1(合計に対し、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)を50質量%)で含むものであり、甲A1-1発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)」及び「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)」は、質量比2:1(合計に対し、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)を67質量%)で含むものであるから、それぞれ、本件発明1の「前記含フッ素エーテル化合物(A)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との合計に対し、30~95質量%である」に相当する。

さらに、甲A1-1発明、甲A1-2発明の「表面処理剤」は、含フッ素エール化合物を含む組成物であるから、本件発明1の「含フッ素エーテル組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲A1-1発明、甲A1-2発明は、

「含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含む組成物であって、
前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)とが、いずれも、下式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物であり、
前記組成物中に含まれる前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との組合せにおいて、前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数よりも少なく、
前記含フッ素エーテル化合物(A)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
続きを表示(全16行)
[Rf-O-Q-RPF-]rZ[-SiRnL3-n]s ・・・(A/B)
ただし、Rfは、ペルフルオロアルキル基であって、rが2以上の場合はr個のペルフルオロアルキル基は同一のペルフルオロアルキル基であり、
Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
RPFは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
Zは、(r+s)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、
Lは水酸基または加水分解性基であり、
Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、
nは0~2の整数であり、
nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、
nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、
rは1以上の整数であり、
前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する[-SiRnL3-n]は同一であっても異なっていてもよい。」で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>

本件発明1では、

式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物(B)について、-SiRnL3-n基を「3」有する(sは3)のに対し、

甲A1-1発明、甲A1-2発明は、-SiRnL3-n基が「1個」(sは1)である点

イ.相違点1の判断

甲A2(【0020】【0043】、【0057】)、参考文献1【0012】、【0013】、【0146】)、参考文献2(【0008】、【0009】、【0015】、【0017】)の記載によると、パーフルオロ(ポリ)エーテル基を含有するシラン化合物においては、加水分解性シリル基あるいは水酸基含有シリル基を2つ以上にすると、1つの場合よりも、基材との密着性、硬化性、皮膜形成性が優れたものとなり、当該基を2つ以上有する化合物が、当該基を1つ有する化合物と同等もしくはそれ以上の撥水撥油性を示すこと、更に、当該基を2つ以上有する化合物が、当該基を1つ有する化合物と比べて、優れた耐久性(耐摩耗性)を示すことは、本件特許の優先日における技術常識であったと認められる。

しかし、甲A1には、パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)が下記式(1)で表されることが記載されており(甲A1aの請求項1)、式(1)におけるpは、0または1が採用できること、すなわち、-X2-SiQ1kY13-kで示されるR2基は、最大でも2個しか含有できないことが記載されている。

[図:0001383232000019.jpg]

よって、甲A1-1発明、甲A1-2発明が、高い表面滑り性と高い摩擦耐久性の双方を改良するものであること(甲A1bの【0160】)、また、本件特許の優先日に上記の技術常識が存することを勘案しても、甲A1-1発明、甲A1-2発明における「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B):CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3」を、甲A1で想定されていない、分子中に3個の「Si(OC2H5)3」を有する新たなシラン化合物に構造改変したり、この新たなシラン化合物に置き換えたりすることを当業者が容易に想到し得たとは認められない。

しかも、本件発明1は、3個の[-SiRnL3-n]s基を分子中に有する2種の含フッ素エーテル化合物(A)(B)を用い、「含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数」が、「含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数よりも少な」いという発明特定事項を備えることで、本件明細書の【表1】【表2】(1(1)の本e)に示される、水滴滑落性に係る効果を奏するものである。

しかし、甲A1、甲A2、参考文献1、2のいずれにも、Rf(ペルフルオロアルキル基)の炭素数が異なる2種の含フッ素エーテル化合物において、分子中に3個の「Si(OC2H5)3」を設けることや水滴滑落性に係る効果を向上させることが記載も示唆もされていないから、甲A1、甲A2、参考文献1、2の記載を参照しても、甲A1-1発明、甲A1-2発明における「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B):CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3」について、分子中に3個の「Si(OC2H5)3」を設けるような化学構造の改変を当業者が容易に動機付けられたとはいえない。

ウ.申立人Aによる令和3年9月22日提出の意見書の主張について

申立人Aは、令和3年9月22日提出の意見書において、参考資料1を提示して、摩擦耐久性を向上させるために、甲1発明の組成物に含まれるパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)に代えて、同じパーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物であって、加水分解性シラン基の数がより多い参考資料1(国際公開第2017/038830号)に記載の以下の化合物(1G-1)、(1H-1)、(1H-2)、または(1K-1)を用いて、本件発明1とすることは、当業者が容易に想到し得たことであると主張する。

[図:0001383232000020.jpg]

[図:0001383232000021.jpg]

[図:0001383232000022.jpg]

[図:0001383232000023.jpg]

しかし、参考資料1は、本件特許の優先日(平成29年2月14日)より後の平成29年3月9日に国際公開されたものであるから、参考資料1を甲A1-1発明、甲A1-2発明に適用して、本件発明1の容易想到性を論じることはできない。

したがって、申立人Aによる上記主張は、採用できない。

エ.小括

以上からすると、本件発明1は、甲A1-1発明、甲A1-2発明及び本件特許の優先日の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明5について

ア.甲A1-1発明、甲A1-2発明との対比

甲A1-1発明、甲A1-2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G):CF3O(CF2CF2O)19(CF2O)15CF2CH2OCH2CH2CH2Si[CH2CH2CH2Si(OCH3)3]3」は、CF3基と、CF2CF2O単位、CF2O単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖と、3個のSi(OCH3)3基とを有する化合物であり、該「CF3基」、「CF2CF2O単位、CF2O単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖」、「3個のSi(OCH3)3基」、「CH2OCH2CH2CH2基」は、本件発明5の式(A1)における「Rfa」、「RPFa」、「2または3個のSiRan1La3-n1」と「Za」にそれぞれ該当するものであるから、甲A1-1発明、甲A1-2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)は、本件発明5の「含フッ素エーテル化合物(A1)」に相当する。

甲A1-1発明、甲A1-2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B):CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)22CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3」は、CF3CF2CF2基と、CF2CF2CF2O単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖と、1個のSi(OC2H5)3基とを有する化合物であり、該「CF3CF2CF2基」、「CF2CF2CF2O単位を含むポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖」、「Si(OC2H5)3基」、「CONHCH2CH2CH2基」は、本件発明5の式(B1)における「Rfb」、「RPFb」、「SiRbn2Lb3-n2」、「Zb」にそれぞれ該当するものであるから、これらを含む限りにおいて、甲A1-1発明、甲A1-2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)は、本件発明5の「含フッ素エーテル化合物(B1)」と共通する。

そして、甲A1-1発明、甲A1-2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)」の末端ペルフルオロアルキル基は「CF3基」で炭素数1、「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)」の末端ペルフルオロアルキル基は「CF3CF2CF2基」で炭素数3であるから、本件発明5の「RfaおよびRfbは、ペルフルオロアルキル基であり、Rfaの炭素数は、Rfbの炭素数よりも少なく」に相当する。

また、甲A1-1発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)」及び「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)」は、質量比1:1(合計に対し、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)を50質量%)で含むものであり、甲A1-2発明の「パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)」及び「パーフルオロポリエーテル基含有アミドシラン化合物(B)」は、質量比2:1(合計に対し、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(G)を67質量%)で含むものであるから、それぞれ、本件発明5の「前記含フッ素エーテル化合物(A1)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A1)と前記含フッ素エーテル化合物(B1)との合計に対し、30~95質量%である」に相当する。

さらに、甲A1-1発明、甲A1-2発明の「表面処理剤」は、含フッ素エーテル化合物を含む組成物であるから、本件発明5の「含フッ素エーテル組成物」に相当する。

そうすると、本件発明5と甲A1-1発明、甲A1-2発明は、

「下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)と下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)とを含み、前記含フッ素エーテル化合物(A1)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A1)と前記含フッ素エーテル化合物(B1)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
[Rfa-O-Qa-RPFa-]r1Za[-SiRan1La3-n1]s1 ・・・(A1)
[Rfb-O-Qb-RPFb-]r2Zb[-SiRbn2Lb3-n2]s2 ・・・(B1)
ただし、RfaおよびRfbは、ペルフルオロアルキル基であり、Rfaの炭素数は、Rfbの炭素数よりも少なく、
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QaおよびQbは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、
RPFaおよびRPFbは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、
Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、
LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、
RaおよびRbは水素原子または1価の炭化水素基であり、
n1およびn2は0~2の整数であり、
n1が0または1のときの(3-n1)個のLa、n2が0または1のときの(3-n)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
n1が2のときn1個のRa、n2が2のときn2個のRbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
r1およびr2は1以上の整数であり、r1が2以上のときr1個のRfa、QaおよびRPFaはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、r2が2以上のときr2個のRfb、QbおよびRPFbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、
s1は、3であり、s1個の[-SiRan1La3-n1]は、同一であっても異なっていてもよく、s2個の[-SiRbn2Lb3-n2]は、同一であっても異なっていてもよい。」で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>

本件発明5では、

式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)について、-SiRbn2Lb3-n2基を「3」有する(s2が3)であるのに対し、

甲A1-1発明、甲A1-2発明では、

-SiRbn2Lb3-n2基が「1個」(s2が1)である点

イ.相違点2の判断

相違点2は、相違点1と同じ内容であるから、相違点2として挙げた本件発明5の発明特定事項は、(3)イで示した相違点1と同様の理由により、甲A1の記載及び本件特許の優先日の技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

ウ.小括

以上のとおり、本件発明5は、甲A1-1発明、甲A1-2発明及び本件特許の優先日の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明2~4,6~11について

本件発明2~4,6~11は、本件発明1又は本件発明5を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明2~4,6~11と甲A1-1発明、甲A1-2発明は、少なくとも相違点1又は相違点2で相違し、かかる相違点として挙げた本件発明1又は本件発明5の発明特定事項は、甲A1の記載及び本件特許の優先日の技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

なお、申立人Aは、訂正前の本件発明6~9、11に対して甲A3を提示しているが、甲A3の記載を考慮しても、本件発明6~9、11が、当業者が容易に想到し得たものとはいえないことは上記のとおりである。

(6)まとめ

以上のとおり、本件発明1~11は、甲A1-1発明、甲A1-2発明、すなわち、甲A1に記載された発明と甲A1の記載及び本件特許の優先日の技術常識に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1~11に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由2(進歩性)又は申立人Aによる申立理由A1より取り消すことができない。

3.取消理由通知において採用しなかった申立人A、Bによる申立理由

について

申立人Aによる申立理由A1は、取消理由通知書で採用した取消理由2(進歩性)と同じであり、申立人Bによる申立理由B1は、取消理由通知書で採用した取消理由1(サポート要件)と同じであるから、以下では、申立人Aによる申立理由A2、申立人Bによる申立理由B2について、検討する。

(1)申立人Aによる申立理由A2について

申立理由A2は、一般に、本件明細書の実施例で効果が示されている組み合わせから、訂正前の本件発明に記載された含フッ素エーテル組成物の全てについてまで、本件所望の効果を発揮することを直ちに推認できない、無限の構造を含む「置換または非置換で…直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基」のすべてについて、Rf基が基材側とは反対側に配向するとは必ずしもいえず、長鎖の炭化水素基のすべての炭素原子に、置換基として水酸基が存在する場合、かかる部分は親水性が強いことから、分子全体として親水性が高まり、優れた水滴滑落性は得られないことから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではないというものである。

しかし、申立人Aは、本件明細書の実施例の組み合わせ以外では、所望の水滴滑落性に係る効果を奏することを当業者が期待できないことを窺わせる客観的証拠を何ら提示していない。

また、申立人Aが提出した甲A1~甲A2、参考資料1において、各種鎖長や官能基を有するパーフルオロ(ポリ)エーテル基を有する化合物が、高い摩擦耐久性や表面滑り性等の効果を有するものとして、包括的に特許請求の範囲等に記載されていることに照らすと、本件発明の効果に限り、実施例に記載された特定の化合物の組み合わせでしか期待できないとは解されない。

そうすると、申立理由A2は、理由がなく、単に、パーフルオロエーテル基の繰り返し単位数、Q,Z等によっては、基材表面の表面物性等が異なるとの一般論や、無限の構造を含む「置換または非置換で…直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基」のすべてについてRf基が基材側とは反対側に配向するとは必ずしもいえない等の推論を根拠にして、本件発明1~11がサポート要件に違反しているとはいうことはできない。

(2)申立人Bによる申立理由B2について

申立理由B2は、訂正前の本件発明1、5における含フッ素エーテル化合物について具体的にどのようなものであるかを理解することができず、訂正前の本件発明1、5の実施に当たり、無数の化合物を製造、スクリーニングして認確するという当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、訂正前の本件発明1~11を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないというものである。

しかるところ、本件明細書には、本件発明1、5の下位概念に当たるA-1、A-2の化合物、B-1、B-2の化合物の合成方法及び使用方法が明確に記載されているし、A-1又はA-2の化合物、B-1、B-2の化合物以外の化合物の製造及び入手やその化合物をコーティング液に使用することが、当業者に困難であることを首肯するに足りる客観的証拠も提示されていない。

そうすると、申立理由B2は理由がなく、本件発明1~11が実施可能要件に違反しているとは認められない。

(3)まとめ

以上のとおり、本件発明1~11に係る特許は、申立人Aによる申立理由A2、申立人Bによる申立理由B2により取り消すことはできない。

第6 むすび

以上のとおり、本件訂正については、適法であるから、これを認める。

本件特許の請求項1~11に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2020-700611

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